[210]W企画ノベライズエピソード 第2話「Aの捕物帳/愛こそすべて」H - 投稿者:matthew
「はぁあっ!」 抜刀したブレードムラサメを構え、サベルがアシッド・ドーパントへと走り寄る。しかしデュアルははっとしてその背中に声を投げた。そう、今のアシッド・ドーパントは前のものとは違う。本来の能力を取り戻した敵の発する酸の強さは以前の比ではないのだ。 「ダメだ、奴に接近戦は効かねぇ! 刀でも触れたら……!」 先ほどの自分が負った傷を思い出し、叫ぶデュアル。しかしサベルはそれでも迷わなかった。悠然と立つアシッド・ドーパントの胸に――思い切り刀を振り下ろす! 「そっちも忘れるなよ、でやぁっ!」 「ギャアッ!?」 ――切れた。刀身には異常もない。ブレードメモリに秘められた刀剣の記憶を極限まで引き出したその切れ味は、一切の疑いの余地すら抱かせないものだったのだ。 「僕たちに、切れないものはないってことをさッ!」 「グッ!?」 返す刀もアシッド・ドーパントを後退させ、思わぬ恐怖で先ほどまでの自信を根こそぎ奪い取る。サベルはそのまま押し切るような連続攻撃を繰り出していった。 「はぁっ、ふん……でぇやっ!」 「アァッ! バ、バカな……私の体に傷を、グッ!?」 酸を膜のように身に纏っての防御もまるで通用しない。いや、その酸の膜をも敵は切り裂いて肉体に刃を届かせているのだ。予想以上の敵の戦力にアシッドの脳裏に戦慄が走る。 ――このままでは計画どころの問題ではない。遂行前に自分がやられてしまうのがオチだ。そんなことは絶対に出来ない。この身に代えても目的だけは果たさなくてはならないのだ。あれだけ苦労して、ようやく戻ってきたメモリの力を無駄にするわけにはいかないのだから。 「クァアッ! ヌ……ク、こうなったらッ!!」 体を切り裂かれながらも、アシッドは残った力を右手に集中させてひときわ強烈な酸の塊を作っていく。そして渾身の一撃がその胴を捉え、体が吹き飛ばされていく一瞬を――アシッドは捨て身の好機に変えた。 「今だ、ハァアアアッ!!」 錐揉み回転しながら飛んでいく中で空に向けた右手から、巨大な酸の塊を天空に放つ。塊は一瞬で天高くへと飛翔し、空中で無数の雫へと分裂した。そう――強烈な“酸性雨”だ。 「わわっ、探偵さん!」 デュアルの右目が慌てて点滅する。肉を切らせて骨を断つ、というやつか――目的を達成しようとする執念に、デュアルと同化したみぎりは戦慄した。倒れこみながらアシッドはそれでも歓喜と確信に満ちた高笑いをあげた。 「アハハハッ、もう遅い! これで何もかも終わりよ――!!」
しかし、そこに響いたのは冷静な雨の声であった。 「いや……残念ながら全て予測済みだよ」 『フリーズ!』『クレイモア!』 刀を手放したサベルが、2本のメモリを起動させてドライバーに挿入して展開する。するとその左右の半身は、水色と金に区切られたものへと変化し――背中に大剣が出現した。 クレイモアクラッシャー――その柄に右手をかけたサベルが渾身の力で体をひねる。大剣を扱うために特化した豪腕が唸るかのように空を切り、体ごと回転させながら抜き放った斬撃は冷気を帯びた剣風の竜巻を生み出した。 「ぅうおおおおおおおッ!!」 「な――ッ!?」 突風のように襲い掛かる冷気が、空で分裂した雫を一瞬で凍結させる。無論それだけではない。地上にいたアシッドの体をも冷気の奔流は巻き込んで、氷結させていったのだ!
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2010年08月18日 (水) 14時22分 )
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