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[22]ざ・ふぇすてぃばる 「参上!我らがキャプテン・ナイス!」 後編 - 投稿者:イシュ

 キャプテン「善人社だ」
 唐突に己が口で喋るキャプテン。先ほどの続きのつもりなのだろう。しかし…。
「……胡散臭ェ」
 自分で善人だの正義だの語る連中にロクな奴は居ない。それはこれまでの歴史が証明している。まだ悪人と名乗った方が清々しいとさえ言える。
キャプテン「失敬な奴だな君は。我が善人社は政府に認められた正義の事業団体だぞ」
「もっと胡散臭いわ」
 政府公認という辺りが言い様のない怪しさを醸し出していた。
キャプテン「政府公認の屋台もあるんだ…正義の団体があっても何らおかしくないだろう?」
「余計ワケわからん」
 本当にそんな物が存在するかは疑問だったが、この男の口調はマジだ。格好からしてふざけてはいるが…。

ぎゅるるる〜

 唐突に俺の腹が鳴る。そういえば朝は食パン一枚しか胃に通していなかった。
キャプテン「ん?なんだ、今の地球外珍生物の唸り声のような音は」
「俺に対する挑戦だな…OK、受けてやるぜ…。」
 空腹のためだろう。自分でも何を言っているのかわからなかった。
キャプテン「なんだ、腹が減っているのか。わかるぞ、人間腹が減ると冷静な思考が欠けてパーになるものだ。私にも覚えがある。」
「アンタのは想像もしたくないね。」

ぎゅごごる〜

 無慈悲に愉快なリズムで鳴る俺の腹。『ピ○チュ〜』とでも鳴かれた日には、俺は自分の腹に巣くう怪奇生物の存在を認めなければならないだろう。
キャプテン「よし、わかった」
「何が?」
 人の腹の音に浸っていたキャプテンが唐突にぽんと手を叩く。
キャプテン「君の今日のランチ、私のオゴリだ」
「何故そうなる」
 昨日の朝までの俺なら考えるまでもなく飛びつくだろう。しかし今は事情が違う。昼食など、どうにかしようと思えばどうにでもなる。今の俺にはそれだけの力、もとい金がある。
キャプテン「平時の善人社はボランティア活動を主に行っている。もちろんそれにはホームレスへの餌付けも入っている」
 …待て、餌付けと言ったか?いや、そもそも…。
「俺はホームレスじゃない。家もある」
 居候だが。
キャプテン「逃避したい気持ちもわかるが、しっかりと現実を見つめないと生きていけないぞ。な?」
「……怒るぞ」
 ジロジロ人を見ながら、(多分)同情の目を向けるキャプテン。どこまでも失礼なオッサンだ。

てくてくてくてく

キャプテン「本当にホームレスじゃないのか?善人社の一員である私としては手遅れになる前に対処しておきたいのだが…」
「…」
 無視して歩いても、何処までもついて来る正義のヒーロー。これはもうストーカー的行為でない?

てくてくてく

キャプテン「放っておいた結果朝のニュースで、腐乱死体で見つかったなんて報道を見てみろ。君だって寝覚めが悪いだろう」
「……」

てくてく

キャプテン「ある日、ダンボールに入れられて寂しそうにしている捨て猫を、心なき親に『そんなばっちぃ猫、さっさと捨ててきなさい!』と言われても放っておけなかった経験が、君にもあるだろう」
「………」

てく…

 キャプテンの完璧なイントネーションが手伝った事もあって、俺はもう……。
「あーっもう!うるさいよ!さっきからグダグダあることねーことぬかしやがって!!
 キレた
キャプテン「むぅ、ここで逆ギレとは…。心の狭い若者の増加はもはや忌むべき驚異。」
「いや、逆ギレ違うし」
 キレてはいるが、このオヤジのボケ対するツッコミだけは冷静にできた。これも生来から常識離れしていた鬼畜外道を相手にした故の適用能力だろう。というかキャプテンのこのノリはまるで鬼畜外道を相手にしているかのようだ。

