タイトル:(削除) |
文学 |
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システムメッセージ 2017年04月20日 (木) 09時58分(77) |
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題名:声の主 知らぬままにて 沈み行く |
…ここは何処であろう。目が開かない。身体がどんどん沈んで行く。抗おうとするも身体が言うことを聞かない。
必死にもがいていると声が響いてきた。
_抗わなくても良い。流れに身を任せるのだ。さすればすぐに意識が鮮明とするだろう。
優しい女性の声だった。何処の誰とも分からないが安心しきった私は抗うのを止めた。 そして何処までも続くような深い深い穴の底へと沈んで行った。 そこから目を覚ますまでの記憶は無い。
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声の主 2017年04月20日 (木) 10時06分(78) |
題名:敵(ライバル)と 護りし物の 巡り合い |
_…………すか?
_……夫ですか?
_大丈夫ですか?
誰かの声が聴こえる。ふと目を開けると霞む視界の中に女性の影が見えた。 ほっと安堵しているようだった。どうやら道端の建物の壁に寄り掛かって倒れていたようだ。
_こんな所で寝ていては身体に毒ですよ。これから私達と敵対するというのに。
起こしてくれた女性ははっきりとそう言った。敵対すると。 どういう事かと問おうとしたがその前に女性は話を変えた。
_貴方はこれからこの建物を護る守護神となるんです。ちょうど貴方の寄り掛かっている建物を。
そう言われて視線を上へ向けると異彩を放つ西洋の城のような形の建物があった。 これを…?とぼんやりとした意識の中相手に尋ねると、その通り、と返ってきた。 ゆっくりと立ち上がるとその建物へ向けて一礼をした。これからよろしく、と。 其を見ていた女性はクスッと笑い、精々頑張りなさい、と言いつつ朝靄の中へと消えていった。
春風が桜の花びらを運ぶ、よく晴れた4月1日の事であった。
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名も無き守護神 2017年04月20日 (木) 10時20分(79) |
題名:名を持たぬ 守護せし者の 名付け日や |
守護初日(4/1)
守護をするに当たり建物について色々と見て回った。 中には映画館や食品売場、中階をぶち抜いた駅等があり多くの人々で賑わっていた。 外観はさながら西洋の城である。 また、建物の腹とも言える部分には半円型の穴が開き、そこを通過する鉄道で多くの人々が行き交っていた。 私は見た目は普通の人間なのでよく声を掛けられた。皆心優しい人達だった。
「ここは初めて?」 「道は分かる?」 「どや、一緒に競馬でも見に行かんか。」 「良い映画やってるで。あんたも見に行ったらどうや。」 「その服良いわねぇ。」
そんな日常の何気ない会話が幼い私には新鮮に思えた。
そして、 「名前はなんて言うの?」 と問われた時に自分には名前が無い事に気付く。 答えられずにいる自分を見て名前が無い事を察したのか、その人はいくつか名前の案を挙げてくれた。 だが、どれもしっくり来ないため止めた。少し悩んだ末に「髑 急」と決めた。
名前が決まり相手に答えると、相手は「良い名前ね」と誉めてくれた。 良かったね、と私は心の中でビルに言った。誉めてもらった名前はビルから取った名前なのだから。
そんなこんなで1日が終わった。 未だあの女性が言った「敵対する」という言葉の意味は分からない。 だが、そのうち分かるであろうから今日は疲れたのでここで寝ることとする。
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髑 急 2017年04月20日 (木) 11時19分(80) |
題名:見ゆ敵の 正体探りし 朝方や |
守護2日目(4/2)
朝起きるなり「敵対」という言葉について考えていた。 考えていたが、そもそも周囲を見て回らないと分からないのではないか、と思い周囲の散策へと出かける。 少し肌寒い朝だった。ビルから南を眺めれば朝日が反射し煌めいている広々とした海が、 反対に北に目を向けると緑が芽吹いてきた山々が見える。 ここはどうやら山と海に挟まれた港町のようだ。そのような立地のせいか街中には坂道が目立つ。 港の方まで行ってみたがそこからでも頭一つ抜きん出たビルは目立っていた。
