【広告】楽天市場にて お買い物マラソン5月16日まで開催中

メルブラ長編置き場

ホームページへ戻る

書き込む
タイトル:幸せの終わりに訪れる平穏 恋愛

――七夜の選んだ最期。それは、世の理に逆らってでも生き延びるものではなく、世の理に従って消滅を受け入れるものだった。彼が自ら選んだ最期ならと、気丈を偽るシエルだが、訪れる決別の刻、その感情は決壊する。泣き崩れるシエルと、そんな彼女を優しく受け止める七夜。その時、彼女が下した決断は……。月夜が描くP.D.最後の作品は、悲しくも心暖まる幸せな物語となり、ここに完結する。

月夜 2010年07月05日 (月) 23時46分(110)
 
題名:幸せの終わりに訪れる平穏(第一章)

まだ夜も明けていない深夜三時過ぎ。
こんな真夜中にもかかわらず、神社がこれほどまでに賑わうのは、恐らく一年を通して今日という日だけだろう。
季節的にも時間帯的にも、最も寒い時期、時間帯だというのに、日本の慣わしに従い着物を着ている人がそこかしこに見当たる。
今日が新年最初の日ということもあり、周囲の騒がしさも相当なものだった。
屋台の宣伝と訪れた人々の話し声、それに地元警察のメガホンによる誘導の声とが混ざり合い、その喧騒の度合いは昼下がりの商店街にも勝るだろう。
「……おい、七夜」
そんな騒がしい境内を歩きながら、俺は隣を歩く七夜に声をかけた。
ちょっと不機嫌そうな響きを加えたのは、もちろんわざとだ。
「ん? 何だ?」
返ってくる怪訝そうな声。
その片手には、白くてふわふわとした甘い綿菓子が。
こいつ……何で俺が怒ってるのか、てんで分からないって感じだな。
「何で、お前はこんな日に金を一銭たりとて持ってきてないんだ?」
今度は、あからさまに不機嫌さを露わにしてみた。
「あぁ、悪いな。金は持ってないんだ」
悪びれる様子もなくそう言って、七夜は綿菓子を頬張る。
口ではあんなこと言ってるけど、これは悪いと思ってる奴の食べ方じゃない。
そう思った俺は、七夜の手から綿菓子を奪い取った。
「お?」
戸惑う七夜をよそに、もう残り少ない綿菓子を一気に食らい尽くす。
俗に言うやけ食いというやつ……とはちょっと違うか?
「なんだ、お前も食べたかったのか? ちゃんと言ってくれれば、別に分けてやっても良かったんだぞ」
「……なんでお前の方が上から目線なんだよ」
食べ終わって串だけになってしまった綿菓子の残骸を、近場のゴミ箱へと放り捨てながら、俺は目を細めて七夜を睨み付けた。
「あの綿菓子は俺の物だったんだ。当然だろう」
「買ったのは俺の金だろうが!」
「違うな、志貴。金を払ったのはお前でも、受け取ったのは俺。ならば、あれの所有権は俺にある。違うか?」
「違うに決まってるだろ!」
「なら、例えばだ。郵送に元払いと着払いというやつがあるだろう? 着払いは着いた時に受け取り側が金を払うが、元払いは送り側が金を支払う。だが、この元払いのとき、送り側は金を払っているが、商品は手元に残らない。他にも……」
「あぁっ! もううるさい! 屁理屈ばっかりこねやがって!」
「物わかりの悪い奴だな……お、志貴。今度はあそ**テラを買ってくれ」
「もうお前には何も買ってやらん!」
「まだ綿菓子のことを根に持ってるのか? 安心しろ。今度はお前にもちゃんと分けてやるぞ」
「おあいにく様っ! 俺ももう余分な金は持ち合わせてないんでね!」
「そうか……なら仕方ないな」
ショボくれる七夜。
カステラの屋台を見つめる眼差しも、どことなく寂しげだ。
……なんだか、叱られた子犬みたいだな。
「くくっ……」
なんてことを想像したら、思わず吹いてしまいそうになった。
「どうかしたか?」
「え、あぁ、いや何でもないよ。そうだ、お詣りする前に、おみくじでも引かないか? 今年一年、どうなるかの運試しにさ」
「今年一年の運試し……か」
そう呟くと、七夜は微かに目線を伏せた。
先に見せた寂しげな目とはまた違う、切なく儚げで、それでいて強い意思の秘められた、悲壮感漂う瞳の輝き。
見ているだけで、何だかこちらまで悲しくなってくるような……そんな目をしていた。
「……良いだろう。よし、志貴。行くぞ」
「あ、あぁ……」
七夜の言葉に我に返った俺は、今一つ心にモヤモヤを抱えたまま、速足でおみくじ売り場へと向かった。


