ゾイド系投稿小説掲示板
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ゾイド戦記2104、遂に始動です! リメイク前の『新機獣戦記ゾイド2104』とは舞台しか共通点を持たない、全く別の物語になりましたが、自分は気に入っています。 大学の文学会での経験を活かし、ヒカストよりも結構小説らしい文章になったと思います。 そして、ゾイドに初めて触れる人にもわかりやすいように文章を工夫してみました。 そんな訳で、これからよろしくお願いします。
惑星Ziの知的生命体『惑星Zi人』は、多数の民族が興亡した後、大きく8つの民族に分かれた。民族同士の交流が盛んになると、友好を深める一方で、異民族の異文化を軽蔑し、敵対心を露にするようにもなっていった。 やがて、民族は中央大陸で『ヘリック共和国』『ゼネバス帝国』の2つの勢力に分かれ、争い始めた。ヘリック共和国とゼネバス帝国の戦いは長期に渡って続き、ついには戦いの末滅びたゼネバス帝国に入れ替わる形で暗黒大陸の『ガイロス帝国』が現れ、戦いは激しさを増していった。 そんな人々を戒めるかのように、惑星Ziに大異変が起こり戦いは終結、Ziにかりそめの平和が訪れた。しかし、民族同士の対立の火種は消える事はなく、40数年の時を経て、ヘリック共和国とガイロス帝国は再び争い始めるのだった。 その一方で、歴史的な敗者となった地底族・火族ら旧ゼネバス人は、ヘリック人・ガイロス人双方から強い差別を受けていた。彼らは40数年という時の中で、今は無き自らの国、ゼネバス帝国を思い続けるしかなかった。 そんな時、再び起こったヘリック共和国とガイロス帝国の戦いの中で、彼らにとって救世主とも言える人物が登場する。 ギュンター・プロイツェン。ガイロス帝国に捕らえられたまま息を引き取ったゼネバス帝国皇帝、ゼネバス・ムーロアの遺児である。 ZAC2102年。ガイロス帝国の摂政となっていた彼は、暗黒大陸で激化する戦いの中で、ゼネバス帝国再建のため、旧ゼネバス軍残党で構成された親衛隊プロイツェンナイツを率いてガイロス帝国首都ヴァルハラで蜂起。これを阻止しようとしたヘリック共和国軍・ガイロス帝国軍の主力部隊を巻き添えに自爆した。 その隙に、プロイツェンの息子であるヴォルフ・ムーロア率いる旧ゼネバス軍残党で構成された精鋭部隊、鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)が海を越え中央大陸へと侵攻。本土をカラにしてでも戦いに勝利を求めていた共和国軍に、鉄竜騎兵団の侵攻を食い止める力は、もう残されていなかった。中央大陸は瞬く間に占領され、中央大陸の地に再びゼネバスの旗が立った。『ネオゼネバス帝国』の誕生である。 かくしてヘリック共和国は崩壊し、ゼネバス人の悲願であったゼネバス帝国の再建は、遂に達成された。ネオゼネバス帝国はヴォルフ・ムーロアが皇帝となって統治される事となり、旧ゼネバス人による中央大陸の支配が始まった。ヴォルフは議会の解散と軍の解体のみを要求する緩やかな占領政策を行い、国民達の恐怖を安堵へと変えた。 だが、自らを優れた民だと自負する風族を中心としたヘリック人が、この敗北を黙って受け入れられるはずはなかった。生き残った共和国軍は各地でゲリラ戦による抵抗を続け、密かに戦力の再建を行い、反撃の機会を窺っていたのだ。 少数精鋭の立場を取らざるを得ないネオゼネバス帝国にとって、共和国軍の戦力回復は国の破滅を意味していた。ネオゼネバス帝国は、無人ゾイド開発による戦力の拡張を進める一方で、共和国軍残党に対して徹底的な掃討作戦を行った。そして、その矛先は西方大陸に取り残された共和国軍『エウロペ駐留軍』にも向けられる。 それが正義なのか悪なのかは、後の世に生きる世代にしか判断できない事だろう。 これは、民族同士の対立に巻き込まれ、陰謀渦巻く西方大陸の地での戦いに身を投じた戦士達の物語である……
中央大陸から見て西にある広大な大陸、西方大陸。またの名をエウロペ大陸。 大きな争いのなかったこの地に戦いの火種が持ち込まれたのは、ZAC2099年の事である。かねてからヘリック共和国本土、中央大陸デルポイに侵攻を企てていたガイロス帝国だったが、中央大陸と暗黒大陸の間はトライアングルダラスという電磁海域になっていて通行が困難になっていた。そこで、西方大陸を中継地点とする事で中央大陸への足掛かりにしようと目論み、軍を派遣した事から全ては始まった。これに対抗するべく、ヘリック共和国も軍を西方大陸へ派遣。かくして、西方大陸の地で『第2次大陸間戦争』が勃発する事となる。 開戦当初は万全の準備を整えていた帝国軍が優勢だったが、開戦から1年経って国力で勝る共和国軍が巻き返し始め、ついには共和国軍が西方大陸の大部分を我が物とした。そして、共和国軍は帝国本土暗黒大陸へ侵攻する。しかしその後、ネオゼネバス帝国の蜂起によってヘリック共和国が崩壊した事により、戦いの視点は再び西方大陸に向けられる事となった。本土から取り残された共和国軍の残党が、多く潜んでいるからである…… * * * 時はZAC2104年。 西方大陸中心部に位置する広大な砂漠地帯、レッドラスト。通称『死の砂漠』。 膨大な数の古代遺跡が眠るこの地は、5年前の戦争では常に最前線だった地であり、その金属成分の関係で赤く染まった砂が暗示するように、幾多の激戦が繰り広げられ、そして多くの血が流されてきた場所である。 所属も階級も関係なく、ただ実力を持ったゾイド乗りだけが生き残れる『死の砂漠』。そんな赤い砂漠の上を飛ぶ、大型の輸送ゾイドがあった。クジラの姿をした、無骨な外観の輸送ゾイド。旧ゼネバス帝国が開発した輸送ゾイド、ホエールカイザーである。 そのホエールカイザーの中が慌しくなった。ドックの中を右往左往する整備兵の渦。その多くは、細い樽型の体を持つロボットで構成されていた。その中に、軍の乗り物の中にいるには不自然とも思える人影があった。 腰にまでさらりと伸びた金髪が特徴的な、1人の可憐な少女。まだ齢20も数えていないようにも見える。左目の目元から頬にかけては水色の細い線が走っている。これは、俗に『フェイスマーク』と呼ばれる一部の惑星Zi人の皮膚に現れる特有の模様で、決して傷跡でもなければ刺青でもない。服装はボディにしっかりとフィットした、赤いバトルスーツ。少女は急ぎ足でタラップを昇り、コックピットに滑り込んだ。鋼鉄のハッチが閉じる。一瞬、少女の視界が闇に包まれるが、少女が計器版のイグニッションキーを押すと、一瞬で光が戻った。前方と左右にあるモニターが起動し、ドックの中を映し出したのだ。同時に、手元のディスプレイも起動する。「今日も問題なしみたいね」 ディスプレイで機体の状態をチェックしながら、幼さの残る声で明るくつぶやく少女。まるで、軍の兵器をいじっているとは思えないようにも見える。すると、眩しい光が正面に入ったと思うと、ドックの正面がぽっかりと穴を開け、そこに青い空が映し出された。ホエールカイザーのハッチが開いたのだ。「ドックよりリリー機へ。発進を許可します」 通信で、無機質な男の声が入る。「はーい!」 リリーと呼ばれた少女は、まるでこれからピクニックに出かける子供のように、右手を上げて笑顔で返事をした。「おいリリー、これから出撃するというのに、不謹慎だぞ!」 通信用モニターに、別の男の怒った顔が割って入る。褐色の肌に黒い髪の男だ。「何言ってるの兄ちゃん。こういう時こそ、リラックスしないとね!」 リリーは逆に、ウインクして声の調子を崩さないまま答えた。「……とにかく早く発進しろ。先頭のお前が動かないとこちらが動けん。もたもたしてると突き落とすぞ!」「そんなあ〜、か弱い妹を突き落とすなんて、兄ちゃんひど〜い!」「………」 リリーは冗談まじりで答えたが、その返答にはさすがに男も呆れたようだ。ため息が1つ聞こえたと思うと、通信はすぐに切れてしまった。「もう、兄ちゃんったら厳しいんだから……じゃ、行こっか!!」 そうつぶやいた後、少女は操縦桿を握り締めた。青い空を見つめる赤い瞳。ペダルをゆっくり踏み始めると、リリーの背後で轟音が鳴り響き始める。すると、機体が少し宙に浮かんだのを感じた。「リリー・フィドラー、はっし〜〜〜ん!!」 遊んでいる子供のような声を上げて、リリーは操縦桿を倒し、ペダルを一気に踏んだ。機体が一気に加速した。反動で体がシートに強く押さえつけられる。機体はそのまま、青く広がる空へと飛び出していった。「やっほ〜〜〜うっ!!」 そのまま、機体は自由落下を始める。リリーは体が落ちていく感触も、遊園地の絶叫マシンに乗る子供のように楽しんでいるようだった。 砂漠にたたずむ、4機の機獣。共和国軍を代表する高速ゾイドの1つであるオオカミ型ゾイド、RZ−009コマンドウルフの小隊である。どうやらこの一帯を哨戒しているようだ。 しかし、4機全てにどこか不自然な所がある。足のアーマーが外れたままになっているもの、背中の砲塔がなくなっているもの、強化ユニットであるアタックユニットの2連装ロングレンジキャノンだけ装備しているもの(普通は機動力低下を補うため、脚部に装着するアシスタンスブースターとセットで使用されるのだが)、そして遂には帝国ゾイド用の大型ビームガトリングを背中に装備しているもの…… このコマンドウルフ達がここまで『普通でない』個性を持っているのには、もちろん『普通でない』理由があるからである。「未確認機の機影がこちらに向かっています!!」 1人のパイロットが叫んだ。コマンドウルフは高いセンサー能力を持ち、索敵力も優れている。このような機体は哨戒の任務にはもってこいと言えよう。「何? どこからだ?」「う……上です!!」 報告し終わった時には、太陽の中から巨大な鉄の塊が4機のコマンドウルフの許に落ちてきた。すぐに散らばる4機。地響きと共に大地が大きく揺れ、砂漠の砂が舞い上がる。舞い上がった砂は、辺りの視界を赤く染める。 硬直する4機のコマンドウルフ。まだ相手が何者なのかわからないまま戦闘に入るのは不利だからだ。4機が見つめる中、赤い砂埃の中に、不気味に赤く光る目が浮かび上がった。一瞬、パイロット達の背筋が凍りついた。そして砂埃が晴れると、空から落ちてきたものの正体が姿を現した。「あ、あれは……!!」 その姿に、パイロット達は戦慄した。 真紅のボディに凶暴な表情を持つ恐竜の頭部が、見る者に強烈な威圧感を与える。背中には大きなブースターを背負い、その横に伸びるアームに付いた真紅の盾が、特徴的なシルエットを生み出している。その盾には、蛇を象ったネオゼネバス帝国の国籍マークが描かれている。帝国軍のティラノサウルス型ゾイド、EZ−034ジェノブレイカーである。「ま、魔装竜……!!」 誰かが叫んだ。 魔装竜。それはジェノブレイカーの別名だ。ゾイドコアを異常活性化させる『オーガノイドシステム』を搭載したこのゾイドは、その狂暴さからエースパイロットでも搭乗者を選ぶほどの高性能機であり、それ故少数生産のみで終わった機体だ。戦闘で目撃された例も非常に少なく、半ば伝説的な存在として共和国兵に恐れられている存在なのだ。「ふぅ〜っ。ホエールカイザーからのダイビング、最高だったわ」 ジェノブレイカーのコックピットの中で、リリーはスカッとした笑みを浮かべた。「のんびりしている暇はないぞ。頭のスイッチを切り替えろ」 通信であの男の声が入った。リリーの視界に、姿勢を低くしてうなり声を上げる4機のコマンドウルフが映った。「そうね……!」 すると、リリーの目付きが、鋭い戦士の目付きに変わった。「じゃ……行くわよ!!」 リリーが叫ぶと、ジェノブレイカーの2つの盾から銀色に光る巨大なハサミが展開した。そして、頭の上に立っていたブレードが、倒れて正面を向いた。強烈な威圧感が更に増し、恐竜からかけ離れた姿と相まって、コマンドウルフのパイロット達には、まるで悪魔のように見えた。そして、魔装竜は重々しさと甲高さが重なり合った声で、天に向かって咆哮した。「ネオゼネバスのために!!」 闘争本能をむき出しにした魔装竜は、背中のウイングスラスターをふかし、風を巻いてコマンドウルフに襲い掛かった。 刹那に間合いが詰まる。気が付けば、砲塔のないコマンドウルフが魔装竜の強烈なキックを受けていた。凄まじい威力。恐ろしいほどの衝撃。倒れた衝撃で、キャノピーが割れた。そのまま足のアーマーなしのコマンドウルフに挑みかかる。コマンドウルフは果敢にも魔装竜に飛び掛ったが、すぐに右のハサミに捕らえられた。それを助けようとロングレンジキャノン装備のコマンドウルフが飛び掛るが、魔装竜はそれに気付き、左のハサミを伸ばす。結果、コマンドウルフは2機揃って胴体を紙切れのように真っ二つにされる事となった。 エクスブレイカー。ジェノブレイカーを特徴付ける格闘武装だ。通常は盾に折りたたまれているこの巨大なハサミの大きさは、中型ゾイドの胴体なら軽くはさめる大きさだ。大型ゾイド相手ででも、首を切り落とすには充分な大きさである。自在に動く盾のアームと相まって、このエクスブレイカーが『第2の腕』として機能し、ジェノブレイカーの格闘能力を大きく向上させているのである。「へへ、楽勝楽勝!!」 リリーが余裕そうにつぶやいたその時、ビームの弾が連続して魔装竜の頭に穴を開けた。コックピットが揺れる。残ったビームガトリング装備のコマンドウルフがこちらにガトリング砲をお見舞いしたのだ。しかし、魔装竜の頭に開いた穴は、すぐに塞がってしまった。「やってくれるじゃないのっ!!」 それに怒ったのか、魔装竜は機体を残ったコマンドウルフに向ける。エクスブレイカーが閃く。「うわあああああっ!!」 