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[924] (削除)
システムメッセージ - 2009年08月07日 (金) 14時30分

投稿された方の依頼により、2010年06月06日 (日) 22時05分に記事の削除がおこなわれました。

このメッセージは、設定により削除メッセージに変更されました。このメッセージを完全に削除する事が出来るのは、管理者の方のみとなります。

[925] 第0話「ぶっ倒れてた記憶喪失少年」
のんびり - 2009年08月07日 (金) 15時12分

私たちの住む地球の太陽系の別の太陽系に、その星はあった。
「惑星ドリームファンタジー」。地球に似て、地球ではない星。通称「地球2世」。普通に「夢の幻想」と呼ばれる事もあるこの星は、人間と獣人が住み、そして3つの国、「都市国セイヴァー」、「共和国マルシェーリ」、「中立国リジェネ」を作り、ある者は貿易のため他国へと渡り、またある者は新たな発見を求め、遠くへと旅立っていき、またある者は普通に暮らし、働いていた。
この物語は、3つの国の内、「都市国セイヴァー」を中心にして巻き起こる、愛と正義と友情の話である。

第1話  「ぶっ倒れてた記憶喪失少年」

ここは、都市国セイヴァーの3都市の1つ、学園都市「アシュセイヴァー」。その名の通り、あちこちに学校が建ち並び、生徒達は、勉学に励んでいる。主に専門学校、つまり技術専門や、武術専門、医療専門などに、専門教科を分けている学校が多く(数学や国語などは一緒にやっているが)、それ以外はそれほど多くはない。
学園都市の居住区は、マンションのような寮がいくつか建っている。生徒達は主に一人暮らしをして、親とは電話やメールなどでしか会う事は出来ない。
だが例外もあり、居住区の一部には一軒家が建ち並んでいる。そこでは一人暮らしではなく、親と共に暮らしている者や、兄弟と一緒に暮らしている者も居た。
この家もそうである。
「行ってきます」
「はい、いってらっしゃい」
新品の制服を着た肩まである薄い茶色の髪、ガーネットのような赤い瞳、お淑やかそうな顔つきで、普通にしていればモテそうな子だった。真宮愛佳だ。
その後ろには、父親らしき人物が手を振っている。
今日から、新しい学校生活が始まろうとしていた。彼女は17歳(今年で18)だが、今年で高校生だった。本当ならもう今年で卒業のはずなのだが、学園都市の中学は、15(今年で15も可)でないと入れないと言うルールがあった。なので、愛佳は17才で高校に入る事になったのだ。
(今日から学校。新しい友達がいっぱい出来ると良いけどなぁ・・・)
中学の頃の友達は皆別々になってしまった。というのも、彼女は武術専門校に入ったからで、他の子達は医療や料理の専門校に行ってしまったからである。
だから、知っている子はおそらくかなり少ないだろう。友達作りは1からスタートなのだった。まぁ、それはそれで楽しいのだが。
(とにかく、今日から始まるんだから、元気に行きたいね)
とか言いながら、いつも落ち着いた感じなのに気付いていない愛佳だった。
(さぁ、家から一歩踏み出せば、新しい生活の始まりだ・・・!)
ドアを開け、一歩踏み出してみた。気分は最高、清々しかった。そうしたままもう一歩踏み出してみれば、次に見えた景色はとっても汚い泥だ!
・・・・・・とっても汚い泥?
「きゃぁぁぁあッ!!?」
ベチャ、と泥に制服が浸からないようにかばったあげく、に顔が浸かっていた。
ドタドタドタ!と後ろから誰かが走ってくる音がする。父親だろう。娘の悲鳴を聞いて飛んでこない父は居ない。
思い切りドアを開け放ち、愛佳のもとへ行こうとする。
「どうしたッ!?愛佳!大丈夫かあああぁぁぁぁうぎゃ!!?」
倒れてくる父親を避けたせいで、父も泥に浸かってしまった。顔だけでなく、洗濯したばかりの服も丸ごと。
「だ、大丈夫?お父さん?」
「大丈夫、だ・・・・・・」
ゆっくり顔を上げてみる。見えたのは自分が浸かっている泥と、顔が泥まみれの愛娘だった。
「しかし・・・今何かにつまずいた気がするんだが・・・!!?」
「!!?」
ふと見たドアの下。そこには赤いマフラーを巻いて、黒いコートを着た銀髪の少年が、血まみれで倒れていたのだ。2人は固まった。大きく口をあげながら。そして叫ぶ!
「「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」」



[926] 逢梨明ユウ編 予定章数2 第1章(1)
のんびり - 2009年08月07日 (金) 22時42分

第1話「魔法も魔術も使えない?」

ゆっくりと目を開けると、見慣れない天井が広がっていた。窓から入り込んでくる光が眩しい。どうやら今は朝か昼のようだ。ゆっくり身を起こそうとすると、突然額が痛くなった。体から力が抜け、頭が枕へと吸い込まれていく。
「痛ッ・・・」
額に触れてみると、包帯が巻かれていた。怪我でもしていたようだ。よく見ると、腕にも巻かれていた。感覚からして体にも巻かれている事だろう。
ガチャッと、扉の開く音がした。音の方向を見ると、男が立っていた。男はこちらに来ると、
「目が覚めたか、結構早かったな?」
「・・・どうしてこんな所に?」
手に持っていたおかゆを、彼の膝元に置き、彼を起こす。
「家の前にぶっ倒れてるのを娘と俺が見つけて連れて来たんだよ、ああ娘は今学校。愛佳って言うんだが」
「アンタは?」
「初対面にアンタって言うのはしゃくだが、今は見逃そう。俺は愛佳の父、真宮修三(まみや・しゅうぞう)。お前は?」
「・・・・・・・・分からない」
は?、と間の抜けた返答をしてしまう。まさかと思い、聞いてみる事にした。
「まさか・・・何も覚えてないのか?名前も何もかも」
少年はゆっくりと頷く。結構、面倒そうな奴を保護しちまったなと、少し後悔する。とりあえず、少年に着ている服のポケットを探らせてもらう事にした。唯一の手がかりはこの中にあるかもしれない。
内ポケットに手を入れると、何かカード大の物が入っている。厚さは1cmくらいだ。修三はそれを取り出してみた。藍色のカバーに入った生徒手帳だ。
「愛佳と同じ学校、か・・・名前は逢梨明ユウ、か。ユウはともかく逢梨明てのは珍しいな」
「逢梨明ユウ・・・それが俺の名前、か」
見た所名前以外は書いていない。住所も電話番号もだ。名前が分かっただけで、この逢梨明ユウという少年が、何者なのかは分からずじまいだ。ますます面倒な事になって来た。
「・・・・・・・ん?えっと、ユウ。おかゆ食わないのか?」
「食べていいのか?」
「何のために持ってきたと思ってるんだ?さっさと食って病院へ行くぞ。記憶喪失なんざ俺一人で解決なんて出来やしないからな」
病院に行ったからと言って治るとは思わないが、とりあえず言う通りにしておく。一口食べたおかゆはかなり熱かった。

   *             *             *

おかゆを食べ終わり、ユウはふらつきながらも立ち上がる。と、
「お前、さすがにその服はないな」
言われて服を見てみると、着ている黒いコートは赤くなっているのが分かるほどに染まっているし、中に着ているストライプのワイシャツはもはや真っ赤だった。確かにこれで行けば、大騒ぎになる。いや、誰かに見られただけで大騒ぎだ。
「さっき、お前のコートに入ってた超圧縮ボックスがあって開けたら防人学園、つまり俺の愛娘と同じ学校の制服が入ってたから、これ着ていけ」
いちいち自分の娘に話を持っていくな、と思った。
何はともあれ、言われた通り、制服を着ていく。ワイシャツは襟に線が入っていて、上に羽織った藍色のブレザーは、左肩から裾に欠けてまでに大きな十字架が刻まれている。ワイシャツと同じようにこちらも襟に線が入っている。ズボンは黒に近い灰色だ。太腿の当たりにウエポンケースが付いていて、中には棒状の何かが入っている。
「ん?なんだ、それ」
「さぁ?最初から付いてたけど」
「・・・・・・・まぁ、いい。とりあえず行くぞ」
家を出て、目の前の病院に行く。本当に目の前だ。中に入ると、立派な病院だった。外からでは分からないほどに。
修三は受付を済ますと、そのまま別の部屋に入る。ユウもそれについていった。
「修三さんですか、お久しぶりですねぇ。で、今日はなんですか?」
「いやいや、先生。俺じゃないんですね、今日は。こっちの小僧です」
「あらら、息子さんですか?」
「違いますよ!家の前でぶっ倒れてたのを保護してみりゃ、記憶喪失だっちゅうもんだから、連れて来てみただけです!」
ほう、と納得しているのかしていないのかよく分からない返答をすると、ユウをジロジロ見始めた。目つきが何だか恐い。
目の前に居る医者に座るように勧められ、言われるがままに座った。意外と座り心地は悪い。
「さて、何か思い出せる事はありますか?」
「・・・・・・いや、何も」
「そうですか・・・じゃあ、魔術の知識はありますか?」
「ああ、それなら」
「では、初歩中の初歩。光の玉を出してみてください」
魔術とは、魔法陣を使う物や、物を並べて使うもの。呪文を唱えて使う物など、色々あるが、光の玉を出す魔術は、魔法陣だ。
ユウは、渡された紙に、魔法陣を書いていく。スラスラ書いて行き、書き終えると魔法陣の上当たりに掌を出して、
「光の玉」
瞬間、ポウ、と明るい光が放たれたかと思うと、ユウの掌の真下辺りから火花が飛び散りだし、一気に爆発した。
「うおおおぉぉぉああああぁぁぁ!!!?」
ユウは爆発と爆風に吹き飛ばされ、窓を突き破り、病院の庭にあった木に腰が直撃した。はっきり言って、超痛い。上半身と下半身が2つに割れるかと思った。
さっきの医者が言う。
「ま、魔導拒絶体質だったとは・・・・・・迂闊、ぐはッ!」
「だったとはじゃねぇ!!ちゃんと確認してから使わせろっつうの!!俺まで壁に叩き付けられただろうが!」
それに加えて頬に手の跡がついている。彼がぶつかった壁は穴があいていて、看護士がどこかへ走り去っていった。後は想像に任せよう。
医者と修三はユウのもとへ走っていき、
「大丈夫か?お前」
「・・・・、痛い」
「だろうな、俺も痛い」
とりあえず、ユウを運び込む。
ベッドに寝かせ、看護士に増えた怪我の治療をしてもらっている間に医者は喋る。
「ユウ君の惑う拒絶体質を治すには、やっぱりあれが一番だと思います。ちょっと痛いですけど」
「そうですか、手伝います」
ユウは彼らが何やら準備をしだしたのをじっと見ていた。いやな予感がするのは気のせいだろうか。
10分ほど経つと、準備を終えたのか、こちらに向かってくる。そしてそのままユウをどこかへ連れて行く。どうするのか聞いても彼らは答えなかった。
隣の部屋に行ってみると、巨大な魔法陣が描かれていた。周りにはろうそくが火を灯している。
「こいつの中心に立て」
言われるがまま中心に立ってみる。更にいやな予感がする。
「神よ!あなたの力を与え、彼の物の殻を破りたまえ!!」
と、周りにあったろうそくがバチバチと音を立て始めた。火花ではなく、電気だ。
「ま、まさか・・・?」
「いっちょ、感電してこい」
瞬間、バリバリバリ!!と電気がユウの体を襲った。
「ああばばばばばばばばばっばばっばうぎゃああああぁぁぁぁああぁぁっぁ!!!」
電撃がやんだ頃には、意識はなかった。

    *              *             *

結論から言おう、治らなかった。
あの後、ユウが目覚め、もう一度光の玉を出そうとしてみた。が、結果はさっきと同じ、爆発が起きて、無駄な怪我が増えただけだ。
正式な診断結果は、ユウの魔導拒絶体質(魔法もしくは魔術を使おうとすると、暴走、破裂が起きてしまう拒絶反応を起こす体質)は特別な物、つまり治しようが無く、さらに原因も不明。だそうだ。
帰路についたユウは項垂れていた。もう包帯の巻いていない部分は、頭だけで、ついでに言うなら松葉杖をついている。修三は哀れみの目を向けていた。
「その、なんだ。そんな落ち込むなよ、ちゃんと治る時は来るさ!」
「あれだけ超痛い思いして治らないだなんて、落ち込まん方がおかしいだろ」
思わず、頷いてしまう修三だった。
「あ〜、その、なんだ。学校、行ってみたらどうだ?」
「・・・・、学校?」
「そうだよ、生徒手帳も制服もあるって事は、そこに入学するつもりだったんだよ、きっと。だから、とりあえず行ってみろって、何か分かる事があるかもしれないだろ?」
「・・・・、」
確かにそうかもしれないが、この状態で学校など行って、変な誤解を受けたりしないだろうか。喧嘩好きの不良、とか。少なくともあまりいい印象は受けないと思われる。が、修三の言う事も最もなので、気は進まないが、行ってみる事にした。





[927] 逢梨明ユウ編 第1章(2)
のんびり - 2009年08月08日 (土) 12時48分

「ここ、か・・・」
ユウは修三に言われるがまま、自分が入学予定だったらしい学校へと来てみた。校門の横を見てみると、防人学園と書いてある。この学校の名前だ。
門は小さいが、どうやら校舎、というより学校自体大きそうだ。武術専門学校はどれも大きい物だが、この学校はそれよりも大きい。1,5倍くらいだが。
とりあえず門を開けて、中に入る。修三が学校に連絡してくれて、遅れてくる事は学園の教師は知っているはずだ。そして来たら職員室に、と言われていたので、とりあえず職員室を探してみる。昇降口から入って、とりあえず靴は脱がなくても良いようだ。1年に知らせるためか、張り紙がしてある。
そのまま入って行くと、
「あなた、そこで何をしているの?」
突然声をかけられた。その声の方を見てみると、一人の女性が立っていた。歳は30代くらいだろうか、丸いフレームの小さい眼鏡をかけて、ショートヘアーにした綺麗な黒髪は彼女の年齢感を感じさせない。
「今、授業中でしょ?早く教室に戻りなさい。それと後で生徒指導室に」
「いや、あの。俺は―――――」
「さぁ!早く!」
女性に背中を押されながらここに居る理由を説明しようとするが、全く聞いてもらえない。何だかイライラして来た所に、
「おや、冬樹先生。どうしたんですか?」
今度は男性だ。髪をオールバックにして、ブレザーのしたのワイシャツのボタンを、第3まで開けていた。
「葛木先生、ちょうど良かった。この生徒が授業をサボっていた物ですから」
「へ〜。よう、お前。名前は?」
「あ、逢梨明ユウ」
「逢梨明ユウ?・・・・・・・ああ!さっき修三さんから電話で説明を受けた奴か!なるほど」
何だか勝手に自分一人で納得している葛木は降ろしていた頭を上げ、
「冬樹先生、こいつぁサボリなんかじゃなくて、今来たんですよ」
「まぁ!新学期から遅刻!?なんて子!!」
勝手に盛り上がる冬樹を、手で声を遮って押さえる。
「違います違います。全く、あなたはいつも早とちりだ。逢梨明、だっけか?こいつは病院に行ってて遅れちまっただけです。ちょっと大怪我しちまったみたいでね。色々検査してたら遅れちまったみたいなんですよ。なぁ?逢梨明」
とりあえず頷く。うそは言っていないから。
冬樹はじっとユウの方を見つめた後、分かりましたと言って、ユウに謝った後、どこかへ去っていった。葛木はそれを見えなくなるまで見つめた後、
「いや、すまなかったな。あの人は早とちりで、いつも勝手に誤解して話を進めちまうから、皆困ってるんだ。まぁ、真面目な先生だからな。とまぁ、とにもかくにも、お前の教室はこっちだ」
ユウは葛木に連れられて、階段を上っていき、2階へとたどり着く。そのまま右の廊下を歩いて行き、1つの教室のドアの前で止まった。
葛木はドアを開けようとする時に、
「ようこそ、我が防人学園へ。全Fクラスの中の1年B組が、お前の教室だ」
葛木は思い切りドアを開け放つ。ユウにはその教室が輝いて見えなかった。その輝きは更に大きくなって来て、

吸い込まれるようにユウの顔に直撃して来た。

「うがああああああぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁ!!!?」
ユウはそのまま吹き飛ばされ顔に輝いていた何かが直撃したまま地面に叩き付けられる。
本日四度目被弾だった。輝きは教室の輝きではなく、魔術か魔法による物だったらしい。何だか「ふんだりけったり」だった。いや、「一難さってまた一難」の方が良いだろうか。どちらにしろ、非常に痛かった。
その何かは消えていった。かわりに誰かがこちらに走ってくる音がした。
「だ、大丈夫!?」
ユウは顔を押さえながら言う。
「大丈夫では・・・ないけど、さすがに慣れて来たかも」
それは慣れては行けない気がするのだが。
ゆっくり手を離し、目を開ける。顔を覗き込んでいるのは、教師のようだ。制服を着ていない。
とか考えてるうちに、どんどん教室から野次馬が集まって来た。一部ではキャーキャー言ってる生徒も居るようだが、特に気にならなかった。
ゆっくりと起き上がってみると、持っていた松葉杖が2つに折れていた。
「・・・・、マジか」
「あ、あの。ごめん」
野次馬の中から一人の少女が出て来た。肩まである薄い茶色の髪に、ガーネットのような赤い瞳。頭には黒いリボンが見えていて、髪の後ろで結んでいるのか、フリルのあしらったリボンが見えている。
「まさか人が出てくるとは思わなかったから・・・その・・・」
「いや、別に良いけどさ。こんなのさっき3回あったし。別に気にしてないから」
なんだか、それはそれで嫌だなぁ、と思うユウだった。
少女はゆっくりこちらに歩いて来て、
「保健室、行く?」
「いや、いいよ。さっき病院に散々行ったから」
何だかさっきから嫌な事ばかり言ってる気がしていた。そんな自分が嫌になる。記憶ある時からこんな感じだったのだろうか、複雑な気持ちだ。
とりあえず実際、今のでは怪我はしていない。松葉杖が折れたので、歩くのに片足か誰かの肩を借りるしかないが。
「ん?それなら直してやるよ。ほら貸せ」
何だか偉そうな葛木だった。というか何の心配もしていない様子だ。そこがイラッと来たが、とりあえず貸してみる。
「これくらい魔術でちょちょいのちょい!」
と言いつつガムテープで繋ぎあわせただけだ。使えるから良いが。
魔術じゃないじゃん、というツッコミは誰もしないので、ユウもしない事にした。
直った(?)松葉杖をついて、教室へと入っていく。さっきの女教師に席を指定され、その席に座る。横にはさっきの少女が居た。
少女は、
「君・・・家の前に倒れてた人だよね?ここの生徒だったんだ?」
「じゃあお前があのおっさんの娘か。・・・似てないな」
「よく言われる。ところで、名前は?私は真宮愛佳」
「逢梨明ユウ。名前しか分からんので質問はなしだ」
は?と聞いてくるので、事情を話す。さっきまでの事も含めてだ。
聞き終えると、何だか哀れみの目を向けて来た。予想はしていたが、予想よりもキツい目だった。
「記憶喪失、か。大変だね、さっきまでの事も含めてだけど」
「まぁ、な。とりあえず何か手がかりがあるかと来てみたが、今の所ないな」
授業では魔法と魔術についてやっている。いろいろ面倒くさそうな構図やら魔法陣やらが黒板に書き込まれていく。
ここで、魔法と魔術の違いに付いて簡単に説明しておく。
魔術は、攻撃するための物は少ないが、治療や生活に便利な物。補助効果などの物が多く、発動も準備や詠唱を抜けば、かなり早い。
逆に魔法は、魔術とは逆だ。攻撃物が多く、その他の物は少ない。発動には魔法名を唱えるだけだが、発動までには時間がかかるし、使いすぎると副作用が起こる。
魔術では副作用は起きないが、魔法では起きる。それは、魔術は自然の力を借りて使う物だが、魔法は自分自身の生命力の片割れ、魔力を消費して使う物だ。だから魔力が無くなれば、死ぬ事だってありえるし、思い病気にだってかかりやすくなる。副作用は目眩や頭痛、吐き気や嘔吐など色々あるし、魔力低下以外にも原因はある。まだ解明されていない物もあるが。
「では・・・逢梨明君」
「は、はい・・・」
ユウはデジャブを感じた。
「この陣形で魔術を使ってみてください」
今日で何回こう言われただろうか。そして、何回吹き飛ばされた事か。でもなんだかやらなければいけない空気が流れていた。
頭の中では行っちゃ駄目だと回っているが、体は行かなくてはと言っている。
「どうしたの?」
愛佳は顔を覗き込むように聞いてくる。
「あ、いや、俺魔術も魔法も使えないんだ・・・体質的に」
「魔導拒絶体質?でもそれって治るんでしょ?」
「俺のは治らなかった。いろいろあってもな」
「逢梨明君?どうしたんですか?」
あ、はい。と教師のもとへと向かってしまう。愛佳が制止しようと声をかけるが、あえて無視する。何だか信じてもらえないと言うか、体質の事を言ってもとりあえずやってみろと言われる気がした。だからこうして2回の窓を突き破って校庭の木にまた直撃したのだが。
ユウは気絶した。

