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ゾイド系投稿小説掲示板

自らの手で暴れまくるゾイド達を書いてみましょう。

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[56] 祖国の旗が翻る時 myura - 2004/12/31(金) 17:25 -

◆プロローグ

 北方大陸ニクスを統べるガイロス帝国。その帝都ヴァルハラの東側に、我が愛機、アイアンコングPKと共に私はいる。右、左を見回すと同じくアイアンコングPK、ハンマーロックが何百と整列している。

 プロイツェンナイツ。通称、PK師団。現ガイロス帝国摂政ギュンター・プロイツェン閣下直属の親衛隊だ。今までは親衛隊として内部抗争の鎮圧、謀反や叛乱の芽を摘み取ることを主な任務として働いてきた。だが、今日は違う。我らの誇り高きゼネバス帝国、それを復活させる為に戦うのだ。

 ガイロス帝国軍は現在、ヘリック共和国軍の進攻を防ぐ為に勢力のほとんどを前線に費やしている。そのおかげで帝都を守るのは義勇兵。聞こえはいいが、総攻撃命令にも予備役に回された2線級以下の部隊だ。要は素人である。また、肝心な皇帝官邸を守る警護部隊はパレード映えする、きらびやかな部隊。その隊員達は決して実戦に出ることのない名家の後継ぎばかりだ。お飾り部隊と言っていい。

 そしてそれはこれ以上ない好機だ。これを逃す手はない。閣下も今日の日の為に今までこのヘリック、ガイロス両軍を巻き込む程の大戦略を立ててきた筈だ。我らはそれに報いなければならない。

 そこへ、PK師団全機に待ちに待った通信が入った。

『諸君!時は来た。今こそ我らが祖国を復活させる為に、今まで散っていった同胞達の無念を、その思いを無駄にすることの無き様、良い働きを見せてくれ。ゼネバス帝国の誇り高き旗を諸君らの胸に!!』

『おおおおおおおお!』

 PK師団全機から凄まじい、勇敢な雄叫びが発せられる。私もまた、その雄叫びをあげた中の一人だった。

 そしてそれと同時にPK師団は帝都ヴァルハラへと雪崩れ込んだ。生きて帰ることができる見込みはない。いや、生きて帰るつもりもない。我らも閣下と同じように、この日の為だけに生きてきたのだから。

 異変に気付いた護衛部隊の一部が即座に駆けつけ、それを妨げようとする。しかしPK師団は歴戦の旧ゼネバス兵で固められた部隊だ。敵うはずもなく、次々と打ち倒されてゆく。

 その中で私も同胞達と共に敵軍の中へ雪崩れ込んだ。すると右からヘルキャットが飛び掛ってきた。機体の向きを変えず、右のハンマーナックルで軽く振り払う。周りからも雨のようにビームを浴びせてくるが、アイアンコングPKの装甲には目立ったダメージは見られない。ビーム砲の雨の中、機体をゆっくりと押し進めると、10連ミサイルポッドを開き、敵軍の中へ続けざまに小型ミサイルを叩き込む。それでもまだ動いている機体には、ビームランチャーを撃ち込んで一機ずつ的確に沈めていった。

[57] 前章 『過ぎ行く時』 T myura - 2004/12/31(金) 17:26 -

◆前章『過ぎ行く時』

     @

 ―――――今から56年前・・・ZAC2044年。

 我がサンダース家は決して裕福ではなかったが、私は妻のジュリアと6歳になる息子のデビッドと共に静かに暮らしていた。静かに・・・とは言っても、当時の私はゼネバス帝国軍人。戦争に赴くことは幾度となくあったことは確かだが・・・。

 当時、ゼネバス帝国は大いに勢いに乗っていた。まさに今年開発されたデスザウラーによって、ヘリック共和国の首都を陥落させ、中央大陸全域に勢力を伸ばそうとするまでに至っていた。

 残すは各地でゲリラ戦を展開している共和国軍の掃討のみ。それさえ完了すれば、また家族水いらずで暮らすことが出来る。

「お父さぁん、またゾイドの話聞かせて!」

 息子のデビッドがいつものようにそう言いながら私のところへ駆け寄ってくる。妻のジュリアも、その様子を見て微笑んでいる。我が家の小さな庭だが、そこは当時の私達家族にとっては楽園そのものだった。

「よしよし、じゃあ、今日はどのゾイドの話をしようかな」

 ゼネバス兵のほとんどには余裕があった。ゼネバス帝国軍の規模は既に共和国のそれを遥かに凌いでいる。そのおかげでずっと戦場に駐留する必要もなくなり、こうして自分達の家族の元へ会いに帰ることが出来るのだ。

「僕は大きくなったらお父さんみたいなゾイド乗りになるんだ!」

 デビッドはゾイドの話をしているときはいつも口癖のように言う。

「そうだな。戦争が終わって平和になったら、お父さんがゾイドの乗り方を教えてあげよう。どのゾイドに乗りたいんだい?」

「もちろんアイアンコング!」

 私の愛機はアイアンコングだ。デビッドはそのせいでそう言うのかもしれないが、コング乗りの私にとっては息子がそう言ってくれるのは嬉しかった。

「そうか、そうか。じゃあ今後の休みにでも一緒に乗ってみるか?」

 そう言うと、デビッドは満面の笑みを浮かべて、嬉しそうに庭中を走り回る。

 もちろん、戦闘用として使っているので普段は基地に置いてあるのだが、自分のゾイドであって、武装を解除しさえすれば短期間なら外へ持ち出すことが出来る。

「デビット!あんまりはしゃぐと転ぶわよ!」

 妻が笑みを浮かべつつも心配そうにそう叫ぶ。

 と、その時、妻が心配していた通りにデビットは蹴躓いて庭の芝生の上に転んでしまった。それと同時に、今にも泣き出しそうな顔になる。

「ほらほら、言ったじゃないの。大丈夫?」

 そう言いながらジュリアはデビッドの元へ駆け寄り、そっと抱き起こした。

「おいおい、そのくらいですぐにそんな顔をしている様じゃ、いいゾイド乗りになれないぞ。父さんがゾイドに乗せてやるのは強い子だけだ」

 と、私も息子のもとへ駆け寄り、優しく頭を撫でながら語り掛ける。

 すると少しの間涙目でいたデビッドも、私のその言葉と母の笑顔を見てすぐに溢れ出そうになっていた涙を拭い去り、表情を明るく変えた。

 このような幸せな生活。それがずっと続けば良いとどんなに思ったことだろう。だがその願いは戦局が一転したことにより無残にも打ち砕かれ、そんな時が訪れることは二度と無かった・・・。

