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ゾイド系投稿小説掲示板

自らの手で暴れまくるゾイド達を書いてみましょう。

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[326] 惑星大異変 城元太 - 2012/02/07(火) 21:24 -

 町は歓喜に包まれていた。
 その日の夜半に届いた報せが、長年に亘る戦いの終わりを告げた。『帝国首都陥落、大陸全土を掌握、皇帝ゼネバスはニカイドス島へ』。共和国軍は、マッドサンダーを主力とした圧倒的な兵力で帝国軍を制圧し、敵司令部及び王宮を占領。孤立した部隊も次々と投降し、中央大陸全土に稲妻をあしらった共和国旗が誇らしく翻ったのだ。
 待ち焦がれていた平和の到来に民衆も兵士も喜びを爆発させ、人々が集まる場所全てに無数の饗宴が開かれた。ある者は文字通り浴びるように酒をあおり、ある者は遠く離れた愛する人の写真を見つめ感涙し、そして多くの者が、共和国とその指導者である大統領の名前を共に讃え、叫んでいた。
 灯火管制されていた街灯りも一斉に点り、人々は光の渦の中勝利に酔い痴れていた。
「ながれ星だ」
 夜空を見上げた一人が呟いた。街灯りに呑まれ、微かな点にしか見えなかった星空に、突然明るい流星が出現したのだ。
 流星は、最初エメラルドグリーンの眩い輝きを放ちながら次第に色を変え、やがてオレンジ色の輝きとなり、最後には一条の光の筋を残し流れ去って行った。
 一つではない。二つ、三つ。幾つもの流星の光条が、夜空を走った。人々は、あたかも共和国の勝利を天空が讃えるかのような壮大なページェントに歓喜し、美しい輝きに魅せられた。流星は戦いで死んだ魂に見えた者もいただろう。平和への願いを唱えた者もいただろう。それぞれの想いを負いながら、しかし流星は無関心に真空の宇宙から飛来していた。

 流星の数は、日を追うごとに増えていった。
共和国国立天文台では、ゾイド星系の外周にあるカイパーベルトの重力変化により、太陽に引き寄せられる短い周期の彗星群が増えたのが原因だとしていた。彗星は太陽風によって破砕され、氷塊となり流星群となって降り注いでいる。鮮やかな色彩を放つのは、大気で燃え尽きる時に氷塊に含まれる物質がプラズマ化し、大気中の窒素イオンや酸素イオンと反応してオーロラと同様の発光をするためだと説明していた。
 初め、共和国勝利の祝福と想像していた人々も、やがては数週間降り注ぐそれを不吉な前兆と捉える者も現れた。共和国民衆にとって不幸だったのは、その根拠のない予言と新たな脅威が重なってしまったことだった。
 中央大陸戦争中その動向が不安視されていたガイロス帝国の参戦は、漸く訪れた束の間の平和を打ち砕いた。流星を不吉な前兆と予言した狂信者達は自らの予言の正しさを唱え、そして流星が降り続ける限り更なる厄災が必ず起こることを宣言した。
 不気味な流言は不安な人々の心に付込んでくる。最初無責任な妄言など信じていなかった人々も、新たな敵の出現に恐れ、あたかも厄災が必ず起こるかのように将来を不安視し、この世の終わりが来るのではないかと話す者もいた。
 現実は、幻想を打ち砕いて回り出す。ディオハルコンで彩られた新型暗黒ゾイド群は、第一次上陸部隊を壊滅させ、悲劇の予言など空々しいほどの打撃を共和国に与えた。ゼネバスとの戦闘に生き延びた者も、遺骨さえ戻らぬ海の彼方に屍を晒した。悲しみを超えた更なる憎しみの連鎖が、共和国全土に広がった。「暗黒帝国を倒せ、世界の平和を取り戻せ」と。新型ゾイドを携えた第二次上陸部隊が派遣されるのはその直後であった。
 もう誰も、星空に目を向ける者などいなかった。向けているのは目の前にいる憎しむべき敵だけであった。それでも流星は降り続けていた。
 
 どんな場合も例外はいる。終戦の喜びとも戦争の継続とも、あらゆる意味で距離を置いた首都郊外の天体観測所で、星空を見つめ続ける者がいた。気象学研究員国立天文台副所長パブロ=ディエゴは、日に日に増加する彗星群の原因を探るため、カイパーベルトを含む系外惑星系まで分析できる電波望遠鏡を流星の飛来する方向に向けていた。
 彼の担当は太陽観測である。しかし、太陽活動の変化と流星の増加との関係に疑問を抱き、彼が独自に収集した太陽活動のデータと突き合わせて流星観測を継続していたのだった。
「また焼付いたか」
 一人落胆の溜息をつく。定点観測の為にファインダーを解放したままの撮影画面に写るのは、一面真っ白な画像のみ。撮影方向を流星が通過したからだ。流星の輝きは、時として月明かりを超える。ゾイド星系外周のカイパーベルトを観測するには明る過ぎ、観測データが跳んでしまうのだ。それでも彼は、根強くファインダーを天空に向けた。
 確証はない。ただ、何かの秩序が崩れつつある。その何かを追求するのが科学者の義務であり、彼はその漠然とした何かを探ろうとしていた。しかし、暗中模索と自問自答が続き、未だに方向性が見えてこない。
 やがて地平線に朝日が昇り、闇は消えていく。観測活動を終え、彼は仮眠に入った。

 浅い眠りの後、パブロは彼の勤務する天文台兼気象学研究所に遅れることなく出勤した。ほぼ徹夜に近い観測であったため、瞬きをするたび眼底から湧き上がるような痛みが眼球に走る。鏡を見るまでもなく、自分の眼が充血しているのがわかった。
 彼は流星を常に「彗星の破片」と呼んでいた。
パブロは、本来進化生物学の研究に携わるのが希望であったのだが、戦争が長期化し、ゾイド本来の進化速度を通り越す、戦闘能力に特化した人為的に開発されたゾイドが席巻したため、籍の置き場所がなく止む無く太陽観測研究を行っていたのだ。彼の持論は、彗星の飛来によってゾイドを代表とする金属生命体の進化が促進されてきたというものである。従って、今回の流星群の飛来が、新たな巨大彗星の出現と、この星にとっての大きな生物進化上の節目になるのではないかと予想していた。機会を見ては、彼は周囲に持論を展開していた。だが、天文学気象学が専門の職員には関心が薄く、正面切って否定する者もいないが、支持する者も少なかった。だからこそ、今回の彗星の飛来は、彼が予てよりの構想を展開する契機と考えていた。自然、身体に無理をさせても、データの蓄積に奔走しているのであった。

 出勤した国立天文台では、いつものように報道記者が早朝から待機している。暗黒帝国軍との戦闘が一層激しさを増し、流星騒動など遠く話題から追いやられているのだが、ゴシップを含めた記事を求めて足繁く通ってくる者達がいる。その低俗な質問に、パブロを含め研究員達は辟易していた。彼らは世界を滅ぼしたいかのように、繰り返し宇宙で起こる激変の話題を求めてくるのだ。
 通常であれば、研究所の所長であるホセ=フランセスカが彼らの対応をするはずであったが、彼はゼネバス帝国が陥落したことにより、中央山脈最高峰に建築される新たな電波天文台の設計指導の為に不在となり、代わってパブロが報道の対応に追われることとなっていたのだ。
「副所長、おはようございます」
 近寄ってくる記者の最初の挨拶は無視をする。パブロはあからさまに拒絶の姿勢を示していた。
「ここ数週間の流星雨の状況について、コメントをいただけますか」
「現在原因を究明中です」
 足を速めて廊下を歩くパブロに、記者は執拗に食い下がる。
「最近大雨や気温の低下など、異常気象が続いていますが、流星雨との関係はないのでしょうか」
「数日雨が降ったり、少し温度が低かった程度で、異常という方が異常ではないのですか」
 返答した段階で、彼は相手のペースに巻き込まれてしまったことに気付いたが、最早手遅れだった。
「戦闘が継続される中、暗黒大陸から異常なエネルギーが働いて、中央大陸北方沿岸で間断ない地震が続いていると伝えられています。これは暗黒軍の仕業でしょうか、それとも流星と何か関わりがあると考えますか」
「それを天文台に聞くこと自体が、既に関わりがないでしょう」
 パブロは声を荒げた。
「いいですか、現在彗星の破片が増加しているのは、太陽活動の低下に原因があるのです。私の計測では、太陽黒点の減少が顕著で、通常より極小期が長期化しているのです。つまり太陽活動低下に伴う太陽風の発生が減少しているのですよ。彗星の破片が降るのも、本来であればカイパーベルト付近に浮遊して、内惑星軌道まで飛来することの無かった無数の破片が、太陽風の低下で直接に飛来しているのです。
 このままでは、さらに巨大な彗星群が内惑星軌道まで飛来することも警戒されるのです。異常気象など、気にしている場合ではないほどの事態も想定するべきです、よろしいですか」
 パブロは早口でまくしたてた。その勢いに呑まれた記者は、小さくありがとうございますとだけ言うと、直ぐに出口へと向かっていった。
 昨日の観測の疲れから、言葉を選ばずに返答したパブロを責めることはできない。しかし、彼は自分の置かれた立場と、自分の言葉がどこまで理解されているかを考慮する事を忘れていた。人はその人間の理解できる部分だけを往々にして記憶する。記者の記憶に残ったのは、パブロの発言の最後の部分のみであった。この発言が、彼の立場を苦しくさせた。

『巨大彗星襲来の危険性を天文台が示唆』
 翌日の大衆紙の記事に扇動的な見出しが躍った。未知の暗黒軍との戦闘で不安になっていた人々の感情に、彗星の衝突を仄めかすこの記事は更に不安をよび、中央大陸全土を一種の恐慌状態に陥れた。ある者は家財を整理しシェルターを購入し、ある者は店頭の食料を大量に買い占め、そしてある者は再び無責任な世界崩壊の予言を唱え、そして多くの者が、家族の離散を嫌って兵士として戦場に赴くことを拒否した。共和国軍は、戦闘継続に支障を来すまでの事態に陥ろうとしていた。
 
