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[405] Strange Encounter(前編)
KAEDE - 2007年05月19日 (土) 04時41分

『きっとまた逢える。うーがそれを望むのなら・・・』
 そう言い残してるーこは消えた。いや、自分の居るべき場所へ帰ったのだ。共に過ごした時間はそう長くはなかったけれど、それでも俺はるーこが好きだった。あのお姫様気質でわがままなるーこのことを地球上で一番理解できていたのは俺だっただろうと自負できる。
『この星で・・・たった一人のるーの友達だ』
 るーこはそう言ったんだ。この地球で彼女を・・・るーこを守れるのは俺だけだったんだ。当時はそれが誇らしかった。だが今はどうだろう。るーこが目の前からいなくなってしまった、ただそれだけでもうどうすればいいのかわからなかった。あの短期間でるーこの存在がこんなにも大きくなっているなんて自分でもわからなかった。居なくなって初めて気づいた。あの時、意地でもるーこを止めればよかったんだ。そう・・・あの時るーこを手放すべきではなかったんだ・・・・・・。

『タカちゃん? どうしたの?』
 その声を聞いてハッとなる。心配そうに俺の顔を覗き込んでいるこの女性はミステリ研究会会長「笹森花梨」である。彼女との関係は・・・やはり会長と部員なのであろう。なんだかんだで大学生になった今でも一緒につるんでいる。
『大丈夫? さっきから上の空だよ?』
 花梨は自分の大好物であろうタマゴサンドをほおばりながら俺に視線を向けてくる。リスのように頬に食べ物をチャージしたまま見つめられてもあまり心配されている気がしないのは俺だけではないだろう。だがこんな様子でも心配されているのは確かなのでとりあえず3年前の回想シーンを断ち切ることにした。
『ちょっと考え事をしていただけだよ』
『考え事? ミステリ研を世界に広めるための大計画のことかなぁ? 部活熱心だね、河野貴明会員!』
 随分真面目な顔で口にしているようだ。そんなわけないのに。
『違うの? じゃあ何かな?』
『たいしたことじゃないよ』
『む、タカちゃん。ミステリ研の活動中に部に関係ないことを考えていちゃ部員失格だよ。ミステリ研会長は常に部員の意見を必要としているんだから』
 いつも人の意見なんて無視して勝手に事を進めるじゃないか、と言いたいところだったがグッとこらえておく。
 ところで「ミステリ研」というのは、不本意にもこの笹森花梨によって強制入部を強いられた正式名称「ミステリ研究会」という同好会である。半分詐欺のような形で入部させられたこの同好会だが、高校に居た頃からの付き合いということもあって特に居心地が悪い気はしなかった。もちろん、言うまでもなく大学にまで来てミステリ研に所属しているのは花梨の強制行使があってこそなのだが。しかし、そんなものだから相変わらず部員が増えることはなく、未だに高校時代と変わらず会長の花梨と正会員の俺の二人だけである。
『うーん、タカちゃんがこんな調子じゃ部活にならないよ。仕方ないなぁ、今日の活動はこれで終了にしまーす』
 そう言って勢いよく花梨は立ち上がり、そのまま俺の手を引っ張ってどこかへ拉致ろうとした・・・のを俺が制止した。
『活動は終わったんだろ? さりげなくどこに連れて行こうっていうんだ』
『ノンノン、勘違いしてもらっちゃ困るなぁ。連れて行くのはタカちゃんの方だよ』
 どういうことだろう、と俺が首をかしげて考え始める前に花梨は丘の上から叫ぶかのように高らかにその答えを口にした。
『今日はミステリ研正会員、河野貴明君のお宅訪問をしたいと思いまーす!』
 活動は終了したんじゃなかったのかよ! いや、俺としては帰宅するだけなんだが・・・なんで花梨を連れて行かなければならないんだ。
