ゾイド系投稿小説掲示板
自らの手で暴れまくるゾイド達を書いてみましょう。
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――――――――――夜・旧都市―――――――かつて、まだ惑星Ziの空に月が3つ有った頃、西方大陸は豊かな地域も多く、赤の砂漠レッドラストは現在の3分の1程の大きさしかなかった。だが、40数年前の大異変に伴う気候変動で状況は一変した。無数の流星と砕けた月の破片が灼熱の鉱物の雨となって降り注ぎ、無数のクレーターが生まれ、それに伴う火山活動の活発化によって大陸の大部分が不毛の荒野と化した。其処にあった都市の多くは、前述の災害で崩壊し、運良く生き残った住民は、比較的被害の少なかった南エウロペ大陸に避難した。残された都市も野良ゾイドや生息地の気候変動で凶暴化した野生ゾイドの攻撃、盗賊の侵攻などで大部分が無人の廃墟と化した。ここもそんな廃墟の1つだった・・・かつてある小国の都市だったここに彼ら≠ヘ潜伏していた。―――――――――――――地下―――――――――――60数年前、大異変の原因となった巨大彗星飛来が確認されたばかりのころ、衝突する可能性を恐れた人々が建造したこの地下シェルターは、大異変の際には開発者の意図通り避難民を守った後も、盗賊やゲリラによって利用された。そして現在は共和国軍、第26独立中隊と第35独立中隊が隠れていた。そこには、シールドライガーMkU、コマンドウルフ改、コマンドウルフ3機、カノントータス5機、グスタフ3機、ゴドス6機、マンモス、キャノニアーゴルドス、ダブルソーダ、ステルスバイパー2機と100名の兵員がいた。兵員の内訳は、パイロットは機体を失ったものも含めて27人、歩兵はほぼ全員が他部隊の所属だったもので33人、整備兵が40人というものだった。―――――――テント――――――室内には、人数分のパイプ椅子と机代わりの木箱が置かれていた。ここでアルバート少佐と隊員らは、今後の行動計画について話し合っていた。「リックス曹長、物資はどれ位持ちそうだ?」先ほどまで綿埃に覆われていたパイプ椅子に座ったアルバート少佐が尋ねる。「そうですね?ゾイドの方は、自己再生に任せて性能低下を考えないなら2ヶ月はいけます。問題は・・・」戦闘用に改造されたゾイドもある程度は自己再生能力を持っており、それを利用すれば最低限の整備と補給でも稼働させることが出来た。「俺ら、人間の方か?」彼が言い終わるよりも早く、グリーン・アロー中隊指揮官のジェフ・ラドリー大尉が言う。「そうです。大尉、食料の方は切り詰めればいけますが、水が足りません」「水か。 携帯型浄水器で何とかできないのか?」アルバート少佐が質問した。「それでも限界がありますし、機械の整備等にも水が必要ですから・・」「そうか、厳しいな。ところで、ゾイドの損傷度合いは?」「幸い大破に追い込まれた機体はいません。ですが、少佐のシールドライガーMkU用の動力系の部品、あとコマンドウルフとグスタフの整備部品が足りません」「無しでは、行けないのか?」「シールドライガーの方は大丈夫ですが、グスタフは、此処の砂嵐のことも考えた場合、動かせば何時止まってもおかしくはないです。」「防砂対策はされてないんですか?」カーク曹長が尋ねた。彼は作戦参加機の殆どに防砂対策がされているという共和国軍上層部の情報を鵜呑みにしていた。「カーク、偉いさん方は後方のグスタフよりも前線の小型ゾイドの方が虚仮威しの利く分役に立つと思ってたのさ」溜息を付きながらデュラン中尉が言った。「・・・やはり、どこかで補給がいるみたいだな」ジェフが煙草を吸いながら言う。「ですがこの近くの基地は全部帝国軍に制圧されています」「其処を襲撃すれば、補給の目途は立つな」「敵の偵察機対策はどうするんだ、アルバート? 見つかって通報されたら補給どころじゃないぞ」デュラン中尉がそれに反論した。「あの、その点は問題ないと思います・・・レドラーの航続距離と付近の基地の状況を考えれば」コルト少尉の後ろに座っていた空軍のパイロットスーツを着た黒髪の女性士官、メアリー・スティンウェル少尉が挙手した。彼女は爆撃部隊を攻撃した後、フレック隊のレドラーに撃墜され、落下傘降下して地上を彷徨っている内にブルー・ファイヤー隊に回収されたのだった。「メアリー少尉だったね? その根拠は?」「はい、レドラーの翼は、航続距離を上げるために簡易型の太陽光吸収パネルにもなってるのは知ってますよね?」「そうだったな」アルバート少佐は口ではこういったが、彼はメアリー少尉に言われるまでそのことを忘れていた。無理もない、如何に仮想敵国であるガイロス帝国の主力飛行ゾイドといえど、彼はゲリラとの戦闘でも遭遇した飛行ゾイドは精々プテラス、シュトルヒくらいだった。そのためレドラーについての知識は殆どなかった。「そのためレドラーのマグネッサーウィングは、プテラスやレイノス、シンカーといったゾイドの物に比べて、砂嵐とかにはかなり脆いんです。」「それと俺達が偵察機を気にしなくていいのとどう関係があるんですか?」ハルド少尉が質問した。「この地域の砂嵐では、出撃は困難・・・そう言いたいわけね」アルバート少佐の隣にいたエミリア中尉が、眼鏡型電子デバイスを調整しながら言った。不意に眼鏡型電子デバイスが妖しく緑色に光った。「そ、そうです。中尉殿・・このあたりの補給基地には纏った数のレドラーを整備できる施設を持った基地は無い筈ですから…」それに気押されたのかメアリー少尉は少しどもりながら答えた。「しかし、シンカーとサイカーチスはどうするんだ?」デュランの横にいたアルフ・ローウェル中尉が質問した。「シンカーは元々、海生のエイ型ゾイドを元に開発されたゾイドで、レッドラストの様な乾燥した地域ではこまめに調整しないと飛行不能に陥ります。あとサイカーチスは航続距離が短いため脅威ではありません」「・・・・第一の問題はこれにて解決だな。」「ああ、メアリー少尉助かったぞ、ありがとう。」「いえ、こちらこそありがとうございます!。」メアリー少尉は頭を下げた。「で、第2の問題は、首尾よく制圧したとして、物資をどう輸送するかだ」「何時止まるかわからないグスタフは、危なくて使えないしなあ」「水なら、俺達が輸送できるんじゃないか? たしか帝国軍の高速部隊も長期行動用に備えて、胴体下部に装着する形式の水タンクがあったはずだ。」アルバート少佐が答えた。「そりゃそうだが、規格はどうする?セイバータイガー用だぞ?」「シールドライガーとセイバータイガーの設計は、或る程度共通ですんで規格なら合うはずです。もし合わなかったら、そんときは俺が何とかしますから安心してください」親指を立てながら、リックス曹長が言った。「残りの物資はどうする?それに歩兵がいなくちゃ制圧出来ないぞ」ジェフ大尉が言う。「カノントータス5機がある。あれは2機で30人ぐらい乗せられたはずだ。ヴァシリー少尉」「なんです。」歩兵部隊の中で一番階級の高かったヴァシリー・ヴォイコフ少尉は、臨時編成の歩兵隊の指揮官となっていた。「30人程度で小規模の補給基地を制圧出来るか?」「カノントータスの援護があっても、其れは厳しいね」「だが、敵のゾイドを全部スクラップにすりゃ、連中も降伏するだろう」「あとは逃げる敵機を撃破する役だが、ラング、リン、お前等の腕とステルスバイパーならやれるな!」「任せてください!」「了解しましたぜ!」「あとは、どこを襲うか・・だな」アルバートは、缶詰、とマジックで書かれた段ボール箱の上にレッドラストの地図を広げた。「この基地はどうだ? この規模だと制圧も容易いぞ」デュラン中尉が地図を指さす・・・其処には、第33補給基地と記されていた。「・・・この基地には、何人ぐらいの兵士がいると予想できる?見たところゾイドの方は、大型だけなら3機、中型、小型なら12機は配備されているだろう。」「歩兵だけなら40人、整備兵その他込で100人ってところですね」エミリア中尉が発言した。「作戦は、少数のゾイドによる奇襲、増援を遅らせるために素早く全滅させる必要がある。そこでまず私のシールドライガーMkU、ハルド少尉、デュラン中尉のコマンドウルフが突入を掛けた後にジム少尉、カーク曹長のカノントータスD型と歩兵隊が施設の制圧、ラング准尉とリン准尉のステルスバイパーは、逃げる敵を阻止する。制圧後は必要な物資を調達したら、全速力で離脱する。また此処に残る兵員はジェフ大尉の指揮下で、この旧都市の内部の調査を行ってくれ。以上だ!」「「「「「「はっ」」」」」」「作戦会議も終わりましたし、飯にしましょうか、俺ら以外はもう食い終わったみたいですから。」「そうだな」アルバート少佐が段ボール箱の上の地図を折り畳んで胸ポケットにしまった。「じゃ、みなさん戦闘糧食配りますよ〜大切に食ってください。」リックス曹長は、そういうと段ボール箱の中の戦闘糧食と水のペットボトルを配っていった。「毎度お馴染みのカロリーバーかよ・・」愚痴りながらもゲイルは、ライトイエローのカロリーバーを頬張った。「ぼやくなよ、これでも栄養価はあるんだからな」その隣でジャックが言った。10分で食事を終えた後、彼らは明日の作戦に向けて整備等を行った後に眠りに就いた。多くの者達は、戦闘の疲れもあってか直ぐに眠ることが出来た。しかし、一部のパイロットの中にはいつ敵が来ても良い様にコックピットで寝る者もいたが、中々寝付けなかった。無論、彼らも敵襲に備えて地下シェルターの入り口付近にゾイドセンサーを配置したが、引っ掛かるのは、野良ゾイドばかりで全くの取り越し苦労だった。
――――――――8月23日 レッドラスト 432補給基地―――――――――共和国軍基地設営隊が1週間で設営したこの基地は、レッドラスト会戦の際、飛行場に帝国軍航空隊の空爆を受けた直後、改造イグアンで構成される空挺部隊によって制圧され、帝国軍により制圧されていた。アルバート少佐らのゾイドは、砂中潜航しているステルスバイパー以外は、撃墜された輸送機の残骸に隠れていた。基地のメインゲートには番兵の様にイグアノドン型歩兵ゾイド、イグアンが立っていた。丁度パトロールから帰還したディメトロドン型小型ゾイド、ゲーターがゲートに入っていくところだった。「いまだ!!突撃!」ゲーターが基地に入ったと同時にアルバート少佐のシールドライガーMkUが飛び出した。ハルドとデュランのコマンドウルフも後に続く。「シールドライガー?!」驚愕するイグアンのパイロット、イグアンは四連装インパクトガンを乱射する。「邪魔だっ」シールドライガーMkUは、それを回避するとすれ違いざまにストライククローで跳ね飛ばした。慌てて閉じるゲートを、出力を絞ったビームキャノン砲で吹き飛ばすと、シールドライガーMkUとコマンドウルフ2機は突入した。シールドライガーMkUが慌てて飛び出したダチョウ型24ゾイド・ロードスキッパーを踏み潰した。「デュラン!お前は倉庫の制圧を頼む!他は俺に続け!飛行場を制圧するぞ!」シールドライガーMkUが、胴体下部の3連衝撃砲を連射、正面にいたクレーンモルガが、大破した。「まかせろ!アルバート」帝国軍が鹵獲した赤く塗装されたゴドスが3機、デュランのコマンドウルフの前に立ち塞がる。 ゴドス3機が腰部の小口径荷電粒子ビーム砲を発砲した。6条の細い火線が、大気を引き裂きコマンドウルフに迫る。「盗品如き!弾が勿体無い!」デュランのコマンドウルフは、それを軽々と回避すると、青い塗装のコンテナを蹴って左のゴドスに飛び掛かった。青白く光る電磁牙が左のゴドスの首を噛み砕いた。中央のゴドスが反応するよりも早く、そいつの左脚を食い千切り、最後のゴドスをストライククローで地面に叩き伏せた。「これじゃ、ヘイルとバルストの方が手強いぜ」一瞥すらせず、デュランのコマンドウルフは駈けて行った。増援を呼ばれない為に素早く敵を無力化させる必要がある今は、彼らには一秒とて無駄に出来なかった。「少佐達がやってくれたみたいだ。俺達も行くぞ!」同じ頃、デザートカラーに塗装されたジム少尉のカノントータスとカーク曹長のカノントータスD型がステルスバイパー2機を従えてゲートに向かう。偶然半壊したゲートからゲーター1機と帝国兵6名が現れる。「逃がしませんよ!」液冷式対空自動キャノン砲が唸りをあげ、無数の砲弾がゲートから脱出しようとしたゲーターと周りにいた帝国兵に襲い掛かった。銃撃を受けたゲーターの背びれが吹き飛び、周囲にいた帝国兵が血煙となって消滅した。ステルスバイパーは二手に分かれると別のゲートから脱出を試みる帝国軍部隊に襲いかかる。「逃さない!」リン准尉のステルスバイパーが頭部側面に装備されたヘビーマシンガンを発砲、脱出を図ったイグアンのフレキシブルスラスターを撃ち抜いた。機動力が低下したイグアンに畳み掛ける様にステルスバイパーが長い鞭の様な体躯をを巻き付け、締め上げて、零距離から一撃を叩き込んで撃破した。基地内部に突入した2機のカノントータスは、名前の由来となった胴体の榴弾砲と突撃砲を発射した。基地司令部近くの通信装置が直撃を受け木端微塵に砕け散った。―――――――――――仮設飛行場――――――――そこには物資を満載した輸送機が6機、発進準備を整えていたが、開戦時の空襲によってできた穴や不発弾の処理のため輸送機の発進は遅々として進んでいなかった。其処にシールドライガーMkUとコマンドウルフが襲い掛かった。コマンドウルフのAZ50mmビーム砲が不発弾処理中のサイカーチスの工兵仕様、サイドーザーを撃ち抜いた。イグアン3機、ゲーター2機が、2機の前に立ち塞がる。シールドライガーMkUが胴体側面のミサイルポッドを発射、何発か撃墜されたが、ゲーター2機が撃破された。続いて手前にいたイグアンがハルド少尉のコマンドウルフに押し倒された。シールドライガーMkUは、背中に収納されていた加速ビーム砲を発射、2機のイグアンのコックピットを撃ち抜いた。「逃がさん!」アルバート少佐のシールドライガーMkUは背中の2門のビームキャノン砲を60%で発砲、輸送機6機の翼のみを器用に消し飛ばし飛行不能にした。作業用を含む全てのゾイドを失ったことで司令官は降伏を決断した。司令部の置かれていたに建物に白旗が上がった。「アルバート!敵さんが白旗上げたぜ」倉庫エリアを制圧したデュラン中尉から通信が入った。「ああ、こちらも確認した。 早く物資を積み込むぞ、ステルスバイパー隊、周辺の警戒を頼む」「「了解」」なんと僅か5分で彼らはこの補給基地を制圧してしまっていた。その後、彼らは捕虜を地下フロアに閉じ込めると、倉庫で物資調達を行ったのち、積みきれない物資をプラスティック爆薬で吹き飛ばして離脱した。帝国軍が、この基地襲撃に気付いたのは、2時間後に補給を受ける予定だったセイバータイガー1機とヘルキャット12機と補給用のモルガ・キャリア3機で構成されたカール・ルドルファー少佐の第55高速中隊が到着してからだった。帝国軍がこの襲撃に驚愕している頃、アルバート少佐の部隊は既に廃墟へと帰還しつつあった。「皆、もう直ぐ帰れるぞ!」アルバートが地面の色が血の様な赤から、黒い色に変わったのを見て叫んだ。廃墟周辺は、大異変時の火山活動によって噴き出した溶岩が冷え固まって出来たものだった。5分も経たぬ内に彼らの目の前に嘗ての高層建築物の残骸が見えた。それは夕陽を浴びて、神話の世界の血塗られた地獄の剣山を彷彿とさせた。数分後、彼らは地下シェルターに到着した。シェルターの周りにあった瓦礫は既に幾つか撤去されており、ケレア少尉のカノントータスと対ゾイド火器を装備した歩兵部隊が展開していた。「隊長、みなさんも御無事で何よりです!」丁度カノントータスのコックピットから出たケレア少尉が敬礼する。アルバート少佐もキャノピーをあけて敬礼を返した。「少尉! ジェフ大尉は? まだ廃墟探索か?」「はい、今はたぶん高層ビルの何処かにいると思いますよ?」「わかった。」シールドライガーMkUのキャノピーを閉じるとアルバートはシェルターへと機体を進ませた。部下の機体もそれに続いた。―――――――――――地下シェルター――――――――――――――愛機のシールドライガーMkUから降りたアルバートは、グスタフの居住エリアにある自室に戻った。今のところ敵襲でもない限りは少なくとも1時間は仮眠が取れるな、と思った彼は、パイロットスーツのままベッドに倒れ込んだ。指揮官たるもの小刻みに睡眠を取ることも重要である・・学生時代に愛読していた小説の一節を思い出しながら眠りに突こうとした・・その時「おい!アルバート!!寝てる場合じゃねえぞ!」突如、両手に木箱を抱えたジェフがドアを蹴飛ばして現れた。「敵襲か!!」ジェフの声を聞いたアルバートは慌てて飛び起きた。「ばーか、そんなんじゃねえこれを見ろ!」ジェフはおどけた口調で手に持っていた木箱を机に置き木箱を開けた。中には、ボトルが3本入っていた。「・・酒か?」「ああ! さっき南地区のビルを探してたらな、あったんだよ!これで今日は祝杯といこうぜ!」「・・・それだけのことで起したのか?」突然起されたアルバートは少し不機嫌な口調でいった。「・・・悪い・だが、それだけで起したんじゃない。これと一緒にトラップになりそうなものを見つけたんだよ」「ほお、どんなやつなんだ?」「驚くなよ、電磁ネット弾12セットに、対ゾイド用の催涙ガス弾14発、ミサイルランチャー6基だ!」「そんなにあったのか?」「ああ、俺も最初見た時は、驚いたぜ。だが、ランチャーの横のトランクの中にこんなのがあった。」そういうとジェフは、胸ポケットから手帳を取り出して渡した。「ん? 1月2日、イグアン3機、ゴドス2機捕獲、1月8日、ハズレ 1月14日、ハイドッカー2機、サイカーチス1機捕獲、1月18日、ハンマーロック1機、マーダ4機捕獲、1月24日、ゴルドス1機捕獲、2月1日、ガリウス2、ゲルダー6機・・・なんだこれは?ハンティングの記録か?」「たぶん野良ゾイド狩りの業者の記録だろう、20年位前は、この大陸で一番実入りのいい職だったらしいからな、おそらく電磁ネットは連中の置き土産だろう」「そうか、ところで例の奴は、準備できたか?」「ああ、材料に手間取ったが、何とかな」「赤外線センサー対策は?」「其処も万全だ。」「・・・わかった。すまんが仮眠を取らせてくれ」「おっと、すまねえ、寝坊するなよ」ジェフは部屋を去っていた。「お前じゃないんだから、大丈夫だよ」そういうと彼は、電気を消すと毛布に包まって貴重な睡眠時間を貪った。
