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タイトル:レジェンドパラダイスΙ ファンタジー

イオタ(レジェンドパラダイスΙ)


P50に突如として現れた空から降ってきた少年に出会ったことから始まる最後の冒険記。
主人公は最高の遺伝を受け継いだ女の子。
他にカナタやミホシたちも登場します。

この話はWWSシリーズの集大成、最後のお話として書かれた物語です。
出てくるキャラの8割が既存キャラで成り立っています……多分。
なので、このイオタ以外のすべての作品を読んでから臨んだ方が賢明です。
ネタバレになりますから。
まぁ、バラバラに読んでも問題ないと思いますけど。

という訳で。



“誇り高き意志を持った少女の最後の旅が始まる!!”



イメージソング:toi et moi(安室奈美恵)

HIRO´´ 2011年06月07日 (火) 07時32分(18)
 
題名:第1話 P50 立秋

「はぁはぁ……なんて、砂嵐だっ!」

 今の今まで、黙々とひたすらに歩いていた。
 その均衡を破り、一人の少女が静寂を壊す。

 ただ、その言葉を発した少女の服装を見ると、女の子なのかなと誰もが首を傾げる格好だった。
 何せラフな水色のハーフパンツに上半身もこれまたラフで大き目のTシャツを着用している。
 しかし、この少女はまだ10歳に達しようとしている年齢にもかかわらず、身長が160センチはある。
 同世代の女の子と比べたら、頭ひとつ分は抜きん出ているだろう。

「そうね。…………。ビリー、カナタ。休める場所があったらそこで休憩しましょう」

 凛として鮮麗な声で女の子を宥めるのは、ミッドブルーのアップポニーテールを赤い紐でリボンのように束ねる年上の女の子だ。
 年齢からして14歳と言う少女は、ラフな女の子と同じくらいの身長だった。
 そして、美少女と言う言葉はまさに彼女にぴったりの言葉であるほど、可愛かった。

 ところが、そんな美少女が引いている物を見ると、誰もが目を疑うだろう。
 2つのタイヤに大きなハンドル、エンジンを搭載した乗り物。
 大型のバイク。
 それも750CC相当の大型中の大型バイクである。
 それを引いているとなると、相当疲れるものだが、彼女は難なくと押している。
 全然平気と言うわけではない。
 何せ、ここは砂漠の上。
 砂でタイヤが取られて、なかなか進むことができないのだ。
 本来ならば、ラフな少女を後ろに乗っけて一気に次の町まで駆け抜けるところだった。

 美少女がバイクに乗らないのにはもう一つ理由がある。

「いやはや、サクノはん、惚れ惚れしてまうわ。そんなバイクをいつも乗り回してるんやろ?今度俺も乗せてくれや。カナタもまだ、10歳やて言うのに、中々逞しいカラダしてるぜ?」

 二人の少女……サクノとカナタと一緒に旅をしているのが、この頭の悪そうな軽い男。
 紫のロングヘアにふわふわとした木綿の白い袖なしの上着を羽織って、中に胸元のはだけた赤いカットソーを着用し、グレーのハーフパンツを穿いている。

「…………」

「お前うるせぇよ!」

「カナタ、年上に対してガサツな態度はあきまへんで?敬語をしっかり使いんしゃい」

「なにおー!!やる気か!?」

「前言撤回や。頭脳は子供。身体は大人やな」

「くぅっ!!」

 そんな二人のやり取りをスルーして、サクノは前方に建物を見つける。
 バイクを引きながら、足早に颯爽とその建物に近づく。

「……これは、遺跡?」

 遺跡と思われるこの場所には、いくつかの石像が立っていた。
 サクノたちにはポケモンに見えるが、このようなポケモンたちは、未だ見たことがなかった。

「城にも見えるけど。行ってみようぜ!」

「ここで休むんか?まー俺はサクノはんが一緒に休むならどこでも……ってオイ」

 ビリーが口説こうとしているが、その対象はすでに傍にはいなく、代わりに大型バイクが存在していた。
 カナタが興奮して進んでしまったのを見て、サクノはゆっくりと追いかけて行ったのである。

「砂だらけね」

 冷静に周りを確認する。
 ポケモンの気配を感じ取って、いつでもポケモンを出せるようにスタンバイしていた。

「うぉぉぉぉっ!!」

「え?カナタ!?」

 悲鳴が聞こえた方へと歩いていくと、蟻地獄のような砂上に手が伸びていた。

「カナタ!」

 サクノが呼ぶ間もなく、砂の中へとカナタは消えていった。

「いけない……。すぐに下への道を探さないと」

「サクノはん、カナタがどうかしたんか!?」

「この砂の穴に埋もれちゃったの。この場所がどんな場所かはわからないけど……どちらにしても、下へ行かないと……」

「それなら、すぐにでも追わんとな!サクノはんはここで待ってんしゃい!俺に任せとき!」

「あっ、ビリー!?」

 すると、ビリーはカナタの落ちていった穴へと躊躇なく足から入っていった。
 飛び上がって勢いよく突っ込んで行ったために、ズボッと音を立てて、サクノの前から姿を消したのだった。

「あぁもう……」

 短絡的なビリーの行動にサクノは呆れて頭に右手を当ててため息をつく。

「これだけ立派な遺跡に階段がないはずがない。脱出ルートを探すためにも、階段を探さないと」

 ミッドブルーのアップポニーテールを揺らし、彼女は慎重に足場を確認しながら、進みだしたのだった。










 サクノたちが遺跡に入って30分ほど後に、1つの人影が遺跡に迫っていた。

「なるほど……これがヒヒダルマの石像かぁ……。確かジョウトのいかりまんじゅうをお供えすると動きだすんだったかな?」

 何者かは、その石像をじっくりと観察する。
 そして、ゆっくりと遺跡の中に入って行ったのだった。










 第1話 P50 立秋










「ここに……世界を手にするためのポケモンがいるはずだ……私の求めた……理想郷の……鍵が……」

 遺跡の中に怪しい男がいた。
 言葉からして、何かのポケモンを探しているようだった。

 見るからにして、高齢の男だと言うことがわかる。
 だが、高級の黒いスーツでバッチリ決めているからして、どこかの社長や会長に見えなくも無い。

「今からでも、世界を私のものにするのだ……積年の願いを果たすために……!!」





「……ほんと、出会うポケモンすべてが見たことのないポケモンね」

 サクノの目の前に現れたのは、お腹にお面のような顔がある不気味なポケモンだった。
 その名は、デスマスと言った。

 ゴーストタイプの技であるシャドーボールを繰り出し、サクノに襲い掛かってくる。
 彼女は、見たことのないポケモン相手に決して遅れを取らず、一匹のポケモンを繰り出した。
 シャドーボールは、そのポケモンが拳を振るったことで、相殺してしまった。
 この攻撃はただのパンチではなく、拳に纏った水を飛ばす飛び攻撃だった。

「ジャック!」

 対して技の指示も出さず、名前を呼ばれたフローゼルは水を纏って、デスマスにアタックした。
 素早い攻撃にデスマスは避けられなかった。
 しかしながら、その一撃には耐え切った。

 ドゴォンッ!!!

 とはいえ、連続で繰り出されたアイアンテールに対応できず、デスマスはあっという間に地面に倒れた。

「…………」

 フローゼルを戻さずに、周りの気配を察したサクノ。
 どうやら、デスマスの群れに囲まれたらしい。

「ちょっと、厄介かもね。ジャック、行くわよ」

 首に柔らかい本物の羽根をブローチのように下げているフローゼルは頷いて、右手を地面に突き立てて、突進する体勢を取る。

「『Aqa Doom』!!」

 フローゼルの右手から水の膜が風船のように広がっていく。
 その水の膜は風船のようにどんどん膨らんで行き、今いる砂のフロアを覆い尽くす。
 サクノ、フローゼル、デスマスの群れは、すべてこの水の膜の中に閉じ込められた。

「さぁ、ジャック!」

 フローゼルはジャンプして、水の膜に飛びつく。
 すると、フローゼルはその膜に張り付いて、重力を無視して移動し始めた。

 デスマスたちは、そのフローゼルの動きに完全に翻弄されていた。

 1分後。
 十数ものデスマスたちは、すべて地面に倒れていた。
 サクノはフローゼルを労って、モンスターボールに戻す。

「特性の『すいすい』がうまく働かなかったわね。これって、相手の特性のせいってことなのかな?」

 少しの間考えたが、今はカナタたちを探さないとと、階段の散策を再開した。
 サクノはわからなかったが、これはデスマスの『ミイラ』という特性によるものである。

「(私ならここのポケモンはそれほど苦にならないけど、カナタは大丈夫かな)」





 サクノの不安は的中していた。

「ぐわっ!!」

 巻き上げられた砂塵がカナタに襲い掛かり、彼女は吹き飛ばされて砂の地面にボフンと落とされる。
 同じように、繰り出していたニョロゾもカナタと同じようにダメージを受ける。
 相手が動けないことを察知して、ワニのようなポケモンは、砂を纏って突進してくる。

 ワルビル。
 この場所に住みつくポケモンの1つだ。
 自在な手足と大きな口を使って攻撃を仕掛けてくる。

「……っ!」

 辛うじて攻撃をかわすが、ボフンと砂が巻き上げられて、やはり吹き飛ばされる。
 ニョロゾの方は何とか攻撃範囲から離れることができた。

「『水の波動』!」

 水の塊がワルビルに向かっていく。
 しかし、わざわざ攻撃を受けるわけがなかった。
 口から悪のエネルギーを放出し、水の波動を押し返したのだ。

「ちっくしょぉ……」

 『悪の波動』を受けたニョロゾはダウン。
 突撃してきたワルビルに対抗するようにヌマクローを繰り出すが、ジリジリと押され始める。

「『がむしゃら』!!」

 無茶苦茶に力を入れて、ワルビルを押し返したヌマクロー。
 その隙をカナタは狙った。

「『ハイドロポンプ』!!」

 強力な水流がワルビルを押し飛ばし、壁へと叩き付けた。
 ほっと一息ついたのだが、それが命取りだった。

 ズモッ!!

「下から!?」

 狙っていたように、新たに野生のワルビルが攻撃を仕掛けてきた。
 それも、2匹。
 カナタとヌマクローは、殴打を受けて悶絶した。

「ぐっ……こんなところで……」

 ヌマクローがカナタを気遣ってワルビルと戦うが、ヌマクローに2匹戦うだけの力はない。
 せいぜい、一匹と互角に持ち込む程度。
 もう一匹のワルビルが膝を突いて、意識が朦朧としているカナタに近づいてくる。

「お……姉さ……ま……」

 憧れの人の顔を思い浮かべながら、頭の中で助けを請った。
 そんなワルビルは、容赦なく飛び上がってカナタの真上からのしかかりを決めようとし、

 ドゴォッ

 何者かに叩きつけられて、頭から砂に突っ込んで埋もれてしまった。
 カナタは意外そうな顔をして、隣に立ってきたポケモンと人を見る。
 右隣には、対峙していたワルビルの最終進化であるワルビアルが卑しそうな笑みを浮かべている。
 そして、左隣にはいつも浮ついていて、へらへらとしている男が立っていた。
 しかし、その表情はいつもより真剣であり、彼女の見たことのない顔だった。

「ワルビアル」

 ヌマクローとぶつかっているワルビルに向かっていき、片手でワルビルをなぎ払った。
 体勢を立て直したワルビルだったが、砂を掻き揚げて勢いよく突っ込んでくるワルビアルに立ち向かう手はなかった。
 『辻斬り』を受けて、ワルビルはポスンと音を立てて地面に伏せた。

「大丈夫か?心配したんだぜ?」

 ひょいと彼女の腕を掴んで強引に立たせる。

「……な、何だってんだよ!?自分で立てるっつーの!触んな!」

 ビリーの手を振りほどき、彼から背を向ける。

「(な、なんなんだ……)」

 カナタは戸惑っていた。

 よくわからないが、動悸がする。
 よくわからないが、顔に熱を持っている。
 よくわからないが、ビリーがかっこよく見えた。

 今感じている状況を、カナタは理解できずにいた。
 何せ、それは初めての感情であったからだ。

 トンッ

「うわぁっ!?」

「どーした?」

 ただ肩に手を置いただけなのに、顔を少し赤く染めてカナタが慌てた声を出したのに、ビリーは訝しめな表情をした。
 そして、ビリーは何かを悟る。

「そーか」

 ニヤニヤとビリーは気色悪い笑みを浮かべる。

「カナタ、俺に惚れたな?」

「なっ!?」

「でもダメやでー。俺にはサクノはんが居るんや。浮気はせーへんで♪」

 さっきのカッコイイ姿の面影はどこにもない。

「だ、誰がお前に惚れるかっ!!ただいきなり肩を叩かれて驚いただけだ!」

「そうなんか?叩く前に2、3度くらい名前を呼んだけど?」

「え、ウソ?」

「ああ。ウソやで」

 メキッ

 ビリーの顔にカナタの鉄拳制裁が入った音であった。

「とにかく、お姉様と合流して、この遺跡から脱出しないとな!」

「まったくもってその通りやな!」





 そして、そこそこの時間が過ぎた。

「結局、砂に落ちて、最下層まで来ちゃったな」

「カナタが走るからやな」

「すべて私のせいか!?ちげーだろ!?お前だって足を踏み外して落ちただろ!」

「1回だけやで。それに、年上の人には敬語をつかいんしゃいって何度言ったら……」

「うるせぇっ!!」

 ドゴォッ!!!!

 ……この音はカナタが殴った音ではない。

「……地面が割れた?」

「一体何!?」

 砂の地面があっという間に抉られるパワー。
 砂が抉られると、下は岩盤になっていた。

 その力に息を呑むビリーとカナタ。

「(俺たちに牽制するような感じだった) 誰や!?」

「…………」

 そして、しばし無言の後、割れた砂の一角から一匹のポケモンが姿を現した。

「このポケモンはカイリキー!?」

 ノースト地方出身であるカナタはこのポケモンのことを見たこともあり知っていた。
 4本の腕で攻撃を仕掛けるパワフルなポケモンである。

「ヌマクロー!」 「ランクルス!」

 カナタが繰り出すのは先ほども出したヌマ魚ポケモン。
 ビリーが出したのは細胞ポケモンであるエスパー系のポケモンである。

 ドガ ガッ!!

 しかし、一瞬だった。
 ヌマクローとランクルスはそれぞれ2本の腕で捌かれて、壁に叩きつけられた。
 ヌマクローはたったそれだけでダウン。
 ランクルスもダメージは大きいようだ。

「(カナタのポケモンはまったく歯が立たないようだ) カナタ、ここは俺がやるから、下がりんしゃい!」

 サイコウェーブで念波を流し、カイリキーの動きを制限する。
 その後、接近し、カイリキーにタッチした。
 『いたみわけ』で体力を分かち合い、その後、両者のパンチが交錯した。
 ランクルスのパンチは物理攻撃だと思わせといて、特殊な波動を放つ特殊攻撃。
 ゆえに一撃でカイリキーを撃破した。
 だが、クロスカウンターで入ってしまったため、ランクルスにはカイリキー以上のダメージが入った。

「(俺の耐久力のあるランクルスがたった2撃で……並の相手じゃない……!!)」

 ランクルスを戻すと、カイリキーを戻すために一つの人影が姿を現した。
 高級そうなスーツを纏う社長か会長のような男。
 しかし、すでに年齢が後期高齢者と一目でわかる老人であった。

「(なんだ、この爺ちゃん……。危険な匂いがする)」

 ビリーはすぐにその雰囲気を察した。

「一体なんで攻撃をして来たんだ!」

 その雰囲気を読み取れなかったのはカナタだった。
 いつも通り荒削りな言葉遣いを老人に向かって放つ。

「クックック……なんで攻撃してきたかって?邪魔だからに決まっているだろ」

「邪魔……?一体俺たちがなんの邪魔をしたっていうんか?」

「今邪魔なんじゃない。これから邪魔になるんだ。これから、伝説のポケモンを手に入れるために奥へ行く。その目的を邪魔されるのが非常に不愉快だからな」

「伝説の……ポケモン……?」

「ここにその手掛かりがあるといわれている。だから、貴様らに見させるわけには行かない。ここで消えてもらう」

「消えへんでっ!!」

 ビリーは新たにピクシーとクリムガンを繰り出す。
 しかし、出した瞬間に足場が一気に奪われた。
 地面の砂が丸ごと持ち上げられたのである。

「……いっ!?」

 ビリーとカナタはあっけに取られるしかない。

「始まったばかりだが……終わりだ」

 無数の砂の礫が襲い掛かる。
 ピクシーとクリムガンは無数のそれを攻撃で弾くが、ただの砂の礫ではないためダメージは逃れられない。
 砂は超能力で固められて、砂のダメージがなくてもエスパーのダメージでジリジリと削っていっているのだ。

「『テレポブラスト』」

 移動しながらの攻撃に、なすすべもない。

「(アレはフーディン!?)」

 辛うじてカナタはそのポケモンの正体を見破ったが、刹那、砂の礫を頭に受けて意識を飛ばした。

「カナタ!」

「『マインドショック』」

 見えない何かが襲い掛かり、一気にはじけとんだ。
 そして、無数のエスパーの球が内包した砂が止んだ時、全員倒れていた。

「(つ……強すぎる……ピクシーもクリムガンも呆気なくやられるなんて……どうすればいいんだ……)」

 すでに中心であるポケモンが倒されて、ビリーは心が折れかけていた。

「(あのポケモンを倒す策は……)」

 目の前に立つフーディン。
 スプーンをビリーに向けて止めを刺さんとしていた。

「クックック……冥土の土産に教えてやろう。私の名前はシファー。かつて『闇の帝王』と恐れられていた男だ」

 スプーンが振り下ろされる。

 ドガガガッ!!

 しかし、フーディンは何かによって攻撃を受けて、一撃でダウンした。

「……今のは……『Lighting』……」

「…………」

 ビリーとシファーは同じタイミングで同じ方向を見る。
 そこに立っているのは、ミッドブルーのポニーテールに赤いリボンをした少女だった。
 右手にモンスターボールを翳している。
 その手からはビリビリと電撃が迸っていた。

「どこかで見たことがある顔だな」

「私はあんたのことなんて知らないけど」

 この場に現れたのは、サクノだ。
 今の今まで、ダンジョンを彷徨って階段を探しに探していたのだ。
 ちなみに、一度も砂地に落ちなかったのは、凄いの一言に尽きるだろう。

「サクノはん……」

「二人とも、じっとしてて。ここは私が何とかするから!」

 2人に大丈夫か?とは問わない。
 何故なら、傷を負って大丈夫じゃないことを彼女はわかっているから。
 大丈夫なんて聞いても、大丈夫と返って来ることを彼女はわかっていたから。
 だから、彼女は最初からシファーに立ち向かっていた。

「サクノ……。クックック……なるほど。お前が噂の“誇り高き女教皇<アキャナインレディ>”か」

「…………」

「お前の実力……見せてもらおうか」

 先に仕掛けたのはサクノのほうだ。
 モンスターボールを落として、宿木の種を指示する。

 繰り出したのはエルフーン。
 そして、その特性は『いたずらごころ』。
 変化球の技を先制攻撃で当てることができる特性だ。

「効かん」

 しかしながら、シファーのポケモンは、迷わずに突っ込んできた。
 宿木の種がまったく効果が無かった。
 それもそのはず。
 シファーの出してきたポケモンは、草ポケモンであり、宿木の種は効かないのだ。

「やれ、ジュカイン」

 ドガ!

 先制攻撃を受けて、エルフーンはゴロゴロと転がっていく。
 それに追い討ちをかけるように、リーフブレードを展開した。

「ラック、『コットンガード』!」

「切り裂け」

 ふわふわの身体を使って防御力を固めるコットンガード。
 特性の力を持ってさえすれば、相手よりも早く動ける。
 作戦は、成功していた。

 だが、

 ズバッ!!

「……!」

 ジュカインの黒いリーフブレードがその防御を上回ったのだ。

「こんなものか……アキャナイン。そろそろ主力のポケモンを出せ。さもなくば、一瞬で消す」

 ドスの含んだ老人の声にただならぬ殺気を感じる。
 サクノが次に繰り出したのは、フローゼルだ。

「『ソニックブーム』!!」

 音波を飛ばし、ジュカインに攻撃を仕掛ける。
 だが、当然その様な単調な攻撃は避けられる。
 ジュカインは再び黒いリーフブレードを展開し、フローゼルの顔面目掛けて振るった。

「そのくらい……!!」

 仰け反ってフローゼルは攻撃を回避した。
 そして、牽制の意味で口から冷凍ビームを吐き出した。
 ジュカインが引いたために当たらなかったが、その間にフローゼルは体勢を立て直して、高速移動に入った。

「高速移動からの狙い撃ちか?だが、こいつも高速移動は使える」

 ジュカインも同等のスピードで動き、フローゼルと互角の攻め合いをする。
 いや、互角だったのはスピードだけだった。
 そのことは、両者共にわかっていた。

「ジャック!『Archer』!!」

 はたりとフローゼルは移動するのをやめた。
 足を踏ん張って、まるで弓を構えるかのように左手を前に出し、右手を引く。

「Shoot!!」

「『リーフストーム』!!」

 フローゼルが右手を瞬時に前へ突き出す。
 とは説明するものの、実際にはそんな動作はまったく見えない。
 コンマ何秒足らずで拳を前に突き出し、すぐにその拳は元の位置に戻る。
 フローゼルのこの一撃で飛ばすのは拳圧。
 さらにかまいたちなどの風、水の波動などの水……の属性を乗せることができる。
 すなわち、この一撃がフローゼルの必殺技である。

 だが……

 ズドォンッ!!

 その一撃は、ジュカインのリーフストームによって相殺されてしまった。
 水と風が弾き飛び、前を見ることを困難とさせる状態へと変化させる。

「(畳み掛ける)」

 優勢だと判断したシファーは、ジュカインに前進を指示。
 ところが、それは間違いだと次の瞬間気づかされることになる。

 ズドォッ!!

 ジュカインを遙かに凌ぐスピードのポケモンがジュカインを吹っ飛ばしたのだ。
 風が収まり、シファーの目に腰に骨をぶら下げた一匹の二足歩行のポケモンの姿が映った。

「……ルカリオ……『Seoul Blade』か……だが、神速を使ったにしては、速い……。…………。なるほどフローゼルのバトンタッチか」

 独り言で話を解決させるシファー。
 その間に、ルカリオが『波動弾』でジュカインに止めを刺した。

「ラグラージ」

 新たに出したポケモンが地面を叩き、ボコボコと衝撃波を飛ばしていく。
 『だいちのちから』だ。

「エンプ!」

 ルカリオはサクノの指示で避けると同時に前に出て、腰に差してあった骨を抜いた。

「来い。Seoul Blade。貴様の剣などへし折ってやる」

「エンプの剣はそう簡単には折れないわよ」

 ラグラージの拳に纏う黒い水。
 それに向かって、ルカリオは右手で骨を振り下ろした。

 バキッ!!

「……!」

 サクノは意外そうな顔をする。

「呆気なかったな」

 逆にシファーはニヤリと笑みを浮かべた。

「“Seoul Blade”なんて、たいそうな技名かと思えば、ただの『骨棍棒』ではないか。拍子抜けを通り抜けて笑ってしまうわ」

「拍子抜けてもらって結構。剣が折れたのは意外だったけど、私がエンプに指示した技は、ただの『骨棍棒』よ」

「何?」

「そして……これが……」

 ルカリオの左手に波動の力で作った剣が生まれる。
 それを振りかざして、ラグラージを切りつけようとする。
 流石に真正面からの攻撃では、同じように黒い水の拳で受け止められてしまう。
 だが、今度は折れなかった。
 そのまま、ラグラージを吹っ飛ばした。

「クックック……中々の威力だが、『アクアパンチ』に防がれる程度のレベルじゃ、まだまだってところ……」

「……これが……『聖なる剣』よ」

「…………は?」

「最後に、これが……」

 ルカリオが右手に持った折れた骨の剣を両手に持ち直した。
 すると、今までにない凄まじい闘気が骨の剣に宿った。
 これを波動ともいい、闘気とも言う。
 いずれにしても、サクノのルカリオのオリジナルの技だった。

「『Seoul Blade』!」

「は、『ハイドロポンプ』!!」

 突撃してくるルカリオに対して、闇の水流を放つ。
 しかし、それが足止めにもならない。
 ましてや、フローゼルの高速移動をバトンタッチで受け継ぎ、スピードが上がっている。
 今のルカリオを止められるポケモンは、探しても中々見つかるものではないだろう。

 ズバッ!!!!

 水流も黒い拳もすべてを打ち負かし、ラグラージを地面に這いつくばらせた。
 しかし、ルカリオは肩で息をしていた。

「いいだろう。この私の本気を見せてやろう」

 次の瞬間。
 ルカリオは一撃で倒された。

「……え!?」

「なんや!?」

 サクノとビリーは息を呑んだ。
 とはいえ、サクノにはすでに何が起こったか目の前のことは分析済みである。

「バシャーモ。貴様でこいつら全員、闇に沈めてやろう」

「ジャック!」

 アクアジェットで先制攻撃を仕掛けるフローゼル。
 ところが、炎を纏った腕で弾かれた。
 決して、威力で負けたわけではない。
 相手が攻撃をいなす技術が上だったのだ。

「『かまいたち』!!」

 風の刃がバシャーモに向かっていくが、先ほどのフローゼルのようにバシャーモは弓のように構える。

「『トリプルダークファイヤー』!」

 風の刃を軽く相殺する闇の炎。
 そんなものが、まだ2つもフローゼルに向かって跳んでくる。
 1つは何とか回避したが、もう1つの方をまともに受けてしまった。

「まさか……サクノはんのルカリオとフローゼルがこんなに呆気なくやられてまうなんて……」

 ビリーは気絶しているカナタを抱えて、隅っこでサクノの戦いに巻き込まれないようにしていた。
 流石のサクノもここまで追い込まれて緊迫しているのではないかとビリーは危惧した。
 しかし、そんなのは彼の杞憂に過ぎなかった。

「レディ!」

 右手のモンスターボールの中から飛び出すイカズチ。

「!!」

 ドガガガッ!!

 三連続の電気を帯びた打撃技に、バシャーモも多少怯んだ。
 そして、そのイカズチはスタッとバシャーモと間合いを取って着地した。

「(さっきフーディンを倒したのもそいつか) 『ダークファイヤー』!」

「レディ!突っ込む!」

 右腕に盾のような黄色いプレートを括りつけたその可愛らしいポケモンはライチュウ。
 黒い炎の塊を回避して、一直線に走っていった。

「『ボルテッカー』!!」

 ズザザザザッ!!!!

 ライチュウの捨て身の一撃がバシャーモを押していく。
 だが、バシャーモが拳に炎を纏って、電気のダメージを遮断している。
 ただバシャーモはライチュウの勢いに負けて、押されているだけである。

 ドゴッ!!

 そして、バシャーモは壁に押しやられた。
 バシャーモの炎のパンチによる防御とライチュウのボルテッカーによる攻防が続く。
 壁があるからもうバシャーモは逃げられないと、サクノは踏んでいた。
 しかし、それがシファーの狙いであった。

「ここまで押しやられたら、足で踏ん張らなくてもいいよな」

「……しまった!レディ!」

 引くように指示を出すが、遅い。

「『ブレイズキック』!!」

 背中をピタリとつけたまま、炎の蹴りをライチュウの腹部に命中させた。
 放物線を描いて、ライチュウは地面にドサリと叩きつけられる。

「『ダークファイヤー』!」

「『10万ボルト』!!」

 両者の攻撃は連続で続く。
 攻めるために出している炎攻撃と、防御の為に出している電気攻撃。
 なんとか、電撃で炎を逸らすのがやっとだった。

「(あっちのほうが攻撃力が高いわ……何とか、懐に入らないと……!) 『エレキボール』!!」

 電気の球を打ち出した。
 単調な攻撃ではあるが、速度はかなりある。
 ダークファイヤーの攻撃を一回止めた。

「『10万ボルト』!!」

 そして、連続攻撃でバシャーモに向かっていく。

「クックック……当たるものか」

 電撃はかわされる。
 しかし、その動きを見越していたサクノとライチュウは、すでに新たな攻撃を構えていた。
 尻尾が電気で刃物のように鋭く精錬されていく。

「……!」

「レディ、『Sander Slice』!!」

 バシャーモに向かって突きつける。
 だが、一歩踏み出して、ライチュウに接近する。
 刃の部分を触らずに根元の尻尾の部分を掴んでしまう。

「!!」

「たたきつけろ」

 ズドォンッ!!

 思いっきり岩の地面にたたきつけられた。

「レディ!『10万ボルト』!!」

「もう一回だ!」

 バリバリバリッ!!!! ガガガガガッ!!!!
 
 電撃が命中し、その影響でバシャーモは尻尾から手を放してしまった。
 ライチュウは顔を地面で削るように飛ばされていった。

「クックック……」

 シファーは嘲り笑う。
 隣にはまだ擦り傷ほどしかダメージの負っていないバシャーモが並んでいる。

「誇り高き女教皇<アキュナインレディ>とか呼ばれても、所詮女子供。この闇の力に精通した私に勝てるわけがない」

「…………」

「はっきり言って、実力がこんなものだったとは……失望した。もういいから消え―――」

 ドガガガッ!!

「むぅっ!?」

 バシャーモがよろける。
 先手に出したライチュウの電光攻撃である。

「それなら……この一撃を受けてみる!?」

 ライチュウは右手につけていた小手のような黄色いプレートを取り外して真上に投げた。
 このアイテムはいかずちプレートという電気技の威力を高めるための道具である。
 そのアイテムが落ちてくる間に、ライチュウは拳に電気を一点集中させた。

「レディ……」

 ライチュウの目線といかずちプレートとバシャーモが一直線に結ばれる。
 その刹那、

「……Smash!!」

 懇親のかみなりパンチでいかずちプレートを打ち抜いた。
 すると、信じられないほどの密度の超高エネルギーの電気がバシャーモに向かっていった。
 シファーの顔から余裕が消えた。

「バシャーモ!『ダークインパルス』!!!!」

 チュドォォォォォォ――――――――――――――――――ンッ!!!!

 凄まじい爆発がフロア全体に巻き起こった。

「…………」

 サクノは黙って、状況の行く末を守っている。
 その隣でライチュウが息を吐く。
 バシャーモによる打撃攻撃は、間違いなくライチュウの体力を奪っている。

「(この一撃で決まっていなければ…………)」

「クックック……」

「…………」

 薄ら笑いと共にシファーが傷だらけのバシャーモと共に現れた。

「な、なんやて……?サクノはんのライチュウの『Railgun』を受けても、倒れないやと!?」

「正直、危なかったぞ。これが、必殺技の『Railgun』か。ユニークで威力のある攻撃だった」

 バシャーモがダークファイヤーを構える。

「……あの攻撃を防がれるのは、予想外だわ……」

 サクノとライチュウも構えるが、正直、ライチュウでもう勝負になるとは思えなかった。
 少なくとも、ビリーはそう思った。

「これで終わりだ」



「そうだね。これでおしまいにしよう」



 突然、謎の男の声がこのフロアに響いた。

「誰だ!?」

 シファーの驚く声に、全員が謎の男のほうを見る。
 そこに居るのは、小汚い白衣を着た赤い髪で優しそうな表情をした30代後半かそこらに見える男性だった。
 ただし、かなり眠そうにしている。

「新たな敵?」

 ビリーも警戒する。
 しかし、一人だけは首をかしげていた。

「あの人……どこかで見たことある気がする」

「……え。サクノはん、それほんま?」

 その男性はシファーと対峙した。

「調査しようと思ったら、地響きが聞こえて、何事かと思っていたらこんなことだったんだね」

「貴様も私の伝説のポケモンの捕獲を邪魔する気か?」

「……伝説のポケモン? まさか、ウルガモスのことを言っているわけじゃないよね?」

「そんなポケモンではない!イッシュ地方に眠るといわれている電気の竜、ゼクロムのことだ!」

「それなら、ここには居ないよ……ふぁぁぁ……」

 あくびをしながら男性は言う。
 その言葉に、シファーは唖然とする。

「な、何故そんなことが……」

「数十年前に、そんな騒動がここであって、そのときにゼクロムも、そして対を成すレシラムもどこかに消えたって言うし」

「そんな……はずが……あるかーっ!!」

 シファーは怒って、バシャーモで突進してくる。

「『ダークインパルス』!!」

「戦う気はないんだけどなぁ……」

 といって、男性がポケモンを繰り出す。

 ドガッ! ドガッ! ドガッ! ドガッ! ドガッ! ドガッ! ドガッ!

「……は?」

 ダークインパルスという正体不明のダーク技を、白いオーラが纏った7回のドラゴンクローが打ち消した。
 そして、そのままバシャーモに叩き込んで、あっという間に倒してしまった。
 シファーは唇を噛み締めた。

「打撃技が自慢か!?なら、ゴローニャ!」

「戻って、ガブリアス」

「やれっ!!『ダーク……」

 ガチンッ!!

「シファーって言ったよね。確か、30年前、行方不明になっていたんだよね。一体何があったのかな」

 ゴローニャをトレーナーのシファーごと凍り付けにしてしまった。

「が……はっ……ヤミ……の……チカラ……が……何故……マケル……?」

「……え?」

 シュワシュワとシファーの身体が粒子となって消えていってしまった。
 残ったものは何もなかったという。

 サクノたちが苦戦したシファーという男を謎の研究員があっという間に倒してしまったのだ。

「君達、大丈夫?」

「お、おおきに」

 ビリーとサクノはその男性にお礼を言った。

「ガブリアスにグレイシア……そうか、あなたはエビス博士ね?」

「ふぁ?そうだけど……?」

 自分のことを呼ばれて、目が点になる。

「ううん……あー!?エビス博士!?」

 カナタも今目を覚まして、エビス博士を指差す。

「ふぇ?一体なんなの?」

「ハレおじさんのお父さんだったよな!」

「……ん?ハレを知っているの?」

 そこから、何だかんだで世間話が始まったのだった。










「ここから北へ行けば、ライモンシティだよ」

 エビス博士は、サクノたちを次の町に行きやすいところまで案内してくれた。

「おおきに」

「ありがとな!」

「ありがとうございます」

 気軽にお礼を言うカナタとビリー。
 そして、丁寧にお辞儀をするサクノ。
 エビス博士は、研究の為に古代の城へと戻っていった。

「エビス博士……思っていた以上にやさしい人だったわね。面白い話もたくさん聞けたし」

「正直、もっと抜けた人かと思っていたけど、そうでもなかったみたいだな」

 カナタは笑いながら、ビリーの隣を歩いている。

「しっかし、あのエビス博士って、デタラメな強さやな。何者なんや?」

 サクノが優しい声で言う。

「あの人は、元々ポケモンマスターなの。そして、世界を救った人なの」

 へぇと2人は頷く。

「それにしても、サクノはん、危ないところを助けてくれておおきにな」

「いいえ、2人が無事で何よりよ」

「ほんと、お姉様がいてくれて助かったぜ。ビリーなんかまったく役に立たなくてさ…………って、何?」

 2人が驚いたように自分の顔を見ていることに気付いた。

「ついに、カナタ、俺のことを名前で呼んでくれる様になったんだな!」

「……っ!!」

 カナタははっとして、顔を赤くした。

「う、うるせぇ!」

「やっぱ、カナタ、俺に惚れたな?でも、俺にはサクノはんが……」

「お前はどっか**っ!!」

 カナタのビリーに対する暴走が始まったのだった。

「よかったわ。私もこれで安心ね」

 うんうんと、サクノはよくわからない安心の仕方をするのだった。










 ……ところで……










「ムニャムニャ……ママ、もう少しだけ……寝かせ……てよ……」

 砂の上で自分の妻が起こす夢を見ているのか、エビス博士は困ったようや表情で眠っていたという。

 つーか、はたして、調査はしなくてよいのだろうか……?










 第1話完


HIRO´´ 2011年06月07日 (火) 07時36分(19)
題名:第2話 P50 夏@

 ―――カナタ。

 10歳で160センチを超える身長に男の子のような言葉遣いをする同世代と比べたら大人びた少女。

 ―――ビリー。

 10代後半で紫のロングヘアの見た目軽そうで、やっぱり中身も軽くエセコガネ弁を使う少年。

 ―――サクノ。

 自分の体の1まわり以上大きいバイクを乗り回すミッドブルーのアップポニーテールを赤い紐でリボンのように束ねる14歳の美少女。
 そして、“誇り高き女教皇<アキャナインレディ>”という異名が付けられている美女。

 その三人は現在、イッシュ地方の古代の城を脱出し、北へと向かっていた。
 向かう町はライモンシティ。

 さて、彼女たちは一体どこから来てどこへ向かおうとしているのか。
 何故、イッシュ地方を冒険しているのか。

 3人が出会う話を語らねばなるまい。

 ―――時は少々遡る。










 第2話 P50 夏@










 一台の中古バイクに乗った人影がある。
 一口に中古バイクと言ってもいろいろあるが、このバイクは小型……いや、せいぜいあっても中型の大きさであろう。
 でもって、相当古いものらしく、あちこちにガタが来ていた。
 特にエンジンの音が酷かった。

 そのバイクはスピードを緩めつつ、とある町の中に入っていく。
 整備された町並みを通り抜け、そのライダーはある店の前で止まった。

「やっと到着したわ」

 ヘルメットを被ったまま、その人影は呟く。
 その店の看板には、

“ショップ・GIA・オートンシティ本支店”

 と、色鮮やかにデザインされていた。
 この看板はカントー地方にある有名なデザイン会社が作ったものなのだという。

 その人影はヘルメットを外して、座席に置いたのだった。





「さぁ〜今日もがんばりましょーよー♪」

 埃を掃除するための叩きを持った赤毛のクルクルロール頭の女の子が上機嫌で回りながら、そこらじゅうをはたきまくる。
 この女の子の特徴的なのは、クロワッサンを形作るような2つのクルクル髪の毛に加え、瞳がいつも潤んでいた。
 別に悲しいわけでもないのに、彼女の目が潤んでいるのは、性質上なのだろう。
 そんな女の子の様子を見て、30過ぎの痩せた男、40代の恰幅の良さそうなおばちゃん、20半ばのマニアっぽい男性、20後半の結婚したてで幸せそうな男性……計4人の従業員は微笑ましい表情になる。
 しかし、

 バキッ

「にゃあ!?痛いぃーよー……」

 クロワッサンの女の子は叩きを落として、頭を抱えた。
 後ろにいるのは、黄色いクセっ毛のグレーのダウンベストを着用した割とカッコいい方の男の子だった。
 年齢は、その女の子よりも1歳くらい年上のようだ。

「ミーシャ、パタパタ掃除して埃を立てるな。機械が傷んだらどうする」

 クールかつ押し殺したように、その男の子はミーシャというツインクロワッサンの女の子に向かって言う。

「うぅぅ……スパナで殴らないでーよー」

 地面に落とした叩きを再び掴み、上目遣いでミーシャは、パタパタと攻勢に転じる。
 いつも潤んでいる瞳が余計に潤み、一滴の涙となって落ちる。
 その様子を見て、怯まない男などいない。

 ガンッ

「あうぅー」

 しかし、例外は存在する。

「何度言わす。埃を立てるなと言ったはずだ」

「だってーよー」

「だってもクソもない」

 ガンッ

 そういって、男の子は数度ミーシャの頭を金属製のスパナで小突く。

「泣いて許されると思うのか。それなら、泣け。もっと泣け。泣けよ、オラッ」

 そんなやり取りが店内でなされているが、他の4名の従業員は特に何事もないかのように自分の仕事に従事する。
 別に彼らが薄情なわけではない。
 こんなのは日常茶飯事のことなのである。
 ゆえに、結果はどうなるか、彼らは知っている。

「アルク、いい加減にしろ」

「……またか。カナタ」

 後ろに軽く振りかぶったスパナを持った右手を掴まれて、少年のアルクは動きを止める。
 10歳にして160センチの少女は、145くらいの男の子を軽く止める。

「またかはこっちのセリフだろ。いつもいつもアルクはミーシャを苛めて楽しいのか?」

 と、カナタは自分より1歳くらい年下の男の子に向かってそう告げる。
 すなわち、アルクは9歳くらいなのだという。

「楽しいに決まっている。前にも言っただろ。ミーシャを苛めると楽しい。なんか、心の奥がゾクゾクすると」

「ミーシャ、お前もなんでそんなに無抵抗に殴られるんだ?もっと仕返ししろよ!」

「あ、え? …………。 そうなんだけど……」

 心なしかミーシャは瞳を潤ませながら、何故か不満そうだ。

「…………。わけがわからないし」

 やれやれとカナタはため息をついた。

「私がいなくなったら、お前たちはどんな風になるんだろうな」

 この先が思いやられるとカナタは呟いた。

 すると、自動ドアが開いた。
 同時にいらっしゃいませーと30代の痩せた男性が挨拶をする。
 入ってきたのは、中型のバイクを引いたミッドブルーのアップポニーテールの女の子だった。
 その時、弾かれたように、2人がその客に駆け寄った。

「お姉ちゃん!」

「サクノお姉様!!」

 ミーシャとカナタだ。

「元気そうね、カナタ、ミーシャ」

「お姉さまも何よりだ!」

 そして、3人は雑談を始める。
 その様子を見て、アルクは何か不満そうだ。

「アルク、どうしたの?」

「別に」

 サクノが優しく話しかけても、アルクはそっぽを向く。
 首を傾げるサクノ。

「元気出してーよー」

「…………」

 バキッ

 元気付けてくれたはずのミーシャをアルクはやっぱりスパナで小突く。

「にゃあー」

「アルクっ!!」

 しかし、カナタの怒鳴り声にも動揺しない。

「こっちに来い、ミーシャ」

「にゃあー!?何するのーよー?」

 そうして、アルクとミーシャの二人は店内のスタッフプライベートルームへと消えていった。
 何故か、ミーシャは引っ張られながらもどこか嬉しそうな表情をしていたという。

「ところで、お姉様はどんな要件で来たんだ?」

「ちょっと、このバイクを直して欲しくてね」

「それなら、お安い御用ってヤツだ!」

 カナタは自分の胸をトンッと叩く。

 ショップ・GIAはここ数年で、規模を拡大させていた。
 その規模というのは、オートンシティを中心にノースト地方にいくつかの支店を作ったのだ。
 本店というのが、ここオートンシティなのである。

「あ」

 数分くらいして2人の入れ替わりに店内に姿を現した女性が居た。
 30代半ばに差し掛かるこの人は、女性としての魅力がたっぷりと詰まった人だった。
 特に足の脚線美とムチムチとした太腿は、男の目を釘付けにすること間違いない。
 バストだって、あんぱんを詰める位じゃ真似できない大きさを持っていた。

「サクノちゃんじゃない。久しぶりね!」

 すると、他の従業員は「社長、おはようございます」と言って頭を下げた。

「お久しぶりです、カズミさん」

 丁寧にサクノはお辞儀で返す。
 そのサクノの様子を見て、熟女といっても過言ではないカズミはカナタを見て、それから、ポンッと左手の平手を右手で叩く。

「いいところに来たわね。あなたにお願いしようかしら」

「……え?何をですか?」

「ちょっとついてらっしゃい」

 そういって、サクノを手招きする。
 それにならって、サクノはカズミについていったのだった。
 その2人を見送りつつ、カナタは言う。

「母さん、お姉様に何の話があるんだ?」

 カナタが首を傾げた時だった。



 ドゴォ――――――ンッ!!!!



「……!? 何だ!?」

 唐突に店の壁が破壊された。
 そして、数人の怪しい人影が雪崩れこんで来たのだった。





「実は、ウチの娘……カナタと一緒に旅をして欲しいのよ」

 ふーぅっと煙を吐きながら、カズミはトントンッと右手で燃えカスを落とす。
 彼女が吸っているのは、少し価格が高めの『ウィザードスモーク』という、癖のある煙草だった。

「最近になって、カナタにポケモンを持たせるようになって、従業員の人にバトルの仕方を教えてもらっているけど、強くなるには旅をさせるのがいいかなって思ったのよ」

「私がカナタと一緒に旅を?」

「ダメかしら?」

「ダメではないですけど、私なんかでいいんですか?」

「なあに謙遜しているのよ」

 カズミは妖しく笑う。

「あなたほどウチの娘を任せられる人なんて他にいないわよ」

 ふと、カズミの顔にかげりができて、ポツリという。

「きっと……“あの人”だって、そう言う筈だもの……」

「…………」

 サクノは知っていた。
 カズミの夫はもうすでに死んでいるということを。
 5年くらい前のある日、ショップ・GIAにお菓子が届けられていた。
 それは高級そうなお菓子で、丁寧に包装されていた。
 しかし、その中には猛毒が入っていた。
 従業員は、誰かが持ってきたのだと思い、不審に思わなかった。
 そこへ、たまたま旅から帰ってきたカズミの夫は猛毒のお菓子を食べてしまったのだ。
 そして、苦しみながら、彼は命を断った。

 ショップ・GIAの社長である自分を狙ったものであることは間違いないと当時、カズミは考えていた。
 それだけに、夫が自分のせいで死んで、心を痛めていた。

 でも、彼女は立ち上がった。
 悲しみに負けはしないと自分に言い聞かせながら。

「だから、いいかしら?もし、受けてくれるなら、いいものをプレゼントするわ」

「いいもの?」

「ええ」

 笑顔で答えると、ゴソゴソとディスクからひとつの鍵を取り出した。
 それは、新品のキーだった。

「それは、なんの鍵ですか?」

「ついてらっしゃい」

 部屋から出ようと、2人は扉に近づいていく。
 すると、

 ドガッ!!

「……!」

「うん?」

 素早い動きでこの社長室に入って来た者が居た。
 人影は2つに分かれた。
 1つはカズミの背後に。
 もう1つはサクノの背後に。
 カズミの背後に付いた女は、肩に乗せているゼニガメで『冷凍ビーム』の急襲を行った。
 隙の無い攻撃であったが、カズミとゼニガメの間に一匹のポケモンが割り込む。
 片手で冷凍ビームを弾くと、拳を握り締めて反撃に出た。
 ゼニガメがトレーナーを守るように前に出る。

 ドゴッ!!