「すいませ〜ん! おみくじ二人分お願いしま〜す!」
「は〜い! 少々お待ちくださ〜い!」
巫女さんの大きな声が、売り場の中から聞こえてくる。
人手不足なのか、お守りやらおみくじに加え、破魔矢などの販売も行っている売店担当の巫女さんは、見たところ三人しか見当たらなかった。
やっぱり、正月に働く物好きなんて少ないということだろうか。
「お待たせしました〜! えっと……11番と39番ですね。少々お待ちください」
そう言うと、巫女さんは俺たちの引いたくじを箱の中に直し、後ろの棚のそれぞれの番号に該当する箇所を開いた。
そこから折り畳まれた紙を取り出し、俺たちに手渡す。
「お待たせいたしました。こちらが11番で、こちらが39番になります」
「ありがとう」
おみくじの結果を受け取り、俺たちは人混みをかき分けて混雑する売店前を後にした。
「まったく……すごい人混みだな。神など最初からいないというのに、わざわざご苦労なことだ」
「それを言ったら、俺たちだって同じ穴のムジナってやつだろ」
そう言いながら、俺は七夜の引いた方のくじの結果を手渡した。
「それもそうだな」
それを受け取り、七夜が自嘲気味な笑みを溢す。
「さて、結果を見てみようじゃないか。先ずは俺から開くぞ」
結ばれた紐をほどき、丸められた紙を開く。
瞬間、七夜の瞳がにわかに見開かれるのを、俺の目は見逃さなかった。
「どれどれ……おっ、大吉じゃないか。新年から幸先良いな」
俺の予想では、七夜はなんとなく大凶辺りを引きそうな予感がしていただけに、その対極である大吉を引いてくるとは思わなかった。
笑顔で語りかけながら、その顔を覗き見る。
おみくじの結果を見つめながら、七夜が口元に浮かべる笑み。
それは、良い結果が出たというのに、何故か苦笑いだった。
「……皮肉だな」
ぽつり、誰に言うとでもなく呟く。
「皮肉って……どういう意味だ?」
「何、気にするな。さぁ、次はお前の番だぞ」
「ん、そうだな。さてさて、何が出るかなっと……げっ……」
自分の分のおみくじを開いて、俺は思わずそんな声を漏らしてしまった。
「へぇ……お前が大凶を引くとはな」
七夜が、意外そうな声を上げる。
まさか、七夜が引きそうと思っていた大凶を、自分で引くことになるとは思わなかった。
他人のことを言ってられる場合じゃなかったってことか。
「あ〜ぁ……まさか、こんなところで人生初の大凶を引くことになるなんてなぁ……」
「気にするな。こんなもの、なんの宛てにもならないさ。寧ろ、大凶を引き当てるだけの並々ならぬ強運を持ってるってことだ」
がっくりとうなだれる俺に、七夜が励ましの言葉を投げ掛ける。
どんなフォローだよ……。
「強運ならぬ凶運ってやつだろ……お前は良いよな〜。なんてったって大吉なんだから」
「そう……だな」
再度、自分の今年の運勢を示す二文字に目を向け、浮かべる笑みはまたしても自嘲的だった。
何を思っての笑いなのか、俺には分からない。
だが、何故だかあまり触れてはいけないような気がした。
「さぁ、次はお詣りだ。今年一年の始まりだから、ちゃんと祈っておかないとな」
だから、俺はそんな七夜の態度には気付かないフリをして、話題を別の方向へと向けた。
「まぁ、祈るだけならタダだしな」
「ちゃんとお賽銭入れないと、神様は何も聞いてくれないぞ」
「神が金を必要になどするとは思えんがな。それに、神が願いを叶えてくれた試しもない」
「新年早々罰当たりな奴だな。そんなこと言ってるから、叶う願いも叶わなくなるんだ」
「かもな。たまには真摯に願ってみるか」
「良い心掛けだ。じゃあ、行こうか」
「あぁ」


「ここもすごい人だかりだな」
「一応、これが初詣のメインイベントみたいなものだからな」
人の群れに紛れ、自分たちの順番が来るのを待つ。
七夜の言う通り、毎年のことながらすごい人の数だ。
この町のどこに、こんなに沢山の人がいるのだろうかと、新年が来る度に思ってしまう。
「……そろそろかな。準備はいいか?」
「いつでも良いぞ」
「ちゃんと賽銭箱に入るように投げろよ?」
「俺を誰だと思ってる?」
そう言うと、七夜は不敵な笑みを浮かべる。
……なんか不安だが、まぁ良いか。
「それじゃあ……せ〜のっ!」

――チャリン。

――ヂャリンッ!

絶え間なく上がる甲高い金属音の中、立て続けに上がった二つの音。
片方は普通に周りの金属音とすくに一体化したが、もう片方の鈍い音は、周囲のどの音とも溶け合うことなく、しばしの間ずっと場違いな音響を奏で続けていた。
その原因をしっかりこの目で見ている俺が、隣の人物に声を掛けたのは至極当然のことだった。
「……おい」
「なんだ?」
「俺の見間違いじゃなければ、お前今、賽銭箱じゃなく後ろの仏像にお賽銭を投げつけなかったか?」
「あぁ、その通りだが?」
「……なんでそんなことを?」
「賽銭箱に入れてしまう前に、直接神に賽銭をくれてやったのさ。できた信者だろう?」
「……はぁ」
溜め息しか出なかった。
凄まじい考え方だ。
ここまでくると、もう呆れを通り越して感動すら覚える。
来年の初詣までに、こいつには世間の一般常識というやつを叩き込んでやらねばなるまい。
「どうした? 何かあったのか?」
「……いや、何でもない。とりあえず、ちゃんとお祈りはしておけ。謝罪付きでな」
「謝罪? 何でだ?」
「あぁ、もういい。お前は普通に祈っててくれ」
「? おかしな奴だな……」
それはお前だ。
神様、どうもすいませんでした。
このバカには、後でしっかり言い聞かせておきますので、どうか祟らないでやってください。
後、どうか今年こそ、心身共に平穏な一年にしてください。
しょっちゅう窓を割って不法侵入してくる吸血姫や、たまに髪が紅くなる可愛くも恐ろしい妹や、夜な夜な地下で怪しい実験を行う割烹着の悪魔の魔の手から、どうか私をお守りください……これでよし。

