ゾイド系投稿小説掲示板
自らの手で暴れまくるゾイド達を書いてみましょう。
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――――――――ZAC2099年9月29日――――――― 後に西方大陸戦争の戦況を狂わせ、幾つかの悲劇の起源となり、そして約数万年近く不変の姿を保ってきたオリンポス山の地形すらも一変させたオリンポス山での戦闘が最初に行われたこの日も、オリンポス山は、その8000mにも及ぶ巨大な姿を周囲に誇示していた。そしてそれは、天の梯子の様に天空へ向けて聳え立っていた。オリンポス山とその周囲にある2つの湖を含む地域は、現在ガイロス帝国軍によって制圧されていた。帝国は、この地域に第9装甲師団を中心に、4個師団を置いていた。それらは、アイアンコングやレッドホーンといった大型機も多数含まれていた。だが、それらのゾイドや兵士でオリンポス山全体をカバーできるわけではなく、4個師団に及ぶゾイド部隊は、オリンポス山山頂の施設を守ることを目的として各地に設営された基地に分散配置され、防衛線を形成することになっていた。しかし大型ゾイドを迎え入れることの出来る基地は辛うじて両手の指で数えられる程しかなかったのである。両軍の切り札でもあるアイアンコングやゴジュラス等の大型ゾイドは、戦力的には、強力であるものの整備に手間がかかり、専用の施設を必要とする場合もあり、大規模な整備施設を含む基地を必要としていた。それら主要な基地以外の防衛線外周に位置する基地に展開している戦力は、未だに小型ゾイドが中心であった。更に言えば、9月の段階では、その小型ゾイド部隊を受け入れることのできる小規模基地すらも、半数が未完成の状態だった。対するヘリック共和国軍は、高速戦闘隊のコマンドウルフや強襲戦闘隊所属のダブルソーダによる強行偵察によってこのことを把握しており、防衛線の隙間を突く攻撃を計画していた。オリンポス山攻略作戦で、高速戦闘隊を作戦の要にしたのには、高速戦闘隊が最も共和国軍の中で戦果を挙げているという理由だけでなく、高い機動性を有していたという理由もあったのである。―――――― 第336基地 ――――――オリンポス山付近の森林地帯に建設されたこの基地は、ガイロス帝国軍がオリンポス山防衛のために形成した防衛ラインの外周に位置していた。現在、基地の周囲には、索敵用にゲーター3機が待機していた。ディメトロドン型小型電子ゾイド ゲーターは、背びれのレーダーシステムと連動した背部ビームガトリング砲は、命中率を誇る。また電子戦機としては安価なため、ガイロス帝国だけでなく、エウロペの小国家も採用している国は少なくない。このゲーターは、森林での戦闘用にグリーン系統の迷彩塗装を施していた。この仮設基地には、ゲーターの他にイグアン、サイカーチスが配備されていた。イグアン、サイカーチス、ゲーター、そのどれもが、小型ゾイドである。この様な仮設基地には、大型ゾイドの整備は、不可能か、可能でも数機のみに限られてしまい、数機の大型ゾイドを配備する位なら、10機以上の小型ゾイドを配備出来る方が、戦術的にも、戦略的にも有効であると帝国軍参謀本部は判断したのである。この基地の周囲に配置されたゲーターは、早期警戒機として配備されていた。ゾイドの整備施設と兵員の居住区が重視されている仮設基地のレーダーは性能が低く、その為、電子戦ゾイドであるゲーターの存在は貴重であった。「上層部の奴らは、共和国の奴らがまた来るとでも思ってるのか…」警戒網の一角をなすゲーターのパイロットの一人は、水筒の水を飲みながらコックピットで愚痴った。多くの帝国兵士にとって敗走した共和国軍がこのオリンポス山を制圧する等、兵力の無駄だと考えていたのである。次の瞬間、そのゲーターは、木々の合間から放たれたビームを胴体に受けて爆発炎上した。「敵襲!」哨戒線を形成していたゲーターが攻撃を受けたことで、基地からゲーター5機とイグアン3機が出撃した。「シールドライガー!?」出現した敵機は、シールドライガーmkUであった。その後ろにはコマンドウルフが複数確認できた。「全機撃ちまくれ!」ゲーター部隊は、唯一の射撃火器である小口径ビームガトリング砲で弾幕を張る。アルバート中佐のシールドライガーmkUは、Eシールドでその攻撃を防ぐ。Eシールドが解除されると同時に、後方にいたコマンドウルフ2機がゲーター部隊に襲い掛かった。「逃がすか!」ハルド中尉のコマンドウルフが、背部のビーム砲でゲーター2機を撃破する。背鰭を撃ち抜かれたゲーターは、本体に誘爆し、黒煙を上げながら動きを止めた。ゲーターのコックピットをコマンドウルフの電磁牙が噛み砕いた。「まずは1機だな!」パイロットのゲイル・カールセン中尉は、そういうと次の敵機に襲い掛かった。「行かせるか!」イグアンが4連装インパクトガンを乱射しながら、立ち塞がったが、シールドライガーmkUは、右前足のストライククローで張り倒す。イグアンは、跳ね飛ばされ、後ろに茂る樹木を薙ぎ倒して動きを止めた。基地を破壊するべく、シールドライガーmkUは、地球の針葉樹に似た金属樹木が生い茂る森林地帯を駆ける。そこに仮設基地より発進したサイカーチス3機が上空から襲い掛かった。カブトムシ型飛行ゾイド サイカーチスは、旧ゼネバス帝国が開発した対地攻撃ゾイドで、ロールアウト当初は、優れた対地攻撃性能で地上部隊を支援し、度々苦しめられたヘリック共和国軍は、対抗機としてダブルソーダを開発したほどであった。対空火器の発達で、かつての程の脅威ではないが、それでも陸戦ゾイドにとっては油断できない機体である。またガイロス帝国軍は、サイカーチスを再配備する際、兵装を最新式のビーム兵器に換装することで攻撃力を増強していた。上空の3機のサイカーチスは、基地に接近するシールドライガーmkUを阻止しようと機首の角と胴体側面のAZ20mm2連装ビーム砲と小口径荷電粒子砲で狙い撃つ。上空からのビームによる攻撃がシールドライガーmkUに浴びせられた。降り注ぐ光の雨をバックステップで、シールドライガーmkUは回避する。「ちぃ!」アルバートは舌打ちした。「落ちろ!」ジェフ少佐のコマンドウルフ改が背部ロングキャノン砲側面のビームガンを連射した。ビームはそれぞれサイカーチスのコックピットを撃ち抜いていた。コックピットを撃ち抜かれたサイカーチス3機は、森に墜落して爆発した。シールドライガーmkUは、整備基地に接近した。「シールドライガー?!」整備基地の目の前に現れた敵機を見て帝国兵士達が逃げ惑う。「食らえ!」アルバートのシールドライガーmkUのビームキャノンとミサイルポッドを発射した。それらの攻撃は、無防備な基地施設に着弾した。ビームキャノンが基地の倉庫とエネルギータンクを破壊し、爆発を引き起こした。格納庫に命中したミサイルは、内部で炸裂し、破壊の炎を撒き散らした。爆風が、整備作業中だった整備兵を全滅させると共に中にあったイグアン3機を薙ぎ倒す。格納庫の屋根が吹き飛び、格納庫は、瞬く間に崩壊した。仮設整備基地は、火の海と化し、完全に機能を失ったのは、明らかであった。「全機退却!追撃部隊が来る前に後退するぞ」「「了解!」」任務を達成したブルー・ファイヤー隊とグリーン・アロー隊は、増援の帝国軍部隊が来る前に撤退した。「メアリーとバートは無事だろうか?」「エミリアとデュランがついてる。大丈夫だろう…」
同じ頃、エミリア大尉が指揮官を務める別動隊も攻撃を開始していた。「隊長殿やりますかい?」デュラン大尉は、指揮官であるエミリア大尉に尋ねた。「まだです。グスタフが基地内に入った瞬間を狙います」「了解…」帰還後多くのブルー・ファイヤー隊、グリーン・アロー隊所属の兵士同様に1階級昇進したデュランは、エミリア大尉と同じく大尉であり、同階級であったが、便宜的にエミリア大尉が指揮官となっていた。彼同様にアルフ・ローウェルも大尉に昇進していたが、指揮官経験の有無や士官学校を出ている、出ていない、卒業成績等の問題でエミリア大尉が指揮官となったのである。他のブルーファイヤー隊、グリーン・アロー隊の使用するコマンドウルフと異なり、エミリア大尉のコマンドウルフは、通常型ではなかった。彼女のコマンドウルフは、頭部にスコープ、背部にコマンドウルフの全長に匹敵する長さの砲、後脚部にエネルギータンクを装備していた。彼女のコマンドウルフは、レールガンカスタムと呼ばれるタイプであった。背部のレールガンは、旧大戦時に、当時暗黒軍と呼ばれていたガイロス帝国軍のゾイドに対してコマンドウルフの武装の貧弱さが問題視された際に、対策として開発された装備の1つを再現したもので、砲身レールと弾数の問題で、10発しか撃てないものの、帝国軍の誇る大型ゾイド アイアンコングの重装甲をも撃ち抜く威力を有していた。これによって攻撃力では、既存の中型ゾイドの中では、最高レベルにまで達していた。そしてその代償としてレールガンの重量分、機体は重くなっており、エネルギータンクも合わせて通常の機体よりも運動性と機動性は低下していた。対策として装備を炸薬によってパージすることが可能であったが、その場合、武装はエレクトロンバイトファングのみになる為、レールガンの10発しか撃てないことと相まって扱いにくい微妙な機体だった。またデュランのコマンドウルフも通常型と異なる装備だった。彼の機体の背部には、ガトリング砲が搭載されていた。そのガトリング砲は、帝国軍のレッドホーンが運用しているビームガトリングに比べれば、小型であったが、コマンドウルフのサイズと比較すると十分すぎた。このガトリング砲は、対小型ゾイド用に開発された装備で、エミリアのコマンドウルフ・レールガンカスタムとは逆に多数の敵を目標とした兵器であった。彼らの視線の先には、攻撃目標である帝国軍補給基地は、後方の補給拠点から防衛線を形成する仮設基地に兵員や補給物資を送り込み、損傷したゾイドの整備を行うために建設された基地で、帝国軍の防衛線の内側に位置していた。本来なら途中に帝国軍パトロール部隊と遭遇して接近することは出来ない。だが、今回は、アルバート中佐の部隊を含む、他の共和国軍部隊が、警戒網を形成する仮設基地やパトロール部隊を攻撃している隙に防衛線の内側に潜入したことで、ここまで接近することに成功していた。この部隊が、中型、小型機のみで編成されているのには、敵に発見されにくくするためという事情もあった。また森林地帯に溶け込むためゾイドのカラーリングを全てグリーン系統に再塗装していた。「攻撃開始!」まず、攻撃は低空より行われた。森林の間から2機のダブルソーダが飛び出し、帝国軍補給基地に突撃した。「当たれ!」「食らえ!」メアリーとバートの操縦するダブルソーダ2機は、胴体下部に搭載した小型爆弾を次々と基地に投下した。プテラスやレドラー等の本格的飛行ゾイドに比べ、遥かに爆弾を搭載できる量は少ない。それでも小型ゾイドや歩兵にとっては脅威である。小型爆弾は、補給基地にあったコンテナ等を破壊し、一部を誘爆させた。更にダブルソーダ2機は機銃掃射を補給基地に浴びせた。機銃弾を浴びた帝国兵が次々と倒れる。帝国軍は、突然の奇襲攻撃に有効な対応できなかった。基地内から対空ミサイルが2発発射されたが、メアリー少尉とバート少尉のダブルソーダは、チャフスモーク弾を機体後部から発射してミサイルを攪乱した。すれ違いざまにバートのダブルソーダがイグアンの頭部をブレイクソードで切り裂いた。爆撃を終えた2機のダブルソーダは、森林へと消えていった。次に遠距離からの狙撃が基地を襲った。コマンドウルフ・レールガンカスタムは、森林地帯に潜伏し、補給基地の電力の大半を賄っている発電施設を狙っていた。「ターゲット確認!発射!」エミリア大尉がトリガーを引く。森に潜伏していたコマンドウルフ・レールガンカスタムが、背部のレールガンを放った。森林地帯から青白い矢が迸った。背部レールガンから発射された特殊合金製の対大型ゾイド弾頭は、発電施設に着弾した。その一撃は、発電施設の周囲に張り巡らされた防御壁も、発電装置を守る分厚い鉄筋コンクリートの壁も貫き、内部にあった発電装置を寸分たがわず、撃ち抜いていた。発電装置が破壊されたことで、補給基地の機能は大きく低下した。普通の基地なら予備電源が複数存在する。しかし、仮設基地と変わらないこの補給基地は予備電源は小型発電機1つしか存在せず、緊急時には基地のグスタフのゾイドコアからエネルギーを調達して代わりにするという状態であった。「敵襲!敵襲!」「警戒線の部隊は何をしてたんだ?!」補給基地の帝国兵達は、突然の攻撃に慌てた。防衛線の内部に存在するこの基地が、敵の攻撃を受けること等想定していなかったのである。それでも防衛部隊のゾイド部隊や周囲に存在する仮設基地に送られる筈だった部隊がこの基地には存在していた。ゲーター4機、モルガ4機、ヘルキャット6機、イグアン4機が、格納庫より出撃する。数だけで見れば、エミリア大尉の部隊の、2倍近い。だがその編成は、バラバラで、前衛に電子戦用のゲーターが居たり、部隊の後方に突撃ゾイドのモルガがいたりと、慌てて出撃したというのが、一目で見て取れた。彼らの視線の先にある森林からガトリング砲を背負ったコマンドウルフ…デュランのコマンドウルフ・ガトリングカスタムが飛び出した。「全部出してきたみたいですね。大尉!」「何だジャックビビってるのか?」ジャック中尉とアルフ大尉のコマンドウルフがデュランのコマンドウルフ・ガトリングカスタムの左右に並ぶ。「間抜け共が出て来たぞ」「叩き潰してやるか」基地から現れた守備隊のゾイド部隊にデュランのコマンドウルフ・ガトリングカスタムが襲い掛かった。背部の高速ガトリング砲が火を噴いた。その兵装は、大型ゾイドの重装甲を打ち破るには、不十分だったが、軽装甲の小型ゾイド相手には十分であった。集中射撃を受けた指揮官機のヘルキャットが頭部を粉々に破壊され、2機が脚部を破壊されて動きを止めた。ゲーターは、背びれの3Dレーダーが蜂の巣にされていた。全高の高いイグアンは、ゾイドコアのある上半身に攻撃を受けて2機が破壊された。例外的に大型ゾイドに匹敵する頭部装甲を持つモルガは、全高が低いことと相まって大した被害を受けなかった。傷付いた帝国ゾイド部隊に3機のコマンドウルフが飛び掛かった。アルフのコマンドウルフが、背部のAZ50mm2連装ビーム砲でイグアンの胸部装甲を撃ち抜く。ゾイドコアを破壊されたイグアンは崩れ落ちた。ジャックのコマンドウルフがヘルキャットの頭部をかみ砕いた。「邪魔だ!」デュランのコマンドウルフ・ガトリングカスタムは、機動性が低下している為、本来接近戦には向いていない機体である。ゲーターのコックピットを踏み潰し、向かって来るイグアンをストライククローで叩き伏せ、レーザーカッターをむき出しにして突撃して来るモルガを至近距離からのガトリング砲射撃で撃破する。「一丁上がりだ!」モルガの側面に回り込んだアルフのコマンドウルフがビーム砲を叩き込んでモルガを撃破した。「仕上げだ!」コマンドウルフ・ガトリングカスタムが高速ガトリングをグスタフが駐機している駐機場と整備施設に向けて掃射した。ガトリングの砲身が高速回転し、数千発もの銃弾が吐き出される。吐き出された銃弾は、駐機場の施設を引き裂き、そこに待機していたグスタフ数機をその下敷きにした。整備施設は、銃撃を浴びて炎上した。ゴジュラスやアイアンコングに匹敵する装甲を有する輸送ゾイド グスタフは無事だったが、瓦礫に埋もれ、操縦者がいないのでは、案山子同然である。整備施設と駐機場を破壊された補給基地はその機能を失った。「さて…そろそろ引くか…」「デュラン大尉!」ジャックの警告と同時に廃墟と化した整備施設の1つから砲弾が発射された。デュランは回避しようとしたが、回避できず、背部のガトリング砲を失った。「くっ」「…ブラックライモスだと?」出現したのは、サイ型中型ゾイド ブラックライモスだった。ブラックライモスは旧ゼネバス帝国軍が当時のガイロス帝国の支援を受けて開発した突撃戦用ゾイドで、全身を覆う重装甲と胴体の大型電磁砲を初めとする大型ゾイドに匹敵する多彩な兵装が特徴であった。背部には、レッドホーンと同様に偵察用ビークルが搭載され、頭部の特殊合金製の高硬度ドリルは、最大出力で使用した場合、ウルトラザウルスの脚部装甲すら貫徹可能だと言われる程の威力を持っている。総合能力では、大型機に匹敵するとも言われるブラックライモスは、ZAC2099年現在では、野生体の個体数問題等からか、再生産も、本格的な再配備もされていないが、旧大戦の頃に生産された機体がガイロス帝国陸軍には少数ながら配備されている。恐らくこのブラックライモスもそのような機体の1体なのだろう。「ちっ」ブラックライモスの防御力は、大型ゾイドのレッドホーン並みで、一部の装甲は、それ以上の防御力を有している。とてもではないが、コマンドウルフの装備火器で撃破できる機体ではない。「まずいな…」頭部のドリルを回転させ、突撃しようとした次の瞬間、ブラックライモスは、正面から頭部に砲撃を受け、爆発炎上した。「え…」「大尉流石です!」それは、エミリア大尉のコマンドウルフ・レールガンカスタムのレールガンによる攻撃であった。レールガンの一撃は、ブラックライモスの頭部の特殊合金製の高硬度ドリルを粉砕し、頭部装甲とそれに守られたコックピットを破壊し、胴体部のゾイドコアを撃ち抜いていた。中型ゾイドでも最高レベルの防御力を誇るブラックライモスをここまで破壊する能力を持つレールガンは、欠点こそ多いが、破壊力のみでは優秀な兵器であることは明らかであった。「全機退却!」コマンドウルフ3機はスモークディスチャージャーを作動させ、煙幕に紛れる様に退却していった。この日、ブルー・ファイヤー隊とグリーン・アロー隊は、4つの帝国軍の基地を破壊し、30機近い帝国軍ゾイドを撃破した。これと同様の襲撃は、共和国軍高速戦闘隊の手により、オリンポス山各所で行われていた。ヘリック共和国軍高速戦闘隊だけでなく、それを支援する為に投入された他の部隊も活躍していた。ステルスバイパー6機で編成される第38森林戦小隊は、基地に物資を輸送する帝国軍補給部隊を待ち伏せしていた。そして、かつてグリーン・アロー隊に所属していたハーバート・ラング少尉とリン・ラーソン少尉もその中にいた。「全機、もうすぐ敵が来るぞ、敵は我々に気付いていないが、油断はするなよ…」小隊長が言う。灰色がかった金髪を角刈りにした筋骨隆々のこの男は、第1次全面開戦後の撤退戦で、遅滞戦闘に従事した経験を持っていた。「敵が来たぞ。」敵…前線の基地に向けて補給物資を輸送するガイロス帝国軍の輸送部隊は、コンテナを搭載したトレーラーを1つ牽引したグスタフ1機と護衛機で編成されていた。護衛部隊は、イグアン2機、ゲーター1機、モルガ6機で、護衛対象のグスタフを囲むように配置されている。ステルスバイパーの全高の低さと機体の優れた排熱システム、森林地帯を形成する金属樹木とそこに生息する地球の蝶や蝉程の大きさの昆虫型野生ゾイドの群れの存在によって、レーダーも金属探知機も大きく性能を減じている。そのせいで彼らは、近くに潜むステルスバイパー部隊の存在に気付くことは無かった。隊長機のステルスバイパーが40mmヘビーマシンガンを照準器の中心に捉えた敵機に向けて乱射した。攻撃を受けたゲーターは、背びれとコックピットを蜂の巣にされて爆発した。それは、電子戦ゾイドであるゲーターを破壊することで、敵部隊の眼を奪い、味方の奇襲を成功させやすくするという、指揮官の実戦経験から導き出した答えであった。隊長機の攻撃の直後、ラング少尉ら、部下のステルスバイパーもそれぞれの目標に攻撃を仕掛けた。ラング少尉のステルスバイパーが40mmヘビーマシンガンをグスタフに撃ち込む。銃口より吐き出された銃弾は、グスタフの強固な胴体装甲に着弾した。その攻撃は、グスタフの重装甲の前では、猫が爪で自動車をひっかくような攻撃であったが、攻撃されたことを認識したパイロットの方がパニックを起こしたのか、グスタフは停止した。護衛の帝国軍機は、森林に潜む敵に向けて攻撃を浴びせる。だが、その殆どは、ステルスバイパーに命中することは無かった。リン少尉のステルスバイパーが放った小口径レーザー機銃が、モルガの頭部側面を撃ち抜いた。高い生残性を誇る突撃戦用小型ゾイド モルガは、側面装甲は、小型ゾイドとしては重装甲ではあるが、頭部正面の装甲に比べれば劣る。更に側面には、多くのゾイドにとっての弱点である関節部も存在した。護衛機のモルガは、敵であるステルスバイパー部隊に、その側面を曝していた。「当たれ!」ステルスバイパーが胴体に搭載したロケットランチャーを発射、ロケット弾は、モルガの側面の赤い車輪に命中した後、炸裂した。車輪が吹き飛び、モルガは、黒煙を上げながら動きを止めた。隊長機のステルスバイパーは、イグアン2機を撃破していた。護衛機を次々と撃破され、輸送部隊は、グスタフを残すのみとなった。「逃がさない!」リン少尉のステルスバイパーが、グスタフの正面に接近し、頭部側面の40mmヘビーマシンガンを、グスタフの頭部コックピットに浴びせた。キャノピーを蜂の巣にされ、操縦席を破壊されたグスタフは動きを止めた。「全機撤退!次の獲物を仕留めるぞ」ステルスバイパー隊の指揮官が叫んだ。彼我の戦力比を考えれば、帝国軍に捕捉され殲滅される可能性もあるにも関わらず、彼の口調は、どこか楽しげで、余裕があった。それは、楽観的なのではなく、部下を鼓舞する為のものであった。「ジェフ隊長達は、大丈夫だろうか?」ラング少尉は、かつての部隊の戦友と上官の事を心配する口調で言った。「大丈夫よ。」対照的にリン少尉は、心配ない、と言った口調で返した。彼女も、不安がないわけではなかったが、それを口に出す気は無かったのである。攻撃を終えたステルスバイパー部隊は、次なる敵を求めて密林へと去って行った。ガイロス帝国軍が、オリンポス山を取り巻く様に敷いた防衛線は、それを形成していた基地とそこに展開していた小型ゾイド部隊が打撃を受けたことで次々と無力化されるか、陥落させられ、穴だらけになっていった。対する帝国軍は、迅速に撤退する共和国軍高速戦闘隊の動きに対応出来なかった。帝国軍最強のアイアンコング部隊もレッドホーンとモルガを中核とする突撃機甲部隊も森林地帯に阻まれ、共和国軍高速部隊に追いつけなかった。アイアンコングは、森林でも活動可能であったが、パイロットがその訓練を受けていない者が多かった。更に言えば、機動性で劣っていた。ヘルキャット部隊やサイカーチス部隊は、追撃こそ出来たが多くの場合、返り討ちにされた。共和国軍は、正面戦力では、帝国軍に劣っていたが、オリンポス山周囲の地形的な条件や機動性を生かして、互角以上に戦いを繰り広げた。共和国軍は、帝国軍より奪取した仮設基地や第1次オリンポス山での戦闘で、退却時に設置した秘密物資集積所や放棄した基地を再び利用することで拠点を確保した。中には帝国軍によって破壊されていたり、放置されている間に基地機能が低下していた基地もあったが、グスタフで強行輸送された戦闘工兵隊が基地機能を回復させた。こうして再び、オリンポス山の周囲に共和国軍の基地が存在することとなったのである。
―――――――ZAC2099年 10月17日 オリンポス山付近――――――オリンポス山周辺での戦闘で、ヘリック共和国軍は、高速戦闘隊の機動性を活用し、帝国軍が形成していた防衛線を突破し、多くの基地を破壊もしくは制圧した。彼らの補給用に、帝国軍から奪取した基地や反攻に備えて設営されていた秘密物資集積所や基地が利用された。ブルー・ファイヤー隊とグリーン・アロー隊が、現在、整備と補給を行っているこの第25基地も、戦闘工兵隊が、前線部隊の活動の為に設営した基地の一つであった。これらの基地は、森林に紛れる様に設営され、帝国軍に見つかりにくい様になっていた。ちなみに第1次オリンポス山の戦いの際に一度放棄した基地の中で、再建しても基地機能の回復が期待できないものは、主として囮に利用された。この基地の格納庫には、シールドライガーmkU以下ブルー・ファイヤー隊とグリーン・アロー隊のゾイドが待機していた。「全く、我ながら手がかかるな」ジェフは、愛機たるコマンドウルフ改のコックピットで機体のコンディションを確認しながら愚痴っていた。彼は、このコマンドウルフと共にこの西方大陸に派遣されてから、戦場で回収した残骸等を使い、機体を改造してきた。その為、愛機のコマンドウルフの改造は、自分が始めたものであり、整備兵だけに任せることは出来ないと考えていたのである。これは、彼の信念のみの問題ではなく、整備兵の手に余ることがあるという実際的な問題もある。「必殺の新装備が1回の戦闘で使えなくなるとは…」アルバートは、今いる部屋に隣接する格納庫の景色を強化ガラスを通して見て、呟いた。透明な防弾ガラスを隔てたその視線の先にいる、整備中のゾイド、エミリア大尉のコマンドウルフは、レールガンカスタムではなかった。レールガンの砲身レールが射耗してしまい使用不能となったのが、その理由だった。ちなみにデュランのコマンドウルフは、今もガトリング砲装備型である。「新装備のレールガンの感想は?エミリア大尉」基地格納庫に隣接するパイロット用の待機室には、ブルー・ファイヤー隊指揮官のアルバートと、その副官のエミリアがいた。「威力は素晴らしいですが、問題が多すぎますね…あれは、大型ゾイドが装備すべき武装ですよ。」そう言い終えると、エミリアは、鉄製のデスクに置かれていたコップを手に取り、中身を飲み干した。ちなみに中身は、アイスコーヒーである。「君の前の乗機のゴルドスの様に?」「あのゴルドスは、いい機体でした。」「そういえば、大尉は、あのゴルドスを気に入っていたようだったな」コーヒーを飲み終えたエミリアは、無表情で眼鏡型電子デバイスを調整していた。彼女は、かつての乗機であるゴルドスを気に入っていた。あまり軍や作戦を批判することがない彼女も、作戦の為にゴルドスからコマンドウルフに乗機を乗り換えることになったことについては、不満を感じている様だ。アルバートも、そのことを察していた。「またこの作戦が終われば、またゴルドスに大尉が乗ることになるだろう。」「だといいのですが…」その30分後、アルバート中佐とジェフ少佐は、次の作戦に向けての作戦会議を行うべく、会議室に向かった。今回の作戦は、帝国軍基地への攻撃作戦であった。メルクリウス湖を源流とする川の一つの付近に建設されたこの帝国軍基地は、周辺の基地の補給拠点を担っており、この基地を制圧することで、帝国軍の防衛ラインの一部を機能不全に陥らせることが出来ると考えられていた。また他の帝国軍基地に対しても高速大隊を中心とする共和国部隊が攻撃を行う。この様に共和国軍のオリンポス山山頂攻略作戦成功の為には欠かせない作戦であった。作戦は、独立第1高速大隊がその中核を務める。この部隊は、共和国軍高速戦闘隊に所属する部隊の1つで、ハルフォード中佐が指揮官を務める独立第2高速戦闘中隊もこの独立大隊に所属していた。この部隊は、火力支援機のDCS型も合わせてシールドライガーを30機近く保有する。陽動や予備機等も必要なため、帝国軍基地への襲撃作戦にはこれらの所属機全てが投入されるわけではないが、大きな戦力に違いは無い。今回、アルバートの部隊は、別動隊としての役目があり、独立大隊所属機で編成される主力部隊とは、別行動を取る。またダブルソーダ2機は、アルバート達とは別に臨時でダブルソーダのみで編成される強行偵察隊の偵察飛行任務に参加する。――――――― 第3格納庫―――――格納庫には、ブルー・ファイヤー隊とグリーン・アロー隊のゾイドが発進しようとしていた。この格納庫は、第2中隊所属のコマンドウルフ部隊も使用していたが、先に出撃していた。同様に、バートとメアリーのダブルソーダも2時間前に出撃している。アルバートは、シールドライガーmkUのコックピットの中で、作戦会議の席でのことを思い出していた。「総員、火器管制システムと駆動系を再点検しておけ。」アルバートは、今日何度目かになるその指示を部下に下した。「隊長殿、他に言うことないんすか?大作戦の前とは言え、緊張しすぎですぜ」ゲイルは、半ば皮肉る様な口調で言う。「大丈夫ですよ、隊長、どの機体もベストコンディションです。」ハルドは、苦笑いしながら答える。「問題ありません」エミリアは、最初にその指示を聞いた時と同様に答える。「アルバート、やけに気合が入ってるな」「…」「あのハルフォード中佐が参加するんだから仕方ないか。しかも、奇跡の指揮官として期待してるとまでいわれたんじゃなあ」ジェフは、アルバートのそんな様子を見て笑いながら言った。「…」作戦会議に参加していた、今回の作戦での前線における最高指揮官である独立第2高速戦闘中隊指揮官、ハルフォード中佐は、ガイロス帝国との戦争が始まる以前、南エウロペ大陸の共和国側勢力圏での反共和国武装勢力掃討戦での活躍していた。彼は、ダイノ島付近の沿岸地帯の海賊拠点制圧作戦、ニューヘリックシティ爆撃を企てた旧ゼネバス人武装勢力の攻撃阻止等、第2高速戦闘中隊指揮官として戦功を立てている。アルバートも南エウロペの基地に派遣されていた頃、何度もニュースでその顔を見ている有名人だった。そんな人物に期待していると言われたことは、彼の心を奮い立たせると同時に戸惑いを与えた。奇跡の指揮官、レッドラストの戦いの敗北後、帝国の勢力圏に孤立した中で、敵に見つかることなく、友軍勢力圏まで中隊規模のゾイド戦力を保持した状態で、合流を果たしたアルバートは、客観的に考えれば、その様な評価を受けてもおかしなことでは無い。だが、本人は、その様には考えていなかった。奇跡の指揮官だと、自分は決してそのようなものではない、偶然と部下のおかげでなんとか合流出来ただけである。士官学校の同期生であるジェフやデュラン、副官のエミリアら部下のサポートに何度も助けられた。また自分の指揮を疑うことなく、部下が敵にいつ発見されるかも分からない状況の中で従ってくれたこと、敵軍が予想外に脱出ルート上に部隊を配置していなかったこと…追撃の稚拙さ、何度も訪れた幸運、それらの要素が無ければ、合流することは出来なかっただろう。彼が、身に余る他者からの評価とこれからの作戦の事を気にしていた中、シールドライガーmkUのコックピット内に響いた電子音が発進時刻を告げた。同時に格納庫の扉が開き、強い日差しが差し込んだ。黄金の光が格納庫内のゾイドを照らした。「全部隊発進!」格納庫より発進したブルー・ファイヤー隊とグリーン・アロー隊のゾイド部隊は、シールドライガーmkUを先頭に出撃していった。
