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[30] 荒んでる大佐の話 01(少し暴力表現あり)
七梨子 - 2007年06月13日 (水) 01時56分

全てを忘れてしまいたい―
そんな思いからアルコールに逃げつつも、そんなこと出来るはずがないと嘲笑っている自身がいることが厭わしくてならなかった。
親友を亡くし自身も辛かったであろう時期に、言葉少なく見守っていてくれた男のことが考えるまいとしても浮かんできた。

      ******

『あなたがラピュタに懸ける情熱は理解しているつもりですが、それほどまでの犠牲を払って探索する必要があるとは思えない。既に私の力でどうにかできるものではなくなっているようですが、可能な範囲で阻止することも考えていますよ。』
『この件は貴方が考えている以上に複雑だ。場合によっては―大尉ご自身を危険に晒すことになるかもしれない。』
半分はブラフだが半分は本当だった。私は、どうしても彼の協力を得たかった。二人だけで話がしたいと切り出された時には、全てを明かしてでもこの計画に引き入れようと思っていた。
『―今は階級も役職も関係なしに、君の兄さんのかつての友人として言わせて貰う。君が、これ以上傷ついて苦しむのは放っておけないんだ。』
 そう、真剣な表情で言い切った彼の姿を思い出す。あの時、確かに私自身を見てくれていた。そのことが本当は嬉しかった、そのはずなのに―。
『それに、それが託された遺志でもあるんだ。』
愚かであったと思う。最初から分かっていたことなのに、”友人が弟のよう思っていた相手”でしかないのだと、ことさらに強調されたような気がして理不尽なまでに詰め寄ってしまった。そんな姿を困った様子で見つめる中にも、何処か懐かしそうな雰囲気が漂っており、この期に及んで亡き友人の姿を重ねて見ているのかと、言い知れない苛立ちを感じていた。まるで痴話げんかのような様相を呈して、そのときはそれが最後になるとは思いもしなかった説得は失敗に終わった。
それから数日と経たず「訓練中の事故」のため彼が亡くなったという知らせが入った。
私が手を下したのではないかなどと無責任な噂もささやかれていたことも知っている。ある意味それは間違いではないのかもしれない。
現場の暴走か、あるいは上層部から計画の支障になりそうだと判断されてしまったのか―詳細な情報が何も入ってこない所を見ると後者である可能性が高く、勝手な事は出来なかった。

立て続けに去っていったあの2人には、特別な絆があったのかもしれない。
『ラピュタの探索に全てを懸ける価値があったのか、最近疑問に思えてきたよ。』―『それはあの友人の影響ですか。』―『…そうかもしれないね。』―嘗て交わした会話が思い返される。
 だがそれは逆なんだと、自分自身に言い聞かせ続けてきた。これだけの犠牲を払い続けているからこそ目的は果たされなければならない。払われた犠牲の重みを引き受ける義務が私にはあるのだと。

      ******

「最近よく来てるが毎回辛気臭い奴だな。周りの雰囲気まで暗くなる。」
「なんだ、失恋でもして飲んだくれてるのか。」
独りで陰気に飲んでいるムスカをからかって絡んでくる者たちがいた。
「うるさいっ。私に構うな。」
無遠慮に掴まれた腕を払いのけ、それが余計に相手を怒らせてしまう。
「生意気な奴だな、口の利き方もしらんのか。」
(お前等みたいなのと付き合う作法なんか知るものか。)
そんな言葉が浮かんだが言い返しても却って事態は悪化するだけだろうと怒鳴りつけたい気持ちを押さえこんだ。
「店の中での喧嘩はよしてくれよ。」
そんなのほっとけよ、と仲間の1人がたしなめて、その場は何とか収まった。
「あんた、怖いもの知らずだね。酔って気が大きくなっているのかも知れないが、ああいう柄の悪いの相手にそういう態度は良くないよ。」
「知ったことか。今は何も考えたくないんだ。」