『違うよタカちゃん。これはミステリ研の活動じゃないんよ』
 またしてもどういうことだろう。花梨の発言が意味不明なのは毎度のことなのだが、今回ばかりはどことなく予想ができた気がしないでもなく少しばかり嫌な予感が頭をよぎった。
『まさかとは思うけど・・・笹森さん・・・・・・』
『うん、私が個人的にタカちゃんの家に行きたいだけなんよ』
 照れくさそうに顔を赤らめる花梨。そんな彼女の表情を見ているとなんだか自分まで照れくさくなって自然と視線を逸らしてしまう。花梨とはミステリ研としての関係以外何もないはずなのに何故か胸の鼓動が高鳴っていた。考えてみれば花梨とはもう3年以上もの付き合いになるのだ。偶然なのかなんなのか、たまたま受けた大学が一緒で学部まで同じだった。そのせいで俺の後を追いかけて同じ大学に一年遅れで入学した幼馴染の柚原このみと一緒に居る時間より長いくらいである。だが花梨と一緒に過ごすのはあくまで学校に居る間の時間だけであり、外に出てしまえばまったく会うこともないのだ。高校の頃は休日も部活に駆り出されたものだが、大学に入って少しは落ち着いたのか休日に呼び出しがかかってくることはなくなった。
 それに、最近の花梨を見ていると何故か妙に嬉しそうなのだ。高校時代はいろいろとやらかしていた花梨だったが、さすがに19歳になって多少なりおしとやかにはなったのだろう、随分魅力的な女性になったと思う。高校時代は二つに結わえていた髪も今ではまっすぐ下ろしてしまい、どこか大人っぽい雰囲気がにじみ出ている。以前はそんなことを考えている様子もなかったのに、この頃は見た目にも随分気を遣っているように見えるのだ。学校で授業を受けるのに何をそんなに着飾る必要があるというのだろう。

 なんだかんだで結局ついてきてしまった花梨を無理矢理追い返すわけにもいかず、仕方なく彼女と一緒に帰宅することになった。などとのんきに考えていたのだがどうやら花梨は寝泊りするつもりだったらしく、やたらと大きなリュックサックを背中に背負っている。まるでこれから雪山の登山にでも赴くかのような荷物の量である。さぞかし重いことだろうと花梨の荷物を持ってやろうとしたら「乙女の聖域に汚れた手で触っちゃダメだよタカちゃん!」と焦った様子で思い切り拒否られてしまった。あの大きなリュックの中には一体何が入っているのだろう・・・。
『タカちゃん家に行くの・・・あの日以来だよね』
 赤く染まる夕日を見つめたまま花梨は静かにつぶやいた。
 あの日・・・それは3年前、るーこのお別れ会をした日のことである。
 自ら宇宙人と名乗るどこか電波の入った少女「るーこ・きれいなそら」は何かの不幸な事態が重なって地球に落ちてきてしまい、「るーの掟」だかというものを破ってしまったせいで自分の住んでいた星に帰れなくなってしまったのだ。これだけでもう全然信じられないような話なのだが、るーこと過ごしているうちにいつの間にかすべてを受け入れてしまっている自分がいて、そんな宇宙人の少女と少しだけ・・・共に過ごしていたことがあった。
 笹森花梨がるーことどんな関係にあるのか、というと実は単に興味本位で近づいてきた程度なのである。自らミステリ研究会を立ち上げ、不思議な出来事には絶えず目を輝かせ続ける花梨のことだ、「宇宙人が現れた」なんて聞いたら居ても立ってもいられなかったのだろう。当時の花梨は望遠鏡を抱えて瞳を爛々と輝かせて俺に近づいてきた。用件は言うまでもなくるーこの不思議についてであった。そんなことを訊ねられても、事の中心のるーこ本人が「るーの力だ」などとわけのわからない説明しかしてくれないので、もちろん俺にはまったくと言っていいほど説明することは出来なかった。そこで花梨は自らの手で解明してやろうと・・・まぁ、いろいろとあったわけだ。