月夜 2010年07月05日 (月) 23時47分(111)
題名:幸せの終わりに訪れる平穏(第二章)

「さて、そろそろ行こう……」
と思って七夜の方を向いてみれば、予想に反して、まだ手を合わせて祈りの真っ最中であった。
瞳を閉じ、微動だにすることなく一心不乱に祈り続ける七夜。
その姿は、俺の中にある七夜志貴という人間の人物像とは、遠くかけ離れたものだった。
「……よしっと。待たせたな、志貴」
「やけに真剣に祈ってたな。どんな願いごとをしたんだ?」
「色々とな」
「はっきりしないな。気になるじゃないか」
未だに大勢の人で溢れ返った賽銭箱の方へと目を向ける。
こいつがあそこまで祈る願い事って、一体何だろう?
「せいぜい模索してくれ。さて、次は……っ!?」
「ん?」
何か妙な違和感を感じて、俺は七夜へと目線を戻した。
その視線は、自身の体へと向けられている。
見つめる先を追って、俺も七夜の体を見つめる。
……だが、別にこれといって異常は見当たらない。
「どうかしたのか?」
「……いや、何でもない」
俺の問いに、何事もなかった風を装って答える七夜。
返答までの不自然な間が、何でもなくないことの何よりの証明だ。
……嘘の下手な奴。
「何でもないことはないだろう。どうしたんだよ? 何があったのか、話してくれなきゃわからないだろ」
「志貴……」
俺と七夜の眼差しが交差する。
何を言い淀んでいるのか知らないが、何かしらの異常が起きたことは明白だ。
「……七夜。一体何を……」
「志貴〜っ!!」
と、俺の言葉を遮るようにして呼ばれた名前に、俺たちは二人同時にその声のした方を振り返った。
視界に映るのは、こちらへと走り寄ってくる、和装をした一人の女性の姿。
青く短い髪を風になびかせながら、慣れない服装に四苦八苦しながら走るその姿には、健気さを覚えるものがあった。
年齢的には、俺たちと同じくらいに見える。
美人と可愛い子を足して二で割ったような女性と言えば、その雰囲気もある程度は掴めるだろうか。
「はぁ……はぁ……志貴! こんなところで何をしてるんですか!」
その女性は、俺たちのすぐ近くまでくるなり、いきなりそう声を荒げて、七夜の二の腕を掴んだ。
どうやら、彼女の言う志貴とは、七夜の方を指していたようだ。
当然か。
俺は、彼女のことを知らないのだから。
「こんなところでって……前に言った……」
「お正月は私と初詣する約束だったでしょう! なのに、何で私を置いてきぼりにしてこんなとこに来てるんです!?」
「えっ? 七夜、お前この女の人と初詣の約束してたのか?」
「え、い、いや……」
「いいえ! 確かに約束しました! この期に及んで、あの時の約束を白紙に戻すつもりですか!?」
戸惑う七夜に対し、凄まじい剣幕で詰め寄る女の人。
彼女が七夜の恋人であるのは、この状況を見れば一目瞭然だった。
一体いつの間に……いや、それよりも、彼女との約束を放り出して俺と初詣だなんて、こいつは何を考えてるんだ?
……まさか、あっちの趣味とかなんじゃあ……、
「思い出しましたか!? 思い出しましたよね!? それじゃあ、今から私と初詣です! 良いですね!?」
「あ、あぁ……」
……ないよな、いくらなんでも。
「あ、そうそう、忘れるところでした。明けましておめでとうございます、遠野君」
「え? どうして俺の名前を?」
「……あ、あぁ、彼に聞いてましたから。名前は同じで名字が違う、変わった双子がいるって」
あいつ、そんなこと言ったのか……。
まぁ、この人はそう信じ込んでるみたいだし、別にいいか。
「自己紹介が遅れましたね。私はシエルっていいます」
「シエルさん……ですか」
その名を口にして、胸に覚えたのは、自分でもよく分からない不自然な感じ。
なんだろう……シエル……さん?
初対面なのだから、その名を呼ぶのも初めてのはず。
そのはずなのに……この引っ掛かる感じは一体……?
最近、こんなことは良くある。
既視感にも似た、奇妙な感覚。
……気にするだけ無駄か。
そう考え直し、俺はとりあえず挨拶を返すことにした。
「初めまして。それから、明けましておめでとうございます。シエルさん」
「え、えぇ……おめでとうございます……」
なんだろう?
何か、声に元気がなかったような……。
「そ、それじゃあ遠野君、彼は私がいただいていきますね」
「あ、はい。七夜、お前もちゃんと相手がいるなら、俺より彼女の方を大事にしてやれよ」
「……あぁ、そうだな」
そう答える七夜の声も、さっきの彼女同様、今一つ張りに欠けていた。
二人揃ってどうしたんだ?
「では、失礼します」
「あ、ちょっと!」
七夜を連れて去ろうとした背中に、俺は反射的に声をかけた。
「……なんでしょう?」
背を向けたまま、立ち止まる彼女。
俺は先ほどから抱いていた奇妙な違和感を解消すべく、その背に疑問を投げ掛けた。
「俺、貴女とどこかで会ってませんか?」
「…………」
彼女は無言だった。
その場に立ち止まったまま、うつ向いて動かない彼女。
……どうしたんだろう。
「……あの」
「いいえ」
心配になり、声を掛けようとしたのと時を同じくして、彼女は口を開いた。
「きっと人違いでしょう。私、貴方と会うのは、今日が初めてですよ」
微かにこちらを振り返りながら、彼女ははっきりとそう告げた。
ここからでは、髪に隠れてその表情を伺い知ることはできなかった。
なのに、どうしてだか、俺にはその奥にある彼女の心が見えたような気がした。
「……そうですか」
これ以上、俺は彼女と言葉を交わしてはいけない……そんな気がして、俺は自分から会話を切った。
「はい。それでは、私たちはこの辺りで失礼しますね」
「あ、はい。二人とも、良いお年を」
「……遠野君も、どうぞ良いお年を……」
その言葉を最後に、彼女は七夜を連れて人混みの中へと消えていった。
「……」
黙したまま、消え行く二人の背中を見つめる。
そんな俺の手の中では、いつの間にか、おみくじの紙がくしゃくしゃになってしまっていた。