   *                *            *

なんだか不幸だ、と思ってしまう。
今日は痛い事しか起こっていない気がする。何故なのだろうか。
ふと見上げる保健室の天井は、とにかく白かった。
何の汚れもない白。
全てを包み込むような白。
だが、白と言えど、この絶望感は包み込んではくれない。
ならこの絶望感を包み込んで、自分を真っ白にしてくれるのは一体なんなのだろうか。今日は色々な事があり過ぎた。まだ昼だと言うのに。
「気がついたんだ?」
聞き覚えのある声が聞こえる。愛佳だった。
「大丈夫・・?かなり飛んでたけど」
「全身痛い・・・ついでに今までの傷も開いた」
巻いてある包帯には血が滲んでいる。一部ではあるが、傷が開いているようだ。
愛佳は先生が謝っていた事を伝えてくると、先生を呼びに出て行った。
今朝行った病院の医師が言っていた事を思い出す。体質の事ではなく、右目の傷跡の事だ。
『斬られたり引っ掻かれたりって感じじゃないですね。どっちかって言うと、火傷のような物だと思いますが』
右目を火傷するほど危ない事でもしていたんだろうか。色々と想像が膨らんでくる。それと共に、孤独感が沸いて出た。何も覚えていない、誰も自分の事を知らない。自分で自分の事すら分からない。無人島のような感覚。
医者も修三もこの学園都市アシュセイヴァーに来る途中で何かがあったのではないかと、言っていた。山賊にでも襲われたと言うのか。
「・・・・、ま、考えたって何かが思い出せる訳じゃないか」
ガラガラと、扉が開けられる音がした。愛佳が戻って来たようだ。
「ごめんね、先生今出張中だって。他に保健の先生いないし・・・」
「いや、別にもう大丈夫だから。帰っちゃっても良いんじゃないか?」
「え?でも・・・」
意外と心配性だ。このままでは埒があかないので、起き上がって愛佳の肩を押す。
「とにかく大丈夫だからさ、さっさと帰ろうぜ?」
「分かった・・・」
不服なようだが、とりあえず帰る事になった。出来れば何も起こらないでほしい。出来れば。




[933] 逢梨明ユウ編 第1章(3)
のんびり - 2009年08月12日 (水) 03時46分

家に着くと、とりあえず当然の話題が出た。
「こいつ、どうすんだ?」
記憶喪失少年「逢梨明ユウ」は、当然の事ながら自分の家など知らない訳で、生徒手帳には住所も書いてなかった。つまり簡単に言えば、ホームレス状態。
確かに、今からでも部屋を借りる事は出来る。が、今度は金銭的な問題が生じてくる、寮ではないからだ。家賃なし、学費免除などがある代わりに、部屋を借りる際の値段が結構高い。誰かと供住する事は可能だが、記憶喪失なのでそれは不可能に近い。逃げ道なしのホームレスとなるのが運命づけられそうになっていた。
「アシュセイヴァ―の理事長は結構ケチな所があるからな、頼んでもきっとただでは部屋は借してくれない。・・・ダンボールと新聞紙だけあれば一夜は過ごせるか?」
「・・・・、」
完全に放置する気だった。
「お父さん・・・それはさすがに酷いんじゃないかな・・?」
「いや、だって。それしかないだろ?」
「家に置いてあげれば解決する事でしょ?」
「・・・・、は?」
修三は固まった。
代わりにユウの目は煌めいた。天使でも舞い降りたような目だ。まぁ、気持ちは分からないでもないのだが。もの凄い笑顔だ、人間こんなに笑えるんだなぁと思えるほどの。
「あああ愛佳!そ、そんな事出来るか!親がいるとはいえ、同年代の男女が同じ屋根のしたで過ごすなど!!」
「へ、変な事考えないでよ・・・だって、ダンボールと新聞紙なんかじゃ風邪引いちゃうでしょ?お母さんだって同じ事と言ったはずだよ」
「くっ・・・そこであいつの名前を出すのは卑怯だ!!だが、だがしかし!俺は絶対に認めん!!こんな記憶喪失なんぞ家に置くかぁッ!」
まるで娘と結婚させてくれと言われた後のような反応と言うかなんと言うか。とにかく居心地の悪い空気だった。
とりあえずこの場を治めようとユウが口を開こうとした時だった、何かがキレたような音がしたのは。
「ごちゃごちゃ言ってるな!!私が家に住ませると言ったら住ませるんだよ!!!娘を信じきれないようなバカは親なんか止めろ!!!」
・・・・・・・・
沈黙だった。いや、2人はまだ言い争っているのだが、さっきまで落ち着いていてお淑やかな感じがして可愛いな、とか心の隅でちょっと思っていたのだが、一瞬でその思いが粉砕され、心の中で長い沈黙が続いた。
同時に愛佳は怒ると恐い事を悟った。
「くっ!親の弱みに付け込むとは・・・親譲りの恐ろしさだな!?でもそこに惚れたんだよねー」
「どうでも良いわ、そんな事。とにかくお父さんがなんと言おうとユウは家で保護します!いや、私が保護します!!」
「あ、あのさ・・・」
「愛佳!!あんな不幸で情けなくて同情するような所しかなくて、右目の傷跡なんかカッコいいなぁー、とか思っちゃう奴なんか置けません!!」
「最終的に褒めてるじゃない!ああ!もう面倒くさい!とにかくもう決めたの!!なんと言ったって私はここに住まわせます!!」
「あの、さぁ・・・?」
「「お前は黙ってろ!誰のせいでこんな言い争いしてると思ってやがる!!」」
「す、すみませんでした・・・」
もう謝るしかなかった。
何事もなければ良いと思っていたのだが、結局何事もあってしまったと言う現実を突きつけられ、人生って辛いんだと悟ったユウだった。

      *               *            *

結局、修三は口喧嘩の末、負け、ユウは真宮家で住む事になった(本人の意思は無視して)。一応、ありがたいのだが、さっきまでのやり取りを見ていると何だか恐い。つい修三が闇討ちでも狙ってきそうな予感とかしていた。 
余っていた部屋をかしてもらった。愛佳の隣の部屋だ。ドアを開けると、一言で言えば何もない部屋だった。ベッドと机と椅子だけだ。他には何も置かれていない。引っ越して来た直前のような感じだ。
ベッドは部屋の隅に置かれ、その横に机が置かれている。机には一枚の写真の入った写真立てが置いてある。
ユウは特に考えずにその写真立てを手に撮ってみる。写っているのは愛佳と修三、それと見知らぬ女性だった。
「それ、お母さん・・・」
「え?」
お茶を持って部屋に入って来た愛佳が言った。
「私が10才の頃に、夜中私が住んでいた村を魔獣が襲って来た。お母さんは私を連れて逃げた、でも、相手はとても足が速くて追いつかれるのなんて1分もしないうちだったよ。お母さんは持っていた銃で何匹か倒したけど、一匹私を襲おうとした時に私をかばって、死んじゃった・・・」
愛佳は、自分の足につけているケースから一丁の銃を取り出す。「アークM999」だ。他のパーツをつける事によって、マシンガンにもライフルにもショットガンにもなる、リボルバー式オートマチックハンドガンだ。母親の物だとすぐに分かった。
「お父さん、すごく自分を責めてた。肝心な時に妻を守れなかったって。お父さんその時、将軍とかやってたんだよ?信じられないでしょ」
その時、修三は軍の基地で作戦会議に出ていた。その時はまだ戦争中だった、今でこそ共和国になっているマルシェーリは、もとは帝国を名乗っていたのだ。マルシェーリはセイヴァーを手に入れようと、戦争を吹っかけて来た。結局セイヴァーに返り討ちにあい、共和国に変えるようセイヴァーから提案された。命令ではなく。
これが後に『ハーメリア戦争』と呼ばれる物だ。名前の由来は単純で、決着がついたのが、マルシェーリの首都、ハーメリアだったからだ。
「私の暮らしてた村は、平和で。ハーメリア戦争の被害は全くなかった。そんな中のあの事件。・・・私、暗いのが苦手なんだ。あの事件がきっかけなのかは分からないけど、凄く恐い。寝るときは小さいライトをつけないと眠れない。・・はは、子供みたいだよね・・・」
そんな事ない、そう言ってはみた。でも彼女は首を横に振るだけだった。


    *               *              *

気がつけば寝ていた。あの後、愛佳が持って来たお茶を一緒に飲みながら、ちょっとでも空気が軽くなるような話題を出しては喋り、飲み終わり、愛佳がカップを洗いにいった時に、少しずつ睡魔が襲って来て、ついには寝てしまっていた。
確かベッドには寝ていなかったはずだが、愛佳が運んでくれたのだろうか。それとも修三か。とりあえず後で聞いて礼を言っておこうと思った。
今日もまた学校だ。昨日はクラスメイトとなんの会話もせず、ただ気絶して終わっただけだったので、さすがに気まずい。少しでもクラスにとけ込むように努力を決意したユウだった。
そういえば、気がつけば包帯やら何やらが取れていた。取った覚えはないので、修三がやったのだろうか。それにしても傷が完全に治っているとは、驚いた。そんなに早く治る程度の物だったのだろうか。
「起きた?朝ご飯出来てるよ?」
愛佳がエプロン姿で入って来た、さっきまで料理していたようだ。そう言えばさっきから良い匂いがしていた。その匂いを嗅ぐだけでお腹がすいて来る。
「早く降りて来てね」
それだけ言うと、今度は修三を起こしにいった。
とりあえず制服を着たまま寝てしまったようなので、着替える必要はない。替えの制服はあったはずだが、残念ながら洗濯中だ。昨日色々あって傷が一回開いたからだが、結構血が染みて来て制服まで血塗れになってしまった。だから今着ているのは二枚目だったりする。ちなみに学校にいた時のもそうだ。
「とりあえず、魔術と魔法関係の事はなるべく関わらないようにしよう・・・また痛いのは嫌だからな」
部屋を出て階段を下りていく。リビングには栄養バランスを考えられた、理想的としか言えない朝ご飯が並べられていた。何だか凄い。いつのまに起きて座っていたのか、修三は既にいた。愛佳も座っている。ユウも同じく座る。
「じゃあ、いただきます」
「「いただきます」」



[939] 逢梨明ユウ編 第2章(1)
のんびり - 2009年08月15日 (土) 02時57分

第2話「Another Tain(アナザー・テイン)」

高校生活2日目だ。
今の所、昼休みまで順調に何も起こらない。昨日までの事は今日からの生活の代償だったのではと考えてしまうほどに。
武術専門校と言っても、まだ剣とか槍とか振るったりする訳じゃない。今は魔法や魔術の基礎の勉強ばかりで、ユウはただ憂鬱な時間を過ごすだけだ。魔法も魔術も使えないユウに出来る事なんて黒板に書かれた物をノートに写すくらいしかない。
ちなみにノートは修三に買ってもらった。というより、愛佳が夜なのに買いに行かせた。修三が帰って来た頃にはもう深夜3時だった。アシュセイヴァ―の文房具屋は全部閉まっていて、わざわざ商業都市「リシュヴァラ」まで行って来たとか。時間も時間だったので、帰ろうとする頃には都市と都市を結ぶ電車はもう出ていなかった。
おかげで歩いてここまでやって来ていた。おそらくまだ疲れ果てて寝ている頃だろう。
そんな彼の事を思い出しつつ、ユウはクラスメートの原田と政岡と共に昼食を買いに行っていた。ユウは愛佳が作った弁当があるので付き添いだ。
「なぁ、ユウと真宮って付き合ってるのかよ?」
「・・・・、はぁ?何処からそんな話が出てくるんだよ?」
すると今度は政岡が、
「一緒の家に住んでいると聞く。なら、そう言う噂が流れて来てもおかしくは無いと思うぞ?」
「で、どうなんだよ?」
確かにそういう事は起こりうるだろうが、まさかこんなにも早く来るとは思わなかった。愛佳もそんな質問を受けているのだろうか。
それにしても、期待の眼差しで無駄に詰め寄ってくる2人の視線が返答をするのを阻んでくる。時間が立てば経つほどに無駄な誤解を招きかねないので、さっさと答える事にした。
「噂は噂だよ、あいつと俺はそう言う関係ではない。いろいろあって、住まわせてもらってるだけで、特にそんなイベントも起こらないぞ?」
「なんだよつまんねぇ〜」
「まぁ、こんな短期間でカップルが出来る方が以上だがな」
何だか納得してもらえたらしい。自分の弁当を愛佳が作ったなどと言ったら確実にまた余計な誤解を生むかもしれないと思ったユウだった。
購買部に着くと、漫画にでも出ていそうな光景が広がっていた。
男どもは群がり、女達は遠くで男達が去るのをじっと待っている。でもその頃にはもう何も残っていないだろう事を悟って、さっさと学食に走って行く。
「す、すげぇな。こんな光景は始めてだぞ」
「ここは品揃えがいいらしいからなぁ。こんな光景も珍しき物じゃないらしいぜ」
「しかも素材も一級品だ。それでいて基本価格。群がってくる訳だな」
それで儲かるのだろうか?逆に出費ばかりが増えて行くような気がするのだが。
「不景気が続いているらしいが、学園都市の管理科の奴等が援助金を出してるらしいから続けられるそうだ。意外と辛いんだな」
「・・・・、ていうか行かなくていいのか?早くしないと無くなっちまう勢いだぞ?」
あ、としまった、という顔をしながら群がる男どものもとへ走って行き、弾き返されている。それを何度も繰り返し、やっと中へ入れたようだった。
ユウはただその光景を見つめていた。ちょっとした考え事をしながら。
(愛佳のウェポンケースには銃を入れてあるんだよな。じゃあ、記憶を失う前の俺が俺のに何か入れてるかな・・・)
考えつつ自分のケースの中を探ってみる。と何か棒状の小さな物が入っている。取り出してみると、剣の柄のような物だった。一本の棒の真ん中辺りから、半円を描いた鍔のような物が付いていた。表面には文字が刻まれているが、薄れてしまっていてよく読めない。
「これ、武器なのか?警棒的な・・・にしては短いな、何かの剣の柄だったりするのか?」
あんまりいじってまた吹き飛ぶような事は起きてほしくないので、とりあえずしまっておく事にする。あとで愛佳と修三にでも相談してみる事にして。
3分後に2人は帰って来た。戦利品として原田は焼きそばパンを、政岡はコロッケパンを持っている。
「ちぇ。唐揚げ弁当狙ってたんだけどな。最後の一個取られちまったよ・・・」
「俺は望んだ物が手に入ったな」
昼休みはまだ始まったばかり。昼食を食べたらどうするか、教室に戻りながら話し合っていた。

    *               *             *

「ねぇ、愛佳ってさ。逢梨明君と付き合ってる訳?」
ユウが聞かれた質問はやはり愛佳にも飛んで来た。
「えぇ!?な、何?それ一体何処から流れて来たの・・・?」
「えぇ〜?皆噂してるんだよ?愛佳と逢梨明君は付き合ってるって。だって、同棲してるんでしょ?」
「ど、同棲って・・・ユウには家がないから家に住ませてあげてるだけで同棲なんて・・・父さんだっているし」
聞いて来た河原は面白くなさそうな顔をしだした。期待していたようだ。
確かにそういう噂が立ってもおかしくは無いと思う。実際一緒に住んでいる訳だし。たいてい一緒にいるし。
でも誤解も良い所だ。ユウとはまだ出会ってから1日しか立っていないと言うのに、付き合う訳がない。だいたい噂が立つのが早すぎやしないか?
「一緒に帰る所を目撃した人がいたらしくてさ。そいつが色々脚色して言いふらしてたらしいよ?」
「原田だっけ?たしか。うちのクラスの」
確かさっきユウと一緒に購買部に行った男子だったはずだ。と言う事はユウも同じ質問を受けている可能性がかなり高い。ていうか受けているだろう、確実に。
「ま、違うなら良いけどさ?あ、そういえばさ。最近ハウンドドッグの群れによる襲撃が多発してるって話知ってる?」
確か、滅多に群れを作らないはずのオオカミのような魔獣、ハウンドドッグが珍しく2、30匹の群れを作って襲って来たとか言う話だったはずだ。この件については今朝のニュースでも取り上げられていた。村や町を襲い続けているらしく、今の所死者は出ていないようだが、怪我人は何人も出ているそうだ。
「ここにも来たりして・・・」
「さ、沙織、そんな物騒な事言わないでよ・・・」
沙織とは河原の名前だったりする。
ハウンドドッグの2、30匹の群れ。確かに珍しいが、過去に例がない訳ではない。それでもせいぜい2、3件程度だ。相当珍しい。
だが、珍しいと言う言葉で済む訳もなかった。ハウンドドッグの群れは、かなりの強敵だ。いつもは一匹でいるはずのハウンドドッグは、群れになるとかなりのチームワークを発揮する。プロでもかなり苦戦する相手だ。こんな所に来られたらかなりヤバい。
「ごめんごめん。でもさ、もし来たらどうなるんだろうね。私たちも戦わなくちゃ行けないのかな・・・?」
「・・・・、かもしれないね。学園都市には自衛軍の人達はいないし、先生達だけで対抗できるとは思えない。だから、多分」
不安そうな顔をしているのに気付き、すぐに。
「だ、大丈夫だよ。ハウンドドッグがここを襲う理由がないし、きっと来ないよ・・・」
「そ、そうだよね。来ないよね。・・・・、よ〜し、御飯時にこんなテンションじゃご飯がマズくなるって物だ!気合い入れて食べるぞ!!」
「食べ過ぎには気をつけてね?」
楽しそうな笑い声がこだまする。笑っている間にユウ達が帰って来た。話の輪に3人も入り、楽しい時間が流れて行った。