――――――夜 地下シェルター――――――テントの周辺では、共和国兵達が所属別に設置されたテーブルの周りに集まっていた。その手には例外なく金属製のコップが握られており、その中には、ジェフの回収した酒が入っていた。「この勝利を祝して!!」アルバート少佐が、左手に持ったコップを高く掲げた。「「「かんぱーい」」」隊員達も一斉にコップをぶつけた。中にはアルフの様に勢い余って零してしまう者までいた。「大尉!、こりゃ中々の掘り出しもんですねえ」「確かに、缶詰の飯がこんなに旨いと思えるなんてね・・・」ゲイルが皮肉げに笑みを浮かべる。敵地での孤立という絶望的な状況に置かれていた兵士達も当面の補給の目途がついたこともあって皆明るい表情を浮かべていた。「少佐!、此処から20キロ先に埋設しておいたセンサーに反応です!」そこにセンサーからの情報を見ていたカーク曹長から報告が入った。「帝国軍か?」椅子に腰かけていたアルバートが立ちあがった。「はい、から小型ゾイド中心の部隊が接近しているようです。・・・!上空にホエールカイザークラスの母艦ゾイドの反応も有ります」「降下部隊か・・・数は?」「ホエールカイザー内部の熱源の数から7機から9機と思われます」「地上の部隊は?」「およそ30〜40、どれも小型ばかりです」「・・・なら返り討ちにしてから離脱した方が良さそうだと思うが?」デュラン中尉が発言する。「増援の可能性もある! 予定通り、グスタフを市街地外に退避させてから、離脱しよう」「そうだな」「全機出撃!」「最初に度数の少ない酒を飲むことにしたのは正解だったな!」「まったくだ!」「飲酒運転は御免被りますからね!」「少尉!ガイロスの奴らに祝杯を台無しにしたツケを払わせてくださいよ!!」「おう!連中に祝杯を邪魔した礼をしてやらないとな!」酒を飲み損ねたゲイルは不機嫌そうに若い整備兵に言うと愛機のコマンドウルフに乗り込んだ。その横では整備兵を中心とした後方要員が必死でテントを畳んだりしながら、グスタフのコンテナに乗り込んでいた。次々と起動したゾイドは、所定通りの位置へと駆けて行った。―――――――シェルター前――――――鯨型母艦ゾイド、ホエールカイザーから降下したイグアン9機は、いずれも背中に大きな翼を備えていた。これは、第2次中央大陸戦争時にゼネバス帝国が国境に架かっていた橋を攻略する際に使用した特殊改造型イグアン、通称フロストイグアンと呼ばれていた機体を参考に開発したものでガイロス帝国空挺部隊に多数配備されていた。イグアン飛行型9機は背中のマグネッサーウィングを展開してシェルターの入り口付近に着地した。イグアン飛行型9機は、シェルターの扉に右手に持った使い捨て式ビームキャノン砲を向けた。「撃て!」9機のイグアンがビームキャノン砲を発射した。9条の閃光は老朽化したシェルターの扉を撃ち抜き、中にあった可燃物に引火したのかシェルター内で爆発が起こり、黒煙が辺りを包んだ。煙が晴れた後、シェルターの中にあったのは、焼け焦げたスクラップだけだった。「なに!ダミーだと!」驚愕する彼らを囲むように林立するビルの屋上からミサイルが発射された。それはシェルターに放棄されていたミサイルランチャーを利用したトラップだった。ミサイルは、丁度イグアン部隊の頭上で炸裂、中に詰められたチャフを撒き散らし、ホエールカイザーと降下部隊の通信を妨害した。同時に彼らを囲むようにキャノニアーゴルドス、マンモス1機、ゴドス2機、カノントータス2機が現れ、銃撃を浴びせる。イグアン飛行型3機が銃撃を受けて倒れた。「罠か!全機上昇!!」さらに一番近くにいたイグアン飛行型の1機が頭部を撃ち抜かれて崩れ落ちた。イグアン飛行型5機は背中のマグネッサーウィングを展開して虎口を脱しようとする。「逃すか!」ビルの残骸から飛び出したジェフのコマンドウルフ改が上昇中のイグアン飛行型に飛び掛かった。イグアン飛行型は上昇して離脱しようとしたが、コマンドウルフ改は後ろ足のブースターを点火して一番下にいた1機の首筋に噛付いた。イグアン飛行型の華奢な首筋を食い千切ったコマンドウルフ改は背中の大型キャノンを空中で発射した。だが、その目標は敵機ではなく地上だった。彼は着地の衝撃を爆発で和らげようとしたのだ。一方、首を失ったイグアン飛行型は地面に叩き付けれて大破した。脱落したイグアンの左肩のサーチライトがストロボの様に着地したコマンドウルフ改を照らした。「当たれ!」ラインハルトのカノントータスが突撃砲を発射、直撃を受けたイグアンの上半身を打ち砕く。隣にいたイグアン飛行型が右手のマシンガンを地上に向ける。それが火を噴くよりも早くジェフのコマンドウルフ改の大型キャノン砲が胸部を撃ち抜いた。残ったイグアン飛行型3機は、運良くホエールカイザーに回収された。自衛のための武装しか無いホエールカイザーは高度を上げて離脱していった。「全機、各方面の迎撃に向かうぞ!急げ!」――――――――旧都市 北地区―――――降下部隊の撤退を見た帝国軍部隊はそれぞれのルートから進撃を開始した。その中で一番早く交戦状態に突入したのが、北地区の部隊だった。イグアン6機、モルガ4機、ゲーター4機、デスピオン1機、ドントレス2機、ロードスキッパー4機、ショットウォーカー6機で構成された彼らは周囲を警戒しながらも進軍を続けていた。通常ゾイド部隊の先頭を白いゾイドの群れが進む・・それは白い姿と相まって亡霊の様に不気味だった。これは超小型の24ゾイドと呼ばれる機種であり、このような市街地では通常ゾイド以上に活動可能なことから索敵や歩兵支援にうってつけの存在だった。ヴァシリー・ヴァイコフ少尉以下12名が彼らを待ち伏せていた。全員、対ゾイドライフルや対ゾイドミサイルを装備しており、奇襲なら十分ゾイド部隊とも渡り合える可能性があった。隊長のヴァシリーは、スナイパーライフルを持って瓦礫に隠れていた。カマキリ型24ゾイド、ドントレスに跨るパイロットの頭部に彼は照準を合わせた。パイロットは丁度、ヘルメットを外していた。尤もヘルメットを被っていても徹甲弾に撃ち抜かれただろうが。・・・そして彼は引き金を引いた。放たれた銃弾は、寸分違わずドントレスのパイロットの頭部に突き刺り、パイロットの頭蓋が砕け、脳漿と血が白いメタルグロススーツと操縦機器を汚した。「敵襲!!」ロードスキッパーに乗っていた男が叫ぶ。だが、彼も胸部を撃ち抜かれて倒れた。直後、四方からミサイルが発射された。サソリ型24ゾイド、デスピオンの胴体装甲にミサイルが突き刺さり、次の瞬間、デスピオンは炎に包まれ、デスピオンの甲高い金属質の断末魔が廃墟に木霊した。次いで銃撃が瓦礫から浴びせられた。銃撃するのは歩兵ではなく、予め設置しておいた自動銃座によるものだった。クモ型24ゾイド、ショットウォーカー4機のパイロットと展開していた歩兵が銃撃を受けて崩れ落ち、辺りが血で染まった。「おのれ!焼き尽くしてやる!」火炎放射機を装備したイグアンが銃撃の来る方向に機体を向ける。だが、反対側からミサイルが発射された。火炎放射機を装備したイグアンの背中の燃料タンクにミサイルが命中、次の瞬間、燃料が誘爆してイグアンが炎に包まれた。「敵兵だ!周りにいるぞ!逃すなあ!」「全員、地下に逃げるぞ!おくれるな!!」ヴァシリー少尉が激を飛ばす。彼と部下を追撃すべくロードスキッパーが歩兵を連れて進撃する。砂漠地帯に生息するダチョウ型ゾイドを改造して作られたロードスキッパーの健脚から人間が逃れられるはずがないと、帝国兵は考えていた。不意にロードスキッパーの足がワイヤーに触れた。高性能爆薬が作動し、ロードスキッパーと周囲にいた兵士を吹き飛ばした。その隙にヴァシリー少尉以下、歩兵隊は地下に退避した。さらに帝国軍部隊にコマンドウルフが襲い掛かった。「俺達も負けられないな!」「コマンドウルフ!」イグアン火炎放射機装備型が火炎放射機を放つ。炎の奔流が射線上にあったゾイドの残骸や瓦礫を飲み込みながらゲイル少尉のコマンドウルフに迫る。「あぶね!」寸前で操縦桿を引き倒して炎の渦を回避するとイグアン火炎放射機装備型の側面に回り込むと、至近距離からAZ50mm連装ビーム砲を放った。細いビームがイグアン火炎放射機装備型の脇腹を撃ち抜いた。ゲイルは、コマンドウルフを後退させた。無論、帝国軍部隊も追撃する。「気づいてくれよ!!中尉!」ゲイルは外付けのランチャーのトリガーを引いた。照明弾が発射され、敵部隊の50m上空に緑色の燐光が生まれた。その光は中央エリアに待機していたカノントータス2機とキャノニアーゴルドスのパイロットにとって重要な意味を持っていた。「中尉! 照明弾です!」「色は?」エミリア中尉が尋ねた。照準機の調整をしていたため、色を確認できなかった。「グリーンです!ゲイル少尉のものです。」すかさず、ケレア少尉が報告する。キャノニアーゴルドスのバスターキャノンが火を噴いた。砲弾はカーブを描いてゲイルを追撃していた帝国軍部隊に落下した。着弾点にいたモルガは完全に大破し、周囲にいたゾイドも戦闘不能に追い込まれ、24ゾイドに至っては着弾時の衝撃波で全滅していた。「さすが中尉殿だ」エミリア中尉の射撃の腕にゲイルは思わず舌を巻いた。「さてと、俺達も合流するか!」そう言うとゲイルは、照明弾を再び発射した。先ほどと同じように50mで照明弾が炸裂した。色はレッド、それは全機撃破を意味していた。ブルー・ファイヤー隊はビルなどの障害物の多い地域で効果的に支援砲撃を行うため、予め決めておいたエリアに敵部隊を誘き寄せ、その上空で味方が照明弾を発射した後に支援砲撃を加えるという方法を取っていた。この方法は、磁気嵐の中でも砲撃を効果的に命中させる方法としては古典的なものだったが、市街地での使用はあまり例が無いため帝国兵は砲撃を受けるまで気付けなかったのである。「中尉、流石です!北地区の敵機は全滅です!」興奮した口調でジム少尉が言う。続いて、今度は南地区に水色の光が生まれ、歪な形のビル群を照らす。「南地区、ハルド少尉達からです!」今度は2機のカノントータスが南地区への支援砲撃を開始した。
―――――――――――東地区――――――――工場跡をヘルディガンナー1機、ゲルダー2機、マルダー2機、イグアン4機、デスピオン1機、ロードスキッパー4機が歩兵を随伴させて進撃する。「大尉殿! 砲撃が!」ゲルダーに乗る若い兵士が頭上を通り過ぎた砲弾を見て怯える。「馬鹿者! 夜の砲撃など雷よりも当たらんわ」ヘルディガンナーに乗るハンス・ハウプトマン大尉は、若い兵士をどやし付けた。「全機!警戒を怠るな! 敵は大型ゾイドを装備している!」彼らが、発電所を通過しようとしたその時、先頭にいたイグアン2機がコックピットをビームで撃ち抜かれて崩れ落ちた。「シールドライガー!」「落ちろ!」アルバートはシールドライガーMkUの連装ビーム砲のトリガーを連打した。細いビームが放たれ、更にイグアン1機が胴体を撃ち抜かれて崩れ落ちた。「撃てっ!撃ちまくれ!」シールドライガーMkU目掛けて、帝国軍機は銃口を向けた。兵士達が震える指でトリガーを引次の瞬間、コマンドウルフ改が横の廃墟から飛び出し、イグアンの喉笛を噛み切った。「!?」「喰らいな!」コマンドウルフ改の背中の大型キャノン砲が火を噴き、側面から直撃を受けたマルダーは大穴を開けて大破した。「仕上げだ!アルバート!」コマンドウルフ改が即座に後退、同時にシールドライガーMkUのビームキャノンが発射された。2条の高出力ビームが射線上にいたゲルダー2機とマルダーの装甲を飴の様に溶かし、内部機関を破壊した。正面からビームを受けたゲルダーの頭部が消し飛び、胴体に大穴が穿たれていた。「止めは俺に任せろ!」ジェフのコマンドウルフ改が、最後に残ったハウプトマンのヘルディガンナーに突撃する。残骸の間から24ゾイドと生き残った歩兵が対ゾイド用携帯火器を持ってコマンドウルフ改を迎撃する。月明かりと炎に照らされる彼らの頭上に影が差した・・・その正体はダブルソーダだった。「悪く思うなよ!」そう言うとバートは機銃のトリガーを引いた。ダブルソーダの顎の4連機関銃が歩兵隊を壊滅させた。デスピオンが尾部のパルスレーザー砲をダブルソーダに向けたが、コマンドウルフ改の放ったミサイルが突き刺さり、沈黙した。デスピオンが砕け散ると同時にコマンドウルフ改はヘルディガンナーに襲い掛かった。「おのれ!部下を!」ヘルディガンナーは背中のロングレンジアサルトビームライフルを発砲した。黄色いビームが闇を切り裂く、コマンドウルフ改は寸前で回避、左肩装甲が溶けたのみでダメージは無かった。「喰らえ!」コマンドウルフ改の大型キャノン砲の一撃が、ヘルディガンナーのボディを撃ち抜いた。―――――――南地区――――――――――――カノントータスの砲撃を受けたモルガが爆発する。突然の砲撃に帝国軍が怯んだ。同時にコルトとジャックのゴドスが、カーク曹長のカノントータスD型の支援を受けて突撃した。数千個の散弾が飛び散り、イグアンやモルガを傷つける。「落ちろ!」コルトのゴドスが右腕のないイグアンにキックを叩き込んで撃破する。「邪魔だぁ」その横ではジャックのゴドスがトリケラトプス型ゾイド、ゲルダーにビーム砲を叩き込んでいた。対する帝国軍は、損傷した味方機が邪魔なことと隊形を2列にしていたため数の優位を活かせないでいた。「隊長!ぎゃあ」「増援部隊が来るまで持ちこたえるんだ!」シーパンツァーに乗る指揮官は必死に部下を鼓舞しながら、別部隊が来るまで持ちこたえようとした。だが、「隊長!後方にカノントータス!」「何っ!」「ファイヤー!」ラインハルト軍曹のカノントータスの背中の液冷式荷電粒子ビーム砲が発射された。しかし、それは帝国ゾイドの頭上を通り過ぎて、ビルに着弾した。「下手糞が、共和国には真っ直ぐ撃てない奴もいるのか?」それを見た指揮官は、思わず嘲笑した。次の瞬間、砲撃を受けたビルが崩壊し、彼らに何十トンもの質量を持ったビルの瓦礫が降り注いだ。「なにっ!」回避する暇すら与えられず、瓦礫の直撃を受けたシーパンツァーとモルガ2機は、翅虫の様に潰された。――――――――――――東地区―――――――――――敵ゾイドの残骸が燻る中、グスタフ3機と直掩機を務めるアルフ中尉のマンモス、ノエル准尉とハワード准尉のゴドス2機は、市街地を抜け出ようとしていた。「皆さん、大丈夫でしょうかね?」不安げにハワードが言う。「大丈夫だ!」次の瞬間、グスタフの周囲に砲撃が加えられた。どれも命中はせず、周辺の地面に大穴を開けただけだった。「なにっ!」「全機散開! 固まってたら、やられるぞ!」アルフはなんとか部隊に命令を下す。「了解!!」命令を受けたグスタフ3機とゴドス2機が蜘蛛の子を散らしたかのように散開する。その砲撃を行ったのは、旧都市の外にいた第43重砲部隊だった。キャノリーモルガ8機で構成されたこの部隊は当初、東地区の部隊に対する支援砲撃を行う予定であった。だが機械故障によって出撃が遅れたため、今になってやっと戦場に到着したのであった。「遅れたかと思ったが、この分だと俺達が一番手柄を立てれそうだぞ!」指揮官のノイベルト・ダスラー中尉はそう言って部下を鼓舞した。第2射が行われ、砲弾がグスタフ隊に降り注いだ。だが、先ほどと同じく砲弾は周辺に着弾しただけだった。「糞!なんで当たらん!」「隊長! この電磁嵐じゃ 直撃させるのは無理です・・」「ならば対空弾を撃て!」「了解!!」再び砲撃が行われ、発射された砲弾は先程とは異なり、上空で炸裂し、地上に破片を撒き散らした。「!? 何だ!くっ」無数の破片を受けたグスタフやゴドス、マンモスの表面装甲に火花が散った。装甲の薄い飛行ゾイド用の対空散弾の破片は、正面装甲に掠り傷を付けるだけであったが、剥き出しのアンテナやセンサー等には効果てき面だった。「逃げろ!逃げろ!」 モニターの中で回避運動を続けるグスタフ隊を見据えながらノイベルトは楽しそうに言った。次の瞬間、部隊の中心に砲弾が着弾した。直撃を受けた指揮官機は、弾薬が誘爆して消し飛んだ。周辺にいた機体にも瞬く間に火が回り、次々とキャノリーモルガは爆発していった。砲撃を行ったのは、エミリア少佐のキャノニアーゴルドスだった。これ見よがしに砲火を上げる彼らは、夜間でも格好の標的であった。「皆! 大丈夫か」市街地での戦闘を終えたブルーファイヤー隊のゾイドが現れる。「少佐! 連中が下手糞だったおかげで何とか無事です。」親指を立てたリックス曹長がいう。「よし全員、敵の増援が来る前に此処から離脱するぞ!」