目標となった帝国軍基地には、既にガイロス帝国軍も迎撃の為、相当の戦力を配置していた。この基地は、オリンポス山の防衛ラインを形成する小規模基地へ送る補給物資の集積基地として機能していた。またそれらの小規模基地と異なり、規模も大きいため、小型ゾイドに限定されるが、多数の部隊の整備、補給が可能だった。基地自体にも、敵部隊の侵攻から防衛する為、小型の砲台が6台設置されていた。基地後方を流れる川には、部隊の通行の為に、ガイロス帝国軍工兵部隊の手で鉄橋が掛けられていた。帝国軍は、共和国軍の侵攻に備えて大型ゾイドを多数配備した機甲部隊を配備した。また基地の西側には、砂地が存在した。この地は、砂岩で出来た岩山が幾つも盛り上がっており、その間には、ゾイドが通行できる広さの路が出来ていた。帝国軍は、この路を利用されない様に入口に当る場所に対ゾイドバリケードを設置した。この特殊合金製の巨大な長方形の板とそれを支える2本の油圧式アームで構成された障害物は、大型ゾイドの装甲板に匹敵する防御力を持ち、ゾイド部隊の進軍を阻むことが出来た。それでも数枚だけなら、火器を集中することで爆破し、突破する可能性があった。帝国軍は、それを防ぐべくその後方に一定間隔で何枚ものバリケードを展開していた。更にバリケードの後ろの地面の下に多数の地雷も設置しており、この砂礫の野をゾイドが通行するのは不可能な状態だった。それでも工兵部隊等を用いて地雷や障害物を排除した場合に備え、モルガ3機と対ゾイドミサイルやバズーカ等の対ゾイド火器で武装した歩兵部隊3個小隊約80名が配置された。その反対側、基地の東側には、森林地帯が存在していた。この森林地帯は、ゾイド部隊の通行は辛うじて可能という程度で、ライガークラスの機体なら1機程度が通行できる。帝国軍は、当初この森林地帯からの奇襲の可能性を検討したが、森林地帯を通行可能な程度の小部隊ならば、基地の守備隊戦力で十分に排除可能だとして重要視していなかった。帝国側は、小部隊しか通行できない森林地帯よりも、正面から向かって来るであろう共和国軍高速部隊を警戒したのである。これは、戦力を分散させてしまうことで、一部の部隊が、戦力として貢献できない遊兵と化してしまうのを避けるという意味では正しい判断と言える。特に今回、共和国軍が、基地前面の平野を直線に進撃してくる可能性が高い場合は、尚更である。大型ゾイド レッドホーンを複数含む帝国軍部隊主力は、平野になっている場所に共和国軍の侵攻を防ぐ盾となる形で陣取った。そして、準備を整えて1時間後に、彼らが待ち受けていた敵 ヘリック共和国軍は、彼らの目の前に現れた。この基地に侵攻を仕掛けた共和国軍は、高速部隊で編成されていた。共和国軍は、独立第2高速戦闘中隊指揮官であるハルフォード中佐のシールドライガーを先頭に突撃した。少し遅れて独立第3高速戦闘中隊指揮官のフォレスト少佐のシールドライガーを先頭に敵陣に斬り込んだ。部下のコマンドウルフ部隊も彼らに続く。後方にいるシールドライガーDCSやコマンドウルフ・レールガンカスタム、ガトリングカスタム、コマンドウルフAUと言った高速支援機が砲撃で支援する。帝国軍基地に接近する共和国軍高速戦闘隊を阻止すべく、基地守備隊の帝国軍部隊が立ち塞がる。今回は、小型ゾイド部隊だけでなく、「動く要塞」の異名を持つスティラコサウルス型大型ゾイド レッドホーンが16機も含まれていた。この基地にはまとまった数の大型ゾイドの整備、補給が出来る施設がまだ無い為、この部隊は、専用の整備・補給車両としてグスタフ・トレーラー8台を引き連れていた。グスタフ・トレーラーは、背後の基地周辺に展開していた。共和国軍の攻撃から守るためである。ガイロス帝国軍に配備されているレッドホーンは、内部機関の強化、制御用コンピュータ、火器管制システム、火器レーダーの高性能化によって、かつて旧ゼネバス帝国軍が運用していたレッドホーンよりも大幅に性能が向上していた。ガイロス帝国は、「ダークホーンを赤く塗装した様なものだ」とまで喧伝していたが、ヘリック共和国軍は、其処までの大幅な性能向上は、プロパガンダの産物と考えていた。レッドホーン部隊は、背部に装備した3連リニアキャノンと加速ビーム砲を基地に接近する共和国高速部隊に向け、射程圏内に入るのを待った。最初に砲撃したのは、レッドホーン部隊ではなく、その後方にいたイグアナ型中型ゾイド ヘルディガンナー部隊だった。このヘルディガンナーの背中に装備されたロングレンジアサルトビーム砲が火を噴いたのである。このビーム兵器は、命中率・威力の低下を無視した場合の射程距離だけならレッドホーンの主砲よりも射程距離は優れていたのである。ヘルディガンナー部隊に少し遅れて、レッドホーンも次々と砲撃を開始した。「Eシールド展開!」シールドライガー隊は、鬣に装備したEシールドを展開する。旧大戦時は、シールドライガーのEシールドは、ビーム、レーザー等、光学兵器のみしか防ぐことが出来なかったが、ZAC2099年現在、共和国軍に配備されているシールドライガーは、技術改良によって砲弾やミサイル等の実弾兵器もある程度防ぐことが出来た。「全機回避!」シールドライガー部隊のすぐ後方に展開するコマンドウルフ部隊の数機が被弾した。運のいい機体は、装甲が破損しただけで済んだが、運の悪い機体は、大破ないし、戦闘不能に追い込まれた。遠距離からの砲撃を突破した高速戦闘隊の前に赤い動く要塞の列が立ち塞がった。「基地には1機たりとも行かせはせんぞ!」レッドホーン部隊は、指揮官機を中心に半円陣を組んで自らを帝国軍基地への防壁とした。それは、レッドホーンのベースとなったスティラコサウルス型野生体が、捕食者から幼体を守るために組む円陣の習性を基に編み出された戦術で、クラッシャーホーンを振り立て、背部の火器から光の槍を敵機に向けて乱射する姿は、さながら地球の古代の重装歩兵の隊列の様であった。レッドホーンの護衛の小型ゾイド部隊もその円陣の後方や周囲に展開する。最初に共和国軍高速部隊に砲撃を行ったヘルディガンナー部隊は、指揮官以下約半数が基地の周囲に展開する。小型ゾイド部隊の一部とヘルディガンナー部隊の片割れは、レッドホーン部隊の後方、グスタフ・トレーラー部隊の護衛に就く。レッドホーン部隊の組むスクラムは、敵の血潮に染め抜かれた盾の如く、高速戦闘大隊の行く手を阻む。シールドライガー3機がレーザーサーベルとストライククローを青白く輝かせて飛び掛かった。対するレッドホーン部隊は、頭部のクラッシャーホーンを振りかざしてそれを迎え撃つ。たまらず、シールドライガーは、後退を余儀なくされる。ゴジュラスの装甲にも穴を開ける威力のクラッシャーホーンは、シールドライガーの大型ゾイドとしては薄い装甲等、段ボールの様に貫く。シールドライガーは辛くもその攻撃を回避したが、レッドホーン部隊は、至近距離から砲撃して、後退させる。「全弾叩き込めば…」シールドライガーの1機が背部に収納されている2連装加速ビーム砲と胴体両脇に収納されたミサイルポッドを展開、レッドホーン部隊向けて叩き付けた。だが、レッドホーン部隊は、多少装備に損傷を受けただけで健在だった。コマンドウルフ部隊も背中のビーム砲を走り回りながら発射した。レッドホーンは、それらの攻撃を受けても1機たりとも撃破されることは無かった。敵部隊を牽制する為か、1機のコマンドウルフが、レッドホーンに接近した。それは余りにも危険だった。直後不用意に接近したコマンドウルフをレッドホーンは見逃さなかった。クラッシャーホーンを左肩部に受けたコマンドウルフは、跳ね飛ばされ、地面に叩き付けられた。左前脚を大きく損傷したコマンドウルフは動きを止めた。後方から、コマンドウルフ・レールガンカスタムがレッドホーンを狙う。背部に装備したレールガンの威力は、レッドホーンの重装甲も簡単に貫通可能な威力を持っている。レッドホーン部隊は、それを脅威と見做したのか、背部の3連装リニアキャノンの砲塔の上にあるミサイルポッドから自己誘導ミサイルを発射した。16発ものミサイルがコマンドウルフ・レールガンカスタムに襲い掛かる。既に射撃体勢に入っていたコマンドウルフ・レールガンカスタムは、その場を動けない。ミサイルの雨を叩き付けられ、コマンドウルフ・レールガンカスタムは、爆発四散した。「こいつ!」コマンドウルフAUのロングレンジキャノンも、レッドホーンの重装甲に損傷を与えることは出来ても撃破するには威力が足りなかった。コマンドウルフAUは、更に射撃を継続しようとしたが、レッドホーンの反撃の3連装リニアキャノンで追い散らされた。基地の前に壁の様に立ち塞がるレッドホーン部隊によって戦闘は、次第に膠着状態に陥ろうとしていた。トミー・パリス中尉のコマンドウルフ第2小隊と、チエ・スミス少尉のコマンドウルフ第5小隊が、バリケードが設置された岩山の林立する砂地に向かう。「バリケードなんぞ!」指揮官機を先頭にコマンドウルフが次々と跳躍した。だが、大半の機体は、途中でゾイドかパイロットが怖気付いたことで跳躍せず、跳躍した機体もバリケードを跳躍できず、特殊合金のバリケードと衝突して損傷、後退を余儀なくされた。パリス中尉のコマンドウルフは、寸前でバリケードの金属壁側に脚部を向け、ジャンプすることで、損傷を受けることなく後退した。そして1機のコマンドウルフが、ついにバリケードを跳躍することに成功した。そのコマンドウルフは、着地と同時に爆発した。着地点に埋設されていた地雷が爆発したのである。地雷の爆発をもろに受けたコマンドウルフは木端微塵に砕け散り、その燃え盛る残骸が撒き散らされた。爆風でバリケードの一つが倒れたが、もはや何の意味も無かった。地雷が設置されていることが分かったのがその理由だった。地雷が1つ埋設されているということは、その場にいくつ地雷が埋設されているか分からないからである。「こうなれば!力押しで突っ込むべきです!ハルフォード中佐!」「フォレスト少佐!それは出来ない!無用の損害をこれ以上出すわけにはいかんからな!」即座にハルフォード中佐は、その意見を却下した。彼とてそうしたい。速戦主義の高速戦闘隊が、敵の撃破に時間をかける等、論外である。「ですが…」だが、今後のオリンポス山での戦いのことを考慮して、損害を余り出したくない共和国軍高速部隊は、力押しの戦法を取ることができない。対する帝国軍部隊は、その膠着状態こそを望んでいた。増援部隊が来るまで時間を稼げばいい……そうすれば、こちらの勝利は揺るがない。そしてまもなく、その勝利が確定するときは近い…レッドホーン部隊の指揮官がそう思ったその時、彼の計算が狂う出来事が起こった。共和国軍高速部隊に対する防壁として基地の前に立っていた帝国軍部隊の右側面に存在した森林地帯から敵機が飛び出したからである。「森林地帯より新たな敵部隊出現!機種は、シールドライガーmkUとコマンドウルフです!」周辺警戒に当たっていたゲーターのパイロットの一人が新たに出現した敵機の存在を報告した。
彼は、森林からシールドライガーmkUと大型砲を背負ったコマンドウルフの白い機影が飛び出したのを見て即座に報告したのだが、それはいささか遅すぎた。帝国軍部隊には、基地の左側の森林地帯は、少数部隊しか通行できない為、警戒する必要はない、と見做していた。それが裏目に出た形となった。「今がチャンスだ!一気に行くぞ!」「おう!」「「「「了解」」」」アルバートのシールドライガーmkUを先頭にブルー・ファイヤー隊とグリーン・アロー隊が右側から帝国軍に襲い掛かった。「奴ら!どうやってあの森を超えたんだ?あの数で…」帝国兵の一人は、森林地帯から飛び出したブルー・ファイヤー隊とグリーン・アロー隊を見て驚愕した。あの森林地帯を大型ゾイド1機を含む6機以上の部隊で行動するのは、不可能であると考えられていたからである。アルバートは、狭い森林地帯を海軍の艦艇が取る単縦陣の様に、指揮官機を先頭に1列隊形で進むことで素早く突破することに成功したのである。通常、この様な陣形は、ゾイドの機動性が制限されることと敵と遭遇した場合、戦力を有効活用出来ない為、高速戦闘隊では、特殊な場合や行軍訓練でもない限りは態々使用されることは無い。アルバートにとってこれは賭けであった。彼は、いち早く本隊と合流する為にゾイドの通行が制限される金属樹木立ち並ぶ森林地帯を一列隊形で通過するという選択をした。途中で敵と遭遇すれば、全滅する危険さえあったが、アルバートは、基地にいる帝国軍部隊は、基地の防衛を目的としており、本隊が突入している状況では、森にまで戦力を割くことはないだろうと考えていた。また、ゾイドセンサーやレーダーの反応を攪乱する森林地帯の金属樹木とそこに生息する野生ゾイドの存在が、自分達の存在を隠してくれるであろうことも予想していた。そして、帝国軍が森林地帯から敵は現れないことを想定していることを利用した奇襲効果も狙っていたのである。これは、レッドラスト戦後の脱出行からの経験である。そして、彼と彼の部下達は、賭けに勝った。この時、レッドホーン部隊は、高速戦闘大隊の侵攻を阻むために円陣を組んでいた為、動けなかった。それでも、ヘルディガンナー3機を含む10機のゾイドが、迎撃に向かう。エミリアのコマンドウルフは、レールガンカスタムからアタックユニットを装備したタイプであるコマンドウルフAUに改造されていた。「…」背中のロングレンジキャノンが矢継ぎ早に発射され、ヘルディガンナーの後方にいたイグアン小隊に命中した。「直ぐに仕留めてやる!」ヘルディガンナー3機にシールドライガーmkUが飛び掛かる。ヘルディガンナーは、背部のロングレンジアサルトビーム砲を乱射した。だが、アルバートの操縦技量は、それらの攻撃を全て回避し、3機の敵機の懐に飛び込んだ。一番近くにいたヘルディガンナーの首部のエネルギーチューブに噛付き、切断した。ヘルディガンナーの弱点と言える箇所で、其処を破壊された場合、ヘルディガンナーの動きは大きく低下することとなる。間髪入れず、ストライククローをヘルディガンナーの鼻っ面に叩き込み、血の色をしたキャノピーを叩き砕いた。もう1機のヘルディガンナーの胴体に至近距離から三連衝撃砲を連射し、撃破する。最後の1機は逃亡を図ったが、尻尾を噛付かれ、勢いよく投げ飛ばされた。そのヘルディガンナーは、森林地帯の金属樹木と激突して止まった。衝撃の余り、コンバットシステムがフリーズを起していた。最後のヘルディガンナーが撃破されたのとほぼ同じく、部下の小型機は全滅させられていた。イグアン4機は、ロングレンジキャノンを受けて撃破され、ゲーター3機はハルドとゲイルのコマンドウルフに撃破された。エミリア大尉のコマンドウルフAUが背部のロングレンジキャノンを発射する。その正確な一撃は、グスタフ・トレーラーの付近にいたヘルディガンナーの1機の頭部を正確に撃ち抜いた。砲弾の直撃を受けたヘルディガンナーの頭部が砕け散る。エミリアが撃破したその機体は、グスタフ・トレーラー部隊の護衛の指揮官機でもあった。指揮官機を撃破されたことで護衛部隊は混乱した。「どけどけ!蜂の巣にされたいか?」デュランのコマンドウルフ・ガトリングカスタムがガトリング砲を掃射した。射線上にいたモルガ部隊は、側面から銃撃を受け、胴体から黒煙を上げて次々と動きを止めていった。2機のコマンドウルフを従え、コマンドウルフ改が、護衛のイグアン部隊を蹴散らし、グスタフ・トレーラー部隊に襲い掛かった。アルバートのシールドライガーmkUが、ビームキャノン砲をヘルディガンナーに叩き込み、撃破する。ジェフのコマンドウルフ改が大型キャノン砲を発砲、グスタフ・トレーラーの整備用ユニットに命中した。整備用ユニットの装甲は、本体であるグスタフとは、異なり、お世辞にも厚いとは言えない。大型ゾイドにもダメージを与えることが可能な砲弾を受け、整備用ユニットは、中にあった可燃物を誘爆させ、爆発炎上した。整備部隊のグスタフ・トレーラーは、射撃演習の的の様に破壊されていった。「整備部隊が!」レッドホーンのパイロットの一人が、後方で短時間のうちに繰り広げられた一方的な戦闘を見て悲鳴を上げた。レッドホーン部隊は、ブルー・ファイヤー隊とグリーン・アロー隊に後方を襲撃されたことで、帝国軍の足並みが乱れた。そしてそこを見逃す程共和国軍は甘くは無かった。「アルバートの隊か…全機突撃!」敵の陣形の乱れをいち早く認めたハルフォード中佐のシールドライガーが、Eシールドを展開し、レッドホーン部隊に飛び掛かった。彼が狙ったのは、円陣を組んだレッドホーンの中で最も左側にいた機体で、それは、部隊の中で最も経験の少ないパイロットによって操縦されるレッドホーンだった。行く手を阻もうとする小型ゾイドをEシールドで跳ね飛ばし、レッドホーンに飛び掛かった。レッドホーンのクラッシャーホーンがシールドライガーを捉えるよりも早く、ハルフォードのシールドライガーのレーザーサーベルが首筋に突き立てられ、レッドホーンは機能停止した。更にシールドライガーDCSが、至近距離からビームキャノン砲をレッドホーンに撃ち込む。レッドホーンの背部の火器が、ビームキャノン砲を受けて破壊される。先程まで、レッドホーン部隊の集中射撃の的にされていたシールドライガーDCSは、十分に背部のビームキャノン砲をチャージする時間を与えられておらず、戦いに十分に貢献できていなかった。連携が乱れた今、十分にビームキャノン砲をチャージすることが可能だった。武装を破壊されたレッドホーンにコマンドウルフが集団で襲い掛かった。コマンドウルフは、レッドホーンの側面や後方に回り込み、エレクトロンファングで攻撃する。敵機の接近を見た、レッドホーンの尾部の砲座にいた帝国兵は、恐怖の余りキャノピーを強制解放して逃亡した。側面に回り込んだコマンドウルフは、次々とレッドホーンの脇腹の内部機関に噛付いた。1機がついにレッドホーンの胴体内のゾイドコアを噛み砕いた。相互連携も満足に出来なくなったレッドホーン部隊は、先程堅陣を組んでいたのが幻だったかのように高速戦闘隊の白兵戦によって次々と撃破されていった。少し前までは、強力な盾として敵を阻んでいた彼らは、今や哀れにも肉食獣に狩られる非力な草食獣と相違なかった。多数の小型ゾイドと半数以上のレッドホーンを喪失した帝国軍は、退却を開始した。「食らえ!」コマンドウルフ・レールガンカスタムが背中のレールガンを一閃、発射された超音速の弾丸が退却するレッドホーンの頭部を破壊した。指揮官機を喪って混乱する周囲の小型ゾイド部隊にコマンドウルフ部隊が襲い掛かった。イグアンの頭部をコマンドウルフがビーム砲で撃ち抜き、ゲーターがガトリング砲を受けて蜂の巣にされた。「逃がすか!」シールドライガーmkUがビームキャノン砲をレッドホーンの脚部に向けて発射した。レッドホーンの脚部が吹き飛び、レッドホーンは行動不能に陥った。10分後、高速戦闘大隊は、帝国軍基地の制圧に成功した。その30分後にはシールドライガーとコマンドウルフの部隊に護衛されたグスタフ部隊が到着し、輸送されてきた歩兵部隊と工兵部隊が、占領を開始した。戦闘終了後、側面から奇襲攻撃を行ったブルー・ファイヤー隊とグリーン・アロー隊の指揮官であるアルバート中佐は、本隊の兵士から賞賛された。元々の予定では、アルバート中佐達は、敵を敗走させた後、追撃を容易にするために敵の予想退却ルート上に展開し、敵の退却阻止を行う筈であった。だが、アルバートは、森林地帯の中を指揮官機を先頭とした一列隊形で進攻することで部隊単位での突破を可能にし、敵の意表を突くことに成功したのである。作戦の最高指揮官を務めるハルフォード中佐は、乗機のシールドライガーmkUのコックピットから降りたアルバートの活躍を評価した。「ありがとうアルバート中佐、貴官のおかげで我々は少ない損害で迅速に勝利を得ることが出来た。感謝する。貴官は今回の勝利の立役者だ。」ハルフォード中佐は、笑顔で、眼の前に立つアルバートに言った。「こちらこそ、評価していただき感謝に耐えません。」アルバートは謙遜しつつ、応える。「アルバート中佐、流石、帝国軍勢力圏を部下と共に突破し、友軍と合流しただけのことはありますな。貴官が、適切なタイミングで攻撃したことで、ガイロス軍に壊滅的打撃を加えることが出来ました。」続いてハルフォードの隣に立っていた長身と、褐色の肌、目を覆う防塵ゴーグルが特徴的な共和国士官 フォレスト少佐が言う。その顔は、瞳こそ着用しているゴーグルで分からないが、口元に浮かんだ笑みと口調から感謝しているというのは明白である。勝利の立役者…アルバートもそう言われて悪い気分はしないし、むしろ嬉しかった。同時に彼は、過大評価だとも感じていた。もし森林地帯の突破を急いで、レッドホーン部隊が平野に布陣して半円陣を組むよりも早く到着出来ていれば、もっと容易に勝利を得られたのではないかと………その考えはある意味では傲慢とも言えるが、戦いに勝利した後だからこそ考えることのできる贅沢なIFと言える。即座にその考えをアルバートは振り払った。この数日間の戦闘は、全体的に高速戦闘隊の機動性を活用した共和国軍の勝利に終わった。各所の戦闘で大型ゾイドを多数有する部隊が敗北したことは、オリンポス山付近の帝国軍の士気を大きく低下させることにもなった。これまでのオリンポス山付近での戦闘では、独立高速戦闘大隊を含むヘリック共和国陸軍は、オリンポス山のガイロス帝国軍の弱い部分を徹底的に攻撃し続けた。第1次全面開戦で共和国が敗北した時の遅滞戦闘と同様に…その為、アイアンコングやレッドホーン等の帝国大型ゾイドを含む部隊ならば、これまでの西方大陸での多くの戦闘と同様に共和国軍に対して勝利すると多くの帝国軍将兵が期待を抱いていたからという事情があった。