そして港の方まで歩く道中に敵の正体に気が付いた。 ビルのすぐ南を蒸気を吐き立てながら走り行く鉄道と更に南の市街地の地下を走る鉄道だ。 私の守護しているビルは一番北を走っている鉄道の駅ビル。 つまり敵は並走している2つの鉄道会社ということになる。
そういうことか、と納得していると頬に煤の汚れが付いた女性がやってきて話し掛けてきた。
_どうやら敵の正体に気が付いたようですね。
聞き覚えのある声だった。そう、昨日会ったあの女性だ。
_私はあなた方のすぐ南を走る者です。現在は非電化故に後塵を拝していますがすぐに追い付かせていただきます。
少し煤汚れの付いた前髪を少し掻き上げると自信たっぷりにそう言ってくる。 こちらこそ負けませんよ、と返すと相手は「それでこそ良きライバルです。」と少し微笑む。
昨日は意識がはっきりしていなかったのと逆光であることが重なりよく見えなかった相手の顔が今日はしっかりと見えた。 綺麗な顔立ちをしている。敵ではなかったら嫁に…なんてな、と思いつつ、一つ尋ねたい事があるので尋ねた。
「貴女の名前は?」
彼女はすぐには答えなかった。私同様に名前が無いのかと思ったがどうやら違うようだった。 敵である私に本名を明かすべきか悩んでいるのだろう。少し悩んだ果てにこう答えた。
_京(ミヤコ)です。名字の方は伏せさせていただきますがね。
京…良い名前だな、と思った。そして自分も名を「急だ。」と名字を伏せて名乗った。 彼女は名前を聴くと「急ぎ過ぎると追い付けないのでゆっくりして下さいね」と言い駅の方へと去っていった。 これから敵としてよろしく、と彼女の背に向けて言うと手を挙げて振ってきた。 これから忙しくなりそうな予感がした。
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髑 急 2017年04月20日 (木) 13時16分(81) |
題名:長年の 願い叶いし 敵の者 |
守護22年と8日目(4/10)
あれから特に変わった事も無い毎日を過ごしていたが急に会うことの無かった京が訪ねてきた。
_遂に念願の電化が叶った。これからは私がお前を追い詰める番だ。
どうやらここの更に西の方まで電化したようだ。誇らしげにそう言ってくる彼女に、「ああ、楽しみだな。」と返す。
彼女はこのような返しをされるとは思っていなかったのかキョトンとするもすぐに何時もの状態に戻る。
_精々首を洗って待つ事だな。
といつもの調子で嫌味ったらしく言ってきた。
「そちらこそ首を洗う事だな。今までの煤汚れが溜まっている事だろう。」 とこちらも言い返すとさすがに相手は女。
_ちゃんと洗ってるわよ!
と怒鳴られた。それにしてもあの時の怒鳴り声は今でも素直に怖いと思う。
すまんすまん、と謝ると彼女は怒っているため少し顔を背けると
_絶対に勝つから覚悟する事、良いわね?
と少し怒り混じりの声で言ってきた。嫌だね、と言いたいところだったが鋭い目付きに射抜かれて 「はい…」と答えるしか無かった。
それに満足したのか彼女は手を振りながら電化された西の方へと駆けて行った。
これはこちらも負けていられないな、と思ったが、まだまだ今までの差で優勢、と呑気に思った。
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髑 急 2017年04月20日 (木) 14時31分(82) |
題名:京(ミヤコ)の地 踏みし子供を 鉉と呼ぶ |
守護34年と6ヶ月目(10/1)
二年前の4月に西への進出と同時にビルの中の駅の名前が変わったので名前を阪宮 急に変えた。 それ以外に書くことがないからここに纏めて書く事とする。
↑2年前−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−冒頭の日付↓
夕暮れ時。ここから程近い場所で万博とやらをつい先月までやっていたらしい。 人に聴いた話では色々な物があったらしいが行ったことが無いので分からない。 どんな物があったのだろうと考えながらビルの屋上で港の方を眺めつつお茶を啜っていると京が訪ねてきた。
何の用かと思えば何やら見覚えの無い男の子が京の後ろをとことこ付いてきている。
「ま、まさかお前…結婚して産んだのk…」
言い切る前に頬に右ストレートが飛んできた。
_違うわよ!弟よ弟!