第1次全面会戦で大敗を喫した共和国軍は、高速戦闘隊の撹乱作戦と特殊工作師団によるゲリラ戦等によって戦力再編までの時間を稼ごうとしていた。白いセイバータイガーが赤い大地を駆ける・・背中のビームが放たれ、直撃を受けたガイサックが次々と砕け散る。次にゴドスが腰部の小口径ビーム砲を連射したが、頭部にレーザーを受けて崩れ落ちた。「速い!!早すぎる! ぎゃあああ」「畜生! 何なんだよ!!ひぃいい」「当たれ! 当たれ!あた・・!わっ」次々と途絶えていく戦友の声、1つまた1つと成す術も無くガイサックが、ゴドスが、″彼≠フ目の前で砕け散っていった。そして最後に残った彼の元に白いセイバータイガーが少しずつ歩み寄る・・・「来るなあああ」彼は震える手でトリガーを引いた。乗機のガイサック・カスタムの尾部レーザーライフルが火を吹くよりも早く白いセイバータイガーのビーム砲がレーザーライフルを吹き飛ばした。間髪入れずビーム砲の上に装着されたミサイルポッドが発射され、ガイサック・カスタムの両レーザークローと8本の脚の内6本を吹き飛ばした。同時に白いセイバータイガーは跳躍、大破したガイサック・カスタムの前に降り立つ。そして銀色に光る左のストライククローが彼の座るコックピットに振り下ろされ・・・・「わああああああ!! はっ」彼、カイル・スコット中尉は夢から覚醒した。ベッドに横たわる彼の周囲には幾つもの医療機器が並んでいた。「夢・・・・か」彼はベッドからよろよろと起き上がった。彼は窓の外を見た・・・外には、共和国軍の主力小型ゾイド、ゴドス5機が縦隊を組んで行進していた。後ろには蒲鉾型の倉庫が並んでおり、扉には共和国国旗が刻まれていた。「捕虜では無いようだが・・・此処は・・野戦病院か?」彼はベッドから降りた。同時に体の節々に痛みが走ったが、今の彼にとってはそんなことは如何でも良かった。「スコット中尉殿! お目覚めになられましたか?」その時、目の前のドアが開かれ、若い共和国軍士官が現れた。「誰だ?」「私は、第34部隊所属のグレン・ドレクスラー少尉であります!」「そうか。それでお前が隊長さんか?」「いいえ、隊長は、中尉殿 貴方であります」「どういうことだ! 俺は負傷兵だぞ!」彼は口では慌てていたが、内心は喜んでいた。あの白い狩人を、部下の仇を討てるのだから。「軍医の話では、貴方の怪我は軽症だそうです。それに貴方は、1年前に負傷時の場合でも前線に出るとこの書類にサインしていますよ。」「・・・そうだったな」彼は面倒臭そうに髪を掻き毟った。以前彼はその書類にサインすれば退役後、年金が多少上がるという上官の話に乗ってサインしていた。「わかった。ところでレッドラストの戦いから何日たった?」「今日で一週間経ちました・・・速いものです・・・」1時間後、軍医の診察を受けた彼は、司令室に出頭した。司令室には装飾の類は殆ど無く、何処か無機質な印象を入る者に与えていた。「カイル・スコット中尉!只今出頭しました!」カイルは、目の前の高価そうな机に腰掛ける司令官に敬礼した。司令官の男は、能面のような冷たい表情をしていた。「そこにかけたまえ、中尉」司令官は、甲高い声で言った。「はっ」カイルは横に置かれていたパイプ椅子に腰掛ける。彼以外にも20人ほどが着席していた。「これで全員揃ったな。君達にはこの映像を見てもらいたい。」司令官は言うと、後ろに配置されていたモニターを起動させた。大画面モニターに華やかな音楽と共に画面に帝国の国旗が浮かびあがる。映像は帝国軍のプロパガンダ放送で帝国軍参謀本部発表の文字がタイトルと並んで浮かんでいた。「帝国軍参謀本部発表!! 我が軍はレッドラスト最後の共和国軍要塞を陥落させた。共和国軍は卑劣にも現地人部隊を捨て石として時間稼ぎとしたが、帝国軍の勇士達の前では、それは藁の壁で竜の道を遮ろうとする愚行に過ぎなかったのである!!」「またこの戦闘で第32師団のアストリッド・グレイ大尉と揮下のヘルキャット部隊はマンモス改2機を含む敵ゾイド45機を撃破した。」画像が白いセイバータイガーとその横に佇む金髪の女性士官の画像に移り変わる。「彼女は語る!西方大陸全土の解放の日は近いと!!」やがて放送が終了し、モニターは元の黒い画面に戻った。「この映像は?アイドルの紹介か何かですか?」隣に居たドレッド・ヘアーの男性士官がふざけて言った。「まじめにしろ、ライド軍曹」「・・・これは3日前に第90基地が陥落した2時間後に周辺の中立都市国家へ向けて放送された帝国の宣伝放送だ。貴官の部隊を襲撃したのは、このアストリッド隊で間違いないな、カイル中尉」「はい」「この部隊の白いセイバータイガーについては、情報部の調べで幾つかの代理戦争での戦闘で確認されていた。更に言うと遭遇した友軍部隊は、全て全滅している。レッドラスト会戦でも、カイル中尉の部隊が遭遇する前に第24,25中隊が全滅させられている。今の所、奴の牙から逃れられたのは飛行部隊位だよ・・」指揮官の声は少し震えていた。室内に居た兵士もアストリッドと白いセイバータイガーの脅威に戦慄していた。「ところでこの部隊は何処に居るか確認されているのですか?」ドレクスラーが不安げに質問する。「情報部からの情報で、現在はレッドラストで補給部隊の護衛に従事していることが確認されている。そのため之からの作戦では、いかなる場合においてもこの部隊を確認した場合は、絶対に戦闘に参加してはならん!」「はい!」兵士達が即答する中でカイルだけは遅れて返答した。二日後、臨時編成された2つの部隊は帝国軍の補給線攻撃のために出撃することとなった。この作戦は近々行われるオリンポス山攻略作戦の支援のためのものであった。町の郊外には2つの部隊が展開していた。カイル中尉の部隊はガイサック・カスタム9機とガイサック8機、鹵獲モルガ3機という編成で鹵獲モルガには特殊部隊の兵士30名が物資と分乗していた。マインツ中尉の部隊はステルスバイパー6機、ガイサック8機、カノントータス3機で編成されていた。「スコット中尉!幸運を!」コックピットを開けてマインツ中尉がカイルに手を振る。新米の頃、カイルに助けられたの彼はカイルを尊敬していた。「ああ!」カイルもそれに応えるとガイサック・カスタムのコックピットに潜り込む。彼らの背後の町では、駐留共和国軍が撤収の準備を始めていた。滑走路から輸送機が次々と飛び立っていく、その上空では護衛機のプテラス6機が旋回していた。時折、ビームの砲声と爆音が聞こえる。共和国軍が持って行けない物資の処分を行っているのだ。「出撃!」上空に信号弾が打ち上げられ、2つの部隊は進軍を開始した。彼らの姿が地平線の彼方に消えると同時に、最後の輸送機が離陸した。数秒後、護衛機のプテラスが滑走路に対して爆弾を投下した。誤爆を防ぐ為に爆弾はレーザー誘導爆弾だった。爆撃を受けた滑走路は、コンクリートが捲れ上がり、完全に使用不可能となっていた。3日後、この町を帝国軍が占領した。帝国軍は滑走路を使用可能にするのに20日近く費やすこととなる。――――――――レッドラスト―――――――――― 幾つもの残骸が転がる炎天下の赤い荒野で2つのゾイド部隊が睨み合っていた。一方は帝国軍のマークがペイントされたグスタフ・トレーラー2台と護衛機のイグアン2機、ゲーター、アタックゾイド10機 対するもう一方は、グスタフ、ブラキオス、コマンドウルフ、カノントータス、モルガ、ガイサック、等約20機で構成されていた。「手前等! 此処は俺達の縄張りだ!」ブラキオスのコックピットから大柄の男が左手のメガホンで怒鳴りながら現れた。彼らは、この近くの都市を拠点とするジャンク屋で、周辺の都市の自警団と同様、武装化していた。「我々は、ガイロス帝国軍 第23回収部隊である。 此処には、撃破された友軍機の残骸と友軍将兵の遺体の回収に来た! 道を開けてもらいたい。」回収部隊の指揮官は、新米の若い士官でこのような事態には不慣れで定型通りの対応しか出来ない。「俺達も鬼じゃねえ! そっちが俺達の稼ぎの邪魔をしないで、お前等のゴーレム2機を譲るってんならそっちの邪魔はしない!!」髭面の男は、帝国軍相手でも強気だった。回収部隊の戦力が小型ゾイド数機だったというのもあるが、以前、共和国軍相手に強気に出て有利な条件を引き出せたことがあったためであった。「!? 例え24ゾイドであっても帝国の財産である機体を売り渡すことなどできん!!」「ほお! 俺達とそれだけでやり合おうってか!!おいお前ら!連中に判らせてやれ!」左肩にミサイルを装備したハンマーロックがグスタフ・トレーラーに接近する。その時、ハンマーロックの胴体をレーザーが貫く。誘爆を防ぐ為に動力部を狙った正確な一撃だった。「なに!」「!?」 全員がレーザーの来た方向を見る。其処に居たのは、白いセイバータイガーと3機のワインレッドのヘルキャットであった。「良く持ちこたえたわね」「!?何だ手前!」ジャンク屋側の数機が発砲、砲弾とレーザーが白いセイバータイガーに吸い込まれる。だがどの攻撃も白いセイバータイガーを捉える事は無かった。白いセイバータイガーとワインレッドのヘルキャットは、回収部隊とジャンク屋の間に割って入った。「てめえら、4機で俺達を止めようってかあ!」髭面の男は馬鹿にした様な口調でがなりたてる。「あんた達みたいな、身の程知らずの相手は私一人で十分よ!」彼女はそう言うと白いセイバータイガーを前に進ませる。その姿は、旅人を夜盗から守ろうとする誇り高い騎士の様だった。「やっちまえ!!相手は女の乗ったゾイドだ!!」白いセイバータイガーにコマンドウルフとヘルキャットが飛び掛かった。更に後方に居たゾイド部隊も砲撃する。セイバータイガーは後方からの砲撃を回避してコマンドウルフに突撃した。セイバーの牙がコマンドウルフの左肩を抉り、コマンドウルフは力なく倒れ伏した。次にヘルキャットに胴体下部の3連衝撃砲を叩き付け、崩れ落ちたヘルキャットの頭部コックピットを容赦なく叩き潰した。アストリッドは白いセイバータイガーの出力を最大にして、後方のゾイド部隊に襲い掛かった。白いセイバータイガーは、一番前に居たゴドスとイグアンの頭部を擦れ違い様に叩き潰し、ゲーターの背鰭をキラーサーベルで引き千切った。「てめえ!」カノントータスとキャノリーモルガが突撃砲とグラインドキャノンを撃つ。だが、白いセイバータイガーは、超音速で迫る砲弾に機体を捻らせ回避して背中のビーム砲を発射する。カノントータスは突撃砲口にビームが突き刺る。直後、カノントータスは爆砕した。次にキャノリーモルガに肉薄すると、頭部装甲毎コックピットをキラーサーベルに突き立てる。アタックゾイド部隊がセイバータイガーの懐に潜り込もうとしたが、レーザー機銃を掃射され、次々と消し炭にされた。「凄い・・何て動きだ…」グスタフ・トレーラーの新米士官はアストリッドのセイバータイガーの動きに呆然となっていた。「ぎゃああ」作業用ハンマーロックが押し倒され、コックピットを叩き潰された。「てんめええ!」リーダーのブラキオスが両脇にぶら下げたビームガトリング砲をセイバータイガーに向ける。セイバータイガーは丁度、ブラキオスに対して背を向けていた。「死ねえ!」ビームガトリング砲が火を噴き、光の豪雨が白いセイバータイガーに降り注いだ。だが白いセイバータイガーは、ジャンプして回避、ビーム弾は転がっていた残骸を砕いただけだった。「なにっ」次の瞬間にはアストリッドのセイバータイガーはブラキオスの後ろに回り込んでいた。「さよなら」リーダーがその言葉を認識するより早く、セイバータイガーのキラーサーベルがブラキオスのコックピットに突き立てられた。血とオイルがセイバータイガーのキラーサーベルを赤く染める。「!!」「・・ボスがやられたあ!」「畜生!あんな化物相手にしてられるかよ!」「わあぁあ」残ったジャンク屋のゾイド部隊は蜘蛛の子を散らすように逃げだした。「隊長、連中が逃げます!」ヘルキャット3番機のパイロット、ラインホルト・ベーア少尉が追撃しようとする。「いいの!ほっときなさい、これであいつらも帝国軍と張り合おうなんて馬鹿な真似はしないわ」だが彼女は追撃を許可しなかった。彼女は全滅させるより、彼らを逃すことで周辺に今後現地勢力に帝国軍襲撃を躊躇させる方が、帝国の利益になると考えていたからである。邪魔者が排除された後、グスタフ・トレーラーとアタックゾイド部隊は戦場掃除を再開した。
セイバータイガーと3機のヘルキャットもこの戦場掃除でセンサーとしての役割を果たした。戦場掃除が終了した後、アストリッドの小隊は補給の為にもう一台のグスタフ・トレーラーの荷台に機体を駐機させた。コックピットを降りたアストリッドの周囲を回収部隊の兵士達が囲む。「大尉殿! 助けて戴きありがとう御座います!」「大尉殿!」「大尉殿!!」「お前ら、大尉殿に失礼だろう!配置に戻れ」 彼らをかき分けて回収部隊の新米士官が現れる。身長はアストリッドよりも高かったが、顔付きは遥かに年下に見えた。「有難うございます!!整備は、此方が行いますので皆さんは休憩して下さい」「ところで簡易シャワーある? 機体の空調が途中で故障して暑くて堪らなかったのよ」彼女は左手で扇ぎながら言った。「はい、トレーラーの居住区2階に2基あります」「判ったわ。 ・・あと覗いたら・・殺すわよ」「!!そんな不届き者がいたらこの私が銃殺してやります!」彼は一瞬赤面したが、馬鹿らしくなるほどの大声で返答した。「それでよろしい!」10分後、休息を終えたアストリッドは、相棒のセイバータイガーを眺めていた。北エウロペの亡命者の父と帝国下級貴族出身の母の間に生まれた彼女にとってエウロペ種のタイガー野生体をベースに開発されたセイバータイガーは、自分の最高の相棒に思えた。「大尉殿・・」後ろで声がした。彼女が振り返るとそこには、一人の整備兵が立っていた。年齢は15歳程で、顔立ちから現地徴用兵のようだった。「なにかしら、もうサインとか馬鹿げたことはしないからね」彼女は腰に手を当てて窘めるように言った。「いいえ! そんな、あの、我々はこの戦争に勝てるのでしょうか…」不安げに彼は尋ねた。「・・・勝てるわ。」満面の笑みで彼女は言った。「・・そうですよね!自分も整備がんばります!」彼は一礼して走り去っていった。「隊長、どうしたんです。整備完了しましたよ。」ヘルキャット1番機のヴァルター・ブルクドルフ軍曹が言う。叩き上げの彼は、この部隊の兵員で最年長だった。「いえ、この戦争に帝国は勝てるのか って聞かれてね」「今のところ我が軍は連戦連勝、昨日もニューヘリックシティを爆撃したって放送していましたし心配はないでしょう」「だが、連中も馬鹿じゃない、油断は禁物だ」腕を組んでいた長身のミヒャエル・ヴァイス軍曹が言う。彼らの頭上を無数のレドラーとシンカーの大編隊が過ぎ去っていった。同じ頃・・・カイル中尉の部隊は、砂中潜航状態で敵補給部隊が来るのを待ち伏せていた。このルートを補給部隊が通過することは、親共和国派の現地人からの情報と砂に刻まれた無数の足跡が証明していた。「中尉!A10ポイントの特殊部隊より連絡、帝国軍の補給部隊が此方に接近しているとのことです」ドレクスラーからの報告が入った。「戦力は?」「輸送機が3、全てグスタフH型、護衛機が16、内訳はイグアン8、ゲーター2、モルガ6、後歩兵多数」「了解!」ガイサック・カスタム9機とガイサック8機は尾部を砂地から出した。その姿は鎌首を擡げる蛇を想起させた。対する帝国軍補給部隊には残骸の1つとしか認識出来なかった。「テイルセンサーは相変わらずか・・・畜生」カイルは尾部センサーからの画像の粗さに悪態を付いた。一部の残骸が放つ電磁波や上空の電磁嵐のせいでセンサーの画像からの情報ではゾイドの数を正確に確認できなかった。イグアンの残骸が緑色光を数回放つ。それは特殊部隊からの発光信号である。之はセンサーが機能しない場合に備えてのものであった。「B班からの情報は間違いないみたいだな!」カイルは、操縦桿横のボタンを押す。ガイサック・カスタムの胴体から信号弾が上がった。同時にガイサック・カスタムとガイサックが尾部レーザーライフルと30oビームライフルを発射した。左右から17条の細いレーザーとビームが補給部隊に襲い掛かった。イグアン3機とゲーター1機が撃破され、最後尾のグスタフのコンテナにレーザーが直撃し、内部の弾薬が誘爆して隣に居たゲーターとモルガが横転する。「何だ?っ!」イグアンのパイロットの1人が、反応したが行動するよりも早く彼の肉体はコックピット諸共消し飛んだ。頭部を失ったそのイグアンは、糸の切れた人形の様に崩れ落ちた。同時に残骸に隠れていた特殊部隊がミサイルランチャーを発射、ミサイルを側面に喰らったモルガが被弾個所から煙と火の粉を吐き出しながら、付近の残骸に激突して擱座した。赤い土煙を巻き上げてガイサック部隊が左右から突撃する。モルガが機体後部のミサイルを発射したが、ガイサックの砂漠での走破性の前では後方に着弾しただけだった。ガイサックがレーザーシザースでモルガの突進を抑え込む。その間に別のガイサックが、機体側面に胴体のロングレンジガンを叩き込んで撃破した。「落ちろ!」カイルのガイサック・カスタムがモルガの頭部装甲の隙間にレーザーシザースを叩き込み撃破する。「こいつめ!」グスタフがガイサック・カスタムを踏み潰そうと突進した。「この鈍間が!」カイルは機体を後退させて紙一重で回避、グスタフの頭部コックピットにレーザーシザースを叩きつけて行動不能にした。次にイグアン3機が彼のガイサック・カスタムに襲い掛かった。「隊長!」部下のガイサックとガイサック・カスタムが30oビームライフルを発砲、2機のイグアンは集中砲火を受けて爆散した。最後のイグアンはフレキシブルスラスターを駆使して格闘戦を挑もうとする。だが、イグアンの足元に展開していた特殊部隊がミサイルランチャーを発射する。「なに!」ミサイルがイグアンの右腕と脚部関節に着弾、イグアンは膝をつく。「悪く思うな、薬缶頭!」同時にガイサック・カスタムのレーザーライフルがイグアンの胴体を撃ち抜いた。程無く護衛機を全て失った補給部隊は降伏した。