―――――――――――オリンポス山北方 砂漠地帯―――――――――――約50年前には、手つかずの豊かな自然が存在していたこの地域は、ZAC2056年末に起きた巨大彗星と月の1つが激突したことによる大異変の影響で森林地帯が焼失したことで、不毛の砂漠と化してしまっていた。ヘリック共和国軍3個師団とガイロス帝国軍5個師団は、数日にわたり交戦していた。この地で、戦力で劣る共和国軍は、陸上戦艦やカノントータス・スーパーキャノン、キャノニアーゴルドスなどで編成される重砲部隊による火力支援と特に陸上戦艦は、ウルトラザウルスの主砲をも上回る破壊力を有する主砲によって、レッドホーン等の大型ゾイドを多数有する帝国軍装甲師団の進軍を阻んでいた。また独立第4高速戦闘大隊の活躍も無視できない。高速戦闘隊に所属するこの大隊は、シールドライガーDCS、シールドライガー、コマンドウルフAU、コマンドウルフだけでなく、ヘリック共和国の高速ゾイド乗りの頂点とも言える7人のエースパイロット レオマスター3名を含む部隊であった。彼らは、装備でも技量でもエウロペ派遣のヘリック共和国軍の高速部隊では高い水準に達していた。「まだきやがるのか…」ゴドスのコックピットの中で、旧ブルー・ファイヤー隊所属のコルト・オルソン少尉は呟いた。彼の所属するゴドス部隊は、火力支援のカノントータス部隊の護衛任務に就いていた。オブライエン大尉を指揮官とするこの部隊には、元ブルー・ファイヤー隊とグリーン・アロー隊の隊員が配属されていた。ゴドス部隊には、コルト、バルストらが、カノントータス部隊にもケレアやジム等元ブルー・ファイヤー隊とグリーン・アロー隊の隊員が配属されている。指揮官のオブライエン大尉は、カノントータスの装甲強化型 カノントータス突撃型に乗っている。その突撃型の背後には、カーク准尉のカノントータスレドームがいる。本来ならこの規模の部隊は、通信能力に優れたステゴサウルス型大型ゾイド ゴルドスが指揮官機となることが多い。だが、この部隊には、ゴルドスが配備されていない為、代わりに部隊の通信を統括する目的で配備されている。「低空から帝国軍機多数接近中!速度と熱源パターンからサイカーチスと思われます。」カーク准尉が陣地のカノントータス部隊とゴドス部隊に報告すると同時に、彼らの上空にサイカーチス部隊が襲来した。「シンカーD型やレドラーじゃないんだ。行けるぞ!」レッドラストの戦いでも猛威を振るったシンカーD型は、ここ最近の戦闘では、殆どその姿を現さない…この事実に、共和国軍兵士達は、訝しんでいたが、共和国軍情報部が得た情報によると、シンカーは元々、ガイロス帝国海軍の所属機が大半で、陸軍の所属機は少数だった。ガイロス帝国陸軍は、共和国軍に対抗する為、海軍からシンカーを部隊ごと借り、爆撃機型のシンカーD型にシンカーを改装し、第1次全面開戦で投入した。そして、戦況が帝国側の優勢となったことで、陸上爆撃型のシンカーD型に改造した分も含めて、開戦直前の時期から借りていたシンカーは、全て元の帝国海軍に部隊ごと返却されたというのが、その真相だとされる。十数機近いサイカーチスの部隊は、彼らの頭上に襲来した。飛行昆虫型ゾイド独特のけたたましい駆動音が頭上に木霊した。それは、サイカーチスのマグネッサーシステムが磁気を発生させるために、振動する音である。地球より伝来した飛行機械 ヘリコブターのローター音にも、ある種の昆虫型ゾイドの求愛音声にも似たその音を、サイカーチスの攻撃を受けてきた共和国兵は、悪魔の羽根音として恐れていた。「撃て!」指揮官の命令が部隊のパイロットの耳朶に響くと、同時に彼らは、引金を引いた。陣地内の部隊は、カノントータスの液冷式2連装高速自動キャノン砲とゴドスの背部、2連装対空レーザー機銃、尾部の付け根の小口径対空レーザー機銃で対空弾幕を張る。サイカーチスは、次々と絡め取られ、空中で爆発の華を咲かせた。対空機銃を受け、マグネッサーシステムを損傷したサイカーチスが墜落した。サイカーチス部隊は、半数近くを撃ち減らされ、残り半数もまともに地上の敵機に対して攻撃を出来る状態ではなかった。少数のサイカーチスが、地上に対しビームを掃射したが、陣地の周囲に着弾するだけに終わった。開戦以来、共和国軍は、帝国軍の対地攻撃機 サイカーチスの脅威を十分認識していた。サイカーチスは、制空権を失った地上部隊にとっては悪魔同然で、砂漠地帯での戦闘では、砂地に潜伏していたガイサック部隊は、無人機のスリーパーガイサックを含め、多数が撃破された。これまでの戦いから、ヘリック共和国軍の小型ゾイドパイロット達は、サイカーチス対策として、複数機で対空弾幕を張る戦術で対応するようになっていた。「逃げていくぞ!」サイカーチス部隊は、半数以上の機体を喪失し、撤退していった。「おとといきやがれ!」踵を返して撤退していく、サイカーチス部隊を見たヘイル少尉は嘲った。彼以外の部隊のパイロットの多くも自らの勝利に喝采の声を上げる。彼らが、勝利の美酒に酔いしれる時間は、僅かだった。次の瞬間、ビームが陣地に浴びせられ、直撃を受けたゴドスが爆発炎上したからである。ビームが飛んできた方向は、共和国軍の防衛ラインの内側で、本来攻撃を受けることを想定していない場所からだった。僚機が撃墜されたことにハワード准尉は、狼狽した。レッドラストの戦いの直前にノエル准尉と共にゴドスのパイロットとしてブルー・ファイヤー隊に配属された彼は、何度も戦闘を経験しており、もはや新兵ではないと言える、だが、彼は突然の出来事には弱かった。ハワード准尉のゴドスにも、ビームは襲い掛かった。「右に飛べ!」バルストが叫んだ。ハワードは、彼の言うとおりに機体を操作したことで、辛くも機体ごと火葬される運命から逃れることができた。ハワードのゴドスは、右に跳躍したことで、幸運にも直撃を免れた。だが、脚部に被弾、横転し、行動不能になった。「新手か!?カーク准尉!」オブライエン大尉が索敵担当たる眼鏡の若い士官に尋ねる。その声色には、予想外の場所から攻撃を受けたことへの驚愕と焦りが含まれていた。「3時方向!ヘルディガンナーです!数は約6、いや7機」機載レーダーに映った敵影を見たカノントータスレドームのカーク准尉は大声で叫んだ。「3時方向!?隣の陣地がやられたのか?」「違う!あの蜥蜴野郎どもは、俺達の眼を掻い潜って入り込んできやがったんだ!」コルトは大声で怒鳴った。ビームが次々と陣地付近に展開するゴドス部隊に襲い掛かった。ヘルディガンナーは、低い全高と隠密性能によって索敵網を掻い潜り、敵の予想外の場所から奇襲攻撃を行うことが可能だった。またイグアナ型中型ゾイド ヘルディガンナーは、この西方大陸の戦場に最も適応したゾイドでもあった。「畜生!なんとかしてくれ!」ゴドスの火器では、射程距離の問題で届かず、また出力差の問題で、接近戦に持ち込んでも不利である。カノントータス部隊は、主砲を何とか敵機の方に向けようとした。だが、それよりも早く友軍部隊が、ヘルディガンナー部隊に襲い掛かった。陣地の付近にいた高速ゾイド、コマンドウルフの部隊である。ヘルディガンナー部隊を排除すべく、コマンドウルフ部隊が突撃した。新たな敵機の出現にヘルディガンナー部隊は、背部のロングレンジアサルトビーム砲でコマンドウルフ部隊を迎撃する。それによって陣地に浴びせられていたビームの黄色い粒子の火線がやんだ。コマンドウルフは、ビームを回避し、ヘルディガンナーの懐に飛び込む。ヘルディガンナーは、爪や牙、スマッシュアップテイル、接近戦用の20mmビーム砲でコマンドウルフに抵抗した。だが、それらの攻撃は、コマンドウルフに回避され、逆にエレクトロンファングの一撃を受けて撃破される。ヘルディガンナーは、コマンドウルフの機動性に翻弄されるばかりだった。旧大戦の頃は、ゾイドを飛躍的に強化する蛍光物質 ディオハルコン投与による性能増大とマイクロ波兵器 パラライザーによって敵機の電子機器を破壊、機能停止させることで機動性の問題を補っていた。だが、ZAC2099現在、大異変の気候変動の影響でディオハルコンは失われ、パラライザーも20mmビーム砲に換装されている。ヘルディガンナーは、次々とコマンドウルフの爪と牙を受けて、葬られていった。短時間でヘルディガンナー部隊は掃討された。ヘルディガンナー部隊を砂漠のスクラップに変えたコマンドウルフ部隊は、次の敵機を求めて駆け抜けていった。「よくやってくれた!感謝するぞ!」指揮官のオブライエン大尉は、コマンドウルフ部隊の活躍をそう言って称えた。直後、陣地の周囲に無数の砲弾やミサイルが着弾した。カノントータスが3機砲撃を受けて損傷し、内1機は、大破した。「何だと!」「敵機甲部隊接近中、部隊の中心には、レッドホーンと思われる大型ゾイド複数!」「レッドホーン…!」その報告を聞いた部隊のパイロット達の背筋が凍りつく。大型ゾイドの中で最も生産台数が多いとされるレッドホーンは、小型ゾイドだけのこの部隊にとっては、単機でも十分に脅威となる。レッドホーンは、モルガやイグアン等の小型ゾイドを従えて、共和国陣地に接近してきていた。その数は少なく見ても3機、全身に重装甲と多数の火器を備えるレッドホーンは、小型ゾイドにとっては、文字通り「動く要塞」である。「砲撃開始!」カノントータス部隊が一斉に胴体に搭載した液冷式荷電粒子ビーム砲や突撃砲を発砲、先頭のレッドホーンの背部構造物をあらかた吹き飛ばした。その周囲に展開していたモルガ部隊もカノントータス部隊の凄まじい集中砲火を受けて大破、機能停止を余儀なくされた。湧き上がる炎と黒煙が帝国軍部隊を覆い隠した。「やったか?」黒煙の中から、黒煙を引き裂く様にしてレッドホーンが出現した。カノントータス部隊の集中砲火を浴びても尚レッドホーンは破壊されていなかった。だが、レッドホーンは、破壊されなかったものの大きく損傷していた。背部の火器や偵察用ビークルは全て破壊されて敵に対する砲撃能力を失っていた。その襟飾りは、大きく破損しており、特徴的な全天候3Dアンテナは、欠落するか、へし折れるかして失われ、頭部にも大小様々な傷が刻まれている。その傷付いた頭部は、古強者という印象を見る者に与えていた。
「生きてやがった!」バルスト少尉は、レッドホーンを見て叫ぶ。傷付いたレッドホーンは、自らの受けた損傷に怯むことなく、頭部のクラッシャーホーンを振りかざして陣地へと突進してきた。大型ゾイドの出力と重量を乗せたその突進を受けては、軽量な小型ゾイドであるゴドス等、数機纏めて破壊されてしまうだろう。「カノントータス部隊に近づけさせるな!全機集中射撃!」指揮官の命令が伝わるのが早いか、ゴドスのパイロット達の独自の判断が早いか、ゴドス部隊は、突進してくるレッドホーンに向けて一斉に腰部の小口径荷電粒子ビーム砲を乱射した。レッドホーンの赤い装甲にビームが次々と命中する。しかし、それらの攻撃は、レッドホーンの頭部装甲に弾き返され、傷を付けるだけに留まった。「もう駄目だ!」ゴドス部隊のパイロットの一人が悲鳴を上げた。コルトやジャックも同じ心境に陥りつつある。カノントータス部隊も、後方の別のレッドホーンを含む帝国軍部隊と砲撃戦を演じている為、陣地に突進してくるレッドホーンを阻止することは出来なかった。その時、彼らの後方から黒い機影が飛び出した。額部装甲に赤色の紋章を付けたシールドライガーDCS-Jが、レッドホーンに飛び掛かり、レーザーサーベルをコックピットに突き立てレッドホーンを撃破する。シールドライガーDCS-Jは、次の獲物に襲い掛かった。ミサイルポッドでモルガ部隊を蹴散らし、レッドホーンの頭部に背中のビームキャノン砲を突き付け、至近距離から発砲、レッドホーンの頭部をビームが貫いた。更にその周囲にいたイグアン部隊とゲーター部隊をビームキャノン砲数発だけで、全滅させた。「撃て!接近させるな!」帝国軍部隊は、シールドライガーDCS-Jに向けて嵐の如き、砲撃を浴びせかけた。対するシールドライガーDCS-Jは、ミサイルやビームを次々と回避していく。まるで相手の次の攻撃を予測しているかのように…シールドライガーDCS-Jは、砲撃を回避すると、帝国軍部隊の懐に飛び込んだ。3連衝撃砲でモルガやイグアンを破壊すると、跳躍した。そしてレッドホーンの左側に着地し、ビームキャノン砲を3機目のレッドホーンの脇腹に叩き込み、撃破する。大型ゾイド数機を含む多数のゾイドを喪失した帝国軍は、退却していった。それは、単機のゾイドとパイロットが、小規模とはいえ、戦いの流れを変えた光景であった。「す、すげえ」コルトは、目の前で行われた一方的な戦闘を見て思わずつぶやいていた。「レオマスターの力なのか…」同じくバルスト少尉も驚いていた。あれが、共和国の高速ゾイド乗りの頂点 ライガーパイロットの憧れ レオマスターの動き………以前の指揮官であるアルバート中佐のシールドライガーmkUの動きも凄いと思えたが、眼の前のシールドライガーDCS-Jとは、大人と子供の違い以上に比較にならない。黒獅子とその乗り手の技量に驚愕を隠せない彼らの上空を、レイノス隊が駆け抜けた。レイノスは、現存する共和国軍の飛行ゾイドで唯一、レドラーと互角以上に渡り合える機体であった。レドラーを次々と叩き落したレイノス隊は、地上のモルガ部隊にも胴体の3連装ビーム砲掃射を浴びせた。地球での航空機の発明以降の戦争で、航空機が不可欠であったように、この惑星Ziの戦いでも、飛行ゾイドによる航空戦力が欠かせない。一般的に飛行ゾイドは、陸戦ゾイドの3倍の戦力を有するとされている。このオリンポス山を巡る戦いも同様であった。今回、ヘリック共和国空軍は、プテラスだけでなく、未だに再生産されていない、テラノドン型飛行ゾイド レイノスを多数投入した。旧大戦時代にレイノスは、旧ゼネバス軍のレドラーに対抗できる飛行ゾイドとしてヘリック共和国軍の主力飛行ゾイドとして大量生産された。その為、ZAC2099年現在は、野生体の個体数問題で再生産されていないものの比較的多数がモスポール保存されていた。それでも整備の問題や本土防空部隊への配備等もあって西方大陸に配備されている機体は、それほど多くは無かった。
―――――――――――― ゾルンホーフェン空軍基地――――――――――かつて塩湖の真ん中にあった島…現在は台地と化した地に建設されたこの基地は、オリンポス山の北方に存在する空軍基地であった。ガイロス帝国軍は、この基地に制空権確保の為レドラーを60機近く配備していた。更に対地攻撃用に対地ヘリゾイドともいうべき、サイカーチスを48機配備していた。更に帝国空軍は、オリンポス山付近の制空権確保のためにこの基地にレドラーを200機配備することを予定していた。その為には、現状の滑走路等の基地設備では収容できない為、作業用ゾイドによる拡張作業が進められていた。塩と微生物ゾイドの成れの果てで白く染め上げられたかつての湖だった砂漠に展開する電子戦ゾイド ゲーターレドームSの部隊が、上空より迫る敵影を捉えた。「第22索敵部隊より報告!6時方向より反応多数!」「6時方向…遠回りしてきたか」「この速力からはプテラスタイプである可能性が大」「第45戦闘機中隊を発進させろ」報告を受け、ゾルンホーフェン基地は、基地のレドラー隊を発進させた。これらの部隊のレドラーは全て、ガイロス帝国軍が採用しているレドラーR型と呼ばれる機種で、その性能は、中央大陸戦争期のゼネバス帝国のレドラー、通称 レッドレドラーを上回り、開戦前にエウロペの反共和国組織や小国家が運用していたゼネバス帝国時代のゾイドコアが寿命に近い老朽化した機体を改造したレドラーG型等とは比べ物にならない性能を持っている。「どうせプテラスだろ、直ぐに叩き落してやるよ」「ああ、何機撃墜できるか競争だ。」レドラーのパイロット達は、自分達よりも多い敵に対しても余裕を見せていた。第一次全面会戦でプテラスを主体とする共和国空軍を返り討ちにしたことが、その自信を作り上げていた。ゾルンホーフェン基地に迫る共和国軍航空部隊の機種は、翼竜型飛行ゾイド プテラスである。その数は、100機で、約半分以上は、ボマーユニットを装備した戦闘爆撃機型 プテラス・ボマーだった。金属イオンとかつての湖に棲んでいた水生野生ゾイドの遺骸で、銀色に輝く不毛の地の上空で、プテラス隊と基地航空隊のレドラー隊の空戦が開始された。プテラス隊は、レドラーに格闘戦で挑む不利をこれまでの戦闘で身をもって知っているため、遠距離からの空対空ミサイルによる攻撃で仕留めようとする。レドラー隊は、持ち前の運動性能でミサイルを回避を図る。地球以上に地磁気が強力な惑星Ziで、空対空ミサイルの信頼性は低い。レドラー隊は、僅か2機が撃墜されたのみで、残りは、引き続き共和国軍航空部隊に迫った。レドラーは、空対空ミサイルを回避すると尾部の可変レーザーブレードと脚部のストライククローを輝かせてプテラスに襲い掛かった。「落ちろ!」レドラーが可変レーザーブレードでプテラスを叩き斬る。レドラーを撃墜しようとプテラスは、バルカン砲を乱射する。レドラーはそれを回避し、背後からストライククローを叩き付け、撃墜する。次々と撃破された機体が青空から黒い煙を引いて墜ちていったが、撃墜されるのは、殆どが共和国側、プテラスばかりであった。これは、汎用機として開発されたプテラスと制空戦闘機としての性能が優先されたレドラーという設計思想の問題だけでなく、ベースとなっている野生ゾイドとしての性質の問題も大きかった。プテラスのベースとなった翼竜型ゾイドが、温暖で穏やかな気候のデルポイ大陸の中央山脈を中心とする山岳地帯や森林地帯に生息するのに対して、レドラーは、厳しいニクス大陸の山岳地帯や渓谷等に生息しているのである。旧大戦時は、ギル・ベイダーやガン・ギャラドのベースとなったワイバーン型や大型ドラゴン型の餌に甘んじていたが、大異変によってこれら野生体が、絶滅した現在では、ニクス大陸の飛行ゾイドの生態系の頂点に立っていた。プテラス部隊を次々と撃破したレドラー部隊の一部は、プテラス・ボマーの編隊にも襲い掛かった。レドラーの可変レーザーブレードを右翼に受けたプテラス・ボマーが墜落する。その横では、レドラーBCがブースターキャノンでプテラス・ボマーを数機纏めて撃墜していた。プテラス・ボマーも次々とボマーユニットを投棄して空戦を挑むか、退却した。基地を攻撃する為の爆弾が満載されたボマーユニットは、重力に引かれ、銀色に輝く不毛の大地に叩き付けられて次々と爆発した。大損害を受けた共和国軍航空部隊は、任務の続行は困難と判断したのか、次々と退却していった。共和国空軍を打ち破った帝国軍飛行隊は、意気揚々と基地に帰還した。帝国軍レドラー隊は、次々と滑走路に着陸した。滑走路の手前に待機していた整備兵達が、彼らを出迎えた。空の戦いは、レドラーを有するガイロス帝国空軍の勝利に終わった。しかし、彼らは、地上の存在に対して盲目になってしまっていた。同じ頃、シールドライガーを指揮官機とする高速部隊が、この基地に忍び寄っていたのである。この時、先程まで対空警戒の為に展開していたゲーターレドームS部隊は、航空部隊に撃破されるか、基地内に退避するかしていた為、彼らの存在に気付かなかったのである。シールドライガーは、背中にゴジュラスやゴルドスが使用する長距離砲、通称バスターキャノンを装備していた。それは、旧大戦の頃にシールドライガーMkUが開発される前に運用されていた強化型、シールドライガーMkUタイプと呼ばれている機体であった。改造シールドライガーの背部のバスターキャノンが火を噴いた。発射された砲弾は、大気を引き裂いて見事な放物線を描き、ゾルンホーフェン空軍基地の滑走路に着弾した。滑走路に並べられていたレドラーの残骸、翼の破片や頭部等が爆炎に舞い上げられる。改造シールドライガーは、バスターキャノンを更に発射した。その勢いは連射という形容が相応しく、砲身は熱で真っ赤に染まった。砲弾が撃ち込まれる度に台地の上の基地に火柱が上がり、破壊されたレドラーや基地施設の残骸が宙を舞う。シールドライガーが、砲弾を次々と撃ち込む隣で、数機のコマンドウルフが、背部に装備したランチャーからミサイルを発射した。ミサイルは、弾頭がクラスター弾となっており、目標上空で無数の破片を撒き散らすタイプであった。更にサイカーチスが着陸していた滑走路にも砲弾は撃ち込まれた。砲弾の直撃を受けたサイカーチスが吹き飛んだ。「やったぞ!全機撤収!」指揮官のウォルター・オーウェル大尉は、そういうと、バスターキャノン投棄用の基部の爆裂ボルトの作動ボタンを押した。バスターキャノンをパージしたシールドライガーと同じくミサイルランチャーをパージしたコマンドウルフ数機は、踵を返して撤退していった。シールドライガー1機、コマンドウルフ12機で編成されたウォルター・オーウェル大尉を指揮官とする臨時編成第23高速戦闘中隊は、ゾルンホーフェン空軍基地に大損害を与え、約2週間近くは使用不能に追い込んだ。その代償として、彼らは帝国軍の激しい追撃を受け、半数以上の機体が撃破され、指揮官であるオーウェル大尉自身も乗機を撃破されて重傷を負った。
周辺の地域の共和国軍部隊や諜報部隊、空軍の支援を受け、高速大隊を主体とするヘリック共和国軍オリンポス山攻略部隊は、主目標である帝国の研究施設が存在する古代遺跡を擁するオリンポス山へと着実に接近していった。ヘリック共和国軍の高速戦闘隊や特殊工作師団を用いた攻撃に苦戦させられたガイロス帝国軍は、高速ゾイド セイバータイガー ヘルキャットを多数含む部隊を、オリンポス山周囲の戦闘に投入した。これは、共和国軍の高速戦闘隊に相当する存在である。―――――ZAC2099年 10月11日 オリンポス山 メルクリウス湖付近の帝国軍基地――――――この基地は、帝国軍工兵部隊によって1週間で建設され、前線の仮設整備基地と異なり、本格的な防衛設備や大型ゾイドの整備補給が可能な施設等を有する大規模な基地で、建設されたばかりの港には、海戦ゾイド ブラキオスが20隻程停泊していた。その岸部に上空から降下した帝国軍の誇る巨大母艦ゾイド ホエールキングが着水した。全長225mの巨体を受け止めた湖の銀色に輝く水面が波打つ。ホエールキングは、地上に着陸することも可能であったが、平地が必要で、森林や山脈等の障害物のある地形ないし、起伏にとんだ地形が大半を占めるオリンポス山周囲の地形では着陸不可であったのだ。その為、帝国軍は、ホエールキングをヘスペリデス湖とメルクリウス湖の2つの湖を着陸所の代わりにすることで運用していた。このことによってオリンポス山の帝国軍の基地の内、アイアンコング等の大型ゾイドが運用可能な基地は、この2つの湖の沿岸に集中していた。このジルバーゼー基地もその一つであった。湖に着水したホエールキングは、基地の港に接舷すると口を開き、そこから艦内に搭載されていたゾイドを次々と吐き出し始めた。「あれで2隻目か…ヨーゼフ」「ああ…俺らの乗った船を含めてな」「高速ゾイドが多いな」その光景をジルバーゼー基地の食堂の窓から2人の帝国士官は見つめていた。彼らの座る木製のテーブルの上には、料理が盛られた皿と飲み物が入った紙コップが置かれている。一番大きな金属製の皿には、鶏肉のフリカッセが満たされ、食欲を掻き立てる香りと湯気を放っていた。その皿を笑みを浮かべて見つめているのは、第2機動大隊第2中隊指揮官のヨーゼフ・ルッツ中佐である。今年で37歳を迎える彼は、ジルバーゼー基地に配属されてからこの食堂では基本同じメニューを頼んでいた。彼と同じテーブルを囲むのは、薄い金髪にグレーの瞳をした若い士官だった。その端整な顔立ちを一目見た人は、彼を貴族の出身だと勘違いするかもしれない。それを打ち消すかのように下顎の無精髭が、野性的な印象を見る者に与えている。彼は、帝国のセイバータイガー乗りのエースパイロットの1人、カール・ルドルファー中尉である。彼は、開戦以来大型ゾイド5機を含む40機以上の共和国ゾイドを撃破していた。本来ならもう少し上の階級に昇進してもおかしくない功績の持ち主であったが、部隊指揮能力での問題や対立した上官とのトラブル等が原因で現在の階級に就いている。ヨーゼフとは士官学校時代の同期で、その頃からの友人だった。食事は、互いの軍内での階級を気にせず、気兼ねなく話せる数少ない機会であった。互いに相手と階級の差に関係なく、対等の友人だと考えていた。だが、作戦中は、部下の手前、階級の上下を気にしなくてはならなかった。特にヨーゼフは、指揮官として規律を重視するように心がけていた。カールもそんな友人のことを考えて、作戦中は、上官と部下、という関係で応対している。「ヨーゼフ、お前いつもそれ頼むよな。飽きないのか?」「味わって食べるのさ、お前だって肉料理は、カツレツかステーキを頼んでるじゃないか。」スプーンで皿の中身をすくいながら、ヨーゼフは言う。「まっ、それもそうだな。今の内に出来る限り、食べておかないと」ナイフで、皿の上のステーキ肉を切り刻みながらカールは答える。戦場で、ちゃんと調理された食事を食べられるのは、金よりも貴重であると2人はよく認識していた。「ヨーゼフ、見ろよ忌々しい奴らが来たぜ。」不意にカールは、その端整な顔を歪めた。それを見てヨーゼフは、苦笑いするとカールと同様に耐衝撃防弾ガラスを隔てた向こうの景色を見た。「PK師団か。」2人の視線の先には、ホエールキングの口から降り立っていくゾイド部隊の姿があった。赤い重武装のアイアンコングを先頭にレッドホーン、モルガ、ハンマーロック、イグアン、それらのゾイドは、機体のどこかに雀蜂の紋章が刻まれていた。それは、もう一つの国防軍とまで言われているPK師団の所属機を示す紋章である。摂政ギュンター・プロイツェンの事実上の私兵であるPK(プロイツェンナイツ)師団の一部も基地防衛を目的に投入された。PK師団は、既にユルゲンス中佐指揮下のPK第5装甲大隊が参加していた。しかし彼らの任務は、ジルバーゼー基地防衛任務の為、未だにこの地では共和国軍とは交戦していなかった。「PK師団の主力は、本土にいると聞いたが、最前線にも来ていたのか」「忌々しい連中だよ、このままじゃ帝国軍自体が、PK師団の付属物にされかねん。」忌々しげにカールが言う。PK師団は、帝国軍内部の反対派に対する監視等の任務を行う、秘密警察的な性格もあった。このことは、国防軍の将兵から彼らが嫌われる大きな原因になっていた。特にカールは、摂政の意向を笠に着て駐屯地の酒場で横暴に振る舞っているPK師団の兵士を数人纏めて殴り倒したことで、一度僻地に飛ばされた経験があったのだ。「…また殴り合いにならないようにしろよ。連中が気に食わないのは、感情的には理解できなくもないが、我々と同じこのオリンポス山の基地を防衛する戦友だからな」ヨーゼフは、感情的に、という言葉を強調して言う。PKの情報提供者が、何処で聞き耳を立てているか分からないからである。最前線の基地でPKや摂政の批判をして取り調べを受けた人間は数知れない。その後軍法会議にかけられた人間も…「…そういやお前は、どこに配備されるんだ?ヨーゼフは」流石にカールも友人の配慮を察してか、話題を変える。「私の部隊は、ゴルトゼー基地だ。」「ゴルトゼー基地か。あそこなら共和国軍の精鋭と戦うことになるな」ゴルトゼー基地は、ヘスペリデス湖沿岸に存在する帝国軍の基地で、このジルバーゼー基地と同程度の基地機能を有していた。「共和国軍の高速部隊の奴らと戦うのが楽しみだ。」「全くうらやましいぜ、俺なんて沿岸の基地の防衛だ。精々敵の航空部隊か、ゲリラ部隊の相手をする程度だろう。ライガーと戦うのは無理だろうな…」心底残念そうにカールは言う。「油断するなよ、カール、それにどんな任務だって大事だと、シュテファン教官も言っていたのを忘れてるんじゃないのか?」「…そうだったな」士官学校時代の思い出が脳裏に浮かんだのか、カールは懐かしそうに笑みを浮かべる。―――――第5格納庫――――食堂での昼食を終えた後、カールと別れたヨーゼフは、自身の部隊のゾイドの状態を把握すべく、格納庫にいた。格納庫内には、レッドホーン等の帝国軍の大型ゾイドが待機するハンガーが並んでいた。ハンガー内のゾイドの半分を占めるのが、虎型大型高速ゾイド セイバータイガーであった。セイバータイガーが並ぶ中央のハンガーには、ヨーゼフ中佐の乗機であるセイバータイガー・スナイパーが誇らしげに佇んでいた。その機体は、通常型のセイバータイガーと異なり、両肩が銀色に塗装され、背中には、対ゾイド30mm連装ビーム砲の代わりに長距離砲が装備されている。機体の全長に匹敵するそれは、騎士の長槍を思わせる。長距離砲の基部にあたる部分には、盾の様な円形の装置が装備されていた。セイバータイガーの原型となった最初の高速大型ゾイド サーベルタイガーのバリエーション ザ・スナイパー背部に搭載した長距離砲によって遠距離から敵機を撃破し、持ち前の速力で撤収する一撃離脱戦法を得意としたゼネバス帝国のエースパイロットが運用したこの機体と、眼の前のセイバータイガー・スナイパーは、機体形状が類似していた。それも当然で、セイバータイガー・スナイパーは、ザ・スナイパーをZAC2099年の技術を導入して開発したセイバータイガー版のザ・スナイパーとでもいうべき機体である。原型機となったザ・スナイパーとの相違点は、背部のロングレンジスナイパーライフルの後部に装備された小型レドームによって長距離射撃時に観測役となる電子戦ゾイド(旧ゼネバス軍はゲーターを使用していた)を必要としない点と、主砲を折りたたむことで背部のロングレンジスナイパーライフルが格闘戦時のデッドウェイトとならない様に出来るという点があった。「ヨーゼフ中佐」彼の後ろには、丸顔の女性士官が立っていた。「おお、イルマ中尉か。食事は済ませたのか?」副官の姿を見たヨーゼフは鷹揚に言った。「はい、酒保で済ませました。」対する女性士官は、感情の籠らない声で答える。彼女、イルマ・リンティネン中尉は、上官にも部下にもこの様に応対することで知られていた。その為、以前の上官には、不気味がられていたが、彼女にとって幸いなことに現在の上官であるヨーゼフはそのことを大して気にしてはいなかった。この人形を思わせる美貌の副官は、約60年前にこの惑星に漂着した地球人との混血であった。第1次中央大陸戦争初期の激戦 通称砂漠の戦いの最終段階に地球の恒星間宇宙船 グローバリーVが落着し、その後の旧ゼネバス帝国とヘリック共和国の戦争が、両軍に保護されたグローバリーVの乗組員の地球人の指導によって導入された技術、戦術によって一変したことは、この惑星の歴史、軍事史の一大転換点として知られている。その後、惑星Ziに降りた地球人とゾイド人との混血が生まれた。これは、地球と惑星Ziが約6万光年の距離があることを考えると奇跡に近いことである。墜落したグローバリーVの乗組員の生き残りを祖とする彼らは、ZAC2099年現在では、あまり珍しくは無い。だが、グローバリーVが墜落した中央大陸と離れているニクス大陸を国土とするガイロス帝国では地球人の血が入っている者は、まだまだ珍しかった。「…そうか。保存食だけじゃ腹は膨れんぞ。なるべく調理したものを食べれるときは、心置きなく食べておけ」彼は、この三つ編みの部下が、食事を基本的に日持ちのする無味乾燥な味わいの保存食で過ごしていることを心配していた。戦場において食事という物は、単に栄養補給の手段だけでなく、精神的な意欲の補給になる。缶詰等の保存食ばかりでは、栄養面では問題は無くとも、精神的には、同じ味ばかりを食わされることで飽きてしまう。暖められた食事や好物の料理を食べることで、気分が良くなり、故郷のことを思い出し、精神的に余裕が出てくることもある。それが、生き残る意欲を引き出し、戦場での明暗を分けることもあるのである。だからこそ、彼女が日ごろから保存食だけで過ごすというのは、拙いと考えていたのである。「今回は、スープも飲みましたから、大丈夫です。軍の規定の栄養価は満たしていますから」そんな上官の心配等どこ吹く風とばかりにイルマは、笑顔で答えた。「…そうか」ヨーゼフは、納得したわけではなかったが、それ以上追及することはない。これが、いつもの彼女の反応だと知っているからである。いつも通りということなら健康面でも、精神面でも問題ないのだろう…そう信じるしかなかった。 彼らの目の前では、ホエールキングから降ろされたばかりのセイバータイガーやヘルキャットが、格納庫のゾイドハンガーで、整備兵による整備を受けていた。これまで後方の占領地で、ゲリラ掃討に従事してきたガイロス帝国軍高速戦闘隊のジルバーゼー基地への到着によって、オリンポス山を巡る戦いはさらに激しいものに変化していくことは誰の眼にも間違いなかった。