[58] 前章 『過ぎ行く時』 U myura - 2004/12/31(金) 17:26 -

     A

 7年後、ZAC2051年、3月。もはやかつて優勢を極めたゼネバス帝国の面影は見られなかった。中央大陸デルポイはほぼ全土をヘリック共和国軍に制圧され、ゼネバス帝国の残存兵力は百にも満たない皇帝直属の親衛隊のみとなっていた。

 そのゼネバス皇帝直属の親衛隊に所属していた私も、耐え切れない想いで愛機、アイアンコングMk−2の歩を中央大陸の北方へと進めていた。

 そして私の後ろに続くアイアンコングMk−2。それにはもうすぐ14歳になろうというばかりの息子、デビッド・サンダース少尉が乗っていた。デビッドはあれから僅か13歳で軍に入隊し、実の親である私ですら信じられない程の早さでその腕を上げ、気が付いた時には私と同じ親衛隊に大抜擢されていた。

 当時は私も息子の天才ぶりに一時鼻が高かったが、今となってはその気持ちは薄れ、むしろ後悔の念が大部分を占めていた。ここまで追い詰められたゼネバス帝国にもう明日はない・・・もはや密約で同盟を結んでいた遥か北方のガイロス帝国に助けを求めなければならない程にまでなっているのだ。そんな危険な中に息子を置きたくはない。だが、そうは思うものの私には息子を説得することはできなかった。

 ―――――2年前・・・妻、ジュリアが病で他界したあの時・・・。

「デビッド・・・お母さんはね・・・本当のことを言うとあなたには軍に入ってほしくないのよ・・・お母さんのお父さん、そのまたお父さんも軍人でね・・・皆、戦争に行って戻っては来なかった・・・あなたにもそんな人生を歩んでほしくないのよ・・・」

 その言葉を最後に、ジュリアはもう話すことは無かった。その時デビッドはジュリアの手をしっかりと握り締めながら涙を途切れることなく溢れさせていた。

 それから2日後、私とデビッドが母の墓参りに行ったその時、デビッドは母の墓に花を手向けた後、それに背を向け、私にこう言った。

「父さん、俺・・軍に入るよ・・・母さんはああ言っていたけど、俺の夢はやっぱりゾイド乗りしかないんだ・・・その代わり、俺は軍に入って戦争に行っても、絶対に死なないゾイド乗りになる」

 その時デビッドは涙を目に浮かべながら、赤い夕日を背中に浴びて真剣な眼差しをじっと私に向けていた。

 そこで息子が軍に入らないよう説得しようとしていた私は、その言葉を聞き、その眼差しを見て口を開くことができなくなってしまっていた―――――

 そして今でも私はジュリアが他界してから2日後のデビッドの表情を忘れることができない。雄飛を背にした、あの時の表情が・・・。

[59] 前章 『過ぎ行く時』 V myura - 2004/12/31(金) 17:27 -

    B

 そして今、息子はここにいる。ゼネバス皇帝のデスザウラーを囲むように護りながら、私と共にここにいる。

 確かにデビッドはこれまで数々の死線を乗り越えてきた。あの時言ったように、幾度となく生きて返ってきた。だが・・・。

 何故、私は今まで息子に何も言わずにいたのか?今はそれで頭が一杯だ。

 と、その時、愛機のモニターに一本の通信が入った。

『父さん、大丈夫?元気だしなよ。とは言ってもこの状況じゃ難しいかな』

 息子が私を元気付けようとしている・・・。今まで生粋のゼネバス帝国軍人であった私を。私もそれに答えようとはしたが、返す言葉が見つからない。少しの間黙っていると、再びデビッドが口を開いた。

『ゼネバス帝国はまだ滅んではいないよ。陛下がガイロスに辿り着けば、いつかきっと・・・』

 と、息子がそこまで話したところで、部隊の眼前にふと一体のゾイドが現われた。

 今までには見た事の無いゾイドだ。その容姿は全身漆黒に包まれている。見たところ恐竜型のようだが、ゼネバス、ヘリックのそれとはどこか違う、怪しい雰囲気も漂わせている。

『そうか!あれが暗黒軍の助けか!』

 同じ親衛隊の兵士の声が通信機越しに聞こえて来た。と、同時に、ふとした安心感が湧き上がり、あちこちから歓声が上がる。

 だが、その安心感と喜びも、次に入ってきた通信に全て掻き消されてしまった。

『君達ゼネバス帝国軍は、これから我々ガイロス帝国軍の捕虜とする。君達が搭乗している機体も、我々が全て譲り受ける』

 その暗黒ゾイドからの通信に、親衛隊の誰もが耳を疑った。陛下がガイロスと交わした密約では、同盟という形になっていた筈である。しかし、たった今送られてきた通信からはそのことは微塵も感じられない。ただ敗戦国の捕虜として扱うと言って来ているのだ。

『それは一体、どういうことだ!』

『何だと・・・約束が違うではないか!』

 続け様に親衛隊の兵士から罵声が飛ぶ。だが、暗黒軍の機体からはそれを冷たくあざ笑うかのような返答が一言返ってきたのみだった。

『君達が素直に投降すれば、危害は加えない。だが逆らうようであれば力ずくでも連れて行く。それだけだ』

 少しの間、その予想もしなかった返答に親衛隊全員が硬直する。が、ゼネバス皇帝の一言でその沈黙は破られ、開戦の火蓋が切って落とされた。

『裏切ったな!!暗黒軍め!』

 ゼネバス皇帝は最後の戦いを決意していた。そしてそれと同時に、全親衛隊のアイアンコングMk−2からたった一体のその暗黒ゾイドに向かって凄まじいまでのミサイルが放たれた。そしてミサイル群はその一体の暗黒ゾイドがいた場所に着弾し、大地を揺るがす程の轟音を響かせて爆発、それからくる煙をもうもうと空高く立ち昇らせる。

