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[446] 西方大陸機獣戦記 プロローグ ロイ - 2014/05/09(金) 03:16 -

あらすじ 戦争が終結してから100年、かつての3大国、ガイロス帝国、ヘリック共和国、ネオゼネバス帝国は共に疲弊し、それに代わって東方大陸に本拠地を置く地球系移民企業、ZOITEC社やそこから分裂したZi−ARMS社などの巨大企業群や第3次中央大陸戦争後、
戦乱で荒れ果てた中央大陸からの移民が西方大陸の北エウロペなどに建設した移民国家が台頭した。この中で西方大陸に元から居住していた人々は、強力な移民国家によって僻地に追いやられ政治的、経済的にも抑圧された。
彼らは、武装組織 西方大陸解放軍を結成、Zi−ARMS社の支援の元に父祖の地を奪還すべく行動を開始した。
再び西方大陸の大地で戦乱が起ころうとしていた・・・・・・
これは、北エウロペ大陸を発端として起こった戦争とそれに参加したゾイド乗り達の物語である。

[447] 西方大陸機獣戦記 1章 前篇 ロイ - 2014/05/09(金) 08:06 -


脱走   西エウロペ大陸北端 ブロント平野 ZI-ARMS研究施設


公式にはエネルギープラントとされているこの研究施設では、100年前の大戦後に締結されたニカイドス条約で禁止された技術の研究開発が行われていた。

最近、この地域では、銀色の恐竜型ゾイドが現れるという、妙な噂が立っていた。
その正体は100年前の西方大陸戦争で死んだ兵士の怨念だとか、絶滅種または未確認の野生ゾイド、果ては古代ゾイド人の遺産というものまであったが、どれも根拠に乏しい物ばかりだった。


この6つの動力プラントとアイアンコングが両腕で掴めそうなほど巨大なパイプで繋がっている中央の銀色のドーム状の施設は、植物の球根を見る者に彷彿させた。

4つのゲートには大型恐竜型BLOXゾイド ゴジュロックスが2機、歩哨の様に立っていた。
どの機体も肩にZI-ARMS警備保障のマークが書き込まれていた。

「ふう〜 あと5分で交代か。全く 白服の奴らよりも俺達黒服を増やして欲しいもんだよなあ」3番ゲートの警備を担当するゴジュロックス5番機のパイロットは眠そうに眼をこすりながら6番機の同僚に愚痴った。

「これでも警備システムの無人化は進んでるんだ。これ以上増えたら俺らの取り分が減っちまうぞ?」彼の言う通り、この施設の警備システムは、周囲の地中に埋設された200基のセンサーと施設を包囲するように設置された10の無人整備基地に配備されたキメラブロックス部隊を中心としたものであった。
そして施設守備隊の人員の中でパイロットは彼らを含めても20人程であった。

「そうだけどなあ、この夜間任務だけは眠くてかなわねえ」缶コーヒーを飲みながら彼は、また愚痴をこぼした。
「それはいいが、今日のビリヤードには参加しろよ。」
「ああ、昨日の借りを倍にして返してやるぜ」彼らはまだ知らない、施設内部で起ころうとしている出来事に・・・・

「ん? 本部から連絡!ゲートを完全封鎖しろだとよ!」
「なんだって?」次の瞬間、ゲートが吹き飛び、黒煙が周囲を覆った。

「リード、格納庫が!」5番機のパイロットが振り向くと格納庫は火の海となっており、ハンガーに格納されていたライトニングサイクスやセイバータイガー、ケーニッヒウルフが炎にまかれて次々と爆発炎上していた。

「!?火事か!攻撃!」目の前でセイバータイガーがハンガーから発進した・・・・だが、そのセイバータイガーの頭部が光の雨を受け、砕け散った。慌てる彼らの間をサンドイエローに塗装されたシャドーフォックスがすり抜けた。

「 !? なんだ奴は!」
「落ちろ!」2機のゴジュロックスは頭部両側面のレールキャノン砲を逃げるシャドーフォックスに乱射する。

「なんてやつだ!」後方からの超音速の砲弾をシャドーフォックスは、後ろに目があるかの様に速度を落とすこと無く、回避し続ける。

ゴジュロックス2機は追跡しようとしたが、シャドーフォックスの俊足に追い付ける筈もなくどんどん差は開いていく・・・

「くそ! これ以上増速したら、駆動系がオーバーヒートしちまう!」尚も2機は追いすがったが、やがてシャドーフォックスはゴジュロックスのセンサー範囲から離脱した。

「何が起きているんだ・・・・」燃え上がる格納庫を2人は呆然と見詰めていた。

「はやく追跡隊を組織しろ! 警備隊は何をやっている!貴様らは無能か!!」特殊強化ガラスの向こうで火の手を上げる格納庫の設備とゾイドを睨み付けながら、秘密研究所長 セルゲイ・ヴォロダルスキーは司令室に詰めていたオペレーターや職員に当たり散らしていた。

「現在第4格納庫で火災が発生しており、追跡可能な高速機は出撃不能です。」

「ええい!?奴は何処に向かっているんだ?!」「現在、強化兵ナンバー21 クレアは、キメラブロックス部隊と交戦を避けつつ南下を続けており、恐らくガイロス人の入植都市 ノイエ・セスリムニルに向かっているものと思われます。」センサーを担当していたオペレーターの1人が報告する。

「くうう! このままでは逃げられてしまうぞ!!」喚き散らす所長、誰も逆麟に触れるのが怖いのか何も言うことが出来なかった。

そこにサングラスを掛けた強化兵訓練教官からの通信が入った。
「所長、我々の部隊のゾイドならば、十分追撃可能です」
「黙れ!貴様らなど出撃させられるか!この前も第54駐屯地駐留のガイロス軍に目撃されたのだぞ!!」怒鳴り声を張り上げるセルゲイに怯むこと無く彼は自信たっぷりにいった。
「では所長は、現在、我々以外の追跡可能な手段をお持ちなのですか?」高速ゾイドが粗方鉄屑に変換された現在、追撃可能な部隊は強化兵部隊のみであった。
「・・・・わかった。ただし出撃させていいのは6機だけだ!エベール忘れるなよ」そう言うとセルゲイは通信を一方的に断ち切った。



「了解しました」大型モニターの映像が途切れると同時に、教官は振り返った。

彼の前には、50人ほどの黒いパイロットスーツを着た少年、少女が立っていた。
彼等は、かつてネオゼネバス帝国が研究していた技術を改良して作られた強化人間であった。
ゾイド因子の注入、手術等で常人を遥かに上回るゾイド適合性と身体能力をもった彼らの戦闘能力は、並みのエースパイロットに匹敵するといっても過言ではなかった。

「・・・聞いたな 諸君!! 脱走したクレアは、昨日までは諸君らの同胞だった。 だが、今は憎むべき裏切り者だ!! 決っして容赦するな!!」教官は両手を大きく広げ、彼の生徒≠ナある強化兵達を煽る様な口調で言い放った。

「「「「イエスサー」」」」
「潰してやる!!!」
「裏切り者は八つ裂き」
「腕が鳴るぜ!」機械的に返答する彼らの中で最前列にいた長身の少年をはじめとする数名は勢い良くそれに応えていた。

「よし、それでいい・・だがバイオゾイドの初実戦が出来るのは、バイオラプターに乗る者達だけだ。残念だったなフレーザー」教官に梯子を外された格好となった長身の少年、バイオメガラプトルの試験パイロットである強化兵士、ステファン・フレーザーは不満げな表情で教官を睨み据えた。

「それでは、この名誉に与かれる幸運な6人の名前を言う。 12番 ウィラード・エヴァンス 23番 ヘルマン・ホルガー 5番 レナータ・リーン 17番 グレゴリー・ブジョンヌイ 20番 トルーデ・レミット 34番 ラナ・ミント 以上だ」直後、指名を受けた6人の少年少女は、待ち切れないとばかりに格納庫へと続くエレベーターに駈け出して行った。
指名が終わると待っていたとばかりにフレーザーは教官に食って掛かった。

「何故です! エベール教官! 俺のメガラプトルなら5分で追い付きます! わざわざ6機でなんて第3者に見つかる可能性が上がるだけです!」教官は抗議するフレーザーの耳元で窘めるように囁いた。
「・・・貴様の搭乗機、バイオメガラプトルは、次期量産機だ。簡単に失うわけにはいかん・・・わかるな」
「・・・!? 教官、では貴方は彼らが全滅すると・・」
「戦場では、万が一ということもある。バイオゾイドは無敵ではない、貴様は万が一に備え、待機しておけ」実戦経験の無いフレーザーにとって紛争地域で傭兵として参加経験を持つ教官の発言は絶対的なものであった。
尤も納得できる場合での話ではあるが。
「・・・了解しました教官殿!」フレーザーは見事な徒手敬礼をすると、他の強化兵と共に待機室へと去っていった。
「ふう、クレアには目を掛けていたというのに・・・」ブリーフィングルームに1人になった教官は残念そうに呟いた。

「この機体はもう駄目だ!」「火の勢いが強すぎる!」「なんで なんで 私の時にこんなことが起こったのだ…」燃え盛る紅蓮の業火に必死で化学消火剤を浴びせる恐竜型小型ゾイド ゴドス数機の姿を見つめながら、セルゲイは爪を噛みながら何度も呟いていた。

秘密研究所長という業務を給料のいい退屈な仕事位にしか考えていなかった彼も流石にこの件の重大さを把握していた。
「もし、強化兵の小娘がこの研究所の実態を暴露したら・・・」自分は消される・・・嘗て他社に情報を持って逃亡を図った上司が、数日後に暴走ゾイドの襲撃で自宅ごと塵と化したことを思い出し、彼は蒼ざめた。
「所長! 発進準備が整いました。第4ゲートより発進します。」オペレーターからの報告が彼を現実への帰還を余儀なくさせた。
「わかった! 早く行け!!」自分の眼前を横切っていくバイオラプター6機を見た彼は、自分の悲観的な予測を上方修正させる。
「そうだ!まだだ まだ 終わっていない」自らに言い聞かせるかの如く吐き捨てたセルゲイは、抗ストレス剤のカプセルを服用すると力無く革製の椅子に倒れ伏した。

第4ゲートには、6機のミクロラプトル型、小型バイオゾイド バイオラプターが待機していた。

この骨格標本の様な機体はバイオメガラプトルのゾイド因子を培養して作られた初の量産型バイオゾイドで一部調整された影響で寿命が短い事など不安定な面があったが、その欠点を帳消しにする利点があった。
その利点である機体を覆う流体装甲 ヘルアーマーは、条件によっては、バスターキャノンの様な実弾兵器や荷電粒子砲の様な高出力光学兵器さえ防御可能で小型ゾイドのバイオラプターに大型ゾイドと互角に渡り合える力を与えていた。
内指揮官を務めるリーンとウィラードの機体は指揮官機仕様としてガンメタリックに塗装されていた。
「へっ、フレーザーの野郎、俺達がクレアを叩き潰したって聞いたら、泣きべそかくんじゃねーか」バイオラプター2番機のパイロットの金髪の少年、ホルガーが言う。
「そりゃ、彼は3日前、クレアに模擬戦で負けているからね」3番機の黒髪にオレンジの瞳のトルーデが応える。
3日前、フレーザーはバイオラプターでの模擬戦闘でクレアに完敗し、それは彼らの間で大きな話題となっていた。
「それにしてもクレアの奴なんで脱走なんて無謀なことしたんだろうな。」
「さあね、前から変な子だったし」
「お前等、私語は慎めよ」会話を弾ませる2人に第1小隊長を務めるリーンがそれを窘めた。
尤それは特に理由が有って言ったわけでは無く、自身の隊長としての権力を行使したいというものだったが。
「はーい」
「うるせえよ、リーン! テメエもフレーザーに負けてるじゃねーか」トルーデの素直な返答とは逆にホルガーはリーンに反発した。
「それとこれとは、話は別だ! 私は指揮官だぞ!!」
「はいはい!!判りましたよ!指揮官殿!!!」嘲るようにホルガーは通信を切った。
「そんなに怒らなくても・・・」通信を聞いていた5番機のグレゴリーは肩を竦めた。
「弱点を突かれて、ヒスってるんだろ・・」第2小隊長のウィラードがそれに応えた。
顎髭を伸ばしたままにしている彼は、外見だけならば最も年上に見えた。
「・・・」彼らと対照的に6番機の緑色の髪の少女、ラナは、何も語らず、ただ、計器類を眺めていた。
「・・・どうしたラナ。」その様子を訝しんだのか、ウィラードが尋ねる。
「やっぱり、お前もこの土偶スーツが暑苦しくて敵わないか」バイオゾイドのパイロットが操縦時に着用するこの土偶の様な形状のパイロットスーツは、ゾイドとの同調性を高めるための物であったが、着用者の強化兵らには暑苦しいと不評を買っていた。
「・・ええ」表面上はそう答えるとラナは、暑苦しそうに頭を振った。
「・・・全機、発進してください。」彼らにオペレーターからの通信が入る。・・・同時に、金属製の扉が開き始める。
やがて金属製の扉が完全に開くと、6機の骸骨竜達は、赤と青の双子の月が照らす荒野に解き放たれた。



[449] 西方大陸機獣戦記 1章 後篇 ロイ - 2014/05/20(火) 00:04 -

同じ頃、クレアは近隣の無人整備基地から発進したキメラブロックス部隊と交戦状態に突入していた。

「こいつらっ、急いでるのに!」

ヘルメットを被り、白いパイロットスーツにその身を包んだ金髪の少女 クレアは、シャドーフォックスのコックピットの中で毒づいた。

シャドーフォックスの行く手を10機近いBLOXゾイドが阻む。そのどれもが通常のゾイドとはかけ離れた不気味な姿だった。

これらのゾイドは異なる2機のゾイド因子を合成して作られたキメラブロックスと呼ばれる機種で、現在では生態系への悪影響の問題で一部除き使用禁止になっているはずのものである。

甲羅を持ったゴリラの様な機体、シェルカーンが両肩の電磁キャノンを放つ。クレアはそれを回避するとストライクレーザークローで撃破する。

崩れ落ちるシェルカーン、次に隣の別のシェルカーンがハンマーナックルをシャドーフォックスの頭部目掛けて振り下ろす。

大型ゾイドの装甲をも陥没させる威力を持った鉄拳を最小限の動きで回避すると零距離からシェルカーンにレーザーバルカンを叩き込む。

頭部が一瞬で砕け、内部のゾイドコアブロックが砕け散った。
間髪入れず、後ろから巨大な竜の口の様なデモンズヘッドが大口を開けて迫る。
クレアは顔色一つ変えず、尾部の電磁ネット弾のトリガーを引いた。
デモンズヘッドをネットが包んだ。
デモンズヘッドは引き裂こうとしたが、内蔵されていたセンサーが作動し、高圧電流がネットに流れた。高圧電流に苦しむデモンズヘッドに一瞥せずシャドーフォックスは突っ走った。

四足歩行型のキメラ レーザーストーム2機が機体後部のストームガトリングで弾幕を張る。
その炎の壁の様な弾幕を掻い潜り、シャドーフォックスは一瞬で2機の側面に回り込んだ。

常人なら気絶するほどのGが彼女を襲ったが、彼女の強化された身体はそれに耐え抜いた。

「落ちなさい!!」レーザーストーム2機のAIが反応するより早く、シャドーフォックスのレーザーバルカンが2機のボディを撃ち抜いていた。

シャドーフォックスは、残りのキメラブロックスに突撃した。数分と経たぬ内にキメラブロックス部隊は、残らず鉄屑に変換されていた。


瞬く間にキメラブロックス部隊を殲滅したクレアは、シャドーフォックスを進ませようとした。


その時、上空に照明弾が上がり、シャドーフォックスの周辺を照らした。

「死ね!」
同時に右の砂丘から飛び出したバイオラプターが両前足のヒートハッキングクローを振りかざしてシャドーフォックスに襲い掛かる。

「!」シャドーフォックスは間一髪で後退する。そこに追撃ちを掛けるかの様に現れたバイオラプター2機が、口から火球を放った。



「くっ」シャドーフォックスは横跳びで回避、30mm徹甲レーザーバルカンを連射した。

大型ゾイドにさえダメージを与えることが可能な光弾の嵐が指揮官機のバイオラプターの胴体に突き刺さる。
通常の小型ゾイドなら大破しても可笑しくない攻撃だったが、バイオラプターのヘルアーマーはそれを全て弾き返した。

「無駄よ!トルーデとホルガーは援護!」
ヘルアーマーの防御力を確信しているリーンはバイオラプターを加速させた。

「ふん!墜ちなさい裏切り者!」
後方のトルーデのバイオラプターが援護のヘルファイアーを放つ。

ヘルアーマーでレーザーバルカンを弾きながらリーンのバイオラプター 指揮官仕様は、シャドーフォックスに接近すると左のヒートハッキングクローを振り下ろした。

「っ!」 クレアは何とか回避するが、トルーデ機からの火球が飛ぶ、1発でも食らえば軽装甲のフォックスには致命傷となる攻撃であった。

クレアはレーザーバルカンで一発を撃ち落とす。だが、その側面にホルガーのバイオラプターが回り込む。

「喰らえ!」彼のバイオラプターが口を開け、火球を発射・・・・「其処っ!!」その寸前にシャドーフォックスの徹甲レーザーバルカン砲が旋回、火を噴いた。

「そこだ!」
同時にリーンのバイオラプター 指揮官仕様のヒートハキングクローがシャドーフォックスのコックピットめがけて、振り下ろされる。

クレアは、クローと接触する寸前でシャドーフォックスの頭部を少し動かすだけでそれを回避した。

赤熱する爪が、空しく地面に突き刺さる。高熱の爪が裂いた砂の地面がガラス化した。

「しまった!」シャドーフォックスの攻撃はヘルファイアーを放とうとしていたホルガーのバイオラプターの口腔に突き刺さった。
其処は、ヘルアーマーに覆われていない個所の1つであった。
弱点を撃ち抜かれたバイオラプターは、口から黒煙を吐いて崩れ落ちる。
損傷した内部機関の誘爆に巻き込まれ、パイロットのホルガーは一瞬で焼死していた。

即座にバイオラプターの金属細胞の死滅が始まり、バイオラプターに絶大な防御力を与えていたライトヘルアーマーも急速に崩壊していった。

そしてバイオラプターはフレームのみを残して消滅した。

「よくもホルガーを!!」
「ぐっ」トルーデのバイオラプターがリーンのバイオラプター 指揮官仕様を押しのけてシャドーフォックスを追撃する。

「トルーデ!もう直ぐウィラード隊が来る!それまで待て!」制止するリーン、彼女は、味方が撃破されたことで動揺していた。

「黙れよ!」トルーデは、その命令に応えるどころか怒声で返した。
彼女は突然の戦友の死に平静を失ってしまっていた。
過去にも訓練中の事故で同僚が予期せぬ死を迎えるのを見たことは何度もあったが、実戦での突然の死に直面したことはなかったのである。

「死ね! 裏切り者っ」トルーデのバイオラプターは両手の爪、ヒートハキングクローを振り回して我武者羅に襲い掛かる。

それは、動きこそ素早かったが、同じ強化兵のクレアには止まっている様なものだった。


「焼け死になさい!!」バイオラプターが火炎放射をシャドーフォックスに浴びせる。
寸前でシャドーフォックスは横跳びに回避

「そこだ!」リーンの指揮官機がヘルファイアーで追撃ちする。

その攻撃を回避すると、シャドーフォックスは、トルーデのバイオラプターの左足首に噛付いた。

そこは、口腔内同様、ヘルアーマーに守られていない箇所・・・シャドーフォックスは、バイトファングで足首を食い千切る。足首から下を失ったバイオラプターが悲鳴を上げて横倒しになった。


直後、トルーデのバイオラプターのいる場所に火球が降り注いだ。
寸前で後退するクレアのシャドーフォックス。

行動不能のバイオラプターに火球が次々と着弾、ヘルアーマーが降り注ぐ火球を弾く。

銀色の流体装甲は、カタログスペック通りにその攻撃に耐え抜いた。

だが、その衝撃までは吸収しきれず、バイオラプターのコンバットシステムはフリーズしていた。

友軍機の攻撃によってトルーデのバイオラプターは戦闘不能に陥ったのであった。
「あの下手くそども!」
怒りに燃えるトルーデは、その端整な顔を醜く歪めて火球の来た方向を睨み据えた。

モニターには、楔形隊形でこちらに向かってくる3機のバイオラプターの姿が映し出されていた。
基地から連絡を受けたウィラードの部隊がようやく合流したのである。
「ウィラードの隊か!」

「ちっ、2機もやられてやがる!」
ウィラードは、既にフレームのみになったホルガーのバイオラプターの残骸と先程巻沿いにした行動不能のルーデのバイオラプターを見て舌打ちした。

「2機も撃破されるなんて・・」自分達の技量とバイオラプターの性能に自信を抱いていたグレゴリーは驚愕する。

「クレア」右端に付くラナは、敵となった親友の姿に思わずその名を呟いた。

「増援!こんな時に」迫りくる3機のバイオラプターを見たクレアは焦った。
2機のバイオラプターを撃破した彼女と言えど、同じ強化兵の操る4機のバイオラプターに勝利するのは不可能である。

「形勢逆転・・のようね!」リーンのバイオラプター 指揮官仕様が飛び掛かる。

3機のバイオラプターもリーンを援護する。
合流を果たした4機のバイオラプターは、クレアのシャドーフォックスを包囲する様に散開、それぞれの方向から攻撃を開始した。

「喰らいな!」ウィラード機とグレゴリー機がヘルファイアーを発射、同時に2方向から来る攻撃をクレアは、必死で迫りくる火球を回避した。
更にラナのバイオラプターの放ったヘルファイアーがクレアのシャドーフォックスの前方に着弾した。

「下手くそが!」
そう吐き捨てたリーンのバイオラプター 指揮官仕様が後方に回り込む・・・同時にシャドーフォックスの尾部から電磁ネット弾が発射され、リーンのバイオラプターが網に絡まる。
直後、金属のネットが紫色の電流を放出した。

通常の小型ゾイドならこの高圧電流で機能停止に追い込まれてもおかしくなかった。
「こんなもの!」
だが、バイオラプターは、ものともせずヒートハキングクローでネットを引き裂いて脱出した。

4機のバイオラプターは、連携してシャドーフォックスに襲い掛かる。
なぜかラナのバイオラプターの動きが鈍かったが、それでも包囲の輪は、次第に狭まり、クレアとシャドーフォックスは追い詰められていった。

今の彼女の置かれている状況は、狩りで猟犬の群れに追い回される狐と大差無かった。
「!」
「逃がさねえよっ」
ウィラードのバイオラプターが火炎放射、焔が地面を焼き、一瞬シャドーフォックスの動きが止まった。
そこにグレゴリーのバイオラプターとリーンのバイオラプターが迫る。
「止めよ!」赤熱化するクローを受けたシャドーフォックスのレーザーバルカンが引き裂かれる。
シャドーフォックスは、全ての火器を喪失した。


「クレア!」
3機と少し離れた位置にいたラナのバイオラプターのヘルファイアーを発射した。
同時に3機のバイオラプターと交戦中のクレアのシャドーフォックスでは、回避できない!
だがその一撃は、シャドーフォックスではなく、友軍機であるはずのバイオラプターに直撃した。

「ぐわあっ」
オレンジの火球に打ちのめされ、横転するバイオラプター・・・搭乗者のグレゴリーが、反応するよりも早くラナのバイオラプターがその首筋に噛付いた。

ヒートキラーバイトが、バイオラプターの首筋を切断した。首を失ったバイオラプターは、力無く地面に崩れ落ちた。

「ラナ!貴様なにを・・うぁあ」

リーンのバイオラプターが、ラナの機体の体当たりを受けて横転した。
「リーン!」
ウィラードのバイオラプターが、ヘルファイアーで援護する。
その一撃は、ラナのバイオラプターの胴体に直撃したが、ヘルアーマーに弾き返された。


「クレア!ここは、私が支える!あなたは早く逃げて!」
ラナの機体からの通信がクレアのシャドーフォックスに送られた。
「ラナ!どうして!?」
クレアは、思わず叫んだ。彼女は、ラナと親友といっていい位仲が良かったが、裏切り者となってまで自分を助けるとは考えていなかったのであった。
「貴方がなぜ脱走するのか、私には分かる!ここは私一人で支えるから!」

「まさかお前が裏切るとはな・・・クレア共々仕留めさせてもらうぜ」
ウィラードのバイオラプター 指揮官仕様のヒートハキングクローがラナのバイオラプターに叩き付けられる。

「くっ」ラナのバイオラプターは、即座に体勢を立て直す。

「いって!クレア!私と死んだあの人の為にも!」
そういうとラナは、バイオラプターを前進させた。

「ラナ・・・貴女も無事でいて!」その隙にシャドーフォックスとクレアは、夜の闇の向こうへと駆けて行った。それを上空にいたザバットが追跡する。いかに俊足を誇る高速ゾイドといえども、飛行ゾイドの追撃を逃れることは不可能である。だが不意にシャドーフォックスの姿が、景色に溶ける様に朧げになり、消失した。
シャドーフォックスの装備された光学迷彩システムである。光や電磁波を屈折させることで肉眼とセンサーから対象物を不可視にするこのシステムは、上空のザバットからシャドーフォックスの姿を探知不能にした。

不可視の衣を纏った狐は、乗り手と共に自由が待ち受ける前方の闇夜へと突き進んだ。
10分後、シャドーフォックスとクレアは、施設の索敵システムの圏外へと離脱した。

同じ頃、予期せずして起こった初のバイオゾイド同士の戦闘も終わりを迎えようとしていた。


2機のバイオゾイドの亡骸が白骨の様に転がる砂漠を、ラナのバイオラプターは、駆けまわっていた。
「はあ、はっ、はっ・・・まだ負けるわけには・・・」
2機のバイオラプター 指揮官仕様を相手にラナとバイオラプターは戦っていた。