 しかし、一発のパンチでゼニガメは床へと叩きつけられた。

「……さすが……裏で情報を束ね、あらゆる組織を壊滅させているショップ・GIAの社長ね。一筋縄ではいかないか」

 動きやすそうな感じだが、闇にまぎれることを特化した色合いの服を来た釣り目の女が舌打ちしながら、カズミのゴウカザルと距離をとる。

「……だが、これでどうよ?」

 釣り目の女が後ろを見るように促す。
 カズミは顔を向けずに視線だけそちらの方に向ける。

「……動くな。じっとしてろよ」

 同じく侵入してきたタレ目の男がサクノの首をホールドして、ナイフを突きつけていた。

「この子供の命が惜しくば、大人しく捕縛されるんだな。また、私の仲間が今店内を襲撃している。妙な助けは期待しないことね」

 どうやら、釣り目の女がリーダーらしく、えらそうな口ぶりで言い放った。

「ショップ・GIAを邪魔だと思っている組織かしら?」

「答える義務はない」

「そうね……“南十字星<サザンクロス>”ってところかしら?」

「……! こ、答える義務はない!」

「どうやら、図星のようね」

 クスリとカズミは妖しく笑う。
 その表情に、釣り目の女はピクリと額をヒクつかせる。

「あんた……身動きがとれず、人質が取られている段階で、どうして余裕なのよ?ちょっとは、この危機的状況を恐れなさい!」

 カズミの冷静ぶりに少し畏怖を感じたがすぐに怒りへと変換される。

「人質? あんた、本当に人質をとったつもりでいるわけなの?」

「どういう意味よ?」

「そうだ、どういう意味だ」

 タレ目の男がナイフに力を入れて、言葉を発する。

「俺がこうやって、ナイフを握ってこの子供の首を絞めている限り、社長のあんたは何も出来ない!そしてこの子供も捕まった時から悲鳴も出せずに恐怖している。こんな状況で……」



「誰が恐怖しているの?」



「へ?」

 タレ目の男のすぐ下から、乾いたクールな声が飛んできた。
 男はまさか自分が捕まえている女の子の声だと思えなかった。
 それくらい、落ち着いた声だったのだ。

 サッ

「うはっ!?」

 軽く首を横に振って彼女は自分のポニーテールを揺らす。
 すると、その髪の毛が男の鼻や目に触れる。
 気が削がれて、タレ目男は少し腕を緩める。

 グギッ!!

「っ……!!!! ……っ!!!!」

 さらにサクノは隙が生じた足元を思いっきり踏みつける。
 通常なら、ダンッ!という音だっただろうが、まるで骨が砕けた様な音までしたようだった。
 タレ目の男は声も出せずに悶絶して足を押さえようとする。

「っあぁぁぁぁっ!!!!」

 奇妙な掛け声を共に、サクノは左拳を握り締め、その場で1回転して、手の甲でタレ目の男の頬を殴り飛ばした。
 タレ目の男は頭をガンッと叩きつけられて、悶絶した。

 この一連の動きは3秒ほどの出来事だった。
 たった3秒で、サクノは拘束された状態から、あっという間に男を撃破してしまった。
 ポケモンの力を借りずに。

「この子供……只者じゃないわね!?」

 釣り目の女はカメックスを繰り出した。

「先に言っておくね」

 サクノはライチュウを繰り出していた。

「無駄な抵抗は止めて大人しくしなさい。さもなくば、ケガじゃ済まないわよ!!」

 ライチュウは右手についている小手を軽く上へ投げる。

「子供は引っ込んでなさい!『泥大砲』!!」

 カメックスの背中の砲台から繰り出されるのは、水流じゃなくて、泥の塊だった。
 どうやら、泥遊びを応用した技のようだった。
 直径1メートルの泥の砲弾が2個も飛んでくる。

「レディ……Smash!!」

 拳に溜めた電撃が、いかづちのプレートに伝わり、超密度の電撃のレーザーとなってカメックスに向かう。

「……!!!!」

 泥の大砲が呆気なくその電撃のエネルギーでかき消された。
 サクノのライチュウの最大の一撃である必殺技『Railgun』だ。

 必殺技を受けたカメックスは一撃で地面に伏せた。

「くっ……まさか……こんなことに……パルシェン、『大爆発』」

 社長室のど真ん中で、建物を破壊せんとする一撃を放とうとする。

「止められるものなら、止めてみなさい!!」

 そして、釣り目の女は社長室を窓から脱出した。

 その部屋から、爆発の音が鳴り響いたという。





 その20分後のことである。

「まさか……あの子供が……巷で噂になっている……誇り高き女教皇<アキュナインレディ>とは……」

 釣り目の女は、ショップ・GIAの修繕ルームで縄でグルグル巻きにされて捕縛されていた。
 いや、釣り目の女だけでなく、タレ目の男も、そして、店内に襲撃してきた者たちもだった。

“この店に強盗を企もうとは愚かなやつらだ”

“社長ほどじゃないけど、あたしらだってそう簡単には負けないわよ”

 従業員達がそう呟く。
 従業員は彼らをただの強盗だと思っていた。
 ショップ・GIAの裏の行動を知っているわけじゃなかった。





 ―――同時刻、ショップ・GIAの庭。

「さすがお姉様!」

「サクノさん、尊敬しますーよー!」

 この場に居合わせているのは、ショップ・GIAの裏の事情を知っている者たちである。

「パルシェンの大爆発をファイの『Veil』で無効化できたのが幸いだったわね」

 そういって、サクノは羨望のまなざしを向けてくるカナタとミーシャに苦笑いしながら答えた。
 ファイと呼ばれたポケモンは、サクノの隣で居眠りをしている。
 ふわふわとした翼を持ったドラゴンポケモンのチルタリスだ。

「…………」

 アルクはじっとサクノを横目で見てふてくされている感じだ。

「とりあえず、サクノ、手伝ってくれてありがとね。私たちだけでも何とかなったけど、これほど速く片付いたのはあなたのおかげね」

 と、片手で煙草を吸いながら、サクノに礼を言うカズミ。

「それで、あの釣り目の女を追いかけるときに使った“それ”はどうかしら?」

「ええ」

 サクノはブォ―――ンッと“それ”を鳴らす。

「全然問題ないです。これ、本当に使っていいんですか?」

 さっきから“それ”だの“これ”呼ばわりされているのは、今までサクノが乗っていた中古バイクとは一回り以上大きい大型のバイクだ。
 相当の馬力があり、スピードが出ると思われる。

「もちろんよ。30年間ほったらかしにされていたものを最近になって倉庫から引っ張り出したものなのよ。所有者ももう居ないし、店内に飾っておくより、乗ってもらった方がバイクも喜ぶわよ」

「……♪」

 すると、サクノの目が若干輝いた。
 単純に言えば嬉しそうだった。

「そういうわけで、カナタ。あんたはサクノと一緒に旅に出なさい」

「え?」

「イヤなの?」

 カナタは首を横に振った。

「いきなりだったからビックリしただけだ!……というか、お姉様、いいの!?」

「もちろんよ。私がちゃんとついていくから!」

 サクノはカナタの目を見て力強くうなづ……いていなかった。

 彼女の興味はバイクをどう乗り回そうかとしか考えていないようだった。

「まー、カナタ。しっかりサクノのお姉ちゃんの言うことを聞いてがんばるのよ!」










 ノースト地方のオートンシティ。

 この場所でカズミの実の娘であるカナタは、お姉様と慕うサクノと一緒に旅に出る。

 ショップ・GIAの従業員は、皆、手を振って、二人を温かく見送ったのだった。










 ……さて……










「いつまで泣いているんだ?オラ、オラッ」

「にゃぁっー!もう、泣いてないーよぉー」

 1時間後にショップ・GIAは、襲撃の後片付けを済ませて開店していた。
 ただ、そのくらいの時間が経っても、相変わらずミーシャは涙目だった。
 そのことに不服だったアルクはやはり、ミーシャの頭をスパナで小突く。

「泣いているだろ?そんなに泣きたいなら、もっと泣かせてやる。オラ、オラッ!」

 にゃーと、可愛い鳴き声が店内にこだまする。
 アレはあれで問題ないと、従業員は呆れたように見守っている。



「オイ、アルク。一体何やってんだ?」



 その一言にびくりとアルクは体を強張らせる。
 声を聞いてアルクはギリギリと恐る恐る後ろを振り向いていく。
 そこには、身長が150センチ台の男性の姿があった。
 スーツにネクタイの大分偉そうな人だった。
 いや、偉そうではなく、実際に偉かった。
 近くの従業員は、ポツリと「あ、ジョウチュ支点の支店長……」と呟いていた。

「な、何って、お父さん……」

「いつから母さんのような辛辣でサディスティックな行動を取るようになったんだ?」

「……どうせ、離婚したんだから、母さんとか関係ないだろ……」

 その言葉にジョウチュシティの支店長は拳を振りかざして、ロクデモナイ息子に拳をたたきつけたのだった。

「あー、トルク、やっと来たわね!……って、相変わらずの厳しい躾ね」

 カズミは苦笑いを浮かべながら、ジョウチュシティの支店長に声をかけたのだった。










 第2話完










 ☆モブキャラ紹介

 アルク♂

 ショップ・GIAの居候。9歳。
 機械いじりが大好きで、そして、ミーシャを苛めるのも大好き。
 ミーシャが自分以外のものに興味を奪われるとちょっとふてくされるようだ。
 父親はショップ・GIAジョウチュ支店の支店長トルク。
 ちなみに、母親はブルースシティの支店長をしているらしい。

 ミーシャ♀

 ショップ・GIAの居候・8歳。
 6歳の時にカントー地方の森でサクノに助けられて、サクノに身を捧げると誓った純情少女。
 いつも涙目で、痛いという感覚が好きなヘンタイでもある。

 南十字星<サザンクロス>(組織名)

 陰に潜む少数組織の1つ。
 8人の精鋭で行動する。
 だが、今回のショップ・GIA襲撃失敗で壊滅した。


HIRO´´ 2011年06月07日 (火) 07時38分(20)
題名:第3話 P50 夏A

 ☆前回のレジェンドオブパラダイスΙのお話

 稀代の美少女サクノはオートンシティのショップ・GIAを訪れた。
 そこでは数人の従業員達と社長のカズミ(ラグナに拾われ、ショップ・GIAに育てられ、世界を冒険し、天照<てんしょう>のカズミとまで言われるまで有名になった大人の女性―――テールデュ、オメガ、UD参照)がいた。
 南十字星<サザンクロス>と言う組織が襲い掛かってきたが、楽に返り討ちにし、サクノはカズミの娘であるカナタを仲間にし、モンスターバイクを手に入れて旅立ったのだった。










 第3話 P50夏A










「うぅぅ……寒い……」

 ガチガチと歯を鳴らせるのは、ラフな水色のハーフパンツに上半身もラフで大き目のTシャツを着用している少女。
 そんな少女は、思いっきり腕を回してもう一人の少女に回して抱きついていた。
 抱きついてといっても、背中にピッタリとくっ付いている感じであり、それはバイクから落ちないようにするためである。

「ええ……そうね。流石に辛いわね」

 スピードを緩めながら、大型のバイクは停止する。
 ヘルメットを取り、ライダーの美少女は空を仰ぎ、さらに周りを見る。
 あたりは真っ白だった。
 それが彼女らが感じる寒さの要因であった。










 第3話 P50“夏<SUMMER>”A









「ってか、二回もタイトルを繰り返すなっ!!」

 カナタがむなしく作者に向かってツッコミを入れる。
 だが、それは作者に挑戦するという無謀な行為であり、傍から見れば、誰もいないところに向かって叫んでいる怪しい人だった。

「どうしたの、カナタ?」

「え?いや、何でもないです、オネエサマ……」

「具合が悪いの?」

 と、サクノは心配そうにカナタの頭を触る。

「ひゃっ!つめたっ!!」

 カナタは目をバッテンにさせて頓狂をあげる。

「うーん。大丈夫のようね、よかった」

 本当に心配していたようで、サクノはホッと息をつく。
 優しいなぁ、とカナタはサクノを改めて尊敬する。

「ダメね。これ以上はバイクでは進めないようね。歩いて行きましょう」

 カズミから貰った大型バイクから降り、ゆっくりと引き始めるサクノ。
 カナタも頷いて、後部席から降りて、サクノの隣を歩き始めたのだった。










 だいさんわ ぴーすごじゅうねん さまーまるに










「だから、今がP50<ピース50年>だということはわかったし、夏だということはわかったから!!」

 カナタがツッコミを入れたとおり、現在は夏の真っ只中である。
 しかし、彼女らが居るのは雪が降り注ぐ雪原のど真ん中だった。
 ここはノースト地方であり、雪が降る地域である。
 だが、夏に雪が降るほど寒い土地ではない。
 せいぜい、雪が降るとしても季節が冬になってからである。

―――「オートンシティと港のジョウチュシティの途中で、今、異常気象が起こっているの」―――

 カナタはふと母の言葉を思い出す。

―――「異常気象とは言うけど、多分、野生のポケモンの影響だと思うから、そんなに気にしないことね」―――

 「そんなことで時間はとりたくないし」と色気を帯びた母は笑いながらそういい放っていた。
 ゆえに彼女の母も東で何が起きているか、完全に把握しているわけではなかった。

「いったい、この場所に、何がいるって言うんだ?」

「想像もつかないわね」

 そういって、2人は歩き続ける。



 ―――1時間後。



「……っ!! 吹雪がよりいっそう強くなっている気が……」

「もしかしたら、この吹雪の元凶が近いのかも―――」

 ドゴゴゴゴッ!!!!

 サクノの言葉が続かず、地面が大きく揺れ動く。
 なっ、くっ、と二人が息をつく中、“それ”は地面の中から現れる。

 ゴォォォォォッ!!!!

 圧倒的な威圧感に体長3メートルの体。
 極低温の冷気を発し、辺りを凍らせようと凍らせようとしていた。

「なんだ、このポケモン!?」

 カナタは今まで見たことのないポケモンを目にして、ごくりと生唾を飲み込む。

「(天候まで変えてしまう影響力や威圧感から考えて、フリーザーやレジアイスなどの伝説の氷ポケモンと思ったけど……どうやらそれ以上の存在みたいね)」

 サクノはチルタリスを繰り出していた。
 すると、チルタリスはカナタの首根っこを口で咥えて自分の羽の上に乗せた。
 羽毛のような柔らかい羽があるために、その中はとりあえず、外よりは温かかった。

「サクノお姉様!?」

「ファイ、カナタを守ってあげてね」

 キューイ!と、チルタリスは体をちぢこませながら頷いた。
 羽毛が温かいとはいえ、流石にドラゴンタイプが冷気に弱いということはカバーできなかった。
 ギロッとその威厳のある氷ポケモンはサクノを睨んだ。

 しかし、サクノは怯える様子はない。
 退く様子もない。
 相手をただじっと見ていた。
 ブォッと凄まじい冷気が襲い掛かろうとも、彼女の身辺で揺れ動くのは、豪雪と彼女のミッドブルーのポニーテールだけだった。

 サクノも見たこともないこのポケモン、名前はキュレムと言う。

「(もしかして……)」

 サクノが何かを察知したその瞬間、キュレムは勢いよく氷の礫を吐き出した。
 しかし、サクノの出したポケモンが氷の礫を真っ二つに斬る。
 出てきたのは貴重な骨の剣を持ったルカリオだ。
 続けざまに3連続で氷の礫を吐き出してくる。
 それさえも『ボーンラッシュ』で振り払っていく。
 だが、氷の礫を防御したところで、ルカリオは相手に接近していることに気付いた。
 すでに鋭い爪がルカリオを狙っている。

「エンプ!」

 ブォンッとエンジンを吹かして、サクノはルカリオの手を取って、一気にバイクを走らす。
 キュレムの爪『ドラゴンクロー』は空を切るが、続けざまに氷の礫を吐き出してくる。

「(雪でハンドルがとられる……!!)」

 滑りながらの運転に、ハンドルを取られ、中々機敏に動けない。
 とはいえ、ギリギリに氷の礫をかわしてく。
 と、その時、キュレムは片方の腕で地面を揺らした。
 地響きにサクノの乗っていた大型バイクは転倒する。
 サクノはゴロゴロと転がって受身を成功させて、指示を出す。

「エンプ、『波動弾』!!」

 手から生じる波動の塊を打ち出するルカリオ。
 顔に一撃が当たり、キュレムは一瞬だけ動きが止まった。
 さらに、

「『気合玉』!!」

 闘の極大なエネルギー弾をキュレムの腹に打ち込む。
 それが爆発し、一瞬だけ体が持ち上がるが、すぐにズドンと足を突くキュレム。

「……これでは威力が足りないようね……」

 ポツリと呟くサクノに対して、キュレムは完全に怒った。
 強力な氷のブレスをサクノ目掛けて放って来た。

「……っ!!エンプ、防いで!『竜の波動』!!」

 力は互角と思いきや、『氷の息吹』が『竜の波動』の一番脆い部分、すなわち死角を突いて、押しのけてくる。

 ボフ―――ンッ!!!!

 ルカリオとサクノに当たったかは不明だが、確かに大きな爆発が起きて、積雪が舞い上がった。
 キュレムは大きく息を吐きながら、ゆっくりと口を緩める。

 ビシッ

 キュレムはふと、自分の頬が傷つけられたことに気が付いた。

 ビシッ ビシッ ビシッ

 それがいくつもいくつも体に小さい傷を作っていく。

「『Cyclone Slash』」

 ビビビビビッ!!!!

 キュレムを翻弄する何かが、ダメージを蓄積させた。
 どんなポケモンが攻撃しているか、キュレムにはわからなかった。
 ただ、そのポケモンはもうこの場にはおらず、新たなポケモンがサクノの隣にいた。
 そのサクノの新たに繰り出したポケモンは、キュレムの冷気にまったく影響されていなかった。
 むしろ、サクノの周りの雪をあっという間に溶かしていた。

「さぁ、あなたの一撃で決めるわよ」

 頷くのはサクノに忠実で誇り高きポケモン。
 立派な鬣を携えて、その最強のポケモンが、炎を纏い突撃した。

「アンジュ―――」

 そして、その速度はキュレムには見えなかった。
 何せ、そのポケモンは先ほどのスピードを『バトンタッチ』で受け継いでいたのだから。

「―――『Flare Drive』!!」

 速度と破壊力。
 その二つでアンジュ……ウインディはキュレムの顎から体を目掛けてタックルを繰り出した。
 ウインディの一撃でキュレムは仰向けにひっくり返った。

 すると、雪はゆっくりと止んでいく。

「お姉様!!」

 チルタリスとカナタがいそいそとサクノに近づいていく。
 しかし、サクノはキュレムに走って近づいていった。

「危ないってば!」

 しかし、ひっくり返ったキュレムの足を見て、ルカリオを繰り出すと、その足から何かを引っこ抜いた。
 ギャァァァッ!!とキュレムは呻くが、すぐに声は収まった。

「“これ”のせいね」

「これは……」

 それは欠けた日本刀の破片だった。

「これがこのポケモンの足に刺さっていたということは……」

「どこかで踏みつけてそれで暴れてここまで来たということね」

 「もう大丈夫よ」とサクノはルカリオに『癒しの波動』を指示する。
 そして、キュレムは体力を回復させていった。

「(凄い……私が見ても明らかに伝説級のポケモンだとわかるポケモンに臆せずに戦いを挑み、さらに暴れる原因まで突き止めてしまうお姉様……なんて人だ……)」

 カナタは、サクノの実力を改めて知り、羨望の眼差しを送ったのだった。










 第3話 P50 夏A










「いや、しつけぇ!!今までの展開で雪が振っていようが季節が夏だってことはわかっているだろうが!」

「カナタ?雪なんてどこで降っているというの?」

「え……?あ……」

 サンサンと照りつける太陽の下。
 サクノとカナタは船の上にいた。
 この船の名前はタイヤキック号という。

 何でもこの船の名前は、タイタ○ック号を再現したものだとか、鯛焼き好きな富豪が作っただとか、タイヤにキックするのが趣味の船長が乗っているとか、そんな噂のある船である。

「いや、いくらなんでもそんな噂は全部ウソだろ」

「いいえ、全部本当みたいよ。このタイヤキック号の船の成り立ちを見て」

「……ゲッ!?本当なのかよ!?」

 サクノが指差した先にあるのは、タイヤキック号の年表だった。

「……本当だとしても、せめて、沈没だけはして欲しくないもんだぜ……」

 冷汗を浮かべながら、カナタは呟く。





 とりあえず、カナタは周りにいるトレーナーとポケモンバトルをすることにした。
 実はこの船の上でのバトルが、カナタにとって旅立って初めてのポケモンバトルだった。
 それまでは、ショップ・GIAの従業員に軽く付き合ってもらった程度である。
 もちろん、一度も勝てたことはない。
 そのことをサクノは知って、オートンシティからジョウチュシティの港から出航したタイヤキック号に乗るまで、優しく丁寧にポケモンバトルをレクチャーしてあげた。

 すると……

“う……ウソでしょ!?なんでこの私が……初心者トレーナーに負けるの……!?”

 10代ギリギリに見えるお嬢様風の女性(もしかしたら20代後半かも)は、自慢のクチートを倒されて跪いていた。
 そして、その倒した相手はガッツポーズを取っている。

「よっし!これで10連勝だぜ!」

 一緒に戦っていた8戦目で進化したニョロゾとハイタッチをする。

“オイ、あの女の子、10歳にして、しかも初心者トレーナーで、初めてのバトルで10連勝だとよ?”

“うっそー!?信じられないわ!”

“信じるも何も、この俺は最初から見ていたぞ!あの少女が戦うところを”

“マジヤバー!それって、天才少女ってヤツー?マジヤバー!”

 いつの間にかカナタの周りにギャラリーが集まっていた。
 これだけ連続してバトルして、勝ち続けているのだから、当然といったら当然だろう。

「よし、次の私の相手は誰だ!?」

 調子に乗ってカナタは次の挑戦者を募集する。

「カナタ、そろそろ止めた方がいいんじゃない?」

 と、彼女の近くにテクテクと近づくのはサクノだった。

「いいや、やる!もっとポケモンを使いこなす練習をしたいんだ」

「…………」

 カナタの言葉にサクノは黙って、手元の2段に積み重なっているアイスを口をつけてパクパクと食べる。



「よーし、じゃあ、僕がバトルするっしょ!」



 二人の前に現れたのは、どこかの貴族のような胸元のはだけたシャツを着て貴族のようなズボンを穿いた18歳の青年だった。
 そして、特徴的なのは髪型で、水色の髪にまるでアドバルーンのように、もしくは宇宙人のような角のように丸っこい髪が浮いているようだった。

「おっ!それじゃ……」

 意気込んでカナタは前へと出るが、チッチと青年は指を振る。

「僕がバトルしたいのは、あなたじゃないっしょ。貴女でしょ!」

「……はむっ?」

 ちょうど、アイスクリームのコーンの部分を食べていたサクノは、いきなり指を差されて首を傾げた。

「僕は決めたっしょ!貴女に勝って、貴女と一緒に行動する権利をもらうっしょ!」

 それは、遠まわしに、サクノの事をいただくというのと同じことである。
 そのことに気付いたカナタは、サクノの前に出た。

「そんなことはさせるか!お姉様には指一本触れさせないっ!!」

「初心者トレーナーはどくっしょ!ケガするっしょ!」

「誰がケガするか!ニョロゾ!」

 傍にいたパートナーに声をかけるカナタ。
 期待に応じて、ニョロゾは青年に急襲した。

 ドガッ!!

「っ!?」

 ニョロゾは跳ね飛ばされた。

「まったく、マナーがなってないっしょ」

 青年が取り出したポケモンはダイノーズ。
 鋼と岩の頑丈なポケモンである。

「確か……ノズパスの進化系だったな!ニョロゾ、『水鉄砲』!!」

「無駄っしょ!」

 水鉄砲はダイノーズに当たるどころか、キラキラ光る岩の礫によって押し切られてしまう。

「『パワージェム』っしょ」

 ドガガガガッ!!!!

「ぐっ!!ニョロゾ!!」

 反撃を受けて、もう残りHPの少なかったニョロゾはダウンしてしまった。

「畜生!ミズゴロウ!!」

 同じく水鉄砲を指示する。
 だが、結果は同じだった。

「『パワージェム』っしょ」

 同じく連戦の疲れがたまっていたミズゴロウは、呆気なく倒れてしまう。
 まして、2人の間には経験と力の差が圧倒的とは言わずとも、開いていた。
 もし、カナタが万全の状態だったとしても、一糸報いるくらいしかできないだろう。

“あーあ。あの女の子、負けちゃった”

“にしても、あの青年、中々やるな。変な格好だけど”

“そうね。強いわね。変な頭だけど”

“確かに変な頭だなぁー”

“服のセンス悪いね”

“マジヤバー。あのセンスはマジヤバー”

「君らに僕のセンスはわからないっしょ!!」

 と、青年はギャラリーを黙らせて、カナタを見る。

「くそっ……くそっ……」

 初めての敗北にカナタは相当落ち込んでいた。
 そして、そんなカナタを見たのは1秒も満たなかった。

「あなたには負け犬の顔が似合うっしょ!」

 嘲る青年。
 まわりが若干嫌悪を感じる中、青年は言った。

「さぁ、いよいよ本番っしょ!そこの貴女!!バトルするっしょ!」

 青年が指差した先にサクノはいなかった。

「……え?あ。うん、そうだったわね」

 屋台に腕を突いて寄りかかって、サクノは何かを注文していたところだった。

“お嬢ちゃん、ホウエン風焼き蕎麦で来たよ!”

「あー……うーえー……」

 サクノの手が、まるで平泳ぎをするように困惑した。
 そして、焼き蕎麦とバトル、どっちを取るかで彷徨った。

 結局……

「ゴメンなさい!後で取りに来るわね!」

 掌を合わせて、深々と頭を下げるサクノ。
 そんな可愛らしい仕草に、屋台のおっちゃんは、「いーよ」と笑顔で頷いた。
 『こんな可愛い子にそんな風にお願いをされたら断れないよー』と、屋台のおっちゃんは心の中で呟く。

「ええと、ポケモンバトルよね?」

「もちろんっしょ!」

 周りが「今度はあの10連勝の子と一緒に居たお姉さんが戦うみたいだぞ!」と興味を示す。

“ところで、あの美少女、どこかで見たことないか?”

“うーん、言われて見れば……どこかで……”

 ざわざわとギャラリーがさわぐ中、サクノはショックを受けているカナタの肩を叩く。

「私のバトルを見てなさいね?」

 優しく言うも、どこか違和感のある言葉遣いに、カナタはサクノの後姿を見ていた。
 サクノがモンスターボールを持つのと同時に青年は言う。

「僕はアカハケタウンのカツキって言うっしょ!一生この名前を覚えておくっしょ」

 アカハケタウンとは、オーレ地方にある20年ほど前にできた町のことである。
 オーレ地方で活躍した英雄達の頭文字をとって名前がつけられたのだという。

「カツキね。私はタマ―――」

「いや、言わなくていいしょ」

「へ?」

「後で僕だけに教えればいいことっしょ。貴女の名前は僕のためだけにあるのだから!」

 「うっわー」とか「キザったらしー」とか、そういう言葉がギャラリーからなだれ出た。

「それは違うわよ。私の名前はみんなに呼んでもらうためにあるの」

 と、真面目に答えるサクノに、ギャラリーが総員で「カツキはそういうつもりで言ったんじゃない」とツッコミを入れる。

「じゃあ、貴女の名前を僕だけのものにしてやるっしょ!ダイノーズ!」

 カツキのポケモンを見て、サクノもあらかじめ構えていたモンスターボールを投げた。
 出てきたのは水系ポケモンのフローゼルだった。

「相性で来たっしょ?でも、そんなの関係ないっしょ!ダイノーズ、『10万ボルト』!!」

「『水の波動』!」

 ドゴォンッ!!!!

「…………。へ?」

 カツキが隣を見ると、ダイノーズが大ダメージを追って地面に倒れていた。
 だが、ゆらゆらとダイノーズは何とか起き上がった。

「(今の攻撃速度はなにっしょ?)」

 息を呑むカツキ。
 彼には何も反応できなかった。
 わかっているのは、水の波動が10万ボルトを打つ前に決まったという1点だけだった。

「ジャック、もう一発よ!」

「ダイノーズ!」

 今度は何とか攻撃を出される前に指示を出して攻撃を回避させた。
 だが、かわせたのは一撃の遠距離攻撃だけだった。
 すでに、フローゼルがダイノーズの頭上を取った。
 拳から放たれる水の波動。
 2撃目を受けただけで、ダイノーズはダウンしてしまった。

“圧倒的……”

 ざわざわとギャラリーが騒ぎ立てる。

「それなら、僕の最強のポケモンでいくっしょ!」

 繰り出したのは、なまずのようなポケモン。
 ただし、ナマズンではない。
 体にビリビリと電気を纏っていて、さらに体を磁力で浮かしている。
 特性『浮遊』のポケモンだった。
 そのポケモンの名は……

「シビルドン、フローゼルを蹴散らすっしょ!!」

 バチバチと電撃を迸らせるシビルドン。
 『10万ボルト』がフローゼルに向かって飛んでいく。

「ジャック」

 サクノの一言でフローゼルは最小限の動きで10万ボルトをかわす。
 そして、カウンター気味に水の波動を撃って、シビルドンにダメージを与える。

「その手は通じないっしょ!」

 電気を腕に纏って、水の波動は弾かれた。
 攻撃の速度が速くても、盾のように腕を構えていれば、水攻撃を防げるということなのであろう。

「今度はこっちからっしょ!『ランスサンダー』」

 鋭い電気が槍の様に形作り、5本程放つ。
 すべてがフローゼルに向かっていく。

「ジャック、Set!」

 サクノが言うと同時にフローゼルの後ろにピタリとつく。
 「姉ちゃん!危ないぞ!」とギャラリーが忠告するも、サクノはまったく気にしない。

「『Archer』!」

「なっ!?」

 5本の電撃の槍だが、呆気なく打ち消される。
 しかも、それだけではない。
 シビルドンも腹に攻撃を受けて吹き飛ばされた。

「ウソっしょ!?こっちの手数以上の攻撃を打ち出すなんて!?」

 カツキは信じられなかった。
 この電気の槍だが、岩をも貫き、鉄にもヒビを入れる一撃を持つ。
 しかし、それがフローゼルのスナイプ攻撃によって、打ち消される。

 スナイプ攻撃とは、まるでライフルを使ったような攻撃の表現のように聞こえるが、実際は弓を引くような動作から繰り出される狙い撃ちだ。
 右拳を引き、瞬時に狙いを定めて攻撃を打ち出す。
 その様な攻撃を連続で放ったのだ。

「ろ、6発連続攻撃!?でも、まだ倒れないっ―――」

「止めよ!」

 すでにフローゼルはシビルドンに接近していた。
 胸にぶらさげている赤いハーブのペンダントが光る。
 そして、素手で一気にシビルドンを切り裂いた。

「『かまいたち』!!」

 勝敗は決した。
 シビルドンは宙に舞い上がり、そして、甲板に倒れた。

「カツキさん、1つだけ間違えています」

「……な、なにっしょ?」

 サクノはフローゼルの頭を撫でながら事実を言う。

「さっきのArcher<狙い撃ち>は、8連続攻撃ですよ」

「……っ!!」

 すなわち、シビルドンに命中した狙い撃ちは、1撃ではなく、3撃が固まってできた威力なのだという」

「(道理で、あっという間にやられた訳っしょ……)」

 サクノはフローゼルをボールに戻した。

“なぁ、まさか……あの女の子とフローゼル……もしかして……”

“ああ。間違いない!“あの”サクノだ!”

“噂の美少女トレーナーね!?それに、『Archer』のフローゼル……狙い撃ちの精度といい合致しているわ!!”

“こんなところでお目にかかれるなんてぇ……!”

“本物の“Flare Blitz”や“Seoul Blade”も見たい!!”

“いや、なんと言っても、“Lighting”だろ!?”

“超マジヤバー!これって、超マジヤバー!”

 ギャラリーはサクノを見てガヤガヤと騒ぎ立てる。
 そんなギャラリーをまったく気にせず、サクノは膝をついてこちらを見ている女の子のほうへと歩いていく。

「お姉様……」

 きっと、このバトルを通して何かを伝えたかった。
 そうカナタは感じた。
 そして、何かを伝えるために、サクノは今こっちへ向かってきている。
 カナタはそう思っていた。

 が。

「あれ?」

 サクノはカナタをスルーする。

「おじさん!さっきのホウエン風焼き蕎麦をちょうだい!」

「あいよ!」

 愛想のいいおじさんから焼き蕎麦を受け取り、そそくさと口にするサクノであった。
 その姿に一同は呆然としたのだった。





「くっ……負けたっしょ……完敗っしょ……」

 船室に入ったカツキは、悔しさ一杯で自室に入った。
 そして、入った部屋には何冊かの分厚い本と資料が散らばっていた。
 本の内容は、法学、経済学、科学……といくつかの専門書の内容が書き施されてあった。

「……ん?どうしたんだ。カツキ」

「と、父さん……」

 カツキが父さんと呼ぶのは、いたって普通の中年男性だった。
 格好からするとYシャツの上にグリーンのカーディガンを来て、白い顎鬚を生やしていた。
 黒いスラックスで痩せすぎす太らすぎずのどっちつかずの体型で、清潔感があった。

「なるほど。女の子を口説こうとして、ポケモンバトルをして負けたのか。それは悔しいだろうね」

「その女の子がサクノって言うらしいんしょ!父さん、知っている?」

「……! ハハハッ!」

 一瞬だけ、目を丸くし、そして、彼は笑った。
 そんな父を怪訝そうに見るカツキ。

「どうやら、カツキはとんでもない相手を口説き落とそうとしていたみたいだね」

「……え、えぇ??そんなに有名な相手だったっしょ?」

 目を点にするカツキ。

「カントー、ジョウト、シンオウ。この3つのリーグをほぼストレート勝利で制覇した女の子だよ」

「……っ!?つまり、それって……」

「そう。紛れも無いポケモンマスターだよ」

 にっこりと父親は笑ったまま、カツキの頭を近くにあった六法全書で撫でる。

「学問もポケモンも何事も一歩ずつから。カツキ、地道にがんばりなさい。そうすれば、運も関係無しに道は開けるから」

「…………。父さんに運をどうこう言われても説得力がないっしょ」

「……そうかなー?ハハハッ」

 カツキの父は笑ってごまかすのだった。










「お姉様!早く早く!」

「カナタ、わかったから、そんなに急がないで!」

 手を引っ張るカナタにサクノは戸惑う。
 というのも、サクノが港に着くまで仮眠を取っていたのだが、予想以上にベッドが気持ちよくて、サクノにしては珍しくカナタに起こされるという逆転の立場になってしまったのだ。
 早く降りないと、次の出港に影響するとのことで、カナタは急いでサクノの荷物を持って、降りようとしているところである。

 タッとジャンプして、地面に着地するカナタ。

「くー、ここがあの有名なヒウ―――んぁああ?」

「え?どうしたの、カナタ?」

 ガクリと力をなくして、地面に手をつくカナタ。

「なんか……船から降りた途端……急に景色がぐるぐるとし始めて……気持ち悪い……」

「……酔ったの?船酔い?」

「船に乗っているときはなんでもなかったのにぃ……」

 サクノはうーんと隣にある大型バイクを見ながら考えて一言。

「じゃあ“陸酔い”ね!」

「ぅぅぅ……」

 もやは突っ込むことができないカナタだった。

「何はともあれ、ここが―――」

 サクノが見渡す先には、巨大高層ビルがいくつも並んでいた。

「―――イッシュ地方のヒウンタウンね」

 かくして、サクノとカナタはイッシュ地方に上陸したのだった。










 ……一方で……










 ―――街の一角。

「遅いじゃないの!一体何をやっていたの!?」

 40代くらいの水色の頭にカツキの頭のようなバルーン髪を2つ浮かばせた女性が両手を腰に当てて頬を膨らませて怒っていた。
 40代らしくない行動で言動は子供っぽいが、何故かそれらの行動は自然とマッチしてしまう不思議さを持った女性だった。

 その女性が怒っている相手というのは、カツキと彼の父親だった。

「ゴメンよ。運が悪かったというか……ちょうど目の前で船の募集が締め切られて、後の方の船に乗らざるをえなかったんだよ……」

「それなら、トリトドンに乗ってここまでくればよかったじゃないの!」

「いや、トリトドンでイッシュ地方まで波乗りするのは無謀すぎると思うよ!?ましてや俺とカツキを乗せて来るなんてさ!」

「どっちにしてもっ!!」

 女性はムギューッと旦那の耳を引っ張る。

「罰として、アイにここのヒウンアイスを奢ること!わかった?」

「わ、わかったよー」

 両親の一連のやり取りを見て、はぁーっとため息をつくカツキ。
 父親の運のなさや母親のお転婆な振る舞いは、旅行で異国の地に来ても変わらないなぁと思う。

「……あれ?」

 そんなカツキはふと周りを見て、首を傾げた。

「(ここって、こんなに巨大なビルがあって人がたくさん居る町のはずだよな……?)」



 なんで、こんなに静かなんだ?










 第3話完








 

 ☆モブキャラ紹介

 カツキ♂

 そこそこの実力を持つポケモントレーナー。18歳。
 かなり気障な性格でちょっと嫌味なところもある。
 口癖は「〜しょ」。
 結構女の子にもてるため、女の子の扱いに離れているが、自分から接近するのは初めてで、サクノにアタックし負ける。
 しかも、サクノはこれを恋愛絡みだとはまったく思っておらず、日常茶飯事のポケモンバトルだと思っているという。
 父親は巷で話題になっている弁護士で、母親はアカハケタウンに住んで40年以上のアイ。
 このカツキの両親がどんな風に出会って結婚したかは、アイの兄くらいしか知らないだろう。


HIRO´´ 2011年07月24日 (日) 22時24分(21)
題名:第4話 P50 夏B

 ノースト地方のジョウチュシティからタイヤキック号に乗ったサクノとカナタ。

 この二人はゆったりとしたクルーズを楽しみ、イッシュ地方のヒウンシティにやってきた。










 第4話 P50 夏B










「…………」

「…………」

 ヒウンシティは巨大高層ビルが並び立つ都市である。
 そのビルの数に伴って、人が溢れかえっていると予想をしていた。

 ところがだった……

「なんで……」

 サクノは目の前の光景を前にして唖然としてポツリと呟き、立ちすくむ。

「本当に一体どうなっているんだ?」

 カナタも同じように信じられないように呆然とこの事態を見ていた。

「どうして、人が人っ子一人も居ないんだ?」

 ヒウンシティのメインストリートと呼ばれる場所を2人は通っている。
 しかし、それにもかかわらず、まさしく誰もいない。

 この街はゴーストタウンと化していた。
 カナタがあっちこっちのビルに無断で入ってみるものの、やはり人の気配はない。

「なんで……」

 サクノは立ち尽くしたままもう一度唖然と呟く。

「一体何が起こっているんだと思います……?お姉様」

「なんで……」

 カナタが尋ねるのと同時に、サクノは地面にペタンと膝をついた。
 夏である現在、照り返す太陽のせいで、アスファルトに熱が蓄えられて相当の熱さになっているはずである。
 だが、直に膝に触れているにもかかわらず、サクノはそんなことに気付かないまま呆然と呟く。



「なんで……なんで……夏なのにヒウンアイスが売り切れなの……?」



「狽ィ姉様!?何故この状況でアイスなんですかっ!!??」

 この不自然な街の状況を差し置いて、アイスのことしか頭になかった美少女を力いっぱいツッコミを入れる男勝りの少女。
 ずっとサクノが目にしていたのは、前にあるヒウンシティの名物食べ物だった。
 この店でしか売っていないロイアリティーの高いアイスをサクノは欲していた。
 実際に暖簾にデカデカと“ヒウンアイス”と書いてある。
 これは絶対食べなくてはと思ったサクノであったが、毛筆で書かれた半紙にデカデカと“売り切れ”と書かれていた。

「この炎天下の中……他の事を差し置いて、ずっと楽しみにしていたのに……」

「お、お姉様……そんなことより、この街の状況を……」

「カナタ!!“そんなこと”なんて言っちゃダメよ!夏にヒウンシティに訪れたからにはヒウンアイスは絶対なの!」

「うっ……」

 理不尽にもサクノの勢いに押されつつあるカナタ。

「ど、どうして大都市であるヒウンシティに誰もいないという状況よりもアイスのことに目が行くんですか!?」

「それはアイスが食べたいからよ!」

 と、サクノはキッパリと言い張る。
 もう、ここまで言われては、カナタはリアクションとして横にズコーッとこけるしかない。

「あと、カナタに言って置くけど、別にこの街の状況を見ていないわけじゃないわ」

「え、それじゃ……」

「とりあえず、私の優先順位の1位がヒウンアイスを食べるってことだっただけのことよ」

「(だから、どうして、それが1位になるんだよ……)」

 もう、ツッコミを諦めるカナタだった。



 ガタッ



「誰だっ!?」

 カナタは音がしたと思うほうを振り向いてみたが、何もいなかった。

「気のせい……なのか……?」

「……カナタの気のせいじゃないみたいよ」

 ドガッ!!

 サクノが言葉と同時に出したルカリオが吹き飛ばされる。
 地面にゴロゴロと転がるが、すぐに体勢を立て直して、前屈みになる。

「何かが居るのはわかるけど、どこにいるかがわからない……。カナタ、ミズゴロウよ!」

「え?どうして?……!……わかった!」

 サクノの言葉の意味を理解し、カナタはミズゴロウに1つの指示を出す。
 すると、べちゃべちゃにミズゴロウは自分の作った泥の塊で遊び始めた。

「(これで正体が見えるはず……)」

『「アシッドボム」!!』

 ところが、毒系の技で泥遊びが押し返された。

「っ!!ミズゴロウ!?」

 毒を浴びて、あっという間にミズゴロウはダウンした。

「エンプ!『波動弾』!!」

 アシッドボムの攻撃が飛んできた方を投げつけるルカリオ。
 しかし、攻撃は空間上何も当たらずに、壁にぶつかって炸裂した。

「(タイミングはよかったはずなのに。……相手の素早さが高いってこと??)」

 絶対命中の技を呆気なくかわす姿無き敵。
 ルカリオには波動の力で相手を捕捉する力がある。
 それにも関わらず、当てることができないということは、相当の力があることがわかる。
 さらに……

「お姉様、後ろっ! ……ぐはっ!」

「カナタっ!?」

 カナタとサクノに同時に襲い掛かる謎の攻撃。
 それぞれ別の方向から飛んできたことを考えると、それは複数の敵がこの場に潜んでいると言う答えを導き出した。

「(少なくとも見えない敵が2匹居る!!)」

 サクノは間一髪で横っ飛びして交わしたが、カナタは背後からのエナジーボールを受けて気絶してしまった。

「(カナタが倒れている以上、ここで戦うのは得策とは言えないわね)」

 バイクをその場に停めて置いて、サクノはカナタから離れるように走りだした。
 前後から、不気味な音波や見えない刃が飛んでくるのを感じた。

「エンプ」

 ルカリオの帯刀している『貴重な骨』で作った剣で、攻撃をいなし、時には、サクノ自身が攻撃を回避するために大きく動く。

「(見えない敵からの攻撃を見切るには、広い場所は不利!……つまり……)」

 走って走って、サクノはヒウンアイスを売っている大通りから、路地裏へと逃げ込む。
 この路地裏は、横幅が人間が二人通れるかくらいの広さの直線だった。
 路地裏に入った瞬間、サクノはルカリオの隣について、指先を今まで進行していた逆方向へと向けた。

「『気合玉』!!」

 両手から繰り出される巨大な波動の塊。
 横幅を塞ぐほどの技の威力は、確実に追跡する者を迎撃する力を秘めていた。
 ところが、気合玉の効果は意味を成さなかった。

「(当たらなかった……。追跡していないということ……?)」

 そう思ったサクノだが、すぐさま否定した。
 頭の少し上で何かが通過したように風が吹いた。
 感じ取ったサクノは飛びつくようにルカリオと場所を入れ替え、攻撃をかわした。
 何者かの攻撃はルカリオがきっちりと受け止めた。
 それと同時に、ルカリオがハッとして、斜め後ろをブンッと振り向いた。

「……!」

 サクノはその意味を素早く察知した。
 ルカリオは緻密な性格ゆえに無駄なことは決してしない。
 そんな彼が振り向く理由としては答えはひとつだった。

「レディ!『アイアンテール』!」

 ガキンッ!!