 彗星衝突の話題は、遠く中央山脈の天文台建築現場にいたホセの元にも届いた。自分の後任としては申し分ないと思って任せていたパブロが、軽率な発言をしたことは明白である。ホセは全ての工程検査を停止して、急遽共和国首都へと急いだ。
 大統領府に到着したホセは、緊急会見を開くことを内務省に提言し、内務省側もそれをすぐに受け入れた。戦争遂行への支障は、是が非でも回避しなければならなかったからだ。 同時に各報道機関に記者会見の連絡を一斉配信し、彗星衝突の可能性の説明会見を開くこととなった。
 ホセが中央山脈から大統領府に到着したのがその日の朝方で、会見は夕刻に設定された。その間、やむを得ないことだが国立天文台のパブロを始めとする職員たちは、頭越しに素通りされた形となっていた。
 数十の報道機関が集まった官邸内の会見場で、まず真っ先に質問が挙げられたのが巨大彗星の衝突の危険性であった。
「可能性はあります」
 高名な科学者であるホセの発言に会場はどよめいた。喧騒が収まるのを待って、しかし彼が続けた言葉は冷静であった。
「10のマイナス28乗パーセント、つまり10億分の10億分の10億分の1の確率です。これは、ポケットからウルトラザウルスを取り出す以上に困難な事だと思います」
 会場は、僅かな沈黙の後に安堵の失笑に包まれた。ホセは表情を変えず、話を続けた。
「天文台側での説明不足もあったのでしょう。しかし、現実に考えてみればお分かりかと思います。宇宙がどれ程広大であるか。みなさんはここから小石を投げて、暗黒帝国宮殿に命中させることができますか。それが出来たとしても、彗星に衝突することは遥かに難しいのです。
 それに流星がこの広い中央大陸に落下したという知らせを聞いた方がおいでですか。流星とは、氷の塊です。その殆どが、大気の摩擦熱で燃え尽きているのは、聡明な皆様は御存知でしょう。落下したとして、海と陸地と、どちらが広いかもお分かりでしょう。陸に落ちたとして、都市部の面積と人の住まない砂漠や森林の面積との比率を合わせた場合、先程の確率にさらにゼロが四つほど付きます。
 レッドラストのど真ん中に落下した隕石がモルガに命中したところで、何の被害と呼べるでしょうか」
 既に会見場は、和やかな雰囲気に包まれていた。天文学の権威と呼ばれるホセは、帝国でも名の知られた科学者である。中央山脈天文台の建築も、帝国側研究者の協力も数多く受けていた。その彼の筋道の立った説明は、会場に集まった報道機関を納得させるには充分なものであった。

 翌日の記事の全面には、政府の指導も加わって、大きく表示された。
『彗星衝突の可能性は限りなくゼロに近い』
『天文学の権威、ホセ=フランセスカ教授語る、共和国の平和』
『戦闘に混乱をきたす情報に惑わされないように』

 一時不安に支配されていた世論は、この会見で一気に安定した。
 しかし、自らの発言を全面否定される形で頭ごなしに会見を開かれたパブロにとって、この一連の動きはまさに屈辱的であった。それだけではなく、天文所に戻ったホセは、パブロの軽率な言動を激しく叱責した。大衆にとって研究者は権威であり、それだけ言葉は慎重に選ばねばならない。その部分を忘れての発言は慎むことを、執拗に繰り返された。
 パブロは、責任を感じていたが、同時に自分の観測の正しさにも自信をもっていた。間違いなく、彗星は内惑星軌道まで直接到達している、可能性は10のマイナス30乗などではなく、もっとはるかに高い可能性で。
 だが、一連の騒動を知って、反論することは出来なかった。慌ただしく中央山脈建築現場に戻って行ったホセを見送り、パブロはただ一人、流星の観測を継続していた。

[327] 惑星大異変 城元太 - 2012/02/08(水) 23:00 -

 共和国天文台による流星雨の観測データがある。流星群は一般に帝国首都陥落の2051年より発生したと思われがちだが、実際には共和国首都奪還が行われたその3年前より確認されていた。帝国占領中は観測施設が使用できなかったため、2049年以前のデータはパブロを代表とする個人研究員の目視による記録である。なお、流星群の出現期間は首都天文台地区を基準にした前後一週間であり、表示されている出現数は最大発生時のもの。/hは1時間あたりの流星の大凡の発生数、@〜のナンバーは、その発生期間が何回あったかを示す。

2048年@20個/h A不明(雲量多く観測困難。数個を目視)B30個/h
2049年@不明(月相が明るいため観測困難。数個を目視)A20個/h
2050年@20個/h A30個/h B30個/h
2051年@40個/h A50個/h B250個/h C100個/h D80個/h E210個/h
2052年@不明(雲量多く観測不可能)A110個/h B90個/h
2053年@240個/h A310個/h B20個/h ※以降のデータは消失
2054年@不明(データ消失)A100個/h(目視による観測)B40個/h C230個/h
2055年@220個/h A350個/h B40個/h C270個/h D不明 E不明(DEは気象状況の著しい変化により観測中止)
2056年@580個/h ※以降、惑星大異変により観測不可能。
 念のため、この間の主な戦闘記録を併記しておく。
2051年 ゼネバス首都陥落、暗黒軍介入
2052年 暗黒大陸第二次上陸作戦
2053年 ギルベイターによる首都空襲
2054年 オルディオス、ガンギャラド戦線投入
2055年 キングゴジュラス投入
2056年 惑星大異変により、第一次大陸間戦争終結

 暗黒軍との戦闘継続中のためと、ギルベイダーの空襲による観測機器破壊などにより、年間を通して正確に観測できたのは50年と51年のみである。ただし、不完全な観測データであっても、流星群の発生頻度とその1時間当たりの出現数が増加していく様子は見てとれる。特に54年以降、急激に発生率が増加しているが、当時オルディオスやガンギャラドなどの新型ゾイドの登場が注目され、大衆の間では既に見慣れてしまった流星に関心を抱く者は少なかった。また政府側での情報機関への介入、つまり報道管制を行っていたとも推測(公式では否定)されるため、話題に上がらなかったのかもしれない。
 宇宙からの警告ともとれる流星群の出現に対し、充分な技術力を持ちながらその対策に当たらなかった共和国・ガイロス帝国両国の政府の姿勢は批判されてもやむを得ないだろう。惑星大異変は、一般に宇宙からの回避できない天災と語られているが、既にグローバリーV世来訪の段階で宇宙への到達技術を所有していた両国政府に言い逃れする術は無いのではないか。国家が滅びるのを防ぐための戦争と、惑星が滅びるのを防ぐための対策との何れかを優先するとすれば、自ずと結論は決まる。だが、両国とも国の威信という目先にぶら下がった餌を追うばかりに、正面からやってくる脅威に気付くのが遅すぎたと言えよう。
 付け加えるならば、旧ゼネバス帝国が開発をしていたアイアンコング改造のスペースコングの量産化が可能であれば、彗星衝突の全面回避は不可能であっても、衛星衝突によって発生した破片の軌道修正や掃討も一部可能であったはずである。残念なことに、ゼネバス降伏により、この唯一ともいえる宇宙での活動の出来るゾイドの生産技術は、共和国と暗黒帝国双方によって分断されてしまい、生産が不可能であった。
 全ては戦争による混乱が引き起こした、人災の部分も考慮する必要がある。

 大異変の前兆は、4年前の2052年頃より既に顕著になっていた。太陽極小期の長期化に続き、パブロ=ディエゴは紫外線到達量の増加に着目していたのであった。それは降り続く流星群の突入時の燃焼によって、大気圏上層に存在する不安定な構造のオゾン層が破壊されたことによる。これは、炭素を主体として構成された有機生命体であればいち早く危険を察知したであろう。だが、ゾイド星の生物の多くはゾイドを代表とした金属生命体である。多少の紫外線の増加にも生命活動への影響は少なく、殆ど気付かれることがなかった。
一方で大気の循環には気候変動を伴った大きな影響を与えた。年間を通して一定方向から吹いている惑星風の流路が大幅に変化した。この影響により、中緯度高圧帯の乾燥していた地域に豪雨が降り、温暖とされていた大陸東岸地域には旱魃が発生した。
 また、ガイロス帝国の領土である暗黒大陸に於いては、吹き込んだ温暖な惑星風によって極付近高緯度地域の永久凍土が溶け出し、洪水被害が頻繁に発生するようになっていた。
 本来であれば、泥濘に沈んだ大地であっても中型作業ゾイドを利用した少しの土地改良によって、新たに豊かな耕作地帯を開拓できるチャンスであった。だが、共和国との全面戦争により元来人口の少ないガイロス国民の、特に働き手である成人男性の労働者が極端に減っていたためと、ヘルディガンナーやジークドーベルなどの戦闘用中型ゾイドの生産を優先させ作業用ゾイドの絶対数が不足していたため、土地改良を進めることができなかったのだ。間接的には、これも戦争の被害である。
 次いでパブロが着目したのは外宇宙の変化である。最初はカイパーベルトが観測の限界であったが、中央山脈天文台の完成とともに、さらに遠くのゾイド星系外殻を覆うオールトの雲の観測も可能となっていた。オールトの雲は、長期軌道を描く彗星の発生源で、別名「彗星の巣」と呼ばれている。太陽を中心に、2次元的な円を描くのではなく、3次元的な球状でゾイド星系全体を覆っている。ところがそのオールトの雲の一画に、まるで穴の開いたような空間が発見されたのだった。
 微細な宇宙の塵から形成されているオールトの雲が、切り取られたように無くなっているということは、その周辺に重力の異常が発生していることが想像される。だが、恒星のように自ら発光をしない物体であればそれを視認することは困難である。判断できるのは、何らかの大きな重力の塊が、外宇宙からゾイド星系中心に向けて接近しているらしいということだけだった。
 パブロは何度か、ホセを含めた天文台研究会議で外宇宙から接近する物体の脅威を唱えた。だが、先の報道に対する失言もあり、局内での彼の評価は下がっていたため、主張は取り上げられることはなかった。彼自身も無力感に襲われ、蓄積した貴重な観測資料も彼自身の自己満足の為のものでしか無くなっていた。
 歴史にもしも〜だったら≠語ったところで、意味のないことは誰もが知っている。だが、惑星大異変の悲劇は、幾つかの回避の可能性が存在していた。
戦争をきっかけとした全てのボタンのかけ違いが、やがて飛来する巨大彗星「ソーン」による被害を最小限に留めることが出来なかったといえよう。

[328] 惑星大異変 城元太 - 2012/02/10(金) 21:22 -

 外宇宙から大質量物の接近が初めて目視されたのは、2053年になって間もなくの頃であった。中央山脈天文台による小惑星帯観測写真に、周囲の小惑星を飲み込んだかのような大きな空間が生じていたからだ。それまでは電波望遠鏡を利用した電気的に再処理をされた画像しか入手できなかったものが、中央山脈の澄み切った空気と最新鋭の大口径光学望遠鏡の威力が、外惑星の軌道で起きている現象を目に見える形で捉えたのだ。
 映像を解析したのはパブロではなく、勤務1年目の研究員補助のファン=ネムポセであった。ファンはパブロとは違い、最初から天文学を専攻してきた職員で、若いながらも事態の緊急性を理解するには充分な能力を有していた。彼は直ぐに所長のホセに報告を行った。所長のホセも、小惑星帯の変化の緊急性に気付き再度の観測を自ら行った。だがホセが観測を行った時には、小惑星帯の空洞のような空間が大型の外惑星の影に完全に隠れてしまっており、観測不能となったのだ。