[941] 逢梨明ユウ編 第2章(2)
のんびり - 2009年08月16日 (日) 03時57分

午後は始めての武術授業だった。
先生は無駄に筋肉のついた絵に描いたような体育教師で、顔に似合わず優しい物だ。怒ると恐いのだろうが。
とりあえず、ペアを組んで戦ってみる事になった。実戦あるのみ、との事だ。
武器はペイント弾入のエアガンと、グローブ、竹刀が用意され、好きなのを使う事になった。勝敗は倒れるか膝をつくかと、ペイント弾を5発くらうかの2パターンのシンプルな物だ。
生徒達は次々と竹刀やグローブやエアガンを取って行く。
ちなみに、ユウは竹刀、愛佳はエアガンだ。
ユウと愛佳はペアとなり、戦う事になった。
「くじで決めたけど、まさかお前とペアとは・・・正直恐い」
「お母さん仕込みの銃の技、見せてあげる・・・!」
お互い距離を取り、自分の持った武器を構える。
「それじゃ・・・スタートやッ!」
ピーッ、とホイッスルのなった瞬間、竹刀と竹刀がぶつかり、エアガンから弾が出され、走り回る音が響いた。それはユウと愛佳も同じだ。
愛佳が撃ったペイント弾をユウは竹刀で弾く。
弾かれたペイント弾は弾けて中に詰まっていた絵の具が飛び散り、竹刀を桃色に染める。ユウは楽しそうに口笛を吹き、
「おぉ・・・これが漫画とかでよく出てくる身体が戦い方を覚えてると言う奴なのか?・・・見える!なんつって」
「調子に乗っちゃ駄目だよ・・・!」
続けて二発三発と撃っていくが、それをどんどん弾き、ユウは近づいていく。それを見て愛佳はバックステップで距離を取りつつ撃っていく。かなり正確な射撃だ、1mmのブレもなく、ユウの眉間を狙ってくる。だが、それを弾くユウもまた然りだった。
走ってくるユウのスピードは徐々に上がって来て、バックステップじゃ距離を取れないほどになった。愛佳は後ろに跳ぶのを止め、立ち止まって狙い撃ち始める。
「弾くまでもないなぁ!?」
「撃つだけが銃じゃないからね!」
愛佳の懐に入り、胴を打とうとするユウの一撃をエアガンの銃身で受け止める。そして彼の力で思い切り後ろに下がっていった。うまく着地し、怯む事なく、再び撃ち始める。振り切った後だから、隙が出来てうまく避けきれず2発3発と受けてしまう。
「うっ・・・しくじった・・・」
「はは・・・駄目だよ、油断しちゃ。相手の攻撃すら利用するくらい先は読まないとね?」
「うるせぇなぁ?今ので一気に5発当てられないくせに言うなっつうの!俺はまだ負けてない、そうだ!まだ勝てるのだ!!」
「元気なのはいいけど・・・私を跪かせたり倒せたりするのかな?」
「ふっ、甘く見過ぎだな。愛佳、お前の弱点は見切った!!」
「それが本当だったら良いけどね・・・!」
カートリッジを取り替え、近づいてくるユウに銃身を向ける。が、そこにユウはいなかった。
「お前、相手の動きと射撃に気を取られ過ぎて、足下がお留守になってるんだよねぇ?」
「ふぇっ!?」
ガクン、と視界が高さを変えていく。そしてゆるりと膝を芝生の上に落としていく。
「あっははははは!!俺の勝ちだ!」
思い切り大きくVサインを掲げるユウだった。
(膝つく瞬間、スカートが少し舞い上がったせいでちょっと・・・見えた、なんて言ったら絶対殺されるな・・・)
と、喜びの中に恐怖を覚えつつ。
「あぅ・・・しまった、また足下に目が行ってなかった・・・」
「まさかの逆転勝ち、か。まさに燃えるシチュエーションだよな〜」
「はぁ、もう分かったからちょっと手、貸してくれないかな・・?」
はぁ?と返すユウに、
「何か・・・腰抜けちゃって・・・」
「・・・・、何で?」

       *             *           *

授業が終わって帰りのホームルームが終わっても愛佳は立てなかった。
無意味に腰が抜けた愛佳をユウは背中におぶって帰る事になった。背中に柔らかい感触が響いてくる。
(・・・・、意外に愛佳って軽いなー、それに良い匂いだー)
密かな本音を考えていないと平常心が保てない、なんて感じだった。何だか自分が情けなくなって来る。
後ろの愛佳は可愛らしい寝息を立てながら眠っている。
ちょっとだけ後ろを見てみると、とても可憐な笑顔だった。だが、そんな笑顔に滲み出る悲しさが、こちらを何となく空しくさせる。
(10才から母親がいない、か。同い年だってのに、記憶喪失の俺なんかよりずっと辛い日々を送って来たんだな・・・)
彼女は今、どんな夢を見ているのだろうか。楽しい夢だったら良い、悲しい夢だったら早く冷めてくれと願う。
出来る事なら、この笑顔から滲み出る悲しみを取り去ってやりたい。この笑顔を守ってやりたいと思った。だが、
「魔術も魔法も使えない俺に、そんな事出来るのか・・・?」
ユウにとって、愛佳は特別な存在ではない。だが、倒れていた自分を拾ってくれた借りは返したいと思う。それはきっと簡単には返しきる事は出来ないけれど、きっとやりきって見せると誓う。
「んぁ?そういや、今日は放課後、買い物行くとか言ってたよな?じゃあ、スーパーに行かなきゃなのか・・・」
スーパーと真宮家の家は意外と近い。目の前の病院の横の路地裏を通り抜ければ目の前だ。昨日のうちにこの辺りは一通り教えてもらったから大体分かる。
「さて、さっさと買って帰るかな−−―――」
と、スーパーに行くために家に向かって行こうとしていると、ビクッと肩を振るわせる。どこからか悲鳴が聞こえたのだ。
「んなッ!?」
聞こえた方向から考えると、スーパーの方だろうか。すぐさまスーパーへと走っていき、そしてそこで見たのは、
「ま、魔獣!?」
そこでは、魔獣ハウンドドッグが人々を襲っている所だった。店内からも悲鳴が聞こえ、そして一匹自動ドアを突き破り、飛び出て来た。口には何やら食品をくわえているようだ。どうやら外のハウンドドッグは周りの人達を遅い、中に入れないようにし、中に入り込んだ奴等は食料を持ち去っていく役をかっているようだ。
スーパーの周りにいた人々は、次々に逃げ去っていく。そして残ったハウンドドッグ達は、ユウ達に目を向けた。
そして、こちらに飛びかかって来た。
「ま、マジかよ・・・!?」



[957] 第3話 「どうでも良い話」
のんびり - 2009年09月01日 (火) 23時10分

ユウ「え〜・・・今回、次の話の流れ造りのため3話を使ってキャラ同士の雑談(?)をしてみたいと思う。多分こういうの何回もあるよー」

愛佳「それと、ナレーションが減るので台詞前に名前がつきます」

ユウ「・・・ていうか、なんだよこれ。あとがき気分かっての。どう考えてもする意味ないだろ、無駄なスペースもとって」

愛佳「作者の気分だから仕方がないよ。書きながら適当に流れを作っていくつもりなんだから」

ユウ「台詞ごとのこの間は無駄すぎないか?」

愛佳「つめたら見にくいでしょ?・・・はぁ、こんな事してたら進まない。とりあえず、ユウ編に出て来たクラスメート、原田君と政岡君と河原さんです」

原田「どうもです。クラスメートの原田国篤(はらだ・くにあつ)っす」
政岡「同じく政岡春樹(まさおか・はるき)だ」「ついでに
河原「ついでに河原小夜(かわはら・さよ)でーす。よろしく〜」

ユウ「オイ、何でこいつら後付けキャラが出てくんだよ。スペースが更に無駄だろ?愛佳の父さんとかで良いじゃねぇか」

愛佳「後付けキャラでも一応クラスの一員っていうか、出さないと忘れ去られちゃうでしょ?」
ユウ「良いだろ別に。俺は気にしない。というかこいつら出て何の役に立つんだよ」
愛佳「いいの、気にしないの。これからも登場予定なんだからいいでしょ?」
ユウ「後付けどもがまた出るのか?」

原田「・・・・、出来ればそんなに後付け跡づけ連呼しないでくれると嬉んだけど」
政岡「右に同じだ」
河原「こっちも」

ユウ「はいはい。分かったよ後付けキャラ」
3人は深いため息をついた。

愛佳「えっと、とりあえず今回は作者の悩みから。最近物語がいつも急展開になってしまって困っているそうです」
ユウ「今回のハウンドドッグの件みたいにか?確かに何の脈絡もなかったような気もするな。もう少し脈絡をつけてくれても良かったかもしれん」

原田「それが苦手な人もいるんだよ、とりあえず練習あるのみじゃないか?」
政岡「だが、それでうまくなれるとは限らないな」
河原「一応、今までは読んだ小説の綴り方を真似てみてたんだから、そうすれば良いんじゃないの?」

愛佳「なるほど。とりあえず、何かアドバイスがあったら教えてください。お願いします」
「「『お願いします』」」

ユウ「さて、次は俺だ」
愛佳「ユウ?」

ユウ「そう、俺。ちょっと気になったんだけどな。愛佳、お前いつもそのリボン付けてるよな?それしかない訳?」
愛佳「ああ、これ?ううん、他にもあるよ。これよりもフリルがついてるのとか、髪を結ぶ細めのとか」

河原「愛佳って髪結ぶときあるんだ?知らなかった」
愛佳「滅多にしないけどね。気分的にって事が多いかも」

ユウ「ふむ、じゃあなんでそればかり付けてるんだ?」
愛佳「お気に入りだからかな。とにかくこのリボンが好き」
ユウ「銃、バンバン撃ちまくってる奴が言う台詞とは思えん」
言っちゃぁいけない事って言う物はある。
例えば今のユウの台詞のように。

ユウ「銃を持った女の子なんて、漫画とかでよくいるけどさ。愛佳みたいに躊躇なしに撃ってくる恐い奴はなかなかいない_____ 」
愛佳「それって私が女の子っぽく無いって事?」
ユウ「・・・・え?」
愛佳の背景に何だかゴゴゴゴゴゴゴって見えるのは何故だろう。
背筋に凍るように冷たい汗が一筋流れた。

愛佳「ユウの・・・バカああぁぁぁ!!!」
ユウ「うわッ!?突然撃つな!当たったらシャレにならないだろうが!」
愛佳「うっさい!修正してやる!!」
ユウ「なにを!?なにを修正なさるんですか!?」
愛佳「ユウの人生と根性を、命と言う代償を支払って修正させてあげるよ!!」
ユウ「つまり殺すって事じゃねぇか!」

わーわーと、騒いでる2人の外で、原田と政岡と河原の3人は呆然と立っていた。
原田「・・・・、あ、えーっと。2人の喧嘩はちょっと長くなりそうなので今回はこれで」
政岡「次は「EX.s(イクセス)編で会おう」
河原「次も頑張りますよー」

ユウ「お前らッ!助けろ〜〜!!」


[959] EX,s(イクセス)編 章数2 第1章(1)
のんびり - 2009年09月03日 (木) 21時47分

第4話「EX,s」

今は授業の合間の休み時間だ。
生徒達は次の授業の準備をして、次々とグラウンドへ出て行く。時間割を見れば次は武術科で、今日は体力作りか何かだった気がする。それもハードらしくmグラウンドを何十週と走らされ、スクワットや腕立て伏せなど、休んでも休みきれないほどの事をやらされる。まさに持久走だった。無論倒れる生徒も出る。
ユウはゆっくりと立ち上がり、グラウンドへと向かう事にした。
教室を出ると、愛佳達が待っていた。
「お前ら待ってたのか?ご苦労な事だな」
「うっさい、待っててやったんだから感謝しろっつうの」
「へいへい・・・」
いつも通りの無駄な会話をしながらグラウンドへ向かう5人。楽しそうに笑い、ただ平和な毎日を送っているのだ。きっとそれは尊い物なのだろうとユウはふと思った。愛佳が唐突に言い出す。
「そういえば、そろそろ始まるよね。決定祭」
決定祭。その言葉を聞いた途端、原田や河原はテンションが上がりだした。
何の事か分からないユウは、頭の上に?を浮かべるだけだ。
「ユウは知らないんだっけ?決定祭」
「・・・・、ああ。なんなんだ?それ。祭り?」
「祭りには変わりないけどよ、平和な祭りじゃぁない。理事長選抜特殊チーム『EX,s(イクセス)』を決める祭り、・・・いや。大会だぁッ!!」
やはり何の事か分からないユウに愛佳が詳細を説く。
「えっと、3年に一度だけ開かれる行事で、私たち高校1年生が個人個人ぶつかりあう大会・・・、それが決定祭」
「何で3年に一度なんだ?それだったら4年に一度とかでも良いだろ」
「EX,sに選ばれと人が卒業するからだよ。だから毎3年ごとにこの行事を開いてるの」
聞く所によると、EX,sというのはアシュセイヴァ―の生徒会兼、風機委員のような物だそうだ。選ばれるのは5人だけで、選ばれた5人は理事長直属のもと色々なミッションを与えられたり仕事をさせられたり何かさせられたりと、色々とする事があるそうだ。でも、その分良い特権も貰えるし、ミッションに成功すれば給料ももらえる。だから、高校1年武術専門校生はこれを目指すが多いそうだ。
ちなみに決定祭は強制参加だ。
「ふーん。まあ大体分かったけど。で?それはいつやるんだよ」
「確か今週の土曜じゃなかったか?」
「日曜だろ?」
「月曜じゃなかった訳?」
返答がバラバラだ。
「何言ってるの?今週の金曜だよ。ほら」
愛佳はポケットの中から一枚のチラシを取り出した。4人はそれを覗き込む。
4月22日金曜日10:00から。
「・・・・、って、明後日か?」
「そうだよ。明後日」
「ま、マジかよ!?ヤバい!俺、今緊張して来た!!」
「うるさい、今してどうする今して。どうせなら当日にしろ」
「何だよ、お前は緊張しないってのかよ!」
「今してたって意味はないだろ」
「何をー!」
「オイお前ら、無駄な喧嘩してる場合じゃないぞ」
「はあ?何がだよ!」
「聞こえないのか?今チャイム鳴り終わっちまったぞ」
・・・・・・・・・・。
この後、5人は他の生徒のメニュー2倍をさせられる事になった。

    *             *             *

武術科の授業が終わり、クタクタになって教室に帰って来たユウ達は昼食を食べるため購買に向かった。のだが。
「・・・・、疲れ過ぎて」
「・・・・、食欲が」 
「ない、な」
売られている物は全て美味しそうなのだが、どれも食べる気が全くしなかった。
それは愛佳と河原も一緒のようだった。
とりあえず、軽い物を選んで買って行き教室へと戻る。
「みんな、疲れてて食欲がないんだな。コロッケパンとかカレーパンが全く売れてなかった」
「他のクラスの奴等は買っているだろうがな・・・」
「プラスに考えればいいよ・・・だ、ダイエットって」
当然、出来る訳もなく。ただただハムスターが齧るかのようにちょっとずつ食べて、昼休みギリギリまでかけて食べ終えた。
「・・・やべ、眠くなってきた」
「私も・・・でも、今は冬樹先生の授業だし。寝たら何言われるか・・・」
冬樹先生。そういえば学校初日に、話も聞かず勝手にガミガミ言ってた教師だった。あれは2度も聞きたくは無かった。
だが、彼女の生物学の授業は悔しいほど分かりやすい。説明に隙がないのだ。質問なんて1つもない。あるはずもないほど完璧な授業だった。
生物学では、武術専門校というのもあって魔獣関係の事が多い。魔獣の生体や、種類によって違う習性など、様々な物がある中で冬樹先生は1つ1つ生徒が理解するまで詳しく確実に授業を進めていった。
「そういえば、冬樹先生の息子さんがいるらしいんだけど」
「マジかよ・・・信じられん」
「その息子さんがね、超名門校フレイヤ学園にいるらしいの」
フレイヤ学園とは、アシュセイヴァ―が一番最初に作ったと言われる本物の名門校だ。アシュセイヴァ―の学校の中で最も、試験が難しく、入学できるのはもう天才と呼べる者ばかりだそうだ。まさにユウ達とは無縁の世界が広がっている事だろう。
「・・・・、信じられないな。あの先生の息子がそんな所に・・・」
「でも本当らしいよ・・・ふぁぁ・・」
ついあくびをしてしまった愛佳を冬樹先生は見逃さなかった。
「しまった・・・ついうっかり気を抜いたらあくびが・・・」
「何をあくびしてるんですか!入学して始めてのテストだって、一ヶ月後に迫っていると言うのにそんな調子でどうするんですか!!」
「うぅ・・・すみません」
ユウはただ、温かい目で見守る事しか出来なかった。
(すまん愛佳。だが俺はまた冬樹先生の説教をくらいたくは無い・・・)
説教は授業が終わるまで続いたと言う。