 サクノの眉間と30センチのところで、尻尾と刃物のような何かが火花を散らす。

「エンプ、『聖なる剣』!レディ、『10万ボルト』!」

 ルカリオとライチュウはそれぞれサクノを襲う何かを迎撃するために攻撃を放つ。
 しかし、それぞれから相手の気配が消えて、攻撃は回避されてしまった。

 ルカリオがじっと路地裏の奥の方を見る。
 構えを解いているところを見ると、どうやら離れていっているようだ。

「逃がすわけには行かないわ!エンプ!」

 指示に従い、波動弾を繰り出すが、波動弾は上方へと弾き飛ばされてしまう。
 その時、空間が歪み、何かが垣間見えた。

「今のは……鎌を持ったポケモン……? そして、使った技は…………。それなら、レディー……」

 サクノの指示に従って、ライチュウは腕のいかずちプレートでできた小手を外して投げた。

『もう一度「守る」』

 何か強大な一撃が来ると読んだ姿無きトレーナーは、ポケモンにもう一度、防御の指示を出す。
 しかし、その時、ルカリオが割って入って、守りに入ったポケモンの体勢を崩した。

 ルカリオの『フェイント』攻撃だ。
 これで守るの効果は無効化された。

『……!!』

「Smash!!」

 ルカリオの居る場所目掛けて、超電磁弾<かみなりだま>を打ち込んだ。
 別名、この技をライチュウの異名で『Railgun』と呼ぶ。
 そして、その技の威力によって、一匹のポケモンが地面に倒れ伏せた。

「……ストライク……普通の虫ポケモンね」

 慎重に近寄ってじっくり観察しても、やはりただのストライクだった。

「(一体、普通のストライクがどうやって、あのような透明化を……?)」

 ルカリオが構えを解くのを見て、サクノはライチュウを戻した。

「(襲撃者は逃げたみたいね。カナタの元へと戻らないと)」










 ルカリオの波動の力で敵の確認をしながら慎重に戻ってみると、襲撃された場所にカナタはいなかった。

「……そんな……」

 ペタンとサクノはその場所に座り込んだ。

「カナタが……」

 動揺を隠せないサクノだったが、そのくらいで彼女はへこたれなかった。
 すぐに立ってみせた。

「こうしちゃ居られないわね。どうにか、カナタの手掛かりを見つけないと!」

 今一度、サクノは情報の整理を努めた。



 ヒウンシティは大都市にもかかわらず、人間はおろかポケモンの姿さえ見つからない。
 夏なのにヒウンアイスが売り切れ。
 敵は何かの能力を使っているのか、それともアイテムによる力なのか、技なのか、自分の姿を透明化することができる。



 そして、彼女の疑問と今後の対策は3点に絞られた。



 この街の人間はどこへ消えたのか?
 彼らを探し出すことがこの事件の解決策である。

 ヒウンアイスは人気で売り切れたに違いない。
 それなら、店の店員に早く原材料を仕入れてもらうように言うしかない。

 先ほど襲撃してきた相手は一体何者なのか?
 やはり、捕まえて問いたださないといけない。



 そこまで考えてサクノは一息つく。

「となると、やっぱり、情報が足りないってことになっちゃうわぁ……」

 眉をひそめてさらに脱力する美少女。

「一体なんでこんなことが起こっているって言うのよ」



「噂によると、実験しているって話やん」



 ギクリとサクノは声のする方を振り向いた。
 サクノが出てきた路地裏とは別の路地裏から一人の女性が出てきた。
 青いボブヘアーに白のジーパン。袖と裾にフリルが散りばめられたピンク色の柔らかめのワンピースを着て、ベルトのようなもので絞っている。
 特筆するのは、ベルトで絞っていることにより、腰のくびれがより鮮明に、さらに巨乳であることが明白になっていた。
 Gカップはかたい。

「(……実験?……いやそれより、一体何者?)」

 20代後半の色気を帯びた女性に警戒心を抱くサクノ。

「キミ、サクノちゃんやね?」

「……そうですけど」

「うーん、ウチのこと覚えてないやん?」

「……?」

「10年も前も昔のことなんて、流石に覚えていないやんね。ゴメンやん」

 首を傾げるサクノを見て、一人で苦笑する謎の巨乳女性。
 サクノは怪訝そうな表情でルカリオと共に警戒を強くする。

「ウチはショップ・GIAのメンバーのユミって言うやん。思い出してくれたやん?」

「……ユミ……カズミさんと同じメンバーの……?」

「そうやん」

 素直に頷くユミを見て、サクノとルカリオは警戒を緩めた。

「(この人がユミさん……。ショップ・GIAのメンバーだと言うことは知っていたけど、実際にどんな人かは思い出せない。よっぽど小さい時だったのかも)」

 そう思って、サクノは改めてユミを見据えた。

「まさか、この事態って、ユミさんがカズミさんに頼まれて調査している事件と関係あるんですか?」

「ぶっちゃけて言っちゃうとその通りやん」

 あっさりとした様子でユミは言う。

「このヒウンシティで街の人が消えて、ゴーストタウン化している原因は、何者かが危険な実験をしているからって言う話なんやん。さらに―――」

 ユミは目をつぶって言葉を繋ぐ。

「―――その実験には、ショップ・GIAのメンバーが関わっているって話やん」

「…………」

 ショップ・GIA。
 現在ではノースト地方に名を轟かす乗物屋&修理屋として、ノースト地方に展開されている。
 乗物というのは、現在サクノが乗っている大型バイクやカナタの父親が乗っていた特殊機能満載のエアローバイクなど様々な種類がある。
 修理というのは、それらの乗物だけでなく、電子機械や工業用のロボットでも何でもござれという感じである。

 ショップ・GIAのメンバーの現在のリーダーは、社長も兼任しているカズミである。
 今でこそ、従業員を増やして、会社のような働きをしているが、そうなったのは5年前からの話で、それ以前は細々と修理屋をして、メンバーも数人程度だったと言う。

「それで、危険な実験ってどんな内容なんですか?」

「一通り調べたんやけど、何やら空間に関する実験らしいやん」

「空間?」

「今居る現実的な空間と、有りえないと言われる虚数の空間。その二つの空間を繋げる実験だと思われるやん」

「“思われる”というのは、空間を繋げる目的のほかにもまだあるんじゃないかと、ユミさんは思っているのね?」

「その通りやん。サクノちゃん、飲み込みが早いやん!」

 そういって、サクノのミッドブルーの髪を撫でてやるユミ。
 ユミの行動にサクノはキョトンと受け入れる。

「それじゃ、ヒウンタウンの人たちは、その虚数の空間に存在しているわけなんですか?カナタもそこにいるというわけなんですね」

「そう思ってくれて間違いないやん」

 ユミの話を聞いて、サクノのすべきことは決まった。
 虚数の空間から、カナタやヒウンシティの人々を救い出す。

「そのためには虚数の空間の場所を探さないといけませんね」

「それなんだけど、手掛かりが1つしかないやん」

 ユミは頭を掻いて舌を出してイタズラを見つかってしまった子供のように笑っていた。

「手掛かりというのは、やっぱり、透明な襲撃者のことですか?」

「そうやんね。その人物を捕まえるということが一番やん」










 サクノはユミと分かれて行動することになった。
 サクノが西、ユミが東を散策し、襲撃者をおびき出しながら、虚数の空間のポイントを探索していた。

「とは言うものの、そうそう見つからないよね……ユミさんが1週間探してこの結果なんだから……」

 弱音を吐きながらも、街を走っていくサクノ。
 今の彼女は、オートンシティでカズミから貰った大型バイクを押しながら進んでいた。
 乗った方が早いのではないかと思うが、それだと襲撃者が見つからなかったり、虚数の空間へのポイントを見逃してしまう可能性があるためできなかった。

「(難しいわね……せめて、トレーナーを見つけ出すことができればいいのに……)」

 なんとなくサクノは空を仰いだ。
 空は太陽が沈む時間を迎えていた。
 夏であるため、太陽が沈む時間は19時台である。

「(雲が太陽の光によってオレンジ色になっている……。扇情的な光景ね……)」

 そのまま、顔の向きを斜め上から徐々に上へと向けていく。
 星空が見えるかなとそうサクノは思っていた。

 ところが、サクノの目を捉えたのは、星のようであって、星ではなかった。

「……?」

 よく目を凝らしてみると、何かが徐々に近づいてくるのが見えた。

「……っ!何かが落ちてきている!?」

 よく見ると、それは人だということがわかった。
 重力に逆らわず、その人は落ちてきていた。

「(あのままじゃ、あの人が危ないッ!!) ファイ!!」

 サクノが繰り出したのはチルタリスだ。

「ファイ、『コットンガード』!!」

 柔らかい綿をモコモコとさせて防御力をあげるチルタリス。
 しかし、それだけで受け止めることはできないと、サクノは思った。

「最大防御『Veil』!!」

 綿の翼から柔らかい物体を伸ばして壁のように張り巡らせた。
 それは、『光の粘土』と呼ばれるアイテムだった。
 しかし、一般的な光の粘土と比べると、粘度が格段に違っていた。
 それもサクノのオリジナルでなんらかしらの細工で粘度を上げたに違いない。
 それにより、防御力が格段と跳ね上がり、衝撃等を和らげる効果を働かす。

 ゆえに、その落ちてきた人を受け止めることは容易かった。

 サクノは急いでその人の身元の確認を急いだ。
 紫のロングヘア。ふわふわとした木綿の白い袖なしの上着に胸元のはだけた赤いカットソー。グレーのハーフパンツ。
 170センチ後半の身長、年はサクノよりも何歳か年上の男ということが、ざっくりと見た彼女の推測だ。

「気を失っている。一体、どうして空から落ちてきたの?」










 サクノはバイクの後部座席に男を乗せて、公園まで運んだ。
 そこにベンチがあったのでそこに男を寝かせて、彼を介抱した。

「ううん……」

 さほど時間はかからず、男は目覚めた。

「め……め……」

「め?」

 サクノは彼の顔を覗き込んで首を傾げた。

「め、女神やー!!」

「……メガミ?」

 男の第一声にキョトンとしてサクノは絶叫する男を見る。

「あなた様は女神なんやろー?」

「違いますよ。私はサクノと言います」

 右手を軽く横に振りながら、比較的真面目な顔でサクノは名乗る。

「ほうほう、サクノって言うのかー。いい名前やなー。俺の名前はビリー!よろしゅーな!」

 非常に軽いノリで自己紹介をしてくるビリー。
 差し出された手をサクノは軽く握り返した。

「ところで、どうして空から落ちてきたの?鳥ポケモンから落下したの?」

「実は……」

 深刻そうな顔でビリーは声のトーンを落とす。

「俺は空の国の者でなー、その空の国で近いうちに大事件が怒るっていわれてなー、地上を調べてきてくれーって言われて、地上に落とされたんやー」

 と、言ったところで、ビリーはサクノの顔を見る。
 彼女はなんだか、優しい表情をしていた。

「あー、サクノはん、信じてないでしょー!?」

「いいえ、そんなこと無いですよ」

「本当に?」

「私だって雲は食べられるって信じていますから」

「うわー、全然信じてへんなっ!?雲は水蒸気やから食えんよ!」

「えっー!?綿アメみたいにおいしいって誰かが言っていましたよ!」

「そんなの迷信やーっ!」

 それから、虹の上は歩けるとか、オーロラが出現する場所には必ずデオキシスが居るとか、眉唾物の噂を討論する二人。
 そんな話で盛り上がったところで、ビリーは頭を一掻きして、何かを諦めたような表情をし、一息つく。

「やー、サクノはんの言うとおり、鳥ポケモンから落ちて来たんやけど。でもって、サクノはん、腹減らんか?どこかで何か食べへん?」

「じゃ、これ」

 そういって、サクノがビリーに手渡したのは、“もりのようかん”と呼ばれるものだった。

「……何これ?」

「シンオウ名物、“もりのようかん”よ? ジョウト名物の“いかりまんじゅう”も1個あるけどどう?」

「んっ、意外といけるなー」

 と、パクパクと二人はベンチに座って食べ始めた。
 さらにサクノはリュックから紙コップとおいしい水を取り出して、二人で分けた。
 ビリーは礼を言って、半分ほど飲み干す。

「やー、こうして見ると、俺らカップルみたいやなー」

「うん?そんなことないと思いますけど?」

「そんなこと思わないやて?この周りの雰囲気見てみぃ!周りなんか会社員ばかりで、誰も男女がこうしてゆっくりしている姿なんて―――」

 と、ビリーは周りを見渡して、そして、

「―――あれぇーーー???」

 ようやく状況を把握する。

「確か、ヒウンシティってぎょうさん人間が溢れかえっている場所じゃあらへんかったか?」

 ここでカナタだったら、「遅ぇし!!」ってツッコミを入れるところだが、サクノは真面目な顔で頷く。

「ハイ、実は今この町は大変なことになっているんですよ」

 サクノは茶菓子をビリーが羊羹を食べ終えるまでに、一通りのことをさっくりと説明した。
 その所要時間は約5分である。

「……なるほど、すなわち、サクノはんは襲撃者を探しているわけやな。なら、俺も力を貸してやるでぇ!」

「え、でも、迷惑じゃ……」

「助けてくれた礼や!そんなわけで、サクノはんは北を探してくれや。俺はこの辺を探してみるさかい」

 断ろうとするサクノであったが、ビリーはどういうわけか諦めなかった。

「わかりました。それなら、こちらはお願いしますよ」

 丁寧な物言いで頭を下げると、サクノはそのまま北へ向かって走り出したのだった。
 ビリーはサクノが走り去る様を片手を大きく振って見守っていたのだった。

 サクノが見えなくなると、ビリーは手を下げて、腰のモンスターボールに手をかけた。
 そして、振り向かずに言う。



「サクノを追うつもりか?」



 ビリーの周りには誰もいないように見える。
 それでも、確信を持ってビリーは、誰かに向かってそう言葉を放った。

「それで隠れているつもりか!?『コメットパンチ』!!」

『……!!』

 何もない空間に向かって、ビリーのポケモン、メタグロスは巨大な鋼の拳を伸ばす。
 パンチの衝撃で電灯が根元からへし折れる。
 しかし、ビリーは破壊した電灯など見ておらず、見えない何かを目で追っていた。

『「火炎放射」』

 空間の何もないところから、突如火炎が現れる。
 通常なら簡単に反応などできないだろう。
 しかし、ビリーは完全にそこから技が来ることがわかっていて反応した。
 すなわち、メタグロスとビリーは火炎放射を回避した。

『お前……俺の姿が見えているのか?姿を隠しているはずなのに』

「どんな原理だか知らないけど、ワイにはその様なトリックは通用しない」

『なんでだ?』

「教えるわけが無いだろ、オッサン」

 ドゴォッ!!

 メタグロスのバレットパンチが炸裂し、姿が見えないはずのカクレオンを壁に激突させる。
 何とか体勢を立て直そうとするカクレオンだったが、すでに追撃が迫っていた。

「『アームハンマー』!!」

 アスファルトの地面にカクレオンを叩きつけて、ダウンさせた。
 カクレオンの特性は『へんしょく』。
 ビリーはそれを利用して、初撃で鋼タイプにタイプ変化させ、格闘タイプの技で止めを刺したのだ。

『ガキが、舐めるなっ!!』

 クールな男の声が、一変して熱血漢のある声に変わる。
 その罵声と共に声の主はポケモンを繰り出していた。

「……っ!!メタグロス、かわ―――」

 ビリーの指示は間に合わない。
 危機感を感じてかわそうとしたメタグロスに追いつき、巨大な頭のハサミがメタグロスをはさんで噛み千切らんとする。

『「バックドロップ」』

 そして、背面とびをし、地面にたたきつけた。
 メタグロスは一撃で倒れた。
 謎の声の主のカイロスの『ハサミギロチン』からのコンボである。

「……デンチュラ!」

 ビリーはすぐさま2匹目のポケモンを繰り出し、電撃攻撃を指示する。
 しかし、同じ電気攻撃でビリーのデンチュラの電撃は弾かれる。

「な……!? デンチュラ対デンチュラ!?」

 透明人間も同じ電気蜘蛛ポケモンを使ってきた。
 電撃対電撃。
 光線対光線。
 同じような技のぶつかり合いだ。
 ときたま、影分身などの補助技、スピードに緩急をつけて攻撃するなど戦略を見せたが、2匹は拮抗していた。

『そろそろくたばってもらうぞ』

 メタグロスを一撃で倒したカイロスを戻した透明人間は、一匹のポケモンを繰り出した。
 体をぐるぐる巻きしにた忍者のようなポケモンだった。

「……アギルダーだと!?くっ、クイタラン!」

 慌てて蟻食いの様なポケモンを繰り出したビリーだったが、

『遅い』

 ズバズバズバッ!!

 デンチュラ、出てきたばかりのクイタラン、そしてビリーに星型の手裏剣で切り裂く攻撃が入った。

『「スターラッシュ」。「スピードスター」を投げずに手で切りつける接近特殊技だ』

 ビリーが動かないのを確認して、デンチュラを戻す透明人間。
 そして、透明人間の姿がアギルダーと共に鮮明になっていった。

「どうして、この子供が見えないはずの俺とポケモンを識別できたか気になるところだが、まぁいいだろう」

 白髪がボツボツ目立つメガネをかけた白いシャツにネクタイをした華奢な中年男性はクイッとメガネのズレを直しつつビリーに近づいていく。
 大体、40代後半と言った所であろう。

「こいつを相棒のところへと連れて行くとしよう」










 ……同時刻……










 ―――???。

「ふふふふふ」

 不気味な女性の声が響く。
 それは不敵な笑みであった。

「制御は89%。ここまでは支障なし。そして、後はこの幻想を真実に変えるだけよね」

 その女性は一見40代の女性だった。
 化粧を散りばめて、大人の色気と知的さを感じさせる憧れのマダムのようだった。
 だが、実際のところ、彼女は70歳を超える年齢である。

「さぁ、ジュン。戻ってきなさい。計画の総仕上げに取り掛かるわよ」










 第4話完


HIRO´´ 2011年07月31日 (日) 10時50分(23)
題名:第5話 P50 夏C

 ☆前回のあらすじ

 ヒウンシティに到着したサクノとカナタ。
 しかし、透明人間の襲撃により、2人は離れ離れになり、カナタは姿を消してしまう。
 ショップ・GIAのメンバーユミ(実はトキオの娘で無邪気でバカで天然を装いながらも、裏ではほとんど計算しつくして動いている狡猾だった少女―――UD参照)に会ったサクノは、ヒウンシティのゴースト化の謎を解き、カナタを助けるために透明人間を探すことになった。
 途中、サクノは空から落ちてきたビリーを助ける。
 お礼にビリーはサクノを手伝うといい、サクノをつけていた透明人間に戦いを挑んだのだが…………










「ぐっ……」

 場所は西区の建物の前。
 そこに左肩を押さえる一人の痩せた中年男の姿があった。

「チッ。拘束していたはずなのに、どうやって反撃したんだ!」

 男は舌打ちをし、涼しげな表情をした紫色のロングヘアの男をギラリと見る。

「それは秘密さかい」

 ゆるーく、少年ビリーはコガネ弁もどきで返答する。

「つまり、お前は俺を油断させて今のように襲撃するために、期を狙っていたんだな!?」

「それだけじゃあらへんけどな」

 ビリー曰く、クイタランはまだやられておらず、ユミかサクノにこの状況を伝えに行ってしまった。
 さらに透明人間が言う相棒の正体と位置もつかもうとしていたのだ。

「相棒の正体と場所か。だが、そこまで知るには至らなかった様だな」

「いや、もう理解したで」

「なんだと?」

 ハッタリだと思う男だが、ビリーの目には確信があった。

「証明して欲しいか?いいで。とりあえず、あんたはショップ・GIA、いや元ショップ・GIAのメンバーのジュンキ。組織から消えた理由は、誰も自分の存在を気にかけてくれなかったからや」

「……っ!!」

「そして、ひがんだあんたは、自分の存在を証明するために、このヒウンシティの計画に―――」

 ビリーは言葉をとぎった。
 自分の顔目掛けて、電撃が飛んできたからだ。

「デンチュラ、もう一発だっ!!」

 高速移動からの10万ボルト。
 フットワーク+力で攻める攻撃だった。

「『ひかりのかべ』!」

 それを、たった一枚の壁で防いでみせる。
 ビリーの妖精ポケモンピクシーである。

「『ムーンインパクト』!」

「っ!!」

 月の力を持つ一撃で、デンチュラを撃退した。
 それを見て、ジュンキはラフレシアを繰り出す。

「『花びらの舞』!!」

「『破壊光線』!!」

 撹乱させる大量の花吹雪。
 だが、ピクシーの一撃は中心を吹き飛ばして、ラフレシアに当てた。
 一撃では倒すことはできなかったが、致命傷でラフレシアを怯ませることができた。
 ところが、そのときにはビリーの姿は無く、逃げる後姿が見えただけだった。
 ラフレシアも気を取り直し、連続で花びらの舞を放ち、ピクシーが動けず反撃できないことをチャンスとし、姿を消した。

「よし」

 頷いて、ビリーは一匹のワニのようなポケモンを繰り出す。
 ワルビアルと呼ばれる悪地面タイプのポケモンである。

「北地区の3−5。そのビルの頂上。そうサクノはんに伝えてきてくれや」

 命令に従って、ワルビアルはサクノを探しに行った。

「さぁーて、後はワイが黒幕をサクノはんの前でぶっ潰して、サクノはんを骨抜きにするだけやー♪」

 北地区の3−5。
 その場所へ向かってビリーは走り出したのだった。










 第5話 P50 夏C










「一体どういうことなんだ?」

 カナタは無事だった。
 しかし、彼女は周りの風景を見て愕然とした。

 高層ビルに完璧に舗装された道路は間違いなくヒウンシティそのもの。
 だが、彼女が驚いたのは、溢れんばかりの人、人、人であった。

 すなわち、気を失う前にいた街の様子とはまったく違う風景がそこにあった。

「(しかも、みんな、自然に生活をしている……)」

 カナタの疑問に思う点はそこにある。
 サラリーマンは腕につけている時計を気にして、急ぎ足でかけていく。
 ゆっくりと歩くOLは、同僚のOLと何やら彼氏のことで愚痴をこぼしながら歩いていく。

 誰もが、この世界に疑問を持っていなかった。

「おかしいわよね」

「どうしてこんなことになったっしょ?」

 いや、正確にはこの世界に疑問を持つ者は数人いた。
 例えば、カナタの隣にいる親子である。
 タイヤキック号に乗っていて、カナタを打ち負かしたあの少年とその母親である。

「ともかく、ここから出ないと!!」

 カナタはニョロゾを繰り出すが、少年……カツキが肩を掴んで止めた。

「無駄っしょ。第一どこに攻撃を仕掛けるっていうっしょ?」

「うるさい!どこでもいいからやってみないとわからないだろ!」

「手当たりしだいの攻撃なら、アイがやったから無駄よ」

 カツキの母、アイがため息を混じりにそういう。

「そう。手当たり次第にやっても無理なことだ」

 ふと、一人の男がこの場に現れる。
 Yシャツ姿の割とカッコイイ中年男性だ。

「この現象は、シンオウ伝説にある空間を司るポケモン……パルキアが関わっていると思われる。そして、原因はそれだけじゃない」

「何者だ?」

「自分の名前はシンイチ。最高の小説家だ」

 そういって、シンイチという男は、大き目のハイキング用のバッグを降ろして、その中からずらっと本を並べ始めた。

「書いた小説は数知れず。しかし、ベストセラーになった本は片方の指で数えるほどしかない。その中でお勧めはこれだ」

 シンイチは小説を読み始める。

「ある時、2人の少年と1人の少女が旅をしていた。少年の名前はトキとモト。少女の名前はユキといった。トキはユキのことが好きだった、しかし、モトはトキのことが好きだった」

「BL小説かよ!?」

 カナタはツッコミを入れるが、シンイチは首を振る。

「そして、モトはトキに性転換のクスリを飲ませた。すると、トキはかわいい女の子になった。そして、モトは、おもむろにトキをベッドに……―――」

 ―――っと、シンイチは読み進めようとしたが、途中でゴツンと拳骨が入った。

「子供の教育に悪いからストップよ!!」

 アイがシンイチを止めたのでした(ぁ)

「ところで、原因はそれだけじゃないというのはどういうことなの?」

「ああ、そうだったね。実はこの空間はパルキアが作り出したものであるんだけど、もう1つ、幻覚も作用しているんだ」

「幻覚?」

「それもパルキアの仕業っしょ?」

「いいや、この力は魔法……すなわち魔術に近い。正確には幻術と言うべきだね」

 そして、シンイチは断言する。

「この虚数の空間を内側から破ることは不可能。つまり、実際のヒウンシティにいる人間が、幻術者を倒さないかぎり、自分たちはずっとこの場に閉じ込められたままというわけだ」

「……お姉様……」

 シンイチの話を聞いて、カナタは自分の尊敬する人の顔を思い浮かべるのだった。










 誰もいないストリートをただ一人駆け抜ける。
 メガネをかけ、地味なワイシャツを着たその中年男性は、大きく息を切らし、汗だくだった。

―――「ここは俺に任せておけって。ジュンキは俺のサポートを頼むぜ」―――

「兄貴……」

―――「だってー、いつもジュンちゃんのプリンがおいしそうなんだもん」―――

「ミナミ……」

 思い出すのは若い頃に共にチームを組んだ2人の男女。
 その2人の触れ合いの日々が彼の支えだった。

「(俺は……やってやる……やってやるぞ……!)」

 ザッ

「!」

 その彼の前に立ったのは、一人の女性だった。
 モンスターボールからリザードンを繰り出して、すぐに攻撃を仕掛けてきた。
 大きな“大”の字は、炎系の大技である『大文字』である。
 彼は一匹のポケモンを繰り出して、その大文字を軽くかき消した。
 硬き甲羅を持ったそのポケモンは、ツボツボである。

「この一撃を簡単に防ぐとは……やるやんね……!」

 青いボブヘアーに白のジーパンの巨乳の女性は、リザードンの首に手を置いて、じっと相手を見ていた。

「……お前はユミか……」

「ん?ウチのことを知っているやん?……ってそうやんね。元ショップ・GIAのメンバーやんね」

「……そう。そして、ミナミの娘だろ」

「……! そうやん。でも、それがどうしたやん?」

 若干、ユミの声がこわばった。

「あんた、“あの人”とどういう知り合いやん!?」

「チームだ。今ではそんな繋がりなんて、もう無いけどな。そう……すべて無いんだ!!」

 ジュンキはツボツボの他にもう一匹のポケモンを繰り出す。
 包帯をぐるぐる巻きにした忍びの様なポケモン、アギルダーだった。

「リザードン!!『竜の舞』!」

 力を溜めて、迎え撃とうとするが、アギルダーの素早さに反応できない。
 後ろから蹴り飛ばされて、バランスを崩されたり、気合玉で腹部に衝撃を受けたりとダメージが蓄積されていく。

「(……っ!速いやん!……リザードンのままじゃやられてしまうやん。でも他にアギルダーに対抗できるポケモンは……)」

 アギルダーがユミの正面に立ち、『虫のさざめき』を放つ。
 咄嗟の反応で地面に這いつくばって、攻撃をかわす。
 このときを狙うしかなかった。
 モンスターボールを投げて繰り出す指示は『不意打ち』だった。

「ブラッキー!!」

 ドゴッ!!

 大きな音がした。
 ダメージの音のように思えたが、実際はブラッキーが弾き飛ばされた音だった。
 ツボツボが回転攻撃のように跳んできて、弾いたのだ。

「……前方は虎、後方は狼……みたいな気分やん」

 スピードと防御。
 二つのトップクラスの能力を持ったポケモンがユミたちを襲う。

 ブラッキーが『悪の波動』でアギルダーに仕掛けるも、簡単に避けられてしまう。
 リザードンの『ブラストバーン』も、ツボツボに効果は得られなかった。
 
「くたばれ、『インセクトスラッシュ』」

「っ!!」

 アギルダーの右手が緑色に光る。
 この手に触れるのは不味いとそう悟って、ブラッキーには回避の指示を出した。
 しかし、狙ったのはブラッキーではなく、ユミ自身であった。

 ズバッ!!

「ブラッキー!?」

 トレーナーを狙うことを見越していた相棒のブラッキーは、すかさずユミの目の前に飛びついて、代わりに攻撃を受けた。
 急所に一撃を受けて、ブラッキーは気絶してしまった。

「さぁ、次はリザードンもろとも……」

「『ハイドロポンプ』!!」

 ドゴッ!!

 アギルダーに強力な水流が決まった。
 そして、路地裏へと吹っ飛ばされていった。

「様子見はここまでやん!一気に攻めるやん!」

「今まで手加減していたって言うのか?調子に乗るなよ!」

 新たにジュンキは鍬形ポケモンのカイロスを繰り出してきた。
 対するユミはアリゲイツでカイロスと取っ組み合いを始める。

「……!」

 ジリジリと押し始めたカイロス。
 アリゲイツも懇親の力を込めて押し返す。

「アリゲイツ、『ばかぢから』やん!」

「力の差は歴然だ!『バックドロップ』!!」

 フッとカイロスが力を抜き、アリゲイツがカイロスのはさみに捕らえられ、押し込もうとする力を利用されて、そのまま地面へと叩きつけられた。
 一転二転と転がって、アリゲイツは大きく体力を消耗してしまった。

「『バブル光線』!!」

 反撃として数十もの泡攻撃を繰り出す。

「カイロス!ツボツボと共に攻めろ」

 ジュンキの指示にツボツボを持って攻め入るカイロス。
 バブル光線をツボツボを盾にして、無傷で防いだ。
 その防御にあっけに取られたアリゲイツは、バブル光線を中断してしまう。

「……アリゲイツ!『守る』!!」

「遅い」

 ドガッ!!

 カイロスはツボツボを投げ飛ばして、アリゲイツを怯ませた。
 そして、そのままシザークロスをアリゲイツに叩き込んで撃破した。

「同じ歳だったミナミと比べたら充分強いが、今の俺と比べたら経験が違う。本気で勝てるとでも思ったのか?」

「思っているやん」

 そのユミの言葉に、リザードンの尻尾の炎が反応した。

「カイロスとツボツボがコンビで攻めてくるところを待っていたやん」

「何?」

「リザードン、『ヘルファイヤー』!!!!」

 リザードンの炎系の究極技と言うのは『ブラストバーン』である。
 しかし、この『ヘルファイヤー』と言う技は、『ブラストバーン』の威力を遙かに凌駕していた。
 リザードンの尻尾の炎は蒼白さを越えて透明になっていた。
 そして、ユミのリザードンが吐き出した炎の色は、現実的には有りえない黒炎だった。
 それも膨大な質量を誇っていた。

「カイロス、ツボツボを盾に―――!!」

 チュド―――――――――オオオオォォォォォンッ!!!!!!!!

 猛烈な爆発音が巻き起こる。
 その爆発でビルの柱を消してしまうほどの威力だった。

「あ……しまったやん」

 そして、柱を1つ失ったビルは、そこからヒビが入っていって、倒壊していってしまったのだった。
 それに巻き込まれたカイロスとツボツボは、流石にダウンするしかなかった。
 というよりも、ダウンで済んでまだよかったのかもしれない。

「どうやん?」

 リザードンはげっそりとして、著しく体力を消耗していた。
 体力をすべて使い果たす技のようだ。

 ゴンッ! ドスッ!!

 リザードンが倒れた。
 それは技による副作用ではない。
 ユミも何が原因か、しっかりと理解していた。

「やっぱり、まだ倒れていなかったやんね」

「知らないフリをしていたのか。意外と隙がないヤツだな。ミナミの子供にしては」

 ジュンキの前に再び現れたのはリザードンを小突いて倒したアギルダーだった。

「さっきアリゲイツが倒したのは、身代わりだってわかっていたやん」

「…………」

 アギルダーは手からエネルギー弾を作り出してユミに向けて放った。

「どうしてショップ・GIAの仲間だったって言う人がヒウンシティをこんなことにするやん!?」

「ショップ・GIA……懐かしいな。しかし、その中で俺をメンバーとして把握していたのは2人だけだ。それに俺もその2人しか信用していなかった」

 ジュンキは叫ぶ。

「いや、初めは信用していた。だが、いつまで経っても俺を頭数に入れるのは忘れやがる。2人がいなくなってからは尚更だ!
 俺は自分が自分であることの証明がしたかった。居場所が欲しかった。そのためにショップ・GIAを離れた。
 案の定、誰も俺のことを案じてくれるヤツはいなかった。悔しくて仕方がなかった。そこで声をかけてくれたのが、元ロケット団のあの女だ」

「元ロケット団の女?」

「あいつが空間と存在感について研究をしていると聞いて、俺は協力することを決めた。この研究が成功すれば、俺の存在感は一気に上がるッ!!」

 アギルダーが足払いでユミを転ばした。

「だから、邪魔をするな。俺の存在の証明の邪魔をするなッ!!」

「そんなことはできないやん」

 ドゴッ!!

 アギルダーが吹き飛ばされた。

「あんたの言いたいことはわかるやん。でも、そんな自己的な発想は認められないやん!ウチがまとめて止めてやるやん!イーブイ!」

 ドスンッ!!

 アイアンテールで追撃に入るが、アギルダーは持ち前のスピードで呆気なく回避した。

「その程度のスピードで、勝てると思うなっ!」

 ブラッキーを倒した緑色の光を放つアギルダー。
 一閃で襲い掛かる。

「『インセクトスラッシュ』!!」

「イーブイ!!」

 ズドォンッ!!!!

 吹っ飛ばされたのはアギルダーだった。
 そして、遅れて3秒後に、ジュンキも吹っ飛んだ。

「……な……? 何が……!? イーブイが……テレポートした……のか!?」

「残念ながら、外れやん!イーブイ、止めの―――」

 飛び上がって、ダメージを追って動けないアギルダーへ向かって降下した。

「―――『リーフブレード』!!」 

 ドゴォンッ!!!!

 アギルダーを中心とし、コンクリートの破片が飛び散ったのだった。










「幻想を真実に変える……。それが実現すると思ったら、思わぬ障害が現れたわね」

 北地区3−5。
 もっと詳しく言えば、その場所の地下3階。
 部屋の外装といえば、それほど華美なものではないが、女性らしさと気品があった。

「フッ、俺の作戦のため、お前はんには倒れてもらいまんがな!」

「私を敗れると思って?」

 そういうと、妙齢の女性はオドシシを繰り出す。
 一方のビリーもピクシーで攻撃を仕掛けていた。

「私のポケモンに攻撃は当たらないわよ」

 ズドンッ!!

「っ!?」

 女性の自信たっぷりの言葉は、拳の一撃で崩れ去った。

「俺になんかしたか?残念だが、俺には幻覚や催眠なんて通用せぇへん。大人しく倒されるんやな、『幻惑のレイラ』!」

「……! あら、私の通り名を知っているなんて、相当の情報通ね」

 自分の正体が明らかにされても、80代であろうレイラは動じなかった。
 そして、2体のポケモンを追加した。

「(キュウコンとゴチルゼル……炎とエスパーやな)」

 9本の尻尾を持った長寿といわれるポケモンと、ゴスロリのドレスを着たようなポケモン。
 いずれもレイラの幻術の力を持った強力なポケモンであることには違いなかった。

「ランクルス、『ピヨピヨパンチ』!!」

 ところが、ビリーはランクルスに神秘の守りを張り巡らせると、戦いを有利に進めていった。

「まさか、幻術も催眠術もすべて防がれるとは……やるじゃないの」

 キュウコンの状態異常攻撃もゴチルゼルの幻覚攻撃もすべてビリーには通用しない。
 対してピクシーの遠距離攻撃とランクルスのエスパー攻撃が効果的に決まり、レイラを追い詰める。

 だが、ペロリとレイラは舌なめずりをし、余裕の表情を浮かべていた。

「でも、圧倒的な力の前ではどうかしら?」

 右手にどこからともなく取ったハイパーボールがあった。

「何を出しても無駄やでぇ!」

 キュウコンとゴチルゼルをランクルスが蹴散らし、ピクシーがレイラに向かって特攻する。

 ドスンッ!!

「っ!?」

 レイラが出したポケモンの足に押しつぶされたピクシー。
 地面に押し付けられて、動くことを許されなかった。

「このポケモンは……なんや!?」

「イッシュ地方の人には知らないかもね。このポケモンはシンオウ地方の時空伝説に名高い空間を司る神のポケモン―――パルキアよ」

「神ポケモン……!? ランクルス、『サイコキネシス』!!」

「『亜空切断』」

 パルキアはブオンッと巨大な腕を振ると、空間が裂ける。
 ランクルスの超念動攻撃をいとも簡単に切り裂いてしまった。

「それなら、『ピヨピヨ――― 「『ドラゴンクロー』」

 ランクルスの拳より速く、パルキアが爪を叩き込んだ。
 これにより、あっという間にビリーは追い詰められた。

「くっ……何やっていうんや……このポケモン……」

「力の差が出たようね」

 じぃっとレイラはビリーを無表情で見ていた。

「キミがどんな方法を使って私の幻を破っているかは知らないけど、この神の力を破るだけの力はないようね」

 ドゴッ!!

「ぐふっ!!」

 次のポケモンを取り出そうとするビリーにパルキアが水攻撃で吹っ飛ばす。
 壁に打ち付けられて、気を失いそうになる。

「新しい空間……新しい世界。それは、未来にとって必要なこと。世界では人間とポケモンが増殖を続けている。いつかはこのヒウンシティのように人やポケモンで溢れかえり、やがては住む場所や食料をなくし、世界は争いを激化させる。そのために新しい土地を作る実験は必要なことなのよ」

 パルキアが止めを刺そうと、大きく腕を振りかざした。
 再び『亜空切断』を放ったのだ。

 だが、

「確かに立派な考えよ」

 『亜空切断』は見えない壁に阻まれて消滅した。
 その見えない壁も砕け散って消滅したが。

「……亜空切断を防ぐとは……キミが例のアキャナインね」

 攻撃を防いだチルタリスの隣にいるのは、ミッドブルーの髪の少女だった。

「さ、サクノはん……?」

「ビリー、後は私に任せて」

 笑顔をビリーに向けた後、凛とした表情をレイラに向ける。
 彼女の後ろから、ワルビアルが顔を出して、ビリーの元へと戻った。

「キミも未来を壊すために立ちはだかるのかしら?」

「あなたは未来の為にやっていると言っているけど、そんなの独りよがりよ。その独りよがりの為に、知らずのうちにヒウンシティの人々が不幸になろうとしている。その不幸を私の思いを貫いて変えてみせる!」

「それなら止めてみなさい」

「ファイ!」

 威圧感と共にパルキアが亜空切断を放つ。
 だが、サクノの掛け声と共に、チルタリスは神秘的な色の壁をベールを展開させる。
 伝説的な一撃を持つその攻撃を真正面から受け止めてみせた。
 それは、偶然でもマグレでもなかった。

「……やるじゃない」

 攻撃を防いだ後、チルタリスが緑色の炎を放つ。
 『竜の息吹』というドラゴン攻撃だが、パルキアは攻撃を受け止めた。
 ダメージは少量で、それほど対した影響はなかったが、チルタリスは連続で5連射で放った。

「無駄よ。『ドラゴンクロー』」

 爪で攻撃を次々と弾いていく。
 全力でやれば、パルキアが被弾することはなかった。

 だが、チルタリスの攻撃はそれで終わりではなかった。

「……!」

 天空から降り注ぐのは、複数の隕石のような攻撃だった。

 ズドドドドドドッ!!

「『流星群』よ」

 その技の影響でビルの壁に穴を開けて光が差した。
 その光がサクノとチルタリスを照らしつける。

「ふふ……力は上のようね。でも……この程度で負けるわけには行かないのよね」

 闇の中でレイラは、もう一匹ポケモンを繰り出した。

「(禍々しいシャンデリアみたいなポケモン……一体、どんな攻撃を……?)」

 ゴースト炎タイプであるシャンデラである。
 周りに紫色の炎を撒き散らしていく。

「これで、キミの攻撃はすべて意味を成さないわよ」

「……? 『竜の波動』!」

 ドラゴンタイプの水色の波動攻撃を真っ直ぐ撃つ。
 しかし、まっすぐ放った波動がサクノには、蛇行して進み、最終的には消えていったように見えた。

「(……こんなことって……?)」

 目を擦って、もう一度、水色の波動攻撃を指示するが、結果は同じだった。
 どうしても真っ直ぐに飛ばず、レイラにもシャンデラにも当たらなかった。

「『大文字』!」

 代わりにシャンデラが居る90度の方向から、巨大な大の字の炎が飛んで来た。
 サクノが反応してチルタリスにそちらの方向を向かせるが、チルタリスの後ろから攻撃が命中した。

「っ……!? (後ろから……?ってことは、もしかして、幻を見せられている?それなら……) エンプ!」

 ルカリオが目をつぶって出てきた。

「無駄よ」

 再び大文字が飛んで来た。
 しかも、今度は3つ連続で飛んで来ていた。

「『波動弾』!!」

 大文字に波動弾が当たったように見えた。
 だが、3つの大文字がポケモンに命中した。

「きゃあぁっ!」

 爆発し吹き飛ばされるサクノたち。
 チルタリスが防御に取ったおかげで、皆ダウンせずにいたが、まったくの無傷ではない。

「(ルカリオの波動でも……幻覚を破れない!?)」

 サクノの目にはゆらゆらと紫色の炎が自分たちを包囲し、さらに十数体のシャンデラがこちらを狙ってきているように見えていた。
 どちらから攻撃してくるかわからず、サクノの額から一筋の汗が流れる。

「さぁ、幻の空間で彷徨い続けなさい」

 レイラは勝利を確信した。

「オイ、俺を忘れないでくれや」

 ドガッ!!

 砂を纏った一撃だった。
 シャンデラがそれで吹き飛んだのだ。

「っ!」

「俺に幻は効かないって言うたやろ!」

 ワルビアルの砂を纏った一撃の『サンドクロー』がシャンデラの顔面を打っ飛ばす。

「やってくれたわね。パルキア」

 ハイドロポンプ級の水系技の威力をワルビアルが受け止めようとするが、いかんせん弱点であり、吹っ飛ばされてしまい、一撃でダウンしてしまう。

「ビリー、あなたがくれたチャンス、無駄にしないわ」

 シャンデラがダメージを受けた影響で、サクノに見えていた十数のシャンデラが1つに絞られた。
 同時にサクノの気持ちとシンクロしていたルカリオが動き出していた。
 腰の骨製の剣を抜いて接近する。

「っ……!『大文字』!!」

 焦ったレイラが近づかせまいと炎攻撃を指示する。
 しかし、ルカリオが輝きを放った剣を振るい、大文字をさっくりと真っ二つに切り裂いた。
 そのままの勢いでシャンデラに一撃を叩き込もうとする。

「そのまま『ボーンラッシュ』!!」

 『聖なる剣』の輝きを放った状態での太刀が見えない3連剣撃。
 シャンデラはそのまま地面に墜ちた。

「それなら、パルキア!最大の力で押しつぶしなさい!『亜空切断』!!」

 ワルビアルを倒したパルキアが雄叫びを上げて、数秒の時間を有した後、腕を振るった。

 ドゴッ!!

 攻撃を受け止めたのは、サクノのルカリオの剣だった。
 しかし、徐々に威力で押されていった。

「ファイ、構えて」

 コクリとチルタリスは頷く。
 翼を広げて、力を溜めていった。

「エンプ、かち上げて!『Seoul Blade』!!」

 サクノの呼びかけにより、ルカリオの剣が闘気のオーラを帯びる。
 そして、亜空切断を放ったパルキアの腕を上方へ打ち上げた。

「……な!!」

「あの一撃を流したやて!?」

 ルカリオの一撃によりパルキアは完全な無防備になった。

「ファイ、『God Bird』!!」

 今まで溜めていた、力を放出するのと同時に、パルキアへと突撃した。

 ドゴォォォォッ!!!!!!!!

 パルキアは腹部をタックルされて、徐々に押されていく。
 しかし、そこは伝説のポケモン。
 無防備であったにもかかわらず、脚力の力だけで攻撃を踏ん張っていたのだ。

「その強烈な『ゴッドバード』の威力が途切れた時が、チルタリスの最後よ」

 レイラの言葉と同時に、一瞬意識が飛んだパルキアが、気を取り直して『亜空切断』の溜めに入った。

 だが、その『亜空切断』が放たれることはなかった。

「ファイ、『Extra boost』!!」

 チルタリスの力が倍増した。
 力だけではなく、速度も上がったのである。
 すなわち、チルタリスの『God Bird』の威力は倍以上に跳ね上がった。


 そして、チルタリスとパルキアの勝敗は決した。


 パルキアは壁をぶち抜かれて、外で気絶した。
 反撃しようとしたレイラだったが、ビリーが体を取り押さえたのだ。

「……私の命運もここまでってことね……」










「この事件は、恐らくヒウンシティの街人には記憶にない事件になるだろう」

 ヒウンシティの一角である広場の公園。
 そこで大き目のハイキング用のバッグを持った長身で青いYシャツを着た男は、腕を組んでそう話す。

「これだけの騒ぎがあっても、何もなかったことになるってことっしょ?」

「アイたちを異空間に閉じ込めておいて、犯人たちは何も罰せられないなんて、どういうことなのよ!」

 疑問を持って、男に詰め寄る少年と子供のような母親。

「しかし、彼―――シンイチくんの言うとおりだろうね」

「カツトシ……どういうことよ」

「誰も認識していない。つまりは警察も消防もジムリーダーも、この事件は起こってもいることを知らなかったんだ。まあ、損害はビルの一部が崩壊したっていうのがあったけど。結果を見れば、誰も傷ついていない」

「ん〜、確かに」

 母親は可愛らしい声で頷く。

「そうね。この話は終わり!さぁ、カツキ、あなた、存分に旅行を楽しむわよ♪」

「いつものごとく、母さんは切り替えが速いっしょ」

 そうして、3人の親子は街中へと消えていった。

「記憶にない事件……か」

 サラリーマンがせかせかと歩く雑踏の中で呟く。

「きっと、実際にはその様な事件が手の平では数えられないほどあるんだろうな。まぁ、自分には知る由もないことだけど」

 右耳に掛けていたペンを持って、くるりとペン回しを始める。
 俊敏なる回転に、誰もが目を奪われるほどだった。

 ふと、足を止めて、シンイチは北の方角を向く。

「誇り高き女教皇<アキャナインレディ>のサクノ。彼女は父親と同じ運命に巻き込まれるんだろうな」










「で。お姉様。こいつは何だ?」

「ん?ビリーだけど、それがどうしたの?」

 両手にヒウンシティの名物であるヒウンアイスを持って満足そうに味わっているのは、ヒウンシティのゴースト化事件をさっくり解決したサクノ。
 今は停めているバイクのサドルに腰をかけていた。
 その対面にいるのが、どこか不満そうに隣の頭が悪そうな男を見るサクノの妹分であるカナタだった。

「ワイはサクノはんに惚れたんやー。もう骨抜きにするところか、サクノはんの強さに骨抜きにされてもうたでぇー!」

「だって」

 ビリーの口説き言葉の真意を特に理解していないサクノ。
 理解していない上で、普通の笑顔でカナタに微笑みかける。

「…………」

 カナタはかなり気に入らなかった。

「そんなわけで、ワイもあんさんたちについていくで!女の子二人の旅やなんて、ちょっと物騒さかいな」

「そんな口実でお姉様が一緒に旅をすると思ったら――― 「そうね。一緒に旅をしましょう。人数は多いほうが楽しいからね」

 カナタの表情が「えー、お姉様ぁ……」と不満を漏らしていた。
 だが、口に出しては言わない。
 あくまでカナタはサクノの意見を尊重する。

「さて、アイスも食べ終えたし、行きましょうか」

 と、サクノは前方を見て、あるものに釘付けになった。

「ん?どうかしました?」

 カナタはサクノの視線の先を見る。
 すると、そこには背中がもっこもっこの可愛らしいポケモンの姿があった。

「あれは、エルフーンさかい」

「エルフーン?」

「草ポケモンで少々クセがあるポケモンや」

「か、かわいい。(じゅるり)」

「お姉様?」

「エルフーン!私に捕まりなさい!」

 大型バイクに乗って、エルフーンを追い回すサクノ。

「さ、サクノはん、可愛いものに目がないんやな」

「でも、お姉様の可愛いの基準がわからないんだよな。ライチュウはわかるんだけど、ルカリオとかウインディとか挙句の果てに、テッカニンが可愛いといわれるとどう反応すればいいか……」

「せ、せやな……」

 半狂乱でエルフーンを全力でバイクに乗って追い回すサクノと涙目で逃げ続けるエルフーン。
 カナタとビリーは、同じ気持ちでサクノを見守っていたのだった。










 ……彼らは一体どうなったかというと……










「…………」

 影の薄い中年男……ジュンキは町の雑踏を歩いていた。
 そして、再び自分を打ち負かした年頃の女性に会った。

「どうして、俺を見逃した?」

「シンイチが言っていたやん。この事件は誰にも触れることはできない事件だったって。あなたは別に捕まる必要はないやん。ただ、ウチは自分の行ったことをあなたに見つめなおして欲しいやん」

 鼻でふんっと一蹴するジュンキ。

「それより、お前。俺を倒した時のあのイーブイの力……一体なんだっていうんだ?」

「あ、アレのことやん?」

 人差し指でクルクルと円を描きながら、ユミは説明を始める。

「ウチのイーブイは、ちょっと特殊で、親の技や体質が受け継がれているやん。だから、イーブイの内に『ボルトチェンジ』や『リーフブレード』が使えるやん。他には『悪の波動』や『ものまね』も使えるやん」

「チッ……その存在は反則だろ」

 舌打ちするジュンキ。
 そんなジュンキをユミはじっと見ていた。

「なんだよ?」

「ジュンキ……さん。ショップ・GIAに戻ってくる気はないやん?……できれば、小さい頃の“あの人”のこととか教えて欲しいやん」

 最後のほうはジュンキの耳に入るかはいらないか位のボリュームになるユミの声。
 ジュンキの返答は一言だった。

「今更、ショップ・GIAに思い出なんか……ないな」

 そして、雑踏に消えていくジュンキ。
 透明人間になったように、ジュンキの気配はまったく感じられなくなった。

「そう……残念……やん」

 決別を表すように、ユミも振り向かずにその場を後にしたのだった。



 今後、ジュンキがショップ・GIAの前に立ちふさがることも仲、間になることもなかったという。










 第5話完


HIRO´´ 2011年10月17日 (月) 23時26分(24)
題名:第6話 P50 秋@

 ―――P38年の春。

 この年は特に目立った事件の無い年である。
 あえてどんな事件があったかを示すならば、3年前にホウエン地方が水帝レグレイン率いる水郡の暴走によって壊滅させられた事件や、行方不明者がぼちぼちあった神隠し事件が挙げられるだろう。

 そんな何もないと思われるとある年。
 シンオウ地方のやりのはしらにとある少女達の姿があった。

 その少女達は怪しい紫色の装束たちと戦っていた。

“たった二人の女に、負けてたまるかぁッーーー!!!!”