 やったな・・・親衛隊の誰もがそう思った。だが、その一体の漆黒のゾイドは立ち上る黒い煙の中から親衛隊に向かって飛び出してきた。

 かわしたのか!?・・・あの攻撃を!?そしてその瞬間、一体の暗黒ゾイドは一瞬体を怪しく光らせたと思うと、背部の砲塔からゼネバス皇帝の搭乗しているデスザウラーに向かって凄まじい光を放った。

 その暗黒ゾイドの名は、デッドボーダー。瞬発力に優れ、何よりもその背部に装備されたGカノンの破壊力は、従来の兵器を遥かに上回る。

 そしてかわす間もなくその閃光を受けてしまったゼネバス皇帝のデスザウラーは、一瞬にしてコアを貫かれたと思うと、空高く舞い上げられ、気付いた時には地表に叩きつけられていた。

 他の親衛隊機もミサイルを放ち、更には格闘戦を仕掛け、応戦するが、どれもその素早い動きと恐るべきGカノンによって次々と沈められていく。

 暗黒ゾイドの圧倒的な力。それを目の前で見せ付けられ、親衛隊の誰もが恐怖を隠せない。次々と親衛隊機は崩れ去り、その光景は戦闘と言うよりは虐殺に近かった。そしてそれは、まさに死ぬ為の戦いと言って相違なかった。

[60] 前章 『過ぎ行く時』 W myura - 2004/12/31(金) 17:27 -

     C

 と、その時、デビッドのアイアンコングMk−2が甲高い咆哮と共に、デッドボーダーに向かって走り出した。

「デビッド!行くな!・・・デビッド!!」

 不意をつく行動に驚いてそれを止めようとそう叫ぶが、この戦場の轟音と、マニューバスラスター全開で突っ込んで行くその機動音で掻き消され、デビッドには届かない。

『うああああああ!!』

 私もすぐに追いかけようとしたが、先程放たれたGカノンの衝撃によるダメージのせいか、スラスターがうまく作動せず、身動きが取れずにいた。

 そう私が齷齪している間にデビッドはデッドボーダーのすぐ手前まで走り寄ると、スラスターで機体を横滑りさせながら続け様に6連ミサイルを撃ち込んで行く。そしてデッドボーダーが先程と同じようにミサイルをかわして飛び出してきたところを狙って、渾身の力を込めたハンマーナックルを叩き込んだ。

 これなら・・・!その時デビッドはそう思った。これだけ渾身の力を込めたハンマーナックルの一撃は、ディバイソンクラスのゾイドをも吹き飛ばす威力があるのだ。

 だが、ミサイルによる砂塵が晴れた時、そこには目を疑う光景が広がっていた。あれだけの一撃を叩き込んだアイアンコングMk−2の拳を、デッドボーダーはその腕でいとも簡単に受け止めていたのだ。

『く・・・!』

 あまりに常識はずれで予想外の光景に、一歩後ずさりする。その隙をデッドボーダーのパイロットは見逃さなかった。

 一瞬の隙を突いてコングの腕を引っ張ったかと思うと、腕を掴んだまま一回転し、尻尾で鋭い一撃を叩き込む。デビッドのアイアンコングMk−2はその一撃をまともに喰らい、後方へ数十メートル吹き飛ばされた。

『まだ・・・やられてないぞ・・・』

 大きなダメージを受けたようだったが、再びデビッドのアイアンコングMk−2は駆動系を軋ませながら立ち上がる。だが立ち上がった後見えた機体の損傷は著しく、攻撃をまともに受けたその胸部の装甲は激しくひしゃげていた。また地面に叩きつけられた時に破損したのだろう、マニューバスラスターも片方の補助エンジンを失っていた。

「・・・デビッド!もういい!やめろ!!」

 私はなかなかうまく作動しないスラスターを強引に起動させ、息子のもとへ今出すことの出来る全速力で向かいながら必死に叫んだ。

 だがデビッドはそれに気付いているのかいないのか、私の機体のすぐ真横を通り過ぎ、力なく横たわるゼネバス皇帝のデスザウラーとデッドボーダーの間へ滑り込むと、デッドボーダーのほうへ向きを変え、自らの機体を盾にするように大きく両腕を広げて立ち塞がった。それと同時にデッドボーダーの体が怪しく光り出す。

『父さん・・・よろしく頼みます・・・陛下を・・・我らの誇り高き帝国を!』

 そしてデビッドはその言葉を最後に、デッドボーダーが放つGカノンの光の渦の中へと消えていった・・・。

「う・・う・・・うおおおお・・おおおおおおお!!」

 その光景をすぐ目の前で見た私は、声にならない程の叫び声を上げていた。操縦桿を今までに無い程強く握り締め、スラスターの機動ボタンに拳を叩きつける。そして息子を殺したデッドボーダーへ突っ込もうとした・・・その時だった。

『全軍停止しろ!!』

 生き残った親衛隊機の全機に耳を劈くような通信が入ってきた。そしてその声の主は、ゼネバス・ムーロア皇帝、その人だった。

『皆・・・戦闘を・・停止しろ・・・命を・・粗末にするな・・我々は・・・・・・投降する・・』

 陛下は生きておられた!ほんの一瞬だが生き残った親衛隊全機にどよめきが見られる。だが、続いて入ったゼネバス皇帝のその声は途切れ途切れで弱々しく、親衛隊の全兵士には皇帝が泣いているのがよく分かった。

[62] 前章 『過ぎ行く時』 X myura - 2004/12/31(金) 17:28 -

     D

 そしてその虐殺とも呼べる一方的な戦いは終わり、ゾイドから降りた兵士達は皆呆然と立ち尽くしていた。今や全ての帝国ゾイドが暗黒軍の手に渡った。巨大な輸送船、ホエールカイザーが遥か彼方の北方大陸から次々と飛来する。そして生き残ったゼネバス帝国の兵士、ゾイドはそれらに続々と積み込まれていく。

