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ゾイド系投稿小説掲示板

自らの手で暴れまくるゾイド達を書いてみましょう。

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[396] Zoids Genesis -風と雲と虹と(第二部:騒擾編)-L 城元太 - 2013/05/12(日) 10:58 -

 純友は、アースポートに螺鈿色のレドラーが玻璃の翼を並べ、次々と降り立つ様子を覗っていた。

「警護が少ないとは思いませぬか」

 拱手傍観の姿勢を保つ頭目に、佐伯是基が問いかける。

「天上人とはいえ、あれはあれで豪胆な奴よの」
 不敵な笑みを浮かべ、純友は駐機したレドラーの奥のクルーザーを凝視する。

「デカルトドラゴンにせよ、ギルドラゴンにせよ、護衛は如何程でも随伴できるものを、奴は過ぎた警護が民への不安を煽ることを知って、最低限での護衛で降りてきたのだ」
 手ごわい奴だ。無為に北家の政争を勝ち抜いて権力を得た人物ではない。

「恒利、手筈は整ったか」

殿、首尾は上々、抜かり無く

「是基、滝口どもは曳き付けてあるか」

「傀儡の操るマッカーチス陽動部隊を都の反対側に上陸させております」

 腰の通信機から雑音混じりの返信が届く。純友の口許が僅かに上がった。

「都の近衛の実力とやらを、篤と拝見させて頂こう」

 純友は右手を直上に掲げ、そのままゆっくりと振り下ろした。


 海面が泡立ち、漆黒の怪魚が群れを成して浮上する。背部の弾倉が一斉に噴煙を上げ、幾つもの放射状の軌跡が放たれる。放物線を描く砲弾はやがて下降線となり、アースポートに駐機するレドラーに殺到した。
 連続する破裂音に混じり、螺鈿色が硝煙に染まり玻璃の破片が刃となって飛び散る。

「あれを見ろ!」

 悲鳴を上げて殺気立つ群衆の中、海岸線を指差す者がある。その先に、水面より次々と擡げる細長い首が出現した。
 ブラキオスは頭部に眼窩を持たないことで無機的な威圧感を纏っている。四肢を踏み締め上陸を開始する頃合いには、アースポートを中心とした周辺は混乱の極みに達していた。
 純友の予想通り、迎え撃つべき近衛の兵は警備の数が足りず、咄嗟の事態に応戦し切れていなかった。

「海賊衆だ! 海賊衆が襲ってきたぞ!」

 都の市井では事前に潜ませておいた煽動役が群衆の混乱を助長する。全ての警邏がアースポートに集約される中、人の群れとは逆向きに進む一団がある事を見止める者はない。彼らもまた海賊衆の一味であり、騒擾に紛れ義倉など公儀の財を掠め取るのが役割であった。
 純友にとって藤原忠平など襲撃など目的ではない。公の無能さを知らしめること、無為な舎人を嘲笑うことこそ、彼の狙いであった。
 水際のブラキオスを察知し、漸くツインホーンとイグアンの混成部隊が接近をする。

「恒利、やれ」

 再び水上から閃光が奔る。上陸したブラキオスの胸部ビームキャノン砲と喫水上に現れたウォディックの中口径ビーム砲が地上部隊に向け放たれた。イグアンは爆風と共に倒れ込み、片足が削ぎ落とされ横倒しになって無様にもがき苦しんでいる。ビーム砲の直撃を受け、鼻梁と牙を失ったツインホーンは怖気づき引き下がって行く。

『いずれ我らの手中に収めるのだ。その時は我らが公になる時だ』

 ゾイドは止めを刺されることは無い。純友は完全破壊を戒めていたからだ。

 奇襲は完全に成功した。海賊衆による初の正面攻撃に、都の警護は完全に面子を失った。ましてや関白忠平の下向の晴れの日に、完全に海賊衆の思惑通りにしてやられたのだ。純友は拱手したまま、仲間達の鮮やかな連携に満足していた。

 刹那、ブラキオスの首が切断され吹き飛んだ。

 突然の事に周囲を睥睨し、襲撃者の姿を追う。

 それは正に碧い疾風の如き速さであった。
 大型ゾイドでありながら、ブラキオスの胸部ビームキャノン砲の攻撃を立て続けに躱し、装甲のソーラージェネレーターを毟り取りつつ、次第に海上のウォディックに迫って来る。都で見慣れぬ獅子型ゾイドで、その動きは驚嘆すべき敏捷さである。

(まさか、あれが桔梗の前を破ったという坂東の荒武者か)

 碧き獅子は、海浜に横たわる無数のゾイドの死骸を踏み越えつつ飛躍する。上陸したブラキオスはもとより、僅かな岩礁を足場に砂州に着底しているウォディックにも襲いかかる。背部に背負った巨大な剣を機体横ぎりぎりに傾け、喫水上に現出しているウォディックの対艦ミサイルランチャーポッドと中口径ビーム砲座を瞬時に切断した。忽ち4機のブラキオスの首と、2機のウォディックが破壊され、1機のウォディックに於いては完全に沈黙する。

「恒利、不利だ、引き上げろ」

言われずとも逃げまする。なんということだ、都にこんな奴がいたとは

 久しく手練れの者とは手合せしていなかったが、信じ難い機動性を有する碧いゾイドに、海賊衆は翻弄された。

頭、獲物は頂戴しました

 見上げれば漆黒のシンカーが水平線に向かって飛び去って行く。初期の目的を半ば遂げることが出来たことを知ったが、純友は歯噛みをする思いでそのゾイドを睨み付けていた。

「村雨、ライガーか」

 巨大な太刀に刻まれたゾイド文字が、その機体の名前を示している。見れば、村雨ライガーの後方から、見慣れた鋼色の虎型ゾイドが追って来ていた。

「あれは平貞盛のブラストルタイガー。さては彼奴も坂東育ち故、繋がりがあるやもしれません。素っ葉共に素性を洗わせます」

 ブラストルタイガーに続き、レイズタイガー、ワイツタイガー、ソウルタイガー、グレートサーベルなど十数機の強力な虎が結集した。

「滝口め、漸く嗅ぎつけて来たか。傀儡衆めしくじったな。退くぞ。急速潜航、全速離脱」

 純友は再び右手を挙げた。首を失ったものの、コアの無事なブラキオス達が一斉に波間に消えていく。破壊したウォディックを咥え、磯の岩礁にめちゃくちゃに叩き付けていた村雨ライガーは、獲物の一部を嚥下すると、海中に没していくゾイドを口惜しそうに見送る。短時間の水中戦は可能であっても、深追いできるほどの性能も蛮勇もない。村雨ライガーは海賊衆撃退を誇らしく宣言するが如く、勝利の雄叫びをあげていた。


「此度の戦功、誠に鮮やかであった。近衛を含め滝口迄も引き離され、検非違使も警護使も陽動に釣られ動けずにいた。そなたが駆けつけてくれなければ更なる襲撃被害を及ぼしたものを、よくぞ海賊衆を撃退してくれた。礼を申す」

 移築されたアースポートの清涼殿の間で、小次郎は藤原忠平の前に平伏しつつ謁見の機会を得ていた。
 小次郎は、移築された清涼殿の華やかさに圧倒されていた。摂関家の威光を誇示するが如く、これまで見たことも無い鮮やかな色彩と、眩しいばかりの金泥に彩られた絵画が並んでいる。内裏で見た廃墟とは雲泥の差だった。