キャプテン「今日のランチはここにするか。」
「………。」
 俺はキャプテンの言うこと成す事全てを無視しつつ、このオッサンの存在を脳内抹消して佐伯宅を目指して歩いていた。だのに、気が付いたときにはキャプテンと共にとある定食屋の前に立っていた。
キャプテン「何故俺はここに…という顔をしているな」
 本当にそういう顔をしているのだろう。正直その通りだった。
キャプテン「いやなに、君は私を拒絶していたつもりだろうが、私の巧みな誘導によって知らず知らずのうちに、ここに誘い出されていたのだ」
「アンタ、何者だっ!?」
録音ボイス「栄える悪党があるならば、当然それに立ち向かう正義の軍団も存在する…」
「いや、録音再生はもういい。」
 チッと吐き捨てながらテープレコーダーを懐に仕舞うキャプテン。
キャプテン「私こそはッ!ヒステリックな主婦も黙らせる善人社福祉二課課長ッ!通りかかる人々は皆、賛美と尊敬の視線を私に浴びせるッ!正義のために犠牲になれる漢・キャプテン・ナイスッ!初対面の通行人も何かを受信して私をそう呼ぶッ!」
 何かって電波か?いや、それより…。
「ところで、正義のために犠牲になれる男・キャプテン・ナイスさん。自分の演説に酔ってて見えてないと思いますが…」
キャプテン「ム〜ン?」
 俺はあることをこの自意識過剰な正義バカに諭させるために、ある方向を指さす。

おばはんA「ちょっとちょっと奥さん、アレ…」
おばはんB「んまぁ、何ですの?アレ。新手の変質者?」

OL1「やっ、何〜?あの人たち〜。」
OL2「うぅわ、やばっ」

 俺達を見ている周囲の目はもはや自分らと同じ人間を見る目ではなかった。………ん?俺達……?
「って、俺も入ってんのかいッ!!」
 限りなく心外だった。
キャプテン「ああ、大丈夫だ。もう慣れている」
「慣れんなよっ!!」
 この非常識きわまりないオヤジに渾身のツッコミを浴びせる俺。このオヤジと話をしていたら俺はいつか無類のツッコミ人になっているかもしれない。
キャプテン「ハッハッハッ!君は私の部下によく似ているなぁ」
「……ホロリ」
  豪快に笑いながら人の背中をバンバン叩くキャプテン。何故だろう…会ったことも見たこともないその人物を何故か俺は同情してしまう。
キャプテン「益々君に興味が沸いた。さ、入りたまえ」
「………」
 キャプテンに背中を押され、強引に店内に入れられる俺。なんか…この待ちに入ってから不幸に捕まりっぱなしだな…俺。

ガラガラガラッ

キャプテン「遠慮無く座りたまえ」
「……念のため言うけど、アンタの店じゃないだろ」
 店に入り、キャプテンにリードされてそのまま席に着く俺。気にするまでもなく、ここでも俺達は注目の的だ。つまみ出されない事さえ奇跡といえる。
キャプテン「まったく…人をジロジロ眺めるなど、マナー違反だと思わんかね?」
「そういうことは鏡を覗いてから言ってくれぃ」
 俺に言えた事じゃないが…。

………。

……。

…。

キャプテン「私はそろそろ社に戻るが、君は1人で大丈夫かね?」
「ああ…むしろこれ以上一緒にいたくない」
 あの後、キャプテンの延々と続く現状の治安に対する愚痴を聞きながら勝手に振る舞われたソバをすすり、さらには町内会の「街をきれいに!町内クリーン作戦」にまで参加させられて悠久とも思える時の中、ゴミと格闘をするハメになってしまった…。
 おかげでやっとの事でキャプテンから解放された時には既に日は暮れ、今いるこのどこぞの公園をはじめ、街全てが紅く染まっていた。
キャプテン「ではさらばだ!また逢おう!」
 不吉なことを言いながら、手をブンブン振って去っていくキャプテン。
(もう二度と逢いたくないです…)
 心の底からそう願いながら、キャプテンを見送る。
「……」
 キャプテンが視界から消えたところで、俺は今何故ここにいるのかを考えてみる。

………。

……。

…。

「……虚しい。」
 思考中止。それより、さっきから何かが頭に引っかかっている。う〜ん…う〜ん…。

おばはんα「奥さんのお宅、今晩のご夕食はどうなさいますの?」
おばはんβ「オホホ、今晩はカレェーにしようと思いましてェ。そういう奥様はァ?」
おばはんα「あら、奇遇ですわね〜。ウチも今日はカレーですのよ」
おばはんβ「あらあら、そうですわねェ、オホホホ、ホホ…」

「……」
 片方のおばはん、今献立を思いついたな?もう片方のおばはんもそれに気付いたのか、少々表情が引きつっている。……いやいや、それはどうでもよくて…。
「……買い物忘れてた……」
 そして俺は途方に暮れる。

………。

……。

…。

ガチャッ

 佐伯宅に戻ると、入り口の鍵は掛かっていなかった。俺はしっかりと鍵を掛けていった(と思う)から、誰か帰ってきているのだろう。医者は、今日は遅いと言っていたからレイだろうな。
「ただいまー」