 確認しておくと、ゾイド星系は黄色い主系列星に属する恒星を中心に形成されている。通常であれば、太陽が中心なら「太陽系」、シリウスが中心なら「シリウス星系」と、恒星の名前を基準とした呼称が与えられるはずである。しかし、移民宇宙船グローバリーV世号が初めて到達し、そこに棲む金属生命体ゾイドを目の当たりにした地球人類は、中央で輝く恒星の名称よりも先に、この惑星系の第二惑星を「ゾイド星」と名付けてしまった。そのため、便宜上恒星は「ゾイド星系の太陽」と呼ばれ、一般に太陽と呼んで何の差支えもなくなっている。金属生命体という、地球とは大きく異なった生命が息づくゾイド星は、しかし生命存在の条件としては地球と極めて似た条件を持っていた。
 生命居住可能領域=ハビタブルゾーンと呼ばれる場所、いわゆるゴルディロックス帯を形成するには、様々な厳密な条件が重なっている。恒星の大きさ・距離・数。惑星に存在する水などの比熱の大きな液体の量・物質構成・自転速度。加えて隕石衝突の少なさがある。非常に限定条件が多く全てを列挙できないが、特に生命進化の為には隕石が多すぎるとその度ごとに進化がリセットされてしまい、高等生物が誕生できない。従って隕石衝突を避けるために、ゴルディロックス帯の外周には必ず大質量大重力の大型惑星の存在が必要となる。地球人類には、木星・土星という防御壁があったため、数多くの有機生命体が進化できた。同じくゾイド星でも、同様の巨大惑星が3つゾイド星を庇うように外惑星軌道を公転しており、更にその外側に小惑星帯(アステロイドベルト)が存在している。ところが今回の観測では、偶然ではあるがその3つの巨大外惑星が、ファンの観測したという小惑星帯の空洞を覆い隠してしまったのだ。その時刻々と接近してくる「ソーン」は、巨大惑星の重力に一時的に捕まり、軌道を変えてゾイド星からの観測領域の死角に入ってしまっていた。
「死角に入られたな」
 ホセはファンの示した画像と、現在の観測状況を見比べていた。
「数日で観測は可能になります」
 惑星の公転から大質量物が現れるのは間違いない。決して慌てる必要はないと彼らは考えていた。彼らのミスは、首都から遠く離れた中央山脈いたことにより、今が戦争中であるのを忘れていたことだった。

 その日の共和国首都は炎に包まれていた。僅か2年前にゼネバス首都陥落を祝った街並みが、黒い翼によって蹂躙されていたからだ。ギルベイダーによる渡洋爆撃である。
 旧ゼネバスは、共和国首都を占領したとはいえ必要以上の破壊をすることは無かった。それはゼネバス兵の心のどこかに、同じ大陸に住む同じ人間という意識が働いていたからだろう。数ある戦史の中にも、ゼネバス帝国軍人との互いに戦士として尊重し合った誇り高い決闘の記録が残されている。だが、国土の多くが泥濘に覆われ、一刻も早く豊かな大地を欲していたガイロスには、高まりつつある国内の不満を一掃するためにも早急な攻撃策が必要とされていたのだ。
 8万人もの死者と、その数倍もの重軽症者を出した空襲は、首都郊外で作動中のパブロのいる天文台をも破壊した。幸い市街が攻撃される様子を見て、いち早く避難した天文台職員たちに死傷者はなかったが、貴重なデータは根こそぎ消失した。これが流星群観測を停滞させた原因である。だが、国立天文台研究員にとって危機はまだ残っていた。
 首都空襲を終えたギルベイダーは、通常であれば最短距離を飛行して暗黒大陸の基地に帰還するはずである。ところが、基地と首都との間の直線上には、強磁界が渦巻くトライアングルダラスが存在した。ギルベイダーはトライアングルダラスを迂回するため中央山脈付近まで航路を変更し帰投にはいったのだが、その航路上に巨大な電波望遠鏡を備えた共和国の軍事基地らしき施設を発見したのだった。

 ホセら中央山脈天文台職員たちにとって、最初なにが起きたかはわからなかった。ただ、突然真っ赤で巨大な光輪が、目の前の全てを薙ぎ倒していった。ギルベイダーがビームスマッシャーを放ったのだ。標的に命中させるという点では、この武器は悪魔的なまでに正確である。電波望遠鏡は真っ二つに切断され、職員の2人が直接その鋭利な光輪の刃の犠牲となった。ホセを始めとする多くの職員は爆発に巻き込まれ、ここでも貴重な観測資料と優秀な人材を失った。
 やがてギルベイダーの脅威は去り、攻撃は終わった。しかし、唯一の帰投手段であったカーゴタイプグライドラーを破壊され、生存者は中央山脈の薄く冷たい空気に晒された。救援を呼ぶための通信手段もなく、仮にあったとしても首都は空襲による混乱によって救援部隊を派遣する余裕もなかった。
 そこに留まることは凍死を意味する。彼らは止む無く傷ついた自らの脚で、麓まで下山することを強いられた。ホセも両足に酷い火傷を負い、ファンに肩を支えられながら絶望的な首都への帰路についた。

 空襲による共和国首都の破壊とは別に、地表では更なる異常現象が続出していた。
 紫外線量の増加によって変化していた大気の対流は、地域によっての極端な降水量の偏りをもたらした。一時旱魃に襲われていた共和国首都周辺では、目まぐるしく変化する貿易風の影響で降水量が激増した。これは首都に限らず、セシリア、クーパー、エミツなどの共和国の人口集中地域を狙い撃ちにするような豪雨だった。これは都市が平地に形成されるため、海抜が低い平地にむけて、重く大量の水分を含んだ積乱雲が集中したためである。雨滴は大気中に大量に漂う流星群の燃え残りを核に凝集して雄大積乱雲を形成し、拳大の巨大な雹を各都市に降り注いだ。
 共和国国内は、年ごとに大きく変動する気候に生活のサイクルをあわせることが出来ず、長引く戦争とともに一層の耐乏生活を強いられた。
共和国が、封印されていたグローバリーV世の技術を転用してまでキングゴジュラスを建造した背景には、暗黒帝国軍と同様の理由が存在していた。

 破壊された首都郊外の天文台が漸く再稼働したのは、2054年も間もなく終わろうとしていた時であった。ギルベイダーの攻撃による傷の癒えないホセに代わり、最初に夜空に望遠鏡を向けたのはパブロであった。
 彼は息を呑んだ。自分自身が飛来を予想していた巨大彗星が、外周惑星の影から太陽風を浴びて短い尾を延ばした不気味な姿を現していたのだ。そして激しい自家撞着に陥った。心の底で「なぜ、私の研究は正しかったのだ」と叫んでいた。
 唐突に彼は接眼レンズから目を離し、星空を見上げた。明るく輝く惑星の一つが、いびつな楕円形をしている。接近していたそれは既に裸眼で目視できるほどになっていた。

[329] 惑星大異変 城元太 - 2012/02/12(日) 21:45 -

 ネメシス仮説というものがある。数千万年単位で生命の大量絶滅が繰り返されるのは、生命が存在する主系列星系には、オールトの雲をも遥かに越えた外宇宙の彼方に、目視が不可能な伴星であるネメシス≠ニ呼ばれる褐色矮星が存在し、この星が周期的にオールトの雲を刺激して大量の彗星を降らせ大量絶滅を起こすというものだ。
 反証不能の仮説だが、ゾイド星の悲劇は、まさしくネメシスによる生命大量絶滅を思わせるものだった。
 だが、種の存亡の危機に直面しながら、帝国・共和国とも互いに共存への妥協を見いだせないでいた。
 この時点で、果たしてヘリック・ガイロス両国がどれ程彗星衝突の可能性を予想していたかが疑問となる。ここで両国の動向を比較してみたい。

 共和国側ではパブロを始めとした国立天文台が再度彗星接近の危険性を提言しているので、詳細なデータは揃っていた。政府の対応は素早かった。天文台からの報告により科学省が確認し、直後に大統領の了承を得て各種マスメディアを通じ彗星接近に伴う危険性と対処法について一斉に国民に通達をした。当時の全国民に向けた政府広報を抜粋してみる。

※ 彗星接近についてのおしらせ

1,現在、彗星が近づいてきています。慌てずに、正しい情報にもとづいて行動してください。不確かな情報や怪しいうわさ・彗星接近を利用する悪徳商法・宗教勧誘・非公認の政治活動にはだまされないようにしましょう。

2,彗星はゾイド星に一番近づく時でも、およそ100万qも離れて通過します。これは一番遠い月の軌道よりも、二倍以上遠いところです。潮の満ち引きや、気象に影響はありますが、絶対に衝突はしません。

3,彗星が近づくと、電磁波が発生して家電製品やゾイドの機能に一時的に問題が起こるかもしれません。故障の原因となる恐れがあるので、家電製品は電源を切り、ゾイドはシステムを完全停止させる準備をしておきましょう。

4,彗星は流星と同じように氷のかたまりです。彗星が尾を引くのは、彗星が氷だから太陽の熱にとけているからです。だから万が一彗星がゾイド星に降ってきても、溶けてしまうか宇宙に弾き飛ばされる可能性が高くなっています。その場合、幾つかの破片が落下するかもしれませんが、都市部や市街に落下する心配はほとんどありません。

5,今は雨雲が多く、なかなか彗星を見ることができません。ですから、星空が見える時は、天体望遠鏡を使って観測することをお勧めします。天体望遠鏡がなくても、双眼鏡やオペラグラスでもよく見えます。何千万年に一度の貴重な経験です。怖がるばかりでなく、しっかり観察してみてください。


 平易な文章でかかれ、内容も簡潔明瞭であるが、上記の説明の中で幾つもの問題が指摘できる。

○ まず、どこにも巨大彗星の「巨大」の文字が記されていない。確かに「ソーン」の正確な最大直径は確認されていないが、少なくとも「巨大」もしくは「超巨大」に分類されるものである。そして彗星接近に伴う流言飛語はやはり止められなかったことがわかる。政府も不確かな噂と、『本当に正しい情報』を抑えることに懸命になっていたのだろう。

○ 彗星の最大接近距離は、国立天文台の計算では約40万qを想定しており、誤差を含めると第二衛星軌道の内側に入るほどであった。だが、計算上衝突は回避可能であり、後に衝突が起きたために政府発表は情報を隠蔽していたとの批判も起きたが、これを責めることは出来ない。では、なぜ衝突してしまったかは、後ほどの説明となる。

○ ゾイドへの影響については正しい対応が示されている。言葉の矛盾を恐れずに言うと、想定外の磁気嵐の発生を想定し、結果として数多くの戦闘ゾイドを維持することに繋がったのだ。生き残ることのできた個体は、完全にシステムダウンを行っていた。

○ 彗星の構成物質であるが、外宇宙から飛来する巨大彗星「ソーン」は、カイパーベルトやオールトの雲から飛来していた流星群と全く違うことは明白である。スペクトル分析からもこれが水やアンモニアだけの塊ではなく、鉄・ニッケル・パラジウム・オスミウムなどの重金属を含む「重い」隕石であるのは判明していたはずだ。