 私もその中で、連行されながら何とも言い表せない想いではちきれそうになっていた。息子が死に、ゼネバス帝国が滅亡した。陛下は今、どんな想いでいるのだろうか。自分が一代で築き上げたこの帝国が、今、滅んだ。帝国が建国されてからの過程は、数々の苦難、または喜びがあったであろう。その陛下の想いは私には図り知ることの出来るものではないことは、よく分かっていた。

 それに、どちらにしろ既に私の居場所は無いのだ・・・。暗黒大陸へ連れて行かれてから、私に何が出来るのだろうか・・・。私はしばらくそれを考えていたが、すぐに思い直した。

 ジュリアが死に、デビッドが死んだ。だが、まだ私と陛下は生きている。希望は薄くとも、陛下が生き残っておられれば帝国再建は成るかもしれない。

「デビッドも・・・言っていたではないか・・・」

 ホエールカイザーに乗り込む途中、沈み行く紅い夕日を眺めながら、私は誓った。例えどんな辛い状況に追い込まれようとも、私の生きる目的は『ゼネバス帝国』再建だ。それを成し遂げる為に、私はひたすら生き続けようと思う。ゼネバス・ムーロア陛下と共に・・・・・・。

 そして十数機にも及ぶホエールカイザーは生き残った全兵士、全ゾイドを積み終わると、赤く染まった大空へと一斉に舞い上がり、沈み行く紅い夕日の彼方へと、消えていった・・・。

[63] 後章 『蘇る誇りと栄光の為に』 T myura - 2004/12/31(金) 17:36 -

◆後章『蘇る誇りと栄光の為に』

     @

 ZAC2051年10月。ヘリック共和国軍がこのガイロス帝国へ上陸作戦を開始したという情報が入った。

「来たか・・・・・・」

 暗黒大陸のある地方、ログハウス調の家々が立ち並ぶ小さな村。その一角、暗い部屋で私は独り言のように呟いた。電球と言えるものも無く、小さなランプ一つだけがこの部屋の唯一の明かりだ。そんな部屋の中に丸いテーブルが一つ、更にそれを囲むように数人の男たちが座っている。

「だが・・・今の共和国の力で彼らに対抗できるのだろうか・・・?」

 隣に座っている右目に眼帯を付けた男がふと口を開いた。

「そう案ずるな、ジルベール・・・我々を打ち負かした国、そしてゼネバス陛下の兄君だぞ。少なくともそう簡単にやられはすまい。さ、今夜はここまでにしよう、憲兵に見つかるとまたやっかいだ」

 その一言を最後に、暗い部屋に集まっていたジルベール以外の男たちは席を離れ、それぞれ顔まで隠れるコートを羽織ると、静かに部屋を出て行った。

「どうした・・・?あまりここに長居すると見つかるぞ」

 私はそう語り掛けるが、ジルベールはテーブルの上に肘をつき、眼前で組んだ手の上に額を当てたまま動こうとしない。

「そんなに・・・不安か・・・?」

 その顔を俯けたまま背中から暗い雰囲気を漂わせている親友を優しい目で見つめながら私は席を立つと、テーブルの上に置いてあったポットを手にとり、ジルベールのカップにコーヒーを注ぐ。すると暗い部屋いっぱいにコーヒーのほのかな香りが漂い、微かに今の苛立った気持ちを和ませてくれるようにも感じられた。ポットに残っていたコーヒーは丁度彼に注いだ分だけでなくなり、私が新しく作ろうと席を立ったその時、ジルベールはその重い口を開いた。

「だが・・・!共和国はついこの間まで我々と戦っていたんだぞ!それからわずか7ヶ月しか経たない今・・共和国にどれ程の国力が残っているか・・・」

 私は親友の言葉を黙って聞きながら部屋の隅に置いてあるコーヒーメーカーの前まで行き、コーヒー豆を準備する。

 数十秒間、暗い部屋に沈黙が続いた。

 そしてコーヒーメーカーから再びほのかなコーヒーの香りが漂い始めた時、私もまた静かに口を開いた。

「皮肉なものだな・・・ついこの間まで我々と戦争をしていた国が、今度は我々と道を同じくして・・・戦っているのか・・・そしてその結果、我々を手助けする形となっている・・・・誇り高きゼネバス帝国・・・この言葉は・・・・・・何処へいってしまったのだろうな」

「言うな・・・!」

 私の発言を遮るようにジルベールが小さく叫ぶ。

「我々の・・・ただの驕りだったということか・・?」

 それでも私はしゃべり続ける。

「違う・・・それ以上言うな!!」

 そこでジルベールはドン!とテーブルを拳で叩き、私を睨み付けた。私はできたコーヒーをポットに注ぎ終わると、ジルベールを振り返り、軽く微笑んだ。

「何・・・私とてそんな風に思っているわけじゃないさ・・・だが、焦るな。今の我々はこんな状況だが、いつかチャンスはくるはずだ。それに今我々が一騒動起こしたとすると、いずこかに囚われている陛下にご迷惑をかけてしまうことになる」

 そして私はジルベールのカップに残っている、冷めたコーヒーを新しく入れ替えると、彼の肩をポンと叩いた。

「さ・・・これを飲んで早く帰れ。一人捕まるとこうして我々が週に一度密会しているのがばれてしまうぞ」

「う・・うむ・・・」

 ジルベールはその言葉を聞いて注がれたばかりで湯気が立っているコーヒーを一気に飲み干し、顔まで隠れるほどのコートを着て出口まで歩くと、背中越しに軽く手を振り、部屋を出て行った。

 私はそれを笑顔で見送ると、一人残された暗い部屋で、自分のカップにもコーヒーを注ぎ、それを静かに口にした。

[64] 後章 『蘇る誇りと栄光の為に』 U myura - 2004/12/31(金) 17:36 -

     A

 ゼネバス帝国が滅んだあの時・・・あの時から我々の生活は厳しいものとなった。ゼネバス・ムーロア陛下は何処か我々の知らない場所へと連れて行かれ、親衛隊の同志達は数十人のグループに分けられ、大陸全土の町や村に散り散りに飛ばされてしまった。そして各町々の同志達は当然のように軟禁状態にある。しかし我々は、週に一度の周期で不定期でこうして密会を開いている。時が来た時、陛下をお救いし、再び我が祖国の旗を中央大陸に翻す為に・・・。