「咄嗟のことゆえ賊を取り逃してしまったのが口惜しゅうございます。せめてあと一太刀でも切り付けてやりたかったものを……」

 小次郎にとっては忠平を守ったというより、民を守りたかったということだった。無為に破壊され四散する庶民の姿にいたたまれず、太郎貞盛が止めるのも聞かず無我夢中で村雨ライガーを出撃させたのだ。そしてまた、海賊衆の実力とやらがどれほどのものか、純粋に力試しをしたかったというのも本音である。
 背後で咳払いがする。取次の別当が渋い顔をして睨んでいる。「決して関白殿には血生臭い話をするのではないぞ」と言われたことを、緊張のあまり完全に忘れ去っていた。慌てて言葉を切り「お言葉、身に余る光栄でございます」と付け加えた。
 忠平は穏やかな口調で語りかけた。

「そなたが先の鎮守府将軍平良持の嫡子、将門か」

 その手には少し色あせた菅家の花押が印された書簡がある。

「良持は蝦夷の鎮撫に殊の外功績があった武士であったな。景行公も息災で何よりだ。推薦状しかと受け取った。なるほどさすが菅公の推挙だけのことはある。滝口には最高の人材だ」

 小次郎は唯々平伏するのみで、天上人との謁見に圧倒されていた。決して激しい気性の人物ではないが、天上と地上に跨り権勢を誇るだけの威圧感を漂わせている。問い掛けに、小次郎は体裁の良い言葉を返そうとしたが、何一つ頭に浮かんでこない。忠平はそんな若武者の姿を見てそれ以上追及することは無く、ただ一言「滝口を任せる」とだけ残し清涼殿の寝殿を後にした。

 車(くるま)宿(やどり)でブラストルタイガーと、そして村雨ライガーと共に控えていた太郎は、未だ緊張の解けない小次郎の肩を掴み、嬉しそうに激しく揺さぶった。

「小次郎、災厄が慶事になったな!」

 坂東で過ごした従兄は、まるで自分の事のように祝ってくれた。
 突然の貞信公の召喚に肝を冷やし、清涼殿への参内の方法も知らぬ小次郎に、細々とした段取りをとってくれたのもまた太郎の配慮である。

 変わっていない。

 小次郎は、太郎が都に毒されたのではないかと懸念していたが、変わらずに友情を保っていることを心底嬉しく感じていた。

[397] Zoids Genesis -風と雲と虹と(第二部:騒擾編)-M 城元太 - 2013/05/16(木) 04:52 -

 歓喜の思いを抑えつつ、束帯に袖を通す。
 初めての出仕の日、小次郎は心地よい緊張を覚えていた。
 それまで寄宿していた興世王は、前日に饗宴を催し家人共々諸手を打って祝福をしてくれた。舎人となった以上この屋敷に戻ることは無い。太政官の警護のため終日詰所に待機し、あてがわれた宿舎で寝泊まりすることになるからだ。

「小次郎殿、京に出て早々の仕官、まずは祝わせてくれ。令外官とはいえ同じ舎人となったのだ。共に勤ることもあろうぞ。その折は宜しく願う」

「有難うございます。私も孰(いず)れはこの恩義に報いたく」

 頻りに祝いの言葉を述べつつ、まるで我が事の様に喜んでいた。胸の奥に熱いものが込み上げる。翌朝も清涼殿に向かう小次郎の操る村雨ライガーを、興世王は中門まで見送っていたのだった。小次郎はまだ知らない。己自身が放つ徳の威が興世王を惹き付けたことを。
 清涼殿へは先の忠平との謁見以来二度目で、小次郎は迷うことなく別当の元に参じた。

「貴殿が忠平公の家人、平将門か」

 別当は名簿(みょうぶ)を確認し、小次郎の顔を見つめる。小次郎にしてみればいつの間にか藤原忠平の家人になっていたことに驚いていた。仕官の手続き上取られた方策であったのだろうが、その心遣いが嬉しく、感謝の気持ちで一杯になっていた。
 任官に当たり、最初に頭中将と呼ばれる蔵人所の実質責任者に案内され、滝口の控えの間に導かれる。途中の回廊で、水の潺(せせらぎ)が聞こえてきた。

「ここが滝口と呼ばれる由縁だ。ケーブルに凝結した空気中の水分が集まり、滝となってこの御溝水(みかわみず)に注いでいるのだ」

 それは故郷で聞いた懐かしい音だった。坂東では既に盛夏を迎えているだろう。しかし、赤道を越えた都では秋の香が漂う。郷愁を感じつつ、小次郎は滝口の詰所に向かって行った。
 馬場には整然と並ぶ高速ゾイドがあった。滝口は清涼殿の鬼門、つまり艮(うしとら)=丑寅の方角にあり、縁起を担いだのか虎型ゾイドに混じってディバイソン、カノンフォートも装備されていた。貞盛のブラストルタイガーを含め、小次郎は見慣れぬゾイドに出会える興奮を禁じ得ない。十七門突撃砲と破壊衝角(クラッシャーホーン)は圧倒的で、小次郎は寸刻見上げたままであった。

「小生のディバイソンがお気に入りですかな、坂東の君よ」

 気付けば傍らに狩衣を纏った壮年の武官が微笑みながら立っている。

「先日の海賊衆討伐、見事で御座いました。平将門殿とお見受けする。貴殿も立派なゾイドをお持ちですな。小生は播磨から参った伊和員経(いわのかずつね)と申す。同じ滝口だが先達故判らぬことがあれば何なりとお聞き下され」

 狩衣に標された二重亀甲剣花角の神紋は、遠く出雲に起源を発する氏を示す。温和な笑顔の裏にも、滝口に任じられた勇壮さを潜ませている。武骨な武官であるからこそ、小次郎に惹かれたのかもしれない。

「相馬小次郎将門とも申し上げる、以後お見知りおきを」

 員経に誘われ、小次郎は詰所へと身を移すこととした。
 ディバイソンの隣には、滝口の新たに仲間に加わった村雨ライガーが誇らしく身構えている。京に上がり居場所を定めた将門に、漸く都の風情を味合う余裕が生まれていたのだった。


「純友の殿よ、先の騒擾の為体(ていたらく)、あれでは滝口を増長させたに過ぎませぬか」

 魁師(かいすい)の一人、津時成(つのときしげ)が純友に詰め寄る。同様に、小野氏彦、紀秋茂が柳眉を逆立てていた。海賊衆は各地域に散在していた群盗集団が、日振島を根城に伊予の掾である純友の呼びかけによって結束し活動している。連合の結び付きは緩やかなもので利害が一致しなければ忽ち崩壊する危ういものである。都の義倉から一応の戦利品は略奪して来たものの、ブラキオスとウォディックの損害は各海賊衆にとって手痛いものであった。攻撃部隊の指揮を執っていた藤原恒利は、結果として責めの矢面に立たされることとなったが、純友は敢えて同席を禁じていた。

「お前らの言いたいことは判っている。だが、これを見ろ」

 純友の館の白壁に映像が映し出される。是基が咄嗟に記録したものだ。白刃を煌めかせて海賊衆のゾイドを薙ぎ払う碧き獅子がそこにあった。映像を見ながら魁師たちは一同に驚嘆の声を上げる。

「相馬小次郎将門、又の名を平将門」

 佐伯是基が放った素っ葉は、程なくして碧き獅子型ゾイドを操る者の名を純友の元に齎していた。

「村雨ライガーというそうだ。背負うリーオの太刀の銘はムラサメブレード。奴は坂東から来た荒武者だ。腑抜けた都人とは違い恐ろしいほどの手練れ、何しろあの桔梗の前を一蹴したというのだから」

 再び上がる声。「あの女盗賊が」という囁きが聞こえる。
 村雨ライガーの勇躍を映しつつ、その映像の前で純友がやおら立ち上がる。

「滝口に将門がいる以上、直接アースポートへの攻撃は控えるべきだ。なあに、どれ程武勇に優れていても、立身出世に明け暮ればやがては奴も腑抜けになろう。もし腑抜けにならねば都から去るのみだ。
 皆も聞いてくれ。『アーミリア・ブルボーザ』の生育も順調だ。もしジオステーションが完成したとしても、今度は其れごと頂けばいい。暫く俺は都に潜伏し、ソラの出方を監視したい。日振島の事は恒利に任せる、いいな」