    *               *            *

帰りのホームルームが終わり、帰りの支度を始める。
原田や政岡達は先に帰り、明後日に備えるそうだ。修行でもするつもりなのだろうか。
「酷い目にあったよ・・・」
「冬樹先生の授業中にあくびなんかするからだろ?うっかりし過ぎだって」
「だって、本当に眠かったし・・・」
ユウ自身、眠気をこらえて授業を受けるのは想像以上に厳しかった。
チャイムが鳴った時は本当に嬉かったほどだ。
「帰ってさっさと寝ろ。どうせ今日の食事当番はおっさんだろ?」
「うん・・・そうする」
トボトボと教室から出て行き、睡魔をこらえながら帰路につく。
「眠いな・・・こりゃ、布団に潜れば熟睡しちまうかも」
「そうだね・・・お父さんが起こしても起きないかもしれないね」
夕焼けの暖かさが、さらに眠くさせてくる。帰りながら寝ないようにしなければ危ないかもしれないほど眠かった。
「・・・なあ、愛佳。そういえばさ____ 」
バタっ、と何かが倒れるような音がしたかと思いきや、愛佳がその場で寝てしまっていた。
「・・・・、眠い時に仕事増やすなよ」
ゆっくりと背負い、そのまま帰っていくのであった。



[963] EX,s(イクセス)編 第1章(3)
のんびり - 2009年09月05日 (土) 02時56分

目が覚めると、もう昼時だった。
愛佳はキッチンで昼食の準備をしていた。包丁がまな板を打つ音がなんとなく、心地よくて、起きたばかりだと言うのに再び眠気を誘ってくる。
寝起きの脱力感を感じながらゆっくりと起き上がり、冷蔵庫へと向かう。目当ては昨日買って来たカロリーオフのコーラだ。炭酸でも飲まないとまた眠りに落ちてしまいそうだ。
「あ、起きたの?」
冷蔵庫に向かうユウに気付いたのか、愛佳が振り向き様に話しかけてくる。
「包丁持ったまま振り向くなよ。危ないから」
「あ、ごめん。うっかりしてた」
再びまな板の方へ向き、調理へと戻る。何を切っているのかと思えば、野菜だった。横には作り立てのドレッシングらしき物が置いてある辺り、サラダ作りの途中らしい。
ユウは目当てのコーラを取り出し、適当なコップを選んで注ぎ、一気に飲み干す。カロリーオフのくせにキツい炭酸が眠気を吹き飛ばしてくれる。
多少は残っているものの、すぐに寝てしまうほどでもないのでコーラを冷蔵庫に戻し、コップを水ですすいでおく。
「おっさんは、何処にいるんだ?」
「道場の掃除中。もうすぐ終わると思うよ」
「一人でやってんのかよ。見た目の歳とは裏腹にタフな人だな。結構広かったぞ、あの道場」
いつの間にか盛りつけ作業に入っていた愛佳は振り向かずに、
「歳に体力を奪われていくのが嫌なんだって。まだ40代なのに・・・」
「40も十分おっさんだけどな、残念ながら」
盛りつけたサラダにドレッシングをかけて、カウンターに置いていく。サラダが最後だったようで、反対側に回ってテーブルに置いていく。ユウもそれを手伝い、並べ終わると同時に修三が掃除を終えたのか戻って来た。
「ん?もう昼時だったか。時間は経つのが早いな」
かいた汗をタオルで拭いつつ、自分の席に座る。2人も席に座り、いただきますと一言。
「お疲れさんのごくろーさん。よくもまぁ、あれだけ広い道場を一人で」
「そこまで大変じゃないぞ。楽しいくらいだからお前らもやってみれば良い」
「俺はパスだ」
「右に同じ」
「ひでぇなぁ・・・ちょっとくらい、迷ってくれても良いんじゃないかね?」
くだらない雑談や世間話を繰り広げながらも昼食を終えて、片付けに入る。今日の片付け当番は修三なので、2人は一足先に道場にいく事にする。


道場に入ると、さっきまで展開していたAnother・Tainを再び展開させる。解除した覚えはないのだが、勝手に元に戻っていたのだ。一定時間ユウが手を離すと元に戻るのかもしれない。
「・・・・、今度は、大丈夫みたいだな」
「毎回倒れられてたら大変だよ」
確かに。何かあった時には確実に足を引っ張る存在と化すだろう。ぶっちゃけそれは絶対に嫌だ、無能キャラみたいで。
しばらくすると、修三もやって来た。
「さて、と。じゃあ始めるか。とりあえず、どうにかしてみろ。使い方がそいつから流れて来たんだろ?分かる範囲でとりあえずだ」
「分かった。・・・えっと、そうだな」
分かる使い方だけを思い出して、とりあえず一番簡単だったものを選びそれをやってみる。
「こう・・・か」
突然、剣身から6本ほどの機械の爪が出て来て、ガシャガシャとユウの思い通りにそれが動く。
「クローか。剣のくせにそんな物がついてるとはな、他にはないのか?」
「じゃあこれ」
爪以外の物は音声入力らしく、言った物によって形を変えて色々な攻撃が可能だ。とりあえず、分かる物を一通り入力してみる。
モード・ビームガトリング。モード・ビームバスター。モード・シールド。極めつけはモード・スライダーボードだろうか。これは、使用者がAnother・Tainに乗ってスノーノードか何かのように操りながら空中移動が可能な物だ。そのまま敵に突っ込んでいって攻撃する事も可能だ。
「ふむ・・・色々あるなぁ。こんな代物、どこで作りやがったんだ?多機能過ぎるだろ。こんな物どう作れば可能なんだか」
「創ったの人間じゃなかったりしてな。神様とか」
「はっ!そんな事がありゃ、こんな疑問持ちゃしないつーの。だいたいこの世に存在する生物は人間と獣人とついでに魔獣だ。少なくともセイヴァーにこんな技術は無いし、他国にもおそらくない。魔獣にいたっては論外だぞ」
冗談で言ったのに何故そこまで否定されねばならないのかちょっと不満だった。
「・・・まあ、もし人間と獣人と魔獣以外に誰か住んでるっつーならまだ可能性はあるけどな」
そんなユウの心を読んだのか、適当にフォローしてくる。だが今更遅かった。
「ん、もう夕方だな。今日の夕飯は俺、か。じゃあ何か買ってくるわ、買って来てほしい物はあるか?」
「明日のお弁当の材料とお茶かな」
「俺は特にない」
「りょーかい、じゃあ行ってくる」
そのまま道場から出て行き、真宮家を後にした。



[970] EX,s(イクセス)編 第1章(4)
のんびり - 2009年09月14日 (月) 23時43分

夕食を済ませ、明日に備えて寝ると言って部屋に戻ったのは数分前。
軽くだるさを感じたのはもう何十秒前くらいだ。
朝の出来事は、今日が最後じゃないかもしれない。Another Tainの機能を色々試していた中で、一度だけ同じことが起きていた。
朝よりは軽かったので幸い、2人にはバレなかったようだが、もし戦闘中にでも起きたらかなりヤバい事になるだろう。
(面倒くせー剣だな・・・)
決定祭中となれば一大事だ。速攻倒されてリタイアとなるに違いない。そうなればどう考えても日なんの嵐を浴びるだろう。さすがにそれは情けなさ過ぎるので出来れば避けたい。
「はぁ・・・寝るか」

   *               *            *

決定祭の朝は早い。
アシュセイヴァーにある武術専門校は13件。その中から出場する高校1年は2000人前後と言うのだから時間もかかる。故に早い。
ユウと愛佳は早々に防人学園へ入り、参加する他の生徒と共に会場へと向かう。
「愛佳、決定祭って何処でやる訳?」
「技術都市シュヴェーデでやるんだって。どんな事するかは分からないんだけど」
シュヴェーデは多数の分野に別れた巨大な研究所や工場がある事で有名だが、他にもセイヴァーを治める女王の城やセイヴァーを守る軍の基地も存在しているらしい。
噂では今回の決定祭には女王が観戦に来るとか。
「でも本当に来るのかな?たかが生徒のお祭りだよ?なんでそんな物、女王様が見に来るの?」
「興味があるか、誰かに勧められたかって所じゃないのかー?でも、もし来るんだったら相当警備は厳重になってくるんだろうな。楽しい決定祭が暑苦しくなるぜ」
「仕方ないよ、だって女王様が来るかもしれないんだもん。警備だって厳重にもなるよ」
ぶっちゃけ、そんなになるくらいなら来るなと言いたいユウだった。
確かにAnother Tainの事は心配だが、心配ばかりしていたら楽しめる物も楽しめないくなってしまう。どうせなら思い切り楽しもう、記憶喪失生活始めての祭りなのだから。



[972] EX,s(イクセス)編 第2章(1)
のんびり - 2009年09月22日 (火) 20時08分

第5話「過酷な試練と試練」

技術都市シュヴェーデ。
都市の中心に女王の住む巨大な城が建っているここは、医療、機械工学、医療技術、様々な事を研究、開発をしている場だ。
セイヴァーの全てのうち8割がこのシュヴェーデに結集されていると言っても大袈裟な話ではない。セイヴァーと言う国はここから始まったのだし、第一個の都市があるからこそ、セイヴァーの民が生きていられると言っても過言ではないほどだ。
そんな技術都市シュヴェーデには、研究も開発もしない場が城意外にも存在している。
全生徒の夢『ファンタジースタジアム』。
単純にこの星の名前の一部を取って付けられた名前だが、アシュセイヴァーで運動部に入っている生徒の全てはここの土を踏む事を夢見る物だった。何故ならこのスタジアムこそがセイヴァー全てのスポーツの全国大会が開かれる場所だからである
まだ部活は始まっていないので興奮している生徒は少ないようだが、いずれ同じ夢を持つ事だろう。
ユウ達、決定祭に参加する生徒達は都市間を繋ぐトレインに乗っていた。いくつか貸し切り、学校ごとに乗り分けている。
トレインの中でもこの5人は集まっていた。
「随分でかい所なんだな。周りの研究所やら何やらとは大違いに」
「そりゃぁ、いろんなスポーツの大会が開けるように設備を整えてあるから・・・広いに決まってるよ」
技術都市のパンフレットを見ながらそんなことを言っていた。
サッカーや野球やテニスなど。数多のスポーツのコートに変える事も可能だし、客席には何千万人と入る事が可能だったりする。
本当に巨大なスタジアムなのだった。
「俺サッカー部入るからさー、いつかここで試合出来たらって夢も見ちゃうんだよね。何たって凄い数の客が来るからなぁ」
「夢で終わらなければ良いけどな」
「終わらせねー様にするの!全く、気分をぶち壊しやがって・・・」
ブツブツぼやきだした原田をよそに、話は進む。
「・・・で、決定祭ってどんな事するんだよ?」
「さぁ・・・、いつも種目はバラバラみたいだし分からない。前回の決定祭はトーナメント式に決めてたみたいだけど」
「いつも同じ種目は重ならないのよね。一種目だけとは限らなかったりするし、何種目もする時もある。それに今年で学園都市理事長も変わっちゃったみたいだから、何をするかなんて全く予想もつかないわね」
去年まで70を超えた老人が理事長を務めていたらしいのだが、今年で定年退職し、新しく理事長が入ったそうだ。
いつもは50は超えた人がやるそうなのだが、セイヴァー初とも言える若い理事長なのだそうで、この短期間で様々な問題を解決してきたらしい。アシュセイヴァ−からも他都市からも厚い信頼を受けているそうだ。
「あ、そろそろ着くみたいだね」
愛佳が言ったと同時に、トレインが減速し始める。
窓から覗くとまだ少し遠いので見づらいが、トレイン専用の都市入り口の扉が開いて行くのが見える。
「あれが・・・『技術都市シュヴェーデ』・・・」
ここからでも見える女王の城を中心に、建物がいくつか建っている。アシュセイヴァーほど多くは無いが、その分大きさがある物が多い。
ここからではスタジアムはほぼ見えない。だが、そんな事はおかまいなしに生徒達は騒ぎ始めた。初めて来たのだから無理もないだろう。
「何かいろんなアームが行き来してるね・・・」
「開発された機械か何かが運ばれてるんだろう、あれはおそらく商業都市にでも送られるはずだ」
政岡は意外と物知りで、1年の中でもセイヴァーを知り尽くしている。
前にも語っていた時があった。
トレインは技術都市の入り口に入っていく。急に静かになった車内に響いた擬似的な声。
『ようこそ、技術都市シュヴェーデへ』

   *        *        *        *        *

シュヴェーデに入るとすぐにスタジアムに向かった。
向かう中で見かけた自立行動型機械人形(オートマトン)は意外にも迫力があった。労働する自立行動型機械人形や武装してる自立行動型機械人形まで、様々な種類があって、小さな物や巨大な物まであった。
外で働いている人は少なく、ほぼ自立行動型機械人形に任せているらしい。途中通った軍の基地は違ったようだが。
「凄いんだな、技術都市って・・・機械だらけだぜ」
「セイヴァーの8割が結集されてるって言われてるから、驚く事じゃないみたいだね。・・・・、でもさっきのはびっくりしたね」
何の事かと思えばさっきの事。
軍の基地を通りかかった所だった。
超武装した機械人形に出くわし、いきなりバズーカを向けてきた物だから驚かずにはいられなかった。
どうやら自立行動型ではなく有人型だったらしく、驚かせるためにやっただけだったようなのだが。
「悪戯にもほどがあるってもんだよなー、寿命3年くらい縮んじまったぜ・・・」
「自立行動型機械人形だったら、終わってたかもな・・・」
「ま、まあ不吉な話はよしましょう?もう着くんだし・・・」
最後の曲がり角を曲がった所にスタジアムはあった。
パンフレットで見た物より大きく感じるそれは、もの凄い迫力だった。女王の城が都市の4割を占めているが、このスタジアムは2割ほど占めてしまっているらしく残りの4割が研究所やら開発所やららしい。
中に入ると広めの受付があり、別の学校の生徒達を選手登録しているようだ。
登録は教師に任されるため、生徒達は都市生徒全員が入ってしまうほどの部屋に待機する。
「はぁ・・・でも俺ぁEX,sなんかにゃ入る気ねぇんだけどな。EX,sなんかに入っちまったらサッカー部に入れないし」
「お前は両立するという考えは出てこないのか?」
「んなかったるい事出来っかよー、疲れるだけだろうが」
また言い争いの始まった2人を眺める3人。
周りは緊張の渦だと言うのに、ここだけは無駄に余裕がある。それはなんだか誇っていも良い事かもしれない気がした。
「・・・あ」
ふと気がつき、んー、と考え始める。
「どうかしたのユウ・・・?」
「いや、ちょっと気がついたんだけど。EX,sっていろんな所行くよな?ミッションとやらで」
ゆっくり頷く。
「って事は、行った先々でもしかしたら俺の記憶に関係する物とかあるかなーなんて。思ったんだけど」
「・・・あ・・」
「確かに、ね。あちこち行けば何かあるかもしれないわね」
同意を得られた事に少し喜びを得つつも決意する。
もしかしたらAnother・Tainの発作のような物がまた来るかもしれない。
また何か面倒な事だって起こるかもしれない。
でも、
「記憶がないままじゃ、中途半端な気がする。でもEX,sに入れば記憶の手がかりがあるかもしれない。だから_____ 」
宣言する。揺るぎない決意を持って。
「 _____俺、絶対EX,s入るから」

宣言と共に決定祭開始の合図が響く。





[974] EX,s(イクセス)編 第2章(2)予定章数3に変更
のんびり - 2009年09月23日 (水) 18時24分

「えー、私が学園都市アシュセイヴァーの理事長。リッドベルト・クレアです。生徒の皆様、観客席の皆様。忙しい中来ていただき本当にありがとうございます」
理事長リッドベルト・クレアの挨拶から始まった決定祭。
広いスタジアムのフィールドに多くの生徒達が立ち並び、観客席には多くの親や何処からかやってきた人達がいる。もしかしたら修三もあの中にいるかもしれない。
リッドベルトの話は意外と早く終え、早々に決定祭で行う種目に着いて説明が始まった。
「え〜、今回は3種目行います。まず1つ目は、技術都市1週マラソン、時間制限付きですね」
え〜〜っ!?っと一斉に叫ぶ。それもそうだろう、技術都市は都市の中でも一番大きいのだ。それを1周するとなると、相当、いやもの凄くキツい。もしかしたら倒れる者まで出てくるかもしれない。時間制限付きともなれば尚更だ。
「ちなみに1時間半です。これを1分超えるとアウト、1時間半59秒までならセーフです」
「凄いルールだな・・・1時間やそこらで1周できるのかよここ」
「さ、さあ・・・?」
説明は続く。
「2種目目は、マラソンを通った人達だけでグループに別れサバイバル戦です。こちらは時間制限なしで、2人のこるまで続きます」
「サバイバルぅ〜?超キツそうなんだけど。俺マラソンで落ちよっかな〜」
「3種目目はその残った2人で対決していただき、勝った方がEX,sに入れます」
それだけ言うとリッドベルトは去っていった。
しばらくの沈黙。
そしてその沈黙を断ち切るように、1種目目のマラソンのコースを説明し始める。
ルールはさっき言った通り技術都市を時間内に1周すれば良い。コースは別にどんな道を通っても良いが、いくつか決められた場所があるのでそこは絶対的に通らなくてはいけない。
決められた所意外は歩きではなく、スカイボード等に乗って行っても良いがあまり高く飛んだりすると技術都市の超電磁砲(レールガン)が撃ち落とそうとしてくるから注意が必要のようだ。
妨害等は相手が死ななければOK。
「走りだけじゃなくていいなら、まだ何とかなりそうだな」
「死ななければ良いって・・・大怪我とかしたらどうするんだろう・・」
「とりあえず、GPS機能付きで技術都市の地図が見れる腕時計を配布するのでつけてくださいねー」
前からその腕時計が入った籠がまわされてきた。受け取って後ろの愛佳に渡す。
意外にシンプルな時計で、デジタル式だ。ちなみに、現在の時刻ではなく制限時間を表示しているようだ。
「では、開始します。ゲートはあっちを通ってください。では____ 」
口に溜まった唾液を飲み込む。
「スタート!!」

