【広告】楽天市場にて 母の日向けギフト値引きクーポン配布中

ゾイド系投稿小説掲示板

自らの手で暴れまくるゾイド達を書いてみましょう。

トップへ

投 稿 コ ー ナ ー
お名前(必須)
題名(必須)
内容(必須)
メール
URL
削除キー(推奨) 項目の保存

このレスは下記の投稿への返信になります。内容が異なる場合はブラウザのバックにて戻ってください

[426] 蟷螂の島(オリジナルVer)レポート@ 城元太 - 2014/01/29(水) 21:27 -

レポート@

 お疲れ様です、ダイノ島上陸局受付ですこんにちは。こちらに上陸許可書を提出して下さい。
 お名前はデニス・エクシグウス様。グローサー新聞記者兼カメラマン。報道の方ですね。
 確認しました。御承知とは思いますが、現在この島は緊急事態です。くれぐれも身の安全を第一に慎重な行動をお願いします。どうかお怪我など無いように。

 グローサー新聞のデニスさんですね。すみません、報道の腕章をしている方が多くて。お待たせして申し訳ありませんでした。道が塞がってしまったもので。
 奴ら不規則に集団移動をするので、幹線道路が突然通行止めになるのはよくあることなんですよ。
 申し遅れました。島でゾイドの契約パイロットをしていますアンドリューです。島のグローサー新聞支社より頼まれました。軍務経験はありますが、結局演習だけで。おかげで操縦技術が習得できました。
 大変ですね、来て早々に撮影とレポートをするなんて。
 本社命令ですか。まずは現場状況の把握からですか。駐機場はこちらです、どうぞ。
 デニスさんはまだお若いんでしょ?
 姉の息子と同じ歳だ。まだふらふらとしているのに、あなたみたいになればいいのですが。すみませんねえ、こっちの話で。

 御心配なく、複座です。
 アロザウラーは初めてですか。
 よく懐いているでしょう。おとなしいので心配ありません。ですが、いくら頭部コクピットを下げても高さがあるので足を踏み外さないように注意して下さい。あ、カメラ持ちますよ。撮影機材の準備は……大丈夫ですね。キャノピーに細工してあります。望遠レンズも外に出せますので。
 シートベルトは緩くありませんか。いえ、昨日はやたら恰幅のいい記者さんを乗せたものでね。おたく取材予定はいつまで?
 ほお、期限は切っていないのですか。でも簡単に決着はつきませんよ。なにせ騒動が始まってからもう3か月がたつのに、軍も政府も決定的な打開策を打ち出せないでいるのですから。
 背の高い二足歩行ゾイドなので結構揺れます。気分が悪くなったら遠慮なく言ってください。

 そろそろ見えてくる頃だと思います。さっきまで道路を塞いでいたから。まだ初めてなので、充分な距離を取って展望しますからね。
 ああ、あそこだ。見えますか、あの岩の向こう側。動いているでしょ、ものすごい数の群れが。
 山肌一杯に……樹木の緑じゃありませんよ。黄緑色でしょ。それにガサガサという足音も聞こえてくる。風に揺られているのではなくて、群れごと移動しているのです、波が寄せるように。
 赤い目が光ってるの、昼間だと見えないかな。
 わかりましたか。そう、驚くでしょう。私だってそうです。何度見ても気分の悪くなる光景です。
 本当ですよ。触覚が動いている。木の枝ではありません。
 この島は、奴らに乗っ取られたも同然なんです。どこもかしこもあのゾイドばかり。家も、畑も、道路も、町も。駆除しても駆除しても増えてくる。なまじ駆除すると、間引きしたようにもっと増えてくる。
 これを中央大陸にしっかり伝えてくれるようお願いします。あのカマキリ型のゾイド、ディマンティス。いつまでこの島で我が物のまま居座るつもりなでしょうか。いつまで我々は、この島で縮こまっていなければならないのでしょうか。




 本社のデニスさんですね。ダイノ島支社の代表をしておりますウォルターです。名刺の交換を……ありがとうございます。
 お疲れ様でした。アンドリュー君にはなるべく丁寧に操縦するよう伝えておきましたが、アロザウラーの乗り心地はいかがでしたか。
 あれを見れば大抵驚きますよ。早速写真を撮りましたか。再生と送信の準備をさせます。ルイ君、モニターを頼む。タブレットでいい。
 さっそく打ち合わせに入りましょう。本社からの連絡書類があれば受け取りたいのですが。
 ありがとうございます。と、モニター映像出ましたね。
……さすがだ、画質も荒れずに撮れている。静止画にすると奴らの個体の特徴がよくわかります。
 念のため確認しておきますか。ディマンティス、公称データでは全長6.48m、全高7.2m、重量10.0t。鉄竜騎兵団が開発したSSゾイドで、共和国首都進攻作戦を始め、生産性の高さから短期間で大量の製造が行われた。その後ブロックスゾイドが普及しても、ネオゼネバス帝国軍の中核となり活躍していたそうです。

 コーヒーでよろしいですか。

 ありがとう。あ、彼女は新入社員のルイ・バラデューク君です。デニスさんも飲みものをどうぞ。
 喉が渇いていましたか。ルイ君、冷たいものを別に頼む。この島は乾燥していますからね。だからこそ果樹栽培が盛んだったのです。島の主な作物はオレンジやレモンなどの柑橘類、それにオリーブと葡萄。
 私は入植移民の二世なのですが、ここは何もなかった事を父親から何度も聞かされましたよ。それを一から開拓して美しい島になった。年寄りは自慢したがりますからね。
 しかし、ディマンティスの大発生なんてことさえ起こらなければ、本当に綺麗な島だった。島の斜面を一斉にオレンジやレモンの原色が彩り、それが強い陽射しに照り返して、まるで絵画のようでした。
 今現在は観光客を受け入れることはできませんが、たった3か月前までは、“西エウロペのエメラルド”と呼ばれていたのです。宿泊施設の紹介は任せて下さい。もともと観光施設は整っている島ですから。
 事前に打ち合わせをしておりました、駆除を担当していた研究所職員の方には連絡を付けて待っていてもらいました。駆除の経過など、詳しい説明はそちらから。
 君、ナイルズさんをこちらへ。コーヒーも追加して。

 こちらの部屋ですね。初めまして、ニューヘリックシティーでエウロペの生物研究をしているナイルズと言います。いえいえ立ち上がらなくて結構。こちらが本社報道の方? デニス記者。宜しく。
 説明を始める前に、首都ではどの程度この事態を把握しているか聞きたい。
 そんなものですか。惑星の裏側の事では関心も湧かないのだろう。
 では一通り経過と状況を説明していきたい……コーヒーありがとう……と思う。こちらが資料。
 ダイノ島は西エウロペの更に西岸、南緯15度線のほぼ真下に位置している。大陸から陸繋島を形成する半島が伸び、大陸との行き来は自由に行われていた。
 西方大陸戦争時には、北エウロペにはヘリック共和国のロブ基地とガイロス帝国のニクシー基地があり、南エウロペには入植地ニューヘリックシティーとガイガロス、そしてガリル遺跡に代表される古代ゾイド文明の遺構により、激しい攻防戦が行われた。
 だが、西エウロペは戦闘の進路から外れていたこともあり、激戦と呼べる戦闘もなかった。中でも極西とも言えるダイノ島は戦闘による被害は皆無で、逆に戦争中両軍に食料として農作物を供給し、戦事経済によって島が潤っていたくらいだった。
 この島で栽培されるようになった果樹は、本来地球からの移民船がもたらした植物の種子だ。無数の種を遺伝子データの形で保存しておいて、入植地の気候に合わせて適宜再生するのが方式で、最初の島への入植者がここに再生された果樹の種と苗を植えたのが最初となる。栽培は成功し、宝石のような果実は見事に実った。誤算は遺伝情報が一部書き換えられていたことだった。
 この島に上陸して何か気付いたことは。
 ええ、ディマンティス以外で。
 そう、果樹の高さがかなり高い。それに住宅を取り巻く石垣。あれは戦闘防御用ではなく、この地域特有の熱帯低気圧――この辺ではウィリーウィリー≠ニ呼ぶが――対策に積み上げられたものなのだ。
 古代の化石木からブロック状に切りだされ積まれていて、中には中型ゾイドの背丈ほどもある石垣もある。太陽はほぼ真上から射すので、日陰は気にせず積める。
 激しい暴風に晒された地球産の樹木は、再生プログラムのミスなのか、それとも独自に進化を遂げたのか判らないが、本来の樹高を遥かに越える大木になってしまった。低木であれば、農場では簡単に収穫ができるのだが、あの高さでは。
 高所作業をする上で、せめて小型の作業用ゾイドが必要になった。
 戦場には、遺棄されたゾイドは沢山あった。でも、野良ゾイドになって凶暴化したり、寿命が尽きかけていて、長持ちしなかったり。場合によっては、あまりの大きさに作業に向かないものも。そんな中、中古ゾイドの回収業者が、見慣れない緑色の昆虫型小型ゾイドを持ってきたのです。
 このメモリーディスクに、最初にその回収業者から買い取った農場主の聞き取りが入っている。少し方言がきついのだが、参考資料として見てもらいたい。
 このタブレットをお借りする。起動に少々かかる。

農作業用にゾイドを探していたんだ。前の奴が死んでしまって。スパイカーっていう小型ゾイドだったが、両手の鎌の使い勝手が良くて重宝した。同じ機種を探したんだが、古い機体だから古物屋でも見つからなくてね。
 代わりに、中古屋のシェイラーが少し小振りで似たようなカマキリ型ゾイドを持ってきたんだ。何しろ3匹もいて、それぞれコアも生きが良かったんだ。その時たまたま纏まった金もあって――出荷した果物が高値で取引できたもんだから――思わず3匹揃って買ってしまった。畑も広げる予定だったし。
 華奢な4本の脚は港のゾイド整備工に言って直してもらった。コクピットは操縦者の両足先がはみ出すくらい酷く狭かったが、農作業には問題ない。赤く光る眼が不気味で、今にしてみればその時気付くべきだったのかもしれないが、兎に角使いやすかった。
 あのハイパーファルクスという鎌は、スパイカーのハイパーサーベル以上に作物の刈り込み、土起しに便利だった。自律機能と言うらしいが、勝手に動いて作業をやるとかで。驚いたね、一週間で山一つ切り拓いた日には。イオンブースターという飛行機能は、空飛ぶのが恐ろしいものだから整備工に頼んで回路を切断してもらっておいたが、それでもジャンプ力はかなりのものだったな。
 ただ最初は3匹とも元気よく働いていたんだが、1匹だけ急に言うことを聞かなくなって。何でもコアに問題があったらしく、数週間したら勝手に海辺に逃げ出して、そこで石化して死んでしまっていたんだ。始末が悪い事に、死に方がスパイカーと一緒だった。まあこちらにも責任が無かったわけではないが、まだ買ったばかりだったからシェイラーに言って残骸の引き取りと代金の返金はしてもらったよ。そうそう、背中にガトリング砲座という物騒なものがあったそうだが、そんなもの最初から取り外しておいたさ。戦争をするわけでもないし。
 周りの畑を持っている連中も、俺のゾイドを見て羨ましがってな。シェイラーめ幾つ捕まえておいたのか。まず隣のスターリングの所が2匹。翌週には向かいのアルヴァレズ、そしてシニョールがそれぞれ1匹ずつ。翌々日にはクリグズマンが2匹。気付いたら、周り10件の農家がだいたい2匹のディマンティスを買い揃えていたんだ。
 驚いたね。よくそんなにゾイドがいたってことにだよ。中古屋の話だと、北エウロペの古代遺跡の辺りに沢山いたのだとか。野良ゾイドにしては捕まえやすくて、結構な数を捕獲していたようだ。知っていれば、絶対買わなかったのに

