[202]W企画ノベライズエピソード 第2話「Aの捕物帳/愛こそすべて」A - 投稿者:matthew
「じゃ、これで依頼は完了ってことで」 エーテルを抱えた先斗と零太は、豪邸の玄関先で家主である麻生にそのエーテルをそっと差し出した。優しくそれを受け取った麻生が、心からの笑みで戻ってきたペットを迎える。 「エーテルちゃん……無事でよかった」 「全く、とんでもないお猿さんでしたよ。はしゃぎ過ぎて捕まえるのに一苦労ですもん。なぁ零太さん?」 エーテルがガイアメモリによって怪物と化していたことは、とりあえず伏せておいた。余計な情報を耳に入れて混乱させないための配慮だ。何重にもオブラートに包んで適当な言葉でごまかした先斗が、口裏を合わせるように零太に目配せをする。 が、その返答はむしろ予想の斜め上を行くものだった。そんな物言いがどこか皮肉っぽく聞こえたのか、零太はむっとした表情で先斗に釘を刺したのである。 「そういう言い方はないだろ。むしろ元気なのはいいことじゃないか!」 「え? い、いや……何で怒るのそこで」 「もしエーテルが病気だったらどうするんだよ。そっちのほうが大人しくなってよかったっていうのか? だったら聞き捨てならないぞ!」 「誰もそこまで言ってねぇし!?」 動物への愛情が行き過ぎたのか、零太は随分と先斗の言葉を曲解してしまったらしい。予想外に怒られる格好となった先斗は目を丸くして思わずたじろいで見せた。 「ふふ……本当に動物好きなんですね、探偵さんは」 そんなやり取りを見て、マルコが小さく笑う。淑女――そんな呼び方が相応しいほど、気品のある仕草で。 目の前で理不尽に怒鳴られてしまった先斗が真っ赤な顔で俯く横で、零太も照れたように頬を掻いてそんなマルコの言葉に頷いた。同じ動物好きとして、想いを理解されたことが嬉しかったのである。 「いやぁ……はは、まあそりゃもう」 そしてそんな零太に、さらに喜ばしいお誘いが舞い込む。 「よければもう少しゆっくりしていきませんか? うちの庭にはまだまだたくさん動物がいますから、どうぞご覧になっていってください」 「ホントですか!? そりゃもう是非!」 猿だけではない。猫や犬、鳥、あるいは爬虫類まで。大小さまざまな動物を飼っている小さな動物園といっても過言ではないこの邸宅を隅々まで見て行ける――先斗にとっては天国のような話だ。断る理由などあるはずもなかった。 そんな満面の笑みが、キラーパスのように先斗に襲い掛かる。 「もちろん先斗も一緒に見るよな!?」 「え、俺も!?」 だが――隣の先斗はというと、若干引きつったような表情を浮かべていた。依頼完了の報告を済ませたら長居はせず、さっさと帰るつもりでいたのである。さほど動物に対して興味はないし、零太の動物好きを考えるとこうなる前にさっさと退散したかったのだ。 現に、こちらを見つめている零太の目は異様なほどにきらきらしている。それこそ少年のように純粋な目だ。寒気がするほど今はそれが恐ろしかった。 「お、俺はついていかなくてもよくね?」 「何言ってるんだよ。せっかくのお誘いだぞ? 断ったら失礼じゃないか!」 「え、ぇえええ……?」 やんわり流そうとしても、全力で押し切られる。こうなったらもう逃げ場などあるはずもない。 「……ぅ」 マルコのほうも、乗り気ではない先斗の態度に気を遣っているのか遠慮がちに沈黙している。空気的にどう考えても気まずいことこのうえない。ここではっきりNOと言えるほどの度胸は――残念ながら先斗にはなかった。 「さ、それじゃお言葉に甘えよう! お邪魔します!」 強引に先斗の腕を引っ張って、零太が招かれるままに広大な緑の庭へと足を踏み入れる。先斗は困ったようにため息をついて、心の中でみぎりのことを思い浮かべるのだった。 (……どうせなら、留守番みぎりと代わっときゃよかったな……)
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2010年07月27日 (火) 00時08分 )
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