 純友の言葉は抗い難い迫力がある。また、映像の中の村雨ライガーが誰の目にも容易ならぬ敵と映っていた。不平の声が上がることも無く、その夜の寄合は解散となった。


 日振島、純友の館の奥、静かな寝息を立てている少女がいる。襖をそっと開き、安らかなその寝顔を確認すると、純友は隣の間に音を潜めて去って行った。

「また都に参られるのですか」

 酌をしつつ、幾分不満げな声をあげる。

「白浪よ、そんなに妬くな」

 盃を手に純友は静かに笑う。

「お前には寂しい思いをさせておる。だがのう、これも海賊衆の頭目の役目だ」

「わかっております。わかっておりますが……」

 日振島に篭りきりの妻にとって夫の不在は心細いに違いない。白浪は軽く躰を純友に寄せて、僅かに上目使いで見つめる。軽く抱きしめ純友はそのままの態勢で語り出した。

「いよはたを頼む。俺にとっても可愛い娘だ。それと、今度は都に重太丸を連れていく。そろそろ都の風を味あわせても良い頃合いだろう」

「妙な味は覚えさせぬように」

 純友の胸の中、白浪が幾分皮肉を込めて呟く。純友は苦笑した。

「俺は息子にも早く色々なゾイドを見せておきたいのだ。特にあのゾイド、村雨ライガーをな」

「私には存じ上げませぬ……」

 潜めた声がやがてくぐもり、二つの影が一つとなって横たわる。やがて灯りが消え、波音響く日振島の夜は更けて行った。

[398] Zoids Genesis -風と雲と虹と(第二部:騒擾編)-N 城元太 - 2013/07/13(土) 22:25 -

 夕刻の空に、塒(ねぐら)へと帰投するプテラスが4機舞っていた。マグネッサーの響きが夕日に呑み込まれていく。赤銅色に染め上げられる車宿(くるまやどり)の端、小次郎はディバイソンの牽く牛車の元に佇む都人の姿を見止めた。声を掛けようと近づくが、その人は静かに和歌(うた)の詠唱を始めている。足音を潜めつつ、小次郎は暫し都の幽玄に浸った。

「久方の 緑の空の 雲間より 声も仄かに 帰るプテラス

……おひとが悪いのう将門殿。その様な場所に居らずこちらに御出でなさい」

 暫しの沈黙を経て進み出る。

「吟唱に聴き入っておりました」

 忌憚無き心の内を素直に吐露する。藤原師氏(もろうじ)は無言のまま苦笑していた。陰に潜んでいた後ろめたさもあり、小次郎は言葉を継いだ。

「御尊父忠平様には一方ならぬ御恩を受けました。また蔵人頭殿にもお世話になっております。都は屋敷の中と雖も物騒ゆえ、少しでもお護りできればと」

「私など従四位上止まりの身、お気になさるな。それに将門殿とはほぼ同輩ゆえ、堅苦しい話は抜きに願いたい」

 関白忠平の四男にありながら、師氏に気負った様子は見受けられない。視線を空から地上に移し、小次郎に歩み寄る。

「どうだ、滝口は慣れたか。判らぬ事があれば何なりと問うてくだされ」

「毎日無聊を託っております。これでは腕が鈍ってしまいます」

 小次郎が言うが如く、都は暫く平安であった。無部(むべ)も無い。海賊衆を鎧袖一閃で払い除けた碧い獅子に、群盗も鳴りを潜めたのだ。小次郎は左の腰に提げた鎬造(しのぎづくり)の古太刀に左手を当てる。

「さすれば師氏殿、桔梗の前について何か御存知で在らせられるか。身どもが都に上がった時、我が村雨ライガーを狙い襲ってきた輩です」

 師氏が深い嘆息をついた。改めて小次郎の顔を見つめる。

「主、桔梗の前とやり合ったのか。道理で海賊衆も手が出せぬわけだ」

 驚嘆とも畏敬とも見える表情を浮かべ、師氏は静かに語り出した。

「私も詳細は知らぬが、彼奴は土蜘蛛の新城戸畔(にいきりとべ)の一族と聞く。群盗の女頭目で、検非違使も手が出せぬ輩、噂によれば下野(しもつけ)の生まれとも。坂東では女も男も荒々しいな」

 笑いながら語る師氏を横に、小次郎は改めてあの女群盗の姿を思いだしていた。桔梗紋の示すものは陰陽五行に繋がる星紋(セーマン)を示す。下野の唐沢山には、奇門遁甲の城が聳えると聞いていた。妖しい美しさを秘めた女であっただけに、小次郎は不思議に納得をしてしまっていた。

「下野といえば、俵藤太のエナジーライガーは、いま追捕の対象となっておったな」

「なんと」

 小次郎は思わず声をあげる。

「秀郷殿が、ですか」

 それは小次郎の幼い日、父良持と共に見た悲痛な光景であった。
 詳しい罪状はわからない。良持も仔細を息子に語る事はなかった。
 追捕の舎人に捕縛され、鋼鉄の鎖にぐるぐる巻きにされた哀れなエナジーライガーが夕日に解け込みながらグスタフの荷台に牽かれて行く。下野の土豪ゆえ、その地の治安を保つため止む無く公儀と衝突したのかもしれない。十八人の従類と共に都まで訴追されたといくという。少年小次郎には、エナジーライガーの関節にまで食い込んだ鋼鉄の鎖が、東夷と見下される坂東武者の屈辱として目に焼き付いていた。
 藤原秀郷、または俵藤太はその後下総の掾の位まで登り詰めたと聞いていたが、漫ろに公儀への反抗を繰り返していたに違いない。遠く坂東を離れても、未だに自分たちの立場が低い事を、その名を聞いて痛感していた。

「将門殿はお知り合いであったか」

「いいえ。ただ一度だけ捕縛される姿を見たことがあります」

 あの日の秀郷はしかし、精悍だった。エナジーライガーの脇、ほぼ野晒の荷台の上に繋がれた秀郷は、周囲に鋭い眼光を放ちながら睥睨していた。思い詰めた瞳の光を、少年将門には全て読み取る事はできなかったが。

「桔梗と俵藤太は繋がりがあるとの噂もある。私は将門殿を知っている故に決して坂東の民が野蛮でないことは承知したが、概して都人は卑下したがるもの。用心なされよ」

「お心遣い、痛み入ります」

 小次郎の中で、暗澹たる思いが広がっていた。


 翌日の夕刻。
 その日は伊和員経の操るディバイソンと共に、都の定時の警邏を行っていた。東の市で騒擾との知らせが入り、小次郎は村雨ライガーを駆って示された場所に向かう。
 そこで起こっていたのは、傀儡衆を集めて酒宴を繰り広げている無頼達の姿であった。既に都の風紀は乱れ、群盗ではないものの紙一重の無頼衆は散見されていた。小次郎たちのゾイドが到着すると、それが滝口のゾイドと分かった途端、下卑た笑いを投げかけてきた。