ZAC2099年10月18日 第73補給基地 蒲鉾型の格納庫と円筒のタンクの集合体の様なその施設の周囲では、死と破壊、混乱が渦を巻いている。「集中砲火を浴びせろ、基地に敵機を近づけるな!」「コマンドウルフ3機、そっちに行ったぞ」「こなくそ!逃がすか」「やられたぁ!」オリンポス山にほど近いこの補給基地は、この地域に建設された数多くの帝国軍補給基地と同様にオリンポス山の防衛部隊に配備された帝国軍部隊の為、補給、整備を行う拠点の1つとして機能していた。………そして今、この基地は、戦闘の真っただ中に置かれていた。10分前にシールドライガーを指揮官機とする共和国軍高速戦闘部隊が襲い掛かったのである。補給基地を防衛する為に配置された基地守備隊のレッドホーンやモルガ、イグアンは、縦横無尽に地上を駆け巡るコマンドウルフとシールドライガーを捉えることが出来ず、空しく火器を乱射することしか出来なかった。コマンドウルフが、イグアンを叩き伏せる。その隣では、シールドライガーのレーザーサーベルが、レッドホーンの首筋に突き立てられた。基地を直接防衛する為の砲台は、全て森林に隠れた後方支援機の砲撃で全て破壊された。指揮官機を含む守備隊のゾイドは、撃破され、残された機体も基地を防衛できなくなりつつあった。コマンドウルフ数機が、補給基地の施設へと向かっていく。その時、1条の光線が、先頭を走っていたコマンドウルフの頭部を撃ち抜いた。コックピットを破壊されたコマンドウルフがその場に崩れ落ちた。「何!」更にもう1機のコマンドウルフが被弾した。ビームを胴体側面に受けたコマンドウルフは、被弾箇所から黒煙を上げながら横転する。「敵の増援か!」コマンドウルフに乗る共和国兵の一人がビームが飛来した方角を見て叫んだ。彼が言い終わるのとほぼ同時に森林からセイバータイガー・スナイパーを先頭にセイバータイガーとヘルキャットの混成部隊が飛び出す。セイバータイガーは2機、ヘルキャットは12機いた。「これ以上はやらせんぞ!」ヨーゼフのセイバータイガー・スナイパーが、補給基地の基地施設に攻撃を行っていたコマンドウルフ4機に向けて遠距離射撃を浴びせた。ロングレンジスナイパーライフルの砲口が火を噴く度に、コマンドウルフが横合いから飛来した徹甲弾を胴体や頭部に受けて大破した。「指揮官機を叩くぞ!」セイバータイガー・スナイパーを除く帝国軍高速部隊は、シールドライガーを狙った。イルマのセイバータイガーが、ヘルキャット6機を率いてシールドライガーを半包囲する。コマンドウルフ2機が、背中のビーム砲を連射しながら、指揮官機の援護に向かおうとした。「落ちろ!」イルマのセイバータイガーの背中の対ゾイド30mm連装ビーム砲のトリガーを連打した。背部のビーム砲が火を噴き、コマンドウルフ2機の首筋を撃ち抜いた。セイバータイガーが対ゾイド30mm連装ビーム砲、ミサイルポッドと三連衝撃砲、レーザー機銃、ヘルキャットの20mm2連装ビーム砲が火を噴き、シールドライガーに叩き込まれた。爆炎がシールドライガーの青いボディを飲み込んだ。「撃破したか?」ヘルキャットのパイロットの一人が言う。だが、黒煙が晴れた時、シールドライガーの姿は変わらずそこに立っていた。「シールドか!」シールドライガーは、無傷であった。その青い獅子の前面を覆う様に光り輝く紫色の盾が形成されている。シールドライガーの機体名称にもなった防御システム E(エネルギー)シールドによるものである。「やはり実弾も防ぐのか…厄介だ!」それをみたヨーゼフが吐き捨てる。旧大戦のものと異なり、この戦争に共和国軍が投入しているシールドライガーのEシールドは、ビーム兵器のみならず、ミサイルや砲弾等の実弾兵器に対しても防御力を有した改良型に換装されていることは、彼も事前情報で知っていた。だが、実物を見せられるとやはり衝撃的だった。ヨーゼフは、自身の切り札とも言える兵装を使用することを決めた。「こいつは…俺がしとめる!」背中に長距離砲を背負った銀色のセイバータイガーが、Eシールドを展開するシールドライガーの正面に飛び出した。「当たれ!」セイバータイガー・スナイパーのロングレンジスナイパーライフルが発射される。ゾイマグナイト製の弾芯と特殊チタニウム合金製の弾頭を持つ砲弾が、磁気の力によって瞬間的に加速され、光の盾を掲げる青い獅子に襲い掛かった。徹甲弾は、シールドライガーの展開するEシールドに着弾し、それを撃ち抜いた。大抵の射撃兵器を無力化する防御性能を有していたシールドライガーのEシールドは、その一撃を受けて撃ち抜かれた。Eシールドを貫通したその一撃は、シールドジェネレーターを形成する鬣の一つを貫く。シールドジェネレーターを破壊され、シールドライガーを守るEシールドは、霞の様に急速に消滅する。シールドライガーのパイロットがシールドを破壊されたことを認識したのは、コックピットに警報が鳴り響いてからであった。セイバータイガー・スナイパーは、さらに畳み掛ける。「止めだ!」ヨーゼフのセイバータイガー・スナイパーは、三連衝撃砲で牽制しつつ、シールドライガーに飛び掛かった。シールドライガーのパイロットが機体を動かすよりも速く、セイバータイガー・スナイパーの青白く輝くレーザーサーベルが、シールドライガーの首筋に食い込んでいた。シールドライガーに噛付いたそのままの姿勢でセイバータイガー・スナイパーは、ロングレンジスナイパーライフルを連射する。胴体や頭部を撃ち抜かれ、コマンドウルフ数機が地面に崩れ落ちた。「はあっ!」イルマのセイバータイガーがコマンドウルフを叩き伏せ、胴体にストライククローを叩き付けて撃破する。指揮官機を撃破したことで戦況は一気に帝国側に傾いた。ヘルキャット部隊も、数の利を生かして、コマンドウルフと戦うセイバータイガーを支援する。コマンドウルフのエレクトロンファングがヘルキャットの首筋を切断する。そのコマンドウルフは、3機のヘルキャットから集中砲火を浴びて爆発する。「やられた!」セイバータイガーの1機が、森林からの一撃を受けた。森林から発射されたその一撃は、セイバータイガーの左前足と後ろ足を根こそぎ吹き飛ばし、戦闘能力を奪い去った。それは、森林に隠れていたコマンドウルフ・レールガンカスタムによる攻撃だった。コマンドウルフ・レールガンカスタムは、次なる獲物に狙いを定めた。森林に隠れていたコマンドウルフ・レールガンカスタムが砲撃――――――電磁加速された特殊合金製の砲弾が、ヨーゼフのセイバータイガー・スナイパーに襲い掛かった。最大出力でアイアンコングの装甲を貫くことが可能なその一撃の前に軽量化されたセイバータイガーの装甲等、薄紙に等しい。ヨーゼフは、森林が光ると同時に機体を跳躍させた。直後、先程までセイバータイガー・スナイパーがいた空間を青白い魔弾が通過する。その必殺の一撃は、セイバータイガー・スナイパーの左肩装甲を僅かに抉っただけに終わった。「ふぅ!危なかったな」自機を掠めた攻撃の破壊力を見たヨーゼフが言う。その口調には、若干の余裕があった。少しでもタイミングを間違えていたらセイバータイガー・スナイパーは、コマンドウルフ・レールガンカスタムのレールガンで撃ち抜かれていただろう。「この距離で、回避しただと!」回避不可能な筈の一撃を回避され、コマンドウルフ・レールガンカスタムのパイロットは、驚愕した。彼は、敵機が攻撃を回避した時点で機体を移動させるべきであった。だが、彼は、驚きの余り数秒の間思考を停止させてしまっていた。それは、日常生活では珍しくないことだったが、戦場では致命的だった。彼が機体の操作をしようとした時には、セイバータイガー・スナイパーのロングレンジスナイパーライフルが火を噴いていた。発射された徹甲弾は、コマンドウルフの頭部を撃ち抜いた後、背部のレールガンユニットに着弾した。レールガンが爆発し、コマンドウルフ・レールガンカスタムは爆散した。「姿をさらした狙撃兵は、敵の良い的だということだ…覚えておけ」森の一角から吹き上がる爆炎を見つめ、ヨーゼフは淡々と呟いた。「全機撤退!このままでは全滅だ!」指揮官機を含む部隊の半数以上を喪い、共和国軍の高速部隊は退却を開始した。コマンドウルフ数機は、森林へと撤退していった。2機のヘルキャットを従え、イルマのセイバータイガーが追撃する。「イルマ!深追いするなよ。1番機から8番機は、この場で警戒態勢で待機せよ。損傷機は機体の状態とパイロットの状態を報告」敵機の追撃を部下に任せ、ヨーゼフは、セイバータイガー・スナイパーをその場に停止させた。「…ここまで共和国軍が攻めてくるとは……」彼は、目の前に広がる戦闘の爪痕をモニター越しに見渡した。穴だらけの地面と破壊されたゾイドの残骸……頭部装甲を撃ち抜かれたモルガ、頭部を半壊させられ、横転したレッドホーン、右足を失い、倒れたイグアン、青白いスパークを胴体から生じさせ、黒煙を上げるシールドライガー…そして、炎上する補給施設や格納庫……彼の部隊は、救援に辛うじて間に合い、敵部隊を撃破することに成功した。だが、与えた損害と受けた損害を天秤にかけて考えれば、指揮官機のシールドライガーを含む半数以上のゾイドを喪失した共和国より、補給基地の機能に大打撃を与えられ、守備隊のゾイドの半数以上をスクラップにされた帝国の方が損害は上なのである。数分後、イルマのセイバータイガーとヘルキャット隊が戻ってきた。セイバータイガーは、コマンドウルフの頭部を咥えている。「戦果は?」「2機撃破しました。ですが…3機取り逃がしてしまいました。」「気にするな。深追いしても碌なことはない。」「いいのですか中佐?全滅させなくても」「今回は全滅させる必要はないさ。それに…連中には、お仲間に連絡してもらう必要があるからな」顎鬚を右手で扱きながらヨーゼフは言った。彼は、敵に自分達の部隊が存在していることを知られることについて、全く問題だとは思っていなかった。なぜならば、このあたりの防衛線に有力な高速ゾイド部隊が存在していることを生き残りの部隊から知った共和国軍は、この周辺の補給基地に対する攻撃を控えることになるだろうと考えていたからである。実際は彼らは数日後には、ここから少し離れたゴルトゼー基地に隣接する基地への防衛に向かう予定で、共和国軍が再び攻撃を仕掛けてきた場合は、別の高速部隊が防衛に出撃することになっていた。「…我々の存在を教えるためにですか?」「そうだ。イルマ、俺達がここにいると引き続き思ってくれれば、後に来る奴らが楽になるし、犠牲も少なくなるからな。」彼らは3日後には、ゴルトゼー基地の付近の防衛の為に移動する予定だった。その為、仮に共和国軍が再び攻撃を仕掛ける場合、彼らは、ヨーゼフ率いる第2機動中隊ではなく、その後に来る別の帝国軍高速部隊と戦うことになる。この日の小さな補給基地を巡る戦闘は、オリンポス山におけるヘリック共和国軍高速戦闘隊とガイロス帝国軍高速戦闘隊の最初の衝突となった。
ZAC2099年 10月29日 ―――――――オリンポス山付近―――――――ついにヘリック共和国軍は、オリンポス山の間近の地域にまで迫り、オリンポス山山頂を制圧する様に総司令部から命令を受けていた独立第2高速戦闘中隊は、オリンポス山に足を踏み入れつつあった。帝国軍がオリンポス山周辺地域に薄く広く敷いた防衛線は、共和国軍高速戦闘隊によって突破され、戦いは、オリンポス山山頂を制圧しようとする共和国軍とそれを阻止しようと防衛線を展開する帝国軍との戦闘に移行していた。ここにきて帝国軍は、当初の、オリンポス山の周囲に小規模の基地を多数建設して、防衛線を形成、敵部隊の侵攻に対しては、小規模の基地の部隊の連携で敵の進行速度を削ぎ、メルクリウス湖等に存在する大規模基地の戦力によって迎撃し、防衛するという計画を放棄し、オリンポス山の周辺に存在する人口の多い都市や大規模基地を中心に大戦力を配置するという形に防衛線を再編した。更に共和国軍のゲリラ部隊や高速戦闘隊を増派された帝国側の高速ゾイドを主体とする部隊で迎撃した。機動力と森林地帯での突破力に優れる高速部隊が帝国側に出現したことで、共和国軍の被害は増大した。対する共和国軍も、オリンポス山に対する攻略作戦を順調に進めており、この日、オリンポス山山頂の研究施設への攻撃作戦を開始した。まず作戦目標であるオリンポス山山頂を攻略するという目的の為、独立第2高速戦闘中隊を初めとする第1独立高速戦闘大隊が進撃を始めた。シールドライガーやコマンドウルフが、オリンポス山の施設を防衛するために、帝国軍の形成した防衛ラインを突破すべく、大地を駆ける。無論、高速戦闘隊だけでは、オリンポス山に展開するガイロス帝国軍の大部隊を突破し、オリンポス山頂に到達することは殆ど不可能である。ヘリック共和国軍司令部は、オリンポス山周辺に展開する帝国軍を混乱させる為の陽動作戦も平行して計画していた。まず作戦は、爆装したプテラス部隊と少数のキャノニアーゴルドスを含むカノントータス部隊の支援攻撃によって開始された。空軍のプテラス隊は、爆撃隊と護衛部隊、制空隊に分けられており、制空隊には、精鋭が選ばれ、オリンポス山周辺の帝国軍空軍基地に対する陽動攻撃にあたる。そして爆撃隊は、オリンポス山に展開する帝国軍とその拠点への攻撃を行う役目が与えられていた……………「全機、爆撃システムの状態を確認しろ。本番は間近だぞ。」爆撃部隊を率いる指揮官は、部下に確認する。作戦の重要性を基地司令官より教えられているだけに、この作戦は確実に成功させなければならないと知っていたからである。この爆撃部隊は、プテラス・ボマー9機、プテラスストライカー16機の計25機で構成されていた。護衛のプテラスストライカー部隊は、プテラス・ボマー部隊の護衛であった。「お前ら、爆撃隊を守ることに専念しろよ」護衛部隊指揮官のグリーン大尉の声が旗下のプテラスストライカーのコックピットに響いた。「了解!!!」部下達は力強い声で返答した。カブトムシ型飛行ゾイド サイカーチスが12機、プテラス部隊の前に立ち塞がった。だが、対地攻撃機と制空戦闘機として開発されたプテラスストライカーでは余りにも戦力の差があった。12機のサイカーチスは、瞬く間に全機撃墜されてしまっていた。空中の敵を排除したプテラス部隊は、低空に降下し、地上の帝国軍に襲い掛かった。「共和国軍め!」帝国兵が毒づく中、プテラスの機銃掃射が地上に浴びせられた。20mm弾数発を受けてAZ砲が爆竹の様に砕けた。その周囲にいた数人の帝国兵が砲の爆発に巻き込まれる。「ざまあみろ!」プテラスのパイロットはその惨状を見て言った。「わあああ」ある若い帝国軍兵士は、手に持っていた自動小銃を、上空を我が物顔で飛び回る敵機に向けた。無論、装甲の薄い飛行ゾイド相手とはいえ、自動小銃の銃弾等、命中したとしても空しく弾かれてしまうのが関の山であった。だが、彼は頭上の敵機に向けて銃を乱射する。護衛のプテラスストライカーに守られたプテラス・ボマー部隊が空爆を開始した。プテラス・ボマー部隊が、狙う目標…仮設物資集積所には、物資が山の様に積み上げられていた。「くたばりな」投下ボタンを押した。同時に脚部にマウントされたウェポンベイのドアが開き、内蔵されていた爆弾が投下された。脚部ウェポンベイから投下された最新型のレーザー誘導爆弾は、目標のコンテナ集積所に着弾した。直後、ひときわ巨大な火柱が吹き上がり、コンテナの山は、炎に包まれた。次々とコンテナ内の可燃物……爆薬、燃料等が引火し、瞬間的に膨れ上がった炎が周囲を大蛇の如く暴れ狂った。呑み込まれた歩兵や作業員は、人型の炭化物に変換されていき、並べられていたAZ砲が弾薬を誘爆させ次々と破裂した。「…」目もくらむ閃光がやんだ後、残されたのは、燃え盛る物資の成れの果てであった。その周囲には、辛うじて生き延びた生存者は幸か不幸か存在していた。「うう……」「腕があ!!」「助けて…助けて…」先程まで一心不乱に上空の機影に自動小銃を撃ちまくっていた彼も目の前の凄惨な光景の前に茫然とするしかなかった。対岸の基地でも火の手が上がっているのを、彼はみた。青白いビームの閃光が流れ星の様に燃え上がる対岸のゴルトゼー基地に吸い込まれていった。直後、爆発が幾つも生まれ、遅れて黒煙が空に向かって上がった。基地周辺にも攻撃は及び、基地外周に存在する港湾に展開していたブラキオスや輸送船が爆発炎上していた……それは共和国軍重砲部隊の砲撃が開始した証であった。前回の戦闘で、オリンポス山からの撤退時、共和国軍部隊の多く、特に重砲部隊や装甲師団は、ヘリック共和国軍エウロペ派遣軍最大の拠点 ロブ基地等の重要拠点の防衛のために大半が撤退したが、一部の部隊は高速戦闘隊、特殊工作隊と共にオリンポス山周囲の共和国軍と合流していた。この砲撃を行ったのはオリンポス山周囲の森林地帯に分散配置されたカノントータス隊であった。そしてカノントータス部隊 68機、その内6機は、主砲を大口径臼砲に換装した強化型 通称 リトル・バッド・ジョンと呼ばれるタイプだった。無論帝国軍もカノントータス部隊を撃破すべく、航空部隊を発進させた。だが、空軍基地から発進したレドラー隊は、巧みに砲撃と同時に移動を繰り返すカノントータス部隊を捕捉できず、主攻撃目標のカノントータスに気を取られ、護衛機のステルスバイパー部隊の対空ミサイル攻撃を受けて撃墜される機体が続出した。オリンポス山周囲に存在する帝国軍が混乱する中、共和国軍の高速戦闘隊のゾイド部隊が、進撃を開始した。目標は、オリンポス山頂上に存在する古代ゾイド人の遺跡を基礎に構築された帝国軍基地 正確に言うならば、そこに存在するなにか≠ナあった。ハルフォード中佐率いる独立第2高速戦闘中隊のオリンポス山制圧を支援する目的で、陽動作戦を行う部隊には、ブルー・ファイヤー隊とグリーン・アロー隊もいた。高速戦闘隊との連携には、迅速な行動が要求される為、このオリンポス山の作戦では、ゴドスやカノントータス等の鈍足機は別部隊に配置されていた。エミリア大尉は、任務の都合から乗機をキャノニアーゴルドスからコマンドウルフAUに乗り換えていた。このコマンドウルフは、通常機のビーム砲の代わりに2連装のロングレンジキャノンと脚部にロケットブースターを装備し、火力と機動性が増強されていた。その横を駆けるのは、背部に高初速ガトリングを装備したデュランのコマンドウルフ・ガトリングカスタムである。「まったく、なんでお偉いさんは、あんなお山が欲しいのかねえ?」ビーム砲のトリガーを連打しながらゲイルが呟く。ビームを受けた砲台が蜂の巣になり、内側から爆発した。「さあな 噂じゃ、山頂の古代遺跡に戦局を一変させるブツがあるらしいぜ」「そんな噂、所詮噂よ」メアリーのダブルソーダが頭部に搭載された機銃を叩き込んだ。本来空軍の所属であるメアリー少尉は、原隊が壊滅し、再編成の際に急遽、ブルー・ファイヤー隊に配備された2機目のダブルソーダのパイロットとして配属されていた。機銃掃射を受けてAZ砲陣地が血に染まった。生き残りの兵員が陣地から逃げ出す。イグアンが4連装インパクトガンを乱射する。コマンドウルフはそれを回避し、背部の50mmAZ2連装ビーム砲で反撃する。発射されたビームがイグアンのコックピットを撃ち抜く。「もうすぐ、作戦目標の敵基地が見える。各機、気を引き締めてくれ」「「「「「「了解!」」」」」」シールドライガーmkUが、三連衝撃砲を連射し、モルガ2機を撃破し、ハルドのコマンドウルフがイグアンを叩き伏せる。「…(一体あの山に何があるというんだ…?)」部下達と同様にアルバート自身、今回のオリンポス山攻略作戦に疑問を感じていた。軍事上の常識に照らし合わせてみても、敵に戦力で劣り、圧倒されている側が、戦略的に価値が見いだせない場所に攻勢に出るというのは、愚策である。普通なら、戦力を集中し、戦線を縮小して防御に徹しつつ、ヘリック共和国本土の中央大陸からの増援を待つ筈である。西方大陸においても人口密集地帯からも離れ、鉱物資源や野生ゾイドの生息地としても有望とは言えないオリンポス山にここまで執着するのは異常だった。このオリンポス山の山頂に古代ゾイド人の遺跡が存在しているという事実が、想像力逞しい前線の兵士達の一部に戦局を左右する古代文明の遺産を手に入れるのが作戦の真の目的であると噂していたのである。アルバートもこれらの噂を部下や基地の食堂での他部隊の兵士の会話等で聞いていたが、根も葉もない噂だと考えていた。だが、今日にいたるまで、それを完全に迷信として頭の中から拭い去る事が出来ないでいたのである。約1万年以上前に西方大陸に存在していたという古代文明………何故滅亡したのか、その理由さえも不明位で、彼らの歴史を知るには、今では、西方大陸の現地人達の荒唐無稽な伝説に彩られた物語と巨石を組み合わせて出来た遺跡から想像するしかないと言われている。またその技術には、第1次中央大陸戦争期に流入した地球人の技術によって急速に発展を遂げたZAC2099年現在の技術水準をも上回っていたのではないかという説さえあった。一見軍事的には愚策に見える作戦は、この古代文明の遺産を奪取する為に計画されたと考えれば、荒唐無稽にしろ筋は通っている様に、アルバートには思えた。もし噂通りだとするならば、大軍を動かしてまで入手する程のこの古代遺跡にある何か≠ニは、何なのだろうか…強力な兵器、あるいはゾイド、新しい金属素材、次々と頭に想像が浮かんだが、前線の陽動行動部隊の指揮官の1人に過ぎない彼がそれを知るすべはない。彼の部下も同様である。「…どうした?アルバート?」「ジェフ、何だいきなり?」「何か考えてるのかと思ってな。動きがやけに直線的気味だった…それはお前の考え事してる時の癖だろ?」「…すまん、今回のオリンポス山攻略作戦について考えていたんだ。あの山の頂上にはいったい何があるのかって…」「…確かにそれは気になるが、今は作戦に集中すべきじゃねえのか?」ジェフは笑みを浮かべ、陽気な口調で言った。「ああ、分かってるさ」アルバートは、間もなく始まるであろう戦闘に集中することにした。ジェフの言う通り、今どうにもならない謎について思考を巡らせるのは無駄でしかなかった。それにこれ以上、戦闘中に余計なことを考えるのは、危険だった。指揮官である今の彼は、自分だけでなく、部下全員の命に責任を持つ立場であるからだ。それでも、この不可解な作戦への疑問と不安は、心の奥に残された。心中に任務への不安を抱く彼の視線の先には、天空へと延びる柱の様に悠然と聳え立つオリンポス山の黒い影があった。5分後、彼らは、敵部隊と遭遇した。レッドホーン6機を主力とする機甲師団だ。その後方には、キャノリーユニットを背負ったキャノリーモルガの部隊がいる。レッドホーン部隊は、以前の帝国軍基地での戦闘の時と同様に密集体形を組み、道を塞いでいた。力が高いとは言えない高速ゾイドを主力とする共和国軍を迎撃する為に帝国軍が造り出した戦術なのだろうとアルバートは推測した。高速戦闘隊の持ち味である機動力を封殺すれば、数と火力に勝る帝国軍が有利である。これまでこのオリンポス山周辺の戦闘で、共和国軍の高速戦闘隊に苦戦させられてきた帝国軍の編み出した対策……甘く見るのは危険であった。防衛線が張られている道の左右は、右が険しい岩壁、左が金属植物が密集した森林で迂回するのは、難しかった。「バート、メアリー、森林地帯を通って奴らの側面から攻撃してくれ。」「指揮官、無茶言わないでくれ。対空砲火で落されるのがオチだ。」バートは、その命令に思わず反論した。余りにも無謀だからである。敵部隊の中核をなすスティラコサウルス型大型ゾイド レッドホーンは、80mm地対空2連装ビーム砲やTEZ20mmリニアレーザーガン、機種によっては地対空ミサイルポッド等、対空火器が充実している。それが、5機も存在している部隊にダブルソーダ2機で突っ込むというのは自殺行為に等しかった。「我々が奴らの懐に入ってからでいい。安心してほしい」「了解!」アルバートのその一言でバートは納得した。2機のダブルソーダは部隊から離れ森に向かっていく。それを合図にしたかの様に道を塞ぐ帝国軍部隊最後尾にいたキャノリーモルガ部隊が、砲撃を開始した。
