[194]W企画ノベライズエピソード 第1話「Aの捕物帳/猿を訪ねて三千里」F - 投稿者:matthew
「あ〜ったく! アンタらが余計な邪魔しなきゃ捕まえられたってのにっ!」 メゾンギャリーに戻った先斗は、エーテルを取り逃がした苛立ちを抑えることが出来ずに声を荒げた。酸のダメージ自体は幸運にも先斗の肉体に降りかかることはなかったが、水中に逃げ込んだエーテル――いや、ドーパントの行方は頑として知れない。この水路に富んだ水都では、次に現れるのがどこであろうといつであろうと、あらゆる可能性が十二分にありえるのだ。それはこの街で生まれ育った先斗だからこそ、なおさらはっきりと熟知している。 「だが、もはやこれはただのペット探しではないな。あの猿がドーパントである以上、何か特別な背景があると見て間違いない」 もっとも、先斗の苛立ちはそれだけが原因というわけではない。勝手にあがり込んできた彼女たち――雨と零太の存在も、である。しかもこれまた図々しいことに、零太に至ってはみぎりとポテトチップスを分け合っている。 「ん〜、これちょっと塩味濃くない?」 「そぉかなぁ? そこがまたおいしいと思うんだけどなぁ〜」 「……お前らもノンビリ食ってんじゃねえっ!!」 すっかり順応している零太の肝の据わりようは、ある意味では尊敬ものだ。律儀にツッコミを入れながら、先斗はガリガリと頭を掻きつつ大きなため息をついた。 雨の言うとおり、もはやこれはただの配達でもペット探しでもない。ドーパントが絡んでいる以上、言ってみれば自分たち“でなければ”どうにもならない事態だ。ただの動物探しだと思って油断していたのが運の尽きだったらしい。と、ポテトチップを頬張りながら零太が呑気に先斗に問いかけた。 「なぁ先斗。これがドーパント絡みの事件だってことは、そっちも知らなかったのか?」 「ああそうだよ。アンタらと同じさ。ガイアメモリのガの字も話には出てこなかった……驚いてるのはこっちもだよ」 「偶然おさるさんがメモリを拾った……とかかな」 同じく呑気に袋をあさっていたみぎりが、ぼんやりと口を開く。今、彼女の脳内では絵本に出てくるようなユーモラスな猿がガイアメモリを手にきょとんとしているイメージが広がっている。タイトルはズバリ『おさるとメモリ』。子供に対してガイアメモリの危険性を訴えるにはちょうどいいストーリーが繰り広げられているのだろう。 だが、現実的にそんなことが果たしてありえるわけがない。雨はその可能性をどうしても肯定する気にはなれなかった。 「まさか。むしろ私は、最悪の可能性を考えているよ」 「最悪の可能性? どういうこったよ?」 あれこれと考えを巡らせた結果、彼女が辿り着いた結論。それは実に単純だが――あまり歓迎は出来ない結論だった。 「麻生マルコは何かを隠している。もしかしたら……メモリのことも彼女は知っているのかもしれない」 「え、嘘でしょ雨姐さん!?」 「オイオイまさかそんな……!」 「だから最悪の可能性なんだ。私も、正直そんな面倒だとは思いたくもない」 仮に雨の推論が正しかったとしたなら、果たしてただエーテルを捕まえて飼い主のところに連れ戻すだけで事態が収束するとは考えにくい。そのガイアメモリと彼女に何の関係性があるのかをはっきりさせる必要があるし、さらにそこから別の事件に発展する可能性も考えられる。ましてやエーテルの行方もつかめない今では、それをどうこう考える猶予すらまともには与えられていないのだ。 とにかく、今は一刻も早くエーテルを見つけなければならないことに変わりはない。それは仮面ライダーとしても、依頼を受けた人間としても、絶対にやり遂げなければならない仕事だ。 「……いずれにせよ、もう乗りかかっちまった船だ。今さら降りられないよな、お互い」 「全くだね。でも、いがみ合ってる場合でもない」 刹那、先斗と零太の視線が交わる。先程は手柄を賭けて戦い合った仲ではあるが、そんなことはもう些細な問題でしかない。共通の目的がはっきりした今は、そこに立ち向かっていくしかないのだ。 と――先斗はそこで、ひとつ手を打つことにした。 「よし、だったらこういうのはどうだ?」 「ん?」 「アンタらの仕事は猿を探すこと。俺たちの依頼は、その猿を飼い主のところに届けること。だったら、アンタらが探した猿を俺たちが届ければいい」 いわば、これはロジックの転換だ。確かに互いの目当ては同じエーテルではあるが、それをどう扱うかに違いがある。そう言い換えればお互いの依頼の邪魔になることはないし、むしろ仕事も早く片付いて一石二鳥、と先斗は踏んだのである。つまり、分かりやすく言うならば―― 「……協力しよう、ってこと?」 「この街は俺の庭だ、アンタらよりは詳しい自信もある。加えてこっちには優秀な相棒がいるからな。情報提供ならおやすいご用だ」 先斗の目配せに、みぎりは無邪気にピースサインで応える。これも自信の表れなのだろう――そしてそれがハッタリではないということを、零太と雨はこれまで二人と関わってきた中で重々承知していた。そうでなければ、まだ若い彼らが二人だけで運び屋の仕事をこなせるわけがないと。 「報酬には口を挟むなよ」 「もちろん。お互い別々で話は来てるんだ、報酬も別々でもらっちまえばいいだろ?」 雨の言葉に、にっと笑って先斗が応える。商談成立、ということだ。雨は零太に向き直ると、こくりと頷いて口を開いた。 「そういうことだ、文句はないな?」 「文句も何も、僕のやることは最初っから決まってるよ」 もっとも、零太にとっては報酬の額の大きさなどどうでもいいことだ。探偵として、動物好きとして、そして仮面ライダーとして――純粋にこのままエーテルを放置しておくつもりはさらさらなかった。彼の中の正義感は、すでに取るべき行動を決めていたのだから。 「エーテルは、必ず助ける。この僕の手で……必ず」 ――こうして、運び屋と探偵の連携による一大捕獲作戦は敢行されることとなった。
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2010年05月25日 (火) 21時36分 )
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