「都の往来で酒宴を開くなど迷惑千万、即刻宴を解くように」

 勤め故、声を上げるものの、若い小次郎の言葉など聞く様子もない。遅れて到着したディバイソンの員経も同様で、酒宴は更に盛り上がりを見せてしまっていた。

 これならばまだ群盗と戦った方がましだ。

 小次郎は閉塞した状況を破る術を知らなかった。
 無頼衆の中、一人の男が立ち上がり、盃を持って近づいてくる。

「お若い滝口殿、いかがですかな」

 噎せ返るような酒の臭気の中、その男は不釣り合いな気品を保っている。小次郎は直観的に判断する。

 この男は酔ってなどいない。

 男は哄笑しつつ盃を自ら干した。

「失礼をした。お立場上お困りでしょう。この宴は吾が催したもの。すぐさま引き上げさせる故お許し下され。是基、引き上げだ」

 その一言を契機に、無頼衆は一斉に宴の引き上げを始めた。余りの鮮やかな手際に、小次郎と員経は呆気にとられた。

「今宵はあなたとお知り合いになりたくてのう」

 相変わらず不敵な笑いを浮かべる男の肌が赤銅色に光っている。

 地底族か、しかしこの男には潮の匂いがこびり付いている。

 小次郎の鋭い野生の嗅覚が、たちどころに男の素性を読み取っていた。

「相馬の小次郎将門殿とお見受けする」

 男は唐突に小次郎の名を呼んだ。会った記憶もなく、名乗った覚えもないも関わらず。

「驚きめさるな。碧きライガーに乗る滝口など主以外に居るまいて」

 男は小次郎の左の腕を親しげに叩いた。何ものにも変え難いような輝く笑顔を伴って。

 不思議な男だ。

 小次郎はその男の放つ光と、自分の持つ何かとが共鳴している気がした。

「我が名は藤原純友、海賊衆の頭目だ」

「藤原純友!」

 途端、一陣の風が吹き、男の身体が宙に舞った。
 見上げれば、頭上に超低空でシンカーの群れが舞っている。
 そこから垂らされたケーブルに掴まりつつ、純友が叫ぶ。

「会い見えることができ、嬉しいぞ。主とはまた出会うこともあろう。その時こそ、美味い酒など酌み交わそうぞ」

 野太い声を韻々と響かせ、純友は夜空へと消えて行った。

「小次郎殿、怪我は無いか」

 目の前を去って行く傀儡の一団を前に、韻経が声をかける。
 短く礼を言った後、小次郎はまだ暫く夜空を見上げていた。

(あの男が、藤原純友か)

 それが将門と純友の、初めての邂逅であった。

[399] Zoids Genesis -風と雲と虹と(第二部:騒擾編)-O 城元太 - 2013/07/21(日) 23:11 -

 冷たい雨滴が村雨ライガーの碧い装甲を叩いている。天空に聳えるケーブルが黒々とした影となり、鉛色の雲に吸い込まれソラへと伸びていた。
 季節は無慈悲に巡っていく。藤原忠平は就任以来20回目の物忌みに入った。作法故実(さほうこじつ)に拘るソラ人は、建設中の軌道エレベーターケーブルの主材であるバックミンスターフラーレンの運搬にさえ大規模な方違(かたたが)えを命じている。フラーレンは精製の煩雑さ故価値も高く、群盗の標的となりやすい。雨に烟る羅城門の向こう側、方違えにより大幅な移送距離を伸ばされた、長さ数町(1町=109m)にも及ぶグスタフの車列を、小次郎は村雨ライガーの風防越しに見つめていた。
 小次郎は上洛以来、出会ってきた人々の姿を思い起していた。主君として仕える藤原忠平は、政治の中心に有り駆け引きに長けた為政者ではあるが、決して権謀術数を以て政敵を陥れるようなことはなかった。その四男師氏にしても温和な性格で、蔵人所では相変わらず細々と小次郎の相談にのってくれた。内裏に集う舎人達にも憎悪の感情など抱いたことはない。しかし着実に、朱雀大路を代表とした都の往来は頽廃の度合いを重ねている。民の精気を巨大な何かが吸い取る如く。

(都に巣食う悪人とは誰なんだ)

 個人に責任の所在を捜してみても、然したる極悪人らしき者が見当たらない。だがこの方違えの如く、地域の運脚を動員することにより多くの労役は費やされている。徴用されたグスタフの持ち主も困窮しているに違いない。田舎人であった小次郎にも、おぼろげながら問題の核心が見えて来ていた。

(朝廷の構造自体の歪みが、民を苦しめているのではないか)

 律令の制が定まり早百数十年の星霜が流れている。時代の趨勢に、旧来の制度が追いつけなくなっている、そしてまた硬直化した儀礼主義が、システムの動脈硬化を齎しているのではないかと。
 思い起されるのは、あの日見えたあの男の顔だった。

(藤原純友よ、貴様は何を為そうとしているのだ)

 運脚(うんぎゃく)を護衛しつつ、小次郎は未だにその男の影を拭い去ることができないでいた。

「小次郎殿、積み荷は左京区を抜けた。我らが務めはここまでだ。後任の者と交代だ」

 ディバイソンの装甲風防を開き、伊和員経が近寄ってくる。見れば車列は羅城門を遠く過ぎ、朱雀大路から皇嘉門大路の前まで達していた。西大宮大路の先には、別の滝口のワイツタイガー部隊が待機している。あのまま右京区西京極大路を曲がって道なりに北上すれば、程なく建設中のアースポートに到着するのだろう。だがこの方違えにより、どれ程のレッゲルが無為に消費されるのかと思うと忍び難い。村雨ライガーが低く唸る。主人のそんな懸念を察しているのだ。

「心配するな。戻るぞ、村雨」

 大粒の雨滴が降り注ぐ空を見上げ、二機のゾイドは滝口の詰所へと帰還した。


 詰所に戻った小次郎には、厄介事が控えていた。
 蔵人所を介して藤家の名で届いた親書には「任意ながらも」との言葉は添えてあるものの「ゾイド壱拾五機、レッゲル五石(=約900ℓ)、リーオ百貫(=375s)寄進されたし」と明示されていた。都に上り滝口の武士としての碌は得ていたものの、それを遥かに上回る寄進要求が、藤氏や親王、寺社などの銘で代わる代わる届く。所謂賄賂の要求である。直情径行の小次郎は憤懣やる方なく、さりとて無下に断ることも出来ない。止む無く太郎にも相談をしたものの、事態の深刻さは従兄の方が上回っていた。

「やむを得ぬこと。仕方がないのだ、主はまだ知らぬだけだ」

 太郎貞盛は、何度か共にした夕餉の席で小次郎に語る。常陸の国香伯父も、寄進の品を集めるのに奔走しているらしい。小次郎より上位の左馬の允であれば、それ以上の付け添えも必要なのだろう。だが、蒐集された物が庶民の手に渡る様子はない。届いたゾイドも寝殿の宴に消えていく。接待と言う儀礼を催さなければ政務が進まない。物忌みが行われるたびに滞る。聡明にも見える忠平でさえ故実の呪縛を解けずにいる。ましてや下級官吏に至っては尚更だ。
 都は繁栄の裏側で、硬直し切った儀式によって動けない。その構造が膿んで軋みを上げている。書面を見ながら、小次郎は紙面に皺が寄る程、強く手紙を握り締めていた。
 その時、もう一通手紙が届いていることに小次郎は気付いた。差出人を見ると大葦原四郎とある。

「将平か」

 整然と書かれた文字は、四郎の几帳面さを忍ばせる。小次郎は故郷の香がする書面を手にすると、滝口に落ちる水音を聞きつつ文面を追った。


「……小次郎殿、如何なされた」

 書面に目を通すにつれ、表情の暗くなる小次郎を気遣った員経が声をかける。小次郎は声を発することなく、力なく頷いた。
 書には、彼を暗澹たる思いに突き落とす文面が書き連なっていた。