同じ頃、クーパー隊も補給部隊に対する攻撃を開始していた。ステルスバイパー6機は、周辺に散らばる残骸に紛れながら、このルートを通過する予定の帝国軍、輸送機部隊を待ち伏せていた。「情報が合っていると良いが・・」青空を見詰めながら、クーパーは言った。この飛行ルートの情報は、基地に出入りしている現地人からの物であった為、彼は信用しきれていなかったのである。その時、雲間から幾つもの機影が姿を現した。機影の正体は、帝国軍主力飛行ゾイド シンカーとレドラーであった。シンカーは胴体下部に輸送コンテナを装備していた。「攻撃開始!」ステルスバイパー6機の尾部に2発ずつ装備されたミサイルが白煙をあげて天空へと駈け上がっていく。発射された12発のミサイルは飛行ゾイドの感覚器官をセンサー化した高性能型で、特殊工作師団と防空部隊に優先的に配備が進められていた。一部のレドラーやシンカーのパイロットが気付いたが、回避運動を行う時間すら与えられず、叩き落された。「全弾命中!」「やったぜ!」ステルスバイパーのパイロットの一人が煙の尾を引きながら落ちていくレドラーを見て言う。生き残った3機のシンカーが低空に降りて離脱を測る。「3機くるぞ!歓迎してやれ!!」「逃すかよ!」ステルスバイパー6機がヘビーマシンガンの弾幕で3機を歓迎した。機銃弾をロケットブースターに受けたシンカーが火の玉に変わる。その爆発に煽られ、左に居たシンカーは機体を上昇させようとしたが、コンテナにヘビーマシンガンを受けた。その際、コンテナに搭載されていた弾薬が誘爆、シンカーは砕け散った。最後の1機は、それなりに腕もあったらしく、巧みに機体を操作して射弾を搔い潜る。2機のステルスバイパーの間を潜り抜けたシンカーの前にクーパーのステルスバイパーが立ち塞がった。「行かせるかよ!」クーパーはシンカーの予想進路上にヘビーマシンガンを連射した。被弾したシンカーのパイロットは、輸送コンテナをパージした。「あぶね!」ステルスバイパーはコンテナを回避すると、ヘビーマシンガンをシンカーに叩き込んだ。シンカーは砂漠に突っ込み、大破した。――――――――夜 秘密物資集積所 T−1211 ―――――――――特殊工作師団の補給用に秘密裏に地下に設置されたこの基地にカイルの部隊は待機していた。その格納庫では、獣の唸り声の様な駆動音とともに多くの機械が忙しなく動いていた。其れは隠密性ゆえに少数での行動を余儀なくされる隠密部隊が最小の人数でも整備が行えるように開発された半自動整備ユニットだった。「凄い音だな。連中に見つからないか?」乗機のガイサックが幾つもの作業アームに整備されているのをガラス越しに眺めながら、ダニエル曹長が不安げに言う。「心配性だなあ、お前でもわかる事が、上層部のエリート様に判らないわけねーだろ」隣で缶詰を貪っていたロバート・ボウマン曹長がいった。「ロバート、下品だぞ」「良い子のみんな〜ミルクだよ」ふざけた口調でコップを乗せたトレーを持っていた、ボブ・ライド准尉が入ってきた。彼は、身長176cmの筋骨隆々たるドレッドヘアの巨漢で、彼の台詞を聞いて、そのギャップに思わず、食堂に詰めていた兵士達は大笑いした。「はい、隊長、ミルクですよ」「有難よボブ」カイルは、テーブルに置かれたカップのミルクを飲んだ。口一杯に脱脂粉乳特有の味が広がるのを感じた彼は、思わず顔をしかめた。「・・・10年ぶりに味わう味だぜ」彼は不快げに言った。彼の故郷は大異変の被害の復興が遅れた地域で、この手の合成食品や缶詰の類は、幼い頃の苦い思い出の1つであった。「隊長もこのペンキミルク飲んだこと有るんで?」ダニエル曹長が尋ねる。「ああ、俺の故郷は、大異変で酷かったからな」「・・・すみません隊長」「気にするな、大異変の後はどこもあんなもんだった。たまたま俺の故郷はそれが長続きしただけさ・・・っと今度からは、帝国の奴らからちゃんと水だけじゃなく酒とかドリンクを奪っとかないとな」「ちがいねえ」他の兵士達が大笑いした。1時間後、作業を終えた兵員の多くは、明日の作戦に備えてそれぞれのベッドへと向かった。その中に部隊長であるカイル・スコット中尉と副官のグレン・ドレクスラー少尉の姿はなかった。
――――――――ゾイド格納庫――――――――――――格納庫には、ガイサック・カスタムとガイサック、鹵獲モルガが格納されており、何名かの整備兵が残るのみで閑散としていた。カイル中尉は、長年の実戦経験の影響で、コックピットで寝ることが習慣になってしまっていたため、この基地でもコックピットで眠るつもりであった。彼が愛機のシートに体を沈めようとしたその時、彼の背中を何者かが叩いた。「ん?」振り向くとそこには、副官のグレン少尉がいた。「なんだ?お前も格納庫で寝る気か? やめとけ、俺みたいにコツをつかんでないとろくに眠れない上、体にも悪いぞ」相棒のコックピットシートを叩きながらカイルが言う。長期行動が想定される高速ゾイド、奇襲ゾイドは他のゾイドと異なりコックピットで眠ることも考慮されていたが、ベッドの快適さとは比べるまでも無いものである。「いえ、一つお尋ねしたいことが・・・よろしいですか?」「・・・白い狩人ってなんです?隊長が意識を失っている間に何度も呟いておられた言葉です。」「・・・・」「・・・・いいだろう・・俺がガキの頃に爺さんから聞いた話だ。立ち話もなんだ、あのパイプ椅子に座ろうか。」「はい」「俺の爺さんは、第2次中央大陸戦争の時、中央山脈の遊撃部隊に所属していたんだが、その頃、ゼネバス帝国軍のカウンター部隊の中の高速部隊にいたエースパイロットのコードネームが白い狩人だったのさ」「そいつは、白いライオン型の中型ゾイドに乗っていて、まだ、14歳位のガキだったって話だ。更にいうと珍しいことに神族の出身だったそうだ。」神族はゴジュラス、ゴルドスといった中央大陸の大地下空洞に生息していた恐竜型ゾイドを初めて使役し、西方大陸にも高度な文明を残したとされる幾つもの謎に包まれた少数民族であり、高いゾイドとの同調性から多くの優れたゾイド乗りを輩出してきたことで有名でもあった。「ライオン型ですか・・・」グレンは怪訝な顔をした。グレンは、旧ゼネバス帝国軍が、ライオン型高速ゾイドを装備しているという話が少し信じられなかった。その理由は、ライオン型ゾイド野生体の生息地は共和国側にしか存在しないからであった。ゾイドが通常兵器とは違う点の一つは、開発技術を入手しても、野生体を確保することが出来ないとそのゾイドを生産することができないことである。例としてはシールドライガー開発を停止し、旧ゼネバス帝国領のタイガーゲージに生息するタイガー野生体を利用するゾイドがその代りとなる計画があったが、ゼネバス帝国軍再侵攻の際に野生体生息地のタイガーゲージを防衛できないと判断された為にライオン型ゾイドとして開発されたというエピソードが有名であった。「爺さんの話だとライジャーとかいう西方大陸のライオン型ゾイドをベースにした高速ゾイドの試作型じゃないかってらしいが、このゾイドは、ゼネバス帝国崩壊の影響で資料もあまり残っていないそうだ・・・俺もシールドライガーより小さくて性能も上のゾイドということしか知らん・・・・おっと話がずれちまったな・・・」「その白い狩人は、2046年9月に赴任してから1ヵ月の間に僚機のサーベルタイガーやヘルキャットと共に、中央山脈で遊撃戦を行っていた共和国軍部隊を5つ壊滅させ、2048年の8月の帝国大攻勢で、ディバイソンとゴジュラスmkUを撃破したらしい・・・」「中型機でゴジュラスmkUやディバイソンを・・・・そんなことが…」グレンには当時の軽武装の高速ゾイドが、重武装の大型ゾイドを撃破したことが信じられなかった。「その白い狩人も年貢の納め時が来た。大戦末期、そいつの部隊は、住民の避難と孤立した共和国領占領部隊の撤退を支援するために碌に支援も補給も与えられないまま、共和国軍の飛行場等への攻撃を続けた。」「彼らだけで、ですか?!」グレンは驚愕した・・・共和国軍では、そのような無謀な作戦が行われることなどまず、考えられないからだ。「・・・共和国軍なら立案した参謀が更迭されるレベルだろうが、お前も士官学校の道徳関係でバレシアの虐殺やユーラス師団の残虐行為については学んだだろう?唯でさえ共和国領の占領部隊は、共和国住民から恨みを買っていたからな・・・捕虜になったら何をされるかもわからんって思っていたんだろうな。」「・・はい」カイルの話しに出たその話は、共和国軍史の汚点となった事件であった。「最後まで撤退支援のために後方の共和国軍基地を襲撃したそいつらは、最終的に中央山脈のサブリスキーポイント近くに追い詰められた。」「連中の残存機、20機に対し、共和国軍は、ウルトラザウルスを含む2個大隊で強襲し、白い狩人も最後まで暴れまわった挙句、戦死したそうだ。」「・・・ここまでは、普通のエースパイロットの最期に過ぎないんだが・・・その後、奴が、戦っていた地域でおかしな事件がおきる様になった。」「次々と何者かにゾイドが襲撃される事件が起こったんだ。襲撃されたのはどれも共和国のゾイドで、爪と牙で切り裂かれていたそうだ。生存者の話では襲われる前にどれも天候に関係なく霧に包まれたと思うと霧の中に少年の笑い声と白い影が現れたってな!」「・・・そして俺は、、レッドラストで乗機から命からがら脱出した時に見た!奴の肩に立つ白い影を!・・・奴は嗤っていた・・・生き残った俺を!」カイルは血を吐くように言った。「・・・・」「だからこそ俺は、奴を白い狩人の亡霊を倒す必要があるんだ・・・奴を野放しにするわけにはいかないんだ・・・亡くなった部下の為にも・・・」「いいえ、自分もあの白いセイバータイガーの戦闘記録を見ましたが、明らかに異常でした・・・まるで何かに憑かれているように。」グレンは、彼の話を信じきることが出来なかった…だが、戦いに心を食われた狂人の戯言と切って捨てるには、彼の眼差しは、哀しく、そして力強かった。
彼らが眠りに付いたのと同じ頃、アストリッド隊も補給基地に到着していた。基地司令に幾つかの報告をしたアストリッドは、部下と共に食堂で食事をとっていた。食事といっても元々共和国の基地だったこの基地の食堂のメニューには大きく×がされており、食事は、一番手前のテーブルに積み上げられていた合成食とレーションだった。「はあ・・・また朝と同じレーションかよ・・・」カール・ブルクドルフ軍曹は、そのレーションの山を見てうんざりそうに言った。「そういうなよ…・共和国の野郎どものレーションは、かなりマシらしいからな」そういうとヴァイスが共和国軍の合成食品パックを手に取った。「だといいがな」それぞれレーションを手に取ると彼らは空いていた席に座った。「さあてと、敵さんの飯がどんなものか、味わってみるか!!」「ああ、楽しみだ!」カールとヴァイスがプラスチックのフォークとナイフを手に取り、合成食パックの中のハンバーグを切り分け始めた。「おお、なかなかいけるな」ヴァイスが満足げに言った。部下が遅い夕食をとる中でアストリッドもカロリーバーを頬張った。彼女は口いっぱいに甘ったるい味が広がるのを感じた。彼女とてカロリーバーの単調な味に満足しているわけではなかったが、共和国軍のコマンド部隊に父の一族を殺された彼女にとって共和国軍の食事を食べるのには、抵抗があった。「・・・」部下より一足先に食事を終えた彼女は外を見た…補給基地の外には戦勝記念碑のように共和国軍のコマンドウルフ、ゴドスの残骸が野晒にされ、月明かりを受けて鈍く光っていた。そして夜空には、無数の宝石をまき散らした様な星々と海の様な深い蒼と鮮血を思わせる朱の2つの月が寄り添うように浮かんでいた。それを見た彼女は、胸ポケットから光る何かを取り出した。それは、装飾が施された銀色に輝くメダルだった。彼女は、手に持ったメダルを月にかざした。そのメダルは、月明かりを浴びて銀色に輝いていた。「大尉、どうかされましたか?」それを見たヴァイスが言う。「なんです。そのメダル、何かの記念品ですか」続いてベーアが尋ねた。「私の父が、旧ゼネバスからの難民の人からもらったものよ。父の話だと元は旧ゼネバス帝国軍のエースパイロットのものらしいけど」「はあ・・・・」突如、爆音と衝撃が彼らの会話を遮った。「事故か!」「攻撃だ!第3格納庫のあたりで爆発があったぞ!」直ぐに迎撃のために仮設滑走路からコウモリ型 アタックゾイド ダムバスター3機が発進した。「やつらに火の雨を見せてやる!」「ん?」発進と同時に彼の視界に低空飛行で侵入してくる機影が飛び込んできた。敵機と彼が認識するより早く、彼の目の前でそのアタックゾイドは、倉庫めがけて急降下した。「!?」次の瞬間、アタックゾイドが突っ込んだ倉庫は大爆発し、飛び散った破片が彼と乗機のダムバスターをズタズタに引き裂いた。「なんだ!?事故か?」基地にアタックゾイドが突っ込んだのを見た帝国兵の多くは、事故だと思っていた。「・・・・(あの機動は明らかに体当たりを目的としていた)」だが、アストリッドはそれが事故でないことを見抜いていた。「攻撃よ! 建物から離れて!」彼女は食堂に突っ込んでくる機影を見て叫んだ。「わあっ」彼女とその部下、一部の兵士が建物から離れたと同時に機影が食堂に突っ込んだ。食堂の屋根をぶち抜いた瞬間、その機体の華奢な両翼は砕け、叩き折れたが、それは、食堂のテーブルとその付近にいた兵士1名を潰して予定どおり腹に抱いた爆弾を起爆させた。食堂内にいた人間は、爆発で即したが、爆発によって吹き飛ばされたガラスと金属の破片が逃げ遅れた周囲の兵士を殺傷した。助かったのはギリギリで食堂から離れることのできたのは、アストリッド以下数名のみであった。「うっ」冷たい風に乗って人体と金属の焼ける異常な臭いがアストリッド達の鼻を突いた。「みんな!出撃するわよ!」真っ先に格納庫にたどり着いた彼女はセイバータイガーのコックピットに滑り込むと、セイバータイガーを起動させた。少し遅れて部下のヘルキャット3機も起動した。直後、共和国軍のトンボ型アタックゾイド クロスウィングがセイバータイガーに向って来る。「っ!」彼女はトリガーを引く、セイバータイガーの背中のビームが発射され、クロスウィングの翼を吹き飛ばす。翼を失ったクロスウィングは墜落した。「自爆攻撃機か・・」クロスウィングは軍では連絡用や訓練用、民間でも郵便や軽輸送機として使用されている機体であったが、飛行アタックゾイドとしては爆装を施すことが可能で中央大陸戦争でも共和国軍がゲリラ的空襲に使用した事例もあった。「大尉殿!敵部隊が攻撃を開始しているようです。現在守備隊が応戦中ですが苦戦しているとのことです」ヴァイスから通信が入った。「おそらく敵の機体は小型かアタックゾイドが中心・・・夜間で捕捉できるのは、私達高速戦闘隊のみよ!」セイバータイガーとヘルキャット3機は、外の守備隊を援護すべく出撃していった。基地から遠く離れた小高い丘には、ステゴサウルス型中型ゾイド ゴルヘックスとヘビ型小型奇襲用ゾイド スネークスがあった。ステルスバイパーの旧大戦仕様 スネークスは野生体である中央大陸生息のヘビ型ゾイドの個体数激減のため製造中止されており、現在、共和国軍では辺境警備隊位しか装備していないような機体である。このスネークスは、背部にカタパルトを装備したプロトスネークスと呼ばれる改造機で、主に目標機や新型ミサイルのテストに用いられる機体だった。「D21は、目標に命中、D22、20が撃墜されました。」プロトスネークスにゴルヘックスからの報告が入った。「了解、D12とD14を発進させます」背部カタパルトからクロスウィングが発進する。2機のその周囲には、アタックゾイドや対ゾイド火器を装備した歩兵が多数待機していた。共和国軍は、ゲリラ勢力から鹵獲したクロスウィングの無人特攻型を廃棄予定だった試験隊仕様のプロトスネークスの射出機から発進させて基地に対する攻撃に使用することを考案した。尤も、これだけでは、効果的に敵の拠点に誘導させることが難しいためクリスタルレーダーによる強力な電子戦能力と情報収集能力を持つゴルヘックスに誘導を行わせることで命中率をカバーしていたのだった。同じ頃、前線ではゲリラ戦部隊の神出鬼没の攻撃に数と装備で遥かに上回っているはずの帝国軍が苦戦を強いられていた。小型砲台が闇夜から放たれたロケット弾を受けて爆砕した。「こいつら! 図に乗るな!!」ゲーターが自衛用のビームガトリングを闇夜に潜む敵に向けて掃射する。だが、放たれたビームの雨は残骸と岩を砕くだけだった。ゲーターの背鰭のレーダーも周囲のゾイドの残骸とジャミングで全く意味をなさなかった。「押されてるじゃない!守備隊は夜間戦闘の仕方も知らないの!」守備隊の多くは、実戦経験がほぼ皆無であり、加えて夜間での奇襲を仕掛けられたこともあって満足に応戦できていなかった。「前方よりロードスキッパー、友軍です!」前方から接近してきているロードスキッパーの姿がモニターに映された。その機体は損傷しているのか動きはぎこちなかった。そのロードスキッパーがセイバータイガーと擦れ違ったその瞬間、セイバータイガーの左前脚が振り下ろされた。ロードスキッパーは、無残にも潰され、辺りに肉片と金属片をまき散らした。「大尉!」ベーアは驚愕した。夜間行動訓練を受けた大尉が事故を起こすはずがない、この行動は明らかに故意のものだった。「見なさい、これは敵の機体よ、きっと基地内で破壊工作を行うつもりだったのね」彼女は眉一つ動かさず、無残に潰れた残骸のロードスキッパーを見下ろして言った。「・・・・」残骸をよく見ると帝国軍のマークに×がされていた。「音響センサーを確認したらこれの足音は、正規品にしてはぎこちなかった・・・それだけよ」「どうやら敵はジャミング機を展開させているようね。」彼女はセンサーを確認した。「おそらく敵は四方にジャミング機を展開させているわ。おそらく西にいる機体が本体で後の3つは補助ね。私が西の機体を叩く!みんなは他をお願い!」「了解!」鋼鉄の猛虎と豹達は、四方に散った。基地の防衛ラインを飛び出したセイバータイガーに敵部隊からの砲撃が浴びせられた。アストリッドは最小限の動きで回避すると、一気に機体を加速させた。「どうやらこのルートで正解のようね!」ゲリラ部隊のゾイドに襲い掛かった。敵も闇夜を武器に一撃離脱を仕掛ける。だが、場数を重ねた彼女と相棒にとっては昼間も同じであった。逃げようとしたアタックゾイドを跳ね飛ばし、踏み潰し、吹き飛ばしながらセイバータイガーはジャミング機のいると思われる方向に歩みを止めることなく直進する。次に彼女とセイバータイガーの進路の前に配置されたミサイル陣地から一斉にミサイルが発射された。この陣地は、ゴルヘックスの撤退の時間を稼ぐために設営されたものだった。ミサイルを回避すると彼女はトリガーを引く、目の前でミサイル陣地が2つ炎に呑み込まれた。彼女のセイバータイガーの射撃管制システムは、従来の射撃管制システムと異なり、照準をゾイド本来の本能に委ねるタイプのもので、これは、のちのジェノザウラーやライトニングサイクスといったOS搭載型ゾイドに採用されたものの元となるものであった。これは高速ゾイドや隠密ゾイドに対しての効果が疑問視されていたが、アタックゾイドや歩兵を狙うには十分だった。レーザー機銃と30o2連装AZビーム砲が唸る度、ミサイル陣地が消し飛ぶ。最後の陣地はランチャーを捨てて人員がジープで逃亡を図ったが、ビームの直撃を受けたミサイルが誘爆し砕け散った。歩兵部隊が、セイバータイガーの注意を引こうと銃撃する。彼らの自動小銃では、戦闘ゾイドの装甲には爪で引っ掻く程度のものだが、夜間では、その非力な銃火さえ対ゾイド火器のそれと見分けがつかないため、フェイクとしては効果があった。だが、彼女はそのフェイクに乗ること無く直進し続けた。歩兵部隊はなおも銃撃する。次の瞬間、すれ違いざまに放たれたビームが彼らを地面ごと蒸発させた。「やつめ!こちらの位置が分かっているというのか!?」ゴルヘックスのパイロットはフェイクに引っ掛ることなく、彼に向って直進してくるセイバータイガーに恐怖した。「退却す・・」彼が言い終わるよりも早くゴルヘックスの横にいたプロトスネークスの頭部にビームが突き刺さった。「何っ!」驚愕する彼の耳に敵機の接近警報が響いた。「来るな!来るな!」目の前に迫るセイバータイガーの姿を見た彼は、半狂乱でAZ250oビーム砲のトリガーを連打した。その攻撃を回避したセイバータイガーは、ゴルヘックスに飛びかかった。砕けたクリスタルレーダーの破片がガラス屑の様に飛び散った。ゴルヘックスの甲高い悲鳴が周囲に響き渡る。彼女のセイバータイガーは止めを刺すべく着地と同時に反転、キラーサーベルを煌めかせて突撃する。ゴルヘックスのパイロットはなんとか離脱しようと操縦桿を動かしたが、遅かった。次の瞬間キラーサーベルがゴルヘックスのボディに突き刺さった。ゴルヘックスの内部機関が誘爆し、機体は炎に包まれる。それを見たセイバータイガーの勝利の咆哮が夜の砂漠に木霊した。「セイバータイガー・・・」燃え盛るゴルヘックスの残骸を背に立つ白い獣を見上げ、生き残りの歩兵の一人は茫然と呟いた・・・・振り向いたセイバータイガーの翠玉の双眼が彼を見据えた。その眼は、彼の内面に渦巻く恐怖さえも見抜いているようだった。「わあああああ」彼は、ロケットランチャーをセイバータイガーに向けた。それより遥かに早く純白の猛虎の爪が彼を薙ぎ払う。戦闘ゾイドの装甲を引き裂く威力を持った鋼鉄の爪の前に彼のちっぽけな肉体は得物ごと引き裂かれ、飛び散った赤黒い血肉が乾いた赤砂の大地に染み込んでいった。「これで最後ね・・・」彼女は、センサーを確認した。センサー上には帝国軍を示す赤いマーカーのみが残っていた。「大尉殿!」部下から通信が入った。「そっちは無事?」「はい!全員無事です。ジャミング機のゲーター、は全機撃破しました」「わかったわ」通信を切った彼女は、コックピットを開放し、空を見た。先刻まで淡い輝きを放っていた月は、既に雲に隠れて見えなくなっていた。