   *         *         *        *

合図と同時に、全員が走り出す。
ユウも愛佳も原田達もそれに続き、ゲートに向かって走っていく。
「確実に行くなら、協力した方が良いと思うけど・・・どうする?」
「俺は別に良いぜ。あいつらは・・・別に良いかぁ」
「そうだね、落ちる気満々だしね」
「さて、最初の決められた道までどう行くかだな」
技術都市一周ともなれば体力の温存がかなり重要になってくる。さらに温存しつつ早く決められた道まで到達できる道も探さなくてはならない。
これは例えるならシュミレーションゲーム。
戦略(ルート)を組み立て、確実に制限内でゴールにたどり着かなくてはならない。
ユウはさっき渡された時計に地図を表示させる。かなり細かく書かれているので流れを考えやすそうだ。
「現在地は・・・この矢印か。最初の道は軍の基地付近、ね」
「っていうと、ここから北西だね。直線でいければ良いんだけど・・・」
「俺はAnother・Tainのスライダーモードがあるから良いけど、愛佳は何かある?」
ウェポンケースから愛用の銃アークM999を取り出し、そこに小さな立方体の箱をくっつける。
「これ超圧縮ボックスね。色々入れられるんだよ」
カチっとそのボックスを押すと、ガシャガシャと音を立てながら形を変えて行きフックショットへと姿を変えた。よくみると完全にアークM999と合体している。
「お母さんのこの銃ね、いろいろカスタマイズかのなんだよ。だからこんなのもつけられるの」
これでいけるよー、と穏やかな笑顔で返される。
「1つで行けるのか?それに疲れそうなんだけどそれ」
「・・・だって、スカイボード持ってきてはいるけど乗れないし・・・その、操縦難しくって」
だったら持ってこなくても良かったんじゃ?と思ったたが、とりあえず置いておく。
「じゃあ、俺が『お嬢様だっこ』してやるから。それで一緒に乗ってこーぜ?」
「・・・・、は?」
ユウは立ち止まって、Another・Tainを展開させスライダーモードにし、浮かせたまま待機させる。そして有無を言わせず愛佳の左肩と足の膝裏に手を回して持ち上げた。完全なお姫様だっこだ。
「ちょ・・・!本当にするの・・・?すっごい恥ずかしいんだけど。絶対誤解産むって・・・」
「見つからなきゃ良いだけだろ、そらっ!」
愛佳をお姫様だっこしながらAnother・Tainに飛び乗ってそのままの状態で、少しずつ上昇して行き、そのまま飛んで行く。
ビルとビルの間を颯爽と抜けて行き、高く飛びすぎないように注意する。
「ちょっと・・・速すぎないかな?それと絶対落とさないでよね・・・?」
「愛佳が暴れたりしなきゃ大丈夫だろ?」
「あ、暴れるわけないってば!落ちるかもしれないのに!・・・えっと、そこ右」
ボードの先端を右にしながら前に突き出して一気に曲がる。
風の抵抗がいくらかあって落ちそうではあるが、ボード自体が自分を引っ張ってくれているのでこの程度では落ちはしない。
それからいくつか曲がった所で、決まったルートに着いた。
ボードを思い切り地面にこすりつけてブレーキをかける。大量の火花が飛び散りながらボードは減速して行き、ある程度遅くなってきた所でボードを蹴り上げて地面に突き刺す。
「も、もうちょっとゆっくり降りられないの・・・?」
「それでも良いけど、遅いぜ?」
ゆっくりと愛佳を降ろして、突き刺したAnother・Tainを持ち上げる。
「こっから、決まったルートだな。さ、行こうぜ」
「うん・・・!」

    *        *          *         *

ここは、理事長リッドベルト・クレアが技術都市一周マラソンを見る特別な部屋だ。生徒達の安全を見守るためでもあるため、リッドベルトだけではなく何人かの職員が設置されたカメラの映像を見つめている。
「理事長」
「あぁん?なんだよ?」
説明の時とは全く違う声のトーンで、全く違う言葉遣いで返答をする。
「この2人、協力しちゃってますけど良いんですか?」
「・・・誰?それ」
「えっと・・・逢梨明ユウと真宮愛佳ですね」
ああ、と何か思い出したような反応をして、立ち上がって職員の元に行く。
「こいつらは別に良いぜ。第一、協力禁止なんて事も言ってないしなぁ。ああ、それとこの2人マラソン突破したら絶対別のブロック入れろよ?出来れば2人ともEX,sに欲しいから」
「よろしいのですか?前代未聞ですよ、理事長自ら生徒を限定して別に分けるなんて事」
「良いんだよ。EX,sは生徒全員の見本になる奴等なんだからよ、有望な奴等が欲しいじゃねぇか。それに・・・逢梨明の方はすご〜〜く興味あるんだよなぁ」
一間を置く。
その言葉を発したリッドベルトの瞳は、殺人鬼のような鋭い目をしていた。何かを狩りとるかのような。
「魔力のバカ高ぇ、それも人間が持ち合わせないほどの量をもった奴。気になるじゃねぇか?どんな奴で、どんな化け物なのか。記憶喪失で消え去った、こいつの過去とかよぉ」






[978] EX,s(イクセス)編 第2章(3)
のんびり - 2009年10月03日 (土) 03時51分

第1の指定ルートを抜け、先程と同じようにAnother・Tainのスライダーモードで一気に第2の指定ルートに向かうユウと愛佳と同じように、ここにもまた常識はずれな奴がいた。
「・・・・・・」
それはフレイヤ学園の制服となっているブレザーを着て、シンプルな眼鏡をかけた黒髪の少年だった。表情はなんだか固く、勉強のできそうな顔をしている。
その透き通ったブルーサファイアのような瞳だけは、柔らかかった。
名を、『冬樹白馬(ふゆき・はくま)』という。
防人学園の冬樹の息子で、フレイヤ学園1勉強ができる男だ。ついでに言うならフレイヤ学園1暗くてつまらない男でもある。
「残り4分の2・・・か。意外と短かったな」
彼は今、指定ルート2を抜け最後の指定ルート3へ向かっている途中だ。
しかも、今彼が走っているのはビルの上や壁、ビルとビルの間だ。鍛えられた身体を十分に使い、恐ろしい速さで飛び回る。もちろんスカイボードも、ユウのAnother・Tainのスライダーモードのような物も無い。
ビルの屋上に設置された避雷針から思い切り飛び、一気に指定ルート3に入る。ここを抜ければあとはゴールに向かって走るだけだ。
ふと後ろを見る、当然ながら誰もいない。
「・・・・・・」
白馬は再び前を向き、最後の指定ルートを走っていく。

  *                *               *

ユウと愛佳は指定ルート2のゴールを抜けようとしていた。のだが。
「な、なんだ?あれ」
「わ、分かんないよ・・・」
ガシャウィーン、ドーン!ガシャウィーン、ドーン!と機械音バリバリのそれは、無駄にごつく、無駄に重装甲で、本当無駄に重武装な2体の自立行動型機械人形(オートマトン)だった。
武装は追尾型ミサイルランチャーと、5,7型マシンガン。そしてHML-36式バズーカだ。
胸元には『技術都市1週マラソン試練ロボ』と書かれている。向こうで用意された物らしい。
「ゴールを目指す俺達の障害って事か、じゃあぶっ壊しちゃって良いんだよな」
「そうだろうね」
瞬間、ミサイルが一斉発射された。
「その程度の数じゃ、私に当てる事なんか出来ないよ」
愛佳はアークのリボルバーを開け、腰に付けた装填用のリボルバーに突っ込み一気に弾の装填を終える。そして、
「銃の弾丸って言うのはね」
上に振り上げリボルバーを閉める。
「中身によって違うんだよね・・・!」
多数のミサイル群に銃口を向け、ためらいも無くトリガーをひく。
銃口から放たれた物は1発の弾丸ではなく、まるで落雷のような一撃だった。
それは全てのミサイル群を破壊し、そのまま自立行動型機械人形に命中する。その重装甲をブチ抜いて。

弾倉式聖4段の2、虎牙(こが)。

「一撃かよ・・・おっと!」
マシンガンから連射されるのは麻酔弾だ。それもきっかり2時間分の。あたったら確実にリタイアだろう。
襲い来る麻酔弾の波を後ろに飛んだり横に飛んだりして避け続ける。そして、
弾が切れた。
「待ってたぜ、弾切れの瞬間」
瞬時にAnother・Tainのモードを変える。

モード・バスターブレード。

「電磁の長剣(ビームソード)!!」
剣に戻ったAnother・Tainの剣身が上下に分かれ、細く先端が尖った小さな円錐状の物が開いた剣身から現れる。
そしてそのまま振り下ろすと、その小さな円錐状の物から巨大な電磁の長剣(ビームソード)が作り出され自立行動型機械人形を真っ二つに切り裂く。
「チェックメイト、だ」

    *              *            *

残った時間はあと30分。
ユウと愛佳は指定ルート3を通過し、スライダーモードで一気にゴールした。1番かと思っていたのだが、意外といっぱい来ていてざっと100人ほどだ。
それでも最初の何千人に比べればかなり減っただろう。
スタジアムの巨大なスクリーンには今走っている生徒達の映像が映されていて、端にリタイアした人数が表示されている。もはや走っている生徒は半分もいない。
「あれに原田とか政岡も含まれてんだろうな」
「やる気無かったしね」
スクリーンから目を離し、ゴールした連中を見渡してみる。
伊達に武術専門校に通っていないのか女子もあちこちにいて、息を切らしている。男子も何人か座り込んで休んでいる生徒がいて、過酷なマラソンだった事が伺える。
「・・・・俺達結構楽してたよな」
「かもね・・・。途中、スライダーのブースターを使って指定ルート走ったりしたし。足は地面についてるからってあれ良いのかなぁ・・・?」
「一応走ってたんだから良いだろ別に。それより俺達も休もうぜ、特に疲れちゃいないけど」
適当に座り込み、一休みする。スタジアムの芝生は人工芝でありながら限りなく自然に近い物のため、凄く気持ちよかった。まるで原っぱにいるような感覚になる。
次はブロック別サバイバル。何が起こるか、少し楽しみだった。

      *            *            *

「さぁて、やっとマラソンが終わったなぁ。一体何人残りやがったんだぁ?」
「ざっと150人です。その中に例の2人もいるようです」
賞賛の口笛を吹く。リッドベルトは手元のテーブルに置かれたコーヒーを一口飲むと、
「じゃ、ブロック分けの時は別々にしてくれい。わかったなぁ?」
「了解です」
職員はノートパソコンに残った生徒の名前をブロック別に書き込んでいく。ちゃんとユウと愛佳を別のブロックにしたまま。




[984] EX,s編 第3章(1)
のんびり - 2009年10月08日 (木) 01時36分

次の競技が始まった、ブロック別サバイバルである。
ユウと愛佳は別のブロックに分けられ、2人は別々のステージに向かった。
「150人で行うサバイバルのステージとなるのはこいつです!」
突如、5つの巨大な箱が現れ、その箱を開けるとそこには空間がねじれたような渦が広がっていた。
「この渦の奥には、広大な異世界が広がっており『森』、『砂漠』、『海岸』の三つの自然で作られた世界が待ち受けています。このフィールド内ならどこに行ってもかまいません、最後に2人生き残った時点でそのブロックは終了といたします」
まさにサバイバルだった。5ブロックのに分けられたと言う事は1ブロック30人。そこからたったの2人だけを選ぶのだから、相当大変なはずだ。思い切り持久戦へと化すだろう。なるべく連戦は控えた方が良いかもしれない。
「それでは・・・スタぁぁ〜〜ット!!」

   *              *                *

巨大な箱の中に入るとそこは森の中だった。
周りにある木は巨大で太く、根が地中からはみ出ているため足場が悪く、少し歩きにくい。森と言うより樹海か何かのような場所だった。
周りに他の生徒はいない。ユウ1人だ。おそらく全員別々の場所に分けて入れられたのだろう。『森』、『砂漠』、『海岸』の三つのどこかへ。
とにかく同じ場所にずっと留まっているのは危険なので、とりあえず歩いてみる事にする。Another・Tainは展開を解除して。

「まずは1人。だな」

「・・・・!」
背後から声がしたと思えば、何か丸みを帯びた物が飛んでくる。ユウはそれをかがんで避ける。
「結構反応速いな、結構奇襲成功すると思ってたんだけど」
背後の木の枝に立っていたのは、灰色の長い髪を後ろで束ねて、Tシャツの上に袖をまくったジャケットを着た男だった。
彼の手にさっき投げたらしい物が返ってくる。柄から出た剣身が半円描いて曲がっている、剣。ショーテルだ。
ギリギリ避けれた安堵感を抱えつつ聞いてみる。
「・・・誰?アンタ」
「御剣遊馬(みつるぎ・あすま)。お前と同じ防人学園の生徒だ。結構有名だったんだけどね、俺」
ユウはAnother・Tainを展開させる。
「お前の噂は結構聞いてるぜ、記憶喪失なんだってな?そのためにEX,sに入ろうってか。結構くだらねぇ理由だな?」
「どうとでも言っとけ、自分の事が分からないままだと気持ち悪いから入って手がかりを探すんだよ。仕事はちゃんとこなすから別に良いだろ?」
「覚悟って奴が足りてねぇみたいだな。EX,sはお前が考えてるほど簡単な物じゃない、学園都市の象徴であり守護者なんだぞ?都市国セイヴァーの一柱であり、守護者でもあるEX,sを記憶の手がかりを探すなんて動機で入っていい訳ないだろうがボケ」
ユウはニヤリと笑う。
それは悪でも正義でもなく、ただ単純な笑みだった。
そして言う。

「悪いな、俺はボケじゃなくてバカなんだよ」

瞬間、舌打ちと共にショーテルを上に構えたまま御剣が突っ込んできた。
ユウはAnother・Tainを彼の向かってくる斜め上空に向けるだけだ。
モード・シールド。
ガキぃ!と金属同士がぶつかりあう音と、オレンジ色に輝く火花が散る。モードシールドは2本のショーテルを同時に受け、そして止める。
受け止められた御剣はAnother・Tainを蹴飛ばし後ろに飛ぶ。そこにAnother・Tainの剣身、今は盾の前面と盾を持つ方に付けられたロボットアームの刃が御剣を襲う。ユウ曰く『完全精密の切断爪(バルキリー・エッジ)』。
それを弾きつつ避ける。
「バカもボケも・・・」
ショーテルを後ろにかまえ、
「ほとんど変わらないだろうがこのボケナスが!!」
ブーメランのように投げつけてくる。
投げられたショーテルは、まるで車輪のように高速で回りながらこちらに向かってくる。
同じようにシールドで弾く。そして同じように『完全精密の切断爪』を放とうと御剣の方を見ると、
そこには誰もいなかった。
いつの間にか後ろに御剣がいたのだ。
「なっ・・・!?」
「ダアアぁぁああああああ!!」
思い切り振り落とされたショーテルが、横に跳んで避けようとしたユウの左肩をかすめる。それだけでも左肩の頭を擦り傷ではなく完全な切り傷にするだけの威力はあった。
御剣から距離を取り体制を整える。
周りの木を見てみると、人間の足跡のような物がついた木がいくつか存在した。どうやら木を蹴って一瞬でユウの背後を取ったようだ。しかも足音を消しながら。
(それだけじゃない。あのショーテル・・・)
「『堕ちた者の鮮血』、か。威力と強度を強化する術式。吸血鬼の最後の抵抗として自らの血を武器として退治しようとした奴等を殺そうとした時の再現だな」
吸血鬼は代々、退治または吸血鬼化を防ぐため様々な手を尽くされてきた。死者の身体を燃やしたり、首を斬り落とし足の間に置いておいたりと。
今でこそ無いが、この惑星ドリーム・ファンタジーでも行われてきた。
そしてこの星の伝承、伝説となった吸血鬼が「ラジュラドス・ブラッド」だ。
流した血は全て己の僕と化し、時には自分を護らせ、時には相手を傷つける。その力によってラジュラドスは多くの人間を苦しめてきたと言う。
だが、立ち上がった武術師達が吸血鬼ラジュラドス・ブラッドを退治に行き追いつめたのだ。ラジュラドスは瀕死の傷を負いながらも最後の抵抗として、己が流した血を全て使い武術師達を全員殺し力つきたのだとか。
その再現をした魔術が『堕ちた者の鮮血』だ。
「その通り、結構魔術知識は豊富みたいじゃないか。『堕ちた者の鮮血』は上等強化魔術。結構使えるようになるには努力が必要だ。努力が必要な分、これだけの威力を発揮、」
大きく振りかぶり、
「してくれる訳よッ!!」
片方のショーテルを投げ飛ばす。さっきと同じようにブーメランのように高速で回りながらユウを斬り飛ばそうとしてくる。
『完全精密の切断爪』でショーテルを弾き飛ばす。
そして御剣の方を見ればやはりそこにはいない。
「終わりだぁッ!」
真後ろから横薙ぎにショーテルを振るってくる。
避けられない。
『堕ちた者の鮮血』によって強化されたショーテルの刃が、ユウの腕を襲おうとする。彼の腕を斬り飛ばすのにもはや5秒すら無かった。
はずだった。
御剣は唖然とするしか無かった。
何故なら、
ショーテルの刃が腕を切断する寸前で止まったからだ。
御剣は振るうその手を止めようとはしていない。ただ勝手にブレーキがかかりショーテルの刃は止まった。
「芸が無いな」
「・・・!」
目の前にいる男は振り返らずに言う。
勝利を確信した背中を御剣に向けながら。
「連続で同じ方法を繰り出したら、何かしらの対処を受けるに決まってる。強い相手に対して大勢でかかったり、強力な魔術魔法を使う相手がいるなら魔導封じの術式を発動するとか、な」
つまり、と一言区切り言う。
振り返りながら。
「チェックメイトだ」
ずちゅ!、と肉を突き破る音がした。
それと共に悲鳴が森の中を走り回り、木をざわめきつかせる。
御剣はゆっくりと自分の右腕を見る。
『完全精密の切断爪』が手の甲を貫通し掌を破り、二の腕を2本のクローが噛み付き、果てには肩に突き刺さっていた。
どくどくと血が流れ、それと共に力が抜け膝を折る。
右腕はもはや動かない。動いたとしても、クローにかまれた状態ではどうする事も出来なかった。
「ぐっ・・・・・さっきはよく見てなかったけど・・その爪、10本も付いてんのかよ・・・・・!」
「多機能式機械剣だからな?」
ユウが側頭部に軽く蹴りを入れるとゆっくり力が抜け気絶してしまった。
御剣の身体は勝手にフィールドから消えた。リタイヤした生徒は勝手に消えるようになっているのかもしれない。
「さて、まだ何十人いることやら______ 」
そう思った所で思考は中断された。
突如サイレンが鳴り響いたのだ。そう、終了を知らせるサイレンが。




[998] EX,s編 第3章(3)
のんびり - 2009年10月25日 (日) 12時56分

第3種目の各ブロック生き残りの2人同士の戦い。
各ブロックの生き残り2人は、縦横1kmの巨大なフィールドで順番に戦っていく。戦闘中の生徒達の身体は第2種目同様身体がバーチャル化され、痛みを感じる事意外は安全な状態で行われる。(出血したり出血多量で意識が朦朧としたりとリアルな所は抜かれていない)
勝利条件は相手を気絶、降参させるか場外にだすかの3つ。敗北条件は勝利条件の逆で、気絶するか降参するか場外に出されるかの3つ。
魔法、魔術は使用禁止で、自分の持っている武器だけでガチバトルな訳だ。
ちなみにユウの番は一番最初だ。
ユウの名前と対戦者らしい名前が呼ばれ、ステージに上がる。周りから見るより1kmのステージはかなり広く見えた。真正面に対戦者、つまり第2種目目で生き残った生徒が現れる。
もの凄く面構えが悪い青年だった。
悪人としか言いようの無い顔つき、表情で、ワックスでガチガチに固められなんだかツンツンと尖った草原色の髪。額には鉢巻きがしてあって、服はなんとフレイヤ学園の物だった。さっき理事長が言った名前は「杯礼帑(さかずき・れいど)だったか。
(こ、こんな悪人面で頭がいいのか・・・?恐ろしい)
右手には何だか変な形をした銃槍(ガンランス)を持っている。
持つべき所の後ろには小型のロケットブースタ−のような物が付いているし、槍の胴体はつぼみのようにデコボコしていて、先端にいたっては刃はもの凄く小さく代わりにパラボラアンテナのような物が取り付けられている。一体槍に何故パラボラアンテナが必要なのだろうかと考えていると、
「オイ」
杯が話しかけてきた。
あの悪人面でオイなんて言われたら少し恐い。
「身体はバーチャル化されてるらしいな?ヨカッタじゃねぇか。一応シナナインダカラヨ」
どうやら杯の中では自分が勝つ事前提らしい。
非常に頭に来る。
「悪いけどその言葉、そっくりそのまま返させてもらうぜ」
「ハッ!お前俺様に勝つつもりでイルノカ?寝言は寝てる間にイエってんだよ」
しばらくの沈黙。
それを破ったのは理事長、リッドベルト・クレアの声だった。
『それでは・・・第3種目目第1試合』
すぅ、と息を吸い、
『始めえぇぇぇぇ!!』