――兄上が鎌輪を発って以来、日に日に常陸の国香伯父や上野の良兼叔父、良正叔父達が下総の所領を蚕食し始めました。最初は領内の部民を徴用するとのことで十数人の奴婢とゾドを連れて行きましたが、それが戻ることは無く、久慈から那珂に掛けて我ら部民のモルガが雑徭を負わされておりました。
 根付くのを待ち侘び、生育させていた若いジェネレーターの樹々も、早々とレッゲルを搾取され立ち枯れの様相を呈しております。鳥羽の淡海から鬼怒の湿地帯にかけ、漸く我らが開墾した耕作地も無慈悲に囲い込まれました。守谷の大木村須賀家八代当主大江弾正藤原重房殿は湖賊を率いて常陸勢に抵抗するものの、源家の三兄弟、扶(たすく)、隆(たかし)、繁(しげる)のバーサークフューラー、ジェノブレイカー、ジェノザウラーの軍勢の加勢を得た国香伯父の軍により蹂躙されました。我ら下総の所領は最早鎌輪と国玉の真樹叔父、それに別当多治経明殿の常羽御厩を除き残されておらぬ次第です。
 三郎兄者のケーニッヒウルフも多勢に無勢故守り抜く事敵いませぬ。頼りの村岡の良文叔父も、今は駿河に現れた海賊衆の討伐に手一杯で坂東に下向する余力はないとのこと。
兄上の都での仕官を心待ちにしておりましたが、最早検非違使の位など望むべくはありませぬ。
なにとぞどうか、お早いお戻りを――

 所領を巡り同族が対立することは珍しい事ではない。在庁官人たる国香が下総に勢を伸ばすのはある程度予測されたことであった。だが事もあろうに、嵯峨源氏の護と組み、甥にあたる将門の所領を奪うとは信じ難かった。
 事は一刻を争う。小次郎は直ぐに身辺の整理を始めた。

(太郎には何と言う)

 小次郎の脳裏に都での暮らしを支えてくれた従兄の顔が過る。だが今はその父親が、自分の所領を奪っているのだ。小次郎はこのまま伝えることを避け、都を去る心算とした。
 只ならぬ危急を告げる呼子が滝口の詰所に響く。伝令が回廊を慌ただしく駆け回り、詰所に残る滝口の武士達に告げた。

「桔梗が、桔梗の前が群盗を率いて再び都に現れた! 押領使の報告によれば群盗の装備はロードゲイルだけではない、シザーストーム、レーザーストーム、スティルアーマー、そしてセイスモサウルスを伴って!」

 小次郎は荷造りを止め、天井を睨む。

 幸いにして、決着をつける時が来たか。

 小次郎は村雨ライガーの待つ車宿に向かい、一陣の風の如く駆け出していった。

[400] Zoids Genesis -風と雲と虹と(第二部:騒擾編)-P 城元太 - 2013/07/27(土) 15:12 -

 洛外から都に迫って来る異形の群れの報告を最初に伝えたのは、洛外巡察中の検非違使の操るヘルキャットである。その旧式ゾイドの感知器に、坤(ひつじさる)(=南西)より接近する巨大な影が浮かび上がったのだ。無謀にも単機で目視確認に向かった都の警護職は、短い悲鳴だけを残し通信を絶っていった。程なくして都の海浜に異常が現れていく。ウィルスに冒され痘痕を海浜に晒す無数のゾイドの残骸が小刻みに震え始める。残骸となり、垂れ下がった下顎をカタカタと揺らし出したブラキオスの骸は、やがて錆び付いた頭部をボロリと落とす。大陸奥地に連なる峰々の向こう側、地震竜の異名を持つ巨竜の群れが眷属を引き連れ出現した。

「敵機数15、内セイスモサウルス3、レーザーストーム、シザーストーム、スティルアーマー各3、ディアントラー2、最後尾にロードゲイル1を確認す、至急警戒されたし……」

 消息を絶ったヘルキャット探索の為飛び立ったプテラス隊は、規模にして大毅(だいき)率いる中団規模のゾイド部隊が押し寄せて来るのを目視する。それと同時に3機のセイスモサウルスの小口径2連レーザー機銃の洗礼を受けた。噴き上げる驟雨の如き弾幕を掻い潜り、決死の状況伝達した直後、プテラスは敢え無く洛外の空の藻屑と消えて行った。
 検非違使、滝口などを束ねる蔵人所は早急の建議を行うも、煩雑な官僚の手続きに追われ対応が後手に回る。滝口の衛士に出撃命令が下ったのは、小次郎が出撃して既に半時程経過した後であった。
 セイスモサウルスは恰も律令の暗愚を嘲笑うかの如く、洛外の海浜部にその機体を留める。公儀を畏れ進撃を停止したと考えたのは、舎人の浅墓さであった。
 一閃の光芒。線条は地磁気の影響を受け、緩やかな放物線を描き朱雀大路の正面に到達した。距離にして2里(=約8q)からの超長距離砲撃である。一瞬にして崩れ落ちる羅城門。セイスモサウルスの放った超集束荷電粒子砲が、都の象徴を薙ぎ払ったのだ。充分な余力を持つ破壊の光芒は羅城門を突き抜け、東寺院の伽藍を吹き飛ばし、東京極大路にまで達した。都は、応天門のクーデター以来の騒擾に包また。


 兜の後ろから垂らした射干玉(ぬばたま)の髪に、再度発射されたゼネバス砲の輝きが映える。噴き上がる都の炎を見つめ、最後尾の、胸の中央に紫弁をあしらったロードゲイルに身を委ねる群盗の女頭目は、欣悦の表情を浮かべた。

 遂に復讐の鬨は来たのだ。

 黒煙が噴き上がる様を遠望する彼女の瞳は潤んでいた。

「小藺笠(こいがさ)、志多羅(したら)、八面。お前ら夷神(えびすがみ)の恐ろしさを、今こそ都人に味あわせてやれ」

 眼下のディアントラーを介し、3機のセイスモサウルスはその長大な首を再び都へ向け、ゼネバス砲発射態勢を整えていた。
 警報がロードゲイルの操縦席に響く。敵を示す光点が一つ、急速に接近してくる。

「弾幕」

 直ちにシザーストーム、レーザーストームが背部のストームガトリングを巡らし、地平線上の敵に向けて無数の弾丸を撃ち放った。
 濛々たる砂塵の壁の向こうから、碧き獅子が白刃を煌めかせ踊り来る。

 奴だ。

 桔梗は歓喜とも怒りとも取れる複雑な感情を抱いていた。

 碧き獅子、坂東の武士よ。決着をつけるのであれば望むところだ。

 桔梗はロードゲイルのマグネッサーウィングを輝かせ、セイスモサウルスの背後に飛び移ると同時、右腕の二双の槍を振り下ろす。

「小藺笠、ベルセルクセイスモへチェンジマイズだ」

 ロードゲイルの指示を受けたディアントラーのプラズマブレードアンテナが微細な振動を始め、小藺笠と呼ばれた黒のセイスモサウルスは雄叫びを轟かせた。
 傍らのスティルアーマーは瞬時に機体を分解し、ブロックスコアをセイスモサウルスのそれと共鳴させる。
 見る間に変化する黒い機体は、背部に強力な電磁砲を備え、長大な首にスティラコサウルス特有の巨大なフリルを持つ狂戦士(ベルセルク)へと変身を遂げていた。両脇に控える銀色のセイスモサウルスの志多羅と八面は、小口径2連レーザー機銃と地対空8連ビーム砲を前方に一斉発射し、接近する村雨ライガーに対して面での制圧を開始する。
 地表には無数の弾痕が穿かれ、爆炎が周囲を包む。ほぼ半円に亘って行われた一斉射撃により、セイスモサウルス前方には全ての障害物は排除されたはずであった。