 数人の男女は、何かの組織に属する暗躍集団だった。
 しかも実力も精鋭の組織の中でトップグループだった。

 ところがだ。

「コロトック、ここで『ロンドメロディ』」

 二本の手から繰り出される集束された見えない音の振動が暗躍集団のポケモンをなぎ払う。
 このコロトックは、音による攻撃で、すでに相手の数匹のポケモンを倒している。

“私のマルマインにそんな攻撃は通用しないわ!!”

 しかし、当然防音を特性に持つポケモンに音属性の攻撃は通用しない。
 マルマインが少女に向かっていく。

 少女はポッチャリとした体型でやや大人しそうに見える風貌である。
 白髪のショートカットで赤いカチューシャをしているために、頭の部分がかなり目立つ。
 服装はぴっちりとした黒のワンピースの上に茶色いセーターを着ている。
 そのぴっちりしたワンピースと言うのは彼女の特徴を醸し出している。
 というのも、全体的に……すなわち胸を中心にふんわりとした身体を持っているのである。
 結論は大きな胸の持ち主であった。

 彼女の名はマキナと言う。

 マキナは向かってくるマルマインに見向きもしなかった。

「『ドラゴンクロー』っ!!」

 一匹のフライゴンがマキナを守るようにマルマインを打ち落とす。

「決めるわよ、フライゴン―――」

 白髪の少女と背中合わせになった少女は、後ろにいる少女と比べるとスレンダーなモデル体型の少女だった。
 赤のセミロングより長めで右垂らしのサイドテール、赤のミニスカートの下にスパッツ、肩を完全に剥き出しにしたコルセットのような緑の服に首に青いストール。
 おしゃれな格好をしている上に、彼女の通常の表情が強気な表情をしているために、お嬢様というよりは高飛車な王女に見えなくも無い。
 だが、実際は凄く活発な少女なのだ。
 まぁ、スパッツを穿いている時点で、活発そうなのだが。

 そんな彼女の名前はアスカと言う。

「―――『フレイムストリーム』っ!!」

 砂地獄と火炎放射の合わせ技で、すべての敵を巻き込み、一気に撃破した。
 彼女らはそれぞれコロトックとフライゴンを戻す。

“私より可愛くて強いなんてー……”

“ぐ、ぐぉぉぉ……”

 暗躍集団のトレーナーも、技の余波を受けて気絶したのだった。

「ふう、つかれたー。マキナ、お疲れー」

「ふふふ。アスカ、これくらいならまだ疲れてないわよ」





 マキナ“16歳”とアスカ“16歳”。
 二人はホウエン地方のフエンタウン出身の幼馴染同士のトレーナーであった。

 小さい頃、2人は村の外を夢見ていた。
 しかし、アスカはあの炎使いのジムリーダーのアスナを母に持ち、その母親に外出を禁じられていた。
 特に大きな理由は無いが、おそらく、アスナは過保護だったのだと思われる。

 さらに11歳の頃に勝手にジムリーダーにされて、アスカはさらに町の外へ出ることができなかった。
 母親に押し付けられるがままの人生にアスカは、ついに我慢ができなくなった。
 そして、12歳の時、母のアスナの目を盗んで、幼馴染のマキナを連れて、村を飛び出した。

 村の外を出ると、様々な苦難や困難が待ち受けていた。
 しかし、2人にとってはどれも楽しいことでしかなかった。
 自由になれたことがこんなにも幸せなことだったと噛み締めたのである。

 そんな道中で、アスカは恋をした。
 相手はクシャッとした束感のある灰色の髪の男―――名前をエバンスと言った。

 初めての恋に戸惑いながらも、幼馴染のマキナの助けを借りて、必死にアタックを続けた。
 しかし、エバンスに深く拒絶されて、その恋は実ることはなかった。
 アスカには、振られた理由を知ることもなかった。

 後にアスカはビーチで三つ編みの少女と一緒にいたエバンスと再会した。
 八つ当たりするようにその女の子に勝負を挑んだが、勝つことはできなかった。

 その悔しさをバネにアスカは今まで旅をして来たのである。
 2人の実力は、四天王相手でも互角の勝負はできるくらいの力をつけていた。



 だが―――



 そんな二人は、このP38年の春に存在を消した。
 世界から消えたのではない。
 詳しい事件の詳細はここでは話さないが、1つだけ言えることは、彼女らの姿を見たものは、この10年間誰一人としていなかった。





 ―――P50年の夏。

「ん〜今日も暑いわねぇ!!」

 バンザイっ!! と暑さから解放を求めるがごとく、赤い髪のサイドテールにおしゃれなクリーム色のキャミソールにフード付きパーカーを引っ掛けた少女が叫ぶ。

「下ももうちょっと涼しいカッコしたいけどねぇ……」

「ふふふ。流石に何も穿かないわけには行かないわよね」

「いや、そこは普通にパンツを穿くでしょ!?」

 白髪に全体的にふんわりした身体つきをし、白いワンピースの少女にツッコミを入れるサイドテールの少女。

「ん?アスカはスパッツの下にパンツを穿いているの?……だとしたら、パンツのラインが見えて恥ずかしくないの?」

「さ、流石に今はパンツ穿いていないわよっ!!!!」

「(ノーパンね)」

 言葉に出さず、クスクスと笑うのはマキナ“18歳”。
 大きな声で「パンツ穿いてない」と公衆の面前で発言して、赤面したのはアスカ“18歳”だった。





「しっかし、手掛かりが見つからないわねー」

「そうね。この時代に来て早2年。もうこの時代に住んじゃったほうがいいんじゃないかと思えてきちゃったね」

 夜のポケモンセンター。
 そこで2人は些細な言い争いをしてしまう。

「絶対にイヤよ!あたしは帰るの!元の時代に戻るの!そして、戻って―――」

「エバンス君に会うって言いたいんでしょ?」

 マキナは目を瞑って、深刻そうに唸った。

「ゴメン、アスカ。私、黙っていたことがあるの」

「何よ?」

「エバンス君……実は、私たちが消息を絶った2ヶ月後に亡くなっているの」

「……え?」

 マキナは未来に来てから、ずっとアスカを応援しようと、エバンスのことを調べていた。
 だが、わかったのは残酷な現実だった。
 諦めさせようとするマキナと認めたくないアスカ。

 二人は大喧嘩し、アスカはポケモンセンターを飛び出してしまった。
 少し落ち着くまで一人っきりにさせておこう……と、マキナはその場にとどまった。



 だが、1週間経っても、アスカは戻ってこなかった。



 流石にマキナは心配になって。アスカを探しに町を探した。
 そして、とある倉庫を探している時だった。

「!!」

 マキナを3人の女トレーナーが囲んだのである。
 3人の女トレーナーの特徴と言えば、メイド服を着たスレンダー系のお嬢様系、バニーガールの格好をした羞恥心丸出しの気弱系、レースクイーンの格好をしたギャル系だった。
 三者三様がポケモンを繰り出し、マキナに襲い掛かる。
 だが、マキナの実力はその3人の実力をあわせた力よりも上だった。

「(この子達がアスカを? でも、実力的にアスカがこの子達に負けるはずが……) ……っ!!」

 ドガッ!!

 マキナに向かって、一匹のオオスバメが打撃を放った。

「くぅっ……」

 咄嗟に新たにニョロトノを出して防御をしたために、何とか直撃を避けられたが、それでもダメージは多少なりともあった。

「……マキナか。アスカと同じく、10年前と変わってないな」

「……!!」

 マキナはその人物の顔を見て驚く。

「……まさか……」

 信じられなかった。
 その人物が3人の女の子を従えて、自分を襲わせていることが信じられなかった。

「10年経っているから、間違いかもしれないけど……あなたは、ケ―――」

 ドッ

 三人の少女が一斉にマキナを押し倒した。

「そう。そして、意識を奪い、すべてを奪うんだ」

 その人物は野獣に満ちた目をしていた。
 マキナが10年前に会った面影はもう無かった。

「(この子達……何なの……?まるで熱にうなされたように、目が……虚ろに……?)」

 メイドの女の子が白い布を口に押し付ける。
 何かの薬品を嗅がされたらしく、マキナはそのまま気を失っていった。





 そして、その先に待っていたのは……

「……っ!!」

 目を釘付けにする異様な光景だった。
 言葉にできないような、痴態の数々。
 言ってしまえば、そこは18歳未満は立ち入り禁止の過激な世界だった。

「ねぇ、マキナぁ……」

 その中に変わり果てたアスカの姿もあった。
 どう変わり果てたかと言えば、一言でいえば、女の色香が漂う怪しさを身につけたと言ってよいだろう。

「マキナも……こっちにおいでよ……楽しいよぉ」

「ダメよ、アスカ……しっかりして、アスカぁっ!!」

 虚ろいの果てを経験したアスカがマキナを誘い込んでいった……。





「後は、男女5人くらいでいい……かしら」

 黄色い髪のショートカットに女王様のようなボンデージをつけた30代目前の女性は足に力をこめながら、そう呟く。

「ま、任せてください。……それよりもっと強く……」

 マキナを捕まえる時に、野獣のような目でギラギラしていた人物は、彼女に足で背中を踏みにじられて、さらに刺激を強請っていた。
 そんな彼女は足に力を篭める。

「並の男なんて、こんなもん。踏まれることで悦を覚えるヤツばっか」

 そして、彼女はポツリと誰もいないはずの空間に向かってポツリと呟く。

「あと少しで、私たちのこの空虚な気持ちも抜けられるんですよね……お姉様」










 第6話 P50 秋@










 季節は秋である。
 秋と言えば紅葉である。
 紅葉と言えば紅葉である。
 “こうよう”と“もみじ”は同じ漢字である。

 とりあえず、ここはホドモエシティ。
 イッシュ地方の玄関と呼ばれ、多くの品物が流通すると言われる港町である。
 そして、港町であるがゆえに南の方には多くの倉庫が存在していた。

 そのポケモンセンターのロビーに一人の少女とモフモフなポケモンの姿があった。

「ふふっ♪ やっぱり、あなたは可愛いわね」

 フ〜ン♪ とミッドブルーのポニーテールの少女サクノの隣にいるのは、エルフーンだった。
 毛並みを優しく撫でられて、エルフーンはとても気持ち良さそうに鳴き声を上げていた。

「あのシファーと言う男との戦いで、私はまだまだだという事に気づかされた。世の中には強い人がいるのね」

 1ヶ月ほど前に、サクノはエルフーンをゲットし、そして、古の城で闇の帝王と自負する男と戦っていた。
 ポケモンリーグを圧倒的な実力で制覇していたが、まったくその実力を鼻にかけず、日々を謳歌してきたサクノ。
 それでも、自分の実力が及ばない相手がいるということに、さらにやる気を出し始めていた。

「それにただ強いだけじゃだめね。強い信念を持って戦わないと、この先強くなんてなれない。あのレイラやシファーはその成すべきこと……信念を持って戦っていた。私もそれを見つけなくちゃ」

 「強いトレーナーがいいトレーナーとは限らないしね」と付け加えてサクノは思う。

「ラック。新たに仲間になったあなたは、まだまだ強さの伸びしろがある。一緒にがんばっていこう」

 元気よくエルフーンは頷いた。
 それを見てサクノは、笑顔を向けた後、手元の作業に戻った。
 今サクノの手元にあるのは、1つのメガネだった。

「(『ピントレンズ』と『広角レンズ』……この効果をあわせられるようなアイテムを作ることができればいいんだけど……レンズはデリケートだから難しいわね)」

 彼女の特技の一つ、ポケモンのオリジナルアイテムクリエイトである。
 彼女のオリジナルアイテムは、今までのバトルで彼女のポケモンの力を最大限に発揮させていた。

 例えば、Lightingという異名を持つサクノのライチュウのレディの持つ『プレートの小手』。
 いかづちのプレートを右腕に装備できるよう改良し、防御アップと電撃攻撃の力を増大させる。
 さらに、ライチュウの必殺技である『Ralegun』は、小手を外して、電撃を集中させたかみなりパンチでこの小手を打ち抜くことで発生させる電撃大砲である。

 例えば、Seoul Bladeという異名を持つサクノのルカリオのエンプの持つ『骨の刀』。
 貴重な骨と言う売るだけしか価値のなさそうなアイテムを削って、木刀のような形にしたのである。
 ルカリオの波動の力を自在に纏わせて振るうことにより、存分に力を発揮するのである。

 例えば、Archerと言う異名を持つサクノのフローゼルのジャックの持つ『羽根の首飾り』。
 パワフルハーブを消耗しないように改良し、身につけることでタメが必要な技もすぐに出すことができるようになった。
 これにより、水系や氷系の技だけでなく、風系のかまいたちも自在に放つことができるようになったのである。

 このようにサクノのポケモンはすべてオリジナルのアイテムを持っていた。

「(とはいえ……このレンズはエルフーンに向いているかなぁ……?)」

 疑問に思いつつもサクノが作業に集中している時だった。

「キミ、ちょっといいかな」

 後ろから背の高い赤髪短髪の男性が声をかけてきた。
 身長は190以上はあり、大体30代前半。
 優しい笑顔をして話しかけてきたが、サクノはその優しい笑顔に違和感を感じた。
 違和感と言っても、悪い意味ではなく。

「なんでしょうか?」

「キミはあのサクノだろう?おれとバトルしないか?」

 表情を崩さず、彼は笑顔でサクノをバトルに誘ったのだった。





「『失踪注意』かぁ……、つーか、そんなもん、どう注意すればいいんだよ?」

 ホドモエシティの南部にある隠れクレープ屋で2つクレープを買って、カナタはポケモンセンターの帰りに、一つの看板を見つけた。

 そこには、行方不明になったホドモエシティの女の子4人と男の子1人の顔写真が貼られていた。
 そのリストの下にデカデカと『失踪注意』と書かれていたのである。

「なんか、事件の匂いがしおるで」

 むしゃむしゃと蒸しパンを食べながら、紫のふわふわヘアのビリーが真面目な顔で頷く。

「事件なのか?単に街を飛び出して旅に出たっていう、ありがちな展開じゃないのか?」

「そう言ってしまえば、そこまでやな。そういえば、カナタ、クレープを二つも食うんか?」

 右手にイチゴのクリームがたっぷりのクレープ、左手にバナナとホイップクリームがたっぷりのクレープ。
 カナタは2種類のクレープを持っていたのである。

「そんなわけ無いだろ!2つも食べたら、太るだろ!片方はお姉様の分だ!」

「そうなんか?てゆーか、カナタでも太るとか気にするんやなぁ」

「当たり前だろ!!」

「でも、朝とか昼は結構食ってるやろ?」

「朝食と昼食は別だ!私は甘いものをバクバク食べるのがダメだって言ってるんだ!」

「そーか、そーか、じゃあ、朝昼ちゃんと食べて成長しんしゃい」

「上から目線がムカつくんだよ!」

 と、先に進もうとするビリーの背中を蹴り付けたのだった。

「にしても、なんでこんな倉庫街にクレープ屋があるんだ?こんなにおいしいなら、もっと街の中でやれば売れるのに」

「いやいや、こういうところにあるから、おいしいと感じるや」

「そんなもんかよ」

 と、二人は喋っていたが、ふと足を止めた。
 進行方向に二人の女が立ちふさがっていたからである。
 二人とも10代後半の少女だった。

「明らかに私たちを見てるよな?」

 カナタが不審そうに呟く。

「ぐふ、ぐふふ」

「げっ、何不気味に笑ってんだよ?」

 ビリーがどこかの何かみたいに不気味な笑い声をあげるのを見て、カナタは顔を引きつらせる。
 気がおかしくなったかと思っていた。

「なあ、お姉ちゃんたち。俺がカッコイイから、二人でお誘いに来たんだろ?」

 二人の年上の少女へと歩いていき、自信満々に口説きにかかる。

 ゴキッ!!

「ぐふぉ――――――――――――――――――っ!!」

「アホかッ!んなワケないだろ!」

 カナタは助走をつけて、思いっきりジャンプしてドロップキック。
 その攻撃は見事にビリーの背中を捉えた。
 そのまま倉庫の壁にぶつかるまでビリーは転がっていったのだった。

「ははは、ごめんなさい。あのバカがまた変な行動に出たみたいで―――」

「いいえ。彼の言っていることは間違いじゃないわ」

「え?」

 ふんわりとした柔らかい異称と身体を持つ少女がにっこりとカナタに囁きかける。
 ちなみにその子はナースの格好がとても似合っていた。
 しかし、カナタが改めてよく見ると、どこか不気味な色気を纏っている感じがした。

「ただ、合っているのは、お誘いっててんだけだけどねっ!!」

 もう一人の女の子……チャイナドレスを着たモデルのようなスレンダーな少女は、舌をぺろりと舐めて、カナタを見ていた。

「「それもあんた(あなた)をね!!」」

「!!」

 クレープを食べている場合ではなかった。
 嫌な予感がして、クレープを捨ててすぐにヌマクローとニョロゾを繰り出すカナタ。

「『マッドショット』、『水の波動』!!」

 カナタの作戦はすぐに技を繰り出して、相手が怯んだ隙にその場から逃げることだった。

 しかし―――

「ぐはっ!!」

 ヌマクロー、ニョロゾ、そしてカナタが同時に切り飛ばされる。
 カナタが油断したわけではない。
 単に相手とのレベルの差がありすぎるだけだった。

「『メロディブレード』。音楽を纏ったこの腕で相手を切りつける技よ」

 ナース服の女の子の隣にいるのはコロトック。
 実際に攻撃を仕掛けてきたほうだった。

「ちなみに、あんたの攻撃を防いだのは、あたしの『砂の壁』ね」

「防御ありがとう、アスカ」

 フライゴンと一緒にいるのは、チャイナ服の女の子がアスカ。
 水と地面の攻撃を完全に無効化したのだ。

「(完璧な不意打ちだったのに、防がれた上に反撃された……。こいつら、ヤバイ……強すぎる……)」

「さぁ……あんたも一緒に来なさい」

「楽しいわよ……」

 カナタにとって、その2人はとても恐ろしく見えた。
 何か危険な香りを漂わせてジワジワと歩いてくる。
 カナタは感じた。
 知ってしまったら、何かが終わってしまうと。

 ドゴッ!!

 コロトックが重い一撃を受けて吹っ飛ぶ。

「メタグロス、もう一発だっ!!」

「フライゴン、『砂の壁』っ!!」

 懇親の鋼の拳は、砂の壁をもぶち破り、フライゴンを打っ飛ばした。
 倉庫の壁に打ち付けられたが、フライゴンはヨロヨロと起き上がる。
 コロトックも同じだった。

「び、ビリー……」

「まったく、お前達はこのおとこおんなを百合世界にでも引き込むつもりか?別に俺はいいんだけど、サクノはんが何て言うかわからないからな。そうはさせないぞーぉっつつ……」

 いたって真面目な声でビリーがこの場に立つが、顔を歪まして背中を弓なりにそらせていた。
 どうやら、カナタに受けたツッコミのダメージが大きいらしい。

「別に問題ないわよ。ね、マキナ」

「そうね。サクノはもう“あの方”が連れて行っているはずだから」

「なにっ!?まさか、サクノはんにもあんたらの魔の手がッ!?」

「魔の手?いいえ……これは救いの手……」

「あたしたちを天国へ導いてくれる救いの道よっ!」

 アスカとマキナは傷ついたポケモンたちを戻して、新たなポケモンを繰り出す。
 マキナはバクオング、アスカはバクーダだ。
 それを見て、ワルビアルを追加するビリー。

 2匹同士のポケモンがぶつかり合い、互角の勝負を繰り広げる。
 結局のところ、両者の2体は、ダウンした。

「互角……」

「やるじゃない」

「(……まずい、普通に互角じゃ、ポケモンの数が多い相手のほうが有利だ)」

 単純に相手が2人いるためにポケモンの数が12匹で、ビリーが6匹なのである。
 すなわち、互角の状況を続ければ、先にポケモンの数が尽きるのはビリーなのだ。

「カナタ、お前は先に逃げろ」

「え……?」

 カナタだけ聞こえる声でビリーは言う。

「狙いはどうやらお前とサクノはんや。なら、お前が逃げている間に俺が時間を稼ぐ」

「でも……」

「でもじゃない!足手まといなんだよ」

「っ!」

 カナタ自身もそれはわかっていた。
 唇を噛み締めて、カナタはその場を立ち去るしかなかった。

「逃がしたのね」

「それなら、あんたを片付けて、さっさと彼女を追うことにするわ!」

「なんでカナタやサクノはんを狙う!?」

「あたし達のご主人様がご所望しているからよ」

「それに……ご褒美も……欲しいし……ね」

 マキナがゆったりとした顔で言い終わると、凄く緩んだ顔になる。
 それを聞いたアスカも同じだった。

「ここは全力で通さないっ!!」

 ピクシー、クイタラン、デンチュラを同時に繰り出し、壁のように2人の行く手を阻む。

「ブーバーン!」

「ニョロトノ!」

 激突した結果は……

「まさか……」

「それなら次のポケモンね」

 ビリーの3匹のポケモンが迎撃を成功した。
 新たにアスカとマキナはネンドールとエネコロロを繰り出した。

 この調子なら、何とか勝つことができる。
 ビリーはそう思っていた。

 突如吹く、冷風を浴びるまでは。

「(……なんだ、この冷気……?)」

「エネコロロ、『メロディプレリュード』!!」

「ピクシー、防御だ!」

 ドゴッ!!

「なっ?」

 防御はあっさりとやぶれた。
 それどころか、ピクシーが呆気なく倒れてしまった。

「ネンドール、『ツイン破壊光線』!!」

「回避を……ぐわっ!!」

 二筋の破壊光線が交錯し、あっという間に3匹がダウンしてしまった。

「(何だ……?いきなり、格段にあの2人が強くなった?)」

「残念だけど、あんたの時間稼ぎは、無駄だったわよ」

 黄色い短髪の女性がグレイシアと共に現れる。
 しかもその女の子の後ろには、ぐったりしているカナタの姿があった。

「なっ!?カナタ!?」

「「お嬢様……!」」

 アスカとマキナはその女の子に跪いた。

「まだ、仲間がいたって言うのか……」

「仲間と言うより、配下ね。この子達は私たちの従順な手駒。何でも言う事を聞いてくれるの。そして尽くしてくれた代わりにいろいろなご褒美を上げるのよ」

 ビリーは最後のモンスターボールからランクルスを繰り出す。

「無駄よ!」

 ドゴッ!!

「がっ!!」

 エネコロロにランクルスが抑えられ、そして、その短髪の女性がビリーの背中を蹴っ飛ばし、背中を踏みつけた。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」

 ギリギリと踏みつけられて、ビリーは悶絶……そして、気絶した。
 なんていうか、カナタに蹴られて既に背中を痛めている状態だったのだ。
 無理もない。

「あとは、サクノだけね。あんた達、この子を運びなさい」

 ハイと、2人は返事をして、カナタを運んでいったのだった。






 バリバリバリッ!!!!

 街の外れで電撃が迸った。
 その一撃で、屈強な防御力を誇るドータクンはダウンした。

「2匹先にアウトでおれの負けか……流石に強いな」

 納得するように男性は呟く。
 ドータクンを戻して、ゆっくりと歩いてサクノのライチュウに近づいて頭を撫でてやる。

「『Railgun』と『Lighting』を警戒していたのに、まさか、他に大技もあったとは知らなかったよ」

「私もエレキブルのパワーやドータクンのスピードには驚かされました。ジャックとレディももっと強くなるようにがんばります」

 両者共に笑顔で言葉を交わした。

「ところで、キミのその強さを見込んで頼みがあるんだ」

「……なんでしょうか?クレナイさん」

 彼……クレナイの笑顔でもあるにもかかわらず真面目そうな雰囲気に、サクノも真剣になる。

 しかし、二人はふと周りの様子に気が付いて振り向いた。
 三人の女の子がぐるりと包囲していた。
 そして、一斉にポケモンを繰り出して襲い掛かってきた。

 だが、サクノと彼を合わせた実力は、三人の実力を上回る。
 あっという間に、3匹のポケモンをノックアウトし、サクノのエルフーンが宿木の種の効果でトレーナーの動きを拘束した。

「これは一体……っ!」

 ドゴッ!!

 空からの急襲だった。
 一匹のオオスバメが燕返しをサクノに狙いつけていたのだ。

「狙いは……私?」

 咄嗟にエルフーンの『コットンガード』で攻撃を弾き飛ばした。
 跳ね飛ばされたオオスバメはヨロヨロと空へ舞った後、トレーナーの元へと降り立った。

 そのトレーナーは、がっしりとした身体をした男性で、レンジャーの格好をしていた。

「流石は誇り高き女教皇<アキャナインレディ>。お嬢様の言ったとおり、堕とし甲斐がありそうな女の子だ」

 ギラッと野獣の目をしている男。
 サクノは彼の言葉にキョトンとして、首を傾げる。

「オトシガイ?」

 キョロキョロと周りを見るサクノ。

「何をしているの?」

 優しい笑顔でサクノの隣のクレナイは、問いかける。

「あの人……私を落とし穴に嵌めようとしているんじゃないかなと思って、その罠を探していたんです」

「いや、あいつはそういう意味で言ったんじゃないから」

「……ん?それじゃどういう意味ですか?」

 サクノは真面目な顔で彼に問いかけるが、「ええと……」とクレナイは言いづらそうに首を掻いていた。

「ヘラクロス!!」

 メガホーンで襲い掛って来るのを見て、エルフーンが対峙する。
 ふわふわと攻撃を何とかかわすが、隙を見てエルフーンを無視し、サクノたちへと襲い掛かった。

 ドッ!!

「トレーナーを攻撃するとは反則だな」

 やはり笑顔を絶やさず、クレナイはニョロボンを繰り出して、ヘラクロスのメガホーンを受け止めていた。

「オオスバメ、ヘラクロス……そして、フーディンとグラエナ、行けっ!!」

 新たに2匹のポケモンを追加して、彼は2人に襲い掛かる。
 しかも、男は機械のようなものを構える。
 そして、丸っこいディスクのようなものを発射をした。
 ポケモンレンジャーが使う、いわゆる、キャプチャースタイラーだった。
 5つの戦法がサクノとクレナイに襲い掛かった。

 新しく出してきたグラエナは炎のキバで襲い掛かるが、エルフーンが押さえつける。
 ヘラクロスは相変わらず、ニョロボンが一進一退の攻防を続けていた。
 しかし、このままでは上空から仕掛けてきたオオスバメ、サイコキネシスを発動しようとするフーディン、ニョロボンをキャプチャ仕様とするディスクに対抗するのは不可能だった。

 ビシッ! バシッ! バキッ!!

 一匹の何かがフーディン、オオスバメの体勢を崩し、さらにキャプチャのディスクまで破壊した。

「……!?何が!?」

「ジョー」

 サクノは指示を出す。

「『シザークロス』!」

 ズババババッ!!

 目にも止まらぬ速さで、フーディンを切りつけて、あっという間にノックアウトさせた。

「速い!?」

「一気に行くわよ!」

 一瞬だけ、彼にその姿が見ることができた。

「テッカニン……『Slash』かっ!!」

「『Cyclone Slash』!!」

 縦横無尽に駆け抜けて、すべてのポケモンを切り裂いていった。
 クレナイはその攻撃の意図に感付いて、ニョロボンを戻して、地面に伏せていた。

 結果―――

「ぐっ……!!」

 それほど、防御能力の無かった彼の4匹のポケモンは、地面に倒れていた。

 そして、クレナイが男に向かって言う。

「姿を見せたな。教えてもらおうか。なんでこんなことをしているんだ?……ケビン!!」

「……っ!!何故俺の名前を……」

「昔、ホウエン地方で度々名前を聞くほど有名なトレーナーだったから、顔を覚えていたんだ。さぁ、どうしてこんなことをするんだ」

 そして、次の瞬間、

「教えろよ、クソ虫。さもなくば、痛い目を見るか?ああん?」

 相変わらずの笑顔で、罵詈雑言を吐き出すクレナイ。


「ナイ様。そんな怖い言葉はダメですよぉ?」


「……っ!?」

 クレナイは聞き覚えのある声に振り返る。

「ナイ様はもっと笑顔で優しい言葉をおかけにならないとぉ」

「ちぇ、チェリー!?」

 チェリーというなにふさわしいピンク色のショートカットの女性だった。
 年齢は20代前半だった。

「探したんだぞ!」

 ドゴォッ!!

「っ!?」

 フシギバナのつるのムチがクレナイの腹にめり込んだ。
 そのまま、クレナイを吹っ飛ばした。

「クレナイさん!?」

「ふふっ……」

 チェリーは不敵に笑う。

「どういうこと……?」

 サクノは戸惑う。

「なん……でだ……チェ……リー……」

「気付かないのか、クレナイ。このチェリーも俺の忠実な駒なんだよ」

 ケビンはゴローニャを繰り出して、クレナイに追撃を仕掛けたのだった。










 第6話完



HIRO´´ 2012年01月04日 (水) 22時04分(25)
題名:第7話 P50 秋A

 ☆前回のレジェンドオブパラダイスΙのお話

 ホドモエシティにやってきたサクノたちご一行。
 ビリーは、謎の黄色い短髪の女性の手駒であるアスカ(ホウエン地方フエンジムのジムリーダーで、エバンスと言う少年に恋をしたが振られた勝気な少女―――オメガ総集編前編参照)とマキナ(アスカの幼馴染でオトとエバンスを除く男が苦手だが、オトやエバンスのハダカを見てはエロイことをよく想像して欲情している穏やかな少女―――オメガ総集編前編参照)に追い詰められて、カナタを誘拐されてしまう。
 一方のサクノは、クレナイ(ホウエンリーグで優勝したこともあり、エバンスに対してキレて暴言吐きまくりで罵倒したこともある頼れる大人の男性―――オメガ総集編中編参照)にバトルを挑まれていた。
 そのバトル直後にケビン(エバンスのライバルであり、間違ったことが許せなく、ホウエン地方が沈んだ時もポケモンリーグ出場を捨て、復興に手を貸した正義のある男―――オメガ総集編前編参照)が、手駒の女の子3人を連れて襲い掛かってきたが、返り討ちにしようとする。
 しかし、クレナイの妹であるチェリー(エバンスのエンブオーを盗んだこともある手癖の悪いくノ一みたいなウザ甘ったるい声の女性―――オメガ総集編中編参照)が油断していた兄を攻撃した。
 ピンチに陥ったクレナイにケビンのゴローニャが襲い掛かろうとしていた。





 ズドゴッ!!

「っ!!」

 呆然としていたクレナイに攻撃は当たらなかった。
 ハッとクレナイが気付くと、テッカニンがゴローニャの攻撃を止めようとしていた。

「サクノちゃん!?」

「(ダメ……ジョーじゃ、ゴローニャのパワーをいなせない!!)」

「テッカニンで止められると思うなっ!!」

 ゴローニャは少しの間だけ止められたが、やがて何事もなかったかのようにテッカニンごとクレナイへ攻撃しにいった。

「っ!!」

 何とかクレナイは動いて、攻撃を回避するが、テッカニンは押しつぶされてダウンしてしまった。

「ナイ様〜逃しませんよぉ」

 チェリーのフシギバナが葉っぱカッター連射してくる。
 だが、攻撃が届く前に地面に炎を吹き付けて葉っぱカッターを防いだポケモンがいた。

「ゴローニャ、『ストーンエッジ』!!」

 サクノはチラッとクレナイを見る。
 彼は信じられないものを見る目でチェリーを見ていて、戦意が失せていた。
 そして、相手のケビンは攻撃する気満々で、チェリーも次の攻撃を準備していた。
 彼女は決断した。

「アンジュ、『竜の怒り』!!」

 地面に向かってドラゴンブレスを放った。

「「!!」」

 岩の破片達は、地面にぶつかった烈風で威力を殺された。

「フシギバナ、『ソーラービー……って誰もいませんねぇ」

 チェリーが技名を指示するのを辞めて、サクノたちがいた場所を見て呟いた。

「逃げられたか……さすがアキャナイン。引き際も見極めているか」

 ケビンはゴローニャを戻して、身を翻す。

「一旦、戻ろうか」

「そうですねぇー」










 第7話 P50 秋A










「あら?どうしたんですかぁ?」

 チェリーとケビンは拠点へ戻ってきた。
 2人が戻ってきた拠点とは、どこかの倉庫のような場所であった。
 しかし、倉庫であるにもかかわらず、相当な広さと部屋数があった。
 恐らくは、この拠点のメンバーが作ったのだと思われる。

「どうかしたのか?」

“おかえりなさい、ケビン様。実は……”

 2人を迎えたのは執事の格好をした10代半ばの男の子だった。
 可愛い顔立ちをして、メイド服を着せられたら女の子に見られそうにも見えなくも無い。

「お嬢様の手駒の三人が、あっさりと返り討ちにあったから、お仕置きを受けているのか……」

 と、自分で言って、ケビンはゾッとしていた。
 同じく執事の男の子も顔を真っ青にしている。

“は、はわわぁぁぁぁん!!”

“お願い……もう……あぁぁぁぁ……後生ですからぁぁぁぁーーーー”

“いっそ……殺してくださいぃぃぃぃ……”

 パタンと隣の部屋から出てきたのは、短髪の黄色い髪の女性だった。

「ただいまです……お嬢様」

 ケビンはその女性の足元に近づいてひざまずく。
 それにチェリーもならう。

「サクノは……連れてこられなかったようね」

「申し訳ございません。逃がしてしまいました。次のチャンスを……」

「そうね」

 女性はふと考える。

「流石に誇り高き女教皇<アキャナインレディ>と言われているだけのことはあるわ。ケビンで押し切れないのも無理はない」

「……っ」

「次は私も行くわ」

 そういうと、悲しそうに彼女は笑ったのだった。

「ふぅ……楽しかった」

「ハァハァハァ……もうちょっと、相手したかったわ……」

 とある3人のお仕置き部屋から2人の女の子ができてきた。
 アスカとマキナだ。

「チェリー。あなたが3人のお仕置きの続きをしなさい」

「えぇーと……んー。私、あの子の相手をしてみたいかなぁ」

 と、倉庫の隅っこでいまだ気絶しているカナタの姿があった。

「ちょっと、お嬢様に意見をする気なの!?」

 アスカがチェリーに注意を促す。

「でも」

 こそっとチェリーは小さな声で言う。

「マキナはお仕置きの続きをしたいみたいだよ?私がカナタをやれば、彼女はその続きが出来るんじゃない?」

 ニコリとチェリーが笑うと、アスカは一旦間を置いて、そして、顔を蕩けさせて頷いた。

「アスカはいいって言ってくれたよぉ?」

「ま、いいわ。アスカはお仕置きの続き。チェリーはカナタを教育しなさい」

「はぁーい」

 アスカはマキナの手を引いて、3人のお仕置き部屋に再び入っていった。
 チェリーはカナタを背負って、別の部屋へと入っていった。

「さて、私たちは再び行きましょうか」

「はい、お嬢様」

 ケビンはお嬢様の後ろをしっかりと付いていったのだった。





「さぁて、カナタ……目を覚ましてあげるわよぉ」

 チェリーは、密室でカナタに手をかけた……!!





「アンジュ、スピードを落として大丈夫よ」

 サクノの指示に従って、100キロほどのスピードで走っていたウインディが格段にスピードを落とす。
 彼女のウインディは、他人の言うことはまったく聞かないが、彼女の指示や命令は確実にこなす忠犬なのだ。

「…………」

 そのウインディの背中に乗っているのは主人であるサクノと呆然としているクレナイである。
 さっきから一言も発さずに俯いている。
 今、笑顔かどうかもわからなく、ただしょぼくれて表情を隠していた。

「(クレナイさんの妹に一体何があったのかしら……)」

 サクノはクレナイの胸中を案じながら、どこか休める場所はないかと探していた。
 しかし、ホドモエシティの南は倉庫が大半に建てられている。
 どこへ行っても倉庫しか見当たらない。

「あれ?」

 そんな中、見慣れた紫のロングヘアの男が倒れているのを見つけた。
 ウインディに止まるように指示を出して、地面に降り立った。

「ビリー、何があったの?」

 膝を折って座り、彼の頭をその太腿に乗せて体を揺さぶってみる。
 あぅっ……と唸り声をあげた後、彼は目を開ける。

「サ……クノはん……」

「目が覚めた!?あれ、カナタはどうしたの!?あなた一人なの!?」

「っつつ……悪い……カナタを……連れ去られてしまった……」

「え」

「……俺が……助けに……でも……その前……に……」

 ビリーはパタリと力なく頭をサクノの膝に乗せた。

「サクノはんの膝枕で、安らかな眠りをさせて……」

 と、再びビリーは気絶してしまった。
 「仕方が無いわね」と、傷ついたビリーを案じるサクノは微笑んでそれを許したが……

「ゴミ虫、寝てんじゃねぇ!!」

「ぐほっ!!」

 クレナイが笑顔でビリーの腹を思いっきり蹴っ飛ばしたのだった。





 ―――P36年の秋。

 カントー地方のマサラタウン。

 この村から旅立ったトレーナーの中には、ポケモンマスターになり、有名になっているものが多い。
 例えば、オーキド博士もこの村出身であり、はるか昔にポケモンリーグで優勝したこともあるらしい。
 今では隠居して、研究を孫のシゲルにその座を譲っている。

 ちなみに彼のライバルであったサトシという人物は、現在、とある町でジムリーダーをしているらしい。

 そのマサラタウンの中のとある小さな家に4人の兄弟が住んでいた。

「ふう。さぁ、朝飯ができてぞ。しっかり食べろー」

 目玉焼き、おひたし、ウインナー、納豆、豆腐の冷奴、ナスとキュウリの漬物に人数分の味噌汁と白米を用意した。
 一番上のお兄さんである赤髪の短髪の男……クレナイ(当時18歳)は、妹達を呼ぶ。
 すると、まるで争うかのように二人の妹が机の食べ物を争うかのように食べ始めた。
 片方の妹はピンク色の短髪のキリッとした目の女の子でもう一方は紫色のさっぱりした短髪の女の子だった。

「あぁー、私のウインナーぁー」

「さらに、この目玉焼**ただきですぅー」

「サクラちゃん、待ってよー、せめて……目玉抜きでもいいから、ちょうだいよぉー」

 紫色の短髪の女の子は、サユキ(当時13歳)と言う。
 狙いを定めたおかずをことごとく、隣の妹に取られていた。
 自分のほうが年上であるにもかかわらず、涙ながらに食べ物を恵んでもらおうとするサユキだったが、妹は意地悪なのか、サユキの食べるものばかりを狙っていた。

「早い者勝ちですよぉ」

 桃色の髪の子はチェリー(当時8歳)である。
 とにかく、この頃から人の物を取るのが好きだった。
 とくに、人が欲しがるものを盗る事にかけては天才的だった。
 その動きはまさに忍者のごとしである。

「うぅぅ……」

 その5歳下の妹に泣かされるサユキ。
 その時、スッと目玉焼きがサユキの目の前に差し出される。
 ハッとサユキはその手元を見る。
 そこには黄色い髪のミディアムカットの男の子がいた。

「オンちゃん、私にくれるの?」

「ぼく、だいじょうぶだから、たべていいよ」

 彼の名前はサイオン(当時3歳)。
 小さいながらもサユキのことを気遣って目玉焼きを渡してくれるほどの優しい子供だった。

「ありがとぉーオンちゃん、だーいすき!!」

 サイオンの目玉焼きに手を伸ばすサユキだったが、ガチッとその箸は空振りした。

「……ぬあぁぁ!!」

 一歩手前でその目玉焼きは、チェリーの口の中へと消えていった。

「サクラちゃん、返してよぉ!!」

「無理だよぉ♪」

「ええと……」

 サユキとチェリーは取っ組み合いのケンカを始めてしまう。

「けんかはやめよーよ……うわっ」

 サイオンが止めに入るが、あっさりと弾かれてしまう。

 ドンッ!!

 衝撃がして、3人は一斉に音の方を向く。
 一匹のカメックスと笑顔の男の声があった。

「全員、いっぺん、死んでみる?」

 クレナイのその一言で、ケンカは終結した。



 こんな平和な1日が、秋に入ってから続いていた。
 それまで、クレナイはチェリーを連れてホウエンとジョウト地方を旅をしていた。
 その間、サユキはカントー地方を一人で旅して、サイオンはマサラタウンで親と一緒に住んでいた。



 実はこの4人の兄弟の親は特別だった。
 クレナイの母は、父がマサラタウンに訪れた時にできた子供だった。
 しかし、彼の母はクレナイを産んで間もなくして亡くなった。
 彼を育てようとして、父はマサラタウンに残った。

 その3年後に、あるマイペースの女の子がマサラタウンに訪れた。
 その子はクレナイの父に恋をして、子供を授かった。それが、サユキであった。
 やがて、父親は彼女に子供たちを任せて旅に出た。
 サユキの母はそれを止めなかった。

 クレナイの父が旅立ってから3年後にサユキの母の元へ手癖の悪い男が現れた。
 その男はサユキの母をあっという間に虜にした。
 そのときの子供がチェリーであった。

 その4年後にサユキの母は衝撃的な体験をする。
 自分を差し置いて、他の女の人と一緒になっている姿を見たのだ。
 その光景を見たサユキの母は姿をくらました。
 チェリーの父とその一見真面目そうな女の人との間に生まれた子供がサイオンだった。

 サイオンが生まれた1年後のこと。
 旅から帰ってきて事情を知らなかった当時16歳のクレナイは激怒した。
 理由と言うのは、今の親と言うのは、自分とサユキにとってもはや赤の他人であり、さらに自分がいなかった間にサユキはロクにご飯も食べさせてもらえずやせ細っていた。
 このままではダメだ。
 クレナイは妹と弟の将来を案じて、チェリーの父とサイオンの母を追放した。
 もちろん2人は抵抗したが、旅を出て成長し、まして激昂したクレナイの相手は務まらなかった。

 そして、2年間の間、サユキがホウエン地方を旅したりということもあったが、平和に日々が続いていた。





「ノースト地方に行くのか」

「うん。行って来るよぉ」

 P37年の春。
 サユキはカントー地方の北にある地方へと旅立とうと決心する。

「くれぐれも気をつけていくんだぞ」

「えへへっ、わかってるよ、お兄ちゃん♪」

 クレナイたちは一同、サユキの旅立ちを見送った。
 だが、これ以降、サユキに再会することはなかった。





 ―――P50年の秋。

「その後もチェリーが何度も旅立って盗みを働いてきたりして、今に至るんだ。サユキ、サイオンとは連絡が取れないが、元気にやっていると思う。
 チェリーはいつもいつも手をかけるから定期的に連絡を取っていた。だが、イッシュ地方のライモンシティでドームのお客の財布を盗っている連絡があったのを最後に連絡が途絶えた」

「なーるほどなぁ。それは兄としてはショックやなぁ」

 心配をしたのにもかかわらず、可愛がっていた妹に反撃されたクレナイ。
 そのことに同情するビリーはうんうんと頷いた。
 そんな彼は仰向けで寝転がっていた。
 カナタや黄色い短髪の女に蹴られ踏まれた背中の痛みのせいで起き上がれないのだ。

「…………」

「サクノはん?」

 途中から、サクノはクレナイの話を眉間にしわを寄せて聞いていたことにビリーは気が付いた。
 彼女は話を聞きながら、ビリーの代わりにきずぐすり等のアイテムで彼のポケモンの傷を回復させていた。
 そして、サクノは言う。

「許せないわ」

「え?何がや?」

「人の物を盗むなんて泥棒よ!チェリーさんには刑務所で反省してもらわないと!」

「や、サクノはん落ち着いてや!論点はそこやないっ!!」

 人一倍の正義感を持つサクノにとって、盗みは許しがたい行為らしい。

「おれも前々からそのことに関してしっかりとしつけていたんだけど……ちっ、あの父親に似たんだな」

 クレナイが笑顔で悔しそうに言う。
 何があっても笑顔は崩さないらしい。

「にしても、カナタを誘拐した連中ってどんな組織やねん?」

「そういえば、女の子が多いみたいね。それも、独特な格好をした女の子が多いね」

 看護婦やチャイナドレス、バニーガールなど、普段なら着ないコスチュームなどを多く着用していたことを思い出す。

「まさか、カナタもあんな服を着せられてしまうんやないか!?」

「そういえば、チェリーさんも忍者のようなくノ一の格好をしていた……」

「間違いない!!奴らは色んな女の子を集めて、芸能界に殴り込みする気や!……こんなことを考えるのは、男に違いない!許さへんでぇ!」

 いきり立つビリー。

「(いや、チェリーは元々くノ一の格好を好んで着ていたけど)」

 心の中でツッコミを入れるクレナイ。

「しかし、2人を助けにいくとして、どこを探せばいいだろう?」

「探すんじゃなくて、待っているだけでいいんやないか?」

「そうなの?」

「ああ。だって、サクノはんも狙われているみたいやし」

「え?そうなの?」

 キョトンとビリーの言葉に目が点になる。

「ああ、確かにサクノちゃんは狙われてもおかしくない」

「てゆーか、“あの女”がサクノはんとカナタを狙うって言っていたしな」

「んー?なんでだろ」

 「いや、なんでだろはないだろ」と2人は心の中でツッコミを入れる。
 サクノほどの美少女は町中探しても1人いるかどうかほどの器量を持っている。
 そのことに彼女は自覚がないらしい。

「(誇り高き女教皇<アキャナインレディ>は鈍感か)」

 苦笑するクレナイ。
 同時にカメックスを繰り出していた。

 ドゴォンッ!!

「な、なんや!?」

「なんでかわからないけど……どうやら、私のお迎えが着たみたいね」

 サクノもライチュウを出して、戦闘体勢を整えていた。

「流石に同じ方法は通じないか……」

 カメックスに攻撃を防御されたオオスバメは転回して、トレーナーの元へと戻る。
 レンジャーの格好をしたケビンだ。

「カメックス、『ハイドロロケット』!!」

 カメックスはハイドロキャノンを後ろへと向けて、自分自身を飛ばして強烈な体当たりを繰り出す。
 オオスバメはギリギリでかわすが、

「レディ、『エレキボール』!!」

 バリバリッ!!

 サクノのライチュウが電気の球で狙い撃ちをし、撃墜した。

「くっ……相手が複数人はやっぱり辛いな」

 しかし、言葉とは裏腹にケビンは余裕の表情だった。

「(相手の余裕は……何かあるのね)」

 うすうすサクノは感じると、突如、凍える冷気が吹き付けてきたのに気付いた。

「(……なに、この嫌な感じの冷気の風は……?)」

「…………。カメックス!」

 先ほどと同じくハイドロロケットでケビンに突っ込むカメックス。

 ドゴッ!!

「なんやて?」

 驚きの声を上げたのはビリーだった。
 今はポケモンを出さずに事態を静観しているビリー。
 ハイドロロケットはクレナイのカメックスの中でも最大級の突進技であるのは見てわかる。
 だが、その攻撃がケビンの新しく繰り出したヘラクロスに止められてしまったのだ。

 しかも、片手で。

 そして、反撃でもう片方の腕でカメックスは殴り飛ばされた。
 ダウンこそはしていないが、大きなダメージを受けた。

「『メガホーン』!!」

「『鉄壁』っ!!」

 ズドォンッ!!!!