 今の農場主ウェイクフィールドという男性の証言で「北エウロペ遺跡」という部分。それの詳しい参考人として、今の証言にあったシェイラーという中古屋、つまり破棄ゾイド回収業者の事情聴取の様子がある。続いて映像を見て欲しい。

ニクシー基地の辺りには、結構帝国製の野良ゾイドが取れたんですよ。でも、戦争が終わって、殆どの野良ゾイドは取り尽くされて。中型になると業者の間でも危険度が上がるもので、当然小型ゾイドを取り扱うようになるのです。
 レッドラストには、もとから野生化したガイザックなどはいましたが、体高の低いサソリ型ゾイドはあまり買い手がつかないもので、捕獲する業者もいませんでした。ただ、その筋の人間だったら有名だったのですが、あの赤い砂漠にある古代遺跡には、たくさんの野良ゾイドが棲み付いているのは知っていたのです。
 薄気味悪い遺跡で、戦闘で破壊されたにしてはコアだけが抜き取られたような残骸が幾つも転がっていて。なにか、墓標のようなものも建っていたので余計に不気味だったんですが、背に腹は代えられないので行ってみたんです。
 驚きましたよ。野生化したゾイドがウヨウヨしている。それもカマキリ型のが。昆虫型ゾイドは、自然環境と相性が合えば勝手に増えることがあるのは知っていましたが、あんなに増えるとは思いませんでした。
 でも、小型――SSゾイドですね――は捕獲が楽なもので、沢山捕まえてきました。ダイノ島でカマキリ型ゾイドを欲しがっている客がいる話は聞いていましたから、喜んで西に戻りました。ウェイクフィールドさんに卸してから次々に注文を受けて。
 とんでもない。悪気なんてありません。知っていればあんな物騒な遺跡から野良ゾイドを捕まえてきたりはしませんって。信じて下さいよ

 以上だ。お判りかな、遺跡の事。あの勇敢な老レオマスターの話は知っているだろう。自己再生、自己増殖を繰り返す悪魔のゾイド。
 そう、そのまさかだ。よりにもよって、その幼生コアの真オーガノイドシステムを取り込んだゾイドを捕まえてきたのだよ。理由は不明だが、第二次大陸間戦争の末期に、この遺跡にディマンティスが数機迷い込み、そこで独自に増殖を始めていたらしいのだ。
 凶暴性? その形質は発現していなかったようだ。でなければ、簡単に捕獲などできない。そこにいたディマンティスにとって、凶暴な真オーガノイドの形質は真逆に発現していたとしか言えない。詳しい説明は後程する。

[427] 蟷螂の島(オリジナルVer)レポートA 城元太 - 2014/01/29(水) 21:29 -

レポートA

 引き続き、ディマンティス大量発生についての経過を説明する。先ほど渡した資料の3ページ目から。
 これがダイノ島の概略図。ひしゃげた二等辺三角形を逆向きにした――北を上と見て――形とする。大まかに言って地域は三つに分けられる。陸繋島に近い東側地区には平地が多く、最初に入植した港がある。中央のダイノ山地で分けられた北地区は北向きで陽当たりが良く、果樹栽培には最適の地域。その反対側の南地区は、どちらかと言えば漁業が盛んだが、果樹栽培も行っている。海蝕台があり、早くから漁港が開けていた。
 まず、シェイラーによってディマンティスが搬入されたのが、この――カーソルはどこだ――東の港。先ほどの報告にあった農場主ウェイクフィールドの果樹園がこの、北の真ん中あたり。
 拡大する。耕作地は緑色に、市街地は赤に、山林および未開地は黄色。最初のディマンティスの稼働状況がこの図。黒い丸が1台のディマンティスを示し、当然農場主たちの管理下にある。ここが先程の農場で丸が3つ。そしてその周辺でも、丸の数が、いち、にい、さん……全部で13個。当時かなりディマンティスを出荷して、中古屋は儲けていたようで、一斉に数が増えている。いらないものまで買ったのかもしれない。時々田舎の人はこんなことをするものだ。
 そしてこれがその半年後。丸の数はほとんど増えていない。だがこれは登録数だ。それまでに数台、下手をしたら数十台のディマンティスが逃げ出していたらしい。その度毎に捕獲して農場に連れ戻したのだが、その逃げている間に、こいつらは山地にコアを産み付けていたらしい。でなければ、自然発生なんて考えられない。
 これはその一月後。黒丸の他に二重丸がある。これが当時確認された未登録の野良ゾイド。例外はない。全てディマンティスだ。農業被害が出て、管理局でも放置できなり調べたのだ。
 こんな辺鄙な島で野良ゾイド騒動など、最初は何事だと考えたものだ。野生ゾイドの生態系と呼べるほどのものは無く、増え放題になる可能性はあった。発見した野生の個体数十台に調査用にビーコン撃ちこんで、追跡調査した。軍からプテラスを借りたが、データ収集には苦労した。予想以上に逃げ足が速く、その上世代交代まで早いから、ビーコンの長期追跡ができなかった。だいたい半年で寿命が尽きる。そして新しい世代を産み落とす。そしてその度、奴ら進化したのだ。

 前を失礼します。どうぞ。

 ありがとう。話し続けるのも疲れるものだ。一息入れなくても構わないかな。
 そう。ではもう少し。この世代交代の速さというのが曲者だった。ゾイドは金属生命体だが、機獣化され戦闘ゾイドになった場合生殖機能は失われる。ところが、奴らは真オーガノイドシステムを取り込んでいるから、自然増殖を始めてしまった。デススティンガーのような成長に時間のかかる大型ゾイドであれば、ここまでの数には至らなかったかもしれない。SSゾイドという小型種ゆえに増殖も可能だったと推測される。
 燃料の摂取はどうしたか。奴らは摂食用の口吻を既に古代遺跡で器官を分化させ獲得していたようだが、移送されてきたときには気付いた者は誰もいなかった。コクピットが狭くなってしまった理由であったのに。これが進化の過程で意図的に変化させたことか、それとも偶然かはわかないが。
 農場から逃げ出した後、2台以上のディマンティスが互いのコア情報を交換することで、独自により環境に適応した次世代のコアを産み落とすようになった。それまでの生存情報を共有する為に。まあ、端的に言えば交尾したわけだ。
 女性がいる? いちいち気にしている場合ではないだろう。
 それでだ、コアからF1(交雑第一世代)が発生し成長する。問題はここ。餌はどうしたか。この島は軍事施設などないので燃料倉庫なんて存在しない。各農家だってまとまった燃料など保管していない。そこで奴らは信じ難い方法で、食物の摂取を始めたのだ。
 コアを産み落とした親は、コアを庇うように抱卵したあと、孵化直前に自分のコアを休眠状態にしてしまう。休眠状態だから死んではいないのだが、ゾイドとしての一切の機能を停止する。当然石化はしないままで。
 やがて次世代のコアが孵化。ほぼ成体と同じ形でF1が発生する。孵化した幼体の目の前には、休眠状態の親の身体がある。
 地球のカマキリという昆虫は、交尾中にオスがメスに喰われて、卵を産むための栄養になるのだ。女は怖いのだ。何だ君、その眼は。別に私には経験などない。これは以前とんぼ≠ニいう昆虫を再生させたヘルマン・ブレーメンバッハという学者の本に書いてあっただけだ。それ以上でもそれ以下でも意味はない。
 横道にそれた。この先が嫌な話なのだよ。
 発生したF1は、休眠状態の石化していない親の身体を喰い始めるのだ。喰ってすぐに最初の脱皮を行い、更に食い尽くすのだ。野良ゾイド化したディマンティスの残骸がなかった理由だ。
 若い個体は成長速度が早く、半日でたちまち親の7割程度の大きさになる。でもそれだけでは食い足りない。奴らが目を付けたのは、豊富な金属成分を含む化石木だったのだ。
 この島は本来大陸と地続きだった。惑星大異変で地殻変動が起き、山脈が水没して出来た島だ。太古から蓄積された化石木は露頭に豊富に産出する。でもそれを直接摂食して栄養にするゾイドはいままで現れなかった。
 真オーガノイドは、周囲の環境に適した形で急速に進化する。世代を重ねるごとにその進化も加速する。世代交代の早いディマンティスは、F2、F3と世代を重ねるごとに、親の身体を喰うだけではなく、化石木を栄養にして成長できるように体組織を改変したのだ。信じられないだろう。私もニューヘリックシティーの研究者による報告を聞くまでは信じられなかった。
 サンプル用に捕獲したFnの個体を飼育し、寿命が尽きた後ラボで解剖――解体――して見た。機構自体は通常のディマンティスに変わらないのだが、機獣化された時に撤去したはずの消化器官が再生されていた。これは予測されたことだが、更に詳しく調査してみて、その消化器系に嫌気性の共生原生生物が存在したことが判明したのだよ。いわゆる腸内細菌という奴だ。嫌気性で酸素を必要としない。ゾイドコア本来の機能が燃焼による脱酸素活性を行っているのだが、化石木に含まれている金属成分がそれによって還元され、更に共生細菌によってディマンティスの体組織を構成する金属物質、つまりゾイドの体を構成する栄養素を形成し、成長を促進させていたのです。
 良く判らない? 簡単に言えば化石木を喰って成長できるように進化していたということだ。この種の細菌は、地中にごく微量存在することは確認されていたが、積極的に消化吸収、増殖させ、利用する金属生命体は初めてだったのだ。
 奴らが親の身体を最初に喰う理由も、どうやらその腸内細菌を自分の身体に取り入れる目的でもあるようだ。
 F1の頃は、ほとんど化石木は食べなかった。だが、生存競争に負けて親の身体を喰えなかった弱い個体が、止む無く化石木を喰い始めた。それを繰り返すことにより、Fn世代での共生細菌の生物濃縮が一層進み、よりよく化石木の金属成分を吸収できる個体に分化していった。
 一方で力の強い個体は、力が強いが故に唯一の餌である親の身体と仲間の個体を襲って食っていたため、一種類の食糧に固着し過ぎた為に逆に次の世代を残せなかった。
 弱いからこそ生き残れた、皮肉なものだ。結果的に、おとなしい性質の個体のみとなったのだ。
 獰猛な性質でなかったのが幸いしたのか。いや、この場合我々にとっての災いとなったといえるだろう。島で石垣が崩される事件が相次いで発生していたが、直接人が襲われることはなかった。1台1台は臆病なのだ。だから、私たちの知らない内に個体数が増えていた。気付けば、野良ゾイド化したディマンティスが果樹畑に姿を現すのは2年目の頃となっていたのだ。
 奴らが生涯に産み落とすコアの数は平均3つ。その内1機から2機は、成長途中で共食いされて死ぬこととなる。だがおおよそ1.5台のFn世代が残り増殖する。等比数列の計算式は覚えているか。公比1.5でF10になると約90機。そこまで来るのに僅か5年。現在把握している台数は、1平方q辺りのサンプリングから、凡そ27200台のディマンティスがこの島にひしめいている計算になる。そして奴らはまだ増える。この島が、島であったことと、最初の個体がイオンブースターの回路を切断された形だったのが、大陸への渡りを食い止めている。しかし、そんな脆い防波堤など、奴らは直ぐに突き破るかもしれない。その時が、いまも迫っているのかもしれないのだよ。

