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[193]W企画ノベライズエピソード 第1話「Aの捕物帳/猿を訪ねて三千里」E - 投稿者:matthew

「キャーーッ!! ウホウホウホ、キャッキャーーッ!!」
「あ、な、何だぁ一体?」
「戦ってるのを見て、興奮したのかな……」
 二人のライダーが構えを解き、突然騒ぎ出したエーテルに目を向ける。動物の考えなど人間が分かるわけもないが、野生の動物ならそういうのもあるのかもしれないなと何となくではあるが考えが一致したらしい。しかし、相手は野生ではない。れっきとしたブリーダーによってよく調教された動物なのだ。
 それに気づいた雨が、サベルの右目を点滅させて呼びかけた。
「待てレフト、これは違うぞ……!」
「ウゥゥゥゥゥ……ウギャアォォオオ!!」
 雨の危惧に呼応するかのように、エーテルの瞳が怪しく輝く。すると緑色の眩いオーラを爆発的に撒き散らしながら――その肉体はグロテスクに溶けた液体のような外見の怪物へと変貌を遂げた。
「ふぇえっ!? お、おさるさんがドーパントになっちゃったぁ!?」
 みぎりの声でデュアルが困惑し、怪物になった猿を前にうろたえる。ドーパント――その正体は水都に密かに流通するガイアメモリによって人間が変身した怪物、のはずだ。動物が変身する例など極めて稀である。
「おいおいこりゃどういうことだよ……聞いてないぜこんなの!」
「ウギャギャギャッ!」
 猿から変身を遂げた緑のドーパントが、本来の猿を髣髴させる身軽な動きでデュアルへと飛び掛かる。思わぬ事態に気をとられたデュアルはそれを避けることが出来ず、鋭い爪の一撃をまともに胸に受けて倒れこんだ。
「ぐぅああっ!?」
「先斗!? っ、この……!」
 反応が遅れたサベルがそれでも短刀を構え、素早くドーパントに向けて斬りかかる。しかし本能でそれを察知したドーパントのほうが対応は早かった。振り向いたその口が緑色の毒液を吐き出し、サベルを迎撃する。
「うわっ、とと!」
 とっさにその毒液を短刀で受け止めたサベルではあったが――次の瞬間毒液は白煙をあげながら短刀をドロドロに溶解させていった。
「お、おわぁぁあああ……っ!?」
「これは……酸、か?」
 雨が冷静に毒液の成分を分析し、零太がうろたえながら溶け出す短刀をぼんやりと見つめている。二人のライダーが動きを止めていることを認め、ドーパントは満足げに軽く飛び跳ねながら笑い声をあげて――水の中へと飛び込んでいった。
「ギャッギャギャギャギャ!」
「あ、ぁあっ! 待てこら……ッ!」
 デュアルが気づいて追いかけようとするも時すでに遅く、ドーパントの姿は水の中へと隠れて見えなくなる。やはり彼の爪で切られた胸もうっすらと白煙をあげて――表皮をいくらか溶かされたかのように爛れていた。胸の外部装甲がこうなっていたのだ、生身で食らっていたらただごとでは済まないだろう。改めてデュアルはその威力に戦慄した。
「ったく……毎度毎度、骨が折れるな……!」
 ドーパントの消えた水面に目を向け、呆然とする二人のライダー。
 しかしこの時――サベルの意識下で雨は、密かに考えを巡らせていた。
(たかだか猿1匹に、探偵と運び屋に同時に依頼……いくら動物愛好家でも、少々愛情の度を越してはいないか?)
 彼女のそんな危惧を裏付けるかのように、相手はある程度裏稼業にも精通している先斗と来ている。何かしら裏のある話だと思わないほうが、彼女にとっては不自然だったのだろう。そしてもう一つは――その猿がドーパントである可能性が大きいという点だ。
(それに、猿がガイアメモリを手にするとは……偶然にしてもおかし過ぎる)
 たとえばありえそうな偶然は、広大な邸宅を有する麻生マルコの敷地内にガイアメモリを誰かが落としてしまうという事態。しかしそうだとしても、その誰かが果たしてそんな大富豪の持つ敷地内に簡単に入り込めるものなのか。それが可能だとすれば、やはりその人物もまた何か裏の事情を秘めた悪人である可能性が高い。だがそれならその人物もまた今の段階でメモリを取り戻すべく動きを見せているはずなのだが――
(この依頼……何か、裏があるな)
 半ば勘に近いその疑念は、確信となって雨の思考を支配しようとしていた。

( 2010年05月16日 (日) 21時32分 )

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