それからどれ位経ったのか、店じまいだと告げる声で意識を取り戻した。なかなか酔えないと思っていたが随分回っていたらしい。ポケットの中に直接入れていた紙幣で支払いを済ませて店を出ると、すっかり夜も更けていた。
人通りも絶えた通りを覚束ない足取りで歩いていると突然路地へ引きずり込まれる。驚いて相手を見ると先ほど店で絡んできた男であった。
「何の用だ。言っておくがさっきの話なら非礼だとも思ってないから詫びたりしないぞ。」
「随分威勢がいいが、その態度がいつまでもつだろうな。」
嫌な笑いを浮かべてそういった男は胸倉を掴むといきなり壁に叩きつけた。続いてみぞおちに蹴りを入れられてその場に崩れ落ちる。
(これだから単純な奴は嫌なんだ、直ぐに暴力に訴える―。)
 男はムスカの意識が朦朧としているのを良いことに衣服を探り始めた。念のため身分を示すようなものは身に付けていない、適当に持ち金を漁ったらとっとと諦めるだろう―そんな風に何処か他人事のようにその様子を眺めていた。
「こんだけか、しけてるなぁ。」
「―気が済んだならさっさと**。」
「口の減らない野郎だな。物言いが一々気に障る。」
 再び険悪な空気が漂いだしたが、その方向性はそれまでとは多少変化していたようである。


(この…下手糞が…!!)
声にならない叫びが肌蹴られ、口に押し込まれたシャツへ吸い取られる。碌に慣らしもせず、力任せに挿入された下肢に痛みが走る。狭い路地で壁に押し付けられ、何処の誰とも分からない男を受け入れている…その事実に怒りよりも情けなさがこみ上げて来た。乱暴に突き上げられ、少しでも痛みを逸らそうとして元凶である男に縋り付く。
「あんたも、満更じゃないんだろ…?」
勝手な解釈をして良い気になっているその顔を睨みつけ、さっさと終わらせろとムスカは心中で悪態をついていた。やがて、一際強く壁に押し付けられたかと思うと体内に体液が広がるのを感じた。頭では嫌悪しているはずのその感覚に、背中に回した腕は反射的に甘えて抱きつくように動いていた。
「なんだ、そんなに良かったのか…?」
その言葉に自らを陵辱する相手に媚びている己の姿を思い知らされてとっさに振り払い、
支えを失った身体はそのままの勢いで地面に倒れこんだ。
「とんだ変態だな、本当は男が欲しくてあの店に通ってたんじゃないのか?」
捨て台詞を残して去っていく姿を見ても何も言い返す気にもなれず、のろのろと衣服を直すと力なくふらりと立ち上がった。


その夜は胃の中身を全て吐き出してもなお治まらない吐き気と全身の痛み、やり場のない屈辱感に苛まれながらも気を失うようにして夢も見ずに眠りに落ちることができた。

[31] 荒んでる大佐の話 02
七梨子 - 2007年06月13日 (水) 20時53分

 先日のような目に遭うのはもう懲り懲りだと思いつつ、やはり飲まずには居られなかった。そうすると、再び同じ事柄に思い至る。

      ******

物心付く頃には疑いもせずラピュタを追い求めることが使命なのだと信じていたし、周りの親族たちも皆それを当然と思って同じ目的の為に生きていた。
 何かが違うと思い始めたのは、自分が世間一般からするとかなりの変わり者なのだと認識し始めた頃だったろうか。空に浮かぶ島の話など、子供同士ですらまじめに取り合われず、それを悔しく思って懸命に主張したこともあるが次第に諦めることを覚えた。
一族の者達が長年積み重ねてきた孤独な研究を引き継ぎながら、いつまでも確証が得られないことに不安を感じることもあった。そのような時期に手にした好機を逃すわけにはいかなかった。それが、どのような手段を要するものであったにしても。

『僕だって、そんなに強い人間じゃないんだよ。』―珍しく弱音を吐かれたときのことが思い出される。いつも私を慰め励ましてくれながら、あの人も不安と疑心から自由ではなかったのだろう。あまりに短い生涯ではあったが、最後に、全く一族と関係ないところで信頼し合える理解者を得られた点では幸せな人だったのかもしれない。後の事を託したその友人がまさかこんなことになるなんて、一体どう思っていることだろう―。

      ******

店を変えはしたものの何処にでも同じような連中はいるらしく、目つきが気に喰わないのなんのと難癖をつけてくる相手に絡まれてしまった。ムスカにはそれが酷くばかばかしく思われて思わず苦笑をもらした。そのことに神経を逆撫でされたのか、男は決まりきったセリフで恫喝してくる。ふと思いつき、胸倉を掴んでくるその手をそっと押さえて指先でなぞりながら視線を合わせて誘いかけた。
「乱暴にされるのは、趣味じゃない―」
一瞬、驚いたように見返したが、じきにその言葉の意を汲み、薄く笑った。

