[201]W企画ノベライズエピソード 第2話「Aの捕物帳/愛こそすべて」@ - 投稿者:matthew
『ハンター、マキシマムドライブ!』 デュアルがドライバーからハンターメモリを引き抜き、ハンターアローのスロットにそれを装填する。つがえた水の矢が眩く青い光を放ち、周囲の水分を取り込んで巨大な水泡を形成した。マキシマムドライブ――ガイアメモリが内包するエネルギーを何倍にも増幅し、攻撃手段に転ずる仮面ライダーの必殺技である。 「ちょっと失礼――とぉっ!」 「どわぁ!?」 目の前に立っていたイグニッションの肩を踏み台に、デュアルが跳躍しながら弓矢を引き絞る。次の瞬間水泡は無数の水の矢へと再び姿を変えた。そして――烈昂の気合と共にデュアルが矢を束ね撃つ! 「よ〜しっ、いっけぇええええええ!!」 「ハンター――ファランクスッ!!」 水の矢が不規則な曲線を描きながらアシッドを包囲するように分裂し、全方位から一斉に襲い掛かる。逃げ場はどこにもなかった。やがて矢は蜂の巣のようにアシッドの肉体を四方八方から撃ち抜き――巻き上がる爆炎の中へとその肉体を誘ったのだった! 「ギャアアアアアアアアアッ!!??」
「っと! よぉし、これでエーテルくんは元通りだな……」 着地したデュアルの腕の中には、爆発に吹き飛ばされた小さな猿が気を失って眠っている。それこそがアシッド・ドーパントの正体――エーテルだ。見事に彼らはドーパントの命を奪うことなく、その能力のみを無力化することに成功したのである。デュアルは安堵したように大きく息を吐いた。 それを見ていたサベルも、安心して肩をすくめる。エーテルが無事だということは、動物好きの零太にとっても非常に喜ばしいことだった。目の前で奪われる命は、人であってもなくても彼には等しい価値――いやむしろ動物のほうが大きいくらいなのだから。 「これで事件は解決、ですね姐さん!」 しかし――そんな零太の言葉に対して、雨の返事は何とも歯切れの悪いものであった。 「いや……それはどうだろうな」 「え、それ……どういう?」 その言葉の意味に彼が気づいたのは、その直後のことであった。エーテルを抱きかかえていたデュアルが、みぎりの声で異変を察したのである。 「あれ? お兄ぃ、メモリが見当たらないよ?」 「何?」 ドーパントを無力化する――それは即ち、ドーパントへと肉体を変容させていた原因であるガイアメモリのみを破壊するということだ。それが成功した場合、メモリは体外へと排出されて粉々に砕け散っているはずである。そして、デュアルは見事にそれを成功させたはずだったのだ。 だが、周囲にはメモリが排出された痕跡がない。砕けた破片も、何一つ見当たらない。みぎりはそれに気づいたのである。 「んなバカな、メモリはどこに――」 そしてその所在は――彼らが思いも寄らなかった場所にあった。
「ふっ、ふははははははははは!! 探し物とはもしかしてこれのことかなぁ!?」 「!?」 ふらつきながらも橋の手すりに寄りかかっていたイグニッションが、高笑いと共に右手をかざす。その中に握られていたのは、緑色のガイアメモリ――そう、エーテルの肉体を変容させていたアシッドメモリだったのだ! 「なっ、いつの間に――!!」 「これで俺の仕事は完了だ……あばよ、仮面ライダー!!」 開いた左手を振り払い、イグニッションが特大の炎を2人の仮面ライダーに向けて放つ。爆ぜた炎は一瞬で彼らを呑み込み――高熱の渦の中へと巻き込んでいった!! 「「うぉわああああああっ!!」」
「――落ち着け! 炎は直撃していない、これは目くらましだ!」 だが、冷静だったのは雨の意識だった。零太と感覚を共有するサベルの肉体にダメージがないことをすぐに見抜いたのだ。その声に我を取り戻したサベルは、凍てつく冷気を再び刀にまとわせて大きくなぎ払う。 「はぁっ!」 炎は、一瞬で掻き消えた。しかしその向こうにはすでにイグニッション・ドーパントの姿はない。雨の読みどおり、逃げるための目くらましに炎は放たれたのである。 「くそっ、逃げられた……!」 悔しげに歯噛みして、サベルが刀を鞘に納める。しかし――その横でエーテルを抱いていたデュアルは、冷ややかに口を開いた。 「ああ。でも、これでひとまずは一件落着なんじゃないか?」 「え?」 「エーテルは取り戻した。俺たちの目的はあくまでもこいつを見つけて連れて行くだけだ。その目的は達成できた、だろ」 エーテルを怪物に変えていたアシッドメモリは、無事にその体の中から排出された。その行方は確かにつかめなくなってしまったが、もうエーテルが怪物となって凶行に走ることはなくなったのだ。その事実は、暗に彼らの受けた依頼内容が達成されたことを示している。何とも歯切れの悪い結末ではあったが、結果的にその部分だけは果たされたのだ。 「どうしてメモリブレイク出来なかったのかは後でゆっくり考えりゃいいだろ。ま、俺たちは運び屋だ。調べるのは俺たちの仕事じゃあないんで、ここらで失礼させてもらうぜ。あ、報酬は後で取りに行くから」 事務的な台詞を並び立てて、デュアルは踵を返した。 彼らにとって、“仮面ライダー”という称号はさほど大事なことではない。ドライではあるが、運び屋としてのルールを曲げてまでそちらの使命に従事するほどの強い思いはないのだ。 それがいささか零太には納得できないところではあったが、かといって彼らの仕事のスタンスに口出しするのも余計なことではある。バツが悪そうにはぁとため息をつくと、いいたかったいくつもの言葉をぐっと飲み込んでサベルも踵を返した。 「まあ、これにて一件落着……でいいんだよね、多分」 しかし――どうしてもその結末、いや、今回の一件の一部始終にまとわりつくような不快感に、どうしても雨は不安を拭い去ることが出来ずにいたのだった。 「さて……それはどうだろうな」
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2010年07月20日 (火) 21時42分 )
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