黄昏流儀 作品修練場(掲示板)
ここではほぼ自由に作品を投稿し、来場者の評価を二者択一形式で募集することができます。あわせて評価文も頂戴できます。過去の作品、正式発表作品も含めて、修練の場としてご利用ください。
開運
昨年は、何もいいことがなかった。
簡単にそう言いきってしまうのだが、実際にそうだった。
勤めていた会社は倒産し、なんとかハローワークで見つかった再就職先では、面接の時とはまるで違う賃金でこき使われ、挙げ句の果てには残業続きで疲労が蓄積し、軽い脳梗塞を起こして、2ヶ月入院。
もちろん、その間に会社からは解雇され、ようやく見つけた次の就職先は、僕の苦手なサービス業。
元旦こそ休めたものの、明日からはスーパーの店頭でメロンパンを焼き売る生活が始まるのだ。
そんな自分をなんとかして奮い立たせようと、元旦の計を初詣に託すことにした。
去年は何もいいことがなかったので、今年こそは何かいいことが…いや、せめて平穏な年になるようにと、願うつもりだった。
そんな自分が、今手元に握っているのは、おみくじ。
結果を案じながら、その封を開く。
「大凶 あなたは今年いかなる事も控えめにしておく方がよいでしょう」
大凶。いきなり大凶かよ。
僕は財布の紐をゆるめた。100円玉を料金箱に投げ入れる。
今度こそ、なにかいいくじが出ろ。そう願った。
「凶 自分の能力を過信して行動すると悪いことがおきます」
少し良くなったといえども、凶。
僕の心はさらにつぎのくじを求めた。
こんな僕に、せめて新春だけでも、いい夢を見させてくれ。
「大吉 …」
やった、大吉だ!
大吉を引き当てたのは、13回目の事だった。
これで、なんとか今年は吹っ切れることが出来そうだ。僕の心は安堵した。
さて、早速このくじをくくりつけて、拝まねば…
「大吉 ただし いらぬ散財をすると不幸が訪れます」(25/たそがれイリー/06/23(Sat) 00:43)教官
「やあミハエル、君の受け持っている生徒なんだが」
「ああ、またかい」
「わかっているなら、もう言うまい。しかし、ワールドチャンピオンを5回も獲得した皇帝たる君が、どうして自動車学校の教官になったら、ろくにまともな生徒を卒業させられないのかね?」
「僕は僕のポリシーに従って、僕のドライビングテクニックを伝えているよ」
「そのポリシーは、ミハエル・シューマッハだからできることに従っていないかね?それでは初めてハンドルを握るような若者には、通用しないだろうね!」
「でも、僕はポリシーを変える気はないね」
「どうして?」
「僕の大好きな日本では、国旗国歌が嫌いなティーチャーが、自分のポリシーを貫いて、何食わぬ顔で生きていられるじゃないか!僕だって同じだよ!」(24/たそがれイリー/03/05(Mon) 06:58)タイムカプセル
プシュー。ガタガタ。
日焼けマシンのようなカプセルが、水蒸気を発しながら、ゆっくりと開いていく。
「確かに、あなたの曾祖父になられるんでしたっけ」
「曾祖父? いや、もう一つ上のじいさんだったような気がしますが」
「我々子孫も、お恥ずかしい話ですが、このような先祖がですね、不治の病を抱えて冬眠しているなんて、つい最近知ったものですから」
「まあ、曾祖父でも、もっと上の方でも結構です。私は医師としてですね、不治の病を治癒しなくてならないんですよ」
「ああ、そうでした。しかし、不治の病がなんだったのか、皆目見当がつきません」
「とりあえず、手当たり次第切ってみたらどうです、先生」
「それができたら苦労しませんよ。切るって言われましても、やっぱりご親族の許可をいただかないとねぇ」
「じゃあ、とりあえず、腹部でどうでしょう。どうせ、末期ガンとかじゃないの?」
「末期ガンだったら肺じゃないの? 肺を切ってみたらいいよ」
「おそれいりますが、何か手紙とかですね、どこが悪いから治してくれって言うメッセージ、残ってないですか?」
「あ、これかも。もしかして」
「あ、診断書があるよ。きっとこれだ。先生、これでいいようにやってくださいよ」
「あるなら早く見せてくださいよ、どれどれ」
「どうです、先生?」
「…」
「ん? なんです? 先生?」
「これは、100年経っても、これから先も、治せそうにないですよ」
「あらら、そんなに悪い病なんですか」
「せっかく100年我慢してたのにねぇ、このじいさん、また冬眠だね」
「ちなみに先生、いったい何の病気なんでしょう?」
「健忘症です。これはいつまで待っても、治せませんよ」(22/たそがれイリー/03/15(Sun) 21:09)弁済
裁判長。
彼は才能のある男なのです。
現に、彼の才能が、多くの人々の支えになりました。
そして、多くの人々が”生きよう”と思えるようになりました。
私もその1人です。
私がこうして社会的にも生活できるのも。
自分の目指す仕事で財を成せたのも。
彼に出会い、彼の才能があったからのことなのです。
彼の罪にかかる費用。
それらは私が弁済します。
どうぞ、寛大な判決をお願いいたします。
もちろん、彼の更正を、責任もって支えます。