恐怖でコマンドウルフのパイロットが悲鳴を上げる。ガトリング砲の雨が激しくなるが、魔装竜は右へ左へと的確にビームの雨をかわし、スピードを緩めない。そしてついには、残ったコマンドウルフにもエクスブレイカーをお見舞いし、真っ二つになった最後の機体は崩れ落ちた。空しく空回りするガトリング砲。 かくして、戦いは一方的な形で終わった。 オーガノイドシステムを搭載したゾイドは、常識を超えたパワーと生命力を発揮する。これを通常のゾイドが打ち破る事は不可能に近い。それは、ZAC2100年の南エウロペ大陸での古代遺跡を巡る戦闘で、ジェノブレイカーのベース機ジェノザウラーが証明済みだ。ましてやこのジェノブレイカーは、そんなジェノザウラーをさらにパワーアップさせた怪物機なのだ。コマンドウルフのようなゾイド数機に対して、ジェノブレイカーが負ける可能性は、まずないと言っても過言ではない。「ざっとこんなものかな」 リリーはふぅ、と一息ついてつぶやいた。そこに、ジェノブレイカーの許に別のゾイドが歩いてきた。ジェノブレイカーと同じ2足恐竜型だが、顔は細長く、背中には特徴的な背びれが生えている。色はパステルグリーンだ。帝国軍のスピノサウルス型電子戦ゾイド、EZ−060ダークスパイナーである。「リリー、まだ戦いは終わっていないぞ」 あの男からの通信が入る。どうやらダークスパイナーには彼が搭乗しているようだ。「わかってますって。じゃ、本隊と合流しないと! サポートよろしくね!」 リリーはそうにこやかに言って、ジェノブレイカーを砂漠の奥底へと向かわせた。ダークスパイナーもそれに続いた。 そこは、砂漠にたたずむ共和国軍の小さな基地だった。多くのゾイドが、擬装用のネットをかぶった状態で体を休めている。施設も簡易的なもので、基地そのものは簡易的なもののようだ。 基地の向こうでは、基地のゾイド部隊が、味方の部隊と激しい戦いを繰り広げている。しかし、リリー達の周りにうごめくものは何もなかった。 リリーに与えられた任務。それは、本隊が基地のゾイド部隊を引きつけている間に、基地の背後から回り込んで敵の不意を突く奇襲作戦だ。音もなく飛行できるホエールカイザーの特性を利用し、気付かれる事なく背後に回り込み、降下する事に成功したのだ。 そして今、基地を目視できる距離までリリーのジェノブレイカーは近づいていた。敵はまだ、こちらに気付いていない。奇襲は成功だ。ジェノブレイカーと、ダークスパイナーが停止する。「フフフ、向こうの戦いに夢中で、別働隊がこっちにいるなんて気付いてないようね」 リリーがクスクスと笑った。「こちらに近づく機影はない。安心して撃てるぞ」「よし、それじゃ行きますか!」 男の言葉を聞いたリリーは、早速行動を始めた。ジェノブレイカーの足についたアンカーが展開し、機体を固定する。ジェノブレイカーが姿勢を低くし、口を大きく開けると銀色の砲身が口の中に現れた。背中のコンバーターがうなり始める。すると、それに合わせて砲身も光り始めた。 これこそ、ジェノブレイカーのもう1つのハイパワー兵器、集束荷電粒子砲である。ベース機ジェノザウラーから受け継いだ兵装であり、最強無敵のゾイドとして名高い巨大ゾイド、デスザウラーが最初に装備した武器としても有名だ。空気中の静電気を取り込み、体内でエネルギーに変換してさらに増幅させ、粒子ビームとして発射。エネルギー消費は激しいが、対象を原子レベルまで分解してしまう、ゾイド史上最強の兵器だ。 ジェノザウラーのそれは、デスザウラーのものに比べれば破壊力は低いものの、それでも中型ゾイドを軽く蒸発させるほどの威力がある。さらにジェノブレイカーでは、背部に荷電粒子コンバーターを搭載した事で、出力アップと連続発射が可能になったのだ。「エネルギー充填120%!!」 動かない目標なので、外す心配はない。それから来る余裕からか、リリーはそんな事を叫んだ(もちろん、充填されたエネルギーは120%という限界を超えた数値にはなっていない)。「ファイヤーッ!!」 その叫びに合わせて、リリーはトリガーを引いた。口から放たれた閃光が、真っ直ぐ基地へと飛んでいく。 閃光は容赦なく、そしてゆっくりと基地の施設とゾイドをなぎ払った。閃光に焼き払われ、炎に包まれる基地。そこにいた兵士達は、思わぬ方向からの突然の攻撃に、パニック状態に陥っている事だろう。 それを遠くに見て、勝ち誇ったように天に吠えるジェノブレイカー。「よし、これで作戦完了ね」 それを見たリリーが笑みを浮かべた。 普通の少女がこのような火の海を見たら、悲鳴を上げて正気ではいられなくなるだろう。そんな光景を見ても彼女が平気でいられるのは、やはり1人の兵士である証なのだろう。「兄ちゃんの出番はなかったね」「何を言っている。誰の通信妨害のお陰でここまでうまく行ったと思ってるんだ」 通信用モニターで男が浮かない表情をした。「あ、そうか」 それを聞いたリリーは、自分の言った事が間違いだった事に気付いた。リリーの言った『出番』とは、ダークスパイナーを特徴付ける『ある機能』の事を言っていたのだ。いくら奇襲を掛けたとはいえ、通信で基地に増援を要請されたら後の行動が不利になってしまう。哨戒部隊のゾイドとしか戦わなかったのは、彼の通信妨害のお陰であった事に、リリーは気付いた。「ごめんなさい」 リリーは少し舌を出しながら笑って、男に謝った。 その時、遠くで轟音が鳴り響いた。味方部隊の戦闘が、基地の近くにまで迫ってきていた。「とにかく、後は制圧部隊の仕事だ。帰還するぞ」「はーい!」 男の言葉にリリーはまた明るく返事をして、ジェノブレイカーと共に帰途に着いた。 こうして、奇襲作戦による基地攻撃作戦は成功に終わった。 * * * そんな戦いの一部始終を、双眼鏡でひっそりと見つめている影があった。「あれがネオゼネバス帝国か……」 双眼鏡を覗いているのは、浅黒い肌を持つ、白い髪の青年だった。服装はどう見ても私服。軍人ではないようだ。見つかるのを恐れているかのように、砂漠の砂と同じ色の布をかぶって、丘の上から戦場を見つめている。「ヘリック軍だけでも厄介なのに……でも、もし味方になるって言うのが本当なら、心強いよなあ……敵の敵は味方って言うし……」 青年はそうつぶやいた後、そろそろ戻るか、とつぶやき、丘を降りていった。そこには、地面から突き出たグレーの金属の塊があった。青年が砂に埋もれたスイッチを押すと、金属の塊はガコンと音を立てて開いた。なんとそこから現れたのは、ゾイドのコックピットだった。 青年はコックピットに滑り込むと、イグニッションキーを押す。すると、計器版が明るく光り始めた。そして、鋼鉄のキャノピーを閉めると、砂の中に姿を隠していたものの正体が、音を立てて砂の中から姿を現した。グレーの体に真紅のフレームと銃火器を持つ、スラリとした風のようなフォルムのライオン型ゾイドだった。 そのライオン型ゾイドは、天に向かって高らかに吠えた。 * * * 砂漠にたたずむ、ネオゼネバス帝国の軍事基地。先程の共和国軍の基地とは異なり、地面はしっかり舗装され、近代的な施設が揃った、本格的な基地だ。 そこに、2機のゾイドが入ってきた。あのジェノブレイカーと、ダークスパイナーである。2機はホエールカイザーにもいた樽型の体を持つロボットの指示に従って、シャッターの開いた格納庫に入り、所定の位置に並んで機体を止めた。 元が惑星Ziに生息する金属生命体である『メカ生体』ゾイドは、機体を止めても機能を完全に停止する事はない(機能の停止、それはゾイドの死を意味するものになってしまう)。そこで、ゾイドの心臓部であるゾイドコアに神経を接続し、直接働きかけて機体を制御する基本的な制御システムを利用し、ゾイドコアに『睡眠』の指令を送る事で機体を停止させている。この状態をスリープモードと呼ぶ。スリープモードにする事によって、ゾイドそのものを休ませると同時に、勝手に動き回る事も未然に防いでいるのだ。 ジェノブレイカーのコックピットのハッチが開き、リリーが姿を現した。長い間窮屈な所にいたためか、リリーは両手を挙げて伸びをした。そして、昇降用のリフトを使って、地上へと降りる。「おかえり、リリー!」 そこに、誰かがリリーに声を掛けた。人の声とは違う、人工的な声。見ると、集まってきたロボットの1機が、リリーに向けて黒いアームを振って出迎えている。細い樽型の白いボディに、足はなく浮遊している姿は、他のロボットと共通している。「ただいま、アントン!」 リリーも、まるで家族に対してのように、そのロボットに手を振って笑顔で答えた。アントンと呼ばれたロボットは、リリーの許にスゥッと駆け寄ってくる。「どうだった、今日は?」「そりゃもちろん、大成功よ! 敵も大した事なかったしね!」 アントンというロボットに対して、旅行から帰ってきた子供のように話すリリー。「おお〜、また大活躍って感じ? さすがネオゼネバスの未来を背負って戦う、若き兵士だね!」 アントンは笑みを浮かべて機用にお世辞まで言ってみせた。顔そのものは2つの目が付いただけのシンプルな形の無機質な金属だが、2つの目に眉毛に当たるものがついていて、それが動いて表情を作っている。「もお〜っ、アントンったら上手ねっ!」 リリーも思わず笑った。 アントンは、『ソキウス(戦友の意)』シリーズと呼ばれるゾイドの整備から操縦、戦闘までこなす、完全自律型AI搭載型ロボットの1体だ。ザバットに搭載されたものを発展させたAIを搭載し、人間と同等の知能と判断力、学習能力を持つ。会話も可能で自分自身の意志を持ち、性格も個体によってさまざまである。ゼネバス兵残党の集まりであるため少数精鋭の立場を取らざるを得ないネオゼネバス軍にとっては、まさになくてはならない『戦友』となっているのだ。「よく戻ってきた、リリー軍曹」 そこに、別の声が割って入った。渋みが効いた男の声だ。そこには、茶色の肌にグレーの髪、ブルーグレーの瞳を持つ、中年の男がいた。緑を基調とした制服をしっかりと着こなしている。「あ、ロタール大佐!」 その姿に気付いたリリーは、すぐにピシッと姿勢を整え、凛々しい表情で敬礼をした。 彼の名はロタール・ベンケン。この部隊の司令官である。「今回の奇襲攻撃をうまく成し遂げたようだな。さすがは将来有望の若き兵士だ」「もちろん! あたしとジェノブレイカーにかかれば、あのくらいの任務はお茶の子さいさいだから!」 リリーは大佐という目上の、それよりも自分より遥かに年上の人間に対してとは思えないほどの軽い口調で答え、胸を張った。「おいリリー、相手は大佐殿だぞ。言葉遣いには注意しろ」 そこに、ダークスパイナーに乗っていたあの男が姿を現した。来ているバトルスーツは、リリーのものと違い、地味な緑色だ。その声に驚いて振り向いたリリーは、「あっ、兄ちゃん……」と言葉を漏らした。「まあ、その事は気にするな。グイード少尉、いつも妹のお守りですまんな」 ロタールは男に目を向けた。それに対して男はすぐに敬礼をした。 彼の名はグイード・フィドラー。リリーの実の兄である。「気にしすぎよ兄ちゃん。兄ちゃんは生真面目すぎるんだから」「それと言葉使いの問題は別だぞ! 少しは礼儀というものを心得たらどうなんだ!」 兄妹の言い争いが始まった。それも、ロタールにとっては微笑ましいものに見えた。「まあまあ、その辺にしろ。リリーも、礼儀がない訳ではない。それに、その明るさが我が部隊のムードメーカーにもなっているのだからな」 ロタールの言葉が、2人の言い争いを止めた。どうやらロタールは、リリーの口調を気にしていないようだ。 実際、リリーはその明るさで戦場に出た兵士達をリラックスさせる。なんだかんだ言って注意するグイード自身も、そんな兵士達の1人だった。リリーは既に、この部隊でのアイドル的な存在として定着していた。 ロタールは話を続ける。「そして何よりも、リリーはネオゼネバスのために戦う、戦士としての自覚を持っている。決しておちゃらけている訳ではない」「……」 その言葉に、グイードが反論する事はなかった。「とにかく、次の戦いに備えてしっかり体を休めておけ、リリー」 ロタールは、リリーの肩にポンと手を置いた。「はいっ! このリリー・フィドラー軍曹、ネオゼネバス帝国のためならば、たとえ火の中水の中です!」 リリーは場の空気を読んだのか、わざと敬語を使って敬礼しながらはきはきと言った。「意気込みはいいな。期待しているぞ」 ロタールが答えると、リリーは手を下ろし、ロタールの前を後にした。「アントン、ジェノブレイカーのメンテ、お願いね」「了解! いつものようにピカピカにしてやるからね!」 リリーが思い出したように左手を上げて言うと、アントンははっきりと答え、ジェノブレイカーへと向かっていった。それを見届けたリリーは、格納庫を後にしたのだった。 * * * 控え室に入ったリリーは、すぐにバトルスーツから軍服へと着替えた。 ゾイド搭乗時に着用するバトルスーツは、少数精鋭であり、人的資源の乏しいネオゼネバス軍の事情を反映し、動きやすく、かつ防弾性の高い素材で作られ、パイロットの生存性を考慮した設計になっている。基本的なデザインは同じだが、精鋭の兵士ぞろいの軍である事もあって、オーダーメイドで作られる事が多いため、色は個人のパーソナルカラーになっている事が多い。リリーのバトルスーツの色である赤も、リリーがオーダーしたパーソナルカラーだ。 一方、軍服はヘリック共和国軍のグレー、ガイロス帝国軍の青とも異なる、緑を基調としたカラーである。さすがにこの色が変わる事はないが、これまた精鋭の兵士ぞろいの軍である事もあって、細かい部分のオーダーメイドや、個人が勝手に改造する事も珍しい事ではない(この事に関しては、軍内で特にルールは決められていない)。実際、リリーの軍服は袖が完全にカットされてノースリーブとなっていて、下はズボンではなく、女の子らしい水色のミニスカートを勝手に着ている。リリーもやはり、17歳の年頃の少女なのだ。 そんな軍服に着替えて自室に戻ったリリーは、すぐにシャワールームに入り、戦闘で流した体の汗を流し、髪を洗った。その後は、兄グイードと合流し、食堂へと向かった。リリーにとって、食事は数少ない楽しみの1つだ。カウンターで食事を受け取り、テーブルに持っていく。そして、兄グイードと並んで席に座り、食事を口に運んだ。「う〜ん、いい事した後のご飯はおいしい〜!」 リリーは満面の笑みを浮かべる。「お前は幸せ者だな、いつ死ぬかわからない軍隊にいるというのに」 どこも加工していない、まともな制服を着ているグイードは、そんなリリーの姿を見てそう言った。 その時、リリーの表情が凍りついた。食事を進む手が止まる。リリーの脳裏に、閉じ込めていた記憶がフラッシュバックした。 ――自分自身に容赦なく襲い掛かる、無数のゾイド達。それに対して、悲鳴を上げる自分自身の姿――「……兄ちゃん、人には言っていい事と悪い事があるのよ」 リリーは凍りついたように動かないまま、ポツリと答えた。その表情に、いつものにこやかな表情は消えていた。それを聞いたグイードは、自分の言った事を改めて理解した。「な……すまない。変な事を言ってしまったな」「いいのよ、別に」 慌てて謝るグイードに、リリーはそれだけ答えて、食事を続けた。心なしか、先程よりも手を動かすスピードが遅くなったように見える。リリーの触れてはいけない部分に触れてしまった。グイードはそんな自分の発言を後悔した。(そうよ……あたしのような人を出さないために、あたしはネオゼネバスのために戦ってるんだから……!) リリーはそう自分に言い聞かせ、食事を口に運んだのだった。明日の戦いに備えるために。
