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[199]W企画ノベライズエピソード 第1話「Aの捕物帳/猿を訪ねて三千里」I - 投稿者:matthew

「そうはいくかぁああああああ!!」
 だがその時、デュアルに向かって高熱の炎弾が声と共に襲い掛かる。とっさにデュアルは弓を盾にして防御の体制を取った。
「うぉわっ!?」
 炎弾自体の威力は決して高くはなかったらしく、砕け散った炎を片手で払って何でもなかったようにデュアルは改めてその声のほうに目を向けた。やや距離を置いて隣に並ぶ向こう側の橋に、両肩に噴出す炎を象ったような新手の怪物の影――ドーパントの姿を認め、右目が少女の声で点滅する。
「それ以上そいつに手出しはさせんぞ、仮面ライダー! とぉっ!」
 新手のドーパント――イグニッション・ドーパントは一足で橋から跳躍すると、アシッドをかばうようにデュアルの前に立ちはだかった。無意味に仰々しい立ち振る舞いが、妙に笑いを誘われるようでデュアルは微妙に肩をすくめた。
「随分凝った登場だな、やる気満々か?」
「俺はいつでも全力投球がモットーだ!」
「うっわ暑苦し〜……お兄ぃ、みぎりんこういうの苦手〜」
「ああ。さっさと片付けて、仕事に戻るぞ」
 不敵に弓を構えなおし、デュアルがイグニッションに向き直る。時間をかければアシッドが回復し、また逃げてしまう可能性もあった。無駄に費やせるほどの時間はどのみちないのだ。事実、肩越しに見えたアシッドがゆっくりでも呼吸を整えているのも分かる。
炎を象ったバイザー越しにイグニッションは邪悪に目を輝かせ、応じるように拳を握り締めた。彼の腰には普通のドーパントには装着されていない鈍色のベルト――ガイアドライバーがある。それはすなわち、彼が特異な存在であることを意味している。そしてその自負が彼に揺るぎない意志を再び滾らせていた。
「ふん、やれるものならやってみろ! 俺はそう簡単にはやられ――ぁっぢゃあ!?」
 が――そんな彼の心をいきなり挫いたのは、何とも不運な一撃であった。体勢を立て直したアシッドが何とイグニッションの背中に酸を浴びせたのだ。もろに不意打ちを食らったイグニッションが、背中から煙を上げてもんどりうつ。
「……ぇ?」
「な、何しやがんだこの猿っ! 俺はお前を助けにだなぁ!?」
「ギギギャアッ!」
「だぁあっちちちちぃ!!」
 イグニッションの訴えはまるで届かず、アシッドはさらにデュアルまでも巻き添えにして酸を乱射する。こうなれば敵も味方もあったものではない。2人は襲い掛かる酸の弾幕にたまらず逃げ惑うばかりだ。もっとも――イグニッションは全く逃げ切れていなかったのだが。
「やべっ、これが獣の本能ってやつかよ!?」
「ちょ、やめろこら俺を盾にするなっちゃちゃちゃあ!!」
「近くにいたお前が悪い!」
「だはぁっ、何その悪役の台詞!?」
 とはいっても、これではアシッドに再び近づけなくなってしまっている。デュアルは再び攻め手を失ってしまったのだ。イグニッションを盾に酸の弾幕を回避しながら、先斗はちっと舌打ちをした。このままではまた逃げられてしまう――!
「くそっ、どうすりゃいいんだ……!」