粗末な安モーテルだが路地裏でいきなりやられるよりはずっとマシかと妥協することにし、無駄かもしれないと思いながら眼鏡を外すと最初に告げた。
「―痕はつけるな。」
「何偉そうに命令してるんだよ。」
そう言ったかと思うといきなり髪を掴み強引に引き倒された。先ずは口でやってもらう、と押し付けられたそれに嫌悪感を隠せなかった。 だが、面倒なことになって結局痛い思いするより手早くことを済ませたほうが良い―そう言い訳するように自分を納得させると、ムスカは迷わずそれに舌を這わせ始めた。
案外素直に応じたことに拍子抜けしたのか、無理やりつかんでいた髪から力が抜かれる。暫くすると与えられる刺激に陶酔し、もたらされる快感を無防備に貪る気配が伝わってくる。張り詰めて行くそれに間もなく放出される予兆を感じて口を離そうとしたそのとき、突如頭部を押さえつけられた。
「…っぐ…っ」
まともに喉まで入ったそれを暫くの間咳き込みながら必死で吐き出し、息苦しさに思わず涙ぐんでいた。
「普通、出すか!?口の中で!?」
怒鳴りながら睨み付けた相手は、情欲に塗れて陶酔しきった表情でつぶやいていた。
「…凄くいい…。その金色の瞳…ぞくぞくする―」
 チラリと目をやると先ほど放出したばかりのものが再び興奮を示し始めていた。
「…続けるか?」
口元をぬぐってそう問いかけたとき、主導権は完全にムスカに移っていた。
「痕を付けるなと言っているだろうが…っ」
「黙ってりゃ可愛いかったのに…うるさい奴だな。」
情交中にしてはかなり殺伐とした会話を交わしながら行為は続けられた。与えられるその刺激を受けて、もたらされる快感だけを貪欲に追っていた。そうしていれば何も考えずにいられた。

「…もう終わっただろ、放せ。」
さっさと終わらせるつもりなのに、まだやる気でいるらしい相手に気だるげに告げるがそれは無視された。その後与えられ続けた本来苦手なはずの身体を這い回る唇の感触、時折触れる吐息がさほど気にならなかったのは、誰かを重ねていたからなのか―。

「なぁ、あんたに…入れていいか?」
執拗なまでの愛撫が急に止んだかと思うと、やや遠慮がちに尋ねられた。
「―したいのか。」
それまでの気分がすっかり冷めた様子で聞き返す不機嫌な様子のムスカの前に、流石に断られるかと恐縮している男の姿があった。最初の強権的な態度とは随分な違いだと思うと何だか可笑しいような気分になってしまった。
「…いいよ。ちゃんと準備してからなら。」
自分でしようとするのを押しとどめられる。
「俺がやるから…させてくれ。」
逸る気持ちの表れか、痛いくらいに腕を掴んでいた手を放させるとその指を咥え、唾液を絡ませる。その様子で既に煽られた興奮を抑えるように、内壁を探るようにして丁寧に慣らし始めた。暫くの間その一連の作業を受けていたムスカであったが、ある一点に触れられた時思わず背中に爪を立ててしまった。急に反応したことに、思わず声をかける。
「大丈夫か、痛かった?」
「いや、構わないから…」
もういいから、早く―縋り付くようにして先を促す声に、それまでの慎重さを捨てると性急に注挿を繰り返しその内部を味わい始めた。熱く絡みつく内壁の感触と、苦痛と快感の交じり合った表情とに煽られていく。極限に達した興奮に、間もなく来る開放を予感した男が身体を離そうとしたところ、脚を絡めて阻止された。
「そのまま続けてくれ…」
「え、でも、いいのか?」
「私がいいと言っているんだ…続けろ…っ。」
その感触の気持ちの悪さには慣れることは出来ないが、今はその不快感をも含めて感じていたかった。

ぐったりと身体を投げ出しながら身体的にも疲労困憊しているはずなのに、何処かまだ冷静さが残っていることに嫌気が差していた。ベッドの隣には同じく体力を使い果たしたという風情で身体を横たえた男がいる。その様子を少しの間眺めて、抱き寄せるように添えられた腕を静かに外すと身支度を始めた。
「…もう、帰るのか。」
「用は済んだからな。ああ、部屋代はそこに置いといたから、貸し借りなしだ。」
「薄情な奴だな。―また会えるか?」
「…気が向いたらな。」
もう会うこともないだろうと思いながら部屋を後にした。