    *               *              *

視界が全てライトブルーの光に包まれた。
その光はユウを飲み込まんとステージの地面を削りながら向かってくる。
高出力のエネルギーバスターである。
杯の持っていた銃槍のパラボラアンテナは、エネルギーをあの小さな刃に集中させ凝縮させ一気に放つために取り付けられていたのだ。
後部に取り付けられていた小型ロケットブースターはこの一撃に自分が吹き飛ばされないようにするための逆噴射用だったのだろう。
迷う事無くAnother・Tainを展開、モード・シールドにして高出力のエネルギーバスターを受け止めようとする。魔力を使った結界がシールドから現れ、それを受け止めるが、相手の質量が全く違う。受け止めたは良いが、手足の骨がきしみ筋肉が悲鳴を上げる。
足下はまるで氷の上かのように滑っていく。
(このままだと場外になる・・・!)
おそらく杯は相手を一撃必殺で倒すのと、受け止めた相手を高質量の一撃で場外の2つを狙っていたのだろう。
だがユウとて思い通りになる気はなかった。
シールドの裏面の『完全精密の切断爪(バルキリー・エッジ)』3本を地面に突き刺し滑っていく速度を落とし、残った2本で一気に自分を横に押し出す。
それだけではこの場は抜けられない。押し出すと同時にバスターを受け流すようにシールドを滑らせていく。『完全精密の切断爪』を戻し、バスターから逃れる事に成功した。
おおぉー、と観客から驚きの声が聞こえる。
「チッ、抜け出してきやがったかよ。マァそう簡単に負けてモラッテモ面白くねぇけどな」
あれだけの一撃を放っても彼の刃は全く死んでいない。相当いい材料を使っているようだ。
「だがまあ、今のを流したからってチョウシニノルナヨ?こいつは小さくても刃は刃なんだからなァ!」
小型のロケットブースターを点火させ一気に距離をつめてくる。
2人の距離は約100m。
それをほんの3秒ほどで30cmまで縮めてきた。
下から銃槍を突き上げてくる。シールドで防ぎ、モードをもとの剣に戻してもう一撃を防ぐ。
かなり重い。
銃槍の重さもあるのだろうが、なにより彼の筋力だ。
高校生とは思えない筋力をしている。まるで100人が持って突っ込んできた丸太を受け止めているような感じだ。
しかも驚く事にそれを連発してくるのだ。
腕がしびれてくる。同時に腕の力が少しずつではあるが抜けてきている。握力もまた然りだ。
「ハハハハ!どうしたよ?防戦一方じゃネェカ!!」
「うるさいなお前。悪人面が際立つぜ」
後ろに下がっていた足を止め、軸にして杯が一突きを放ちひいた瞬間。一気にかがみ込み、もう片方の足で杯の足を払い蹴る。
意外にあっさり倒れていき顔面を地面に叩き付けながら止まった。
「足下お留守、ちょっとくらい先読みしろよな」
「なにしやがんだヨ・・・」
「ん?」
ゆっくりと杯は立ち上がる。
叩き付けられた顔は擦り傷だらけで、鼻血をだし口からはよだれを垂らしながら杯は言う。
「オレサマの顔にこぉぉんな傷ツケテクレヤガッテ」
「・・・・そんなもの、第3種目(これ)おわったら無くなってるだろ?今俺達の身体はバーチャル化されてんだからさ」
そんな物関係ないとばかりに叫ぶ。
「オマエ、ブチコロシケッテイ」

    *             *            *

杯は起き上がると同時に銃槍をユウの顎目掛けて振り上げる。当然ユウはそれを避けるが、その瞬間に杯の蹴りが腹に直撃する。足の力は腕よりも強い、ユウはくの字に身体を曲げながら3mほど飛ばされた。
「調子に乗ってんじゃネェぞコラァ!!こっちが下手に出てりゃふざけやがって、雑魚は雑魚らしく地べたにハイツクバッテリャイインダヨ!!」
気がついた頃にはもう杯は目の前にいた。
銃槍の刃でユウの腹を突き刺し、持ち上げる。
「ぐぅああ・・・」
「ハっ!お似合いの姿ダゼこの蟻以下のムシケラヤロウガぁ!!」
銃槍ごとユウを投げ飛ばす。かるく30mほど飛ばされた所で落ちていき、そのまま地面に叩き付けられ腹に刺さった銃槍は反動でさらに奥に突き刺さっていく。
銃槍の刺さった腹が熱い。呼吸をするたび刺さった部分に痛みが走る。
感覚はかなりリアルだった。
(くそ・・・こんな祭りで死ぬ感覚を、経験するなんて・・・・・・バカみたいだ)
杯はユウの真横に立ち銃槍を抜く。
その瞬間に何かが抜けていく感覚がした。
意識が遠くなっていく。
目の前は何も見えない。かすかに声が聞こえるだけだ。
愛佳が何か叫んだような気がした。
「目の焦点があってネェナ?何も見えてないだろ?」
杯はユウの耳元で聞こえるように大きな声で言う。
「お前、あそこにいる女と協力して第1種目突破してきたんだってな?雑魚の仲間は雑魚だったって訳かよ、アッヒャハヤハハハッ!!」
その瞬間だった。
一瞬にして目の前が明るく開き、杯の姿が、空が、周りの客席が見えた。
頭には怒りしかない。何の怒りか。
自分をけなされた事。違う。
自分を蹴り、刺し、投げ飛ばした事。違う!
自分を馬鹿ににされた事よりも、自分をここまでボロボロにした事よりも何より頭に来る、ムカつく事がただ1つあった。

「おい、この悪人面のナルシスト野郎」

杯に肩がビクッと震える。
踵を返していた彼はユウを見つめる。まさに悪人面で。
そして驚く。
立てないほどまでに痛めつけたはずの人間が立ち上がったのだから。
ユウは叫ぶ。自分の怒りを吐き出すかのように。
「他人を、今この場で関係のない奴を馬鹿にしやがったな?」
「アァン?」
「俺じゃなくて、関係ないあいつを馬鹿にしやがったなって言ってんだよこのナルシストのお坊ちゃん馬鹿がぁッ!!」
一番ムカついていたのは、
自分を馬鹿にしてくるのではなく、
今この場では関係のない、
『愛佳』を『馬鹿にした事』!
「テメェ・・・まだ痛みを感じたりねぇミテェダナァ?」
銃槍を構え、刃にエネルギーをチャージしていく。
背後を見るとそこは角、ステージの端だった。逃げ場は無い。
「消えてなくなりやがれ!!」
エネルギーを解放した。
瞬間、ユウのいた場所は跡形も無く破壊の光に飲み込まれ、何も無くなっていった。
「あっひゃひゃひゃ!あひゃkんcvth;;あsたdtじゃhkftにhmいあ!!!」
途中から訳の分からない笑いをし、消え去ったユウをあざ笑う。
が。
「俺が消え去った幻想でも見たかよ?」
声が聞こえたのは上空、
そう、杯の真上だ。
「そのエネルギーバスターを放った直後はスッゲー隙が出来るの気付けよお坊ちゃん馬鹿が」
モードスライダー、それは乗って飛べる物でもあり、
相手を突き刺し、斬り飛ばす物でもある。
ユウは一気に杯の元に突っ込んでいく。
「今はバーチャルなんだ。だから普段じゃ体験出来ない事も出来る、俺みたいに死の瀬戸際を感じるみたいにな」
杯までもう7mも無い。
「だからお前も体験してみろよ」
杯は動けないでいた。まだエネルギーバスターは止まっていない。

「腕の1本や2本、持っていかれたときの感覚をさ」

言った瞬間だった。
スライダーの先端は軽く斜めに杯の左肩に入り、通り、そして抜けた。足の付け根で。
血が噴き出す。肩から、足の付いていたはずの場所から。そしてそれに押されたかのように杯は倒れていく。
「ガアアアアアアァァァァァァ!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いfkだうにらいとあcycmcたいおtxはいおt!!!」
ユウは仕返すように微笑で見下ろし、

「チェックメイトだ、お坊ちゃん馬鹿」

勝敗は、決した。



[1001] EX,s編 終章
のんびり - 2009年10月27日 (火) 16時03分

「悪いね、私の勝ちだよ」
愛佳は第3種目の最終バトルに出ていた。
圧倒的力量差で相手を圧倒し、そして今決めようとしている。
愛佳のアークM999の左右に小さな魔法陣が現れ、更に愛佳の背後にもいくつか魔法陣が現れる。
「ば、バカな!第3種目は魔法も魔術も使用不可なのに!!」
「残念、これ、魔法でも魔術でもないよ」
愛佳はゆっくりと笑いながら、

「『武器複製召還鍛錬術(フォーマス・ウェンド)』だよ」

瞬間、愛佳の周りの魔法陣全てが輝いた。
「『天より作りし聖なる棘よ、我が契約の元に邪気を払わん』」
謳うように愛佳は呪文を唱える。
「『闇よりいでし深淵の使いよ、我に其の媒介を使う事を許さん!』」
言い終えた時だった。
アークM999が突然光を発したかと思うとパーツごとに分解された。それらは何かを形作るように愛佳の周りに飛んで行き、そして止まった。

「___________聖槍鳳絶(アスラ・クド・テスナヴァル)の弓!」

バチバチバチ!と分解したアークM999のパーツから電撃のような物が放たれた。それは他のパーツと結び、他の物も他のパーツと。更に他の物も別のパーツと繋がっていき全てが繋がり終えると、1つの弓矢が出来上がっていた。
「矢は・・・己の魔力」
聖槍鳳絶の弓の糸に触れると、バチバチ!と瞬間的に矢が生成される。それをただまっすぐ引き、
放つ。
対戦相手は動かなかった。ただ命中するまで。

    *                *              *

全対戦が終了した。
今、理事長リッドベルト・クレアがEX,s決定者を発表する所だ。
『えー、今学園都市アシュセイヴァー理事長選抜部隊『EX,s』に見事決定されたのは』
えへん、と咳払いをし、
『フレイヤ学園の冬樹白馬(ふゆき・はくま)君、鈴紗河台校高等部のフェルティ=ミリア=ウォークロードさん、同じく鈴紗河台校高等部の月路鏡(つきじ・みら)さん、防人学園の真宮愛佳さん、同じく防人学園の逢梨明ユウ君の5人です!皆さん、暖かい拍手を!!』
盛大な拍手の数。
少し胸が高鳴ったのは確かだった。

   *                *             *

選ばれた5人は学園都市アシュセイヴァーのど真ん中に建っている『理事長館』へと呼ばれた。その名の通り理事長の館だ。
外見的には大学のような感じで、結構広い。6階建てのこの建物は、アシュセイヴァーの教師達が出入りし必要な物を取ってきたり、行ったりしていたり、理事長館の職員達が理事長に命ぜられた研究や資料集めなど、意外といろいろ人が出入りする場所なのだった。
理事長室は最上階の6階にあり、何だか豪華な扉によって閉ざされていた。
ユウは愛佳が修三は決定祭には来れなかったらしいと言うので一回家に戻って、修三に結果と理事長館に呼ばれた事を報告してから全力疾走10分、都市内を走っているバスを乗り継ぎ17分ほどかけ理事長館に到着し、乱れた呼吸を整えてから6階までエレベーターで上がり今扉の目の前にいた。
2階扉をノックすると、理事長らしき声が「入れ」、と一言返ってきた。
扉を開け入ると。既に他の4人は来ていた。当然の事だろう。
最初に口を開いたのは理事長、リッドベルトだった。
「真宮から話は聞いてる。修三さんに報告しにいってたんだろ?遅れた事を特別に許してやる」
「はあ」
口調が違うのにはすぐに気がついたが、周りが指摘しないので放っておく事にする。
「とりあえずお疲れさん。俺は滅多に『お疲れ』なんて言わねぇからレアだぞ。感謝しとけ」
何故感謝しなければならないのかよく分からないが、そんな疑問をよそに続ける。
「とりあえず、はいこれ。メンバーの資料。まあどうせ明日EX,s、まあぶっちゃけ学園都市アシュセイヴァーっつーでっかい学校の生徒会みたいなもんだが、活動あるから。っていうかほぼ毎日。そん時に細かい自己紹介しときやがれ」
秘書っぽい人に資料を渡されそれに目を通す。
最初に出てきたのは男だった。
綺麗な黒髪に、整った顔。シンプルな眼鏡。もの凄く暗い印象だった。真面目そうではあるのだが。少し眠たげな透き通ったブルーサファイアのような瞳だけは明るい気がした。名前を「冬樹白馬」。あの冬樹先生の息子である。
(・・・なんだこれ。詳細の所に『真面目』、の一言しか無いぞ・・・?)
書く事が無かったのだろうか。
とりあえず次の一枚をめくる。
今度は少女だ、しかも獣人の。
赤い、されど血のように真っ赤ではなく透き通ったような赤だ。宝石のように綺麗なその赤髪は、横にいる本人を見ると長い髪を下の方で束ねているようだ。頭から生えた猫耳と、スカートの中から顔を出している尻尾。ちょっと落ち着きのなさそうな表情、なんとなく守ってあげたくなるような、平たく言えば萌え。そんな感じだった。名前は「フェルティ=ミリア=ウォークロード」だ。
(鈴紗河校高等部、か。確か超名門のお嬢様学校だったよな?冬樹先生の息子といいなんでこんなに名門ばかり集まってんだ?)
次のページも少女だった。
さっきの少女とは一転、かなり元気そうな感じの娘だった。
似合っているとしか言いようの無いロングヘアの金髪で、背中の上辺りまでの髪をツインテールにしている。紫の瞳はされど暗さを感じさせず、逆に元気さを際立たせている。彼女もフェルティと同様、鈴紗河校高等部の生徒だ。だが残念な事に第一印象にお嬢様っぽさは無い。名前を「月路鏡」という。
もう2枚は愛佳とユウのだろう。とりあえず適当にめくる。愛佳の所には色々書いてある。過去の事はほぼ触れていないに等しいが、銃の腕の事に付いてよく書かれていた。射撃大会では数多の大会を総嘗めにしたと言う。まあ今までの愛佳の腕前を見ていれば当然なのかもしれない。
最後の一枚。めくった瞬間にユウは凍り付いた。
『NOT FOUND』。ただその一言だけだったからだ。
「ああ、逢梨明。お前の情報は全くないっていうか、記憶喪失なんだから当然の事なんじゃねぇのか?まあ気にすんじゃねぇよ」
とは言いつつも気になってしまう。
その資料は個人情報云々で回収された、何のために人数分作ったんだ。
「さて、少しだけでもこれからの仲間を知れたって事で、今回はお開きだ。また明日、理事長館に来いよ。そん時に行くのは理事長室(ここ)じゃなくて生徒会室なだからな。間違えんじゃねぇぞ」
結局これだけだったようだ。


これから始まるEX,sとしての活動、その中にもしかしたら自分の記憶の手がかりがあるかもしれない。そう期待を持って入る事を決意し、無事にはいつ事が出来た。
だがまだ何も知ってはいないのだ。
EX,sの事は。





[1002] EX,s活動編 序章
のんびり - 2009年10月27日 (火) 17時02分

EX,s。それは我が都市国セイヴァーを守護する一柱であり、わが学園都市アシュセイヴァーを守る守護者である。
EX,s。それはアシュセイヴァーの手本となり、常にアシュセイヴァーで最強の存在として君臨するべし。
EX,s。それは_______
「なっげえぇぇぇぇ!!!!」
ユウ達EX,sは理事長館にある生徒会室で「EX,sについて」とかいう本を読まされていた。そこには「EX,s。それは〜」から始まる1000の項目が書かれていた。しかも一文一文が中途半端な文字数で、無駄な長さをもっている。
かれこれ1時間は経っただろう。ようやく35項目目に突入出来た所でユウは叫んだのだった。
それに水を差すのは眼鏡をかけた青年、白馬だった。
「・・・うるさいぞ逢梨明、黙って読め」
「うっ・・・ならば逆に聞くけど、お前は何故こんな無駄に長ったらしいもの読んでられるんだよ?」
「それが理事長の命令だからだ」
即答。
それを繋いだのは白馬の隣にいた鏡(みら)だった。
「ユウ、白馬はある種バカとも言えるほど生真面目ですの。だからなにを言っても無駄だわ」
「そうなのか?」
「えっと・・・自分に課せられた仕事は完璧にこなし定期テストは全て学年トップ。ついでに拳術でもトップらったみたいれす〜・・・」
フェルティがこじんまりと言う。
「完璧超人、って事だね。諦めなよユウ」
愛佳は微笑みながら言うが何となく納得がいかない。
「はぁ・・・そういえば、最初の活動の時からこんな奴だったっけ・・・?」
それは決定祭の翌日、初のEX,sの活動時の話だ。
さかのぼる事調度1ヶ月前だったか。