 そして今日も、部屋の片隅に置いてあるラジオから戦争の進行状況が絶え間なく放送される。

『我が軍は南西部の共和国前線基地を強襲・・・・・・敵機甲師団に多大な被害を与え・・・直ちに追撃を・・・・・・』

 愚にもつかない知らせばかりが流れ込んでくる。どうもこの地域は電波が悪いせいか、放送は途切れ途切れになる。そして途切れ途切れのその放送が私の気分をより苛立たせていた。

 あれから何度か密会を開き、我々の町のグループはゼネバス・ムーロア陛下の行方とガイロス軍が開発中との噂の『最終兵器』についての調べを進める為、スパイを送り込むことを決定した。志願者を募ったところ、陛下と祖国の為と言い、我こそはと手を挙げたものは多かった。勿論、あのジルベールも。だが、やはりこれは危険な任務であることと、軟禁状態にある我々がやたらと人数を減らせば監視の目に触れやすくなってしまうということで、最初に手を挙げた二人が請け負うこととなった。この決定にジルベールは不服そうではあったが、私の説得でしぶしぶこれを認めたのだった。

 そして今日、スパイに送り込んだ二人からの定期連絡が入る日だ。同志達が再び一堂に集まり、ありあわせの部品を掻き集めて作った電信機を取り囲む。軟禁されている我々には当然通信装置の所持など許されることも無く、この電信機は電気機器いじりが得意と普段から豪語しているジルベールが長い時間をかけて作ったものだった。

 長い沈黙が続いていた中、ついに電信機が動き出し、続々と電信機から通信を受けた紙が排出された。だが、それを見た途端、集合した同志達は一斉に青ざめてしまった。

「これは・・・一体・・・・・・」

「まさか、本当にこんなものが・・・!?」

「プラズマ粒子砲だと!?こんなものが投入されれば・・・」

 先程まで風の音さえ聞き取れる程静かだった部屋が、その通信により、瞬時にしてざわめき立つ同志達の叫び声で埋もれてしまった。

 そう、この『最終兵器』と呼ばれたこれこそ、後に共和国を首都ヘリックシティまで追い詰める、ガイロス帝国の最強にして最凶のゾイド、ギル・ベイダーだったのだ。

[66] 後章 『蘇る誇りと栄光の為に』 V myura - 2004/12/31(金) 17:38 -

     B

 ギル・ベイダー・・・この名を聞き、その性能を耳にしたその時から、我々は荒れた。元は志を同じくして集った同志達の中に、それぞれの意見の相違から亀裂が入り、既に修復不可能なまでにその亀裂は深まっていた。こうなっては共和国にこのことを知らせる他ないと言う者、送り込んだスパイを使って破壊工作を行おうと言う者、このまま様子を見ようと言う者・・・。その中で、私とジルベールは保守の意見を主張していた。

「皆、待ってくれ・・・これ以上、事を大きくしてしまえば、何処かに幽閉されていると思われる陛下に多大なご迷惑をかけてしまうということはわかっているだろう・・・!そして、我々は今、今までの苦労をしてようやく、小さな蝋燭の火を灯すことができたのではないのか!これから、この火を大きくしていく為にも、ここは耐え時ではないのか!今、焦って火を消してしまえば、全て無駄に、犬死にで終ってしまうのではないのか!」

「しかし!このままでは共和国の劣勢は目に見えている!共和国が帝都まで上り詰めたその時に、行動を起こそうということではなかったのか!このままではそれも無駄になってしまうぞ!やはりここは共和国に・・・」

「何を言う!今更共和国になど頼っていられるか!既に頼れる存在などなくなっている!今、我々が行動を起こさずして如何様にされるおつもりだ――――



 それ以来、我々が一堂に会することはなくなった。それぞれ同じ意見を主張する者同士で集まり、それぞれの行動の為に、動いていくこととなった。

 ZAC2053年、10月。いつものラジオ放送から、衝撃的な情報が立て続けに我々の耳を刺し貫いた。共和国軍の最前線基地に、あのギル・ベイダーが奇襲を掛けたと言うのだ。奇襲を掛けられた共和国軍は完全に壊滅、生き残ったものはいないという。そして同月、その勢いを失わぬまま、ギル・ベイダーは共和国本土である中央大陸デルポイ、しかもその首都であるヘリックシティへの大陸間にも及ぶ空襲を敢行したと言うのだ。ほとんど対抗策のないまま空爆を受けた共和国首都は、一瞬のうちに炎の海と化し、後に聞いた話だと、その時失われた共和国人民の数は、一般人、軍人合わせて8万人にも及んだと聞く。その後、怒りに燃えた共和国のサラマンダーF2(ファイティングファルコン)を主とする精鋭部隊が追撃に掛かったが、彼らもまた、生きて戻ることはなかったと言う。

 今、保守派を貫く同士として残っている者は、私とジルベールの二人のみとなっていた。あれから袂を分かったかつての同士達のことは、何の話も聞かない。ギル・ベイダーが動き出したと言うことは・・・破壊工作を試みた者達の行動は、失敗に終ったのだろう。また、何の情報もなく、ヘリックシティが空爆を受けたということは、共和国への連絡を試みた者達も・・・・・・。これらのラジオ放送は、彼らの確実な死を意味してもいた。

 それでも、我々二人は、ただ、耐え続けた。

 ZAC2054年、5月。ギル・ベイダーによって制空権を奪われ、空の補給戦を完全に断ち切られていた共和国軍が、その命運をかけて三十五にも及ぶ海戦タイプに改造したマッドサンダー艦隊でついに行動を開始。だが、トライアングルダラスに差し掛かったところで、またもギル・ベイダーによる奇襲を受け、壊滅。

 立て続けに聞かされる共和国軍敗退の情報に、我々は一時、絶望感をも垣間見た。だが、翌月。半ば信じられないような情報が入った。再び共和国首都を爆撃する為に飛び立ったギル・ベイダー大隊のうち一機が、共和国軍の新鋭飛行ゾイド、オルディオスに撃墜されたと言うのだ。今まで無敵を誇っていたギル・ベイダーが、ついに折れた。そしてオルディオスがその時配備された数は五百機。信じられない逆転劇を、我々は聞かされた。