「惜しい男であった……」

 ロードゲイルの操縦席の中、桔梗の前は思わず呟いていた。あの弾幕の中では、碧き獅子も一瞬にして消滅したに違いない。濛々たる紅蓮の焔を見つめ、暫し沈黙を以て猛き東夷の霊を鎮めるかの如く、彼(か)の女頭目は燃え盛る火焔の前で佇んでいた。

「……馬鹿な」

 火焔を見つめ、桔梗の前が再び呟いていた。


 小次郎は雨と降り来る弾丸を前にしても、恐るべき程に自分が冷静になっているのを感じていた。
 彼の怒りの矛先は桔梗には無い。最も忌むべき存在は、彼の常陸の伯父達へと向けられていた。都を去るには契機が必要で、奇しくもその絶好の機会を、この女群盗が齎してくれたのだから。
 四肢を弾ませ、時折ムラサメブレードをカウンターウェイトとして揺さぶりつつ、弾幕を回避しながら突進する。小次郎の意志を受け、村雨ライガーは驚異的な運動性で全ての攻撃を避けていく。

 桔梗の前よ、お前が本当に下野の住人であるのならば、俺がお前を坂東に戻してやる。

 漠然とした思考である。だが、若い小次郎には確信があった。

「一緒に坂東に帰るぞ」

 その言葉は、村雨ライガーに向けられていたのか、それとも桔梗の前に向けられていたのかは、彼自身もわからなかった。小次郎の意志に共鳴し、村雨ライガーが雄叫びを上げていた。
 前方に無数の光の弾が殺到する。レーザーストーム、シザーストーム合計6機の放ったストームガトリングの火焔が渦を巻いて迫って来る。小次郎は村雨ライガーの操縦桿を倒す。だが、彼の操作に比べ、村雨の動きは緩慢であった。

 俺の動きについて来られないのか。

 小次郎は慚愧の念に襲われる。

 村雨、お前を傷つけたくない、だから頼む、動いてくれ。もっと早く、もっと早く!

 村雨ライガーの操作盤中央画面に、今まで見たことの無い表示が現れた。
 文字が浮かぶ。

「“ハヤテ”」

 画面には、金色に輝く“疾風”の文字が燃え上がる様に示された。小次郎の脳裏に、電撃が奔る。ゾイドの心、村雨ライガーの心が、操縦者に響いたのだ。
 小次郎は叫んだ。

「疾風ライガー!」


 村雨ライガーの碧い装甲が一斉に燃え上がると同時に、背部のムラサメブレードが天高く舞い上がる。装甲板が碧から緋へ、巨大なムラサメブレードは二双の刃に分裂する。鋭利さを増したカウルブレードが金色の輝きを放ち、背部に巨大なハヤテブースターが装着される。
 四肢の付け根にHYTフィンと、クラッシュバイトファングの傍らに特徴的な一対のチェイスパイルバンカーを備えた緋のゾイドが、黒煙を切り裂き一陣の疾風の如く洛外の平原を駆け抜けていく。
 前肢に装備された二双のリーオの刀、ムラサメディバイダーとムラサメナイフが白刃を煌めかす。

 失われた技、エヴォルトシステムを備えたゾイド。

 平将門の意志を受け、新たなる生命を備えた緋色の獅子、疾風ライガーが今ここに降臨した瞬間であった。

[401] Zoids Genesis -風と雲と虹と(第二部:騒擾編)-Q 城元太 - 2013/07/30(火) 20:51 -

 洛外に構えた草莽の中に廃れた社がある。割れた板塀の隙間から射し込む陽光に、伊予の海賊衆頭目の姿が浮かび上がっていた。

「桔梗の前が動いたか」

 純友は渋面を浮かべ押し黙る。

「我らが放った素っ葉によりますと、どうやら龍宮の輩が絡んでいるとのこと。あれだけの龍を揃えるなど、群盗如きに為せる仕業とは考えられませぬ」

 佐伯是基が澱みなく告げる。

「龍宮は失われた龍の系譜を引き継ぐ国造(くにのみやつこ)の系譜。瀬田(せた)の唐橋(からはし)の一件以来、急激に俵藤太秀郷(たわらのとうたひでさと)との関係を深めておりまする。今回もやはり、下野(しもつけ)の連中が桔梗の大毅の背後にあるものかと」

「龍の系譜、ディガルドか」

 純友は吐き捨てる様に呟いた。


 エヴォルトした疾風ライガーの意識が奔流となって、小次郎の魂に雪崩れ込んで来る。
 四肢が己の手足の如く、バイトファングが己の咢の如く、双眸(デュアル・アイ)に映る像が己の視界の如くに。
 疾風ライガーが跳ぶ。ストームガトリングと、3機のセイスモサウルスの放つ無数の小口径2連レーザー機銃の弾幕をも掻き分けて。
 一閃にして全てを薙ぎ払うゼネバス砲の光芒をも掻い潜り、緋色の獅子は大毅の中心に斬り込む。小柄な甲虫型ブロックスゾイドを2機、右前脚のムラサメディバイダーで叩き斬る。翻筋斗打(もんどりう)って吹き飛ぶシザーストーム、レーザーストーム。襲撃後のクラッシュバイトファングには、シザーストームの巨大なチェーンシザーが咥えられていた。
 長距離攻撃に特化したセイスモサウルスは、対高速ゾイド戦闘には分が悪い。

「小藺笠ベルセルク援護しろ。志多羅をアルティメットセイスモにチェンジマイズする時間を稼げ」

 ディアントラーのプラズマブレードアンテナが再び妖しい輝きを放ち、桔梗の指示に従い銀色のセイスモサウルス1機が後退する。
 守勢に回ったその機を逃さず追撃を試みる疾風ライガーに、ベルセルクセイスモと化した志多羅が立ち塞がる。頭部の巨大なスティルシールドを振り翳し、フリルのスパイクを緋色の獅子に叩き付ける。
 音を越える速さで接近する頭部を、しかし疾風ライガーは事も無げに退けた。
 続いて起こる凍った刃の斬り下ろす響き。
 どさり、と重量物が頽(くずおれ)れる。スティルシールドを装着したまま、志多羅の頭部は物の見事にムラサメナイフによって切断されていた。
 電磁誘導によってチェンジマイズを完了し、ソードレールキャノンと2基のストームガトリングを背負うアルティメットセイスモと化した小藺笠が、ストームガトリングと地対空8連ビーム砲を乱射し猛進する。
 疾風ライガーは雲雀の如く跳び上がり、過剰に武装された背部の火器を物ともせず次々と破砕していく。飛躍する獅子の睥睨する視線の先には、忌々しくも機獣を操るディアントラーの姿があった。

「殺らせぬ」

 桔梗は咄嗟に庇おうと飛躍するが、ロードゲイルのエクスシザースが届く前に、2機の歪な鳥脚型ゾイドは瞬時にして切り裂かれ転がっていた。
 誘導を失い行動に隙の生じたセイスモサウルス各機に、緋色の獅子は次々と体当たりを喰らわせ横転させる。
 腹部荷電粒子供給ファンを剥き出しにして、四肢を天に向け踠く3匹の龍。
 疾風ライガーは二双の刃で袈裟懸けに切り結び、妖しい虹色に光るファンの回転を停止させた。
 セイスモサウルスを庇うために両の腕を伸ばし、態勢を崩し無防備に胸部操縦席を晒したロードゲイルを緋色の獅子が見逃すはずもない。ハヤテブースター全開のまま、前肢のストライクレーザークローを交叉させ、桔梗紋の描かれる禍々しい鵺型ゾイドを叩きつける。
 半透明の翼が切断され舞い上がる。
 マグネイズスピア、マグネクロー、マグネイズテイル。ブロックスコアを貫かれ、結合力の途絶えたロードゲイルの機体はたちどころに四散した。ヘイズファングに連なった操縦席の中、桔梗の前は激しい崩壊の振動と絶望感に揺さぶられ、意識を失った。


 閉じた瞼の裏側に、光に包まれた景色が浮かぶ。桔梗は幼い娘に戻っていた。

(ここは下野、それとも武蔵)

 幼い女の子(めのこ)に手を差し伸べる人がいる。逆光に遮られ表情は読めない。

(父上、それとも兄上なのですか。何故私は都に昇らねばならぬのでしょうか。私は里を離れたくありませぬ)

 幻想の中の人物は、ただ黙ったまま桔梗を導き、そしてそのまま彼の少女を置き去りにしていく。

(待って。待って。待って!)

