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[154]file.04-4 - 投稿者:壱伏 充

 杁中に連れ出され、渡良瀬が引っ張られてきた場所は、車で数分ほど離れた場所にある川原だった。
「民間人をこんなとこに連れてきて、何のつもりですか」
「つべこべ言うな」
 おちょくるように言う渡良瀬に、杁中は土手を下るよう顎で命じる。
 渡良瀬はしぶしぶそれに従った。杁中も後からついてくる。
「ったく、何だって俺が朝っぱらからこんな目に。マスコミにチクるぞ」
「邪魔の入らねェとこで、じっくり差し向かいになりたくてな。ったく、フザけた看板出しやがって」
 渡良瀬のぼやきに、杁中が吐き捨てる。土手を下り終えて渡良瀬は立ち止まった。
「解せねェな。だから何の用だよ」
 心当たりがないわけではない。だが遊撃機動隊の班員が単独で自分を引っ張り出す理由が読めない。
 渡良瀬がうんざりして問うその横を通り過ぎ、杁中は数歩進んだところで足を止めた。
「どうにもな、おかしいんだよ」
 呟きにも似た杁中の言葉を、渡良瀬は茶化してみた。
「そんな時は、笑えばいいと思うよ」
「意味が違ェよバカ」
 即座に罵倒された。鼻白む渡良瀬に、杁中は言葉を投げつけた。
「うちのボスの様子がおかしくなるんだよ、事件にテメェが絡んでくると。
 昨日だってそうだ。いたんだろテメェ、あの現場に」
「……ま、アリバイの証人はいねェやな」
「だけど、ボスはテメェんとこに聞き込もうって方針を採らない。細きえェ事情は知らねェさ。だがな」
 肩をすくめる渡良瀬を、杁中は仇でも見るような目で睨みつけた。
「そんなテメェが今度は仮面ライダーだってのが気に入らねェ。どうもあの人ぁテメェのせいで切れ味鈍ってんだ――テメェが監獄にでもぶち込まれてくれりゃ、きっとマトモになってくれるんだよ」
 言って杁中は即応外甲の中枢、ガンバックルを取り出し、バンドを引き出した。
 渡良瀬は一歩退き、顔を引きつらせた。
「おいおい……遊機の主力はいつから、猟犬(ガンドッグ)から狂犬(マッドドッグ)になったんだ?」
「ウマいことぬかしてんじゃねェよ」
 渡良瀬の皮肉にも堪えず杁中はガンバックル脇のレバーを引き、即応外甲ガンドッグを装着した。
 仮面で顔を覆い、ガンドッグは両腿の武器を川原に置く。
「嫌そーな顔すんなよな。あんたが俺らの“先輩”だってのはとっくに割れてんだ。こういうケンカはお手の物だろ?
 なァ――渡良瀬巡査長?」
「……“元”巡査長だボケ」
 渡良瀬は心底嫌そうな表情のまま小さく答える。――刹那、ガンドッグの拳が渡良瀬の顔面目掛けて襲い掛かってきた!

 自室に戻った原は、部屋を共有している第二班副班長の久屋がいないことを確認し、専用のノートパソコンを立ち上げた。
 クリーチャーの監視に着く前に警視庁のデータベースに侵入して得たファイルの名は”特装機動隊”。遊撃機動隊の前身であり、2年前に消滅したセクションだ。
 東堂 勇警視を隊長とし、科学班に二階堂量子警部を、実働班長に神谷典子警部補(当時)を置く構成は、遊撃機動隊とほとんど変わりがない。
 実験舞台であるがゆえか、人員自体は少ないが、セプテム・グローイング社と緊密な連携を取り、“仮面ライダー”タイプの即応外甲三機――通称“特装三騎”を保有、職人も派遣されていた。
「…………」
 原は資料を読み直す。
 そこまでは杁中にはすでに伝えたことだ。その職人が、相模 徹であることも。
 そして装着員候補生の中に、渡良瀬悟朗巡査長(当時)の名があることも。
「でも、それだけ?」
 そう、原が引っかかっていたのは、果たしてこれだけで典子の態度の理由が説明できるか、ということだ。
 “特装三騎”――この時代に活躍した特装機動隊の三仮面ライダーの評判は、当時警察学校にいた原も耳にしている。
 そして“四体目”が配備されるという噂も、流れていた記憶がある。
 だが四人目の仮面ライダーが誕生する直前、何らかの事件で仮面ライダーの一体が失われ――慌しく四騎目の投入中止と特装機動隊の解散、遊撃機動隊への再構成、そして渡良瀬の辞職が相次いでいる。
「班長の様子がおかしかったのも、その事件のせいなんだろうけど……」
 パソコンをネットワークから遮断し、原は手当たり次第に引っ張ってきたファイルの解読作業に取り掛かった。

