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[32] マイペースラピタ一族に振り回される大尉(日常?)
無名 - 2007年06月16日 (土) 14時33分

ラボのドアを開けると、そこは腐海の森だった。

「………なんだ、この惨状は?」
思わず声に出してしまうほど、室内は凄まじい散らかり具合だった。
足の踏み場どころか、床が見えない程に散らばった書類と、何に使うのか見当も付かない謎の機械類。そして、その中心に座っているのは何故かこの部屋の主ではなく、その親戚の青年であるムスカだった。
普段、扉どころか廊下の向こうからでも人の近付く気配に気付くほど敏感なはずの青年は、ドアを開けた音にも気づかない様子で一心不乱に手元の書類を見つめてはブツブツとなにやら呟き、そして書類に書き込みをしていた。
異様な雰囲気の中、辺りを見回してみたがやはり部屋の主の姿は見えず、仕方なく私は散らばった書類の隙間を辿って青年の元へ近寄ってみる。

[33]
無名 - 2007年06月16日 (土) 14時34分

「…ムスカ少尉?」
小声で呼びかけてみるが、集中しきっているらしく反応は無い。
床に直接座り込んだムスカの正面にしゃがみこみ、顔を覗き込んでみる。
「………少尉ー? おーい? ムスカくーん?」
呼びかけようが顔の前で手を振ろうが一向に反応の無い青年に、思わず溜息が漏れた。濃い色のレンズの向こうに見える瞳は書類の文字を追って忙しく動き回り、唇はブツブツと謎の数字や単語を吐き出している。
何をしているのかと脇から書類を覗き込んでみるが、少なくとも私にとっては意味不明の文字の羅列にしか見えない。床に散らばった書類を拾い上げてみると、余白部分にビッシリと数式のようなものと、覚えのある地名や空賊の名前等がいかにも神経質そうな右上がりの癖字で記されている。
「…暗号、か?」
そう言えば、特務機関に見ただけでどんな暗号でも解読できる人間がいる…という噂を聞いた覚えがある。その時は、世の中には天才などという人種もいるのだな、程度にしか思っていなかったのだが。
その『天才という人種』が目の前にいる青年だとは思ってもみなかった。
………だが、あの友人の親戚だと言う時点で何となく納得できるような気がする。もしかしたら、彼の一族はそういう人間ばかりなのかも…と考えると薄ら寒いような気もするが。
やっぱり、根本的に脳みそ本体の作りが違うのだろうか?
「…改造、されたりしてないよなぁ」
新入りの間で実しやかに囁かれていた『ダルザス技術大尉のラボに無断侵入した者は機械人間に改造される』などというバカな噂…怪談とも言う…も思い出して、思わず笑ってしまう。
自分には意味を成さない文字の羅列も、この子の頭の中では組み替えられ整然とした情報に見えているのだろう。ひょっとしたら、世界のそのものも違って見えているのかもしれない。

[34]
無名 - 2007年06月16日 (土) 14時34分

ふと、ひょいと手を伸ばして頭に手を置いてみた。拒絶は無い。というより、気づいてもいないようだ。以前触れてみた時には毛を逆立てたネコみたく手酷く撥ね付けられたものだが。
ついつい面白くなってくしゃくしゃと髪をかき回してみる。中身は違っても撫で心地は一緒なんだなーなどとバカなことを思いつつ、柔らかい手触りに思わず頬が緩む。よくよく思い返してみると、知り合ってから随分と経つが直接彼に触れたのはコレが初めてのような気がする。普段は私から近付こうとしても、人馴れしない野良ネコのようにぱっと身を翻してしまうものだから。
ツンと澄ました野良ネコも可愛いものだが、やはり素直に撫でさせてくれる飼いネコも可愛いんだよなぁ……などと本人が聞いたら烈火のごとく怒り狂いそうな感慨に耽りつつも、ついでだからともう一つやってみたかったことを実行することにした。
そっと手を伸ばして、顔半分を覆う眼鏡のフレームを摘む。耳に引っかからないようにゆっくりと持ち上げて、外す。初めて見るその素顔は、思っていた以上に幼く、あどけなく見えた。
と、不意にぱっと顔が上げられ、金色の瞳が真っ直ぐに私を見つめる。
上質の琥珀のような深い艶を持つ瞳。吸い込まれそうになる、というのはこういう感覚を言うのだろうか。
そっと目元を指の腹で撫でると、心地良さそうに目が閉じられ―――隠されてしまった瞳を、もったいないなどと思ったその瞬間、がくんと上体が崩れ落ちた。
「いっ? なっ、ちょ…ムスカくんっ?!」
慌てて倒れかかる体を抱きとめ、顔を覗き込んでみる。
閉じられた目元には隈が浮かび、元々白い肌が更に蒼褪めて濃い疲労を物語っている。薄っすらと開いた唇からは
安らかとさえいえる寝息が零れていた。
「………えーっと………」
寝心地がいい場所を探してか、ムスカは無意識にもそもそと身動く。伝わる鼓動が気に入ったらしく、ぴったりと左胸に耳を押し付けて膝の上に丸くなってしまった。
どうしたものかと溜息を付きつつ、とりあえず擦り寄ってくる頭を撫でてやると、縋るようにその手が私のシャツを握り締める。父親に甘える子供のような仕草に、思わず笑いが漏れた。