頬を真っ赤にしながら京が言う。自分も意味は違うが真っ赤になった頬を擦りつつ言う。
「弟?」
_ええ、そうよ。鉉って言うの。
「鉉か。良い名前だな。で、それがまたどうしてここに?」
_この子は私よりも速い足の持ち主なのよ。弟に抜かれるなんて悔しいけどね。
「なるほど、今からこの子で叩き潰すからご挨拶に〜って感じか。」
_ええ、敵とは言え挨拶くらいはした方が良いかなって。
「妙なとこ律儀だなお前…ま、堅苦しいのはこんくらいにして、これからも敵としてよろしくな。鉉君も。」
_こちらこそよろしく頼むわ。それじゃあまたね。
と大体こんな感じのやり取りを交わした後に京は鉉を連れて帰って行った。 そういや鉉君の声聴いてないなぁ、と二人が帰ってから思いつつお茶を啜る。 夕日の明かりで黒いシルエットとなった京と鉉がビルの前を東の方へと駆けて行った。
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阪宮 急 2017年04月20日 (木) 14時55分(83) |
題名:蔓如く 閃光の如く 走しり子 |
守護50年目(4/1)
いつものようにのんびりと屋上の角に座り込むとお茶を飲む。 お茶を啜ると息を付き、下へ目線を落とす。 見た感じ落ち込んでいるようにも見えるが別に落ち込んでいる訳では無く鉉の事が気になっていただけである。
もうそろそろ来るかな…、と思っていると東の方から春風とは言い難い突風が吹いてきた。 何事かと思うと鉉が物凄い速度で滑り込んで来た。 一瞬我が目を疑った。あんな速度で来るのか、と。 これはこちらもうかうかしていられないな、と思うと乱れた髪を整えつつまたお茶を啜る。
また視線を下に落とすと、後ろから京がノロノロと入って来た。 これは確かに弟の圧勝だな、とクスクスと笑いつつ見ていると急に下から怒号が飛んできた。
_笑ってんじゃないわよ!
と。いきなりの事で驚き、お茶を下に落としそうになる。ついでに自分も落ちかけたが。 鉉の方はキョトンとしている。何で姉が怒っているのか理解出来ていないようだった。
「すまんすまん。」
と少し大きな声で謝ると
「出発反応標識点いてるで〜。」
と呑気に言ってみる。気付いていなかったのか、京は焦って
_くっ…今回はここで勘弁しといたるけど今度は容赦せぇへんからな!
と言いつつ慌てて出ていった。 鉉の方は此方に気が付くと一つ礼をしてゆっくりと出ていった。 出だしと最高速が逆転してるな…と二人が出ていった西の方を眺めつつ思う。
「あ、お茶無くなった…。」
お茶をまた啜ろうとすると中が空なのに気付く。やれやれ、うっかりしているのは自分もらしいな、と思うと少し伸びをして立ち上がる。
「鉉…か。」
あの子の名前を今一度呼ぶ。今頃姉弟で追い掛けっこでもしてるのだろうか。 そう思うとなんだか微笑ましい気もしてきた。相変わらずこちらに飛んでくる怒号は恐ろしい物であったが。
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阪宮 急 2017年04月20日 (木) 15時22分(84) |
題名:長年を 共にし物との 別れの日 |
守護54年目の1月(正確な日付は忘れた) そろそろ起きないとな…と思ったその時に地鳴りが響いた。 まるで京に怒鳴られたみたいだな…と呑気に思っていると次は身体が揺れ始めた。
これが地震だと認識するのにそれほどの時間は掛からなかった。
ビルを護らなければ、と思って飛び起き、ビルを見ると無惨にも一番上の階が地面へと崩落していた。 その他の階も多くのひび割れが入っていて営業どころの話では無かった。 護れなかった…と無惨な姿となったビルの目の前で膝から崩れ落ちた。
そこからの記憶は無い。
気がついたら京が居た。どうやら丁度近くに居て運んでくれたらしい。
_大丈夫?倒れてたけど…。
自分が気が付いたと分かったらしくそう尋ねて来た。
「ああ、自分は大丈夫だ…だがビルと駅が…。」
_私達もよ…数駅西の高架が完全に崩落しててね…。
「それで、姿は見えないが鉉君は大丈夫なのかい?」
_大丈夫よ。路線が分断されててこっちには来てないけど。
「そうか…大丈夫なら良かった。」
_敵ながら優しいのね貴方。
「それはお互い様だろ?というよりこの状況どうする?さすがに今は協力するしか無いと思うのだが…。」
_ええ、そうね。こちらは早いとこ復旧させるからそっちも頑張りなさいよ。
