投稿日:2005年03月12日 (土) 08時36分
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公立病院に勤務する医師です。たまたま検索で見てよらせて頂きました。私たちも、患者さんに優しい医療を心がけているつもりです。 当方は、周産期センターを持っておりVBACに対応するためのセットアップをしていますが、やはりVBACは、患者さんの意志が最も大切な事です。非常に稀ですが帝切既往がない方の、自然分娩でも子宮破裂は起こります。陣痛促進剤を使用しなくても自然破裂した患者さんは、以前の中絶術後の経過が悪かったり、胎盤の異常、筋疾患があったりと何らかの原因がある場合もありますが、先天的な子宮の異常で、という事もあります。(稀なことですので普通は心配する必要はないと思います。)
せっかくVBACできるチャンスがあるのなら、その希望に沿ってできる だけ安全に対応する、というのが現在の医療の水準です。 (このHPに記されているよな説明をして頂ける病院でお産する というのが大切ですし、説明もなしに帝切、VBACを決められるのは 現在の水準からははずれてきていると思います。)
以下に記すことも稀なことですが、医師としての経験として このような事もあると言うことを知って頂きたく記します。
まず、2回目の帝王切開は、1回目の帝王切開よりも若干ですが危険性が高くなります。一つは、このHPでもコメントされている血栓症です。日本で分娩中〜後に無くなっている方のうち、帝切後の血栓症は増加しており、特に2〜3回目の帝切が日本で亡くなられた妊婦さんの一部の方々の背景にあります。次に出血です。初回帝切と反復帝切の出血量は、個人差もありますが、2回目は、かなり多くなることもあります。出血に対して全身のコントロールのしやすい安全な全身麻酔をする施設も多くなりました。輸血以外の方法では対処できない事も時にあり、2回目帝切では、約1〜2%が輸血になるとも言われます。さらに、2回連続で帝切し、その後妊娠した方で前置胎盤や癒着胎盤という病気も増加し、その場合3回目の帝王切開では子宮を摘出する必要性も出てきます。この2つの点はあまり説明をされていない事が多いので注意が必要です。また米国の研究でもこの点の検討は抜けています。そのほか、臓器損傷、腸閉塞などの合併症も増加します。(少数例ですので医師側も説明を省くことが多いのですが。)
児への影響ですが、予定帝切では(初回帝切でも)自然分娩に比べて呼吸器の合併症が出ることが多くなります。約5%の児は、一過性多呼吸という一時的な呼吸障害で、酸素を使用する必要性が出てきます。生命に危険を及ぼすものではありませんが、注意が必要です。特に37週5日前に予定帝切すると、この呼吸障害が増加しますので、通常はそれ以降に手術日を決めますが、予定日が正確であるという前提でしか言えません。また、37週以降になると、普通でも陣痛が自然に始まる可能性がありますので、予定が急に変わり緊急で帝王切開をする場合が出てきますので、できればいつ手術になってもいいように、あらかじめ入院あるいは少なくとも手術のための検査等を全てすませておく必要があります。(予防的な入院や検査であり、本来は保険が使えないため、入院をしない病院もあります。)陣痛がついたり破水後ある程度時間がたってから帝切した場合は、赤ちゃんの呼吸障害の率がぐっと減りますのである意味では安心です。帝王切開の影響は、学童期まで続くという研究結果もあるようですが、私自身は詳しく理解できないのでコメントは控えますが、いずれ明らかになるかもしれません。
帝切、VBACどちらが絶対安全という事が無いことですが、先述のように自分が一番納得できる選択をすることです。現代は多くの方が帝王切開で分娩されます(初回妊娠で)。できるだけ自然分娩ができるように妊婦さん、これから妊婦さんになる方が努力できることも多くあります。 最初の帝王切開を極力減らすことが、VBACや反復帝切のリスクを少なくする第1歩と思います。
多忙ですのでまた掲示板に戻れるかどうかわかりませんが、一医師の独り言として、少し心の中に留めて頂ければ幸いです。 最後に、ご自分のご家族を失った深い悲しみの中で、他の方へのご助言をされ、このような立派なHPを維持されている管理人さんに賛同と敬意を表したいと思います。
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