 無限とも思えるような、一瞬が過ぎ去り、彼の女の意識が戻った時、桔梗の目尻には大粒の涙が筋を曳いて流れていた。
 
 緋色の獅子が、碧き獅子に変化する。エヴォルトが解除され、元来の村雨ライガーに形態を戻したのだ。
 荒ぶる呼吸を整えつつ、小次郎は己の魂がゾイドと一体化していたことに漸く気付いていた。周囲を見渡す。

「俺がやったのか。それもたった一人で……」

 己自身でも信じ難かった。近年出現したことが無かった強力な龍の系譜のゾイド群を、緋色の獅子は単機で完全に沈黙させたのである。
 眼前にロードゲイルの操縦席が無造作に投げ出されている。小次郎は村雨ライガーの体勢を目一杯伏せさせ、操作盤の上から身を乗り出し内部を見遣った。
 甲冑の後ろから射干玉色の乱れ髪を垂らした女の姿がある。
 美しい髪と、艶やかな肌の色をしていた。

「……お兄さま」

 譫言だった。だがその微細な声は、小次郎の耳朶を激しく打っていた。
 無垢な少女の懇願に聞こえた。
 その時、割れた甲冑の隙間、僅かに赤みがかった女の頬に、大粒の涙の筋が描かれるのを小次郎は見止めてしまっていた。

相馬殿、御無事ですか

 無線音声によって我に返る。電探を確認すると、後方から漸く編制を整え駆けつけたディバイソンやブラストルタイガー、ワイツタイガー達滝口のゾイドが群盗の追捕に迫って来る。晒された操縦席には、依然意識を失っている桔梗の姿があった。
 小次郎は操縦席から勇躍し、横たわる桔梗の前を抱きかかえる。

(こんなに軽い物なのか)

 予想外に小柄であった桔梗の躰を村雨ライガーの操縦席後部にそっと横たえると、小次郎は風防を閉じ村雨ライガーを咆哮させた。
 碧き鉄の野獣の勝鬨が、洛外に長く長く響き渡る。

「俺は坂東に還る」

 村雨ライガーは元に戻った巨大なムラサメブレードを煌めかせ、聳え立つ軌道エレベーターに背を向けた。

「母上、将頼、将平、弟達よ。待っておれ」

 もはや平将門に、都への未練は無かった。
 海原を隔てて遠く坂東の大地まで続く水平線に向かって、村雨ライガーは何時迄も咆哮をしていた。

[402] Zoids Genesis -風と雲と虹と(第二部:騒擾編)-R 城元太 - 2013/08/01(木) 16:01 -

 夕日がアースポートの端に懸る。
 御簾には、烏帽子を被った蔵人頭藤原師氏の人影が映っていた。西日に目を細め、小次郎は冷えた晩秋の板の間に平伏する。

「相馬殿は名簿(みょうぶ)を返上されることに心変わりは無いのか」

 御簾越しの問い掛けは、微かに打ち沈んでいる様であった。

「思えば菅原景行公に薦められ、官職を得て下総に下向する心積もりでありました。然るに郷の鎌輪は今や遅しと身共(みども)の帰りを待ち侘びております。御尊父貞信公忠平様を含め、別当殿にも折に付け御面倒をお掛けして参りましたが、此度は止むに止まれず暇を請いたいと存じます。受けた恩義、忘れませぬ」

「そうか」

 思い詰めた語り口に、師氏はそれ以上引き留めることはなかった。沈黙の後に小次郎は平伏を解き、踏み締めるが如く御簾に背を向けた。

「将門殿、息災に過ごされよ」

 回廊の角で振り向けば、簾を上げて穏やかな笑顔を向ける師氏の姿があった。


 滝口馬場に於いて村雨ライガーに旅装を積み込み、帰路のレッゲルを補給する傍へ、名残を惜しんでか伊和員経が歩み寄る。

「坂東に戻られるのか」

「員経殿にも世話になりました。いずれ又上洛の折には御挨拶させて頂きます。お元気でお過ごし下さい」

 だがその壮年の滝口の武士は、ただ別れを言いに来たのではなかった。暫しの黙考の後、少し声を潜めて告げる。

「お若いながら小次郎殿には徳があると見込んでの事である。この員経、小次郎殿の上兵として仕え申す故に坂東までの同行を許してもらえぬか」

「何と」

 唐突な申し出であった。

「滅相もない、私如きが伊和殿程の方を臣下にしようなどと。御過分なお気持ちだけ受け取っておきます」

 小次郎は当惑し、員経の顔を凝視する。作業の止まってしまったレッゲル注入用の水瓶を小次郎から受け取り、員経は村雨ライガーへ補給をしつつ語る。

「驚かれるのも無理はない。だが思いつきで申しているのではない。小生には最早都にいる意味を見出せなくなったのだ。と言うのも、播磨に残してきた家内と娘が先の便りにて身罷ったと知りました。猖獗熱と聞きますが、海人系の渡来人が持ち込んだ質の悪い流行病(はやりやまい)に冒されて、罹患して数日で死んだと。直後に所領は同族の在庁官人どもに喰い散らかされ、帰る館さえありませぬ。気力も失いました。それ故にどうか、小生の願い何卒(なにとぞ)聞き届けてはくれまいか」

 固辞して首を振る。が、員経は静かに村雨ライガーの頭部操縦席を見上げ、そして改めて小次郎を見る。

「ではお伺いします。共に出立される女子(おなご)は如何なさる御積りですか。未だに傷を負った身の上、村雨ライガーでは道中窮屈なことお可哀想とは思われませぬか。
 怪我人を抱えては道中いろいろと難儀されるであろう。幸いにして小生のディバイソンは頭部操縦席の他、背部の後方警戒及び対空要員席がありまする。簡易の床(とこ)を布き休むにも易い。公儀から追捕を受けている女群盗頭目を隠すには、何かと便利なゾイドとは思いませぬか」

 小次郎は口を噤んだ。密かに桔梗の前を坂東まで逃す心積もりであったのだが、既に伊和員経には見破られていたのだ。

「御心配召さるな。密告する心積もりであれば到にして居ります。万一見つけられても、そこはほれ、小生の娘とでも誤魔化してやります。宮仕えが長かった分、小次郎殿よりは辯は立つと思いまするが……」

(確かに自分は言い訳が苦手だ)

 小次郎は令外官である滝口の武士に勤める間、坂東訛りの不便さを痛感してきた。碓井の関を越える時、或いはホバーカーゴ乗船手続を行う時、どれ程難儀をするか悩んでいたのだ。員経であれば信頼できる。これまでの務めの中で、それは実感していた。

「宜しくお願いします」

 伊和員経は一息つくと、穏やかに笑う。

「小生も出立の準備は整っております。ではホバーカーゴの手配などはお任せください、将門の殿」

 それまで同輩として勤めて来た年長の武士に、殿と呼ばれるのは気恥ずかしくもあり、少し誇らしくもあった。小次郎は心強い家臣を得たのだった。



 純友の座乗する旗艦ホエールキングの周囲に6本の水柱が次々と立ち上がる。
 瀬戸の内海、安芸の国、厳島沿岸。海上では激しい攻防が繰り広げられていた。藤原純友率いる伊予日振島の海賊衆に対し、安芸に拠点を持つ藤原倫実(ふじわらのともざね)の別の海賊衆が不干渉の協定を侵し突如襲撃してきたのだ。