 デニスさん、ナイルズさん、食事が届いたようですね。
 食欲がわきませんか。まあ、そういわず一息入れましょう。ルイ君、準備をしてくれ。お二人は何をお飲みになりますか。

 私は温かいコーヒーを頂こう。

 デニスさんは?
 同じもので宜しいですか。
 どうした、フィルターが無いって? この前洗っておいた布フィルターがあるだろう。縁に押さえの針金を準備しておいたから、君でも溢さずに淹れられるよ。少々お待ちください。
 話しを戻しますが、今後の我々報道の動きについてですが、既に他の報道機関も何社も島に入っています。本土からの軍の出動要請も出ている以上、本社報道を強化していきたいのです。
 他のゾイドを使っての駆除ですか。デニスさんだったら最も有効なゾイドは何だと思います?
 ステルスバイパー。考えることは同じですね。

 実はもうやっているのだ。手っ取り早くPMC(民間軍事会社)のステルスバイパーを雇って駆除作業を。
 最初は面白いように倒せたよ。奴らはまだ警戒というプログラムを会得していなかったから、小口径レーザーでばたばた倒せた。たちまち辺り一面ディマンティスの残骸だらけになった。けれど、その残骸の回収をどうするか考えていなかった。駆除に成功したと思っても、残骸が100台、200台となると回収どころではない。この島に巨大な処理施設もない。おとなしい性質だから、攻撃したステルスバイパーに逆襲することはなかったが、いつまでもそこに留まっている訳にもいかない。有機体ではないので腐らないはずだから、放っておいた。
 翌日再び現場に戻って驚いた。残骸が一体もない。綺麗さっぱり無くなっている。奴ら放置しておいた残骸を、一晩のうちに食い尽くしてしまったのだ。
 個体を闇雲に駆除すると、かえってその個体数を増殖させてしまう駆除圧という現象が起きる。我々はみすみす餌を増やして増殖の手助けをしてしまったのだ。仮に残骸を全て撤去していたとしても、大量発生は避けられなかったのだ。
 海に投棄する? 冗談じゃない。我々管理局員が環境破壊をしていいわけがない。この島には漁民も沢山いる。漁場を荒らされれば批判されるのは明白だ。
 出口が見えないのだ、この大発生をどうするか。

 お待たせしました。

 お二人とも、温かいコーヒーがはいったことですし、今は食事をとることとしましょう。

[428] 蟷螂の島(オリジナルVer)レポートB 城元太 - 2014/01/29(水) 21:30 -

レポートB

デニス君、今日は一日お疲れ様でした。打ち合わせはどうでした。本社からの書類は渡してくれましたね。
 画像の方は午前中に受け取りました。話には聞いていましたが、これほどとは思いませんでした。地元の様子は落ち着いているのですか。
 そうですか、おとなしい性質で。人的被害はないのですね。
 3件、移動中に巻き込まれた。車両で。住宅などの建築物の被害は。
 農業倉庫の破壊10軒、幹線道路の陥没無数、交通渋滞の発生、石垣の倒壊による防風対策の低下。派手さはないけれど深刻ですね。本土への上陸の危険性は。
 未定、飛行能力はないのですよね。今後の対策は。
 未定。わかりました。こちらで把握した情報を伝えます。軍が動きます。ロブ基地からです。シールドライガーが4機、ライガーゼロが1機。それから凱龍輝が1機配備されそうです。また情報が入ったら伝えます。明日も朝から島内の取材調査でしたね。老婆心ながら早めに休んで体調を整えておいて下さい。メールチェックを忘れずに。本社、フィニアス・テイラー宛に定時連絡も宜しくお願いします。
 社会部のホーソンですか。わかりました、いま回線を社会部に回します

こちら首都グローサー社、社会部ホーソンです。
 ああ、デニス。どうだい西の地の果てダイノ島は。美味いオレンジでも食えたかい。
 そうか、あまりいい所ではなさそうだな。それで要件は。
 ゾイドの入水自殺? なんだいそれは。農業用のディマンティスが取った謎の行動ねえ……。まあ調べてみるよ。二三日時間をくれ。状況を詳しく知りたいから、資料をまとめて社会部の俺宛に送っておいてくれ。そっちでは「おやすみなさい」だよな。お前もがんばってくれ。それじゃあ

 失礼します。島の地図をお持ちしました。観光マップですが宜しいのですね。それとテレビのリモコンです。使用法はお判りですか。
 これはありがとうございます。御心付受け取らせて頂きます。また何か御要望がありましたら、館内電話で御連絡下さい。

……昨日のダイノ島の映像です。御覧下さい、あの赤い光一つ一つがゾイドの眼です。ディマンティスという、大戦中期に開発されたネオゼネバス帝国製のゾイドです。
 かつてネオゼネバス帝国は、鉄竜騎兵団という名称でガイロス帝国と我が国を侵略しました。あのゾイドには、国内にも苦い記憶を残す方々も大勢います。現在ディマンティスの大量発生の原因については、ニューヘリックシティーに於いて究明中ですが、依然、謎のままです。この現象について、解説者のイボリートさんはどのようにお考えですか
このゾイドの大量発生については、研究者の間では自然発生的な物であるとの見解が届いています。
 一方、一部の識者の中では「私見ですが」と断った上で「この様なゾイドの大量発生は記録に無い。混乱に乗じてある国が不穏な動きを始めたのではないか」との見解も寄せられています。政府でも、軍への全面的な協力を要請したとのことです
いずれにしても、ダイノ島の住民の方々には、被害者が出ないことを願います。次に……

フロントです。
 はい、モーニングコールのお申込みですね。朝7時15分、203号室のお客様、デニス様ですね。お受けいたしました。朝食は一階ビュッフェにその時間に御用意しておきます。
 フロント係ヴィタールが受け賜りました。では、おやすみなさい

 おはようございますデニスさん。昨日はよく眠れましたか。寝不足にアロザウラーはきついですよ。
 大したものだ。お疲れだったようで。大抵の方、夜通しディマンティスの足音と羽音が気になって眠れないというのですが。
 聞こえてはいましたか。それが奴らの音です。夜になると石垣を齧りに麓まで降りてくるのです。奴ら交替に、です。山の中にも化石木はあるのですが、もう間に合わなくなっているので。ほらそこ。歯形が付いている。恐ろしいけれど慣れました。慣れない住民は島を出て行きます。人口は減りましたよ。一時的に大陸の知り合いの所に疎開しているのもいますが、島の現状を知って帰らなくなった島民も大勢です。
 見て下さい、あの果樹園。荒れ放題だ。農場主が農地を放棄して島を出て行ったのです。ここからは見えませんが、その家の石垣は完全に食い尽くされました。人の気配が判るのでしょうか。
 今日は南の山間部に行きます。大丈夫、このアロザウラーならディマンティスの10匹や20匹蹴散らしてやりますよ。なあ相棒。
 バッテリーはコンソールから繋げますのでカメラ本体だけで結構です。今日も宜しくお願いします。

 今日向かうのは奴らの営巣地区です。といっても、幼体がウヨウヨしているわけではなく、コアが孵化するまで親が抱卵しているままの場所です。危険性はないと思いますよ、たぶん。
 少し速度を上げます、気分が悪くなったら言って下さい。

 見て下さいよ、果物が樹に成ったまま腐っている。
 ああ、ここの畑もやめちゃったんだ。
 あ、ここも。
 ここもだ。収穫前だっていうのに。
 やられてるなあ。家までメチャクチャだ。誰も住んでいないから。
 あ! デニスさん、今1匹いました。こっちを見て慌てて逃げて行きましたよ。こんなところまで出てきているんだな。
 もう少しです。
 この辺りは、まだ開発が進んでいません。畑もさっきのが最後ですね。
 大きくはないのですが、岩盤に亀裂が入っていて、それがそのままコアの産卵場に最良なのでしょう。
 そろそろ停止します。ゆっくりと近づきますね。
 抱卵状態のディマンティスは休眠状態なので動きません。普通、動物は自分の卵を襲われれば必死になって戦うものですが、それもまだプログラミングが完了していないのでしょう。ただ、親の身体が邪魔になって、産み落としたコアはほとんど見えないので、よく探して下さい。

 見て下さい、ディマンティスの大群です。ざっと30匹はいるな。
 おかしいな。
 はあ、少しディマンティスの色が濃くなっているような気がして。まあいいか。
 岩盤の亀裂に沿って抱卵している。身体の下に産み落としたコアがあるのですね。暗くて見えないな。ほら! あそこ。銀色のやつ。
 ああ、いますね。幼体だ。孵化直後のやつ。丁度いい、よく見ていてください。
 親と比べるとだいぶ小さい。でもほら、脱皮が始まった。外皮が一気に剥げていく。生々しいものではないのですよ、やはりそこは金属生命体ですからね。
 良く判らないのですが、孵化直後に脱皮をするだけで、いきなり体躯が二倍近くに成長してしまう。どういう理屈なんでしょうね。
 もう動き出した。喰ってますね、親の身体ですよ。頭から。いつみても嫌な光景だ。
 もう1匹いた。腹から喰ってる。もう1匹? 別の孵化した個体だな。餌に有り付けなくてこっちにきたんだ。
 見ました! 1匹孵化したのが共食いされましたね。少しだけ早く生まれた奴の方が強いのは仕方がありません。それでも、見ていて気持ちがいいものではないですね。
 どうです、戻りましょうか。はい、映像チェック。わかりました。
 通信? 
 支社長さんからです。
 デニス様宛て。メール開きますよ。
 軍が上陸。早いなあ。昨日放送したばかりなのに。さてはもう出発していたな。
 港へ行けと指示されています。アロザウラー起動。宜しいですね。では、行きます。

 港、見えますか。
 接岸してる。早いわけだ、タートルシップを連れてきた。軍も本腰入れてますね。
 降りてきた降りてきた。ああ、ライガーゼロだ。コンテナがないな。チェインジングアーマーは搭載してこなかったのかな。
 シールドライガーですね。白いな。Mk−2のキャノンを撤去した古い機体だ。
 それと凱龍輝ですね。私初めて見ました。あの機体で何をするつもりだろう。
 取材許可? いいです、行ってしまいましょう。運が良ければインタビューできるかも。とぼけていましょう。下り坂です、注意して下さい。

