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[35]仮面ライダー罪[クライム]  初犯「全ては流されて」第一罪 - 投稿者:エクスチェンジャー

東京都渋谷区
都市部に位置するこの街も8月にもなれば例外なく熱気を生み出し、日々空から突き刺さる熱線が人々を苦しめていた。
とはいえ現代に生きる我々には泣き言を言っている暇などなく、必死に働くより他の道は無いのだった。
そしてここにもそんな社会の荒波にもまれた一人の男がいた。

午前中働き尽くめの人々の憩いの時、ランチタイムが訪れた。
昨今のラーメンブームで東京には軒並み店が立ち並んでいる。
一方で、ブームに取り残されたB級ラーメン店は細々と経営を続けているという現実もある。
しかしその男にとってラーメンの味などさほど重要ではなくただ空腹を黙らせることが出来ればそれでよかった。
ズズズズズ・・・・
男は人気の少ない店に入りカウンター席で400円のラーメンをすすっていた。
店の中には男以外に3人の客がいた。
3人はいずれも大きめのリュックを背負い、テーブルに何かのキャラクターグッズを置き並べ、ラーメンには手もつけずに談話を楽しんでいた。
男は思った。きっとこれがリアルなオタク人種って奴なんだろう、と。
仕事柄このテの連中には関わる事も多いのだが未だに馴染めない。いや馴染むべきなのだろうか。自分にそんな趣味は無いし第一あんな格好で人前に出るなんて愚にもつかないことだ。
そんなことを考えながらスープまで飲み干し、男は財布から50円硬貨を8枚出して勘定しようとした、そのときだった。
ガシャーーン!!
丼が割れた音だった。
振り返って見ると落ちたのはさっきのオタクどものものだった。話の途中に不注意にも落としたのだろう。
店主があわてて駆けつける。そこまでなら男もどうでも良かった。
丼の破片を拾う店主を尻目にオタクの一人がこう言い放った。
「あ〜あ、不味すぎて落としちゃったよ」
店主の動きが止まる。さらにもうひとりが続けた。
「こんな不味い物食べさせて・・それでどうなるってンだよ!」
オタクの足が店主の横腹に入る。蹲る店主に最後の一人が自分の丼の中身を店主に浴びせた。
「気持ち悪いんだよ!ナチュラルの分際でェ!!」
オタク3人は立ち上がり荷物をまとめ始めた。
「くそ〜ムカツクな〜。もっかいアキバにいこっか」
「「異議なし!!」」
妙なポーズをとった後、出口に向かう彼らの前に先刻より事の顛末を眺めていた男が立ちはだかった。
「ンだよ。退いてくれないかな〜おじさん?」
「お前、僕達を怒らせたいらしいな〜」
男は戯言を黙って聞き流していたがついにその腕がオタクの一人の首根っこをつかんだ。
「なにすんのさ〜!」
「暴行罪に侮辱罪、ついでに俺を怒らせた罪」
首をつかまれた彼の顔が曇る。後ろの二人もどうやら気付いたようだ。
男は胸ポケットから黒い手帳を引き出し、少年達の前に突き出した。
「お前たちの言い分を聞くつもりは無い。どう見たって非があったのはそっちのほうだからな。」
彼らは男の高圧的な態度にすっかりおびえた様子だった。と、後ろの二人が突然走り出した。
「お前ら!僕を見殺しにする気か〜〜!」
「こっちを見ろよ」
男は脅しかけるような顔で少年に凄む。
「ご、ごめんなさい・・」
震えながら謝る少年。
「別に署までつれてく気はネェよ。ただ今度年寄りに暴力を働いたり調子こいた真似をすれば・・・どうなるかな?」
「ごめんなさいい!」
男が少年から手を離すと少年は急いで走り逃げた。」
男はポケットからタバコを取り出し一服する。すると何か思い出したように振り向く。
「ここの始末はウチのモンに任せてください。」
男の言葉でも彼の受けたショックは埋められない様だった。居た堪れなさを感じつつも男は背広を右腕に抱え店を出た。
「ゴチソーサン・・・」
人気もなく客も無い、古びた店に起きた小さな悲劇。あの歳にもなってラーメンを作り続ける老いぼれた人生の先輩に敬意を表すように男はそう呟いた。

( 2004年10月13日 (水) 18時35分 )

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