タイトル:Glauben und Gelöbnis und Schicksal |
ファンタジー |
レオンハルト青年のお話。
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燐 Leonhard 2017年05月06日 (土) 16時41分(90) |
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題名:始まり |
此は約80年程前、彼の地の過去の王、レオンハルトの話だ。今でこそ王座を年の離れた義弟へ譲り、 のうのうと隠居生活を楽しんでいる彼だが、その過去は壮絶極まるものだったと言う__.
「……ますか、聞こえますか!?」 彼が一番最初に耳にしたのは、そんな声だった。目の前に広がる木製の天井、自分が寝かされているのはどうやらベッドなようで布団もふかふかしている。自分を呼び掛けているのは、ニンゲンの娘_。 「_此処、は」 「ああ、良かった!気が付いたんですね。貴方、村の入り口で倒れていたんですよ?」 嬉しそうに表情を明るくし、ハキハキと話し掛けてくる娘。明るい茶色の癖毛混じりなポニーテールと、エメラルドを連想させる緑色の大きな瞳が特徴的だ。「此処は私の祖父の家で、私が運んできてあげたんです」そう得意げに胸を逸らしている。娘はところで、と問いかけてきた。 「どうしてこんな辺鄙な村に?もしかして逃走してきた戦士様ですか?」 「……分からない」 「え?」 「分からない、思い出せないんだ、何もかも…」 そう言い、彼は目を伏せる。目覚めた時には既に記憶はなく、名前すら分からなかった。気付いた時点で己の身体は傷だらけ、身に着けていた服もズタズタに破れており、気怠さから相当な体力を消耗していたであろうことは理解出来た。分からないのは その経緯。何がどうしてそうなっているのか、思い出せない彼が不安に駆られたのは致し方のないことだった。 「だ、大丈夫ですよ!直に思い出せますって!」 自然と表情を暗くする彼へ、娘は慌てて励まそうとする。それからは質問攻めにあったり、服装などを調べられまくったりされた。身に着けていた服等から辛うじて分かるのは、どうやら彼は王に仕える戦士であろうこと、その容姿からエルフの一族であること、エルフの中でも上位種であること、そして…。 「345の二乗は?」 「……………………………119025、か?」 彼の計算能力は高いこと、345を二乗すると予想外にとんでもない数字になる、ということぐらいだった。言語から住んでいる地域を特定したかったのだが、彼が使っているのはかなりメジャーなもの。エルフという種族だって幅広く点在しているため特定は極めて困難。まさに八方塞がりな状態で、娘は思わず深い深い溜め息を吐く。それを何と受け取ったのか、彼は俯き小さな声で零した。 「…ごめんな。俺、明日には出て行くから」 悲哀を孕んだ台詞に娘はハッとして弁解する。 「ち、違います!さっきのは、そういう意味じゃ…!」 「いーんだよ。今の俺は誰でもない、見知らぬ時に骨を埋めるのがお似合いだ」 そう彼はカラカラと笑うも、娘には自嘲を含んだものにしか聞こえなくて。どうしよう、どうすればいい?どうしたら彼を救える?悶々と考え、無意識に口に出していた。いや、最初は無意識だったかもしれない。しかし次の瞬間には、その瞳は真剣なものへと変わっていた。 「だったら…私と一緒に住みませんか?」 「……………は?」 「正確には私達と、ですが。だって貴方は何も分からないんでしょう?怪我もしていたし、それに…せっかく助けたんです、見捨てたくはありません」 向けられた真っ直ぐな眼差し。彼が目を逸らしたのは、肯定か否定か。
……かくして彼と娘、その祖父母は1つ屋根を共にすることとなったのだった。
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燐 Leonhard 2017年05月06日 (土) 17時48分(91) |
題名:一番シアワセだった頃 |
娘の名前はFranzchen・Beilschmidt(フランツヒェン・バイルシュミット)と言った。先祖が鍛冶屋でこの苗字らしいが その技術は受け継がれておらず、現在は祖父母と共に自給自足の生活をしていた。 突然現れた彼に祖父母は動揺したが、かなり すんなりと彼を受け入れ、歓迎し、向かい入れた。一片の疑心を抱くこともなく、まるで遠出していた息子が帰ってきたかのような温かさで。何も分からない彼に、名前も付けてくれた。『Leonhard』_獅子のように強くあれ、勇敢であれ。そんな意味で。苗字は家族のものを賜った。3人共が名乗ることを許してくれたのだ。 記憶が戻るまでの仮の名を付けられ、急展開に茫然とする彼ことレオンハルトを余所に、フランツヒェンは穏やかに微笑んだ。 「改めて宜しくね。レオンハルト…レオン」 「!…此方こそ、宜しく頼むぜ。フランツ」
それからは彼らは何気ない日々を過ごした。作物を育て、薪を割り、偶に村の集会に参加して。村の人々からは最初の方こそは奇怪な目で見られたものの、レオンハルトの人懐っこさと素直で明るい人格に、馴染むのには大した時間を有さなかった。村中の皆に愛され、信頼され、気付けば輪の中心に居た。バイルシュミット家族との関係も良好で、フランツヒェンとに至っては村の皆々に双子のようだと称される程の仲になっていた。 毎日が笑顔、筆舌に表せないほどの幸福に満たされていた。 そんなある日、レオンハルトに声が掛けられる。 それは村長から、村の外れにある教会に行けというものだった。
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燐 Leonhard 2017年05月06日 (土) 21時07分(92) |