酷く稚拙な逃避方法ではあったが、それなりに効果はあったようである。刹那的な関係を求めて相手が見付かりやすいその手の場所に出入りするようになってからは、ずっと続いていた癒し難い喪失感が僅かに和らいだように感じていた。

[49] 荒んでる大佐の話 03
七梨子 - 2007年06月24日 (日) 15時46分

 「隣、いいかな。」
いきなり声を掛けてきたその男はムスカの返事を聞く気はない様子で馴れ馴れしく話し始めた。

「本当はもっと前から気になっていたんだけど、誰も話しかけるなって雰囲気だったからつい遠慮してしまってね。そしたら急に姿見せなくなるしで、次に会ったときこそはって思ってて…」

ふと、冷めた一瞥をくれたきり無視して手持ち無沙汰にグラスを揺らす様子に気付き気まずさを感じたらしい。急に双方が黙り込んだため、妙な空間が出来上がってしまった。その沈黙を破ったのはムスカのほうであった。

「―今は違う、とでも?」

話しかけられたことに気を良くしたのか、男は直ぐに調子を取り戻した。カウンターに置かれていた手を自然な仕草で掴むと耳元に顔をよせて囁きかけた。

「凄く、物欲しそうな顔してる。」

思わず睨み返したその視線を受け、さも愉快そうに続けた。

「『誰でもいいから相手して欲しい』ってね。…何か辛いことでもあったの?で、それを紛らわす為に男漁りって―あぁ、恋人に捨てられたとかそういうの?」

あまりの煩わしさにこのまま店を出て行こうと思い始めた頃、軽薄な雰囲気が急に深刻そうなものに変った。

「…そういう単純なことじゃないんだろうけどね。…この世にたった一人取り残されたって感じだったから。」

「―そんな風に見えていたのか。」

沈んだ声で呟く声に、言葉が過ぎたと漸く気付いたらしい。

「あ、悪い。余計なことばかり言ったみたいで。」

「いや、別に気にしてなど―」

気にしてなどいない、と言おうとしたがその先が続かない。生来の、他人の助力を素直に受け入れることが苦手な性分に加え、果たすべき目的の特殊性の為もあり真の意味で協力者と呼べる存在は極端に少なかった。ずっと見守り、助けてくれた人も、全てを打ち明けられるかも知れなかった人も失われてしまった。確かに、一人きりだ。

「本当にごめん。あんたのこともっとよく知りたいって思っていただけなんだ。」

すっかり沈鬱な状態にはまり込んだその姿にどう扱ったものかと男は焦り始めた。必死になって宥めようと話しかけるがその声は全く届いてはいない様子である。そうこうするうちに、いつの間にか重ねられていた手の袖口から指先が滑り込まされていた。

「俺でも、気晴らし程度の役には立てると思うよ。―だからさ、そんな泣きそうな顔しないで。」

大胆なのか小心者なのかよく分からない様子が滑稽でもあった。

「自己評価の高い奴だな。ただの思い上がりではないのか?」

「気になるなら、確かめてみないとな。」

調子の良いことだと呆れつつも最初の芳しくない印象は随分薄らいでいた。

      ************

「何か言っとくことあったりする?」

さばけた調子で問いかけられ、何度言ったか知れない言葉を口にした。

「痕は付けられたくない。」

「見付かると拙い相手でもいるの?」

再び悪くなりそうな雰囲気を察して慌てて言いとどめた。

「…分かったよ、詮索はしないよ。」

 機嫌をとるように優しく触れながら、意外と手際よく衣服を脱がせにかかった。

 「それは自分でやる。」

 一瞬、身を任せそうになった己を引き戻すかのようにその手を押しとどめた。
 
「なんだよ、気分出ないなぁ。」

そんな軽口を叩きながら男は笑った。その後、薄暗い明かりの中でも判る瞳の色に改めて興味を持ったようでしきりに言及していた。

「珍しい色だな。…凄く綺麗だ。」

悪びれもなくしげしげと眺めた後、瞼に口付ける。

「隠してるの、勿体無いよ。」

純粋な好奇心や軽く触れ合っているその感触は嫌なものではなかったが、今欲しているものでもなかった。まだ未練があるように撫でてくるその手を振り切るようにしてベッドへ引き倒した。
突然の行動に驚いてひるんだ隙に、自分の体勢を確保すると男の下肢へ手を這わせた。緩やかに刺激を加えながらちらりとその表情を窺うと意外なものを見る驚きと、続いて与えられた快感を素直に享受する様がみてとれた。悪くない反応を示した事を確認すると、最初に軽く口付けて、さらに唾液を絡めるように舌を這わせ始めた。