ヘルアーマーのおかげで目立った損傷こそないが、内部機関には損傷が蓄積し、パイロットのラナも負傷していた。
元々、パイロットとしての技量でも性能でも劣っている彼女がここまで善戦できたことの方が異常なのかもしれない・・・そしてその時は来た。


リーンのバイオラプターがヘルファイアーを発射、ラナのバイオラプターの側面にもろに着弾し、彼女のバイオラプターは横転した。
「止めだ!」
ウィラード機がダッシュ、ラナのバイオラプターに飛びかかる。
「クレア・・・」
ラナは回避しようとしたが、既に損傷を受けたバイオラプターはその操作に応えなかった・・・・次の瞬間、ラナのバイオラプターの首をウィラードのバイオラプターのヒートハキングクローが切り裂いた。

頭部を失ったラナのバイオラプターは、崩れ落ちた。

「裏切りやがって・・・・」
「ここまで手こずるとは・・・」
既にクレアとシャドーフォックスは、バイオラプターの索敵圏外から離脱していた。尤もラナのバイオラプターとの交戦によって損傷したリーンとウィラードの機体では、追撃は不可能であったが。

獲物を取り逃がした猟犬達の頭上をザバットが旋回を続けていた。

司令室・・・・・・ザバットのセンサーから司令室の前方のモニターに投影された画像は、戦闘の終焉と作戦の失敗を否応なく教えていた。

「シャドーフォックスの反応、完全に消失 もはや追撃は不可能です」オペレーターの報告が室内に響いた。
「終わりだ・・・・全て終わりだ・・・・」ザバットから受信されたモニター映像を見ていたセルゲイは、廃人の様にうなだれた。


その背後の自動ドアが開き、消音器付の銃を持った黒服の男が部屋に侵入した・・・


5日後、この事件はZi‐ARMS社所有のエネルギープラントの爆発事故としてこの事件は処理された。

そしてセルゲイ所長は、施設で大破したグスタフの残骸から焼死体となって発見されたと公表された。

[453] 西方大陸機獣戦記 2章 前篇 ロイ - 2014/06/29(日) 15:32 -

ブロント平野でのZi−ARMS社エネルギープラント爆発事故から5日後・・・・・・
西方大陸、北エウロペ・レッドラスト ZOITEC社ゾイド研究所

この研究施設では、約150年前の第一次大陸間戦争で使用されたヘリック、ガイロス軍のゾイドに関する研究が行われていた。

絶滅したこれらのゾイドの重力兵器やアイスアーマー、ビームスマッシャー等に代表される強力な兵装と高い基本性能は現在でも通用しうるものを持っており、これらのゾイドの復活は、パワーバランスを一変させる可能性を十二分に秘めていた。

ZOITEC社もその危険性を認識しており、有人機200、スリーパー機50という規模に比べれば過剰な程の防衛部隊を配置した。

無論、これらの防衛部隊の人員や所員のための諸施設の整備によって研究所は当初の2倍にまで拡張された。この工事には先住民系の出稼ぎ労働者が多数雇用された。

だが、その中には武力による移民国家打倒とエウロペ人によるエウロペ大陸解放をスローガンとする武装組織 西方大陸解放軍の工作員が含まれていたのである。

情報を得た西方大陸解放軍は、施設の襲撃によるデータの奪取を計画した。
当時彼らは、Zi−ARMS社からの支援によって大型ゾイドを多数装備できるほど強化されていた。

無論Zi−ARMS社とて慈善事業で支援した訳ではなく、解放軍がエウロペ独立を果たした暁にはZi−ARMS社が独立エウロペの利権等を手に入れるという条件付きであった。
そして同様の研究を行っていたZi−ARMS社はこの研究所からの資料奪取を目論み、傭兵部隊 ドラッヘンズを雇い襲撃部隊に加えた。



日は、既に没し、研究所もその周囲の大地も夜の闇と空に浮かぶ蒼白と鮮血の色をした双子の月の冷たい光に照らされていた。

「全機作戦開始!」研究所周辺の何もない空間が歪み、其処から次々とゾイド部隊が現れる・・先頭には一角獣の様に角を頭部に持った赤いライオン型高速ゾイドが立っていた。

そのゾイドの名はエナジーライガー、前大戦時、ネオゼネバス帝国がZOITEC社の帝国派の協力を得て開発したゾイドで最高時速660キロを出すことのできる高性能機だった。

その周りには虎型高速ゾイド・セイバータイガー、狐型高速ゾイド・シャドー・フォックス等の高速ゾイドが20機ほどいた。

いずれもエナジーライガー同様左肩に西方大陸の地図の上にサーベルが刺さった紋章があしらわれていた。

パトロールに出ていたアロサウルス型中型ゾイド・アロザウラー2機が行動するよりも早く、先頭のエナジーライガーの二連砲チャージャーキャノンが火を噴いた。

高出力ビームが2機のアロザウラーの頭部に突き刺さった。コックピットを吹き飛ばされた2機は糸の切れた人形の様に崩れ落ちた。

メインゲートの前に立つエナジーライガーの両脇に2機のゾイドが並んだ。
左右共に二足歩行の肉食恐竜型ゾイドであることと、暗闇に溶け込む様な漆黒の塗装という共通項があったがそれ以外は全く違っていた。

左の機体が、盾を想起させる巨大な蝙蝠に似た翼を持ち、凶暴さを醸し出す様に鋭い歯の並んだ頭部を持っていたのに対し、右の機体は、左の機体よりも一回り小さく、背中に祭りの山車の様な大型ミサイルポッドをはじめとして全身に多数のミサイルポッドが装備され、頭部は左の機体とは対照的に顎が無く、潜水ゴーグルの様なセンサーが頭部に装着されていた。

右に佇む機体、恐竜型中型BLOXゾイド ディノコマンダー・ボンバータイプが全身に装備したミサイルポッドを解放した。

「ファイア!」身体から湧き上がる衝動のままにパイロットの赤毛の男は、発射ボタンを押した。

内部に格納されていた大小200発のミサイルが一斉に全身から勢い良く吐き出され、ミサイルの砲煙が一瞬、ディノコマンダーの姿を覆い隠した。

発射されたミサイルは内蔵されたAIによって誘導され、格納庫、通信施設、発電施設に突入した。

そのうち10発が発電施設に命中し、所内は一時的に停電状態に陥った。

「完璧(パーフェクト)だ。」全弾命中の百雷の如き着弾音が耳を振るわせ、全身に振動が伝わるのを感じて満足げに呟いた。

「見事だ。デュラント!之が終わったら俺が好きな酒を奢ってやるよ」
左の機体のパイロットの男が言う。男は、ダークグリーンのパイロットスーツとメタリックブラックのフルフェイスヘルメットを着用していた。

騎士の兜に似た形状のヘルメットの顔面部は、真紅のバイザーで覆われ、着用者の表情は窺えなかった。

彼の名は、キース・ウェルナー 傭兵部隊 ドラッヘンの隊長であった。
この12人のゾイドパイロットで構成される傭兵部隊は、指揮官機のルシファーフューラーと今回は別行動をとっている副官機以外、全てディノコマンダーで編成されていた。

この恐竜型BLOXゾイド ディノコマンダーは、100年前のヘリック共和国とネオゼネバス帝国の戦争の頃に帝国軍が開発していたBLOXゾイド ジェノザウラー BLOXを参考にZi−ARMS社が開発した機体で、パワードスーツ並みの器用さを持つマニュピレーターとバーサークフューラーやライガーゼロのCASと同様の兵装換装システムが採用されているのが特徴である。
「期待してますよ・隊長」右の機体の赤毛の男 デュラント・テイラーがおどけた口調で言った。

「・・お次は、俺の番だ」左の改造バーサークフューラー ルシファーフューラーの口腔に光が集まっていく。

数秒後、青白い光の渦が迸り、獣の咆哮の様な轟音を伴って施設のメインゲートに突き刺さった。

特殊合金製の分厚いメインゲート、大型ゾイドの高出力兵装にも耐えうるそれを、さながらバターの様に貫いた青白い光の奔流は格納庫から発進したばかりのベロキラプトル型小型ゾイド、スナイプマスター3機を飲み込み、蒸発させた。

先程まで3機のいた地点が、活火山のマグマの様に赤々と煮え立っているのを見た者達は戦慄した。

「荷電粒子砲だと!」それを見た傭兵の誰かが叫んだ。大穴が開いたメインゲートが自重に耐えきれず、轟音を立てて崩壊した。

[454] 西方大陸機獣戦記 2章 中篇 ロイ - 2014/07/06(日) 04:26 -

「全軍突撃!!」同時に外にいた西方大陸解放軍のゾイドは、一斉に研究所内に雪崩れ込んだ。ZOITEC社に雇われたPMC(民間軍事会社)や傭兵で構成されたゾイド部隊が彼らを迎え撃つ。
ブレードライガーがエウロペ解放軍のシャドーフォックスの左脚部を切断する。
だが、次の瞬間にはそのブレードライガーもエナジーライガーのグングニルホーンに胴体を貫かれていた。
白に塗装されたエレファンダーが背中のリニアレーザーガンを発砲、ルシファーフューラーは、それをウィングバインダーに内蔵されたパルスレーザー砲で相殺すると、手近にいたアロザウラーとカノントータスBC2機に襲い掛かる。

アロザウラーは両腕の火炎放射機を発射、炎の渦をルシファーフューラーはウィングバインダーで防ぐとウィングバインダーに収納されたレーザーブレードで両断し、返す刀でカノントータスBC2機の大口径ビームキャノンを切り飛ばした。

発射寸前だった大口径ビームキャノンが暴発する。

巨大な砲身が一瞬蝋の様に白くなった、次の瞬間、爆炎がカノントータスBCを飲み込んだ。
爆炎の中からルシファーフューラーが飛び出す。

「化物が!」ダークホーンが背中のビームガトリング砲をルシファーフューラーに連射した。
緑色の光弾の雨をルシファーフューラーはブースターを吹かせて回避した。
同時に後方に控えていたディノコマンダー・ランチャータイプ2機がダークホーンに両手で抱えた大型ビームキャノンを浴びせた。

背部のコアブロックを並列配置したジェネレーターとチューブで直結したこの大型ビームキャノンの威力は絶大で、ダークホーンの脚部がビームを受け、融解した。

「止めだ!!」
両腕に大型の鉤爪を装備したディノコマンダーが、その場にうずくまり行動不能とダークホーンのコックピットを切り裂いた。
「へっ!」その機体・・・・ディノコマンダー・クローカスタムのパイロットのハンス・リューデマンは、残忍な笑みを浮かべた。
「よくも!」レオストライカーがザンブレイカーを振りかざして飛び掛かった。
突如何もない空間からレーザーが放たれ、レオストライカーの背部コックピットを貫いた。
パイロットを失ったレオストライカーは糸の切れた人形の様に崩れ落ちた。
「全機!突撃!お前らが作戦の要だ!大暴れするぞ!」
キースのルシファーフューラーを中心に10機のディノコマンダーが展開、ルシファーフューラーを先頭に7機のディノコマンダーが突撃した。

後方に立つ後方支援型 ディノコマンダー・ランチャータイプ2機とデュラントのディノコマンダー・ボンバータイプが支援射撃を加える。

デュラントの機体は、先程の爆撃で手持ちのミサイルを切らしていたため、両肩に装備したダークホーンLB用のビームガトリング砲2門を掃射していた。
雨の様なビームの掃射に守備隊のゾイドが動きを止める・・・そこにディノコマンダー・ランチャータイプ2機が両腕に抱えたビームキャノンと105mmレールキャノンを浴びせる。

高出力のビームを左両脚部に受けたセイバータイガーが横転し、電磁加速を受けた徹甲弾がベアファイターの重装甲とそれに守られた内部機関を貫いた。
高威力の火器の反動は相当なものであったが、2機は、地面に大型アンカーを撃ち込むことでその衝撃を逃がしていた。

「流石だ!ハインツ!ニーナ!」接近してきたハンマーロックをガトリングで殴り倒しながらデュラントが言う。
「トリガーハッピーの貴様には負けんよ」「・・・」ハインツ・ペーターセンは、笑みを浮かべてデュラントを皮肉った。

対照的にもう1機のパイロットである金髪にグレーの瞳をした女性・・・ニーナ・マイヤーは、表情一つ変えず、敵機に対して砲撃をお見舞いしていた。彼らの支援砲撃を受けたルシファーフューラー以下8機は防衛部隊の集団に襲い掛かる。
「俺の獲物になりたい奴はかかってこい!」肩まで髪を伸ばした黒髪の少年 ライン・フォーゲルは、残忍な笑みを浮かべて叫んだ。
彼の乗機であるディノコマンダー・ウォーリアタイプは、両腕に■神が魂を刈り取るのに使用するとされている大鎌に似た武器を保持していた。

「■!!」アロザウラーの強化改造型 アロランチャーに鎌状の大型高周波ブレードを振り下ろした。超振動する刃が、アロランチャーを真っ二つに切断した。
その横では、ハンスのディノコマンダー・クローカスタムが横倒しにしたボルドガルドをバラバラに引き裂いていた。
2機のディノコマンダー・ウォーリアタイプが、ルシファーフューラーを援護する。
その連携は見事で背部のレーザーライフルが火を噴くたび敵機が崩れ落ちた。マトリクスドラゴンがテイルソーを振り上げてルシファーフューラーに飛び掛かる。
「隊長!」だが、ルシファーフューラーに攻撃が届く前に左右のディノコマンダー・ウォーリアタイプが腕部に保持したビームニードルガンで胴体を射抜かれ、地面に叩き付けられた。「惜しかったな!」コアブロックを破壊され大破したマトリクスドラゴンの頭部をルシファーフューラーが踏み潰した。
「隊長気を付けてください」
「乱戦で指揮官が単独行動するなんて危険すぎます」
ほぼ同時に左右のモニターに僚機のパイロットの双子 クルト・ロディ、マックス・ロディのダークブルーのパイロットスーツ姿のバストアップが移される。左右に移る2人の姿は、鏡合せの様に共通していた。
ウォーリアタイプは、ディノコマンダーの中で基本形態ともいえる機体で、正式生産されるディノコマンダーもこのタイプになる予定だった。
傭兵部隊に負けじと解放軍のゾイドも装備に勝る防衛部隊を相手に暴れまわっていた。

エナジーライガーがエナジーブレードを展開状態で400キロの俊足で敵機の間を駆け抜ける。
「なに!」
「ぐわぁ」
「なんて速さだ」
敵機は次々と高エネルギーを纏った鋼鉄の刃に切り伏せられていった。
部下のシャドーフォックスやセイバータイガーもその後に続く。

エナジーライガーのグングニルホーンがマトリクスドラゴンを貫き、シャドーフォックスの背中の30mm徹甲レーザーバルカンが唸りを上げ、光弾の嵐がコマンドウルフACを蜂の巣にする。
セイバータイガーATの背中の8連装ミサイルがエヴォフライヤーを蹴散らす。
シールドライガーがミサイルの爆風で態勢を崩す。
体勢を崩したシールドライガーにルシファーフューラーが猛禽の翼の様にウィングバインダーを広げて飛び掛かった。
人間に捕えられ、戦闘用に改造される前から培われた野生の本能に従い、ルシファーフューラーは、抑え込んだシールドライガーの脇腹を両前足のストライクレーザークローで引き裂くとそこに頭を突っ込んだ。

ルシファーフューラーはシールドライガーから心臓部ともいえるゾイドコアを抉り出し、鋭く並んだハイパーバイトファングで噛み砕いた。

シールドライガーは弱い悲鳴を上げて息絶えた。
「研究データは地下にある!」
「了解!」勝利の雄叫びを上げるルシファーフューラー、その横をディノコマンダー・スカウタータイプが駆ける。
その機体の背部には、自身の全長に匹敵する程の箱型の装置が搭載されていた。

この機体とパイロットの少年 フェリックス・ロスナー こそ、この作戦の真の要であった。
護衛のディノコマンダー・ステルスタイプ2機が、研究所の中央に向かう。そこには、台形のコンクリート製の施設があった。

彼らの目の前にレオストライカーが立ちふさがる。

「退け!」フェリックスのディノコマンダー・スカウタータイプが、左腕に装備したハンドエレショットを発砲する。

ハンドガンに似た形状の火器から発射された青白い雷がレオストライカーを打ち据えた。
3機のディノコマンダーは、光学迷彩を使用し、姿を消した。
直後、研究所中央にある古代の王の陵墓の様な形状の建物の外壁が爆破された。


白い台形の建物・・・通称トゥームと呼ばれていたその施設の地下には、旧大戦期のロストテクノロジーのデータが保管されていた。

[457] 西方大陸機獣戦記 2章 後編 ロイ - 2014/07/13(日) 13:51 -

ZOITEC社 飛行場
ここは、研究所の近隣に存在する軍事基地で最も迅速にそして最も有効な支援を贈ることが可能な基地であった。

研究所が襲撃を受けて10分後、研究所より救援要請を受けたこの基地は、即座に基地に存在する航空隊すべてに出撃命令を出した。
研究所は、通信設備の故障に備えて通信部隊を編制しており、この部隊が救援要請を送ったのであった。
「全機出撃せよ!これは、演習ではない!繰り返すこれは演習ではない!」

「研究所に支援に向かえ!敵勢力には、未確認の大型ゾイドも複数確認されている・・注意されたし」飛行場の中心に存在する滑走路には、バスターイーグル6機、レイノス8機、プテラス・ボマー12機が次々と発進しようと並んでいた。
その時、基地のレーダーが地を這う様な低空で進行する7機の機影を捉えた。7機の内訳は、レドラーの改造型 ブラックレドラー6機とロードゲイルだった。
ロードゲイルは、左腕部にレッドホーン用のビームガトリング砲を追加装備していた。
彼らの前にメガレオン6機が立ちふさがった。
メガレオンは、共和国軍が開発したカメレオン型SSゾイドで約100年前のネオゼネバス軍の中央大陸侵攻の際には、優れた対空能力で低高度侵入してくる空挺部隊を迎撃した機体でもあった。

また他のSSゾイドの例にもれず、安価で整備性も良好なためこの基地にも6機が配備されていた。
6機のメガレオンの胴体がせり上がり、内蔵されたツインエネルギー砲が一斉に火を噴いた。
無数のオレンジの火線が闇夜を切り裂き、敵機の接近を阻もうとする。
「くっ」ブラックレドラー隊の指揮官の男は舌打ちした。
此の儘では、航空部隊の発進を阻止できない・・・・彼の心を焦燥が支配しようとしたその時・・・「俺がしとめる」編隊後方にいたロードゲイルが6機の前に出る。
月明かりを受けて機体の左腕に装着されたその全高程もある銃火器がまるで銀細工の様に煌いた。「邪魔だ!」先頭のロードゲイルがビームガトリングを掃射した。
高速回転する銃身から吐き出される高温の光の豪雨が6機のメガレオンに浴びせられた。
瞬間的に蜂の巣にされた6機のメガレオンは次々と爆発した。
中には、友軍機の爆発を受けて横転する機体もあった。

黒焦げの残骸と炎の海を6機の漆黒の飛竜と1機の合成獣の王が駆け抜ける。
もはや飛行場と彼らの間を塞ぐものは何もなかった。


ブラックレドラー隊は、滑走路に展開する飛行ゾイド部隊に対して襲い掛かった。

「飛び立たせるものかよ!」攻撃部隊の指揮官にしてエウロペ解放軍飛行部隊司令官バルク・ルダ・ディーネスは、乗機ブラックレドラーの頭部のレーザーガンの発射ボタンを連打した。

レーザーを受けたレイノス2機が翼を吹き飛ばされて炎上した。
ロケット弾がバスターイーグルの胴体に直撃、バスターイーグルは炎上した。
別のブラックレドラーが離陸中のバスターイーグルに機首のレーザー砲を叩き込む。

バスターイーグルの左翼が吹き飛ぶ。片翼を失ったバスターイーグルは、滑走路を飛び出し、隣の滑走路の別の同型機と衝突した。
直後、バスターキャノンの砲弾と装備されていた爆弾が誘爆し、滑走路で大爆発が起こった。
爆発に巻き込まれたレイノスやバスターイーグルが次々と爆散した。
火達磨になったバスターイーグルが、弾薬庫に衝突、発生した。
爆発がのたうち回る竜の如く周囲の施設を薙ぎ倒す。

更にロードゲイルがビームガトリング砲を掃射、プテラス・ボマー4機の内3機が、蜂の巣にされて爆散した。
残された1機は、ブラックレドラーに地上撃破された。
さらに行き掛けの駄賃とばかりに輸送機型のバスターイーグル・カーゴ2機を蜂の巣にした。
ホバリングで空中に静止したロードゲイルは、もはや用済みとなったビームガトリングをパージした。

「これで、飛行ゾイドは全部潰したか・・・退屈な任務だ。キースの方に行くべきだったかな・・」頭にグレーのバンダナを巻いた長身の男・・・・ロードゲイルのパイロット ヨハン・ハイネマンは、紅蓮の業火に包まれつつある飛行場を見下ろしていった。

友軍のブラックレドラー6機は、残された施設に対して爆撃を開始していた。
燃料タンクが爆発し、防空陣地がコンクリートと炎を撒き散らして砕けちった。

作戦自体は、損害0の大成功であったが、根っからのパイロット気質の彼にとっては退屈極まりなかった。
重力が身体を締め付け、天地が何度も逆転する中敵機を猟犬の如く追撃し、叩き落した末に自慢できるのが、パイロットの撃墜スコアであると考えていた。
合理主義気質のフェリックスのガキや守銭奴のデュラントあたりは、馬鹿にするだろうが。

「仕上げは、俺がやるぜ」せめて止めだけは・・・そう考えたヨハンは、ロードゲイルを管制塔に突撃させた。
炎を背にロードゲイルは、残された白い管制塔に接近し、2つの槍、マグネイズスピアが装着された左腕を振り下ろす。
支柱を破壊された管制塔は炎の中に沈んでいった。

それはこの飛行場が、完全に航空基地としての機能を失った瞬間であった。


同じ頃、地下に侵入したディノコマンダー・スカウタータイプと隠密戦闘型 ディノコマンダー・ステルスタイプ2機は、内通者が提供した情報をなぞる様に進んでいた。
無論、全てが順調ではなく、途中、警備のゾイドとの遭遇は、何度かあった。
その全てがプログラム通りの行動しか出来ないスリーパーゾイドであり、練達の傭兵である彼らにとっては、止まっている的と大差ない代物であった。
3機は、瞬く間にデータが保管されているエリアに到達した。
「フェリックス、お前が主役だ」隻眼の巨漢 ディノコマンダー・ステルスタイプのパイロット マンフレート・ヘフナーが笑みを浮かべて言う。

「・・・」対照的に後方警戒を担当しているもう1機のディノコマンダー・ステルスタイプに乗る長身の男性、マックス・カウフマンは、無言を保っていた。
そして彼らの目の前には、白水晶の柱の様に光り輝く大型コンピュータが怪物の心臓の様な不気味なモーター音を立てて屹立していた。研究所の電力の約3割を消費するこの最新技術の塊にフェリックスのディノコマンダー・スカウタータイプが接近した。

「さて、宝箱を開けるとしますか・・」彼は、コックピットモニターのボタンの一つを押した。
ディノコマンダーの背部の箱型の装置から有線式アンカーが放たれ、コンピュータに突き立てられた。
アンカーの先端は、コンピュータに強制アクセスすると、内部に蓄えられた膨大なデータを吸い取った。その電子の奔流は、背部の装置の大半を占めるデータサーバーに保存される。
このサーバーは、150年以上前の第1次大陸間戦争期、共和国軍がギル・ベイダーの性能データを盗み出す特殊作戦時に使用したものをサルベージしたものであった。
「・・・よし完了!」
データバンクから目標のデータを抜き取ったことを確認したフェリックス達は、地上に離脱するとすぐに上空に向けて信号弾を打ち上げた。
同じ頃、地上では研究所守備隊が勢いを取り戻し、互角の戦闘となっていた。
「畜生!」エウロペ解放軍側のデザートイエローのシャドーフォックスが守備隊のブレードライガーABのビームキャノンに貫かれて崩れ落ちる。

「そろそろ潮時ですぜ!」デュラントからの通信が入る。
彼のディノコマンダー・ボンバータイプは、守備隊のダークホーン、アイアンコングmkUと銃撃戦を展開していた。
彼は、基地施設を盾に取ることでなんとか互角に持ち込んでいた。

「どうする大将?撤退しますかい?任務は達成しましたぜ」キースは、指揮官であるエナジーライガーのパイロット・・・エウロペ解放軍のリーダーに尋ねた。
その口調は、冗談でもいう様な軽薄なものであった。

「全機撤退せよ!」エナジーライガーからの通信が入る。
「あいよっ」解放軍のコマンドウルフとシャドーフォックスが煙幕発生装置を展開、傭兵部隊のディノコマンダーも脚部に装備した煙幕発生装置を展開した。
レーダー波拡散物質を含んだ白い煙が襲撃部隊の姿を覆い隠す。
その隙に襲撃部隊は撤退していく。

「くっ! センサーが!」一部には追撃する部隊もいたが、それらは全てエナジーライガーによって文字通り殲滅された。


追撃部隊を振り切り撤退した西方大陸解放軍は、付近に停泊していたZI−ARMS社のホエールキングに回収された。

[524] 西方大陸機獣戦記 3章 前篇 ロイ - 2016/04/07(木) 14:36 -



 旅人  北エウロペ大陸 ブロント平野南部


雲一つない青い空の下、草木もまばらな平野を1体の黄色く塗装された金属の狐が駆けていた。


「…」
クレアと乗機であるシャドーフォックスは、脱走から約2週間近く経過した今も尚、Zi-ARMS社に察知される事無く行動していた。
施設の北の沿岸地帯に存在するガイロス人の建設した都市 ノイエ・セスリムニルに向かうのではなく、途中から迂回する形で南下し、ブロント平野を突破するコースを選んでいた。