 その夜。ずっと軟禁状態である我々は、その唯一の『国』である、小さなログハウスのベランダで、久しぶりに飲み明かした。

「生き残ってもみるものだな・・・なぁ、相棒」

 その情報に少々浮かれ気味に見えるジルベールが、抑えきれない笑みを浮かべて、私に語り掛けてきた。

「そうだな・・・彼らの選択を責めるわけではないが、同士達が皆、ここに居ればそれ以上のことはないのだが・・・・・・」

「おいおい、こんな時まで何言ってんだ。そんな過ぎちまったこと振り回しても、何の特にもなりゃしねぇぜ」

 ベランダの柵に寄りかかり、半ば憂愁した風の私に、ジルベールは赤い顔で笑いかける。

「おっと・・・これは一本取られたな」

 予期せぬ彼の一言に、私は思わず苦笑いを浮かべた。

「ははは、俺だっていつまでもお前にリードされてばかりじゃないぜ」

 そう言って笑い合いながら、私達はそれぞれ片手に持っていたウイスキーを、一気に飲み干した。その夜は、いつもよりも星がはっきりと、綺麗に見えたような気がした。

[67] 後章 『蘇る誇りと栄光の為に』 W myura - 2004/12/31(金) 17:39 -

     C

 それから共和国は、オルディオスを本格的に参戦させ、それを主力に、圧倒的劣勢であった戦況を打開しようと、暗黒軍と互角以上に渡り合い続けた。

 ギル・ベイダー捕獲作戦、TFゾイドの参戦。共和国軍は立て続けにその勢力を盛り返そうと奮戦し続けた。だが、暗黒軍もそれを手を拱いて見ていたわけではなく、それからもギル・ベイダーを主力に押し続け、アイス・ブレーザーによる共和国基地の強襲、ガン・ギャラドの開発など、共和国の優勢を許さなかった。

 しかし、ZAC2055年、大きく揺るぐことのなかった戦線も、共和国があるゾイドを開発したことにより、大きく変わり始めた。そう、キングゴジュラスである。秘密裏に開発されていたキングゴジュラスの突然の参戦に、暗黒軍は浮き足立った。それでも暗黒軍は何とかその進撃を止めようとアイス・ブレーザーやガン・ギャラド、開発されたばかりのデス・キャットで決死の攻撃に出る。だが、それでも荒ぶる巨神の足を止めることができず、後に向かわせたギル・ベイダー隊でさえもそれは適わなかった。そして、ついにその足を止めることなくキングゴジュラスは帝都ダークネスに辿り着き、ガイロス宮殿にまで手を伸ばした。だが、暗黒軍は総力を結集し、そこで死を覚悟の決戦を挑んだ。そして彼らが時間を稼いでいる間に、ガイロス皇帝は秘密基地に渡り、自ら最強ゾイド、ギル・ザウラーを駆り、最後の戦いをキングゴジュラスに、ヘリック共和国に挑んだ。

 しかし、全てに終止符を打つ一筋の閃光が着々と近づいていることを彼らは知る由もなく、運命の時は訪れた・・・・・・。

 ZAC2056年。突如飛来した巨大隕石が、惑星Ziの3つの月のひとつを直撃。砕けた月の破片が、この星の地表に降り注いだ。中央大陸デルポイは3つに分断され、暗黒大陸ニクスは大陸の一部が水没。元々『魔の海域』として恐れられていたトライアングルダラスは、その影響で電磁波を増し、完全に通行不能な海域となった。惑星Ziの歴史のほとんどを溶岩の中に飲み込んだこの忌まわしき彗星衝突は、後に『惑星Zi大異変』呼ばれた。

 我々は、その災害の只中をただ、ただ、耐え続けた。そしてあれから数十年・・・私達は、年老いた。だが、誰一人として心に抱いた希望の灯火を絶やすことなく、耐え続けた。

 そして、帝国復興の中、覇王と歌われたガイロス皇帝は死に、大異変でその血族のほとんどを失った皇族は幼帝ルドルフを立て、ついにその後押しをする摂政に、あのギュンター・プロイツェン閣下がその任に就いた。実権を握った閣下は、あの大異変からの復興で、民衆から絶大な信頼と支持を受けていた。そしてそれを背景に、政敵を次々と粛清し、議会を完全に掌握。最後に彼は、歴戦のゼネバス兵を掻き集め、あの『PK師団(プロイツェンナイツ)』と『鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)』を作り上げた・・・。



 そして、我々にその手が差し伸べられた時は、今まで続けてきた、『耐え忍ぶ戦い』に大きな希望の光が見えたと、ジルベールと二人、子供のようにはしゃぎ喜んだものだった。私とジルベールはすぐさまその声に与り、PK師団に配備されることとなった。そして同じくして集められたゼネバス兵が一堂に会した時は、今までこんなにもたくさんの同志達が生き残っていたのかと、また喜びの念に満ち溢れた。そして何より、ギュンター・プロイツェン閣下の元で働けるということが我々には誇らしく思われた。その時集まった者たちは皆、同じ思いであったことだろう。

 それから我々は、その時が来るのを心待ちに働き続けた。

 ―――あと少し・・・あと、少しなのだ・・・・・・。

 私とジルベールはかつての愛機と同種であるアイアンコングPKを与えられ、帝都を守り、内部抗争の鎮圧、反乱因子の粛清に当たった。だが、それも表向きでの話だ。裏では常に鉄竜騎兵団が動き、必ず来るその時の為に準備を重ねた。

 そして、ガイロス、ヘリックの両軍がその軍事力の大部分を注ぎ込み、凄まじいまでの消耗戦を繰り広げた西方大陸戦争を越え、続け様に突入した暗黒大陸戦争。この時既に、両軍合わせて数十万単位の戦死者を出していた。2度に渡る総力をあげた全面戦争。この影には、常に鉄竜騎兵団が暗躍していた。どちらか一方が優勢になれば、優勢な側を襲い、逆となれば、それもまた然るべく対応を取った。このように両国の国力を確実に削る消耗戦になるように、プロイツェン閣下は常に仕向けていた。思えば、既に閣下の壮大な策略は結末へ近づいていたのだ―――――