○ 最後の項目で、積極的に彗星観測を奨励しているのは、情報を隠すより公開した方が人心の安定に繋がると判断した結果だろう。多少なりとも天文学を学んだ人物であれば、この発表の矛盾は容易に見抜けたはずだが、戦争中の挙国一致体制のため、批判の声が大きく上がることはなかった。

 この様に、共和国側は人心の安定に努めていたが、これと同時に、グランドバロス山脈地下に秘密裏に保存していたグローバリーV世号の改修、再稼働の準備をしていた。メタルハート≠ニ呼ばれる機密機材を積載し、来るべき事態への箱舟として。

 同様にガイロス帝国側の対応だが、共和国と比べて遅れていた。これは、大陸の大部分が北極圏に近く、この時期には夏季の白夜に当たり、天体観測が不可能であったためもある。だが、白夜であっても明るい外惑星の傍らに肉眼でも確認できるほどに接近している巨大彗星の存在を見逃すほどに無能ではなかった。
 情報操作が容易に行えるのは、中央集権国家の最大の利点である。彗星接近に対する人心の不安の声は一切上がってこなかった。但し、帝国中枢の首脳陣は彗星が衝突した場合の準備として、多くの資材や食料を暗黒大陸の北極圏に移送した。これは、彗星の軌道がゾイド星の軌道と浅い角度を描いていることが判明していたため、仮に衝突したとしても極地域への被害はないからである。縦に回転しているボールの回転軸のてっぺん目掛けて、小さな鉄球を打ち込んだとしても、衝突角度の浅さと自転の遠心力で弾かれてしまうからである。これは後にガイロス帝国が大異変以降いち早く再軍縮を行えた理由のひとつでもある。

 結論として、両国政府とも彗星接近の脅威は充分すぎるほど認識していたといえる。ただ、彗星衝突被害を最小限に止める最良にして最も簡単な方法、つまり休戦・和平による協力体制を取らなかったことは、「ソーン」以上に巨大化し、複雑化した官僚組織の弊害と断言できる。

 彗星衝突まで残り半年を切った頃、中央大陸北西の遥かに暗黒大陸を望む海上に、黒雲を纏った巨大なゾイドが出現し、進攻を始めていた。これが共和国側の出した最終結論であった。

[330] 惑星大異変 城元太 - 2012/02/15(水) 21:04 -

 共和国政府の首脳は優秀な人材が揃っている。ゾイドの開発のみに視点を絞っても、常に戦闘の推移を予測しながら適宜ゾイドの開発・投入・再生産をしてきた。
 だがキングゴジュラスだけは、彗星接近を目前に控え、勝利を急ぐあまりの形振り構わない姿勢が現れている。そこではテクノロジーが断絶しているのだ。
 その証拠に、以降開発されたゾイドにキングゴジュラスの技術が一切フィードバックされていない。例えてみればゴジュラスギガの何処にもキングゴジュラスの面影が残されていないように。

 ところで、戦線に投入されたキングゴジュラスには共和国大統領であるヘリックU世自らが操縦し、ガイロス帝国王宮にて決戦に挑み、勝利して生還したと伝えられるが、これは到底信じ難い。
 当時の大統領の行動記録から、暗黒大陸に上陸したことだけは確認されている。
 しかし、古代の軍記にも「天下に未だ将軍自ら戦い自ら死せることは有らず」とある。幾多の苦難を乗り越え、共和国の統一と繁栄を成し遂げたほどの人物が、全軍司令官の立場を投げ捨てて最前線に突入するほど愚かとは思えない。上陸部隊の兵士の士気を鼓舞する方法は他に幾らでもあるだろう。
 更に当時のヘリックU世の年齢は丁度100歳となる。年齢の記録違いがあったとしても間違いなく高齢だ。いくら長寿のゾイド人であっても、戦闘に従事するには不適任だ。生還したのではなく、エントランス湾後方で全軍の指揮を執っていたに違いない。
 では、ヘリックが搭乗していたという話は全く根拠がなかったのか。
 歴史上の英雄を語る場合、その業績を過大評価し伝説を作ってしまうことは多い。ヘリックゼネバス兄弟には数々の英雄譚が語り継がれている。その延長上にこのキングゴジュラス搭乗説も存在しているのではないか。ヘリックにはかつて多数の替え玉が存在し、ゼネバス帝国を翻弄していた時期がある。この時も同様の身代わりが操縦していたと考えるべきではないだろうか。

 キングゴジュラスというゾイドを分析すると、それが惑星大異変に深く関わっていることがわかる。
 まず、最大の武器となるスーパーサウンドブラスターだが、これは降り続く豪雨の中、荷電粒子砲のようなビーム兵器を使用した場合、水滴によって拡散され目標物に到達しないか、到達しても充分な威力を発揮できないための代替兵器と考えられる。

 次に、ギルベイダーに対抗して開発されたゾイドであれば当然飛行能力を重視したはずだ。共和国はかつて対デスザウラー用のみに特化したマッドサンダーを開発している。この前例に従えば、オルディオス以上の対ギルベイダー用に特化した大型飛行ゾイドを開発することが考えられる。
 だが、キングゴジュラスは基本設計から見て飛行することを想定しているとは思えない。恐らくこれは、ゾイドの飛行能力が奪われるのを予測してのことだろう。事実、流星の飛来と雷雨そして磁気嵐の発生により、サラマンダーを代表とした空戦ゾイドの活躍の場は失われた。
 オルディオス・ガンギャラド・バトルクーガーなど、この時期に翼と四肢を持つ幻獣型ゾイドが開発されたのも、飛行能力が奪われても地上戦に対応できるからだ。

 最後にその巨体の原動力についてだ。デスザウラーは大口径荷電粒子砲の発射の反動を支えるため、重力子を制御する加重力システムを備えていた。加重力衝撃テールはその副産物であり、その延長上にデスキャットのMBH砲がある。
 だが、キングゴジュラスの場合は加重力とは逆の、重力を軽減するエキゾチック物質(=負の質量を持つ物質)を体内で生成循環させる重力制御システムによって機動力を維持していたと伝えられる。
 論理が飛躍し過ぎていると指摘されそうだが、ウルトラザウルス以上の重量物が直立歩行を行い、ゴジュラス以上に格闘能力が高く、時速140qで移動するということが想像できるだろうか。
 キングゴジュラスはタートルシップなどの輸送機を使わず、直接暗黒大陸に上陸している。その重量をどの様にして支えて海を渡ったのか。
 ウルトラザウルスであればハイドロジェットエンジンで、マッドサンダーであれば急造のフロートを装備して海上航行をした。
 だが、キングゴジュラスのどの部分にも海上を航行する機能らしきものは見当たらない。ここで同時に改修が進行中であったグローバリーV世号のワームホールドライブ技術を応用すれば、エキゾチック物質を生成し重力を軽減させ、あの巨体の直立歩行と機動力確保も可能だ。
 しかし、恒星・惑星・小惑星など(正の)物質の少ない外宇宙ならまだしも、大気を含め物質で満たされている惑星地表面上でエキゾチック物質を生成すれば、惑星規模の、いや、ゾイド星系規模の大変動を誘発する。万が一、漏出すれば対消滅を起こして惑星ごと吹き飛ぶ可能性もあっただろう。
 キングゴジュラスの移動に伴う雷雨の発生などの異常気象等は問題ではない。ポールシフト・マントルプルームの上昇・公転軌道の変化など、ゾイド星にとっての壊滅的な打撃を与えることとなる。
 致命的だったのは、巨大彗星ソーンが接近していたことだった。


 エントランス湾に橋頭堡を確保していた共和国軍は、増援として到着したキングゴジュラスを正面に立て、その圧倒的な破壊力をもって進撃を始めた。
 通常の上陸戦であれば、後方に補給線を維持しつつ、制圧地域を広げながら前線を進めるのが定石である。だが、この桁違いの破壊力を有するゾイドは、補給線も援軍も振り切りあたかも無人の野を進むかのように、単機でガイロス帝国首都ダークネス目掛けて進撃を始めた。
 一方、独断先行したキングゴジュラスに取り残された形となった他の共和国軍の最終上陸部隊及び先遣隊のゾイド群は、構築した前線で帝国軍の最終決戦部隊との全面対決となる戦火を開いた。

 その戦いは、あたかもノーガードで互いに打ち合う殴り合いのようになった。
 磁気異常によってレーダーその他の探索装置が機能を停止し、降り続く豪雨の為に目視もかなわない。
 総力を挙げて前線を進めようとする共和国軍に対し、後のない帝国軍も旧ゼネバス兵を含んだ総力を投入し、迎え撃った。
 ウルトラザウルスの4門の主砲は、前面に向けほぼ水平方向に打ち放たれた。ガンブラスターのローリングキャノン、ディバイソンの突撃砲、オルディオスのグレートバスターなど、全ての火器が集中し、文字通り暗黒大陸の大地を焼き払って、その大兵力を進めようとする。
 ガイロス帝国軍は、この戦いに投入したギルベイダーの全てをキングゴジュラスに向かわせ、残った大型ゾイドのデスザウラー・アイアンコング・ダークホーン・ガンギャラド・デッドボーダーで、共和国の侵攻を死に物狂いで防ごうとした。豪雨に拡散された荷電粒子砲が無差別に降り注ぎ、視界のきかない中をクラッシャーホーンが突進する。ハンマーナックルが空を切り、Gカノンが怪しい光を放ち破壊する。

 秩序も戦略も戦術もない、戦争を止めることの出来ない人々の愚かさを象徴するかのような死闘であった。

 キングゴジュラスの最期については諸説ある。ガイロス皇帝自らの操縦するギルザウラーとの決戦の末勝利した後、惑星大異変に到達したという説と、ガイロス王宮突入直後に隕石落下に巻き込まれ自爆したという説とがある。
 惑星大異変の混乱に紛れ、それを知る価値もない真相は、不明のままである。

 そして、人々への宇宙からの裁断が下されるのは、もう間もなくの事であった。

[331] 惑星大異変 城元太 - 2012/02/16(木) 21:08 -

 恐らく帝国側の報道カメラマンが撮影したものだろう、当時の彗星接近を映した写真が残っている。
 茜雲の狭間に見え隠れする星空の中、長く尾を引いた彗星「ソーン」が、月の半分ほどの大きさに写っている。
 朝焼けか夕焼けかは判別できないが、かなり地平線から近い位置にあるため、それを見つめる多数の人々の姿も同時に収められている。
 人影の遠く離れた奥に、小さく輪郭となった無数の鐘楼のような影がある。共和国軍最終上陸部隊を迎え撃つため、エントランス湾周辺に結集した帝国軍ゾイド部隊だ。
 まるで描かれたような幻想的な写真だが、その後に起こる血塗れの戦いを予想するかのような赤い空をしている。エントランス湾の東、アンダー海に突き出た半島に広がるビフロスト平原は暗黒大陸ニクスの中でも南方に位置する温暖な地域であり、ガイロス帝国の当時の首都ダークネスとの間に中規模の町々が連なるように点在していた。
しかし共和国上陸によって居住地を奪われた人々は、戦線の変化に合わせ移動する難民の群れと化していた。
 写真に写っているのは兵士ではない。中には子供を抱いた女性や、携帯食らしきものを頬張る老人の姿も覗える。その不安な表情から、彼らが興味本位で戦場に佇んでいるわけではないのがわかる。後方にはキングゴジュラス、前方には上陸部隊。
 戦場に囲まれた彼らに逃げ場所はないのだ。ダークネスから避難してきた首都住民も加わって、難民人口は膨れ上がっていた。