翌日、太陽が昇って間もない頃に2つのゲリラ戦部隊は出撃した。「さーてお前ら!輸送部隊相手だからって気を抜くんじゃねえぞ!」「了解」カイル隊の出撃より30分早く出撃したマインツ隊は、帝国軍の補給基地の一つに攻撃を仕掛けようとしていた。マインツ隊は、数機単位の小部隊に分散して目標の補給基地へと迫っていた。途中、哨戒行動中のレドラーやサイカーチスをやり過ごす為に地中潜航や残骸に偽装するなどを繰り返した為予定よりも少し遅れていた。「カノントータス隊、砲撃準備は出来たか?」彼の乗機のステルスバイパーの周囲には、デザートイエローに塗装されたカノントータスD型が3機展開していた。「データ入力完了!いつでも行けます」「砲撃開始!」カノントータスD型3機の突撃砲が一斉に火を噴いた。その攻撃は、レッドホーンやアイアンコング等の重装甲の大型ゾイドには、効果が薄かったが、アタックゾイド中心のゲリラや盗賊の攻撃しか想定されていない補給基地に対しては、十分だった。砲弾は、基地の弾痕が付いた防壁を飛び越え、孤を描いて基地内のコンテナと蒲鉾型の倉庫に命中した。その内部で砲弾が炸裂し、爆発が起こる。「全機突撃!」爆発を確認したマインツは、トリガーを引いた。ステルスバイパーの胴体右側面に装備されたロケットランチャーから信号弾が発射された。信号弾は上空で炸裂し、赤い煙を撒き散らす。それは、攻撃開始の合図であった。ほぼ同時に補給基地の周囲に潜伏していたステルスバイパーとガイサックで構成された攻撃部隊が補給基地に突撃した。突如出現した共和国軍機を見た基地周辺の塹壕にいた帝国兵は驚愕した。彼らに反撃の隙さえ与えぬとばかりにガイサックのレーザーライフルとロングレンジガン、ステルスバイパーの40mmガトリングが火を噴いた。瞬く間に基地周辺の塹壕は死体の山と化した。同時に慌ててメインゲートからイグアンとゲーターが飛び出す。イグアンが右腕の四連装インパクトガンを向けた。「遅い!」それが火を噴くより早くマインツのステルスバイパーの40mmガトリングがイグアンの頭部に降り注いだ。頭部を破壊されたイグアンは崩れ落ちる。ゲーターもガイサックに横から襲い掛かられて撃破されていた。友軍機が撃破されるのをみた帝国兵は慌てて基地内に引き返す。数人は逃げ切れず、ステルスバイパーの40mmガトリングを受けて血煙と化した。「基地内に突撃するぞ!まずカノントータス隊が突っ込め!」その指示を受けたカノントータス3機が縦隊を組んでメインゲートに突っ込む。基地内に侵入した3機は、突撃砲と液冷式自動キャノン砲を乱射した。基地内の施設が次々と破壊され、蜂の巣のようになり、火災が起こる。帝国兵の一人が担いでいた対ゾイドミサイルを発射したが、カノントータスの装甲はそれを弾き返した。その隙にガイサックとステルスバイパーが基地内に突入し、内部の帝国兵とゾイドに襲い掛かった。ガイサックがモルガの脇腹にレーザークローを突き立て撃破する。その横では、ステルスバイパーがイグアンにその長い胴体を絡み付かせ行動不能に追い込んでいた。基地防衛が目的の為、不用意に火器の使えない帝国側に対してマインツ隊は、補給基地の破壊が目的であった為、圧倒的に有利であった。わずか数分で防衛部隊のゾイドは壊滅した。「通信させるかよ!」マインツのステルスバイパーが尾部のミサイルを発射し、通信施設を炎上させた。ゾイド部隊の全滅を確認したマインツ隊と同行していた特殊部隊は、カノントータスから飛び出し、基地の制圧を開始した。護衛の全滅によって戦意が低下していた帝国兵に特殊部隊は、容赦なく銃弾を浴びせ掛け全滅させてしまった。「あっけねえもんだぜ」作戦成功を確認したマインツは、余裕に満ちた声で言った。基地が彼らの手に落ちた頃、アストリッド隊もその補給基地に向かっていた。つい30分前、共和国軍部隊の残党を全滅させた彼らは、補給と整備を受ける為にその基地に立ち寄る必要があったのである。アストリッドの白いセイバータイガーと部下の3機のヘルキャットは、赤と黄色の砂地に足跡を刻みながら基地へ向かって疾駆していた。3機のヘルキャットは、戦闘を経験したことを示すかのように機体の何処かに損傷があった。だが、アストリッドの白いセイバータイガーには、かすり傷一つなく、まるで象牙細工の様に白く輝いていた。その姿は、見る者に畏怖を与えるものであった。「次の基地じゃ、合成品やインスタントじゃない手作りの飯が食えるといいな、ヴァイス」「ああ、合成品はもうたくさんだ。」「でも、昨日の共和国軍のハンバーグ定食は美味かったって言ってましたよね?ブルクドルフ軍曹」「流石にあれでも1週間は持たねえよ、ああ、ニクシーの飯が恋しいぜ」「3人とも私語は慎みなさい、先程でもわかったようにまだ共和国軍はいるんだから」アストリッドは、諭すような口調で3人の会話に水を差した。「「「了解!」」」会話を止めた3人は、機体の操縦に専念する。3機とも基地への自動帰投モードになっており、わざわざパイロットが操縦する必要は無かったが、奇襲に備える為、何時でも切り替え可能なようにパイロットは操縦桿を握っておくよう帝国軍は指導していた。ただアストリッドは、手動で操縦を行っていた。これは、彼女が自身の乗機である白いセイバータイガーに愛着を抱いていたことが主な理由であった。彼女の乗機のセイバータイガーは、帝国軍から支給された機体ではなく、父親が南エウロペの小国の貴族だった頃に乗機としていた旧ゼネバス軍のサーベルタイガーのゾイドコアが使用されていたのである。彼女にとってこの機体は、肉親を失った今では唯一の家族ともいうべき存在であった。
「!!」不意にアストリッドは、機体を停止させた。コックピットからの命令が、セイバータイガーの全身に即座に伝達された。白いセイバータイガーが動きを止める。少し遅れて部下の3機のヘルキャットも停止する。「どうしました?隊長」「マシントラブルですか?」不審がった部下が尋ねた。「次の補給基地は、ここからあとどれ位?」「え?たしかあと数分もすれば着くはずですよ」「じゃああの煙の出所は、そこね」セイバータイガーが機首を向ける・・・・その方向の空には、幾つもの黒い煙が上がっていた。青空に薄墨の様に揺らめくそれは、火災によるものであることは、明らかであった。「敵襲よ!」「あれは!」「自動操縦に頼り過ぎよ」部下達が自動操縦を利用して休憩をとっていた。それに対し、アストリッドは、周囲の警戒を怠らず、愛機のセイバータイガーとも精神的に同調した状態にいた為、真っ先に異変に気付いたのであった。「私が先行するわ。貴方達は、私が開けた穴に続きなさい!」「「「了解!!」」」彼女はセイバータイガーのスロットルを最大にした。彼女の白いセイバータイガーと部下のヘルキャット3機との距離が開く、1分もするかしないかの内に砂柱が3つ、セイバータイガーの針路を阻むように上がった。「!!」直後、ガイサック3機が現れる。大型ゾイドの中でも軽装甲のセイバータイガーに対しては牽制になると考えたのだろう3機のガイサックは、尾部のレーザーライフルと胴体のロングレンジガンを連射した。緑色と橙色の火線が白いセイバータイガーに迫る。セイバータイガーは、機体を小刻みに動かして回避する。彼女のセイバータイガーの白く輝く装甲には、掠り傷一つ付いていなかった。「お返しよ!」彼女はトリガーを連打した。セイバータイガーの背部AZ50mm連装ビーム砲が火を噴いた。発射されたビームは、全弾ガイサックに命中した。3機のガイサックは全て胴体のゾイドコアか頭部コックピットを撃ち抜かれて撃破されていた。ガイサック3機の残骸を一瞥すらせず、セイバータイガーは、基地へと突き進む数分後、補給基地が見えた。基地を囲むコンクリート防御壁は一部が崩れ、基地の内部からは、幾つもの黒煙が上がっていた。基地の周囲には、撃破された帝国ゾイドの残骸が転がっていた。正面ゲート付近には、歩兵隊を従えたカノントータスが番兵の様に鎮座していた。「っ!セイバータイガー!?単機だと!」正面から接近して来る敵機を確認したカノントータスのパイロットは、主兵装の背部に搭載された液冷式荷電粒子ビーム砲のトリガーを引いた。本来、この機体の兵装は、他のカノントータスと同様D型の主砲である榴弾砲であったが、守備隊に大型ゾイドがいた場合に備えて昨日の内に換装されていた。砲塔から迸った青白い光弾が美しい曲線を描くビーム兵器で有りながら、磁気誘導装置によって実弾兵器と同様に曲射可能なこの火器は、大型ゾイドであるセイバータイガーに致命傷を負わせることが可能な威力を有していた。だが、セイバータイガーは着弾直前に横に跳躍して回避する。カノントータスも次々と砲撃を撃ち込むが、それらは全て空しく土煙を上げただけだった。瞬く間にセイバータイガーは、カノントータスに肉薄する。カノントータスは、近接防御用の液冷式自動キャノン砲で弾幕を張る。だが、セイバータイガーはそれらをジャンプで回避し、カノントータスの目の前に着地した。「うぁああ」恐怖に顔を歪ませたカノントータスのパイロットは、液冷式荷電粒子ビーム砲のトリガーを引く同時にセイバータイガーが跳躍、放たれた荷電粒子ビームは地面に大穴を開け、その周囲をビームの高温でガラス化させた。そしてセイバータイガーは、カノントータスに着地、そして踏み台にして一気に跳躍した。「何!」カノントータスの液冷式荷電粒子ビーム砲は叩き折られ、機体のコンバットシステムはフリーズしていた。
白いセイバータイガーは、基地を囲むコンクリート製の灰色の外壁を飛び越えて、基地内のひび割れた地面に着地した。脚部に装着されたショックアブソーバーが効率よく着地の衝撃を逃がす。着地と同時に背中のミサイルを倉庫に向けて発射した。倉庫が爆発し、爆発の巻沿いを受けたガイサックが大破した。「なに!」突如、基地に突入した敵機に共和国兵は驚愕した。この時共和国軍は、制圧した基地の残敵掃討と施設の再利用を防ぐための破壊作業を行っており、敵機の迎撃が出来る様な状況になかった。中には、友軍機と衝突したり、味方兵を撥ねてしまうゾイドさえあった。そんな敵の事情を斟酌することなく、アストリッドと白いセイバータイガーは、基地内を白い台風の如く暴れまわった。近くのガイサックのコックピットをストライククローで叩き潰し、背中のAZ2連装30mmビーム砲でカノントータスの砲口にビームを叩き込む。直後、内部の弾薬が誘爆し、周囲の歩兵を巻き込んでカノントータスが爆散する。「こいつ!」誤射の危険も顧みず、カノントータスが榴弾砲をぶっ放した。広範囲に破片を撒き散らすこの兵器は、近距離から発射された場合、命中率は非常に高かった。いかに高機動のセイバータイガーでも・・・共和国兵はそう判断していた。だが、アストリッドは信じられない対処法をとった。セイバータイガーは、背部のビーム砲を発砲、ビームはカノントータスの榴弾に衝突した。彼女は、迫りくる榴弾を空中で撃墜することで対処したのである。榴弾は、破片を撒き散らす前に爆発し、周囲は、黒煙に包まれる。直後、鋼鉄の白虎が銀色の牙を妖しく煌めかせて煙から飛び出す。セイバータイガーのキラーサーベルがカノントータスのコックピットを切り裂いた。ガイサックがレーザーライフルを発砲、セイバータイガーは、ダッシュした。その疾走にセイバータイガーの足元にいた特殊部隊の兵士は蹴散らされた。高速移動する約80tの巨体に跳ね飛ばされた彼らは、例外なく即死していた。ガイサックの頭部を噛み砕くセイバータイガー「なんて強さだ。これが、例のエースか!?」次の瞬間、レーザーが倉庫付近の歩兵を薙ぎ払った。「増援だと!」部下のヘルキャット3機がイグアンの残骸と瓦礫が転がるメインゲートから現れるのを見た共和国兵が叫ぶ。この瞬間、質、量ともに帝国軍側の優位は確定した。「全部隊撤退!俺とカレルが時間を稼ぐ」マインツは、部下に撤退の指示を出す。「時間稼ぎする気!そうはさせない!」「させるか!」2機のステルスバイパーがセイバータイガーに左右から襲い掛かる。左右のステルスバイパーから放たれた火箭がセイバータイガーに迫る。その攻撃を回避すると、セイバータイガーは、左右それぞれに3連衝撃砲と背部の50mmビーム砲を発砲した。左の指揮官機のステルスバイパーは回避したが、右のステルスバイパーのパイロットは、それ程運がなかった。ステルスバイパーの頭部がビームの直撃を受けて消し飛んだ。直後、セイバータイガーの背後の瓦礫の影から別のステルスバイパーが現れた。ステルスバイパーの40mmガトリングの銃口が鈍く光った。銃身が回転し、敵機のコックピットに向けて銃弾が吐き出される。だが、その銃弾は空しくコンクリートの地面を抉った。後ろに眼があるかのような動きで銃撃を回避したセイバータイガーは、即座に反転、ステルスバイパーの胴体に3連衝撃砲を叩き込み沈黙させた。生き残ったのは、指揮官機のステルスバイパーのみだ。最後に残ったそのステルスバイパーは、両サイドの40mmガトリングで弾幕を張ってセイバータイガーを牽制する。その攻撃を回避しながら、一気にステルスバイパーに肉薄、セイバータイガーの2本の牙、キラーサーベルが陽光を浴びて煌めいた。「これで最後!」ステルスバイパーの首筋にキラーサーベルを突き立てると基地の外壁の方に投げ飛ばす。基地外周のコンクリート壁に叩き付けられたステルスバイパーは擱座した。「隊長!」アストリッドの白いセイバータイガーの周囲に部下のヘルキャット3機が集まる。「流石です!1機で部隊を全滅させるとは・・・」「パイロットは・・・生きているようね。」アストリッドは、オレンジ色のキャノピーの奥で蠢く影を認めると、自身のいるコックピットの解放スイッチを押した。セイバータイガーの頭部コックピットが解放され、コックピット内部とパイロットの白いパイロットスーツ姿のアストリッドの姿が露わになる。砂交じりの風が金糸の様な彼女の髪を巻き上げる。「!!」その行動に三人の部下は驚愕した。「隊長!何考えてるんです!危険ですよ!」それを見た部下の一人・・・・ベーアが叫ぶ この状況で、その行動は非常識以外の何物でもないからである。ゾイドから降りたパイロットは、歩兵と変わらない存在に過ぎず、ゾイドの火器はおろか、不発弾や敵兵の攻撃にも無防備であるからである。ベーアは戦闘終了直後に暑さに耐えかねてコックピットを解放したパイロットが潜んでいた狙撃兵に射殺されたという話を古参兵から聞いていた。「貴方達は、コックピットに居て。私が片づける」「え?」彼女が地面に降り立つと同時に叩き付けられていたステルスバイパーのキャノピーが開き、パイロットが這い出てきた。パイロット・・・・部下を失った指揮官のマインツは、頭を負傷し、額から血を流していた。そしてその手にはナイフが握られていた。「貴方が指揮官ね。降伏しなさい!」アストリッドは、マインツに銃を向けた。「・・・へっ・・帝国野郎のアイドルに会えるたぁな…部下の敵!取らせてもらうぞ!!」蛮声を張り上げてマインツは、ナイフを振り上げ、目の前の女兵士・・・アストリッドに飛び掛かる・・・・普通の女性ならば恐慌状態に陥ってもおかしくない状況である。だが、アストリッドは、躊躇無く右手に持った拳銃の引金を引いた。銃口が火を噴き、火薬による加速を受けた銃弾が彼の胸に突き刺さった。直後、マインツは糸の切れた人形の様に崩れ落ちた。倒れたマインツの死体から血が流れ落ち、地面を朱く染める。それを一瞥すらせずアストリッドは、ステルスバイパーの頭部に近づき、剥き出しのステルスバイパーのコックピットに潜り込む。コックピット内は、衝撃で幾つかの機器が破損していたが、操縦機器とメインモニターに目立った損傷はなかった。彼女は、ステルスバイパーの操縦機器を操作した。データが画面に映し出される。アストリッドは、そのデータを見た。そしてそのデータは、カイル隊の拠点であるT-1211のデータであった。アストリッドは勝利を確信し、笑みを浮かべた。だがこの時、1体のサンドスピーダとそれに乗る一人の共和国兵が戦場から離脱しつつあるということを彼女は知らなかった・・・・・・それが、彼女とその部下の運命を決定することとなることも・・・・・・
