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[155]file.04-5 - 投稿者:壱伏 充

 “S.E.T”から始まる独自の事件ファイル。原のPC上にコピーされたそれらこそ、特装機動隊の全活動記録である。
 アルマを始めとする三人の仮面ライダーと彼女たちを支えた一般隊員、そして隊を率いた東堂たちの姿を克明に描いた報告書は、「このままテレビ局に持ち込んだら売れるかも」という関係のない邪念を原に抱かせたりもした。
 だが、第四の仮面ライダー候補だった渡良瀬悟朗は書類上派手な動きを見せていない。
 原は椅子にもたれて伸びをした。
「ん……っ、これだけ探しても決定打はなし、か」
 探せど探せど、もっとも肝心なきっかけが手に入らない。41件のファイルを見る限り、特装機動隊は遊撃機動隊より乏しい設備と装備で充分すぎるほどの戦果を挙げている。
 急転直下解散が前倒しになる要素など感じられない。
「逆に言えば何かあるって全力で主張しているようなもんだけど……んー」
 呟きと同時進行で、原の視線はデータの海を泳ぎまわる。そして何となく接触したフォルダに、ふと目が留まった。
「……ファイルナンバー00?」
 未見の、えらく思わせぶりなタイトル。原は自分の指がそこへ引き寄せられるのを自覚した。
 禁断の木の実に歯を当てる感触。一度覚えたらクセになる味。
 腹がこれまでにない手応えを感じてマウスをクリックしようとした、その時。
 ――サイレンが、鳴り響いた。
「!」
 原は手を止めPCを閉じて、壁に設えられた端末に駆け寄る。
「遊機一班、原です。何かあったの!?」
 とっさに状況を確認すると、端末と繋がった緊急回線から切羽詰った声が返ってきた。
『こちら解析ルーム1、バイオクリーチャーが覚醒し暴走! 待機中の全遊撃機動隊員に救援を要請します!』
「了解!」
 原は通信を切り、ガンバックルを保管するロッカールームへと走った。

 武器を放り出した渡良瀬を前にして、ガンドッグ杁中は奇妙な高揚を覚えていた。
 そうだ――ケンカは自分より弱い奴とやっても面白くない。
 “特装機動隊”最後の幻の仮面ライダー、もしかしたら自分はただそれと戦いたかっただけなのかも知れない。
 そして渡良瀬は手を腰に引き――胸の前で素早く複雑に交差させて印を組み、最後に揃えた両手を前に突き出した!
(来るか!)
 身構えるガンドッグ。渡良瀬はカッと目を見開き、きっぱりと言い放った。
「さァ、どこへなりと連れて行け!」
「……………………は?」
 ガンドッグは思わず間の抜けた声を漏らしながら聞き返し、そして気付く。よく見ればそれは、手錠がかかるのを待つ罪人のポーズだ。
 ガンドッグは仮面の表面を掻き、かける言葉を捜した。
「あー……フザケンナ、ヘボ探偵」
「ハッ、何を言ってんだ! 無駄な抵抗はやめた、おとなしくお縄を頂戴する!」
 渡良瀬は得意げに手を差し出した。妙な自身と気迫に溢れた口ぶりとともに一歩足を踏み出しさえする。
「俺には自分に不利な証言をしない権利と、弁護士を呼ぶ権利がある。さあどうした!」
「ぐ……っ」
 ガンドッグは一声呻いて、仮面の奥で顔をしかめた。
 一応引っ張る理由ならあるのだ。昨日の工事現場に関する事情聴取に、その前の相模 徹誘拐事件の話――相模の証言に基づき少年課と交通課が犯人の動向を追っている――に、渡良瀬は関わっている。
 しかし杁中の目的はあくまで、渡良瀬を典子から引き離すことにある。
 取調べを適当に潜り抜けられて元通り、では意味がないのだ。
(見越してやがる……くそっ)
 忌々しくガンドッグは睨みつけるが、渡良瀬はそ知らぬ顔だ。ガンドッグは吐き捨てた。
「汚ねェぞテメェ、勝負しろ!」
「理由がねェよ」
「テメェになくっても、俺にゃあるんだ!」
 しかし渡良瀬はあっさりと首を振り、口を開いた。
「俺ぁな。お巡りさんがいい感じに治安を守ってくれりゃ、一人一人が何考えて仕事しよーが知ったこっちゃねェ。
 だけどな。お前のやってること。そいつぁ本当に、お前のボスのためになるのか?」
「何……?」
 聞き返されて、ガンドッグは思わず拳を下ろした。
 探偵は打って変わって静かに語りかけてくる。
「テメェがやってんのは、家庭内の新参者に順序教えようとして噛み付くワンコロと同じなんだよ」
「ぐ……」
 痛いところを突かれてガンドッグは怯む。渡良瀬はその肩を気安く叩いてきた。
「テメェのボスの為だったらよ。こんなトコで立場悪くしてんじゃねェよ。俺なんぞに手ェ出してる隙に、ホントに守りたいモン掻っ攫われちまうぞ」
 ――一瞬、その表情が翳るのが見て取れた。
「言いたい放題言いやがってからに」
 ガンドッグは毒気を抜かれて、小さく息を吐いて拳を解いた。反論の余地はない。その代わりに、渡良瀬に指を突きつけた。
「今日のトコは退いてやる。だがな、覚えとけ。今度俺たちの前に現れたら、そん時こそ公務執行妨害で合法的にしょっ引いてやる」
「そんなことにならねェように、ちゃんと上司を見てやれよ。俺ァ無関係なパンピーさんなんだからよ」
 渡良瀬はそれだけ言って、その場からさっさと立ち去ろうとした。
「あ、待て……!」
 それを追ってもう一言ぶつけようとしたガンドッグに、通信が入る。ガンドッグはそちらに意識を切り替えた。
「はい杁中」
『今どこにいるのよ!? 遊機解析ルームのクリーチャーが暴走したわ。直ちに急行!』
 飛び込んできたのは典子からの命令。渡良瀬の言葉が、現実になった――表情が無意識のうちに引き締まる。
「了解っ!」
 ガンドッグは答えて、コートの探偵をわざわざ追い抜かすように土手を駆け上がりIDA-7に飛び乗った。

 ガンバックルと銃を携え、原は解析ルームへと走った。
 本人認証を経て隔壁に設けられた扉をくぐる。
 ――と、足元を何かが追い越していった感触があった。
「?」
 目を向けるが、そこには何もいない。
(気のせい? ってか、気にしてる場合じゃない!)
 やがて原は戦場へとたどり着く。

( 2006年06月22日 (木) 20時45分 )

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