中央大陸から見て西にある広大な大陸、西方大陸。またの名をエウロペ大陸。 ZAC2099年、この地で第2次大陸間戦争が始まった。元々西方大陸は、その広さの割には人口が少なく、小規模な国家が各地に点在する、大きな争いの少ない平和な大陸であった。そんな大陸に住む人々にとってヘリック共和国・ガイロス帝国は、共に人の土地に土足で踏み込み、勝手に争いを始めた侵入者であった。 両国は西方大陸を植民地とし、さらに野生ゾイド資源の豊富さと、ゾイドの能力向上と進化のプログラム『オーガノイドシステム』が古代遺跡から発見された事が重なり、両国はこぞって植民地を広げ、野生ゾイドの捕獲と多く眠っている古代遺跡の制圧に力を注いだ。しかも最終的に戦いに勝利した共和国は、帝国の植民地を解放する事なく接収し、支配地域を一層広めていったのだ。 当然、彼らの植民地支配に異を唱える者達が現れ始め、ZAC2100年以降、各地で武装化したゲリラが活動を始めるようになる。彼らは共和国・帝国両軍に対して抵抗を行い、輸入したゾイドを使用して、両軍に損害を与える者も現れた。しかしそれは散り散りで小規模なものであり、軍にとっては大した問題ではなく、速やかに鎮圧される運命にあった。だが、西方大陸全土を共和国が制圧し、彼らが暗黒大陸への侵攻に目を向けていた隙に、散り散りだったゲリラは結集し『エウロペ民族解放戦線』を結成、共和国に対し、本格的な軍事抵抗を始めたのである。 共和国崩壊によって西方大陸に取り残された共和国軍エウロペ駐留軍は、このエウロペ民族解放戦線の攻撃に、大いに悩まされる事となった。本国からの補給が事実上断たれてしまったために、ゾイドの慢性的な部品不足に悩まされ、活動を大きく制限されたためである…… * * * 赤い砂が広がるレッドラスト。そこで、大きな戦いが起こっていた。 エウロペ民族解放戦線が、共和国軍エウロペ駐留軍に攻撃を仕掛けたのだ。だが、そんなエウロペ民族解放戦線のゾイドは、共和国軍エウロペ駐留軍とは比較にならないほど旧式のものだった。 前線に立つゾイドの1つは、旧ゼネバス帝国軍のトリケラトプス型ゾイド、EMZ−16ゲルダー。その重厚な外観からもわかるように、重装甲が特徴の小型ゾイドだ。もう1つは、ヘリック共和国軍のカマキリ型ゾイド、RMZ−09スパイカー。ゲルダーとは逆に細い体を持つこのゾイドは、そのフレームがむき出しのボディから、俗に『骨ゾイド』と呼ばれる共和国初期のゾイドの1つだ。 惑星Zi大異変後、ヘリック共和国・ガイロス帝国両軍は野性ゾイドの保護を行い、軍の再建を行った。 大打撃を受けたのは大陸間戦争で主力として活躍していたゾイドであり、その多くは個体数が激減、あるいは絶滅し、量産を再開する事ができなくなった。結果、両軍の主力は中央大陸戦争時代のゾイドへと『先祖帰り』する事となった。生き残った個体には個体数が安定し、量産が再開されたものも多かったが、中には個体数関係で安定した数を配備できないものもあった。このため、そのようなゾイドは退役して余剰機となり、輸出用として西方大陸や東方大陸に売却された。 エウロペ民族解放戦線のゾイドも、ヘリック共和国・ガイロス帝国双方から輸入した、第一線から引退して久しい旧型機で構成されているのである。 そんなエウロペ民族解放戦線のゾイドを前にして、コックピットの中で1人の男――アレックス・バーレイ大尉はあくびをかみ殺した。「全く、つまらない戦いだ……」 目の前で戦いが繰り広げられているというのに、退屈そうな顔を浮かべるアレックス。 彼の搭乗しているゾイドは、RZ−053ケーニッヒウルフだ。コマンドウルフの後継機として開発され、コマンドウルフよりボディも大型化し、パワーも高い。エウロペ民族解放戦線のゾイドとは真逆の、最新鋭のゾイドだ。周りで戦っている味方も、RZ−030ガンスナイパーを中心とした、エウロペ民族解放戦線のゾイドと比べれば、ずっと新しいゾイドで構成されていた。しかしその中にも、ところどころ装備がなくなっていたり、違う武装を施したりした機体も多い。 そんなケーニッヒウルフに、1機のスパイカーが踊りかかった。腕のハイパーサーベルが閃く。それに気付いたアレックスは、すぐに操縦桿を引いた。ケーニッヒは後ろにステップする。ハイパーサーベルが空を切る。そのまま地面に落ちた隙を見計らって、ケーニッヒは爪を振り下ろした。スパイカーは、気の毒なほど簡単に押し潰された。 さらに砲撃が来る。ゲルダーだ。ゲルダーを捕らえたケーニッヒは、機体を向き直し、肩に着けられた5連装ミサイルポッドからミサイルを放った。直撃。数機のゲルダーが、まとめて炎に包まれた。ゲルダーは重装甲が特徴のゾイドだが、それは就役当時主力だった小型ゾイドの攻撃を相手にするように造られたに過ぎず、ケーニッヒのような大型ゾイドにとっては、ないも同然だった。「いつまでもこんなゾイド共と戦っていたら、腕がなまるぜ。せっかく部品が足りなくて困っている所を出てきてやったのによ……」 また退屈な言葉がこぼれる。その時、また横からスパイカーが踊りかかった。不意を突かれたアレックスは、反応が少し遅れた。しかし、そのスパイカーは目の前で真っ二つに切り裂かれ、爆発した。ザッ、と敵が下がった。「しっかりしてください、大尉。任務に集中してください」 通信用モニターに女性の顔が映った。黒いショートヘアーの女性だ。同時に、目の前に青いゾイドの姿が現れた。後方に長く伸びたタテガミが特徴のライオン型ゾイド。RZ−028ブレードライガーだ。 彼女はリーラ・オルビー中尉。アレックスの副官を務める女性兵士だ。「すまないな、リーラ」 腕がなまったのは本当のようだ。そう心の中でアレックスはつぶやいた。 アレックスは、強い敵と戦う事に生き甲斐を感じる兵士であった。そのため3年前は、最前線である暗黒大陸での戦いへの参加を強く望んでいたが、叶わずにここ西方大陸に配属となったという経緯がある。この戦場に、彼が求める強敵はどこにもいない。向かってくる敵は、彼にとっては全て雑魚に過ぎなかった。来る日も来る日も、彼はこんな弱い敵と戦わなければならなかった。「だがな……」「しかし、これは任務です。私的な事情を挟むのはよくないですよ」 そんな言葉もリーラに遮られた。通信用モニターに、リーラのまじめな表情が浮かぶ。彼女は女だが生粋の軍人だ。リーラらしい言葉だ、と思うと同時に、どんなに退屈でも任務は果たさなければならないという軍人の理を突きつけられる。「もっと強い敵は現れないものか……」 こんな退屈な日々は、これからも続きそうだ。ため息を1つついて、アレックスは目の前の敵に顔を向き直し、後退する敵に向けて機体を進ませた。 しかしその時、突然ケーニッヒの右で砂漠の砂が巻き上がった。そしてすぐに、大きな塊がケーニッヒ目掛けて飛び掛ってきた。今まで感じた事のない、すさまじい衝撃。ケーニッヒが音を立てて倒れた。「くっ、何だ!?」 こんな強烈な攻撃は、小型ゾイドではできないはずだ。では何だ? アレックスが顔を見上げると、そこには今まで見てきたエウロペ民族解放戦線のゾイドとは全く異なる中型ゾイドが、ケーニッヒのもぎ取った右足を加えて立っていた。グレーの体に真紅のフレームと銃火器を持つ、スラリとした風のようなフォルムのライオン型ゾイド。コンピューターが識別した、そのゾイドの名は……「ライジャーだと!?」 アレックスは驚いた。EHI−09ライジャーは、旧ゼネバス帝国が中央大陸戦争末期に開発した高速ゾイドである。戦線への投入が終戦間際であったため、本格的に使用される事がないまま終わってしまったゾイドだ。現在は第一線から姿を消した旧式機となっているのだが……「大尉!!」 すぐにリーラのブレードライガーが動いた。左側のバインダーが開き、ブレードライガーを象徴する武器、レーザーブレードが姿を現す。そのままライジャーに飛び掛る。しかし、ライジャーはそれを軽やかにかわした。反転するブレード。ライジャーはブレードから離れる。一度間合いを取ろうとしているのだろうか。「逃がさない!!」 すぐにリーラは後を追う。ブレードの背中から、ロケットブースターが現れる。ロケットブースターに点火し、加速するブレード。これなら追いつける。リーラは確信していた。相手は旧型、ブレードの最高速度は305km/h。新型相手ならまだしも、旧型の中型ゾイドが300km/hクラスのスピードなど出せるはずがない。そう思っていたからだ。しかしその判断は、大きく裏切られる事となった。 ライジャーも加速した。所詮は悪あがきだ、とリーラは思ったが、ライジャーはどんどんブレードから遠ざかっていく。リーラは驚愕した。モニターの表示が正しいなら、相手の速度は320km/h近く。帝国軍の高速ゾイド、ライトニングサイクスに迫るスピードだ。しかも目の前の機体は、ライトニングサイクスと違ってブースターのような補助推進装置は一切見当たらない。素足でライトニングサイクスに迫るスピードを出すなど、あり得ない事だった。「何なの、あいつは……!?」 そんな言葉をこぼすリーラ。 やむを得ず戦術を変更する。振り切られる前に射撃で足を止めるしかない。右側のバインダーが開く。本来そこには反対側と同じくレーザーブレードがあるのだが、現れた武器は、本来シールドライガーの武装である展開式ミサイルポッドだった。これは個人のカスタムではなく、エウロペ駐留軍の台所事情によりレーザーブレードが失われたための代用品である。シールドライガーは、ブレードライガーの原型機だ。展開式ミサイルポッドを取り付けるのには、何の苦労もない。 放たれるミサイル。ライジャーを追尾して飛んでいく。しかし、ライジャーが急停止して反転する。そしてすぐにジャンプした。ミサイルはライジャーの真下を通り過ぎ、地面で爆発する。「しまった!!」 気付いた時には遅かった。ライジャーはそのままブレードに飛び掛った。すさまじい衝撃。そのままもつれ合って地面を転がり回る2体。ブレードは何とかライジャーを振り解いた。「リーラ! 深追いはするな、ここは退却するぞ!」 そこに、アレックスからの通信が入る。「大尉……!」「あの奇襲攻撃で、こっちも足をもぎ取られちまった。それに、こちらのガンスナイパー部隊のダメージも甚大だ。お前は陽動されたんだよ!」 リーラのブレードがライジャーを追いかけている間、エウロペ民族解放戦線のゾイド達はガンスナイパー部隊に取り付き、大きなダメージを与えていたのだ。「……了解」 リーラはそう答え、機体をライジャーの前から退却させた。アレックスのケーニッヒはスモークディスチャージャーを撃ち込む。たちまち周囲が煙に包まれる。その隙に下がる事ができた。「まさかあんなゾイドがいたとはな……あいつもやってくれるぜ……」 それを見届けながら退却するアレックスの表情には、笑みが浮かんでいた。待ち望んでいた強敵との邂逅。彼の退屈な日々は、ここで終わりを告げようとしていた。「待ちやがれっ!」 ライジャーのコックピットにいたのは、あの白い髪の青年だった。逃げようとする敵を追いかけようとした時、通信が入った。「ニーノ、深追いしてはいけません」 通信用画面には『SOUND ONLY』と表示されている。どうやらゾイドからではないようだ。声は落ち着いた女性の声だ。「エミリアさん?」「私達の作戦目的は達成されました。これ以上攻撃する必要はありません。熱くなりすぎです」 エミリアというらしい女性の冷静な声を聞いて、ニーノと呼ばれた青年は、熱くなっていた心を冷やされた。「ちぇっ、あとちょっとで仕留められそうだったのに……」 ニーノは残念そうに舌打ちをして、ライジャーを反転させた。「まあ、いいさ。次は必ずライジャーのキバで仕留めてやるぜ」 後退する敵軍を後ろに見ながら、ニーノはつぶやいた。 * * * 砂漠の真ん中にある、とあるオアシス都市。 