この様な複雑な道筋を選択したのは、Zi-ARMSの追撃を警戒してのことであった。
特に施設から試験テストで出撃するバイオゾイドが度々目撃されているにもかかわらず、駐留軍が何の対処もしないノイエ・セスリムニルには、Zi-ARMSの息のかかった組織や人材もいることは容易に想像できた。


半ば砂漠化しつつある乾いた大地をシャドーフォックスは時速200キロ以上の速度で疾駆する。

周囲には、シャドーフォックスが子供に見える程の巨大さを誇る竜脚類型ゾイドの化石化した骨格が散らばっていた。

現存するウルトラザウルスやセイスモサウルスといった竜脚類型ゾイドの祖先にあたるそれらの成れの果ては、本来なら地下深くに眠っており、こうして人の目に触れることも無かったはずであった。
しかし、150年以上前に起きた彗星飛来とそれによって当時3つあった衛星の1つが破壊された大異変(グランド・カタストロフ)に伴う地殻変動によって地表近くに地層ごと飛び出したことで、姿を現したのであった。

周辺に無造作に並んだ白い金属成分を多分に含んだ骨格は、陽光を受けて大理石の様に輝いていた。

観光客なら、この太古の存在を雄弁に教える自然の奇跡に心を震わせたのだろうが、今のクレアの心には何の感銘も与えなかった。

脱走してから最初の1週間は、外の景色の全てが珍しかったが、何度も見ると流石に飽きるというものである。
また今の彼女は一刻も早く、人のいる街にたどり着く必要があった。

「!!」不意に殺気を感じた彼女は、シャドーフォックスを右に跳躍させた。
シャドーフォックスが着地すると同時に、先程までいた地面に砲弾が着弾した。

クレアは、砲弾が発射された方向を見た…そこには、ガイロス帝国軍の開発した虎型大型高速ゾイド セイバータイガーの姿があった。

その機体は、ビーム砲を装備した通常型とは異なり、背部には、機体の全長の半分程の長さのキャノン砲が装着されていた。


セイバータイガーは、200年近く前、中央大陸の西部に建国された国家 ゼネバス帝国が開発した現在におけるゾイド戦術に欠かせない存在となった大型高速ゾイドの祖ともいうべき機体である大型高速ゾイド サーベルタイガーをガイロス帝国が強化改良した機体である。
ZAC2090年代、再軍備を進めていたガイロス帝国は、大異変による気候変動等でそれまで使用していたガルタイガー、ジークドーベル、ライジャー、デスキャット等の高速ゾイドが野生種の絶滅、個体数の激減したことで運用不可となり、やむなく旧式のサーベルタイガーを高速ゾイド部隊の主力機とすることとなった。
しかし、そのままでは仮想敵国であった中央大陸のヘリック共和国軍が再配備しつつあったシールドライガー(大異変の影響で共和国も、第1次大陸間戦争期に開発配備された機体は、運用不可となっていた)には性能面で不利であった為、改良が施された。内部機関の強化、冷却、操縦系、装甲材質の変更といった改良を施し、セイバータイガーとして実戦配備した。

その性能は、原型機のサーベルタイガーより最高速度が40キロ増大し、火力面ではシールドライガーを上回った。最初の実戦投入となった西方大陸戦争時は、シールドライガーの好敵手として活躍した。
エナジーライガー、ライガーゼロ、ケーニッヒウルフ、ライトニングサイクスを初めとする高性能機が開発されている今では、原型機であるサーベルタイガーと同様に旧式の機体ではあるが、扱いやすさや整備性等から現在も性能向上が図られた量産型や強化改造機が使用されている程であった。


「野良ね…」目の前を塞ぐ影を前にクレアは呟いた。
目の前のセイバータイガーは、所々塗装が剥げ落ち、搭載火器の一部が脱落しており、長い間整備を受けていないであろうことが窺えた。

クレアは、そのセイバータイガーの外見を見ずとも、それが人間の支配を離れたゾイドであることを知って≠「た。
Zi-ARMSの技術者によって人為的に植え付けられ、引き出された力によってである。

この機種が最初に投入された西方大陸戦争の頃に使用された機体ではない…流石にゾイドコアが寿命に達してしまっている筈だ。
第2次大陸間戦争とそれに次いで起きた第3次中央大陸戦争終結から約100年間、世界が完全に平和であったわけではない。
ニカイドス島紛争など大国同士でも国境線を巡る争いや小国間の紛争、大国間の戦争後に台頭した軍事企業や軍閥間の小競り合いが、無数に発生していたのである。

恐らく目の前の機体は、そうした地域紛争等で使用された機体が野良化したのだろう…だが、そんなことは、命の危険にあるクレアとシャドーフォックスにはどうでもいいことだった。

モニター正面に映るグレーのセイバータイガーが咆哮した。

それが戦いの開始の合図となった。
「縄張りに入られたのが、そんなに気に食わないってわけ!」

彼女が、人の多い道ではなく、殆ど通る者も無いこの化石の転がる野をルートに選んだのは、Zi-ARMS社の追っ手を逃れるためであったが、人間以外の障害については考えていなかった。
だがそれは、とんでもない獣道だったようだ。
クレアのシャドーフォックスは、かつて第2次大陸間戦争の頃に投入された機体と殆ど同一で、パイロットに合わせた反応速度、出力の強化が図られており、通常ならセイバータイガーには負ける性能ではない。

だが、今は、脱走時のバイオラプター6機を初めとする追っ手との戦闘と、補給を受けずに移動を続けたことによる機体への疲労、光学迷彩機能の停止、関節など各部への負荷等によって性能は低下していた。
更に背部の徹甲レーザーバルカンも脱走時の戦闘で失われていた。

対するセイバータイガーは、同じく整備を受けていなかったが、外見を見る限り、ハイエンドタイプと呼ばれる近代化改修が図られたタイプであり、純粋な性能面では、シャドーフォックスが若干劣る可能性が高かった。


だが、シャドーフォックスには、野良であるセイバータイガーとはことなり、パイロットであるクレアがいる。パイロットとゾイドの絆が本来以上の性能を引き出した事例は枚挙に暇がない。

威嚇するように吼えると、セイバータイガーは、背中のキャノン砲を乱射した。シャドーフォックスは、高速で迫る砲弾を次々と回避する。

シャドーフォックスが回避した砲弾は、後ろにあった化石に着弾して爆発した。


「まるで、ザ・スナイパーね」
セイバータイガーの原型機となった、最初の高速ゾイド サーベルタイガーの改造型の一つ、ザ・スナイパー…背部に長距離砲を搭載し、遠距離から敵機を狙撃、高速性を生かした一撃離脱戦法を得意としたその機体について、クレアは、戦闘訓練の過程で閲覧した資料で知っていた。

だが、こうして機体特性が似通った敵と遭遇することになるとは全く予想していなかった。
砲撃を終えるとセイバータイガーは突撃した。

シャドーフォックスはそれを何とか回避する。

「なんて動き!」
目の前のセイバータイガーのパイロットだった人物は、エースパイロットと呼ばれるにふさわしい技量の持ち主だったに違いない。
野良であっても、ゾイドは生物である為、長い間操縦している操縦者の癖が動きに反映されるのである。

何度目かの突撃をセイバータイガーが仕掛けてきた時、クレアは、シャドーフォックスのストライクレーザークローをすれ違いざまに叩き込んだ。

セイバータイガーもストライククローで迎撃しようとする。
だが、シャドーフォックスは、機体を捻ってそれを回避する。

セイバータイガーもストライクレーザークローを回避しようとしたが、背中の長距離キャノン砲が切り裂かれ、セイバータイガーは悲鳴を上げた。

更にクレアは止めを刺すべく、バイトファングで、尻尾に噛付こうとした。

セイバータイガーは、それを辛くも回避した。
セイバータイガーは唯一の射撃兵装を失ったが、それと反比例するかのようにその動きは、更に予測不能かつ素早いものへと変わっていた。

クレアは最初セイバータイガーの長距離キャノン砲を破壊したことで相手の攻撃手段を奪ったと考えていた。
だが、それはセイバータイガーを身軽にしただけだったのだ。

荒々しい咆哮を上げてセイバータイガーは、跳躍した。
そしてシャドーフォックスに飛び掛かる。

セイバータイガーの爪は通常機のストライククローから、高威力のレーザークローに換装されていた。

「くっ」その一撃は、シャドーフォックスのコックピットがある頭部を狙っていた。

直撃を受ければ、シャドーフォックスの頭部等容易く破壊されるだろう。

当然パイロットの命は無い。セイバータイガーの必殺の一撃は、シャドーフォックスのすぐ手前の砂地に叩き付けられた。

クレアは、セイバータイガーの攻撃を限界まで惹きつけ、レーザークローの予想着地点からシャドーフォックスを僅かに移動させ、回避することに成功したのであった。

「そこ!」
セイバータイガーが次の攻撃を仕掛けるよりも早く、シャドーフォックスが左前脚のストライクレーザークローを横薙ぎした。

大型ゾイドの装甲にもダメージを与えることのできる、高熱とエネルギーを纏った鋭い一撃が軽量化されたセイバータイガーの頭部を薄紙の様に切り裂いた。

セイバータイガーの頭部が宙を舞い、地面に叩き付けられる。
ストライクレーザークローによる損傷で頭部は、原形を留めない程破壊されていた。

頭部を失ったセイバータイガーは、その場に崩れ落ちた。

クレアは、素早くシャドーフォックスをその場から離脱させた。

次の瞬間、内部機関が破損したのか、セイバータイガーの胴体は、爆発炎上した。

「…強かった。エベール教官には劣るけど危なかったわ。」
クレアとその相棒であるシャドーフォックスは、目的地なき旅を再開した。

セイバータイガーとの戦闘による疲労で速度は下がったが、30分程で、クレアとシャドーフォックスは、町に到着することが出来た。

町は、比較的小規模で100年前の帝国と共和国の戦争があった頃の様にコンクリート製の防御壁があった。

「…これが、町…」
恐らく野生ゾイドや野良ゾイド対策で建設されたのだろうと彼女は推測した。
クレアは、シャドーフォックスを郊外に駐機場に留めると、その施設の利用者の大半と同様に町に入った。



…………人生の大半をZi-ARMS社の強化兵養成施設で過ごしているクレアにとっては人生でまだ数回しかない経験であった。


[533] 西方大陸機獣戦記 3章 中篇 ロイ - 2016/06/09(木) 00:13 -

北エウロペ大陸 ブロント平野南部 某都市

市内に存在する店舗には、様々な商品が並べられていた。
その多くは、ここの住民が消費する為の物であったが、旅行者や輸送業者等、外部から来る人間用の商品も少なくは無かった。

「お金…」
ショーウインドに豊富さを誇示するかのように閲兵式の軍隊の様に整然と並ぶ商品を見つめ、金髪の少女は呟いた。
彼女…クレアは、現金を全く持っていなかったのである。

彼女の所有物は、脱走時にシャドーフォックスのコックピットと空きスペースに積み込めた荷物だけであった。
その現在の内訳は、2週間分の携帯食料と飲料水、液体絆創膏等の医療品、照明弾発射も可能な護身用の大型拳銃、野生ゾイド避けの薬剤、かつて教官に与えられた柄に装飾のあるコンバットナイフ等僅かな私物だけであった。
100年前の第2次大陸間戦争期のシャドーフォックスには、敵地の奥深くに侵入する長距離索敵行動任務の際、現地で機体を撃破されたパイロットが友軍基地に合流する場合に備えて金塊またはレアメタルのインゴットが2本現地での自活時の換金用に入っていた。
だが当然のことながら、訓練用のこの機体にはそんなものは無かった。
撃破したセイバータイガーの部品を回収しておけば良かったとも考えた。
だが、ジャンク屋でもない人間が部品漁りをしても労力に見合う結果を出せるとは考えにくかった。
これからどうやって現金を調達するか悩んでいた彼女の視界にある建物が飛び込んできた。
それは、この町の中央に存在する円形の施設であった。
巨大な鳥の巣の様にも思えるそのコンクリート製の建物は、ゾイドバトルの舞台として作られた施設であった。
「ゾイド闘技場…」
近くにあった町の地図を表示した電光掲示板を見た彼女は呟いた。

ゾイドバトルは、地球人来訪以前の部族紛争時代、各部族が行ったゾイドを利用した武術会を起源とするこのゾイド同士の戦闘競技である。約100年前の第二次大陸間戦争、第3次中央大陸戦争の終結後この競技は、かつて使用された軍用機を使用して各大陸で行われ、広まっている。
ゾイドバトルを各国が容認、奨励したのは、表向きには、戦争の悲惨さを後世に伝え、また戦時に活躍した兵士達に思いをはせるため、平和推進の為とされている。
しかしそれだけではなく、各国の軍縮に伴い、大量発生した退役軍人の再就職先としての必要性、軍需産業の需要確保や軍用ゾイドの開発技術の保持といった各勢力の思惑もあった。

まずクレアが向かったのは、ゾイド闘技場ではなく、その反対側に位置する町外れの修理屋であった。
相棒であるシャドーフォックスを整備する必要があったからである。
クレアは、現金こそ持っていなかったが、整備してもらうための対価となる物を持っていた。

「いらっしゃい」その店の店主は、浅黒い肌をした青年だった。作業着を着たその若い店主は、全身から機械油と金属の臭いをぷんぷんさせていた。
「なんだい?」
「シャドーフォックスの徹甲レーザーバルカンはありますか?」
「あの駐機場の黄色い機体、あんたのだったのか。悪いがレーザーバルカンなら、3日前売れちまって今は無いな、代わりにガンスナイパー用のWW(ワイルドウィーゼル)ユニットならあるぞ。シャドーフォックスにも搭載できるからな、あれは」
シャドーフォックスの背部は、従来は徹甲レーザーバルカンが装備されるが、基部のマルチウェポンラックシステムによって様々な兵装を使用可能でもあった。100年以上前の第3次中央大陸戦争期、ネオゼネバス軍に本土の過半を奪われ、ゾイドの生産、修理すら覚束なかった時期には、コマンドウルフのロングレンジライフルやスピノサパーのレーザーチェーンソー等の友軍機の兵装のみならず、ジェノザウラーのパルスレーザーライフルやライトニングサイクスのレーザーライフル&ブースターユニットといった回収した敵軍の兵装すら搭載した例があった。

「じゃあ、それでお願いします。後簡単なメンテナンスも出来れば有難いのですが…」
「いいよ、それで金の方はあるのかい?ガンスナのWWユニットは中古品だから半額だよ。」
「…これからここで作ります。シャドーフォックスの電磁ネット弾9発、これで代金にはなりますよね?」
「…物々交換を要求する客は初めてだが、いいぜ、映画の主役みたいで面白い奴だな」
「ありがとうございます。…最後にどうして私の乗機のシャドーフォックスのことを知っているんですか?この店は駐機場の反対側の筈です。」
クレアは怪訝な表情を浮かべて尋ねる。
Zi-ARMS社に追われている以上自分についての情報が流れているというのはあまり歓迎できることでは無かった。
「ん?ああ、駐機場で働いてる奴らが情報流してくれているのさ。この商売、そういうルートから顧客になりうる人間についての情報を予め得ておかないと駄目だからね。」
クレアの反応と対照的に店主の男は、常識と言わんばかりに陽気に答えた。
「そ、そうですか」よそよそしげにクレアは、店を立ち去った。
次に彼女は、ゾイド闘技場に向かった。闘技場で試合に出るには、まず受付で登録を済ませる必要があった。しかも登録してもすぐに試合に出られるわけではない…しかし、彼女にとって幸運なことに本来試合に出るはずだった選手が移動中の事故で機体が破損したことで代わりの人間が必要とされていたのであった。
その為、彼女は登録後、1時間後に予定されている試合に代わりの選手として出場することが決まったのである。


1時間後…ゾイド闘技場には、クレアのシャドーフォックスWWの姿があった。闘技場は、大型ゾイドがある程度行動可能な広さを誇っており、シャドーフォックスもその機動性を十分発揮できそうだった。

「…私勝てるかな…」
クレアは、内心不安であった。彼女が、施設の人間以外と戦闘するのはこれが初めてだったからである。

シャドーフォックスが吼えた。まるで彼女を励ますかのように。

直後、反対側のゲートから相手の機体が出現した。

[534] 西方大陸機獣戦記 3章 後篇 ロイ - 2016/06/09(木) 00:26 -

相手の機体は、コマンドウルフACだった。

「コマンドウルフ…あれなら施設でも戦ったことがあるわ」

現在でも改良され配備されているヘリック共和国軍の傑作機 コマンドウルフのバリエーションの1つであるコマンドウルフACは、通常型のコマンドウルフに改造パーツのアタックユニットとブースターを装備した改造型であるコマンドウルフAUを更に強化した機体である。
またクレアの乗機であるシャドーフォックスと同様に約100年前の第2次大陸間戦争で活躍したヘリック共和国陸軍の精鋭部隊 閃光師団(レイフォース)が運用していた機体でもあった。

「バトルスタート!」
男性の力強い声と同時にブザーが鳴り響いた。

「まずは俺から行かせてもらうぞ!」
コマンドウルフACは、背部に装備されたアタックユニットを発射した。
命中すれば、並みの中型ゾイドなら撃破可能な武装である。
クレアは、高速で迫る砲弾をWWユニットの2連装ビームガンで撃墜する。

「砲弾を撃墜しただと!」
「すごい!」
相手のパイロットと観客の一部が驚きの余り声を上げた。
いかに軌道が直線的とは言え、高速で迫る砲弾を的確に手動で撃ち落とすことができるのは、エースパイロット位であった。

レーザーバルカンが、コマンドウルフACのアタックユニットに命中した。
コマンドウルフACのアタックユニットから黒煙が上がり、機能停止に追い込まれる。
同時にシャドーフォックスがスモークディスチャージャーを作動させた。
シャドーフォックスとコマンドウルフACを黒煙が包んだ。
「キャノンが!ちっ、どこに消えた?」
攻撃力の大半を失い、コマンドウルフACのパイロットの男は慌てた。
次の瞬間、彼の敵であるシャドーフォックスは、彼の目の前にいた。

「何だと!」
黒煙が晴れた時には、シャドーフォックスは、コマンドウルフACを地面に叩き伏せていた。
「私たちの勝ちだよ!」
コックピットの中で、少女は満面の笑みを浮かべて言った。
「勝者 シャドーフォックス クレア選手!」
闘技場内に試合の終りを告げるブザーの音が鳴り響いた…………


「これで一先ずは…」
賞金を得たクレアは、闘技場内にあった売店で購入したフィッシュアンドチップスの紙袋を手に抱えて、闘技場から出ていった。
ちなみに賞金は、紙幣である。
第3次中央大陸戦争後3大国で検討された電子通貨は、電磁嵐の影響等の問題で、この惑星においては未だに一部地域を除いて普及していなかった。
闘技場を出たクレアは、反対側の出口の辺りに向かった。出口周辺は、駐機場になっていた。
そこは、彼女のシャドーフォックスがいる選手用のものと異なり、観客や業者の所有するゾイドが置かれていた。

その半分が、昆虫型輸送用ゾイド グスタフであった。グスタフの他にいるのは、昆虫型の小型のブロックスゾイド、バラッツ数機であった。

バラッツは、ブロックスゾイドの簡略化の極致ともいえる昆虫型ブロックスゾイドのシリーズである。
バラッツシリーズは、コアブロックと各部のボディの部品のみで構成されているのが主な特徴であり、コストの安さに加えて整備、修理の簡便さ、扱いやすさから爆発的に広がり、民間機分野でのZOITEC社の主力商品の一つであった。

クレアの眼の前にいる細長い機体は、バラッツシリーズの一つ、ムカデ型のコネクテスである。
クレアがいた施設でも、訓練の際に射撃目標として使用されていた。
輸送業者の所有するそのコネクテスは、細長い胴体の上に、いくつもの小型コンテナを搭載していた。

「あんたがあのシャドーフォックスのパイロット?」
後ろから声を掛けられ、クレアは振り返った。同時に後ろにあったグスタフ・トレーラーの影から人影が現れた。
「あんた、やるじゃない。最初、金に飽かせて手に入れた機体の性能に胡座を掻いた奴かと思ってたけど実力は本物らしいわね。見誤ってたことを謝るわ」グスタフ・トレーラーの影から現れたのは、赤毛と緑色の瞳が特徴的な若い女性だった。
「…」
「私は、ジュリア・ティルシュリット、貴女は?」ジュリアと名乗ったその女性は、笑みを浮かべて尋ねる。
「クレアよ」
そう答えたクレアは、その女性に対する警戒を緩めていない。
彼女のズボンのポケットには、売店で購入したペーパーナイフが入っており、いつでも使用できる状態だった。

「クレアね。貴方を呼び止めたのは、頼みたいことがあるからなの。」
「単刀直入に言うわ。私と組んで欲しいのよ」「どういうことですか?」
「2日後、ZOITECのホバーカーゴに物資を届ける依頼があるのよ。それと連中の護衛、これは私単独では無理だから、貴女が必要なわけ…報酬は貴方の方が取り分上でいいわ。途中、連中と一緒に行動する途中の町で、可能ならゾイドバトルにも参加できる。悪い話じゃないと思うけど?どうかしら」
「…わかりました。それにしてもどうして私を選んだんですか?」

行くあてがあるわけでもない…偶然ある人物によって知らされたZi-ARMS社の計画を止める為に脱走した彼女であったが、その施設を脱走した先の計画は、特に立てておらず、新しい作品の構想に悩む画家の前の画用紙と同じく白紙であった。
余りにも迂闊なことではあったが、彼女がその短い今までの人生の過半を隔離されたZi-ARMS社の施設での戦闘訓練に費やしてきたことを考えると無理もないことである。

「あの試合を見たからよ。あっという間に相手をやっつけてた奴。それに気にしないで、人間困った時はお互い様よ、って私のおばあちゃんが言ってたんだけどね」ジュリアは笑みを浮かべて言う。

「これから一緒に食事なんてどうかしら、近くにいい店を知ってるの」
「その前にこれ食べるから待っててください」
「…貴女、よく食べるのね…」ジュリアは、苦笑いした。



少女はまだ、知らない…それが、自分が逃れようとしていた大嵐の中へと飛び込む行為であったことに……

[561] 西方大陸機獣戦記 4章 前篇 ロイ - 2016/10/16(日) 14:25 -



南エウロペ大陸東部 某所  Zi-ARMS社 秘密要塞

遥か昔に地底族と彼らに使役されていたゾイドが暮らしていた山脈の地下空間にZi-ARMS社が建設したこの拠点は、Zi-ARMS社の私兵であるZi-ARMS警備保障や傘下のPMCの補給基地として機能していた。
またここには、地底の地熱を利用した発電システムのエネルギーを利用したゾイド工場と研究施設も併設され、地下都市といっても過言ではない規模を誇っていた。
更に施設外周には、改良されたキメラブロックス部隊とセンサーが配置されており、要塞と言っても過言ではなかった。
そしてこの秘密要塞の周辺には、砂色の瓦礫の山が積み上げられていた。それらは、地底族の遺跡の成れの果てだった。
Zi-ARMS社がこの空間を発見した際、地底族の居住地は、ほぼ手つかずの状態で残されていたが、Zi-ARMS社は、作業用ゾイド部隊でそれらを蹂躙し、一掃してしまっていたのであった。
この際に一般の住居も壮麗さを人知れず誇っていた神殿も全て砕かれ、その残骸が無価値な石の塊として積み上げられていた。
依頼を終えた傭兵部隊 ドライツェーン・ドラッヘンは、居住区画の宛がわれた部屋でそれぞれくつろいでいた。
彼らの部屋は、3つでその全てが4人用の部屋であった。これは、個室が与えられなかったわけではなく、彼らの意向である。
彼らは、緊急時に備えて常に複数で行動するように心がけていた。
それは、特に移ろい易い心を抱いた雇用者の手の内にその身を置いている場合はなおさらである。
そして現在、メンバーの半分は、211 212 213の3つの部屋の内、中央の212に集まっていた。
どの部屋も室内は、4人用にしてはやや広く内装も高級な調度品が置かれ、貴族の邸宅と余り相違ない程の豪華さを誇っていた。
傭兵として安宿や廃墟で過ごしていた彼らにとっては、神話の中の楽園といった存在と同義であった。

「全く、最初はどんな下らない任務かと思ってたが、中々楽しめる任務だったなあ ハインツ?」

ミントグリーンのソファに腰掛けている赤毛の巨漢 デュラントは、右手に持ったガラスコップを掲げて言った。
その表情には笑みが浮かんでいた。そして透明のガラスコップは、ガイロス帝国の高級ウィスキーの琥珀色で満たされていた。
帝国の高官や貴族が愛飲したことで有名なもので、傭兵暮らしでは中々味わえない代物である。
「ああ、久しぶりに美味い飯にありつけるってのはいい。」
反対側の椅子に腰かけるハインツは、ルームサービスで注文した机の上の皿に盛られたエビピラフをスプーンでかき混ぜながらそれに応える。
「…あまり食い物に拘るのは、どうかと思うがな」ハインツを眺めていたデュラントは、皮肉げに顔を歪めた。
彼は、ハインツと同じテーブルを囲っていた。
「そういうなよ…お前も何か頼んだらどうだ?天然ものなんてなかなか食えないぜ」
スプーンを持ち上げて彼は笑みを浮かべて言った。この時代、軍隊では、安価かつ長期間保存が可能な合成食品が主流になっていた。
しかも傭兵部隊となると戦闘に備えなければならない為、この傾向が正規軍以上に顕著で、天然の食事といえば、戦地で捕えて捌いた蛇や魚等が殆どであった。
彼らもここ数週間の食事は殆ど日持ちのする合成食品や缶詰だった。

