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[140]file.03-3 - 投稿者:壱伏 充

 渡良瀬はハンドルを操りながら、善後策を考えていた。
「とりあえず警察に……」
「いや警察はヤバイ」
「そんなこと言ってる場合か?」
 相模を止めたら怪訝な顔をされた。とはいえあまり警察に来てほしくないというのが渡良瀬の本音である。
 もしも以前潰したスカイウォーカーチームもどきや、それ以前に対処した連中の残党が相手だとしたら、渡良瀬が彼らにした所業も明るみに出てしまう。
 渡良瀬は相模の不平を黙殺して、バックミラーを見た。
 徐々にスピードを上げて距離を詰めようとしてくるライトバンのサンルーフが開き、中から身を乗り出してきたのは黒くリペイントされたヴィックスだ。
 そして、そのヴィックスがライトバンの天井板を蹴って姿を消す。
「!?」
 ――半瞬の後、屋根の上から鈍い音がした。
 まさか。渡良瀬が叫ぶより早く、屋根の上の黒いヴィックスの拳が運転席側の窓ガラスを突き破ってきた。
「相模 徹だな! 逃がしゃしないぜ――え?」
「うおおおおおおおっ!?」
 渡良瀬は急ハンドルを切りブレーキを踏み込む。交差点を片輪走行寸前のドリフトで曲がりきった軽トラックから、慣性の法則に従ってヴィックスが放り出された。
「ああああ――――?」
 悲鳴を後ろに聞きながら渡良瀬は軽トラックのスピードを上げた。
「っの野郎、雑なマネしやがって。無事か?」
「ああ……」
「にゃ〜」
 相模とヒトミが答える。渡良瀬は膝の上に降ったガラス片を払い落として、後ろを確認した。まだ追っ手はついて来ている。
「しかしまさか、相模の方が狙われてるなんてな――どした、シャレにならないご婦人と間男しちゃったか?」
「ご冗談。どうする、“ライダー”だったら持ってるぜ」
 渡良瀬が呟くと相模が答えた。渡良瀬は信号を左折して、肩をすくめる。
「ああ。でも“テイラ”って、お針子さん専用だろ。こんな状況で役立つかよ」
「いや、もう一台ある。切り札が、な」
「何だってそんなモンを……ちっ!」
 渡良瀬は毒づいてハンドルを切る。相模はシートにしがみつきながら答えた。
「退職金代わりにちょちょいとな。チョロまかしたんだ、ワタちゃんの分を!」
「捨て去れンなモン! 奴らの狙い、何かそれっぽいじゃん!」
 渡良瀬は絶叫混じりに即答した。

「な……っ!」
 絶句する相模にかまわず、渡良瀬は続けた。
「あー、下手に捨てるのもまずいか。よ−し、復元できないレベルまでバラせ」
「冗談じゃない!」
 そこまで言われて相模も黙っていられなかった。
「待ってくれよワタちゃん、本気か?」
「当たり前だ。後生大事にそんなモン抱えてやがって」
 にべもない言いように状況も忘れて、相模は渡良瀬に詰め寄った。
「そんな言い方ないだろう、俺ぁワタちゃんのためにだな――」
「俺は!」
 しかし言い募ろうとする相模を、渡良瀬の声が圧した。
 相模は熱いものに触れたように、身を強張らせる。相模に向いた渡良瀬の横顔は、まるで痛みをこらえているように――そして何かを恐れているように見えた。
「俺は……神谷や楠みたいにゃなれねェ」
 それだけを絞り出す渡良瀬は、相模を押し戻してハンドルを切る。
「ぬァ……!」
 横Gにさらされながら相模が見たものは、前方から迫る黒い車体だった。
「ライダーの力なんかなくても、俺は!」
 渡良瀬の言葉とともにカーブを曲がりきった軽トラックだったが、行く手には一騎の紅い即応外甲が待ち構えていた。
(追い込まれてた……!)
 相模がそれに気づくと同時に、紅の即応外甲が拳を振りかぶり、肘から炎を噴き出して――――

 膨らむエアバッグの衝撃に、二人は意識を失った。

( 2006年05月18日 (木) 18時47分 )

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