月夜 2010年07月05日 (月) 23時48分(112)
題名:幸せの終わりに訪れる平穏(第三章)

年の明けたばかりの深夜の街。
そろそろ夜明けも近かったが、まだ普段なら街中が眠りに就いている時間だ。
しかし、今日ばかりはそんな時間でも賑わいが絶えない。
道行く人々は、楽しそうに笑い合いながら神社の方へ、またはその逆へと向かって歩く。
そんな中、神社の喧騒から遠ざかりながら、俺たちは無言だった。
「……大丈夫ですか?」
その無言を破ったのは、シエルの方だった。
「……あぁ」
答えながら、俺は彼女の様子を横目で盗み見る。
うつ向きがちに伏せられた、陰の射した暗い表情。
あのとき……志貴と話して以来、ずっとこの調子だ。

――きっと人違いでしょう。私、貴方と会うのは今日が初めてですよ。

頭の中で再生される、無感情を偽った嘆きの声。
あいつからは良く見えなかっただろうが、すぐ傍にいた俺の目には、彼女の表情がはっきりと見えてしまった。
……泣いていた。
歯を固く噛みしめ、必死に溢れ出る感情を押し殺しながら、涙を流していた。
あの時ほど悲しそうな彼女を見たのは、今まで一度もなかった。
つい少し前まで親しかった、それも、自分が想いを寄せていた相手に忘れられてしまう。
彼女自身が望んだこととは言え、一体それはどれ程辛いことだろう。
彼女は俺に大丈夫かと問いかけたが、それは寧ろこちらの台詞だった。
「……世界って、残酷ですね」
「え?」
と、唐突に、彼女はそう切り出した。
「よりにもよって、あの時、あんな場所で、貴方に死を宣告するんですから」
「あぁ……」
シエルの言葉に、俺は先の情景を回想しながら相槌を打った。
そう。
あのとき、あいつは気付かなかったようだが、突如として俺の体に異変が生じたのだ。
腕に感じた薄ら寒い感覚。
目線を落として、思わず息を呑んでしまった。
手首からうっすらと立ち上る、黒い霧。
ついに、俺の体がこの形を保てなくなってきたのだ。
今はまだ全身に意識を配り、なんとか押し留められているが、もうすぐそれも不可能になるだろう。
死は、すぐそこまで迫ってきていた。
シエルが割って入ってきてくれていなければ、俺の消え逝く惨めな姿を、あいつの前で晒すことになっていたかもしれない。
そういう意味では、彼女には感謝している。
だが、逆に捉えれば、それは彼女に耐え難い苦痛を与える結果となってしまった。
正直、申し訳ない気持ちの方が断然大きかった。
だからといって、謝罪の言葉を口にする訳にはいかない。
そんなことをしたところで、彼女が喜ぶはずがない。
むしろ、あの場面を思い出して、余計に悲しむだけだろう。
何と言えば良いのか、わからない。
けれど、確実に終末の刻は近づいてきている。
だからといって、このまま別れるわけにはいかない。
なら、どうすれば……。
「……志貴」
そんな行き詰まった思考にやるせない感情を抱いていた折り、俺の名を呼ぶ彼女の声が耳へ届いた。
「なんだ?」
「私、行きたいところがあるんです。付き合ってくれませんか?」
それは、意外な提案だった。
こんなときに、行きたい場所?
「あぁ、別に構わないが……」
頷きながら、思考を巡らせる……が、特に思い当たる節は浮かんでこなかった。
「良かった。それじゃあ、急ぎましょう。……あまり時間もありませんし、ね」
そう言って、シエルは俺の手を掴むと、小走りで先導する。
慣れない和服のせいか、ふらふらと足取りが危なげだ。
「……その行きたい場所というのは、ここから遠いのか?」
「いえ、町外れの公園の中なので、それほどでは……」
町外れの公園か……。
俺の記憶が確かならば、ここから歩いて十分ほどの距離にあったはず。
だが、案内役の彼女がこの様子では、小走りでも歩き以上の時間が掛かってしまいそうだ。