「天然ったってどうせこの要塞の植物工場のだろ。」
デュラントの後ろの家具の上に腰かける黒髪の少年 ラインは皮肉げに口元を歪めて言う。
この秘密要塞には、食糧の備蓄施設や浄水場、発電施設やゾイドの生産・整備施設のみならず、食糧生産のための設備も存在していた。
植物工場と呼ばれているその施設は、施設内の職員全員の食糧が生産可能で、施設内の食事にもそこで作られた野菜類やそれらを利用した合成肉等が使用されていた。
またこの植物工場は、作物の養分は、栄養剤と土壌改良用のナノマシンが活動することで土中の栄養分を適切な量に保つことが出来たのである。
このナノマシンを用いた土壌改良は、70年前にヘリック共和国、ガイロス帝国、ネオゼネバス帝国の3大国の共同により、エウロペ大陸で行われた。
『グリーンカーペット』と名付けられたその計画によって、長くは、古代ゾイド人の文明の時代から、短くても約80年前の大異変以来、不毛の荒野に覆われていた北エウロペ大陸中央部は、その大半が緑豊かな沃野へと変貌した。
このことによってエウロペ大陸の食糧生産能力、可住地域は増大したが、その影響もあって他大陸から多数の入植者が流入し、先住民であるエウロペ人を圧迫する結果にも繋がっていた。
「俺はつまらんかったよ、ただ地上の的を壊すだけだったからな…」
部屋にある右のベッドで気怠そうに寝そべっていたヨハンは、皮肉げに笑みを浮かべた。
「作戦が楽に済むってのは、万々歳じゃないか。何が不満なんだい?」
部屋の隅にあるテーブルに腰掛けていた眼鏡の少年……フェリックスは、本を読みながら言った。
その姿は、彼の幼さを残した容姿と相まって勉学に励む学生の様に見えた。ちなみに本のタイトルは、『西方大陸戦記』である。
「確かにフェリックスの言うとおりだ。作戦は楽な方がいい」
「空戦屋としては、同じ空で仕留めたかったんだよ」
「贅沢言うなよ。こっちはいつ空から爆撃されるかヒヤヒヤしながら戦ってたんだぞ」
「お前らなら飛行ゾイド相手でも何とかしただろう?」
「……まぁな」
ベッドの上に寝転ぶヨハンの視線の先では、ハインツとデュラントが部屋の真ん中に置かれたテーブルを挟んで腰かけていた。
2人は、丸いテーブルの上でチェスに興じていたのである。
ハインツは、勝ち誇った笑みを浮かべ、デュラントは、苦虫を1ダース程噛み潰したような顔をしていた。
テーブルの上のチェス盤を見るまでもなく、戦況は、ハインツの優勢であった。
「俺が食事してる間も、対策は考えられなかったみたいだな」
「うるせぇ」
「俺はっと…」家具に座っていたラインは、立ち上がった。
「ライン、どこにいくんだ?」
「さっき飲み物を買いに行った時に会ったニーナの奴が、12階のリラクゼーションエリアでZX-18を見たって言ってたのを思い出してな。ちょっと腕試しを」
それは、2年前にZi-ARMS社の傘下の企業が発売した最新型ゲーム筐体で、Zi-ARMS社が30年前よりネオゼネバス帝国軍に新兵教育用のシミュレーターとして供給していた機器がその原型であった。
「お前らもどうだ?かなりリアルに出来てるらしいぜ」「まだ読む本がこんなに残ってるんでね。遠慮させてもらうよ」
「悪い、すまんがこれから俺は、ヨハンとポーカーをやるんでな、3日前の借りを返さねえと……」
チェス盤に駒を置いた後、ハインツは、テーブルの隅に置いていた紙の皿のエビピラフをスプーンですくいながら答える。
「そういうことだ。」

ヨハンは、いつの間にかテーブルの上にトランプを置いていた。

「俺もだ。チェスの借りを返さなきゃならん」
デュラントは、苦虫を噛み潰した様に顔を歪めて言う。どうやら、先程ハインツが駒を置いた段階で降参したようである。

「へっ、紙遊びの何が楽しいんだか。」

ZX-18は、3Dゴーグルとモニターの併用で本物の戦闘さながらの画像を再現できることと装着した装着したヘルメットからの電気刺激によって疑似的にダメージを人体に無害なレベルながら再現しているのがそのセールスポイントであった。

「いくら精巧に作ってあっても所詮、コンピュータグラフィックスと現実は違うよ。」

丁度本を読み終えたらしい、フェリックスは冷めた口調で言う。
「…そういや隊長殿はどうしたんだ?さっきから見かけないが?ライン知らないか?」
「知らねえ」
「隊長なら、クライアントとお話し中だ。じきに戻るだろ」

同じ頃、キースは、Zi-ARMSが秘密裡に養成している強化兵の戦闘訓練を見学していた。
黒いコートを羽織ったキースは、両腕を組んで立っていた。
そのすぐ後ろには、ロディ兄弟が立っている。
双子である彼らは、まるで均一に作られた工業製品の様に殆ど同一の容姿をしていた。

その為、長年戦友として戦ってきたドライツェーン・ドラッヘンのメンバーでも指揮官であるキース以外殆ど見分けることは困難だった。
識別のためにマックスは、ダークブルー、クルトは、ワインレッドのリストバンドをそれぞれ右手に着用している。
彼らが今いる部屋は、いくつかソファが置かれており、まるで劇場の貴賓席の様だった。
彼らの視線の先には、一面の透明のガラス板で覆われている。
それは、唯の防弾ガラスではなかった。
そのガラスは、通常のガラスを遥かに上回る耐熱性、耐久力を持ち、限定的ながら自己再生機能すら有していた。
この硝子は、高コストである為、ゾイドのキャノピーや建物の窓ガラス等には転用できる程の大量生産と安定した品質のものを製造することは、未だ不可能であったが、将来的にはそれらにも転用出来るようZi-ARMSを初めとする企業が研究・開発を進めていた。
透明な黄金とでもいうべき特別製のガラスを隔てた地下…この要塞自体地下に建設されている為、下層部というべきか……には、広大なゾイド戦闘用の演習場が広がっている。
演習場は、巨大な特殊合金製の防御壁でいくつも区切られていた。
区切られたフィールドは、それぞれ、森林地帯、砂漠地帯や草原地帯、市街地、湿地帯等が再現され、強化兵士が操るゾイドが死闘を演じていた。

砂漠地帯が再現されたフィールドでは、セイバータイガーATと砂漠戦仕様のシールドライガー デザートライガーが一騎打ちを演じている。
廃墟となった市街地が再現されたフィールドでは、メタルブラックに塗装されたコマンドウルフAC3機とライトグリーンに塗装されたZi-ARMS製のパラサウロロフス型小型ブロックスゾイド パラブレード3機が交戦している。
パラブレードに採用された新機構 ネオコアブロックは、従来のコアブロックと異なり、通常ゾイドに匹敵するコア出力を有する。
またパラブレードの形状は、一見すると口に鋭い牙が生えている、前足の鉤爪等、純粋なパラサウロロフス型ゾイドの特徴とはかけ離れているが、これは、この機体にパラサウロロフス型ゾイドのゾイド因子に加えて、ヴェロキラプトル型ゾイドのゾイド因子が注入されているからである。

パラブレードの機体構造の肉食恐竜的な要素はそれに起因するもので、2種類のゾイド因子が組み合わされているという意味では、第3次中央大陸戦争期にネオゼネバス軍の数的主力だったキメラブロックスに近い性質を有していた。
コマンドウルフACは、2連装ロングレンジキャノンを発砲、不用意に接近しようとしたパラブレードが胴体に被弾し、崩れ落ちた。
1機のパラブレードは、背中に装備したプラズマレールキャノンを発砲した。
本来なら大型ゾイドの装甲をも貫く威力を持つが、演習用である為、そこまでの威力は無かった。
別のパラブレードが頭部のAZエクスブレードを射出した。

この特殊合金製のブーメランは、内蔵したマグネッサーシステムによって軌道の操作が可能だった。
熟練したパイロットが操作すれば、ミサイルや誘導砲弾以上に回避し辛い厄介な装備になりえた。
不運なコマンドウルフAC1機が首にエクスブレードを受け、頭部が斬り飛ばされた。
頭部を失ったコマンドウルフACは、傷口からオイルを鮮血の様に吹き出しながら崩れ落ちる。
残る2機のコマンドウルフACは、僚機を葬った武器をなんとか回避しようとする。
1機が囮となり、もう1機がエクスブレードを操作するパラブレードを狙う。

そしてゾイドの装甲を切り裂ける威力を持つ鋼鉄のブーメランを回避したコマンドウルフACは、エレクトロンファングを輝かせてパラブレードの首筋に食らいついた。
AZエクスブレードの操作に集中するあまり、そのパラブレードは、敵機の接近に対応できなかった。
本来ならもう1機のパラブレードがそれを援護するべきだったのだろうが、生憎、もう1機もAZエクスブレードを発射し、それの操作に専念せざるを得なくなっていたのだ。
残り1機となったパラブレードは、すかさず後退し、プラズマレールキャノンで敵機の接近を阻む。
実弾やビームこそ飛び交っていないが、その動きは、実戦さながらだった。
一歩間違えばパイロットにも危険が及びかねなかった。
「ほう、中々やるなぁ、マックスどう思う?」
「どちらの部隊も、パイロットの技量は非常に優れていますが、連携は褒められたものではないですね…」
「俺も同感だ」
3人は、下の演習場で繰り広げられる強化兵達の操縦するゾイドの戦闘を観賞し続けた。

下の演習場で死闘を演じる強化兵が、これからの彼ら傭兵部隊を取り巻く情勢次第で、彼らの敵になった場合でも、その逆に、戦場で自分達の背中を預ける味方に回るにしても、その実力を把握しておいて損は無いからである。

[562] 西方大陸機獣戦記 4章 後篇 ロイ - 2016/10/16(日) 15:11 -



その2時間後、キースらドライツェーン・ドラッヘンのメンバー達は、クライアントであるZi-ARMS社の人間と共にこの要塞の最下層部………更なる深淵へと降りていた。

深淵………地下格納庫は、この要塞に収められているZi-ARMS社の軍事機密の中心で、この区画から見れば、地下要塞の施設も隣接する強化兵士達の演習場も、この地下空間を入力されたプログラム通りに徘徊するキメラブロックスの部隊等卵の殻でしかない。
その格納庫は、地下に存在しているとは、信じられない程広く、天井までの高さも驚くべきものだった。
その高さは、かの破滅の魔獣 デスザウラーの様な超大型ゾイドも格納可能な程であった。
その広大な空間を1人の青年が歩いていた。
金髪と名工の手で磨かれた宝石の様に美しいエメラルドグリーンの瞳、中性的な容貌を持つ彼の名は、エルンスト・シュミット Zi-ARMS社の幹部で、この秘密要塞の最高司令官である。28歳という異例の若さでこの地位に就いただけあって有能な人物である。
同時に彼は、Zi-ARMS社がここ数年行ってきた非合法活動に従事し、時には自ら陣頭指揮したことさえあった。彼が若くして出世できたのは、これらの功績が大きい。

彼の右隣には、傭兵部隊 ドラッヘンズの指揮官であるキース・ウェルナーが、そして2人の後ろには、ドライツェーン・ドラッヘンズの隊員たちがいる。

「やけに肌に変な感じがする…アンチワームパルスの出力が強すぎるんじゃないのか?」
ラインが首を竦めて言う。
アンチワームパルスとは、この時期のゾイドハンガーやゾイドの整備施設の多くに設置されていた寄生虫ゾイド対策装置のことであった。
数百年前、惑星Ziから6万光年隔てた地球から恒星間宇宙船 グローバリー3が中央大陸に墜落し、同乗していた地球人らが軍事技術を伝え、ゾイドを強化した際に最も問題となったのは軍用ゾイドの体内に寄生する寄生虫ゾイドであった。寄生虫ゾイドは、彼らと彼らが保有する技術が伝来するはるか以前より他のゾイドの体内に寄生し、栄養分を吸収することで生存してきた。
これら寄生虫ゾイドは、ゾイドのボディの大半を機械に置き換える機獣化が行われる以前には、家畜ゾイドの死亡原因の大半を占めていた。
中には、部族間紛争期に中央大陸西側で地底族によって農業用に家畜化されていたモルガを大量死させ、地域の食糧生産能力を破壊し、中央大陸の部族間紛争の激化の遠因となったグロギウス型銀線虫の様に文明社会に打撃を与えることすらあった。
流石に機獣化後は、性能低下程度の被害に局限されたものの、地球人来訪によるゾイドの強化と戦闘ゾイドが大型化するに従い、その存在の深刻さは更に増大した。
流石に機獣化以前の様に宿主のゾイドを殺してしまう程のものは一部の変異種を例外として軍用ゾイドに寄生することは無かったが、大幅な性能低下を齎し、部品の損耗を促進する等、軍事行動に支障をきたしかねない効果があった。
これらの寄生虫型ゾイドを駆除する為にアンチワームパルスは発明されたのである。
原理自体は、西方大陸戦争期に開発されていたもののゾイドを暴走させることで知られているレアヘルツに近い為、出力が強すぎると、周辺の電子機器や人体のみならず、ゾイドに対しても暴走のリスクの増大や機体寿命への悪影響を齎す危険があった。
その為、安定した安全なパルスを発生させるには、高い技術が必要だったのである。

「格納庫のゾイドのゾイドコアへのダメージは、問題ないレベルですので、当然人間の健康を害することはありませんよ。」
「そうだぞライン、お前は過敏症過ぎるんだよ」ハインツは、苦笑いしつつラインをたしなめた。「で、これからどこに行くんだ?シュミットさん」「貴方方への報酬と次の依頼について話すのにふさわしい場所ですよ」
そう言って数分後、シュミットは足を止めた。
キース以下ドライツェーン・ドラッヘンのメンバーも止まる。

次の瞬間、格納庫の照明がゾイドハンガーの一角を照らす、そしてそこに配置されていたゾイドたちが姿を現した。

闇の中から姿を現したのは、キングライガー、ガルタイガー、ハウンドソルジャー、ジーク・ドーベル…………約150年前、中央大陸を統一したヘリック共和国と、ニクス大陸を統治していたガイロス帝国との間に発生した大異変以前最後の大規模戦争 第1次大陸間戦争に投入されたゾイドで、現在は、巨大彗星飛来によって起った大異変の影響で素体となる野生ゾイドが絶滅、開発データや製造技術が失われている。
その上、大異変を生き残った機体もその後の西方大陸戦争と第3次中央大陸戦争に投入され、戦闘で喪失したりゾイドコアが寿命を迎えたことで喪失し、現在では幻のゾイドとなってしまっていた。
そしてこれらのゾイドは、現在から見ても高い水準の性能を誇り、失われた技術の粋を集めた強力な兵器で武装されたことでも知られ、当時の第1次大陸間戦争ではこれらのゾイドとそれに搭載された重力兵器やアイスアーマー、波動ビーム砲等の兵器が、戦場で猛威を振るったことが記録に残されていた。

「俺達は、幻覚を見ているのか…こいつらは、確か絶滅したって聞いたはずだが?」
驚きを隠せない口調で、キースが言う。

「これらの機体は、かねてより我々が、復活計画を進めてきたゾイド達です。現在、この施設以外でも、わが社の施設で生産が進められています。また、かつて第1次大陸間戦争期に投入された機体を完全に再現しているだけでなく、わが社の最新技術による独自の改良が施されており、現有のゾイドを相手にしても有利に戦えます。」
「それは凄いな…」
皮肉が多分にこもった口調でそう言ったラインは、エルンストの言うことを完全に信じてはいないようである。傭兵にとって軍事企業の人間のセールストークを鵜呑みにする等馬鹿らしいのであった。

「我々だけでは、ここまで漕ぎ着けることは出来なかったと、開発に関わった技術者達も言っていました。やはり完全に再現することが出来たのは、貴方方がZOITECの研究施設から技術情報を強奪してくれたおかげです。貴方方を西方大陸解放軍による研究施設襲撃作戦に参加させる様に提案した私も、社内での立場が良いものになりました。」
「それはどうも……」
作り笑みを浮かべるシュミットに対して、使い捨ての利く傭兵だから提案したんだろうが… キース以下、ドライツェーン・ドラッヘンズのメンバーは、そう思っていた。
同時に傭兵稼業におけるクライアントというものが、そういうものであると経験から十分に認識している彼らは、それを音声化することは無かった。
「博物館にレプリカしかない様な機体を実物で見れるのは、うれしいな」
「…」
「で、これで戦争でもする気かよ?」
キースの後ろで腕を組んでいたラインは、軽薄な口調で言った。その顔には笑みが浮かんでいた。「俺達もこの豪華な骨董品に乗せられるのか?」「私は、今の機体気に入ってたのに…」
「飛行型は無いのか?」

今度は、反対側のゾイドハンガーが照らされる。「…あなた方には、あの機体を預けようと思っています。」
そこには、バーサークフューラーの改造機が7機あった。
まず、一番右にいる機体は、背中に大型のバックパックを背負い、バックパックの側面と後方には、13基の棘を思わせる装備が並んでいた。
そしてバックパックの正面には、4門の短砲身の大口径砲が見る者を威圧するかのように伸びていた。その隣にいる機体は、鮮血の色をした鋼鉄の大盾を保持していた。
その大型化された前脚には、両刃の戦斧が握られている。
中央の機体は、蝙蝠の翼の様な形状をした推進器付のユニットを背負っており、両腕には、大鎌を持っていた。
最も左にいる機体は、両腕にスペード型の小型の盾が装備され、背部に円盤形の装置を装備し、その右隣の機体は、近接格闘戦用だと素人でも理解出来そうな機体だった。
その改造フューラーの背部からは銀色に輝くブレードが翼の様に伸びていた。
更に肩にも背部のそれより短いが、銀色のブレードが装備され、両腕には長く伸びた鉤爪が装着されていた。
そして尾部の先端には、ナイフのようなレーザーブレードが装着され、全身凶器の様である。
そして真ん中にいる機体は、背部の槍の様に長い大口径砲や3連装砲、脚部のミサイルポッド等の重火器で全身を武装しており、一目で砲撃戦型であると分かる機体だった。
そしてその通常のバーサークフューラーよりも大型化した右腕に鎖付の棘の生えた巨大な鉄球を保持していた。

その隣には、翼を生やした改造型バーサークフューラーが立っていた。
バスターイーグルとバーサークフューラーのユニゾンゾイドである、バスターフューラーに似たその機体の左腕には2連装砲が、右腕には、小型化されたバスタークローが装着されている。

どの機体も原型機であるバーサークフューラーとはかけ離れた形状をしていた。

そして全機が、原形となったバーサークフューラーとは真逆の闇夜に溶ける様な漆黒の塗装がボディに施されていた。

「右からサタンフューラー、シールドフューラー、スピードフューラー、デストロイフューラー、ウィザードフューラー、キリングフューラー、ステルスフューラー……全てあなた方ドライツェーン・ドラッヘンへの贈り物です。」
「それはどうも…」
「すげえ…」
ラインは、新しい玩具を見せられた子供の様に喜色満面で叫んだ。
強力なゾイドを操縦し、戦場で戦えるのは、彼にとって数少ない楽しみだった。
「酷い名前ね」
対照的にニーナは冷めた口調で言う。
「せっかくの贈り物にケチをつけるのはやめろよ、ニーナ」
「…」
「質問だが、このサタンフューラーとかいう機体は、キース隊長の機体の支援用なのか?」
そう尋ねたのは、部隊で後方支援を担当するデュラントだった。
「流石です。その通り、このサタンフューラーは、ルシファーフューラーの後方支援用に開発されました。」
「怖い悪魔がいるってことは……可愛いエンジェルもあるのか?」
「お察しの通り、ありますよ。」
黒服の青年は、いかにもわざとらしく微笑んだ。

「これらの機体は、約100年前にネオゼネバス帝国が第3次中央大陸戦争の頃に研究していたエナジーチャージャー装備型のティラノサウルス型…バーサークフューラーの強化型の計画を現代の最新技術を導入することで再現した機体です。」
シュミットは、更に格納庫に並ぶ改造バーサークフューラーについての説明を続けた。
「つまり、エナジーライガーと同じ様な機体か、それで…稼働時間は大丈夫なのか?」
「ネオゼネバス帝国が実戦投入した当時、エナジーチャージャーは、開発されたばかりで未知の部分の多い技術でした。その為、稼働時間や整備性能の問題が課題として残されていました。
その為、最初の搭載機であるエナジーライガーの稼働時間は、量産機で10分、当時のネオゼネバス皇帝が操縦した専用機でも30分が限界でした。
しかし、現代の技術をもってすれば、エナジーチャージャーの性能を強化、改良すること等容易いことです。
我が社は、エナジーチャージャーの改良に成功したのですよ…このルシファーフューラーを含むこの改造型バーサークフューラーに搭載されている小型エナジーチャージャーは、最大出力では劣りますが、数時間は稼働できます。」
「そいつは、素晴らしい…俺達、ドライツェーン・ドラッヘンの機体に相応しいな…それで次の依頼は、何をすればいいんだ?」
「これだけの強力なゾイドを提供してくれるんだ、またヤバい仕事ですよ、隊長!」
そう言ったハインツだったが、その口調はどこか楽しんでいるようである。
その隣でハンス・リューデマンは腕を組んでいた。

「貴方方には、次もエウロペ解放軍の支援に従事してもらいます。今言えるのは、これだけです。ですが、近い内に具体的な依頼内容についてお話させていただきます。」
「…了解した。次の任務も受けさせてもらう…」「ありがとうございます……次に紹介するのは、バイオゾイドと呼ばれる機体で、こことは別の格納庫に配備されています。」
シュミットは、小型端末を取り出し、起動させた。

シュミットの掌の上に置かれていた端末が作動し、空中に青白いホログラムが表示された。
ホログラム上に表示されたゾイドは、全て恐竜型で、全ての機体が骨格標本の様な形状をしていた。

「彼らが、バイオゾイドの操縦者です。」
格納庫のドアの1つが開き、5人の少年少女達が現れた。
全員が漆黒のパイロットスーツを着用していた。
正確には、そのパイロットスーツは、黒一色ではなく、それぞれ違う色の線が手足の付け根の部分や首の部分等に模様として入っていた。
先頭にいた長身の少女がキースに近付いた。銀色に輝く髪を三つ編みにしたその少女は、口を開いた。

「私は、Zi-ARMS警備師団第3大隊指揮官 ユリア・グラーキナです。ドライツェーン・ドラッヘンの皆さん、よろしくお願いしますね。彼らは、私の部下です。」
長身のプラチナブロンドの少女は、微笑むと、キースに右手を差し出し、握手を求めてきた。
彼女のパイロットスーツには、銀色の線が入っていた。彼女の笑みは、キースの目にも美しく見えたが、機械の様な動作と口調の所為で、その表情も人形が浮かべる笑みの様に見えた。
「ヒュー、こんな美人と一緒に戦えるとは、俺も部下も嬉しい限りです。」
キースは、口笛を吹き、軽口を叩きながら握手を返す。
「……ステファン・フレーザーだ。さっきホログラムにあったラプトル型…バイオメガラプトルのパイロットは俺だ。」
自信に満ちた口調で自己紹介したのは、オレンジの線の模様が入ったパイロットスーツを着たオレンジの髪の少年だった。
身長は、ユリアより少し低く、鍛え上げられた胸板がパイロットスーツごしでも分かる位だった。
その目つきは、鋭く鍛えられた鉄の剣を想起させた。次に現れたのは、黒髪の少年だった。
「ジュン・ロドリゲス 相棒と共に部隊の仲間を守ることなら自信がある」黒髪黒目の少年が言う。
彼のパイロットスーツはグリーンの線が入っている。その少年はフレーザーに比べると背が少し低かった。
「エリアス・ロッド、よろしく傭兵さん。」
そう名乗った強化兵の少年は、茶色の髪を肩まで伸ばしていた。
着用しているライトイエローの線が入ったパイロットスーツからは、彼が他の仲間に比べて痩せていることが窺えた。
「エリー・シュタインベルグです!よろしくお願いします!バイオプテラのパイロットです!」
最後に自己紹介したのは、金髪の少女だった。
その少女は、金糸の様に綺麗な髪を三つ編みにして背中まで伸ばしていた。
卵型の美しい顔には、幼さを残していた。彼女は、水色の線が入ったパイロットスーツを着用していた。その口調は、外見以上に幼く見え、元気一杯といった感じだった。
「(あの小娘が、さっきの飛行型のパイロットか…)それを見たヨハンが、肩をすくめた。
「こいつらがZi-ARMS社が養成してた強化兵士か…」「そうです。彼らは、我が社が開発した全く新しいゾイドバイオゾイド≠操縦する為に作られました。実戦経験がある者は数える程しかいませんが、エースパイロットに匹敵する戦闘能力を有していると断言できます。」
「どうして断言できるんだ?実戦してないのに、ゾイドと違って人間のカタログスペックは信用にならないと思うんだが?」
ラインが、笑みを浮かべて茶化すように言った。明らかに挑発している。
「なんだと!」
フレーザーが、怒鳴り声を張り上げた。その怒りに満ちた顔は、今にもラインに飛び掛かりそうだった。
だが寸前で、ユリアが右手で制した。
「ライン、言葉を慎め。戦友になる人間と喧嘩しても利益は無いぞ」
すかさずキースが注意した。
「わかりましたよ…キース隊長」
口では反省を口にしていたが、ラインの表情はとてもそうは見えなかった。
「では、模擬戦闘で、互いの実力を知っていただくというのはどうでしょうか?実戦経験の少ない彼らにとっては、よい訓練になります。
ドライツェーン・ドラッヘンの方々にとっても、新しい機体に慣れる訓練になるのでは?」
そう提案したシュミットの口調は穏やかで、その顔には満面の笑みが張り付いていた。だが、その眼は笑っていなかった。「いいだろう。その模擬戦闘も引き受ける。お前らはいいのか?」
「命令とあらば」ユリアは、感情の籠っていない声で言う。
「この要塞で楽にしてるのも飽きて来たしな!隊長殿!」
「模擬戦闘か…いい響きだ。」口元を喜悦に歪ませ、デュラントは呟いた。
ドライツェーン・ドラッヘンの隊員達も、5人の強化兵の少年少女達も、模擬戦闘を恐れるどころか喜んでいた。特にフレーザーは、獰猛な闘気を全身からみなぎらせていた。