カイル・スコット中尉が率いるガイサック、ガイサック・カスタム17機、鹵獲モルガ3機で構成される共和国軍ゲリラ戦部隊は、攻撃目標である帝国軍補給部隊を求めて赤い砂漠を行軍していた。帝国軍の航空攻撃を受けた場合に備え、各機の距離には余裕が持たれていた。指揮官のカイルの乗機であるガイサック・カスタムは、部隊の中央に位置していた。「・・・・・」戦友の仇、白い狩人はこの赤い砂漠を彷徨っているのか・・・カイルは、キャノピー越しに砂塵で霞む空を見上げ、そのことを考えていた。「隊長!、前方より機影1、おそらく出力的、サイズ的にアタックゾイドです」前方索敵を担当していた部下からの通信がその思索を断ち切った。直後、部下のガイサックから転送された画像が、正面モニターに映し出された。正面モニターに映し出されたのは、砂漠を地面すれすれで飛行しながらこちらに向かって接近するサンドスピーダであった。サンドスピーダは、厳密にはゾイドではなく、マグネッサーシステムを応用したビークルの一種で、ディノチェイスやシーバトラスといったアタックゾイドと同じくらいのサイズだった。50年以上前の旧大戦期には、その他の24ゾイドと同様に特殊部隊など一部の身に配備されていたが、現在では、一般部隊にも配備され、偵察や連絡、後方攪乱等の用途で使用されていた。モニターに映るサンドスピーダの後部エンジンからは、黒煙が上がっており、今にも地面に突っ込みそうだった。幸い、自動着陸装置が作動したらしく、地面に着陸した。「大丈夫か!」カイルは、黒煙を上げるサンドスピーダに乗機を接近させると、コックピットを開放し、サンドスピーダの座席に倒れ込んでいる兵士に駆け寄った。メタルグロススーツを着用した兵士は、腹部が血液で赤く染まっていた。それは、その兵士がもはや長くないことを見る者に教えていた。「俺は、特殊工作師団所属、第46遊撃部隊のカイル・スコット中尉だ。何があった?敵襲か」「自分は…第23遊撃部隊のエリク・ラング軍曹です。」その兵士は、苦痛に顔を歪めて応答した。「マインツ達はどうなった?」カイルは、自身でも彼らの運命を予想していたが、念のため尋ねた。「隊長は…敵に射殺されました。他の戦友も敵に…白いセイバータイガーと3機のヘルキャットの前にみな戦死しました。グ…ゲフッ」内臓を損傷していたのか、兵士は、吐血した。「ヴァイスイェーガーか!!あいつもこの近くにいるのか」思わずカイルは、叫んだ。その声は、ドレクスラーにはどこか待ち望んでいる様に聞こえた。「敵の…し、指揮官…は……マ…イン…ツ隊長の機体を調べていました…」カイルとその部下の見ている前で、蚊の鳴くような細い声で報告を終え、その兵士は事切れた。「隊長、どうします?」ボブ曹長が質問する。現状、カイルを指揮官とするゲリラ戦部隊の状況は最悪と言えた。連携を取るはずの部隊が壊滅、更に補給拠点は、敵に存在を発見された可能性が濃厚・・・普通の指揮官なら降伏か撤退を決断する状況であった。「T-1211に帰還する、距離と補給のことを考えると連中よりも先回りできるはずだ。連中も、補給なしで戦うほど馬鹿ではないだろう」「連中は、こっちに気付いていますよ!」「基地を引き払って撤退しましょう!」7番機のグレンが恐慌気味に叫ぶ。「今逃げたところで、いずれ追いつかれて殲滅される・・・それよりも気配を殺して基地に来るのを待つんだ。」彼は、どちらも選択しなかった。降伏は、敵が白い狩人である以上選択の埒外に置いていた。撤退は、一瞬頭をよぎったが、2つの理由でそれを却下した。1つは補給の問題、秘匿補給拠点はT-1211だけではなかったが、他の拠点も発見されている可能性が否定できない以上撤退時に利用できなかった。物資の補給やゾイドの整備無しでこの過酷な砂漠を敵の制圧下で後退すること等、自殺行為であった。「安心しろ、俺には、策がある。」「わかりました隊長!」その言葉に納得したのかカイルの周囲にいた部下達は乗機のコックピットに戻った。そして第23遊撃部隊は、元来た場所への後退を開始した。T-1211に後退して直ぐ、第23遊撃部隊は迫りくる敵を罠にかける為の準備を始めた。この準備作業において部隊の主戦力であるサソリ型小型ゾイド ガイサックの存在は大きかった。ガイサックのレーザークローを兼ねる2対の鋏は、作業用アームとしても使用可能であったからである。ガイサック部隊は準備を終えると直ぐに赤い砂地にその身を沈めた。また鹵獲モルガ3機と同乗の特殊部隊には戦場になりうる基地周辺からの退避を命じた。これは、補給部隊の護衛機相手には対ゾイド戦力としても十分通用したが、相手が並みの連中ではないことを認識していたからであった。「全機、指示した地点で待機」「カイル隊長、本当に敵は、白いセイバータイガーの部隊は来るのでしょうか?増援部隊と共に来る可能性もあるのでは?それか空軍に爆撃させる可能性も」ドレクスラーが尋ねる。「それは、俺も考慮した。だが、可能性は低いと思う。根拠は2つだ。」「1つは、これまでの共和国軍との戦闘で、奴は、味方部隊から突出して行動し、敵部隊を撃破している。恐らく味方の到着より先に行動する程の迅速さで戦いの主導権を握ろうと考えている。2つは、帝国空軍にそんな余裕はないからだ」「本当ですか?帝国の奴らは前のレッドラスト会戦に数千機近いレドラーを展開し、制空権をこちらの空軍から奪うと同時に我々地上軍に爆撃によって打撃を与えました。」「あの時と今では状況が違う。あの時は最前線だったここも、今は後方だ。数千機の空戦ゾイド部隊にしても大半が最前線に配置されている。ゲリラ掃討に纏まった航空戦力を送れる程の余裕は今の帝国軍にはないはずだ。」「だからこそ、奴は、白い狩人は己と部下の機体のみでここに来る筈だ。」ガイサック部隊は待ち続けた。「地中センサーに反応!画像送ります!」基地周辺に埋設したセンサーは、ガイサックと保護金属皮膜で守られた有線で繋げられていた。「反応途絶」センサーの1つからの画像が途切れた。最後に送信されたのは、純白の猛虎が振り下ろす銀色に輝く爪だった。白い狩人が・・・・セイバータイガーが踏み潰して破壊したのだと、カイルは即座に理解した。地中埋設センサーは、小型化されている上、排熱処理や出来る限り金属を使用しない等の対策ががされており、ゾイドのセンサーでは、電子戦型でもない限り、発見することは困難であった。それを白いセイバータイガーとパイロットは、見つけ出し、叩き潰すことができた・・・生物としてのゾイドの能力を最大限に引き出せる技量を持っていることは明らかだった。ガイサックは、今の乗機を含め、何度も乗り換えてきた。その為、カイルと乗機のガイサック・カスタムには、そのような絆と呼べるものはない。だが、カイルは、俄か仕込みの訓練でも信頼できる部下、これまでのパイロットとしての経験…ガイサックの兵器としての特性、ガイサックの素体となったサソリ型ゾイドの全般的な性質についての知識があった。
「敵部隊、地雷原に侵入!」カイル達は、基地周辺に地雷を埋設していた。元々これらの地雷は、ガイサックによって補給ルート封鎖に用いられる予定のものであった。更にカイルは単に地雷を埋めるだけでなく、その上に周囲に転がっていたゾイドの残骸やガイサックの予備部品の一部をばら撒いた。金属反応を誤魔化す為、これらの残骸の殆どは、金属で構成されていた。その為、直射日光によって加熱され、人間が素手で触れようものなら火傷してしまう程の熱を放出していた。それらは赤い砂に潜むガイサック部隊の熱源を隠す役割も果たしていたのである。「先程のセンサーのこともあるから、皆警戒を怠らないで」浜辺の貝殻の様に無数に転がる残骸を踏まない様に注意しながら、4機の鋼鉄の肉食獣は、赤い砂漠を進んだ。「・・・」アストリッドは、愛機の白いセイバータイガーからの声≠ノ従い、進路上に転がる鉄屑を避けながら機体を進めていた。「敵はいつ仕掛けてくるのかしら・・・どこから」彼女は既に、敵が待ち伏せているということを見抜いていた。周囲にわざとらしく撒き散らされた残骸や残されたゾイドの足跡を見たことによる判断ではない・・・・・・相棒であるセイバータイガーの本能が辺りに潜む敵機を捉えていることをアストリッド自身が認識したからである。磁気嵐や野生ゾイド、辺りに金属イオンが立ち込めるこの惑星Ziの環境では、最新技術の粋を集めた索敵装置よりも原始的かつ自然の生み出したゾイド本来の野生の本能が有効に作用することは珍しくなかった。だが、多くの兵士の中でそれら愛機の声を聞き取れる者はそうはいなかった。そしてそれは、アストリッドの部下達にも当てはまっていたのであった。「敵は」特に先程敵部隊を撃破したことでベーアには、油断があった。そしてその代償は、彼の命で支払われた。数秒後、彼のヘルキャットの反応を探知した地雷が炸裂し、彼をコックピットごと吹き飛ばした。「どうやら白い奴以外は、大したことないらしいな・・」ヘルキャットの頭部が吹き飛ぶのを確認した。「ベーア!っ」「そんな!」次に攻撃を受けたのは、ガイサック部隊の方であった。彼らがセンサーと機体を繋ぐ有線を切り離し、地表に飛び出し、必殺の一撃を放つよりも数瞬早く、アストリッドと白いセイバータイガーは、背中のAZ2連装30mmビーム砲を連射した。2機のガイサックがコックピットを撃ち抜かれる。それでもガイサック部隊は攻撃を止めることはない。「まずは護衛機から!」カイルは、トリガーを引いた。彼が放ったレーザーは、ヘルキャットの頭部に突き刺さった。「ヴァイス!」「ぁ!!」レーザーをコックピットに受けたヘルキャット2番機が動かなくなる。パイロットのヴァイス曹長は骨も残らず蒸発していた。「!!」「やったぜ! 隊長!二機目撃破だ」「ゴッツ!油断するな! 全機配置転換!」間髪入れずカイルは命令を下す。ガイサックの胴体部のスモークランチャーが一斉に発射され、白煙が辺りを包み隠す。白煙がガイサック部隊を覆い隠す寸前にガイサック・カスタムが1機撃破された。スモークを貫いて、幾条もの光線がアストリッドとセイバータイガーに襲い掛かった。カイルの乗るガイサック・カスタムのレーザーライフルがセイバータイガーを掠めた。それは、白いセイバータイガーを共和国のゾイドとパイロットが初めて傷付けた瞬間であった。すぐさまセイバータイガーの反撃がガイサック部隊を襲う。白き狩人の放つ光弾が、銃弾が、次々と砂地に潜む鋼鉄のサソリを屠る。正確無比なその一撃もスモークの中では、命中率が下がるのか、いくつか命中せず、砂地に着弾したものもあった。ダニエル曹長のガイサック・カスタムが両鋏を吹き飛ばされた。「くたばれよ!」ダニエルはレーザーライフルのトリガーを引いた。直後、三連衝撃砲をうけて尾部レーザーライフルが砕け散った。だが彼の最後の一撃は、セイバータイガーの背中の30o2連装ビーム砲を吹き飛ばした。「!」セイバータイガーは、首付近のレーザー機銃を連射、ガイサックのコックピットが蜂の巣に変えられ、レーザーの雨がパイロットのダニエルの肉体を蒸散させた。「!!」カイルのガイサック・カスタムがレーザーライフルを発砲、部下のガイサック、ガイサック・カスタムもセイバータイガーを目がけ、レーザーライフルを発射した。だが、セイバータイガーは跳躍、着地点にいたガイサック・カスタムを抑え込むとコックピットを叩き潰す。「ブライアン!」更にガイサックが1機、ヘルキャットからのレーザー機銃攻撃を受けて蜂の巣にされた。アストリッドのセイバータイガーが三連衝撃砲を連射、ガイサック3機が胴体を撃ち抜かれ大破した。「接近すれば!」セイバータイガーはレーザーを掻い潜り、ガイサック・カスタム3機に飛び掛かった。ストライククローがコックピットを砕き、三連衝撃砲が胴体を撃ち抜いた。砂に潜ろうとした機体もいたが、それよりも早く白い狩人の一撃が命を刈り取っていた。瞬く間に部隊の半数が撃破されたことにカイル以下ガイサックのパイロット達は恐怖した。敵に対して、彼らは、4機中、2機を撃破し、指揮官機に損傷を与えていた。しかし白いセイバータイガーは、装甲を損傷し、武装を一部失っているが、未だに戦闘能力を保持している。レーザーの擦過痕が全身にいくつも付いた状態でも戦闘を継続するその姿は見る者に、傷だらけになっても尚獲物を追い詰める野獣を想起させた。三連衝撃砲が砂中から奇襲を図ったガイサック2機を吹き飛ばす。至近距離から攻撃を受けたその機体は、粉々に砕け散った。「ドレクスラー!もう一度煙幕を張れ!全機後退だ!」カイルは、即座に指示を出した。「了解!」それに応える様に残存のガイサック、ガイサック・カスタムが煙幕を展張、白煙が辺りを包んだ。アストリッドと白いセイバータイガーは、残存のガイサックを追撃しなかった。カールが操縦する最後のヘルキャットも同様である。だが、残存する火器での射撃は行っており、アストリッドは、3機の敵機を屠っていた。その代償として、彼女の機体の射撃兵装の弾薬は払底してしまっていた。指揮官のカイル以下残存のガイサック部隊は、岩場に後退していた。と言ってもドレクスラー機とカイル機のみであったが。仮設拠点に隣接したその奇岩の無秩序な羅列は、全高の低いガイサックの姿を隠すのに十分であった。だが、白い狩人≠フ前では、それは余りにも頼りないものであった。「我々だけになってしまいましたね。隊長。」「これからどうします・・・?」「・・・・・・・ドレクスラー、お前は、撤退しろ。白い狩人は、俺が仕留める。」「そんな!自分も戦います!」「駄目だ!お前は離脱した特殊部隊を護衛するんだ!連中が他の部隊と合流するまで・・・」「・・・わかりました。」「生き残ってくれよ。そうでないと俺と仲間たちの戦いを誰が友軍の奴らに伝えるんだ・・・」その顔には、笑みが浮かんでいた。同じ頃、アストリッドも唯一生き残った部下に同様の命令を下していた。ドレクスラーのガイサックと同じく、ヘルキャットも戦域を離脱していった。残されたカイルのガイサック・カスタムとアストリッドの白いセイバータイガーは、向かい合い対峙する。それは、古の戦士の決闘を思わせた。攻撃を先に仕掛けたのは、カイルの方だった。尾部レーザーライフルの先端が輝き、紫色の光線が、大気を引き裂き、白い狩人を射抜かんと迫る。対する白い狩人…アストリッドのセイバータイガーは、傷付き、速力を低下させていながらもそれを回避する。対するガイサック・カスタムも尾部レーザーライフルを連射する。幾条ものレーザーの輝きが白いセイバータイガーに襲い掛かった。レーザーが、セイバータイガーの左足首を撃ち抜く、だが、セイバータイガーは歩みを緩めることなく、ガイサック・カスタムに迫る。そして白い狩人は、獲物の目前に迫った。「くっ」ガイサック・カスタムは、セイバータイガーの頭部に向けて左腕のレーザークローを振るう。セイバータイガーはそれをキラーサーベルで受け止めると、そのまま左腕ごと引きちぎり、右のレーザークローを右のストライククローで叩き潰した。「■え!」セイバータイガーの左のストライククローがガイサック・カスタムの頭部コックピットに叩き付けられた。橙色のキャノピーが粉々に砕け散り、ガイサック・カスタムは動きを止めた。「はあ はあっ やった・・・これで」最後の生き残りを掃討すべく、彼女がセイバータイガーの操縦桿を握り直そうしたその時、ガイサック・カスタムの尾部レーザーライフルがセイバータイガーの口腔内に突き刺さった。「え?」「くらいやがれええ!」零距離からのレーザーが放たれる。いかに敏捷なセイバータイガーといえど回避できる道理はなかった。その一撃は白いセイバータイガーのゾイドコアを始めとする主要機関を撃ち抜いていた。セイバータイガーは声も上げず、絶命し、糸の切れた人形のごとく崩れ落ちた。「へっ ざまあみやがれ!」尾部コックピットでカイルは、獣のごとく吼えた。元々ガイサックの尾部には、ガンナー用の操縦席が存在していたが、現在は自動化が進められ、帝国側の兵士の多くもこの尾部銃座のコックピットの存在を忘れていた。「・・・・みんな!敵は取ったぞ!・・・」勝利に酔いしれる彼の眼にあるものが、映った。それは、彼が、撃破したセイバータイガーの頭部の上に立っていた。少年位の背丈のその白い影は、口元を歪め、笑っていた。「!?」それと同時に彼は、全てを理解した。次の瞬間、セイバータイガーの胴体部エネルギータンクが誘爆し、白いセイバータイガーを紅蓮の炎が包み込んだ。セイバータイガーから沸き上がった業火は、ガイサック・カスタムと2人をも飲み込み、大爆発を引き起こした。炎が晴れた後に残されていたのは、黒く焦げたフレームと幾つもの金属片だけだった。だが、それもレッドラストの激しい砂嵐と赤い砂中の微生物の作用によって速ければ、1週間で分解されるだろう。彼らの戦いは、無駄では無かった。どちらも任務を全うしたのだ。もしカイル・スコット中尉のガイサック部隊が此処でアストリッド隊を撃破していなければ、共和国軍のゲリラ戦略は破綻していたかもしれないのだ。またアストリッド隊が、特殊工作部隊を屠っていなければ、更なる被害が帝国補給部隊に齎されていたかもしれないのだから・・・・2週間後、ドレクスラーと残存兵らは、共和国軍高速戦闘隊に回収された。