 巨大彗星ソーンは、共和国科学省が表明したように、当初ゾイド星の第二衛星軌道をかすめて飛び去るはずだった。
 通過による重力変動や大気の乱れ、第二衛星軌道への干渉など、ゾイド星に大きな影響があることは予測していたが、計算上では衝突の可能性は薄かった。
 だが、彗星のゾイド星の公転軌道通過に至るまでに、幾つかの悪意のある偶然が重なっていた。

 共和国天文台が破壊され、観測不能の時期に変化は起きていた。
 まず大型外惑星の重力圏に捉えられたソーンは、外宇宙からの接近速度を削ぎ落され、本来であればゾイド星を通過するはずの速度を充分なまで減速されていた。加えて、減速され変化した進路とゾイド星の公転軌道面が重なっていた。
 皮肉なことに、これまで多くの小惑星や隕石の落下を防いできた外惑星は、ゴルディロックス帯の防衛線ではなく、外宇宙からの脅威を導きいれていたのだ。それは天体運行の結果起きた、誰にも責任を問えない事態である。だが、続いて起きた事態は、人の生み出した悪しき偶然だった。減速されたソーンは、ゾイド星の重力圏に緩やかに捉えられ、場合によっては衝突せずに第四衛星になる可能性さえあった。ところが、接近を続けるソーンに、不必要な重力変動を与えてしまった物体が、ゾイド星地表面に存在したのだ。
 それが、共和国が放った最終ゾイド、キングゴジュラスであった。

 重力制御システム内を循環するエキゾチック物質は、安定しようとするソーンの軌道を揺り動かした。忽ちソーンはゾイド星目掛けての進入角を取り、緩やかに衛星軌道を狭める螺旋を描きながら、地表へと落下を始めたのだった。
 何を幸いと呼べばいいのか難しいが、不幸中の幸いともいえることは、この時ソーンが充分に減速しており、ゾイド星の赤道面への直接突入だけは回避されたことが、惑星規模での大絶滅を避けられた要因であった。
 もしも、音速の数百倍で飛来した大質量物が、そのまま惑星赤道面に衝突していたら、恐らくゾイド星は内部のマントルまで吐き出して、その全てが宇宙の灰燼と帰していたはずである。しかし、まだこの宇宙的悲劇は終わってはいない。
 徐々に軌道を狭め、地表に迫るソーンが、約18万qの第三衛星の公転軌道に差し掛かった時、彗星の落下軌道と、第三衛星Deとの衛星軌道が、互いに呼び合うように接近を始めたのだった。
 衛星の公転軌道上の重力の安定点、いわゆるラグランジュポイントが、ソーンとDeの中で重なっていった。
 不規則な重力干渉の中、二つの天体は時速数千qのゆっくりとした速度で接近し、そしてDeの表面に、ソーンがめり込むように衝突を開始した。
金属を主とする二つの天体の破片が、ゾイド星の重力に曳かれ、緩やかなワルツを踊るように、南北回帰線に挟まれた赤道周辺に向け公転軌道から灼熱の塊を降り注いだのだった。


 北緯40°・東経50°付近、共和国領ゴルゴダス海峡周辺を警戒していたゴルヘックの搭乗員、ジャック=ペンバートンの報告。
「最初は帝国の攻撃と判断し、駐屯地への緊急伝を送るためクリスタルレーダーの電源を立ち上げる準備に入った。
 幾つかの赤い何かが頭上を通過した。雷雲の中を、雨のように降ってくる。
 今までの流星とは違っていた。首都のある南方向に向かっている。
 最初数分に一度の割合だったが、やがて数秒に一回になり、地平線がどんどん赤く染まっていった。遅れて腹に響くような振動が地下から突き上げてきた。
 何が起きたかわからなかったが、とにかく恐ろしいことが首都周辺で起きていることだけはわかった」

 彼らの部隊は中央大陸の最北端に位置していたため、降り注いだ月と彗星の破片の直撃を避けることが出来た。しかし北緯30°付近から赤道にかけての中央大陸地域と、ほぼ赤道上に位置する西方大陸地域は、破片落下の洗礼を大量に受ける事態となっていた。

 北緯20°東経80°付近、共和国領セシリア市。医師ダニエル=シモンズ。
「空中で何かが爆発したと思った。
 勤務していた病棟の窓ガラスが最初の衝撃波で殆ど割れてしまったが、続いて起こった第二、第三の衝撃波で、窓ガラスどころか保管してあった薬剤瓶も砕け散っていた。
 空襲だと思った。
 看護師が走り回っているのだが、みんな口をぱくぱくさせるだけで何も聞こえない。その時は衝撃波で耳がおかしくなっていたようだ。
 鼓膜が破れたかと考えたが、数分すると音が拾えるようになったが、とても会話が出来る状況ではなかった。
 割れたガラスの破片に注意しながら窓の外を見ると、美しかったセシリアの街並みが、鋸の歯のように切り刻まれていた。
 街の至る所に火の手が上がり、消火に出動したエレファンタスやハイドッカーも、出火地点が多すぎて手の下しようがなくなっていた。
 普段から空襲に備えて避難経路の確認を訓練していたにも拘らず、通路に散乱した瓦礫と、降り注ぐ隕石群の爆発と振動に阻まれて、全く行動できなかった。
 隕石は落下地点に数メートルから数十メートルのクレーター状の穴をあけた。
 雨が降り続いていたので、粉塵が舞い散って呼吸ができなくなることはなかったが、代わりに高温で蒸発した蒸気が肺に取り込まれるとむせ返るようだった。
 街の象徴だった、教会の尖塔が崩れ、幾つもの建物を薙ぎ倒していた。
 地下シェルターに避難しようと降りたのだが、1階部分は中の物が散乱して歩けなかった。助手のクリス(クリストファー=サイモン)と顔を見合わせた。
 衝撃波の轟音の中、たどたどしい会話を交わして事態が分かってきた。彗星が衝突したのだと」

 北緯25°・東経60°付近、共和国領グレイ市。学校勤務、ケニー=サバー。
「まだ生徒たちは始業前でした。数人が校庭に入っていたと思います。
 覚えているのは、突然真っ赤な壁が目の前のベランダを突き抜けていったことです。
 私は爆風に吹き飛ばされ、続いて倒れてきた棚の下敷きになって一瞬意識を失いました。
 数秒か、数分か、それほど長くはないはずです。全身の痛みと、息苦しいほどの熱さを感じて気が付きました。
 吹き飛ばされて倒れていた廊下の向こう側、部屋の中が燃えています。そして横には無数のガラスの破片が散乱していました。
 私は倒れた棚の影になって、被害を受けることはありませんでしたが、起き上がってみると破片が壁に無数に突き刺さっていました。爆風によるものです。
 校庭の半分が吹き飛んで、校舎一つが丸ごと消滅していました。
 クレーター状になった隕石孔の中で、溶岩のような何かが燃えています。消滅した校舎の姿だと思いました」

 北緯15°・東経20°付近、旧ゼネバス帝国地域、ガニメデ城下、団体職員、ブルーム=ベッテルハイム。
「まだ早朝で、ようやく目が覚めたころだった。気味が悪い風を切るような音が聞こえたかと思うと、寝ていたベッドごとひっくり返された。
 シャッターが下ろされていたのに、窓枠も窓も内側にめり込んで、室内は床板から吹き飛んでいた。
 普段から準備していた緊急避難用具を探そうとしたが、部屋の仕切りも吹き飛んでいて物が散乱し、靴を見つけるのがやっとだった。暗闇の中、街のあちこちに火の手が上がっている。攻撃があったかと思ったが、火の玉は空から無数に降ってくる。これが彗星衝突と分かった時、もう一度近くで隕石が落下した。そこにあった高層住宅が根こそぎ無くなっている。
 数秒後、空から黒いものがバラバラと落ちてきた。
 目を凝らすと、それが吹き飛ばされた人間だったことに気が付いた」

 ソーンとDeの降り注いだ破片の運動量の総量は凡そ10の34乗ジュール。生物を絶滅させるには充分なエネルギー量である。だが、ソーンの突入速度の減速と破片となって均一に降り注いだ結果、惑星破壊に至ることはなかった。
 大量の破片は、陸上と同様に海上にも降り注いだ。海底地殻に達した破片は、海洋底のプレートを刺激し、マントルプルームの上昇を引き起こした。
 激しい地殻変動とともに、中央大陸が所属するフロレシオ・ダルダロス・デルポイプレートが活動を始め、中央山脈東方のトランスフォーム断層面から破断が始まった。
 海洋底の移動に伴い、惑星規模での海水の移動が始まっていた。
 惑星規模の、津波発生の前兆であった。

[332] 惑星大異変 城元太 - 2012/02/17(金) 21:26 -

 高温の破片は水蒸気爆発を連鎖的に繰り返し、高熱の蒸気を大気中に舞い上がらせた。そのため北緯35°〜南緯35°の範囲は、視界のきかない白い闇に包まれた。
 磁力線を狂わせる金属成分の粉塵は、あたかもチャフの様に大気中に漂い、共和国の情報網を完全に混乱させ、各都市を孤立させた。耳目と口を塞がれた三重苦となった中央大陸に、惑星大異変の惨劇は次々と襲いかかってきた。

 衝突直後には衛星軌道に留まった残りの破片も、公転する運動エネルギーを順次失い、地表への落下を始める。
 隕鉄を含んだ破片は、それまでの流星と違い、真っ赤な火の玉となって地表に炎の雨を無差別に降り注いだ。無人の砂漠には、不釣り合いな巨大な岩塊が突き刺さり、野生ゾイドの棲む森林地帯は落下した隕石の熱で焼失し、無残な荒れ地と化した。
 中央山脈西側の山肌を落下した隕石が削り取り、幾つもの山頂が崩れ落ち、土石流となって麓の町や村を飲み込んだ。
 都市に降った隕石は、人の作り上げた文明を根こそぎ奪い取った。

