[16] 眼球舐め(1回目) |
- 七梨子 - 2007年04月14日 (土) 07時42分
『…お前を見ていると昔飼っていた猫を思い出すな。』 そんなことを言われたのは幾度目かの情交のあとだった。軍部のみならず各界に隠然たる影響力を持つこの男にとって私のような若造は毛色の変わった動物程度の認識なのだろう。それは判ってはいても決して気分の良いものではなかった。 『似ているのですか、私に。』 早々に退出しようと手早く身支度を整えながら聞き返したがその答えは意外なものであった。 『いいや。あれは此方がどんなに手をかけても懐かない、自由気ままな奴だったからな。己の気に入った所へしか行かず、気に入ったことしかしない、ましてや…』 髪に指を差し入れられ、引き寄せられて聞いた彼の言葉の続きに一瞬、血が引いた。 『触れられるだけで鳥肌を立てるほど嫌っている相手に、媚を売ったりはしなかったよ。』
『お前が何を企んでいるかは知らんが私を選んだことは評価しよう。しかし、この先も他人を利用して行くつもりなら、もう少し嘘が上手くならんといかんだろうな。』 すっかり相手のペースに飲まれ、言葉も返せないでいると髪を掴む手の力が強まるのを感じた。 『そうそう。あれがあまりにも懐かないのである日我慢ができなくなってね、目を潰したんだよ。もう何処へも行けないように。綺麗な金色の瞳だったから勿体無いとは思ったんだがね。』 言葉の内容とは裏腹に添えられた指は優しく瞼を押し広げ、続いて湿った感触が与えられた。ゆっくりと眼球を這う舌の感触に、暫く硬直していたが、次第に嫌悪感よりも純粋な恐怖感に襲われ思わず腕を振り払ってしまった。だが予想に反して彼は機嫌を損ねてはおらず、むしろ面白いもの見るような目で私を眺めていた。 『…そしてお前もあれほど愚かではないだろう?。小賢しく、生意気な若者は嫌いではないので安心するがいい。但し、私の手の内にある間はな。』
これは目的の為の手段に過ぎないのだと自らに言い聞かせて平静を保ちながら、彼のその言葉が冷たく、重く心の底に沈み込んでくるのを感じた。
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