 報道です。すみません、許可証提示です。
 はい、どうぞ。
 アロザウラーですか? ついさっきまでディマンティスの観察をしていたもので。
 刺激なんてしてませんよ。
 そうですよ、この人は首都からはるばる来たのですよ。少しぐらい話をしても。

 貰えましたか、取材許可。
 やはり装備の搬出が終わらなければ無理だったですか。
 なるほど、軍にも思惑があって。
 午後はお付き合いできないな。別口の仕事が入っているので。
 会場は島の役所の会議室。あそこそんなに広くないんですけれど。
 レコーダーありますか。
 わかりました。午後までに準備しておきます。撮影は別の者が同行する筈です。私は午後はお役所関係の方と同伴して取材です。では、また明日。

[429] 蟷螂の島(オリジナルVer)レポートC 城元太 - 2014/01/29(水) 21:31 -

レポートC

 関係の方々は会議室にお揃いでしょうか。質問は後程時間を取りますので、その時にお願いします。
 では、これよりヘリック共和国軍ロブ基地所属ダイノ島派遣特務中隊隊長ベーテより説明を始めさせて頂きます。
 今回の作戦の目的は言うまでもなく、大量発生したディマンティスの駆除であります。現時点で人的被害こそ発生しておりませんが、何れは発生するとの想定の下、一刻も早くこのゾイドの駆除と住民への安全の確保を願い、本隊は派遣されて参りました。徹底した掃討を行い、この島から野良ゾイドを一掃する予定です。
 計画について作戦担当ワイツゼッカー少佐の方から説明があります。

 ワイツゼッカーです。これまでのダイノ島管理局での駆除の経過については報告を受けており、PMCによる掃討についても把握しております。資料に記載済みですが、駆除をしたディマンティスの残骸が別の個体の餌となり、繁殖を助長してしまった事が状況の閉塞を生んだことも御存知でしょう。駆除圧をうけた個体集団が、更に増殖の速度を上げてしまった前例を踏まえ、軍としては抜本的な問題の解決をします。今回投入される戦闘ゾイドは、まずライガータイプ5機。この島を二等辺三角形と見立てると、各機体は島の海浜部から一旦散開し、北岸の底辺に当たる部分に2機、西の底角に1機、東西等辺の中点に1機ずつ、そして頂角に1機、島を取り囲む形で待機します。
 作戦決行は明日の朝。定刻を以て一斉に攻撃を開始し、島の東岸――つまりこの平地付近です――に、ディマンティスの群れを追い立てます。山地から降りてきた群れを、待機していた凱龍輝が、収束荷電粒子砲で焼き払います。発射の軸線は海側にとるので島への被害はありません。一回の発射で100から200のディマンティスを破壊、焼却を想定しています。これを数十回繰り返す。暫定的ではありますが、大量発生したディマンティスの相当数を排除できると思われます。
 ある程度成果が上がった後、今後移送予定の改造エクスグランチュラが電磁ネットワイヤーを張り、生き残りの個体を捕獲処理し漸減していきます。完全駆除まで恐らく2か月かかると思われます。
 大凡の説明は、これで終了します。質問がある方は挙手を。
 はい、どうぞ。

 フレイザー新聞のウェイビーと申します。ワイツゼッカー少佐に質問です。ライガー5機でディマンティスを追い立てるとのことですが、この島の面積に比べて5機では余りに数が少な過ぎはしませんか。それと荷電粒子砲の使用は本当に安全なのでしょうか。そして……わかりました。質問はなるべく一つに。はい、ではこの2点をお願いします。

 質問にお答えします。まず荷電粒子砲の使用ですが、機動性にも優れた凱龍輝を敢えて追撃に投入しないのも、あらかじめ機体をアンカーで固定し、射撃の軸線を逸らさないようにするためです。完全に海側に向かうよう照準を定めておくので、一切陸側に向かうことはありません。
 ライガー5機でディマンティスの群れを追い立てることができるか、についてですが、これまでの調査によると、どうやらこのゾイドは、昆虫の蟻や蜂に見られる真社会性を有するようです。群れ自体があたかも一つの生命体のように移動することも確認されているので、連携した刺激を与えることにより、一斉に移動を開始するものと考えられます。これは様々なシミュレーションに基づいて計画されたものなので、実現性は高いのです。宜しいでしょうか。はい、次の方。

 キャリントンフレア誌の編集記者、アーサーと申します。素朴な疑問なのですが、ディマンティスのような小型ゾイドを掃討するのであれば、やはり同サイズの小回りの利くゾイドを大量投入した方が効果的ではないでしょうか。焼却炉として共和国軍が唯一収束荷電粒子砲を装備する凱龍輝を投入することは理解できるとして、ライガータイプに執着するのは、何か理由でもあるのでしょうか。

 質問者もお判りかとは思いますが、ライガータイプは機動力を最大に発揮できるゾイドだからです。ダイノ島は東部を除き起伏に富んだ地形となっており、山岳戦に対応できるゾイドが最適と判断しました。運用はコマンドウルフの方が容易ですが、ゾイドの特性から今回の機種選択となったのです。
 ウルフタイプでは追撃パターンが直線的なので、群れの一部を残してしまう可能性が大きい。それに今回発生したディマンティスは攻撃性が低く、コマンドウルフの攻撃を受けても抵抗しない事も考えらえる。反応の薄い敵に対し、ウルフは操縦性の高さ、つまり親和性の高さが災いし、攻撃の手を緩めることが考えられたからです。その点、ネコ科に属するライガータイプの機体は、嗜虐性に優れ、敵が無抵抗であっても残酷なまでに徹底的に攻撃を続ける傾向があります。脱落したディマンティスを捕え、嬲り殺しにさせ、他の個体の逃走へ誘導させる、これがライガーを選んだ理由です。
 納得できましたか。次の方、どうぞ。

 ミレニアム放送のブリジットです。では、ディマンティスの個体数が減少した後は掃討も容易にはできなくなってくると思われます。継続的な駐留も想定されているのでしょうか。

 それは自分がお答えします。結論から言えば、結果を見なければ判らない、としか申し上げられません。今回は未曽有の事態です。誰も判らない以上前例に従った対処はできません。軍では各方面の有識者からの意見を取り入れながら常に最良の方策を採って行きます。

 ありがとうございますワイツゼッカー少佐。さて、まだ様々な御意見、御質問もあると思いますが、まずは行動が全てです。我々に責任があるとすれば、今日の状況に至るまで早急に行動を起こさなかったことです。人的被害の発生を未然に食い止め、一刻も早くダイノ島住民に平和な日常を回復させることこそ、ヘリック共和国軍の使命だと自認しています。会見の方は以上で一度終了しますが、引き続き質問がある場合は質問用紙を配布しますので、記入の上ここにいる広報担当官マーティン曹長に渡して下さい。マーティン曹長、後を宜しく。

 やあ、どうも。デニス君も戻っていたのですね。会見には間に合ったようで。私も念のため質問用紙に記入して提出しておきましたが、どの程度勝算があるのでしょうか。シールドライガーにしろ、凱龍輝にしろ、何しろディマンティスの数は圧倒的だ。たかだか数機の戦闘ゾイドで本当に殲滅できるのか、疑問に思います。それでも本土の研究者達がシミュレートした結果であろうから、期待もしているが。まずは作戦行動を見守ろうとしよう。
 おや……ナイルズさんだ。アドバイザーとして軍に呼ばれたのかな。やあ、ナイルズさんどうも。
 ああ、こんにちはウォルター、それとデニス君でしたか。やはり参加されていましたか。

 ナイルズ様、こちらは?

 御心配なくマーティン曹長。以前お話ししました、協力して頂いている報道の方々だ。ウェイビー新聞西エウロペ地区支社長ウォルター氏と、同じくデルポイ本社派遣記者のデニス君。

 失礼しました。軍広報担当マーティンといいます。始めまして。

 ご丁寧に、どうも。ナイルズさんは早速お仕事ですか。

 午前中は管理局側で受け入れ準備をして、この会見に間に合う様サポートさせていただいた。軍当局は全面的に協力体制を整えてもらえるので心強い。これから島の地形を説明する為にアンドリューのアロザウラーを使って少佐達を案内してもらう予定になっている。
 ほう、午前にはデニス君も。アンドリューも大忙しだ。観光案内の仕事が無くても食っていけるな。ああ、古い友人なんだ、面白い奴だろう。
 では私も途中まで同行するのでここで。

 ナイルズさんもアンドリューさんも大変だ。では我々は軍の装備の見学に行きましょうか。カメラありますね。でも撮影許可は下りるでしょうか。

 残念ですが、施設の見学は許可されません。先ほどの質問用紙への記入を以て本日の軍の説明は終了となります。

 意外ですね。戦闘行動でもないのに、装備品の非公開とは。残念です。それとも何か秘密の装備品でも搬入されるのでしょうか。

 上層部からの通達をお伝えしております。駐屯地の範囲の外側でしたら、撮影も可能です。まずは明日の作戦行動の開始までお待ちください。では、ナイルズ殿、移動をお願いします。





お早うござ――そちらでは「こんばんは」でしょうかデニス君。フィニアスです。報告書を確認しました。作戦実行が明日の朝7時より。参加するゾイドが6機ですか。
 確かに心もとないと思います。その点についてのデニス君の捕捉なのですが、気になりますね。駐屯地に待機している部隊とは別に、先程ネオゼネバス帝国のホエールキングが西エウロペに向かったとの報告を受けたのです。それも共和国領の上空を堂々と突っ切って。休戦協定は結ばれているものの、あれだけの輸送艦が無断で飛行すれば共和国軍側も何らかの動きを見せるはずなのに、何もない。どうやら今回のディマンティスの件に関わっているのではないでしょうか。引き続き、現場の確認を続けて下さい

[430] 蟷螂の島(オリジナルVer)レポートD 城元太 - 2014/01/29(水) 21:32 -

レポートD

203号室デニス・エクシグウス様、おはようございます。早朝に大変申し訳ございませんが、グローサー新聞社の支社長ウォルター様より緊急のお電話です。お繋ぎして宜しいでしょうか。
 お願いします