 ダニエル=シモンズの証言。
「クリスは、最低限の治療用具を鞄に詰め込んでいた。私も消毒薬や鎮静剤など、とにかく応急処置に使えそうなものだけを用意した。その間にも、3階建ての病棟の天井を突き抜けて、幾つもの隕石が落下してきた。私たちは近くにあったクッションで頭部と頸部を隠し、必死でシェルターの入り口を探した。
 他の職員が集まっていたので、入り口はすぐ見つかった。だが、倒れた柱に塞がれて蓋が開かない。隕石は目の前にも落下している。このままではまずいと思い、その場にいる全員が、倒れた鉄材や、モップの柄などを梃子にして、1mほどの太さの柱を必死になって動かした。
 一人が、隕石の直撃を受けて吹き飛ばされた。高熱と高速のためだろうか、身体は半分に引きちぎられたのに、血液が飛び散ることも無く、10mほど通路の方に跳んだ。
 10分ほどで、入り口の上の柱をどかすことができた。
 中は既に非常灯がついていた。私たちは先を争うように入り込んだ。全部で9人いた。気付くと、全員傷だらけだ。
 私はクリスに治療用具を借りて、応急処置をしようとした。だが、クリスがいない。
 少し考えて気が付いた。先ほど半分に引きちぎられたのがクリスだった」

 共和国政府の隕石落下に対する初動は遅れた。
大量の隕石落下への対応マニュアルなど存在しないからだ。その上元首としてのヘリックU世大統領は、遠く離れた暗黒大陸の大地だ。
 最終上陸部隊を派兵し、国内の部隊も第二級の兵力しかなく、隕石落下にも対応できると思われる重装甲のマッドサンダーなどは修理中の物を含め大陸には10台と残っていなかった。それでもこれらの残されたマッドサンダーは、決死の覚悟でコアの起動を行っていた。

 ジャック=ペンバートンの報告。
「分遣隊駐屯地も、クック市の師団本部にもつながらない。
 そのうちに、ゴルヘックが激しく頭部のコクピットを震わせもがく様になった。
 生き残っている電源でレーダー探知画像を立ち上げると、画面が真っ白になっている。首都方向には金属の壁が立ちはだかっているようなものだ。
 自分は直ぐにゴルヘックの動力を落とし、システムの回復を待った。
 南に流星が降り続けている。
 緩やかな放物線を描いて、まるで昔学んだ幾何学の図形のようだった。
 雷鳴と、雷鳴のような落下音が此処まで響き続けていた」

 共和国首都では、科学省の提言を繰り返し確認し、巨大彗星の破片が落下している事態だけは把握していた。
 本来であれば承認を得るべきだが、不在の大統領に代わり残存のゾイド、それも特に重装甲タイプの機体の出動を軍に要請した。マンモス・ベアファイター・ゴドスなど、修理中のものを含め、稼働可能の全機体を出動させるつもりであった。
だが、磁気異常はコアの活動を著しく低下させ、各基地からの移動が可能となったのは、隕石落下から2時間以上経過してから、それも特に大型ゾイドは影響が大きいため全く機動性が生かせなくなっていた。

 ケニー=サバーの証言。
「残った校舎からも火の手が上がりました。火元は実験室で、なかの薬剤やガスが落下のショックで破断され、火花に引火したのだと思います。廊下から見た炎は、緑色やオレンジ色で、薬剤が燃えていることがわかりました。
 私は脹脛から出血していましたが、このままでは焼け死ぬと思い、必死で階段を下りました。途中、なんどか足を滑らせ倒れました。何もないのに変だと思いましたが、自分の脚から流れた血で滑っていたのに気付いたのは、校庭に降りてからでした。
 校庭では、登校した生徒たちが泣きながら立ち尽くしていました。
 私は連れ去るように強引に手を曳いて、とにかく燃えている校舎から離れようと走りました。
 何度か爆発音が聞こえました。
 帝国の空襲に備えて裏山の森林の中に作られたばかりの緊急退避壕に着きました。
 数時間後には、周辺の住民を含めて200人ほどが集まってきました」

 旧ゼネバス帝国領には、主な戦闘ゾイドがゼネバス皇帝と共にニカイドス島でガイロス帝国に併呑されて以降殆ど残されていなかった。
 その代りとして、共和国軍は治安維持の為の駐屯部隊を各地に設置し、旧ゼネバス領内の治安にあたっていた。
 その為旧帝国領内に残された共和国軍ゾイドの数は比較的多く、特に機動力を重視したコマンドウルフやダブルソーダーなどが残されていた。
 旧帝国領は、共和国出身の地底族、ジェンチェン=パルサンポを初代統監として任命し、同族の多い旧帝国代表と治安審議を密に行い、征服者としての治安ではなく解放者として最大限の帝国住民への治安を行っていた。
 彼の慈愛に満ちた行政により、第一次中央大陸戦争終結以降、旧帝国領内での目立った反乱の動きはなかった。
 無論、一部には小規模な事件は起きていたが、同じデルポイの住民という点では、治安は安定していた。
 だが、隕石の落下という未曽有の混乱が、共和国治安部隊と旧ゼネバス帝国住民との間に、僅かな軋轢を生みだしていた。
 情報の寸断と、首都からの指令の途絶。そしてほぼ同緯度に属する旧帝国領でも、共和国以上の隕石落下被害を被っていた。

 ブルーム=ベッテルハイムの証言。
「周辺全てが瓦礫の山だった。
無数に黒焦げの棒のようなものが転がって、歩きずらかった。よく見ると、全部炭化した死体だった。
 隕石が数分毎に落ちてきて、狙いをつけたように高い建物ばかりを砕いていた。
 周りは火に囲まれていて、喉がとても乾いた。ガニメデ城の地下宮殿は、旧ゼネバス宮殿からの秘密通路が作られていて、降伏後はシェルター兼集会場として使われていたから、なんとかそこにたどり着こうとして歩いて行った。
 途中、コマンドウルフと一緒に銃を構えた共和国治安部隊に呼び止められた。
お前は何処へいくつもりだ
 私はガニメデの集会場に行くつもりだと言った。そこならば安全と思ったからだ。だが治安部隊の兵士は声を荒げた。
そこへ集合することはだめだ。自分の家に帰れ
と。私は自宅が既に燃え落ちて、隕石の落下も続き、安全ではないことを言ったが、兵士は聞く気もない。そのうち銃を構えて撃つ姿勢を取った。 私はその表情から危険を感じ、後ずさりをした。
 躓いた。足元にまた死体があった。中が生焼けなのか、炭化した表面の中からずるりとした赤い内臓が飛び出した。
 仰向けにひっくり返った。
 その時、隕石がコマンドウルフに直撃した。爆発して、兵士も吹き飛んだ。私は倒れた為に爆風から逃れることができた。
 粉塵を払って、血糊を拭うと、行くあてもないのでやはりガニメデ城にむかって歩いた」

[333] 惑星大異変 城元太 - 2012/02/18(土) 21:51 -

 異常気象の豪雨で延焼を食い止めることの出来た場所や、氷河の残る地域、砂漠など可燃物の無い地域、湿地帯などでは九死に一生を得た人々もあった。だが、中央大陸全土に落下した隕石は各地で激しい火災を引き起こし、大部分の住民が消火する手段もなく焼死した。
 
 ケニー=サバーの証言。
「緊急退避壕の収容人数は、学校の生徒数と同じ100人ほど。ですが集まった避難民はそれを超えています。
 なんとか全員が中に入ろうとするのですが、二倍の人数は絶対に無理でした。
 そのうち、校舎側からの炎が、私たちのいる退避壕に向かって進んでくるのがわかりました。カモフラージュの為に森林の中に作った退避壕でしたが、その樹木が可燃物となって襲いかかってきたのです。
 熱くて、このままでは焼け死にそうでした。中に入ろうとしてもやはり無理です。そして、一度に大人数を収容可能としたため、壕の扉は大きく開いたままで入り口で助けを求める人々が閊えて閉められないのです。このままでは全員焼け死んでしまう。背後に炎の迫る勢いを感じながら、私はいよいよ最期かと思っていました」

 火災旋風という現象がある。周囲を炎で取り囲まれた場所に、焼け残った空間が残っていると、周囲の熱せられた空気が中心の冷たい空気に一斉に集中し、炎の竜巻になって中心部分に襲いかかる。ここに焼け出された避難民などが残っていると、急激な上昇気流に巻き込まれ、生き物も金属も全ての物が焼き尽くされる。グレイ市の森林は火災旋風の発生には絶好の条件がそろっていたのだった。

 ジャック=ペンバートンの報告。
「南ばかり見ていて気が付かなかったが、北方のゴルゴダス海峡が奇妙に遠ざかっていた。ゴルヘックは動けないから、おかしいと思ってよく見ると、海水が流氷を巻き込んで急激に後退していた。海中にあるはずの岩肌が露出し、そこにさっきまであった氷の塊が亡くなっている。海面が極端に低下していた」

 アンダー海・デルダロス海・ダラス海・アクア海で、潮の流れが変わっていた。大量の海水が海底断層に飲み込まれていたのだ。
 中央大陸を中心に起きた海水の流れは、やがて彼方の暗黒大陸目掛けて音速に近い速度で移動を開始していた。

 ダニエル=シモンズの証言。
「暗い非常灯のなか、あちこちからうめき声が聞こえた。
 断続的に隕石が落下を続けているのだろう、そのたびごとに激しい振動が繰り返す。
 私は何もしないと落ち着かないので、怪我人の治療を始めた。消毒薬しかないので止血するのに服を破って包帯の代わりにした。
 9人の治療が終わった。誰かが私の額からも出血していたことを言った。それまで気づかなかった痛みが襲ってきた。
 その時また激しい振動が襲った。隕石ではない。私たちは、シェルターの入り口を、また障害物が塞いで出られなくなるのではないかと思った。
 不安になって蓋を開けてみた。入り口の蓋は塞がって無かった。その代り、一階部分を吹き飛ばして消火にあたっていたエレファンタスが擱座していた。コクピットは無くなっていた」

 残された軍も全力を挙げて事態の収拾をはかろうとしていた。だが、連携した行動がとれない以上、装甲板に守られたゾイドを、操縦者各個人の判断で作動させる以外に救出する方法がなかった。頼れるのは、もはや勇気のみだった。

 ブルーム=ベッテルハイムの証言。
「ガニメデ城に着いた時には、私と同じようにぼろぼろの姿の人ばかりだった。その中には、皇帝陛下を追放するからこんなことになるのだ≠ニいうようなアジテートを行う者もいた。これが治安部隊が警戒している理由かと思った」
 帝国と共和国、政治体制の違いだけでなく、風土や民俗意識にも違いはある。帝国が統一されて一世代程度の歴史が刻まれれば互いの理解も深まっていただろう。しかし5年という期間はあまりに短かった。
「シェルターの扉が荒々しく開かれた。銃を構えた共和国治安部隊だった。
今の話は記録させてもらった。貴様らを全員騒擾罪で確保する
というようなことを話したのだと思う。隕石の落下が激しくて、充分聞き取ることは出来なかったから。私は関係がないと言ったが、有無を言わせず手錠を掛けられた。外には同じように手錠を掛けられた旧帝国の人間たちが、コマンドウルフの脚に数珠繋ぎになっていた。皆粉塵で真っ黒になっていて、靴が脱げて足から血を流している女性もいた。このまま外を歩かされたら黒焦げになってしまうかもしれないのに。
 そこへまた隕石が落ちた。コマンドウルフは爆発しなかったが、横倒しになって繋がれた人々も一緒に倒れた。私もあそこに繋がれるのかと思うと、もう生き残るのは無理だと思った。コマンドウルフが立ち上がるまで暫く時間がかかった」