「分かった。それじゃあまた。今度はお互い元気な姿で会おうか。」
_そうね。
多分こんな感じの会話だった。いかんせんこのような状況のため記憶は正しくないかも知れない。 その後京達が全通したのは4/1。私達の方は2ヶ月遅れの6/12に全通した。
が、その過程で守護していたビルは取り壊されてしまった。 私がビルと出逢ってから54年と11ヶ月目。この1ヶ月後の2月の事であった。
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阪宮 急 2017年04月20日 (木) 15時48分(85) |
題名:何一つ 護らぬ神の 居(オ)りし土地 |
守護する物を失ってから約1年目(2/1)
あれ以来もう何かを護る気力を失ってしまった。
京や鉉とも会っていない。
ただ一人、ずっとビルのあった場所を眺めていた。 出逢った時の様に晴れている日も、土砂降りの雨の日も、冬場で風が強く寒い日も。 ただ一人で眺めていた。ビルの中にあった駅は健在だがその上の部分は無くなってしまった。 マルーンの電車が高架を行き交う。あの特徴的な半円型のアーチも無くなって無愛想な感じとなった。
いつまでも動かない自分を奥の高架から見ていたのであろう。 京が近付いてきた。…いや、逆行で見えないがどうやら鉉の方だ。
_大丈夫ですか?
少しおどおどしつつそう訊いてきた。その愛らしい姿に元気を貰い少し微笑むと
「ああ、大丈夫だ。」
とおもむろに立ち上がりつつ言う。
「これからは何も護らずに生きていく。が、鉉君。君達とは永遠に敵だ。」
キョウキト…キョトンとした鉉の肩に手を置くと、「京にもよろしく伝えといてくれ。元気にしている、とな。」 と言い、手を振って南の方へと歩く。 鉉にはその姿はどう見えたのかは知らない。が、少し歩いてから振り返ると手を振り返していた。
ふっと笑うと少し手を大きく振り、そのまま新しくなったビルへと入っていく。 ずっと眺めていたマルーンの電車で出掛ける為に。
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阪宮 急 2017年04月20日 (木) 16時05分(86) |
題名:未来へと 続く軌跡は 何処までも |
ビルを無くしてから18年と10ヶ月目(12/21)
久しぶりに駅の名前が変わったので名前を阪宮 髑に変えた。 コロコロ名前が変わって覚え直すの面倒やからええ加減にせぇや、とか京に言われるけど知ったこっちゃない。
あれから18年経って競馬と歌劇、それから和菓子が好きになっていた。 沿線に2つの競馬場、一つの歌劇団、古風な街の方へも行くため色々と好きになっていたのである。 始め数年はまだまともだったがそこから一気に堕落した。 でも楽しいから気にしない気にしない。
そして鉉とは案外仲が良くなった。が、ふとした拍子に嫌味合戦になるのは京と同じだった。 ただ、解説文の本を渡すと一気に大人しくなるから扱いやすかった。財布がヤバい事になったりもしたが。
そういえば京は手懐けた事が無いな…。いや、あいつはどう頑張っても無理だろう。
そんな他愛も無い事を思いつつ今日も今日とてカタンカタンとジョイントに合わせて規則正しく揺れるマルーンの電車で出掛ける。 隣を京と鉉が抜きつ抜かれつ走っているのを微笑みつつ眺め、追いかけながら。
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阪宮 髑 2017年04月20日 (木) 16時15分(87) |
題名:カタコトと 揺れる普通車 あの頃の 多し思ひ出 偲ぶも良きかな |
カタンカタンとあの時のように規則正しく揺れる普通車の中。 けれど、あの時と違いいくら外を眺めても、あの二人の姿が見える事は無い。 代わりに見てくれと言わんばかりに煌めく星が見える。
けれども目を瞑ると今でも鮮明に思い出せる。あの二人の姿を。 さて、これを綴り終えたら目を瞑り、あの時のように東へと駆けて行く二人の姿を思い出しながら旅を続ける事としよう。 あの時の思い出と共に。
帽子の飾りを見ていては、ふと思い出した昔話。 此処に記しておくとしよう。
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髑 急,阪宮 急,阪宮 髑 2017年04月20日 (木) 19時48分(88) |