 しかし、そんな彼の背中を凛とした女の声が後押しした。
「……安心しろ運び屋、攻略法はすでに見えている」
『フリーズ!』
「え?」
 デュアルが声に気づくと同時に、ガイアウィスパーと共に発せられた白い冷気の突風が酸の雨を包み込む。包まれた弾幕は一瞬で凍結して空中でその勢いを弱め――ガラス細工のように地面に墜落して砕け散った。
 そこに立っていたのは、ブレードムラサメを水平に振りぬいたまま静止する、白と銀の半身を併せ持つサベル――フリーズブレードであった。
「間一髪、だな。先斗」
「零太さん? 一体どうやって……」
「酸は液体の一種だ。凍らせてしまえば水と同じで何の脅威にもならない、ということさ」
 サベルの右目が雨の声で応じ、先斗の疑問を解決する。一度相対したことで冷静に弱点を見極めた雨の意識が、サベルに変身した零太の肉体を動かしたのだ。
 一つの肉体に二つの精神が宿る――それこそが彼らの持つ最大の武器。片方が及ばないものをもう片方が補うことで、彼らは比類なき強さを真に発揮することが出来るのである。
「さあ今だよ、さっさと猿を捕まえるんだ!」
「オッケィ、恩に切るぜお2人さん!」
『ハンター、マキシマムドライブ!』
 デュアルがドライバーからハンターメモリを引き抜き、ハンターアローのスロットにそれを装填する。つがえた水の矢が眩く青い光を放ち、周囲の水分を取り込んで巨大な水泡を形成した。マキシマムドライブ――ガイアメモリが内包するエネルギーを何倍にも増幅し、攻撃手段に転ずる仮面ライダーの必殺技である。
「ちょっと失礼――とぉっ!」
「どわぁ!?」
 目の前に立っていたイグニッションの肩を踏み台に、デュアルが跳躍しながら弓矢を引き絞る。次の瞬間水泡は無数の水の矢へと再び姿を変えた。そして――烈昂の気合と共にデュアルが矢を束ね撃つ!
「よ〜しっ、いっけぇええええええ!!」
「ハンター――ファランクスッ!!」
 水の矢が不規則な曲線を描きながらアシッドを包囲するように分裂し、全方位から一斉に襲い掛かる。逃げ場はどこにもなかった。やがて矢は蜂の巣のようにアシッドの肉体を四方八方から撃ち抜き――巻き上がる爆炎の中へとその肉体を誘ったのだった!
「ギャアアアアアアアアアッ!!??」

「っと! よぉし、これでエーテルくんは元通りだな……」
 着地したデュアルの腕の中には、爆発に吹き飛ばされた小さな猿が気を失って眠っている。それこそがアシッド・ドーパントの正体――エーテルだ。見事に彼らはドーパントの命を奪うことなく、その能力のみを無力化することに成功したのである。デュアルは安堵したように大きく息を吐いた。
 それを見ていたサベルも、安心して肩をすくめる。エーテルが無事だということは、動物好きの零太にとっても非常に喜ばしいことだった。目の前で奪われる命は、人であってもなくても彼には等しい価値――いやむしろ動物のほうが大きいくらいなのだから。
「これで事件は解決、ですね姐さん!」
 しかし――そんな零太の言葉に対して、雨の返事は何とも歯切れの悪いものであった。
「いや……それはどうだろうな」
「え、それ……どういう?」
 その言葉の意味に彼が気づいたのは、その直後のことであった。エーテルを抱きかかえていたデュアルが、みぎりの声で異変を察したのである。
「あれ? お兄ぃ、メモリが見当たらないよ?」
「何?」
 ドーパントを無力化する――それは即ち、ドーパントへと肉体を変容させていた原因であるガイアメモリのみを破壊するということだ。それが成功した場合、メモリは体外へと排出されて粉々に砕け散っているはずである。そして、デュアルは見事にそれを成功させたはずだったのだ。
 だが、周囲にはメモリが排出された痕跡がない。砕けた破片も、何一つ見当たらない。みぎりはそれに気づいたのである。
「んなバカな、メモリはどこに――」
 そしてその所在は――彼らが思いも寄らなかった場所にあった。

「ふっ、ふははははははははは!! 探し物とはもしかしてこれのことかなぁ!?」
「!?」
 ふらつきながらも橋の手すりに寄りかかっていたイグニッションが、高笑いと共に右手をかざす。その中に握られていたのは、緑色のガイアメモリ――そう、エーテルの肉体を変容させていたアシッドメモリだったのだ!
「なっ、いつの間に――!!」
「これで俺の仕事は完了だ……あばよ、仮面ライダー!!」
 開いた左手を振り払い、イグニッションが特大の炎を2人の仮面ライダーに向けて放つ。爆ぜた炎は一瞬で彼らを呑み込み――高熱の渦の中へと巻き込んでいった!!
「「うぉわああああああっ!!」」


→To be continued

( 2010年07月11日 (日) 23時53分 )

- RES -

[200]次回予告 - 投稿者:matthew

W企画・ノベライズエピソード!


「本当の適合者は別にいる……」

「俺たち、まんまと嵌められてたってことかよ!?」

「そんなのが、愛情であってたまるか! その罪の連鎖は……ここで断ち切るッ!!」

「「変身!!」」


次回 W企画ノベライズエピソード
第2話「Aの捕物帳/愛こそすべて」

これで決まりだ!

( 2010年07月11日 (日) 23時58分 )





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