 そんなある日、るーこがA・Iの停止してしまったメイドロボのように生気を失ってしまったことがあった。原因は自分の星に帰れなくなってしまったからである。こんな電波な少女でもやはり故郷は愛おしいのだろう。こんな若いうちから自分の故郷を捨ててまったく知らない未開の地で一人で生きていけ、なんて言われたらとてもじゃないが成し遂げられることではない。それに、るーこは不幸な事故によって地球に落ちてしまっただけなのだ。大人びているように見えてもやはり寂しいのだ。俺はそんなるーこを見ていられなかった。なんとしてでもるーこを故郷に帰してやる、その時俺は強く決意していたのだ。
 そんな時、救いの手を差し伸べてくれたのがこの笹森花梨なのである。もしかしたら宇宙にメッセージが届くかもしれない、花梨はそんな話を俺に持ちかけてきたのだ。普段から花梨にはミステリだのなんだのと称して妙な実験やUFOの呼び出しなどに協力させられてきた。そのせいで今回もとても信じられるような話ではなかったのだが、この時ばかりは藁にでもすがりたい思いだった。気づけば俺は花梨と共に夜の校庭に忍び込んで必死に宇宙へとメッセージを送ろうとしていたのである。こんなことをして本当に宇宙にメッセージが届くのか? いつものように成功するはずのないことをダメモトでやらされているだけじゃないのか? などと思うこともあったが、るーこの寂しそうな表情が頭から離れることはなく、それを思い出すだけで締め付けられるかのように胸が苦しくなった。るーこのために俺が出来ることはコレくらいしかないんだ、ならそれを必死にやっていたっていいじゃないか。そんな想いで俺と花梨は毎晩それを続けたのである。
 これはそんな想いが届いたと考えていいのだろうか。ある晩、ラジオを介して宇宙からのメッセージが届いたのである。もっとも、それを理解できたのはるーこだけであったのだが。そのメッセージによると、どうやらるーこを地球まで迎えに来てくれるらしい。これでようやくるーこは自分の故郷へ帰れるのだ。俺はそれが嬉しくもあり、悲しくもあった。るーこが幸せになってくれれば俺は嬉しい、でもるーこと別れるのは辛い・・・。そんなわがままな感情が芽生えていたのだ。しかし、それを止めることは今までの行為をすべて無駄にすることであり、るーこを更に苦しめることになるのは間違いなかった。だから俺は我慢するしかなかった。結局、宇宙からの迎えが来るその日に俺の家にみんなで集まってるーこのお別れ会をしようということになったのだ。そう、るーこのために協力してくれたみんなで・・・。
『タカちゃんってその頃から一人暮らしだったんでしょ? その割には随分と片付いてる綺麗な家だなー、ってビックリしたんよ。ほら、男の子って結構ずぼらなイメージがあるから』
 家のことで褒められたのは初めてだったが、それは俺が受け取るべき言葉ではなかった。実は隣の家に住んでいるこのみがちょくちょく家に上がりこんできて片付けてくれているからいつも綺麗に整えられているのである。「いつも清潔にしてなきゃダメだよ、タカくん」なんて年下のくせにこんな時ばかりお姉さんぶっているこのみがなんだか微笑ましくて、いつの間にかこのみに流されるままに二人で家の掃除をしたりもしていた。最近は花梨に付き合わされてミステリ研の活動をしているおかげで帰宅が遅くなるのだが、家に帰ると当たり前のようにこのみが既に上がりこんでいて(主に俺の私室を)勝手に整理整頓してくれているのである。・・・と、いうよりは単に部屋を漁りまわしているようにしか見えないが。
『あはは、そうなんだ。だよねぇ、タカちゃんがあんなに綺麗に整理整頓しているはずないもんね』
 それはどういう意味だよ、と思わずツッコミたくなったのだがその前に花梨が次のセリフを紡ぎ始めたのでグッとこらえることにした。
『タカちゃん・・・丸くなったよね』
 急に何を言い出すのだろう。昔の俺はそんなにしかめっ面だっただろうか?