し〜ん

 帰ってきても、迎えてくれる人間は誰もいやしない。ま、わかっていたけどね。
「レイは部屋かな…?」
 結局買ってきたのはコンビニ弁当その他。ま、今夜さえ凌げれば文句ないでしょう。俺は彼女を呼ぼうと、ギシギシといつ音を立てて崩れるかわからない木造の階段を上る。
「ここだな…と」
 ドアを開けようとしたところで、ふと思いとどまる。そうだ…俺はもう少しで同じ過ちを繰り返すところだった。
「………」
 目を閉じると今でも鮮明に蘇る。赤く染まった顔で口を半開きにしたまま俺を見つめ、脱ぎたてホヤホヤのセーラー服を持ったまま固まる白い下着のレイ。今から脱ぐところだったのか、スカートとハイソックスはそのままだった。
 どういうワケか彼女のこの姿が、俺の目に鮮明に焼き付いてしまっていた。まぁ、あれだけ堪能すれば当たり前か。しかし、俺は決してその方面の人間ではないが青い果実というのも、たまにはいいな。将来が楽し…。

ドグシャッ

「ヴゲェッ!?」
レイ「……?」
 一瞬、俺の視点いっぱいに茶色い板が広がったと思うと俺の意識は昏倒とし、目の前が真っ暗になった。

ドサッ

………。

……。

…。

「う〜ん…」
レイ「起きた」
 目を開けると、そこには天井と俺をのぞき込むがレイの顔があった。
「ハッ、ここは誰?私はどこ?」
レイ「……」
「そこ、「もうコイツはダメだ」な感じに無言で首を振るな」
 彼女の『それ』はボケや演技とは違う。本当に心の底からそう思いこんでの素振りだった。こんなコトされるよりは、きれいさっぱり無視された方がまだマシだ。
レイ「…それで、人の部屋のドアの前で何してたの?まさか、また…」
 その続きを聞かなくてもわかる。彼女の目は疑惑に満ち、完全に俺を軽蔑していた。
「アホぬかせ。俺は幼女にはこれっぽっちも興味ないの。萌えてほしかったら、もっと牛乳飲みな、おチビちゃん。」
 だめ押しに俺は起きあがって、自分の胸にも届いてない彼女の頭をポンポンと軽く叩く。
レイ「……ム」
 くくっ、ムカついてるムカついてる。あれ…?何故か俺のお脳が危険信号を発している。なぁぜぇ?

ドグッ

「はぅあっ!?」
 次の瞬間、俺の鳩尾に何か重い物が突き刺さる。ああ…そうか、これを忘れてた…ぜ。

ドサッ

……。

…。


「う…う〜ん」
 目を開けると今度は俺の部屋の天井が広がっていた。俺は自分の部屋で布団を背に、眠っていたようだ。えぇ〜っと……何故?そうだ、あの金髪チビの不意打ちでのびたんだ。
「そうとわかれば、イッツァ・リッベェンジッ!!」
 何回も気絶して、頭のネジが1、2本抜けたらしい。しかし、そんな事はどうでもいい。今はあの金髪チビめをとっつかまえて、身体を見るだけじゃなくあんな事やこんな事をしてやるぜ、ヒャッホーイ!

ドタドタドタッ

「ヘイッ!そこの金髪ロリータ!今からお前を本物の女にしてやるぜィッ!」
 俺は力一杯、前に向かって人差し指を突き刺す。
レイ「……ハ?」
 目の前には俺が買ってきた牛丼弁当を口にほおばりながら、きょとんと俺を見つめるレイの姿が。
「………」
 何気ない彼女の姿を見て毒気をすっかり抜かれたのか、俺はその先何を言おうとしたかを忘れ、ただ口をぱくぱく開けてレイを指さしていた。
レイ「…これ?あなたが買ってきたのを勝手に食べたけど、もう一つあったし別にいいよね?」
「あ、ああ…」
 いつの間にか俺は正気を取り戻していた。恐るべし少女の純粋な顔。
「俺も食うか…。」
 すっかリフレッシュされた俺は食卓に着き、自分の分の牛丼を開ける。やっぱコンビニ弁当といったらこれでしょう。レイのようなコには少し不釣り合いかもしれんが、女のコに似合う弁当というのも思いつかないからこれでいいだろう。うん。