バイオゾイドで編成された強化兵部隊とドライツェーン・ドラッヘンの模擬戦闘は5日後に行われることとなった。
バイオゾイドとエナジーチャージャー搭載型バーサークフューラー…Zi-ARMS社が開発した技術によって生み出された2種類の異なるゾイド同士の戦いが始まろうとしていた。


[573] 西方大陸機獣戦記 5章 前篇 ロイ - 2017/04/25(火) 21:37 -

Zi-ARMS秘密要塞 第3層 新型機試験区画


秘密要塞の基礎部分の直ぐ真上の地下空間を丸ごと転用したこの区画は、四方と天井の壁に超硬チタニウム合金製の鉄板が敷き詰められていた。

更に床にも分厚い軍施設の防御壁用のコンクリートが敷かれており、並大抵の火器のダメージは受けない様になっている。

Zi-ARMS社が新型機の実戦テストに用いるこの区画は、秘密要塞に勤務するZi-ARMSの人間の多くから、闘技場≠フ隠語で呼ばれていた。

傭兵部隊 ドライツェーン・ドラッヘンズは、戦うためにそこにいた。

彼らは、Zi-ARMSの新型ゾイドという新たな戦力を得ていた。

彼らには、Zi-ARMSが開発した小型エナジーチャージャー搭載型改造バーサークフューラー…ルシファーフューラー、サタンフューラー、キリングフューラー、スピードフューラー、デストロイフューラー、ディフェンスフューラー、ウィザードフューラー、ステルスフューラー。

総称して<エナジーフューラーシリーズ>と呼ばれているこれらの機体と強化兵の操縦するZi-ARMSの開発した全く新しいゾイド、バイオゾイドを比較する為の模擬戦闘である。

模擬戦闘は、実機操作という形式で行われることに決まっていた。この形式は、実際にゾイドを動かし、砲口からは実弾やミサイル、レーザーやビームの代わりに模擬弾や照準用レーザーを発射することで戦闘を再現するというものである。

レーザーや模擬弾が命中した場合は、ゾイドのコンピュータにダメージとして数値が蓄積され、損傷個所の装備が使用不能になる等で実戦での性能低下や損傷を再現しており、ダメージが撃破、破壊に相当すると認識するとゾイドのコンピュータが自動的に停止する。

シミュレーターに頼った訓練よりもゾイドを実際に操縦することでゾイド操縦時の感覚や高機動時の衝撃等を体験できるという利点がある。

また事故の危険性も従来のゾイドを操縦して行うタイプの模擬戦闘に比べても低い為、現在の多くの軍組織でも主流となっている形式の模擬戦闘である。

「実戦と思ってやれよ。お前ら」
「了解隊長殿!」
「わかってますっていつもの様にやって見せますよ」
「おっと、骸骨共のお出ましだ。」

キリングフューラーに乗るハンスがそう言うと同時に、反対側のゲートが開き、中から模擬戦闘の対戦相手である強化兵が操縦するゾイドの部隊が現れた。強化兵部隊は、バイオゾイドのみで編成されていた。

指揮官機であるバイオティラノの左右にバイオトリケラとバイオケントロが並ぶ。

一番前に立つのは、バイオメガラプトルと着陸態勢を保つバイオプテラである。

そして彼らに従えられるように量産型バイオゾイド1号である バイオラプターが22機 同じくバイオラプターの飛行型で、量産型のバイオラプター・グイがそれに守られる様にして、6機着陸していた。

対するドライツェーン・ドラッヘン側は、指揮官機であるキースのルシファーフューラーが先頭に立つ。
機体名称の由来になった兵装ユニットと高機動スラスターを兼ねる、黒い大型ウィングバインダーは、地上に降りた烏の翼の様に閉じられていた。

このウィングバインダーの中には、多数の火器が内蔵されており、ルシファーフューラーと相対する敵は、このマントの様な闇色の翼に隠された大火力に驚かされることとなる。

ルシファーフューラーは、ウィングバインダーによる高機動と内蔵された兵装の大火力による一撃離脱戦法を得意としていた。

更にこの堕天使の翼は、素材自体が、ガイロス帝国陸軍が、ジェノブレイカーのフリーラウンドシールドの素材に採用したチタン合金の1種 ドライ・リーゼン(第三の巨人)で出来ており、防御兵装としても使用可能だった。


「…実戦経験の差をみせてやるぜ。」
ラインは、目の前に並ぶ未知の敵の群れを見ても余裕を見せていた。

「油断するなよ。奴らの技量とあの骸骨野郎の性能は未知数だからな」
ラインのスピードフューラーは、ルシファーフューラーの右隣に立っていた。
彼の機体の両腕には、巨大な鎌 ビームサイズが握られていた。
バーサークフューラーのスラスターを大型化した様な形状の背部の大型推進装置、エナジースラスターは、従来のイオンブースターとマグネッサーシステムを強化した推進システムである。

小型エナジーチャージャーからエネルギー供給を受けることで、爆発的な推進力を発揮する。

短時間の加速性能だけでは、エナジーライガーに匹敵する程である。

但し、これだけの急加速と運動性を可能とする代わり、パイロットにはそれによって発生する強力なGに耐える能力と高速に対応できる反射神経を要求する機体であった。

更にキースの機体の左には、ハンスのキリングフューラーがいた。
ハンスの乗機であるキリングフューラーは、背部のエナジーカッター、両肩のショルダーレーザーブレード、両前脚に大きく伸びた鉤爪、エナジーメタルクロー、尾部先端には、テイルレーザーソードと、全身凶器ともいえる攻撃重視の機体である。
どの格闘兵装も、大型ゾイドの重装甲を薄紙の様に切り裂ける威力を有している。

背部の小型エナジーチャージャーのエネルギーを利用した高出力の斬撃兵装による近接格闘戦を得意とするこの機体は、エースパイロットが操れば背部のイオンブースターと小型エナジースラスターによる高機動と全身の格闘兵装の組み合わせは、最強の凶器と化す。

機体名称に「殺害」を意味するキリングという単語が与えられているのも敵を徹底的に切り刻み破壊するというこの機体の攻撃的な運用方法に由来していた。
欠点は、射撃兵装の少なさに伴う火力の低さと軽量化されたアーマーの防御力の低さである。

「どうした双子?新型がうらやましいか」
ハンスは、エナジーフューラーシリーズを与えられなかった戦友の1人に言った。

「「僕らは、乗り慣れた機体の方がいいですよ。」」

まるで示し合わせたかの様に双子のパイロットは言う。
キースのルシファーフューラーの後ろには、2機のディノコマンダーがいる。
その横にはハインツのディフェンスフューラーの姿があった。

双子のパイロット……クルト・ロディ、マックス・ロディは、ラインらの様にエナジーフューラーシリーズを与えられた、他のメンバーと異なり、乗機は襲撃作戦と同様にディノコマンダーのままである。

だが、襲撃作戦時の装備ではなく、重装備型のソルジャータイプに装備を換装している。

この装備は、背部のダブルビームガトリングと腕部の小型ビームランチャーを搭載したタイプで攻撃力が強化されていた。

恐竜型BLOXゾイドであるディノコマンダーは、Zi-ARMS社のパラブレード、ZOITEC社のサビンガと同様にネオコアブロックを採用している。

その為、パワーではコマンドウルフクラスの通常ゾイドに引けを取らなかった。

「……」
マックスの乗機であるステルスフューラーは、隠密戦闘用に開発された。
また原型となったネオゼネバス帝国軍が計画していたエナジーチャージャー搭載型フューラーの隠密型には、ライガーゼロイクスアーマーのバーサークフューラー版としての性格もあった。
その為全身の装甲には、ゼロイクスと同様に光学迷彩システムが搭載され、装甲素材自体もステルス性の高い素材が使われている。

両肩に装備されたスペード型のシールド アングリフ・シルトは、エクスブレイカーを小型化した兵装で、高周波ブレードと高圧ビーム砲を内蔵している攻防一体の武装である。
シールド自体もシュトゥルムユニットと同じ素材で、Eシールドも展開できた。

そして背部の円盤状の装置は、新機軸の隠密兵装、ガイスト・システム、この装備こそステルスフューラー最大の兵装である。

ガイスト・システムの特筆すべき性能は、自機だけでなく、その周囲にも光学迷彩と類似した現象を発生させることができる。

その原理は、特殊なナノマシンを展開、マグネッサーユニットにより、磁場を形成することでそのナノマシンを空中に浮遊させる。

同時に磁場に反応したナノマシンは、機体の背景の映像を投影し、ステルスフューラーとその周囲の空間を視覚的に消し去る。

流石に機体本体の装甲に施された光学迷彩には、その精度では劣るものの、自機以外にも展開可能という点と、自機を起点とした広範囲を視覚的に見えない状態にし、ゾイドのセンサーだけでなく、肉眼での探知精度さえ低下させる性質は、隠密戦闘時に威力を発揮する。

欠点としては、電磁波を出すこととナノマシンを周囲に浮遊、定着させておくために膨大な電力を消費する点である。

そのエネルギー消費量は、もし小型エナジーチャージャーが無ければ、このサイズのゾイドが使用することは不可能だっただろうと推測されたほどである。

Zi-ARMS社のパイロットにより、最初に行われた模擬戦闘では、最強の電子戦ゾイド ダークスパイナーを含む敵部隊を翻弄し、戦闘の最後まで敵は、ステルスフューラーの正確な位置を把握することは出来なかった。

この神出鬼没の特性から、当初ゴーストフューラーという名称になる予定だった程である。

「敵と戦うのが待ち遠しいな、マックス」
「…ああ、そうだな。マンフレート」
マックスのステルスフューラーの右には、マンフレートのウィザードフューラーが立つ。
この機体は、<エナジーフューラーシリーズ>の中で、唯一ルシファーフューラーと同等の飛行能力を有している。
この機体は、バーサークフューラーの後継機として計画していたエナジーチャージャー搭載型ティラノサウルス型ゾイドのバリエーションの中で、量産機モデルとしてネオゼネバス帝国が設計していた計画案をベースにして作られた。

だが、量産機の設計データを基にしているということは、このゾイドが、他の兄弟機よりも性能面で劣るということを意味するものではない。

ウィザードフューラーは、高い飛行能力を有し、性能面では、この改造フューラーシリーズの中で、最もバランスが取れていた。
遠距離では、背部の2連ビームキャノン砲、中近距離では、左前脚の2連装ビームマシンガンと右前脚のEバスタークローで対応する。
Eバスタークロー…この小型のバスタークローは、原形機であるバーサークフューラーのバスタークローを小型化したもので、原形となったバスタークローと同様にEシールド発生装置が搭載されている。Eシールドを展開した状態でバスタークローを高速回転させる戦法 エナジークラッシャーは、ライガータイプ等のEシールドを有する敵ゾイドとの近接戦闘時に威力を発揮する。

また、ウィザードフューラーは、スピードフューラーやデストロイフューラーといった小型エナジーチャージャーを酷使する強力な兵装を有する特化型と異なり、小型エナジーチャージャーに負荷を駆ける兵装を有していない為、エナジーフューラーシリーズの中で、最も継戦時間が長かった。

「俺も楽しみだぜ。マンフレート、こいつの防御力を試すことができる。」
ハインツは、笑みを浮かべて言う。
彼は、2日前のディフェンスフューラーに乗り込んでの操縦訓練の時、ディフェンスフューラーの防御性能について開発に関わったZi-ARMS社の技術者達から聞かされていた。
白衣の彼らは、ディフェンスフューラーの防御システムは、最大出力で理論上、デスザウラーの荷電粒子砲を防ぎうるとまで豪語していたのであった。

「兵器会社の営業トークを真に受けるのはどうかと思うぜ、ハインツ」

ラインは、技術者の話を信用する彼を茶化して言う。
自機の性能を信頼するハインツとは対照的にラインは、技術者の話すカタログスペックの話を信用していなかった。
彼も、このエナジーフューラーシリーズの高性能をある程度は認めていたが、実戦でそれらの高性能や最新技術を集めた兵装が予定通りに効果を発揮することは疑っていた。彼は、カタログスペックというものが実戦において信頼できないものということを知っていたのである。

「ライン、水を差さないでくれよ。俺が隊長をお守りして見せますよ。」
「野郎に言われるのはあまりうれしくないが、期待してるぜ。ハインツ」

防御に特化して開発されたハインツのディフェンスフューラーは、ロディ兄弟のディノコマンダーに挟まれる位置、キースのルシファーフューラーの真後ろにいた。

彼の機体は、この部隊で、最も高い防御性能を有していた。ジェノブレイカーのフリーラウンドシールドと同様バックパックより左右2本のアームによって保持される円形の大楯……エナジーディフェンサーは、ハイパーEシールドとマグネッサーシステムを応用した磁気偏向装置が装備され、対光学兵器では現在最強クラスの防御装置といえる。

そのディフェンサー自体もジェノブレイカーのフリーラウンドシールドの特殊チタニウム合金を対ビームコーティングで強化したもので出来ており高い防御性能を有していた。

このエナジーディフェンサーは、ジェノブレイカー、シュトゥルムフューラーのフリーラウンドシールドを防御面に特化して発展させた兵装である。

アームの可動範囲は、前2機のそれよりも大幅に向上しており、真後ろからの攻撃にも対応可能だった。また前面に強力なエネルギーシールドを形成することで、隣接する味方機や拠点の盾になるといった運用も可能だった。

このように防御の面では、このクラスのゾイドとしては最強レベルの機体である。

攻撃面では、口腔内の拡散荷電粒子砲と背部の高密度ビームキャノン、マイクロミサイルポッド、更に接近戦用には、両肩にマウントした斧型の近接兵器 バイブレーションアックスがある。
この高速振動する斧は、原理的には、共和国軍のSSゾイド セイバリオンの高周波ブレードと同一のものである。
だが、その破壊力は、小型エナジーチャージャーからのエネルギー供給を受けている為、ゴジュラスの重装甲すら容易く切り裂く。

ハインツがこの機体を操縦することになったのは、彼が優れた射撃技量を有するということも関係していた。

遠距離から敵を狙うことが得意であるということは、同時に敵の攻撃がどこから来るのかを予測できるということでもある。
その為、時には味方機の盾になることが想定されるディフェンスフューラーのパイロットとしては最適だと見做されたのだ。

彼の機体が、指揮官機であるキースのルシファーフューラーの真後ろにいるのも、何時でも盾となれる様な位置だからであった。

[574] 西方大陸機獣戦記 5章 後篇 ロイ - 2017/04/25(火) 21:47 -

デュラントのサタンフューラーとニーナのデストロイフューラーは、部隊の一番後方にいる。

これら2機種は、他の機体の火力支援用に開発された機体の為という理由だった。

デュラントの乗機 サタンフューラーは、ルシファーフューラーの支援機として開発された。
背部のバックパック正面には、脅威のレーザー兵器 レイストーム砲が搭載されている。
レイストーム砲は、複数のレーザー砲を束ねて威力を増すことを目的に開発された兵器である。

この兵器は、通常の高出力レーザー兵器の様に巨大な冷却装置や大型の発振クリスタルを必要とせず、威力の弱い小型のレーザー兵器でも威力を高めることができるという利点があった。

技術としてはガンブラスターのローリングキャノンが近い兵器である。
その研究自体は、大異変以前の中央大陸戦争期から存在していたが、複数のレーザーを同時に制御することの難しさやエネルギー供給、連射が利かないといった問題等が解決できず、試作兵器止まりになっていた。
サタンフューラーのバックパックの正面に装備されたレイストーム砲は、4門の大型レーザーカノンを束ねたものである。

更にサタンフューラーは、胴体後部の小型エナジーチャージャーから供給される膨大なエネルギーによってレイストーム砲を構成するレーザーカノンの破壊力も高く、これらの砲身を束ねて放つ一斉射撃は文字通り光線の嵐と形容できた。

その最大出力は、ハイパーEシールドを展開したゴジュラスギガをも撃破可能だった。

またレイストーム砲を形成するレーザーカノンの個々の砲身は、それぞれ射角を稼働させることが可能で、広範囲をカバー出来た。

このレイストーム砲の欠点としては、その強力な兵装の放つ高熱がある。

レイストーム砲単独の発射テストでは、最大出力での3連続発射を行った際に排熱がうまくいかなかったことで、爆発事故を引き起こしている。

現状10基しかこの世に存在しない小型エナジーチャージャーも、この時1基が損壊し、喪失した。

この事故の反省からサタンフューラーのレイストーム砲は、砲身に過度の負荷がかかった場合には、自動的に射撃システムが停止する様に安全策が取り付けられている。
また排熱処理の問題は、背部に搭載した冷却ファンと放熱器で冷却することである程度解決することに成功している。

バックパック各部から飛び出た棘の様な突起はヒートブレードを兼ねる放熱器である。本来は排熱用の装備であるが、緊急時には格闘兵器として使用可能な強度を有している。

このレイストーム砲以外にもサタンフューラーは、脚部側面のウェポンバインダーVの内蔵火器等の火器を装備している。

単機で重砲ゾイドの1部隊に匹敵する火力支援能力を有しているとまでZi-ARMSの技術者は、評価していた。

「これからの模擬戦闘が楽しみだ。早くこいつの火器を撃ちまくりてぇ…なあニーナお前もそうだろ?」
「トリガーハッピーのあんたと一緒にしないでよ。バーサークフューラーにこんなに火器を付けるなんて機体の特性を殺してるわ…」

デュラントの機体と同じく全身を重火器で武装したニーナのデストロイフューラーは、ディフェンスフューラーとスピードフューラーの後方支援用に開発された。

サタンフューラーと同じく小型エナジーチャージャー生み出す高エネルギーを大火力兵器の動力源に利用する方向に設計された。

バックパックには、凱龍輝デストロイの大型3連装キャノンに酷似したアームで保持される3連装レールキャノン、バックパックの上から槍の様に伸びたロングビームランチャー、そのビームランチャーに挟まれる様に配置された、バックパック中央のプラズマ粒子砲、バックパックに内蔵されたビームガトリング、脚部側面のマイクロミサイルポッド、どの火器も、一級品の破壊力を有している。

デストロイフューラーの原型となったネオゼネバス帝国のエナジーチャージャー搭載バーサークフューラー砲撃型設計案は、正式採用されなかったバーサークフューラーのCASの1つ ヤクトユニットのデータのみならず、当時敵国の最新鋭機であったヘリック共和国軍の凱龍輝デストロイからも多大な影響を受けていた。

また搭載したビーム兵器関係の技術には、Zi-ARMS社が開発した3体の古代虎のゾイドコアを使用したゾイドの一つ ブラストルタイガーで使用された技術も応用されている。

巨大なバックパックや大型の重火器を多数装備するこの2機は、機動性が原型機のバーサークフューラーよりも低下していた。

それぞれ最高時速、275km、255kmで、最高時速 285kmのライガーゼロ・パンツァーや290kmのヤクトフューラー、190kmの凱龍輝デストロイといった同様の高速砲撃機に比べると際立って遅いとは言えないが、最高時速 680kmのルシファーフューラーや665kmのスピードフューラー、330kmのディフェンスフューラーとウィザードフューラー、300kmのステルスフューラーと言った同型機には劣る。

これらの機体は、同じ部隊に編入され、連携することを前提に開発されているため、部隊行動を行う際に問題が発生する可能性があった。

同じ部隊に所属するゾイドの速力の差が大きいと、部隊行動や作戦にも影響が現れる。

第1次大陸間戦争期、ニクス大陸に攻め入った新生共和国軍の高速部隊はそれを顕著に示した事例の1つである。

第1次大陸間戦争前期、共和国軍が暗黒軍(ガイロス帝国軍)の強力なゾイドに対抗するために新開発した高速ゾイドは、ハウンドソルジャー、キングライガーの2種類である。
ハウンドソルジャーの最高速度は、330km、キングライガーは、最高速度280kmという高速を発揮できたが、部隊を率いての戦闘でその高速を発揮する機会は少なかった。

当時の高速戦闘部隊の数的主力機であるコマンドウルフNEWの最高速度が210kmだったからである。

対する暗黒軍の高速部隊の数的主力となるゼネバス軍から接収したライジャーは、最高時速320kmで、暗黒軍が開発したジーク・ドーベルの350km、ガルタイガーの260km…とこれらの機体と十分に連携が可能だった。

その為、当時の共和国軍高速戦闘隊は、連携を取るのが非常に困難で、取り残された部隊が、敵に包囲され、大損害を受けるケースや逆に部隊の進軍速度をコマンドウルフNEWやシールドライガーmkUに合わせたため、進軍速度が低下したというケースもあった。

暗黒軍が開発したジーク・ドーベルの改良型 アイス・ブレーザーは、390km近い高速を叩き出せたのに対して、それに対抗すべく開発されたヘリック共和国軍のキングライガーの火力増強型 キングバロンは、キングライガーよりも最高時速が10km低下しているのは、火力と装甲を速度よりも重視した結果であるが、その様に設計されたのには、コマンドウルフNEWやシールドライガーmkUとの部隊連携を前提としていた為、速度性能の強化に制約が生まれていたのがその理由である。

この失敗から、大異変を隔てて約50年後の第2次大陸間戦争後期、西方大陸からガイロス帝国軍を叩きだした共和国は、帝国の本土があるニクス大陸に対して上陸し、いち早く帝国軍の防衛ラインを破り、中枢部に侵攻し、戦争を終結させる必要に迫られていた。

その為、当時の共和国軍は、新開発した西方大陸の完全野生体をベースとしたライオン型ゾイド ライガーゼロとそのバリエーション機で編成される高速部隊による電撃作戦を先鋒とする作戦を考えていた。

この時に結成されたライガーゼロタイプを主力とする高速戦闘隊特別部隊 閃光師団は、高速ゾイドよりも移動速度に優れ、グスタフよりも走破性に優れる蝸牛型巨大母艦ゾイド ホバーカーゴによって戦場まで部隊ごと一括輸送することで、この弱点を解決した。

この時、閃光師団は、かつての新生共和国軍高速戦闘隊と同様に時速330kmのライガーゼロ・イェーガーや時速300kmのライガーゼロから、時速200kmのコマンドウルフACまで各ゾイドの速度に差があったが、どの機体も部隊ごと戦場の手前までホバーカーゴで輸送することで、かつての様に各部隊が孤立する、遅い機体に速力を合わせることで部隊の進軍スピードが低下するといった事態を回避できたのであった。
Zi-ARMSも、同様に巨大母艦ゾイドでこの改造バーサークフューラー部隊の速度差の問題を解決する予定であった。

またサタンフューラー、デストロイフューラーの運動性能は原型機であるバーサークフューラーに比べ、大きく低下している。

サタンフューラーの両前足の高周波ブレード、デストロイフューラーの右前足のモーニングスター クラッシャーハンマーは、接近してきた敵機への自衛用の格闘兵装である程度の格闘戦は出来たが、ライガーゼロ・シュナイダー等に代表される本格的な格闘戦機との接近戦にはリスクがあった。

これら2機は、バーサークフューラーに搭載した改良型エナジーチャージャーが生み出すエネルギーを火力に転用することを主眼に置いた機体である。

その為、格闘戦能力、運動性が低下するのは、仕方なかったが、この装備は、西方大陸の生態系の頂点に立つティラノサウルス型ゾイド本来の格闘性能を殺しているとも言えた。

最初、ニーナがデストロイフューラーに乗ることに難色を示したのもその為である。

砲撃戦を得意とするパイロットとして、砲撃戦能力に優れたゾイドを操縦できることに不満は無かったが、ゾイド本来の特性に反する機体に乗るのには、抵抗があったのだ。そんな彼女と対照的にデュラントは、サタンフューラーのパイロットに選ばれたことを喜んでいた。

トリガーハッピーの彼にとって大火力を持つ機体に乗ってその火器を撃ちまくれることのが、楽しみだったのである。

「…」

それら2機の砲戦機に挟まれる様に立っているのは、フェリックスのディノコマンダー・スカウタータイプである。
Zi-ARMS製BLOXゾイド ディノコマンダーの電子戦・偵察機型であるこの機体は、頭部に鶏冠の様なブレードアンテナ、背部に大型のレドームを装備し、通信能力と電子戦能力、電子戦能力が強化されていた。
この部隊の目であり、耳でもある機体である。自衛用の頭部バルカン砲と三本指のマニュピレーターによって保持される高密度ビームライフルだけが攻撃用の装備である。

また電子戦用の機体である為、ドライツェーン・ドラッヘンの所属ゾイドでは最も戦闘能力が低かった。
重武装の2機に挟まれた姿は、鎧に身を固めた巨漢と、ひ弱な子供の様だった。だが、戦いとは単なる力比べではない。

機体そのものの戦闘能力が低くとも、他の機体を支援することで部隊全体の戦闘能力を何倍にも高めることが出来た。
この部隊の参謀であるフェリックス・ロスナーの能力と、強力な情報収集能力、電子戦能力が加われば、恐るべき能力を発揮するのである。

「さてと、連中の飛行ゾイドとは、楽しく踊れるかな…?」

ニーナのデストロイフューラーの隣にいるヨハンのロードゲイルBGは、飛行場襲撃作戦の時と同様に左腕に、機体名称にも付けられているレッドホーン用のビームガトリング砲を装備しており、更に右腕の格闘兵装 2連装マグネイズスピアは、1本のドリル状の槍のような兵器…マグネーザーランスに換装されていた。

この装備は、特殊合金製のドリルを高速回転させることで重装甲に打撃を与えるという格闘兵装である。

かつての第3次中央大陸戦争の頃、中央大陸を一時完全制圧したネオゼネバス帝国が運用していたキメラブロックスと呼ばれる無人ゾイドの一つで、ロードゲイルBGと同様にマグネイズスピアを装備したブロックスゾイド デモンズヘッドの試作機に装備されていたマグネーザーを参考にして開発された。