 カメックスは倉庫の壁に叩きつけられた。
 防御を取っていたおかげで何とか倒れはしなかったようだが……

「あのヘラクロス……カメックスをあれだけ押し返すだけの力は無かったはず……一体どうして?」

 サクノは先の戦いでケビンのヘラクロスのメガホーンをクレナイのニョロボンが受け止めたのを見ている。
 パッと見てだが、明らかにカメックスの方がニョロボンより防御もパワーも上と見ている。
 すると、今の激突は明らかに何かの異変が起きているとしかサクノは思えなかった。

「あんた達はここで終わりよ」

 ケビンの後ろから黄色い髪の短髪の女性が姿を現した。
 身長は155くらい。
 白の丈の長い長袖のシャツを着て両手に白いリストバンド、両足首に黒いリストバンド、さらに首には真っ赤な首輪を付けていた。

「また変なのが出てきたなぁっ!?」

 いつもは女に浮つくビリーだが、ここのところ危険そうな女ばっかり出てきて、さすがに浮ついた気分になれなかったようだ。

「やっぱり、これはキミの仕業か」

「グレイシア」

 短髪の女性が冷凍ビームを指示する。
 狙いはサクノのライチュウだが、間一髪でそれを回避する。

「(速い!……でも……)」

 バリバリッ!!

 電光石火で接近し、グレイシアの顔面にかみなりパンチをぶつけた。
 しかし……

「(効いてない!?それなら……)」

 グレイシアの氷の礫をジャンプでかわす。
 後ろに回りこんで、ライチュウは体をぐるりと回転させた。

「『Sander Slice』!!」

 尻尾に電気をまとい、ナイフのように洗練させた電気の尻尾の刃。
 グレイシアを切りつけた。

「『バリアー』」

 ガキッ!!

 切りつけたのだが、攻撃はかすり傷しか負わせることができなかった。

「(クレナイさんのカメックスを一撃で倒したこの攻撃でかすり傷程度なの!?)」

 その様子にライチュウも驚きを隠せない。
 氷のキバのカウンターを受けて、ライチュウは吹っ飛ぶ。
 右手のプレートの小手でガードはしたものの、ダメージは大きかった。
 休ませないと戦えないと思ったサクノは、ライチュウをボールに戻す。

 サクノが次のポケモンを出そうとした時、クレナイが前に出る。

「『アビリティーダウナー』。相手の力を低下させる力。それを使うことができるのは君だけだよな。カヅキ」

「…………」

 グレイシアにさらにバシャーモを繰り出すカヅキ。

「クレナイさん、あの人と知り合いなの!?」

「……一応……知り合いかな」

 サクノに向き合ってから、カヅキに再び向かうクレナイ。

「なぁ、カヅキ。一体なんでこんなことをしているんだ?男嫌いだからって、女の子でも愛そうって言うのか?」

「あんたには関係ない。あんたもろとも倒してやる」

 バシャーモの炎を纏った蹴りが襲い掛かる。
 それ見て、クレナイはニョロボンを繰り出して防御に出る。
 しかし、蹴りを右腕で弾こうとしたのだが、体ごとと吹っ飛ばされてしまう。

「サクノちゃん、ビリー。あいつの能力は、攻撃した相手の能力を低下させることができる。
 今、あのグレイシアが冷気でおれたちを覆っているから、それを何とかしないかぎりは、どうすることもできない」

「なるほど。そういうことね。アンジュ!」

 ウインディが飛び出し、地面に向かって熱風を繰り出す。
 サクノたちに纏わり付いていた冷気が一気に吹き飛んだ。

「(まずは、グレイシアを何とかしないとね)」

「させない!」

 サクノの意図に気付いて、カヅキのバシャーモがウインディに攻撃を仕掛ける。

「ニョロボン、『爆裂パンチ』!!」

 当てれば相手を昏倒させる一撃。
 命中率は低いのだが、クレナイはあえてこの攻撃を選択した。
 バシャーモはウインディの攻撃を止めて、後ろへと跳んだ。

「アンジュ、今よ!」

 炎を蓄えて攻撃の準備をしていたウインディ。
 グレイシアへと向って走っていく。
 そして、次の瞬間、ウインディの姿が3匹にブレて見えるようになる。

「この技は……!」

 カヅキ、クレナイは共に息を呑む。
 この技がサクノのアンジュの代名詞と言うべき技であったのだ。

 炎を纏った3匹のウインディに見えるこの技は、炎と炎でできた幻の合成である。
 そして、3匹のウインディと後ろから駆け抜けるウインディがグレイシアをつきぬけた。

「『Flare Blitz』!!」

 カヅキのグレイシアは大ダメージを受けて吹っ飛ぶ。
 上空へ投げ出されて、バタッと大きな音を立てて不時着する。

「流石の威力のようね」

「……相性はよかったはずなのに……!」

 グレイシアはウインディの最大の技を受けたにもかかわらず、立ち上がった。
 しかし、大ダメージを負っている事は見て明らかで、しかも火傷を負っている。
 有効であることには違いは無かった。

「カヅキのアビリティダウナーのせいだろうな。その効果さえなければ、確実に勝てていたよ」

「……キーとも言えるポケモンが追い詰められるなんてね。でも、まだまだこれからよ……!」

 バシャーモのほかにもう一匹のポケモンを繰り出そうとしたその時、

 Prrrrr

 カヅキの腕から電子音が響いてきた。
 ポケギアのようだ。

「何事?」

 会話の内容を聞いて、カヅキは少し驚いた表情になる。
 通話を切ると、ケビンに向って言う。

「ここはケビンに任せるわよ」

「え!?お嬢様!?」

「負けたら、お仕置きだからね」

 そういって、カヅキはその場から走り去っていった。

「お仕置き……お仕置**いけど……やっぱりご褒美がいいよな……さて、一気に倒してやる」

 気合を入れて、ケビンが立ちふさがる。





“な……なんでですか……”

 可愛い顔立ちをした執事の少年は、驚きの表情を表して倒れていった。

“……チェリー様……一体どうしてこんなことを……”

 そのチェリーは、とある二人と対峙していた。

「どういうこと?教育を受けておきながら、お嬢様に逆らう気だって言うの?」

 とある一人のアスカが少々驚きながらも、ボールを構える。

「アスカ。私たちがこの子達をしつければ大丈夫よ。むしろその方が……ハァハァ……いいと思うわ……ハァハァ……」

 とある一人のマキナが涎を口で拭いながら、2人を見据える。

「教育ぅ?そんなの私はサボっちゃったもんねぇ♪」

 チェリーはあっけらかんと言ってのける。

「一体どうやって!?あんた、最初にここに連れてこられた時、ロープで両手を縛られて、抵抗なんてできなかったじゃない!そして、チャイナドレスの子に……」

「縄抜けして逆にしつけちゃったもんねぇ♪」

「!!」

「あらあら、じゃあ、あの子達3人はみんなチェリーちゃんには逆らえないのね」

 あの子達三人とは、サクノとクレナイにあっさりと敗れたコスプレ三人娘のことである。

「一体なんでこんなことをしたかわからないけど……あんたら、許さないぞ!」

 誘拐されてきたカナタはボールを持って戦う気満々である。

「私たちと戦う気なのね」

「いいわ、打ちのめしてやるっ!!」

「返り討ちだっ!!」

 アスカがラクダのようなポケモンのバクーダ、カナタはニョロゾで対抗する。

「『大地の力』!!」

 地を揺るがし、下からエネルギー波を突き上げる。

「ニョロゾ、走れ!」

「……!」

 カナタの指示通りに素早くダッシュすると、ジャンプして大地の力をいとも簡単に飛び越えた。
 そして、バクーダの背後を取ると、ハイドロポンプで一気に押し流した。

「バグーダ!?まさか、一撃でやられるなんて……油断してたわっ!!」

「油断……してくれてありがたいわぁ。実は私がカナタにポケモンバトルの特訓をしてあげたのよぉ」

「それなら少しは楽しめそうね、アスカ」

「あたしがカナタをやるから、マキナはチェリーを頼むわよ」

 こうして、倉庫内でチェリー&カナタvsアスカ&マキナのバトルが勃発した。

“た、大変だ……カヅキお嬢様に……連絡を……”

 そして、カヅキの耳に連絡が届くのであった。





 ケビンの全力はサクノとクレナイをとどまらせていた。
 実力的に見れば、この2人なら突破できる力を持っていたのだが、カヅキの残したアビリティーダウナーの力がまだ残っていて、2人のポケモンは全力を発揮できずにいた。

 サクノはフローゼル、クレナイはエレキブル、ケビンはグラエナがそれぞれ倒れて、次のポケモンを繰り出すところだったが……

「ここは俺がやるでぇ」

「ビリー!?」

 2人の目に紫色のロングヘアが映る。
 先ほどまで、背中の痛みでまともに立てなかったビリーが、歯を食いしばって立ち上がる。

「どうやら、あのカヅキってやつに加えて、マキナやアスカも残っている。こいつの実力は大体読みきった。後は俺に任せんしゃい!」

「ビリー……気をつけて」

「そこまで言うなら任せた!」

 そういって、サクノとクレナイはカヅキの後を追っていった。
 ケビンは2人を止めずにビリーを見据えていた。

「……見くびるなよ?」

「見くびっているよ」

 そういって、ビリーは笑うが、ケビンも笑っていた。

「こちらの作戦通りだ。サクノとクレナイ……二人を本拠地へと案内することができた。それがトラップだ」

「つまりアレか?サクノはんとクレナイの二人を捕まえるために呼び寄せたってことか?」

 フッとケビンは口元を緩ませる。

「あの二人がヒィヒィ言って懇願する姿が目に浮かぶなぁ」

「残念だけど、そんな風にはならへんよ」

 自信を持ってビリーは断言する。

「どうかな?実は僕も会った事はないが、トップはカヅキ様ではないんだぜ?」

「それでも……だ」

 ビリーはランクルスを繰り出す。

「クレナイは相手のことをよく知っているみたいだし……そして、サクノはんはどんな現実も乗り越えていく力がある。決して負けはしない!」





「うわっ!!」

 ヌマクローとカナタは吹っ飛ばされた。

「もう一発、『タマゴ爆弾』!」

 アスカのハピナスの猛攻が続く。
 何とか、マッドショットで攻撃を相殺するものの、やられるのは時間の問題だった。

「くっ……やっぱり強い……普通のジムリーダーを軽く凌ぐ強さだ……」

 チェリーにバトルの特訓を受けたカナタだったが、短期間で四天王に匹敵する実力を持つマキナ&アスカに抗えるわけではない。
 先ほどバクーダを倒したのは、相手が油断していて、タイミングよく最高の一撃を放てた上に、相性と急所が相乗効果で発揮したに過ぎなかった。
 証拠にカナタは次々とポケモンを倒されて、何とかパートナーであるヌマクローでハピナスの攻撃に耐えているのである。

「こうなったら……」

「どうするの?」

 ハピナスが再びタマゴ爆弾を放つ。
 今まで避けていたカナタとヌマクローだったが、今度は避けなかった。
 防御に徹して、攻撃をあえて受けたのだ。

「(終わった……いや?今のはワザと攻撃を受けた?)」

「いけっ!ヌマクロー!!」

 今までのダメージとフラストレーションを一気に介抱した。
 この技を『がまん』という。

 ドゴォッ!!

「どうだ……!?」

 ハピナスは大ダメージを受けて吹っ飛ぶ。
 これで倒れただろうとカナタは思った。
 しかし、ハピナスは余裕で立ってみせたのである。

「う、ウソ……」

「この程度のダメージなら、耐え切れるわよ?」

 そして、お返しと言わんばかりに、ハピナスのタマゴ爆弾がカナタとヌマクローに炸裂した。



「あら、あっちは終わったみたいね」

「…………」

 一方のチェリーvsマキナ。
 こちらの戦況はほぼ互角だった。
 ロズレイドの茨のムチで叩こうとするチェリーだが、エネコロロの素早い動きは中々捉えられなかった。
 しかし、『どくびし』で牽制すると、エネコロロの動きは鈍り、攻撃を叩き込むことに成功した。

 そんな感じでバトルは進み、チェリーはロズレイドを含めた3匹、マキナはエネコロロを含めた4匹がダウンしていた。

「マキナ、まだ戦っていたの?」

「意外とこの子、強かったのよ」

「そうか、じゃあ、あたしも手伝うか?」

「いえ、大丈夫。なんとかなるわ」

 マキナはコロトックを繰り出した。
 チェリーもドクロッグを繰り出したが……

「いいえ、ここは私一人に任せなさい」

「「っ!お嬢様!?」」

 戻ってきた黄色の短髪の女性のカヅキに頭を下げる2人の美少女。

「あらら……3人……これは分が悪いわぁ……」

 と、言うが、表情はあまり大変そうに見えない。

「私が直々相手になってあげるわ」

「それは、楽しみねぇ♪」





 ―――倉庫街路地。

 軽い少年ビリーとレンジャーケビンの戦いは、決着の時を迎えていた。
 既にケビンはキャプチャースタイラーを破壊され、残り一匹となっていた。

「ヨノワール、『連環シャドーボール』!!」

 数珠繋がりになったシャドーボールを撃つケビンのヨノワール。
 この最大の一撃に、ビリーのクイタランもあっさりと敗れたのだ。

「二度も同じ技に負けたりはしない!」

 砂を纏った手でシャドーボールをいなす。
 一度軌道が外れると、連関したシャドーボールはあっという間に別の方へと行ってしまう。

「っ!!ここに来てお嬢様のアビリティダウナーの力が切れた!?」

「これで、仕舞い!!『サンドクロス』!!」

 目付きと柄が悪い砂ワニポケモンのワルビアルが『辻斬り』と『切り裂く』に地面属性をつけて、ヨノワールを十字に切った。
 ヨノワールは崩れ落ちて、勝負はついた。

「くっ……」

「ランクルスとクイタランがやられてしもうたが、まだ3匹が戦えるで。さて……」

 すべてのポケモンがやられたケビンを一瞥する。

「これで……お仕置き確定か……お仕置きかぁ……お仕置き……あぁぁ……ハァハァ……」

 虚ろの目で崩れ落ちるケビン。
 ビリーはそんなケビンを無視して、サクノたちを追いかけていったのだった。

「(しっかし、あのアビリティダウナーは厄介やで。どうやって攻略すればいい……?) グッ……」

 よろけるビリー。

「(畜生……カナタのヤツ……後で覚えてろ……)」

 背中の痛みを引き摺りながらビリーは走る。





 ―――ホドモエシティのどこか。

 黄色い髪のロングヘア。柑橘系をイメージさせるオレンジ色のリボン。
 それに腕から肩を露出させている黒いシックのドレス。
 年齢はカヅキよりも2〜3歳くらい年上の女性だった。
 その人は大人の色気漂う服と子供のようなオレンジ色のリボンをミスマッチさせて、おかしな雰囲気を漂わせていた。

 彼女は眠っていた。

「……ヨウタ……オト……」

 不意に名前を呟く女性。
 夢の中でその人物が現れたのだろうか。
 右目から、ほろっと涙が零れ落ちた。

 そして、ふと目を覚ます。

「…………」

 夢が醒めたのだと思い、彼女はベッドから起き上がる。

「……手の届かない希望は終わり。……今、目の前の理想を私の物にする」

 そう。彼女はカヅキの実の姉であるミホシだった。










 第7話完


HIRO´´ 2012年01月10日 (火) 22時14分(26)
題名:第8話 P50 秋B

 ☆前回のレジェンドオブパラダイスΙのお話

 ケビンとチェリーの急襲からサクノとクレナイは逃れてビリーと合流する。
 そこへ現れたのは、ケビンとお嬢様と呼ばれるカヅキ(男嫌いでキトキやハレをことあるごとに叩きのめしていた女性―――UD2話参照)だった。
 その時チェリーがカナタと共に反乱を起こす。
 ケビンをその場に任せてカヅキが去るとビリーがケビンと戦うことになる。
 ケビンを打ち負かしたビリーは、痛めた背中を引き摺りながら、サクノたちを追う。










 ―――P40年の冬。

 ノースト地方の米所、ライズシティでは雪が降り積もっていた。
 野菜や米が取れることで有名なこの場所も、今の季節は何も育てることができない。
 大抵のものはこの冬は春の為に体を休めているものが多い。

 ちなみに、この場所は一応主人公のヒロトが初めてジムリーダーを倒した場所である。

 ところが雪が降り積もっているはずの豪雪地帯なのだが、とある一角は完全に雪が解けていた。
 地面が焼けている様子から、炎ポケモンが強引に雪を溶かしたのだと思われる。

「ゴメンなさい……お姉様……」

 黄色い短髪の少女、カヅキ(当時19歳)はポケモンを既に全滅して倒れていた。
 この当時の彼女は、アビリティーダウナーという特殊な力を習得していなかった。
 しかし、習得していたからと言って、カヅキが今姉と互角に戦っている女に勝てるわけではないのだが。

「……あなたはそこで休んでなさい」

 カヅキの姉のミホシ(当時21歳)はヨルノズクとシャワーズで相手を牽制していた。

「……何度も何度も邪魔してくれて腹が立つ。……いい加減、この因縁にピリオドを打つわ」

「できるものなら、やって見なさいよ!天照<てんしょう>の名に賭けて、私が止めるんだから!」

 『天照<てんしょう>』。
 『天をも焼き照らす』という意味を持つ彼女はバクフーンとゴウカザルでミホシと互角以上に戦っていた。

「……あなたはいつもそう。……どうしていつも私の邪魔をするの?……そんなあなたは嫌い」

「私だってあんたなんて嫌いよ!」

 ヨルノズクのエアスラッシュはゴウカザルの炎のパンチで相殺。
 シャワーズのハイドロポンプは、バクフーンの必殺『アフターバーナー』で一気に蒸発させる。

「でも、暴走しているあんたを止められるのは私しかいないの!あんたを野放しにしたら、大変なことになるから!」

「……暴走……?……必然よ。弟もそして愛すべきオトもいなくなった。……妹<カヅキ>だけじゃ足りないのよ……」

「足りないって……あんたはどれだけエロスに飢えているのよッ!!ゴウカザル、『流星パンチ』!!」

 流れるような連続パンチをシャワーズに向けて放つが、液状化して攻撃を回避した。
 ヨルノズクがサイコキネシスを放つが、バクフーンが火炎放射の援護で攻撃を相殺した。

「……カズミは旦那様がいれば充分なのかしら。……おめでたいことね。……でも、私は違う。……全然足りない」

「だから、次々と町の人々を誘拐したっていうの?」

「……でも、オトの代わりは見つからなかった。……だから、数撃って素材を引き抜くしかないのよ」

 そして、不敵にミホシは笑う。

「……あなたも同じなんじゃないの?……何せオトを弟分なんて言っていたんだから。……ねぇ、カズミ」

 一時、ミホシの一言に、言葉を詰まらせるカズミ(当時26歳)。

「……穴がぽっかり空いて、寂しい思いをしているんじゃないの?……そこの所を考えれば、私の気持ちに共感してくれると思ったんだけど」

「ええ、そうね。確かに……そうよ」

 カズミは少し前のことを思い出した。



 あれはオトが失踪してから1ヵ月後のこと。
 カズミは同時期に失踪したユウナの机を整理していた。
 すると、とあるデーターを見つけた。

“カズミの生い立ちについて”

 自分がどんな境遇の人間であるか、大体は覚えていた。

 小さい頃に母親を事故で亡くし、キャメットでデビルバッドと言う組織にスリとして働かされた上に捨てられそうになった。
 そこを助けてくれたのが、今では旦那様となっているラグナだった。
 彼に助けられて、カズミはオートンシティでショップ・GIAで生活し、ラグナの父親のコズマから貰った卵から孵ったヒノアラシをパートナーとして旅に出た。
 数々の冒険をこなし、ショップ・GIAの手伝いをするようになり、様々な事件を乗り越えて、今はユウナの代わりにショップ・GIAのリーダーになっていた。

 ユウナが失踪するまでのことだし、自分の知らない情報なんてないだろうと軽い気持ちで覗いたデーターに、カズミは一瞬息を止めた。



 母親 ミユキ カントー地方のトージョーの滝周辺出身

 父親 ヒロト ノースト地方のマングウタウン出身



「え……?」

 カズミは目を疑った。
 ミユキは母親の名前だと言うことは知っている。
 そして、ヒロトという名前も、知っている。
 方向音痴でポケモンマスターで雑草みたいな頭をして、そして、何よりオトの父親だと言うことだ。
 ただ、自分の父親がヒロトだと言うことが、信じられなかった。

「どういう……こと?」

 ユウナのデーターには続きが書いてあった。



 カズミがトージョーの滝の生まれであると言うデーターをもとに、ミユキと関係を持った男を捜した。
 しかし、周りの人の話によると、ミユキと言う女性は、人とはあまり接せず、しかも男の人との接触を避けていたのだという。
 だけど、とてもやさしい人だと言うのは、聞いていた。

 話を聞いているうちに、私はとんでもない仮説を立てていた。

 カズミが生まれる約1年くらい前、ヒロトはロケット団の幹部のバロンに葬られたという話を聞いた。
 私は当時からロケット団に所属していたけど、ヒロトのことはまったく知らなかった。
 ただ、その当時のバロンがヒロトを倒して物凄くご機嫌でトレーニングルームを破壊していたことは覚えている。
 ハタ迷惑だったのも覚えている。
 私が彼のことを知ったのはそれより数年後でナナシマの5の島で私の活動を邪魔しに来たときのこと。
 負けた私は彼を調べて大体のことを理解した。

 じゃあ、彼は失踪している約1年もの間、どこで何をしていたのだろうか。
 私の導き出した答えのひとつは、「ミユキがヒロトを介抱していた」。
 カズミの年齢を逆算すると、かなり正確なのに驚いた。



 と……データーはヒロトとカズミの血縁が確実に繋がっていることを証明していった。

「私が……ヒロト……の子供……」

 ただ、驚きのまま、カズミはデーターを閲覧し、そして、最後の方にこう綴られていた。



 この事を本人達に言うべきなのだろうか。

 隠し事は無いのがいいに決まっている。

 案外、ミツバのようにあっけらかんとその事実を受け入れるかもしれない。

 しかし、ヒロトもカズミもミツバとは違う。

 ヒロトは責任から負い目を作ってしまうかもしれないし、カズミだってショックを受けるかもしれない。

 ……結局のところ……今の私には答えを出すことができない。

 この秘密は、私の胸の中とデーターにのみしまっておくことにしよう。



「弟が消えて、ざわついたこともあった。だけど、私はあんたみたいにざわつくつもりはないわ!」

 バクフーンが炎を最大限にまで蓄える。

「吹っ飛びなさい!『大炎上』!!!!」

 オーバーヒートやブラストバーンをも凌ぐ、炎を解放する最大級の技。
 地面の雪どころか、バクフーンの頭上の雪雲まで吹き飛んだのだ。

「……やってくれる……」

 シャワーズとヨルノズクはダウンしていた。
 あそこまでのパワーに対抗できるポケモンはミホシの中でもいなかった。
 
 そして、ミホシはパートナーのユキメノコを繰り出す。

「……最近できるようになった技を見せてあげる」

「何を……?」

 ユキメノコが消える。
 すると、ユキメノコのビンタがバクフーンに命中した。

「……! でも、そのくらいじゃ倒れないわよ!バクフーン、火炎放射!」

 ドゴォッ!!

 バクフーンは火炎放射を放った。

「なっ!?」

 だが、当たったのはゴウカザルだった。

「どういうこと!?」

 見た感じ、異常は見当たらない。
 ゴウカザルは立ち上がって、バクフーンに向っていく。

「ちょっ、ゴウカザル!待って!」

 2匹を戻そうとボールを持つカズミだったが、

 バキッ!!

「……うぇ!?」

 ユキメノコにビンタを浴びせられて、カズミは昏倒する。

「な……ぁ……れ……?」

 ふらふらのカズミ。
 そのカズミの様子に気付いたバクフーンとゴウカザルだったが、

「……止め」

 ユンゲラーのサイコキネシスがゴウカザルに、エレキブルのメガトンキックがバクフーンに当たり、気絶した。

「く……ぅ……ふ……?」

「……カズミ……もう私の邪魔はさせない。……さようなら。……ユキメノコ」

 バキッ

 何の変哲も無いビンタにカズミはそのまま打ちのめされたのだった。





「……?……クッションッ!!」

 次にカズミが目を覚ますと、自身が雪に埋もれていたことに気が付く。

「……うぅぅぅ……なんで私はこんなところに……? 思い出せない……夢でも見ていたのかしら……?」

 倒れていたバクフーンとゴウカザルを不思議そうに回収しながら、カズミはオートンシティに戻っていった。

 その次の日、カズミは風邪で一週間ほど寝込んだのだという。

 そして、ミホシに会った事は、綺麗さっぱり忘れていたのだという。










 第8話 P50 秋B










 ―――倉庫のアジト。

 2人の美少女と1人の女性がくの一の格好をした女の子を追い詰めていた。

 ドサッ!

 チェリーのドクロッグが力でねじ伏せられて倒された。

「『毒突き』が完全に無効化されちゃったぁ……」

「あんた程度じゃ、私に勝てないわよ」

 カヅキはハリテヤマで高らかに勝利宣言する。
 しかし、チェリーはまったくそうは思っていない。
 チェリムを繰り出し、颯爽と走る。
 その狙いは、ナースの格好とチャイナドレスを着たマキナとアスカだった。

「なにをっ?」

「……!」

 チャイナドレスのアスカはハピナスで迎撃に出るが、チェリーは攻撃をかわす。
 そして、あっという間に2人の間を通り抜けていった。

「いただきぃ!」

「え?あれ!?ポケモンが!?」

 アスカのボールが1つ減っていた。
 どうやら、手持ちポケモンを盗まれたようである。

「あらあら、やられちゃったわね」

「っ!マキナも盗られたんだろ!?」

「私はなんとなく嫌な予感がしたから反撃しないで様子を見てたのよ」

「あ、あたしだけ!?」

 落ち着きがなさそうなアスカだけが狙われたようである。

「ギャラドス!」

 盗んだアスカのポケモンでチェリーは逆襲に出る。
 普通、盗んだポケモンの言うことは聞かないはずなのであるが、チェリーは盗んだポケモンさえも言うことを聞かせる力があった。
 今回も例外ではなく、ギャラドスはハリテヤマに威嚇をし、攻撃意欲を削ぐ。

「『投げつける』!!」

 ハリテヤマは近くにあった自分の体ほどの木箱を投げつける。
 ここは倉庫であり、木箱や樽などが多く存在する。
 ゆえに投げるものには困らなかった。
 ギャラドスは箱をぶつけられて怯む。

「そこねぇ!」

「!!」

 エネルギーを溜めた太陽光線がハリテヤマを打ち抜く。
 チェリムの『ソーラービーム』である。

「ギャラドス、止めェ!」

「ハリテヤマ!」

 ズドオォンッ!!

 全身を使った突進攻撃だった。
 だが、ダウンしたのはギャラドスだった。

「カウンターね。さすがお嬢様」

 マキナが息を巻く。

「私のアビリティダウナーで能力が下がっているのよ。チェリムやギャラドスも例外じゃないわ」

「その力はグレイシアの遠距離攻撃だけじゃなく、打撃攻撃にも纏わせることができるってことねぇ!?」

「ただ、チェリムがポジフォルムになっていたら、流石に倒れていただろうけどね」

 そのままハリテヤマが冷凍パンチにアビリティダウナーの力を纏わせて、突撃してくる。
 チェリムはそれを『守る』で防ぐが、あまりの力に吹っ飛ばされる。

「あと、この力は『守る』をも突き抜けるわよ」

 エナジーボールを反撃で撃つが、ハリテヤマはかまわず突っ込み、攻撃をもろともせずにドクロッグと同じように張り手で押しつぶした。

「厄介ねぇー」

「おしまいよ」

 ハリテヤマがチェリーに狙いを定める。

 ドゴッ!!

 しかし、ハリテヤマの方が殴り飛ばされた。

「ニョロボン!?」

「このポケモンは……!」

 同時に男女二人が駆けつけた。
 チェリーの兄である背の高い男性のクレナイといたいけな美少女サクノである。

「大丈夫か、チェリー」

「ナイ様!?」

「どうやら、操られてなかったようだな」

「私がこんな奴らのいいなりになるはずないじゃないですかぁ。と言うよりも、誰の言いなりにもならないわよぉ」

 と、慎ましい胸を張って宣言する。

「じゃあ、どうしておれたちを攻撃したんだ?」

「もちろん、この人たちを欺くためだよぉ。欺いて中から壊していこうと思っていたんだけど、戦力が思ったよりも整っていて手を出せなかったのぉ。でも、ナイ様やアキャナインがいたから、しめたと思って行動に出たんだよぉ」

「……で。チェリーは何のためにこんなことをやっているんだ?」

 笑顔だが、どこか呆れるような声でクレナイは尋ねる。

「ちょこっと、コソッとするには、この人たちが邪魔だったんですよぉ」

「はぁ……やっぱりそんな理由かよ」

 笑顔ながらもやれやれとクレナイがため息混じりに呟く。

「コソッと……そんな盗みは許されませんよ!」

「私の物は私の物。他人の物も私の物。これ信条ですよぉ」

「そんなの許せません!私が止めます!」

 と、正義感の強いサクノはチェリーと一触即発しそうだ。

「内輪揉めしている余裕なんてあると思っているの?ハリテヤマ!『ギガインパクト』」

「まぁ、余裕があるからおれはほっといているんだけど」

「なに?」

 ハリテヤマが攻撃を仕掛けない。
 と言うよりも、自分自身を攻撃してしまっている。

「混乱状態!?まさか、さっきのパンチは『爆裂パンチ』!?」

「ご名答。『気合パンチ』!!」

 ハリテヤマが混乱している間に、ニョロボンは拳に力を集中して、一気にハリテヤマのどてっぱらに叩き込んだ。
 相当の数の木箱の中に突っ込んで、ハリテヤマはダウンする。

「お嬢様!」

「私たちも加勢します」

 アスカとマキナがそれぞれブーバーンとバクオングを参戦させる。

「どうやら、ここからは乱戦みたいねぇ」

「でも、乱戦は避けたほうがいいわね。1対1で戦うようにしましょう」

 チェリーがフシギバナを繰り出して、『花びらの舞』を全体に繰り出そうとする前に、サクノが注意を促す。
 カヅキのアビリティダウナーが3人全員を蝕むのを警戒しているのだ。

「エンプ、行って!!」

 『骨の剣』を抜いて、ルカリオがバクオングに切りかかる。
 電光石火のスピードで接近したために、反撃の暇も与えなかった。
 そして、ルカリオとバクオングは他の4人と離れていった。

「サクノちゃん……私と戦うのね?『爆音』!!」

「出たポケモンの相性を見て判断しただけよ。『波動弾』!!」



「マキナがサクノを……ね」

「やられっ放しはイヤだから、私があんたをやりますよぉ」

 今度こそフシギバナの花びらの舞がカヅキを捉えた。
 だが、炎の壁があっさりと花びらを燃やし尽くしてしまう。

「どうやら、あんたは私にヤられたいのね」

「そう簡単にやられないんだからぁ!」

 カヅキのバシャーモとチェリーのフシギバナが激突する。



「じゃあ、残ったおれはサイドテールの女の子か」

「あたしの名前はアスカよ!」

「……あれ?アスカ?確かホウエン地方のフエンシティのジムリーダーをしていなかったか?」

「なんで知っているのよ!?」

「いや、戦ったことあるし。でも、10年以上も前と姿がそんなに変わらないって一体……?」

「旅の途中でディアルガの暴走に巻き込まれたのよ!おかげでこのままの姿で10年後に飛ばされちゃったのよ。でも、今はそんなことどうでもいいの。あたしとマキナは既にお嬢様たちのものなのだから……」

 と、顔を赤く染めて色っぽく呟く。
 18歳の恥じらいも感じさせる女の子の表情だった。
 可愛いなとクレナイも思うが、状況は状況である。

「ニョロボン、『爆裂パンチ』!」

「ハピナス、『タマゴ爆弾』!!」



 それぞれ3つの戦いが始められた。
 だが、皆それぞれ、持っているポケモンと戦っているポケモンと残っているポケモンにばらつきがある。
 そして、戦況が変わったのは、数分くらい経った時のことだった。



 ゴォォッ!!

 炎の竜巻が一匹のポケモンを包み込む。
 炎が解かれた時、その中から火傷状態のフシギバナが出てきた。
 『いあいぎり』でバシャーモに一糸報いようとするが、攻撃を何事もなかったように向ってきて、ブレイズキックで叩きのめされた。

「あぁ……それなら……っ!」

 走ってカヅキに接近しようとしたチェリーだが、バシャーモが立ちふさがった。

「他人のポケモンを盗んで戦うことはもうさせない!寝てなさい!」

 ゴッ!!

「……がっ!!」

 バシャーモに腹を小突かれて、チェリーは放物線を描いて地面に倒れて気絶してしまった。
 
「さて、この子はすぐに調教が必要よね。クレナイとサクノはあの子達に任せて私は……」

 ドゴォッ!!

 1つの火炎弾がバシャーモを吹っ飛ばした。
 威力は相当のものだが、倒れるまでではなかった。

「……今のは……?」

「次は私が相手よ!」

 火炎弾を放ったのは、威光を持った忠犬のウインディ。
 そして、トレーナーは誇り高き女教皇という二つ名を持った美少女だった。

「サクノ……! もうマキナを倒したと言うの?」

 カヅキがサクノの後ろを見ると、そこにはマキナのポケモンのバクオングとコロトックの姿があった。

「お嬢様、ゴメンなさい。負けてしまいました……」

 マキナのメロディ攻撃をもろともせずに、サクノはウインディのパワーとテクニックでねじ伏せたのである。
 もっとも、バクオングはルカリオ、コロトックはウインディでと、相性を合わせて戦ったのもあるが。

「実力はさすがといったところか。それなら、私のアビリティダウナーの力を味わいなさい!」



 もう一方の戦いはようやく決着がつきそうだった。

「残りはそのブーバーンだけだな」

「あんたこそ、残りはそのカメックスだけね!」

 クレナイとアスカのパートナーのポケモンが残った。
 炎と水の打ち合いが繰り広げられたが、決着にはさほど時間はかからなかった。

「カメックス、『ハイドロカノン』!!」

 究極の水系の技を打ち出し、勝負を一気に決めようとする。
 だが、アスカはそれを読みきって、攻撃をかわした。

「至近距離の破壊光線をくらえっ!!」

「ハイドロカノンは囮だよ!」

「……えっ!?」

 カメックスはハイドロカノンの後、ブーバーンに背を向けた。
 究極の技の後は反動を受けて動けないのだが、辛うじてカメックスは背中を向けることだけができた。
 そして、全力を振り絞って、ハイドロポンプを打ち出す。

「『ハイドロロケット』!!」

 ドゴォッ!!

「っ!!」

 ハイドロポンプで地面へと水を放ち、その勢いでタックルを仕掛ける強力な一撃であった。
 破壊光線を撃つことに神経を集中させていたブーバーンはこの攻撃に対応できずに、ノックアウトした。

「そんな……あたしが負けるなんて……」

 ガクリと崩れ落ちるアスカ。

「アスカ……一緒にお仕置きを受けましょう」

「マキナ……ええ、そうね……」

 と抱きしめあって慰めあう二人。
 何故かそこだけ雰囲気が違うような気がしてならないが、放って置くことにしよう(ェ)

「…………」

 クレナイはあたりを見渡す。
 そこには抱き合ったアスカとマキナ、気絶したカナタとチェリーの姿がある。
 いつの間にかサクノとカヅキの姿が見当たらない。

「(外か?)」

 耳を済ませると、かすかに技のぶつかる衝撃音が聞こえてくる。

「(サクノのヤツ、カヅキのアビリティダウナーの力がこっちに及ばないようにカヅキを誘導したのか……。戦い慣れてるな)」

 加勢に向かおうとするクレナイ。

「……っ!!」

 しかし、突如、背筋が凍るような感覚に囚われる。
 ここから下手に動いてはいけないと五感が発していた。

「やっぱり、キミが最大の黒幕なのか?」

「……黒幕とは人聞きの悪い」

 黒いシックのドレスに黄色い髪のロングヘア。
 子供っぽい大きなオレンジ色のリボンをつけた女性だった。

「……私は私の思うようにやっているの。……それを邪魔するのならあなたは敵。……でも、私はキミが好みよ。……どう?大人しく私のペットにならない?……クレナイ」

「……完全なる願い下げを要求するし。このクレイジーど淫乱娼婦め!!」

 笑顔で汚い言葉を発し、2匹に元気のカケラを与えるクレナイ。
 ドータクンを繰り出した。

 一方の妖しげな女性……ミホシもユキメノコで迎撃に出たのだった。



 ―――倉庫の外。

 サクノはクレナイにもアビリティダウナーの力が及ばないように、カヅキを外へと誘い出して戦っていた。

「グレイシア、『凍える風』!」

「アンジュ、『熱風』!!」

 カヅキのグレイシアが放つのは動きを鈍らせる涼しい風。
 だが、効果はそれだけではない。
 カヅキの特殊な力であるアビリティダウナーにより、その風を浴びた者は能力を著しく低下してしまう。
 ゆえに、そう簡単に攻撃を受けるわけには行かない。
 ウインディの全力に近い炎の力は、グレイシアを包み込んでダウンさせた。

「どうやら、さっき与えたアビリティダウナーの力は弱まっているようね」

 先ほどの戦いでグレイシアはウインディの最大の技を受けて火傷を負っている。
 この攻撃でダウンするのも必然だった。

「エテボース」

 カヅキは尻尾が二つに割れている猿のようなポケモンを繰り出す。
 高速移動でスピードを上げて、サクノたちを撹乱にかかる。

 それを見て、サクノは一旦ウインディをボールに戻した。

「ボールに戻したのなら、直接叩くわ!」

 ドガッ!!

 エテボースのアイアンテールが決まる。
 しかし、尻尾は丈夫な骨によって止められた。

「このポケモンはルカリオ……」

「『聖なる剣』!!」

 剣を振るルカリオだが、一旦身を退いてかわすエテボース。
 そして、エテボースの代わりに炎を纏ったバシャーモが突っ込んできた。

「『フレアドライブ』!!」

 炎系最大の突進技でルカリオを撃墜にかかる。

「もう一発、『聖なる剣』!!」

 ドガッ―――!!!!

 本来なら、最大の技のSeoul Bladeで迎撃したかったサクノだったが、溜めの時間をまったく与えてくれなかった。
 しかし、それでも……

 ズドォンッ!!!!

 バシャーモをふっ飛ばし、壁に叩きつけてダウンさせた。
 ところがこれはカヅキの作戦通りだった。
 エテボースがサクノとルカリオの背後を取っていた。

「しまっ……!」

「『アビリティダウナー・凍える風』!!」

 ゴォォッ!!

 サクノとルカリオはまんまとエテボースの凍える風を浴びてしまう。

「くっ、エンプ、『Seoul Blade』!!」

 波動を宿した闘気の剣を振りかざして、エテボースに一閃。
 バシャーモを吹っ飛ばした以上の波動を纏った攻撃だった。

 ガッ!

「っ!!」

 だが、ルカリオの最大の一撃は尻尾で軽く止められてしまった。

「『気合パンチ』!!」

 回避しようにも、ルカリオから見るとエテボースの動きが見えなかった。
 それほどにまで能力が落ちていたのである。
 お腹に一撃を受けて、そのままルカリオはダウンしてしまった。

「……それならっ!」

 新たにポケモンを繰り出して、イカズチのごとくスピードでエテボースに激突する。

「『Lighting』!!」

 自称闇の帝王のシファーのバシャーモさえも見切れなかった自信を持った一撃だった。
 いや、シファーだけではなく、決して一度も破られたことのない一撃のはずだった。

 ズザッ!!

 ライチュウはエテボースのわずか右へと突撃し、地面を滑っていった。
 もちろんその際に反動で大きなダメージを受けてしまった。

「止め!たたきつける!」

「まずい、レディ!!『10万ボルト』!!」

 ライチュウよりエテボースの方が早かった。
 尻尾で叩きつけられて、ライチュウはダウンする。
 アビリティダウナーの力で能力が落ちているせいもあるが、前の戦いでグレイシアからダメージを負っていたからでもあった。

「(このアビリティダウナーの力……例えモンスターボールの中に入っていても影響が出るのね。でも、トレーナーには影響しない)」

 冷静にサクノはルカリオとライチュウを戻す。
 フローゼルも倒されているため、残りはあと3匹。

「後私はこのエテボース1匹だけど、能力が落ちているあんたなんて、1匹だけで充分よ」

「それなら……」

 この状況を抜け出すために繰り出したポケモンは蝉のようなポケモンのテッカニンだった。

「素早さで撹乱しようと言う作戦?無駄よ!アビリティダウナーで素早さが落ちているのだから!」

 エテボースが尻尾を振りかざして、テッカニンをたたきつけようとする。

 ふわっ!

 だが、攻撃はすり抜けてしまう。

「影分身!?いつの間に!?」

「『シザークロス』!」

 ザシュザシュッ!

 エテボースの背後を取って、背中を切りつける。
 しかし、テッカニンもアビリティダウナーの影響下にある。
 不意打ちだったのだが、一撃で倒せるだけの力も奪われていた。

「加速!」

「アイアンテール!!」

 エテボースのアイアンテールは空を切る。

「アビリティダウナーの影響下でこれだけ動けるとはね……」

「確かに今のジョーはアビリティダウナーの力でスピードを最大限に引き出せてない。それでも、あなたのエテボースにひけはとらないわ」

「でも、これならどうよ?『スピードスター』!!」

 尻尾から繰り出される必中技の無数の星。
 テッカニンに攻撃が命中していく。

「確かにスピードは凄いけど、テッカニンは耐久力がない。これで充分だわ!」

「ジョー!」

 サクノの掛け声で『守る』を発動する。
 エテボースのスピードスターを弾いていく。
 しかし、

「いつまで持つかしら?」

「……っ!」

 容赦なく星が降り注ぐ。
 どうやら、エテボースはテッカニンの守る攻撃が切れるまで攻撃を続けるつもりのようだ。
 そして、『守る』ができなくなったとき、それはテッカニンが倒れることを意味する。

 ミシッ

 テッカニンの防御にヒビが入り始める。

「止めだ!!」

「ジョー!『Switch』!!」

 守るが破られる。
 スピードスターが次々とテッカニンに命中していった。
 攻撃の命中する爆発で辺りが見えなくなっていく。

「さぁ、これで2匹ね」

「それはどうかしら!?『Switch』から『乱れひっかき』!!」

 ザシュザシュザシュッ!!

 エテボースに次々と引っかき傷を与えていく。

「なっ!?」

「『シザークロス』!!」

 ザシュッ!!

 ダメージはそれほどでもないが、勢いでエテボースは吹っ飛ばされる。
 エテボースは体勢を崩す。

「『Cyclone Slash』!!」

 竜巻を纏ったような爪で怒涛の連続攻撃を放った。
 エテボースは吹っ飛ばされて壁に激突する。

「畳み掛けるわ!『剣の舞』!!」

「確かに『守る』は破れたはず……それに攻撃も確かに命中した!なのにどうして!?……もう一度『スピードスター』!!」

 もう一度絶対命中の無数の星を繰り出すエテボース。

「ジョー!『Switch』!!」

 サクノが先ほどから指示している『Switch』。
 その意味をここでカヅキはようやく理解する。

「何!?ヌケニン!?」

 サクノが指示を出すと瞬時にテッカニンはヌケニンへとチェンジしたのだ。

「私のジョーはちょっと特殊でテッカニンでもヌケニンでもあるの。公式大会では反則になっちゃうかもしれないから使わなかったけどね」

 ヌケニンはゴーストタイプであるがためにスピードスターは効果が無い。

「ジョー、『Phantom Slash』!!」

 腕に蒼い炎を宿した一撃だった。
 エテボースは切り裂かれて炎に包まれる。

「火傷!?くっ、『アイアンテール』!」

 ドガッ!!

 エテボースの攻撃はヌケニンに命中する。
 しかし、カヅキは失念していた。

「しまった!……特性の『ふしぎなまもり』か!!」

「『Switch』!!」

 そして、再びヌケニンからテッカニンに入れ替わる。
 一気に爪をつきたてる。

「『いのちがけ』!!」

 テッカニンがエテボースを突き抜けて、一気にダウンさせた。
 しかし、この技を使ったテッカニンも力尽きて倒れたのだった。

「くっ……まさか……負けるなんて……」

 サクノはテッカニンを戻す。

「チェリーとカナタは返してもらうわ!」

「残念だけど、私に勝って終わりだと思ったの?サクノ」

「まだ上がいると言うの?」

「ええ、そうよ。バトルの実力は私より上。そして、この『トキワの力』の力とその『応用力』の力もね」

 サクノはクレナイのいた場所へと走って行く。
 カヅキと戦っていた場所と大分離れてしまったために合流するのはかなりかかりそうだった。

「サクノ……この子がお姉様が認めたあいつの妹なのね」

 カヅキは呆然とサクノの後姿を見送ったのだった。










 第8話完


HIRO´´ 2012年01月23日 (月) 06時49分(27)
題名:第9話 P50 秋C

 ☆前回のレジェンドオブパラダイスΙのお話

 ホドモエシティの倉庫で追い詰められたチェリーだったが、サクノとクレナイが参戦により乱戦になる。
 結果、カヅキがチェリーを倒し、サクノがマキナを倒し、続いてサクノとカヅキが激突する。
 クレナイはアスカを撃破するが、今回の一連の黒幕であるミホシが襲い掛かってきた。
 そして、サクノはカヅキのアビリティダウナーの力をスピードとテクニックで破ったのだった。










 第9話 P50 秋C










 サクノとカヅキがバトルを繰り広げている頃、クレナイとミホシの激突も激しく火花を散らしていた。

「『ラスターカノン』!!」

 ドゴッ!!

 ユキメノコは鋼の塊を受けてダウンする。

 単純に文章にしてみるとこれだけだが、この間にもユキメノコはシャドーボールと影分身の応酬でドータクンへと攻撃していた。
 しかし、ドータクンは光の壁で遮断したり、かわしたりして、攻撃をうまく避けていたのである。

「……ヨルノズク」

 ユキメノコの時と同じシャドーボールを繰り出す。
 やはり同じくドータクンは光の壁で攻撃をシャットアウトする。

「……『エアスラッシュ』連打」

 風の刃が次々とドータクンの光の壁を襲う。
 このままだと壁が破れるのは時間の問題だった。

「問題ない」

 ヨルノズクの真下の地面から、突如飛び出してきたのはエレキブルだった。

「……!」

 穴を掘る攻撃で飛び上がって、空に浮かんでいるヨルノズクをかみなりパンチで打ち落とす。
 背中からたたきつけられるように落とされたヨルノズクは、体勢を立て直そうとするが、エレキブルの追撃が飛んで来た。
 10万ボルトが炸裂した。

「意外だな」

 クレナイが口を開く。

「てめえの実力はこんなもんだったか?はっきり言って拍子抜け過ぎるぞ」

「…………」

「それで本気だと言うのなら、さっさとくたばれっ!!」

 ドータクンが突撃する。
 ジャイロボールだ。

「…………」

 ふと、モンスターボールを持つミホシの手が淡くひかる。
 その中から飛び出したのは、エレキブルだった。

 ドゴッ!!

 エレキブルの炎を纏ったパンチだった。
 力の差はそれほどなかった……いや、劣っていたと思われるが、エレキブルが相性の力で押し切った。
 ドータクンは回転したままクレナイの元へと戻ってくる。

「それなら、『ラスターカノン』!」

 しかし、ドータクンは反応しなかった。

「どうした!?」

 慌てて様子を見ると、ドータクンは目を回していた。

「混乱……!?炎のパンチで混乱!? ……っ!!」

 ドッ!!

