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[128]Masker's ABC file.01-6 - 投稿者:壱伏 充

 語るべき事を語り終えて、篠原はソファに座り込んだ。
 下手な研究発表よりも緊張した瞬間を過ぎ、今も精神的には針のむしろだが、心はどこか清々しかった。
 偽らないとは、こういうことか。
 後は審判を待つだけだ。
 またしばしの時が過ぎ――最初に口を開いたのは明菜だった。
「私は……実を言うと、薄々何かおかしいな、とは思ってました。
 父が本当の父じゃないんじゃないかって。妹が一人いるんですけど――先生には一度話しましたよね――妹に比べて、私に対する態度がよそよそしい時もあって。
 昭彦さ……あのヒトとの結婚もあっさり許してくれて。母や妹に比べて関心が薄いっていうか。
 もちろん、色々不自由せずに済んだことは感謝してるんですけど……だから先生からお話を聞かされたときには、正直ビックリしたんですけど、ああそうだったんだって」
 戸惑いを口にしながらも、明菜の表情はどこかさっぱりしていた。

 渡良瀬が埃を払いながら体を起こすと、四体の即応外甲がのた打ち回っては派手に壁や仲間の体にぶつかっていた。
 そのうちの一人が嶋田の足に当たり、踏みつけられる。渡良瀬は肩をすくめた。
「一匹でかいのが生き残った、か」
「目と耳塞いで口開けて、姿勢は低く。ちょうど本に載ってたんでな」
 嶋田は言って周囲を見回した。
「スタングレネード。光と音で制圧する非致死性兵器、だったか。えげつないマネしてくれるじゃねぇか」
「そんな褒めんな、照れるぜ」
「だが解せねぇ。最初から使えばもっと楽だろ?」
「そりゃあーた」
 渡良瀬は方目を瞑る。
「効かないだろ、ベストコンディションのところを潰さないと。お前らは一人のオジサンに完全敗北したんですってな」
「じゃあチームのアタマとして、負けるわけにゃ行かんなァ」
 嶋田は歯をむき出しにすると、自分のバックルを巻いた。中央のボタンを押し込むと、バックルから再生された強化スーツが放射され、体を覆い隠していく。
 丸みのある赤褐色の装甲と、短くてほとんどヘルメットに埋没したアンテナ。変身を遂げた嶋田の姿は、比較的メジャーな機種だった。
「三友のスカラベか。お前らスカイウォーカーのチームじゃなかったのかよ」
 渡良瀬は機種名を言い当てた。作業用重機として工事現場でよく見かける。
 スカラベは肩を揺らした。
「こいつらを抑えるにゃ、このくらい必要でな」
 そして、床を踏みしめる。スカラベの足元に亀裂が広がった。
「そぉら――行くぜェ!」
「!?」
 スカラベの頭部が渡良瀬に触れんばかりに接近する――渡良瀬の予測を超えるスピードだった。

「納得はしたけど、それでもどうしていいか分からなくって……今日もここに来るかどうするか、最後まで迷いました」
「すまなかった。君や、周りの人間を傷つけるのが怖くてね。いや、自分が悪者になるのが嫌だった……」
 頭を下げる篠原に、しかし明菜は笑いかけた。
「いいんです。先生が奥様を気にかけてらっしゃるのは、知っていましたから」
「そう……なの?」
 眞由美が聞き返す。明菜は頷いた。
「ええ。いつも苦労をかけているけど、おわびに何をプレゼントしたらいいか、だなんて」
「いや、えっと。その話題はまたいつかね?」
 別の意味で居たたまれなくなって、篠原は明菜の話を遮った。

 コートの男が銃を向ける。噴き出した塗料を腕で払い、スカラベは男の蹴りを受け止め、首に手をかけて壁に叩きつけた。
「ぐぁ……ッチィ!」
「無駄だ!」
 銃を向ける男の腕を掴み、壁に打ち付ける。男はたまらず銃を取り落とした。スカラベは男の表情を覗き込み、仮面の奥でにやりと笑った。
「アテが外れたなぁ。スカラベだからって、鈍足たぁ限らないんだぜ?」
 通常スカラベは、パワーと頑丈さが売りで、機動性は低いものと認識されているが、嶋田は市販パーツで速力を上げて弱点を補ったのだ。
「くそ……そういうとこばっか頭回んのな……っあああ!?」
 もがく男をさらに強く壁に押し付ける。スカラベのパワーなら簡単に潰せるだろう。
「形勢逆転だな。言えよオッサン。本当の目的は何だ?」
 スカラベは仮面の奥で笑みを崩すことなく問うた。
 塗料にスタングレネード。用意はいいが、たったそれだけの装備で自分たちに挑むからには、それなりの裏があるはずだ。
 男が苦しげに聞き返してくる。
「本当の……目的だ?」
「トボけても無駄だぜ。スカラベの馬力は落としてねぇ。テメーなんざ5秒でミンチだ」
「本当の目的ね……っぐう!」
 余裕を崩さない男を、締め上げて脅しつける。スカラベは容赦するつもりなど無い。
「言えよ。誰かに頼まれたのか? 恨みでもあったのか? 言わないんならそれでも構わないぜ?」
「ほ……」
 男が何か、声を漏らす。言う気になったか。
「ほ? ほ、がどうした?」
 重ねて問うスカラベ。男の右手と喉笛に掛けた手に目をやって、男は不意に――凄みのある笑みを浮かべた。
「!」
 スカラベの背に冷たいものが走る。男は静かに言った。
「骨、軋んでんだよタコ助。分かんねェかコラ」