最初にマグネーザーを搭載したゾイドであるマッドサンダーは、超大型ゾイドのゾイドコアが生み出すエネルギーをマグネーザーに組み込んだ磁気発生装置に利用することで局所的に磁気嵐を形成し、敵ゾイドの運動性を低下させ、マグネーザーが敵機と接触した際に電磁波で内部機関を機能不全に陥れることが可能で、デスザウラーを含む数多くの帝国ゾイドを成すすべなく高速回転する特殊合金の槍の餌食にしたことが戦史にも記録されている。

流石にこのロードゲイルBGの右腕のマグネーザーランスの磁気発生装置とドリルは、そこまでの威力を有していない。

それでも最大出力では、デススティンガーやデスザウラーの装甲にもダメージを与える威力を秘めている。

「あの青い翼竜型には気を付けろ…射撃兵器は、装備していないみたいだが、運動性能は高そうだ。ロードゲイルじゃきついかもしれないぞ」

「わかってますよ隊長、油断はしません。」

笑みを浮かべ、気軽な口調でヨハンは言う。その表情と反対に、バイオプテラを見据える目は笑っていなかった。

他のメンバーも、眼の前の敵であるバイオゾイド部隊を注意深く観察していた。

対するバイオゾイド部隊の方も、敵側である漆黒の竜の群れを眺めていた。

ある者は、強い敵意に満ちた眼で、ある者は、純粋に好奇心に満ちた眼で、ある者は、勝てるのかという不安を帯びた眼で、ある者は、敵の陣形を観察し、敵がどの様な戦術で挑もうとしているのかを推測した。

「何機倒せるか楽しみだな。フレーザー」
バイオケントロのパイロットに選ばれた黒髪の少年 ジュンは、隣の同僚に話し掛けた。
「ああ、あの鎌付きを仕留める。俺を馬鹿にしたことを後悔させてやるぜ」
バイオメガラプトルのパイロット フレーザーは、笑みを浮かべて言う。

彼らがさらに会話に花を咲かせようとしたその時――
「フレーザー、ジュン、私語は慎め。他の隊員も集中しなさい。もうすぐ模擬戦闘が開始されます。そのことを忘れない様に」

バイオティラノに搭乗するユリアは、感情の籠らない冷たい口調で言った。
この陶器の様に白く美しい肌と鮮やかな蒼い瞳を持つ少女は、バイオゾイド部隊の指揮官に任命されていた。
「わかったよ。女王様…」
フレーザーは肩を竦めて言う。
「了解…」

この人形の様な美貌の銀髪の少女が、バイオゾイド部隊の司令機であるバイオティラノのパイロットに選ばれたのは、Zi-ARMSの養成している強化兵の中で、最も実戦テストでの成績が優秀だという理由である。
特に部隊指揮では、強化兵の中では、並ぶ者がいなかった程である。

だがその優秀さには、パイロットとしての能力以外の面も含まれている…それは、彼女の冷徹さであった。Zi-ARMS社の強化兵の訓練は、実戦に匹敵する過酷さで行われる…その為事故も多発する。

エベールが強化兵の教官を務めて以降は、強化兵訓練で事故が起きた場合は、残った強化兵に訓練を継続させるか選択させることになっていた。

多くの強化兵の少年少女たちが、仲間が犠牲になったことで訓練中止を選択する中で、彼女は、模擬戦闘を継続することを選択したのである。

また彼女は、チーム戦での指揮官としても、勝利の為ならば、犠牲を顧みることがなかった。

その冷徹さから、他の強化兵は、畏怖を込めてブリザード・クイーン(吹雪の女王)という綽名で呼んでいた。
この綽名は、彼女の性格だけでなく、ある噂も影響していた…その噂とは、ユリアがガイロス帝国の貴族の血を引いているという噂であった。

彼女が、Zi-ARMSの強化兵の養成施設に送られる前の素性は、他の強化兵達と同様に仲間の強化兵には教えられていない。
その噂の大元は、ユリアが、首から下げていたペンダントであった。

彼女が持つ唯一の私物であるそれは、銀色の鎖と黒く塗られた鉄製の三角形で構成されていた。

そして、その三角形には、玉の紐を咥えた飛竜…大異変前のガイロス帝国の国章が刻まれていたのである。

エリカという名前の強化兵の少女が、意を決っしてこの噂の真偽を尋ねたことがあった。

仲間の質問に対して彼女は、「無根拠な噂に惑わされるのは、自分を貶めることになる。」と婉曲に否定した。

しかし、本人がそれを否定しても噂というものは無くならないものである。
その後も、この噂は残り続け、現在に至っている。

「…」

双方のゾイド部隊は、互いに敵の動きに対応すべく、編成を組んで、その時を待っていた。

[575] 西方大陸機獣戦記 6章 前篇 ロイ - 2017/04/25(火) 22:10 -



そして、戦闘開始を告げるブザーの音が合金の壁に囲まれた闘技場に響き渡った。

象型ゾイドの咆哮にも似たその大音響が金属の壁に反響する。

「行くよ!皆!」
エリーのバイオプテラを先頭にバイオラプター・グイが空中に舞いあがる。

最初に攻撃を仕掛けたのは、強化兵部隊の方であった。

「先手必勝だ!」
バイオメガラプトルとバイオラプター隊が口腔内のヘルファイアーを一斉に発射した。

「攻撃開始…」
少し遅れて、バイオティラノも口から火球を発射した。
バイオメガラプトルやバイオラプターのヘルファイアーよりも巨大なそれは、途中で破裂し、空中で炎の雨となって黒い竜の群れに降り注いだ。

「まずは、指揮官から…あの御嬢さん中々やるな」
キースは、自機に迫ってくる攻撃を見ても慌てることなく、余裕たっぷりに敵の技量を褒める。

「隊長、敵に感心せんでください」
ハインツのディフェンスフューラーが、ルシファーフューラーの前に降り立つ。

着地と同時に背部のエナジーディフェンサーを展開、高出力Eシールドの六角錐が前方に形成される。

ルシファーフューラーに向かっていた火球は、1つ残らずエネルギーの防壁に防がれた。

「花火大会のつもり?!」

ニーナのデストロイフューラーは、火球を次々と自慢の火器で迎撃する。ビームや砲弾に絡め取られた火球が爆発し、眩い閃光と共に消滅する。

「火力では向こうが上か」
「すげえ火力だな、どうする指揮官?」
フレーザーは、敵側の火力に驚きつつ、指揮官に尋ねる。
「火力では、こちらが決め手に欠ける…接近戦に移行します。フレーザーとジュン、バイオラプター第1小隊は、デストロイフューラーとサタンフューラーを優先して攻撃、他の機体は基本的にその後に攻撃しなさい。エリアスとバイオラプター第2小隊は、突撃した機体を援護すると共にステルスフューラーとウィザードフューラーを攻撃。私は指揮官機とその護衛を叩きます。ラプター10から20は私の援護!航空部隊は、上空から友軍の援護を!」
指揮官であるユリアは、矢継ぎ早に指揮下の強化兵に指示を出す。

「近接戦闘だ!お前ら突っ込むぞ!」
フレーザーのバイオメガラプトルを先頭にバイオラプター第1小隊が突撃した。

「あっという間に切り刻んでやる。」
「…」

バイオトリケラとバイオケントロ、それに随伴するバイオラプター第2小隊がそれに続く。

最後に10機のバイオラプターを後ろに従えてバイオティラノが突進する。

「ユリア、解ったわ」

上空のバイオラプター・グイとバイオプテラもそれに続く。
「接近戦を挑むつもりだな」
「真正面から突っ込んでくるとは…余程自分と機体に自信があるみたいね」
ニーナが呆れ気味に言う。
「上と下、どっちを先にやる?」
キースが、部隊の参謀役を務める少年、フェリックスに尋ねる。

「まず、地上の敵機を仕留めるのが効率的です。」フェリックスのディノコマンダー・スカウタータイプから各機に背部の大型レドームが収集したデータ…敵機の速力、相手の熱量、予想進路等が送信された。

「回避できるかな…?」

キースのルシファーフューラーのマントの様なウィングバインダーの装甲カバーが開き、内蔵されていた火器が姿を現す。

内蔵されていた高出力ビーム砲やレーザーが黒い翼から勢い良く吐き出される。

「纏めて仕留めてやる。」

デュラントのサタンフューラーが、レイストーム砲を発射、光の豪雨がサタンフューラーのバックパック正面に並んだ砲身から発射される。

その横にいたニーナのデストロイフューラーも背部の火器を乱射する。

更にハインツのディフェンスフューラーとロディ兄弟のディノコマンダー、ヨハンのロードゲイルBGが、高密度ビームキャノンとマイクロミサイル、ダブルビームガトリング、ビームガトリングを発射する。

小さな暴風の様な砲撃が、フェリックスのディノコマンダー・スカウタータイプからのデータを基に正確に誘導され、突撃して来る骸骨竜の軍勢に叩き付けられた。

無論模擬戦闘である為、これらの猛攻撃は、実際に兵器を使用しているわけではなく、模擬レーザーや模擬弾によるものである。

それでも各機のモニター上には、それらの攻撃は、高精度の3D映像で再現された。

それらの映像は、あたかも本当に実弾を使用しているかのような錯覚を与える程の正確さを誇っていた。
仮想空間上に架空のビームやレーザー、砲弾、ミサイルの嵐が突発的に発生した。

「回避運動もしないのか?」
キースが怪訝そうに言う。
それは、敵部隊の機動を目撃したドライツェーン・ドラッヘンのメンバー達全員の心の中に生まれた疑問だった。

バイオゾイド部隊は、指揮官機のバイオティラノからバイオラプターに至るまで回避運動せずに突っ込んでくる。

「ちっ散開しないだと」
「あの砲撃に突っ込むなんて、自殺行為ね」
ニーナは、攻撃を回避することもせずに投げ槍の如く一直線に進撃してくる敵部隊に呆れたらしく、吐き捨てる様に言う。

彼女を含めドライツェーン・ドラッヘンのメンバー達は、バイオゾイド部隊が、散開すると予測していたのである。
元々、その為に砲撃を行ったのだから当然と言える。

つまり彼らが強化兵の操るバイオゾイド部隊に浴びせかけた鋼鉄と光線の猛火は、敵を撃破する為ではなく、敵部隊を分断する為に、まず相手に回避運動による散開を強要させるのが目的であった。

数秒後、嵐の様な砲撃が、バイオゾイド部隊に降り注ぎ、ドライツェーン・ドラッヘンの各機の正面モニターにCGで創り上げられた架空の爆発が、色鮮やかに映し出される。

指揮官機であり、最も大きなバイオティラノから、小型ゾイドであるバイオラプターに至るまで、鮮やかな紅蓮に彩られた爆炎の中にその姿を隠した。

「全弾発射はいつみても気持ちいいもんだ!」
「何機生き残ってるだろうな?」
「全滅は流石にないと思いたいがな」
高出力ビーム砲、プラズマ粒子砲、ロングビームランチャー、高密度ビームキャノン、レイストーム砲………これらの高威力の射撃兵装を叩き付けられたのだ。
小型ゾイド中心の部隊なら少なく見積もっても半数以上が、撃破認定されるに違いない。

バイオプテラを指揮官機とする飛行バイオゾイド部隊は、地上の戦友たちを襲った惨劇に目を向けることなく、獲物を狙う猛禽の様に空中を旋回していた。

「ちっ、爆発によるセンサーの悪影響まで再現か…」

ハインツは、モニターに表示される架空の爆炎とセンサー機能の低下を見やり、舌打ちした。

全く破壊効果のない架空の爆発であっても、各機のゾイドのコンピュータに入力された模擬戦闘プログラムによってセンサー機能の低下も再現されている。

やがて、黒煙が薄れ、ドライツェーン・ドラッヘンの放った嵐の如き、火力を潜り抜けたバイオゾイド部隊の生き残り達≠ェ姿を現した。

そして、彼らは、衝撃を受けた。

「…嘘…だろ?」
そう呟いたラインは、唖然としていた。彼だけでなく他のメンバーも同様に衝撃を受けていた。

砲撃を掻い潜ったバイオゾイド部隊の中で………欠けた機体は、1機もいなかった。

侵攻速度こそバイオラプターを中心に低下していたが、どのバイオゾイドも目立った損傷はなかった。

「無傷だと?」
「なんて防御力!」
「どういう技術だよ!?」
「ビームコーティングか?」
「口より手を動かせ!」
歴戦の傭兵である彼らも無傷で突撃して来るバイオゾイド部隊に衝撃を受けていた。
バイオゾイド部隊は、彼らと接近戦が可能な距離に迫っていた。

「食らえ!」
クルトのディノコマンダー・ソルジャータイプが、背部のダブルビームガトリングを連射した。

目標は一番近くにいたバイオラプター…ビームガトリングは、低出力のビームを断続的に発射する兵器で、連射力、制圧力では通常のビーム兵器を上回る。

また一点集中射撃では、高い貫通力を誇っていた。普通ならば、小型ゾイドの装甲等簡単に撃ち抜いてしまうだろう。

バイオラプターの全身を覆う銀色の流体装甲は、雨滴を鉄板が弾き返すかのように断続的に撃ち込まれるビーム弾を弾き返した。

「ビームコーティングとは違うな!小型ゾイドの防御力とは思えねぇ」
その光景を見たキースが言う。彼のルシファーフューラーも、ウィングバインダーに格納されたレーザー砲をバイオティラノに浴びせていたが、空しく弾き返されていた。

他の機体も射撃攻撃を迫りくるバイオゾイド部隊に浴びせていたが、同様にヘルアーマーにより、無力化された。

「皆落ち着いて!どんな重装甲も、装甲である以上は、継ぎ目がある。そこを狙えば撃破できる筈!」

フェリックスは、目の前の無敵とも思える銀色の骸骨竜たちの防御性能に驚きつつも、敵の弱点を予測した。

彼は、バイオゾイドに無敵ともいえる防御力を与えているのが、シールドや妨害装置ではなく、装甲表面に施された何らかの処置ないし、装甲の素材だと推測したのである。

人間の戦士が、全身に渡って隙間なく鎧を施せない様に、ゾイドの装甲も関節部等の可動部やセンサー等は、どんな機体でも無防備だった。

「面倒だな…」
「連携して1機ずつ叩くしかないか…?!」

まず、襲い掛かったのは、航空部隊だった。
それまで上空で旋回を続けていた航空部隊は、地上の友軍部隊と敵部隊が、接近戦に突入しようとしていたのを確認すると、支援の為、上空から襲い掛かったのである。

「いただき!」

エリーのバイオプテラが、バイオラプター・グイを引き連れて上空から急降下、攻撃を仕掛けた。

「上空からも来るぞ!」

ドライツェーン・ドラッヘンの機体が、迎撃すべく対空射撃を開始した。

「ちっ先手を打たれたか!」

ロードゲイルBGは、ビームガトリングを上空に向けて乱射し、弾幕を張る。

「利かねえと思うが、当ってくれよ…」
ハインツのディフェンスフューラーも背部のマイクロミサイルを発射する。

無数のミサイルとレーザーやビームの嵐が上空から迫る鋼鉄の翼竜たちに襲い掛かる。
バイオプテラとバイオラプター・グイはそれらの攻撃を、ボディを包む流体金属装甲 ヘルアーマーの防御力で凌いだ。

地上のバイオラプターを初めとするバイオゾイドの時と同様に実弾は弾き返され、ビームやレーザー等の光学兵器は、拡散されて無力化されてしまった。

「上の連中もか?!」
「上の連中は俺に任せろ!」

マグネッサーウィングの出力を最大にし、ロードゲイルBGを一気に飛翔させた。

ビームガトリングを乱射しながらヨハンのロードゲイルBGは飛行バイオゾイド部隊との交戦に突入した。地上のバイオラプター部隊も、ヘルファイアーを浴びせてくる。

ゲル状のナパームがバイオラプターの口内から発射されると同時に大気と反応して着火、火球となって襲い掛かる。

「みんな後ろに下がれ!」
ディフェンスフューラーがエナジーディフェンサーを展開してそれらを防ぐ。

「俺も、守られてばかりではな…!」
ルシファーフューラーもウィングバインダーを盾の様にして火球を防ぐ。
チタン合金の翼が、火球を次々と受け止める。数千度の炎がウィングバインダーの表面を焦がすが、それだけだった。

ウィザードフューラーも右前脚のEシールドを展開する。他の機体は、ディフェンスフューラー以下3機の防御システムの効果範囲内に隠れることで攻撃を凌ぐ。

更にラインのスピードフューラーとハンスのキリングフューラーが、他の部隊の機体から離れた。
孤立した2機に対して火球が撃ち込まれたが、2機は、機体の高機動性を生かして回避する。

「へっ、当たるかよ」
「こっちだ!こっちだぞ!っ」
スピードフューラーの残像を残す程の高速でヘルファイヤーを回避する隣では、キリングフューラーが踊る様な動きでバイオゾイド部隊の攻撃を掻い潜っていた。
この2機は、攻撃を拡散させる目的で部隊から飛び出したのである。
対するバイオゾイド部隊も火球を撃ちながらも突撃を止めない。

「防御力に物を言わせやがって、糞ガキ共が!」
ビームキャノンを撃ちながらハインツは毒づいた。攻撃を物ともせず、バイオゾイド部隊は、突撃を続ける。

バイオラプター部隊を中心とするバイオゾイド部隊と改造フューラーを主力とするドライツェーン・ドラッヘンが、接近戦に突入した。

バイオティラノが大口を開けてキースのルシファーフューラーに襲い掛かる。

その獰猛な顎には、特殊合金の鋭い歯が並んでおり、噛付かれたら一溜りもないのは明らかだった。

「真っ先にお俺狙いかよ!」
キースは、ルシファーフューラーのウィングバインダーを右横に向け、推進器を全開にすることで、間一髪でその攻撃を回避する。ルシファーフューラーの加速性能が無ければ、細い頚を食い破られていただろう。

その場合は、ルシファーフューラーが戦闘不能に陥っただけでなく、パイロットであるキースも重傷を負っていたのは確実だった。

射撃攻撃は模擬弾や模擬レーザーによって行われる為危険は殆どない。だが格闘攻撃は、実際のゾイド同士のぶつかり合いである為、実戦同様の危険があったのである。

無論は、外付けの格闘兵装である、ストライクレーザークローやヒートクローやレーザーブレードなどは、最低出力に設定されている。

それでも鋼鉄の爪と牙、あるいは、数十トンにもなる機体同士のぶつかりあいは、恐るべき威力を発揮する。
この様に実弾を使用しない模擬戦でも、ゾイドその物のボディを使った肉弾戦や格闘戦に関しては、殆ど実戦と変わらない危険があったのである。

このことは、ZAC2130年代にヘリック共和国陸軍が行った統計では、訓練時のパイロットの死傷原因が最も高かったのは、近接戦闘訓練であったという結果で証明されていた。

「ラプター12、13はディノコマンダー2機をけん制射撃!」

「「了解」」

ユリアの指示を受けた2機のバイオラプターがロディ兄弟のディノコマンダー2機に火球を乱射しながら突進する。堪らず2機は、後退した。

他のバイオゾイド部隊も次々と敵機に襲い掛かる。

「まずはてめえからだ!」
フレーザーのバイオメガラプトルが両前足の爪を赤熱化させてラインのスピードフューラーに飛び掛かった。

「簡単にやられるかよっ」
ラインは、機体に接触する寸前に両前脚で握った巨大な鎌、ビームサイズでヒートハキングクローを受け止める。

「ちっ」
「おらぁ!」
バイオメガラプトルは、両腰部に内蔵されたバーニングジェットを噴射し、勢いに任せて押し切ろうとした。

徹底した軽量化がされているスピードフューラーは、踏ん張りが利かず次第に押され始める。

「お前の本気!見せてもらうぞっ」

ラインは、相棒であるスピードフューラーに話し掛け、モニター脇の赤いボタンを押した。

彼は、スピードフューラーの機体名称の由来にもなった能力を与える装備である背部のエナジースラスターの出力を全開にして押し返すつもりだった。

スピードフューラーの背部に搭載された小型エナジーチャージャーが高速回転し、大気中のタキオン粒子が吸収され、小型エナジーチャージャーに蓄積されたタキオン粒子をスピードフューラーの全身に循環させた。

高エネルギーを受けたエナジースラスターから赤い粒子を帯びた赤い推進炎が勢いよく吹き出し、スピードフューラーに爆発的な加速力を与えた。

その炎の翼は、タキオン粒子の力を推進力に換える別次元の推進装置……いかに強力とはいえ、通常の推進装置に過ぎないバイオメガラプトルのバーニングジェットでは対抗できる筈が無かった。

バイオメガラプトルは、先程とは逆に押し返される。

「こいつ!」
フレーザーは至近距離から火炎放射を浴びせようとしたが、それよりも早くスピードフューラーが跳躍、その場を離れた。

その直後、先程までスピードフューラーのいた空間にバイオメガラプトルの口から放たれた炎の奔流が浴びせられた。

「なんて速さだっ…わぁつ!」
スピードフューラーの高機動性に驚愕する暇も与えられず、フレーザーは強い衝撃に襲われる。スピードフューラーが、バイオメガラプトルの横合いから体当たりを浴びせたのである。

常人なら気絶している程の衝撃だったが、常人をはるかに凌駕する身体能力を後天的に付与された強化兵であるフレーザーは、即座に立て直し、ヒートハキングクローをスピードフューラー目がけて振り下ろす。

だが、スピードフューラーは、その時には、既に距離を取っていた。

次の瞬間、バイオメガラプトルの胴体に光弾の雨が浴びせられた。
それは、マンフレートのウィザードフューラーのビームマシンガンによる攻撃だった。

「ライン!エナジースラスターには気を付けろ、多用すると直ぐにジリ貧になるからな!」
「解ってるよ!マンフレート」

機体をZi-ARMSから譲り受けた時に散々Zi-ARMSの技術者から受けた説明を同僚から言われ、ラインは少し苛立った。
彼の機体を含む小型エナジーチャージャー搭載フューラーは、その強力な装備を乱用することは出来なかった。

それは、エナジースラスターやエナジーディフェンサー、レイストーム砲等の強力な兵装の搭載を可能にしたエネルギー源であるエナジーチャージャーが原因であった。

初のエナジーチャージャー搭載ゾイドであるエナジーライガーは、ロールアウト当初通常出力で30分、最大出力で5〜10分という短時間しか稼働できないという欠点があった。
これは当時、惑星Ziの大気中に存在するタキオン粒子を利用するエナジーチャージャーが技術として未完成で、試験段階だったというのが、その理由であった。
エナジーライガーの実戦投入から100年以上たった現在でこそエナジーチャージャーは、実用的な技術となり得ているが、未だに稼働時間と高出力の両立は出来ずにいた。

またこのタキオン粒子を利用した動力機関は、暴走した場合大惨事を齎す危険性もあった。

この危険性が戦場において現実化しかけたことは何度かあり、第3次中央大陸戦争末期、当時のネオゼネバス帝国皇帝の操縦するエナジーライガーが共和国軍のライガーゼロファルコンに敗北した際に危うく広範囲を焦土に仕掛けたヘリックシティの戦いのケースが有名である。

エナジーライガーを開発したネオゼネバス帝国を含め、エナジーライガー以外正式に採用されたエナジーチャージャー搭載機がこれまで存在しなかったのも、この様な事情が原因であった。

これは、ルシファーフューラー等に搭載されている小型エナジーチャージャーも同様である。
またエナジーチャージャー搭載機は、エナジーチャージャーを過剰に使用した、あるいは破損した場合、その有り余るエネルギーが暴発し、自機のみならず、周辺にも甚大な被害を与える危険性を有していた。

ドライツェーン・ドラッヘンに供与されたこの<エナジーフューラー>シリーズは、暴走を防ぐため、小型エナジーチャージャーが稼働限界寸前まで達した場合、操縦コンピュータが強制的にエナジーチャージャーと機体の機能を停止させる様にセーフティプログラムが設定されていたのである。

そしてこれは、模擬戦でも健在で、エナジーチャージャーのエネルギーを多用する兵器を過剰使用した場合、自動的に機能停止する様に設定されていた。

このことは、即ち<エナジーフューラー>シリーズのパイロットは、エナジーチャージャーを過剰使用した場合、即座に模擬戦で敗者となるということを意味していた。

バイオメガラプトルとスピードフューラーは、共に約250kmの高速で近接戦闘を繰り広げた。
フレーザーの僚機のバイオラプター3機がヘルファイアーで、スピードフューラーを狙う。
それらの攻撃をマンフレートのウィザードフューラーがビームマシンガンで迎撃する。

「こいつらは俺がやる!」
背部のマグネッサーウィングと小型スラスターを全開にして跳躍、ラインのスピードフューラーにヘルファイアーによる攻撃を浴びせていたバイオラプター部隊に一気に肉薄する。

3機の目の前に着地すると同時に右前脚のEバスタークローを振るう。
その一撃を回避しきれず、バイオラプター3機が纏めてなぎ倒された。
普通の小型ゾイドならば、一撃で戦闘不能に陥り、機体そのものも大きく損傷を受けたのは間違いないが、この銀色の骸骨竜を守る流体装甲 ヘルアーマーは、持ち堪えた。

横転していた3機は、すぐに何もなかったかのように起き上がると攻撃を仕掛けてきた。
「ちぃ、しぶといな!」
敵の頑強さにマンフレートは歯噛みしつつ、攻撃を再び仕掛けた。
既に他のバイオゾイド部隊も、ドライツェーン・ドラッヘンのゾイド部隊と近接戦闘を繰り広げていた。

ハンスのキリングフューラーにバイオケントロがビーストスレイヤーを振りかざして突撃する。

「当たるかよ!」
キリングフューラーは、それを背部の大型レーザーブレード……エナジーカッターで受け止める。
高硬度に精錬されたヘルアーマーの剣と小型エナジーチャージャーのエネルギーを得た高出力レーザーの刃が激突し、眩い火花が飛び散る。