数日前、この都市はネオゼネバス帝国軍によって、共和国軍エウロペ駐留軍から解放された。 西方大陸へ派遣できる軍備を整えたネオゼネバス帝国は、西方大陸の共和国軍残党を掃討するにあたって、エウロペ民族解放戦線という共和国軍と戦うゲリラ組織の存在を知り、同盟を結んで共に戦う事を決めた。いわゆる『敵の敵は味方』という発想である。 ネオゼネバスは、西方大陸に植民地的野心はなく、共和国軍に勝利した暁には、西方大陸を解放すると宣言。戦力の限られたネオゼネバスにとって、味方にできる存在がいるに越した事はない。一方、エウロペ民族解放戦線にとってネオゼネバス帝国も『侵入者』である事に変わりはなかったが、自分達よりも遥かに大きく近代的な戦力を持ち、理由はどうであれ自分達に助太刀する意志があるネオゼネバス帝国は、心強い援軍に思えた。 こうして両者の思惑は一致し、ネオゼネバス帝国とエウロペ民族解放戦線は同盟を結んだのであった。装備の質で勝るネオゼネバス軍は、共和国軍エウロペ駐留軍の勢力圏を次々と奪回。しかし、エウロペ駐留軍は依然として激しい抵抗を行っていた。この戦いが終わりを告げるのには、まだ時間が掛かるだろう。 そんなオアシス都市の町並みの中に、あのリリーの姿があった。軍にいる時の軍服姿ではなく、白地に青のポイントが入ったミニスカートでノースリーブの涼しそうなワンピースを着ている。はたから見れば、どこにでもいるごく普通の少女だ。軍人だとはとても思わないだろう。 そんなリリーは、大きな紙袋を抱えて、楽しそうに鼻歌を歌いながら歩いていた。どうやら買い物をしていたようだ。「久しぶりに街を歩くのって、楽しいよね〜。ねえ、兄ちゃん」 リリーは振り向いた。しかし、そこには兄グイードの姿はなかった。リリーは今まで、兄グイードと共に街を散策していた。それがいつの間にか、リリーの側からいなくなっていたのだ。「あれ、兄ちゃん? どこ行ったの?」 リリーは慌てて辺りを見回すが、兄らしい人影はどこにも見当たらない。はぐれた。リリーは初めて気が付いた。「あぁ、もう……こんな時にはぐれちゃうなんて……ついてないなあ……」 リリーははぁ、とため息を1つついた。グイードも、自分を探しているかもしれない。勝手に帰ったら、それはそれで後が悪くなる。かといってこれから闇雲に探しても、余計に深みにはまるだけかもしれない。かといってこの場でじっとしていても、見つけてくれる保障はないし、何より退屈だ。リリーは途方に暮れてしまった。 そんな時、誰かがリリーの横を小走りで通り過ぎようとした。その人物の肩が、思い切りリリーの肩にぶつかってしまった。「きゃっ!」 リリーは衝撃でしりもちをついてしまう。持っていた紙袋は投げ出され、中から紙袋に入っていたいくつかの箱がこぼれだした。「いたたたた……」「あっ、ごめんなさい! ケガは……あっ」 そんな男の声が聞こえたので、リリーは顔を見上げた。そこには、1人の青年がいた。白い髪で、赤い半袖のシャツに黒のジャケットを身に着けている。年齢はリリーと同じくらいだろうか。その青年は、リリーの右手を取ったまま固まっている。見知らぬ青年に自分の手を取られている事に、リリーは一瞬心をときめかせてしまった。実は、その青年も同じ思いを抱いていた事には、リリーはまだ気付いていなかった。「ああっ、ご、ごめんなさい!」 リリーの手を取っている事に気付いた青年は、顔を真っ赤に染め、慌てて手を離した。「す、すみません! いっ、急いでいたもんで、つい……」 青年は顔を真っ赤にしながら、言葉を噛みながらも賢明に何度もお辞儀をした。それを見たリリーは思わず、クスッと笑ってしまった。(この人って、何だかおもしろい) そんな印象を受けたからだ。「いいのいいの。気にしないで。別にケガなんてしてないし」 リリーは笑みを浮かべながらそう答えてスカートについた砂を払いながら立ち上がり、落ちた紙袋に手を伸ばし、紙袋からこぼれた箱を拾おうとした。「あっ、僕も手伝いますっ!」 すると、青年がすぐにリリーの横に来て、リリーを気遣うように慌てて箱を拾い始めた。そんな青年の姿を見たリリーは、1つの事を確信した。(やっぱりこの人、あたしに惚れてる……!) このような経験をしたのは、これが初めてではなかったから、リリーはこの事に気付けたのだ。 軍に入る前、リリーは学生だった。リリーはこの時から男子学生に『クラス一の美人』として人気があり、ラブレターをもらったり、告白されたりする事が日常茶飯事だった。何人かとは興味半分で付き合った事もあったが、結局それ以上の関係に発展する事はなかった。(モテる女の子って大変ね……でも、それも好きなんだけどね) 心の中で笑みを浮かべたリリーは、青年に話を切り出した。「ねえ、名前なんて言うの?」「へ?」 一瞬、青年は何を聞かれたのかわからず、声を裏返してしまった。リリーはまたクスッと笑った。「だ、か、ら。あなたの名前を聞いてるの。あたしはリリー。リリー・フィドラーよ」 慣れた様子でリリーは笑みを浮かべて、先に名前を名乗った。それを聞いた青年は、また顔を赤らめた。見ず知らずのかわいい女性に、いきなり自己紹介しろと迫られたのだ。彼にとっては、予想外の急接近だった。「あ……ぼ、僕はニーノ。ニーノ・リカータです……」 青年はぎこちなくも自己紹介した。「そんな、固くならなくたっていいよ。タメでいいよ、タメで」「え、いきなり……!?」 笑顔で忠告するリリーを前に、余計に戸惑う青年、ニーノ。ニーノにとって、リリーの行動はもはや予測不能だった。ニーノは完全に、リリーに翻弄されてしまっていた。(ニーノって、かわいいのね) そう思いながら、リリーはまた話を切り出す。「ねえニーノ、ちょうど今退屈だったの。どこかに連れてってくれないかなあ?」 リリーは言葉の最後のトーンを上げて、慣れた口調でニーノに問いかけた。兄グイードがいない今、ニーノと一緒にいれば退屈しないで済むだろう。そう思ったのがきっかけだ。「え、えぇ? 連れてってって言われても……」 ニーノの頭は半ばパニック状態だった。一方でリリーは、そんなニーノが戸惑う姿も楽しんでいた。「もう、頼りないわねぇ……そんな調子だったら、女の子に嫌われちゃうぞぉ〜」 リリーはわざと満面の笑みを浮かべ、ニーノをからかってみた。ニーノの顔がさらに赤くなる。「わ、わ、わ、わかったわかった。連れて行くから、そんな事言わないでくれよ」 その言葉に、ニーノは完全にまいってしまった。「じゃ、決まりね!」 リリーはウインクで返した。そんなリリーの思わぬ攻撃に、ニーノは心を打ち抜かれてしまった。意識が遠ざかりそうになるのを、ニーノは全ての理性をフル動員して押さえ込んだ。そんな事したら、また「頼りない」と言われてしまいそうだったから。 2人が向かったのは、とある喫茶店。テラスには白いテーブルがいくつかきれいに並んでいる。 リリーとニーノは、その1つに向かい合って座った。そして、そのままジュースを注文する。しかし、ジュースを受け取った後も、ニーノはなかなか話しかけられずにいた。心はさっきよりも幾分落ち着いてきている。だが話そうにも、何を話せばいいのかわからなかった。女の子が好みそうな話など、彼にとっては未知の領域だった。しかし、リリーのかわいらしい表情を見ているだけで、ニーノは心が癒される。「さっきから黙りっぱなしだね」 リリーはその事に気付き、ストローをくわえてジュースを口に運んだ後、さりげなく言葉を投げかける。ニーノの全身の毛が逆立った。「え? そ、そうかな……?」 慌ててフォローしようとするニーノ。「もしかして、こんなにかわいいあたしに見とれちゃってた、とか?」 リリーは満面の笑みを浮かべ、わざとそんな事を言ってからかってみる。言われた方のニーノは、図星だったものだからたまったものではない。「え!? そ、それは……」 顔を真っ赤にして、返す言葉がわからず戸惑うニーノ。ジュースを飲んでごまかそうとする。「な〜んてね! 冗談よ」 戸惑うニーノの姿を楽しみ、クスクス笑うリリー。それでもニーノにとっては、その言葉は気晴らしにもならなかった。自分の心を見透かされた気分になってしまったのだから。(こんなんじゃダメだ! 女の子の前で、いつまでもオドオドしてたら! 落ち着けニーノ!) ニーノは自分にそう言い聞かせる。ニーノは昔から、同世代の異性にはめっぽう弱く、その前だと恥ずかしくなっていつもの自分ではなくなってしまうのだ。 ニーノは勇気を振り絞り、気合だめにジュースを一口飲んで、初めて自分から話を切り出した。「ねえ、リリー」「何?」 リリーの何気ない返事。リリーの赤くきれいな瞳が、ニーノの言葉を待っている。その純粋な視線に一瞬負けそうになったが、ニーノはこらえて話を続けた。「リリーってさ、どこから来たの?」「中央大陸。海を渡ってここに来たの」 リリーは、ネオゼネバス帝国軍に所属している事は言わなかった。軍に入ってるなんて、同世代の人間には言いたくなかったのだ。軍の中に、リリーと同世代の人間はいない。リリーは派遣された場所で同世代の人間と知り合えた事を嬉しく思ったが、軍にいるなんて教えたら、相手が引いてしまいそうな気がしたからだ。「えっ!? 中央大陸!? じゃあ、君は、ヘリックの……!?」 ニーノは驚いて、思わず立ち上がった。「ヘリック? 違う違う、あたしはネオゼネバスから来たの」 すぐにリリーはフォローを入れる。それを聞いたニーノは、「なあんだ……」とほっと胸をなでおろして、腰を下ろした。「ヘリックだったら、何か悪い事でもあるの?」 リリーは、『ヘリック』という言葉が気になり、聞いてみた。「いや……僕達の敵なんじゃないかって思って……」「敵?」 民間人が言うとは思えない言葉を聞いて、リリーは驚いた。ニーノは嫌われるかもしれないと思ったが、思い切って話した。「実は僕……ゲリラやってるんだ。『エウロペ民族解放戦線』っていう……」「エウロペ民族解放戦線……」 その言葉に、リリーは聞き覚えがあった。他国による支配を拒んで抵抗運動を行うゲリラが結集した組織。そして、西方大陸での打倒ヘリックのために、自分の所属するネオゼネバス軍と同盟を結んだ組織だ。「ニーノも、戦ってるの? 自分の故郷のために……」 そんな事を聞くリリー。明らかに女の子が言う言葉ではない事を言われて、ニーノは少し驚いた。「ま、まあね……そりゃ、あいつらに僕達の故郷を荒らされたくないしさ……」 戸惑いながらも答えるニーノ。しばらく間を置いて、リリーは口を開いた。「カッコイイじゃない、それ」「……え!?」 リリーの笑みを含んだ、思わぬ返事にニーノは驚いた。リリーにとっては、自分が同じ立場にいるのだから、わからないはずはない事だ。「あたしだってわかるよ、自分の故郷のために戦う人の気持ち」 ストローでジュースをゆっくりとかき回すリリーは、そこで言葉を止めた。ネオゼネバス軍の兵士だという事を言おうか一瞬迷ったが、言うのを踏み止まった。しかし、リリーの目付きがどこか変わっていた事には、ニーノも薄々気付いていた。「故郷を守るために戦う戦士って、やっぱりカッコイイよね。あたし憧れちゃうなあ……」 リリーは兵士だとバレないように、わざと女の子らしい言葉を選んで明るく話を続けた。「あ、あぁ、そりゃ、どうも……」 褒め言葉を言われたニーノは、照れてしまった。それを隠そうと、ジュースを口に運んだ。「リリー!!」 すると、突然リリーの耳に聞き慣れた声が入ってきた。見ると、そこにはいらだった様子でこちらに歩いてくる、リリーの兄グイードの姿が。「あっ、兄ちゃん! どこ行ってたのよ!」 リリーが席を立つ。「それはこっちのセリフだぞ! しばらく目を離してたら、いつの間にこんな所で遊んでいたのか!」 たちまち兄妹の言い争いが始まった。まあ、2人にとってはいつもの事なのだが。「に、兄ちゃん!? リリー、この人お兄さんなの!?」 グイードの姿を見たニーノは、グイードが『兄ちゃん』と呼ばれた事に驚いて声を上げてしまった。それもそのはず、リリーとグイードの外見は、兄妹とは思えないほど似ていなかったからだ。リリーは金髪だが、グイードの髪の色は黒。肌の色も、リリーは白だがグイードは褐色だ。グイードには、リリーにはあるフェイスマークがない。そして、顔付きそのものも、どこか似ているようで似ていないように見えた。少女であるリリーに対し、グイードは明らかに大人の男性に見える。兄妹というよりは、親子と言った方が違和感のないくらいだ。それもそのはず、グイードの年齢は48歳。17歳のリリーとは、30近くも歳が離れているのだ。これは、70歳で地球人の40歳に相当するといわれるほど寿命の長い惑星Zi人にとっても不自然な事だ。「そうだけど?」 リリーは何気なく返事をする。本当に兄妹だと確かめたニーノは、改めてグイードに驚きの視線を向けた。「リリー、彼は?」 グイードがニーノに顔を向ける。ニーノは、グイードと目が合ってしまった。「あっ、は、初めましてお兄さん! 僕はニーノ・リカータです!」 ニーノはすぐに立ち上がり、慌てて自己紹介しようとして噛んでしまった。「ニーノか、すまなかった。うちの妹が迷惑をかけてしまったようだな」「迷惑なんてかけてないよっ! ね、ニーノ?」 2人の間に割り込んだ後、ニーノに笑顔を振りまくリリー。その笑顔に、胸をときめかせてしまうニーノ。「リ、リリーは何も悪くありません! も、元は僕が悪いんです! ごめんなさい!」 噛みながらもリリーをフォローしようと頭を下げるニーノ。「まあ、謝る事はない。さあ、リリー。帰るぞ」 グイードはそう言って、ニーノに背を向けた。「はーい!」 リリーは明るく返事をして、グイードの後についていく。「あっ……」と声を出して右手を伸ばすニーノ。「ニーノ、今日は楽しかったよ」 リリーは振り向いてニーノにそう言った後、ウインクした。その言葉を聞いて、ニーノは顔を赤らめたまま、呆然としてしまった。ニーノは、そのままリリーの背中を見送る事しかできなかったが、彼の心の中は、女の子に気に入られたという嬉しさに満ちていた。「……また、会えるといいなあ」 リリーもまた、そんなニーノに今まで付き合った事のある異性とは違う、好印象を抱いていた。