大型ゾイドや砲台、大部隊に対しては、絶大な威力を発揮するこの実弾兵器も、少数の高速部隊を攻撃するのには向いていなかった。砲弾は、ブルー・ファイヤー隊とグリーン・アロー隊の背後に空しく着弾した。更にレッドホーン6機が、3連装リニアキャノンや自己誘導ミサイル、80mm地対空2連装ビーム砲を向かって来るアルバート達のゾイドに向けて乱射する。「くっ」部隊の一番先頭を走るシールドライガーmkUが鬣を広げた。同時にピンク色の光の盾がシールドライガーの前方に展開される。機体名称にもなった防御兵装、Eシールドである。アルバートは、自機を部隊の盾にすることで、部隊の被害の極限を図ったのである。Eシールドが向かって来る砲弾やビームを次々と弾く。「攻撃が弾かれている…!?」「Eシールドのエネルギーにも限界がある!!撃ち続けろ」帝国軍部隊は、更にEシールドを展開するシールドライガーmkUに砲火を浴びせる。Eシールドが過負荷で解除されるのを防ぐため、アルバートは機体を左右に動かして攻撃を回避することも怠らない。更にレッドホーンとモルガがミサイルを発射する。白煙の尾を引いてミサイルがブルーファイヤー隊とグリーンアロー隊に降り注ぐ。アルバートのシールドライガーmkUのEシールドに接触したミサイルが誘爆し、火球に変じる。「落ちろ!」ゲイルとハルドのコマンドウルフが、それぞれ背部のビーム砲を連射して、向かって来るミサイルを撃ち落とす。エミリアのコマンドウルフAUがロングレンジキャノンでモルガを1機撃破する。デュランのコマンドウルフ・ガトリングカスタムも背部のガトリング砲を乱射する。「食らいやがれ!」ジェフのコマンドウルフ改が背部の大型キャノン砲を発砲、砲弾が、レッドホーンの背部に命中した。弾頭が炸裂し、膨張する白い火球が、レッドホーンの背部に並んだ構造物を薙ぎ払った。次の瞬間、直撃を受けたレッドホーンの背中が激しく炎上する。彼は、通常の対大型ゾイド用の徹甲弾ではなく、圧縮ナパームが充填された焼夷弾頭を使ったのである。本来、障害物に立て篭もる歩兵や小型ゾイドや陣地を制圧する為に用いられるこの兵器は、装甲貫徹力では、徹甲弾どころか通常弾にも劣る。今回もレッドホーンの装甲を貫くには至らなかった。だが、レッドホーンの分厚い装甲自体には、問題がなくても、それに守られない部分に対しては、十分に効果的だった。直撃を受けたレッドホーンの背部の火器とセンサーが高熱で破壊され、破壊されなかった火器も異常高温で一時的に使用不能に陥った。「なんだ?敵の新兵器か?!」レッドホーンのパイロットは、コックピット内を瞬間的に荒れ狂った警報のシンフォニーと異常を知らせるモニターの表示に混乱した。彼は、このレッドホーン部隊のパイロットで最も経験が浅かった。「…っこいつめ!」背部を火達磨にされたレッドホーンは、ジェフのコマンドウルフ改に向かって突進した。「おい!ヴァルター、何を考えてる!」陣形を組んでいた同僚の機体が、そのレッドホーンのパイロットを制止しようとする。だが、レッドホーンは、僚機を追い抜き、単機で敵機へと駆け出した。圧縮ナパームによる背部の火災は、鎮火する所か、さらに激しく燃え上がり、その姿は、恐ろしく地獄に棲む魔物の様だった。「ほう、火達磨にされて怒り心頭ときたか」ジェフのコマンドウルフ改は、レッドホーンと衝突する寸前で、機体を横に跳躍させて回避する。クラッシャーホーンを回避したコマンドウルフ改は、レッドホーンに襲い掛かった。「食らえっ!」ジェフのコマンドウルフ改がエレクトロンバイトファングを輝かせて、レッドホーンの右後ろ脚に食らいついた。通常機よりも強化されたエレクトロンファングがレッドホーンの右後脚を付け根から噛み千切る。レッドホーンは、悲鳴に似た咆哮を上げてその場に擱座した。更にデュランのコマンドウルフが、倒れ込んだレッドホーンの首筋に噛付き、止めを刺した。「よくやってくれたジェフ」シールドライガーmkUがEシールドを解除すると同時に背部に背負った2門のビームキャノン砲を発射した。レッドホーン4機の内、2機が被弾し、その内1機は、背部の構造物が吹き飛んだ。「ちっ…やはり防御力が強化されているな…情報部の資料通りか」アルバートは舌打ちした。シールドライガーmkUのビームキャノンは、レッドホーンを最大出力で撃破可能な威力を有している筈だった。だが、目の前のレッドホーンは背部の兵装を幾つか破壊されたものの、戦闘能力を維持していた。これは、旧大戦時代に運用されていたシールドライガーmkUのビームキャノンよりも、ガイロス帝国軍がZAC2099年に運用しているレッドホーンの防御性能が強化されていたからである。かつてゼネバス帝国軍が運用していたレッドホーン(E型)なら一撃で大破していただろうが、装甲材質の変更等の大異変後の最新技術で改良が施されたガイロス帝国陸軍に配備されたレッドホーン(R型と呼ばれることもある)は、少なくない損傷を受けつつも、戦闘能力を維持していた。派手に移動射撃を行うデュランのコマンドウルフ・ガトリングカスタムをレッドホーンが背部の3連装リニアキャノンで狙う。「…!」旋回する砲塔を見た、エミリアは即座にそれを阻止するべく、行動した。エミリアのコマンドウルフAUがロングレンジキャノンを発砲、レッドホーンの3連装リニアキャノンが爆発する。「!何が起こった?!…そんな」レッドホーンのパイロットは、一瞬何が起こったのか分からなかった。そして彼は、自機に何が起こったのかを理解し、驚愕した。エミリアは、背部のロングレンジキャノンで、レッドホーンの火器の砲口を撃ち抜いたのである。敵ゾイドの砲口を狙って撃つというのは、非常に難しいことである。これだけでも彼女の射撃技量の高さが窺えた。部隊の中核をなすレッドホーンの半数が兵装に損傷受けたことで、目の前の帝国軍部隊の火力は、目に見えて低下していった。火力が低下した帝国軍部隊にアルバートのシールドライガーmkUを先頭とするブルー・ファイヤー隊が突入した。アルバートのシールドライガーmkUは、Eシールドを解除することなく、突撃した。アルバートは、帝国軍機にEシールドを纏った機体を激突させた。シールドアタックと呼ばれたこの攻撃方法は、改良したEシールドの光学兵器だけでなく、実弾等の物理攻撃にも対応できる性質を攻撃に転用したものである。250kmの高速でぶつかってくるエネルギー波の壁の前にイグアンやモルガ等の小型ゾイドは、弾け飛び、大型ゾイドのレッドホーンですら体勢を崩した。一見すると大型ゾイドであるレッドホーンの巨体が揺らぐというのは、ありえない様に思える。だが、ハニカム構造の装甲により、見かけ以上に軽量なレッドホーンの機体重量は、94tでシールドライガーとの重量差はわずか2tであった。機体重量の軽さが仇になった形であった。衝突による急激なエネルギー消費を感知したシールドライガーのコンピュータがEシールドを自動的に解除させる。Eシールドが自動的に解除されると同時にシールドライガーmkUがレーザーサーベルとストライククローを煌かせて体勢を崩したレッドホーンに飛び掛かり、横倒しにした。横倒しにされたレッドホーンの装甲の薄い下腹に向けてアルバートは、胴体下部に装備された3連衝撃砲の照準を合わせ、ボタンを連打した。レッドホーンの腹部は、三連衝撃砲の連続射撃で装甲を剥ぎ取られ、ゾイドコアのある内部機関が剥き出しになっていた。シールドライガーmkUは、ゾイドコアをレーザーサーベルで噛み砕いた。「よくもクルツを!」別のレッドホーンがクラッシャーホーンを振り立ててシールドライガーmkUに突撃する。この距離では、回避するのは難しいと判断したアルバートは、ビームキャノンで迎撃することを選択した。ビームキャノンから放たれたビームがレッドホーンの頭部に命中、一瞬着弾点が白熱化し、その直後には襟飾りのついた派手な頭部が吹き飛ぶ。部下の機体も、それぞれ敵機に襲い掛かっていた。ハルドのコマンドウルフがエレクトロンファングでモルガを撃破し、アルフのコマンドウルフがゲーターをビーム砲で撃破する。モルガがレーザーカッターを展開して突進してきた。ハルドはそれを回避し、胴体左側面の車輪部分にビームを叩き込んで破壊する。「2機目の大物を仕留めさせてもらうぞ」ジェフのコマンドウルフ改が、デュランのコマンドウルフ・ガトリングカスタムを引き連れてレッドホーンに接近する。護衛機のイグアン部隊が4連装インパクトガンを連射して弾幕を張る。「邪魔だ!」デュランのコマンドウルフ・ガトリングカスタムが背部のガトリング砲を連射する。イグアンは、数機纏めて射的の的の様に崩れ落ちた。生き残りのイグアンが、尚も攻撃を続けるが、ジェフのコマンドウルフ改は、その攻撃を回避し、レッドホーンに飛び掛かった。その敵機は、左脇腹装甲を損傷していた。シールドライガーmkUのビームキャノンによってできたその損傷は、やけど傷の様に焼け爛れ、黒ずんでいた。損傷個所に向けてジェフのコマンドウルフ改が大型キャノン砲を発射する。対大型ゾイド用の徹甲弾が熱で融解し防御力が低下した装甲を突き破り、内部機関を引き裂いた。数秒後、レッドホーンは、背部から火柱を噴きだして大破した。唯一兵装が損傷していないレッドホーンが80mm地対空2連装ビーム砲と3連リニアキャノンを乱射したが、それらの攻撃は全て回避されてしまう。帝国軍部隊は、接近戦に持ち込まれたことで同士討ちを恐れ、まともに迎撃することが出来なかった。この部隊の指揮官は、レッドホーンとモルガにより、密集陣形を形成し、道を塞ぐことと砲撃を密集させることを選択したのである。この陣形だと敵の侵入を阻止することには、対応できても、敵に陣形内に進入された際は、その密集体形が仇となって何もできないまま近接戦闘で壊滅させられる危険性があった。また部隊ごと一撃で破壊できる火器、ゴジュラスのバスターキャノンや高出力ビーム兵器等を有した敵に対しても有効ではなかった。それよりは、突破された場合に備えて各部隊を比較的分散させ、それらを順番に配置することで、縦深防御を図るべきだった。あるいは、伏兵として森林地帯に辛うじて侵入可能なイグアンやモルガといった小型ゾイドを配置しておけば、ここまで一方的な結果になることは無かっただろう。「俺達も忘れるなよ」更に森林上空から飛び出してきたバートとメアリーのダブルソーダが上空から機銃掃射を浴びせた。左脚部の関節部に機銃弾を受けたイグアンが崩れ落ちた。直後、コックピットが開放され、パイロットが慌てて飛び出していった。「指揮官機のシールドライガーmkUを狙え!」キャノリーモルガ隊がシールドライガーmkUに向けて一斉に砲撃した。砲口から白い発砲煙が噴出し、一瞬モルガの姿を覆い隠した。背部に装備した大型砲、AZ120mmグラインドキャノンは、モルガの攻撃力を向上させる目的で開発された実弾兵器で、徹甲弾を使用した場合の威力は、ゴジュラスやアイアンコングも撃破可能であった。今回、この帝国軍部隊の所属機は、榴弾のみしか装填していないが、初速が早い為高速ゾイドや飛行ゾイドにもある程度対応できた。発砲の炎を確認すると同時にアルバートは機体を跳躍させた。同時に先程までシールドライガーmkUがいた空間を砲弾が通過した。キャノリーモルガの砲撃で、シールドライガーmkUに命中したものは1発も無く、それらの砲弾は背後の空間を直進し、岩壁や地面に激突して虚しく爆発した。中には、先程ジェフに撃破されたレッドホーンに着弾したものもあり、レッドホーンの腰部に命中し、残骸を爆発炎上させた。「回避されたかっ」次の瞬間、ビームキャノンから放たれたビーム弾がキャノリーモルガ隊を襲った。3機のキャノリーモルガが撃破された。1機は弾薬を誘爆させて砕け散った僚機の爆発によるものだった。「全機キャノリーユニットをパージしろ!」キャノリーモルガ隊の指揮官は、残り2人にまで減らされた部下にキャノリーユニットをパージする様に命令した。この状況で、単なるデッドウエイトになりつつあるキャノリーユニットを破棄するというのは、正しい判断だったが、些か遅すぎた。ジャックとゲイルのコマンドウルフが彼らに襲い掛かったからである。ジャックのコマンドウルフが背部の2連装ビーム砲をモルガの側面に叩き込んで撃破した。その横でゲイルのコマンドウルフのエレクトロンバイトファングがキャノリーモルガのコックピットを噛み砕いた。自慢の大砲を有効活用することも出来ずにキャノリーモルガ隊は、壊滅した。キャノリーモルガ隊の指揮官の網膜が最期に捉えたのは、青白く輝くコマンドウルフの牙だった。同じ頃、残り1機となったレッドホーンが、大地に身を横たえた。そのレッドホーンは、後退しようとした所をシールドライガーmkUのビームキャノンを至近距離から脇腹に受けて機能停止した。レッドホーン5機を全て撃破され、残された帝国軍部隊は総崩れを引き起こした。打撃を受けた小型ゾイド部隊だけでは、大型ゾイドを含む高速部隊を阻むことが出来ないと判断したためである。「逃げる奴らは無視しろ!今回の攻撃目標はここじゃないからな!」ブルー・ファイヤー隊とグリーン・アロー隊は、壊走する帝国部隊を追い抜く様に防衛線を突破した。――――――――第124基地―――――――ジルバーゼー基地にほど近いこの基地は、共和国軍のコマンドウルフ部隊の襲撃を受けていた。守備隊のイグアン部隊が蹴散らされ、ヘルキャットがエレクトロンバイトファングに頭部をかみ砕かれた。ビームを胴体側面に受けたモルガが動きを停止する。機動力に劣る歩兵、機甲ゾイド主体の守備隊のゾイドは、防戦一方であった。「早すぎる…わあああ」コマンドウルフにコックピットを噛み砕かれたイグアンが、地面に叩き付けられた。「クルト!PK師団は何をしているんだ?!」ヘルディガンナーに乗る指揮官が怒鳴る。3日前から、第124基地には、基地守備隊の他に、PK師団所属の部隊が配置されていた。この部隊は、オイゲン・ユルゲンス中佐が指揮官を務めていた。そしてPK師団の機体は、防衛戦闘に積極的に加入せず、数機が格納庫の周囲を防衛しているのみであった。次の瞬間、彼のヘルディガンナーは、至近距離からコマンドウルフのエレクトロンファングを首筋に受けて機能停止した。PK師団所属の士官 オイゲン・ユルゲンス中佐は、パイロットスーツを着替え終え、乗機のいる格納庫へと向かっていた。ユルゲンス中佐は、ダークブルーのパイロットスーツを着用していた。「ユルゲンス中佐!お急ぎください」「わかっているよ」彼の前を走る初老の整備兵の声には、苛立ちと焦りが感じられた。敵が基地内に突入して来るか気が気でないのだろう。対照的にユルゲンスは、まるでこれからピクニックに行くかのように余裕に満ちた態度であった。彼は、自分だけは助かると確信していたのである。しかも彼は、この敵襲を自身の栄達の為に最大限に利用するつもりだった。ユルゲンスが格納庫に到着した時、整備兵の多くは、戦闘に巻き込まれることを恐れて逃げ去っていた。守備隊が撃破されたら、真っ先に攻撃されるのはゾイドの整備施設であり、ゾイドが保管されている格納庫だということは容易に想像できたからである。格納庫内には、PK仕様のイグアンとゴリラ型小型歩兵ゾイド ハンマーロックが合計10機小型ゾイド用の整備ハンガーに並んでいた。恐らく彼らの発進は間に合うまい…ユルゲンスは、そう思いつつ、歩みを進める。ユルゲンスと初老の整備兵は、格納庫の一角で足を止めた。そこには、ユルゲンスの乗機であるアイアンコングが鎮座していた。彼の乗機のアイアンコングは、従来PK師団に配備されているタイプ………アイアンコングPKではなかった。「調整は完了しているな?」「はい!出撃可能です。一刻も早く敵部隊を蹴散らしてください」興奮気味に返答する整備兵の声には、微かにユルゲンスに対する苛立ちが感じられた。「わかっているよ」金髪の青年将校は、愛機の頭部コックピットへと乗り込んでいった。「全機仕留めたか?」「はい!隊長殿」「後は格納庫だけか…」同じ頃、コマンドウルフ部隊は、出撃した守備隊のゾイドを全てスクラップに変えていた。彼らが、格納庫への攻撃を開始しようとしたその時、彼らの正面に存在した格納庫の鉄扉が砕け、ガイロス帝国の誇るゴリラ型大型ゾイド アイアンコングが格納庫から現れた。「アイアンコングだと…」「形状が変だ、改造機だぞ!」帝国軍の保有するゾイドで最強クラスの機体が姿を現したことに、共和国兵達は、驚愕した。しかも彼らの目の前に立ち塞がるユルゲンスのアイアンコングは、PK仕様とも通常型とも異なる改造が施されていた。その全身は、ブラックとシルバーに再塗装されている。右肩には、PK仕様のビームランチャーとも、通常型の6連装ミサイルランチャーとも異なる異様な兵装がマウントされていた。その兵装は、巨大な長方形の箱とでも形容出来る形状をしていた。側面からは、エネルギー供給用と思しき、エネルギーケーブルがアイアンコングの胴体と直結していた。そして砲口の反対側には、インテークファンがあった。ユルゲンスの改造アイアンコングは、その砲口をコマンドウルフ部隊に向けた。直後、後部インテークが回転し、大気中の粒子が吸い込まれていく。「何をする気だ?」「集中砲火を浴びせろ!」眼の前の敵に向け、コマンドウルフ部隊は、集中砲火を浴びせた。軽武装、軽装甲のコマンドウルフが大型ゾイドの装甲を打ち破るには、この手段しかなかったのである。この部隊には、AZ50mm2連装ビーム砲を装備した通常型のコマンドウルフしか配備されておらず、コマンドウルフのバリエーション機で最も破壊力を持つコマンドウルフ・レールガンカスタムも、攻撃力が強化されたコマンドウルフAUも、配備されていなかった。後の結果から言えば、彼らは、撤退するべきであった。だが、彼らは、目の前のアイアンコングを撃破すれば、この基地の戦力の過半数は失われる。そうなれば、この基地の機能を永久的に喪失させることができると判断した。彼らは…敵の基地を完全に破壊するということに拘り過ぎてしまっていたのである。アイアンコングに次々とビームが突き刺さり、装甲表面で爆発が幾つも生まれた。パイロットの青年将校は、恐怖するどころか、その口元に薄らと笑みすら浮かべていた。コマンドウルフの攻撃は、全てアイアンコングの重装甲によって防がれ、有効な攻撃とはならなかった。「見るがいい、荷電粒子砲の威力を…」右肩の武装の砲口に粒子が集められ、数秒後には、砲口の先端に巨大な光球が生じた。アイアンコングのコックピット内に発射準備完了を告げる機械音が響いた。そしてユルゲンスは、引金を引いた。「**」ユルゲンスの改造型アイアンコングに装備された脅威の破壊兵器…外部荷電粒子砲が、発射された。砲口より勢いよく放たれた高出力の荷電粒子の奔流は、コマンドウルフ部隊に襲い掛かった。コマンドウルフ部隊は、逃げることが出来なかった。大型ゾイドの装甲をも溶かす熱量を持ったその一撃に直撃を受けたコマンドウルフは、蝋燭の様に溶けた。更にユルゲンスの改造アイアンコングは、荷電粒子砲をコマンドウルフ部隊に向けて掃射した。太い光の束の向こうで、いくつもの爆発が起こり、黒煙が辺りを包み込む。「屑共が…」そう言ったユルゲンスの視線の先、正面モニターの向こうでは、鮮やかな炎が辺りを照らしていた。煙が晴れた後、残されたのは、高熱でドロドロに溶けた残骸だけだった。その男の胸中を満たすのは、憎き敵を破壊した喜びでも、多数の人間の命を奪ったことへの罪悪感でもない、自らが開発に関わった新兵器のテストを無事成功させたという満足感だけである。
―――――――――――ZAC2099年 10月31日 オリンポス山付近――――――オリンポス山の8000m級の山肌の上を数十機のゾイドが駆け上っていた。「皆!あともう少しだ!」先頭を駆けるシールドライガーに乗るエル・ジー・ハルフォード中佐は、当初の3分の1を切る程にまで激減した部下達を鼓舞した。ハルフォード中佐の独立第2高速戦闘大隊は、この作戦の攻撃目標であるオリンポス山山頂の帝国軍研究施設へと近付いていた。早ければ30分後には彼らは、山頂に悠然と聳える巨大な石を組み合わせた古代の建造物とそこに寄生植物の様に取り付けられた帝国軍施設をその目で見ることが出来る距離まで近づいていた。だが、ここまで来るのに、彼らが払った代償は大きかった。幾重にも張り巡らされた帝国軍の防衛線を撃ち破る度に損傷機や撃破される機体が相次いだ。特に山腹で遭遇した、敵のエースパイロットが操縦するセイバータイガーとの戦闘は激しいものだった。最終的には、ハルフォードのシールドライガーがEシールドによるシールドアタックを敢行することで撃破されたが、それまでに半数近い機体が犠牲になった。更に彼ら独立第2高速戦闘大隊にとっての敵は、道の途中に立ち塞がる帝国軍の防衛部隊だけではない。険しい山道と山頂から彼らを拒む山の意志であるかの様に吹き付けてくる強烈な風、途中での戦闘と強行軍による機体への損傷により、撤退を余儀なくされた機体もある。辛うじて維持されていた味方の前線が崩壊しつつある今、単独で、しかも損傷した機体で通過することになるそれらの機体のパイロットが、帰還できる可能性は殆ど無い。普通なら護衛を付けるところであるが、そんな余分な戦力はこの部隊には残されていなかったのである。指揮官であるハルフォードに対し、それらの損傷した機体のパイロット達は恨み言を言うどころか、一様にこう言ったのである。「自分の代わりに何としても山頂の施設を制圧してください」と…その時の晴れ晴れとした部下の顔を自分は一生忘れることはないだろうとハルフォードは思った。「…なんとしても作戦を成功させなくてはならんな!」これまでの戦いで散っていた部下達の顔を脳裏に思い出し、彼は力強い口調で言った。それは自分自身に言い聞かせる様な口調であった。彼の視線の先、キャノピーを隔てた外の景色…その向こうには、オリンポス山の山頂に遥か昔に建てられた古代遺跡の影が微かに見えようとしていた。前哨戦も合わせれば、数ヵ月近く続いた、オリンポス山の戦いは、最終局面を迎えつつあった。――――――――――オリンポス山周辺部 ヘスペリデス湖付近――――――――――同じ頃、ブルー・ファイヤー隊とグリーン・アロー隊も任務を果たそうとオリンポス山の周辺を駆けまわっていた。2日前、レッドホーン部隊を撃破した彼らは、攻撃目標であるゴルトゼー基地へと接近しつつあった。彼らは、3時間前、ダブルソーダ6機で編成された空中補給部隊が輸送してきた弾薬とエネルギーパック、スラスター用の推進剤の補給を受けていた。彼らの任務は、これまでと同様に現在、オリンポス山山頂の帝国軍施設破壊の為にオリンポス山を登っている独立第2高速戦闘大隊への支援である。支援目的だからといって彼らの任務の重要性と困難さは些かたりとも衰えることはなかった。その攻撃目標は、ゴルトゼー基地………オリンポス山付近に存在するヘスペリデス湖とメルクリウス湖の二つの湖の内、ヘスペリデス湖に建設された帝国軍の前線基地である。ガイロス帝国軍を攪乱する為に攻撃するのがその目的であった。本来の彼の指揮下の部隊であるブルー・ファイヤー隊、グリーン・アロー隊以外の共和国軍部隊も加わっていた。これらの部隊は、ブルー・ファイヤー隊とグリーン・アロー隊と同様にゴルトゼー基地への攪乱攻撃任務を命じられていた部隊で、それぞれ機動力を生かして帝国軍の防衛線を突破したのである。彼らを取り巻く状況は、お世辞にも良いとは言えなかった……既にオリンポス山のヘリック共和国軍の前線は、崩壊しつつあった。高速戦闘隊を主体とする一部の部隊の奮戦も、ガイロス帝国軍との圧倒的戦力差を覆すには至らず、各地で共和国軍部隊は敗走していた。この状況で、敵の中枢を攻撃するのは帰還できなくなる可能性があった。「隊長、前方に友軍機です」「味方の部隊がまだいたのか…」アルバートは、自分達以外にこの地域に進出できた友軍部隊が存在していたことに驚いた。その時、進路上の森林から改造型コマンドウルフ12機が現れた。どの機体も、銭湯の影響か、塗装が剥げ落ちていた。コマンドウルフの山岳戦型、クライマーウルフ12機である。「第22山岳戦闘中隊の副隊長 ビクター・マクダネル大尉です。」指揮官機がアルバートに通信を送った。第22山岳戦闘中隊は、山岳地帯での戦闘を視野に入れた部隊で、所属機を全てコマンドウルフの山岳用改造機であるクライマーウルフで編成されている。このオリンポス山攻略作戦でもこの部隊は、山岳戦に適した部隊として投入されていたのである。「副隊長?指揮官は?」その答えをアルバートは、既に脳内で予想していた。だが、それを聞いたのは、そのことを聞いておくことも軍人としての義務であるからだ。「隊長は……ブラウン少佐は、…2日前の作戦中に…撤退時に戦死しました。」沈痛そうな顔でビクター大尉は言った。「…そうだったか。私は、アルバート・コードウェル中佐だ。ブルー・ファイヤー隊以下、私の指揮下にある部隊は、友軍のオリンポス山攻撃の支援の為に、ヘスペリデス湖に存在する帝国軍の拠点 ゴルトゼー基地を攻撃する。貴官らの部隊も合流するか?」アルバートは、ビクターに尋ねた。アルバートの方が階級は上であるため、攻撃部隊に加わる様に命令することも出来た。しかし、危険な任務に合流させるのは、相手側の選択に任せたかった。「我々も参加させてください。」ビクター大尉は、はっきりとした口調で言った。「…感謝する。」アルバートのシールドライガーmkUを先頭に他の機体が続く。ブルー・ファイヤー隊、グリーン・アロー隊、そして幾つかの部隊を加えた共和国高速混成部隊は、攻撃目標であるゴルトゼー基地に向かっていった。彼らは、45分後、ゴルトゼー基地に到着した。ゴルトゼー基地を守備する帝国軍は、大型ゾイド多数を含む500機以上のゾイドを有する大部隊である。普通ならば、アルバートの部隊は、圧倒的戦力差の前に短時間で多数が撃破され、降伏か全滅か、いずれかの選択を余儀なくされていただろう。だが、それは、3週間前までの話であり、現在のゴルトゼー基地の戦力は、大幅に削減されていた。その理由は、主として共和国軍との戦いの前線に部隊を派遣したこともあるが、共和国軍撃退後は、オリンポス山周辺の防備を固めることを優先せよ、というガイロス帝国摂政であり、帝国軍最高司令官 ギュンター・プロイツェン元帥の命令も関係していた。要するに帝国軍は、この戦いを既に自分達の勝利は動かぬものと考えていたのである。「…敵部隊を通すな!」メインゲートを塞ぐヘルディガンナー6機が、背部のロングレンジアサルトビーム砲を接近してくる共和国の高速部隊に対して乱射した。ブルー・ファイヤー隊以下、共和国軍部隊は、それらの攻撃を容易く回避する。「邪魔だ!」シールドライガーmkUがビームキャノンを撃ち返す。少し遅れてジェフのコマンドウルフ改が大型キャノンを、エミリアのコマンドウルフAUがロングレンジキャノンを、クライマーウルフ部隊は、背部キャノン砲を発射する。ヘルディガンナー6機は、共和国軍部隊の集中砲火を受けて次々と爆発炎上した。そしてその真後ろにあった防御壁も破壊されている。「全機、我に続け!」撃破された敵機と破壊された防御壁を飛び越え、シールドライガーmkUを先頭に共和国軍高速部隊がゴルトゼー基地内に侵入した。防御壁の上に設置された砲台が、侵入を阻止しようと砲撃を浴びせる。だが、まるで当らなかった。「出来るだけ基地施設を破壊するんだ!」アルバートのシールドライガーmkUの背中のビームキャノンが火を噴き、直撃を受けた基地の倉庫が爆発した。中に保管されていた弾薬が誘爆したのか格納庫は木端微塵に消し飛び、その周囲にいたイグアンやゲーターが吹き飛んだ。「邪魔だ!どけ!」マクダネルのクライマーウルフがイグアンを押し倒す。ゲーターがビームガトリング砲を乱射する。だが回避され、コックピットをビームで撃ち抜かれる。ゴルトゼー基地に突入した共和国軍部隊は、その機動性を活かして基地守備隊の帝国軍を撃破していく。「お前ら突っ込むぞ!」ジェフ・ラドリー少佐のコマンドウルフ改がコマンドウルフ3機を率いてレッドホーンに襲い掛かる。3機のコマンドウルフは、彼が指揮官を務めるグリーン・アロー隊の機体ではなかった。だが、この切迫した戦況では、そんなことを問題視する余裕もない為、別部隊の指揮官であるジェフに3機のパイロットは従った。3機のコマンドウルフは、背部に装備した50o2連装ビーム砲を連射する。ビームは、レッドホーンの重装甲に弾かれる。だが牽制としての役割は果たしていた。レッドホーンの砲手は、リニアキャノンやビーム砲をコマンドウルフに向けて乱射する。その隙にジェフのコマンドウルフ改が吶喊する。それに気付いたレッドホーンは、コマンドウルフ改に向かって突進する。「遅いぜ!」ジェフはその攻撃を回避すると、コマンドウルフ改の大型キャノン砲のトリガーを引いた。大型キャノン砲から砲弾が放たれ、レッドホーンの右前足を吹き飛ばす。脚を1つ失ったレッドホーンは、その場に倒れた。「今だ!接近戦で仕留めるぞ。角に気を付けろ」コマンドウルフ改とコマンドウルフ3機が青白く牙を輝かせ、レッドホーンに飛び掛かった。脚部を損傷したレッドホーンを守るべく、ヘルキャットが3機立ち塞がったが、ジェフのコマンドウルフ改の牙に2機が首を噛み切られ、残った1機は、コックピットをコマンドウルフに撃ち抜かれて倒れた。その隙にレッドホーンは、大勢を立て直し、目の前のコマンドウルフ4機に向けてリニアキャノンと80o2連装地対空ビーム砲を乱射する。「悪あがきを!」ジェフは、その攻撃を回避しつつ、背部の大型キャノン側面のビームガンと後足に装備されたミサイルポッドを発射する。ミサイルとビームを受け、レッドホーンの背部兵装は滅茶苦茶に破壊された。「止めを刺すぞ!」「了解」ジェフの指示を受け、3機のコマンドウルフがレッドホーンに飛び掛かった。やがて1機のコマンドウルフのエレクトロンバイトファングがレッドホーンの喉笛を噛み切った。