 治安部隊が旧帝国の民衆が蜂起するという情報を得た記録は全くない。だが、当時の部隊に所属していた兵士には、まるで公式発表の様に語られていたという。
 治安部隊ガニメデ西地区管理担当、シモン=コンウェイの報告。
「帝国の住民が集会場で、この混乱に乗じて反乱を起こすという話が伝わってきた。未確認情報なのだが、隕石の落下を避けながら治安部隊が巡回していると、各巡回部隊の兵から反乱集会は見ていないか≠ニ話しかけられた。自分は確認していないと言ったが、充分警戒するようにと言われた。同じことを3回聞かれたので、これは事実だと思い、旧帝国の民衆には充分警戒が必要だと信じていた」
 旧帝国領の至る所で帝国民衆の反乱の噂が数時間を経ずして野火のように広がっていった。その広がり方は明らかに異常であった。同時にこの不穏な噂は、統監府の代表ジェンチェンのもとにも伝わってきた。ジェンチェンは立ち上がった。
「直ちに統監府にいる治安部隊全員を集合させるように。使用可能なゾイド全ても。ダブルソーダーには拡声器をつけて、これから私の談話を録音し、可能な限りこの町を飛び回って伝えるように。
 私のゾイドを準備してください」
 黒縁の丸眼鏡を直しながら、彼は指令を出した。

[334] 惑星大異変 城元太 - 2012/02/19(日) 21:04 -

 グレイ市郊外の森林、退避壕に劫火が迫っていた。既に入り口には人が集まり、閉鎖は不可能となっている。子供たちが熱さに耐えきれず泣きわめくが、それ以上の轟音を立てて、炎は避難民たちを飲み込もうとしていた。
 ケニーの証言。
「結局私は外に放り出されていました。炎が迫っています。髪の毛がいやな匂いを出していました。
 完全にだめだ、とあきらめた時、ふっと熱さが無くなったのです。
 何が起こったかわかりませんでした。しかし、見上げるような巨大な影が炎から私たちを守ってくれていました。
 マッドサンダーが、助けに来てくれたのです!」
 森林の中に渦巻く火災旋風と、助けを求める人々の叫びを、レーダーにも光学機器にも頼らずにゾイド本来が持つ本能が察知した。電磁波の影響で思うように動けないはずの巨体を、ローリングチャージャーの過剰回転で補いながら、駆け付けたマッドサンダーは炎の壁から人々を遮ったのだった。
「マグネイザーはぼろぼろで、サンダーホーンも抜け落ちそうになっていました。背中のダブルキャノンは無くなって、装甲板は焼け焦げだらけです。
 でも、炎を防ぐ反荷電粒子シールドが虹色に輝いていました。
 私はこの時ほど、ゾイドが美しいと思ったことはありませんでした。
 誰とは無く、歓声があがりました。ありがとう、マッドサンダー、と」

 ローリングチャージャーは、火災旋風を相殺するようにいつまでも回転を続けていた。

 そのマッドサンダーは、グレイ市の避難民を守りながら、そのままそこで息絶えていった。

 トライアングルダラスを隔てた暗黒大陸では、遠く中央大陸で起きている事態を把握していなかった。首都との通信が完全に遮断され、磁気異常が一層高まっていることから、何らかの緊急事態となっているのだけは判断できた。この時、高緯度地域に停滞していた雷雲は、赤道付近の隕石落下による急激な気流の変化で吹き飛ばされ、白夜の弱弱しい太陽の光が射していた。
 最終上陸部隊、ウルトラザウルス座乗、アダムス=ランズデールの報告。
「後方の海上から、断続的に砲撃を継続していましたが、気が付くと機体の脚部が海底に届いていました。海面が下がっているのがわかります。
 天候が回復したので、ガンギャラドのハイパー荷電粒子砲に警戒しながら周囲を見渡しました。水平線に一本の白い線のようなものが現れています。観測員から報告がありました。津波という現象を知ったのは、その時が初めてでした」
 北半球の高緯度に位置する暗黒大陸は、中央大陸に比べ隕石落下の被害を受けることは少なかった。しかし赤道付近で発生した海洋底の大断層は、低緯度地域の海洋から高緯度地域の海洋に向けて時速約1000qで巨大な海の壁となり迫っていた。上記のアダムスがウルトラザウルスで受けた報告では高さ約20m。沿岸部に達するに従い、津波の高さは指数関数的に増加する。
 海岸には、共和国上陸部隊と帝国迎撃部隊の他に、住む場所を奪われた難民の群れが数万人も犇めいている。このまま海岸に到達すれば、ウルトラザウルスやデスザウラー、マッドサンダークラスの大型ゾイドを除き、ゴドス・イグアンなどの小型ゾイドと、戦況を見守るしかない避難民は、全て波浪の白い牙に切り裂かれる他に道は残されていなかった。
 両軍の戦闘に、少しの間隙ができた。帝国側も津波の接近に気が付いたのだ。特に頭長高のあるデスザウラーのコクピットからは、接近する海の壁が真っ先に確認できただろう。血塗れの戦場に不釣り合いな静寂が訪れた。そして遠くの海上から、低くて重苦しい水音が近づいていた。

 シモン=コンウェイの報告
「隕石の落下は、一時期より落ち着いていた。死体だらけの街中で、罵声が聞こえてきた。行って見ると、一人を集団で暴行している現場だった。我々は暴力行為を止めさせようと近づき治安部隊だ。暴力行為を止めなさい≠ニ言った。
 振り向いた彼らの顔は、今まで見たことも無いような恐ろしい顔だった。彼らは我々の姿を見ても一向に従う様子がない。それどころか帝国人を庇おうとするとは、貴様らも治安部隊の制服とゾイドを奪って反乱を起こそうとしている奴らだな≠ニ叫び、手に手に武器を持って襲いかかってきた」
 隕石落下による混乱は、住民たちにも大きな疑心暗鬼をもたらし、特に各地域での旧帝国民への激しい暴行事件へと発展していた。
 引き続きシモンの報告。
「集団を取り押さえ、暴行を受けていた被害者を助け上げた。驚いたことに、彼は旧帝国民ではなく我々と同じ共和国人だった。無差別な暴力は、最早誰にでも牙を剝くことに気付いた。
 被害者の応急処置にあたっていた時、伝令から統監府のミスタージェンチェンが出動されたとの連絡が届いた。全員統監府方向へ結集しろとのことだ。遂に反乱が起きて鎮圧部隊を編成するのかと考え、部下に後の処置を任せ、私はコマンドウルフで統監府の方向に向かっていった。頭上を飛行高度のとれないダブルソーダーが何かのメッセージを放送しながら飛び去って行った。前方にミスターと治安部隊のゾイドが結集しているのが見えた」
 ブルームの証言。
「コマンドウルフが立ち上がると、反対に私たちは引き摺られ何人も倒れた。兵士たちは激しい言葉を浴びせ銃口を向けた。私は気力を失って、もうどうでもいいと思った。こんな破壊された残酷な世界、屈辱にまみれた国に生きていても仕方がない。このまま撃ち殺されようと、いつまでも倒れたままでいた。兵士が増々逆上して引き金に手をかけたと思う。その時だった。コマンドウルフの目の前にもう一台ゾイドが現れた。
 モルガだった。
 装甲式のコクピットが開く。兵士たちが突然敬礼の姿勢を取った。私は虚ろな視線をモルガのコクピットの人物に向けた。見覚えのある黒縁の丸眼鏡。統監府総統のミスタージェンチェンだった」

 ガニメデ市旧ゼネバス帝国領統監府総統、ジェンチェン=パルサンポの宣言。
「統監府総統の責任に於いて宣言します。これ以上の犠牲者を出すことは禁じます。私たちは未曽有の大災害に直面しました。多くの人たちが死んでいます。でも、その上なぜ生き残った人たちまで、まだお互いを傷つけるのですか。
 帝国も共和国もありません。いま協力しなければみんな死んでしまいます。誰かを疑っている余裕などないのです。誰かを牢に繋ぐ余裕もないのです。互いを思いやり、互いに助け合い、生き残ることに全力を向けましょう。
 私はこのゾイドが大好きです。モルガは力強く地下に穴を掘って隕石落下の被害を防ぐことができます。コマンドウルフは共和国の素晴らしいゾイドです。ですが、いま人々を救うことの出来る一番良いゾイドは、この帝国製ゾイドのモルガです。危機に直面しているのにゾイドに拘っている場合ではありません。国や地域に拘る場合でもありません。みなさん、共に生き残るため力をあわせましょう」

 ダブルソーダーに搭載されたスピーカーからジェンチェンの温かいメッセージが繰り返し流された。殺気立っていた治安部隊も、民衆も、彼の言葉に耳を傾けた。
 シモンの報告。
「自分は思い違いに気が付いた。しかし、それは不快な事ではなく、新たな自分に向き合うチャンスであると思えた。破壊され尽くしたこの町だが絶対立ち直らせる、そんな気持ちが心の底から湧き上がった。自分はミスターに静かに敬礼の姿勢をとっていた」
 ブルームの証言。
「縄を解かれて、私は立ち上がった。そうだ、まだ死んでなんていられない。この町を元通り、いや、それ以上にするまではと。
 ミスターは丸眼鏡の下、にこやかな表情を浮かべていた。その穏やかな表情が何よりも力強かった」

 ジェンチェンの指導により、旧帝国領内の主要都市で同様のメッセージと対応が図られた。打ちのめされた人々は互いに手を取り合っていた。帝国領での反乱は回避された。

 後に、帝国反乱の噂をたてた原因が究明された。ゼネバス帝国との戦いで家族を失い、帝国降伏後も密かに復讐の機会を狙っていたブルーノ=アイビンスという旧共和国の傷痍軍人だった。彼は至る所で帝国民衆の不穏な噂を流し、手製のビラを貼って反乱が発生しているような情報を流していた。逮捕されての弁明は「許せなかった」だった。恨みに囚われた悲しい人間だった。

[335] 惑星大異変 城元太 - 2012/02/20(月) 21:44 -

 沿岸に達した海の壁は、既に30mの高さを超えていた。
 両軍のゾイドも、この惑星大異変のもたらした脅威に戦闘を忘れ呆然と立ち尽くしていた。押し寄せる波涛にもはや成す術も失われたかのようであった。

 突然、静寂を切り裂いて閃光が走った。
 津波に向かって伸びていく。
 海の壁を幾つかに崩したものの、無限に続く海の壁は再び何事も無かったかのように海岸に迫ってきた。
 また、閃光が走る。海の壁が崩れる。だが次の波涛が迫る。
 閃光は立て続けに放たれた。数本の光は波涛を大きく切り裂き、その部分だけ大きな空間が開いたように遠くの水平線を一瞬覗かせた。
 閃光が無数に走り出した。海の壁に向けて打ち込まれている。その度に波涛は砕けて、しかし、また迫ってきていた。