「うわ、凄く積極的…」

軽くたじろぎながらも暫くの間身を任せた後、男は頭に手を添えてきた。髪を掴まれるのを嫌い、払いのけようとした腕を何目かに強引に掴まれた。手元の屹立と訴えかけてくるその余裕ない表情を見比べる。

「ね、そろそろさ…」

「分かったから、暫く大人しくしていてくれ。」

上ずった声で告げるその内容を察知すると一端身を起した。その後注意深く身体を進め、男のものを自らの後孔にあてがうと体重をかけてゆっくりと身体を沈め始めた。浅い息を繰り返し、身体が押し開かれる苦痛を感じながら必死に体内に飲み込んでゆく。その姿に否応なしに男の興奮は高まっていく。

「きついんならさ…俺がやろうか。…無理しなくても―」

「…動くな…そのまま、もう少し…、」

 身体を支える腕に手を伸ばそうとするのを言葉だけで制止する。話すのも辛くなってきたのかその後は、全てを収めきり身体が慣れるまでの間苦しげな息遣いが続いた。

「…ね、もういい…?」

無言でうなずくのを確認し、腰を動かし始める。互いに粘膜の感触を貪りあいながら得られる感覚のみに集中する。暫くの間、荒い呼吸音と、時折上がるあえぎ声のみが部屋に響いていた。程なく、身体を支えていた腕を掴むと強引に引き寄せ、かすれた声で告げた。

「悪い、もう我慢できない…」

「そのまま続けてくれて構わないから―」

言い終えないうちに体内に迸りを感じた。その感触に伴い屈折した満足感が広がる。余韻を味わうように深く息をついた。力が抜け、身体の上に倒れこむように崩れ落ちてきたムスカの額にり付いた髪をそっとかき上げると柔らかく口付けた。入れ替わるようにして組み伏せると首筋から胸元、わき腹へと唇は下りていった。時折強く吸われるのを感じ、痕を付けるなといったはずだと力なく抗議の声をあげたがその声は無視された。一回では終わりそうにないその様子に気だるげに告げた。

「…もう暫く待ってからにして貰えるとありがたいのだが。」

やがて、低い位置へ辿り着いた口付けと共に這い回る手が下肢に触れそうになった時、思わず身体を逸らしてその手をはねつけた。とっさに取ったその行動にしまったと思ったが、男はその突然の拒絶にもあまり驚いてはいなかった。

「…本当はこういうの、苦手なんじゃないの?相手が楽しんでくれないと興が冷めるなぁ。」

「こちらの事情など関係ないだろうが。」

「そりゃそういう奴もいるだろうけどさ、馬鹿にされてるようで面白くないってのもいるんじゃないのかな。―――事情は知らないけど、もう少し相手は選んだ方がいい。」

見下ろしながら、手が肩口から輪郭をそっとなぞり上げた。

「例えば…こういう変った趣味の持ち主もいるかもよ?」

首に指が這わされ、絡みついたと思った次の瞬間強く締め付けられた。

「貴様、何を…っ」

言葉が続かない。呼吸が阻まれ、眼前が白んだようであった。

―その後、無意識のうちに反撃していたらしい。気がつくと、床の上で意識を飛ばしたらしい男を組み伏せ、押さえ込んでいた。

(まずいな…)

プライベートで問題を起すとさすがに色々と面倒なことになる。正当防衛といえるのかどうか、状況はじつに説明しにくい。色々な思いを交錯させながらも、とりあえずベッドへ寝かせ、覚醒させようと試みた。大してダメージはなかったらしく、男は程なく目を開き、状況を把握するとゆっくりと口をきいた。