『ううん、そうじゃないんよ。ほら、出会ったばかりの頃は「冗談じゃない!」「ふざけるなよ!」とか言って話をあまり聞いてくれなかったじゃない』
『そりゃあ・・・無茶苦茶な話ばかりだったから』
『この世のミステリをすべて解き明かす、それが私の使命なんよ!』
『はいはい』
『だから・・・今回のわがままな私のお願いを受け入れてくれてちょっとビックリしてるんよ』
 言われてみれば確かにそうなのかもしれない。雄二やこのみ、タマ姉がこんなことを言うならまだしも、花梨のようなほいほい家に上げるような関係にない知り合いを連れてくるなんてるーこの時以来だ。るーこの場合は仕方なく家に連れてくる流れになったのだが・・・。
『るーこさんかぁ。いい子だったよね』
『そう・・・だな』
『タカちゃん・・・やっぱりまだ引きずってる?』
 引きずる・・・か。確かにるーこのことは一瞬たりとも忘れたことがない。いつだってるーこのことを想っていた。「もう会えない」とわかっていても忘れるわけにはいかなかった。それはやっぱりるーこのことを愛していたからなんだ。忘れられるはずがない、るーこの存在はもう俺の心の一部と化してしまったのだから・・・。
『タカちゃん、キツいこと言うかもしれないけどさ・・・るーこさんはもう戻ってこないんだよ? どこか遠くの国に行ったとか・・・そういうのじゃない。るーこさんの話が本当ならもう彼女はこの地球にはいないんよ? だから・・・』
『わかってる。わかってはいるんだ・・・』
『ならそろそろ決別しなきゃ・・・。もう3年も経ったんよ?』
 そんなことを言われても困る。どうしようもないことはわかっていたんだ。でも・・・それでも認めたくなかったんだ。あの春休みの日のように・・・実は冗談だった、とか言ってるーこが戻ってきてくれる気がしたから・・・。「きっとまた逢える」 るーこがそう言ったとおり、また逢えると信じていたから・・・・・・。
『でも私はそんなタカちゃんを見てられないんよ・・・。いつもどこか上の空で・・・。たまに天体観測に誘うとすごく一生懸命に宇宙を眺めてるけど・・・ホントは違うんよね。星なんか見てない、るーこさんを探してるようにしか見えなかったもん・・・』
 図星だった。何も言い返せなかった。花梨の言ってることに間違いがなかったからだ。まいったな・・・この分だとこのみやタマ姉にもバレていそうだ。
『ね、タカちゃん・・・。私たち、もう大学二年生だよ? 学生時代も残りわずかなんよ? 私と一緒にいられるのもあと二年しかないんよ・・・?』
『笹森さん・・・?』
『私・・・怖いんよ。こうして今は一緒にいられるけれど・・・それがいつまで続けられるんだろう、って。いつかはタカちゃんと別れなくちゃいけないのかな、って思うと胸が苦しくなるの・・・・・・』
 花梨は躊躇うようにそこで口を閉ざした。気まずい沈黙が流れる。彼女が何を言おうとしているのか・・・なんとなくわかってしまった。でも、それに対する答えが見つからない。勘違いであってほしい、そんなことを考えている自分に少しだけ嫌気が差していた。
『タカちゃんの心の中にはいつもるーこさんがいた。だからずっと言わずに我慢してきたけれど・・・もう無理だよ。このままじゃ私・・・自分に押しつぶされてしまいそう・・・・・・』
『笹森さん・・・。でも・・・俺は・・・・・・』
『ごめん、タカちゃん。でも、もうダメなの。私我慢できない・・・。遠まわしにお宅訪問なんて言っちゃったけど、ホントはただ一言伝えたかっただけなんよ』
 今までそんなこと考えたこともなかった。ただ俺のことはミステリ研の部員としか見ていないのだと思っていた・・・。そもそも、俺がそういう対象で花梨を見たことがなかった。ただの会長と部員としての関係としか考えたことがなかったんだ。
『私、タカちゃんのことが好き。高校生の頃からずっと好きだったの・・・』
 よく考えてみればそうであっても不思議ではなかったんだ。受験の時期になると花梨は何かと俺の受験勉強に付き合ってくれたりしていた。それはもしかすると俺と同じ大学を狙っていたからなのかもしれない。俺は偶然だと思っていたけれど、思い出してみれば花梨は俺が同じ大学を受けていたことを最初から知っていたような素振りだった。入学式の日も真っ先に駆け寄ってきたのが花梨だった。「また一緒になったね、タカちゃん」と明るい笑顔で迎えてくれたんだ。
『返事は強要しないよ。聞かなかったことにしてくれてもいい・・・。ただ、知っていてほしかっただけだから』
 そのまま花梨はゆっくりと立ち止まってしまった。俺の答え次第でそのまま進むべき道が決定してしまうのだろう。俺がここで花梨を受け入れなかった場合は・・・そのまま方向転換して帰ってしまうに違いない。