 アダムスの報告。
「最初、何が起きたかわかりませんでした。我々のいる方向とは全く別の、津波の来る方向に打ち込まれていたから。
 デスザウラーが、荷電粒子砲で津波を防いでいたのです」
 強大な破壊力で数多くのゾイドと人の命を奪ってきた死竜、デスザウラーの大口径荷電粒子砲が、今は避難民を守るために輝いていた。一台のデスザウラーがはじめたことであったが、その行為が何を示すか理解した他の機体も、同様に津波に向けて荷電粒子砲を発射していた。幾つもの閃光が津波に吸い込まれ崩していく。だが、巨大な海の壁は、デスザウラーの最終兵器さえもあざ笑うかのように迫っていた。
 その破壊力の高さから、デスザウラーは荷電粒子砲を連射できない。加えて、電磁波異常の続く状態では、充分な機能も働かないはずだ。オーロラインティークファンの輝きが弱まり、荷電粒子砲の光条も細くなっている。
 一機が、インティークファンから煙を上げて屈みこんだ。コアの限界なのだ。そして、二機、三機と、出力の衰えが現れた。津波は執拗に海岸に迫っている。
 引き続き、アダムスの報告。
「ウルトラザウルスの高感度センサーが、ある音声を拾いました。避難民の中からでした」

 避難民の中、母の胸に抱かれて眠っていた少女が目を覚ました。
「おかあさん、あれは何をしているの?」
「あのゾイドが、私たちを守ろうと頑張っているの」
「ふーん。ねえ、あのゾイドの名前、なんていうの?」
「あれはデスザウラー。とても強いゾイドなのよ」
「デスザウラー……がんばれ!」
 避難民が一斉に少女に振り向いた。
「だって、応援してあげなきゃ!」
 避難した人々の中、その言葉は漣のようになって広がった。
「そうだ、我々にできることは、それしかない」
「がんばれ、デスザウラー」
「いけ、デスザウラー」
「デスザウラー、がんばって」
「デスザウラー」
「デスザウラー」
「デスザウラー」

 無数の声援が一つとなり、死竜の名を持つゾイドに注がれた。

 デスザウラーの持つ音声センサーが感知したのか、それとも単なる偶然かはわからない。一度倒れたデスザウラーが、再び立ち上がった。インティークファンは限界を示していた。だが、デスザウラーは構わず荷電粒子砲を打ち続けた。
 すると、上陸部隊のガンブラスター群が方向を変えた。黄金砲の異名を持つローリングキャノンが、デスザウラーと同様に津波に向けて打ち込まれたのだ。大口径荷電粒子砲に比べれば細やかなものだった。だが、幾つもの黄金砲が津波に向かっていった。
 気が付けば、ガンギャラドのハイパー荷電粒子砲・ディバイソンの17門突撃砲・シールドライガーmk―2のダブルキャノン・ダークホーンのハイブリットバルカン、その他無数の火器が津波に向けて放たれていた。見知らぬ暗黒大陸の避難民を救うために。
 アダムスの報告。
「艦長からの指令がありました。
海岸にいる避難民を可能な限り本艦及び僚艦に収容し救出する。直ちに上陸用意≠ニ。自分は力強く復唱し、救出活動に向かいました」

 ウルトラザウルスはその巨体と重量を生かし、避難民の収容を急いだ。デスザウラーへの歓声が続く中、共和国兵士も同様にその死竜の名前を口ずさんでいた。
デスザウラー
デスザウラー……

 やがてエネルギーを使い果たし、その場に倒れこんだデスザウラーの機体と、最後まで津波に火器を打ち込み続けたゾイドも、押し寄せた津波にのまれていった。
 両軍の戦闘は終了した。避難民数万人の救出と引き換えに。

[345] 惑星大異変(終) 城元太 - 2012/03/02(金) 18:38 -

 衛星軌道上に漂う隕石群は、その落下数を急激に減らしていった。2割ほどはゾイド星に落ちたことは確認され、1割ほどは衛星軌道に乗れず弾き飛ばされたこともわかった。ではそれ以外の隕石群の行方は。
 謎を解く手がかりとなる映像がある。再建されたものの充分な解像度を持たない共和国首都の臨時天文台で、数多くの隕石群を引き連れて飛び去っていく未確認物体が撮影されていた。重力法則を無視するように飛び去る光点は、遥か彼方の母星ブルースター≠目指して飛び立った、かつての宇宙移民船であることを知る者は少ない。
 それは、彼らを育んだ惑星を見捨て旅立つことができず、機体内部のエキゾチック物質を使用した重力制御システムを利用し、落下する隕石群を外宇宙の彼方まで運び去って行った。
 一方で、極小期を終え再び力強く活動を始めた太陽が厄介な外宇宙からの侵入物を吹き払うかのように輝きだしていた。

 ダニエルの証言。
「地下シェルターには一週間ほど入っていた。隕石の落下も減り、重苦しかった雷雲の隙間から眩しい日差しが差し込むようになっていた。廃墟のようになったセシリア市にも生き残った人間はいた。無駄を承知で何人かがこの病棟を訪れてきたのだった。
 私たちは驚き、喜び、そして全力を挙げて治療にあたった。失われた命がいくつあったかわからない。しかし、今なら助けることが出来る。有り合せの手術用具と消毒薬を準備し、診察にあたろうとしたが、ライフラインが復活していないので作業は思うようにできなかった。
 その数日後だった。遠くで壊れたラッパのような音が聞こえた。何が起きたかと外に出てみた。
 ゾイドマンモスだ。水に食料、医療品や発電機まで運んでいる。車輪で走るグスタフでは対応できない瓦礫の市街を、グスタフ代わりに救援物資を満載してやってきたのだ。
 私はゾイドがいて本当によかったと思った。
マンモスの耳がユーモラスにはためくのを見て思わず笑っていた。クリスの分まで誰かの為に役立とうと思った」

 寸断されていた中央大陸各地の都市も、残されたゾイドの懸命の復旧作業により優先的に通信網が復興された。必要な救援物資を被災地域に送ることにより、生き抜いた人々が再び立ち上がる助力となった。
 破壊され尽くした中央大陸に比べ、入植者の少ない西方大陸エウロペは未開の新天地であった。新たな世界を求めて、大異変の後にこの古代遺跡の残る西の大陸に旅立つ人々が数多くいた。まだ、帝国も共和国もない、あるのは希望だけの大地に向けて。

 ジャックの報告。
「津波に襲われて、クリスタルレーダーの全ては無くなっていた。流氷と流木と、その他の様々のものに衝突されてゴルヘックはそこで擱座していた。
 津波の到達する前に、自分は小高い丘に避難して助かったが、愛機を救うことはできなかった。せめて酒でも手向けようと、旧式のゴルゴドスを駆ってここに来ていた。
 暗黒大陸に出撃した部隊からの連絡は途切れたままだった。同期の戦友たちが、あの海の向こうで散って行ったかと思うと無性に悲しくなった。
 ゴルヘックに酒を注ぎながら、遠くの水平線を見つめていた。
 何か聞こえた。
 大型ゾイドの声だ。
 立ち上がって水平線を見つめた。
 伸びあがった首が見える。特徴的なキャノピーが、北海の日差しにきらめいた。
 ウルトラザウルスだ。上陸部隊が帰ってきたのだ。
 自分はゴルゴドスのコクピットに飛び乗ると、緊急伝を打電した。
ウルトラザウルス帰還セリ≠ニ。そして手を振った。友の名を叫んだ。声が届くはずもないとわかっていたのに」

 ヘリックU世を含む上陸部隊は、多大な損害を受けながらも、5隻のウルトラザウルスと共に中央大陸に帰還した。帰還と同時に、限界まで作動してきたこの巨大ゾイドのコアも1隻を除いて全てが活動を停止した。
 戦うことではなく多くの命を救うことの出来た満足感を得て、ウルトラザウルスたちは安らかな眠りについていった。


 こうして、惑星大異変の一応の収束を見た。戦死者を含めてのゾイド星の死者、8500万人。数多くのゾイドは活動を停止し、人々は今が争っている時期ではないことを知った。同時に第一次大陸間戦争が終結した。


 国立天文台所長ホセ=フランセスカは、中央山脈天文台下山の際に負った凍傷が脱疽となり、勤務が不可能となっていた。
 一方、一時批判の対象となった副所長パブロ=ディエゴは、彗星衝突の予測を的中させた研究者として、病床のホセに代わり正式に天文台所長の任に昇格していた。パブロは複雑な想いだった。進化生物学を目指しながら、天文学を生業としている今の自分自身に。
 一大権威となってしまったパブロの元には、以前にもまして多くの人々が訪れるようになっていた。責任者となった以上、それらの質問を無下に断ることも出来ず、自分の研究時間が削られていた。今更ながらに、ホセの立場の厳しさを実感していた。
 ホセはあの時、彼の意見を全面的に否定した。しかし、それは責任のある立場として止むを得ない事情があってのことだった。もしあの時ホセがパブロの主張を肯定していれば、共和国内はおろか全大陸的なパニックに陥っただろう。ホセにしてみれば、苦肉の策ではなかったかと、パブロは考えていた。
「所長、衛星軌道10万q以内のデブリの様子、観測データ出ました」
 正式に職員となったファン=ネムポセが、落下の可能性の高い隕石の軌道を示した資料を手渡してきた。ファンが小脇に抱えた本が落ちた。彼は落ちた本を大事そうに拾い上げ、軽く埃を掃った。
「その本は」
 パブロが問いかける。
「これですか。これはミスター・ジェンチェン=パルサンポの著作です」
「誰だ、それは」
「所長は生物学の研究書しか目を通しませんからね。帝国領を統治してきた統監府総統です。思いやりの心で他人と接すれば、必ず自分も幸せになれるのだそうです」
 パブロは、若いファンが奇妙な道徳観に囚われているようで不快になった。科学こそが万能であり、感情などという形の無いものには価値を見いだせないからだ。
 半ば強引に差し出された本を受け取り、彼は読む気もなくページをめくった。
 ある文章に彼の目が留まった。

『人間は科学や技術を持ち合わせているから、自然をコントロールできるという誤った考え方を持ってしまうことがあるのです』

 衝撃だった。今回の惑星大異変は、どんなに精巧な観測技術があり、どれ程被害を予測しても、それを制御することなど不可能だった。人もゾイドもただ宇宙の自然を受け入れるしかなかった。
 思い上がりだ。彼は自分自身を顧みていた。しかし、次のページに書かれた言葉が彼を温かく励ました。それはあまりに当たり前の言葉なのに、彼の心に突き刺さった。

『一人では生きられない』

 この惑星大異変を乗り越え懸命に生きようと思った。人と、ゾイドと、そして自分のために。

 惑星大異変が完全収束するのはその40年の後であった。


『惑星大異変』(終)



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