 容赦なくミホシのエレキブルが襲い掛かる。
 流されるままにやられるクレナイではない。
 同じくエレキブルを繰り出して、攻撃を防御する。
 拳と拳の激突で、殴り合いをし始めた。

「『ギガインパクト』!!」

「……かわして、『空手チョップ』」

 大きなモーションで一気に勝負を仕掛けるクレナイのエレキブルと小技で叩くミホシのエレキブル。
 ここはミホシの思うとおりに、ミホシのエレキブルが攻撃をかわして、空手チョップをエレキブルの顔に叩き込んだ。

「……追撃。……『けたぐり』」

 足払いをかけるごとく、クレナイのエレキブルは転ばされる。
 さらにメガトンキックでクレナイの近くまで打っ飛ばされた。

「いよいよ本領発揮してきたか……そうこなくちゃな、下種野郎!!エレキブル、『アームハンマー』!」

 格闘攻撃を指示するクレナイ。
 しかし、エレキブルはまったく違う攻撃をしてみせた。

 バリバリバリッ!!

「なっ!?なんで『10万ボルト』を!?」

 クレナイのエレキブルは独断でミホシのエレキブルに向って10万ボルトを仕掛ける。
 しかし、それは逆効果である。
 エレキブルの特性の1つは『電気エンジン』。
 すなわち、電気を浴びるたびにスピードを上げることができる。
 ミホシのエレキブルはスピードを上げて、一気にエレキブルへ空手チョップを叩き込んだ。

「(エレキブルの奴……メロメロ状態になっている!?さっきの空手チョップに混ぜ込んだのか!?)」

 空手チョップが再び襲い掛かるのを見て、クレナイはエレキブルを戻してドータクンで防御に出る。

「『リフレクター』!」

 バキッ!!

 ドータクンは無抵抗で叩き落された。

「なっ!?混乱が解けていない!? ……まさか!?」

「……気付くのが遅かったようね」

 クレナイがカメックスのボールを取るのと同時に、クレナイの脳天にエレキブルの空手チョップが入った。

「ぐっ……はぁっ……ハァハァハァ……うぁぁぁ……」

 クレナイのいつもの笑顔が崩れる。
 顔を上気させて、苦悶の表情を浮かべるクレナイ。

「ハァハァハァ……あぁ……これが……てめえの……力……『アビリティフェイク』かぁぁぁぁ……!!」

「……ご名答。……トキワの力『アビリティフェイク』。……攻撃を与えたポケモンに偽りの感情を植えつける能力よ」

 ごろんとクレナイは地面に転がって、カメックスの入ったボールを放してしまった。

「……でも、私の力は攻撃を与えた人間にも有効みたいね。……お陰で相手の感情も簡単に作りかえることが可能よ」

「……ハァハァハァ……おれに……一体どんな感情を……植え付けたんだ……!!」

「……決まっているでしょ」

 ミホシはクレナイの耳元に来てその感情の名を囁きかけた。

「くっ……」

「……抗っても無駄。……あなたも私の物」

「下種め」

「……何を言ってももうおしまいよ。……この時点で私の勝ちなの」

 ミホシは微笑み、クレナイは込み上げる偽物の感情に身を焦がしていく。
 戦いはクレナイの敗北で終わろうとしていた。



「アンジュ、『Fire Ball』!!」



 ドゴッ!!

 エレキブルの背に炎の塊が命中する。
 その勢いで吹っ飛ばされたエレキブルだったが、すぐに立ち上がって攻撃の方向を睨んだ。

「……アキャナインレディのサクノ」

「あなたがカヅキの言っていた黒幕なのね!!」

 サクノとウインディ。
 この2つのシルエットが並ぶ姿は、とても眩しく見えるとミホシは思う。

「……無邪気な正義を振りかざすポケモンマスター。……『紳士な悪魔』と呼ばれたオトとは正反対ね」

「……オト!? ……あなた、お兄ちゃんを知っているの!?」

「……ええ、知っていた」

「知って“いた”?」

「……そう。知っていた。……今のオトは知らない。……私の知らないどこか遠いところへ行ってしまったのよ」

「…………」

 サクノの兄であるオト。
 彼女の記憶には背が高くて、優しかった時の記憶しかない。
 それもそうだろう。
 彼女が最後に会ったのは、4歳の時……10年も以上も前のことなのだから。

「……見つからずに10年。……もう諦めたわ。……私の中のオトはもう死んだのよ。……だから……」

 ミホシはエレキブルに空手チョップを指示する。
 電気エンジンで上がっているスピードは、あっという間にサクノたちと間合いを詰める。

「……その代わりを作り上げているの」

 ドゴォッ!!

 空手チョップは地面を抉る。
 ウインディとサクノはその場所にもういない。
 『テレポート』で攻撃を回避したのである。

「代わりを作り上げた結果がこれだって言うの?たくさんの人を誘拐して……言いなりにして……それがあなたのやりたかったことなの!?」

「……そうよ」

「ふざけないで!こんなことをして、誰が幸せになれるというの!?誰も幸せになんてなれやしないわ!!」

「……どうかしら。……あなたは純真無垢な乙女だからそんなことが言えるのよ」

「子供でも……大人でも……男の子でも……女の子でも……そんなの関係ない!……縛られた世界に幸せなんて無い!……少なくとも私はそう思い貫く!」

「……やっぱり、あなたは何も知らない子供ね。……本当にあの人<オト>の妹とは思えない」

 ミホシが会話を終えるのと同時にエレキブルが動く。
 かみなりパンチで襲い掛かる。

「もう一度『Fire Ball』!!」

 炎の塊を口から吐き出すウインディ。
 しかし、もろともせずにエレキブルは拳で砕いて接近する。

「アンジュ、『Flare Drive』!!」

 炎を纏った突進系の技である。
 サクノのウインディの最大の技にはFlare Blitzがあるが、タメが多少必要であるためすぐに使えない。
 ゆえにサクノは反動はあるがこの技を選択する。

 ドゴォッ!!!!

「っ!! アンジュ!」

 押し負けたのはウインディだった。
 呆気なく吹っ飛ばされてダウンさせられた。

「……妹のトキワの力『アビリティダウナー』の影響が残っていたようね」

「っ!!」

 さらにエレキブルの拳がサクノを捉えた。

 バキッ!!

「うぁっ!!」

 かわせなかった。
 相手のスピードが電気エンジンによって強化されていたためである。
 従来のスピードならサクノでも充分によけられたのだが。

「うぁああ……あぁぁぁぁぁっ!!!!」

 サクノは地面に転がされて叫ぶ。
 ただひたすらに叫んだ。
 その表情は何かに怯えて、もがき苦しんでいた。

「……今度こそ、おしまいね」

 バキッ!!

 後ろを振り返ると、エレキブルが倒されていた。
 さらに後方には、目の焦点がややずれかけているクレナイの姿があった。

「……まだ堕ちていなかったのね」

 エレキブルを倒したのは、カメックスの突進技だとミホシは理解した。

「……サクノちゃんに……何を……!!」

「……ただあなたと同じ感情を植えつけても面白くないから、まず、充分に“恐怖”と言うものを味合わせてあげようと思ってね。……この子の“正義”を鼻っぱしから折ってあげようと思ったワケ」

「させ……るかっ!!……ハァハァ……グッ……」

「……無駄よ」

 バキッ!!

 クレナイとカメックスはサイコキネシスで吹っ飛ばされる。
 ミホシが新たに繰り出したのはユンゲラーだ。

「あっ!!うっ!!くっ……サクノちゃん……」

「あぁぁ……いやぁぁぁぁ!!」

 情欲に支配されそうになるクレナイと、恐怖に飲み込まれそうになるサクノ。
 ともに負けるのは時間の問題であった。



「ローガン流、『シグナルレーザー』!!」



 ドシュッ!!

 ユンゲラーに一筋の光線が直撃する。
 まさに一撃でユンゲラーはダウンしてしまった。

「……この技はローガン流?……まさかハレ……?もしくはチカ……?」

 しかし、この場に現れたのはそのどちらでもなかった。

「いやぁ……間に合った、間に合った!それにしても、エビス博士直伝の技は強力やな!」

 デンチュラを連れた紫色のロングヘアのビリーだった。

「……邪魔者……!!」

 ミホシが5匹目に繰り出したのは頭に立派な角が生えたポケモン、メブキジカだ。
 ノーマルと草の珍しいタイプを併せ持つポケモンである。

「……『ウッドホーン』!!」

 ビリーとデンチュラはヒョイッと攻撃を軽くかわす。
 しかし、それは罠だった。

「……『アビリティフェイク・目覚めるパワー』」

 惑星の輪のような動きをしたエネルギー体がデンチュラとビリーに命中し、炸裂した。

「ぐっ!!」

「……これで悲しみに打ちひしがれて終わりね」

 自分の能力に疑いは無いミホシは、目を瞑った。
 本来なら、ビリーに悲哀と言う感情を植えつけて、戦意を奪って戦いは終わるはずだった。

「誰が悲しむやて!?」

 先ほどユンゲラーを打ち抜いた『シグナルレーザー』がメブキジカを打ち抜く。
 ユンゲラーと違って倒れはしなかったが、大ダメージを追って、フラフラになった。

「……っ!!」

「デンチュラ、『エレキマグネードウェブ』!!」

 『マグネードウェブ』とは、とある少女も使っていた技で、『くものす』を飛ばす攻撃技だった。
 だが、デンチュラの場合は『エレキネット』と言う攻撃技を連続で飛ばすものだった。
 メブキジカはこれを受けて感電し、ダウンした。

「……おかしい。……確かに私のアビリティフェイクの力を受けたはずなのに、どうして変化が無いの!?」

 自信を崩されたミホシは流石に動揺を隠せない。

「教えてやる!それは俺が天使だからだ!」

「……天使?」

 ミホシは眉をひそめてビリーを見る。

「そうや。ミホシはんを守るために天空から降りてきた天使やからやで♪」

 ミホシはこのとき、「……ふざけた奴」と思い、ビリーの打開策を練った。

「さぁ、その『アビリティフェイク』とやらは、俺には通用せえへん!覚悟せな!」

 ビリーが残っているのは、残り4匹。
 ケビンとの戦いで疲労困憊のワルビアルを除くと3匹だ。
 対するミホシは最後の一匹であるシャワーズを繰り出した。

「……確かにアビリティフェイクは、あなたに通用しない。……でも」

 ミホシはシャワーズに手を当てて何かの気を送った。

「……それが無くても、充分あなたを屈服させることはできる」

「やれるものならやってみぃ!デンチュラ、『10万ボルト』!!」

 電気タイプと水タイプ。
 相性は抜群にいいとビリーは思い、強力な電撃で勝負を決めようとする。

「……その程度ね」

 集束された水攻撃が電撃をぶち抜く。
 そのままデンチュラを押し流し、ダウンに至らしめた。

「……いっ!?」

「……『冷凍ビーム』」

「くっ!!」

 狙いをつけてくる攻撃を飛び退いてかわす。
 しかし、シャワーズは2発3発と連続で攻撃を放ってきて、ビリーを追い詰めていく。
 4発目。
 この攻撃をビリーは避けることができないと悟り、メタグロスを繰り出して防御する。
 鋼の属性でダメージを軽減して、何とか反撃に出る。

「『アームハンマー』や!!」

 接近して、シャワーズをたたきつけた。
 だが、手ごたえはまるでない。

「あっ!?」

「……『溶ける』」

 液状化して、打撃効果を無効化したのだ。

「……『ハイドロポンプ』」

「『サイコキネシス』!!」

 超能力攻撃で押し返そうとするが、ハイドロポンプは威力の衰えを見せない。
 そのままメタグロスとビリーを押し流した。

「くっ……さっきのエスパーポケモンやメブキジカとは桁違いの強さや……一体なんや……?」

「……トキワの力の基本はポケモンの声を聞くこと。……そして、息を合わせて同調すること。……それによって、攻撃力は格段に上がるの」

「……トキワの力……」

「……止め。……『デュアルスプラッシュ』!!」

 シャワーズの尻尾から放たれる双璧の水の斬撃が、ビリーとメタグロスを襲う。

「かわさな―――ぐっ!!」

 ここで背骨に痛みが走り、ビリーはうずくまる。

「(ここで……カナタのツッコミの影響が……)」

 メタグロスもダメージは相当で動けそうにない。

 ズドォンッ!!

 しかし、攻撃は間に入ったポケモンによって防がれた。

「……!」

「……よくやった……カメックス……」

 ビリーとミホシの間に入ったのはクレナイのカメックス。
 『ワイドガード』を使って攻撃を防ぎきったのだ。

「『ハイドロ……ロケット』!!」

「……無駄」

 満身創痍のクレナイとカメックスの攻撃を『溶ける』でいとも簡単にいなした。
 攻撃はこれで終わり、今度こそミホシは勝ちを確信した。

 だが、次の瞬間、シャワーズの溶けた体からヒョコヒョコと芽が出て、体力を吸い取り始めるのが見えた。

「……!『宿木の種』!?」

 ハッとミホシは後ろを見ると、フラフラとした足取りだが、決して倒れない女の子とサングラスのようなメガネを掛けたエルフーンの姿があった。

「……恐怖に打ちひしがれながらも……戦おうと言うの!?」

「……私は……負けない……」

「……この恐怖は……誰もが心を蝕み……堕ちていく絶望の……感情なのに……どうして……!?」

「……恐怖は……誰にでもある。……恐怖することは弱さじゃない。……だから、この恐怖を受け入れて、恐怖に負けない強い心を持つのよ。……この恐怖を知った私はもっと強くなるっ!!」

 キッとサクノは挑む目でミホシを見る。

「(……この子は……心が……強い……!!……それだけに……落し甲斐があるわ……それこそ、誇り高き女教皇<アキャナインレディ>!!)」

 ミホシはサクノだけに集中し、淡い光を右手に宿し、宿木の影響を受けているシャワーズに力を分け与えてから、指示を出す。

「……この一撃で、決める。……『冷凍ビーム』!!」

 草ポケモンのエルフーンには効果が抜群の技だ。
 しかも、トキワの力を乗せている事により、威力はノースト地方の時に戦った伝説の氷ドラゴンポケモンのキュレムに匹敵するかもしれない。

「ラック、『綿胞子』!!」

 サクノの指示した技は攻撃技ではなかった。

「(……補助技!?……しかも、素早さを下げるしか効果がない技を……!?)」

 エルフーンはサクノの思い描いた通りに、正面に十層並べて放った。
 強力な冷凍ビームはその並べられた綿に命中し、次々と凍らせていく。
 通常ならば、凍らせて、そのまま突き抜けてエルフーンをも凍らすはずだった。
 しかし、十層目でその冷凍ビームの勢いは殺された。
 すなわち、綿が冷凍ビームを遮断したのだ。

「……どうして!?」

「エルフーンの特性は『いたずらごころ』。補助技を先に発動できるの。それに加えて、私の作ったこのアイテム―――」

 と、エルフーンが掛けているサングラスを指差す。

「―――『広角レンズ』と『ピントレンズ』を合成した『クリティカルレンズ』は命中率とクリティカル率を上げて、相手の急所を見切る。それは相手の技の急所も同じよ」

「……つまり、シャワーズの『冷凍ビーム』の急所を綿胞子で覆い隠したと言うこと……!?」

「ええ……。後は任せたわよ……」

 そして、サクノは息を付いて膝をつく。
 流石のサクノも精神的な疲労がかなりあったようだ。
 でも、自分が負ければこの戦いは負けると彼女は思っていない。
 自分が今の一撃を凌げば、次の攻撃は彼が絶対に決めると信じていたから。

「ああ、任されたで!」

「……っ!!」

 ミホシの後ろをビリーと彼のポケモンが取った。

「仕舞いや!!『ムーンインパクト』!!」

 ビリーのピクシーが放つ月の光を宿した正拳。
 シャワーズとミホシに炸裂したのだった。

「……ぐっ!!……はっ!!」

 シャワーズとミホシはこの一撃で意識を失って行ったのだった。





 ……オト……ヨウタ……

 ……会えなくて……寂しい……

 ……あぁ……誰か……私の感情も……偽って欲しいわ……










 1日が経過した。
 ホドモエシティの西の外れの倉庫外。
 そこに数人の姿があった。

“ぼ、僕がご主人様ですか!?”

 メイド服を着せられた少年は、驚くように3人の女の子を見回している。

「そうに決まってんじゃん」

 レースクイーンの格好をしたギャル系の女が妙に色っぽい目で少年を見る。

「け、ケビンさんでもよかったんですけど……あの人……本命がいるとかで……相手にしてくれなさそうだし……そのぉ……はわわぁぁ……」

 バニーガールの格好をした羞恥心丸出しの気弱系がオドオドと恥ずかしげにそう告げる。

「要するに、私たち全員可愛がってくださいと言う事ですよ」

 メイド服を着たスレンダー系のお嬢様系の少女が意味深な笑みを浮かべてにっこりと微笑んだ。

“僕なんかで本当にいいの?”

 その問いに、3人はにっこりと頷く。
 そして、その後の4人の行き先は、誰も知らない闇の中へと消えていった。





「……はぁ……お嬢様が捕まっちゃったかぁ……」

 不満そうに酒場で一人飲む赤のセミロングより長めで右垂らしのサイドテールの少女。
 今まではチャイナ服を着ていたが、すっかり元通りの格好になっていた(おしゃれなクリーム色のキャミソールにフード付きパーカーを引っ掛けている)。

 カラン とロックの梅酒を口に含んで、味を占める少女。
 彼女の名はアスカ。18歳。
 お酒は20歳になってから飲みましょう(何)。

「物足りないわ……」

 彼女が言っているのはやはり日常は刺激が足りないと言うことだった。

「あんなにお酒を飲まされて……あんなことやこんなこと……初めてのことをされて……でもってその生活から解き放たれて、いまさら元の生活で満足できるはずが無いじゃないのっ!!」

 ガンッと手で机を叩きつける。
 誰もが彼女を一瞥して驚く。

「アスカ……一人なのか」

 そこへ一人の男性がやってくる。

「……あんた……」

 ムッとするアスカ。
 今までどうしてこんな奴の命令に従っていたのだろうと言う思いと、本来なら私が年上なのになんで命令されないきゃいけないのよと言う思いが交錯する。
 すなわち、二つの想いは根は同じなので、命令されたことに腹立っていた。

 グイッ

「なっ!?」

 不意にアスカは肩を寄せられて抱きしめられる。

「君が欲しい」

「なっ!?いきなり何を言い出すんだ!?」

「初めてフエンジムであった時から、僕は君のことを想っていた。でも、当時の僕は奥手だったし、年上だからとか無理かと思って諦めていた。でも……」

 ふと、身体を離すと、アスカはビシッと彼の頬を叩いた。

「っ!」

「このヘンタイ!ケビンのヘンタイ!!」

「ヘンタイはお互い様だろ?」

「……うっ……」

 アスカは数日前までのことを思い出し、顔を真っ赤にして、黙り込む。
 同じくケビンも彼女から目をそらして、言葉を飲み込む。
 少しの間奇妙な空気が流れた。

「今の君は18歳。そして、僕は25歳。出会った時は3歳年下だったけど、今は僕が7歳年上。僕が君を守るから、一緒に旅をしないか?」

「……っ!!」

 突然の告白に困惑するアスカ。
 不意に思い浮かぶ今まで旅をして来た少女の顔。
 でも、すぐにその顔は消えて、直近の出来事が思い浮かんでしまう。
 それは日常ではありえなかった出来事。
 もしかしたら、彼といたらそれに近いことができるんじゃないかと言う打算。
 それを考えたら、アスカの答えは1つしかなかった。

「うれしいよ」

 酒場で1つのカップルが誕生した瞬間だった。



「…………」

 そして、酒場でケビンとアスカの様子を見ていた1つの影はその場からゆっくりと立ち去っていったのだった。



 なおこの後、ケビンは有能なポケモンレンジャー&トレーナーとして力を振るい、アスカは酒場の女店主として暮らしていくことになる。



 “あの”忌々しい悲劇が起こるまでは……










 ―――1週間が経過した。

 ―――ホドモエシティの失踪事件は首謀者の一人のカヅキが捕まったことにより、事件は終結したように見えた。

 ―――だが、失踪から帰ってきた人々は、時々いつの間にかプチ失踪を繰り返すのだと言う。

 ―――その謎は、表には公表されることはあるまい。



「はぁ……ようやく退院ができたわぁ……」

「自業自得だろ」

 ビリーのため息混じりの言葉にカナタが傷を抉る言葉を送る。

「オイオイ、このケガは誰のせいでなったと思うてはるんや?第一、俺がケガなんかしなかったら、最初の襲撃の時に遅れなんてとらへんかったわ!」

「う……うるさい!」

 と、カナタはビリーに言葉で差し押さえこまれる。
 意外と口げんかに弱いカナタであった。

「そういえば、お姉様。あのチェリーさんはどこへ行ったんですか?ポケモンバトルの稽古をつけてくれた礼をまだしてないんだけど……」

 カナタが捕まった時、クレナイの妹のチェリーは、カナタを教育するという命をカヅキから貰って、ポケモンバトルの特訓をしていたのである。
 すなわち、チェリーはある意味カナタの命の恩人なのである。

「チェリーなら今頃、刑務所よ?」

 さらりとサクノは答える。

「え!?何でですか!?」

「だって、人の物を盗むのは泥棒!ポケモンを盗むのも泥棒!それは許されないことなの!法を犯したら法に罰せられる。ルールはしっかり守らないとね!」

 純粋なる正義を振りかざし、サクノは何故かキラキラと目を輝かせて、拳をぎゅっと握り締めて、何故かドヤ顔である。
 ちなみに、彼女の隣にはいつものモンスターバイクがある。

「あれ、兄の……クレナイさんとか、弁護はしなかったのか!?」

「元々、兄のクレナイさんもチェリーさんを一度警察に突き出すために協力してくれって言われていたし」

「(あぁ、どっちにしても、あの甘うざったい子は見放されていたんやなぁ)」

 ビリーは遠い目でチェリーを哀れんだのだった。

「そや。ところでクレナイはんは?」

「私にだけ挨拶して、もうどこかへ行っちゃったよ?」

「なーんや。サクノはんだけにかぁ。にしても、サクノはんだけにってことは、クレナイはんもサクノはんに気があったっぽいやな」

「そんなことあるわけ無いでしょ」

 と、緩やかな口調かつ笑顔でばっさりとサクノは否定する。

「それにしても、あの人たち……」

 サクノはうーんと首を傾げる。

「どないしたん?」

「お姉様?」

「『オトシガイがある』とか、『あなたは何も知らない子供ね』とか言われたんだけど……結局どういう意味だったんだろうって」

「うーん、なんだろうな?お姉様がわからないのに私がわかるワケないよなぁ」

 とカナタは楽天的に呟く。

「…………」

 ただ、ビリーだけは微妙な表情でサクノの言葉を聞いていた。

「あっ!ビリー、何か知っているの?」

「あー……ええと、それはやな……」

 とビリーはカナタをチラチラと伺いながら、言葉を詰まらせる。

「ねぇ、教えてよ!」

「お、俺には教えられへん!」

「えー、ビリーの意地悪」

 と、サクノはなんか可愛くしょげてみせる。
 ビリーはその表情に何故か後悔の念を抱かせる。



「それなら、私が教えてあげましょうか?」



「なっ」

「っ!!」

 聞こえて来た1つの声。
 それはどこかふんわりとした母性溢れる声だった。
 そして、彼女は白髪に全体的にふんわりした身体つきをし、白いワンピースを着用していた。

「あのときのナース服女!」

「確か名前は……マキナ!?」

 3人は警戒を露にする。
 ボールを構えて既に臨戦態勢だ。

「本当に教えてくれるの!?」

 ……いや、サクノは違った(爆)

 ビリーとカナタはずっこけるしかない。

「サクノちゃんが本当に知りたいのなら教えてあげるよ。子供から大人の階段を登る秘密をね」

「え、え!?大人になるには何か儀式が必要なの!?」

 物凄く驚愕を露にするサクノ。
 その表情は女の子同士で恋話をするに近い。
 が、サクノはそういった恋の話とかはしないので、例えて言うならば、アクア(ECもしくはDOC参照)がリーフ(同じく)にいちいち余計な一言を言う表情に似ている。
 それでわかりにくいならば、エナメル(UD参照)が大好きなアップルパイを頬張った時の表情を想像してくれればいいだろう。

「例えがわかりにくいし!」

 と、カナタは無意味に地の文にツッコミを入れるのであった。(何)

「そうね。とりあえず、私はあなたについていくわ。サクノ。ちょっとした目的があってね」

「目的?」

「ええ。あなたの邪魔はしないよ」

 と、マキナはにっこりと微笑む。

「わかった」

 サクノは素直に頷くのであった。

「って、素性も分からないしかも敵だった女と一緒に旅するんかいな!?」

「また、何か企んでいるんじゃないのか?」

 カナタとビリーは警戒を解かない。

「大丈夫よ」

 しかし、サクノは妙に自信を持ってそう言ったのだった。

「よろしくね」

 とマキナも微笑んで挨拶する。
 2人は仕方がなくサクノの意向に従うことになった。

「それじゃ、後でその話を聞かせてね、マキナさん!」

「いいわよ」

「待て待て待てェっ!!」

 ビリーが割って入る。

「こんな得体も知れない奴に教えられるくらいなら、俺がサクノはんに教えるっ!!」

「本当!?」

 キラッキラの純粋の笑顔でサクノはビリーを見る。

「あ……ええと……こ、ここでは教えられへんっ!!」

「そ……うなの?ふーん」

 そんなこんなで、サクノ、カナタ、ビリー、マキナの4人は新たな町へと旅立ったのだった。










 ……ところでこの2人なんだけど……










 ―――ホドモエシティの郊外。

「……私にはもう何も残されていないの……?」

 黄色いロングヘアに黒いシックのドレスを着た女性が膝をついて、悲しみに沈んでいた。

 弟、気になる人、そして、妹……すべてが自分の手から離れていった。

 だから、もう彼女は立ち上がることはできないと思っていた。

「哀れだな」

 彼女の頭上から男の声がした。
 その声を聞いて、彼女は忌々しいその笑顔を思い出す。

「……あなたがいなければ……あの子がいなければ……私は望むものをすべて手に入れられたはずだった……」

「そいつは残念だったな。このド淫乱女」

 男はグイッと彼女の顔を持ち上げる。

「救って欲しいのか?その悲しみから」

「…………」

「そんなに救って欲しいなら、おれの女<もの>になれよ」

 ゆっくりとした動作で彼女は男を見た。
 やはり、彼は笑顔だった。
 どんな時でも、その男は笑顔を絶やさない。

 いや、彼が笑顔以外の顔を見たのは一度だけである。

「……面白い。……どうして、そんなに私のことが気にかかるのかしら?」

「理由なんて無い。ちょっとした退屈しのぎだ」

 かくして二人の契約は成立する。

 マサラ4兄弟の長男とトキワの力を受け継ぎし長女は、脚光を浴びることなく、また闇に堕ちる事もなく、平穏な日常へと還って行ったのだった。










 第9話完


HIRO´´ 2012年02月02日 (木) 07時12分(28)
題名:第10話 P50 秋D

「はぁはぁ……!!」

 少年は逃げていた。
 いや、逃げていたというのは正しく無い。
 雲に乗っている大仏みたいなポケモンを必死に倒そうとしているのだが、相手の攻撃力に押されて、どうしても逃げてるように見えるのである。

「ま、負けるもんかぁ……絶対に……ゲットするんだ……!!」

 ツバの長い帽子を被った少年はモンスターボールを振りかざした。
 その帽子は、昔に鳥ポケモンを反映させるために作ったと言われる組織の被っていた帽子とそっくりだった。
 そんな彼は、一匹の鳥ポケモンを繰り出す。

「ケンホロウ!『燕返し』!!」

 孔雀のようなポケモンは、翼をはためかすと、一気にその雲に乗ったポケモンへと攻撃を仕掛けた。
 それに対抗するように、周りの雑草を根っこから吹き飛ばすような猛烈な風を放った。
 俗に言う『暴風』という技である。

「うわっ!!」

 防止のツバが長い少年は、吹き飛ばされる。
 一方のケンホロウはというと、必死に燕返しで暴風を耐え凌いで、攻撃を与えようとしていた。
 「決まる!」と少年は思った。

 バリバリッ!!

 だが、別の方向から飛んできた雷撃に、少年のケンホロウは一撃で撃沈した。

「……なっ!?別のポケモンが!?」

 少年が追っていた雲に乗った大仏に似たようなポケモンがもう一匹いた。
 しかし、2匹は色が違っているし、属性も違うし、何よりポケモンの種類としても違っていた。

「こうなったらとっておきのポケモンで……!! プテラ!『原子の力』!!」

 現代には実在せず、化石やコハクのみでその存在を知られているはずのプテラ。
 しかし、今では……いやすでに100年ほど前から、化石やコハクを元に戻す研究は完成していた。
 故に、主にカントーで生息していたと言われるカブトやオムナイトからイッシュに生息していたと言われるアーケンやプロトーガたちをゲットしているトレーナーも稀ではない。
 このプテラの潜在能力もかなり高い物である。

 だが、相手が悪かった。

 ブワッ!! バリバリバリッ!!
 
「っ!! プテラ!?」

 猛烈な風で動きを止められて、強力な電撃で迎撃される。
 弱点となる電撃を攻撃を受けてはさすがのプテラも倒れるしかなかった。

「くっ!!まだだ……!!」

 諦めない少年は残りの2つのボールを掴もうとするが、一匹の大仏がそれを許さずに突風を吹き付ける。

「うわっ!!」

 少年は吹き飛ばされて、転がっていく。

 ドンッ!!

 大樹に背中をぶつけてようやく止まる。
 しかしその衝撃は大きく、少年は意識が一瞬途切れる。
 そして、恐る恐る目を開けた時、大仏が背中の太鼓のようなものをバチバチと放電させていた。

「(『10万ボルト』が来る……っ!!避けられない……!)」

 少年は覚悟した。
 10万ボルトは少年へと向かって行く。
 しかし、少年の目の前で電撃は屈折した。

「……!?」

 少年は感じた。
 何か特別な力……つまりエスパー系の力で攻撃を強引に捻じ曲げたのだと悟った。

「おーい、あんた、大丈夫かいなー?」

 少年が見たのは、紫色のロングヘアの少年と緑色の細胞ポケモンといわれるランクルスだった。

「なんか襲われているみたいやから、俺たちが助太刀してやるでぇ♪」










 第10話 P50 秋D










「というか、あのポケモン……なんだよ」

「あら、初めて見るポケモンですね」

 また、身長がやや高めのがっちりとした少女と白髪のワンピースを着たふんわりした少女が姿を現す。

「カナタ、マキナはん、気をつけるんやで。あのポケモンは、トルネロスとボルトロス。イッシュ地方に伝わる風神と雷神の伝説ポケモンや」

 紫色のロングヘアのビリーがポケモンの名前を口にした瞬間、雷撃が飛んで来た。
 今、攻撃して来たのは、背中にいくつかの太鼓を持ったポケモンのボルトロスと言うポケモン。
 素早い電撃攻撃がビリーを襲う。
 ランクルスがエスパー攻撃で捻じ曲げようとするが、あまりのスピードにランクルスはダメージを負ってしまう。

「ちっ、しっかりせな!『サイコキネシス』や!!」

 反撃として、最大の念動力で対抗する。
 しかし、もう一匹のポケモンが猛烈な風で対抗し、攻撃を相殺してしまった。
 トルネロスの『暴風』である。

「この二匹……仲が悪いはずなんに、協力しているんか!?」

「『ツインフォルテスラッシュ』ー」

 マキナと彼女のポケモンであるアブソルが果敢にボルトロスへと突っ込む。

「『濁流』!!」

 そして、カナタはヌマクローでマキナの攻撃を援護する。
 二つの攻撃を相殺するために、2匹は電撃と風の刃を放つ。
 しかし、アブソルが放った強固な刃が2つの攻撃を打ち破って、二匹にダメージを与える。
 さらに怯んだ二匹を濁流が飲み込んだ。

「ビリー!今だっ!!」

「オーケー!!ワルビアル、『打ち落とす』やで!!」

 カナタの合図でビリーと彼のポケモンであるワルビアルが突撃する。
 両腕を振りかざしてボルトロスとトルネロスを叩き落した。

「今が総攻撃のチャンスよ!」

「ああ、行くでぇ!」

「一気に決めるぜ!」

 飛べずに戸惑っているトルネロスとボルトロスに向かって、ビリー、マキナ、カナタはポケモンたちで総攻撃を仕掛ける。
 アブソルが辻斬りで切りつけ、ヌマクローがハイドロポンプで押し流し、ランクルスがサイコショックで超能力の塊をぶつけ、ワルビアルはサンドクローで切り裂く。
 並のポケモンだったら、それだけで終わっていただろう。
 しかし……

「くっ!」

「うわっ!」

「キャッ!」

 ボルトロスの雷撃とトルネロスの突風の怒りの反撃で総攻撃に出ていたポケモンが一気に吹っ飛ばされる。
 攻撃に耐え抜いたのはビリーのランクルスだけで、他のポケモンはダメージに耐え切れずダウンした。

「そこだ!ピジョット!!」

 チャンスをうかがっていた少年が、電光石火でトルネロスをぶっ飛ばす。
 突風攻撃で隙があったトルネロスは、無抵抗で攻撃を受けたためにダメージは大きかった。

 ボシュッ!!

 さらに、トルネロスの反撃も許さぬうちに、少年はモンスターボールを命中させていた。
 トルネロスはボールの中に吸い込まれるが、カタカタとボールを揺らして抵抗する。

 ボシュ

 捕獲は失敗だった。
 トルネロスは再び外へと出てきた。

「まだ、ダメージが足りないみたいやな」

 ビリーはランクルスを戻して、ピクシーを繰り出した。

「もっと、強い攻撃じゃないとダメのようね」

 マキナはバクオングのハイパーボイスで牽制に出る。

「私が補助技で援護するから、ダメージを与えるのは頼むぜ!」

 カナタはチョンチーで超音波で2匹を撹乱にかかる。

「あんたはチャンスが来るまで待ってるんや」

「……わかったよ」

 少年はピジョットと共に捕獲の隙をうかがうことにした。

 ボルトロスとトルネロスはチョンチーの攻撃で動きを止めるが、それも少しの間だけだった。
 だが、ボルトロスをバクオングの音波が、トルネロスをピクシーのコメットパンチがヒットし、ダメージを与える。

「バクオング、『爆音玉』よ!」

 大きな声を上げると同時に、その音波を自らの手で圧縮する。
 そうしてできた、ボールをボルトロスへぶつけると、数メートルくらい吹っ飛んだ。
 地面を滑るように飛んでいき、ボルトロスは動きを止めた。

「そこや、『ムーンインパクト』!!」

 ボルトロスがダメージを受けて動けないのを見て、ビリーが勝負に出る。
 かまいたちやエアカッターをずっとかわし続けていたが、次の瞬間、ピクシーが翼を広げて飛び上がり、トルネロスの後ろに回りこんで月の輝きを纏った正拳を叩き込んだ。
 前のめりに吹っ飛ぶが、トルネロスは瞬時に体制を立て直した。
 しかし、そのときにはピジョットの最大の技がトルネロスの顔面を捉えていた。

「『ゴッドバード』!!」

 ズドォンッ!!!!

 トルネロスは吹っ飛んで、ついに動かなくなる。

「チャンスだぞ!?」

「よし、いまだ!」

 ここにいる誰もが次はトルネロスを捕まえられると思っていた。
 少年がモンスターボールを投げる。
 真っ直ぐにトルネロスに向かっていく。

 バシッ

 だが、何かが割り込んでボールが叩き壊された。

「……!?」

「……こいつは!?」

 真っ先にその正体に気づいたのはビリーで、ピクシーと共にそのポケモンを迎撃に出ようとする。
 だが、ビリーの敵意に気付くや否や尻尾で地面を叩き、地面を割った。

「っ!!うわっ!!」

「ビリー!?」

 地割れに足を突っ込んで、ビリーは思いっきりずっこける。
 しかも、ズズズッと割れは広がって行き、ビリーは落ちないように地面に掴まる。

「カナタ、来るでェ!きぃつけぇ!」

「っ!!」

 ドゴッ!!

 迫り来る第3の大仏のようなポケモンにピジョットの燕返しが決まった。
 しかし、そのポケモンはかすり傷程度を追ったぐらいしか思っておらず、ギロリとピジョットを睨む。
 無数の岩の破片を飛ばし、ピジョットとトレーナーを迎撃しようとする。

「くっ!!ピジョット、あの技だ!!」

 少年はピジョット自身に風を纏わせる。
 そして、翼でストーンエッジを叩こうとした。
 だが、何の効果も無くストーンエッジは少年たちを襲ったのだった。

「(失敗か……!!) うわっ!!」

「チョンチー、『水鉄砲』!!」

 少年に攻撃が集中している間に、カナタが水属性で攻撃する。
 岩と地面系の攻撃をしてくることから、弱点を突けるとカナタは思っていた。

 水鉄砲はそのポケモンに命中する。
 嫌な顔をして、ギロリとカナタたちを見ると、尻尾を地面に叩きつけた。

「……っ!? ぐわっ!!」

 突如地面からエネルギー波が打ち出された。
 カナタとチョンチーはそれにより打ち上げられて、地面にたたきつけられる。

「ぐぅ……」

「バクオング、『ハイパーボイス』!!」

 3人が動けない中、マキナとバクオングがフォローに出る。
 強力な音の衝撃波でそのポケモンを封じようとするが、『ストーンエッジ』で押し返そうとする。

 威力は互角だった。
 どちらも押し返せず、引きもしなかった。

「(威力は互角ね……それなら、エネコロロを……)」

 と、新たにマキナはモンスターボールを取ろうとした。
 しかし、電撃と突風がそれをよしとはしなかった。

「きゃあっ!!」

 復活したボルトロスとトルネロスが襲い掛かってきたのだ。
 そして、ストーンエッジがフィールドすべてに炸裂した。

 止めにそのポケモンとボルトロス、トルネロスは暴走した。
 それぞれ暴れる攻撃で、あたりを荒らしまくる。
 4人に反撃の隙は与えなかった。

 さらに10分後……



「くっ……逃げられた……」

 少年は肩を抑えて、歯を食いしばった。
 彼のポケモンはすべて全滅して、地面に倒れていた。

「ぐっ……」

 カナタは意識を取り戻したようで、頭を抑えて呻いていた。

「結局……なんだったのかしら」

 マキナは冷静にバクオングを戻して、呟いた。

「今のポケモンはさっきの2匹と同じ伝説のポケモンのランドロスや。しかし……」

 ビリーは空を見てふと思う。

「(トルネロス、ボルトロス、そしてランドロス……あの伝説のポケモンの3匹の暴走……異常なことや。もしかして、何かが起きようとしているんか……?)」










 ―――3時間後。

「そんなことがあったのね……」

 とある町にあるイタリアンレストランで一人の美少女が呟く。
 そんな彼女……サクノは数分前に運ばれてきたカルボナーラに粉チーズをちょこっとかけてからフォークにクルクル巻きつけて口へと運んだ。

「私を呼んでくれたら、助けに行ったのに……」

「お姉様……あれだけ、あそこで夢中になっていて呼べるわけが無いじゃないですか」

 熱々のドリアがカナタの前に運ばれてくる。
 スプーンで掬って口に運ぼうとするが、火傷しそうになって、スプーンを皿に落とした。

 カナタがお姉様と呼ぶサクノは、カナタたちが伝説の3匹のポケモンと対峙している間、今いるレストランの近くのバイクショップにいた。
 サクノがこのバイクショップの品揃えを見て、「じっくり見たいから、みんな先に行ってて!」と目を輝かせて言うもんだから、他の3人は仕方がなくぶらついていたのだ。
 そこへ見かけたのが、トルネロスとボルトロスに襲われている少年だった。

「それにしても、無事だったからよかったんじゃないの」

 優しく穏やかに話すのはふんわりとした白髪の少女マキナ。
 今集まっている面子の中では年長者に当たる18歳である。
 ミニフォークでさっくりとドルチェを切って、手で支えながらゆっくりと口へと運んでいく。

「でも……僕はあのポケモン……トルネロスをどうしてもゲットしたかったんだ!兄や姉達を見返すために!!」

 Lサイズのピザを6等分に切って、飛行ポケモン使いの少年は悔しそうに呟いた。

「ムシロ……兄や姉達って?」

 ふと気になり、カナタが尋ねる。

「兄が5人、姉が4人。目白<メジロ>、真白<マシロ>、紅白<クシロ>、邦白<ホウジロー>、白木<シラキ>、白<パク>、白亜<ハクア>、古白<コハク>、余白<ヨハク>……僕が末っ子なんだ」

「見事に……名前が揃っているな……」

 カナタが兄姉の名前を聞いて呆気に取られている。

「まさか、両親の名前がシロとかハクって言うんじゃないよね?」

「え?何で解ったんですか?」

 冗談交じりでマキナが言うと、ムシロ(無白と書く)は右手に持ったピザの具をポロリと落としながら、驚いた。

「男の子が産まれたら、シロという名前を含ませて、女の子が生まれたら、ハクと言う名前を含ませるって決めていたみたい。……ってそんなことはどうでもよくて」

 大きいピザをぱっくりと、一口で頬張る。
 流石にすぐに飲み込むことはできず、ゆっくりと咀嚼して、飲み込んだ。

「どうしても、トルネロスをゲットしたいんだ!」

「どうして、トルネロスに拘るの?飛行ポケモンなら、他のポケモンもいるんじゃないの?」

「兄や姉を超えるにはこのままではダメだと思ったんです。だから、飛行使いのレベルを上げるキッカケとして、旋風ポケモンと呼ばれる風と飛行を司るトルネロスを捕まえることにしたんです」

 マキナの少し辛口な質問ももっともであるが、ムシロは即答して見せた。

「何せ僕の夢は、兄や姉を超えた先にある……世界一の飛行使いなんです!」

 夢。

 そのワードを聞いて、その場にいた全員が反応を示す。

「……夢……か……」

 サクノがポツリと呟く。

「お姉ちゃん達は何か凄い夢を持っているの?」

「おおう!私は持っているぜ!」

 即座に反応したのは、カナタだった。
 ドリアを食べ終えて、カタンとスプーンを机に置いて立ち上がる。

「世界中の海を旅をする!そして、大秘宝を手にする!」

「ん……なんか、海賊みたいやな」

 今の今までシャクシャクとフォークで生野菜サラダを食べて黙っていたビリーが、ここぞとばっかりからかう様にツッコミを入れる。

「トレジャーハンターだっ!」

 若干、怒ったように言うカナタだったが―――

「まぁ、そのときは絶対船長になるけどな!」

 ―――別にビリーの言葉を気にしているわけではなかった。

「せや。夢と言えば……」

 ビリーはキッと隣に座る女性を見る。
 彼女……マキナは困った表情で目を背けた。

「マキナはんは、どんな夢を持っているん?」

 真剣な表情でビリーは質問する。
 マキナには彼の質問が「一体何のためについてきたんだ?」と言う意味で聞こえていた。

 ビリーが警戒するのも無理はなかった。
 最近、敵として出会い、何の兆候もなくサクノたちの旅路についてきたのだ。

「私の夢……ね……」

 うーんと、マキナは眉間にしわを寄せて考え込む。

「夢や目標なんて無いんです」

 「でも」とマキナは付け加える。

「あえて言うなら、自分の在るべき場所を見つけるために旅をするという感じでしょうね」

「「自分の在るべき場所?」」

 ムシロとカナタが言葉の意味を問いかける。

「終着点というべきでしょうね。私は幼馴染のアスカと一緒に旅をしてきました。でも、アスカは自分がこう在りたいと思う理想を求めて、旅を終えた」

 彼女の表情は少し寂しげだった。

「だから、私も自分が自分で在るための旅の終着点を探しているの。とはいっても、人生自体が旅って言うから、本当の終着点は究極的に死なのかもしれないけどね」

「終着点か……」

「例えそれがどの場所でも、どの時代でも私はかまわないわ」

「…………」

「ビリーこそ何かあるのかよー?」

 マキナの壮大な答えを聞いて、ビリーは黙ってしまった。
 ちょっとイタズラっぽい笑顔を浮かべて、カナタが肘でビリーの腕をグリグリしながら聞く。

「お、俺は……………………」

 やや真面目な表情をするビリー。

「(何かを選択するために迷っているのかな?)」

 ビリーの心情を予想したのはマキナだった。
 彼の仕草や表情を見て、なんとなくそう感じたのだ。

 3分経過した。
 あまりにも真剣そうに考えているので、みんな意外そうにビリーを見ていた。

「せやな」

 フッとビリーの表情が明るくなる。

「一人の女の子を骨抜きにするためや〜♪」

 すると、サクノを除いた全員がため息をついた。

「真剣に考えて、そんな答えなんですか?」

 ビリーは話を持ち出したムシロにまで白い目を向けられた。

「なんていったって、それしかないんやわ!なーサクノはん♪」

「ビリー……好きな子がいるんだ……。がんばってね!応援してるよ!」

 と、サクノは無邪気な表情でビリーを励ます。
 もちろん、同時に“あんたのことだよ”とビリーとサクノ以外のみんなが心の中でツッコミを入れる。

「(ビリー……哀れねぇ)」

 ビリーはいつものことなので気にしないが、ここまで気持ちを気付かれないと同情をしてしまうマキナだった。

「お姉様の夢はもちろん」

「ええ」

「サクノの夢はなんなの?」

 マキナだけが知らないようで首を傾げて尋ねる。

「刑事。それも国際警察官よ」

「じゃあ、ジュンサーさんのさらに上のクラスになることが目標なのね?じゃあ、まずは警察学校を目指さないと」

 そのマキナの言葉にサクノは首を横に振った。

「警察学校はもう卒業して来年の春の中旬に働くことを決めているの」

「え?凄いじゃないの!」

「ええ。そして、今はその苦労を報いるための最後の旅なの」

 サクノはスパゲッティを食べ終えて、レモン味の紅茶を一杯啜った。

「あと、この旅は人探しも兼ねているの」

「人探し?」

「一人は兄。もう一人は、父」

「……兄……」

 マキナはあらかじめサクノには兄がいることを聞いていた。
 彼の名前はオト。
 かつて何度か会ったことがあり、ポケモンバトルもしたことがある仲だった。

「(この子とオトさんが兄妹……なんと言うか、性格が正反対ね)」 

 男が苦手な性格のマキナだったが、とある2人だけはそれほど苦手意識は無かった。
 そのうちの一人がオトだった。

「そのお兄さんの行方の手掛かりはあるの?」

 首を横に振って残念そうな表情をするサクノ。

「それじゃ、どうしてイッシュ地方に?」

「カナタが見たことも無い地方を冒険したいと言う理由もあったけど、父がイッシュ地方にいるかもしれないってカズミさんから情報をもらったの」

「父……ねぇ」

「実は兄ももともと旅に出ていて、あまり会ったことがないけど、父も4歳の頃に突然、旅に出たっきりきり帰ってこないの。私と母を残したまま……」

「…………」

「母は時々寂しそうな表情を見せていた。だけど、一度も弱音を吐かなかった。理由はまったくわからないけど、こうなることを認めていたようだった」

 サクノは立ち上がる。

「だから、私は父に会いたい。そして、何故帰って来ないのかその理由が知りたい!母の寂しい顔は見たくないの!」

「……お姉様……」

「そんなことがあったんやなぁ……」

「……サクノ……」

 一同が彼女を想って視線を送る。

「(こんな想いをさせるお姉様の親父なんて、私がぶっ飛ばしてやる!)」

「(こうなったら、身をもって俺が骨抜きに……)」

「(サクノを身をもって慰めて、イロイロな事を……)」

 三者三様、考えていることはバラバラのようだが(ぁ)。

「とにかく!」

 夢の話を切って、ムシロが立ち上がる。

「僕はトルネロスを捕まえに行きます!」

「せやな、乗りかかった船やし、手助けしようやないか」

 ムシロの心意気に共感してビリーが立ち上がる。

「飛行使いか……それなら、そいつを捕まえてから、バトルしようぜ」

「お手伝いしますよ」

 カナタとマキナも立ち上がる。

「3匹の伝説のポケモンね。今度は私も力を貸すわ!」

 サクノも堂々と参戦を宣言した。

「ありがとうございます……皆さん……」

 こうして、5人はイタリアンレストランを出て、再び伝説のポケモンの3匹を追おうとした。



「はい。ここまでっスよ。ムシロの坊っちゃん」



 レストランを出たところで、キセルを咥え、麦藁帽子を被った無精髭を生やした初老の男がいた。
 怪しい男の出現にサクノたちはボールを取って身構える。

「……っ!! ハヤット老師!?どうしてここに!?」

 しかし、ムシロだけはその男を知っていた。
 驚いた様子でその男を見ていた。

「誰なの?」 

「僕に……いや、僕たち兄弟に飛行ポケモンについてレクチャーしてくれた人です。両親の古い友人だって聞いています」

 フゥーっとキセルを右手で取って煙を吐き出すと、ムシロに近づいていく。
 無精髭に麦藁帽子を被っていたせいか、表情まで見えなかったが、近づいてくるのを見て、案外、無邪気で若そうな印象が伺えた。

「ムシロの坊ちゃん、帰るっスよ」

「なんで!?僕はトルネロスをゲットするんだ!」

「その心意気は買うっスよ。でも、そんなことをいっていられないっス。ハクが……君の母さんが今大変なんっスよ」

「母さんが!?」

 驚いた表情でムシロがハヤットに詰め寄る。

「一体何があったんですか!?」

「実はシロが……君の父が無理をさせすぎたみたいで……」

「無理をって…………父さん…………」

 言葉にならず、ムシロはため息をつく。
 そして、4人を見た。

「ゴメンなさい。せっかく協力してくれるって言ってくれたのに」

「いいのよ!お母さんの元に行ってあげて」

「そうよ。サクノの言うとおりね。お母さんを大事にしてあげてね」

 サクノとマキナが揃って、ムシロを励ます。

「わかりました。ハヤット老師……行きましょう」

「すぐに行くっスよ」

 そういって、ハヤットが繰り出したのは一匹のカイリューだった。
 大分このカイリューも高齢のようだ。
 しかし、実力は充分のようで、すぐに飛び上がって、空の彼方へ見えなくなってしまった。





「ムシロか……いつかバトルができるといいな」

 次の町へと向かう道中。
 カナタがふと呟く。

「あら、もしかしてムシロに惚れたの?」

「え、マキナさん、そんなことあるわけ無いじゃないか!」

「そうなの?てっきり、私はカナタがムシロばかり見ているから、惚れちゃったのかと思っちゃった」

「違うって言っているだろ!」

「冗談よ♪」

「……っ!」

 クスクスとマキナはカナタをからかっていた。

「どちらにしても、ムシロが気になって見ていたのは、サクノだったみたいだけどね」

「……ふぇ?」

 道中の屋台でお好み焼きを買って食べていたサクノは、突然名前が出てきたことに驚いてマキナを見た。

「チラチラとサクノを見ていたみたいよ。もしかして、惚れていたんじゃないかな?」

「なっ、ムシロのヤツ……そんな目でお姉様を!?」

 やや怒りを込めてカナタは顔を赤くするが、逆にサクノは恥ずかしさで顔を赤くしていた。

「(あら、サクノ……可愛い)」

「(まさか、お姉様!?ムシロのこと……)」

「もしかして、私……」

 カナタとマキナがサクノの発言を注視する。

「……顔にカルボナーラのクリームが付いていたのかな?……そうだとしたら、恥ずかしいわ……」

 ずっこけるのはマキナ。
 その様子を見てカナタは安堵の表情を浮かべた。

「(ほんと、この子はうぶと言うか……鈍感と言うべきか……)」

 マキナは頭を抑えて、ため息をつく。

「マキナさん、どうしたんだ?」

「頭痛いの?お好み焼き食べる?」

「大丈夫だし、結構よ」

 苦笑いしかできないマキナだった。

「…………」

 一方、ビリーは一人でボーっと空を眺めていた。

「(あの3匹の伝説のポケモンの暴走……もしかしたら、“あそこ”で何か起こっているかもしれない。一度、帰らないといけないだろうか……)

 その表情は何かを重い決意を背負ったようだった。










 ―――イッシュ地方のとある場所。

 ビリーが空を眺めるのと同じように、女の子が空を眺めていた。
 その子は円らな瞳をした小さな女の子だった。
 年齢で言えば、まだ5歳にしか満たない様子である。

「……もうすぐ……」

 ミステリアスな雰囲気を醸し出し、細々と彼女は呟く。

「……もうすぐ……封印が……消失します……。世界を傍観するのはもう終わりですね……」

 立ち上がる女の子。
 不意にその子の円らな瞳から一筋の涙が零れ落ちた。

「始まめますよ……ビリー……」










 ……数年後のムシロは……










 ドゴッ!! バリバリッ!!