「……酷いな、ちょっとふざけただけじゃないか…。」

「ちょっと、だと?かなり本気だっただろうが。」

殺意の有無くらい判断出来る。

「手加減はしたつもりだったんだけどな。―とにかく、手当たり次第に引っ張り込んでいたら、中にはそういう妙なのがいるかもってことだよ。」

身体を起し、手渡された水を少しずつ飲みながら話を続ける。

「…妙に手馴れていたようだけど、やっぱり仕事柄って奴かな。」

2人の間に緊張感が走った。

「―詮索するなって言うんだろ、分かってるよ。」

「お互いにその方が無難だろうな。―無事だったようだし、もういいな。」

「あ、ちょっと待ってくれよ。
―あんたは気付いてなかったみたいだけど…ずっと見てたんだ。
もうこれっきりだなんて耐えられない。」

 背後から抱きすくめ、肩口に顔を埋める。既に整えられていた服の襟元をはだけ、先ほど自分で付けた指の跡をなぞった。
 「言うほど悪くなかっただろ。」

「自惚れるな。―それに、ずっとだの何だの、高々2,3ヶ月くらいのものだろうが。大げさな奴だ。」

 「分かってないなぁ。もう少し人の気持ちに敏感になった方がいいよ。」

「何のことだ」

「今のままだと多分一生解らないだろうな。」

何処か侮ったようなその物言いが気に障った。

「言いたい事があればはっきり言ったらどうなんだ。」

正面に向き合い、強い調子で問いつめた。

「次に会った時のために取っとくよ。」

はぐらかすような口調にまともに相手をするのもばからしく感じられて、そのまま部屋を出て行った。

「本当に、興味ないことには徹底的に無関心なんだなぁ…。」

男は再びベッドに身を沈めると、そう呟きながら何処か満足げに残り香を吸い込んだ。

[50] 荒んでる大佐の話 04
七梨子 - 2007年06月24日 (日) 18時37分

簡潔に時間とルームナンバーを知らせるメッセージが執務室へ届けられ、昨夜から沈み続けていた気分は最低値を更新した。嘗てはそれを受け取り、関係を持つたびに精神のバランスを崩したものである。そんなムスカを慰めてくれた人は、今はもういない。

指定された部屋を訪れ、事情を把握している秘書のやや哀れむような視線を受けてその人の待つ扉を開ける。

「最近、随分と荒れているらしいな。」

「…計画に支障の出るようなことはありませんよ。」

それは当然だと、不機嫌そうにつぶやくと正面に見据えながら冷たい声で命令した。

「―脱ぎなさい。」

全てを知っているということかと諦めを感じながら衣服を解いてゆく。未だ生々しい傷や痣、その他の痕跡の残る身体を無言で眺めた後、再び衣服を身に付ける許可を与えながら呆れたように言った。

「まったく…。お前がそこまで精神的に脆いとは思っていなかった。」

返す言葉もなく、ただ黙っていることしか出来ない。何を切っ掛けに足元をすくわれるか分からないような世界で、今の行動は確かにあまりにも軽率である。

「今、お前が潰されることは私としてもあまり望ましい事態ではない。」

言いながら、近くに招き寄せると一冊の小さなノートを手渡した。

「これは何ですか。」

いぶかしく思いながら中を流し見て、思わず側の椅子へ崩れるように座り込んだ。

「先日事故死した大尉の私物検査で見付かったものだ。一応規則では日記及びそれに類するものの所持は禁止されているはずだが―そんなことはどうでも良い。
なかなか興味深い記述があったというので私の方で預かっていたのだが―。」

説明は聞こえているが、殆ど通り過ぎていくようであった。一族の秘密などに関しては人目に触れた場合を想定したのか曖昧に表現されている。そんなところに彼らしい気遣いが感じられた。ムスカがラピュタ探索への協力を求め説得を試みるようになってからの葛藤もそこには吐露されている。今になってそんな想いを知らされるなんて―。最後の日付のあるページに挟まれた写真を見つけたとき、視界が歪んだ。

「お前には感傷に溺れている余裕などないはずだ。…今のような馬鹿げた行動はもうやめにすることだな。」

呆然と手元の写真を見つめ続けるその髪を軽く梳きながら一瞬、痛々しいものを見るような、憐れむような表情が浮かべられたことにムスカは気付かなかった。やがてその俯いたままの顔を上向かせると、既に冷酷さを取り戻した顔で静かに告げた。

「これは貸しにしておいてやろう。―今後の働きで返して貰う。」

 余計な執着を捨て切れなかったから、失わなくても良い人を失った。誰かに頼りたいと願った弱さが招いた結果だ。

「―――ご安心ください。迷いは…もう、捨てましたから。」

 遠からず達成されるに違いないその目的の為に、感情に引き摺られてなど居られない。あとほんの少しで手が届くはずなのだから。



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