――――――北エウロペ大陸 帝国軍勢力圏境界部――――――荒涼たる砂漠が一面に広がる中で、遥か昔に古代ゾイド人が建設した建造物が砂にその巨体をうずめていた。その上空をガイロス帝国軍の国章を頭部に刻んだレドラー2機が旋回していた。既に大地は彼らの旗のもとに置かれ、かつての支配者であったヘリック共和国軍は存在していない筈であったが、少数のゲリラ部隊が潜伏し、帝国軍の補給線を脅かしていた。レドラーの両翼には、地上攻撃用のガンポッドとロケット弾パックが懸架されていた。2機は、砂漠を移動する物体を発見した。それは、2足歩行恐竜型ゾイドで、輸送用のそりを曳いていた。機種は、共和国軍のバトルローバー、レドラーから見れば超小型ともいうべきサイズの機体である。「共和国の野郎だ!」「何!・・・・ったく現地の奴らじゃねえか。おどかすな」「でもバトルローバーだぜ?共和国軍の仲間かも・・・」「馬鹿!バトルローバーなんぞこの田舎大陸にゃ共和国以外のもごまんとある!そんなもんを一々報告していたら帝国空軍のパトロール部隊がパンクしちまうよ」オルニトレステス型24ゾイド バトル・ローバーは、共和国軍が支援物資として送り込んだもののみならずコピー生産や闇ルートで流入した数千機近くがエウロペ大陸には存在していた。「こちら第2偵察飛行隊、敵機の存在は確認できず、これより帰還する。」レドラー2機は、反転、基地への帰路に就いた。「少佐!連中去っていきましたよ」バトルローバーの背中に乗っていたフードを被った人物は、機載通信機に話しかけた。「わかった。ハルド曹長戻っていいぞ」フードの人物…ハルド曹長と交信していたグリーン・アロー隊指揮官 ジェフ・ラドリー少佐は言った。ブルー・ファイヤー隊とグリーン・アロー隊は、半ば地下に埋もれたこの遺跡に隠れていた。遺跡の地下の広大な空間には、両隊のゾイドと人員が隠れていた。「4日前は旧ゼネバスの砦、今日は古代遺跡かあ〜 大した小旅行だな」コマンドウルフの調整をしながらゲイルが言う。「はっは 言えているぜ、帝国の連中に感謝しないとな」隣で整備兵とトランプをしているデュランがそれに応える。帝国軍の追撃を避け、回り道に回り道を重ねながらも彼らは、なんとか少しずつ共和国軍勢力圏へと近付きつつあった。「もうすぐ共和国軍勢力圏の筈だ。空を気にせずにいられる日は近いさ」グスタフのコックピットから出てきたリックス曹長が、アルバートに近づいた。「少佐、本部隊のゾイドの状態についての報告が出来ました。これよりお伝えします。」「ご苦労だったリックス曹長、機体のコンディションは如何だ?」アルバートが尋ねる。「ステルスバイパー、ゴドス、カノントータス、コマンドウルフは全機、外装の一部損傷以外は、機体の状態に問題はありません。ゴルドスは、背びれの電子兵装の大半が性能低下を引き起こしており、索敵にも悪影響が出ています。ただ2日前にバスターキャノンを放棄したことにより、駆動系の負担が減少したので移動には問題ありません。マンモスは、左脚部装甲他一部の装甲が欠落、そして少佐のシールドライガーは、高速戦闘を行った場合、駆動系に過負荷が掛かる恐れがあります。またダブルソーダも飛行させるのは、墜落の危険性があります。後、グスタフが、駆動系の摩耗が激しい為、部品交換がシールドライガー同様に必要です。」「…再生能力でなんとかならないか?」「限度があります。少佐、それに再生できるのは、あくまで野生体の時と共通の機関ですから」戦闘機械獣ゾイドは、金属生命体ゾイドを改造したものである。その為ある程度の再生能力を有している。しかし、火器や通信装置、Eシールド等の人間によって改造された際に取り付けられた装備までは再生しないのである。長期にわたり整備を受けていない、戦闘用ゾイドの性能は著しく低下し、動く鉄屑と相違ない存在となってしまうのである。同様の存在である野良ゾイドは、確かに人間の脅威ではあった。それでも本格的な武装したゾイドとパイロットの前では無力なのである。彼らは、今補給を受ける必要があった。それはこの部隊の最高指揮官たるアルバート少佐も痛いほどわかっていることであった。しかし、敵地を隠れて進む彼らには、補給に費やす時間も物資も限られていた。人間の生存に必要な水、食料は撤退時に優先してグスタフに積み込んだこともあり、余裕があった。その反面、ゾイドの部品は、重くかさばることもあって余り積み込んでいなかったのである。「どうする?また帝国軍の補給所を襲撃するか?」「ジェフ大尉、冗談でしょう。敵も馬鹿じゃありませんよ」「たしか近くに都市があったはずです。そこで物資を補給できるかもしれません。」そう言ったのは、ゴルドスのパイロットであるエミリア中尉だった。エミリアは、机の上に地図を広げ、右手でその一点を指差した。「この都市か、確かに帝国軍に占領されている可能性はないな」ジェフが言う。「ここか。」その都市には、名称の横に、武装中立都市と記されていた。「確かにここなら補給可能の当てがあるな、俺が知っている」
――――――――――武装中立都市――――――――――――大異変後、未曾有の混乱に陥った西方大陸では、暴走ゾイドや盗賊団等の脅威に対抗するために多くの都市が軍用ゾイドを入手し、重武装化し、半ば独立国家の態を成した。ここもそんな都市のひとつだった。大異変前には、共和国のゾイド工場だったこの都市は、大異変後に避難民や傭兵、兵器商人、運び屋が多数流入したことによって兵器等の禁制品や食糧、生活必需品などの密貿易、闇取引の拠点に変貌した。そして開戦後も帝国、共和国双方が、わざわざ厄介な地域を統治することを忌避し、放置していた為、中立地帯として存在することが出来ていた。傭兵に偽装したブルー・ファイヤー隊のメンバーを乗せたジープは、中立都市に向けてエンジンの音を響かせて疾駆した。このジープは共和国で製造された物であったが、共和国の同盟勢力やそこから流出したもの、コピーは大量に存在しているため、怪しまれる危険性は少なかった。元々、帝国共和国のゾイドや兵器が混在していることが多いのが西方大陸の状況であった。やがて、砂礫の向こうに西方大陸内陸部の都市の特徴である都市を包囲する城壁が見えた。城壁は、塗装されているのか、それとも材質の問題か、かすかに黒ずんでいた。敵軍のゾイドの突入を阻止する為に作られたのであろう10m程の土色の城壁の周りには、自警団所属のマンモス、コマンドウルフ2機、カノントータス4機、モルガ3機、ゲルダー2機、ゲーター1機、ゴドス5機、バリゲーター2機が展開していた。「マンモス以外、どれも小型機揃いか・・・」自警団のゾイドを見ながらデュラン中尉は呟いた。侮るようにいう彼の目の前に一機のゾイドが現れた。そのゾイドは、背中に17門の大砲を装備し、特殊合金製の角と蹄が周囲を威圧するかの様な硬質な光を放っていた。「・・・・ ディバイソンだと!」バイソン型大型ゾイド ディバイソンは、共和国軍が第2次中央大陸戦争の時期、デスザウラーの就役により、旧ゼネバス帝国軍から首都を奪われ、不利な状況に追い込まれていた頃にデスザウラーを撃破可能な重装甲大型ゾイドとして開発された。17連突撃砲、ミサイルポッド等正面への重火器の集中配置 超高硬度チタニウム製の角と蹄、帝国ゾイドと同様の装甲キャノピーの採用による高い火力、装甲、当時の共和国軍に存在したゾイドとしては、最も正面攻撃に適した機体であった。ディバイソンは、開発目的であるデスザウラーの撃破こそ一部の例外を除き叶わなかったが、共和国軍の反撃作戦に置いて必ずその先陣を切って突撃した機体であった。大異変後は、野生体の絶滅こそ避けられたが、個体数が激減し、生産は停止されていた。そのディバイソンは、所々塗装が剥げていたものの、それ以外は、目立った損傷はなかった。恐らく、大異変後に野良化した機体を回収、修復したものだろうとアルバートは推測した。「あのディバイソンのおかげで、自治を維持できている面も大きいだろうな」「帝国軍の奴らも、余計なことに戦力を割きたくないだろうしな」運転手のジムを駐機場に残し、アルバート、デュラン、ジェフの3人は市内に入った。全員の服装は、傭兵隊も使用しているタイプの防弾服の上に砂避け用のフードというもので、これは自分達の正体を悟られない為という目的があった。周辺は帝国の勢力圏となっているこの状況で、共和国軍の軍服で行くわけにはいかなかったのである。城壁に四方を囲まれた市内は、外の土煙こそ、城壁によって防がれていたが、土埃は凄まじく、道行く人々の多くは、砂まみれになっていた。これは強い日差しと相まって温暖で穏やかな気候の中央大陸の出身である3人には、不快なことこの上なかった。「畜生なんて暑さだ。」アルバートは、額の汗を拭いつつ、そう愚痴った。建物は、大異変時代に作られたゾイド工場の周囲に建設された労働者用の集合住宅や関連施設を改装したものが大半であった。しかし、一部には、空き地に日干し煉瓦を積み重ねて作られた住居、果ては、ゾイドのフレームに布を張ったテントの様なものまであった。それらの住居群に隣接するのは、小型ゾイドの部品から石鹸やまで様々なものを売る露店だった。「ジェフ、補給の当てはあるんだろうな?」「心配するな、アルバート、前の紛争の鎮圧任務の時に知り合いになったジャンク屋がここに店を構えていると言ってた。」「…」「あれだ、見えたぞ」都市の中心部…かつてゾイド工場であった巨大な廃墟が鎮座する場所にそのジャンク屋の建物はあった。駐機場には、エレファンタス1機と作業用のアタックゾイドが鎮座し、その後ろには、鉄屑同然のスクラップが放置されていた。その隣にコンクリート製の防空壕を改装し、水色の看板を取り付けただけの店があった。「俺の読み通り、まだ営業しているみたいだな」「ああ、だが俺達が調達しないといけない物を持ってるかは分からないぜジェフ」ジェフの隣に立つデュランは皮肉を言う。「デュラン、頼むから不吉なことを言わないでくれ」「安心しろアルバート、あそこの店の店主は、旧大戦期のゾイドの部品も調達出来ると豪語してる。実際俺のコマンドウルフカスタムのパーツのいくつかも奴の商品だったんだ。」「おい、マイク、ジェフだ。いるか?」最初に店内に入ったのは、ジェフであった。残り2人も彼に続く。店内は、照明で明るく照らされており、壁や机なども比較的清潔にされていた。一見すると、どこかの町工場の事務所と錯覚しそうであった。しかし、壁には、これ見よがしに、無反動砲や自動小銃、小型ゾイドの部品等がこれ見よがしに飾られていた。「?、おう。ジェフじゃないか。まだ生きていたとは嬉しいぜ。」店の奥から現れたのは、恰幅の良い禿頭の中年男であった。機械油のシミが模様の様についた作業着を着たその男は、帽子を脱いでジェフを歓迎する素振りをみせた。「俺もうれしいぜマイク、この分だとまだジャンク屋は、廃業していないよな?」「当り前だろが、このご時世にジャンク屋稼業廃業するなんざ、宝の山から逃げ出すようなもんだ。で、何が欲しいんだ?」「シールドライガーの駆動系のパーツとグスタフの駆動系の部品が欲しい。もしくは、その代用になるやつでもいいんだ」アルバートが言う。「…シールドライガーのパーツなら最近手に入ったのがある。グスタフならいつもストックがあるぞ。で、お前らの方は、ちゃんと代金はちゃんと持っているんだろうな?」笑みを浮かべ、男は3人に尋ねる。「現金は、余り無いが、代わりに幾つか、こっちにもゾイドパーツがある。帝国軍の最新型のものもな。写真を見せる。」アルバートの隣に立っていたジェフが写真をジャンク屋の男に渡す。それら数枚の写真には、ゾイドの精密部品が写されていた。それらは、この手の職業に関わる人間ならば、高額のものであると一目でわかるものであった。「…いいだろう。帝国も共和国も、紙幣じゃ紙屑になるか分からんし、ここ最近の情勢の所為で、こっちも物々交換には慣れてるからな」「夜、この時刻に町の外の旧共和国軍基地で取引しよう。これでいいか」「いいぜ、商談成立だ。」アルバートが差し出した右手を、ジャンク屋の男は、左手で握りしめた。アルバートの右手の内には、時刻を書いた紙片があった。4人は、事を済ませると足早にこの都市を立ち去った。途中、尾行される危険性を考え、ジープは途中で放棄し、予め待機していたカーク曹長のカノントータス・レドームを使用して遺跡に帰還した。「時間だ。」アルバートは、取引の時刻が近づいたことを右腕の時計で確認すると、遺跡からも比較的距離がある旧大戦時代に築かれた共和国軍の基地の跡にグスタフで向かった。彼だけでなく、ジェフ、デュラン、バルスト、リックスと整備兵数人もこれに同行した。リックス曹長ら整備兵も同行したのは、部品がちゃんと使用に耐える物であるか確認するためである。屑鉄同然のスクラップを掴まされては目も当てられなかった。共和国軍基地跡………かつて旧大戦期、暗黒軍と呼ばれていたガイロス帝国軍の西方大陸侵攻に備えて建設されたこの基地は、大異変後は、誰も使う者はなく荒廃した状態で放置されていた。周囲には、50年以上前に生命を失ったゾイドの石化した残骸が散らばり、健在であった頃には、大型ゾイドの体当たりや重砲にも耐える堅牢さを誇った城壁は、半分以上が崩落し、基地内部の無防備な姿を見せていた。「陰気な場所だな」「確かに、幽霊でも湧いて出てきそうですね。デュラン中尉」周囲に転がる残骸を避け、グスタフは、基地跡の内部に入った。基地内部は、放棄された後も、侵入者が荒らしたのか、元の面影を殆ど残さない位破壊されていた。監視塔は、朽木の様に途中でへし折れ、ゾイドの燃料が保管されていたと思われる円筒形の燃料タンクは、破裂し、怪物の卵の様な変わり果てた姿を晒していた。かつて司令室が置かれていたと思われる中心部の巨大な廃墟にアルバート達は、グスタフを止めた。「遅かったな、」彼らのグスタフの隣には、既にジャンク屋のグスタフ・トレーラーが待機していた。グスタフ・トレーラーのコックピットの隣にジャンク屋の店主は、腕を組んで立っていた。その周囲には従業員なのか、4人の若い、というより幼い男女がいた。「じゃあ、取引を始めるか。お前ら、シルバーコングに乗りこめ!今日の仕事は、特に重要だからな」ジャンク屋のグスタフ・トレーラーが、搭載していたコンテナを開けた。シールドライガーの駆動系の部品、グスタフの駆動系の部品等がコンテナ内には搭載されていた。バルストのゴドスが、グスタフ・トレーラーにコンテナを積み込む作業を開始した。対照的に数機のアタックゾイド、シルバーコングが、両腕で器用に元々トレーラーに積まれていた物資を降ろしていった。それらの物資は、撃破した帝国ゾイドの部品や部隊の機体の予備部品の一部等であった。「これで…」一息つけた…しかし、それが戦友の■の結果であるということを考えると、尚更■なくなったな…積み込まれていく物資を眺めながら、アルバートは思った。「じゃあ、また次も」仕事を終えたジャンク屋は、足早にグスタフに乗り込む、彼の部下達もいつの間にかコンテナにシルバーコングごと乗り込んでいる。土埃を舞い上げ、グスタフ・トレーラーは、廃墟から離れていった。部品の調達を終えたアルバート達は、隠れ家となっている古代遺跡へと進路を取った。途中、彼らは、はるか上空を飛行するシンカーD型の編隊と遭遇した。20機程の機影は、地上にいる者達を威圧する様に通過していった。共和国軍の基地を空爆するには、機数が少なすぎることから、近くのゲリラの拠点を空爆する為に発進したのだろう……そうアルバートは、推測した。「こちらに気付くことは無いですよね?」不安げにジムが言った。「心配ない、共和国のグスタフが自分達の勢力圏をうろうろしているなんて奴らも想像していないだろうからな」
共和国側勢力圏付近…森林地帯と隣接する乾いた大地、数百年前は恐らく川だったのであろう曲がりくねった谷底を彼らは、駆けていた。「足を止めるなよ!」先頭を行くシールドライガーMk-Uは、上空のサイカーチスからのビームを回避しつつ、退路の先頭を切って駆ける。両中隊の保有ゾイドのうち唯一の飛行ゾイドであるダブルソーダも修理中で、グスタフのコンテナに収容されており、完全なお荷物になってしまっていた。雷雲にまぎれて共和国軍側勢力圏へと移動する途中、運悪くサイカーチスとヘルキャットで編成された帝国軍のパトロール部隊と遭遇したのだ。上空にいたサイカーチスは半数以上を撃墜した。だが、ヘルキャットは未だに多数が残存し、影のように張り付いて彼らを追撃していた。「隊長!いつまで逃げ回るんですか?」「反撃しましょうよ!」「駄目だ!」アルバートは、即座に部下からの意見具申を却下した。今の彼らは、反転して反撃することも出来なかった。もしも敵部隊は、増援部隊が来るまで時間稼ぎに徹するだろう、そうなれば、目の前の敵部隊を全滅させても、駆けつけてきた増援部隊によって包囲され、死ぬか降伏かの選択を強制されるだけであった。突如、上空を飛んでいたサイカーチス3機が爆発した。「友軍だ!」彼らの前方には、共和国軍部隊が展開していた。中央に指揮官機と思われるゴルドス、左右には、主力量産機であるコマンドウルフ、ゴドス、カノントータス、ただ1機だけだが、中型歩兵ゾイド アロザウラーの姿もあった。ヘルキャット部隊は慌てて退却を試みる。そこに共和国部隊が砲撃を浴びせた。回避できなかったヘルキャット2機が撃破された。頭部を吹き飛ばされた機体が雨でぬかるんだ大地に崩れ落ちた。増援の出現と友軍機の喪失…これ以上の追撃は無駄と判断したのか、追撃していたヘルキャット部隊もそれを見て次々と踵を返していった。「君は…」「少佐!生きていたんですね!」正面モニターに眼鏡をかけた黒髪の女性の画像が映し出された。その女性は、グレーのパイロットスーツを着用していた。「レイナ中尉か?!離脱できたのか」アルバートは、予期せぬ再会に驚いた。それは、レッドラスト会戦で共闘したアロザウラーのパイロットだった。第43基地の援護後に彼女の部隊とブルー・ファイヤー隊は逸れてしまい、双方ともに相手部隊が全滅したと思い込んでいたのだった。ようやく共和国軍本隊と合流を果たしたブルー・ファイヤー隊とグリーン・アロー隊は、休む暇すら与えられず、北エウロペ最大の山脈、オリンポス山攻略作戦の支援作戦に参加することとなった。開戦後、戦力に劣る共和国軍は、高速戦闘隊と特殊工作師団の撹乱戦法によって帝国軍の圧倒的な兵力に対して何とか前線を維持している状況にもかかわらず、オリンポス山を攻略せよという共和国軍上層部の決定に多くの前線兵士達は疑問を抱いた。オリンポス山……北エウロペ大陸に存在する山の中で最高峰を誇るこの山は、山頂に巨大な古代遺跡が存在することで知られていた。更にその麓には、ヘスペリデス湖とメルクリウス湖という巨大な湖が存在していた。この2つの湖は、地底由来の濃厚な金属イオンを含有し、日光を受けて時折、眩く光ることからそれぞれ金の湖、銀の湖と呼ばれていた。多くの西方大陸の住民の信仰の対象にもなっていたこの山は、平時ならば、西方大陸のみならず、他大陸からの観光客や研究者が多数山を登っていただろう。だが、戦時下である現在オリンポス山は、両軍によって他の西方大陸(エウロペ大陸)の多くの地域同様に戦闘に巻き込まれることとなった。西方大陸戦争が開戦すると同時に、西方大陸全域を一望できるこの地を、帝国、共和国両軍とも制圧しようとした。(また文化的影響力の強い地域を制圧することによって西方大陸の現地住民に自陣営の勝利を喧伝できる意図もあった。)オリンポス山とその2つの湖、その周辺都市を舞台に行われた戦闘は、数週間にわたる激戦の末、兵力で勝る帝国軍が勝利した。ヘリック共和国軍は、失った戦力の再編も儘ならない苦しい状況の中、北エウロペ大陸に存在する西方大陸最高峰である オリンポス山の制圧作戦を発動させた。この作戦の背景には、帝国側勢力圏に侵入したダブルソーダによる強行偵察隊がオリンポス山で発見したある施設≠フ存在があった。