「食らえ!」
キリングフューラーは、バイオケントロの頭部目がけて、エナジーメタルクローを振り下ろす。

だが、その時には、既にバイオケントロは、バックステップで後退している。
「なんて反応速度だ!」
ハンスは驚いた。バイオケントロは、移動速度こそ遅いが、反応速度と瞬発力では高速ゾイド並みだ。それ以上に脅威的なのは、その機体特性を十二分に生かしている操縦者である。

「これならどうだ!」
バイオケントロは、鋭い棘が並んだ尻尾をキリングフューラーに叩き付ける。

「!!」
ハンスは、即座に小型スラスターを使って後方に下がる。
バイオケントロの尻尾の先端に付いた格闘兵装ヘルスパイクがキリングフューラーの胸部を掠め、装甲に傷を付けた。

「こいつめ!」
ハンスのキリングフューラーは、跳躍し、エナジーカッターとエナジーメタルクロー、ショルダーレーザーブレードの出力を全開にして飛び掛かる。

対するジュンのバイオケントロも背中に並んだバックランスと両肩のビーストスレイヤーでそれを迎え撃つ。
2機の恐竜型ゾイドは互いを切り刻むべく踊る様な激しい動きで互いの刃を振るった。

バイオケントロのヘルアーマーに大型ゾイドの装甲すら薄紙の様に切り裂ける威力を秘めたレーザーの刃が次々と振り下ろされるが、ヘルアーマーはそれらの一撃を受けても掠り傷一つ付いていなかった。

バイオケントロも一方的に攻撃を受けているわけではなく、即座に反撃する。

キリングフューラーは、装甲防御力が低いため、それらの斬撃を高機動で回避する。

攻撃力では、バイオケントロを上回っているが、防御力では軽量化されている分装甲が薄いキリングフューラーの方が不利だった。

「そこだ!」
エリアスのバイオトリケラは、ツインヘルホーンを発射し、バイオラプター3機と交戦中のウィザードフューラーを狙う。

頭部の2本の角 ツインヘルホーンには、ワイヤーが仕込まれており、射出することが可能だった。
その為、遠距離の敵にツインヘルホーンを射出し、敵機に突き刺すことでバイオトリケラの他の格闘兵装が届く範囲に引き寄せることも出来た。

「ただの角じゃねえのか?!」

マンフレートは、驚きつつも、機体を動かす。

ウィザードフューラーは、上に跳躍することで、飛んできたツインヘルホーンを回避する。

バイオトリケラは更に護衛機のバイオラプター達と共にウィザードフューラーに向かって突進を仕掛けようとしたその時、横合いからビームが浴びせられた。

「何だ?」
エリアスと3機のバイオラプターを操縦する強化兵は、思わず動きを止めた。

突如、ビームが飛んできた方向の空間が歪み、黒い恐竜型ゾイドが姿を現した。

それは、マックスのステルスフューラーだった。

「マンフレート!こいつはまかせろ。お前は、ラインを支援してやれ」
「ありがたいぜ!」
「…」
ユリアのバイオティラノは、相手側の指揮官機であるキースのルシファーフューラーを執拗に狙っていた。

バイオティラノの頭部が、数秒前までルシファーフューラーがいた場所を通過した。

「全く…しつこい限りだな。幾ら美人でもしつこい女は嫌われるぜ…」
キースは、一歩間違えば一撃で戦闘不能に追い込まれる攻撃を間一髪回避しながら、皮肉を言う。

「…」
対する骸骨竜の群れを率いる銀髪の少女は、表情一つ変えず、目の前の敵への追撃を継続する。

バイオティラノに随伴するバイオラプター部隊も、巻狩りの勢子の様に、ルシファーフューラーに火球を浴びせ、接近できればヒートハキングクローを振りかざして飛び掛かり、バイオティラノの攻撃の成功率を上げようと試みる。

バイオラプターの装備は、このクラスの小型ゾイドの兵装としては、強力だが、ルシファーフューラーを撃破する威力はない。

だが、1機では、それ程ではなくとも数の力により、それは十分な脅威に変貌する。
バイオラプターの攻撃に気を取られれば、バイオティラノが襲い掛かる。
逆にバイオラプター部隊を無視すれば不意を突かれてバイオティラノの攻撃に対応できない。
襲われる側のキースは、2つの脅威に警戒することを余儀なくされていたのである。

対するキースは、ルシファーフューラーのウィングバインダーをシールド代わりに使いつつ、それらの小煩い攻撃を防ぎ、バイオティラノからの強力な一撃を回避する。

ルシファーフューラーの護衛機であるハインツのディフェンスフューラー、ロディ兄弟のディノコマンダー・ソルジャータイプ2機も、バイオティラノの援護のバイオラプター部隊を排除すべく射撃する。

バイオラプターのヘルアーマーに次々と攻撃が着弾する。
その一撃一撃は、正確であったがヘルアーマーによって弾き返され、無力化された。

バイオティラノが尻尾を振り回し、ルシファーフューラーを叩き潰そうとする。
太い尾の一撃をルシファーフューラーは、跳躍することで回避する。

「「そこだ!」」
ロディ兄弟のディノコマンダー2機が、ほぼ同時にビームガトリングの集中射撃をバイオティラノの胴体に叩き込むが、全身を覆うダークネスヘルアーマーの前には雨滴同然だった。

ハインツのディフェンスフューラーは、バイオラプター部隊の攻撃に対する盾として、指揮官機を防衛した。

ルシファーフューラーを狙って撃ち込まれるバイオラプター部隊からのヘルファイアーをエナジーディフェンサーで弾き返す。

この3機の存在により、キースは危機的状況に陥ることなく、バイオティラノとなんとか渡り合うことが出来ていた。

突如、ユリアのバイオティラノの援護に就いていたバイオラプター部隊の中からバイオラプター3機が分離した。

3機の進行方向上にいたのは、フェリックスのディノコマンダー・スカウタータイプだった。

バイオラプター3機が、フェリックスのディノコマンダー・スカウタータイプに襲い掛かろうとしているのは明らかだった。

「僕狙いか!」
自機に向かって来る3機の銀色の恐竜型ゾイドを見たフェリックスは、直ぐにその目的を見抜いた。

この時、フェリックスのディノコマンダー・スカウタータイプは、装備した電子兵装で敵機の状態を確認し、敵の防御に弱点が無いか探っていたのであった。

ユリアは、そのことには気づかなかったものの、敵側の電子戦機の存在を容認する程甘くは無かった。

先頭を走るバイオラプターが、ディノコマンダー・スカウタータイプに飛び掛かった。
フェリックスのディノコマンダー・スカウタータイプは、それを辛うじて回避する。

「フェリックス!下がれ、その機体じゃこいつらと正面から戦うのは自殺行為だ!」
「わかったよ!」
バイオラプター3機にハンスのキリングフューラーが立ち塞がった。バイオラプターのヒートクローとキリングフューラーのレーザー格闘兵器が煌く。

[576] 西方大陸機獣戦記 6章 中篇 ロイ - 2017/04/25(火) 22:40 -


ニーナのデストロイフューラーとデュラントのサタンフューラーは、上空を飛び回るバイオプテラやバイオラプター・グイに向けて大火力を撃ち上げていた。

レイストーム砲から放たれた虹の様に多彩な色のレーザーがバイオラプター・グイの編隊に浴びせられる。

デストロイフューラーの3連レールキャノンとマイクロミサイルが上空に向けて火を噴いた。

編隊が崩れた所を狙ってヨハンのロードゲイルBGが突撃し、バイオラプター・グイに至近距離からビームガトリングを叩き込んだ。

「小型ゾイドの防御力じゃないだろっ」
平然と飛行を続けるバイオラプター・グイを見たヨハンが落胆する。
だが、彼らは上空への攻撃を止めない。
元々撃破できなくとも問題はないと考えていた。

彼らの目的は上空のバイオプテラとバイオラプター・グイに攻撃させないことだからである。

「叩き斬ってやる!」
ジュンのバイオケントロが両肩のビーストスレイヤーを前に倒して突撃する。
その姿は、槍を振りかざして敵陣に突撃する騎士の如くだった。

先程までバイオケントロと彼は、ハンスのキリングフューラーと交戦していた。
それが、ハンスがフェリックスの援護に向かったことで、自由に動けるようになったのである。

バイオケントロは、上空の飛行バイオゾイド部隊に対空射撃を行うデストロイフューラーとデュラントのサタンフューラーに突進する。

「ニーナ!」
「分かってるわ」
2機は、慌てて散開する。

「逃がすか!」
バイオケントロは、背中に並んだ棘、バックランスを2機に向けて射出する。
バイオケントロのバックランスは、単なる格闘戦用の兵装ではなく、ミサイルの様に撃ち出すこともできた。

「今よ!」
対空弾幕が崩れたのをみたエリーは指揮下のバイオラプター・グイに指示を出す。
間髪入れず、バイオラプター・グイ部隊が上空から襲来する。

アイスハキングクローを振りかざし、地上のドライツェーン・ドラッヘンのゾイドを狙う。
冷気を帯びた爪がデストロイフューラーのロングビームランチャーを掠める。

「くっ」
「デュラント!バイオプテラをけん制してくれ!」「了解」
サタンフューラーが上空目がけてレイストーム砲を発射する。
上空に向けて発射されたレーザーの嵐がバイオプテラとバイオラプター・グイに命中する。

そのレーザーは、ヘルアーマーによって拡散される。
ヨハンのロードゲイルBGも、ビームガトリングをバイオラプター・グイに向けて連射する。

「何度やっても無駄よ!」
「叩き落してやるぜ!」
2機のバイオラプター・グイが襲い掛かった。

「…そこだ!」
ヨハンは、先程のフェリックスの分析、どんな重装甲も、装甲である以上継ぎ目がある、という発言を思い出し、継ぎ目らしき場所に狙いを定めた。

ロードゲイルBGのビームガトリングが火を噴いた。

「当たれ!」
光弾の雨が、バイオラプター・グイ2機の一点に浴びせられた。
直後、モニター上の2つの光点が消失した。

ヨハンのロードゲイルBGは放った一撃は、見事、バイオゾイドの弱点である関節部に命中していた。

ヘルアーマーに覆われていない関節部に攻撃を受けた2機のバイオラプター・グイは撃破認定された。

「ハルカがやられた!」
「そんな!」
バイオラプター・グイを操縦する強化兵の少年少女達は、バイオゾイドの防御力に自信を持っていた。

他のバイオゾイドのパイロットも同様だった。

「関節部を…わざと狙ってやったというのか?」「まぐれあたりだ!」
バイオラプター2機が、上空のロードゲイルBGに向けてヘルファイアーを放つ。

「当たりませんよ…っと!」
ヨハンは、それらの攻撃を、機体を傾けるだけで回避する。

「そこ!」
ロードゲイルBGにバイオプテラが突進する。
両翼のトマホークウィングは、飛行システムとしてだけでなく、ストームソーダやレドラーのレーザーブレードの様に敵機をすれ違いざまに切断する格闘兵装としても機能した。

「おっと!油断はできないな」
ヨハンは、ビームガトリング砲で迎撃しつつ、その攻撃を回避する。
ロードゲイルBGの機体の真横を青い機影が駆け抜けた。
後1秒でも回避が遅れていたら真っ二つにされていただろう。

間髪入れず、バイオラプター・グイがアイスハキングクローを煌かせて突っ込んでくる。

次々と突撃して来る飛行バイオゾイドの攻撃を回避し、ビームガトリングで、牽制する。
バイオラプター・グイのパイロット達も、戦友の二の舞を避けたいのか、先程とは異なり、ちゃんと回避運動を取る。

「全員油断するな!バイオゾイドの防御力を過信すると命取りになる。連携して各個撃破しろ。ディノコマンダー系を優先して攻撃、飛行部隊はロードゲイルの攻撃を優先!制空権を握った方が有利になるんだ。恐れるな!数ではこちらが勝っているんだ」

ユリアは、部隊に損害が出たことを気にも留めず、部下に指示を出す。部下のバイオラプター部隊も友軍機が撃破されたことに動揺することなく、攻撃を継続する。

「皆!あれを見たな。ヨハンが実演してくれたように、俺達も反撃開始と行くか」
「おう!」
「了解!」
それまで防戦一方だったドライツェーンドラッヘンは一転して反撃に出た。
マンフレートのウィザードフューラーはEバスタークローでバイオラプターを1機撥ね飛ばす。

高速回転するドリルの一撃を受けたバイオラプターは崩れ落ちる。
ウィザードフューラーが、バイオラプターが立ち上がるよりも早く、首の関節部に右前足の爪…エナジーレーザークローを振り下ろす。

その一撃を受けたバイオラプターが崩れ落ちた。
僚機のバイオラプター2機が援護する暇も無かった。

「こいつは俺が倒す!」
フレーザーのバイオメガラプトルは、両前脚のヒートハキングクローを振り回し、スピードフューラーを追撃する。

「食らえ!」
その横合いからマンフレートのウィザードフューラーが右前脚のEバスタークローを回転させながら突撃する。

「ちっ!」
右横から突っ込んでくる敵機をにらみ据えたフレーザーの視界に入ってきたのは、高速回転する光の三角形だった。
高出力Eシールドを纏ったその一撃を、フレーザーのバイオメガラプトルは、横っ飛びで回避する。

バイオラプター3機がヘルファイアーでバイオメガラプトルを支援する。

「…姿を隠しても無駄だ!」
エリアスのバイオトリケラは、マックスのステルスフューラーと交戦していた。
ステルスフューラーは、機体に装備した光学迷彩とその他の攪乱兵装を使って、バイオトリケラと僚機のバイオラプター3機と翻弄していた。

対するバイオトリケラは、景色に溶け込んでいる敵機を貫かんと、怒り狂った猛牛の様に2本の角 ツインヘルホーンを振り回す。

周囲のバイオラプター3機も火炎放射を周囲に浴びせてステルスフューラーの姿を捜す。
一見するとバイオトリケラとその僚機は、ステルスフューラーの姿を捉えることが出来ず、苦戦しているように思える。

だが、実際はステルスフューラーの方が苦戦していた。

固まった4機に奇襲を仕掛けるのは、袋叩きに会うリスクがあった上、相手も光学迷彩で姿を消したステルスフューラーを目を凝らし、耳を澄ませて待ち受けていたからである。

特にバイオトリケラは、隙を中々見せることなく、少しでも油断すれば、ツインヘルホーンの餌食になる。
時折、ニーナのデストロイフューラーがレールキャノンとマイクロミサイルで支援攻撃を加えるが、バイオトリケラには効いた様子すらなかった。

「大物を狙うのは後回しにすべきだな…まずは…」小物から仕留めていくか…そう心の中で呟くとモニターに映る敵機…バイオトリケラの周囲に展開する1機のバイオラプターに狙いを定めた。

マックスのステルスフューラーは、光学迷彩と消音装置を生かして敵に気付かれず接近すると、そのバイオラプターの首筋に高周波ブレードを突きたてた。
ヘルアーマーに守られていない関節部をその一撃は、正確に射抜いていた。

首を切断されたと判断されたバイオラプターは、撃破認定され、この模擬戦闘からの退場を余儀なくされた。

「ケイト!」
「黒い奴!仕留めてやる」
バイオトリケラが、ステルスフューラーに向けて突っ込む。

「当たるか!」
ステルスフューラーは、バイオトリケラの角と接触する寸前で跳躍。
バイオトリケラの背中にビームを叩き込みつつ、その背後を取る。

バイオトリケラは、即座に反転し、角の生えた頭を振るった。
ツインヘルホーンが横薙ぎにふるわれ、ステルスフューラーは、それを紙一重の差で回避する。

もし、マックスの判断が一瞬でも遅かったらステルスフューラーは、胴体に一撃を受けて、撃破されていただろう。

「逃がすか、このまま切り裂いてやる」
「流石にこの機体の装備だと厳しいわねっ」
ジュンのバイオケントロは、ニーナのデストロイフューラーを追い詰めていた。

近接格闘戦用と重砲撃戦型の接近戦…常識的に考えれば、直ぐに決着がついているのが普通であったが、バイオケントロは、デストロイフューラーの黒い装甲に傷を付けつつも、未だに撃破することが出来ないでいた。
デストロイフューラーの方も、矢継ぎ早に振るわれる、バイオケントロの肩の2本の大剣の連撃に防戦一方だった。

それでも何とか持ちこたえられているのは、デストロイフューラーの性能とパイロットであるニーナの技量によるものが大きかった。

「食らいなさい!」
デストロイフューラーが右前脚に装備した特殊合金製の棘付鉄球 クラッシャーハンマーを発射する。

このプラネタルサイトを内蔵した特殊合金製のハンマーは、超小型のブースターも内蔵している。

バイオケントロはそれを回避し、更にビーストスレイヤーで攻撃を仕掛ける。

「ハンス!あんた何とかならないの?」
「今すぐには無理だ!悪いが他の奴を頼む」

先程まで彼と交戦していたハンスのキリングフューラーは、強化兵のバイオラプター2機と交戦していた。
最初、戦闘に加わっていた3機目のバイオラプターは、不用意に接近してショルダーレーザーブレードで首を切り裂かれて戦闘不能されていた。

だが、2機のバイオラプターに乗る強化兵は、自分達の役目を十分認識していた。


彼らの役目は、ジュンのバイオケントロが、デストロイフューラーを撃破するまでの間、少しでもキリングフューラーと交戦し、戦闘加入を阻むこと。

2機のバイオラプターを操縦する2人の強化兵は、それぞれキリングフューラーを相手に露骨な陽動戦術を行っていた。

互いに積極的に戦力的に格上の敵機に挑むことなく、後退を繰り返して時間を稼ぐ。

しかも、ハンスがニーナの支援に向かおうとすれば、護衛対象であるフェリックスのディノコマンダー・スカウタータイプを攻撃してその場にキリングフューラーを留める様に仕向けていた。

彼らの元々の獲物であったフェリックスのディノコマンダー・スカウタータイプは、デュラントのサタンフューラーに護衛される形で、敵機の情報を収集し、時折味方に効率的な対応策を通信で伝えていた。

「厄介な野郎だ!」
ハンスは、何とか目の前のバイオラプター2機を撃破しようとしていたが、直ぐに倒すことは困難であった。

そのすぐ横で、マンフレートのウィザードフューラーとラインのスピードフューラーは、フレーザーのバイオメガラプトルとその僚機のバイオラプターと交戦していた。
2機の漆黒の竜は、銀色の骸骨竜の攻撃を回避しつつ、その銀色の装甲に次々と攻撃を叩き付ける。

「ライン!ニーナの支援に向かうんだ!このままじゃやられちまう。」
ニーナのデストロイフューラーが追い込まれつつあるのを見たマンフレートは、ラインに言う。

「こいつはどうするんだ?」
「俺一人で支えれる!お前の機体の速力なら直ぐに助けに行ける!」
「…分かったよ」
ラインのスピードフューラーがエナジースラスターを全開にしてニーナのデストロイフューラーの援護に回った。
バイオケントロ目がけて、ビームサイズを振り下ろす。

「新手か」
バイオケントロは、機体を傾け、左肩のビーストスレイヤーでビームサイズを受け止める。「落ちろ!」その横からバイオラプター1機がヒートハキングクローを振り上げて飛び掛かってくる。「邪魔だ!」ラインはその攻撃を回避すると、バイオラプターの足首を、ビームサイズで薙いだ。

足首のヘルアーマーに覆われていない関節部を切り裂かれたバイオラプターは悲鳴を上げて倒れ込む。すぐにバイオケントロがビーストスレイヤーで猛攻を仕掛けてくる。ラインのスピードフューラーはそれを回避するとビームサイズを振るう。

ニーナのデストロイフューラーが、至近距離からレールキャノンを撃ち込んでバイオケントロの体勢を崩す。いかにヘルアーマーと言えど、衝撃までは防ぎきれないようだった。
「ラプター隊全機バイオケントロを一時援護。」

バイオティラノに随伴するバイオラプター部隊が一時的にバイオケントロの援護に回った。
デストロイフューラーとスピードフューラーに向けて次々と火球が放たれる。

「こいつら!」
ニーナのデストロイフューラーが、バイオラプター部隊に向かって砲撃を行う。デストロイフューラーの背部に並べられたロングビームランチャー2門とプラズマ粒子砲、3連装高速レールガン、両脚部側面のマイクロミサイルポッドを発射した。

小型ゾイドなら大隊ごと消し飛ばせる程のビームと砲弾、ミサイルの嵐がバイオラプター部隊に降り注ぐ。

ニーナは、先程のヨハンの様に関節部を狙うのではなく、ヘルアーマーの防御性能の限界以上の攻撃を叩き込むことでバイオラプターを撃破する戦法を試そうとしたのである。

この戦術は、Eシールド等のエネルギー防御兵器に対する戦術として知られていた。

また大火力、広範囲を攻撃することできるデストロイフューラーの兵装では、狙撃よりも集中砲火によって防御を撃ち破る方が向いていた。
小型ゾイドに対しては明らかに過剰な砲撃がバイオラプター部隊に浴びせられた。

「無駄だ。」エリアスのバイオトリケラが、彼らの前に立ち塞がった。
バイオトリケラがフレアシールドを展開、後方にいたバイオラプター部隊を庇う。

猛火の様なデストロイフューラーの重火器は、バイオトリケラのフレアシールドが展開する電磁バリアによって防がれた。

「Eシールド!」
「シールドまで装備してたのかよ!」
マックスは、思わず戦闘中であることを忘れて頭を抱えたくなった。

唯でさえ隙が無いと言うのにヘルアーマーに加えてEシールドまで搭載している等、彼にとっては悪夢そのものだった。

バイオトリケラの電磁バリアとヘルアーマーの組み合わせは、ステルスフューラーの得意とする奇襲戦法の有効性を著しく下げることになる。
奇襲は、相手の防御の隙を突くことが欠かせないからである。

もし奇襲攻撃ではなく、正面戦闘に持ち込まれた場合、バイオトリケラにステルスフューラーが勝利する可能性は低かった。

先程までラインと交戦していたジュンのバイオケントロが、一瞬の隙を突き、ニーナのデストロイフューラーに接近し、襲い掛かった。

「まずは1機」
右肩のビーストスレイヤーがデストロイフューラーの首を狙う。

「やらせるか!」
ラインのスピードフューラーは、エナジースラスターを全開にしてそれを阻止しようとする。

ビーストスレイヤーがデストロイフューラーの首にふれるよりも早く、スピードフューラーがバイオケントロのビーストスレイヤーを、両前足に握ったビームサイズで受け止めていた。

それは殆ど、瞬間移動に近い動きであった。「こいつ!」更にスピードフューラーが、バイオケントロの脇腹に蹴りを叩き込んだ。

「ライン!助かったわ」

デストロイフューラーは、至近距離からレールキャノンを撃ち込む。
この一撃を受けてバイオケントロは後退する。

「食らえ!」
すかさずデストロイフューラーが、右前脚に装備した格闘兵装 クラッシャーハンマーを発射した。

内蔵されたロケットブースターの加速を受けた特殊合金製のモーニングスターがバイオケントロの脇腹に向けて突撃した。

バイオケントロは、ビーストスレイヤーでその一撃を受け止めた。
ビーストスレイヤーで受け止められたクラッシャーハンマーは、地面に落下し、地面を大きくへこませた。

同時に内蔵されたプラネタルサイトが励起され、紫色に輝く重力波が放出された。

模擬戦闘であるため、重力波も実際は放出されないが、模擬戦闘に参加している各機のモニターには、CGによって実戦同然の光景が再現されている。

バイオラプター3機が、デストロイフューラーにヘルファイアーを発射する。

デストロイフューラーは、それらの攻撃を回避し、砲撃を見舞う。3連装レールキャノンが唸りをあげ、バイオラプターを狙う。

「残りは1機…」
「どこにいる…隠れてないで出てこい!」

同じ頃、エリアスのバイオトリケラとマックスのステルスフューラーの戦闘は、今の所、ステルスフューラーの有利に進んでいるように見えた。

既にバイオトリケラの僚機のバイオラプター3機の内2機は奇襲攻撃で、撃破され、残る1機も時間の問題だった。

ステルスフューラーが光学迷彩解除し、バイオラプターを横から押し倒す。

「とどめだ!」
バイオラプターが立ち上がるよりも早くマックスのステルスフューラーが、右前脚のシールドに隠された高周波ブレードを振り下ろす。
その一撃を首の関節部に受けたバイオラプターは、首を切断されたと見做され、破壊認定されたゾイドと同様に動きを止めた。

「これで、残る1機だ!」
「!」
バイオトリケラは、獲物に向けて、ツインヘルホーンを射出した。ステルスフューラーは、それを掻い潜り、光学迷彩を駆使して接近、光学迷彩を解除すると同時に跳躍、バイオトリケラの頭上から高周波ブレードを振り下ろす。

狙うのは、バイオトリケラのフレアシールドの裏側に当る首筋―――ヘルアーマーに覆われているかは不明だったが、バイオラプターのことを考えると、無防備な部分の可能性は高かった。
だが、その振動する刃は、バイオトリケラの発生させる電磁バリアによって防がれた。

「ふん!」
ステルスフューラーは、ブースターを全開にしてバイオトリケラと距離を取った。
バイオトリケラのツインヘルホーンが、ステルスフューラーの立つ方向に向けられた。

再びツインヘルホーンを射出するつもりだろう。

次の瞬間、横合いからレーザーの雨が、バイオトリケラに浴びせられた。
突然の攻撃にバイオトリケラのフレアシールドの電磁バリアも展開が間に合わず、ヘルアーマーで受け止めることとなった。