重ねて、寛大な判決をお願いいたします。
「あなたの言うことはわかりました。裁判長として申し上げるならば・・・被告人、ブラック・ジャックが速やかに更正し、医師免許を取得するなど、その才能を法の下で発揮しようとすることを願わずに入られません」(21/たそがれイリー/03/15(Sun) 21:07)チームワーク
「まあ、俺たちの話を聞いてくれないか」
「すべこべ言うな。今更言い訳など聞いたって、お前らの寿命は今日でつきるんだからな」
「それなら、遺言のつもりで聞いてくれてもいいじゃないか」
「ちぃ、それなら、聞いてやろうじゃないか」
「昨日の晩、俺たちはすき焼きをしたんだ」
「それが、どうした?」
「いつもなら、オーストラリア産の牛肉でな、脂身に乏しくて、まるでビーフジャーキーをそのまま煮て食っているようなものだ」
「だから、それがどうした」
「ところがだ、昨日に限って、俺たちの中に1人、羽振りのいい奴がいてな」
「そりゃ、結構なことで」
「そのお陰で、昨日のすき焼きは、なんと国産牛肉だったんだ」
「Jビーフって奴か」
「ああ、Jビーフさ!」
「4人そろって叫ぶことでもあるまい」
「いいや、国産牛だぞ!国産牛! それをだな…あいつは、あいつは…」
「早く言えよ」
「そうさ、あいつは、1人4切れの約束を反故にして、5切れも食べたんだ!」
「くだらねぇ」
「なんだと!4切れと5切れじゃ、満足度も栄養価も違うんだぞ!」
「だから、4人そろって叫ぶのやめろよ」
「それになぁ、あいつが5切れ食べたということは、誰かが3切れしか食べられなかったんだ!」
「…」
「俺たちは怒ったさ、激しく怒ったさ! それで…」
「いつも5人いるのに、今日は4人なんだな」
「だから、正直言って、今日は勝てそうな気がしない。手加減してくれないか」
「お前ら、本当にヒーロー戦隊か?」(20/たそがれイリー/03/15(Sun) 21:06)温度差
田舎育ちの私には、都会の猛暑は耐えられるものではなかった。
ある初秋の昼下がり、30度に達しようかと言う気温の中、私はビルを飛び出した。
営業とかこつけて、涼を求めるためだ。
幸いにも、私の会社の近くには、涼がすぐにある。
涼と言うよりは、周りのコンクリートジャングルと比べても、かなり涼しい場所と言ったほうがいいだろう。
もちろん、今日もその場所に出向き、近くのベンチに腰掛けて、いくつかの書類に目を通す。
国会議事堂を目の前にして、涼しげになった私は、一人つぶやいた。
”永田町って所は、世間と比べて、温度差があるものだ”と。(19/たそがれイリー/12/14(Sun) 20:33)女スパイ13号
「スパイ13号。お前を日本に送り込んだ成果を聞かせてもらおう」
「日本から子どもを連れ帰ってきました」
「子どもか…それはいい。外交カードに使える可能性があるな。で、その子どもはどこにいるんだ」
「少しお時間をください。4ヶ月ほどすれば生まれて来ますので」(18/たそがれイリー/12/14(Sun) 20:30)政治家に告ぐ
最近の世の中はひどいものだ。
政治家が政治家たる資質を持たないから、この国はだめになるんだ。
アニメ好きだとか。
漫画好きだとか。
庶民派だとか。
飲むのはホテルの高級バーだけとか。
一体どうなってるんだい、今時の政治家は。
…おい。
……おいってば。
………聞いてるのか、あんた?
「あ、そう」(17/たそがれイリー/12/14(Sun) 20:30)生きるも死ぬも
「眠ったら死んでしまうぞ」
火も消えて、極寒が訪れた山小屋の中、ジョンとビリーは互いの頬を殴りあう。
「寒い・・・ぬくもりがほしい」
相棒の震える声に、ビリーは躊躇することなく、ジョンを抱擁する。
「おお・・・暖かい」
「そうだ! 思い出すんだ!」
「思い出す・・・?」
ビリーは涙をこらえながら叫んだ。
「このぬくもりは、お前の帰りを待っている、妻のぬくもりだ!」
「妻・・・」
「そうとも、お前のワイフだ!」
「ワイフ・・・か」
そうつぶやくと、ジョンはうなだれ、あらゆる生気を失わせた。
「ジョン!」
「俺のワイフは、こんなに暖かくない・・・極寒の女だよ」(16/たそがれイリー/06/24(Sun) 10:25)俺俺。
ある老いた母親が一人で家でテレビを見ていると、電話がなった。
「もしもし?」
「あー俺俺、俺なんだけどー!」
一瞬、家出同然に東京で一人暮らしをしている息子のことを思い出す。が、近頃問題になっているオレオレ詐偽のことも気になる。母親は尋ねる。
「うちには『おれ』なんて人間は居ませんが。」
すると電話の主は、
「なにいってんの!俺だってば!今ちょっと事故っちゃってさー」
母親は、テレビで見た手口にそっくりだと思い、警戒する。
「――死んじゃったんだけど。保険は掛ってるし相手もいないから安心しろよ。今まで苦労かけてごめんな。」
それだけ告げると、電話は切れた。
そのあとすぐ、警察からの電話で母親は息子の事故を知った。(15/玄武/06/02(Sat) 02:31)