[192]W企画ノベライズエピソード 第1話「Aの捕物帳/猿を訪ねて三千里」D - 投稿者:matthew
水都には、実はとある都市伝説が存在する。得体の知れない怪物が呼び起こす奇妙な事件を颯爽と解決するヒーロー――仮面ライダーの存在だ。その正体は彼ら、ドライバーを持つ人間たちである。 そして、この街に存在する仮面ライダーは一人ではない。先斗はそのうちの一人だったが、目の前にいる零太たちもまた――同じく仮面ライダーなのだ。
「!」 「ま、これは個人的な話だけど……いっぺんはっきりさせといても悪くないとは思ってたんだよな。どの仮面ライダーが1番強いのか、ってやつをさ」 デュアルドライバーを腰に押し当てると、自動的に現れたベルトが先斗の意思に応えるかのように展開されて絡みつく。そう、彼らは別段敵同士というわけではないがかといって完全な味方同士でもない。目的が違えば、対立することもそう珍しくはないのだ。 「……なるほど。つまり、負けたほうが引き下がるってことか?」 「そういうこと。別に逃げてもいいぜ、そのお猿さんは俺たちがもらっちゃうけどな」 仮面ライダー同士が争うことに利益はないし、もちろん何か恨みがあるわけでもない。それはお互い十分承知の上だ。しかし勝負を挑まれた側の零太としては――それを拒むわけには行かなかった。 そう、これはもはや仮面ライダーとしてのプライドを賭けた勝負でもあるのだから。 「そういうことなら……なおさら引き下がれないな!」 勝負に応じることを決めた零太が、同じく懐からややデザインの違うサベルドライバーを取り出して装着する。すると隣に立つ雨の腰にも同じサベルドライバーが現れた。雨は太ももに括りつけたケースから小さなガイアメモリを取り出し、同じくガイアメモリを取り出した零太と視線を交わす。 そう、彼ら二人は――“二人で一人の”仮面ライダーなのだ。 「キミたちと私達のどちらが上か、白黒をつけるとしようか」 「よぉし……行こう、雨姐さん!」 『マッハ!』『ブレード!』 雨が手にしたクリアカラーのメモリが叫び、続けて零太の黒いメモリが叫ぶ。呼吸を合わせた二人は、左右対称にメモリを構えて叫んだ! 「「変身!!」」 先にマッハのメモリを雨がサベルドライバーの右スロットに装填すると、メモリはまるで手品のように零太の装着したドライバーに転送される。そして雨の意識もまたメモリと共に零太の肉体へと転送され――零太がブレードのメモリを左スロットに装填し、ドライバーを展開する。 『マッハ!』『ブレード!』 二つのメモリが叫び、刻まれたマークが空間に描かれて同化する。意識を失った雨が倒れこむ隣で、ドライバーが発するエネルギーに包まれながら零太の肉体は黒と銀の左右非対称の肉体を持つ戦士――仮面ライダーサベルへと変身を遂げた! 「そう来なくっちゃな……みぎり、こっちも変身だ!」 『ストライカー!』 応じて笑みを浮かべた先斗が、白いメモリを起動させて誰もいない虚空に呼びかける。その声は彼の腰に装着されたデュアルドライバーを通じて、離れたところにいる彼の“相棒”の意識へと届けられた。
「おっけー! お兄ぃとみぎりんのコンビが無敵ってこと、見せちゃおうよ!」 パソコンに囲まれた密室の回転椅子から飛び出した白髪の少女――みぎりが、派手なデザインのコートを翻して青いメモリをかざす。その腰には、やはりデュアルドライバーが顕現していた。 『ウェイブ!』 二つのドライバーで結ばれた二人の意識に、距離は関係ない。テレパシーのように呼吸を合わせた二人も、また同時に叫ぶ。 「「変身!!」」 みぎりがウェイブのメモリを右スロットに装填し、意識を失ってぱたんと倒れこむ。彼女の意識を連れて先斗の元へと現れたメモリを押し込み、先斗が左スロットにストライカーのメモリを装填してドライバーを展開する。 『ウェイブ!』『ストライカー!』 青と、白の左右非対称の戦士――仮面ライダーデュアルの顕現である!
