[204]W企画ノベライズエピソード・第2話「Aの捕物帳/愛こそすべて」C - 投稿者:matthew
そして――同時刻。 真っ赤なスーツを来たその男は、携帯を片手に堂々とした表情で声をあげていた。 「ああ、これで仕事は今度こそ終わりさ。お前の言う通り、自分の不始末は自分でつけてやったよ」 「……いちいち自慢げに報告するな。そのくらい当然だろう」 淡々と冷たく突き放す話し相手の態度に、“彼”はムッと眉間にしわを寄せる。仮にも志を同じくする仲間なのだから、もっと優しい言い方をしてもいいのではないかと。 しかし、それは彼の大雑把な性分がそもそもの原因でしかなかった。電話の声はさらに続ける。 「確かに私は誰の望みでも叶えてやるのが信念だ。しかし身内の尻拭いまでしてやるつもりはない」 「身内は例外なのかお前のルールは!?」 「自分の仕事を他人に押し付けるなと言ったはずだ。大体、こんな簡単な仕事が出来ないわけでもないだろう」 彼らの本来請け負う仕事は、決して大掛かりなものではない。今回はたまたまアクシデントがあって事態が混乱しただけのことだった。 二人の見解の相違はつまり、そんなアクシデントを彼らがどう捉えたかの違いに起因している。“彼”は電話の相手のあまりに軽々しい見解に少しだけ腹を立てたが、グッと怒りを飲み込んで言い返した。 「冷たいヤツだな……まあいい。とにかくやってやったからな俺は」 「だから当然だと言っている。いちいち当てつけのような報告をするな」 しかし――抗議も虚しく電話は冷たく途切れる。半ば握り潰すような勢いで携帯を閉じ、“彼”は鼻を鳴らすのだった。 「フン! まあいい……なんにせよこれで全ては元通りだ」 ――いくらか邪魔は入ったが、アクシデントは全て排除した。後はもう、自分には関係のない話だ。 「メモリは元の持ち主に戻った。後は野となれ山となれ……ガハハハハハッ!」 彼の高笑いが何を意味するのか――その時は、まだ誰も知らなかった。
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2010年08月07日 (土) 09時52分 )
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