―――――――――オリンポス山 近郊――――――――数週間にわたる激しい戦闘の末、ガイロス帝国によって占領されたオリンポス山が、天空を支える柱の如く高く聳え立っていた。そのオリンポス山の山頂に向かう1機の機影があった。その機影…人員輸送用に改造されたレドラーは、通常の紫色の塗装をしたレドラーとは異なり、闇に溶ける様な黒い塗装が施され、複座化された頭部は、丸みを帯びて仮面の様な形状をしていた。黒い塗装は、雲一つない青空では、逆に目立ってしまっていた。レドラーは、目の前に聳え立つオリンポス山の山頂へと向かっていた。目的地である山頂には、巨石を組み合わせて作られた神殿の様な建造物があった。遥か昔、古代ゾイド人の文明によって建設されたその遺跡は、現在の主であるガイロス帝国によって研究施設へと改装されていた。レドラーは、遺跡の隣に建設された仮設飛行場に着陸した。仮設飛行場には、既にサイカーチスが4機着陸していた。「到着しました。ユルゲンス中佐」レドラーのパイロットは、後部座席に座る人物に言った。後部座席に座っていたのは、若い軍服を着た青年であった。彼の名は、オイゲン・ユルゲンス…PK師団の将校で、中佐の階級を持っていた。「わかった。」感情の抑えられた声でそれに応えると、金の髪と鳶色の瞳の青年は、地上に降り立った。「ユルゲンス中佐殿に敬礼!」降り立った若きPK師団所属の将校を十数名の兵士達が敬礼で出迎えた。一糸乱れぬその動きは、工場で狂いなく作業する精密機械を思わせた。「…」その光景に何の感慨を抱くことなく、ユルゲンスは、無表情に敬礼を返した。その無表情は、生来の容貌の美しさと相まって職人が手間をかけて作った陶器製の人形の様であった。「ユルゲンス中佐殿!」直立不動の姿勢で滑走路に立っていた兵士の隊列を割って白衣を着た若い男が飛び出してきた。その服装を見るにこの研究施設の研究員の1人の様であった。突然のことに兵士達は、驚き、一部の物は、顔を不快そうに歪めた。「貴官は?何の用だ?」胡散臭げに顔をしかめた髭面の士官がその白衣の男に尋ねる。「ユルゲンス中佐は、私が案内させていただきます。研究施設内は、守備隊の方では司令官以外内部に入れませんから」「…」「では、案内を頼む。」「ユルゲンス中佐、計画は順調です。」仮設飛行場を離れ、ユルゲンスは、研究員の男に連れられ、研究施設が置かれている遺跡内へと歩いていた。遺跡の周囲には、イグアンが5、6機展開していた。「既に防衛部隊も配備されているようだな」ニクシー基地で見た文書にもそのことは記述されていたが、実際に見てみると巨大な遺跡を守るには不十分に思えた。「ええ、しかし今の防衛部隊には、ヘルキャットやイグアン等、小型機のみしか配備されていません。せめてアイアンコングの2、3機でもないと十分な防衛力とは言えませんよ…」「山の上にそれ程部隊を配置しても意味は無い、補給上の負担だ。」山頂に有力な部隊を配置する場合、まずそれらの部隊の受け入れ先となる施設の建設という困難な作業が必要な上、基地の設営後も山に地上から補給物資を陸路で輸送するという更に困難な作業があった。(帝国軍の飛行輸送艦ゾイド ホエールキングやホエールカイザーを用いれば可能かもしれないが、現在多くがニクス大陸〜西方大陸間の輸送任務に従事しており、容易に割けるものではなかった。)かつての大異変前のゼネバス帝国とヘリック共和国の戦争があれほど長引いたのも、大異変以前の中央大陸を東西に二分した大山脈中央山脈が両国の間を壁の様に遮っていたからであった。また、オリンポス山の麓に複数存在する基地だけで十分で、仮に共和国軍がオリンポス山へと進軍しても途中で阻止できると帝国側は判断していたのである。「…」遺跡は、まるで地球の伝説の巨人族の住居かと見まごうばかりに巨大で、石柱や壁には、写実的な壁画や幾何学的な装飾が施され、帝国共和国が建国される遥か古代に西方大陸に存在していた古代ゾイド人の文明の栄華が感じられた。またこのような巨大な遺跡を西方大陸最大の山であるオリンポス山の山頂に建設することができた彼らの技術の高度さも示していた。そして遺跡の中央部には、ゴジュラスが丸ごと入るのではないかと思われる程の巨大なシリンダー状の施設が建設されていた。「あれが、例の施設か。」資料で見たよりも大きく見えるな、ユルゲンスは、そう思ったが、それを言葉にすることは無かった。「はい、ご覧になられますか?」「まず先にデータが見たいな」「宿舎にデータがありますので、宿舎にご案内します。」研究員の男は、ユルゲンスを宿舎の部屋の一つに案内した。研究施設の一部を兼ねるその宿舎は、仮設のもので、巨大な遺跡と比較すると子供の玩具の家の様であった。「どうぞ、中佐殿」室内は、金属製の机とパイプ椅子がいくつか置かれているだけで、装飾は殆ど無く、無機質な印象を来訪者に与えていた。その右側の壁にはモニターが填め込まれていた。「手短に頼む」パイプ椅子に腰かけるとユルゲンスは、研究員に言った。「これが、本土より空輸された奴≠フコアです。」白衣の男がそういうと同時に、モニターが光を放ち、映像が映し出された。モニターには、赤みがかった液体で満たされた水槽の映像が映し出されていた。水槽…正確にはゾイドの中枢部であるゾイドコアを保管、培養する為の培養漕には、ゾイドの心臓部であるゾイドコアが液体の中に浮かんでいた。それは、現在現存するゾイドの大半よりも大きく、眩い輝きを放っていた。「素晴らしいな…経過は?」「ご覧ください」正面モニターの映像が切り替わる。次に映し出されたのは、幾つかの数値で、先程の培養漕に入っていたゾイドコアについての物であった。「もう書類を読んでいらっしゃると思いますが、驚くべき成果です。メインフレームは、完全に再生しています。装甲は、1週間待てば再生が完了、さらに後2週間で、実戦投入が可能です。とても数十年間もの間地下に整備もされずに放置されていた機体と同じとは考えられませんよ」「実物を見たい、出来るな?」モニターに映る映像が消えると同時に彼は、有無を言わさぬ強い口調で言った。PK師団所属である自分に逆らうこと等出来ないと知っているからこその言えることであった。「はい、今から私が案内します。中佐殿」それを言われると解っていたのか、対する研究員も即座に返答する。2人は、部屋を後にした。―――――――――――――――――――研究棟 中枢部―――――――――――――遺跡の中心部に建設されたシリンダー状の施設は、帝国軍がこのオリンポス山頂の遺跡に建設した基地の中心部だった。施設内に入るには、カードキーと指紋、網膜、声紋による認証が必要であった。「ゲオルク・フーバー大尉待遇だ。」研究員の男は、シリンダーの真下にある入口の扉に立つとカードキーを使い、次に生体認証をクリアした。「私の後ろに付いてきてください」「わかった」ユルゲンスもその後に続く…内部は、獣のうなり声を思わせるモーター音が響いていた。「これは…予想以上だ……」目の前に広がる光景を見たユルゲンスは、思わずつぶやいていた。シリンダーの正体、それは、ゴジュラスが丸ごと入る程の巨大な培養漕であった。培養漕は、本来ゾイドの養殖に使用されるものであるが、この規模のものは、一部の例外を除くと殆ど無かった。強化ガラスの向こう側の、培養漕の中で、黒い巨大なゾイドのボディが浮かんでいた。その大きさは、共和国軍の最強ゾイド ゴジュラスを上回る大きさであった。その黒い巨体の胸部にある剥き出しのゾイドコアは、不気味に輝いていた。「このゾイドが完成すれば、共和国軍等すぐに蹴散らせるでしょう。」「あの壁画は?」ユルゲンスは、培養漕の背後にある壁画を指差した。その壁画は、背後の壁全体に及んでいた。「あれは、遺跡が発見された頃から壁に描かれていたもので、ここを建設した古代ゾイド人が作ったらしいです。基地司令官が破壊するには惜しいということでそのままにしているんですよ」「そうか…」ユルゲンスには、それがこれから起こることの予型の様に見えた。壁画に描かれていたのは、赤と黒で彩られた直立2足歩行型の恐竜型ゾイドの姿であった。その壁画の黒い恐竜型は、立ち上る黒煙と燃え盛る炎を背後に天に向かって吠えていた。古代の超技術によって滅びたはずの破滅の魔獣が蘇ろうとしていた………
―――――――オリンポス山近郊 共和国軍前線基地―――――――「第3格納庫のゾイドの整備は終わったか?」「独立第2高速戦闘中隊所属機は、3番ゲートに急げ」「第65重砲大隊、出撃準備完了」「第23輸送隊出発準備完了!」「第5飛行隊発進する!」現在、オリンポス山に最も近いこの共和国軍基地では、オリンポス山攻略部隊の出撃準備が進められていたが、それと同時に撤退準備が進められていた。その為基地内はそれらの準備に取り掛かる兵士達によって喧騒に包まれていたのであった。敵地に孤立しつつも、戦力の過半を保持して友軍と合流に成功したブルー・ファイヤー隊とグリーン・アロー隊は、奇跡を起こしたとして不利な戦況の中苦闘を続ける共和国軍兵士達を勇気付けた。それは、数万機単位のゾイドが激突する大会戦の勝利や敵機を1機のみで数十機破壊したエースパイロットの話等に比べれば遥かに細やかなものであったが。本来なら彼らには、後方での休暇が与えられるはずであり、一部の上層部の意見では本国帰還も検討されたが、前線の戦力不足、戦局を左右しかねない大作戦が準備されている今前線から引き揚げさせるのは、戦力的に問題があるとして彼らは次の作戦に備え、前線に留め置かれた。また彼らへの償いとでも言うかのように、作戦後の勲章の授与と全員の階級の昇進が予定されていた。戦死するかもわからない彼らにとってそれがどれほどの意味を持つものなのかは、前線基地にいる彼ら自身にしか分からないことであった。―――――共和国軍基地 第3格納庫――――次の作戦に向けてゾイド部隊の発進準備を整えている整備兵達と機械の喧騒に包まれた格納庫にブルー・ファイヤー隊指揮官 アルバート少佐はいた。彼の視線の先には、彼の乗機であるシールドライガーMkUの姿があった。他のブルー・ファイヤー隊、グリーン・アロー隊の機体と同様にレッドラスト会戦以降まともな整備を受けることが出来なかった為、他の部隊の機体以上に整備に時間と手間が掛けられていた。「全く自分用に改造するのも考え物だな…」グリーン・アロー隊の指揮官であるジェフ大尉のコマンドウルフ改は、高性能と引き換えに専用パーツが多い為、整備に手間がかかるのである。その整備兵の手伝いも兼ねてジェフはいたのであった。ジェフ自身も先程まで整備兵とともに愛機の整備に参加していた。「なら通常型にすればよろしいではないですか」アルバートとジェフの隣には、エミリア中尉が立っていた。「…それじゃ性能が下がるからな」「大尉殿は、機体改造が趣味みたいなもんですからね。デュラン中尉から聞きましたよ…」そう言ったのは、3人の後ろにいたゲイル少尉だった。「ゲイル、どうしたんだ?」背後からの声にアルバートは振り向いて言った。「いえ、暇なんで愛機がどうなってるか見に来たんですよ」通常、用もないのに格納庫に入ることはパイロットでも禁止されていたが、機体の状態確認といった目的であれば、格納庫に入ることは問題なかったのである。「格納庫は、暑くて嫌なんじゃなかったんですか?ゲイル少尉」エミリア中尉が尋ねる。「宿舎じゃろくに暇つぶしも出来ませんからね。この状況じゃ、ジャックの奴と新兵なんて部屋でトランプゲームやってるぐらいですよ」皮肉げにゲイルは言った。この基地に存在していたレクリエーション施設は、1週間前に全て閉鎖されていた。それらの施設で働いていた人員は、基地の放棄が決められた段階で、帰りの補給部隊で既に後方に帰還していた。ちなみにオリンポス山攻略部隊は、作戦終了後は、この基地に帰還せず別ルートで共和国側勢力圏に帰還する予定であった。「しかし、高速型が多いですね。」「ああ、高速隊は、この戦況で一番戦果を挙げてるからな」「あれは、山岳用の…やはりオリンポス山にいくのか」格納庫内には、通常型のコマンドウルフ以外にも、コマンドウルフにアタックユニットと呼ばれる強化装備を施したコマンドウルフAUや山岳地帯仕様に改造されたコマンドウルフ、クライマーウルフ等の改造機の姿もあった。「コマンドウルフか」「コマンドウルフといい、シールドライガーといい、高速系が多いな」「コマンドウルフNEWまで…上層部は、生産中止になった機体まで投入するのか…」ゲイルは、第4格納庫から現れた別のコマンドウルフ部隊を見て言った。コマンドウルフNEWは、旧大戦の頃に精鋭機動部隊mkU部隊の専用機として開発されたコマンドウルフの改良型である。外見上はカラーリング以外コマンドウルフと変わらないものの内部機関や操縦系の改良等によって通常のコマンドウルフよりも強化されていた。第2次中央大陸戦争期には、旧ゼネバス帝国軍側のMkU部隊に対抗する為に結成されたMkU部隊の所属機として戦果を挙げ、次の、当時暗黒帝国と呼ばれていたガイロス帝国との戦争 第1次大陸間戦争時には、高速戦闘隊の数的主力としてキングライガーやハウンドソルジャーを補佐した。ちなみにコマンドウルフNEWと同様に旧大戦で、共和国軍MkU部隊に配備されていたことで知られているシールドライガーmkUと現在共和国軍に存在しているシールドライガーDCSは、同一の機種と思われているが、実際はかなり性能面では違いがある。シールドライガーmkUがビームキャノン砲の追加装備がされているだけでなく、内部機関の調整、強化も行われているのに対し、シールドライガーDCSはビームキャノン砲の追加装備のみで、機体その物にはそれ程手を加えられていないのであった。これは、大異変後の軍備再建の過程でシールドライガー自体の性能の改良もあり、かつての様に機体その物を弄る必要はないと判断されたからである。ちなみにアルバートの機体は、旧大戦後の僅かな間に生産されていたシールドライガーmkUである。―――――――――――共和国軍前線基地―――――――――翌日、作戦に参加する部隊のゾイドが次々と格納庫から出撃していった。飛行場からも航空支援のプテラス隊、ダブルソーダ隊が飛び立っていく。「全機出撃!」指揮官機のシールドライガーMkU、コマンドウルフ改を先頭にブルー・ファイヤー隊、グリーン・アロー隊は、出撃していった。部下の機体は、いずれもコマンドウルフ系か、ダブルソーダであった。それ以外の機体のパイロットは、別部隊に配置換えされるか、コマンドウルフに乗り換えている。「皆無事にいてくれよ…」別部隊に配属された部下達のことを思った。また、撤退途中に合流したヴァシリーら歩兵部隊は、原隊に復帰し、別の戦線へと配属されている。任務終了後、彼らが再び両部隊に戻ってくる保証は無かった。ブルー・ファイヤー隊も、ジェフが指揮官を務めるグリーン・アロー隊も共に、現在の主流である共和国軍の部隊編成の法則からは離れた編成であった。これはこれらの部隊が、西方大陸における反共和国軍勢力の掃討を主目的として編成されていたからで、高速戦闘隊が運用するコマンドウルフや重砲部隊のゴルドス、カノントータス、特殊工作師団のステルスバイパー等、様々な機種が部隊に組み込まれているのは、その為だった。対帝国戦争が開戦した今、この様な編成の部隊が存在出来るかは、怪しいものがあった。同じ頃、オリンポス山攻略作戦の中核となる高速戦闘隊 独立第2高速戦闘大隊も基地より発進していた。高速戦闘隊の中でも有数の精鋭部隊であるこの部隊は、山頂に存在する帝国軍が建設した…公式には用途不明であるとされている遺跡を改築した施設に対する攻撃が目的であった。指揮官を務めるのは、先頭のシールドライガーのパイロットでもあるエル・ジー・ハルフォード中佐であった。彼のミドルネームジー≠ヘ、ヘリック共和国で、風族に次ぐ影響力と人口を有する民族 海族の王族を表す姓であり、彼の祖父もウルトラザウルスの艦長(海軍、陸軍を問わずウルトラザウルスのメインパイロットは、便宜上このように呼称される。)で、旧ゼネバス帝国軍 当時暗黒軍と呼ばれたガイロス帝国軍と戦った軍人だった。その為、彼の親族も知人の大半も軍人の道を選ぶなら一族の多くの者がと同様に共和国海軍に志願すると考えていた。しかし、ハルフォードは、その大方の予想を裏切って陸軍高速戦闘隊に入隊したのであった。彼のこの判断には、大異変でかつての主力艦だったウルトラザウルスが殆ど失われ、小型ゾイドであるバリゲーター主体である現在の共和国海軍で出世しても意味が余り感じられないということもあったが、それ以上に子供の頃故郷で経験したある体験が理由であった。当時少年だったハルフォードは、故郷の共和国の基地にいた兵士の1人と仲良くなり、ある時、コマンドウルフに乗せてもらったことがあったのである。あの高速ゾイド独特の大地に居ながら、風と一体になったかの様な感覚を味わった後で、他のゾイドに乗る気は無かったのである。今の彼の乗機は、シールドライガー…高速戦闘隊の主力機で、多くのゾイドが大異変で生産中止となった今ではゴジュラスと並ぶヘリック共和国軍を象徴する機体でもあった。「オリンポス山の施設…司令官の話が本当ならば、絶対に連中の計画を止めなければならんな」それぞれの兵士達の想い等、斟酌することなく容赦なく時は過ぎていった。