[68] 後章 『蘇る誇りと栄光の為に』 X myura - 2004/12/31(金) 17:40 -

     D

 そして今、我々は行動を起こした。全ゼネバス兵が切望したこの時がついに来たのだ。思い返せば、閣下が摂政の任に就いてからも、全ての戦争において、真っ先に最前線に飛ばされたのはゼネバス兵だった。西方大陸戦争における、ガイロス帝国軍撤退の際に、ガイロス兵を逃がす為に盾とされたエレファンダー決死隊。そして命からがら逃げたところへ追撃を掛けてきた共和国空軍を退けたレドラー決死隊。いずれもゼネバス兵だ。だが、彼らもガイロス兵を逃がす為に戦い、果てていったのではない。後に新生ゼネバス帝国皇帝となるべき、ムーロアの血族を逃がす為に戦い、果てていったのだ。あまりにも大きな犠牲の上に我々は立ってしまった。だが彼らにとってそれは、この上なく誉れ高いことであったろう。そして、我々にとっても。



 雪が絶え間なく、降り頻る。ヘルキャットの群れを打ち崩した後、私は少しずつ、慎重に愛機の歩を進めた。このような市街地では、建物の陰に潜むことでいくらでも奇襲を掛けることができるのだ。敵もお飾り部隊とは言え、ただ闇雲に突っ込んでくるだけというわけではない。ビルの陰に潜み、突然飛び掛ってくるものもあれば、狭い路地を挟んで狙撃してくるものもいる。そのことを踏まえた上で、慎重に進んでいかなければならない。全神経をレーダーに集中させた。

 すると、間もなくして右前方の建物の陰から、数機のレブラプターが、私に向かって飛び掛ってきた。だが、それを一足早く察知していた私は、冷静にマニューバスラスターを点火、大きく跳び上がる。私を狙って振り下ろされた幾つものクローは空しく中を切り裂いたのみであった。スラスターで高くジャンプした私は、先程私がいた、その真下に向かって10連ミサイル、パルスレーザーガンを続け様に叩き込み、それらを一瞬のうちに沈黙させた。

「ジルベールも・・・この戦場のどこかで、戦っているのだな・・・」

 私は今朝、行動を起こす直前に、永久の別れを告げた親友を憂いだ。ところが、その少し気を緩めたその時、僅かに反応が遅れた。鈍い衝撃音。コンピューターが破損箇所と被害状況を弾き出す。上腕部に被弾。ミサイルによる攻撃だった。だが、ダメージはそれ程深刻なものではない。まだ、やれる。即座にそれらを確認すると、間髪要れず、ミサイルの発射地点を割り出した。左前方200メートルに聳え立つ建物の屋上。アイアンコングだ。敵は続けて第二弾を放つが、スラスターで機体を小さく横滑りさせ、それを軽くかわす。停止と同時に、ビームランチャーのトリガースイッチを引いた。コックピットのど真ん中に命中。一瞬の閃光と共に爆炎が上がり、その煙が大きな柱となって空へ立ち昇った。そして、その爆炎から、帝都の空を流し見る。あちこちで閃光と衝撃音が繰り返され、帝都の空は赤く染まっていた。

 ふと気が付くと、雪は霰交じりの吹雪に変わっていた。ずっと中央大陸にいたならば、このような状況下で普段通りの戦闘を行うのは至難の技であったろう。皮肉なものだが、今まで極寒の土地であるニクスにいたことがこの時だけは、有難く思えた。

 もうどのくらいの時間が経ったのだろうか。流し目で皇帝官邸を見る。まだ何も変わった様子はない。閣下はどうなされたのか?少しの不安が頭を過る。しかし、すぐさまそれを思い直した。閣下は誰よりもゼネバス帝国の復興を案じていた筈。どこに疑うところがあるというのだ。そこまで考えると、私は再び戦火の中を睨み返した。

 だが、そこで私はある異変に気が付いた。敵軍の様子が変わってきている。先程までは、ヘルキャットやアイアンコング、レブラプターを中心とした市街戦の為に編成された警備隊のゾイドのみであったのが、たった今、遥か前方を駆けて行ったのは、ライトニングサイクス。本来であればライトニングサイクスのような超高速戦用の機体は、障害物の少ない、荒野や草原などで活用される機体だ。このような場所に配備されるはずはない。だが、その答えはすぐに出た。ガイロス帝国とヘリック共和国の主力がこのヴァルハラに向かっているということだ。閣下の思惑通りに事は進んでいる。これからガイロス、ヘリックの両主力軍は、我々を討ち果たす為に止め処なく帝都に雪崩れ込んでくるだろう。後は、閣下の行動、そして、我々がどこまで戦い抜くことが出来るか・・・それだけだった。

 確かに、両主力軍はあっという間にこの帝都に雪崩れ込んできた。その証拠に、既に目の前にはケーニッヒウルフ。後ろには、ライトニングサイクス。どちらも新鋭高速戦闘用ゾイドだ。ここがいくら市街地とはいえ、相手のパイロットは並ではない。二対一では不利だ。

「・・・だが・・・!」

 一瞬の隙を突いて、スラスターを全開で目の前のケーニッヒウルフへと躍りかかった。当然、ケーニッヒウルフの眼前に到達するまでの間に、背中に向かって容赦なくレーザーが浴びせ掛けられる。鋭い衝撃音が鳴り、スラスターの出力が極端に落ちた。マニューバスラスターのメインエンジンがやられたのだろう。だが、私とコングはそれに怯むことなく突き進み、ケーニッヒウルフの頭部にその豪腕を叩き付けた。本来の広い場所であれば、ケーニッヒウルフを操るほどのパイロットであれば、このくらいの攻撃を避ける事は造作もないことだろうが、ここは市街地だ。無闇に飛び回ることはできない。ケーニッヒウルフはその一撃をまともに受け、その場に崩れ落ちた。その後もライトニングサイクスはレーザーを撃ち続けてきたが、それに耐えながら先程スラスター全開で突っ込んだ時の勢いはそのままに、片腕を地面に突き刺し、それを軸にぐるりと機体を反転させると、ビームランチャーを放った。

 目の前の敵は倒れた。度重なる急激な旋回により、既に老体である私自身の体にもかなりの負担が掛かっていた筈であったが、私はそれがほとんど気にならなかった。

 ―――これが、死地に赴く覚悟の成せる業、なのだろうか?