 ガンドッグの拳が空を切る。渡良瀬が軽くステップを踏み、寸前で避けたのだ。
「――ッぶねェな。即応外甲で殴りかかったら道交法違反だぞ?」
「アァ? 何寝ぼけたこと言ってんだ」
 渡良瀬の抗議を切り捨てて、ガンドッグは拳を向けた。
「“ライダー”なんて、どの道ケンカにしか使いでがねェだろうが。分かったらテメェも変身しな」
「……しなかったら?」
「何の証言もできなくしたまま、昨日の黒幕にでもなってもらう」
「ヤクザかよ」
「冗談」
 ガンドッグは鼻で笑い、首を掻っ切る仕草をして見せた。
「迷惑なOBに引導渡しに来てやっただけだ。しかもそいつぁ“仮面ライダーはじめました”とかフザけた看板掲げてやがる。これからも俺たちの目の前にしゃしゃり出てくること確定じゃねェか。
 どーせ叩けばホコリも出る身だろ? だからおとなしく消えてくれよ――邪魔だからよォ!」
 そしてガンドッグが地を蹴り、渡良瀬につかみかかる。
「チ――――!」
 ガンドッグの手がコートにかかる。渡良瀬は屈み込んでコートの袖から腕を抜き、そのままガンドッグの両足の間に頭を飛び込ませた。
「んな……っ!?」
「どっせェェェい!」
 ガンドッグが気付くが対応されるよりも早く、渡良瀬はガンドッグの両足を抱え上げ、ひっくり返した。
 ガンドッグは前転して衝撃を殺し、片手を突いて起き上がり、もう片方の手に持っていたコートを投げ捨てた。
 そのタイミングを狙い、渡良瀬は抜き放ったリボルジェクターのトリガーを引く。
 リキッドシューターモードから放たれた速乾性蛍光塗料は、しかしガンドッグの手の平に遮られた。
「……っ」
 小さくした打ちする渡良瀬。ガンドッグは手から塗膜を剥がして捨てた。
「昨日の現場で手の内を見せすぎたな。現場の作業員が覚えてたぜ? 水鉄砲にかんしゃく玉に電磁ムチだったか。何にしろ、テメェの小細工がいつでもどこでも通じると思ってんじゃねェぞ」
 渡良瀬はしばしリボルジェクターとガンドッグの間で視線を往復させ、肩を落とした。
「研究済みかよ、恐れ入るぜ。その執念深さ、昇進試験に振り向けてとっとと偉くなっちまえ。
 そしたら俺のことなんざ気にならなくなるからよ」
 渡良瀬は呆れて言うが、ガンドッグは動じない。
「分かっちゃいねーなァ、ヘボ探偵。それじゃ意味がねーんだ。
 俺ァただ、俺のボスに惚れてるだけだからよ」
「うわ照れも無く言い切りやがった……わーったよ、俺の負けだ」
 渡良瀬は半眼になって呻きながら、リボルジェクターを放り出した。
「そこまで言うんじゃしょうがねェ」

( 2006年06月22日 (木) 20時21分 )

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