中央大陸から見て西にある広大な大陸、西方大陸。またの名をエウロペ大陸。 ZAC2103年、ネオゼネバス帝国は共和国軍残党掃討という名目で、かねてから計画していた『エウロペ侵攻作戦』を実行に移した。共和国軍エウロペ駐留軍は中央大陸に近く、かつ本部が置かれているロブ基地に程近いデルダロス海から侵攻してくる事を予測していたが、その裏をかき、ネオゼネバス軍は暗黒大陸側に広がるアンダー海から西方大陸に上陸した。ネオゼネバス軍は先にロブ基地を叩くのではなく、確実にエウロペ駐留軍を掃討し、弱体化させる事を選択したのだ。かねてからエウロペ駐留軍に抵抗していたエウロペ民族解放戦線と合流したネオゼネバス軍は、『エウロペ侵攻作戦』は順調に進んでいった。 エウロペ駐留軍は戦力的に不利な立場にいた。本国からの補給が事実上断たれてしまったために、ゾイドの慢性的な部品不足に悩まされたのだ。そのため、部品の共食いが後を絶たず、戦闘で失われるよりも多くのゾイドが運用停止状態に陥り、実際に稼動できるのは保有機数の4割にも満たないという有様だった。現地で入手した非正規部品の使用や、同盟国ガイロス帝国の支援、そして本国からの密輸による部品提供によって、信頼できる戦力をかろうじて維持している状態であった。 しかし、彼らも手をこまねいているだけではなかった。この西方大陸の地で、共和国軍はある極秘プロジェクトを実行に移そうとしていたのである…… * * * 砂漠にたたずむ、エウロペ駐留軍の拠点。 そこには、幾多のゾイドが見るも無残な形で砂をかぶって転がっていた。片足をもぎ取られて倒れたままのコマンドウルフ、首がなくなったガンスナイパー。他にも、色々なゾイドが、どこかのパーツをもぎ取られ、スクラップ同然の状態で放置されている。これらは全て、戦闘によって損傷したものではない。全て、『部品の共食い』によって運用不能状態になったゾイド達なのだ。エウロペ駐留軍の台所事情が、どれだけずさんなものかを如実に表している。 その中に、アレックスの乗るケーニッヒウルフの姿もあった。前回ライジャーとの戦闘でもぎ取られた足は、しっかりと修復されていた。しかし、このケーニッヒは他のゾイドと比べれば、まだ恵まれている方だった。「大尉、これでケーニッヒの足のストックは使い果たしてしまいました。次は壊さないでくださいよ」「ああ、わかっているつもりだ」 整備兵の忠告にそう答え、ケーニッヒの前を後にする。しかし、彼の心の中にはもどかしさがあった。「戦闘で機体を壊すなとは、無茶な要求だぜ……」 そんな愚痴を声に出してみる。戦闘では、機体が傷付く事は避けられない。いくら腕利きのパイロットでも、後方支援でない限り、機体を一切傷付けずに帰還するという事は至難の業だ。 今のエウロペ駐留軍は部品不足に陥っている。関節のサーボモーターのような日常的に消耗する部品ですら、満足に手に入らない状態だ。もしどこかに損傷を負ってしまったら、必ず修理してもらえる保証はない。そうなってしまったら、手負いの状態のまま戦わなくてはならなくなる。本来の力を発揮できないとなれば、被弾する確率も増える。完全に悪循環に陥ってしまうのだ。しかし、それを敵は見逃してはくれない。エウロペ民族解放戦線もまた、エウロペ駐留軍が100%の力を発揮できない事を知っており、そこに抜け目なく付け入ってくるのだ。さらに、ネオゼネバス帝国もここに迫ってきている。このまま持久戦に持ち込まれれば、自軍の崩壊は目に見えている。「大尉」 そこに、聞き慣れた声が聞こえてきた。リーラだ。リーラはアレックスの横に並び、共に歩いてくる。「リーラか」「ケーニッヒウルフ、修理できてよかったですね」「まあな。だが、次は壊すなと言われてしまったよ。全く無理難題な事を言いやがる……」「修理できただけでも、いいのではないですか? 私のブレードライガーなんて、片方のブレードがないのですから……それに、大尉が無事でいてくれただけでも、私は嬉しいです」 リーラの顔に笑みが浮かぶ。「まあ、生きてるに越した事はないが、このままだとこちらはどんどん劣勢になっていくぞ」 特別悲観的な人物ではないアレックスだが、今はその事が気になって仕方がなかった。誰だって負ける事は嫌いだ。「大尉はまだ見ていないのですか? 『ゾイドブロックス』を」 リーラが、聞きなれない言葉を口にした。「『ゾイドブロックス』?」「東方大陸の企業である、ZOITEC社が開発した人工のゾイドです」 希望がある。負の感情を振り払うのに、これほど心強い援軍はない。リーラは、それはこの拠点に搬送され始めている事を告げた。 輸送用ゾイド、グスタフの貨物室から下ろされるもの。それは、アレックスにとって初めて見るものだった。 貨物室から出てくるのは、黒い色をした、いくつもの立方体。人間よりやや小さいくらいの大きさ。中には銀色のものもいくつかある。立方体の面には1つずつ穴が開いている。それに混じって、ゾイドの首や足などのパーツが下ろされる。大きさからして小型ゾイドのようだ。「こいつが『ゾイドブロックス』……なのか?」 今までのゾイドとは似ても似つかないパーツを見て、アレックスは目を疑った。「はい。整備性と量産性を高めるために、ボディがブロックパーツで構成されているんです。ブロックス同士なら、どんな機体ともパーツの共有が行えるのが特徴です」「なるほど、これならパーツの問題も解決する、という事か」 リーラの説明に、うなずくアレックス。「それだけではありません」「まだ何かあるのか?」「『チェンジマイズ』というプログラムを使い、2体以上のブロックスのパーツを組み替え、新しい1体のゾイドに合体させる事が可能なのです」「合体だと!? 何かの間違いだろう!?」 リーラの言葉に、アレックスは驚愕した。ゾイド同士が合体するなど、常識では考えられない事だった。かつて、第1次大陸間戦争時には『トランスファイターゾイド』と呼ばれる、変形して他のゾイドに合体できるゾイドが存在し、実戦にも投入されたが、その有用性は実証されず、わずか3種類が開発されたのみで、歴史の闇に消えていった。「技術は進歩しているのですよ、大尉。プログラムの組み換えを行い、合体に使用するパーツを選択すれば、合体させるゾイドの形態と能力は自由に変化させられます。ブロックスは、無限の可能性を持つゾイドなんです」 普通、ゾイドは元の生命体と同じ姿の体を持たなければ、機体を正常に機能させる事ができない。しかし、それが可能になったのは、人工ゾイドコア開発のおかげであった。たとえ体を分解した状態でも正常に機能を維持でき、かつ低コストで大量生産でき、個体による性能のバラつきもなく、機体とパイロットの精神リンクすら必要としない。これを利用して生み出されたのが、ゾイドブロックスなのだ。「こんな奴を造ったのは、ただ者じゃないな……」 アレックスはそう自分を納得させた。 その時、青く広がる空の上を、轟音が通り過ぎた。空を見上げると、高い空の上を1機の小さな細身のゾイドが通り過ぎているのが見えた。あんな小さなゾイドは、共和国軍にはない。「……早速ゲリラの偵察機のお出ましか」 アレックスはつぶやいた。ここは陸上部隊が配備されている場所だ。迎撃しようにも飛行ゾイドはない。迎撃するのは空軍の部隊の仕事だ。そんな小さなゾイドの後ろを、これまた小型だが先程よりも太目の2機のゾイドが追跡していた。 * * * 拠点の上空を飛ぶ細身のゾイド。それは、RMZ−08ペガサロス。ヘリック共和国から輸入したこの鳥型ゾイドは、スパイカーと同じくフレームがむき出しで、俗に『骨ゾイド』と呼ばれる共和国初期のゾイドの1つだ。「ちっ、来やがったか!!」 コックピットに警報が鳴り響く。コックピットに座るペガサロスのパイロット、カーラ・ロンバルディはすぐに操縦桿を思い切り倒した。機体が急旋回を始める。Gで体がシートに押し付けられ、頭の血が下がる。その影響で、視界がどんどん暗くなっていく。体が押しつぶされそうになるのを、カーラは力ずくで押さえ込んだ。 警報が鳴り止んだ。ペガサロスの真下を、ミサイルが通り過ぎたのだ。操縦桿を元に戻す。Gも元通りになり、視界も明るくなったが、まだ安心はできない。敵はまだこちらを捕らえ続けているのだ。敵はカーラが見た事のない新型ゾイド。フクロウ型ゾイドBZ−004ナイトワイズ。ボディがブロックパーツで構成されている、ゾイドブロックスの1つだ。2機のナイトワイズは、振り切ろうとするペガサロスの機動に、しっかりとついて来る。「へっ、さすが新型、やるじゃねえか」 一瞬だけ後ろを向いたカーラがつぶやいた。「……だがな、こっちだっていい情報見つけた所なんだ! このままやられてたまるかってんだ!」 カーラは、エウロペ民族解放戦線のゲリラだ。愛機ペガサロスを駆り、偵察や対地攻撃を主任務としている。彼女は、つい先程敵拠点に運ばれる『謎のパーツ』を発見したばかりなのだ。敵の『新兵器』と見て間違いない。『新兵器』を発見したとなれば、すぐに持ち帰らなければならない。 警報がまた鳴り響いた。ナイトワイズがミサイルを発射したのだ。「それに、新型なら必ず、旧型に勝てるだなんて思うなよっ!!」 カーラは頭に着けたゴーグルを下ろし、操縦桿を思い切り引き、スロットルを全快にした。尾部のブースターロケットが点火する。ペガサロスが機首を上げ、急激に上昇を始めた。ミサイルはペガサロスの急激な機動についていけず、ペガサロスの真下を通り過ぎた。 すぐにナイトワイズも追いかけようとする。しかしペガサロスは、猛スピードで上昇していく。ナイトワイズとの距離をみるみるうちに開け、たちまち振り切ってしまったのだ。1秒間で1000m以上も高度を稼ぐ。それは、ナイトワイズのパイロットには信じられない光景だった。 実はペガサロスは、高度10000mまで9秒という記録を持つ、驚異的な上昇性能の持ち主なのだ。この記録は、未だに破られていない。最高速度も機動性も、新型の戦闘機型ゾイドには及ばないが、この上昇性能だけは、ペガサロスの誇るべき特性なのである。 カーラは操縦桿を引き、機首を更に上げる。機体が背面になり、天と地が逆転する。更に機首が上がり、機首は地面を向き、急降下を始める。そのまま機体を引き起こすと、正面にナイトワイズを捕らえた。後ろに回りこんだのだ。照準器が、ナイトワイズを正確に捉えた。ロックオンした事を示す、ピーという甲高い音が鳴り響く。「お前らが追い掛け回したせいで、ペガサロスはご機嫌斜めだ。悪いが落とさせてもらうぜ!!」 カーラの叫びと共に、クチバシのビームバルカンと、コックピットの横についたパルスビーム砲が一斉に火を吹いた。たままち蜂の巣にされるナイトワイズ。あわれナイトワイズは、火の塊となって地面へと吸い込まれていった。 カーラはすぐに、残ったもう1機のナイトワイズを捕らえた。ナイトワイズは振り切ろうとするが、カーラはしっかりついていく。照準器が、またしてもナイトワイズを的確に捉えた。ロックオン。「落ちなっ!!」 トリガーを引くと、今度は背中についたミサイルが発射された。ミサイルは的確にナイトワイズへと吸い込まれていった。そして爆発。ナイトワイズは粉々になった。「へへっ、ざっとこんなもんさ!!」 それを見届けたカーラは、すぐに機体を水平にし、機体を加速させた。ペガサロスは、勝ち誇ったように素早く空域を離脱していった。 * * * リリー達のいる、ネオゼネバス軍基地。 その格納庫には、フィドラー兄妹の愛機、ジェノブレイカーとダークスパイナーの姿があった。その2機の整備を行っているアントンは、テキパキと機械の手を動かし、整備に励んでいた。「『エウロペ侵攻作戦』の初期目的である、北エウロペ大陸の制圧はほぼ達成した。今後も予定通り、侵攻作戦を継続していく予定だ」 格納庫の中を歩くロタール。手には書類を持っている。その横には、リリーの姿が。「でもさ大佐、物資不足の共和国軍なんて大した相手じゃないよ。こっちにはジャミングウェーブだってあるわ。変な事される前に、先にロブ基地を攻めた方がいいんじゃないの? そうすれば、奴らだって降参して……」「その心意気だけは認めよう、リリー。だが、それが通用するほど戦争は甘いものではない。共和国は侮れない敵だ」 リリーの提案を、軽く払いのけるロタール。「で、でもさ……」「エウロペ民族解放戦線との戦いでは、ジャミングウェーブの使用は制限されているのは知っているだろう。エウロペ民族解放戦線は、ジャミングウェーブの対策をしていないからだ。それに、いずれ共和国もジャミングウェーブの対策に乗り出しているはずだ。ジャミングウェーブの優位性も永遠には続かない」 ロタールの冷静な説明を前に、リリーも反論する事はできなかった。「それを裏付けるように、共和国軍の新型ゾイド開発の情報も入っている。事は慎重に運ぶ必要がある」「それって、『X−DAY計画』って奴?」「そうだ」 リリーが口にした『X−DAY計画』。かつて共和国軍が中央大陸戦争において、反抗作戦のためのゾイド開発計画につけた名称だ。その名称が40数年ぶりに復活したという事は、明らかに『今までとは違う何かを造ろうとしている』気がある事を示している。「そんな新型ゾイドなんて、あたしがジェノブレイカーで倒してやるわよ!」 