――……仕方ないな。

「シエル」
「何です……きゃっ!?」
俺は、繋いでいた手を離し、彼女の体を抱き抱えた。
「しっかり掴まっていろ」
「は、はい……」
言い終わるや否や、俺は直ぐ様駆け出した。
「……」
彼女は、何も言わない。
「……」
俺も、何も言わない。
無言を保ったまま、目的地目掛けて夜の街を疾駆する。
冷涼とした空気を切り裂く、冷ややかな感覚が全身を刺す中、首に回された腕から伝わってくるのは、人肌の確かな温もり。
「……す、少し、恥ずかしいですね……」
「……時間がないんだ。仕方ないだろう」
「そ、そうですね……し、仕方ないですよね……」
それが、道中で交わした最初で最後の会話だった。
恥ずかしいのは、こちらとて同じだ。
だけど、それ以上に、今腕の中にいる少女の存在が愛しかった。
少しでも長く、触れていたい。
素直にそう思った。
時間がないから、なんていうのは、きっと誰の目にも明らかな言い訳だったことだろう。
「……」
「……」
再び、二人の間を埋める無言の時。
しかし、それは決して重苦しい沈黙などではない。
むしろ、お互いの存在をこんなにも近くに感じられる、至福の時間だった。
だが、どんな時にも終わりというものはくる。
それが楽しいものであるならあるほど、過ぎるのも早い。
気付いたとき、既に俺たちは公園の中にいた。
「来たかった場所というのは、ここのどこなんだ?」
「あ、え、えっと……あっ、あそこの階段を登った先にあるはずです」
目を合わせるのが恥ずかしいのか、視線を背け、指先でその場所を指し示す。
暗がりに隠されていて良くは見えなかったが、その先に階段らしき段差があるのが視認できた。
「……ん? あんなとこに階段なんてあったか?」
「ふふっ……とにかく、そこを登ってみてください」
「あぁ、わかった。それじゃあ……」
どこか楽しそうなシエルの言葉に頷き、俺は抱えていたその体を下ろそうとした。
「……あ」
それと同時に、腕の中で上がる弱々しい声。
「どうした?」
「え……あ、っと、その……」
しどろもどろになりながら、目線を上げることなく口ごもる。
そして、しばらくそんな挙動不審な態度を見せた後、彼女は俺のことを上目遣いに見上げ、消え入るような声でこう呟いた。
「……で、できれば……こ、このままが良いな……なんて……」
……そうきたか。
「……だ、駄目ですか……?」
「いや、構わないさ」
そんな潤んだ目で懇願されては、断れるはずがないじゃないか。
下ろしかけていた腕に力を込め、もう一度彼女の体を強く抱き抱える。
「あ、ありがとう……」
「……あぁ」
何だか妙に気恥ずかしくなって、俺は素っ気なく返事を返すと、そのまま急ぎ足で丸太の段差に足をかけた。
両サイドを木々に囲まれ、月の光はもちろんのこと、街灯の光すらほとんど届かぬ暗闇の中、手探りで階段を登り続ける。
しばらくの後、その奥に淡い光が見えた。
木々の隙間から漏れる月明かりだろう。
一段歩みを進める度に、それは徐々に輝きを強めていく。
そして、最後の一段を登りきったとき、視界に広がった光景に、俺は思わず息を呑んだ。
「これは……」
「良い景色でしょう?」
「……あぁ」
素直に頷くことしかできなかった。
それくらい、この高台から望める光景は、素晴らしいものだった。
新年初日ということもあり、夜明け前なのにもかかわらず街は既に眠りから覚め始めていて、所々に見える家屋の灯りは、さながら地上に散らばる数多の星々。
遠くに見える、眩い巨大な光で彩られた神社は、無数の星の中に一際映える地上の月といったところか。
まさか、このようなところに、こんなにも壮麗で美しい景観があったとは、今の今まで露とも知らなかった。
近場に見えるベンチに歩み寄ると、俺はそっとシエルの体をそこにおろした。
「……ちょっとだけ、残念ですね」
「勘弁してくれ……」
シエルの本気とも冗談とも取れない言葉に、俺は後頭部をかきながら、その横に腰を下ろした。
「……キレイですね」
「……あぁ。本当にキレイだ」
「……それは、ここから見える景色に対してだけですか?」
「? どういう意味だ?」
「もう……恋人がこんな格好をしているのに、私はまだ貴方から何にも言ってもらってませんよ」
頬を膨らませながら、シエルが目線を細めてこちらを睨み付けてくる。
……参ったな。
こういったことを言うのは、あまり得意じゃないんだが……。
「……キ、キレイだよ」
「……本当ですか? 本当にそう思ってるなら、ちゃんと私の目を見て言って下さい」
こちらを見つめる眼差しは、その瞳の中に意地の悪い光を宿している。
こいつ、遊んでやがるな……。
……はぁ、仕方ない。
そっちがその気なら、こっちだって黙っちゃいないからな。
「あぁ。今日のシエルは、今までで一番キレイだよ」
俺は、彼女の目を真っ直ぐに見据え、真剣な表情ではっきりとそう口にした。
「え、あ、えぇっ、と……あ、ありがと……」
そんな俺の態度が予想外だったのか、シエルは反射的に顔を背けた。
根は人一倍恥ずかしがり屋なくせして、この手のネタで他人をからかおうとするからだ。
しばらく赤くなっててもらうとするか。
「……」
「……」
無言のまま、二人で肩を並べて景色を眺める。
夜明けは近く、東の山際からは昇り行く太陽の姿が見え始めていた。
「……志貴」
その時、シエルが俺の肩にもたれかかってきた。
「……なんだ?」
「……ありがとう」
ポツリ、そう呟く。
それは、もはやただの感謝の一言などではなかった。
言葉ではとても言い表せられない、様々な感情全てを込めた、簡素にして他のどのような表現よりも深い、心からの“ありがとう”だった。
「俺の方こそ……ありがとう、シエル」
その想いに応えられる言葉もまた、やはり“ありがとう”しかなかった。

月夜 2010年07月05日 (月) 23時49分(113)
題名:幸せの終わりに訪れる平穏(第四章)