 目の前に下らない疑問がぶら下がってきたが、私は軽く苦笑いを浮かべると、それを一蹴した。そんなことを考えている暇はないのだ。何故なら今、目の前には最も強力な敵がいる。ジェノザウラー。先程ライトニングサイクスが倒れたその後ろから、こちらを真っ直ぐに狙っている。体勢は・・・口を大きく広げ、そこに少しずつ光が集まってきている。荷電粒子砲だ。

「こんな狭い所で撃たれたら・・・たまったものではないな」

 徐々に光が集まっていく様子を見ていると、ある昔の、一つの記憶が浮かび上がってきた。あの時・・・閃光の渦の中へ消えて行った、息子のこと。

 ―――デビッド・・・お前もあの時、こんな気分だったのか・・・?

 ―――なんて・・・拙いこと考えているようじゃまだまだだ・・・!

 ―――私にも、使命がある。

 スラスターはもう使い物にならない。頼れるものは、我が足のみだ。

「うおおおおおおおお!!」

 私は、走り出した。敵の荷電粒子砲のチャージは、もう限界点にまできているようだ。刹那、一筋の光が視界を覆い尽くした。一瞬の時間差を読み、機体を平行に並ぶ建物に押し付ける。接触し、そこにあった建物の壁が崩れる。だが、それもお構いなしで、機体と建物を擦らせながら走り続けた。目の前の敵を打ち倒す、一心で。視界を覆い尽くしていた光が消える。ふと気が付くと、右腕は肩の部分から全て、蒸発してしまっていた。だが、それもお構いなし。先程の荷電粒子砲で仕留める事ができなかったと気付いたジェノザウラーのパイロットは、慌てて体勢を立て直そうとするが、それも既に手遅れだった。アイアンコングの全体重を掛けたタックルが、ジェノザウラーを吹き飛ばす。そのまま後ろのビルに激突し、ビルと共に崩れ落ちた。敵は、もう起き上がることはなかった。

 そして、渾身のタックルを決めた私の愛機も、その瞬間に複合センサーとカメラアイを破損、その場に倒れ込み、起き上がることは不可能だった。同時に私自身も強く頭を打ち付け、数秒間、意識が飛んだ。

 頭から鮮血を噴き出し続ける傷を片手で抑えながら、私はもう動かない愛機のコックピットを開いた。吹雪は、止んでいた。まだ雪はちらほらと舞っているが、先程からは想像も出来ない程、視界は良好だ。完全に空を覆い尽くしていた程の分厚い雲も、いつの間にか薄くなり、所々から幾筋もの光の柱を通している。そして、私の目に一際大きく映った一筋の光の柱。それが照らす先には、ガイロス帝国皇帝官邸があり、その屋根には小さく、蛇に剣を交わらせた紋章の旗が、翻っていた。

 ―――閣下がやり遂げたのだ!!

 この旗が翻るこの時を、どれだけの同志が、どれだけの時間を待ち続けたのだろうか。これまで、志を同じくする多くの同志がこの光景を夢に見て、戦い果てていった。あのゼネバス・ムーロア皇帝陛下も、かつての大異変の中、ひっそりと息を引き取ったのだと言う。

 ―――先に逝った同志達・・・そして陛下は、この光景を見ておられるのだろうか。

 ―――ジルベール・・・お前も、この戦場のどこかで、思い同じく、見ているのだろうな。

 その瞬間、帝都のあちこちから、巨大な、破滅の閃光が広がった。この光は、閣下が先におっしゃっていたデスザウラーの核によるものだろう。かつての戦争で、デスザウラーの実験体1号機が核の崩壊を起こした時、実験地であったオリンポス山は、死の山と化したと言う。それと同じ閃光が幾十も広がり、迫る。そして、遠く眺むる皇帝官邸からも。

 頭の傷を抑えることも忘れ、皇帝官邸に向かい、渾身の敬礼をすると、そのままの体勢で私、ウィリアム・サンダースは叫んだ。『ゼネバス帝国万歳!!』帝都のあちこちから、同じような雄叫びが聞こえたような気がした。

 破滅の閃光は、何者をも逃がすことなく、帝都を包み込んだ・・・・・・。

[69] エピローグ myura - 2004/12/31(金) 17:40 -

◆エピローグ

 PK師団とギュンター・プロイツェン・ムーロア皇帝を捨て駒に、残された鉄竜騎兵団は進撃を続けた。そしてその先頭には、ムーロアの名を受け継ぐ男。彼らは故郷を目指し、進み続けた。

 帝都ヴァルハラにて、主力のほとんどを失ったガイロス帝国とヘリック共和国はもはや敵ではなかった。その勢いは止まることを知らず、ただ一点、中央大陸デルポイを目指して。


 そして、後に彼らは、中央大陸に到達。第二代皇帝ヴォルフ・ムーロアを筆頭に、ネオゼネバス帝国として、かつての栄華を誇った祖国、ゼネバス帝国という華を、返り咲かせることとなる。散っていった旧ゼネバス兵全ての名が刻まれた、尊き墓標を踏み越えて―――――

[70] 初めまして。 myura - 2004/12/31(金) 17:44 -

お初にお目にかかりますmyuraと申します。
これから少しずつではありますが、各駄文を書き込ませていただきたく存じます。
今回は挨拶代わりにと、昔書いたものに書き足したものではありますが、投稿させていただきました。たいしたものではありませんが、一読していただければ幸いです。
それでは今後ともよろしくお願い致しますm(_ _)m

[71] お上手です〜 ヒカル - 2005/01/01(土) 21:13 - HOME

一通り読ませてもらいましたがいやお上手の
一言です。戦闘の状況など細かく書いてあり
とても読んでいてわかりやすく面白いです。
これは管理人も見習わなくてはいけませんね・・

[362] イソップの磯釣り 赤塚慎也 - 2012/04/02(月) 10:30 -

成り済まし豊作

[388] kogito カインD型 - 2013/04/20(土) 22:05 -

↑[362]の方……今日は行かれないんですか? 病院の方には。



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