“くそっ!!”

“『10万ボルト』も『冷凍ビーム』も効かないなんて!?”

 ちょうど、ムシロは街中でポケモンバトルをしていた。
 そして、圧倒的な強さで相手を退けていた。

 相手が繰り出してきたポケモンは、電気飛行タイプのエモンガと氷タイプのツンベアー。
 ムシロは苦手のタイプであるはずのピジョットで相手をしたが、まったく問題にしなかったのだ。

「完璧っスね。その技を完全にモノにするなんて思いにもよらなかったっス」

 ムシロの師匠であるハヤットがパンパンと手を叩いて労いの言葉をかける。

「『エアクロール』完成したよ」

「翼を高速で羽ばたいて、炎や雷はもちろん、物理的なものも押し返してしまうと言う奥義的な技っスね」

「でも、この技が完成したのはハヤット老師のお陰です」

「一概にもそういえないっスけど。実際に君の兄や姉にもこの技を伝授しようとしたけど習得できた人間はゼロっスよ。これは才能っスよ」

「そうかな?」

 ハヤットに褒められて嬉しそうだった。

「(この技……僕だけじゃなくて、子供にも受け継がせて、僕の血縁にしかない技にしようかな)」

「それにしても、ムシロの坊ちゃん……あの女の子のことが気になるっスか?」

「……へっ!? な、何のことですか!?」

 声を上ずらせて、さらに顔を赤らめるムシロ。

「言わなくてもわかるっスよ!また会えるといいっスね」

 そうして、ハヤットは空を飛んで去っていった。
 その様子をムシロは若干膨れて見送っていった。

「また、会えるといいな。サクノさん」

 しかし、彼とサクノが会うことは無かったが、彼と彼女の子供がその出会いを果たすことになる。
 それが例え、世界を破壊する者と世界を救うものとして戦う運命にあったとしても…………。










 第10話完










 ☆モブキャラ紹介

 ムシロ♂

 飛行ポケモン使いの12歳。
 純真で真面目な性格で、ひたすらに強さを求めるひたむきさがある。
 サクノにも好意を抱くが、奥出であるがゆえに気持ちは伝えられず。
 兄と姉がたくさんいる。
 父の名前はシロで母の名前はハク。
 この二人の力関係はシロの方が強いらしい。
 というよりも、この家族は男のほうが力関係が強く、力づくで母や妹達を従わせているらしい。
 ……深い意味で(ェ)。


HIRO´´ 2012年02月17日 (金) 07時28分(29)
題名:第11話 P50 立冬@

 ―――いくらか昔のこと。

 ここはきれいで美しい場所だった。
 空気が澄んでいて、まるでこの世のものとは思えない風景が広がっていた。
 幻想的な空や独創的な植物達。
 ポケモンもその世界の中で穏やかに生活をしていた。


 ズドーンッ!!


 そんな世界に1つの神々しい建物がある。
 世間的に神殿と呼ばれそうな場所で、凄まじい激突音が鳴り響いていた。

「……くっ、やはり強い……」

 5歳くらいの女の子が頭から血を流して倒れていた。
 ただ、その子はまだ意識があるようで、まだ立ち上がろうと手をついて、顔を上げた。

『まだやろうというの?いい加減諦めなさい』

 相手となるのは、煌びやかな法衣を纏った女性だった。
 20代でなんというか法衣の上からでも巨乳だとわかるほどだった。

「ヒメちゃん。私に任せて」

「あ、アンリ……」

 アンリ。
 緑色で長めのマフラーを首に3回くらい巻いてもなお、地面スレスレにマフラーをなびかせているのが特徴だった。
 黒のミニスカートにクリーム色で長袖のカーディガンをきっちりと着用している。
 元気で勝気でそして、不思議と人を惹きつける魅力が彼女にはあった。

「オイ、ヒメ!俺もいるんだけど!?」

 と、メガネをかけた白髪で帽子を被った180センチほどの男が野太い声で訴える。
 アンリの可愛らしさと比べると、コールはまるで野獣と言ってもいいオーラを纏っていた。
 彼の名前はコールと言った。

 男女のコンビ……アンリとコール。
 そして、ヒメと呼ばれる女の子。
 彼らは女が召喚した4匹のポケモンと戦っていた。

 一匹は緑色をした理知的な草ポケモン。
 一匹は茶色をした逞しき岩ポケモン。
 一匹は鈍色をした凛々しき鋼ポケモン。
 そして、もう一匹は水色をした幼き水ポケモン。

 そのポケモンたちとアンリ&コールは互角に戦っていた。

 アンリのドダイトスが場を掻き乱すのと同時に攻撃を受け止め、ヤルキモノが多角的な攻撃で翻弄する。
 コールのルナトーンが相手の攻撃を読み、エンペルトが相手の攻撃を上回る攻撃を繰り出す。

『リーフブレード、アイアンヘッド、ストーンエッジ、ハイドロポンプ!!』

 相手の女のポケモンの総攻撃が繰り広げられる。

「ドダイトス、『大地のさざめき』!!」

「……!」

 ドダイトスが地面を叩くとあちらこちらに大地のエネルギーが間欠泉のように噴出していく。
 同時にドダイトスは4匹の攻撃に向かって突進していく。
 なんと伝説級の4匹の力を受け止める。

『……ッ!?』

「そこよっ!!」

 ドガッ バキッ!!

 理知的な草ポケモンと幼き水ポケモンをヤルキモノが鋭い爪で意識を奪った。
 シャドークローと似ている技だったが、それとはまた違う特殊な技だった。

『くっ……立て直さなければ……』

「させっかよ」

 ドゴッ!!

 エンペルトの『ハイドロポンプ』だった。
 逞しき岩ポケモンは吹っ飛ばされて気絶した。
 凛々しき鋼ポケモンにも攻撃を仕掛けるのだが、攻撃は光弾となって返ってきた。

「づおっ!?『メタルバースト』かよ!?」

 コールとエンペルトが防御体勢を取り、その場にはりつけになる。

「……『ランドクラッシュ』!!」

 ほんの一瞬のことだった。
 メタルバーストでエンペルトの相手をしている間に、ドダイトスが後ろを取った。
 そして、一気に地面エネルギーを纏った強力な力をたたきつけた。

『……くっはっ!?』

 ポケモンと共に女は吹き飛んだ。
 ポケモンたちは全員ダウン。
 女も意識が朦朧としていた。

『……くっ……負けるのか!?……このままでは―――』

 その後の女性の声は聞こえなかった。

「止め……!」

 ヒメのシャワーズの懇親の『アクアテール』がその女性の脳天を叩いた。
 そして、そのまま彼女は意識を失った。



 その後、その女はとある建物の奥深くに幽閉されたという。



「これでこの地が平和になるのね」

 マフラーの少女のアンリがしみじみと呟く。

「これもアンリのお陰よ」

 5歳くらいの容姿の女の子がにっこりという。

「だから、俺を忘れるな!」

 やはりコールは忘れられる。

「そして、何であんたはついてくるのよっ!」

「帰り道がこっちだからだろ!」

「いい加減にしてよ!そうじゃないと、ストーカーがしつこいってジュンサーさんに突き出してやるんだから!」

「突き出される前に、バトルしてお前に勝つッ!」

「結局あんたはそれしかないのかっ!!??」

「決まってんだろ!俺はお前に勝つまでバトルを諦めないって決めてんだよっ!プライドがあんだよ!」

「そんなプライドなんて空にでも捨ててしまえっ!!」

 ……と、まぁ、アンリがコールを殴り飛ばし、ケンカはいつものごとく終結する。
 もしこの二人に、同行者がいたとすれば、恋人とか夫婦かと思うだろう。
 しかしながら、二人の関係は、腐れ縁の美少女と野獣……もしくは永遠の被害者とストーカーだった。

「この恩は……忘れないわ……」

 そうして、アンリとコールはケンカをしながら去っていった。

「……そう。絶対にね」

 2人の後姿に向かって、女の子は感情を含まぬ声で呟いたのだった。










 第11話 P50 立冬@










「んー、あの夢は……なんだったんだろう?」

 カッポーン と広い場所で呟くこの声は、この物語の主人公である天然人気正義少女サクノのものである。

「あら、サクノも夢を見たの?」

 カッポーン と何やら湯煙の中で問うこの声は、この物語のお姉さん的役割のである豊潤変態音符少女マキナのものである。

「え?二人してどんな夢を見たんだよ?」

 カッポーン と二人の話題に突っ込むこの声は、この物語の初心者トレーナーである乱雑長身大胆少女カナタのものである。

 一応この仕切りの中にいるのは、この3人。
 そして、彼女らが訪れているのは雪の降り積もる地『セッカシティ』。
 暦が冬に換わり行く頃、ちょうどこの地に雪が降り積もった。

 今、彼女らがいる場所というのは、暖かい泉が湧き出る場所……すなわち温泉だった。

「私の見た夢は……この世とは思えない世界にいて、神殿のような場所でアンリとコールと言うトレーナーが見たこともないポケモンを相手に戦う夢だったのよ」

「お姉様が見たことも無いポケモンというと……やっぱりイッシュ地方のポケモン?」

「わからない。とりあえず、そこで繰り広げられていた戦いは壮大だったわ。その戦いが終わった時、神殿は跡形もなく崩れちゃったんだから」

「サクノの夢はバトルの夢ね。私の見た夢は、見たことも無いポケモンが苦しみながらも歌っている夢だったわ」

「見たことも無いポケモン?」

「人型の女の子みたいで、薄いグリーンの長い髪をなびかせたポケモンだった」

「さっぱりわからないな」

 と、一通り夢の話を終えて、3人はゆったりとしていた。

「サクノちゃん、スレンダーねぇ」

 ところがそんな静寂はマキナによって崩される。

「オッパイも大きくなく小さくなく……全体のスタイルにマッチしている感じ……このまま成長していけば……モデルになれるんじゃないかしら?」

「モデルなんていいすぎですよ」

「カナタもいい具合に成長しているわよ。上も下も」

「って、マキナさんっ!人の裸をジロジロ見るなっ!!」

「じゃ、代わりに私の見せてあげるわよ」

 バシャッとお湯から出ると、腕を後ろに持っていって見せ付けた。

「マキナさん大きいー」

 サクノは目を見張り、感嘆の声を上げる。

「(確かに大きいけど、私の母の方が大きいし、私の方が大きくなるし)」

 と、カナタは内心負け惜しみをしていた。



「って、声が筒抜けやないか……」

 サクノたちが入っているフロアを板一枚に挟んだ所に少年の姿があった。
 彼の名前はビリー。
 ちょっと胡散臭いコガネ弁を使う少年である。

「人が真剣に考え事しているというのにまったくのんきなやっちゃなぁ」

 ビリーが考えていたこと。
 それはつい先日出くわした3匹の伝説のポケモンとその暴走。
 本来ならあるはずが無いことだったが、その事実を見てしまった以上、現実と見て取るしかない。

「(間違いなく何かが起こる前触れ……もしくはもう起こっている?……でも周りを見ると何も影響はない。……ということはまさか……)」

 ゴクリとビリーは息を飲み込んだ。

「(原因は“あそこ”しか考えられない)」

「わー、物凄く柔らかいー」

「はぅっ!サクノ……ちょっと……」

「え?あ、ゴメンなさい!?くすぐったかったですか!?」

「ハァハァ……そうね。……その分お返ししてあげないとねー」

 一連の会話が聞こえてきて、ビリーの思考はどっかへ吹っ飛んでしまった。

「お姉様に何をするー!?」

「あら、カナタが代わりになるの?」

「へ?ちょっと待てぇ!?」

「(何が起きているか……すっごく気になる……)」

 かといって、隣に行ったり、穴を探してみるのは憚られる。
 ビリーはヘタレなのではなく、れっきとした紳士だった。

「……ん?」

 その紳士は見た。

「…………」

 じーっと仕切りを隔てている板を両脇で挟む様にして登っている覗きの男の姿を。
 その男はしっかりと自分の腰をタオルで巻いた上で、その体勢をとり、女風呂を覗いていた。

「(覗きか! くそっ!サクノの貞操が!!)」

 すぐさまにビリーはサクノの危機だけを察知した。
 他のカナタやマキナはどうでもいいらしい(ぁ)。
 ちなみに今女風呂にいるのは、サクノたち3人のみで、男風呂のほうも覗きの男とビリーの2人だけだった。

 頭を茶髪に染めた20代後半の男に向かうように、ビリーは同じ場所によじ登った。

「オイ、あんた、何やってんや!?」

「何って……取材だけど?」

「取材ってなんや!?」

「最近、同年代の女性の身体はよく見るんだが、若い女の子……それも発展途上の若いの女の子の身体は見てないなーとさ。定期的に見ておかないと想像が膨らまないんだよな」

「想像って……サクノはんの身体を見て妄想して一体頭の中で何をさせているんや!?」

「黙れ。別に自分の頭の中なんだから、勝手だろ」

「女風呂を覗くなんて最低や!恥と思いんしゃいっ!!」

 と、睨みあう2人のビリーと男。
 そのうち、殴り合いが始まるのではないかと思う雰囲気であった。


 ドゴッ!!


 突如よじ登っていた板が揺れた。
 二人は動揺したが、板から離れることもできず、そのまま板から落ちてしまった。

「一体何が……?」

 それぞれ二人は腰と尻を擦っていた。

「『何が?』じゃねぇだろっ!!」

 女風呂と男風呂を隔てていた板に大きな穴が開けられる。
 そこから男風呂に入ってきたのは、タオルを身体に巻いたカナタだった。
 男は顔をしかめてその場から逃げようとするが、ビリーが男の肩を掴んで逃がさない。

「お前……確か、シンイチだったよな!?なに堂々と女風呂を覗いているんだよ!!」

 シンイチ。
 カナタはヒウンシティで一度だけ彼と会ったことがあった。

「もちろん……小説の取材のためだ!」

「そんなの知ったことかっ!!そして、ビリー!お前まで一緒に覗いて何をやっているんだよ!?」

「は?」

 目を点にして、ビリーはカナタを見ていた。

「俺はこの男が覗きをしているのを見つけて止めようとしていたんや!」

「それじゃ、なんでその板の上に登る必要があったんだ?」

「……あー」

 今まで気付かなかったような声を上げるビリー。
 焦ってしまい、カナタがあけた穴……すなわち、カナタの背中の向こうの世界を覗いてしまう。
 サクノは顔の口までお湯に浸かって、ブクブクとしていた。
 しかし、マキナのほうはまったく隠そうとせずに、ビリーたちの方をじっと見ていた。

「……づっ!!」

 そして、目の前には拳を握り締めるカナタ。
 恐怖におののくビリー。

「……ふ、不可抗力や……」

「問答無用!!」

 …………。

 カナタの容赦ない鉄槌が二人に振り下ろされたのだった。










 ―――次の日。

 セッカシティの北の方にそびえたつ塔。
 イッシュ地方の観光ブックを見ると、『いつ誰が建造したかも不明のイッシュ地方最古の塔』とある。

「……リュウラセンの塔ねぇ……」

 マキナがしみじみと呟く。
 ロボットのようなポケモンのゴビットや鼻水を垂らした小さいクマポケモンのクマシュン、人型の格闘ポケモンのコジョフーがたまに飛び出してくるが、マキナはペラップやニョロトノで軽くいなしていった。

「建物の造り方といい、瓦礫の崩れ方といい、歴史の重みを感じるわ……」

 ここまで幾つもの障害物やギミックが進行の妨げになっていたが、恐れずに彼女らは進み、二人は5階まで登っていた。
 もう一人はというと……

「うぅ……ついてねぇ……」

 とぼとぼとマキナの少し後ろを歩くビリー。
 酷く落ち込んでいるようだった。

「ビリー、そんなに落ち込むことないじゃない」

「落ち込みもするやろ……サクノはんを守るためにやったことやのに、やりすぎて逆にサクノはんに嫌われてしまったやないか……元も子もあらへんわ……」

 そんなビリーを見て、眉間にしわを寄せるマキナ。

「サクノはそのくらいのことで、君の事は嫌いにならないわよ?」

「……そう……なんか?」

 パッと顔を上げてマキナを見る。
 少し希望を持ったみたいだが……

「元々、特別に好きってわけでもないみたいだけどね」

「うっ」

 軽く衝撃を覚えるビリーだったが、すぐに元気を取り戻した。

「それなら、これから骨抜きにすればいいだけの話や!待ってるんやで!サクノはん!」

 と、先にカナタと一緒にズイズイと進んでしまったサクノを追いかけようとするビリー。

「待った」

 マキナが引き止める。
 何かと思って振り返ると、マキナが何故か頬を赤らめていた。

「ハァハァ……あのね、ビリー」

「……なんやねん……いきなり何興奮しているんや……」

 マキナの姿にタジタジと後ろに下がるしかないビリー。

「お風呂に覗かれた時にこっちも見たんだけど……」

 どうやら、マキナが発じ……興奮しているのは、ビリーの裸を思い出したかららしい。
 同時にそのことを思ったビリーはマキナから何を言われるか、なんとなく察した。

「ビリーの背中にある羽って……なに?」





 ―――リュウラセンの塔最上階一歩手前。

「ふぅ……ここらへんのポケモンを楽に倒せるようになってきた……」

 カナタがヌマクローを戻しながら息をつく。

「ええ。よくなってきているわ」

 彼女の戦いっぷりを見てサクノもうんうんと頷く。

「この調子でポケモンバトルもビリーをぶちのめせたらいいのに!」

「ビリー……ね」

 若干赤くなりながら、サクノが苦笑いで思い出したように呟く。

「絶対に許さないし!」

「でも、ビリーはワザとじゃないって言っているんだから、許してあげたらいいんじゃない?」

「お姉様は許せるって言うんですか!?」

「うーん……どちらかといえば許せないよ?でも、ずっと怒りっぱなしと言うのは良くないと思うよ?雰囲気も悪くなるし……ね?」

「むー……」

 サクノに諭されて、カナタは不満そうに唸る。

「お姉様はよくても、やっぱり私は許せないな!」

 と、カナタは最上階へと足を運ぶ。
 柱が何本か立っていたようだが、すべてが崩れて地面に横倒しになっていた。

「……この場所で何があったんだ?」

 誰もいない場所に向かって、カナタは一人呟いた。


「かつて、この場所には伝説のポケモンが所在していた」


「誰だ!?」

 最上階に着いたときから、カナタはこの場に気配を感じていなかった。
 しかし、女の子の声が聞こえて来たのは確かだった。

「カナタ、どうしたの? …………!?」

 サクノも最上階のフロアへと足を踏み入れた。
 そのとき、ゾッと威圧感を感じた。

「そのポケモンの名はレシラム。世界を滅ぼすほどの火力を持った英雄に従われるべきポケモン。少し前まで、このイッシュ地方では2匹の世界を滅ぼすほどの力を持ったポケモンの激突があったらしい」

「…………」

「でも、そんなことは今はどうでもいい」

 ハッとサクノは右を見る。
 その場所に声の主を発見する。
 5歳の女の子のようだった。
 隣にはオムスターが攻撃を構えていた。

「……うわっ!」

 ドッと突き飛ばされて、カナタは声を上げる。
 カナタとサクノがいた場所に岩が飛んでいった。

「『ストーンエッジ』!」

 大きな岩の破片を飛ばし、オムスターの激しい攻撃が跳んでくる。

 ドガガガガッ!!

 そんな岩の破片を刀を持ったサクノのポケモンが粉砕する。
 波動ポケモンのルカリオだ。
 次々と負けじと撃ち出すオムスターと岩を切り裂いていくルカリオ。

「『ハイドロポンプ』!」

「エンプ!!」

 岩から水の攻撃に切り替わった時、ルカリオはその場から消えた。
 『神速』でオムスターの背後に回りこんだのだ。
 だが、オムスターの背中からトゲの連続攻撃が繰り出される。

「(『トゲキャノン』!?)」

 さらにハイドロポンプがルカリオを襲う。
 トゲキャノンで怯んだルカリオは連続攻撃を受けてしまい、オムスターとの距離を離されてしまう。

「『トゲボール』」

 殻にこもり、回転攻撃で接近してくるオムスター。

「エンプ、立って!」

 仰向けの無防備な状態から立て直し、剣を握るルカリオ。

 ズバッ!!

 剣を振りぬいた。
 輝く『聖なる剣』はオムスターにダメージを与えて、吹っ飛ばした。

「『波動弾』!」

 続けて追撃の闘気のエネルギー弾をオムスターにぶつけた。
 瓦礫に着地して、砂埃をあげて少しの間見えなくなる。
 その数秒の間、ルカリオは右手と左手に力を溜めていた。
 オムスターが飛び出す。
 程なくルカリオも向かっていく。

 ドゴッ!!

 互いの最強の技が激突し、片方が倒れた。
 残っていたのは剣を持っていたルカリオだった。

「まさか、この場に賞金首がいるなんてね」

「え?賞金首?この5歳の女の子が?」

 オムスターを戻し、サクノの言葉に動じず、少女はじっとサクノを見ていた。

「かつてホウエン地方で暗躍した水郡の幹部『破殻<はかく>のシロヒメ』。現在84万ポケドルの賞金首なのよ。20年も前は12万ポケドルみたいだったけど」

「……え?昔?お姉様……それって一体……?」

 カナタが困惑するのも無理はない。
 2人の目の前にいるのは、まごうことなき5歳児の女の子だからだ。

「この強さと心……待っていました」

「え?」

 シロヒメははっきりとサクノを見てそういった。
 そして、彼女は目を瞑り、手を振り上げた。

「一体何を……?」

 シロヒメの腕が輝き始めると、彼女の頭に黄色いドーナッツのようなワッカが浮かび上がった。
 さらに彼女の背中から白い羽が生えてきていた。

「……こいつは……天使……?」

 カナタがつぶやき、サクノが身構える。


「なっ!?シロヒメっ!?」


 ちょうどそのときだった。
 ビリーとマキナが頂上に到着したのだ。

「……! ビリー……!?」

 少々驚いた様子のシロヒメだったが、すぐに表情を戻した。

「これは?」

「え?」

「なんだ!?」

 他の3人が動揺を見せる中、

「……シロヒメのヤツ……アノ呪法を……!?」

 ビリーだけが理解していたようだった。


 …………。


 リュウセイランの最上階。
 この場所から5人の人の姿が消えたのだった。










「お姉様……お姉様!!」

「うう……カナタ?」

 揺さぶられて目を覚ますサクノ。

「私たち、リュウラセンの塔にいたはずなのに、違う場所に来ているんだ」

「……ここは……!」

 サクノの眼前に広がる世界。
 それは幻想的な空、独創的な植物……今まで見たこともないような世界が広がっていた。

「一昨日、夢で見た世界……」

「え?夢で?」

「そうよ。一体ここは……?」

「天界」

 一言、ポツリとした声を聞いてカナタと振り返る。
 そこにいたのは、先ほど翼を生やして、ワッカを頭に発現させた5歳の女の子の姿があった。
 しかし、今は元の様子に戻っているようで、ただの5歳の女の子だった。

「……シロヒメ……」

「天界って……どういうこと?」

「天界は私たちが住む世界の呼び名。そして、地上に住む者たちはここをこういうの。“楽園<パラダイス>”と」

「楽園……ここが……?」

 いきなりこのような場所に連れてこられては、落ち着きなく周りを見るしかない。

「そう。天使の住む夢のような世界。普通ではこの場所に来ることはできないの」

「それで……」

 いつもなら天然であっちに興味を持ち、そっちのけになっているはずのサクノだが、今回は違った。

「私たちをこの場に呼んで一体何をするというの?」

「実は……」

 シロヒメは少し躊躇した後、説明することにした。

「今、この楽園は再び滅ぼされようとしているの。『楽園の反逆者ネグリジュ』によって……」










 第11話完


HIRO´´ 2012年03月21日 (水) 23時04分(30)
題名:第12話 P50 立冬A

 ☆前回のレジェンドオブパラダイスΙのお話

 リュウラセンの塔を観光気分で登っていたサクノ達。
 彼女らの目の前に現れたのは、シロヒメ(今は滅んだ水郡の幹部でエナメルと互角の戦いを繰り広げた5歳の幼女―――オメガ総集編後編参照)だった。
 サクノの力を認めたシロヒメは、力を解放してメンバーをリュウラセンの塔からとある場所へと移動させた。
 その場所をシロヒメは“楽園<パラダイス>”と呼ぶのだった。










「また……聞こえる……」

 マキナが目をつぶってじっくりと耳をすませると、声が聞こえてきた。
 男性でもなく女性でも無い中性的な声に、惹かれていた。
 惹かれていた原因と言うのは、その声の性質のせいだけではない。

「夢の中で出てきた声と同じ……弱々しい声……。一体どうしたと言うの?」

 明らかに弱々しいその声を聞いて、助けなくちゃと思っていた。

 今、マキナは一人で行動をしている。
 目を覚ました時、一人だけ大木の幹に背中を預けて気を失っていた事に気が付いた。
 周りを探したけど、サクノもカナタもビリーも居なかった。
 仕方が無く、周りを散策していると、誰かに助けを求める声が聞こえたのだ。

「誰だかわからないけど、待ってて……」

 声の主を探すマキナ。
 ところが、彼女が今いる場所は森の中だった。
 いや、森の中と言うには程度が低いかもしれない。
 強いて言うなら、大自然の聖域の中と言えるかもしれない。
 30メートルを余裕で超す大樹が視界を遮り、草花が地面に咲き乱れ、正に神秘的な世界を創りだしているのだ。

「声は……上から……?」

 1時間近い時間を歩いて、ふとマキナは顔を上に向けた。
 彼女の耳に届いた声がまっすぐから斜め上から聞こえるようになってきたからだ。

「ペラップ、エネコロロ、一緒に探して」

 自分のポケモンにも捜索を手伝ってもらう事にする。
 ペラップは空を飛び、エネコロロは爪を立てて木を登り身体能力を生かして跳び移っていく。
 襲いかかってくるポケモンはおらず、2匹は悠々と助けを呼ぶ声の主を探していった。

 もちろん、その間マキナも何もしなかった訳ではない。
 更に耳を澄ませて、その方向へと走って行ったのである。

「(近くなってきた。おそらくここにいるのね)」

 一つの巨大な大樹の元へと辿りつく。
 そこに助けを呼ぶ誰かがいると彼女は確信をする。
 荒い木の幹に手を掛けて、ゆっくりと登って行く。
 彼女はあまり力が無い方だが、木登りは幼馴染のアスカと共に幼い頃からやっていたためにそれほど苦では無かった。

 バチバチッ!!

「……!」

 そんなマキナへと突如襲いかかる電撃。
 威力はそれほど強くは無かったが、当たれば間違いなく怯んでしまい、手を離して落ちてしまっていただろう。

「ペラップ!?」

 トレーナーの代わりに電撃を受けて、ペラップが撃墜されてしまう。
 攻撃の主を確認すると、相手は翼……と言うより、作り物の羽のようなマント(と言っても自分自身の体)を広げて、空中を転回していた。

「飛行と電気タイプのポケモンって所かしら。パチリスの飛行ポケモンみたいに見えるわね」

 イッシュ地方のポケモンを把握していないマキナ。
 そのポケモンは、彼女の勘の通り、電気と飛行タイプのエモンガと言うポケモンである。

 何であろうと、マキナはそのエモンガを撃退するために、ともに大樹を登っていたエネコロロに指示を出す。
 『歌う』攻撃で牽制するが、エモンガは音の領域を抜けて、攻撃を回避する。
 その間に、マキナとエネコロロは、しっかりとした足場の大樹の枝へと登ることが出来た。
 エモンガが電磁波を繰り出し、こちらの動きを封じようとしてくるが、とっさに『神秘の護り』を張り巡らせて攻撃を防御。
 代わりに『冷凍ビーム』で撃ち落とそうとするがなかなか攻撃は当たってくれない。

―――…………。―――

「(声が弱くなっていく!?)」

 エモンガにかまっている暇は無い。
 その場をエネコロロへと任せて、さらに数十メートル上にいると思われる声の主を探しに登って行く。
 エモンガが黙っているはずも無かったが、エネコロロがマキナの信頼を裏切る訳も無い。
 2匹はその場で一進一退の攻防を続けるのだった。



「この子は……夢の中で見た……?」

 大樹のてっぺんに辿りついたマキナ。
 そこにいたのは、人型の女の子のようで、薄いグリーンの長い髪を地面に広げたポケモンだった。

「苦しんでいる……呪いみたいなものかしら……?今、何とかしてあげるから」

 マキナはアブソルとコロトックを繰り出した。
 マキナが2匹にアイコンタクトを送ると、2匹は互いを見て頷く。

 そして、コロトックが美しい旋律を奏で始める。
 それは、優しくて懐かしい響き。
 誰もが何かを思い出させるような癒しの奏。
 その旋律に合わせて、アブソルが美声を披露する。
 アブソルは『滅びの歌』と言う技を使うが、そんな技とは全くの別物だった。
 基本的にマキナのアブソルは、相手を滅する歌よりも、相手を宥める優しい歌の方が得意で、彼自身も好きだった。

 マキナがそのポケモンを優しく抱きしめる。
 母親のような包容力に、そのポケモンの苦しみは、だんだんと解放されていった。

『……早く、しないと……』

「(これは……テレパシー?)」

 驚くマキナ。

『このままだと……この世界……楽園<パラダイス>が……“彼女”の手によって……滅ぼされてしまう……!!』










 第12話 P50 立冬A










 『神官ネグリジュ』。
 彼女は元々、3人いる神の信託に関わる神官の一人だった。

 楽園<パラダイス>のシステムは、“神”となる長がいて、その補佐となる“神官”が三人いる。
 ほとんどが神官が取り決めごとをし、神がその承認をするというシステムだった。

 そんなあるとき、事件が起きた。
 その時代の神が亡くなった時、一人の神官すなわちネグリジュが一人の神官を殺したのだ。
 ネグリジュの野望に気付いたもう一人の神官のトランクも、不意打ちを受けて、大ケガを負ってしまった。

 楽園は混乱に陥った。
 実質、この世界はネグリジュのものになろうとしていたのだから。

 でも、この楽園を救った者がいた。
 アンリとコール。
 地上のポケモントレーナーだった。
 普通、地上の人間がこの楽園を訪れることはできない。
 恐らく、地上に助けを求めた天使が連れてきたのではないかと思う。

 楽園は平和に戻った。
 神の座に残った神官のトランクが就き、神官3人も無事に選ばれた。
 ネグリジュは楽園の奥深くの牢獄に幽閉された……―――



「それじゃ、そのネグリジュが何かの拍子で解放されて、今の楽園を混乱に陥れているのね」

「そう。ネグリジュは、今の今まで神を勤めていたトランクを消して、神の神殿に居座っている」

 シロヒメから事情を聞いたサクノとカナタは、険しい表情をした。

「私だけでは、あのネグリジュを倒すことはできない。是非、協力して欲しい」

「当たり前だろ!そんな身勝手なヤツに神の座を渡してたまるか!!」

「そうね、目的は何のためかわからないけど……見過ごすわけには行かないわね」

 サクノとカナタは顔を見合わせて、頷く。

「シロヒメ、私たちをその神の神殿に案内して!」










「酷い有様や」

 エセコガネ弁の男……ビリーは町の惨状を見て呟く。

“神のトランクとあのネグリジュが戦って、町は次々と傷ついていったんだ”

“僕たちは何もできなかったよ……”

“誰もがその戦いを止められず、助けることもできなかった”

“そして、神のトランクは敗れたんだ”

 町の人々の気持ちは沈んできた。
 この後、未来は一体どうなってしまうのだろうかと。

「一体、誰がネグリジュの封印を解いたんや……?」

 まったく、想像がつかないビリー。
 
“噂では、手引きしたポケモンがいるって話だぞ”

“わしは自力で出てきたって聞いている”

 いくつかの憶測が飛び交う中、ビリーは立ち上がる。

「どっちにしても、そのネグリジュを止めな!」

“おお、たのむぞ、ビリー!”

 誰もがそのビリーを応援するのだった。










 ―――楽園の神殿。

 サクノ、カナタ、シロヒメの3人は玄関から入って、十数のフロアを抜けていった。
 そこには、いくつかの関門が設けられていた。

「あっ!?」

「……この仕掛けは……!」

 ネグリジュのいるフロアまでもう少しというときに、難解な仕掛けに嵌まった。

「お姉様!シロヒメ!」

 カナタだけはその仕掛けに引っかからなかったが、サクノとシロヒメはその仕掛けに捕われてしまった。

「……こうなったら、カナタだけでもいってほしい」

「すぐに追いつくから!」

 その言葉を聞いて、先を進むカナタ。

 一つ、また一つ奥のフロアへと進んでいく。

「ここか!?」

 ドアを勢いよく開くと、カナタの目に飛び込んできたのは、煌びやかな法衣を纏った巨乳の女性だった。
 その女は、緑色の長い髪のポケモンが描かれている巨大なステンドグラスへと祈りを捧げていた。

「下界の女か」

 侵入者に背を向けたまま女は言う。

「ネグリジュだろ!?楽園を荒らして、滅ぼそうとしているのはわかっているんだ!私がお前を倒してやる!」

「…………」

 祈りを解き、ゆったりとした動きでカナタを見ると、一つのモンスターボールを投げつけた。
 中から出てきたのは、茶色の逞しい岩ポケモン―――名をテラキオンといった。

「『ランドクラッシュ』」

「ぐわっ!!」

 巨体の割に俊敏な動きで突撃してくる。
 カナタは回避するが、テラキオンが地面を踏みつけると、地面が割れて、コンクリートの破片がカナタを傷つけていった。

「つぅ!チョンチー!『水鉄砲』!!」

 傷つきながらも、反撃を開始する。
 攻撃はテラキオンに命中し、押し飛ばそうとしていたが。

「その程度か?『岩飛ばし』」

 水鉄砲をものともしなかった。
 攻撃を受けたまま、口から岩を飛ばして、水鉄砲を押し返した。
 チョンチーは避ける間もなく、岩攻撃を受けてしまい、一撃でダウンした。

「(……な……強い!?)」

 一瞬のことに呆然としてしまったが、テラキオンが岩を跳ばして来るのを見てハッとして、かわしながら次のポケモンを繰り出す。

「ブイゼル、『アクアジェット』!!」

 ドゴッ!!

 水を纏って、突進する攻撃。
 だが、逆にブイゼルの方が弾き飛ばされた。

 ネグリジュはその様子を見て意に介さなかった。
 まるで当然かのような目で見て、テラキオンに潰すように指示を出す。

「(こいつ……防御力が半端じゃない!?)」

 ブイゼルは体勢を立て直せず、『岩雪崩』を受けて倒れた。

「こうなったら、ヒポポタス!ニョロゾ!」

 カナタは2匹のポケモンを同時に繰り出す。
 地面ポケモンのヒポポタスが突進攻撃を繰り出すが、テラキオンは難なく跳ね除ける。
 そして、追撃で輝く剣を突き刺してきた。

「『聖なる剣』!!」

 あっという間にヒポポタスはダウンしてしまう。

「そこだ!」

 ボンッ!!

 ニョロゾが繰り出したその攻撃は泥を圧縮して相手にぶつけて爆発させる技……その名も『泥爆弾』だった。
 ダメージ自体はそれほど高いとはいえなかった。
 ギロッとテラキオンはニョロゾを見据える。

「もう一度だ!」

「無駄だ!『ランドクラッシュ』!」

 すぐさま泥爆弾を作り出して、2連続でテラキオンにぶつける。
 しかし、テラキオンの勢いは止まらない。
 ジャンプして地面をたたきつける勢いある攻撃が炸裂する。

 だが、それはニョロゾとカナタに当たらなかった。

「狙いを外したか。泥爆弾のせいで精度が落ちたか?」

「『催眠術』!!」

 テラキオンの攻撃を回避したニョロゾは接近して、技で眠らせた。

「『ハイドロポンプ』!!」

 そして、無抵抗のテラキオンを最大パワーの水攻撃で吹っ飛ばした。

「今のうちだ、『腹太鼓』!! 畳み掛けろっ!!」

 お腹を叩いて自分自身の力を高めて、一気にニョロゾはテラキオンへと攻撃のラッシュをかけた。
 パンチ、キック、時々水攻撃で吹っ飛ばす。
 連続攻撃は間違いなくテラキオンの体力を削っていた。

「少しはやるようだな。テラキオン、いつまでも寝てるな」

 ネグリジュのその一言で、テラキオンは目を覚ました。
 即座にニョロゾへと数十個の岩を飛ばしていく。

「叩き落せ!」

 バキッ! バキッ!!

 正面に来る岩だけを、パンチとキックだけで防いでいく。
 パワーが最大になったニョロゾはテラキオンと互角のパワーを繰り出していた。

「テラキオン、『聖なる剣』!押しつぶせ」

「『冷凍パンチ』!!」

 ドゴォッ!!

 テラキオンの繰り出す剣が、ニョロゾの腹を抉った。
 そのまま、ニョロゾは吹っ飛ばされて倒されてしまった。

「……!!」

「泥爆弾のせいで視覚をやられようが、この技がある限り、関係ない」

「ヌマクロー!」

 カナタはパートナーを繰り出して、テラキオンに勝負をかける。
 だが、水鉄砲もマッドショットもテラキオンに決定的なダメージを与えることはできない。

「なぎ払え!」

 聖なる剣の一振るいでヌマクローはあっという間に体力を削られてしまう。

「まだだ、ヌマクローっ!!」

 接近して、パンチを繰り出す。
 だが、やはりテラキオンに効いている気配はない。

「そのままのしかかって押しつぶせ」

 力の差は歴然だった。
 余裕のテラキオンと最大パワーで押し返そうとするが徐々に力負けしていくヌマクロー。

「負けるなっ!」

 カナタの負けたくない気持ちがヌマクローに通じたのか、身体が光り始めた。
 みるみるうちに体が大きくなり、進化という形でそのカナタの願いを後押しした。

「……進化、ラグラージか」

「投げ飛ばせ!!」

 のしかかる攻撃をしてきているテラキオンを押し飛ばした。
 体勢を崩したテラキオンを殴り飛ばすラグラージ。

「少しはマシになってきたか。『ストーンエッジ』!!」

「『マッドショット』だ!!」

 岩の破片は目測を誤りラグラージから逸れていく。
 当たりそうになる攻撃を泥で防いでいった。

「『アームハンマー』!!」

 相手の命中精度が落ちている隙に接近し、連続で打撃攻撃を繰り出す。
 カナタのラグラージの力は、テラキオンの防御力をも突き通す力を持っていた。
 しかし、4発目のアームハンマーをも耐え切ったとき、聖なる剣を放って、ラグラージを吹っ飛ばした。

「ラグラージ!?」

 ヌマクローからのダメージの蓄積もあり、既に限界を迎えていた。

「良くぞ戦った。だが、これで終わりだ」

 聖なる剣を振りかざし、ラグラージに止めを刺さんとする。

「一撃にかけろ!『ウォーターパンチ』!!」

 ラグラージから青いオーラが出現した。
 それは特性の『激流』の発動を意味していた。
 そして、聖なる剣とのクロスカウンターでテラキオンに水を纏った拳が命中した。

 倒れたのは……

「よし、よくやった、ラグラージ!」

 体力の限界であったラグラージだが、カナタに微笑みかける。
 その姿を見つつネグリジュはテラキオンを戻す。

「さぁ、ネグリジュ、観念しろ!」

「それで勝ったつもりか?」

 そういって、ネグリジュは新たに3つのボールを繰り出した。

「……なっ……!?」

 中から出てきたポケモンを見て、カナタは声を失う。

 緑色をした理知的な草ポケモン……ビリジオン。
 鈍色をした凛々しき鋼ポケモン……コバルオン。
 そして、水色をした幼き水ポケモン……ケルディオ。

 カナタはそのポケモンたちを見て一つのことを悟った。

「(この3匹を見るとテラキオンと同等のポケモンで、さっきのテラキオンは切り札なんかではなく、一角に過ぎないということがわかる……私じゃ……勝てないっ……)」

「少々ショックが大きかったようだな。かわいそうだが、ここで散れ、下界の者よ」

 3匹が一斉に襲い掛かる。
 カナタとラグラージは構えるが、この戦いが絶望的であることを理解していた。


 ドガ! ドガッ! バキッ!!