「加勢するぜ!」
デュラントのサタンフューラーのレイストーム砲による攻撃である。
「デュラント!助かるっ」

[577] 西方大陸機獣戦記 6章 後篇 ロイ - 2017/04/25(火) 23:09 -



ユリアのバイオティラノの護衛のバイオラプター部隊は、ヘルファイアーを発射する。

「!!」
対するキースのルシファーフューラーとその護衛を務める3機も射撃を浴びせる。
だが、先程と同様にバイオラプターのヘルアーマーに弾き返される。

バイオラプターが、火球を放つべく、口を開けた。

「そこだ!」
マックス・ロディのディノコマンダー・ソルジャータイプが、ビームガトリング砲を連射した。

その一撃は、バイオラプターの口腔内に着弾。
バイオラプター1機が撃破された。

同時にクルトのディノコマンダー・ソルジャータイプも、ビームランチャーでバイオラプターを撃破した。

片割れと同様にヘルファイアーの砲口である口腔内を狙撃した結果である。

「敵機確認、攻撃開始」

バイオティラノの左前脚の爪、サンダーハキングクローがクルトのディノコマンダー・ソルジャータイプの胸部装甲を貫いた。

その一撃は、胸部ネオコアブロックを破壊したと判定され、撃破認定を受けたクルトのディノコマンダー・ソルジャータイプは、その場に崩れ落ちた。

「早すぎるっ!!」
それは、ドライツェーン・ドラッヘン側の最初の撃破機だった。

「クルト!よくもっ」

「ようやく1体…流石に手ごわいですね。」
ユリアのバイオティラノは、キースのルシファーフューラーとその護衛機の2機を仕留めるべく更に攻撃を強める。
ハインツのディフェンスフューラーが火球をエナジーディフェンサーで防御する。

キースのルシファーフューラーが、ウィングバインダーの翼端に格納されたレーザーマシンガンを連射、2機のバイオラプターの口を撃ち抜き、撃破した。

バイオラプター部隊の過半数が撃破され、ユリアのバイオティラノを護衛するバイオラプターの数が減った。

その隙にマックス・ロディの操縦するディノコマンダー・ソルジャータイプが、バイオティラノに接近した。

彼が狙うのは、バイオティラノの腹部のダークネスヘルアーマーに覆われていない関節部…普通なら狙うことは困難だが、至近距離からならば、態々狙う必要はない。

彼は、至近距離からの砲撃で、バイオティラノの重装甲を撃ち抜こうとしたのである。

だが、その攻撃は容易く迎撃された。
迎撃したのは、バイオティラノの脇腹から飛び出したもう一つの腕である。
「何!」
バイオティラノの胴体からもう2つの腕が現れたことにマックスは驚愕した。

それは、バイオティラノの格闘兵装の1つ…リブ・デスサイズであった。

この腹部に隠されたもう一つの両腕は、普段は脇腹に格納されており、接近してきた敵機を捕捉、破壊することが出来た。
リブ・デスサイズは、マックスのディノコマンダー・ソルジャータイプを正確に捕捉し、破壊した。

バイオティラノは、右のリブ・デスサイズでビームランチャーを切断し、左のリブ・デスサイズでディノコマンダー・ソルジャータイプの胴体を貫いた。

その一撃は、外科手術的な正確さで、マックスのディノコマンダー・ソルジャータイプの胸部と、装甲に守られたコックピットを貫いていた。

仮想空間上で行われる模擬戦闘でなければ、マックスの肉体からは生命が失われていたであろうことは間違いなかった。

実際にはコアも、コックピットも無事だったが、リブ・デスサイズの先端のサンダーハキングクローは、ディノコマンダー・ソルジャータイプの胸部装甲を破壊していた。

片割れの後を追うかの様にマックスのディノコマンダー・ソルジャータイプも撃破認定され、機能停止した。

「畜生!双子がやられちまった。」
「隠し武器まで仕込んでるのかよ…二人とも敵は取ってやるぞ!」
「ハインツ。例の戦法でいく…いけるか?」
キースが通信を送ると同時にルシファーフューラーのウィングバインダーの両翼端のライトが点滅した。
電波通信よりも古い通信手段、発光信号による合図である。
それは、傍受可能な電波通信と異なり、傭兵部隊 ドライツェーン・ドラッヘンのみが使用している独自の信号であり、他の人間が見ても単なる点滅する光としか思わない。

「了解しました。隊長」

彼らが編み出したのは、ディフェンスフューラーが囮となり、ルシファーフューラーがその後方から攻撃するという戦法である。

ルシファーフューラーのウィングバインダーの内蔵火器による火力支援と同時にディフェンスフューラーがビームキャノンを連射した。

バイオティラノと随伴機のバイオラプター部隊…といってももはや残り数機のヘルアーマーにビームが次々と着弾する。

バイオティラノもヘルファイアーを発射する。
狙いは、ディフェンスフューラーではなく、その後方にいるルシファーフューラーである。

バイオラプターのそれよりも大きな火球が轟音と共に迫る。

だが、それは、ディフェンスフューラーのエナジーディフェンサーによって防御された。

バイオティラノは、さらに数発ヘルファイアーを撃つが、同様に防御された。
ユリアの方も、この敵指揮官機の盾となっている改造バーサークフューラーを撃破しないことには、ルシファーフューラーを撃破することが出来ないと認識し、ハインツのディフェンスフューラーに狙いを定めた。
ディフェンスフューラーにバイオラプターが数機襲い掛かった。

ディフェンスフューラーは、バイブレーションアックスを振り下ろした。ナノレベルで振動する斧の一撃にこれまで無敵の防御力を誇っているかに見えたヘルアーマーもダメージを受けている様だった。

バイブレーションアックスに殴り倒されたバイオラプターが地面に倒れ込む。

その機体は、内部機関に衝撃を受けたと判断され、戦闘不能に陥った。
それを見た僚機がたじろいだ。

バイオティラノがヘルファイアーを連射、対するディフェンスフューラーは、先程と同様に背部のエナジーディフェンサーで、自機に襲い来る火球を偏向する。
周囲のバイオラプターも別の方向から火球を撃ち込むが、同様にディフェンスフューラーに命中する前に偏向される。

「やはり射撃兵器でその防御を撃ち破るのは困難…格闘戦で対処します…」
自機の射撃攻撃を弾き返すのを見たユリアは、格闘戦でディフェンスフューラーを撃破した方が効率的だと判断した。

バイオティラノの膂力ならディフェンスフューラーをスクラップにすること等容易であった。

バイオティラノがディフェンスフューラーに向かってダッシュ、その巨体からは考えられない程の瞬発力である。

ディフェンスフューラーは、その突進を回避すると同時に、左肩に装備されたバイブレーションアックスをバイオティラノの脇腹に叩き込む。

ナノレベルで振動する刃の一撃は、バイオラプターのヘルアーマーにも損傷を与えることが出来たが、それを超える防御力を持ったバイオティラノの全身を覆うダークネスヘルアーマーは、それを受けても平然としていた。

「硬いな!」
舌打ちしつつハインツは、自機を跳躍させ、バイオティラノとの距離を取る。

バイオティラノは、ディフェンスフューラーを追撃する。
キースのルシファーフューラーがレーザーマシンガンを展開し、それをバイオティラノに向けて発射した。

ウィングバインダーの両翼端部に折りたたまれていた銃身から断続的に光弾が雨の如く発射された。

光弾の雨がバイオティラノの全身に叩き付けられる。

だが、バイオティラノにはそれらの攻撃は牽制にもならなかった。

だが、その隙にディフェンスフューラーは、更に距離を取ることに成功していた。

バイオティラノは、指揮官機であるキースのルシファーフューラーに襲い掛かる。ルシファーフューラーは、左右のウィングバインダーを大きく広げ、高密度ビームキャノン ビームアローを発射した。

ウィングバインダー内に収納されていた砲塔が火を噴いた。

大型ゾイドの重装甲を薄紙の様に貫く威力を持つ高密度ビームの矢がバイオティラノに襲い掛かる。

緑に輝くビームは、バイオティラノの腹部に着弾した。だが、バイオティラノのダークネスヘルアーマーによって弾かれる。バイオティラノはダメージを殆ど受けていなかった。

「ちっ、反則すぎねえかぁ」

キースは、必殺の一撃がダメージになっていないことに落胆し、思わずそう言った。

バイオゾイドの防御力の高さは理解していたが、弱点に見えた箇所まで防がれたのは想定外だった。

「同感ですよ隊長!」
上空からビームガトリング砲で支援しながら、ヨハンは吐き捨てる様に言う。

彼の乗機であるロードゲイルBGは、隙を見ては追加装備のビームガトリング砲でビームの雨を叩き込んでいるが、バイオティラノの動きが悪くなる気配すらなかった。

「落ちろ」
バイオラプター・グイがフリージングブレスを発射した。
ヨハンのロードゲイルBGを狙っての攻撃である。装甲を凍てつかせる冷凍弾が、ヨハンのロードゲイルBGを掠めた。

バイオラプターのヘルファイアーの代わりに装備されたこの兵装は、装甲を凍結させ、その防御力を低下させる効果を持っており、また関節部等に命中した際には機動性を低下、行動不能に追い込むことも可能で、装甲の薄い飛行ゾイドには十分に脅威となる。

特にブロックスゾイドであるロードゲイルBGの場合もっと深刻であった。

人工ゾイドとでも言うべき、ブロックスゾイドは、ボディを形成するブロックパーツと手足、兵装である武装、装甲パーツで構成されているという、その構造上従来のゾイドに比べて装甲防御力で劣っていた。

ブロックスゾイドは、他のゾイドと異なる特性として損傷を受ければ、自動的に損傷個所をパージすることで誘爆の危険から回避することが出来たが、これは少しでも機体とパイロットの生残性を上げるという目的があった。

またレオブレイズやレオゲーター等Eシールドを装備した機体は、ブロックスの防御性能の問題をなんとか解決する為にEシールドを装備していたのである。

ロードゲイルにとって冷凍弾は、通常の被弾と異なり、被弾箇所のパージが出来ない厄介な攻撃と言えた。

青白い冷気の弾丸をロードゲイルBGはマグネッサーウィングを使って、縦横無尽に空を駆け、回避する。

「フェリックス!敵の装甲の欠点は見つかったか?」
キースは、敵に対する分析を行っているフェリックスに通信を送る。
「関節部以外で頼むぞ」
ラインが言う。
「今の所装甲自体を撃ち破る手段は見当たらないね。ただ興味深いことが見つかったよ隊長」
「なんだ?」
「彼らの機体の装甲が高エネルギー兵器を受け止める時、装甲の表面温度が高まるみたいなんだ。しかも、排熱のせいか分からないけど、その後機体の動きが鈍くなるみたいだ。特に小型機の方はそれが顕著に表れてる。デストロイフューラーとサタンフューラーの大火力を使えば、敵の動きを封じられるかもしれない。」
「分かったフェリックス、引き続き敵の情報収集を頼んだぞ」

上空に向けてウィザードフューラーは、左前脚のビームマシンガンを乱射し、ヨハンを支援する。
バイオラプター・グイは散開してそれを回避する。

「よそ見しやがって!」
フレーザーのバイオメガラプトルがヒートハキングクローを振りかざしてウィザードフューラーに飛び掛かった。
ウィザードフューラーは、バックステップでそれを回避する。

「食らえ!」
Eシールド展開状態のEバスタークローの突きを、突進してくるバイオメガラプトルに食らわせる。

バイオメガラプトルは一瞬体勢を崩すが、直ぐに反撃してくる。

「…!(ディフェンスフューラー…こちらの火力では打ち破れませんか。」
バイオティラノは、敵の指揮官機であるキースのルシファーフューラーと、その盾を務めるハインツのディフェンスフューラーと交戦していた。
この戦闘に、マックスのステルスフューラーも光学迷彩で忍び寄りつつあった。

同じ頃、デュラントのサタンフューラーは、持ち前の大火力でバイオトリケラの突進を阻んでいた。

それでも、電磁バリアとヘルアーマーの防御力を持つバイオトリケラを撃破できるわけではない為、動きを止めることが出来ているに過ぎない状態であったが、それでもステルスフューラーの動きを警戒していることもあってエリアスは迂闊に機体を突撃させることが出来なかった。

「…」
ユリアのバイオティラノは、胴体に格納された格闘戦用のクロー リブ・デスサイズを展開して、彼らに突進した。

「くっ!」
キースのルシファーフューラーは、跳躍してそれを回避する。跳躍した黒い機影をバイオティラノは、太い尾を振るって叩き落そうとする。

キースは、衝突する寸前でバイオティラノの一撃をウィングバインダー内臓のイオンブースターで回避すると、空中で方向転換し、バイオティラノの後ろを取る。
そして至近距離からビームアローを叩き付ける。
この高出力ビーム兵器は、矢じり型のビームを放つことからそう呼ばれていた。

だがバイオティラノは、大したダメージを受けた様子はなかった。

マックスのステルスフューラーが光学迷彩を解除し、バイオティラノに奇襲攻撃を仕掛ける。

「これで仕留める!」
ステルスフューラーの両肩に装着したショートシールドユニットが、肩から両腕部に移動する。

対するバイオティラノは、腹部に収納された格闘兵装 リブ・デスサイズを振るう。

ステルスフューラーは、リブ・デスサイズによる迎撃を掻い潜り、高周波ブレードをバイオティラノの胸部に叩き付けた。

「…!?無駄です」

だが、バイオティラノの全身を覆う漆黒のヘルアーマーは、その攻撃を簡単に弾いた。

攻撃こそ回避し損ねたものの、ユリアとバイオティラノは、即座に反応し、ステルスフューラーに襲い掛かる。

バイオティラノは、大口を開けてステルスフューラーを噛み砕こうとする。

「なんて反応速度だ!」
ステルスフューラーに乗るマックスの背中を悪寒と共に冷たい汗が流れた。

もし一瞬でも遅れていたらバイオティラノの牙で胴体を粉々に噛み砕かれていただろう。

ルシファーフューラーがウィングバインダーのビームアローが2発ユリアのバイオティラノに叩き込まれる。

その狙いは、バイオティラノの頭部……正確に言えば、今剥き出しの口腔内のヘルファイアーの発射口である。
「!!」
だが、バイオティラノは寸前で口を塞いで、その攻撃を受け止めた。


同じ頃、空中では、ヨハンのロードゲイルBGとエリーの飛行バイオゾイド部隊が交戦していた。

既にバイオラプター・グイは、1機にまで減少し、他は、撃破されていた。

更に最後の1機は、ニーナのデストロイフューラーの対空射撃を受けてバイオラプター・グイは、動きを鈍らせていた。

ヘルアーマーは大火力攻撃を受けてもそれを無力化できたが、その際に発生する高熱を排熱する為に動作が鈍ってしまうという特性があり、これは、バイオラプターに採用されているタイプのヘルアーマー、ライトヘルアーマーで顕著であった。

先程のヘルアーマーの排熱の為に動きが鈍るのではないかというフェリックスの推測は正しかったのである。

「そこだ!」
バイオラプター・グイの口腔内にビームガトリング砲を叩き込み、撃破する。

バイオラプター・グイは全機撃破され、残されたバイオゾイド部隊の航空戦力はエリー・シュタインベルグが操縦するバイオプテラのみだった。

バイオプテラは、射撃兵装を有しないが、格闘兵装を多数有している。
ロードゲイルは、回避し、ビームガトリング砲で弾幕を張る。
バイオプテラは、浴びせられる光弾の雨を回避せず、ヘルアーマーの防御力に任せて突撃する。

「無茶苦茶しやがる!」
その動きを見て、ロードゲイルBGを操るヨハンは、呆れていた。

とても飛行ゾイドでやる動きではない。

普通の飛行ゾイドで同じことをやれば、蜂の巣にされているだろう。

ビームガトリングの破壊力は、集中射撃すれば大型ゾイドの装甲をも貫徹可能なのである。

だがバイオプテラは、特に損傷を受けた様子も見せず、高性能ミサイルの如く、ヨハンのロードゲイルBGを追尾する。

「くっ!」
ヨハンのロードゲイルBGのボディをバイオプテラのトマホークウィングが掠めた。

エリーのバイオプテラの一撃は、ロードゲイルBGのビームガトリングを真っ二つに切り裂いていた。

「ガトリングがっ」
即座にヨハンは屑鉄になったビームガトリングの強制排除ボタンを押す。

接続部の炸薬が作動し、使用不能になったビームガトリングがロードゲイルの左腕のハードポイントから零れ落ちる。

これで射撃兵装は対小型ゾイド用の2連キャノン砲のみ。到底バイオプテラを撃破できる装備ではない

「フェリックス!なんとかならないか?」バイオプテラの攻撃を必死で回避しつつ、彼は部隊の参謀を務める少年に尋ねる。

その軽い口調は、追い詰められていると思えないものである。彼は、この戦いを諦めていなかった。

「格闘戦に持ち込んだら勝てると思うよ。その飛行型は陸戦型と比べて確実に装甲が薄い筈…マグネーザーランスを使えば勝てるはずだよ。」

「…わかったぜ」通信を切ると同時にヨハンはロードゲイルBGを空中で一回転させると、ホバリングで空中に静止した。

「落ちろぉ!」
空中に立つヨハンのロードゲイルBGにエリーのバイオプテラが機首のソニックビークを振りかざして突進する。

ヨハンは、その鋭い嘴を見据える。途中で回避しても、直ぐに追尾される。

そして、彼は、操縦桿を握る腕を動かした。

バイオプテラのソニックビークが、ロードゲイルBGの胸部に突き刺さるその寸前―――上空に静止していたロードゲイルBGが動いた。

「そんな!回避された!?」
「あぶねぇ!…なぁんてな!」
ロードゲイルBGは、間一髪でその練達の戦士の振う槍の様に鋭い一撃を回避する。

「これでどうだ!」

そしてすれ違いざまに、右腕のマグネーザーランスをバイオプテラのボディに叩き付けた。

バイオゾイド最初の飛行型であるバイオプテラは、他のバイオゾイドと同様にヘルアーマーで覆われている。

だが、バイオプテラは、飛行時の高機動性、運動性を保つために、極限までヘルアーマーを薄く軽量化しており、バイオメガラプトル等の陸戦バイオゾイドに比べて防御力で劣っていた。

それでもその他のバイオゾイドと同様にビーム、実弾に対する高い防御力を有している為、高機動性と相まってそれ程問題視されなかったのである。

この時、軽量化の為に薄くされていたバイオプテラのヘルアーマーの弱点が露わになった。
叩き付けられたマグネーザーランスの一撃は、バイオプテラのヘルアーマーに亀裂を生じさせ、衝撃で内部機関にダメージを与えた。
それと引き換えにマグネーザーランスはへし折れ、使用不能に陥った。

「そんな!やられたの!?」

内部機関にダメージを受けたバイオプテラは空中でバランスを失い、墜落、撃破認定された。

「エリーの敵だ!」
「これで1機!」
同時にロードゲイルBGも滞空していた所をバイオトリケラのチェーンツインヘルホーンを左翼マグネッサーウィングに受け、墜落したところをバイオメガラプトルの左腕のヒートハキングクローで胸部を切り裂かれ、撃破された。

「ヨハン!済まん」
ウィザードフューラーのコックピットでマンフレートは、いかつい顔を歪め、謝罪する。

彼は、援護に回ろうとしたが、その時には、バイオメガラプトルがロードゲイルBGの胸部に赤熱化した爪を振り下ろした後だったのである。

「くっ…侘びは勝ってからにしてくれ…」
撃破認定され、電源の落ちた操縦席で、ヨハンは言った。

「消し飛べ!」
サタンフューラーが、背部の4つの高出力レーザー砲を束ねた広範囲制圧兵器 レイストーム砲を残存するバイオラプター部隊に向けて乱射した。

光の洪水の様な色とりどりの高出力レーザーの雨が、バイオラプター部隊に叩き付けられた。

だが、それらの攻撃は、ヘルアーマーによって吸収され、殆どダメージにならなかった。

それでも強力なビームを受けたことでバイオラプターの全身を覆うヘルアーマーは、一時的に高温化し、動きが鈍くなっている。

ヘルアーマーは、高出力ビームや実弾兵器に耐えうる高度な防御力をバイオゾイドに齎しているが、万能というわけではない。

特に高出力ビームを受け止めた場合、ヘルアーマーは、加熱される。その熱を排熱する為、一時的に機体の行動を停止する必要があった。

また実弾兵器の場合でも、衝撃が内部機関に伝わる等して損傷を受ける危険性があった。

疑似的にレイストーム砲の高出力ビームを浴びたことで、バイオラプター達のコンピュータは、レイストーム砲を受けた場合のヘルアーマーの過熱を正確に計算し、その場合に起きる運動性の低下を正確に再現していた。

バイオラプターは、全機、ヘルアーマーの排熱の再現の為に動きが鈍っていた。その隙を逃さず、ハンスのキリングフューラーが、襲い掛かる。

「甘いぞ!」
キリングフューラーの尾部のテイルレーザーソードが間接に突き刺さり、後ろから飛び掛かったバイオラプターは撃破された。

最後のバイオラプターは、牽制のヘルファイアーを撃ちながら、指揮官機のバイオティラノとの合流を図った。
だが、ウィザードフューラーのビームマシンガンが、バイオラプターの口腔内に着弾した。

最後のバイオラプターが撃破判定を受け、行動停止した。

「そこだ!」
バイオトリケラがツインヘルホーンを発射する。

「やべぇっ」
ツインヘルホーンが、サタンフューラーの胴体に命中する寸前、黒い影が割って入った。

「!!」
黒い影…ウィザードフューラーはその一撃を、Eシールドを展開したEバスタークローで受け止める。

「てめぇ!うわぁ」
フレーザーのバイオメガラプトルがヘルファイアーをウィザードフューラーに向けて発射しようとするが、ラインのスピードフューラーの蹴りを受けて阻止される。

バイオメガラプトルのヒートハキングクローとスピードフューラーのビームサイズが激突する。

「お前ら一度集まれ!乱戦になったら不利だ」
キースは数的優勢が逆転した戦況を見て命令を下した。
即座にバイオゾイドと交戦していた各機が戦闘を切り上げ、指示通りに動いた。

「…全機集結」
対するユリアも、司令機であるバイオティラノを起点にバイオメガラプトル、バイオトリケラ、バイオケントロが集結した。

同じくドライツェーン・ドラッヘン側も指揮官機を中心に終結を終えていた。

彼らは、ロディ兄弟のディノコマンダー2機、ヨハンのロードゲイルBGの3機が撃破されたが、改造フューラーは損傷を受けながらも全て健在だった。

対する強化兵部隊は、いまや司令機のバイオティラノ、バイオケントロ、バイオトリケラ、バイオメガラプトルのみ…双方ともに無傷ではなく、ダメージ判定が蓄積された機体も少なくなかった。

ユリアのバイオティラノが吼えた。

大音響の咆哮が、演習場に反響する。


バイオケントロやバイオトリケラ、バイオメガラプトルも同様に雄たけびを上げた。

それは、まだ己は、戦えると叫んでいるかのようだった。

対するエナジーチャージャー搭載型改造フューラー8機も咆哮を上げる。



骸骨竜の軍団と漆黒の暴君竜の群れの戦いは、その後も30分近く続いた。


模擬戦の結果は、撃破機数の差等でドライツェーン・ドラッヘンの勝利に終わった。

だが、キースのルシファーフューラーを中心とする改造フューラーとパイロットも疲弊しており、後1時間戦闘時間が延長していたらどうなっていたか分からなかった。


――――――――Zi-ARMS秘密要塞 某所―――――

薄暗い室内…そこには、Zi-AMRSの幹部達が座っていた。

彼らは、皆バイオゾイド開発を主導したグループのメンバーである。

その中には、Zi-ARMSの強化兵の教官を務めるエベールの姿もあった。

彼も、彼の教え子であると共にバイオゾイドの操縦者である強化兵達と共にこのZi-ARMSの秘密要塞に派遣されていた。

室内の大型モニターには、今日行われたばかりのドライツェーン・ドラッヘンズとZi-ARMS強化兵の模擬戦闘の映像が映し出されていた。

「バイオゾイドと強化兵の能力は、想定以上に高まっている様だな。」
「しかし、傭兵の操縦するエナジーフューラーにここまで苦戦したのはどういうことなんだ?しかも向こうは、実機を操縦しての模擬戦闘はこれが初めてだったと聞いたぞ」
第13開発局のエリク・トールソンが言う。
彼は、バイオゾイドを全く新しいゾイドであり、既存のゾイドを圧倒してくれると信じて疑っていなかった。
それが、この様な結果になったことで彼は驚いていたのである。
「実戦経験に差があったことは確かです。しかしバイオラプター部隊の損害が大きいのは、機体性能以上に、パイロットにヘルアーマーの防御力に過信があったからでしょう。」
「それは、君が連中の教育を間違えたのではないのかね?」
「それについては、自分の教育の不備を多少認めざるを得ません。しかし、それだけではなく、バイオラプターの性能の問題もあります。バイオメガラプトルのゾイド因子を基に開発した劣化品では限界があります。個人的な意見ですが、他にも新型のバイオゾイドを開発すべきでしょうな。
バイオラプターとグイだけが量産型バイオゾイドとして存在しているという状況はいつか限界が来ますよ。」
「バイオラプターの性能は、大型ゾイドとも渡り合える。強化兵の平均的な技量を加味すると性能が陳腐化するのは、まだまだ先の話ではないか?」
トールソンは怪訝そうに言った。

バイオゾイドのヘルアーマーの性能に彼は絶対の自信を持っていた。

「油断されない方がいいでしょう閣下。我々は、3大国の覇権に刃向おうとしている連中の味方をしているんですから…」
「…!」
エベールの発言を受けて室内に緊張が走った。

「確かに新型バイオゾイドの開発は一刻も早く進めておくべきかもしれんな…我々の計画≠フ為にも…」
「新型バイオゾイドの開発については、BZ-001、BZ-002、BZ-003、BZ-004、BZ-005のデータを基に第8研究所で、開発が進められている。数種類に関しては試作機の制作が完了している。これらの機体の実戦投入を急がせればなんとかなるだろう。」

蒼い闇に包まれた薄暗い部屋の中、新たなる戦いを準備する者達は、言葉を交わす。


惑星Ziに再び大規模な戦いの炎が、生まれようとしていた。



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