デニスさんおはようございます。朝早くからすみません。御目覚めでしたか、失礼します。さっき社の者が夜勤明けで駐屯地の近くを通って帰宅しようとして、とんでもないものを見たんです。ゼネバスの紋章の入ったホエールキングが着陸したのですよ。今朝私の個人宅に連絡を受けて。それで今自家用を使って駐屯地前のフェンスに来ているのですが、ここからとんでもないものが見えるのです。
 ゾイド、それもネオゼネバス帝国製の。ダークスパイナー、それも4機。信じられないでしょう、でも、ホエールキングの格納庫スロープの周りに黒服のネオゼネバス帝国兵が降りて作業をしている。簡易ハンガーに駐機しているのがダークスパイナーで、その後方にライガーが4機。それとゴルヘックスがいます。ゴルヘックスは昨日の会見では姿を見せなかったのに。おそらくタートルシップに搭載されたままだったのでしょう。ネオゼネバスの連中が、何やら軍と話していますね。
 そうですね、本社への報告をして下さい。今支社には若い者が詰めています。必要でしたら社の方に連絡をして社用を回してもらっても結構です。ホテルから行っても経費申請すれば大丈夫ですよ。
 打ち合わせにだいぶかかってるなあ。どうも帝国と意見が合わないのだな。
 連絡手段は携帯していますよね。まずは一回切ります。本社への連絡、今首都は時差で夕刻だから夜の放送には間に合うでしょう。私は引き続きここで様子を見ます。駐屯地、正面入り口前駐機場。待ってます。切りますね、それでは

こちら首都グローサー社、社会部ホーソンです。
 ああ、デニス。礼の件だが、俺も自分なりに調べてみたんだ。『ゴルディオス』って聞いたことあるか。オルディオスじゃないぞ、ペガサスには似ても似つかない代物だ。ゴーディアン・ワームの由来となった、地球の古代の王の名前だ。奴らはゾイドコアに寄生する生物なんだが……。
 ちょっと待った、そんなことがあるのか。
 ウォルター支社長が確認。判った、直ぐにフィニアス部長に伝える。いまミーティング中だから電話口には出られないけど、詳細はメールで送付してくれ。画像は添付できるな。機材は望遠があるか。
 よし、頼んだ。俺もすぐ報道に掛け合う。
 動くんだな。現場、わかった。それじゃあ例の資料はそっちにデータを送っておく。なるべく詳細に、頼む、部長は任せておけ

 承りました。丁度向かわれるお客様がいらっしゃったので、ホテルの車で駐屯地までお送りします。同じ報道の方が御同席となりますが、宜しいでしょうか。間もなくエントランス前に着きますので、お待ちください。

 おはようございます。はじめまして、キャリントンフレアのアーサーです。グローサー新聞の、デニスさん。昨日の会見には御参加でしたか。私もどうも気になって質問したのですが、まさかネオゼネバス絡みとはね。
 来ましたね。乗りましょう。

 この車、結構いいですね。そうそう、ネオゼネバス軍の話でしたね。
 私は同業で基地前に詰めている友人から早朝にメールをもらいまして。徹夜で編集作業をしていたから気が付きました。
 まただ、あの林の奥。ディマンティスはどこにでもいるな。それでどう思います、ダークスパイナーのこと。もともと鉄竜騎兵団が開発したSSゾイドだから、ネオゼネバスが再進攻を掛けて来たのかとも思いましたが、どうも違いますね。
 協力態勢? 確かに今は停戦状態だし、事実上の終戦ですが、軍備は相変わらずだし。これは私見ですが、ゼネバスの連中、ディマンティスの大量発生の尻拭いを買って出たんではないでしょうかね。なんでもオーガノイドシステムも絡んでいるんでしょ。サンプルは既に共和国軍が持っている以上、協力を申し出ても、資料の回収を望むのではないでしょうかね。いくら休戦協定が結ばれていて、雪解けムードも高まっているとはいえ、帝国軍の動きは迅速過ぎる。どうしても下心があるんじゃないかと勘ぐってしまうわけで。
 ゴルヘックスがいる? それじゃあ、ジャミングウェーブも機能しないでしょう。まるで天敵みたいなゾイドを並べて作戦行動するのであれば、さっきの話、増々現実味を帯びてくるとは思いませんか。
 またいた、ディマンティス。
 支社の方が先発しているのですね、羨ましいな。私などフリーの契約記者だから、全部自分でやらなければならないので。
 見えてきた。ホエールキングだ。でかいな。空港が埋まっている。
 それでは、各自取材と行きましょう。後ほど。

 デニスさん、こっちです。意外と早く着きましたね。派手に動き出しました。ダークスパイナー、ゴルヘックス、そしてシールドライガーが揃って移動を始めています。3機でトリオになって。信じられませんね、帝国と合同で作戦行動をとるなんて。それと、さっ報道機関に連絡があって、両軍協力の下のブリーフィングを公開するそうです。開場は間もなくだそうで。
 予備のバッテリー大丈夫ですか、送信の方も。
 行きましょう、開門です。
 
 拡声器使った方が宜しいですか。聞こえますね。
 これより本作戦の遂行についての確認、及び説明を開始する。なお、今回このディマンティス掃討作戦に関し、ネオゼネバス帝国軍、ダークスパイナー中隊の協力を得られる事となった。先刻より承知と思うが、帝国軍より派遣されたホエールキングによって4機のダークスパイナーが到着した。こちらが中隊指揮官のサムエル・ハーネマン大尉である。今回の御協力をヘリック共和国軍代表として感謝の意を表明したい。
 まず現時点を以て、本作戦の正式名をオペレーション・ブレーメンと呼称する。これは古代地球のブレーメンという町に大量発生したネズミを駆除する為に、笛吹き男がネズミを誘導し、一斉に駆除を成功させたという伝承に由来する。
 それでは戦力配置図を準備する。
 まず、各部隊はシールドライガー及びライガーゼロの各機に加え、それぞれゴルヘックス、及びダークスパイナーを同行させる。行動開始予定地点に到着次第、一斉に作戦を開始する。当初の予定通り、まずライガーが徹底的にディマンティスを山林から炙り出す。金属成分を含む樹林帯の中ではジャミングウェーブの効果も低いからだ。追い出されたディマンティスの群れをダークスパイナーがジャミングウェーブによって誘導、その時ライガータイプまでジャミングの影響を受けないよう、ゴルヘックスのクリスタルレーダーによって保護する。万が一ダークスパイナーへのディマンティスの攻撃が及ぶ場合には、ライガーがこれを排除、防衛することとする。東部に一斉に誘導されたディマンティスを、凱龍輝の集束荷電粒子砲にて随時破壊、これによりダイノ島に生息するディマンティスを九割まで漸減、本作戦の第一段階を終了させる。
 第二段階では、改造エクスグランチュラによる捕獲を継続し、徹底した掃討を行い、この島からディマンティスを消滅させる、最後の一匹になるまで、徹底的に相当する。詳細な作戦行動については各部隊に計画書を配布済みである。確認は各部隊で行うように。以上だ。

 ブリーフィングは質問の受け付けも無しか。一通り作戦経過はわかったが、露骨に帝国兵とギクシャクした関係が見えた。連携が不安です。
 確かにジャミングウェーブならばゾイドを意のままに操る事も可能だから、今度の作戦に関しても有効だとは思います。
 ただね、デニスさん。あなたのようなお若い方には判らないかもしれませんが、私達第二次大陸間戦争と、それに続くネオゼネバス帝国の逆襲を経験した世代にとって、ダークスパイナーとセイスモサウルスは最も忌々しい存在なのです。嫌悪感が半端ではない。それを引き連れて駆除するなんて。私が古い人間だからなのでしょうかね。
 もう一つ気になっている事は作戦の名称です。ブレーメンの笛吹き男は、ネズミを捕り終ったあと契約した賃金を受け取れなかったことに腹を立て、町の子ども達を大勢何処かに連れ去ったという。あのダークスパイナーがダイノ島の有益な資源を奪って逃走するようなことにならなければいいのだが。取り越し苦労でしょうかね。
 司令所にモニターが設置されるそうです。追跡はダブルソーダーが。テントに行きます。

 作戦開始地点に各部隊が到着するまで少し時間がありますね。
 さっきの話の続きですがね。戦争は終わったのに、なぜ今更こんな目に合わなければならないのかとずっと考えていました。一度として大きな戦禍に巻き込まれたことの無いこの楽園のような島で、なぜ野良ゾイドが大繁殖するという事態になったのか。
 自然という奴は無慈悲で、時に残酷な事も判っています。自然が自然を破壊するなんてことも許されるのですからね。だがあのディマンティスは自然ではなく、人為的な破壊兵器と考えるとどうにも収まりがつかないのですよ。
 共和国軍は、社交辞令としてかもしれませんが、帝国軍に最大限の礼を尽くしています。でも元々原因を作ったのは帝国ではないですか。オーガノイドシステムの開発にしたって推進していたのはあの摂政です。
 結局は自己完結ではないですか。仮にダークスパイナーで止めを刺せても、私たちの世代の中には割り切れないものが残るのです。これは年寄りの愚痴ですかね。
 愚痴を溢している間に映像が……空中と、地上からのものがそれぞれのモニターに。6つのモニターを同時見るのも大変だ。いっそホエールキングかタートルシップで移送を考えなかったのでしょうか。
 地形を読み取る必要があったから、ですか。まさか帝国が共和国侵攻に備えて地形図を作成しているわけではないでしょうね。 

 @からDのナンバーの振ってあるモニター映像がゴルヘックスから送信されるもので、一番右のものがダブルソーダーからの映像。画面が揺れますので、乗り物酔いにも類似した感覚に陥る場合もあります。

シエラ部隊、待機地点に到着。指示を待ちます
デルタ部隊、待機地点に到着、同じく指示を待ちます
インディア部隊、間もなく到着予定。本機ゴルヘックス3番機が若干後落中、本機到着次第追って連絡する
ダブルソーダーより、ズール部隊を確認。現在海岸線をダイノ島西方に向かい移動中。3機とも並走しているようだ
ズール部隊、到着予定時刻を通達せよ
ズール部隊より司令部へ。現在より20分後に目標地点到着予定。ライガーゼロは燥ぎ過ぎだ。もう10匹ほどディマンティスを破壊している。進撃状況には影響はない
オスカー部隊、先程ラッテンフェンガーのジャミングブレードが障害物と接触、第二背鰭が若干屈曲した模様。目標地点に到着次第、機能の確認をする

 モニターの音声にしては思いのほかよく聞こえますね。それにしても「ネズミ捕り男(ラッテンフェンガー)」とは、ダークスパイナーのコードネームにしては言い得て妙なものだ。

オスカー到着、ジャミングブレードに問題なし。配置完了です。作戦、開始します
インディア、シールドライガー突入しました。目標、移動を開始します
ズール、同じく突入
コロニーを発見
位置を特定せよ。マーカー確認、コアの処理急げ
ディマンティス、一斉移動を開始しました
奴らコアを持っている。繁殖されると厄介だ、攻撃を継続、コアごと破壊
平地に出ました。ものすごい数だ。どこにこんな数が
地表が動くようだ。器用に衝突もせずに移動している
あの目だ。光学機能が高い。攪乱用に煙幕散布を頼む
こちらダブルソーダー、これより煙幕の散布を行う。ゴルヘックスは味方の位置を正確に伝えろ。警戒は怠るな
島の中央に群れを追い立てる。尾根伝いに東部に誘導せよ
現在ディマンティスの群れは3群に別れ移動中、南西方向に包囲から離れた群れを発見、オスカー、確認せよ
オスカー、現在海岸線付近よりマーカー地点へ移動。発見した。これより追い立てる
ラッテンフェンガー、先行には及ばない。ライガーゼロ下がれ、ジャミングウェーブを撃つぞ
シエラ部隊確認。現在ラッテンフェンガーは東北東より進攻、ジャミングウェーブ、ハウリング確認、距離宜しいか
各部隊、位置情報を伝えよ
デルタ、何処だ
いま探信を打った。確認宜しく
確認した。ラッテンフェンガー、位置情報確認。周波数同調、包囲、ダイノ島中央部山岳地帯。樹木による拡散を考慮、各部隊発振開始
ジャミングウェーブ、発振しました
オスカー、同じく発振
ズール、同じく発振開始
ダブルソーダー回避、ライガー部隊及びゴルヘックス部隊、後退