「……っ!?」
途端、全身に感じる激しい虚脱感。
見るまでもなく視界に入るのは、勢い良く立ち上る黒い霧。
「……とうとう、か」
「……志貴」
こちらを見つめる、涙に濡れた寂しげな表情。
不意に脳裏に蘇ったのは、あの日、タタリを滅した時の記憶。
死を間際に控え、一度は笑いながら息を引き取った彼女。
そんな彼女を見つめていた俺の表情は、きっと今、俺の目に映っているものと同じだったんだろうな。
あの時、笑って逝った彼女の気持ち。
自分が消える側になった今なら、その気持ちが良く分かる気がした。
「……お別れ、なんですよね……」
「……あぁ」
「……っ……ぅっく……!」
今まで必死に堪えてきた涙が、一筋溢れて頬に透明な線を描く。
それは、決壊したダムのように、一つ、また一つと、次から次へと溢れ出し、直ぐに一つの滴は絶え間ない流れとなった。
「……嫌……!」
「……シエル」
「嫌っ! 私は嫌です! ようやく……あんな思いまでして、ようやく一緒になれたのに、こんなところでお別れだなんて……絶対に嫌っ!!」
涙腺が壊れるのと時を同じくして、また感情の蓋もその制御力を失ってしまっていた。
「今からでも、まだ遅くはないかもしれません! アルクェイドを呼びましょう! 今ならきっと間に合います! だから、これからも私の側に居てください! これからも、私と一緒に同じ時間を過ごしてください! 私の側を離れないで! 私を置いて逝かないでっ! わあああぁぁぁぁっ!!」
泣きわめきながら、俺の胸にしがみつくシエル。
いつも冷静な彼女とは思えないくらい、まるで幼い少女のように泣きじゃくる。
「……」
俺は何も言うことなく、その体をそっと抱き締めてやった。
いつもより小さく感じる体を、壊れ物を扱うように優しく、同時に、二度と手離さないように強く。
彼女は、俺なんかよりずっと聡明だ。
今更アルクェイドを呼んだところで、どうにもならないことくらい、彼女だってきっとわかっている。
それでも、そう言わずにはいれなかったのだろう。
そんな彼女の切な想いを全身に受け、俺は改めて思う。
俺は、なんて幸せな奴なんだろう、と。
「……落ち着いたか?」
「っく……うぅ……はい……急に取り乱したりして、すいませんでした……あはっ、私ってば、本当にどうしようもありませんね。いつもいつも、貴方に迷惑ばかりかけて……」
目尻に溜まった涙を拭き取りながら、彼女は苦笑いを浮かべる。
そんな彼女の姿に、込み上げてくる感情はやはり愛しさのみだった。
「……そうだな。困った娘だ」
「もぅ……そこは、優しくフォローするのが貴方の役目でしょう?」
「……あぁ、そうだな……」
二人で顔を見合わせ笑い合う。
だが、この至福の時も後僅からしい。
身体中から、感覚が失われていく。
自分という存在が消えていくのを、確かに感じる。
噴き出す黒霧も、その勢いを増していく。
「……志貴」
「……シエル」
見つめ合ったまま、互いの名を呼ぶ。
この世で、誰より愛しい人の名。
それがもう呼べなくなると思うと、例えようのない悲しみが胸を締め付ける。
「……」
「……」
どちらからともなく、二人の距離が近づく。
ゆっくりと、少しずつ、だけれど確実に。

あぁ、まさか、この俺が、死と隣り合わせの殺し合い以上に、こんなにも生を、幸せを実感できることがあったなんて、一昔前の俺では想像もできなかったに違いない。

――二人の間から、空間という概念が取り除かれていく。

彼女とこうならなければ、今この胸の中に溢れる、他の誰かを愛しいと思える暖かい気持ちなんて、知らないまま闇に却っていたことだろう。

――お互いの吐息が、肌で感じられる。

俺が、生まれて初めて、大切だと思えた人……。

――瞳を閉じる。

俺に、生まれて初めて、好きという暖かい気持ちを教えてくれた人……。

――暗転する視界。だが、すぐ近くに感じられる彼女の存在。

シエル……俺の愛する人。

――そっと……唇を重ねる。

“ありがとう”

月夜 2010年07月05日 (月) 23時51分(114)
題名:幸せの終わりに訪れる平穏(第五章)