暴れまわるアルバート率いる共和国高速部隊とそれを迎撃するゴルトゼー基地守備隊……その上空からサイカーチス部隊が飛来した。「共和国軍のバカどもが、上空から一方的に叩き潰してやる」サイカーチス部隊を率いる指揮官のハンス・ジルバーバウアー大尉は、地上で友軍と交戦している共和国軍を見て、獰猛な笑みを浮かべた。対地攻撃を得意とするサイカーチスは、小型ゾイドながら、敵地上部隊にとっては侮れないゾイドであった。彼の部隊が上空から攻撃を仕掛けようとしたその時……!編隊最後尾のサイカーチス2機が後部にビームを受け、撃墜された。「なにっ!」更に1機が爆散し、サイカーチスの残骸が金属の雨となって地上に降り注いだ。「お前らは、この俺が直ぐに叩き落してやるぜ!」バートは、獰猛な笑みを浮かべつつ、背部に装備したAZ小口径2連装ビーム砲を連射した。ビームがサイカーチスの胴体を撃ち抜く。「当たれっ」メアリーのダブルソーダが機首に装備したブレイクソードでサイカーチスを引き裂いた。それまで低空で機銃掃射を行っていたバートとメアリーの操縦するダブルソーダが襲い掛かったのである。ダブルソーダは、プテラスやレドラーといった本格的な空戦ゾイドには敵わないものの空戦性能では、ガイロス帝国軍のサイカーチスを上回っていた。何しろこのクワガタ型小型ゾイドは、旧大戦時にゼネバス帝国軍のサイカーチスに苦しめられた共和国軍が開発したサイカーチスキラーとも言うべきゾイドなのだから当然と言える。2機のダブルソーダは、サイカーチスの編隊に攻撃を仕掛け、組織的な対地攻撃を行うのを妨害した。一部のサイカーチスは低空に逃れようとしたが、地上で戦っていた共和国軍の対空射撃を受ける羽目になった。「落ちろっ」ジャックのコマンドウルフが背部のビーム砲を連射し、1機のサイカーチスを蜂の巣にした。デュランのコマンドウルフ・ガトリングカスタムが高速ガトリング砲を掃射し、低空飛行していたサイカーチス5機を立て続けに撃墜した。両腕を対空砲に換装した対空イグアンが、上空を飛行するダブルソーダ2機に狙いを定める。パイロットが照準器にメアリーのダブルソーダの下腹を捉え、引金に指を掛けた。だが、パイロットが引金を引くことは無かった。パイロットはコックピット諸共ビームの直撃によって蒸発させられていた。コマンドウルフの放ったビームが、対空イグアンのコックピットを撃ち抜いたのである。次に胴体に対空機関砲を載せたモルガAAが、上空に銃身を向ける。毎分数千発の高速徹甲弾を発射可能な機関砲が上空を飛ぶダブルソーダを狙う。パイロットがボタンを押せば、その青い機体は、対空弾の雨に引き裂かれていただろう。だが、それよりも早く、横合いからコマンドウルフの50mm 2連装ビーム砲がモルガAAの対空機関砲に命中した。弾薬が誘爆し、搭載されていた対空機関砲を吹き飛ばす。アルバートのシールドライガーmkUがビームキャノンで対空イグアン4機を纏めて撃ち抜く。大型ゾイドの重装甲にも打撃を与えることの出来る高出力ビームを受け、4機のイグアンは火球と化し、爆発四散した。「基地機能を少しでも破壊しないとな」基地施設に向けてビームキャノンを連射しながら、アルバートは、そう自分に言い聞かせた。レッドホーンBGがビームガトリングを撃ちながらアルバートのシールドライガーmkUに突進してきていた。アルバートのシールドライガーmkUは、その攻撃を寸前で回避する。更にモルガ4機が尾部からミサイルを発射して来る。アルバートのシールドライガーmkUは、背部に収納されていた2連装ビーム砲でミサイルを撃ち落とすと反撃に出た。シールドライガーmkUのミサイルポッドが火を噴き、モルガ4機を撃破した。ガイロス帝国軍の一大拠点 ゴルトゼー基地への攻撃部隊の指揮官である彼には、任務を達成すると共に損害を少しでも減らし、部下を帰還させる義務があった。元々、彼が指揮官を務めていたブルー・ファイヤー隊、戦友のジェフの率いていたグリーン・アロー隊、そして今回の任務の為に臨時に指揮下に置かれた部隊までが今のアルバートの指揮下にある。これらの部隊を用いて短期間で敵の拠点に大打撃を与えるのが、指揮官としての彼に与えられた任務である。「…あれは!」アルバートの視界にある施設≠ェ飛び込んできた。その施設は、ゴドスの全長程の高さの円筒が集まって出来ており、それらの鈍色の円筒からは、膨大な熱量が発散されていた。「エミリア大尉、付近に存在するエネルギータンクの破壊を頼む。あのドラム缶みたいなやつだ。ハルド中尉とゲイル中尉は、大尉を援護。第5小隊は陽動を」「了解」「大尉殿、ちゃんと援護してみせますよ」軽口を叩くゲイルと対照的にハルドは、真面目な態度を崩さない。「分かりました」コマンドウルフ8機で編成される第5小隊は、陽動を務める。エミリアが狙うのは、ゴルトゼー基地のゾイドに補給を行うためのエネルギータンクである。ゾイドの命の源であるゾイドコアは、厖大なエネルギーを生み出す動力機関でもある。そのエネルギーによってゾイドは、重い装甲を纏いながらも、高速で走り回り、ビームやレーザー等の高エネルギー兵器を運用することが出来る。それでも、ゾイド本体の生み出すエネルギーを多用することにはリスクが存在した。最大の物は、ゾイドコアからエネルギーを取り出す場合、ゾイドコアに負担が掛かる。その負担は、軽度の物では、人間でいえば、身体を動かし過ぎた時の疲労程度で済むが、それを多用した場合、ゾイドの寿命が低下し、最悪、その場でゾイドコアが機能停止する事さえあった。旧大戦の頃も、高出力ビーム兵器を搭載したゾイドの中で、コア出力の限度以上に多用した機体が、戦闘終了後に機能停止し、そのまま死滅したケースがいくつか確認されている。この様な事故を防ぎ、ゾイドに負担を掛けない為に軍用ゾイドの多くでは、ゾイド用の小型化されたエネルギータンクやパワーパックが搭載されている。これらゾイドの搭載火器用のエネルギータンクへの補給用にビームやレーザー、レールガン等の兵装に利用するエネルギーを貯めて置くためのエネルギータンクが必要になるのである。ゴルトゼー基地程の大規模な基地だと、エネルギータンクは複数存在し、それを全て破壊することは、彼の指揮下の戦力的に不可能である。だが、今アルバートの部隊が戦闘を行っている区域にあるエネルギータンクを攻撃することは、不可能ではなかった。基地施設のエネルギータンクを破壊することは、敵のゾイドへの補給システムに損害を与えることになり、複数の敵ゾイドの戦力価値を大きく損なわせることに繋がる。上手くすれば、敵のゾイド部隊そのものを破壊することに匹敵する戦果を挙げることが出来た。流石に帝国軍の方もそれを理解している為エネルギータンクが集められたその施設の周囲には、大型ゾイド レッドホーン1機を含む護衛部隊が配置されていた。この護衛部隊を排除するか、移動させないかぎり、その奥にあるエネルギータンクを攻撃することは難しい。それをアルバートも認識していた。まず陽動のコマンドウルフ隊が守備隊をエネルギータンク施設から引き離そうとビームを乱射しながら、基地を縦横無尽に駆け回る。帝国軍部隊の一部がそれらの部隊が他の施設を攻撃することを警戒し、エネルギータンクの周囲から離れる。それでもレッドホーンを含む約半数の部隊がエネルギータンクを守っていた。「突っ込むぞハルド、ビビるなよっ」「ゲイルさんこそ。」ハルドとゲイルのコマンドウルフがエネルギータンクの前の帝国軍部隊に突撃した。ハルドのコマンドウルフが50mm2連装ビーム砲を連射し、イグアン3機を撃破する。ゲイルのコマンドウルフのエレクトロンファングがヘルキャットの頭部を噛み砕く。「たった2機で突っ込んできただと?!」コマンドウルフ2機のみで大型ゾイドを含む部隊に突撃してきたことに、帝国兵は驚愕した。無理矢理接近戦に持ち込まれ、数の差を活かせないまま、帝国軍は損害を重ねていった。レッドホーンの大火力で吹き飛ばそうにも、防衛目標のエネルギータンクや友軍機が付近にある状況では、乱射をする勇気はレッドホーンのパイロットにはなかった。2機のコマンドウルフの攻撃は、エネルギータンクの周囲の帝国軍のゾイドを次々と撃破していったが、何故かレッドホーンには攻撃を仕掛けることは無かった。「そろそろだ!ハルド」「はい!」2機のコマンドウルフは、部隊の半数近くに損害を与えると、ビーム砲を連射しながら退却を開始した。ビーム砲の目標は、それまで攻撃が及ばなかったレッドホーン…その攻撃は、レッドホーンのパイロットを挑発している様だった。「おのれ!」パイロットが挑発に乗ったのかレッドホーンを含むタンクの周囲にいた部隊が移動した。数機のヘルキャットとイグアンがエネルギータンクの周囲に引き続き留まった。「野郎引っかかったな。」モニターに表示されるリニアキャノンを乱射しながら向かって来るレッドホーンの姿を見たゲイルは、自分達の命がけの挑発が成功したことを喜んだ。エミリア大尉のコマンドウルフAUがその隙にエネルギータンクに接近した。ブルー・ファイヤー隊、グリーン・アロー隊の両部隊で、最も射撃に秀でたエミリア大尉の射撃の技量なら、接近しなくとも十分にエネルギータンクを狙い撃つことが可能だった。しかし彼女は、少しでも確実に目標に射撃を命中させることを優先していた。「当たれ!」エミリア大尉のコマンドウルフAUがロングレンジキャノンを発射する。発射された砲弾は、エネルギータンクに命中し、内部で炸裂した。直後、エネルギータンクは轟音と共に大爆発を引き起こした。爆発に巻き込まれたヘルキャットとイグアンが大破した。「やってくれたか!」ゴルトゼー基地を揺るがせる爆発を見たアルバートは、部下達が役目を果たしてくれたことに感謝した。今の彼は、レッドホーンBGと交戦していた。レッドホーンBGはアルバートのシールドライガーmkUにビームガトリングを連射する。このレッドホーンBGのビームガトリングは、旧大戦時のダークホーンのハイブリットバルカン程の破壊力は無いが、集中射撃なら中型ゾイド2機を撃ち抜く威力を有していた。その威力は、大型ゾイドのシールドライガーmkUでも油断はできなかった。アルバートのシールドライガーmkUが、ビームの雨を回避すると同時にレッドホーンBGが猛烈な勢いで突進してくる。「それを待っていた!」自機に猛牛の如く一直線に突撃して来る重火器を背負った赤い角竜の姿を見据え、アルバートは、口元に笑みを浮かべる。それは、自身の勝利を確信した笑みだった。レッドホーンBGがシールドライガーmkUに激突する寸前で、シールドライガーmkUは、右に跳躍し、レッドホーンBGの突進を回避する。そしてアルバートのシールドライガーmkUは、レッドホーンBGの突進を回避した後、側面に至近距離からビームキャノンとミサイルを叩き込む。至近距離から大火力を叩き付けられ、レッドホーンBGは、甲高い悲鳴を上げると地面に横倒しになった。側面装甲の損傷を見れば、戦闘不能に陥ったのは、明らかであった。同じ頃、ハルドとゲイルがエネルギータンクから引き離したレッドホーンも、ジェフのコマンドウルフ改とコマンドウルフ5機の集中攻撃の前に撃破されていた。「そろそろ撤退すべきか…」火の手を上げる周囲の基地施設と撃破された両軍のゾイドの残骸を見やり、アルバートはそろそろ撤退命令を出すべきだと考えていた。ブルー・ファイヤー隊以下、ゴルトゼー基地に突入した共和国軍高速部隊は、既に守備隊のゾイド部隊に少なくない打撃を与え、基地施設の4分の1近くに損害を与えることに成功していた。戦闘も、現状はブルー・ファイヤー隊とグリーン・アロー隊を中心に共和国軍部隊が圧倒していた。ゴルトゼー基地の帝国軍部隊は未だに奇襲の混乱から立ち直れていない様で、次々と現れては、他の部隊との連携も満足に取れず、機動力に勝る共和国部隊に各個撃破される醜態を晒していた。これには、エミリア大尉のコマンドウルフAUとジェフのコマンドウルフ改が指揮官機と思しき機体を狙撃して混乱を拡大しているというのも影響している。だが、一部の部隊は、統制のとれた反撃を行っており、油断は出来なかった。更にゴルトゼー基地の異変を察知した周辺の敵部隊が救援に舞い戻ってくる可能性もあった。特にエネルギータンクの爆発は、遠く離れた場所からでも確認できたことは確実である。速く撤退しなければ、辛うじて4個中隊になるかならないかの兵力で、数個大隊規模の敵と絶望的な交戦を演じるしかなくなる。ゴルトゼー基地の施設には十分に打撃を与えた。アルバートが撤退命令を出そうとしたその時、戦場にある異変が起こった。異変の始まりとなったのは、倉庫に対して攻撃を行おうとしていた別部隊のコマンドウルフが、突如、胴体を撃ち抜かれて爆発したことだった。「ぎゃあ!」「何!わぁ」次に、クライマーウルフが首筋を撃ち抜かれて倒れた。「スミスっ!」イグアンを砲撃で吹き飛ばしたばかりのマクダネルは、思わず叫んだ。「流れ弾か…っ!」ジェフは、最初それらの攻撃を流れ弾によるものだと思った。戦場において流れ弾というものは、珍しい物ではないからである。次の瞬間、彼のコマンドウルフ改も狙われた。一瞬、悪寒が身体を奔るのを感じたジェフは、警報音がコックピットに鳴り響くのとほぼ同時に操縦桿を切っていた。直後、先程までコマンドウルフ改が存在していた空間を火線が掠めた。警報システムを聞いてから回避していたら、彼は、機体を棺桶に生きたまま火葬されていたのは確実であった。次々と炎の壁を突き破るようにして新たな機影が複数出現した。それらの機影は、いずれも四足獣型ゾイドであった。「新手か!」アルバートは、新たに出現した敵部隊を睨んだ。基地施設の上げる炎を背後に出現したのは、セイバータイガーとヘルキャットの混成部隊。典型的なガイロス帝国軍高速戦闘隊の編成と言える。その数は、少なく見積もっても、20機以上はいた。そして、その中心には、背中に長距離砲を装備したセイバータイガー………セイバータイガー・スナイパーの姿があった。
燃え盛る基地施設の炎の壁を背にセイバータイガー・スナイパーが咆哮を上げた。それに合わせて周囲の通常機のセイバータイガーも目の前の敵の群れに向けて咆哮する。力強く荒々しい鋼鉄の虎の雄叫びの重奏が木霊した。グスタフやゴルドス等の気性が大人しいゾイドならコンバットシステムがフリーズしていただろう。だが、今回ゴルトゼー基地を襲撃した共和国部隊は、上空のバートとメアリーのダブルソーダを除けば、シールドライガー、コマンドウルフと勇猛な気性を持つ肉食獣型ゾイドで構成されていた。指揮官機であるアルバートのシールドライガーmkUを中心に共和国軍部隊のコマンドウルフ達も吼え返す。それは、まるで野生下でのゾイドの群れ同士の縄張り争いの様であった。「レッドラストで遭遇したカスタム機か!」アルバートは、敵部隊の中心に立つセイバータイガー・スナイパーを見て叫ぶ。アルバートがその敵機に気付いたのと同様に、セイバータイガー・スナイパーのパイロットであるヨーゼフ中佐も、アルバートのシールドライガーmkUの姿を見て、それがレッドラストの戦闘で遭遇した機体であると判断していた。「あの時のシールドライガーmkUか!!」セイバータイガー・スナイパーの背部に搭載された長距離砲が火を噴く。「くっ!」アルバートは、シールドライガーmkUを即座に飛び退かせた。電磁加速されたその砲弾は、シールドライガーmkUの足元に着弾し、黒煙を上げた。即座にシールドライガーmkUも反撃、ビームキャノンを発射した。セイバータイガー・スナイパーは、それを回避すると、シールドライガーmkUに突撃する。接近戦に備えて、機体の全長程もあるセイバータイガー・スナイパーの長距離砲が折り畳まれた。シールドライガーmkUもレーザーサーベルを光らせ、飛び掛かってくるセイバータイガー・スナイパーを迎え撃つ。指揮官機同士が、激突するのに呼応して、部下の機体同士の戦闘も始まった。「こいつ!」イルマのセイバータイガーが、キラーサーベルを煌かせ、ジェフのコマンドウルフ改に飛び掛かった。ジェフのコマンドウルフ改は、その攻撃を回避、エレクトロンファングでそのセイバータイガーの右前脚に噛付こうとする。「そんな攻撃で!」イルマのセイバータイガーは、その攻撃を寸前で回避すると、左前足のストライククローを横薙ぎに振う。「!」ジェフのコマンドウルフ改は、バックステップでそれを回避した。加速を受けた特殊合金製の爪がつい数秒前までジェフの肉体を乗せたコックピットが存在していた空間を横薙ぎにした。後一歩遅ければ、ジェフは、コックピット諸共引き裂かれていただろう。コマンドウルフ改は、大型キャノン砲を発砲する。イルマのセイバータイガーはそれをぎりぎりで回避する。ヘルキャット3機が、イルマのセイバータイガーを援護するべく、コマンドウルフ改との戦闘に加入する。3機のヘルキャットは、レーザー機銃を連射しながら、コマンドウルフ改に接近する。「雑魚まできやがったか」ジェフは新しい敵機の出現に顔を歪める。イルマのセイバータイガーが、3機のヘルキャットと共にジェフのコマンドウルフ改に襲い掛かる。他のセイバータイガーやヘルキャットも散開し、それぞれの敵機を仕留めるべく駆ける。セイバータイガー・スナイパーは、長距離砲…ロングレンジスナイパーライフルを展開し、シールドライガーmkUに砲撃する。それを回避したシールドライガーmkUは、背部のビームキャノンで反撃する。セイバータイガー・スナイパーはその攻撃を回避する。しかし、その背後にいたヘルキャットは反応できず、ビームを食らったヘルキャットが大破した。セイバータイガー・スナイパーもロングレンジスナイパーライフルを発砲、クライマーウルフの頭部が砕け散る。「落ちなさい!」エミリアのコマンドウルフAUが、ロングレンジキャノン砲を発砲。砲弾を受け、ヘルキャットの頭部を破壊する。「邪魔だ!」コマンドウルフ改が、ヘルキャットの首筋をエレクトロンファングで噛み砕き、撃破する。「こいつら!新手か。」デュランのコマンドウルフ・ガトリングカスタムは、背部に追加装備された高速ガトリング砲を乱射し、ヘルキャットを4機蜂の巣にする。「次はてめえだ!……っしまった!」デュランが、新たな敵機を狙おうとしたその時――――――セイバータイガーの背部AZ30mm2連装ビーム砲が撃ち抜いた。細長く青白い光線に撃ち抜かれたガトリング砲は、爆発する。爆発が収まった後には、ガトリング砲は、黒煙を出すだけの奇妙な鉄屑に変貌していた。「ちっガトリング砲がっ!」即座にデュランは、鉄屑と化したガトリング砲をパージした。使用できない武装等、単なる重荷でしかない。炸薬によって高速ガトリング砲がパージされ、デュランは、乗機のコマンドウルフの装備火器を全て失った。「へっ……残ってるのは、牙と爪だけか!」ガトリングカスタムの唯一の装備火器である高速ガトリング砲を失った今、彼のコマンドウルフは、格闘兵装のエレクトロンファングとストライククローだけで戦わなければならない。しかも相手は、大型ゾイドのセイバータイガー……彼にとって有利と言える状況ではなかった。しかし、この不利な状況でもデュランは、笑みを浮かべていた。近接格闘戦は、彼にとって望むところだった。士官学校時代、訓練での危険な動きから、向こう見ずと教官と仲間たちから馬鹿にされていた男にとってこの程度の不利は、恐れる程のことではなかった。デュランは、射撃武装を喪ったコマンドウルフで、セイバータイガーに立ち向かう。対するセイバータイガーは、背部のミサイルポッドを発射した。デュランは回避、エレクトロンファングでセイバータイガーの頭部を狙う。セイバータイガーは、回避しきれず、セイバータイガーの左肩装甲が一部もぎ取られた。砕けた装甲材の一部が地面に飛び散る。セイバータイガーは、一瞬痛みに呻き、直後には怒りの咆哮を上げて左のストライククローで殴り返す。デュランのコマンドウルフは、咄嗟にバックステップで後退したが、左肩装甲が削られ、爪痕が残った。コマンドウルフのコックピットに警報が鳴り響き、正面モニターに機体の損傷個所とその度合いが表示される。「左脚部に20%のダメージ……さすが赤い暴風、侮れねえな」愛機のダメージを確認しつつデュランは、獰猛な笑みを浮かべて言った。「ハルド、お前は援護でいい、止めは俺に任せろ!」「はい、ゲイルさん」ゲイルとハルドのコマンドウルフは、連携して1機のセイバータイガーに挑む。同じく他の部隊のコマンドウルフやクライマーウルフも僚機と共にセイバータイガーに挑む体制を取った。1対1では、性能で劣るコマンドウルフは、普通ならセイバータイガーに敵わない。同じく山岳戦用に強化されたクライマーウルフも、セイバータイガーには性能で劣る。だが、2、3機で連携を組めば、互角とは言えずとも1機で挑むよりは、マシな戦いが出来た。かつてのゼネバス帝国との戦争の頃にセイバータイガーの原型機となったサーベルタイガーに対抗するために共和国軍のコマンドウルフパイロット達によって編み出された戦法である。サーベルタイガーよりも性能が改良されているガイロス帝国軍のセイバータイガーにどれ程通用するかは未知数だったが、ある程度は、善戦できる筈だった。共和国側の意図に気付いた指揮官のヨーゼフ中佐は、即座に対策を建てる。「ヘルキャットは、セイバータイガーを援護しろ!」「中佐、了解しました」「はっ!」「了解です」「了解!!」ヘルキャットがセイバータイガーの援護に就く。ヘルキャットが加われば、戦闘は、数に勝る帝国側が有利となる。コマンドウルフを主体とする共和国軍部隊もそれを知っているため、対処する。セイバータイガー・スナイパーと距離を取ったアルバートのシールドライガーmkUが、ビームキャノンでヘルキャットを数機纏めて撃破する。別部隊のコマンドウルフ・ガトリングカスタムもヘルキャットに向けてガトリングを乱射する。「糞!ヘルキャットまできやがったか」アルフが毒づく。「デュラン大尉!」ジャックのコマンドウルフは、デュランのコマンドウルフに加勢する。ジャックのコマンドウルフが、左からデュランのコマンドウルフに砲撃していたセイバータイガーにタックルする。そのセイバータイガーは、予期せぬ方向からの攻撃に態勢を崩す。ジャックのコマンドウルフがデュランのコマンドウルフの隣に立つ。「ジャックか!助かるぜ。」デュランは、右手の親指を立て、隣に立つ友軍機のパイロットである黒髪の青年に感謝を送る。「俺の指示に従ってくれ」「はい!大尉殿」「了解」アルフも、別部隊のコマンドウルフ2機と共にセイバータイガーに立ち向かう。「隊長達を援護するぞ!」「はい!」バートとメアリーのダブルソーダ2機も上空から盛んに地上のセイバータイガーやヘルキャットに機銃掃射を浴びせ、共和国軍部隊のコマンドウルフを支援する。軽量化によって防御力の低いヘルキャットは、機銃掃射でも十分致命傷になる。ダブルソーダの背部の小口径2連装ビーム砲ならば一撃で撃破できる。大型ゾイドであるセイバータイガーは、流石にダブルソーダの装備火器で撃破するのは不可能だったが、それでもセンサーや武装に損傷を与えることは可能だった。「こっちは一度部隊が全滅してるんだ!また全滅して、自分だけ生き延びてたまるかってんだ!」地上の敵に果敢に攻撃を浴びせながらバートは叫んだ。「はい!」バートも、メアリーも共にかつて所属していた原隊を喪っている………2人とも掛け替えのない居場所と戦友をまた失うのは、耐えられなかった。「高速部隊が現れるとは、厄介な!」セイバータイガー・スナイパーに向けてビームキャノンの照準を合わせながら、アルバートは苦々しげにそう吐き捨てた。これでは退却できない。ヘルキャットとセイバータイガーは、シールドライガーとコマンドウルフを追撃できる機体である。敵の勢力圏で、追撃部隊を引き連れて逃げ回るのは、無謀に等しかった。アルバートら共和国軍部隊が、無事友軍の勢力圏に撤退する為には、目の前の帝国軍高速部隊を撃破する必要があった。特に彼が今交戦しているセイバータイガー・スナイパーは、背部に装備された長距離砲の存在もあって危険すぎる存在だった。―――――こいつを何とかしないと味方は壊滅的打撃を受けかねない。そんなアルバートの思いとは裏腹に、彼のシールドライガーmkUは、決定打を得ることは出来なかった。「中佐殿…こいつめ!」マクダネルのクライマーウルフが背部のキャノン砲で援護する。「当たって堪るか!」だが、セイバータイガー・スナイパーは軽々と回避する。更にクライマーウルフ2機が背部のキャノン砲を連射する。だが、放たれる砲弾は、セイバータイガー・スナイパーに掠りもしなかった。「大尉!そいつはただ者ではないぞ!下がるんだ!」アルバートは、マクダネルに警告する。あれは、マクダネル大尉達の技量では、到底撃破できる相手ではない。レッドラストの戦いで短時間だけ戦っただけだったが、その実力はエースパイロット級だった。あの時、少しでも救援が遅れていたら、重砲部隊が壊滅していたのは確実だった。その場合は、エミリア大尉は、この場に立ってはいなかっただろう。アルバートは、なんとか彼らを下がらせようとビームキャノンで援護したが、それは、セイバータイガー・スナイパーによって回避される。「落ちろ!」セイバータイガー・スナイパーのライフルが火を噴いた。頭部を撃ち抜かれたクライマーウルフ2機が首筋を撃ち抜かれて倒された。「よくも部下達を!」怒りに燃えるマクダネルは、クライマーウルフを突っ込ませた。「マクダネル大尉!」アルバートは、援護に入ろうとした。だが、それよりも早くマクダネルのクライマーウルフの胴体をセイバータイガー・スナイパーのロングレンジスナイパーライフルの一撃が撃ち抜いた。