[23] 若大尉視点で親戚兄さんと若大佐(1/3 : 若大尉&親戚兄さん) |
- 七梨子 - 2007年06月03日 (日) 18時30分
当時は暇さえあれば友人のラボに顔を出すのが習慣のようになっていた。彼はどこか浮世離れして周囲と馴染み切れないところのある男だったが、不思議と私とは気が合い何かとつるむようになっていた。気が向いたときには相手が聞いていようと居まいとお構いなしに延々と講義をし続け、そうかと思えば今は忙しいからと全く相手にもしない、そんな気まぐれなところもあったが、一緒に居ると心が安らぐ、そんな男だった。
初めて”彼”を見たのは、その友人を訪ねたときであった。開ける直前に扉が開き、出てきた青年―未だ少年といっても良いくらいの年頃と思われた―は軽く目礼するとそのまま去っていった。
「今出てったのって、見ない顔だけど新入りかい。君のことを兄さんって呼んでいたようだけど、兄弟なんていたんだ。」
「兄弟じゃないよ。遠いのだか近いのだかよく分からないことになっている親戚の…でもまぁ、弟みたいなものかな。一応説明しようか。」
到底理解できそうにない非常に込み入った家系図が目前で展開しだしたので、途中で制止した。
「いいよ、もう。弟(仮)ってことで理解しておくから。所属は何処になるんだい。」
「多分、やや特殊なところに行くんじゃないかな。そのせいもあって今は色々大変な時期みたいだね。」
その日以来、友人を訪ねると頻繁にその弟(仮)―ムスカと言う名前らしい―を見かけるようになった。一応先輩へ対する敬意を表しはするものの、打ち解けてはくれない。寧ろ、嫌われているのではないかと思うこともしばしばであった。
「君の弟(仮)君にはなんだかあまり好かれていないらしいな。」
「そんなことはないと思うけどね。幹部候補ってことで慣れない集団生活やら何やら、色々あるんじゃないかな。ちょっと生意気な所もあるけど大目にみてやってくれないか。」
「外見はともかく性格は全然似てないな。」
「ああ。あの子は少し変ったところがあるからね。なんていうか…マイペース?ちょっと方向性が偏ってるんだよね。」
自らも十分変り者の部類に入る友人がそう評すからにはよほどのものなのだろう。わが軍は時々妙な人材にスカウトを掛けると噂されているが彼もその口なのかもしれない。
「例の部隊に配属されるにしても、随分苦労しそうだな。」
「努力家だから大丈夫だとは思うけど、少し心配ではあるかな。君のような良い友人に恵まれるとは限らないからね。」
色素の薄い瞳で真っ直ぐに見つめながら静かに語りかけ、そういうことをサラリと言ってのけられると、他意はないと分かってはいてもやはりどきりとしてしまう。
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