 地鳴り?
 一斉移動だ、こっちに向かってくる。

現在第一群、『焼却炉』に向かい移動中。コアも持っている。都合がいい
凱龍輝、スタンバイ完了。集光パネルへのエネルギー供給準備

デルタ、ラッテンフェンガー、来ました。約100機!
射線まで500m、誘導頼む
荷電粒子砲準備、ライガーの暴走に注意
ラッテンフェンガー、移動を停止。ゴルヘックスはライガーの前へ
ジャミングウェーブで群れを射線上に停止させろ。出来るだけ多く
『焼却炉』敷地内、群れで一杯です。焼却許可を
緩衝地帯への侵入を避ける。凱龍輝、発射を頼む
確認しました。荷電粒子砲発射、10秒前。射線上に味方はいないな
こちらダブルソーダー、射線上に味方機なし
了解、荷電粒子砲発射

 どうした、肝心なところで。
 モニターが焼付いた。真っ白で何も見えない。
 命中したのか。
 映像が回復しても煙で何も見えないじゃないか! こんなところでホワイトアウトとは。
 漸く晴れてきた。凱龍輝の前、これは……

こちら凱龍輝、第一射終了。機体に異常なし。集光パネルよりエネルギー補充。第二射に備える
上空より確認、第一群のほぼ八割を破壊。射線上より離れた場所に大破したディマンティス数機、手負いの機体も数十。作戦は成功と認められる
了解、続いて第二群を誘導する。今度も頼むぞ
凱龍輝、了解
ラッテンフェンガー、第三群は待機、凱龍輝のタイミングを待つ

 どうやら、作戦は順調なようです。この調子でディマンティスが駆除されれば、暫くは安心となるでしょう。しかしさすがに生々しいな。石化するならまだしも、後ろ半分を吹き飛ばされても鎌で這いつくばっていたり、頭部がないのにまだ動いていたり。荷電粒子砲の直撃を受けずに生き残った奴ら、自分たちがなぜここに誘導されて、みすみす焼き殺されたのかもわかっていないでしょう。
 奴らには痛覚があるのでしょうか。私は無い事を願いたい。ゾイドとはいえ、生き物が焼かれる姿を見るのも忍びない。考えてみれば、奴らも好きで増えたわけでもないだろう。不幸な偶然で、こうまでなったのだからね。

第二群、射線上に誘導されました
ラッテンフェンガー、ディマンティスの活動を停止させろ。なぜ奴らの中でまた残骸を喰い始めているのがいるんだ
発振出力変わらず、荷電粒子砲発射直後による輻輳ではないか。移動は止まっている
『焼却炉』、準備はいいか
発射準備完了、いつでも行ける
こちらダブルソーダー、射線上に味方機なし
了解、荷電粒子砲発射

 今度はカメラをパンさせたのか。これなら焼き付きはできないでしょう。
 見えた。ああ、今度もだ。

凱龍輝、第二射終了。機体に異常なし。エネルギー補充。第三射に備える
了解、第三群を誘導する

 まるでゾイドの墓場だ。黒焦げにならない分、余計に生々しい。脚や鎌、頭を突き出して、それにしてもまだ触覚が動いている。仲間の機体を喰おうとしている個体がいるとは。恐ろしい生命力だ。第三群が誘導されてくる。ざっと数百は焼かれたでしょうか。これで島にもとの暮らしが戻ってくるか。
 おや、少し群れが崩れている。動きがおかしい。さっきまで地表が一斉に動く様に誘導されていたのに。ダブルソーダーのモニターEです。群れの密度が若干下がったと思いませんか。身を寄せ合うように移動して来たのに、今度は何か隙間が空いている。

第三群、誘導は完了したか
誘導完了、『焼却炉』準備はいいか
第三射準備、上空確認宜しいか
射線上に問題なし。群れの間が空いているので効率は下がる
了解、荷電粒子砲発射する

 薙ぎ払われていく。でも、何か生き残っている機体も多いな。直前で攻撃を回避したみたいに。生き残って山の方に逃げていく奴らまでいる。あの体では、生き延びることは無理だろうが。

第四群、どうした。誘導に時間がかかっているぞ
こちら後方、オスカーだ。群れが逆走しているぞ。誘導できない
ダークスパイナーの脇を駆け抜ける? 馬鹿な! ジャミングウェーブは発振しているのか
出力を上げて発振中、なぜ誘導できない

 どうしたのでしょう。群れが、こんどはほとんど群れになっていない。それに積み重なった残骸の前でそのまま後退していく。まるで死体の山を見て怖気づいて逃げていく群衆のようだ。

逃げていくぞ、やつら誘導されていたのではないのか
まさかこの短時間で、ジャミングウェーブに対する耐性を
全く効かない、凱龍輝の前にも行かない。山へ逃げていく
ライガー部隊、包囲できるか。駄目だ、展開した距離が広すぎる。網目が粗すぎる
何をしている、ラッテンフェンガー、一斉発振を
帝国側より報告、出力限界、ダークスパイナー全機離脱します
司令部、どうなっているのですか! 確認をお願いします。作戦の継続は……

[431] 蟷螂の島(オリジナルVer)レポートE 城元太 - 2014/01/29(水) 21:33 -

レポートE

 安全確保の為の報道規制がかかる前に最後の現場撮影とは、デニスさんもお若いのに大胆だ。危険な分、実入りが良いので私にとっては都合良いのですがね。アロザウラーに乗るのはこれで三度目です。どうです、慣れましたか。
 まだ少し慣れませんか。まあ、デニスさんはいつも身を乗り出そうとするから。
 ブレーメン作戦でしたか、残念な結果になってしまいましたね。まさか、ジャミングウェーブが効かないなんて思ってもいませんでしたからね。あれは一体なんだったんですかね。新聞で読んだのですが、オーガノイドシステムがどうとか……。
 幾つか理由がある、それで、どんな?
 オーガノイドシステムいうのはもとからジャミングウェーブが効きずらかった。そういえば奴らには、そんなシステムが入っていましたかね。
 それと、仲間に危険を知らせたから。どうやって?
 生き残ったディマンティスが、触覚を使ってコミュニケーションをとったらしい。確かにあれはアンテナでしたね。
 危険を察知する能力の高さ。具体的には?
 視覚に頼った情報分析能力? すみません、もう少しわかりやすく。
 ええ、あの赤い眼玉は確かにでかいですが、別に珍しいことではないと思うのですが。
 見ることで危険を察知できる能力が高いということですか。自律機能がものを考える力を強化したと。
 始末が悪いな、頭が良い上に増える速度まで早いなんて。嫌な話、このままではこの島だけでなく、この惑星まで奴らでいっぱいになるなんてこと、ありませんよね。
 脅かさないで下さいよ、デニスさん。これから奴らの巣にまた行こうというのに。私もアロザウラーも、まだ奴らに喰われたくはありませんからね。

 ところで、あれからまた島の住民は減ってしまいました。作戦が失敗に終わって――軍では失敗とは言ってませんが――荷電粒子砲やジャミングウェーブでも駆除できないと判ってから、もう翌日から脱出手続きをする人ばかりになりました。隣の家でも暫く疎開するとかで、今朝早々に出て行きました。寂しくなりましたよ。私などはこうして新聞社さんや研究者さんを乗せる仕事があるので助かりますが、この島の住民の大部分が営んでいる果樹栽培ができなくなったら、もうこの島では生活できなくなってしまう。もとから戦争が終わって、ニューヘリックシティーやデルポイ大陸に移り住む人たちも増えて来ていましたが、今回の事件は島の住民の流出を後押しする形となってしまいました。
 誰でもきつくてつらい農作業は苦手ですよ。それでもエウロペのエメラルドという称号を誇りに思って働いてきた。ところがどうだ、エメラルド色は、奴らの黄緑色の羽に置き換えられ、地表は奴らが化石木を掘り返した為に茶色く土が露出してしまった。
 羽の色といえば、デニスさんは気が付きましたか。
 そうです、奴らの羽の色ですよ。体色といってもいいかな。前にお乗せした時にも言いましたが、なにか茶色が濃くなっているような。今日の調査で確認してみましょう。
 見えてきました。新しいコロニーです。だいぶ人里に近づいて作られているから、用心した方がいいですね。アロザウラーからなるべく降りないようにして、万一の時は直ぐ逃げられるようにしておきませんか。
 そうです、安全の為です。デニスさんはまだお若い。こんなところで怪我などしてはつまらないでしょう。
 行きますよ、クレバスを覗き込みます。

 いました。絶対増えているな。それと、色もやっぱり違う。黄緑というよりは、もう薄茶色でしょう。それと、あの赤い羽。なんか大きくなっている気がしませんか。
 え、形が違うのがいる?
 本当ですね、鎌の形が違っているような。大きくコアをすくいあげるのに便利な形と、何か鋭くなっている形がありますね。あれで同じディマンティスなんでしょうか。仲間を運んで来た奴がいる……違う、あれは死骸だ。餌として、仲間の死体を持ってきたんだ。羽化していく、それも際限なく。
 あれ、もう色が茶色だ。それに一斉に羽化しているのに、共食いをする奴がいなくなっている。ここは完全にディマンティスの巣になってしまっている。
 気が付かれました。アロザウラーを起します。とりあえず逃げましょう。

 追って来てる! 今までこんなこと無かったのに。
 くそ! 行き止まりだ。こんな所に岩壁だなんて。
 止むを得ません、戦います。カメラ、ぶつからないようにしておいて下さい。
 二連ビーム砲が効かない。電磁クローを使います、接近するので足を踏ん張っていて下さいね。
 こら、どけ!
 まだか、一度にこの数では。
 やれるか、二匹めだ。
 馬鹿な、飛んだ!
 赤い羽根が大きく伸びている。飛距離も伸びている。以前の飛行のぎごちなさがない。
 自動追尾です。二連装ビーム、驚きましたか。
 よかった、なんとか撃ち落とすことができた。距離をとったら奴ら戻って行きます。テリトリー意識が強いのでしょう。
 兎に角帰りましょう。今日はこれ以上は接近できない。取り敢えず充分映像もとれましたから。




 無茶をしたものだ。確かに私も若い頃には覚えはあるが、危険を冒してまでスクープを撮ろうという考え方は変えて下さい。アンドリューもよく請け負ったものだ。だが君らが命懸けで撮ってきた貴重な映像だ。充分に活用させてもらおう。ナイルズさん、御覧になっていかがですか。