レイ「…そういえばさ、ずっと気になってたんだけど」
「んあ?」
 食後、俺が食卓のテーブルに座ったままテレビを見ていると、同じくテレビを見ていたレイが唐突に口を開く。
レイ「…体、ばっちぃよ」
「……それはいつから気になってた?」
 テレビを向いたまま横目で俺を見ている彼女に、すかさず訊く。
レイ「えっと……昨日、会ったときから」
「そういうことはもっと早く言ってくれぃっ!!」
 そういえば、佐伯先生もずっと俺を見ていたはずなのに指摘してこなかったな。いや、あの人の場合気付いていたのにあえて気付かないフリをしていたんだ。そういう人だ、間違いない(長井風)。
レイ「…お風呂沸かすけど、いつ入る?」
「風呂ォ?いーよ、めんどくさい」
 とても不潔マンに言えたことではないが、めんどくさいというのは本当だ。それに……。
「……」
 ちらっとレイを見る。
レイ「……?」
 人の気も知らず、無垢な表情を返すレイ。おそらく風呂には彼女も入るだろう。自分の浸かった湯に女のコが浸かるというのは何か照れる。その逆も然り。俺もなかなかウブなもんだ。
レイ「…お風呂入らないと腐っちゃうよ?」
「栄養さえ取ってりゃ腐らないの」
 根拠はないが。
レイ「そんな格好で外出歩かれるのも迷惑なんだけど…」
「う…」
 彼女の呆れたような一言で昼間のことを思い出した。まるで自分たちとは違う生物を見て避ける人々。買い物をする時も、終始変わらない怪訝そうに見つめる店員の視線。一生、そんな目で見られながら生きられるほど俺は無神経じゃない。
「…やっぱ入る」
 何とも言えない敗北感を抱いた俺は、ボソリと小声で呟く。
レイ「…ハ?」
 狙っていたように耳に手を近づけて、聞こえないというジェスチャーをするレイ。
「……やっぱ入る」
 さっきより少し声を大きく、そして苛立ちを込めてもう一度繰り返す。
レイ「……ハ?」
 してやったりと、もう一度同じ動作で俺に顔を近づけるレイ。
「………やっぱ入る…っ」
 少し声を強ばらせてもう一言。しかし。
レイ「………ハ?」
 やはり同じ動作で顔をさらに近づけるレイ。ここまで来るとわざとというには度が過ぎている。天然か…?
「やっぱ入るって言ってんだよっ!」
 今度こそ理解させてやろうとありったけの声を出した叫びを、この耳の遠い金髪ロリの耳に叩きつけてやった。大人気ないだの何だのと言われても知った事じゃない。
レイ「……っ」
 俺のプレッシャーとつぶての如く飛んだ唾液に揺れ動くレイの金髪。
「ゼェ…ゼェ…」
レイ「〜〜……」
 窮極獄滅奥義『墓異主』発動で著しく体力を消耗して息を荒くしている俺のすぐ前で、無言で耳を押さえて悶えているレイ。ザマァみろ。


レイ「じゃ、先に入るね」
「ああ…」
 結局大人しく湯を沸かすこと30分、談合の末一番風呂はレイが貰うことになった。理由は「ばっちぃ人が入って汚れた後には入りたくない」(レイ談)だそうだ。後に入る俺の身にもなってくれぃ……と言っても無駄か。
レイ「………」
「……なんだよ?」
 入浴の宣言をしたと思うと、俺をじっと見始めるレイ。もちろんそれは惚れた男に対する物ではないことは考えるまでもなかった。
レイ「……余計なことだとは思うけど…覗かないでね」
「ヴッ」
 思いもがけない言葉に思わず吹き出す。何をぬかしやがるこのガキャァッ。
「アホか!そういうことはもう少し膨らむ物が膨らんでからぬかしやがれ!」
レイ「な…!」
 思わず口から出た我ながら下品なセリフに、顔を赤らめるレイ。しかし、それなりに意識はしているのか、それっきり黙って浴室へと走り去ってしまった。
「………」
 なんか言い様のない罪悪感が…。ホントのことを言っただけなのに。

「う…」
 レイが入浴していること20分弱、特にすることもなくテレビを眺めていた俺に、それは唐突に訪れた。そういえば、この家にやって来てからずっとあれを処理していなかったな。それだけ食物はおろか水分も取ってないという事だろう。まぁ、まだ二日目なのだけれど。
「しっこ、しっこ…と」
 ションベンしようと席を立つ俺だが、それと同時に気付いた。
「そういえばトイレは何処だ?」
 トイレの場所を訊いていなかった。
「ま、いいや」
 それほど広い家ではない。二階は見たところ個室しかなかったから、一階を適当に歩き回っていればそのうち見つかるだろう。

……。

…。


「あとはここか…」
 歩き回ること5分弱、いま目の前にある引き戸の向こうを残して全てハズレだった。俺のクジ運の悪さも相当な物だ。これも主人公としてのスキルだろうか。まぁ、それはともかく、そろそろ今まで摂取した水分が俺のモノを突き破ろうとしている。
「う〜、もれる〜」
 苦しみのためか、注意力が欠けていたのだろう。俺は引き戸のガラスの向こうに立っていた人影に気付かなかった。そして…。


「………」
レイ「………」
 ……オイ、コラ作者。

( MAIL 2004年09月19日 (日) 01時35分 )

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