「安芸の連中め、ハンマーヘッドを持ち出してきやがった」

 魁師津時成は、有らん限りの罵詈雑言を並べ立てつつの舵輪を操る。ハンマーヘッドの背部コンテナから撃ち出されるAZマニューバーミサイルの着弾は確実に距離を狭めてきている。

「元は奴田の新藤次忠勝風情が、我ら伊予の海賊に戦いを挑もうなどとは。彼奴等一体何の恨みがあってのことか」

「追捕北海凶賊使に近衛少将小野好古が任じられるとの知らせがある。越智の村上どもも怪しい動きを始めていた。おおかた備前介の藤原子高らの差し金であろう。いつか奴の鼻を圧し折ってやる」

 近傍に激しい爆発音が響く。近接弾が炸裂したのだ。一瞬肩を竦め、純友は恨めしそうに天井を睨んだ。

「ソラの連中め、『賊を以て賊を伐つは軍国の利なり』の戦術なのだ。安芸の衆もまんまとその策略に乗せられおって。
 時成、格納庫の菌苗は無事か」

「被害報告はまだない。だがこのままではどこまで持つか。純友の殿よ、一体何なんだあの妙な葛篭(つづら)は。わざわざ厳島まで来て受け取るほどのものなのか」

 純友は不敵な笑いを浮かべる。

「あれはラウス肉腫(サルコーマ)ウィルスと言って、サークゲノムの変異体だ。佐伯衆が嘗て厳島に潜ませた秘伝の植畜共有ウィルス、アーミリア・ブルボーザ生育には欠かせぬ菌苗だ。無制限の増殖を成し遂げるには是非もなく必要な物、俺の説明が分かるか」

「分かる訳がなかろう!」

 津時成は苛立たしく舵輪を蹴とばした。

「父上、恐ろしゅうございます」

 純友の腰の後ろから、震えながら息子の重太丸が抱き着いてきた。
「お前は間もなく元服し藤原直澄(ふじわらのなおずみ)を名乗る身、この程度の襲撃で音を上げてどうする。
 心配するな、時成の舵捌きに任せておれば命中する事などない」

「これは畏れ多い」

 津時成は思いきり舵輪を回し、刹那に重太丸を振り返る。

「頭にそういわれちゃ命中させるわけにはいかんな。砲撃手、ASZ2連装720oエレクトロンキャノンで牽制。恒利ジジイの援軍はまだ来ないのか」

ジジイで悪かったな

 通信機に音声が届く。電探には味方機を示す光点が一斉に点る。

「恒利、遅いぞ」

ハンマーヘッドには我らウォディック、シンカー、ブラキオスに分が悪いのは殿も存じておろうが。これでも精一杯で駆けつけて来たのだぞ

 通信に混じり、ホエールキングの装甲の外側を韻々と響かせる低周波の音響が伝わる。ウォディックの口腔から発射されたソニックブラスターが、水を媒介して僅かにホエールキングに伝わって来ていたのだ。幾つかの水中爆発の轟音が響く。数機のハンマーヘッドが撃沈されたことがわかる。

時成殿、ホエールキングの舳を巽(たつみ)(=南東)に変針しろ

「ジジイ、何か考えがあるのか」

この副将藤原恒利の指示に従え、悪いようにはせぬわ

 再び毒づきつつ、時成は舵輪を逆回転させる。マグネッサーシステムとイオンブースターの併用によりハイドロジェット航行を行う巨鯨の機体が、水流を逆巻き軋みを上げて変針する。瀬戸の難所、海底の渓谷ともいえる屋島・上関付近へと巨体が差し掛かる。追撃するハンマーヘッドは浅海のため双発のイオンブースターとイオンパルスジェットを噴き上げ海上へと飛び立った。浮上したのは3機。内1機は巨大なバイキングヒートランスを2基装備している。機体に不釣り合いな巨大な銛を、水中に潜むホエールキングに向けていた。
 一斉に撃ち上がる弾幕。ハンマーヘッドが空中爆発を起し、藻屑となって消えていく。

「恒利、何をしたのだ」

なあに、屋島の沿岸にシーパンツァー部隊を潜ませていただけの事。高出力ビームキャノン砲と12連装小型ミサイルランチャー、3連装魚雷ポッドを一斉発射させれば安芸の撞木鮫など恐るるに足りぬわ

 無線の向こう側での高笑いが響く。狡猾で老獪な海賊衆に抗うには、新興海賊衆の藤原倫実では荷が重すぎたのだった。
 周囲に敵の無い事を確認すると、純友はホエールキングの浮上を命じる。軌道エレベーターが夕日に映え亘っている。天に向かうにつれ太さを増していくケーブルのテーパー構造がありありと見える。

「都には今度はいつ連れて行って頂けますか」

 しがみ付いて震えていたことも忘れ、少年は屈託のない瞳を父に向ける。

「程無く再訪できるはずだ。佐伯是基がラウス肉腫ウィルスの培養に成功すればの後にな。母といよはたが待っておる。重太丸、日振島に戻るぞ」

 潮風が父子二人の頬を撫でていく。
 純友の率いる海賊衆は揚々として日振島へと舳を向けていた。

[406] 登場人物紹介(桓武平氏編) 城元太 - 2013/08/17(土) 10:13 -

@平将門;本編の主人公。別に相馬の小次郎。平良持の次男。乗機は村雨ライガー。

A平良持;将門の父(平良将と言う説もあり)。鎮守府将軍として蝦夷の地で鎮撫に活躍。本編の開始時には逝去。乗機はブレードライガー。

B平将弘;良持の長男。将門の兄。早世する。

C平将頼;将門の弟。御厨三郎将頼とも。乗機は白い王狼ケーニッヒウルフ。

D平将平;将門の弟。大葦原四郎将平とも。学者をめざしている。

E平将文、将武、将為;将門の弟達。元服前により、いまだゾイドには乗らず。

F平将種;将門の末弟。八郎将種とも。良持が陸奥で育てた子なので将門とは腹違い。陸奥の叔父の権介(ごんのすけ)、伴有梁(とものありはり)とともに陸奥へ下る。

G犬養氏;橘氏からでた一族。将門の母の出身。

H高望王;桓武帝の孫。平氏の姓を受けて坂東に下向。全桓武平氏の祖。

I平国香;良持の兄。良持亡きあとの桓武平氏の棟梁。貞盛の父。主に常陸に所領を持つ。将門の下総に触手を伸ばし始める。歳の離れた側室に、源護の娘をもらう。乗機はレッドホーン。

J平貞盛;将門の従兄にして親友。先に京に上り官職についている。新しく若い母親が出来たことに反発し、坂東への下向を嫌っている。状況を客観的に把握する能力に長ける。乗機はライガーゼロからブラストルタイガーに変更。

K平良文;良持の弟。村岡五郎良文とも。相模に所領を持つ。一部純友の海賊衆とも対決している。良持と同母の弟。曾て将門の母を巡り良持と競う。密かに犬養の君(将門の母)を慕い続けている。孤立しがちな将門を助けて来た。乗機は凱龍輝。

L平良兼;良持の弟。所領は下野。良子の父。源護の娘を側室に持ち、それが娘の反発を生む原因となる。乗機はダークホーン。

M平良子;良兼の長女。乗機はレインボージャーク。

N平良正;良持の弟。所領は無く国香の下で寄宿している。将門の下総を狙っている。乗機はアイスブレーザー。



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