タイトル:「記せ。」 |
ファンタジー |
もう一つの世界線。 でも、これは確かに僕たちの身に起こった出来事。
記せ。
僕は物語が読みたいんだ。 君の本気の、物語が。
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敗者 2017年07月29日 (土) 00時38分(120) |
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題名:「柔らか。これがアイだってことでいいんじゃない?てーちゃん。」 |
「てーちゃぁん、やっぱこの部屋ちょと暗いよー」 「静かにするんだな、貴様の首が飛んでも知らんぞ。ボウタニ。」 「いちいち言葉が猟奇的すぎだっての!ボタン押すよー」 「ああ、始めろ。」
暗い部屋に画面の青い光が反射して、浮かび上がる顔は二人分。 長身の男に、フードを深く被った、動物の骨のようなマスクで顔を隠した車椅子の人物。
モニターに映る映像には、さまざまな場所、人。 ボタンが押されると、各モニターに一つずつ。黒い塊が現れ、それぞれが思い思いに飛んでゆき画面から消えるのだった。
「あ、…いい感じいい感じ。これならちゃんと世界滅ぼせそうー。エネルギータンクも仕事してるね。さっすがぁ!」 「当たり前だ。…僕の計算と計画に間違いなど無い。そうだろうボウタニ。」 「ああ…完璧だよ、てーちゃん。」
様子見ていく?というのっぽの男の言葉に車椅子の人物がうなづくと、のっぽは車椅子の取っ手を握り、暗い道をものともせずに押していった。
一人、肩につかないくらいの青髪の、ちいさな子供がショーケースのようなガラス張りの箱の中で眠っていた。 車椅子を押していた男はこれでお暇、とばかりに先ほどのモニター室に戻って席を外す。
…ぴぃんと張りつめていた車椅子の彼の雰囲気がすこし緩み、手…鳥の足ように皺の寄った、人のものとは思えないような手が袖の内から現れて。 しかしその不気味な手は、そっと優しくガラスを撫でた。
「もう少し。…もう少しの辛抱だからな…。ルー。」
今度こそ目覚めてくれよ。結構エネルギー補給は大変なんだ。
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敗者 2017年07月29日 (土) 00時43分(121) |
題名:「お前に声をかけられたときからだ、…察しろ。」 |
「ショパン?」 「…」 「ああ、ノクターンか。てーちゃん好きだねえ」 「……。」 「…あ、水いる?」 「……」 「うんうん、ちょっと待ってな、すぐ戻る」
廃工場のようなボロボロの建物の壁に、穏やかな…少し調律のずれたピアノの音が反響し響いていた。 ボウタニが水を陶磁器のマグカップに注いで戻ってきても、音は一向に鳴りやむことなく。明るいような…しかしどこか悲しい旋律が流れっぱなしになっていた。
俺は、そのレコードを止めるように彼の前にマグカップを差し出した。 てーちゃんは、少しの間静止して。それから何か言いたげにしながらもマグカップを受け取ったのだった。
「…ショパン?」 「…そうだな、…何度も聞いているだろうが」 「ああ、ノクターンか。てーちゃん好きだねえ」 「ここには縛るものが無いのだからな…はは、滅茶苦茶な指運びでも咎められたりしない」
まあ、僕へ口出しするなんぞ命を捨てるようなものだがな。と言ってピアノの椅子に深くもたれようとしたのか。
……残念だったなてーちゃん!!…ピアノの椅子に背もたれはねえよ…?!
「あっ!!!…っ…ぶね〜……」 「………。」
あ、黙ってる。恥ずかしがってる。 後ろに落ちかけた彼の背中を急いで支えると、背骨を直接触っているのではというほどに痩せこけたぼこぼこの背中に手のひらが触れた。動物の骨みたいな被り物をしてるから顔色なんてわからないけれど恥かいたって意識はあるんだろうな!相手が黙り込んだ。
「……早く手を離せ」 「あっごめんよ」 彼は、俺が触れるのを極端に嫌がる。…俺なんかしたっけな。 けれど、本気で嫌がられているのだ、口調でわかる…すぐに手を離し、彼の左斜め後ろにいつものようにひかえて立った。
「そいえばさ、なんでピアノ?」 「…いちいち…説明させる気か…?全くお前は…」 「ピアノがあったから?」 「…。趣味のようなものだ、ここは嫌な物はないが、退屈が蔓延っているからな」 「俺が取り除けたらよかったのに。…ごめんね?」 「分かっているだけまだマシではないか。せいぜい努力しろ」
彼のピアノは誰かに習ったものらしい。 しかし、その話をすると決まってピアノの音が憎しみを込めた荒っぽいものになるのだ。
「ピアノって誰に習った?」
「………何度も言わせるな煩わしい!…
………くそジジイだ…。僕はあいつを忌み嫌っている」 そして、相手も僕を嫌っている…。
「…へーん」 「何を情けない声を出しているのだ、僕の隣に立つにふさわしくないではないか」 「今日饒舌だね、なんかあった?」 「……お前に話す義理はない。」 「けちぃ」
少し荒っぽいノクターンが流れるのを、隣で聞いていた。
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敗者 2017年09月24日 (日) 09時33分(148) |