まずは私からも礼を言う。よくこれだけの映像をよく撮ってきてくれた。非常に参考になった。用語が専門的になることは許してくれ。
幾つか判ったことを説明するが、どうやら奴らは、生態学でいうところの『相変異』を起し始めているらしい。
 真社会性について話したが、恐らくデニス君達の見た変異したディマンティスは、職能が分化された結果、ワーカーとソルジャーと呼ばれるカーストが発生したのだ。子育てや餌の収集を行う個体と、天敵から身を守るために兵士としての個体に分かれて、更なる増殖を効率的に行おうとしている。蟻や蜂と違うのは、奴らに女王がいないことだ。各個体が互いのコアの情報を交換し、それぞれがコアを産み落として繁殖している。ゾイドに雌雄の区別はないので、どちらもオスでありメスであり、2匹の個体がいればどこでも増えることができる同時的雌雄同体と呼べる。様々なコアの情報が共有されることで、急激な進化をすることができたのだろう。向社会性についても説明したが、互いに助け合い種の繁栄に協力する親が、自分の身体を餌にするという行動も、我々人類の理解が及ばないだけのことで生物界では珍しくもない。
 個体の変色と飛行能力の取得については、恐らく奴ら『渡り』の準備をしているのだ。ある種の動物は個体群密度が高くなると、『孤独相』と呼ばれる通常の個体から『群生相』という飛翔・移動に適した形態に変異する場合がある。この島にはこれ以上棲めなくなるのも時間の問題だ。それに先の攻撃で進化の速度が加速されたに違いない。その為に飛行機能を再生させたのだ。
 目的? もちろん大陸に渡ることに決まっている。
 これは最悪のシナリオとして聞いてくれ。奴らが大陸を目指すとしたら、あのオーガノイドが巣を掛けた古代遺跡ではないだろうか。
 北エウロペまで行かれたら、その先はもうすぐにデルポイとニクスだ。ただでさえ爆発的に増殖を始めているのに、これ以上増えたらこの惑星がディマンティスだらけになることなど時間の問題だ。
 いいかデニス君。自然環境というものは地質学的な歴史を重ねて刻まれて来たものであり、単独種が繁栄することは生物多様性の面からみて許されるものではない。この星のゾイドのユニークさは、誰もが認めるものだろう。ところが奴らはつい先程産まれたばかりの生物界のルールを知らない怪物なんだ。歯止めなく増殖し、この惑星上の全てを食い尽くしたら、自分達も滅びることを知らない。天敵も存在せず、コアを無制限に増殖させ続ければ、この最悪のシナリオが展開される可能性もあるのだよ。
 私がワイツゼッカーに、西エウロペ本土のダイノ島側にガンブラスターやプテラス等の迎撃ゾイドを配備し水際での侵入を阻止してもらう対策を講じるよう進言することはできる。だが根本的な解決には至らない。
オーガノイドシステムは、デススティンガーとは違った方法でこの惑星を滅ぼそうとしているのだ。

 この星は滅びてしまうのですか。

 ルイ君、これは飽くまで可能性の問題だ。軍が総力を挙げればディマンティスを殲滅することも出来る。今は我々に何ができるかを検討すべきなのだ。心配はない。

 そ、そうですよね。少し安心しました。私は何か温かい飲み物を準備して来ます。

 頼みます。さてナイルズさん、今後の対応ですが……

 軍が総力を挙げてディマンティスの殲滅をした場合、この島も殲滅されるでしょうね。

 ナイルズさんそれは……。ルイ君どうした。何か落としたか?

すみません、手元が滑って、折角支社長に作ってもらったコーヒーフィルターの針金がとび出してしまって。

落ち着きなさい。コーヒーはいいから、別の温かいものを用意してくれ。ナイルズさん、あなたが決して裏付けのない発言をしないのは理解しています。ですがもう少し言葉を選んで頂けますか。まだ万策尽きたというには早すぎる。デニスさん、あなたも何かいい意見などありませんか。
 ……あなたまで絶望的な意見に賛同してしまうのですか。

 彼はあの営巣コロニーの様子を間近に見て、更には攻撃まで受けたのだ。納得せざるを得まい。今の私に進言できることといえば、全島民の避難と軍による一刻も早い全島一斉攻撃、及びディマンティスとそのオーガノイドシステムを備えたコアの焼却しかない。他に手段があるのならば、私が聞いてみたい位だ。

 あの、飲み物をお持ちしましたが、お邪魔ではありませんでしたか。なにか随分お話しされていたようなので。

 いや、大丈夫だ。ありがとう。ココアか。すこし頭を使ったから甘いものの方が有り難い。
それは壊れたフィルターだね。落としたはずみで見事に針金がとび出して。今度また直しておくよ。それより君も落ち着いたかい。

 はい、飲み物を準備している間に落ち着きました。支社長の心遣いには感謝しています。すみません、折角作って頂いたフィルターを壊してしまって。ところで支社長、今までのお話を聞いていて思ったのですが、あのディマンティス達は人と同じ行動をしたから、人と同じように増えてしまったのですね。

 ルイ君、急にどうした。まずは座って。

デニスさん、横、失礼します。
お話を聞いて思い出したのです。私は幼い頃から両親に「人は助け合って生きなければならない」と言い聞かされてきました。「最初から疑うのではなく、信じ合うことから始められる」と。

 向社会性、利他的行動が繁栄に結びつくか。社会性昆虫は人間の社会形成とは全く違う家族集団だが、それがミクロなものではなくゾイドというマクロな生物で展開されたことが、今回の事態となったのだ。古代ゾイド文明はオーガノイドによって滅ぼされたとだけ伝えられているが、その原因はデススティンガーのような大型ゾイドではなく、或いは全く別のゾイドが原因であったのかもしれないな。

私は両親の教えは正しい事だと信じています。「怖いのは人を信じられなくなった時だ」。でもあのゾイドが増えることが出来た理由がお互いの信頼と助け合いだとしたら、人間社会に対する大きな皮肉になってしまうのではないかと、悲しくなりました。

ルイ君、君の御両親は間違った事など言ってはいない。人を誰も信じられなくなったら、人の社会は崩壊する。そうして私達人類は、文明を築き上げて来たのだからね。

デニスさん、何か言いましたか。
ディマンティスを駆除する方法ですか、一体どんな?
 
 それは……かなり凄惨な作戦になるな。しかしやってみる価値はありそうだ。その考えは及ばなかった。問題はどうやって奴らに取り込ませるのだ。
 なるほど、帝国にはもう一度協力を仰がねばならないが、そうすれば確かに奴らの体内に取り込まれるだろう。  

そんな方法ですか。その上で残ったコアも徹底的に駆除するのですね。でもどうして突然そんなことを。もしかして、さっきのルイ君の話が参考になったのですか。

君の発想は非常に面白いよ。奴らの真社会性と向社会性を崩壊させ、その上で処理を施し増殖を防ぐのか。残骸の場所を直ぐにシェイラーに確認しよう。君のアイディアをワイツゼッカーに伝え、帝国と折衝を頼み、軍との詳細な作戦を練り直す。私は必要なものを本土の知人に頼んで培養する。忙しくなるぞ。

あ、あの、私の話が役に立ったのですか。

勿論だ。壊れたフィルターと共に感謝させてもらう。

[432] 蟷螂の島(オリジナルVer)レポートF 城元太 - 2014/01/29(水) 21:36 -

レポートF

 このゾイドのコクピットの狭さはなんとかなりませんか。複座のアロザウラーとは比較になりませんよ。まあ、コロニーの詳しい場所を知っているパイロットが私しかいないのですから仕方ないのでしょうが。危険な事は我慢できますが、狭いのはどうも。
 こいつアロザウラーより新型ですよね。操縦系は随分と単純なんだ、帝国製のゾイドは。自分がこいつに乗っているなんて、なんだか複雑な気持ちですよ。
 共和国軍の部隊を先導すればいいのですね、わかりました。危険手当もお願いしますよ。今更ながら現役時代を思い出します。
 では、各部隊出発します。私はあまり戦いませんからね。

 デニス・エクシグウス君といいましたか。ナイルズ氏から聞きましたが、よくこんな作戦を思いついたものだ。
 帝国から借り受けた別のディマンティスで奴らを攪乱し、信頼関係を破壊して相討ちにさせ、その上で残骸に例の代物を撃ちこんで摂食させるとは。
 ダークスパイナーを貸与してもらう時より遥かに手続きは容易だった。なにぶん目の前に何千何万もの同機体が繁殖しているのだからね。半ば譲渡といってもいい素振りだったよ。帝国軍の中でも、ディマンティスがいつ増殖してしまうのか懸念している連中もいるようだったから。
それでは一度司令部に入りましょう。

 作戦の概要を説明します。帝国より貸与されたディマンティス12機を、各小隊4機で運用しゲリラ的に攻撃を仕掛ける。後方にはシールドライガーを配備し、我々のディマンティスが仕留められなかった場合の護衛を務めさせる。この作戦のポイントは、倒した野生のディマンティスに特殊な処理をして、餌として積極的に他の個体に分け与えることです。共食いの習慣を学習させることで、互いに潰しあいをさせ、個体数を減らす。一方で我々は、産み落とされているコアにも増殖を停止させるための処理を施す。本作戦は長期間に亘るため、PMCを含め土地勘のある地元のパイロットにも協力を願いました。今後ディマンティスが減った後も、継続的に駆除をしてもらうためだ。
 今回もダブルソーダーのモニターから映像が送られてきますが、今回はそれぞれにゴルヘックスは同伴していないので空中映像と単独の音声のみになります。まずは経過を見守りましょう。間もなく作戦の開始、作戦名は『ゴルディオス作戦』とする。
 ダブルソーダー、配置と進行状況を伝えよ。

ダブルソーダーより司令部へ。現在各部隊は野生のディマンティス営巣地帯に向け進撃中、途中数機を撃破、処理を施し別個体の元に移動中
オスカー部隊が敵と接触。数7。3機を破壊後、疑似的な接触行動に見せかけ処理を行い残骸を遺棄。その後残りの個体が接触するのを確認する
デルタ部隊からの報告では、一部ウォリアーとの接触を行うもののこれを撃退、撃破。撃破した残骸に処理を行い、営巣地帯のコアの上に遺棄。孵化後の幼体が摂食できるようにしたとのことです
インディア部隊、ワーカー群と接触。8機内半数を破壊、疑似的摂食行動と処理を行い遺棄。ワーカーの摂食を確認する
ズール部隊が飛翔体と接触した模様。上空からも確認。およそ30機程の群れです。ワーカーだな。各機ガトリング砲座で応戦中
シエラ部隊がウォリアーの襲撃を受けた模様。ライガーゼロが迎撃中
ズール部隊、約半数を撃墜。残骸に処理を施し遺棄。営巣地帯に投入
シエラ部隊、同じく撃退に成功。ライガーゼロが先行しすぎだ
オスカー部隊が新たな営巣を発見、護衛がないので直接コアに処理を行い離脱

