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[156]file.04-6 - 投稿者:壱伏 充

 自分をおいて行くガンドッグを見送り、渡良瀬は肩をすくめた。
「若いっていいねェ。しかしとっつぁんも案外モテるもんだな」
 第三者がいないので誰もツッコミを入れてくれない。渡良瀬は「て、違うだろ」と空しく虚空に手の甲を打ち、ガンドッグに放り投げられたコートを拾った。
 ポンポンと埃をはたきつつまさぐり、携帯電話が壊れていることを思い出す。
 モーターショップ石動に電話をかけて迎えを寄越してもらうことができない。
「……歩くか」
 遊撃機動隊にも何かあったようだが、一民間人である渡良瀬に出る幕はない。
 まず帰る。そして岸田カオリを追う。それが渡良瀬にとっての優先事項だ。

「ふぇくしょ!」
 盛大にくしゃみをしたら、唾が上司にかかった。
「すいませんね、鼻がむずっとしちゃって」
 睨み付けて来る警備部長に言い訳して、東堂は扉の前で途方に暮れた。
 警報が鳴った折には本庁舎に出向いていたため遊撃機動隊舎からは隔壁で締め出されているのだが、それでも外部から開くはずの本人認証システムをパスしてくれない。
「どうなっとるんだね東堂君!」
「私に聞かれても」
 さらっと受け流し、東堂は携帯電話を取り出した。圏外表示だ。
(大規模な情報遮断……昨日のクリーチャーと同じ現象か?)
 部下の報告と考え合わせ、仮定する。だがここで考え込んでいても結論は出ない。
「警備部長はこちらで待機を。私は外から回り込んで見ます」
 ならば足を使って確かめるべきだ。東堂はそう自らの行動を決定し、足手纏いになりそうな警備課長を置いて本庁舎の外へ向かった。

「このっ、このっ、このぉ!」
《キュルッ!?》
 駆けつけた原のガンドッグがマルチライフル・ワイズコーファーから冷却弾を連射する。そのうちいくつかが弾頭ごと直撃し、クリーチャーは背後へ大きく吹き飛んで解析ルームの壁に激突した。
「大丈夫!?」
「ああ……今のうちに退避するんだ!」
 ガンドッグ平針の言葉の後半は、彼が庇っていた第3班員に向けられたものだ。
 白衣の研究員たちは頷いて、原が入ってきた扉から逃げ去っていった。
 それを確かめた平針が向き直る。原は視線をクリーチャーに固定したまま口を開いた。
「何があったの?」
「わからん。急に暴れだして、強化ガラスもこのとおり――危ない!」
 原の問いに答えつつ、平針は警告を発する。とっさに屈んだガンドッグ原の頭上を、長く伸びたクリーチャーの爪が薙いでいった。
《キュルル!》
「こいつ!」
 飛びのいた原が再度銃弾を浴びせるが、クリーチャーは器用にそれを避け、狭い解析ルーム内を跳ね回る。
 そしてコンソールに爪を突き立てて着地すると、自分で大穴を開けたガラスを背に警戒するように室内を見回した。
「ブロゥパルサーも効果はないし、神経ガスが効くような神経があるかどうかも怪しい。その上冷却もダメか」
 ハンドガンを構え平針が呻く。原は頷いて、左腿の警棒を抜いた。
「じゃあ、これね」
「ああ!」
 電磁警棒・スタンスラッパー。二人のガンドッグは同じ得物を手に、クリーチャーに踊りかかった。
『でやぁああああああ!!』
《キュルル……!》
 左右から同時にスタンスラッパーを打ち下ろす。両腕を広げたクリーチャーがこれを受け止め、走り抜ける電撃に怯んだ。
「今だ!」
 そして二人はもう片方の手に握る銃を、がら空きの胴体に向け連射する。
《キュ……!》
 衝撃に圧される形でクリーチャーは自ら開けたガラスの穴からモニタールームへ転がり落ちる。
 だがその瞬間、クリーチャーの腕が伸びてガンドッグ平針の足を鷲掴みにした。
「うぬぁっ!?」
「平針さんっ!」
 そのまま平針はモニタールームに引きずり込まれ、クリーチャーとともに床に落ちた。
 原はモニタールームに飛び込み、なおも平針の足を放さないクリーチャーの腕にブロゥパルサーを向けた。
《キュル!》
 クリーチャーが威嚇するかのように牙を剥き出す。その腕は、まるで何かを吸い取るかのように光を放ち脈打っていた。
「その手を放しなさい!」
《キュルゥ!》
 原は吼えてトリガーを引く。銃弾に腕を叩かれ、クリーチャーは部屋の端まで跳ね退いた。
「すまない、助かっ……!?」
 立ち上がりかけた平針が膝をつく。原はとっさに彼の姿勢を支えた。
「どこかやられた?」
「いや外傷はないが、ガンドッグの足が動かない……プログラムロストだと?」
 ヘルメットの内側に投影された警告メッセージに目を走らせ、平針が呻く。原も仮面の内で頬を引きつらせた。
「こんな時に!」
 即応外甲のベーススーツは装着者の挙動を感知し自ら伸縮することで人間を超人へと変えるパワーを発揮する。
 同時に不慮の衝撃に対しても装着者を守るため、静止しているときは変形を行わない"固まった”状態に近い。
 ゆえに動かなくなった即応外甲はただの重りに留まらず、もはや人型の丈夫な棺桶とすら見なされてしまう。
 無論複雑なメカニズムは常にどこかしら不具合を抱え込むのが宿命であるため、即応外甲もまたよほどのことがない限り問題なく稼動できるようなフェイルセーフ機能を備えている。
 だが駆動プログラム自体が欠損した場合、最も有効な措置は再インストールであり、それを今の二人にできる余裕があるはずもない。
《キュルルルル!》
 一方でクリーチャーは不気味に笑い――その両足を変化させていた。
 ガンドッグの脚の形に。
「何こいつ……自己進化系!?」
 原は息を呑み、平針を庇うようにスタンスラッパーを構えた。

( 2006年06月24日 (土) 20時45分 )

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