夜明けの空へ昇ってゆく黒い霧。
それは、高度を増すにつれてうすらんでゆき、やがて空気中に霧散して消える。
……まるで、初めから何もなかったかのように。
「……」
それをただ静かに見つめながら、私は無言だった。
つい先ほどまで、この胸を満たしていた暖かな感情は今や消え去り、代わりに満ちるのは無という名の虚脱感。
「……疲れたなぁ」
ベンチに身を横たえ、呟く。
本当に疲れた。
もう、どうしようもないくらいに。
東の空には、もう太陽がその半身を覗かせており、そこから降り注ぐ陽光が、街を照らすと同時に私の体を焦がす。
「……痛いなぁ」
そう口にしながらも、私は痛みなどほとんど感じていなかった。
この虚無感に比べれば、これくらいの痛みなんて、意に介するまでもない。
「私も、消えるんですね……」
「そうね」
と、突然、背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。
わざわざ振り返らずとも、その人物が誰かは明白だった。
いや、本当のことを言うなら、振り返る力すらなかったと言うべきかもしれない。
「アルクェイド……」
「はぁ〜い、シエル。元気〜?」
「これが元気に見えますか……?」
相変わらずの底抜けに明るい声で語りかけてくるアルクェイドに、私はげんなりとした声で言葉を返した。
これも、別に声に疲弊感を意識したわけじゃない。
普通に喋ろうとしたら、こうなってしまっただけだ。
「まだまだ、元気になろうと思えばなれそうだけどね〜。そこは、貴女の生きようとする意思の問題かしら」
そう言いながら、彼女は私の横に腰を下ろした。
生きようとする意思……ははっ、笑ってしまう。
そんなもの、彼を失った今の私にあると思っているのだろうか。
あるわけがない。
彼の後を追って、私も消える。
それでいい。
それが、私の選んだ道なのだから。
だから、消える前に言わなければいけないことがある。
「アルクェイド……」
「何?」
「ありがとう……この場所を貸してくれて……」
そう。
ここは、彼女が、私のために貸し与えてくれた、本来彼女しか立ち入れない場所なのだ。
「本当よ。ここは、私と志貴だけの特別な場所だったんだから」
そう言うアルクェイドの声は、どこか得意気に聞こえた。
こんなときでも、こいつは相変わらずだ。
まぁ、この方が良いかもしれない。
私たちの間で、私と彼のような切ない別れのシーンはいらないし、そもそも似合わないだろう。
「でさ、シエル。あんた、彼の後を追って自分も消えるつもりなの?」
「えぇ」
「ふ〜ん……そう」
私の迷いのない答えに、彼女はそうとしか言わなかった。
「まぁ、貴女が自分で決めたことなら、私は何も言わないわ」
そう言うアルクェイドの口調は、今から死に行く者へ向けた言葉とは思えないほど、素っ気なく落ち着いたものだった。
「すいませんね……貴女との決着、結局付けられず終いで……」
「何言ってんのよ。そんなの、本気出したら私が勝つに決まってるじゃない」
「ふふっ……そうかも、しれませんね……」
「かも、じゃなくて、そうなのよ」
まるで、それがさも当然と言わんばかりに断言する。
相変わらずの口ぶりだ。
私の体調が全快状態だったなら、きっと売り言葉に買い言葉で、今頃派手にやり合っていただろうな。
どうしてだろう。
ついこの間のことのはずなのに、それが妙に懐かしく感じられた。
あぁ……だんだんと、意識が薄れていく……。
私という存在が消えてなくなるまで、もうあまり時間はないみたいだ。
ふと、揺らぐ視界の隅に、さんさんと輝く光玉が見えた。
私の身を焦がす眩い光源。
それは、今の私にとって猛毒以外の何物でもなかった。
しかし、それでもそれは美しかった。
「……キレイですね……」
「キレイって……あの太陽が?」
「えぇ……」
「キレイねぇ……吸血鬼になってもまだそんなことが言えるなんて、あんたって、ホント吸血鬼に向いてなかったみたいね」
アルクェイドが気だるそうに呟く。
だけど、そんな彼女の声も、小さすぎてもうほとんど音として認識できない。
輪郭はぼやけてかすれ、もう明暗の区別がやっとだった。
これでは、開けていても閉じていても変わらない。
それに……何だか眠たくなってきた……。
重くなる瞼。
本能が命じるままに、私は瞳を閉じる。
それを境に、急速に肉体と精神が剥離してゆくのを感じた。
意識が暗き深淵へと堕ちて行く。
その最果てにあるのは、完全なる無。
「……シ……ル……」
遠くから聞こえてくる彼女の声。
途切れ途切れで、何と言っているかも分からない。
どうやら、これでお終いみたいだ。
とうに五感は消え去り、もう何も見えないし、何も聞こえない、何も感じない。
そんな今の私に残されているのは、微かな理性と彼を想う気持ちだけ。
脳裏に描き出せるのは、いつでも無愛想な彼の面影。
彼が見せる表情は、いつでもそんな仏頂面ばかりだった。
でも、私は知っている。
何事にも動じない風を装っていながらも、実は結構恥ずかしがり屋さんであることを。
他人に対して冷たい態度ばかりを示していても、その実本当は誰より優しく暖かいことを。
それは、他の誰も知らない……私だけしか知らないこと。
そう考えるだけで、心の底から嬉しい気持ちが沸き上がってくる。
志貴……誰より愛しい、私の大切な人……。
貴方に巡り会うことができて……本当に良かった……。

“ありがとう”

月夜 2010年07月05日 (月) 23時53分(115)
題名:幸せの終わりに訪れる平穏(第六章)

「……シエル?」
アルクェイドの呼び掛けに、横たわる少女は何も答えなかった。
ただ、静かに瞳を閉じたまま、眠るように無言を保つのみ。
「……」
何も言わず、その姿を見つめる。
汚れを知らない、無垢で清廉な少女を思わせる安らかな寝顔。
時が立てば、何事もなかったかのように目を覚ましそうな……それくらい穏やかな表情だった。
だが、彼女は知っている。
目を瞑るこの少女の瞼が開くことは、もう二度とないことを。
あの聞き慣れた生意気な声を聞くことも、もう決して叶わないことを。
いつか……あの日以来、いずれ訪れることになるだろうと思っていた、決別の刻。
それが今だった。
「……」
アルクェイドは座ったまま腰を曲げ、瞳を閉じたまま動かぬ少女の顔の前に、自分の顔を持っていく。
そして、その額にそっと口付けた。
街を一望できる高台の上にて、太陽の光に照らされ、二人の影が重なり合う。
それは、そこはかとない神々しさの漂う、ある種幻想的な光景だった。
「……」
しばらく、そんな時間を過ごした後、アルクェイドは口付けた時と同じように、そっと唇を離した。
「さて、と……私はそろそろ行くわ。志貴に新年の挨拶しに行かなきゃいけないし。ここは、貴女のためにしばらく貸し切りにしておいてあげる」
そう言ってベンチから立ち上がると、彼女は踵を返して出口の方へと歩みを進めた。
木々に囲まれた階段のすぐ近くまで歩み寄り、その段差に足をかけたところで、ゆっくりと後ろを振り返る。
視界に映るのは、今は亡き友の亡骸。
「……さようなら、シエル……」
そう、最後に一言だけ告げて、彼女はその場を後にした。