 作戦は順調のようだ。ナイルズさん、ゴルディオスが奴らの体内で孵化したことを確認できないのですか。

 残念ながら、外見的に確認することはできない。ゴルディオスのコアは、通常のゾイドコアに比べて数pほどしかない非常に微小なものだ。それだけに宿主に当たるゾイドも寄生されることに気付かず取り込んでしまうのだから。コアの孵化は通常の自然環境では約半数、宿主となる種の絶滅を避けるため、絶妙のバランスをとっている。だが今回は人為的に孵化率を上げたコアを準備した。孵化率はほぼ100%に近いはず。腸内細菌との共生も問題なく調整してある。充分成長し、繁殖期を迎えたゴルディオスは、微弱な電気信号を宿主の中枢神経に送りその活動を支配するようになる。養分となる仲間を見境なく襲って喰らい始める個体が増えれば、着実に寄生が進んでいると判断できるだろう。

 ディマンティスをもってディマンティスを制す、ですか。

 ただ、気が重いですね。想像したくないのだが、ゴルディオスが成長し切ってディマンティスの腹を食い破ってとび出してくる姿を。

 デニス君、ワイツゼッカー少佐に君が独自に取材してきた映像を見せてくれないか。
 それは初耳だ。そんな映像があったのか。ゴルディオスに関するものか。

 デニス君の首都の友人が入手した映像と、例の、最初にシェイラーという中古ゾイド屋からディマンティスを購入したウェイクフィールドという農業主の証言だ。私は気分が悪くなるので中座させてもらう。後を頼む。

スパイカーと、最初に死んだディマンティスの死んだ理由か。あんたも気持ち悪いことを聞きたがるね。
 スパイカーが死ぬ前には、それはだんだん思うように操作出来なくなってきていた。
 その日はいつものように昼間の果物の取り入れ作業をしていたが、突然勝手にゆっくりと動き出してね。何かに操られる様にふら付きながら進んで行くんだ。進路上の樹木もハイパーサーベルで切り裂きながら何かを探すように。やがて島に一つだけある湖に辿り着いた。すると防水処理もされていないのに、スパイカーの奴そのまま湖の中に入って行ったんだよ。まるでゾイドの入水自殺じゃないか。俺はずっとコクピットの中でなんとか操縦しようと悪戦苦闘していたが、さすがに寸前で脱出して、湖の畔で沈んで行くスパイカーを呆然と見ていたんだ。金じゃないんだ、付き合いも長かったし、使い慣れたゾイドだったから、悲しくなったよ。なんでこんなことが起きるのかと考えていた。
 暫くして、スパイカーの機体の半分が水に浸かったころ、その小さな腹の辺りから、太さ70pほどの赤い針金のような物がぬるってとび出してきたんだよ。
 まるでスパイカーの中から針金が生えてくるように、そいつはどんどん水面に伸びていって、たちまち20mぐらいの長さになって水面を泳ぎだしやがったんだ。いや、泳ぐなんてもんじゃない、うねうねとのたうち回っているんだ。ゾイドは金属生命体だから、金属光沢を持つ生き物なんて珍しくはないが、あの目もない口もない針金みたいなゾイドを見たのは初めてだった。あれがゴルディオスというのは、あんたに聞いて初めて知ったが、あれはそんなペガサス型ゾイドみたいなもんじゃない。どうみてもあれは針金蟲という名前の方が正解だ。そのままあの針金蟲はどこか水中に沈んで行った。目の前で、腹を食い破られた俺のスパイカーがブクブクと泡を出しながら浮かんでいた。針金蟲が逃げたから正気に戻ったのかもしれないが、懸命に俺のいる岸に向かって戻って来たんだ。その時は、もしかしたら助かるのかと思ったけれど、無理だった。岸にハイパーサーベルをつけたと同時、身体の石化が始まった。そのままスパイカーは白くなって死んだよ。
 まるで悪い夢さ。最初に死んだ買ったばかりのディマンティスも、死に方は同じだった。ただ、はみ出してきた針金蟲は、まえよりずっと長くて太かった。すっかり腹の中身を食い破られたディマンティスは、抜け殻のようになって湖に浮かんでいたよ。あんな蟲、この島にはいなかった。多分シェイラーの奴が何処から持ち込んだんだろう。けれどもうあんな気持ちの悪いものを見るのはこりごりだ。だからこうして俺は大陸に逃げてきたのだから

 なんとも言いようがありませんね。
映像、これが湖で捕獲された時のゴルディオスの幼体ですか。話しと違ってだいぶ小さいですね。
 宿主のいない場合は環境に応じて成長を抑制する? 不思議な生物だ。これの産んだコアを培養して、軍のディマンティスに装備させたのですね。今の農業主のように、その脱出の場面はあまり見たくはないものですな。
いずれにしても後は奴らの中でゴルディオスという時限爆弾が破裂するのを待つだけだ。デニスさんはこの後は首都に帰るのですか。
一度報告書をまとめるのですね。いろいろとお世話になりました。後は我々にお任せください。それではお元気で。




担当;グローサー新聞社 記者 デニス・エクシグウス
『ダイノ島に於いて大量発生したディマンティス駆除の経過について』

概要:
 前大戦(第二次大陸間戦争)に於いて使用され、遺棄されたガイロス帝国開発のオーガノイドシステムを何らかの形で取り込んだアイゼンドラグーン製のSSゾイド、ディマンティスは、中古ゾイドを扱う古物商に捕獲された後、西エウロペ大陸の西岸にあるダイノ島にて農作業用として転売、果樹栽培作業に利用される。
 自律機能とオーガノイドシステムによって自我が芽生えていたことを混同したディマンティスの管理責任者(この場合農業従事者)は、そのゾイドが繁殖の為山間部に逃走していたことを重視せず、そのコアの産卵に気が付かなかった。
 逃走したままのディマンティスは山間部で繁殖を始める。最初の餌となるのは自ら仮死状態になった親の身体であり、後には島で産出する化石木を摂食するようになる。
 島の環境に適応したディマンティスは島内各地に営巣し、爆発的な大量発生をする。また、各個体が職能分化を始め、ワーカーとウォリアーとの形態へ変化、同時に飛翔能力に優れた個体にも変化を始める。
軍による『ブレーメン作戦』が不発に終わり、増殖を妨げることに一度失敗をした。
 第二の作戦として、研究者と軍の協力により『ゴルディオス作戦』を敢行。
 ゴルディオスとは線形虫型の寄生生物で、金属生命体ゾイドである文字通りの「ハリガネムシ」である。スパイカー、ドントレス、カマキラー等の昆虫型野生ゾイドに寄生し、宿主の体躯に合わせた成長を遂げる。寄生された宿主は、一見通常と同じ生態で過ごすが、生殖機能を奪われ摂食行動のみに執着するようになる。その間、食糧であれば同族であっても無差別に摂取し成長を遂げる。ゴルディオスは宿主の中で充分に成長を遂げると、宿主の操縦系に一種の電気信号を送り水辺に誘導する。宿主はそのまま入水し、体外に水の存在を感知したゴルディオスが宿主の表皮を破って脱出、繁殖相手を求め初めて独自に水中に移動、繁殖する。
 ゴルディオスの生態は研究者の間でも未だ充分に解明されておらず、その胚にあたるコアの採集は困難を伴ったが、幸い最初期に機能を停止した農業主所有のスパイカーの石化地点からゴルディオスの繁殖地を発見、通常のゾイドと比べても非常に微細なゴルディオスのコアを採取、これの培養に成功した。
 作戦の第一段階では、帝国より貸与された有人操縦のディマンティスを利用し、ゴルディオスのコアを遺棄したディマンティスの残骸に移植し、然る後に他のディマンティスに摂食させた。親の身体を餌に成長する幼体も、次々にゴルディオスの宿主となり、生殖機能を失ったまま成長、ゴルディオスの放出後次々に石化して生涯を終えていく。
 作戦の第二段階として、本来の生態系であればゴルディオスは全ての宿主を殺してしまうことはないが、人為的に寄生をさせて残ったディマンティスに摂食を継続させた。
 作戦の第三段階として、大量発生したゴルディオスを凱龍輝の荷電粒子砲で焼却。生態系のバランスの維持を行う。

結果:
 作戦は約半年に亘って展開。最初は仲間の残骸を摂食することに躊躇していたディマンティスだが、ゴルディオスによって摂食行動に貪欲となった個体が増加すると宿主となっていない個体も積極的に共食いを開始。場合によっては孵化直後の幼体を貪り喰う様子も見受けられた。ディマンティスの島内のコミュニティーは崩壊し、一時期飛翔体となって大陸への渡りを準備していた個体も消滅。島内のディマンティスの生育密度が共食いによって下がる事により、ワーカー、ソルジャーの分化も停止。単に仲間を求めて貪り喰らう狂った野生ゾイドに成り果てた。
 半年後、山間部に於いて最後のディマンティスを発見。だがそれもゴルディオスの繁殖地前で腹部よりゴルディオスをはみ出させたまま石化を始めていた。繁殖地に辿り着けなかった個体群は、海浜部に累々と残骸を晒していた。
 ダイノ島でのディマンティス大量発生事件は、こうして一応の終結をみた。

考察:
 人為的に再生されたオーガノイドシステムが、本来の生態系を破壊し、ダイノ島の美しい自然を失わせた。島の再生には時間がかかり、再び西エウロペのエメラルドが輝くには数十年の時間がかかると思われる。更には今回の騒動によって多くの島民が脱出し、再建には人材不足が懸念される。
 責任の所在を何処に持っていけばよいのか、私もわからない。今回の事件を通し、事実は常に無慈悲であることを痛感した。




 海辺の残骸はどうしますか。
 思い出すと、実におぞましい光景だった。水中に誘導されると、途端にディマンティスの腹を食い破って無数の針金がとび出してきたのだから。
 全長が6m程のゾイドの中に、どうやって20m近くのゴルディオスが寄生できたのか、今でも納得できませんね。
 もともとゴルディオスは淡水で繁殖するものだったのに、この乾燥した狭い島では一か所あるだけの湖に集中して、殆ど死滅しましたよ。
 海に向かった奴らは、水を感知してもそれが海であったため繁殖相手を見つけることも出来ず、そのまま海水にのたうちまわって死滅した。
 あの美しい果樹林も、化石木の石垣が切り崩されて大地が剥き出しになっている。
 怒りとか、悲しみより、ただただ虚しさだけが押し寄せてくる。
 デニスさん、あなたはこの事件の顛末をどの様に首都に伝えるのですか。

 支社長、コーヒーの布フィルターがまた外れてしまったのですが。

 紙フィルターにしてくれ。もう針金がとびだすのは見たくない。



Number
Pass

ThinkPadを買おう!
レンタカーの回送ドライバー
【広告】楽天市場にて 母の日向けギフト値引きクーポン配布中
無料で掲示板を作ろう   情報の外部送信について
このページを通報する 管理人へ連絡
SYSTEM BY せっかく掲示板