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[40]でべとライと プロローグ「静かなる夜」 - 投稿者:イシュ

プロローグ でべとライと静かなる夜


 風の音も、虫の声も聞こえないただひたすら静寂と闇だけが支配する夜。
一瞬、そこに生命は存在しないなどとも思わせる静寂の中、ガサガサと何かが草花に触れる音と共に一つの人影が姿を現す。

「今夜はここら辺で野宿かな…」

リュックを背にし、草を分けながら、暗闇の中でも目立つ巨木の下へとやってくる人影。
その姿は10代前半の小柄な少女であった。
帝都中央スクール中等部の制服に身を包んだ少女は巨木の下を見定めると、そこへリュックを下ろし、草の上へと腰を下ろして座り込む。

「おーい、でべ。……どこ行った?」

リュックからランプを取り出し、それに火を灯しながら、少女は明かりの届いていない暗闇へと声をかける。
その声に呼び返すように、ガサガサと葉が鳴る。

でべでべでべでべ

葉がこすれる音と共に、何やら珍妙な足音が少女の方へ向かって来る。

でべでべでべでべ

足音は少女の方へ向かって来る、小さくて丸みのある物体の物だった。その物体の正体は……。

「にゅ〜」

ペンギンだった。

「ったく…すぐ迷うくせに、私から離れるなっていつも言ってるだろ」

妙な泣き声を発するペンギンの存在に全くの違和感を感じることなく、少女はペンギンの存在を受け入れ、リュックから就寝用の寝袋を取り出す。
しかし、ペンギンが驚かせるのはその存在だけではなかった。

「にゅ〜、ライさんはいつもせっかちでいけないですね〜。少しは海のように広い心を持ったらどうですか〜?あ、その何もない胸じゃ無理でしたね〜」

小さな嘴をパクパク動かしてベラベラと人語を喋りだすペンギン。
しかも、かなりの毒舌家である。

「胸は関係ねぇだろっ!!」
「にゅぎゅ〜〜っ」

しかし、所詮はペンギン。
自らがライと呼ぶ少女のアッパーを前に、あっさりとロケットのように吹き飛ぶ。
過剰気味な彼女の怒り様から、胸にややコンプレックスがある事がうかがえる。


「………」

ランプの明かりを消し、寝袋に潜ってみるものの眠気は一向に来ない。
胸に抱きつく形で幸せそうに眠っているペンギンの存在が苛立たしく思えるほどに。

「……一体、どこまで来たんだろ…」

ふと呟く。

「ま、いっか…」

自分にとって実に意味のないことを考えたと思い、自らに笑みをこぼすライ。

「おやすみ…でべ」

胸にへばりついて眠りに就いているペンギン・でべに一言呟くと、自分も目を閉じる。
どこにいようと、どこを目指していようと、自分が探している答えは一つであることを再認識しながら、彼女は眠りへと落ちる。

そして朝は来た。

( 2004年10月26日 (火) 02時33分 )

- RES -

[41] - 投稿者:イシュ

ちょっと違った趣向で書いてみた近作。
少々キノの旅っぽいですが、それは今回だけです(ホントかよ)
どんどん違うものになっていくことを保障します(んなモンされてもな)

( 2004年10月26日 (火) 02時34分 )





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