[35]
無名 - 2007年06月16日 (土) 14時35分

「………何やってるのさ」
「うわっ」
俄か父性愛などに浸っていると、不意に背後から声が投げられた。振り向けば、そこにはいつの間に戻ってきたのか部屋の主が立っている。食堂にでも行っていたのだろう、サンドイッチと湯気を立てるカップを乗せたトレイを抱えて、呆れた顔でこちらを見下ろしていた。
彼はじっと寝入ってしまったムスカを抱きかかえた私を見つめ、そして私の手にした眼鏡を見つけ、何を想像したのかやがて納得したようにあぁ、と頷いた。
「…鍵は閉めた方がいいと思うよ…というか、サカるなら自分の部屋にして欲しいんだけど」
「サカるってなんだ、人を獣みたいに…じゃなくて、誤解だっ」
邪なことをしていたわけではないが、何となく顔に血が上るのが自分でもわかる。熱くなった頬を押さえつつ、慌ててて言い訳など口にしている私の横にしゃがみこむと、唇に人差し指をつけて静かに、とジェスチャーを見せた。
思わず荒げてしまった声が煩かったのか、ムスカは眉を寄せてむずがるように首を振る。慌てて口をつぐみ、宥めるようにぽんぽんと頭を撫でてやるとすぐに落ち着いたのか、また落ち着いた寝息を立て始めた。
「…冗談だよ。どうせそろそろ限界だったんだ。食事摂らせてから休ませようと思ってたんだけど…」
「なんだか随分お疲れみたいだな。また何かモメたのか?」
やれやれと溜息を付く友人の顔にも濃い疲労の色が浮かんでいる。
「まぁね………あのモウロク将軍が暗号解読機を作れなんてバカ言いやがるから………」
笑い混じりに呟く姿に空恐ろしいものを感じて思わず顔を逸らす。

何だか、一文字多いような気がしたが気にしないでおこう…
ついでに、声に怨念のようなものがこもっているような気もしたがきっと気のせいだ…

「じゃあ、コレは君が食べてくれ。僕も寝るから。後ヨロシク」
「え? ちょ、ちょっと待て! よろしくって…」
暫し怒りにか笑いにか肩を震わせていたが、床に直接トレイを置いて立ち上がりふらふらと歩き去ろうとする。慌ててその白衣の裾を掴んで引き止めると、見事なほどのアルカイックスマイルを返された。
「…なに? 何か用でもあるのかい? …起きてから聞くから。いいね」
有無を言わさぬ口調で言い切るとするりと白衣を脱ぎ捨て、カーテンで仕切っただけの簡易仮眠室へと向かう。作業着のままベッドに倒れこみ…そのままピクリとも動かない辺り、一気に寝入ってしまったのだろう。
そういうところも、似ているのかもしれないな…と人の胸をベッド代わりに寝息を立てているムスカと見比べて溜息を付いた。


今日はもう特に用事はないし、明日も非番だ。幸い、時間だけはたっぷりとある。
友人が脱ぎ捨てた白衣を手繰り寄せ、毛布代わりにムスカの肩に掛けてやる。
目を覚ましたらきっと大騒ぎするだろう。
どうやって宥めてやろうかと今からに考えつつ、友人の用意したカップに手を伸ばす。
ミルクティーの甘い香りを楽しみながら、たまにはこんな休日も悪くは無いな、とぼんやり思った。



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