スラリ、とサベルは腰に挿した刀――ブレードムラサメを正眼に構えた。ブレードメモリはその名の通り、刃を司る記憶を内包したメモリである。その扱いは瞬時にメモリを持つ零太自信の肉体へと反映される。 「一応、峰打ちにはしておくよ。それで恨みっこナシ、でいいだろ?」 「ああ。俺はともかく、みぎりまで傷モノにされちゃたまんないからな」 相対するデュアルには武器はない。その分リーチではややサベルに分があるように思われたが、その不利を先斗は全く不利とは感じていなかった。武器の有無では勝負は決まらないと、これまでの戦いの経験から知っているのだ。 「えへへ〜、やめてよお兄ぃ。そんな言い方照れちゃうよぉ〜」 ――高まる緊張感を無視するように、右目を点滅させたデュアルがみぎりの声で言う。今、彼女の意識は先斗と共にあるのだ。先斗はがくっと肩を落とすと、バツが悪そうに左頬を掻いてみぎりの意識に呼びかけた。 「っ……恥ずかしいのはこっちだ。気が散るから今は喋んな!」 「戦いの最中にのろけるなんて、随分余裕だなッ!」 その隙を突いて、サベルが先手に刀を振り下ろす。しかしデュアルはそれをマフラーを翻して華麗に回避し、反対に蹴りを繰り出した。 「っそら!」 「おっと!」 その蹴りを刀身で受け止め、サベルが弾き返す。その勢いを殺すことなくサベルは続けざまに刀を右左へと薙ぎ払った。 いかに峰打ちといっても、ブレードムラサメの一撃は十分に鋭い。それを知っているからこそデュアルは刃を受け流すのではなく、回避することを選んだ。まるでその動きは、彼がその身に宿すウェイブのメモリが示すように、流れる水の如く変幻自在だ。 「っと、怖い怖い……かわすのがやっとだぜ」 「よく言うよ、一撃も食らってないくせに!」 突き出した刀を腕ごと掴んだデュアルの軽口に、サベルは悔しげに――しかし楽しげに返した。恨みも何もない一見無駄な争いのように見えるが、だからこそ後腐れがないのがかえって気が楽である。まるでスポーツのような感覚で、清々しい気持ちで戦えるからだ。 「こうまで見切られてると、さすがに自信失くすよこっちとしては……スピードなら負けないつもりだったんだけどな」 「へっ。だったら、もっと自信奪ってやろうか?」 そう語るデュアルの右手が、オレンジ色のメモリを手にする。そこに刻まれているのは――稲妻を象ったマーク。 『ライトニング!』 「そらよっ!」 「うぉっと!」 『ライトニング!』『ストライカー!』 サベルを投げ飛ばし、デュアルがウェイブメモリとライトニングメモリを入れ替える。すると青かったデュアルの右半身はオレンジ色に変色し―― 「せぇ……のっ!」 ――一足で走り出したデュアルの、目にも留まらない連続攻撃が閃光の軌跡を残してサベルを打ち据えた! 「うぉわああああっ!!」 「まさに光の速さ……か。音速のマッハだけでは確かに敵わないな」 サベルの右目が点滅し、雨の意識が冷静にデュアルの戦力を分析する。武器を持たない代わりに肉体の機能をバランスよく高めたストライカーのメモリと、稲妻の記憶から来る光のスピードを秘めたライトニングのメモリの組み合わせ――それが生み出す力にどうすれば対抗できるか、戦略を練っているのだ。 そして、その結論には同じく零太も辿り着いていた。ただし、こちらは戦いの経験からだ。 「っ、確かに――マッハだけなら無理でも!」 導き出した答えは、左手に握った赤茶色のメモリ。ブレードのメモリを抜いたサベルは、入れ替わりにそのメモリ――ダガーメモリをドライバーへと挿入した。 『マッハ!』『ダガー!』 サベルの左半身が赤く変色し、右手に握ったブレードムラサメが消滅する。しかし今度はサベルの左手に逆手の短刀――ダガージャマダハルが現れた。それを瞬時に虚空に構えると、まるで吸い寄せられるかのようにデュアルの右拳が衝突する。 「何ッ!?」 「これなら……追いつけるッ!」 返す刀で振り抜いたダガーの一撃は、見事に高速で動き回るデュアルの胴を捉えて火花を巻き上げた! 「ぐあああああっ!」 「さあ、これで勝負は五分五分……かな?」 短刀がくるりと手の中で半回転し、斬られた胴を押さえて動きを止めたデュアルを指し示す。デュアルはそれでも楽しげに、ふんと鼻で息をついた。 「あんまり時間かけてると、お猿さんに逃げられそうだけどな……」 あくまで二人の本来の目的は、エーテルをどちらが捕まえるかというところだ。それを見失っていない冷静な先斗の思考と肝の据わりようには改めて頭が下がる――サベルは改めて短刀を構えなおし、デュアルの言葉に頷いた。 「違いないね。なら、速攻でケリをつけようか?」 「ああ。お互い、そういうのには向いてるみたいだしな」 二人のライダーの今の姿は、双方が発揮できる最高速の形態である。早期決着に向いているのは間違いなかった。両足に力を込め、スタートダッシュに向けてお互いに静かに覚悟を決める。 「行くぜ……レフトさん!」 「おぉっ!」 張り詰めた空気が、一気に弾け飛ぶその刹那――響いたのは甲高いエーテルの鳴き声だった。
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2010年05月16日 (日) 21時02分 )
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