[1003] EX,s活動編 第1章(1)
のんびり - 2009年10月28日 (水) 22時13分

第7話「最初で最後の自己紹介」

決定祭の翌日。
寝起きは最悪だった。
思い切り疲れ果てて、家に帰ったあと夕飯を食べてすぐに部屋に戻り、早々に眠りについたのだが。目を覚まして目の前にあったのは、愛佳の寝息立てる顔だった。ユウと愛佳の顔の距離、5cmすら無く、文字通り目と鼻の先だった。
おもわず絶叫してベッドから転げ落ち椅子のホイールに頭をぶつけ、うずくまって転がった所に机にぶつかり、置いてあった分厚い辞書がその衝撃で落ちてきてそれを避けたと思えば再び椅子に頭をぶつける。
その拍子か愛佳が目を覚まし、ユウの絶叫を聞いて文句を言いにきた修三がユウの部屋に飛び入ってきてベッドの上の愛佳を見た。服が乱れて、スカートは軽く捲れ、着替えようとでも思ったか、ワイシャツのボタンが第4まで開いているというちょっとエロい服装だった。なにを思ったか雄叫びをあげながらユウに殴り掛かってきたのだ。おかげで体中ボロボロ、擦り傷だらけだ。
愛佳は愛佳で、疲れてボーッとしていたらしく、異常な眠気に部屋を間違えたらしいとの事だった。
不幸だ、と思う。
当然、修三は愛佳に怒られ正座させられた。
そして今、愛佳とユウは理事長館の前にいる。今日は土曜日で学校は休みだが、EX,s関係の用事があったのだ。決定祭のあと呼び出され、翌日に来るよう言われていた。 
理事長館の中に入ると、やけに綺麗なロビーが広がっていた。
入り口の真横の受付には2人の女性が立ち、パーティー会場みたいな大きなシャンデリア。2階へと続く階段は2つあって、その真ん中辺りにエレベーターが1つあった。ゴツい感じのエレベーターではなく、何となくハイテク間あふれる感じで、ワイヤーを使わず重力を操作して動かすらしく、透明な円柱の中を通る円いエレベータだ。
それに乗り込み5階を押す。生徒会室は5階だ。
エレベーターが到着して出て行くと、一本道の廊下があった。そこをまっすぐ行くと扉に「生徒会室」と表札の付けられた部屋があった。
「ここ、か」
扉を開けると、すでに昨日選ばれた他の3人が来ていた。

  *               *                *

「ダダダダーン!祝!初EX,s活動!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・おい、誰か反応しろよ。放送事故みたいになるだろ?」
反応したのは黒髪の眼鏡をかけた青年だった。名前は冬樹白馬だったか。
「そのテンションの高さが既に放送事故みたいな物だ」
「うぐっ・・・」
「ユウ、確かに白馬君の言う通りなんだし。とりあえず座って自己紹介しよ?これにも書いてあるし」
愛佳は5人の目の前にあるテーブルの中心に置いてある手紙を指差した。「適当に自己紹介してダベッてろ」だそうだ。
「適当だな・・・、あの理事長」

最初に問題となったのは誰から自己紹介して行くかだった。
勧めたのは愛佳だから愛佳から時計回りだとか、無愛想な反応したから白馬からだとか、いろいろ話し合った結果公平なジャンケンで決める事にした。負けた者から時計回りだ。
「行くよ皆」
愛佳が言う。
「さーいしょはグー、ジャーンケーン、ポイ!」
「あ」
一発で負けたのは金髪ツインテールの少女だった。
「ふぅ、私ですのね」
ユウは、ほほう、と少し興味ありげに耳を傾ける。お嬢様言葉と言う奴は初めて聞いたようだ。
「私、月路鏡と言いますの。鏡と書いてミラね。最初はミラーにしようと思ったらしいんだけど、何か変だからミラにしたらしいですわ。成績は今の所中の下の下。まあ微妙な所ね。武器は武人破シリーズの月を使ってますわ。いわゆるチャクラムですわね、私手裏剣みたいなのが大好きなのよ。だからチャクラムを選んでみたって訳」
お嬢様言葉、って言う訳ではなく。
お嬢様言葉まじり、っていう感じだった。
「次はフェリ、あなたですわ。私が隣にいるから落ち着いて自己紹介しなさい」
「は、はい・・・」
次は獣人の少女だ。赤く長い髪と、おどおどした態度が相変わらず可愛らしい。
「えっと・・・ふぇ、フェルティ=ミリア=ウォークロード・・・って言いますニャ。その・・・見て分かる通り、獣人れす。あの・・・皆からは・・名前を省略して、フェリって呼ばれてますれす。・・・一応、鈴紗河高高等部の生徒会長、やってますニャ・・」
途切れ途切れすぎてよく分からない。人と接するのが苦手なんだろうか。
「人見知りと言うか、中度の対人恐怖症ですのよ。昔から一緒にいた私は大丈夫なんだけど」
鏡が説明してくれた。やっぱりか。
次はとうとう白馬の番だ。が、
「冬樹白馬、入学した学校はフレイヤ学園。ちなみに伊達眼鏡だ」
・・・・・・・・。
「え、終わりなのか?」
「他に言う事が無い」
彼は居たって真面目だった。表情がそういっている。
ユウは思った、白馬は絶対確実100%学校では近寄りがたい人物NO,1だと。こんな無口で無愛想な奴に近寄りやすい訳が無い。もっと愛想良くしないと友達が出来ないぞと言ってやりたかった。
結局白馬の番は流れ、愛佳の番となった。
「真宮愛佳です、えっと防人学園に通ってます。特技は・・・料理と『狙撃』、かな。あ、銃器ならほぼ何でも使えると思う。マシンガンでもライフルでもスナイパーライフルでも対戦者ライフルでもガトリングだろうが4連装のロケット弾だとしてもとにかく大体使えるね、あと_____ 」
延々と銃器に関して語り続けそうになる愛佳をユウが製す。
「お前が銃器語ると長くて仕様がないから止めてくれ。俺の自己紹介の時間が無くなるだろ」
愛佳は不満そうに唇を尖らせたが、大きなため息をつきながら自己紹介を終わらせた。何となく他の3人が安堵しているのは気のせいか。
「次、俺だな。名前は逢梨明ユウ、らしい。らしいってのは記憶喪失みたいで、前の事全然覚えてないからだ。とは言っても、知識関係がない訳じゃないみたいだから一応大丈夫みたいだな。主に魔術関係、が詳しいと思ってくれると良いと思うぜ、魔法関係は全く駄目だから勉強とか他の何かとかの時に聞かないように」
「記憶喪失・・・大変れすね」
「ま、それでもEX,sに入れたんだからたいしたものね。だからって油断すると痛い目みますわよ」
まあもっともだった。
「・・・・・・・オイ、何故お前は何も言わんのだ」
「言う事が無いからだ」
またも即答。
白馬に絡むと何だか疲れてくるようだ、だがまるで動物の習性のようについ絡んでしまう。何かもどかしい。
「さて、自己紹介も終わった所でメモ通り雑談でもしてるか。とりあえず自分たちの学校についてで頼む」
「じゃあ私から行きますわね、自己紹介のときみたいに。フェリは同じ学校だから飛ばしても良い?」
了承する。
「そうですわね・・・うちの鈴紗河校は由緒正しい名門のお嬢様学校、なんて言われてるけど実情は全くお嬢様な奴なんていないわね」
「何だそりゃ、お嬢様学校にお嬢様がいないって変だろ」
「別に変じゃ無いですわ、ツバメの巣にツバメがいなきゃいけないって訳じゃないわよね?それと同じよ、お嬢様学校にお嬢様がいなきゃいけないなんて事はありませんの」
まあ一理ある。一理あるが、じゃあお嬢様じゃなくて普通の学校で良いのではないだろうか。
「言っとくけど、うちの学校はお嬢様とは懸け離れてるわよ?いじめとかは無いから良いんだけど、着替え中に他人の胸揉んだり、時々エロ話が出たり、読んでる漫画は少女マンガじゃなくて少年マンガだったり、とにかくお嬢様なんてただの肩書きですわ」
「そうかもね・・・お嬢様って、もっとお淑やかだもんね。人の胸揉んだりしないよね・・・」
「鏡、お前は揉まれた事無いだろ?」
「・・・何故ですの?」
「だって、言っちゃ悪いけどお前胸ほぼ無いじゃん」
「〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」
しばらくの沈黙。
鏡の顔から真っ青になっていく。言われたくないことを言われてしまった表情だ。
鏡には胸が無い。横から見ても前からみてもどう考えてもA以下、AAだ。
「い、言いましたわね!!?わ、私だってそれくらいあるわよ!!」
「残念だがお前のじゃ無理だと思うぞ」
なんですって!?と騒ぐ鏡。なんとバカらしいと目で訴えてくる愛佳。
「くっ・・・!確かに私は胸が無い、確かに揉まれた事も無い。で、でも!私はなくともフェリにはありますわ!!」
と、言いながらフェリを無理矢理立たせ思い切りフェルティの胸をわしづかみにする。突然の事に悲鳴を上げる間もなく赤面していくフェルティ。
「な、何するのミラちゃん!お、男の子のま、前れ!?」
「黙りなさいフェリ!ここはもうフェリのFを使うしか私には残されてないのよ!」
「意味分からないから!なんでそれしか道はないんだよ?意地はらずに諦めれば良いだろうが!他人まで巻き込まんで良いだろ!?大体恥ずかしいからそれ止めろ!!」
なおも、わしづかみ続ける鏡。どんどん顔を真っ赤にしていき耳まで赤くするフェルティ。目をそらしながら怒るユウ。
白馬は思った。
「馬鹿ばっかだな」





[1015] EX,s活動編 第1章(3)
のんびり - 2009年11月11日 (水) 22時22分

机の上の恐ろしい凶器(ラブレター)を焚き火に変え、その後始末をしたあと今日も今日とて活動に勤しむのだった。まあしばらくは仕事が回ってこず、ただの雑談会となるのだが。
「・・・外行かないか?」
と、突然ユウが言い出す。
「どうしたの?突然」
「いや、暇だからさ」
「だからこうしてどうでも良い事を話しているじゃない」
突然の提案に意味も分からず適当に反論する鏡。
仕事も無くただ集められるこの1週間。暇以外の何物でもない。だからこうして仲を深める意味も含めて雑談しているはずなのだが。
「部屋の中にずっといたら身体に悪いだろ?それに子供は外で遊ぶ物だ」
「高校生は少なくとも子供じゃないと思うけど・・・」
「高校卒業するまでは子供なんだよ、いいだろ?そういう事で」
一体どういう事なのか。
「・・・・・・で、どこに行きたいの?」
「特に行きたい場所なんてないぞ」
「・・・・・・・・」
しばらくの沈黙。
それを破るのはやはりユウだった。
「・・・別に良いだろ、行き先もなく外に出ちゃ悪いのかよ?」
「そういう訳じゃないれすけろ・・・」
「まあ、ねぇ・・・」
「だろ?だから行こうぜ、暇で仕様がないんだよ」
「まあいっか、白馬も行くでしょ?」
「俺は良い・・・」
と、反対する白馬をいつの間にかいたユウが後ろから持ち上げる。
「・・・なにをする」
「全員で行かないでどうすんだよ、雑談で仲を深めるのも良いけどやっぱ外で遊んだ方がはやいって」
「だからって俺が行く必要がないだろ、第一俺はお前と違って忙しい______ 」
「良いから行くぞ!」
有無を言わさず引きずりながら連れて行くユウに苦笑いしながら愛佳たちも続くのだった。

     *              *              *

世の中の人達には様々な個性がある。
とにかく色々あるが、ある種特殊な物も存在している。
いわゆる『BL』と『百合』である。
ユウたちが出歩いて数分の娯楽区画。学園都市と言う割にはこう言う場所もある。だが、この娯楽区画もまた2つの区画に分かれている。というか、生徒たちにより勝手に分かれている。
ユウたちが足を踏み入れた場所も分けられたうちの1つなのだが。
「・・・・・・妙な視線を感じるのは気のせいか?」
「気のせいじゃないはずだが」
「・・・きっとEX,sだからじゃない?やっぱり気になるんだよ」
「そ、それにしては妙な事が聞こえるのですが・・・」
「『ゆうはく』とか『みらふぇる』とか。あと『あいふぇる』とかも聞こえます〜」
謎の視線に行き交う謎の言葉。ユウだけは何となく感づいているようだが、他の4人(約1名特に興味なし)は何も分かっていないようだ。
周りから聞こえる声に耳を澄ましてみる。
「今日は厄日かと思ってたけど、きっとこれを見るための付箋だったのね!?」
「次のネタはこれだわ、これしかないわよ!」
「何言ってるのよ、そんなカップリング邪道だわ!『はくゆう』より『ゆうはく』でしょ!?」
「でも『あいみら』も外せないわよね!?」
突然騒ぎだす周りの生徒たち。主に女性とばかりのようだが、やはりユウたちを見て興奮しているようだ。
ユウは自分の考えの確実性を確かめるために行動を起こす。
「なあ、白馬。それなに読んでんだよ?」
といいながら肩を組む、瞬間。
「「「「きゃあああああああーーーーーーーーーーーーーー???」」」」
思った通りの反応だった。
「答えてやる義理はない、それと肩組むの止めろ」
「・・・お前、もうちょっと口数増やそうぜ・・」
とりあえず肩を組むのを止める。
「さて、さっさとここから抜け出そうか」
「え?どうして?」
「周りの生徒たちの所為ですの?それなら気にしなくても・・・」
「お前ら、なんで周りの女生徒達が俺達を見て騒いでるか分かるか?」
3人は首を横に振る、当然の事だった。
「いいか、俺らは確実に近いうちある漫画に出てくる」
「なにそれ、何で私たちが漫画なんかに出る訳?」
「彼女たちが描くからだ、そしてそれは俗にいう『BL』とか『百合』とかって奴の同人誌にだ」
ピクッと彼らが反応する。
「つまり、俺らは確実に近いうち同性の奴と裸で絡む事になってるはずだ」
4人から血の気がサーっと引いていくのが分かった。あの無愛想で何の面白みの無い白馬でさえもだ。
「じゃあさっきから言ってた『ゆうはく』とか『みらふぇる』とかっていうのは・・・」
「ユウ×白馬、鏡×フェリ、の事だろ。絡むカップリングだ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
刹那、5人は全力で走り去った。この黒歴史を絵に描いたような区画から1秒でもはやく抜け出したくて。そして漫画の中だとしても変な事をさせられるという現実から逃げ出すため。
逃げ出すのには10分かかった。

   *                *              *

翌週、学校で河原が持ってきたものを見たユウは絶句してしまった。
_____白馬・・・
_____お前になら・・・何されてもかまわない・・・
_____・・・俺もだ
「・・・・・・・・・・・・」
横で見ていた愛佳も見た瞬間に顔を赤くしてそれから目を背けた。
ユウも背けたかった。現実から。




[1017] EX,s活動編 第2章(1)
のんびり - 2009年11月12日 (木) 15時45分

第8話「零式鉄仮面マスク・神裂、現る!」

ちょっと憂鬱だ。
俺は今生徒会長に呼び出されて生徒会室へと向かっている。もちろん理由は知らない。朝のHMが終わってからすぐ理由も言わずに呼び出された。
『逢梨明君、生徒会長がお呼びです。至急生徒会室へお越し下さい』
それを聞いた途端にクラスの奴等がこっちをガバって見たと思ったら哀れみの目を向けている奴もいれば、こっちみながら遠い目してる奴もいた。正直ムカつく。
噂によるとその生徒会長様は女生徒らしく、初の1年会長らしい。その上人望はある。まあ人がいなかったから選ばれたのだろうが、かなり厳しい奴って話だ。なにかしらやらかした奴には相応の罰が待っているとか。俺は何かしたんだろうか・・・
そんな事を考えているといつの間にか生徒会室についていた。おもわず息をのむ。
とりあえずノックしておく。
「あー、逢梨明だけど。呼ばれたんで来た」
「どうぞ、入りなさい」
教師みたいな印象の返され方だった。
ドアを開け、中に入る。何だこれ。
目の前にはU字型に机が並べられている。それは良い。だけど何故か暗幕がはられている。暗闇を照らすのは天井のライト、と言うよりランタンみたいな感じの奴だった。
・・・・・・本当に生徒会室か?ここ。オカルト部とかの間違いなんじゃないか?
「・・・座りなさい」
U字型におかれた机の中心にさらに机が2つおかれ、そこに生徒会長がいる。俺はその向かいに座れと言われているらしい。
促されるままに俺は椅子に座る。
「・・・・、」
「・・・・、」
沈黙。
呼び出して何も言わないのかよ・・・
「逢梨明」
「な、なんだよ?」
座って何となく俯いていたから分からなかったが、1年とは思えないかなりの美人だ。長い髪を横で束ねて更に後ろで髪を余らせながらポニーテールを作り、余らせた髪はそのまま降ろしている。髪色は明るめの藍色と言った所か。確かに美人だ。美人だが・・・
白馬みたいに何だか無愛想っぽい。
「突然呼び出して悪いわね。授業をサボらせちゃったのは謝るわ。ちょっとあなたに用事があったの」
「用事、ね・・・」
説教でもされるのだろうかと軽く身構えていたのだが。
「まだ準備もできてないし、ちょっと話をしましょう」
「はあ?」
説教に準備が必要なのか?それとも説教じゃなくて拷問でもする気か。それはある種の更生方法だが、どちらかと言えば更生じゃなくて調教だと思う。
「逢梨明と真宮さんって、その・・・付き合ってるの?」
・・・・・・なるほど、この生徒会長様もそれを聞くか。
「それ、毎回聞かれるけどそんなんじゃないから。確かに同じ家には住んじゃいるけど、それは今から寮とか取るのは色々大変だからって事で置いてもらってるだけだよ」
「そ、そうなの・・・」
ん?今なんかちょっとだけにやけたような気がしたけど気のせいか?
「あー、そういえばアンタの名前知らないんだけど・・・」
「あら、そうだったの?・・・まあ生徒会長になって間もないし、多少知らない人がいても仕方が無いわね。まだ朝会とかで紹介はされてないし」
意外とノロい学校だな。
「私の名前は桂技零香(かつらぎ・れいか)よ。以後よろしく」
「ああ、よろしく。あーそういえば俺の名前知ってたよな?何でだ?」
桂技はキョトンとした顔をしている。何か変な事言ったか?
「あのね、決定祭の第3種目まで行った奴の名前を知らない訳無いでしょ?」
「・・・ああ、そういう事か」
なるほど、確かに変な事を訊いていた。少し考えれば分かった事だったかも。
「・・・ところで、さっきから気になってたんだけどさ」
「何?」
「なんでここは生徒会室なのに、こんな暗幕してるんだよ?」
「その事ね」と桂技が頷く。
「奥にいろいろと実験設備があるのよ。私が主に使ってるんだけど」
「・・・・・」
何故生徒会室にそんな物がある。どうせならもっと別の場所におけば良いじゃないか。わざわざ暗幕をしてまでおく必要は全くないんじゃないのか?
「仕方ないじゃない。ここ以外億場所が無かったんだから」
「どうでも良いが人の心を読むな」
まさかの読心術だった。何物だよこいつ。
「・・・そろそろね」
「なにがだ?」
「準備が整うのがよ」
ああ、そういえばそんな事をさっき言ってた気がする。ついさっきの事なのにもう忘れてたよ。それにしても本当に準備って何の準備なんだ?まさか本当に更生させるための拷問じゃないだろうな・・・
桂技は立ち上がると、後ろの暗幕を思い切り開けた。
窓からの光がうっすらと入ってきて少し眩しいくらいだ。
うっすらと言うのは、窓の目の前に何かの機材が置いてあって光を遮っているからだ。
あれが拷問具なのか?だとしたらかなり恐ろしいけど。
「あなたを呼び出したのは、私の論文の完成に貢献してほしいからなの」
「・・・は?」
拷問じゃないらしい。
「タイトルは『心と能力』よ」
「なんだよそれ」
「心の扉を開くと、その人に何かの影響があるのかって事」
「何の意味があるんだよ」
「ただの興味よ。でも今までのデータからだと、人によって運動能力、戦闘能力、技術とか何かがパワーアップするみたい」
心が解き放たれるからなにからなにまで開放的になった結果みたいね、と付け加えてきた。
よく分からないけど、つまり桂技が言いたいのは。
「・・・俺を実験に使う気って事か」
「話がはやくて助かるわね」
ヤバい。ちょう帰りたいんだけど。
「大丈夫よ、あなたにはこの仮面をつけて夜に徘徊してれば良いから。ついでに悪行を働く生徒達を懲らしめてくれるとありがたいけど」
と、後ろの機材から取り出したのは1つの仮面だった。
目の部分が0の形をしていて、右端と左端にラインが走っている。ぶっちゃけ仮面○イダーみたいな仮面だ。
「名前は『零式鉄仮面マスク』よ」
「もっと良いネーミングは無かったのか・・・?」
「どうでも良い事よ。とりあえずこれをつけなさい」
その目つきで言われると拒否出来なくなるな・・・
仕方なくその仮面を受け取り顔につける。
すると、ピーっという電子音が鳴り、そして仮面が突然割れた。
「お、おい。割れちゃったけど良いのか?」
「良いのよ、設計通りだから」
割れるのも計画通りですか。
「あとは手を前に差し出して仮面よ出てこいって念じれば出てくるわ。やってみて」
言われた通り念じてみる。すると、俺の掌に何かが集まってきてどんどん形を作っていき、さっきの仮面へと変化した。
これをつけろと桂技の目が命令していた。
渋々再度この変な仮面をつける。と、
「ぐ」
「ぐ?」
「ぐぅうおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
仮面の目の部分から真っ赤な光が走り、仮面の隙間からもその光が漏れる。
ヤバい、これは何て言うか、その。
「・・・・・・エクスタシぃー♪」
「・・・は?」
なんなんだろうかこの感覚は。何もかもが開放的だ。まるで冬山の頂上まで上りきったかのようなこの爽快感。ちょっとハマりそうだ。
これが心の扉を開くと言う事なのだろうか。
「この感覚を皆に伝えてみたいぜ。うぅう〜、エックスタシィ〜♪」
「・・・・・・まあ、なにはともあれ零式鉄仮面マスクの登場ね」
明らかに俺の口調が変わっていたのは言うまでもない。