その一撃は、ゾイドの中枢部であるゾイドコアを貫いていた。ゾイドコアを撃ち抜かれたクライマーウルフが爆散する。「マクダネル大尉!」アルバートはシールドライガーmkUのEシールドを起動させた。シールドライガーMkUの鬣が展開され、機体の前方にEシールドが形成された。Eシールドを展開したシールドライガーmkUは、セイバータイガー・スナイパーに向かって突進する。その光の防壁に進路上にいたヘルキャット2機が接触し、跳ね飛ばされた。ヘルキャットはゴム毬のようにコンクリートの大地に何度も叩きつけられて大破した。「このまま、シールドを叩き付けてやる。」アルバートは、愛機のEシールドの防御力に自信を持っていた。彼の愛機 シールドライガーmkUは、他のシールドライガー、シールドライガーDCSに比べてEシールドの強度が高かった。その理由の1つは、このシールドライガーmkUの素体となったシールドライガーの野生体が粒子力場発生能力を有している個体であったからだ。この能力は、シールドライガーの機体名称の由来であるEシールドを展開時にEシールドジェネレーターの性能を向上させる効果を有していた。アルバートの機体は、大異変後の保護政策によって粒子力場発生能力を喪失する等、弱体化した野生体を素体とする現在の共和国軍のシールドライガーの大半よりも強いシールドを展開出来たのである。更に実弾兵器対応処理を含む大異変後の技術による改良と相まってEシールドが強化されていた。これらの要素により、アルバートのシールドライガーmkUは、従来機よりもEシールドの強度が高かったのである。ヨーゼフのセイバータイガー・スナイパーが、ロングレンジスナイパーライフルを、Eシールドを展開したアルバートのシールドライガーmkUに向ける。「このままEシールドを叩き付けてやる!」しめた! アルバートは、心の中で思わずそう叫んだ。あのセイバータイガーのパイロットは、長距離砲でシールドを撃ち抜くつもりなのだろうが、それでEシールドを撃ち抜ける筈が無い! このEシールドを貫通出来る兵装をセイバータイガーが装備しているとは、アルバートには思えなかった。長距離砲による攻撃さえ凌げば、勝てる!彼はそう考えていた。長距離砲を撃つ間、あの改造セイバータイガーの動きは止まる、そこにシールドアタックを受ければ、軽量なセイバータイガーは、体勢を崩す筈。そこを至近距離からのビームキャノンで仕留める。それがアルバートの考えていた戦法だった。「こちらにシールドを撃ち破る兵装が無いと思うなっ!」ヨーゼフはトリガーを引き、電磁波の盾を掲げて突っ込んでくる敵機に向けて必殺の銀の弾丸を放った。その銀の弾丸の名は、シルトイェーガー…盾の狩人と名付けられたこの弾丸は、ゾイマグナイト弾芯と特殊強化合金の弾頭を有する徹甲弾であった。その名の通り、シールドライガーのEシールドやゴジュラスに使用されている特殊チタニウム合金等の重装甲を貫通することを目的に開発された。そしてそれは、今その開発目的通りの役目を果たした。電磁加速を受けたその徹甲弾は、アルバートのシールドライガーmkUのEシールドの表面に着弾。そのエネルギー波の防壁を貫通すると、白い鬣に内蔵されたEシールドを発生させる装置を粉砕した。ジェネレーターを損傷したことにより、シールドライガーmkUが展開していたEシールドが解除された。シールドライガーmkUは、最大の防御兵装であったEシールドを喪失し、無防備な状態に陥った。損傷を受けたシールドライガーmkUは、その場に崩れ落ちる。「くっ!シールドが!?」アルバートは、心理的に強い衝撃を受けた。Eシールドが、無敵の防御兵装ではない事を十分に認識していたが、実際にこうして撃ち破られたのは、やはり衝撃的だった。軽装備の高速ゾイド同士の戦いで、Eシールドが破られること等想定外の事だったからだ。だが、それは紛れもない現実であった。更に追い打ちをかけるべく、ヨーゼフは、再びスナイパーライフルの照準をシールドライガーmkUに合わせようとする。次に狙うのは、パイロットのいる頭部コックピットである。その時、彼の背筋を寒気が走った。殺気を感じたヨーゼフは、機体を後退させる。―――――次の瞬間、ヨーゼフの乗機であるセイバータイガー・スナイパーの鼻先を砲弾が通過した。「何っ」後少し遅かったら頭部を撃ち抜かれていたに違いなかった。「アルバート中佐!援護します。」エミリア大尉のコマンドウルフAUがロングレンジキャノンで支援射撃を行う。彼女のコマンドウルフAUは、友軍のコマンドウルフ3機と共にセイバータイガー1機とヘルキャット2機を撃破していた。ロングレンジキャノンから立て続けに砲弾が発射される。直撃すれば、セイバータイガーも十分に撃破可能な攻撃である。対するヨーゼフのセイバータイガー・スナイパーは、回避運動を行わない。背部のロングレンジスナイパーライフルが火を噴いた。次の瞬間、空中で砲弾同士が激突し、火球と化す。後に続く砲弾もロングレンジスナイパーライフルに迎撃され、虚しく火球に変じた。「砲弾を砲弾で撃墜したのか……なんて奴だ。」アルバートは、敵の射撃技量の高さに戦慄した。「正確な攻撃…だが、弾道が読みやすいぞ……」ヨーゼフは、笑みを浮かべて言う。セイバータイガー・スナイパーは、再びシールドライガーmkUにロングレンジスナイパーライフルを向ける。「エミリア大尉!援護してくれ」「了解」アルバートのシールドライガーmkUは、エミリアのコマンドウルフAUの支援の元、セイバータイガー・スナイパーに襲い掛かる。ジェフのコマンドウルフ改は、イルマのセイバータイガーと激しく交戦していた。コマンドウルフ改が大型キャノン砲を発砲すれば、セイバータイガーはそれを回避し、キラーサーベルをむき出しにして飛び掛かる。コマンドウルフ改もエレクトロンファングを光らせて、噛付こうとする。だが、互いの牙が相手の装甲に噛付く寸前で、コマンドウルフ改は機体を左に倒して掻い潜る。「大型砲がデッドウェイトの筈なのに…なんて動きなの?!」イルマは目の前の敵機の動きに驚嘆を隠せずにいた。中型ゾイドであるコマンドウルフに大型ゾイド用の大型砲を搭載すれば、当然そのゾイドの運動性は低下する。コマンドウルフLCやAU、レールガンカスタムの様に。だが、イルマと交戦している改造コマンドウルフは、殆どノーマル機と変わらない動きでイルマのセイバータイガーと近接戦闘を演じていた。彼女は知らなかったが、このコマンドウルフ改は、パイロットであるジェフ・ラドリーの手によって内部機関を改造され、短期間ならセイバータイガーに匹敵する出力が出せたのである。「っ!!なんて奴だ。こいつは!」ジェフも、イルマのセイバータイガーの動きに驚愕を覚えていた。彼は、武装勢力が用いていたサーベルタイガーを撃破した経験もあった。開戦後は、ガイロス帝国軍のセイバータイガーと交戦してきた。だが、その彼にとっても目の前のセイバータイガーは、初めて遭遇する強敵だったのである。眼の前の敵は、ジェフがこれまで交戦してきたセイバータイガーの中で最も手強いパイロットだった。交戦していない機体ならレッドラストで遭遇した白いセイバータイガーや今アルバートとエミリアが戦っている長距離砲を装備した改造型のパイロットが、それ以上の敵だと言えた。「ジャック援護を頼むぞ!」「了解です」ブルー・ファイヤー隊とグリーン・アロー隊の他の隊員も、セイバータイガーとヘルキャットの混成部隊を相手に善戦していた。デュランのコマンドウルフは、エレクトロンファングでセイバータイガーの首筋を狙う。先程の攻撃を知っているセイバータイガーのパイロットは、それを回避した。更にそのセイバータイガーは、キラーサーベルでデュランのコマンドウルフの頭部に噛付こうとした。ジャックのコマンドウルフのビームがそのセイバータイガーの胴体に突き刺さり、セイバータイガーは体勢を崩す。その隙にデュランのコマンドウルフがエレクトロンファングでセイバータイガーの頭部に噛付く。少し遅れてセイバータイガーの頭部コックピットが噛み砕かれた。ゲイルとハルドのコマンドウルフもセイバータイガーを撃破していた。ハルドが囮役をやっている隙にゲイルのコマンドウルフが援護機のヘルキャットを蹴散らし、獲物を追うのに夢中だったセイバータイガーのコックピットを撃ち抜いたのである。ヘルキャットが1機、ジャックのコマンドウルフの背後に回った。「ジャック!」それを見たデュランはトリガーを引いた。コマンドウルフのビームを胴体に受けたヘルキャットが崩れ落ちる。「ちっ!」戦闘は終わる気配を見せず、アルバートは、焦る気持ちを募らせた。彼と戦っているセイバータイガー・スナイパーのパイロット ヨーゼフも同様に焦りを感じていた。「くっ(このまま戦闘が長引いたらゴルトゼー基地の施設に甚大な被害が出る!)」ゴルトゼー基地の防衛が目的である彼にとってこれ以上戦闘が長引くことで流れ弾により、ゴルトゼー基地の基地機能が破壊されることは好ましくなかった。ブルー・ファイヤー隊とグリーン・アロー隊のゾイドがゴルトゼー基地の帝国軍と交戦しているのと同じ頃、他の部隊も交戦していた。イグアンの胴をコマンドウルフがエレクトロンファングで噛み砕く。そのコマンドウルフも横合いからセイバータイガーのビーム砲とミサイルを撃ち込まれて崩れ落ちる。ヘルキャット数機からレーザー機銃の集中射撃を受けたコマンドウルフが蜂の巣にされる。その近くでは、コマンドウルフと交戦していたセイバータイガーが、クライマーウルフのキャノン砲で頭部を吹き飛ばされていた。激しく火の手が上がるコンクリートと金属の檻の中で、鋼鉄の肉食獣達は、搭載した火器、そして爪と牙を使って目の前の敵を葬るべく、縦横無尽に駆け回る。
ゴルトゼー基地で激戦が繰り広げられていたのと同じ頃、ついにハルフォード中佐率いる独立第2高速戦闘中隊は、オリンポス山山頂付近に建設された帝国軍の研究施設に到着していた。途中、帝国軍がオリンポス山山頂までのルートに配備した防衛部隊と幾度も遭遇し、激しい戦闘を繰り返した彼らは、ゾイドもパイロットも物質的にも精神的にも消耗していた。彼らは、このオリンポス山で、最初に砲声が響いたその日から他の共和国軍の援護を受けていたが、それでも限界はある。独立第2高速戦闘中隊も、半数以上の機体が、1か月の激闘で失われた。そして現在まで生き残った彼の部下の中にも損傷を負っている機体も少なくは無い。特にオリンポス山の最後の防衛線を突破する途中、出現した敵のエースパイロットが操るセイバータイガーは最大の脅威であった。このエースの駆るセイバータイガーの前に、多くの部下を喪いながらも、ハルフォードは、シールドライガーの機体名称の由来にもなった装備 Eシールドを用いた戦法で撃破することに成功した。山頂は、険しかった山腹の道とは反対に平らになっており、まるで天空から巨人が山の頂上を叩き潰したかのような印象を与えていた。そしてその平らな山頂の中心には、古代ゾイド人が遥か昔に建設した石造りの遺跡がその威容を誇示していた。「見えたぞ!」ハルフォードは、乗機のシールドライガーの操縦桿を動かした。部下のコマンドウルフも彼とシールドライガーに続いた。「共和国軍だ!1機たりとも遺跡に入れるな!」「……攻撃開始」遺跡の周囲に配備されていた帝国軍の警備部隊が彼らに襲い掛かった。モルガ部隊がガトリング砲を乱射しながら、コマンドウルフ部隊に突進する。コマンドウルフは、正面からの突撃を回避し、側面からビーム砲を叩き込んで撃破する。シールドライガーが背部の2連装ビーム砲を連射し、イグアン3機を破壊する。3機のイグアンはゾイドコアを撃ち抜かれ、爆散した。イグアンPBが右腕に装備したパイルバンカーを振りかざしてシールドライガーに襲い掛かる。「作業用の機体だと?」ハルフォード中佐のシールドライガーは、その一撃を回避する。そのイグアンPBに横合いからコマンドウルフのビームが撃ち込まれ、イグアンPBは爆発した。警備部隊を蹴散らした共和国軍は、遺跡の正面ゲートから遺跡内に侵入を図る。しかし彼らは、そこで立ち往生することを余儀なくされた。予め得ていた情報では、大型ゾイドでも侵入可能な入口があるとされていたその場所には、彼らの遺跡への侵入を阻むかのように巨大な外壁が聳えていたからである。人間が出入りできる程度の鉄のドアが1つだけついたその外壁の中心には、剣を抱く竜…ガイロス帝国の国章が刻まれている。遺跡の建材を硬化セメント弾や瞬間硬化剤で固めて作られた外壁は、ここ数日の間に即席で作られたものであることが窺えた。ハルフォードのシールドライガーは、胴体側面のミサイルポッドを展開、ミサイルを発射した。外壁にミサイルが着弾し、爆発と共に外壁は崩壊した。「全機突撃!」ハルフォード中佐のシールドライガーを先頭に独立第2高速戦闘中隊は、帝国軍施設内に突入した。古代ゾイド文明の神殿だったと考えられているその遺跡は、シールドライガーの全長を上回る高さであった。内部にはゴジュラスよりも巨大な石柱が林立し、壁には、古代ゾイド人が作成したのであろう、ゾイドや人間、建物を題材にした壮大なレリーフが描かれていた。そして神殿の中央には、シリンダー状の施設が屹立していた。そのシリンダーの中には、1体の修復中の巨大なゾイドが屹立していた。その姿をみたハルフォード中佐以下、共和国軍の兵士達は、驚愕した。「デスザウラーだと!」「そんな…あれは絶滅した筈」「やはり、あの情報は本当だったのか…デスザウラー」指揮官ハルフォード中佐は、シリンダー内に存在する巨大ゾイドを凝視して、その名を呟いた。そのゾイドは、ヘリック共和国のゴジュラスと同じく直立2足歩行型の恐竜型であった。だが、その全高はゴジュラスよりも頭一つ高く、ハルフォード中佐達を見下ろしていた。その胴体は、闇に溶ける様な漆黒と血の様な赤色で塗装され、まるでゾイドの内臓が剥き出しになっている様な錯覚を見る者に覚えさせる。デスザウラー 死を呼ぶ恐竜…それは、今は無き中央大陸に存在した国家 ゼネバス帝国がヘリック共和国打倒の為に国力と技術を結集して開発した肉食恐竜型超大型ゾイドの名前である。デスザウラーは、ZAC2044年にロールアウトされて直ぐ戦場に投入された。最初の戦いでは、当時のヘリック共和国軍最強部隊であったゴジュラス部隊が駐屯していた基地を単機で消滅させ、共和国国民を震撼させた。更に共和国領土への侵攻では、短期間の内に共和国首都に迫った。ウルトラザウルスやゴジュラス、シールドライガーと言った当時の共和国軍の誇る大型ゾイドは、歯が立たず、デスザウラーへの対抗手段を持たないヘリック共和国は首都を放棄した。その後、対抗手段を持たない共和国が、数年にわたるゲリラ戦を主体とする苦しい戦いを余儀なくされたことは、ヘリック共和国の国民なら誰でも知っていることだった。ZAC2048年にこのデスザウラーに対抗すべく共和国軍が開発したトリケラトプス型超大型ゾイド マッドサンダーが就役したことでデスザウラーの無敵時代は終焉を迎えた。このデスザウラーの敗北に呼応するかのように国力の限界を迎えていたゼネバス帝国は、ZAC2051年にニカイドス島の戦いを最後に滅亡した。だが、ゼネバス軍の戦力や人的資源を接収した暗黒軍と当時共和国側から呼ばれていたガイロス帝国軍も、第1次大陸間戦争の終盤まで運用した。またデスザウラーは、ゾイドコアの高出力と優れた設計から、新型兵器のテスト機としても選ばれることが多く、ゼネバス帝国、ガイロス帝国共に多くの改造機が開発された。そしてこの破滅の魔獣は、今では絶滅したゾイドの1つであるとされてきた。ZAC2056年…第1次大陸間戦争中に、遥か宇宙の彼方より飛来した巨大彗星が惑星Ziにあった3つの月の1つを粉砕し、その破片が惑星Ziに降り注いだことによって起った大異変(グランドカタストロフ)で、デスザウラーの野生体は、多くのゾイド同様に絶滅した、そして大異変を生き延びた機体もZAC2070年代までに1体残らずゾイドコアが寿命を迎えたことで、現存する機体は存在しないというのが、ガイロス帝国、ヘリック共和国を含むこの惑星Ziにおける共通見解であった。もし仮に、大異変によってデスザウラー用としてヘリック共和国軍が開発したマッドサンダーが存在しない今、デスザウラーが復活すれば、最強ゾイドとなるのは、間違いなかった。そうなった場合、西方大陸の戦いだけでなく、ヘリック共和国はこの戦争そのものに敗北することは確実であった。「…全機攻撃を開始…!」ハルフォード中佐のシールドライガー以下、共和国軍の機体が、シリンダーで修復作業中のデスザウラーに対して攻撃を開始しようとした瞬間、ビームがハルフォード中佐のシールドライガーと部下の機体に襲い掛かった。即座にそれらの攻撃を回避した。部下の機体も被弾した機体はいるものの撃破された機体はいなかった。「隊長!敵機です。」「防衛部隊か。施設内にもいるとはな…」機種は、ヘルキャットとイグアンで、高速戦闘隊のシールドライガーやコマンドウルフに性能で、敵う機体ではない。「全機!我々の目標は、目の前だ。デスザウラーを稼働する前に破壊する!共和国の為に!」ハルフォード中佐は、残った部下達に向けて叫ぶと、前方に立ち塞がる敵部隊を見た。修復中のデスザウラーの周囲にいる防衛部隊は、独立第2高速戦闘中隊の現状の戦力でも早ければ、数分で蹴散らすことが可能だろう。対する防衛部隊は、戦力差から独力で共和国軍部隊を排除することは不可能と判断し、麓の基地にる増援部隊が、到着するまで時間を稼ぐことを選択した。増援部隊が来るまでの時間、施設とシリンダー内のデスザウラーを共和国軍部隊から防衛出来れば、彼らの勝利である。先頭のハルフォード中佐のシールドライガーが吼え、双方のゾイド部隊が、攻撃を開始しようとした……その時、施設内にぞっとする様な恐ろしい咆哮が響き渡った。施設全体を震わせるような咆哮は、施設の奥にあるシリンダー……もっと正確に言うならば、そのシリンダー内に存在するゾイド デスザウラーが発したものであった。大口を開けて絶叫するデスザウラーの姿は、余りにも恐ろしく、口には、短剣の切っ先の如く鋭く尖った歯が並んでいた。細いカメラアイは鮮血の様に赤く輝いていた。それを見た、シリンダーに隣接する研究施設にいた帝国本土より派遣された研究員の1人は、狼狽した。「デ、デスザウラー……そんな起動には、まだ早い筈………」口をついてでたその言葉は、目の前で起動したデスザウラーにとって、何の意味もないものであった。ガイロス帝国によって修復作業中だったデスザウラーが、突如起動、暴走を始めたのであった。暴走したデスザウラーは、下半身、特に駆動系がまだ修復されておらず、移動することは不可能であった。これは、帝国、共和国両軍にとって幸いした。しかし上半身は、既に修復されており、既に戦闘に耐えきれる状態であった。目覚めたデスザウラーは、修復を終えたばかりだった尾部の加重力衝撃テイルを振り回す。ゴジュラスすら破壊可能なその一撃に、その周りにあった装置が粉々に破壊された。更にデスザウラーは、恐ろしい声で吼えると両腕を手前の地面に叩き付けた。デスザウラーの左腕の着地点には、護衛機として配備されていたイグアンがいた。デスザウラーの両腕の格闘兵装 電磁クロウを叩き付けられたイグアンが空き缶の様に握りつぶされた。修復途上だった頭部のビームガンが乱射され、周囲にあった施設や護衛機が破壊される。だが、修復途上だったためか、過負荷によってビームガンが爆発した。「目標は、目の前のデスザウラーだ!砲撃開始!奴の腹に集中攻撃をかけろ!」指揮官ハルフォードの号令の元、共和国軍部隊のゾイドが一斉に火を噴いた。シールドライガーの2連装ビーム砲が、3連衝撃砲が、胴体側面に内蔵されたミサイルポッドが、コマンドウルフの2連装ビーム砲が、一部の改造コマンドウルフが装備していた対大型機用のレールガンが、小型ゾイド掃討用の高初速ガトリング砲が、一斉に火を噴いた。共和国軍独立第2高速戦闘中隊の持てる火力が一斉にデスザウラーの上半身に叩き込まれた。デスザウラーの周囲のイグアンやヘルキャットが巻沿いを食って破壊される。独立第2高速戦闘中隊の現状の火力で、重装甲を誇るデスザウラーを破壊するのは、不可能である。だが彼らの目の前にいるのは、かつてウルトラザウルスの艦砲やサラマンダー部隊の空爆、ゴジュラスの格闘攻撃にも耐えた超重装甲 スーパーヘビーガードを備えた万全の状態のデスザウラーではない。彼らの目の前にいるのは、再生作業の途上にある未完成のデスザウラーであった。機体の大部分には、全く装甲が施されておらず、内部機関が剥き出しになっていた。特に腹部には、剥き出しのゾイドコアが無防備にも眩い輝きを放っていた。その為、彼らの有する火力でも十分に破壊可能だとハルフォードは判断したのである。デスザウラーは、集中砲火を受け、爆炎の中へと消えていった。「やった!」「仕留めたか?」その時、恐ろしい絶叫が、施設中に木霊した。「化け物め……」共和国兵の一人が呻くように呟いた。デスザウラーは、大きく各部に損傷を受けていたが、未だに撃破されてはいなかった。その破損した頭部装甲が、見る者にグロテスクな印象を与えている。「どうすれば、倒せるんだ…」デスザウラーの赤い無機質な目が輝き、デスザウラーの怒りの咆哮が、施設全体を震わせた。その叫び声を聞いたゾイドの中には、コンバットシステムがフリーズした機体もいた。「!」あるコマンドウルフのパイロットの一人は、これまでの戦いで怯えることなく戦ってきた自分の乗機が怯えていることに驚いた。眼の前の破滅の魔獣は、一際大きい声で絶叫した。その大口を開けたデスザウラーの口の奥には、砲塔があった。「荷電粒子砲!」ハルフォードの部下の一人が叫んだ。デスザウラーの最大の兵装である大口径荷電粒子砲……その威力は、大異変前の第2次中央大陸戦争時、小さな基地を丸ごと消滅させたと伝えられている。そして……共和国軍の兵士達は知る由もなかったが、このデスザウラーは、古代遺跡より発掘されたゾイドを強化するオーバーテクノロジーによってゾイドコアが強化されていた。デスザウラーの破損した胸部装甲、その奥に収められたゾイドコアが輝いた。「いかん!全機回避!荷電粒子砲だ!」シールドライガーに乗る指揮官のハルフォード中佐は、部下に向かって叫んだ。同時に彼は、乗機のシールドライガーの操縦桿を力一杯に引き倒す。直後、デスザウラーの口から閃光が迸った。荷電粒子砲の射線上にいたゾイドは、帝国共和国の別なく、一瞬で原子レベルまで分解された。ハルフォード中佐のシールドライガーは、Eシールドを展開し、寸前で回避したことで、直撃は免れた。だが、彼の部下の機体は、その殆どが回避できず、荷電粒子砲の餌食となった。かろうじて回避に間に合った機体も、荷電粒子砲の余波に巻き込まれ、その多くが破壊された。デスザウラーの放った大口径荷電粒子砲の一撃は、それだけではとどまらず、デスザウラーの周囲の施設を余波で破壊した上に、周囲の遺跡を吹き飛ばし、オリンポス山の山頂にも被害を及ぼした。次の瞬間、オリンポス山の山頂が眩い光に包まれた。その閃光は、オリンポス山だけでなく、周囲の地域からも確認できた。ゴルトゼー基地で交戦していた共和国、帝国両軍の将兵も、それを目撃した。「何だあれは!」「!!」「爆発!」他のブルー・ファイヤー隊、グリーン・アロー隊の隊員も茫然とそれを見つめていた。「あれは……研究施設で何かあったのか!?」「あの光は……」「敵の新兵器か?」「なんなの……あれ………」「我軍の施設で何かあったのか?」彼らと交戦していたヨーゼフ以下帝国側のパイロットも同様であった。その時、先程まで激しい戦闘が繰り広げられていた戦場は、一発の銃声も、ゾイドの咆哮も途絶えた。オリンポス山の山頂から放たれた朝日よりも眩く禍々しい閃光が、見る者全ての眼に焼付いた。暴走したデスザウラーの荷電粒子砲が発射されたのであった。かつて共和国軍基地を吹き飛ばしたと謳われたその攻撃は、デスザウラーの周囲に展開していた防衛部隊の帝国ゾイドと独立第2高速戦闘中隊のゾイドの大半を原子レベルまで分解し、オリンポス山頂の施設を遺跡ごと吹き飛ばした。だが、事態はそれでは終わらなかった。デスザウラー復活計画が行われていた研究施設がある山頂が爆発すると同時に、山頂から放たれた青白い荷電粒子の奔流は、山脈を焼き払いながら麓へと一気に駆け降りた。オリンポス山頂から発射された光の奔流は山腹を焦土に変えつつ、射線上に存在していた麓の帝国軍基地の1つを駐屯していた部隊ごと原子に還元し、メルクリウス湖に突き刺さった。直後、膨大なメルクリウス湖の水が蒸発したことにより発生した水蒸気が白いカーテンの様に湖周辺を包み込んだ。それは、突如メルクリウス湖に太陽が突っ込んで爆発したかの様に周囲にいた両軍兵士には見えた。オリンポス山山頂のデスザウラーの荷電粒子砲の被害はそれだけでは終わらなかった。更にデスザウラーは、荷電粒子砲を発射した。今度は、メルクリウス湖に隣接するヘスペリデス湖に向けて発射された。薄紫色の夕闇を目も眩むような輝きを帯びた青白い荷電粒子の奔流が駆け抜ける。その閃光は、ヘスペリデス湖、帝国軍ゴルトゼー基地の付近の湖面に着弾し、湖の水を大量に蒸発させ、白い水柱を上げた。この時、発生した金属イオンを多量に含んだ水蒸気は、着弾地点よりはるか離れたゴルトゼー基地にも及んでいた。「センサーが使えないだと、なんなんだあれは?」ヨーゼフ中佐は、目の前で起った事態に驚愕した。それは、彼の部下と彼が交戦していた共和国軍部隊も同様であった。「!!全機今のうちに撤退するぞ!」アルバートのシールドライガーmkUは、胴体下部の三連衝撃砲から煙幕弾を発射、白煙の海に飛び込んだ。他の機体もそれに続いた。金属イオンを濃厚に含んだ水蒸気と煙幕が晴れた時には、一機の共和国ゾイドの姿も彼の前からは、消えてしまっていた。「相変わらずの手際の良さだ…」ヨーゼフ中佐は、撤退した敵の鮮やかさに感心していた。「追撃しますか?」「やめておけイルマ、我々にはやるべきことがある。」「はっ」追撃しようにも、セイバータイガー・スナイパーのコンバットシステムはフリーズし、センサーも金属イオンを多数含んだヘスペリデス湖からの蒸気によって使い物にならなくなっていた。別の地区でも共和国軍と交戦中だった帝国軍部隊が戦闘を中止し、敵軍が撤退するのを放置していた。これは、デスザウラーが放った荷電粒子砲による破壊の影響であった。帝国軍 オリンポス山駐留軍の大半が駐屯し、補給整備の拠点としていた麓の基地が被害を受けたことで、追撃どころではなかったからである。