リリーは目の色を変え、自身のある表情を浮かべた。「なかなか頼もしい事を言うな、リリー。だが、お前はまだ若い。無茶な真似だけはするなよ」「若いから、技量が低いとでも言うの? あたしだって、ネオゼネバス軍の精鋭パイロットの1人だもん! 大佐は、あたしの実力を信じてネオゼネバス軍に入れてくれたんじゃない。だから安心して。頼れる部下がいるんだから!」 リリーは笑みを浮かべた。 ロタールは思った。やはりリリーは、ただの乙女ではない。ネオゼネバス軍に志願したのには、それなりの理由があるに違いない。ロタールは、リリーの過去を知らない。しかし、それを決意させる何かがあった事は、疑いようもない事実であった。「ならばその志、実際の働きで示してもらうぞ。その若い力を、共和国に思い知らせてやれ」「もちろん! 任せといて!」 リリーは自信満々に答えて、ロタールの前を去っていった。「大佐殿に戦術の進言をするとは、軍曹のくせにいい身分だな」 そんなリリーの前に、グイードが現れた。「だって、あたしと大佐は仲がいいんだもん!」 リリーはいつもの笑顔で答えた。その事は、グイードも承知していた事だった。リリーとロタールは結構関係が深く、親子のようなものなのだ。その理由は、リリーが軍に入る経緯と関係しているのだが……「リリー、ジェノブレイカーは万全に整備しておいたよ! もちろんグイードのダークスパイナーも!」 そこに、アントンが自信満々な様子で現れた。「ありがと、アントン! じゃ、早速次の任務の支度しないと!」 リリーは張り切った様子でその場を駆け出していった。「あいつは、緊張感というものがないのか……?」 それを見たグイードは、呆れた様子でつぶやいた。 バトルスーツに身を包んだリリーは、ジェノブレイカーのコックピットに座る。ジェノブレイカーが起動した。一歩ずつ足を踏みしめ、格納庫から出て行く。「まだよ。暴れたいのはわかるけど、今は移動するだけだから」 操縦桿から流れ込む感情を読み取ったリリーは、計器板に向けて言った。 ゾイドは、単に操縦桿とペダルだけで動かせる訳ではない。ゾイドは生物であり、自らの意志を持つ。そのため、パイロットとの相性もゾイドを動かす上で欠かせない要素なのである。いくら腕利きのパイロットでも、ゾイドとのウマが合わなければその力を発揮する事はできないのだ。 リリーの乗るジェノブレイカーは、オーガノイドシステムを搭載した影響で凶暴化しているため、扱いはさらに難しく、オーガノイドシステムに適応できるパイロットにしか操れないゾイドになってしまっている。これは、オーガノイドシステムが後々普及しなくなった理由にもなっている。リリーは、若いながらオーガノイドシステムに適応できる、数少ないパイロットの1人なのだ。 格納庫を出る。横を見ると、そこには真紅の巨大なゾイドの威風堂々とした姿があった。ゴリラ型ゾイド、EZ−015アイアンコング。それも、強力な火器とブースターでチューンナップした、アイアンコングPKである。『ブラッディコング』という愛称を持つこのアイアンコングは、ガイロス帝国摂政であり、ネオゼネバス帝国初代皇帝でもあるギュンター・プロイツェンの親衛隊『プロイツェンナイツ』用のゾイドだ。 このスペシャルなアイアンコングに搭乗しているのは、ロタールだ。ロタールは、元プロイツェンナイツ所属のパイロットだった。プロイツェンナイツの多くは鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)の中央大陸への侵攻に先立つ陽動のため、ガイロス帝国首都・ヴァルハラで反乱を起こし、倒れていったが、中には鉄竜騎兵団と合流し、中央大陸侵攻に参加した者もいた。ロタールもその1人である。 彼は旧大戦を戦い抜いたベテランであり、その高潔な性格と相まって、ネオゼネバス軍の兵士達にとって最も信頼できる指揮官の1人なのである。「各機、これより移動を開始する。万一に備え、索敵は怠るな」 ロタールの通信が全機に伝えられる。「了解」「はーい!」 グイードは真面目に返事をするが、リリーはいつものように明るく返事をした。「少しは真面目に返事をしたらどうだ?」「あたし、ちゃんと元気に返事してるもーん!」 それを聞いたグイードの注意にも相変わらず明るく答えるリリー。それを聞いたグイードは、やはり呆れてため息をついた。 リリーが足元を見ると、アントンらソキウスシリーズ達が手を振っているのが見えた。装甲下に覆われたコックピット越しでは自分の姿を見る事ができないとわかっていながらも、リリーは笑顔で手を振って答えずにはいられなかった。 ロタールのアイアンコングPKを先頭に、リリーのジェノブレイカーが歩き出した。グイードのダークスパイナーも続く。基地のゾイド部隊は、アイアンコングPKを先頭に次々と基地を発進していった。 * * * 砂漠にあるオアシス都市の横にたたずむ、巨大な古代遺跡。 一見すると、どこにでもありそうな古代遺跡だが、入り口には2機のスパイカーが門番するように立っている。そして、その近くに立つ、赤い旗。中央には西方大陸が描かれている。 ここは、古代遺跡を利用したエウロペ民族解放戦線の基地なのだ。この遺跡は内部が広く、ゾイドの格納・整備には充分なスペースがある。基地に使用するにはもってこいの場所なのである。 そんな遺跡の1室を利用した部屋に、机の前に座り、1枚の写真を眺める1人の女性の姿があった。手にしている写真は、先程カーラ・ロンバルディが持ち帰った、偵察写真だった。「ゾイドブロックス、ですか……」 女性はポツリとつぶやいた。「エミリアさん、時間です」 そこに、戸をノックする音と共に、男の声が聞こえた。「わかっています。私もちょうど行こうと思っていた所です」 エミリアと呼ばれた女性は、机から立ち上がり、素早く何かを顔に身に着けると、銀色の長く美しい髪を翻し、部屋を出て行った。彼女の部屋にあるガラスのない窓に映っていたのは、赤いアイアンコング率いるネオゼネバス軍の部隊だった。 * * * 古代遺跡の前で止まる、ロタール率いるネオゼネバス帝国軍。パイロット達は、次々と機体から降りていく。「へぇ〜、ここがエウロペ民族解放戦線の!」 リリーはジェノブレイカーのコックピットから降りて、古代遺跡を利用した基地に見入っていた。「リリー、観光に来たんじゃないんだぞ」「わかってますって」 そこに現れたグイードの忠告を、いつものように軽く流すリリー。一方で、ロタールもまた、アイアンコングから地上へと降り立っていた。すると、そんなロタールの前に、銃を携えたエウロペ民族解放戦線のゲリラ達と共に、1人の女性が現れた。「んん……!?」 その姿に、リリーは目を見開いた。 ロタールの前に現れた女性は、青いマントを羽織って、体を覆っている。驚くべきは、さらにその目元も、白い仮面で覆われていた事だ。素顔は完全に隠されているが、その外観は美しい。銀色の長くてきれいな髪が風にたなびき、仮面の下から覗かせる瞳には、高い知性と強い意志も垣間見てとれる。「初めまして。私がエウロペ民族解放戦線のリーダー、エミリア・カレーナです」「私は、ネオゼネバス帝国軍第14大隊大隊長、ロタール・ベンケンです。我がネオゼネバス軍への協力、感謝いたします」 ロタールとエミリアは、しっかりと握手を交わした。「あの人がエウロペ民族解放戦線のリーダーなの……?」「本人がそう言ってるんだ。こんな所で嘘を言ってどうする」「でもさ、なんで仮面なんか被ってるのさ?」「そんな事俺に聞くな」 リリーとグイードはそんなやり取りをそっと交わした。「共和国軍を倒す事は、私達に共通した理念です。互いに手を取り合う事は、当然の事です」 エミリアは丁寧な口調で話す。「おっしゃる通りです。今回の共同作戦も、成功する事を願いましょう。いや、成功させなければなりません」 ロタールの部隊がエウロペ民族解放戦線の基地に向かった理由。それは、エウロペ民族解放戦線と合流し、共同で共和国軍掃討を行うためであった。お互い相手の思惑など知る由もないが、理由はどうであれ味方になってくれる勢力がいれば、これほど心強い事はない。エウロペ民族解放戦線のリーダー、エミリア・カレーナも、そう判断して同盟を受け入れたのだ。 その時、空から轟音が鳴り響いた。飛行ゾイドの飛ぶ音だ。そこにいた兵士達は皆、空に目をやった。そこには、こちらに近づいてくる1機の鳥型ゾイドの姿があった。「あれは……?」「我が航空隊のペガサロスですね」 エミリアがロタールに説明した。それを聞いたロタールら兵士達は、少なくとも敵ではないようだと判断した。 ペガサロスは、どんどんこちらに地面を近付けながら近づいてくる。「ちょ、ちょっと待って……あいつ、ここに降りるつもりじゃ……!」 リリーの予感は的中した。その鳥型ゾイドペガサロスは、リリー達の見る目の前で、巨大な車輪を地面に付けた。そしてそのまま、こちらに近づいてきた。「わわわっ!! こっちに来るっ!!」 声を上げたリリーだけでなく、そこにいた兵士達は慌てて巻き添えを食らうまいとその場を離れ始めた。しかしペガサロスは、兵士達を巻き込むまでもなく、元いた場所の目の前で止まった。ペガサロスはSTOL(短距離離着陸)性能にも優れている。そのため、狭い基地からでも支障なく運用する事が可能なのである。 そんな停止したペガサロスの許に、エミリアはゆっくりと向かった。「大変だ!!」 キャノピーを開けて素早く降りてきたのは、ゴーグルを下ろしたままのカーラ・ロンバルディであった。「カーラ・ロンバルディ、何があったのですか?」「向こうの町の部隊が、共和国軍に攻撃されてるんだ!!」 そんなカーラの言葉を聞いた誰もが、驚きの声を上げた。カーラが指差す先には、煙が上がっている遠くの町が。「それも、完全に街ごと包囲されてる状態なんだ!! すぐに増援を……!!」「!!」 包囲。その言葉を聞いたリリーの心の中で、何かが動いた。リリーはすぐに、ジェノブレイカーの許に向かって走り出した。「お、おいリリー!!」 それに気付いたグイードの言葉にも、リリーは耳を傾けないまま、ジェノブレイカーのコックピットからぶら下がる昇降用リフトでコックピットへと向かった。コックピットに入ったリリーは、すぐにジェノブレイカーを起動させる。起動したジェノブレイカーは、多くの兵士達の前で高らかに吠えた。「リリー!? 何をやっているんだ!! 緊急事態とはいえ、勝手な行動をするな!!」 それに気付いたロタールは、すぐにジェノブレイカーに向かって叫ぶが、コックピットの中のリリーには届くはずがない。ジェノブレイカーはそのまま、ホバーで地面から浮いた後、背部のブースターを全快にし、砂を巻き上げその場を飛び出して行ってしまった。「リリー……まさか……!?」 飛び出して行ったジェノブレイカーの背中を見つめるグイードには、思い当たる節があった。「ごめん大佐、勝手な行動なのはわかってる……でもあたし、放っておけないのよ……」 ジェノブレイカーのコックピットの中で、リリーはつぶやいていた。「敵に包囲される人の気持ち、ものすっごくわかるから……!!」 煙が上がる町を真っ直ぐ見つめるその赤い瞳には、強い意志が浮かんでいた。
真紅の鬼女。そう呼ばれたパイロットがいた。 彼女が戦場に姿を現したのは、ZAC2101年。ヘリック共和国軍が西方大陸をほぼ手中に収め、ガイロス帝国軍が西方大陸から撤退を始めた時期の事だった。 撤退する帝国軍を追撃する共和国軍の前に突如現れ、その闘争心をむき出しにした。彼女は単身共和国軍の大軍に戦いを挑み、たった1機だけで追撃を断念させるほどの大打撃を与えた。彼女の駆る真紅のゾイドは、周りをうごめく物全てに閃光を浴びせ、焼き払っていった。しかも、その中には友軍であるはずの機体まで混ざっていたという。かろうじて生き残ったパイロットが語るには、焼き尽くされたゾイドの残骸の中央で吠える真紅のゾイドの姿は、まるで人ではない、得体の知れない何かが乗り移っているように見え、戦慄を覚えたという。その後も彼女は、暗黒大陸に侵攻する共和国軍の前に幾度となく立ちはだかり、共和国軍兵を震撼させた。 敵味方の区別なく、触れたもの全てを容赦なく破壊する彼女。悪魔と呼ぶにも死神と呼ぶにも、そんな生易しいものではない。いつしか彼女は、『真紅の鬼女』と呼ばれるようになり、敵味方両方から恐れられたという…… * * * 砂漠を高速で進むジェノブレイカーのコックピットの中で、リリーは焦っていた。 遠くに見える町から、煙が上がっている。そこに、包囲された友軍――エウロペ民族解放戦線がいるのだ。もともたしていると最悪、全滅も考えられる。それだけは避けなければならない。 ジェノブレイカーの速度は、既に340km/hを超えている。完全にフルパワーだ。そのパワーを出し始めてから、大分時間が立っている。デジタル計器の回転系は、既に赤いラインが入った部分にまで出力が上がっている事を示している。オーバーヒートの危険性がある事を示しているのだ。 どのマシンにも共通している事だが、最大速度を長時間維持する事はできない。最大速度というのは、フルパワーで出せる速度である故、自ら出せる限界の速度でもある。当然、長時間もその速度を出し続けていれば、本体にかかる負荷も大きくなる。それでも、リリーにはそこまでして向かう理由があった。(急がなくちゃ……!!) 握る操縦桿に、自然と力が入った。その瞳は、普段の少女の瞳とは似ても似つかない、鋭い眼光を放っていた。 * * * 周囲から雨のように降り注ぐ無数の炎の槍。10、20、30……数えられるはずがない。槍が地面に落ちる度に爆発が起こり、その度に地面が大きく揺れる。