   *                *                *

仮面を付けながら色々と説明を受けて1時間。
仮面を取り外せばさっきまでの開放感も爽快感も無かった。あるのは俺自身への絶望だった。
「俺は・・・俺は一体なんつー喋り方してたんだ・・・バカバカしすぎて考えるのも恐いぜ・・・」
「ま、まあ気にするのはよしましょう」
そいつは無理だった。
「ああ、ごめんなさいね。2時間も付き合わせちゃって」
「気にするな。アシュセイヴァーの生徒の頼みを聞くのもEX,sの仕事だ」
「ありがとう。あ、そうそう。仮面を付けてる時は髪色とかも変わるからバレないと覆うわよ」
「そいつはどうも」
でもバレたらバレたでまずい。確実に変な噂が広まる事間違いなしだ。絶対にそれは避けたい所だ。
「はあぁ・・・・・じゃあ俺は教室戻るから」
「ええ、1ヶ月経ったらまた生徒会室(ここ)に報告してちょうだい」
ああ、と一言だけ返事しておく。
俺はさっさと教室に帰りたくて立ち上がると早歩きで部屋を出ようとする。が、

「ちょっと待って!」

初めて聞いた桂技の大声だった。なんだ、まだ何かあるのか?
「何だ____んむ!」
それは振り向いた瞬間だった。
腕を引っ張られたかと思うと、思い切り胸ぐらを掴まれて引き寄せられ、唇が重なりあった。
あー・・・いわゆるキス、って奴なんだろうな。・・・多分。
突然の驚きで頭が真っ白になった。こんな事されたら当然の事だろ?これで冷静だったらその方が異常って物だ。
「ん・・・ふはぁ・・」
桂技の顔を離れていく。
「・・・・・・今日のお詫びと・・・その、お礼」
頬を赤く染めながら言う。どんなお詫びとお礼だ。
「・・・・・・・あ、えっと、どうも」
やっとの思いで絞り出した言葉はそれだけだった。
まだ彼女の唇の感覚が残っていた。





[1019] EX,s活動編 第2章(2)
のんびり - 2009年11月13日 (金) 17時11分

お詫びとお礼なら別に良かったんだけど・・・とか思いながらユウが生徒会室から出てきた時、生徒会室横の防火扉に2人の男が隠れていた。
原田と政岡である。
言うまでもなく盗み聞き、及び盗み見していた。
零式鉄仮面マスクの事はどうやら聞こえも見えもしなかったようだが、最初の会話と最後のキスは思い切り見聞きしていたようだ。
「(おい、見たか・・・?)」
「(ああ・・・キスしていたな)」
「(こいつは大事件だぜ・・・防人の生徒会長桂技零香とアシュセイヴァー特別生徒会とも言えるEX,sの逢梨明ユウの熱愛発覚って奴なのか!?)」
「(さあな、だがただの関係じゃない事だけは確かなんじゃないか?)」
「そうね、ただ1つ言える事は今からあなた達はその記憶を失う事よ」
「(何言ってんだよ政岡ぁ?こんな衝撃的事実忘れられる訳ないだろ?てか何だよその女みたいな喋り方)」
「・・・・・・」
政岡は答えなかった。いや、答えられなかったと言うべきだった。
政岡の視線を追ってみると、そこには一人の女子生徒がいた。
明るめの藍色の髪を横で束ね、さらに後ろで小さめのポニーテールを作り、余らせた髪を垂らしている。そしてかなり美人だ。更に言える事は、
それがさっきまで生徒会室にいた生徒会長、桂技零香だと言う事だった。
「あ、いや、その、べ、別に盗み見たり盗み聞きしたりなんてしてないっすよ?ただぁ、ちょーっと通り様に聞こえたからいろぉんな想像をしちゃってただけでですねぇ?あ、あはははは・・・」
「そう?じゃあさっき小さくドアを開けて部屋の中を見ていた『あなたに似た』男子生徒は一体誰なのかしらね?原田?政岡?」
「「あ、あはははははは・・・誰でしょうねー・・・・・・・」」
顔は笑っていても目は笑っていない。というか、もはや獲物を見つめる肉食獣のような目だった。本当に生徒会長のする目なのだろうか。
「あなた達に決まってるわよねぇ・・・!?」
瞬間、2人の意識は途切れた。
数時間後、顔に落書きされた2人が見つかったのはゴミ箱の中だった。

     *              *              *

夜。
言われた通りユウはこの真夜中に家を抜け出し、零式鉄仮面マスクをつける。
あの時と同じ開放感と爽快感。本当に病み付きになってしまいそうだった。
心の扉を開くと言うのは具体的にどういう事かはユウは分からないが、EX,sの仕事上、生徒からの依頼は悪しき物以外は受ける事になっている。論文の協力だろうがそれは同じだ。
店が多く立ち並ぶ生活区画。日用品や食品の売られるこの区画を歩いていたユウは、ふと店のガラスを見てみた。
鏡みたいになっていたガラスには仮面を付けたユウの姿が映っていた。銀髪だった髪は茶髪になっていて、渡された上着の校章のような物には『零』の文字があった。
そこまで『零』にこだわる理由は何なのかは分からないが、気にしない事にした。考えてもきりがないだけだ。
今は8時。人通りも少なく、閉店している所がほとんどだ。
だから聞こえたのかもしれない。小さな話し声が。
それは路地裏から聞こえた。
「離してください!」
「なんでだよ?別に良いじゃん」
「そうそう、気にする事無いって」
普通に事件だった。
仕事は仕事、さっさと成敗しにいく。
声の聞こえた路地裏に入って行き、少し進むと、いた。
普段のユウなら「なにやってんだ?お前ら」とでも言っただろう。
だが、今のユウは普段のユウではない。だからこそ、
「何をやっているんだい?少年?」
とか言ってしまうのである。
「あぁん?」
「何だてめぇ、ふざけた仮面しやがって」
「ふっ、この仮面の美しさに気がつかないなんて。君たちにはまだ見えていないようだね」
自分でも有り得ないと思っている。だが、口走ってしまうのだ。こんな状況でも。
(心の扉開けるって、ある意味ヤバい事なんだな・・・)
目の前のいかにも不良っぽい男子生徒2人は宇宙人でも見るような顔をしている。が、我に返ると懐から一本のナイフを取り出す。サバイバルナイフだった。
「うおらああああぁ!!!」
そしてそのまま突っ込んで行く。普通ならビビる。が、今の彼を普通と呼べる訳は無く、まるで突進してくる牛を避けるように受け流し、受け流された不良っぽい男子生徒Aは壁に顔面から激突し膝をついたかと思うとそのまま動かなくなった。
「なっ・・・まさか不良っぽい男子生徒Aがやられるとは!貴様!名を名乗れ!!」
心なしか後ろの女子生徒は頷いていた。
言われるまでもないとでも言いたげにユウは告げる。
「俺の名は・・・『零式鉄仮面マスク・神裂』だ!!」
名乗った瞬間、目の前の2人はポカンとしていた。
あまりのセンスの無さに呆れていたのかもしれない。
だが、今のユウには格好良すぎてポカンとしていると捉えていた。
「行くぞ!」
目の前から消えたかと思うと、いつの間にか不良っぽい男子生徒Bの真上にいて、そのまま頭頂部に踵蹴りをくらわせた。
「くっ・・・・・・俺は・・・新世界の紙となる・・・」
「神じゃなくて紙か・・・頑張れよ」

   *              *              *

一夜明けて次の日。
昨日助けた生徒は防人学園の新聞部の娘だったらしく、さっそくその記事が書かれていた。見出しは、『謎の正義(?)の仮面さん、その名も「零式鉄仮面マスク・神裂」!』だった。見出しの横には昨日の女子生徒が書いたのか零式鉄仮面マスク・神裂、つまり仮面をつけて馬鹿っぽくなったユウの似顔絵が描かれていた。
幸い彼だとはバレなかったようだが、そのあと零式鉄仮面マスク・神裂には気をつけるようにと朝のHMで言われていた。正直悲しかった。





[1025] EX,s活動編 第2章(3)
のんびり - 2009年12月06日 (日) 01時11分

零式鉄仮面マスク・神裂の名は、一夜に起こった事件をたった1つ解決しただけだと言うのに、学園都市中に広まっていった。
その発信源とも言えるこの防人学園の新聞部の新聞。この記事を書いた、女生徒はこう書いていた。
『零式鉄仮面マスク・神裂と名乗る謎の仮面の人が、もう不思議で実に妙で奇妙な動きで助けてくれました!なんというか格好良かったとしか言いようが無いですね!』と、もうテンションMAXで書かれていた。
彼の正体である逢梨明ユウは、もともと防人学園内では人気があった方で、決定祭を経て都市内にまで成長したユウの人気をもう追い抜かんと、文字通りうなぎ上りしてきた零式鉄仮面マスク・神裂。最初の一夜からたったの一週間でここまでの成長を遂げてきた。その秘密とも言えるのが、記事にも書いてあった動きにあった。
ズバリ、変な動き過ぎて何故か新たな美を見出してしまったのだ。
ちなみに、この動きを見た大半の男子生徒は女子とは逆に新たなトラウマを見出してしまったようだった。
さて、その当事者でもあるユウは今、生徒会室前にいた。一週間が経ち、近況報告に呼び出されたのだ。今回は前のように放送ではなく誰にも気付かれずに入れられたらしい手紙での呼び出しだった。これには少し安心した。また放送だったりしたら、またゴチャゴチャ聞かれそうで面倒だ。
生徒会室前に着くと、とりあえずドアをノックして入る。
「ああ、来たのね」
ユウを呼び出した生徒会長様、桂技零香はソファの上で横になって思いきりくつろいでいた。ちなみに今授業は行われている最中。生徒会長ともあろう者がこんな所でサボっていていいのだろうか。まあユウに人のことを言える訳は無いのだが。
零香は起き上がってソファに座り直すと、隣に座りなさいとでも言うようにソファを叩く。その目が何となく恐かったのでとりあえず座っておく。無駄にふかふかなソファだった。
「さて、この一週間の報告してもらうわよ」

   *              *            *

「大体分かったわ」
一通り報告し終わると、零香は立ち上がって冷蔵庫に向かう。取り出したるはココア。パックのふたを開けつつ、
「まあ大体データは集まってきたし、そろそろフェイズ2にでも移行するわよ」
「フェイズ2?今度は何するんだ?」
分かってはいたが、やはりすぐには終わりそうも無かった。フェイズがあるとは思わなかったが、仕事上受けた仕事は止める訳にはいかないしユウ自身中途半端は嫌だった。さっさと終わらせたいと言う気持ちはあるけど。
と、考えていると、ココアを持ちながらこちらに来る零香が突如胸元のポケットにさしていたペンをドアの方に凄い勢いで投げ出した。
「・・・・・どうした?」
「気にしないで、目障りな虫がいただけ」
虫ごときでそんなに必死になる必要があるのか。なんというか、女の子らしいと言えばらしいが、さっきのペンを投げる、というより放つ彼女の目つきはそれは恐ろしかった。が、それをいうと恐そうなので止めておく。
「やる事は今までと同じだけど、悪者退治のときにある事をしてもらうわ」
となりに再び座った零香は、一息ついてココアをもう一口。
「心の扉の奥の扉を開いてもらうわ」
「奥の扉?そんな物があるのかよ?」
「勝手に心閉門って名付けたわ」
自慢げに胸を張って言うのだが、なんというかセンスが無い気がする。「どうせならもっとカッコいいものにすれば良かったのに」、と言ってみるとジト目でこちらを見つめながら、
「見つけた人の勝手でしょ」
と返された。まあ前にも同じような事があったからこう返されるのは分かっていたが。
咳払いを一回し、話を戻す。
「とにかく、心閉門って言うのを開くの。そうすればかなりの能力アップと何らかの変化があるはず」
一間置いて、
「それと一応、第1から第6まであるんだけど、しばらくは第3までで良いわ」
「え、なんで?」
「正確なデータが欲しいのよ。一気に第6まで開いちゃったらそれだけしか取れないじゃない」
急がば回れ、って奴だろうか。とにかく言う通りにしないと満足しなさそうだ。適当に頷いて返すと、零香は手に資料を持ちながら言う。
「心閉門を開くには仮面同様、とりあえず念じれば良いの。でも扉の番号は呟きなさい、じゃないと間違いがあるといけないわ」
「りょーかい」
適当に頷きながら返しておき、立ち上がって部屋を立ち去ろうとしてふと思った。
「そういやさ」
「ん?」
「今、零式鉄仮面マスクの記事があるだろ?あれによると不思議で実に妙で奇妙な動きで戦ったって言ってるんだけど」
「言ってるわね」
「それは心閉門を開いても変わらないのか?」
心閉門を開けると、なんらかの能力が向上しさらに何か変化が見られると零香は言った。つまりその変化が、零式鉄仮面マスクのある種象徴とも言えそうになってきている動きなのではないかと言う事だ。
目を閉じて顎に手をやりながら数秒考えた結果、
「これはあくまで予想だけど。不思議で実に妙で奇妙な動きが、『不思議で実に妙で奇妙で宇宙的で変態的でもはや人外でおよそ人ではなくて筆舌しがたくて神秘的で規制がかかりそうな動き』にでもなるんじゃないかしら、今までのデータから言って」
「長い上にどんな動きだよ!?それ確実にひかれるだろ!」
「別に良いじゃない、あなたの人気が下がる訳じゃないわ」
「どっちにしろ俺だろうがよ!!」
「人は時が経てばその内忘れて行くものよ」
「だからってなぁ!」
「男は黙ってやれば良いのよ」
酷い、と思う。ユウは大きく、それは大きく溜息を1つついた。

      *             *             *

さて、ここは生徒会室前。出ていくユウを見て後をつけてきた原田と政岡。
と、河原と愛佳。
ユウと零香の話は一応デリカシーの欠片は持ち合わせている2人は、河原と愛佳にだけ話していた。(話している時点で欠片も無いのかもしれないが)
っと言う訳で覗きに来ていた。ちなみに彼らは最初からいた。
「(話がよく聞こえねぇなぁー)」
中にいるユウ達は現在、零式鉄仮面マスクの近況報告をしているのだが、彼らにはキスの件もありラブトークをしていると思っている。友人としてはユウが零香と付き合っているか否かというのも気になるが、それよりも気になるのは。
「(そっれにしてもさー、あのユウがどうやって会長を落とした訳?)」
河原が最大の謎を口にした。(実際は落としてもいないが)
「(さあ?あいつモテるし、会長からだったりしてなー)」
「(なるほど・・・桂技は一応美人だからな、OKしたと言う訳か・・・)」
「(予想だけどな)」
「(しっかし愛佳との交際疑惑の次は生徒会長との交際疑惑ねぇ。2度ある事は3度あるって感じでまた別の子との交際疑惑が立ったりしてね)」
「(あいつらが付き合って無けりゃな?でも付き合ってるだろやっぱり。キスしてたんだぜ?)」
「(見間違いって事もあるでしょ?本当は耳打ちしてたとか)」
「(いや、それは無い。その時はあいつらドアに近かったから会話は聞こえた。どう考えてもキスだった・・・)」
ボーッと彼らの会話を聞いている愛佳が口を出す。
「(あのさ、やっぱり帰らない?)」
「(今更何言ってんの愛佳。あんただって気になるから付いてきたんでしょ?)」
「(いや、小夜が引っ張ってきたんでしょ?)」
愛佳は来る気はなかったのだが、河原にブレザーの襟を掴まれここまで引きずられてきたのだ。正直いたかったし、首が苦しかった。
「(まあ良いじゃねぇのよ、来ちまったんだから最後まで見て行こうぜ)」
「(でも・・・)」
「(おい、会長が立ち上がったぞ)」
政岡の声と共に一斉に中をのぞく。(愛佳を除いて)
「(ココアとりに行ったみたいだな)」
「(みたいだな)」
っと、次の瞬間。
ガッッッ!!っともの凄い音がしたかと思うと、悲鳴もあげられずに原田が倒れて行った。眉間にはボールペンが美味い具合に突き刺さっていた。
「(原田!?)」
「(桂技だ、桂技がペンを放ってきやがった・・・気付かれてる。撤退するぞ!)」
無言で頷く。彼らは原田を引きずりがなら撤退して行った。零香の恐ろしさを胸に抱きながら。








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