――――――――オリンポス山 山頂――――――――「…うっ、俺は、生きているのか…?」半壊したシールドライガーのコックピットで、ハルフォードは目を覚ました。恐ろしげなデスザウラーの咆哮が、ひび割れたキャノピーを震わせる。デスザウラーは、爆発の中心にいたにも関わらず、生きていた。彼のシールドライガーの周囲にあった研究施設は、荷電粒子砲の高熱を浴びて、溶けた金属に変わり果てていた。巨石を組み合わせた遺跡も吹き飛び、基礎部分や外壁、石柱の一部が残っているのみであった。共和国ゾイドは、指揮官機のハルフォードのシールドライガーを残して全滅していた。先程までデスザウラーと施設を防衛するために配備されていた帝国軍部隊も同様である。暴走状態のデスザウラーが発射した大口径荷電粒子砲は、敵部隊である共和国軍独立第2高速戦闘中隊のみならず、味方さえも葬ってしまっていた。意識を回復させたハルフォードは、機体の状態を確認する。彼のシールドライガーもデスザウラーの荷電粒子砲の被害を受けて満身創痍の状態だった。機体名称にもなった鬣のEシールドジェネレーターは、デスザウラーの大口径荷電粒子砲の余波を受け止めた際に一瞬でショートしてしまっていた。そして機体の武装の中で使用可能なものは、頭部のレーザーサーベルのみ、明らかに戦闘不能と判断される損傷である。青い疾風の異名を持つ獅子は、戦闘能力を殆ど残してはいなかった。対する、オリンポス山を駆け抜けた劫火を放った破滅の魔獣……この山の頂で、ガイロス帝国軍の手で修復作業が進められていたデスザウラーも無傷ではなかった。デスザウラーは、全身の装甲が所々、溶鉱炉から採り出されたばかりの鉄の様に赤熱化していた。制御装置もない、修復が完了していない状態で、最大出力の荷電粒子砲を発射したことによるエネルギーの逆流が起こったのである。デスザウラーの巨体に血管の様に張り巡らされたエネルギー循環用のケーブル…その膨大なエネルギーの流れが逆流したことでデスザウラーは内部崩壊しつつあったのだ。攻撃が無くともデスザウラーは、遠からず崩壊を余儀なくされるだろう―――――――ーオリンポス山を焦土にして。ハルフォードは、そう予想していた。その場合、彼と彼の乗機のシールドライガーを含む、オリンポス山山頂に生存する生命体は、全て爆発に巻き込まれて助からないことは確実である。自分は、もう助からないだろうが、任務は達成され、共和国軍は助かる…そんな投げやりな考えがハルフォードの思考を支配した。だが、彼は即座にその考えを振り払う。デスザウラーは、遠からず、自己崩壊を起して死滅する……だが、それまでにデスザウラーが破壊衝動のままに何発荷電粒子砲を周囲に発射するかは分からなかった。これ以上、この地で、デスザウラーに荷電粒子砲を乱射させるわけにはいかない………それに、デスザウラーが自壊しなかった場合、事態はもっとひどいことになると彼は分かっていた。ここでもしこの破滅の魔獣の息の根を止めなければ、共和国全軍の敗北だけでなく、全世界が消滅するかもしれない――――――ーその想いが、彼と彼の愛機であるシールドライガーに力を与えた。「!!」ハルフォードは、決断した。損傷したシールドライガーをなんとか立ち上がらせると、デスザウラーに向かって突撃した。彼は、ボロボロの愛機と共にデスザウラーに突撃する直前、「私が新兵の頃、兵隊は国のために死ぬことが仕事だと教えられた。私はそれを、諸君らに言ったことはない。人は、信念のために死ぬべきだと思うからだ。だが今、あえて言う。諸君の愛機が指一本でも動くなら、這ってでも進め。そして、奴のコアを噛み砕くのだ!」生き残っているかもしれない部下に向かって叫んだ。これは、自分がデスザウラーを仕留められなかった場合のことを考えてのことだったとも、自分を奮い立たせる為に言ったのではないかとも、後に彼の乗機のレコーダーを回収し、この声を聴いた共和国軍人は予想した。満身創痍のシールドライガーは、目の前に立つ瀕死の破滅の魔獣へと飛び掛かった。半壊したデスザウラーの咆哮がシールドライガーのひび割れたキャノピーを震わせる。聞く者の魂さえ奪い去るかのように恐ろしい叫び声………だが、今のハルフォードには、どこか悲鳴の様にも聞こえていた。ハルフォードのシールドライガーが、デスザウラーのゾイドコアが光る胸部に飛びついた。瀕死のデスザウラーは、悲鳴を上げ、残された右腕のハイパーキラークローでシールドライガーを引き裂こうとする。シールドライガーの機体を電磁波を帯びた鉤爪が切り刻む。だが、デスザウラーのハイパーキラークローがシールドライガーの機体を切り刻むよりも、シールドライガーが止めの一撃を食らわせる方が早かった。「これで、終わりだ!」デスザウラーの剥き出しのゾイドコアに、シールドライガーのレーザーサーベルを突き立てた。硝子の砕ける様な音と共に崩壊寸前だったデスザウラーのコアが砕けた。デスザウラーの断末魔の絶叫が辺りに木霊した。役目を終えたハルフォードのシールドライガーは、地面に倒れ込んだ。その直後、デスザウラーの胸部から放たれた白い光が、全てを呑み込んでいった。ハルフォードのシールドライガーのレーザーサーベルの一撃を受け、ゾイドコアが崩壊したデスザウラーは、有り余るエネルギーを解放し、山頂の施設を道連れに大爆発を起こした。爆発は、山頂に巨大なきのこ雲となって屹立し、オリンポス山が、火山噴火を引き起こしたのか、と見る者が錯覚する程であった。デスザウラーが大爆発を引き起こしたオリンポス山山頂は、見るも無残な姿に変貌し、デスザウラーが破壊された後も、各所では、爆発が起こり、地響きを立てて山自体が崩れ始めていた。山が、更に崩壊することは避けられない未来であることは、誰の眼にも明らかだった。デスザウラー復活計画が行われていた帝国軍の研究施設は、完全に崩壊し、研究施設と一体になっていた古代遺跡は、そのかつての威容を完全に喪失し、無価値な石の破片のみを残して消え去った。まるで地獄の大釜の如く燃え盛り、荒廃したオリンポス山山頂に向かう影があった。それは、ヘリック共和国軍のダブルソーダ部隊であった。12機のダブルソーダの内、一部のダブルソーダは、胴体下部に黒い人員輸送用のコンテナを装着していた。コンテナの側面扉が開き、次々と黒い防弾服を着た歩兵がロープで降下した。オリンポス山頂の施設で修復中のデスザウラーの破壊作戦に参加した独立第2高速戦闘中隊の人員救出というのが、彼らに与えられた任務であった。だが、それは表向きのものだった。オリンポス山山頂で進められていた帝国軍のデスザウラー復活計画のデータ、そしてそれに使用されていた古代文明の技術を確保するのが彼らの真の任務であった。デスザウラー復活計画を察知した共和国軍諜報部は、同時にデスザウラーの修復には、滅亡した古代ゾイド文明の技術が使用されていることも掴んでいた。帝国軍との圧倒的な戦力差の中で、少しでも戦況を自軍の有利にするためにも、これらの技術は、何としても接収しなければならない。その為に数多くの危険が存在する敵地へと彼らは派遣されたのであった。ダブルソーダは、消火剤を辺りに撒き散らして着陸できる場所を確保すると、次々と着陸した。彼らが着陸したオリンポス山山頂は、完全に焦土と化しており、周囲には、無数の瓦礫とゾイドの残骸が転がっていた。とてもではないが、生存者がいるようには思えなかった。「生存者がいたぞ!」隊員の一人が叫んだ。彼が指差した先には、コマンドウルフの頭部があった。それは、数多くの原型を留めない程まで破壊され、一部は、溶けた金属に変貌していたものもあった残骸の中では、奇跡的なまでに原型を留めており、その橙色のキャノピーには大きな亀裂が入っていたが、中のパイロットは意識を失いながらも生存していた。「奇跡だな……」隊員の一人は、驚きも隠せないという口調で言った。それは、この場にいる全ての人間の抱いた感想でもあった。この灼熱地獄の底で生存者がいるとは、誰も想像できなかったのである。「よし、コックピットごと回収するぞ」「了解!」コマンドウルフの頭部がダブルソーダの胴体下部からたらされた特殊金属製のワイヤーで繋ぎとめられる。別のダブルソーダは、施設に残されていたデスザウラー修復に利用されていた装置のものと思われる残骸を同じく特殊金属製のワイヤーで機体下部に括り付けていた。回収作業を終えたダブルソーダ部隊は、東の空へと消えていった。友軍が待つ場所へと。
……………エル・ジー・ハルフォード中佐の部隊が、全滅と引き換えにガイロス帝国軍のオリンポス山でのデスザウラー復活計画を葬ったのと同じ頃、ゴルトゼー基地を襲撃したアルバートとその指揮下の共和国軍高速部隊は、帝国軍の混乱に乗じて、敗走する友軍と合流すべく駆けていた。「アルバート、敵部隊の姿は影も形もないな…おかげで友軍との合流地点まで一直線だ。」「罠かもしれないぜ、ジェフ少佐殿」「デュランさん、そんな怖いこと言わないで下さいよ、縁起でもない。」「へっ、冗談だよ。ハルド」彼の部下達は、敵の勢力圏からの撤退する途中であった。敵地からの帰路の途上、何時敵と遭遇するかも分からない状況に置かれているとは思えない気楽さだった。彼らは、皆敵である帝国軍に大打撃を与えたという達成感と高揚感に包まれていたのである。彼らの目指す先は、友軍の勢力圏が存在する東。その果てには、北エウロペ大陸におけるヘリック共和国軍最大の拠点 ロブ基地が存在している。幸い、彼らを追撃する者はいない。オリンポス山のデスザウラーが齎した破壊により、帝国軍が混乱状態に陥っていたのがその原因であったが、それをアルバート達共和国軍の兵士が知ることは無かった。「……」だが、先頭を走るシールドライガーmkUのコックピットで部隊の指揮官であるアルバートは、作戦を成功させたにも関わらず、その表情は暗かった。彼がこれまで率いてきたブルー・ファイヤー隊とグリーン・アロー隊は、全機が無事である。しかし、ゴルトゼー基地の攻撃に際して臨時にアルバートの指揮下に加わった部隊は、約半数以上が、未帰還となった。特に第22山岳部隊の損害は大きく、第22山岳部隊所属のクライマーウルフは、僅か2機のみが生き残っている。隊長のマクダネルも戦死した。やはり、彼らを同行させるべきではなかった。アルバートの胸中を後悔の感情が支配しつつあった。「隊長」エミリア大尉の声が、アルバートを現実に引き戻した。「エミリア大尉。どうした?」「中佐は、今回の任務で最善の行動をとったと思いますよ。」「いきなりどうしたんだ大尉?」「アルバート、お前が何を気にしているのか何なのかは大体わかるぞ。今回ゴルトゼー基地の攻撃で、犠牲になった指揮下の連中の事を悔やんでるんだろ?俺も、部下の命を預かる指揮官だ。気持ちは理解できる………だが、指揮官が一々任務の度に死んでいった部下の事を、俺の所為だと後悔し続けてたらきりがないぞ。部下の命を預かる指揮官なら割り切れと教官も言うだろうぜ。」お前が部下思いなのは知ってるけどな。とジェフは言葉を区切った。「中佐殿」「……!」その時、偶然アルバート達の会話を聞いていたクライマーウルフのパイロットの内の1人………第22山岳部隊の生き残りが口を開いた。彼は第22山岳部隊の2人の生き残りの1人であり、現在、同部隊で最上位の階級の隊員である。そのような理由から、彼は、指揮官機のアルバートのシールドライガーmkUとの通信回線をオープンにしていた。その為、アルバートとジェフらの会話を聞いていたのである。「中佐殿は、ヘリック共和国の軍人として正しい判断をしたと思います。もしゴルトゼー基地を攻撃していなければ、我々を追う帝国軍の追撃は、さらに激しい物になったでしょう。もし、マクダネル隊長殿が生きていたとしても、貴方方と合流する様に命じていたに違いありません。」「……そういうことだ。アルバート、お前の判断は、間違っていなかった。死んでいった奴らの為にもそれを受け入れろ。お前らしくないぞ」「………」この時、アルバートの脳裏を駆け抜けたのは、マクダネルら、今回の戦いで一時的に率いた部隊の部下達の事だった。「……そうか。皆作戦の成功を喜ぼう。何としても友軍と合流するぞ!」「了解です。」「この中で作戦成功を……喜んでなかったのはお前だけさアルバート。」約2時間後、アルバートの部隊は、退却途上の共和国軍との合流を果たした。退却途上の友軍部隊は、シールドライガーとコマンドウルフの2機種が大半だった。この戦いの最終段階でも高速戦闘隊は、縦横無尽に活躍した。それ故に損害も大きく生き残った多くのゾイドが損傷していた。敗軍―――――その単語がアルバートの頭を掠めた。「少佐殿……我々は勝てるのでしょうか?」ゴルトゼー基地襲撃に参加した小隊指揮官の1人が、アルバートに尋ねた。彼の表情は、内心の不安が露になっていた。「……厳しい戦いにはなるだろうが、勝てるさ」アルバートは、はっきりした声で言った。「まだ、これほどの友軍が残ってるんだ……。」アルバートは、オリンポス山での戦いの事を思い返していた。そして、今日の戦いの事を………ゴルトゼー基地攻撃作戦で短期間だけ率いた部下達………アルバートは、彼らの殆どの名前も、顔も、知らなかった。だが、彼らは確かに共に戦った戦友であった。彼は、誓った。部隊指揮官として、これ以上部下を無駄に死なせはしないと。「………オリンポス山が……」「あれは、いったい何があったんだ?」アルバートは、オリンポス山の方向を見た。そして、驚愕した。この日、彼と同じ様に山頂で爆発が起きた後オリンポス山を見た多くの人間と同じ様に。彼の視線の先には、復活途中だったデスザウラーが大爆発を引き起こしたオリンポス山の姿があった。最初この地に来た時とは、一変していたことにアルバートは驚いた。「エウロペの屋根」と謳われたオリンポス山は、山頂が赤々と燃え上がり、紅蓮の炎と黒煙を吐き出す頂を起点に無残に崩壊しつつあった。オリンポス山がかつての姿を取り戻すことはないだろう……活火山さながらに変貌したオリンポス山の惨状を遠くから見つめながらアルバートは、そんな事を考えていた。オリンポス山の崩壊は、この西方大陸の戦いに何か異変が起こった事を教えているかのようにアルバートには思えてならなかった。同じ頃、帝国軍追撃部隊をステルスバイパー、ガイサックを保有する特殊工作師団が地の利を生かした遅滞戦闘で食い止め、大損害と引き換えに共和国軍本隊の退却を成功させた。オリンポス山の戦いは、戦術的には、周辺地域と北エウロペ大陸の大半を占領下に置くことができたガイロス帝国軍の戦術的勝利であると言えた。だが、戦略的には、戦略目標であったデスザウラー復活計画を頓挫させたヘリック共和国軍の勝利と言える。また共和国側は、ガイロス帝国が、デスザウラー復活の為に使用していた西方大陸の古代文明の技術の一部を確保していた。この事は、後の戦況に重大な影響を齎すことになるが、それを予想している者は、この時点では、殆どいなかった。オリンポス山の戦いから1週間後――――――――――――――――北エウロペ大陸東端 沿岸地帯―――――――――――――北エウロペ大陸のヘリック共和国軍最大の拠点 ロブ基地にほど近いこの海域を、ガイロス帝国海軍の艦隊が輪形陣を組んで進んでいた。輪形陣を形成するのは、ガイロス帝国海軍の主力ゾイド ブラキオサウルス型中型ゾイド ブラキオス イグアナ型中型ゾイド ヘルディガンナーの2機種で編成される部隊である。その数は合わせて164隻(帝国海軍式の数え方)。それらの海戦ゾイドによって形成された輪形陣の中央には、輸送艦が7隻存在している。輸送艦は、ゾイドではなく、船舶であり、空から見上げると筆箱の様にも見えた。彼らの任務は、ロブ基地の眼と鼻の先のこの海岸に3隻の輸送艦に分乗した工兵部隊を上陸させること。輸送艦に乗せられている作業用のアタックゾイドや機材を保有する工兵部隊は、海岸に上陸後、ロブ基地攻略の為の拠点を設営する予定だった。「対地支援型ブラキオスは、全艦陸地に接近し、支援砲撃を開始せよ。支援砲撃の後、第3、第4、第5強襲揚陸隊は、上陸し、沿岸の脅威を排除せよ。」旗艦の指揮官用ブラキオスに乗り込んだ艦隊司令官 ゼルマン大佐は、指揮下の海戦ゾイドに命令を送った。彼の乗艦するブラキオスは、艦隊指揮用に通信能力が強化され、背部と胴体内部に専用の指揮所が設けられていた。その為、通常型の80mm地対空ビーム砲(ビームキャノン)が撤去されており、戦闘能力で劣るものの、高い通信・指揮能力を有していた。ホエールキングやホエールカイザーといった本格的な母艦ゾイドには劣るものの、前線での指揮能力に優れていた。また、各部隊指揮官の搭乗するブラキオスやヘルディガンナーも追加装備の通信アンテナにより、艦隊司令官からの命令を末端に伝達する。ブラキオスとヘルディガンナーで編成される上陸部隊は、火力支援部隊の事前砲撃の後に「共和国海軍のゾイドの姿がありませんね。上空にも敵機は確認できません。」「共和国海軍は、オリンポス山のメリクリウス湖とヘスペリデス湖での戦闘で大損害を受け、ロブ基地の周囲の沿岸を守るので精一杯だ。更に忌々しい共和国空軍のプテラスも我軍のレドラー部隊との交戦で大損害を被ったと聞く。それに共和国陸軍も、我々がいち早く上陸して地上部隊の為の拠点を設営すれば、我々の勝利は揺るがないさ」ゼルマンは、副官に笑みを浮かべて言った。「だといいのですが……」ゼルマンの副官は、不安げに言った。「……(こうでも言わなければ、部下が不安がるだろうが……)」ゼルマンも航空戦力の不在については、憂慮していた。だが、上層部が問題ないと判断したのだから仕方がない話だった。彼らの見ている前で、火力支援部隊と強襲上陸部隊の海戦ゾイドは、沿岸へと接近しつつあった。沿岸に接近する部隊のブラキオスは、対地攻撃用に背部に16連装ロケットランチャーを搭載していた。ブラキオス火力支援型と呼ばれるこのバリエーションは、通常型のブラキオスよりも火力が強化されていた。背部に搭載した16連装ロケットランチャーによる火力支援がその用途である。「沿岸の守備隊など、火力支援部隊と上陸部隊で一蹴できる」上陸地点の陸地には、コマンドウルフ6機とゴドスとカノントータスがそれぞれ20機とアタックゾイドが40機と巨大なコンクリートトーチカが28基確認されていた。どちらも火力支援部隊の一斉射撃を受ければ大打撃を受ける事は確実で、守備隊のゾイドの中で、陸地でブラキオスを撃破可能な機体はコマンドウルフ位だった。その時、異変が起こった。対地砲撃の為に沿岸に接近していた1隻のブラキオス火力支援型が撃沈されたのである。「何だ!?うわぁ」僚艦が突然葬られた事に同僚のパイロット達は、動揺した。次の瞬間、更に2隻の火力支援型ブラキオスが撃沈された。今度は、上空で炸裂した榴弾の破片が16連装ロケットランチャーに直撃した事による誘爆が原因だった。ミサイルランチャーの弾倉部は、高い火力を誇る火力支援型ブラキオスの弱点の1つであった。今度は、ヘルディガンナーが3隻纏めて爆散した。更に砲撃は続きガイロス帝国艦隊の周囲に幾つもの水柱が生まれた。その水柱の太さは、アイアンコングが両腕で抱えることが出来る程の太さであった。「なんだ!何が起こった!?」戦略スクリーンに映る味方の海戦ゾイドを示す光点が次々と消滅していくのを見たゼルマンら指揮所にいた者達は驚愕した。「この砲撃は…ウルトラザウルスの36cm砲によるものです!それ以外考えられません」オペレーターの一人が狼狽を隠せない様子で報告した。「馬鹿を言うな!ウルトラザウルスは、もう1隻しか残っていないのだぞ。」「ですが、この砲撃は明らかにウルトラザウルスの艦砲によるものです!」「友軍艦より、敵沿岸砲台の画像転送されます!」「……あれは!」海岸に並ぶ物体を確認した帝国兵達は、驚愕した。海岸に並んでいたのは、コンクリートで固められた巨大な砲台であった。その堂々たる威容に帝国艦隊の将兵は一様に驚く。何より彼らを驚かせたのは、砲台の大きさ等よりも、それらの砲台に据えられた巨砲であった。火を噴くまでの間、巧妙に隠蔽されたそれらの砲台は、ウルトラザウルスの36cm砲を主砲にした、沿岸砲台であった。ウルトラザウルスは、共和国親衛隊所属の1隻のみしか現存していない……これは、事実であったが、ウルトラザウルスの搭載火器は、未だに現存していたのである。大異変の影響でウルトラザウルスそのものは、その殆どが失われていた。だが、ウルトラザウルスが装備していた36cm砲は、共和国海軍は、多数保有していた。旧大戦時にウルトラザウルス艦隊は、36cm砲による艦砲射撃で共和国軍の勝利を支えた。だが、その威力と引き換えにこの大砲は、砲身の消耗が激しく、頻繁に交換する必要があった。その為、共和国軍は、ウルトラザウルスの主砲である36cm砲の予備を多数保管していた。大異変後、ヘリック共和国は、1隻を除き、ウルトラザウルスを全て失った。これによって無敵を誇った共和国海軍は、見る影もないほどに弱体化したが、同時にそれまでウルトラザウルスの為に保管されてきた36cm砲の砲身の在庫を多数抱える結果となったのである。その多くは、再資源化され、他の兵器の素材にされた。しかしそれでもまだ36cm砲は、残っていた。それらの有効活用手段として、最初に考えられたのは、別のゾイドに搭載するという案であった。しかし、36cm砲の運用は、現存するゴジュラスやゴルドス、マンモス等の共和国軍の大型ゾイドでは不可能だった。改造によって、仮に発射できても精々鈍足な移動砲台としてしか運用できなかったのである。これは、地球の兵器で言えば、航空兵器の発達で衰退を余儀なくされた列車砲の様なものであり、余りにも非効率で、コストと効果が釣り合わなかった。他のゾイドの装備としての使用が不可能であると判断した共和国軍が次に考えたのは、ゾイドの装備としてではなく、単なる砲台として36cm砲を転用することであった。中央大陸の沿岸都市や内陸部の重要拠点に36cm砲は防衛用の砲台として配備された。そして、この砲台は、ロブ基地の近辺にも開戦の1年前に設置されていたのであった。上陸地点に建設されていた36cm砲台は、全部で28基。「ゼルマン大佐、どうしますか?敵は大規模な沿岸防衛網を築いている様です……ここは、退却された方が……」参謀の1人が提案する。作戦段階でこの様な大規模な沿岸防衛戦力は想定されていなかったのだから、当然だった。「うろたえるな!数では此方が上だ。沿岸まで友軍部隊は突撃せよ!」「突撃ですと?!」「そうだ!あの忌々しい砲台も接近されれば無力だ!」司令官の命令を受け、帝国艦隊のブラキオス部隊は、沿岸の砲台に対して砲撃を行いつつ、沿岸に向かって突進する。ヘルディガンナー部隊もそれに追従する。どれだけ損害を受けようと、上陸してしまえば、こちらのものだと考えたのである。実際、沿岸砲台は、ゾイドに接近されてしまえば無力となる。沿岸の砲台群の人間も、それを理解しているのか、次々と艦隊に向けて砲撃を開始した。巨大な水柱が次々と海上に生まれ、周囲の海水が沸騰する。被弾したブラキオスやヘルディガンナーが炎を上げて海上をのたうち回る。直撃を受けた機体は、文字通り粉々になっていた。ガイロス帝国陸軍の誇る大型ゾイド アイアンコングさえ破壊可能な一撃を受けたのだから当然である。更なる凶報が帝国軍を襲った。艦隊外周にいたレーダー装備のブラキオスが低空から高速で接近する機影を捉えた。「敵飛行ゾイド接近!プテラスです。」「なんだと!」想定外の敵航空戦力の出現にゼルマンらは、驚愕する。更に付近に共和国軍が秘密裏に建設していた飛行場から発進したプテラス部隊が襲い掛かった。36機のプテラス部隊を20機のプテラスストライカーが護衛していた。このプテラス部隊には、二種類の対艦兵装が装備されていた。プテラス部隊の半数は、音響追尾式魚雷を翼下に装備していた。別の半数は、背部に従来の空対空ミサイル2基の代わりに、対海戦ゾイド用の対艦ミサイル1基を装備していた。「全艦対空戦闘用意!!」ゼルマンは慌てて麾下の海戦ゾイドに命令する。「やはり、航空戦力なしでは……!」呻く様にゼルマンの副官が言う。今回の作戦では、レドラーの航続距離外であるという理由と、シンカーは、南エウロペ戦線と地上支援に回すというプロイツェン元帥の命令で彼らは飛行ゾイドによるエアカバーの無い状態で上陸作戦を行う事を余儀なくされていた。帝国艦隊に襲い掛かるプテラス部隊。それを迎撃するべく、ブラキオスの背中の80mm地対空ビーム砲が上空に次々と発射される。ヘルディガンナーも背部のロングレンジアサルトビーム砲と腰部の銃座式地対空72mmマシンガンでプテラス部隊を迎撃した。80mm地対空ビーム砲を左翼に受けたプテラスが錐揉みに陥って海面に墜落する。別のプテラスがブラキオスに接近し、機銃掃射を頭部に浴びせた。プテラスのバルカン砲は、ブラキオスの頭部を破壊するには、威力が不十分だった。だが、ブラキオスのソーラージェネレーターを破壊するのには十分だった。すれ違いざまに機銃掃射を受けたブラキオスの頭部はソーラージェネレーターとセンサーが破損して使用不能になった。更にプテラスは、翼下にぶら下げていた音響追尾式魚雷を投下した。ブラキオスの胴体の間近に水柱が生じたのと同時にブラキオスの右前脚が爆炎と共に吹き飛んだ。上空を飛ぶプテラス部隊は、我が物顔で帝国艦隊を空爆した。護衛機のプテラスストライカーも上空から機銃掃射を行い、対艦攻撃部隊のプテラスを援護した。対艦ミサイルを背部に受けたブラキオスが大破炎上する。その横では、対艦ミサイルを脇腹に食らったヘルディガンナーの胴体が真っ二つにされた。ブラキオスのビームキャノンを頭部コックピットに被弾したプテラスが海面に突っ込んだ。「敵の輸送艦を狙え!」対艦ミサイルを装備したプテラスが輸送艦に襲い掛かる。プテラス隊は、対空砲火を避けるために低空飛行で輸送艦に迫る。輸送艦の護衛についていたブラキオス5隻がプテラス部隊の突進を防ぐべく、対空砲火を浴びせる。2機のプテラスが被弾し、黒煙を上げて退避する。だが、他の機体は、突進を止めない。更にブラキオスの胴体に装備されたTEZ20mm2連装リニアレーザーガン 対ゾイド衝撃砲を乱射する。リニアレーザーを頭部に食らったプテラスが海面に激突した。プテラス隊が対艦ミサイルを発射したのは、それとほぼ同時だった。3機のプテラスから発射された対艦ミサイルが推進炎を尾部から噴き出しながら輸送艦に突進した。輸送艦の護衛のブラキオス2隻が対艦ミサイルの射線に割り込んだ。直後、2隻に2発の対艦ミサイルが命中し、ブラキオスの内1隻の首が吹き飛んだ。彼らの犠牲は、最終的に無駄に終わる事となる。燃え上がる2体の鋼鉄の竜脚類の躯の間を1発の銀色に輝く矢が駆け抜けた。最後に残った対艦ミサイルは、見事輸送艦の右舷に着弾した。戦闘用ゾイドと異なり、殆ど装甲が施されていなかった輸送艦は、真っ二つに割れて海底へと沈んでいった。少し遅れて残り2隻の輸送艦もプテラス部隊の魚雷と対艦ミサイルの直撃を受けて大破炎上、海底へと沈んでいった。戦闘工兵を分乗させていた輸送艦が全艦撃沈されたことで、ロブ基地攻略の為の拠点設営が目的だったこの任務の失敗は確定的となった。「全艦撤退!作戦は失敗に終わった。」これ以上この海域に留まっていても意味は無い。ゼルマンは、燃え盛る輸送艦を見つめ、麾下の部隊に撤退命令を下した。「……了解しました。」「制空権の確保も碌に行われていないこの状況で勝てるわけないだろうがっ……」上空を乱舞する敵機を睨み据え、ブラキオスに乗るパイロットの1人は、そう吐き捨てる。帝国艦隊は、沿岸から撃ち込まれる巨弾と上空を乱舞する敵機の襲撃の中、撤退していった。後に戦場となった海域から、サノス湾の海戦と名付けられるこの戦いは、共和国軍の勝利に終わった。共和国軍が沿岸防衛のために沿岸に秘密裏に設営した36cm砲と秘密飛行場の飛行隊を想定していなかったガイロス帝国海軍は、工兵隊を分乗させた輸送艦3隻と護衛のヘルディガンナー、ブラキオス合わせて45隻を喪失する大損害を受けて退却を余儀なくされた。ヘリック共和国軍は、北エウロペ大陸最大の拠点 ロブ基地の付近の沿岸への上陸を阻止した。この事は、ロブ基地を巡る帝国軍と共和国軍の今後の戦いにも少なくない影響を与えることとなる。