そして、1機、また1機と味方のゾイドが倒れていく。まさに死の豪雨だ。 そんな情景をコックピットの画面越しに見つめながら、ニーノは唇を噛んだ。「くそっ……!!」 町に迫るゾイドの群れに目を向ける。それは、彼にとって見た事のない、2足恐竜ゾイドだった。尾がライフルになっていて、それでこちらを砲撃してくる。しかしそれは、ガンスナイパーとは似ても似つかない直線的な体を有していた。ニーノは知る由もなかったが、これこそ共和国軍の『ゾイドブロックス』の1つ、BZ−002ウネンラギアである。 小型ゾイドの火器とはいえ、その雨の中では中型のライジャーでさえ身を伏せたまま身動きが取れない。小型ゾイドの武器はそれよりも大型のゾイドに致命的なダメージを与える事はできなくても、関節に当たって行動を制限される事があるからだ。ましてや、最近の小型ゾイドには中型・大型ゾイドにも大きなダメージを与えられるものが多く登場している。油断はできない。「ビアンカ!!」 ニーノが振り向くと、そこには地面にその身を埋めている、鋼鉄の塊があった。巻貝の貝殻を髣髴とさせる形状に、1門のキャノン砲と小さなコンテナが左右についている。「こっちは大丈夫よ」 通信用画面に映ったのは、ニーノよりも幼い容姿の、青みを帯びた肌に黒いショートヘアーの少女だった。その口調は静かめで、おとなしそうな印象を与える。「うっ!!」 すると、すぐに画面の中で少女が大きく揺れた。大きな衝撃で、一瞬画面が乱れる。被弾したのだ。しかも衝撃の大きさからして、直撃のようだ。普通のゾイドなら、かなりのダメージを負ったはずだ。「どうしたビアンカ!?」「……平気よ。シーパンツァーのカラは、この程度なら破れないから」 ビアンカというらしい少女は、焦るニーノを安心させるように笑みを浮かべた。 この少女、ビアンカ・カネッティが搭乗しているゾイドは、EMZ−31シーパンツァー。かつて旧ゼネバス帝国が開発した、ヤドカリ型水陸両用砲撃支援型ゾイドである。現在は第一線から姿を消した旧式機となっている。その野生体の本能を活かし、重装甲を誇るシェルユニットを背負い、緊急時に体をシェルユニットに引き込む事で、攻撃から完全に身を守る事ができるのである。今その本体はシェルユニットの中に引き込まれ、その姿を外部から見る事はできない。しかし、その間は攻撃行動を行う事はできない。シェルユニットの外側に武装こそついているが、肝心の照準装置は引き込まれる本体にあるからだ。「でも、このままじゃ……!!」 画面に映るビアンカの青い瞳は僅かに潤んでいた。いくら防御力が高いといっても、このまま攻撃できない状況ではいずれ押し込まれてしまうだろう。最悪、大型ゾイドなどが来て撃破される事も考えられる。刻々と迫る死への恐怖に、ビアンカの心は少しずつ押しつぶされそうになっていた。「父さん……母さん……兄さん……!」 ビアンカは、祈るように首からぶら下げた金色のペンダントをグッと握り締めた。「がんばれ!! きっとエミリアさんも増援を出してくれるさ!! それまで……」 ニーノが言い終わる前に、コックピット内に警告音が鳴り響いた。その刹那、機体に凄まじい衝撃が走った。ライジャーの体に巨大な弾丸がぶつかったのだ。「ぐあっ!?」 倒れたライジャーの機体を立たせて、ニーノは衝撃が走った方向を見る。そこには、見覚えのある純白の大型ゾイドがあった。ケーニッヒウルフ。その鋭い視線は、間違いなくこちらを見ている。「見つけたぞ……見つけたぞ、ライジャー!!」 すると、突然通信にニーノにとって聞き慣れない男の声が割り込んできた。その声は、怒りに満ちている訳ではなく、むしろ喜んでいるような印象を与えた。「通信を……!?」 ニーノは驚いて周波数を合わせてみる。すると、通信用モニターに初めて見る男の姿が映し出された。共和国軍の軍服を着た、凛々しい表情をする金髪の男。その緑色の瞳から、普通の人とは違う強い威圧感をニーノは感じ取った。そう、かつてニーノが戦ったケーニッヒウルフのパイロット、アレックス・バーレイだ。「何と……パイロットは少年だったのか! こんな相手に、俺が深手を負わされたとはな……面白い!!」 顔を初めて見たアレックスは、驚きながらも嬉しさが混じった表情を浮かべた。「その若い力、今度は正々堂々と披露してもらおうか!!」 アレックスが叫ぶと、ケーニッヒウルフが雄叫びを上げて向かってきた。すかさずニーノもライジャーを突撃させる。2機は正面から飛び掛かり、前足を突き出して抱き合うような体勢で押し合いになる。しかし、大型のケーニッヒに対して、中型のライジャーでは体格の差があり、ケーニッヒに力負けしてしまった。押し返されたライジャーに、牙を突き立てようとするケーニッヒ。すんでの所で頭を動かしかわす。そのままもつれ合う2機。「くっ……!!」 このパイロットは強い。ニーノはそれを肌で感じ取っていた。「ニーノ!!」 それを見て、ビアンカのシーパンツァーが動いた。シェルユニットの中から、甲殻類型の本体が姿を現した。塹壕から飛び出し、シェルユニットのビームキャノンがケーニッヒに向けられ、火を吹いた。一直線に放たれた閃光は、ケーニッヒの後足の関節を正確に狙い撃った。そのせいで、ケーニッヒはライジャーに飛び掛かろうとするのを失敗してしまった。「くっ……邪魔をするな!!」 アレックスにとって、戦いに水を差される事は耐え難い事であった。すぐにスモークディスチャージャーがシーパンツァーに向けられて発射された。シーパンツァーの目の前で炸裂した煙幕が、シーパンツァーの視界を遮る。「視界を遮ったって……!!」 それでもビアンカはあきらめなかった。すぐにセンサーのモードを赤外線に切り替える。シーパンツァーの目は赤外線センサーになっていて、視界が限られた状態でも正確な射撃を行う事が可能なのだ。ビアンカの正面に移る照準器が、煙幕の奥に映るケーニッヒの頭部を捕らえた。「そこね!!」 ビアンカの指がトリガーを操作する。ビームキャノンから放たれたビームは、煙幕を突き破り、寸分の狂いもなくケーニッヒの頭部に命中した。装甲を貫通する事はできない。しかし、ケーニッヒのコックピットには強い衝撃が走った。アレックスは、コックピットで激しく揺さ振られた。ビアンカはそれを狙って、頭部を攻撃したのだ。「邪魔くさい支援機めっ!!」 ケーニッヒが体をシーパンツァーに向け、ミサイルポッドからミサイルを一斉に放った。「っ!?」 ビアンカは、反射的に本体をシェルユニットに引き込んだ。ミサイルの爆風が、シーパンツァーを飲み込む。同時に、恐ろしい衝撃がビアンカを襲った。今度は、ビアンカがコックピットで揺さ振られる番だった。普通の小型ゾイドなら既に破壊されているだろう。それでも何とか持ちこたえられたのは、シェルユニットの重装甲のお陰だ。「そこっ!!」 ビアンカがケーニッヒの気をそらしてくれただけでも、ニーノはありがたかった。すぐにシーパンツァーに体を向けているケーニッヒに、全速力で突撃する。しかしケーニッヒの姿は、タックルする直前に突然目の前から姿を消した。「!?」「甘いっ!!」 気付いた時にはもう手遅れだった。ケーニッヒは関節のダメージを思わせないほどのジャンプで、ライジャーの上を取っていた。90.5トンもの重量を持つ金属の塊が、ライジャーの真上から落ちてきた。「ぐわあっ!!」 強い衝撃が、コックピットに走った。ケーニッヒは、完全にライジャーを押さえ込んでいた。前足の爪は、強く装甲に突き刺さっている。こうなるともう、まな板の鯉だ。このまま牙をコックピットかゾイドコアに突き立てさえすれば、それで終わりだ。「久しぶりに楽しませてもらったぞ。だが、ここでとどめを刺させてもらう!!」 ケーニッヒの背中に付けられた冷却用のファンがうなる。同時に、ケーニッヒの牙が光り始める。牙に電磁エネルギーを流し込み、牙の破壊力を上げる『エレクトリックファンガー』を発動させようとしているのだ。「そ、そんな……!? 僕は、もう……!?」 目の前に迫る死の恐怖に、ニーノは戦慄した。ケーニッヒの顔が動こうとした、その時だった。 突然、一筋の閃光がどこからか稲妻のように飛んできた。閃光は、ニーノとアレックスの背後で今まさに町になだれ込もうとしていたウネンラギアの部隊を飲み込んだ。閃光の中で、いくつもの爆発が起きる。「何だ!?」 思わぬ増援。アレックスは驚き、振り向いた。そんなアレックスの目の前で、閃光が止んだ。そこに飲み込まれたウネンラギアの部隊は完全に消滅していた。「荷電粒子砲、だと!?」 アレックスはすぐにそのビームの正体を読み当てた。エウロペ民族解放戦線に、荷電粒子砲を装備するゾイドがあったのか? いや、エウロペ民族解放戦線のゾイドは旧式のゾイドばかりだ。4年前にやっと量産型ゾイドに実装され始めたばかりの兵器を持つゾイドなど、保有しているはずがない。「大尉!!」 そこに、リーラのブレードライガーがケーニッヒの許に走ってきた。「リーラか。今のは何だ!?」「敵機が1機、こちらに急速接近中です!! 識別信号からして、ネオゼネバスです!!」「ネオゼネバス!? しかも1機でだと!?」 リーラの説明にアレックスが驚いた時、荷電粒子砲を放った正体が、町の外から砂煙を上げながら接近してきた。遠くからでもよく目立つ真紅のボディを持つ、ティラノサウルス型ゾイド。「あれは……ジェノブレイカー!!」 アレックスが叫んだ時、ジェノブレイカーはそのスピードでケーニッヒのすぐ側まで肉薄した。そして、そのスピードを乗せたキックで、ケーニッヒを跳ね飛ばした。「ぐわっ!!」「大尉!!」 恐ろしいほどの衝撃。並みのパイロットだったら失神していただろう。ブレードライガーの目の前で倒れるケーニッヒ。「あ、あれは……!?」「ま、魔装竜……」 ケーニッヒの束縛から解放されたライジャーのニーノと、シェルユニットから本体を出したシーパンツァーのビアンカは、その姿に目を奪われた。見る者に強烈な威圧感を与える、真紅の魔装竜。ただ、背部のスラスターからは黒い煙が出ている。その体の横に突き出す盾には、大きくネオゼネバスのマークが描かれているのを見つけた。「ネオ、ゼネバス……味方なのか?」 ニーノがつぶやいた時、通信が入った。「エウロペ民族解放戦線のみんな、もう大丈夫よ。あたしはネオゼネバス軍……」 通信用画面に映ったパイロットの表情を見て、ニーノは驚愕した。「リ……リリー!?」 その顔はどう見ても、以前町で偶然出会って一目惚れしてしまった少女、リリー・フィドラーだったのだから。彼にとって、リリーのような少女がゾイドに乗っているなど、ありえない事だった。「ニ、ニーノ!? エウロペ民族解放戦線にいるって言ってたけど、まさかゾイドパイロットだったなんて……!?」 画面の中のリリーも、ニーノの姿に驚いた。「ニーノ、まさかあれって……『真紅の鬼女』なんじゃ……!」 その時、ビアンカが通信に割り込んできた。ビアンカも、ジェノブレイカーの姿を見て驚いていた。「『真紅の鬼女』!?」「たった1機で共和国軍の大部隊を食い止めたっていうエースよ……!」 ニーノは、その言葉にさらに驚いた。リリーはただゾイドに乗っているだけじゃない人間である事実も、ニーノにとっては信じられない事だった。「リ、リリー……なんで、君がゾイドに……それに、『真紅の鬼女』って、どういう事だよ……!?」 その言葉、特に『真紅の鬼女』の部分を聞いたリリーの表情が、急に変わった。「言わないで……! 嫌いなのよ、その呼び方……」 リリーは表情を曇らせた。「あ、ご、ごめん……」 理由はわからないが、どうやら『真紅の鬼女』という名前をリリーは嫌っているようだ。それを察したニーノは、反射的にそう口に出していた。「大尉、あの機体は、まさか……!!」「ああ、間違いない。ネオゼネバスに堕ちていたとはな……! 『真紅の鬼女』!!」 またしても現れた強豪パイロットを前に、アレックスの心の中で、再び闘志の火が付いた。彼の燃え上がった闘志を現すかのように、ケーニッヒがジェノブレイカーに踊りかかった。「友軍の大部隊を押し返したその実力、見せてもらおうか!!」 それを見たリーラが「大尉!!」と叫んだが、闘志が燃え上がったアレックスの耳には届かなかった。「!!」 近づいてくるケーニッヒに気付いたリリーの目付きが、何かが乗り移ったかのように、あどけない少女のものから鋭い戦士のものへと変わった。その表情の変わりようはわずかだったが、ニーノの驚きは大きいものだった。そんなニーノを尻目に、すぐにジェノブレイカーが動いた。エクスブレイカーを素早く伸ばし、飛び掛かろうとしたケーニッヒの体を容易く捕らえた。一瞬の出来事だった。「うおぉぉぉぉっ!!」 リリーの叫び声に答えるように、ジェノブレイカーはエクスブレイカーに捕らえたケーニッヒを力任せに投げ付けた。凄まじい力だった。ケーニッヒの体がたちまち宙を舞った。ケーニッヒが地面に叩きつけられると、地面が地震のごとく大きく揺れた。投げの威力がどれほど凄まじいかを物語っている。叩きつけられたケーニッヒになお、吠えて威嚇するジェノブレイカー。「大尉!!」 すぐにリーラのブレードライガーが援護に回った。1対複数の状況を作る。それが有利に進める戦いの基本だ。ブレードは高速ゾイドならではのスピードを活かし、腹のショックキャノンで牽制しながらジェノブレイカーにタックルをお見舞いしようとした。ジェノブレイカーも、正面から迎え撃つ。正面からブレードの体を、がっちりと受け止めた。そのまま押し合いになる。OS搭載機同士の激突。しかし、リーラのブレードライガーはオリジナルと異なり、扱い易さを重視するため、一部しかOSを搭載していないジェノブレイカーよりもOSが簡略化されている量産型。