ベンチにて一人瞑る少女。
その目元から流れた一滴の涙は、誰にも知られることなく頬を伝って零れ落ち、そして消えた。

月夜 2010年07月05日 (月) 23時53分(116)
題名:幸せの終わりに訪れる平穏(あとがき)


や ら な い か












































すいません、ちょっとやってみたかったんです。

だって、普通のサイトとかブログって、みんな「新年明けましておめでとうございます」とか「ハッピーニューイヤー」とか「今年もよろしくお願いいたします」とか、なんかそんなのばっかりでしょ?

そんな中、新年最初のあいさつが



や ら な い か



ですよ?

管理人の思考回路のぶっ飛びっぷりに、多分このあとがきを見られた方全員が思ったことでしょう。



うはwwこの管理人テラバカスww




とりあえず、新年からフイタwwという方は挙手で(´・ω・`)




さて、皆さん、明けましておめでとうございます(今更)

このサイト、これで正月を迎えるのは二度目ですが、まともなあいさつをした記憶がありません。

こんなオワタ管理人ですが、どうぞ今年も生暖かい目で見守ってやってくだしあ(´・ω・`)

今作で、Phantom Distortionは完結です。
七夜とシエル、タタリの残滓と吸血鬼と化した代行者という異端な二人の行く末は、こういった結末を迎えることと相成りました。
いかがでしたでしょう?
私としては、これはただの悲劇ではなく、むしろ幸せな物語になったと思います。
確かに、二人にとって、幸せな時間はとても短かったと思います。
しかし、本当に大切なのは、その時間の長短ではなく、過ごし方にあるのではないかと思います。
そういう意味で、彼らが二人で過ごした最後の時間は、至上の幸福と呼ぶに相応しかったのではないでしょうか。

まぁ、この辺りは皆さんの考え方次第ですね。
この物語は、私の中ではこのような終わり方となりましたが、それがこの物語の真のエンディングだとは、私は思ってません。
これがどういうお話であり、二人の行き着く果てがどうなるのか。
各人一人一人で、違う物語となって然るべきではないかと、私は考えるわけです。

ちなみに、皆さんも良くご存知の我がアトリエ専属絵師こと鞍糸氏。
彼が此度書いてくださったTOP絵、ご覧になっていただけましたでしょうか?

月夜が思い描いた、消え逝く最期。
それが一つの物語の終点であるならば、それとは別に、二人が幸せの日々を生き続ける終わりなき旅路もまた、この物語が導き得る答えの一つなのではないか。
皆さんにも、どうか誰かの決めた一つの答えにただ満足し、それを自分の答えと同化させてしまうのではなく、独創性溢れる独自の答えを手にし、それを己の真実と為して欲しい。
私の描いた幸せ溢れる二人の穏やかな笑顔から、形作られてしまった悲劇でも、それを喜劇へと変えられる力を得てくれる人々がいれば嬉しい(鞍糸氏談)






いやー、かこいいね、彼。

やっぱ法を学んでいる人は言うことが違います。

















……すいません、ちょっと尾ヒレと胸ビレくらい付けちゃいました。

でも、こういった類の事を言ってたのはホントですよ?



ところで、一気に話は変わりますが、新年の神社にいるアルバイター巫女さん。
知り合いの子から聞いたんですけど、あれ、相当ハードらしいですね。
その子は正月三賀日の最後だけだったらしいんですが、朝はめがっさ早くから、夜はめがっさ遅くまで。
休憩はお昼の休憩が30分一回だけで、他は基本休憩なし。
何より辛いのが、本人曰くあの寒さらしいです。
売り場にはストーブとかあるから大丈夫だろうとか思うかもしれませんが、それはとんでもない間違いなんですって。
あんなの本当に気持ち程度のもので、しかも巫女服の下に厚着なんて出来るわけもないから、すんごく寒いそうです。

今から初詣に行くんですが、今年は売り場の巫女さんに「頑張って」ってエールを送ろうと思います(´・ω・`)

さてさて、新年のあいさつもばっちり決まったことですし、そろそろ幕といきましょうか。
この作品に対する感想やらゴルァは「小説感想アンケート板」または「小説感想掲示板」、「月夜に吠えろ」までドゾドゾ(´・ω・`)

では、今年も皆さん良いお年を。

ここまでは、まだ実際は11月にもなってなくて、全然そんな気分じゃない月夜が、大学の講義室からお送りいたしました(´・ω・`)

月夜 2010年07月05日 (月) 23時54分(117)


Number
Pass

ThinkPadを買おう!
レンタカーの回送ドライバー
【広告】楽天市場にて お買い物マラソン5月16日まで開催中
無料で掲示板を作ろう   情報の外部送信について
このページを通報する 管理人へ連絡
SYSTEM BY せっかく掲示板