「でも、どうしたらいいか分からなかった私に、探偵さんが言ってくれたんです。その、さっき会ったんですけど」
 明菜は篠原夫妻に向かって、その探偵のマネをしてみた。
「『そんな難しく考えるこたぁねーよ。どっちの夫婦も仲良くやってて平和なんだからよ。
二人一組だった優しい父ちゃん母ちゃんが、四人二組に増えた。そんだけだろ?』……って。
 誇れる親が増えたなら、気にせず胸を張っていればいい。そうしたら悩むことなんかない……そう教えてもらいました。
 私の父は、やっぱり私の父なんですけど……先生のお父さんがいても、いいかなって」

「――テメェらにゃ分からねぇだろ。仮面被って、殴る痛みも殴られる痛みも目ぇ逸らして。極薄人工筋肉の手袋越しじゃ、自分のしたことなんか分かりゃしねーんだ。
 そのクセ何か? 変身しなきゃ男も満足にボコれねぇ、女も満足にコマせねぇ。恥ずかしい生き物だなぁオイ」
 渡良瀬は言葉を紡ぎつつ、タイミングを待った。
「言ったはずだぜ。俺は――テメェらみたいな“ライダー様”が大っ嫌いなだけさァ!」
「ほぉう……言いたいこたぁそれだけか!」
 激昂したスカラベが、渡良瀬の喉に掛けた力を強める。
(そら来たか――――!)
 そう――このタイミングを待っていたのだ。痛みと苦しみを堪え、渡良瀬は全身の筋肉に指令を発する。
「うぬ……がああアアッ!」
 スカラベの腕力に体を預け、渡良瀬の足がスカラベの体を駆け上がる。
 そして長い脚の先、安全靴に覆われた爪先がスカラベの顎を捉え――
「――っっ、どりゃあああああああっ!!」
「!!??」
 一気に直上へと、蹴り上げた!

 眞由美がポツリと呟いた。
「そういうこと、ね。分かったわ明菜さん」
「お前……」
 篠原が意外そうな目で見ると、眞由美が顔を背ける。
「私はただ、あなたが浮気していないか心配だっただけよ。子供に会うなとは言ってないわ。
 それを私に言わなかった事は、怒ってますけどねっ。
 それに、ここで何だかんだ言った所で私が悪者じゃないですか。……あなたが愛してくれているのは私でしょ?」
 篠原は素直に詫びて首を垂れた。
「ああ、もちろんだ……すまないな。私はお前の事を裏切って」
「あら。バカな事を言うものじゃないわ。あなた、いつ私を裏切ったって言うの?」
 あっさりと言い放つと、眞由美は明菜に微笑みかけた。
「また、遊びにいらしてね。私はいつでも歓迎するから」
「……はいっ」
 明菜がはっきりと頷く。
 こうして、親子としての初めての対面は、つつがなく終わりを告げた。

 即応外甲の頭部装甲は、大抵が他のヘルメット類よりも装着者の頭部にフィットしているものである。
 故に、顎に衝撃を受けると首を支店として装着者の頭がシェイクされ、脳震盪を起こす。これが渡良瀬がコボルトの即応外甲を退けた手品の種だ。
「ったく、オッサンオッサン言いやがってからに。俺はまだ30前だっつの」
 渡良瀬はタバコに火をつけて、壁にもたれた。一休みしたらもう一仕事――お礼参りなど出来なくなるくらいの、“仕上げ”作業が待っている。

 一週間後。渡良瀬のもとに一通の手紙が届いた。
 石動家の食卓で読みながら、渡良瀬は便箋をひらひらさせる。
「つーことで、後の事は信頼と実績のあるプロに任せてきたから万事オッケーって寸法よ」
 得意気な渡良瀬に、石動が半眼で睨んだ。
「そりゃ結構だが、お前にしては上手く行き過ぎてないか、今回のことは」
「その辺はアレだよおやっさん、父と娘の絆が生んだ奇跡とか言って片付けときゃ」
「適当だな」

 同封された写真に写っていたのは、いつもの公園で開催中の“発明おじいちゃんの科学手品ショー”だ。

 石動は小さくため息をついた。
「で、その娘の今の両親とはどうなっているんだ」
「知らないよそこまでは。おやっさん、俺ぁね。当事者の自己判断って物を重視してんの」
 渡良瀬が写真を差し出す。石動は一刀両断にした。
「無責任なだけだろう」

 ただし、写っているショーはいつもとは少し趣が違う。

「まあね。誰も子供じゃねぇんだ。だから、上手くやれるんじゃね?」
「そんな心構えで賭けに出るな」
 石動に怒られて、渡良瀬は肩をすくめて写真を指差した。
「終わった事は気にしない。ほら、見てみなって」

 老人の両隣にアシスタントがいて、不慣れながらも老人を手伝っているのだ。
 そう、篠原政重の妻と、娘だ。

「いい笑顔してんじゃねぇか。みんなが笑ってりゃ万事オーライだって」

 イレギュラーな家族関係が、これからの篠原たちの未来に影を落とすのか光のみをもたらすのか、それは誰にも分からない。
 だが、篠原が一歩進み出て、彼の妻と娘がそれに歩み寄った結果としての現在なら、きっと上手くいくだろう。
「…………グッドラック」
 渡良瀬は写真をつまみ上げて呟いた。今日は、酒が美味そうだ。

――――To be continued.

次回予告
file.02“飛べ!空中大決戦”
「アルマ……変身!」

( 2006年04月16日 (日) 02時57分 )

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