 そう思った瞬間に急に胸が張り裂けそうになった。もし俺が花梨の告白を受け入れなかったらもう彼女と一緒にいることはできなくなってしまうのだろうか。いつものようにミステリ研で騒ぐこともできなくなってしまうのだろうか。
 ミステリ研・・・それはもう俺の生活の一部だと言ってもいい。花梨が部室で待っている、そう思うだけで毎日が楽しかったんだ。二股と言ってしまえば何も言い返せなくなる。でも、心の奥底では花梨のことが好きだったのかもしれない。いや・・・好きだったんだ。
 あの時・・・もしかしたらるーこを引き止められたかもしれないのに俺は何もできなかった。そうしてるーこを失ってしまった。そして今、俺は選択を迫られている。俺はまたあの時と同じ過ちを犯しまうのか? 目の前に・・・手を伸ばせば届く距離に愛しい人がいるというのに。もう、大切な人を目の前で失うのは耐えられない・・・。二度と同じ過ちは犯したくない・・・・・・。
『ごめん・・・。ごめんね、タカちゃん・・・・・・』
 そう言って花梨が進行方向を転換しようとする。そのまま反対方向へ歩き出そうとした花梨の腕を俺はしっかりと握り締めていた。もう誰も失いたくない。ここで彼女を・・・花梨を失いたくなかった。
『タカちゃん・・・?』
『笹森さ・・・いや、花梨。俺も・・・俺も花梨のことが・・・・・・』
『あ、タカくん! ここにいたんだ!』
 その声に心臓が飛び出そうになった。俺は慌てて花梨の手を離し、後ろを振り返った。そこにいたのは見間違うはずもない、隣の家に住む幼馴染の柚原このみだった。このみは息を切らした様子でとても疲れた顔をしていた。もしかして俺のことを探し回っていたのだろうか? しかしまた何故? 用があるなら携帯にでも連絡を入れればいいだろうに・・・。
『はぁ、はぁ。あ、あの・・・ね・・・っ。タ・・・タカ・・・く・・・ん・・・・・・』
『ま、待て。少し落ち着けこのみ。何を言ってるか聞き取れないぞ』
『う、うん』
 このみは軽くその場にしゃがみ込み、大きく深呼吸をした。ほんの数秒の動作だったか、それでもだいぶ落ち着いたらしくすぐに立ち上がって口を開いた。
『あ、あのね! るーこさんが・・・るーこさんがいたの!』
 さすがに耳を疑ったね。このみは昔から嘘を吐くのがヘタクソだがさすがにここまで来ると少し腹が立つ。冗談を言うならもう少しマシなものにしてほしい。
『違うよ! 嘘じゃないんだよ! 確かに見たんだよ、あの後姿・・・見間違えるはずないもん! ユウくんもタマお姉ちゃんも一緒に見たんだもん!』
 雄二だけなら微妙なところだが、タマ姉も一緒に見たとなるとさすがに嘘だと断言できなくなる。そういえばエイプリルフールの時はこの三人にるーこを含めた四人で俺を騙していたわけだが・・・。そんなことは今はどうでもよかった。
『いいから一緒に来て! まだ遠くには行ってないはずだよ!』
『わかった! ・・・あ』
 不意に後ろを振り返ると花梨が笑顔で俺たちのやり取りを眺めていた。
『あ、あれ? 笹森先輩・・・?』
『久しぶりだね、このみちゃん』
『・・・あっ。ご、ごめんなさい! も、もしかして私とんでもないところに・・・』
『ううん、いいんよ。気にしないで』
 そんなことを言われると余計に気になってしまうだろう。しかし、さすがに何があったのかをこのみに説明するわけにもいかず・・・かといってこのままこのみについていっていいものだろうかと躊躇った。
『なーにボサっとしてるの! 早く行ってあげなよ、タカちゃん』
 曇りのない笑顔で俺の背中を強く叩く花梨。まるで今さっきの告白の話なんてまったくなかったかのような様子である。
『ずっと想ってきた最愛の人なんでしょ? ならなおさら行ってあげなきゃ! ここで行かなきゃミステリ研正会員失格だよ!』
 なんだかまったく関係のないことを言い始めた気もするが、ここはそんな花梨に感謝してこのみについていくことにした。いくらこのみでもこんな性質の悪い嘘は吐かないだろう・・・。俺はそう信じて走り出した。
 この時、もう一度俺は後ろを振り返っておくべきだったのだろう。このみに手を引かれるままに走り出した俺は気がつくことができなかった。

 河原に一人佇んで涙を流している花梨の姿に――――

[406]
フォル - 2007年05月19日 (土) 11時59分

いやぁもうこれ読んだら花梨にイヤッハ〜になりそうな今日この頃(?
結構いいんじゃないかなこれw
まぁ告白のシーンは特に、ね…w
ま、後半どんな感じになるか気になるところでありますよ隊長〜(何



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