そのため、同じOS搭載機でも、パワーの差が出てしまう。背部のブースターを点火し、押し出そうとするブレードに対し、ウイングスラスターをオーバーヒートさせてしまっているジェノブレイカーは、足のアンカーで機体を固定し、ブレードの突進を完全に食い止めると、そのまま力ずくで押し返した。「ぐっ!!」 突き飛ばされたブレードがよろけた隙に、ジェノブレイカーの頭部に付いたレーザーチャージングブレードが展開する。小柄なこのブレードは、突進攻撃時に威力を発揮する格闘武装だ。そしてまさにジェノブレイカーは、アンカーを外し、ブレードを突き立てて突撃した。リーラは反射的に操縦桿を倒し、かわす。紙一重。しかし、頬に当たる装甲がブレードに引き裂かれ、切り傷を作った。もっとも、OSの自己修復能力で再生し、致命傷にはならない。「やってくれるな……『真紅の鬼女』!!」 アレックスは再びケーニッヒを立たせようとした。しかし、立ち上がろうとした瞬間、ケーニッヒの後足が崩れた。先程ビアンカのシーパンツァーの攻撃で損傷していた後足の関節が、ニーノのライジャーとの戦闘で無理をしたせいか、悲鳴を上げていたのだ。「ちっ、俺とした事が……!」 歩く事に支障が出るとなると、まともな戦闘は不可能だ。まともに歩けないゾイドなど、的以外の何ものでもない。さらに追い討ちをかけるように、彼にとって不慮の事態が起きた。 周辺で戦闘を行っていたウネンラギアの部隊が、突然砲火の嵐に飲み込まれた。ネオゼネバス軍の本隊が、町に駆けつけたのだ。その中には、ロタール駆るブラッディコングや、グイードのダークスパイナーの姿もあった。群れを成して襲ってくるネオゼネバス軍は、ジェノブレイカー襲来で混乱している共和国軍を次々と撃破していく。「各部隊、これより町を解放する!! 民間人にはくれぐれも注意しろ!!」 リリーは、通信でそんなロタールの凛々しい声を聞き取っていた。混乱に乗じて、ディマンティスの大群が次々と町に乗り込んでいく。「大尉、ここは危険です。退却しましょう」「……悔しいが、そうするしかないようだな」 リーラの言葉を呑み、アレックスは唇を噛んで機体の足を引きずりながらも反転させた。「……少年、今回は勝負を預けておくぞ。命があったらまた会おう!」 アレックスはニーノにそんな言葉を通信で残し、通信を切った。 ニーノはそんなケーニッヒの後ろ姿を、黙って見送るしかなかった。自分が何気なく攻撃した敵が、命を懸けて倒すべき強敵と変貌して戻ってきた。その意味を、ニーノはまだ充分に理解できずにいた。「ニーノ、大丈夫だった?」 その時、ビアンカの顔が通信用画面に映った。「あ、ああ……」 突然映ったビアンカの顔に、ニーノは空返事をした。「とにかく、ネオゼネバス軍が助けてくれてよかったよ。それでなかったら、僕はきっと……」「……」 ネオゼネバス軍。ニーノのその言葉を聞いたビアンカの表情がひきつった。「……ビアンカ?」「ネオ、ゼネバス……!」 ビアンカの視線は、助けに来てくれたはずのジェノブレイカーに向けられていた。その眼差しは、まるで助けられた事を快く思っていないかのように、鋭く冷たいものだった。そんな眼差しを見せた理由を、ニーノはまだ知る由もなかった。「ふう……」 ジェノブレイカーのコックピットの中で、リリーは1つ息をついた。今まで溜め込んでいた何かを、吐き出すかのように。「リリー、聞こえるか」 その時、通信が入った。ロタールの声だった。見ると、ロタール駆るブラッディコングが、すぐ側まで来ていた。通信用画面に映る彼の表情は、ひきつっていた。冷たい視線が、リリーに突き刺さる。「何を考えたのかは知らないが、命令を無視して勝手な行動をした事は、軍人として許されない行為だぞ」「ごめんなさい、大佐。勝手な行動をした事はわかってる。どんな罰も、受ける覚悟でいるから」 ロタールの厳しい言葉を聞いて、リリーは顔をうつむけてポツリと答えた。「お前の勝手で船が沈む……軍人ならば、その事を自覚しろ」「はい……」 リリーは文句1つ言う事なく、ポツリと答えた。「とにかく、詳しい事情は後で聞こう」と言葉を残し、ロタールは画面から消えた。「リリー」 すると、通信用画面に別の顔が映った。グイードだ。「兄ちゃん……」「まさかお前……あの事を思い出して……?」「……」 グイードの問いかけにも、リリーはうつむいたまま答えようとしなかった。その表情に、いつもの明るいリリーの姿はなかった。そんなリリーの脳裏には、1つの光景が浮かんでいた。 ――自分自身に容赦なく襲い掛かる、無数のゾイド達。それに対して、悲鳴を上げる自分自身の姿―― * * * 町は、無事に危機から乗り切った。 しかし、いくらリリーの介入で共和国軍を混乱させ、勝機をつかんだとはいえ、リリーは軍の命令を待たずして、無断で出撃してしまった事に変わりはない。もし一歩間違えていたら、リリーは袋叩きに遭っていたかもしれないのだ。1人の兵士の勝手な行動。それは、戦場では一番やってはならない御法度なものだ。自身が危険にさらされるのはもちろん、その不用意な行動が、1部隊を壊滅させる事態を招く事が、決して珍しい事ではないからだ。 新たな拠点に戻る間もなく、リリーは狭く、窮屈で冷たい石の部屋に押し込められていた。「大丈夫か、リリー」「平気よ。こうなる事は、覚悟してたから」「もう、ホントに心配かけないでよ」「ごめん」 グイード、アントンとそんなやり取りをするリリーは、いつもの変わりない笑顔を2人に見せた。その時、横にいたソキウスが間に入った。すぐ側にいる、アントンとは別のソキウスだ。「軍曹、そろそろ」「うん」 グイードの目の前で、冷たく重い鉄格子の扉が音を立てて閉じた。そして、ソキウスが鍵をかける。それを見届けたグイードとアントンは、無言でその場を去っていった。 機の無断使用と損壊(いくらパイロットがいるとはいえ、機体は軍の所有物である)、無許可の出撃、命令・規約違反。これらの責任を負わされ、リリーは1週間の独房入りを命じられたのだ。とはいっても、リリーが動いたお陰で、町に駐屯するエウロペ民族解放戦線が救われた事は事実であるので、これでも温情的な処遇であった。 リリーは石でできた遺跡の部屋の1室を利用した、冷たい牢屋の中で、ゆっくりと隅に置かれている古びたベッドに腰を下ろした。窓もなければ時計もない。明かりもないので、少し暗い。夜になれば、真っ暗闇になってしまうだろう。ただ時間が過ぎるのを感じるだけだった。また退屈になっちゃうけど、暇をつぶせるものも何もない。元は自分が蒔いた種なんだから、仕方がないか。そう考えたリリーは、すぐにベッドにパタンと背中から倒れた。「これで手錠までされてたら、あの時と同じね……」 リリーは石の天上を見上げながら、そんな事をポツリとつぶやいた。 * * * どのくらい時間が経っただろうか。長くも感じ、短くも感じた。 コツコツと、誰かが歩いてくる音がする。その音に気付いたリリーは、すぐに体を起こした。音はどんどん大きくなっていく。そして、鉄格子越しに、1人の人影が姿を現した。「リ、リリー……」 遠慮がちに声をかけた主は、ニーノであった。それに気付いたリリーは、ベッドから立ち上がった。「ニーノ」「大丈夫、だった?」「うん」 ちゃんとした形で再会したのは、これが初めて。しかし、これがまさか鉄格子越しの再会になるとは、リリーも思ってもいなかった。そして、1人の兵士という姿を見せて再会する事も……「……ごめんね。ネオゼネバス軍のゾイドパイロットだって事、隠してて。何だか、そんな事言ったら引いちゃいそうな気がしちゃったの」 それを察したリリーは、とりあえずいつもの笑顔でそう言ってニーノに詫びた。「い、いや、別に、いいんだよ……」 異性との付き合いが苦手なニーノは、また顔を赤らめて、言葉を噛みながらも答えた。「でも……どうして、君が……君みたいな女の子が、軍隊に……?」 そんな疑問を投げかけられたリリーの表情が、自然と曇った。「あ……ごめん、聞いちゃいけない事、だったかな?」「そんな事はないよ。ただ……」「ただ?」「いろんな事が、あったのよ……ホント、いろいろとね……」 そう言いながら、リリーはニーノに背を向けた。そして、リリーの頭は、自然と過去の記憶へと引きずりこまれていったのだった……
・ネオゼネバス帝国リリー・フィドラー イメージCV:斎藤千和民族:地底族?年齢:17 この物語の主人公で、ネオゼネバス帝国軍の若き女性兵士。階級は軍曹。 兄のグイードとは30近くも歳が離れているが、70歳で地球人の40歳に当たると言われるほど寿命が長い惑星Zi人にとっても不自然な事であり、さらに外観も似ているようで似ていない所があり、本当に兄妹なのか疑われている所がある。 普段は上官に対してもため口で話して注意されるほどの明るい性格の美少女だが、その裏に強い意志と忌まわしき過去を秘めている。ゾイドパイロットとして天性の才能を持っており、軍に入る前は民間のゾイド競技会で優勝を修めた経験がある。 搭乗ゾイドはジェノブレイカー。グイード・フィドラー イメージCV:置鮎龍太郎民族:地底族年齢:48 ネオゼネバス帝国軍の兵士で、リリーの兄。階級は大尉。 暗黒大陸出身で、旧大戦時に暗黒大陸へと逃れた地底族のゼネバス軍兵士を親に持つ。 リリー曰く「生真面目な性格」で、電子戦機による索敵や情報収集能力に長けている。それが評価され、ネオゼネバス軍は彼にダークスパイナーを与えており、リリーのジェノブレイカーとハンター・キラーチームを組む。ロタール・ベンケン イメージCV:石塚運昇民族:虫族年齢:84 リリーの所属する部隊の指揮官。ギュンター・プロイツェンの直属部隊『プロイツェンナイツ』の生き残り。階級は大佐。 中央大陸戦争を戦い抜いた歴戦のパイロット。プロイツェンに心酔し、『ゼネバス人の解放』を高く志している理想主義者。情にあつい高潔な人物で、ゾイドパイロットとしても優秀であり、その雄姿に憧れる兵士も多い。 搭乗ゾイドはアイアンコングPK。アントン イメージCV:水谷優子 ゾイドの整備から操縦、戦闘までこなす、完全自律型AI搭載型ロボット『ソキウス』シリーズの1体。『ソキウス』とは『戦友』という意味。 ザバットに搭載されたものを発展させたAIを搭載し、人間と同等の知能と判断力、学習能力を持つ。細い樽型のような白いボディにアームと2つ目の顔が付いており、マグネッサーシステムによって浮遊している。会話も可能で自分自身の意志を持ち、性格も個体によってさまざまである。ゼネバス兵残党の集まりであるため少数精鋭の立場を取らざるを得ないネオゼネバス軍にとっては、なくてはならない『戦友』となっている。 ソキウスシリーズには個体ごとに固有の『名前』がつけられており、『アントン』という名のソキウスはリリーと仲がよく、彼女のジェノブレイカーの整備を任されている他、平時はリリーと行動を共にしている事が多い。リリー曰く「パイロットとしても一流」らしい。・ヘリック共和国エウロペ駐留軍アレックス・バーレイ イメージCV:森川智之民族:風族年齢:29 エウロペ駐留軍でエウロペ民族解放戦線との戦いに身を投じる共和国軍兵。階級は大尉。 騎士道精神の持ち主で、姑息な手段で勝利する事を嫌う。ゾイドパイロットとして高い実力を持ちながら、強い敵と戦う事に生き甲斐を持ち、そのため最前線である暗黒大陸での戦いへの参加を強く望んでいたが、叶わなかった経緯がある。 エウロペ民族解放戦線での戦いに退屈さを抱いていたが、ライジャー駆るニーノとの出会いによって、彼との戦いに生き甲斐を見出す。リーラ・オルビー イメージCV:かかずゆみ民族:風族年齢:29 アレックスの副官を務める女性。階級は中尉。 女性だが生粋の軍人であり、性格はまじめ。アレックスに惹かれている。・エウロペ民族解放戦線ニーノ・リカータ イメージCV:鈴村健一民族:砂族年齢:18 エウロペ民族解放戦線に参加するゲリラの青年。 どんな敵にも恐れずに立ち向かう勇気を持つが、まだ若いため熱くなりやすい一面がある。また、同世代の異性にはめっぽう弱く、ひょんな事から出会ったリリーに一目惚れしてしまう、年頃の青年らしい一面も見せる。カーラ・ロンバルディ イメージCV:松本梨香民族:鳥族年齢:23 エウロペ民族解放戦線に参加するゲリラの女性。 元々は曲芸飛行家だったが、戦争の激化によりゲリラに参加するようになった。男勝りな性格で、一見すると気が荒いようにも見えるが、根は優しい姉御肌。常に身につけているゴーグルがトレードマーク。曲芸飛行のテクニックを活かした空中戦が得意で、愛機ペガサロスで新型ゾイドとも対等に戦えるほど。エミリア・カレーナ イメージCV:根谷美智子民族:神族年齢:不明 エウロペ民族解放戦線の指導者である女性。 古代ゾイド人の血を引くという、他民族との交流を持たない民族の出身であり、自らも素性を明かそうとしないため、その素性は謎めいている。常に大きなマントと仮面を身に着けその素顔を隠しているが、これは民族のしきたりによるもののようだ。そのため、『神秘なる仮面』の異名を持つ。超能力を持っているといわれるが、詳細は不明。 冷静な性格で、丁寧な口調で話す。指揮官としての能力は優秀で、時にはゾイドに搭乗して戦闘に参加する事もあるらしい。ビアンカ・カネッティ イメージCV:林原めぐみ民族:海族年齢:14 エウロペ民族解放戦線に参加するゲリラの少女。 ガイロス帝国軍の攻撃で家族を失ったため、ゲリラに参加する。幼いながら卓越した操縦技能を持つ。普段は口数が少なく、感情を表に出す事はほとんどないが、その裏にガイロス帝国への強い恨みを抱いている。そのため、ネオゼネバス帝国との同盟には懐疑的。ニーノを兄のように慕う。 搭乗ゾイドはシーパンツァー。