「……!?」

「これは……!? まさか―――」

 ビリジオンの『リーフブレード』を柔らかい身体を持つエフルーンが受け止めて跳ね飛ばす。
 コバルオンの『アイアンヘッド』を炎を纏った気高きウインディが弾き飛ばす。
 ケルディオの『ハイドロポンプ』を一筋の閃光でライチュウがシャットアウトする。

「―――お姉様!?」

 カナタが振り向いた先には憧れの少女の姿があった。

「カナタ、お待たせ!後は私が戦うわ!」

 そういってネグリジュに向き合う。

「…………」

「あなたがこの楽園を滅ぼそうとしているのね」

「……さぁ、どうだろうね。少なくとも私は“違う”と答えるが、あんたは私を信じないだろう」

「シロヒメさんから聞いたわ。神のトランクと言う人を殺したんですって?」

 その言葉を聞いて、ピクリとネグリジュは眉を動かす。

「人が人を殺めるのにどんな理由をつけてもいいはずがない!それだけで悪になるのよ!少なくとも私はそう思い貫く。そして、その思いをあなたにぶつけて、止めるわ!」

「問答は……無駄のようだ」

 互いが理解し合えないことを悟ると、二人の戦いは幕を開けた。

「『ハイドロポンプ』」

 まずはケルディオの高速の放水攻撃だ。
 遠距離技で先手を狙ってきた。

 その攻撃を受け止めようとエルフーンが前に出て、その後ろにライチュウがつく。
 攻撃を凌ぎきったら、カウンターで電撃を浴びせる作戦だ。

「っ!!」

 しかし、水量が洒落にならなかった。
 エルフーンの身体以上の放水に、ライチュウはエルフーンごと押し流されてしまう。
 2匹ともダメージはそれほどでもないが、体勢を崩される。

 すると、その隙を狙って残りの2匹が攻撃を仕掛ける。

「アンジュ、『Flare Drive』!!」

 ただし、サクノにはウインディが残っている。
 相手の相性のいい炎を纏って、突撃する。
 その様子を見て2匹は、左右に散って攻撃をかわす。

「そんなの当たらなければいいだけだ」

「(……速い……)」

 スピードには自信のあるサクノのウインディだが、基本的なスピードは相手の2匹の方が上のようだ。
 だがそれでも、今の攻撃の最中でエルフーンとライチュウが体勢を立て直した。

 コバルオンの空気をも切り裂く突進をエルフーンがコットンガードで緩和する。
 宿木の種を仕掛けようとするが、エルフーンは動けなく、そのままコバルオンの『聖なる剣』がエルフーンをなぎ払った。
 一方、ビリジオンの直接の斬撃をライチュウがかみなりパンチでガードする。
 立て続けにビリジオンが連続で斬撃を放つのを見て、同じくガードをするが、次は初撃とは違い、威力が上がっていたため、ライチュウはガードしながら吹っ飛ばされる。

「『Fire Ball』!!」

 ウインディがビリジオンの方へ火炎弾を飛ばす。
 ライチュウへの攻撃の隙を狙ってのいい攻撃だった。
 だが、ビリジオンの元へケルディオが回り込んだ。
 ウインディと同じ火炎弾の大きさの水泡を撃って、簡単に相殺してしまった。

「……力と技もレベルが高いわね。一筋縄ではいかなそうね」

 相手の力を冷静に分析して、サクノは指示を出す。

「ビリジオン、『リーフスラッガー』」

 先ほどの2連撃攻撃だ。
 ライチュウを狙い、今度こそ倒すために切り込んでくる。
 通常のスピードならビリジオンの餌食になっていただろう。
 しかし、ライチュウは電光と化し、ビリジオンの攻撃を抜けて、後ろからタックルを仕掛ける。
 そのままのスピードを何とか保ったまま移動をして、ウインディの背中に乗る。

「ラック、『宿木の種』と『綿胞子』!」

 特性『いたずらごころ』の力で、相手に嫌がらせを仕掛けようとするが、ギリギリでケルディオたちは攻撃を回避する。

「攻撃を続けて!」

 エルフーンとアイコンタクトで頷きあい、宿木の種と綿胞子の攻撃を続ける。

「無駄なことを。コバルオン、『アイアンブレイク』!」

 空気を切り裂く突進がエルフーンを襲う。

「『インファイト』!!」

 避けられないエルフーンをウインディがカバーに入った。
 前足の一撃でコバルオンの一撃を受け止めた。
 連続でもう片方の足でコバルオンへと一撃を仕掛けようとするが、硬直してしまった。
 ビリジオンの『ストーンエッジ』がウインディを襲うが、ウインディの背に乗っているライチュウが10万ボルトで岩の破片を砕ききる。

「(……コバルオンの『アイアンブレイク』……攻撃を仕掛けた相手を少しの間硬直させてしまう技ね……)」

 このままエルフーンは補助技を連発し、ウインディとライチュウは相手の攻撃をかわし続けた。

「(まさか……お姉様でも……この状況は打破できないということなのか!?)」

 カナタの掌に汗が滲む。
 傍から見れば、ネグリジュの3匹の伝説のポケモンの前に、サクノとポケモンたちは翻弄されて、防戦一方に見えた。

「(こいつ……何か狙っているのか……。だとすれば、このエルフーンが怪しい)」

 ネグリジュは優勢とは思っていなかった。
 ケルディオに氷技でエルフーンを倒すように指示を出すが、寸前でうまく攻撃を回避される。
 当たったとしても、身体の一部の綿がかするだけだった。

 そんな防戦一方の戦いが10分ほど続いた。
 この部屋の地面が綿だらけになった。

 そのとき、サクノの目付きが変わった。

「(来るか?)」

 コバルオンの足元からツルが伸びて来て、コバルオンの体力を奪い始めたのである。

「これは、『宿木の種』!? (まさか、地雷式か!?)」

 床に敷き詰められている綿の下に、宿木の種が植えつけられていた。
 すなわち、その場所を踏めば、宿木が発動し、相手の体力を奪うのである。
 これで、ケルディオは迂闊に動けなくなった。

「ラック、『暴風』!」

 そして、その綿ごと吹き飛ばす風で、コバルオンのフォローに入ろうとしていたケルディオとビリジオンの視界を封じる。

「レディ、アンジュ!!」

「コバルオン!」

 宿木で釘付けになっていたコバルオンだったが、ライチュウが10万ボルトで追撃に出た。
 確実にダメージを与える。

 一方のウインディは、前足に炎を纏って床に散乱している綿胞子を燃やしながらダッシュしていた。
 視線の先にいるのはビリジオンだ。

「アンジュ、『Rising Break』!!」

 インファイトに炎を纏わせた破壊的アッパーだ。
 普段なら避けられそうなビリジオンだったが、暴風で飛んで来た綿胞子が纏わりついて、動きを鈍らせていた。
 反撃する間もなく、ビリジオンは天井へ叩きつけられてダウンした。
 そのウインディの力は、天井に穴をも空けたのだった。

「ケルディオ、ウインディを狙え」

 ハイドロポンプがウインディを打ち抜く。
 流石にこの一撃に堪えて、ウインディは気絶してしまう。

「コバルオン、『聖なる剣』!」

「レディ、『Lighting』!」

 コバルオンの一撃は空を切った。
 逆にライチュウがケルディオに接近し、打っ飛ばした。
 足を踏ん張って耐え切るケルディオ。

「『Sander Slice』!!」

「『アクアテール』!!」

 尻尾を電気で洗練された刃のように、ケルディオを切りつけた。
 ライチュウの尻尾は長い。
 ケルディオの攻撃が届く前に、ライチュウの一撃が決まり、一気に倒した。

「『アイアンブレイク』!!」

 防御すると動けなくなる一撃がエルフーンを襲う。

「ラック、『エナジーボール』!!」

 草系の技は効果が薄い。
 普通にぶつけるだけでは恐らく何の効果も持たなかっただろう。
 だが、サクノのエルフーンが身につけているのは、クリティカルレンズ。
 相手の弱点を見切るアイテムである。
 エナジーボールは突進してくるコバルオンの着地地点の足を絶妙に狙って、転ばせた。
 コバルオンの進撃はここで止まる。

「ラック、『コットンリーブ』!!」

 綿を作り出して投げるエルフーン。
 その攻撃をコバルオンは受けるが、何も起こらなかった。

「……こんなもの……コバルオン!!」

 しかし、宿木の種を吸い取られつつ、コバルオンは動かなかった。

「この技は、相手に安らぎを与えてしばらく闘争心を削ぐ技。これであなたのコバルオンは戦えない。もし、効果が解けたとしても、その頃には体力がなくなった後よ」

 そういって、サクノは3匹のポケモンを戻した。
 完勝だった。

「お姉様!」

「さぁ、覚悟しなさい、ネグリジュ!」

 迫るサクノを何も言わずじっと見つめるネグリジュ。

「…………」

「…………」

 そして、二人は視線を交し合うと、サクノは足を止めてしまった。

「どうしたんですか、お姉様!?早く止めを……!」

「(この人の目を見ると……どうしてか、責められない様な気がしてくる……何故だろう……?)」


「弾け跳びなさい」


「「!?」」

 不意打ちだった。
 サクノとネグリジュに向かって放たれた水の刃。
 その水の刃は、地面にぶつかると無数の棍になって、2人を襲った。

「うっ!」

「きゃあ!!」

「お、お姉様!?」

 その突然の攻撃を目撃したカナタは、攻撃の矛先を見る。

「どういうことだよ!?シロヒメ!」

「『どういうことか』ね……。『そういうこと』ですよ」

 シロヒメの傍らにはルンバッパの姿があった。
 先ほどの変形水攻撃はこのポケモンの技のようだった。

「『エナジーボール』」

 カナタに向かって放たれる草エネルギーの球体。
 戦えるポケモンはもういない。
 避けるカナタだが、攻撃はついに当たってしまう。

「くっ……お姉様……」

 既に最初の攻撃でサクノとネグリジュは気絶している。
 反撃の糸口はなかった。


「『コメットパンチ』!!」

 ドゴォ!

 横から殴られて、ルンバッパは転がっていく。

「シロヒメ……お前……一体何をやっているんだよ」

「……ビリー……」

 二人は顔を見合わせた。

「オイ!ビリー、お前、そいつと知り合いなのか!?」

「知り合いも何も幼馴染だ」

「なっ!?」

「邪魔をしないでくださよ。もうすぐ楽園を救うんです」

「この楽園を救う?一体何からだよ?」

「愚かな妄信者からです。邪魔をするなら、ビリーでも容赦はしません」

「そうか……お前はもう俺の知るシロヒメではないんだな」

「元々あなたの見ていたシロヒメは、どこにもいなかったのですよ」

「メタグロス!」

「ルンバッパ!」

 そして、2匹は激突したのだった。










 第12話完


HIRO´´ 2012年04月10日 (火) 07時10分(31)
題名:第13話 P50 立冬B

 ☆前回のレジェンドオブパラダイスΙのお話

 楽園<パラダイス>へと誘われたサクノたち。
 ネグリジュという女が楽園を崩壊させる原因だとシロヒメに言われたサクノとカナタは、神殿へと赴いてネグリジュを撃破した。
 しかし、シロヒメがサクノ達を攻撃し始める。
 そこへ駆けつけたビリーがシロヒメと交戦を始めた。
 二人は幼馴染だというが……?










“私は……あの方のマスターだった。

 あの方の側にいて、いつも歌と踊りを嗜んでいた。

 それを見ていつも無表情で私のことを撫でてくれたのだ。

 無愛想に見えるけど、私にはあの方の温かい心が伝わってくる。

 あの方が次の神になるになるのは間違いと私は思っていた。

 そして、ある時、長である神が亡くなった。

 天使族は長寿であるが、不死身ではない。

 神と言う長に就いてもそれは同じことである。

 だが、病気であることは確かだったが、それでも神の死は明らかに不審すぎた。

 原因を突き止めるために奔走し、あの方は同じ神官が神を呪って死期を早めた事を知り、制裁を加えた。

 許されることではなかったが、平和のためには仕方がないとあの方は考えていた。

 その事件が原因で、あの方は命を狙われた。

 楽園<パラダイス>はあの方を制裁するためにいくつかの刺客を送った。

 でも、あの方はものともせずに退けていった。

 理由を説明すればいいはずだと私は言った。

 「無駄なことだ」とあの方は呟く。

 あの方はいつもそうだ。

 行動だけを示し、まったく言い訳をしない。

 だから、いつも誤解されてしまうのだ。

 そんな折、あの方は楽園の刺客と地上から来た二人のカップルに敗れて、楽園の奥深くに幽閉された。

 その間、神はあの方に刺客を送っていたトランクになり、平和な日々を送っていた。

 しかし、ほんの少し前に、あの方は封印を解かれた。

 まずあの方がしたことは、トランクの制裁だった。

 トランクは神の座を就いたのをいいことに、地上や楽園で闇の取引をしていた。

 ほとんど不意打ちで倒したのはよかったが、真の敵はトランクではなかった。

 あの小さい子供の女。

 その女こそが、私をぼろぼろにし、楽園を騙し、神たちを弄び、あの方を貶めた張本人……

 名前は……シロヒメっ!!”










 第13話 P50 立冬B










 ドゴォッ!

 互いの攻撃が炸裂し、2匹は壁へと叩き付けられる。
 片やハイドロポンプ。
 片やサイコキネシス。
 その一撃でルンバッパとメタグロスはダウンをした。
 それから、すぐに2人は次のポケモンを繰り出す。

「『ウォーターフォール』!」

 シロヒメが繰り出したポケモンはイーブイの進化系であるシャワーズ。
 サクノとネグリジュとの戦いで空いた天井の穴から天空から降り注ぐ水鉄砲が注がれる。

「『サイコキネシス』!」

 一方のビリーは、細胞ポケモンであるランクルスを繰り出して、シャワーズの水攻撃をそらす。
 ボンッ! と誰もいないところに穴を開けた。
 シャワーズは連続で攻撃を繰り出すが、ランクルスも同じように何度も逸らしてみせる。

 5発目を逸らした時、ランクルスは衝撃を受けた。
 シャワーズの電光石火だ。

「くっ、『サイコショック』!」

「『冷凍ビーム』」

 見えない超能力の塊を凍らせて、ランクルスの攻撃を防御。

「シャワーズ」

 さらに襲い掛かるウォーターフォール。
 2発連続で撃ってきた。
 一発は直接ランクルスを狙ってきたために、サイコキネシスでかわした。

「(なっ!?凍らせた塊を!?)」

 しかし、2発目は氷の塊をランクルスのほうへ打ち返すように撃ってきた。
 対応に遅れたランクルスは氷の塊をぶつけられて怯む。
 そして、本命のウォーターフォールがランクルスに直撃した。

「デンチュラ!」

 たまらず、ビリーは2匹目のポケモンを繰り出す。

「『10万ボルト』!!」

 デンチュラの電撃をシャワーズは回避してみせる。
 そこから再び、『ウォーターフォール』を撃って、デンチュラを狙い撃ちする。
 回避し、一気にシャワーズの後ろを取った。

「『エレキネット』!!」

 電気の網を口から吐き出し、シャワーズを押さえ込んだ。
 糸に流れる電気がシャワーズにダメージを与え続ける。

「そんなもの!」

 ズバッと水を纏った尻尾で電気の網を切り裂いた。
 『アクアテール』だ。

「『10万ボルト』!!」

 当然、ビリーは猛攻を指示する。
 電撃を撃って、シャワーズにダメージを与える。
 さらに『エレキマグネードウェブ』でシャワーズに糸を絡ませて、動きと力を奪い、最後は『かみなり』で一気に撃破した。

「……互角……」

 2人の戦いを見てカナタは息を呑む。

「(それにしても……シロヒメは……私たちを騙したというのか……?)」

「いいわ。そろそろ、全力で行きましょう」

 グレイシアとミロカロスを繰り出し、シロヒメは頭に手を当てる。
 すると、神殿の中にもかかわらず、風が吹き荒れ始める。
 ビリーとカナタは吹き飛ばされないように屈んで風がおさまるのを待った。

「来るか……シロヒメの全力の……『エンゼルフェザー』が……!」

 風が止むと、グレイシアとミロカロスの身体の一部に変化が生じていた。
 その変化は至極単純なもの。
 二匹に天使のような翼が生えたのである。

「ランクルス!デンチュラ!」

 待機していたデンチュラと、ずっとダウンしていた振りをしていたランクルスで2匹に挑む。
 『サイコショック』と『シグナルビーム』で攻撃を仕掛けるが、相手の二匹は翼を羽ばたかせて、攻撃をかわす。

「グレイシアとミロカロスが飛んだ!?」

 さらに無数の氷の礫と水の波状攻撃を連続で打ち出してきた。
 デンチュラが光の壁を張り、ランクルスがサイコキネシスで攻撃を逸らそうとするが、相手の手数が多すぎた。

「ぐぁっ!!」

 ビリーたちは吹っ飛んだ。

「なんだって言うんだ……!?技の威力まで上がっている!?」

「……それが、シロヒメの力だ……」

「ビリー!?」

 立ち上がるビリーだが、頭からは血が出ていた。
 デンチュラは辛うじて軽傷で済んだが、ランクルスはビリーとデンチュラを庇って、ダウンしてしまった。

「『エンゼルフェザー』。あいつの覚醒した天使の力でその力の実態は、飛行能力の付加と能力の上昇だ」

 唇を噛み締めるビリー。

「シロヒメは天才だ。昔から天使の覚醒が使えたし、頭も良かった。俺なんか足元にも及ばなかった。幼馴染だというのが不思議なくらいにな」

「天使?……ビリー……まさか、お前も……?」

「…………」

「それなら、お前もその天使覚醒とやらが使えるんじゃないのか!?」

 カナタの質問にビリーは黙り込む。

「ビリーにはできません」

 バッサリとそう言ったのはシロヒメだ。

「一度、天使覚醒を使おうとして、暴走し、どうにもなりませんでした。それに、もし使えたとしても、ビリーは私に勝てません」

「シロヒメ……なんでなんだ?どうして、こんなことになっているんだ……?」


「それは、私から話すわ」


 部屋の入り口の方から女の子の声がした。
 白髪のワンピースの女の子……マキナの姿があった。

「まず結論を言うと、このすべての元凶はあなた、シロヒメなの」

「すべての元凶?」

「ええ。シロヒメは現在の神のトランクの部下だった。前の神が死んだ時にトランクは自分が神になるように他の神官を蹴落とそうとした。

 とりあえず、一人の神官は勝手に堕ちてくれた。元々その神官が原因で神は亡くなったのだから。

 そして、その神官を勝手に制裁したネグリジュは、トランクが手柄を手にする種だった。

 トランクは刺客を送ってネグリジュを幽閉に追い込むことに成功した。

 それから数百年の間、トランクは神の座に君臨し続けた。

 そのシロヒメが、動くまでは……」

「…………」

 誰もがそのマキナの説明を聞く。
 言葉を挟むものはいなかった。

「ある時シロヒメはトランクを見限り、失脚させようと考えた。そのために、シロヒメは再びネグリジュの封印を解いた。

 当然ネグリジュはトランクを討ちに出た。その間、シロヒメはネグリジュをどう止めるか策を練るために地上へと降りたのよ」

「シロヒメ……そうなのか?」

 恐る恐る幼馴染に尋ねるビリー。

「その通りですよ」

 口元をほころばせてシロヒメは答える。

「すべては私が神になるための計画です。トランクを排し、ネグリジュをサクノが倒してくれた今、後はここにいる邪魔者を制圧すれば終わります」

「そんな……楽園での騒動は……シロヒメが原因だったのか……!?」

 がっくりとビリーは膝をつく。

「シロヒメの様子がおかしいとは思ったんだ。それに、急にシロヒメがいなくなったと思ったら、楽園が荒れ始めた。ネグリジュの影響でだ。

 最初はそんなに深刻に考えていなかったけど、つい最近になって、その影響は俺の周りにも及んできた。

 戦ったけど、ネグリジュには敵わなかった。そして、俺は地上へと落とされた……」

 サクノがビリーと出会ったのはそのときだった。

「楽園に影響を及ぼして、地上のポケモンにも影響が出始めた。それがこの前のランドロスたちなんだ。シロヒメ……こんなことはやめろ」

「やめるわけがありません」

 デンチュラが10万ボルトを飛ばすが、あっさりとシロヒメたちは回避する。
 その一撃と共に、戦いは再び始まった。

「だけど、マキナ……なんでそんなこと知っているんだ?まさか、あなたも……?」

 カナタが不思議そうにマキナを見る。

「いいえ、私は天使じゃないわ。この子の話を聞いただけ」

 そういって、マキナはモンスターボールから一匹のポケモンを繰り出した。

「メロエッタ!!」

 マキナがそのポケモンの名前を呼ぶと、メロエッタは戦場へと突っ込んだ。
 長い緑髪にワンピースを着た女性のようなポケモンは、手を翳して『サイコキネシス』でグレイシアを吹っ飛ばす。

「そのポケモンは……旋律ポケモンのメロエッタ!?何でマキナが!?」

「森で大ケガを負っていたのを助けたの。回復するために私がマスターになったのよ」

 なんと、マキナはメロエッタをゲットした(ぁ)

「始末したと思ったのに……まだ息があったとは思いませんでした」

 シロヒメが唇を噛み締めてメロエッタを睨む。

“シロヒメ……あなたの思うようにはさせない”

 テレパシーでメロエッタが相手に気持ちを伝える。
 エスパーポケモンであるメロエッタには造作もないことだ。

「ビリーにメロエッタ……どっちにしても、私の敵ではありません。ミロカロス、グレイシア」

 翼を生やしたグレイシアとミロカロスがそれぞれ属性の攻撃で仕掛けてくる。
 ビリーのデンチュラとマキナのメロエッタは攻撃を回避して前進する。

「メロエッタ、『サイコキネシス』!」

 まず、グレイシアを押さえつけた。
 しっかりと押さえつけたのを確認して、マキナはビリーにアイコンタクトを送る。
 それを理解し、ビリーは指示を出す。

「デンチュラ、ローガン流『シグナルレーザー』!!』 

 シグナルビームを強化した極大のエネルギー波。
 デンチュラの口から放たれる強力な一撃だ。
 それがグレイシアにクリーンヒットした。
 ダメージを負って、グレイシアはよろめく。

「倍にして返します」

「……っ!!」

 グレイシアの身体から先ほどのシグナルレーザーの二倍のエネルギーが跳ね返ってきた。
 大技を放ったことにより、咄嗟の回避が出来なかったデンチュラは、直撃してダウンした。

「……『ミラーコート』ね。メロエッタ、『ハイパーボイス』!!」

 全体に大きな声を張り上げて、牽制する。
 飛んでいようがいまいが関係なく、その声はグレイシアとミロカロスを釘付けにした。
 例え『ミラーコート』で跳ね返されようとも、この位の軽い攻撃なら回避できると踏んでいるのである。

「ピクシー!!」

 ビリーが繰り出すのは妖精ポケモンである。

「まだほとんど翼も無いピクシーですね」

「…………」

「そんなピクシーじゃいつまで経っても私には勝てないわよ」

「やって見なくちゃわからないだろ!『トライアタック』!!」

 炎、冷気、電気の三種のエネルギーを集めて放ち、グレイシアに当てた。
 だが……

「ウソだろ!?ビリーのピクシーの『トライアタック』は私のどのポケモンでやっても受け止められないのに、あれがまるで効いてないだと!?」

 カナタが驚きの声を上げる。
 ちなみに、進化したカナタのラグラージならピクシーの『トライアタック』ぐらい受け止めることができる。
 ただ、今の一撃にもかかわらずグレイシアは無傷に近かった。

「『いにしえのうた』!!」

 独特な発声方法から、不思議な歌声を発するメロエッタ。
 グレイシアの近くであやすようにその歌声を聞かせた。
 『ミラーコート』を展開する前に、音による声で相手を眠らせた。
 同時にメロエッタの身体が光り始めた。
 緑色の髪がぐるりとターバンのように巻かれて、全身が少々茶色っぽく変化したのだ。

「姿が変わった……まさか、フォルムチェンジなのか!?」

「あれが、ステップフォルム……」

 メロエッタは特定の条件を満たすと、緑色の女性の姿のボイスフォルムからコサックの女性の姿のステップフォルムにチェンジする。
 そして、変わるのは姿だけではない。

「『ローキック』!!」

 ドガガガガガッ!!

「!!」

 翼を持ったミロカロスに匹敵するスピードで、連続で足技を叩き込むメロエッタ。
 そして、そのまま地面に叩き落した。

「追撃で『インファイト』!!」

 眠っているグレイシアに連続打撃を叩き込んだ。
 無防備状態のグレイシアがこの攻撃を耐えることはなかった。

「これで後はミロカロスだけ―――」

 ドゴォッ!!

“きゃあっ!?”

 メロエッタが吹き飛ばされて悲鳴をあげる。

「だ、大丈夫!?」

「確かにステップフォルムになって格闘タイプになりパワーもスピードも上がりました。

 けれど、低下した耐久力で『エンゼルフェザー』中の私のミロカロスに勝てると思っているのですか?」

 ミロカロスを見ると、ほとんどダメージがなかった。

「(ダメージがない……?いえ、これは……) 『自己再生』で回復したのね」

「正解です。ご褒美にもう一発差し上げます」

「避けて!」

 ミロカロスの口から放たれるのはジャイロ回転のハイドロポンプ。
 集束された威力の高い水攻撃はコントロールも威力も桁違いである。
 メロエッタの肩を掠める。

“ぐっ……”

「ピクシー!!『ムーンインパクト』!!」

 ビリーのピクシーの最大の技『ムーンインパクト』。
 月光の光を纏っての光線攻撃である。
 破壊光線に似ているが、威力はまったく違う。
 破壊光線の属性はノーマルであるが、この攻撃の属性は17属性のどれにも分類されない光という分類である。

「その程度じゃ、ミロカロスを倒すことは―――」

 バキッ!!

 ピクシーは尻尾でビンタを受けて吹っ飛ばされた。

「―――不可能です」

「……くっ……」

「あの女のメロエッタは虫の息、サクノもネグリジュも倒れ、カナタは戦えません。そして、ビリーは敵じゃありません。……終わりです」

「イヤ、まだだ……俺が、力を解放すれば……お前に勝てる!」

 ビリーが意を決して、立ち上がる。

「言ったはずです。一度暴走をしたお前には天使覚醒は出来ません。そして、扱えたとしても私には勝てはしないと」

「やって見なくちゃわからないだろ」

 両手を合わせるビリー。
 そして、何やらぶつぶつと唱え始めた。

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 はっきりと見えるその不思議なオーラ。
 叫び声が止むと、ビリーはがっくりと膝を落とした。

「暴走どころか、力の器となる体が耐え切れずに自滅ですか?」

「いや、違う」

 バサッ

 ビリーの両肩から生えてきたのは、白い翼だった。

「『エンゼルハート』。これが俺の力だ!ピクシー!!」

 同時にビリーのピクシーの翼が成長した。

「行くぞ!『トライアタック』!!」

 ドゴッ!!

 ミロカロスに一撃が入った。

「威力は確かに上がったけど、その程度じゃダウンするのに30発は必要ですよ―――」

「『トライアタック』50連発!!」

「―――!?」

 ピクシーは先ほどの単発のトライアタックを間髪なく撃ち続けた。
 その数はきっかりと50である。

 ドガッ!!

「ぐっ!?」

 攻撃の結果。
 2匹は同じダメージ量を負っていた。
 攻撃の当たった数は、数十発ほどだった。
 その他の攻撃は、ミロカロスが捌いたり、避けたりしたのである。
 さらに、ミロカロスは隙あればミラーコートでダメージを受けながら反撃をしてきていた。
 それは的確にピクシーに当たっていたのだ。

「ミロカロス、『スクリューポンプ』!!」

「ピクシー、『ムーンインパクト』!!」

 水と光。
 互いの最強の技が激突する。

「くっ!!」

「なかなかやりますねっ!でも、これで終わりですよッ!!楽園を、地上を、すべてを私が見守り、支配しますっ!!」

 光は徐々に押されていった。
 ビリーが劣勢だった。

 しかし、このままシロヒメのミロカロスの攻撃がピクシーに決まることはなかった。

 ドゴッ!!

「なっ……?」

 ミロカロスがぐらりと体勢を崩した。
 それは一匹のポケモンの蹴りだった。

「(メロエッタの『ローキック』!?)」

「まだ、メロエッタはやられてなかったのよ。油断したわね」

「今だ、ピクシー!!」

 ここだといわんばかりに、最大の力を込めて、月光の光を撃った。
 ミロカロスを飲み込んで、多大なダメージを与えた。

「とどめだ!ピクシー!!」

 『エンゼルハート』状態のピクシーは、妖精の翼を生やしていた。
 自由に飛び回り、あるはずのない体の一部分を作り始めた。

「止めだっ!!『フェアリーテール』!!」

 妖精の尻尾。
 強大な一撃だった。
 当てた際に生じた光が天井を突き抜けて、空へと伸びていった。
 その一撃でミロカロスはダウンし、衝撃の余波を受けたシロヒメも吹っ飛んだ。

「うぐっ!!」

 そして、5歳児の身体のシロヒメは意識を失っていった。





 ……もう少しだったのに……

 ……この世界の全てを私が守りたかった……

 ……見守りたかった……

 ……でも、ビリーに阻止された……

 ……これって幸せなことなのかな……

 …………。

 ……わからない。

 ……一つだけわかるのは、私がビリーに負けたことだけ。

 ……強くなったのね、ビリー……

 ……強くなったのはきっと……地上で出会った仲間のおかげということね……

 ……私も、本当の仲間がいれば、強くなれたのかな……










 ―――セッカシティ。

 あれから、約1週間の時が流れた。

「いい体験をしたわね」

「料理はおいしくて、見るものすべても新鮮で、何より料理はおいしかったものね!」

「お姉様……料理の事、二回も言ってますよ?」

 マキナ、サクノ、カナタ。
 3人は街の喫茶店でお喋りをしていた。

「それにしても楽園のポケモンたちは強かったなぁ」

 カナタは激闘を思い出す。
 ネグリジュとの戦いを筆頭に、彼女は楽園のポケモンを相手に修行をしたのだ。
 楽園のポケモンの中には地上にいるポケモンとは違う色のポケモンもいれば、属性まで違うδ種というポケモンまで様々な種類のポケモンがいた。
 その中での修行でカナタは今まで以上に強くなっただろう。

「楽園の娯楽は、興味深かったわね」

 マキナは主に美術系のことに関して見てまわった。
 特に彼女は音楽系統については強かった。
 その影響か、彼女のポケモンは、音や音楽に関する技を習得している。

「この子とも仲良くなったしね」

「あ、結局、一緒にいることになったのね?」

 サクノはマキナがモンスターボールを手に取っているのを見て、ふと気がつく。
 その中にいるポケモンは、楽園でマキナが助けたメロエッタだった。

「私はこの子と一緒にもっと音楽を極めるわ」

「じゃあ、マキナって旅の芸者という職業<ジョブ>が似合いそうね!」

「それって、職業ですか?」

「うーん、遊び人って所?」

「それはもっと違いますって!」

 見当違いの発現に、カナタがたまらずツッコミを入れるのだった。

「それにしても、ビリーがまさか天使だったなんてね……」

 コーンスープをスプーンですくって口に運びながら、サクノがしみじみと呟く。

「ビリーさんは今では楽園の英雄。今頃、神として席に座っているんじゃないかしらね」

「…………」

 今、この場にビリーの姿はない。

 楽園でのあの事件の後、シロヒメは拘束され、ネグリジュとサクノは楽園の病院へ搬送された。
 2人は病院に搬送されたものの、軽傷ですぐに回復した。
 その後、サクノ、カナタ、マキナの3人は自由時間があったが、ビリーに至っては、楽園の役人や住人に手を引っ張られて忙しそうだった。
 一通り3人は楽園を満喫した後、ビリーに手紙を送って、セッカシティに戻ってきたのだ。

「…………」

「どうしたの?カナタ、元気ないじゃない」

「……え?そんなことないですよ?」

「ふふっ」

「うん?マキナさん、どうしたの?」

 意味有りげに微笑むマキナを首を傾げてサクノが聞く。

「カナタはビリーのことが好きだものね」

「ちょっ!?」

 バンッと立ち上がるカナタ。
 その顔はやや赤い。

「そんっなわけ……ないだろっ!!」

 あたふたとムキになってマキナに食いかかるが、彼女は澄まして紅茶を嗜んでいる。

「そうだったんだ。やっぱり、ビリーがいないと寂しいわよね」

 本当に寂しそうな表情をするサクノ。

「え?」

「(お姉様も……?)」

「今まで4人で旅をして来たのに……」

「「(普通に寂しいだけ……!?)」」

 アテが外れてこけるマキナとほっとするカナタ。

「(って、私は何をほっとしているんだ!?)」

「あら?カナタちゃん、安心した?」

「なっ!だから、あいつのことはなんとも思ってないから!!」

 クスクスとマキナはカナタをからかい続けるのだった。


「おー、俺を呼んだか!?」


「お呼びじゃねーよっ!! ……って、えぇ!?」

 振り返るとそこには、長髪の男がいた。
 件のビリーだった。

「なななななんでここにいるんだ!?」」

 カナタの同様は凄まじかった。
 まず、席を立ち上がり、足を机の脚にぶつける。
 衝撃で机の上にあった食べ物や飲み物が揺れてこぼれそうになる。
 痛みと動揺でオニオンスープを手に取ろうとするが払うようにしてしまい、自分の体にオニオンスープをぶっかけることになってしまった。
 そして、また熱さでのた打ち回る羽目になる。

「カナタっ!落ち着いて!」

 カナタの一連の行動を鎮めようとマキナが言葉を挟む。
 というのも、机が揺れたせいで、マキナの飲んでいた紅茶が揺れてこぼれて、近くに置いていた手にかかったのだ。
 量と温度はそれほどではなかったが、ナプキンを取ってマキナは手を拭いている。

「ビリー!楽園はもう大丈夫なの?」

 カナタの動揺の際にすぐに目の前のコーンスープと牛乳を持ち上げて、食べ物の被害を死守したサクノは、カナタを気遣いながらビリーに質問を投げかける。

「楽園で神の座に就いたんじゃなかったの?」

「いやはやサクノはん。俺には神の座につく器なんてないんやで。頭脳も野心もこれっぽっちもないんやで?」

「そうなの?それなら、神の座はどうしたの?このままではまずいんじゃない?」

「神の座なら、俺よりも頭がよく、野心もあり、何よりも楽園のことを1番に考えてくれるネグリジュに任せてきたんや」

 と、ビリーが主にサクノに説明する。

「ふーん、そうなのね。よかったわね、カナタ」

「だから、私は別に嬉しくもないって!!」

 カナタがバタバタとしながら、マキナに反論をする。
 その様子をサクノが微笑ましそうに見ていた。

「なんで、帰ってきたんだよ!?お前、楽園に戻ればよかっただろ!?」

 素直になれないカナタは、つっけんどんにビリーにそんなことを言う。

「まぁ、帰ってきた理由は、いくつかあるんや」



―――「ヒメ……」―――

―――「同情なんて、しないでください」―――

 シロヒメが楽園の奥深くへ幽閉される直前、幼馴染だったビリーは彼女と話をしていた。

―――「私は、私が神になることで、世界を救いたかったのです。地上で水郡に所属していたのも、その一環。そして、私は感じました―――」―――

 何を? とビリーは問いかける。

―――「イッシュ地方のどこかで、ポケモンと融合することによって力を生み出し、世界を征服しようとするものがおります」―――

―――「ポケモンと融合?」―――

―――「そう。その力は天使覚醒した私やビリー、そしてあんたが気にかけているサクノの力をも上回ります。神になったら、真っ先にそいつを殲滅しようと思ったのですが……」―――

―――「そうか……。じゃあ、それを俺たちが倒せばいいんだな?」―――

 シロヒメは目を瞑り、ビリーに背を向ける。
 それを話がもう終わりと判断した見張りたちは、シロヒメを奥深くへ連れて行こうとする。

―――「……ヒメ……」―――

―――「さようなら、ビリー。好きでした」―――



「ビリー?どうしたんだ?」

 数秒の間、ボーっとしていたビリーを見て、カナタは不審そうに問いかける。

「なんでもあらへん!そう、俺が戻ってきたのは、サクノはんに会うためやっ!」

 大きな声でビリーは告白をする。
 その大きな声で、周りのお客もみんなこちらを見る。

 ムッと若干不機嫌そうな顔をするカナタ。
 あらあらとちょっと面白そうな気分になるマキナ。
 そして、サクノはと言うと……

「私も会いたかったよ!」

 笑顔でそう言った。

「ビリーがいない間、寂しかったの」

「サクノはん……」

 そこまで俺のことを思っていてくれたんかー!?とビリーは心の中でガッツポーズを取る。
 サクノと離れた期間は無駄ではなかったと確信をする。


「これで4人仲良く旅ができるわね!」


 ズゴッっとビリーはずっこける。
 カナタは唖然とする。
 マキナはやっぱりねと、予想していたようで苦笑いする。
 そんな中、サクノは机の上のボタンを押し、店員を呼ぶ。

「舞茸盛り合わせしめじオムレツキノコ風味をください!」

 そして、サクノはビリーに微笑みながら言った。

「ビリーも食べるでしょ?何か頼みなよ!」

 メニューを手渡しした。
 そう、サクノはやっぱり、サクノであった。










 ……とある昔の話……










 とある王国で内乱が起きていた。
 大臣がクーデターを起こし、皇帝を殺害したのだ。

「くっ……ふざけやがって……てめぇにこの皇帝の座は座らせない!」

「没落した皇帝の息子などもはや不要なのデスよ、コール」

 白き神のメガネの男コール。
 彼はとある王国の息子だった。

 そして、今、大臣と戦い、追い詰められていた。

「ドダイトスっ!」

 しかし、コールは一人ではなかった。

「なんだ、貴様っ!?コールの味方か!?」

「別に味方でもなんでもないわよ!ただ、あんたが気に食わないだけよっ!」

 首に地面スレスレにすれるほど長いマフラーを巻いた少女はアンリ。

 アンリとコール。
 この二人が協力することにより、この王国の大臣は排除された。
 そして……



「くっ!?アンリの奴はどこへ行ったんだ!?」

「あの元気いっぱいの少女ですか?それなら、もう出て行かれましたよ」

 王国のクーデター事件から3日後のこと。
 前日に共に王国のクーデターを鎮めてくれた者として、アンリは手厚くもてなされていた。
 だが、この日になって、アンリはコールの前から忽然と姿を消したのだ。

「あいつめ……!!」

「待って!コールさん!」

「放せ、プラナ!」

 自分の手を掴むプラナという侍女の手を振り払おうとする。

「コールさん……?まさか、あのアンリさんのことを……」

「んなわけねーだろ!」

 コールはキレた。

「あいつは俺がポケモントレーナーとして勝手に王国を飛び出し、負け無しでいたところに現れ、俺を負かせた。俺はあいつに一度も勝っていない。あいつに負けっぱなしの人生なんて嫌なんだよ!」

「……コールさん……。アンリさんは言ってました。『あんたはこの王国を守るべき』だって。『私にとらわれ過ぎ』だって」

「にゃろう……そんなの……納得できるかっ!!」

 バッとバルコニーに飛び出して、コールは叫ぶ。

「アンリっ!!逃げるんじゃねぇよっ!!バカヤローッ!!」



 コールはこの後、一度だけ旅をすることを許された。

 だが、彼がアンリに会うことはなかった。

 その後、旅から戻ってきたコールは、侍女のプラナと結婚をし、2人の子供に恵まれたのだった。

 ちなみに、コールとプラナの子供の子供が、この王国を崩壊させたのはまた別の話である。










 第13話完


HIRO´´ 2012年04月25日 (水) 07時08分(32)
題名:第14話 P50 冬@

 その街は崩れていった。
 ただの自然現象で崩壊していったのではない。
 破壊光線や火炎放射など、強力な攻撃技で、一匹のポケモンが街を進撃していたのだ。

 ただ一匹のポケモンのはずなのに、誰も止めることはできなかった。

「はぁはぁ……くっ……」

 一人の女性、アイリーン。
 彼女はこの街、ソウリュウシティのジムリーダーだ。
 だが、彼女のドラゴンポケモンは一匹、また一匹と力なく倒れていった。
 自分自身も傷だらけで、頭から流血していた。

「あいつは……なんなの……? 本当に……サザンドラなの?」

 アイリーンは最後のポケモンのオノノクスを繰り出しながら呟く。

「負けるもんですか!『龍の舞』から『げきりん』!!」

 演舞をし、力をスピードを上げて、怒りのパワーをサザンドラにぶつける。
 故郷のソウリュウシティを壊されたという力を怒りに変えていて、実際オノノクスの力は通常の倍の力を叩きだしていた。
 並のポケモンだったら、抵抗してもすべて押しつぶしてしまっていただろう。

 ドゴォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!

 オノノクスはサザンドラを押していた。

『そんな力なんで、無駄なことだよ』

 しかし、サザンドラがそんなことを言った時、オノノクスの進撃が徐々に止められていった。

「う、ウソ……オノノクス!もう一度……」

『ふっ』

 尻尾をブォンッと振り回すと、オノノクスの首に当たる。
 それだけなのに、『げきりん』中のオノノクスは圧倒的力で吹っ飛ばされる。
 壁にぶつけられて、大ダメージを受ける。

「オノノクス!」

『くらえ、『破壊光線』!』

「そんな……ダメッ!!」

 三つの口からそれぞれ相当のエネルギーを持つ光線が放たれる。
 一つはオノノクスに、一つはアイリーンに、一つは街中へ向けて撃たれる。

 ズドォォォォンッ!!!!

 その一撃で、さらに建物が5つほど崩壊した。
 ソウリュウシティ。
 観光用のパンフレットには、『歴史を重んじ 昔からのものを 今も大切にしている街』とある由緒正しき街』とある。
 だが今は、その歴史も破壊され、何も残らないただの廃墟になりつつあった。
 この場所を訪れた人から見れば、隕石が落ちたのか?とか、極大の地震が起きたのか?とか、ワル○ルギスの夜がきたのか?とその光景を呆然として考えるだろう。

「あぁ……オノノクス……うぅ……」

 ソウリュウシティのジムリーダーのアイリーン。
 彼女はただ力なく体を横たえていた。
 化け物のサザンドラの破壊光線を間一髪避けたが、その衝撃波で吹き飛ばされて体を打ちつけたのである。
 もはや動く力などなかった。

『ジムリーダーと言えど、この力の前にはチリに等しいな』

「くぅ……あぁぁぁぁ……」

 サザンドラの姿が消えて、ただ一人の人間になった。
 その人間は一つの黒い宝石を持っていた。
 その中にはサザンドラの姿が透けて見える。

「ば、ばけ……ぁぁぁ」

「あらら、恐怖で喋れないの?言っとくけど、俺は化け物でもなんでもないよ。そういう力を作り出しただけだよ」

 ビクビクと怯えるだけのアイリーン。

「まったく、いい女がそんなにぶるぶる恐怖で震える姿を見るのはどうもよくないね。恐怖している女にそそられるのはあのムラサメだけで充分だよ。どちらかと言うと俺は女は笑顔が似合うと思うしね」

 口をパクパクと、動かして、彼女はもう喋ることが出来なかった。

「まったく、仕方がないね。俺の名前はゼンタ。このバーストを作り出した科学者として、このイッシュ地方を……いや、すべての地方を滅ぼすものだよ」

 すると、再びゼンタはサザンドラと一体化した。
 その姿は人型のサザンドラと言った感じだった。
 禍々しい力がぷんぷん漂っていた。

『消えてくれ』

 恐怖したアイリーンは動けない。
 一筋の光線がアイリーンに向けて放たれたのだった。


 ブォォンッ!!


 しかし、光線が炸裂した時、その場所にアイリーンはいなかった。

『…………』

 サザンドラことゼンタは、くるりと振り返る。
 彼が見たのは、大型バイクに跨って、後ろの席にアイリーンを乗せたミッドブルーの髪の少女の姿だった。
 少女は少しマシな場所へアイリーンを横にすると、バイクを押したまま、サザンドラに向かい合う。

『昨日、あんな死に目に遭いながら、また俺に会いに来るなんて、無謀にも程があるね。アキャナイン』

 誇り高き女教皇<アキャナインレディ>。
 そう呼ばれる少女は、一人しかいない。
 その呼び名は、彼女が気高くかつ可愛くも美しくポケモンリーグを圧倒的な力で優勝したことに由来されるもう一つの呼び名である。
 サクノはいつもよりも真剣な目で、キッとゼンタを見据えている。

『今度は、消されると知ってきたんだね』

「消されはしない……」

 ゼンタの言葉を否定つつサクノは呟く。
 彼女の姿は、あちこちに擦り傷があり、頭にハチマキのように包帯を巻いているような姿だった。
 一目見ただけで、彼女が相当のダメージを追っていることが見て取れる。

「もう、みんなを傷つけさせない!そして、この街のような被害を私は出させはしない!」

『この力の前に一体何ができるって言うの?俺の力の前にはその言葉を実行するのは不可能だよ。すべて潰してあげるよ』

「いいえ……」

 サクノは腰につけてあったモンスターボール6つをポロッとすべて落とした。

 エルフーン。
 テッカニン。
 ルカリオ。
 フローゼル。
 ウインディ。
 ライチュウ。

 中から出てきたポケモンたちは、すべて体力全開で、闘志をむき出しにして、サザンドラを見ていた。

「不可能ではない。可能性は心から否定することで、諦めることで不可能になってしまうもの。でも、私の心はいつも決まっているの。

 だから、私は挫けない、この想いを潰すことは誰にもできない!!」

 サクノは大型バイクに跨って、戦闘態勢に入る。

『できるものならやってみるんだね!』










 第14話 P50 冬@










 ―――2日前。

 ソウリュウシティの西にあるシリンダーブリッジ。
 橋の下には地下鉄が通っているほど丈夫な橋である。

 ブォンブォンッ!!

 バイクのマフラー音が鳴り響く。
 そして、いくつかのバイクが橋の上を奔走していた。

 この橋の近くに住む住民によれば、週末には近所の悪ガキが集まって、バイクを走らせているのだという。
 その連中はポケモンバトルも強く、バイクの腕も相当のものなのだという。

 だが……

「くっ……まさか……俺が負けるなんて……」

 暴走族の少年は、ゴールに止まると、バイクに乗ったままがっくりとうなだれた。
 そのゴールには既に一人の少女が辿り着いていた。
 大型バイクを華麗に乗りこなす少女はサクノだった。

「私の勝ちよ!」

「くっ……ポケモンバトルも競争も勝てないなんて……参ったぜ……」

 そうして、サクノと暴走族の少年はがっちりと握手を交わしたのだった。

「これからあんた達はソウリュウシティに行くんだろ?」

「ええ、そうよ」

「街に行く途中にデパートがある。そのデパートをみんなR9と呼んでいる。いろんなものが揃っているから立ち寄ってみるがいい」

「ほんと?ソウリュウシティ名物とかある?」

「……っ!! ……デパートだから、たいていのものが揃っているんじゃねえか?」

 暴走族の少年は美少女にキラキラとした目で見られて、一歩下がった。
 若干顔が赤い少年は、女の子に免疫がないようだ。

「わかった!ありがとう!近くまで行ったら立ち寄ってみるね!」

 そういって笑顔を飛ばされて、暴走族の少年はおちた。
 というか、心を奪われた。

「とは言うけれど、まだ、みんなが来ていないかぁ……」


「それなら、俺の相手をしてくれないかな」


 シリンダーブリッジの出口に一人の男が立っていた。
 年齢は退職間近の初老ぐらいで、白衣を着ていた。
 一目見れば科学者だと思うだろう。

「誰なの?」

「世界最高の科学者。名前はゼンタという」

「相手って、バトルでいいの?」

「もちろん。だけど、このバトルには賭けるものが必要だ」

 そういわれて、サクノと暴走族の少年は顔を見合わせた後、科学者を見る。

「賭けるものは命だよ。……アキャナインレディ」

「……命……」

 不思議そうな顔でサクノはゼンタを見る。

「どうして、命を……?命は賭けるものじゃないのよ!」

「そうじゃねえだろ!」

 暴走族の総長のヒデアキがサクノの前に出た。

「あいつは単純にお前のことを消したいだけだろ!」

「近所の悪ガキが、その女を庇うんだ。さては、アキャナインに惚れたな?」

「黙れ!」

 顔を赤くした少年は食って掛かるようにポケモンを繰り出して、ゼンタに向かっていった。

「BURST」

 黒いダイヤの結晶のようなものをゼンタは持っていた。
 そのダイヤを割るように叩くと、ゼンタの姿がみるみるうちに変わって行った。

「なんだ!? ぐぉおっ!!」

 一撃だった。
 少年とそのポケモンは呆気なく吹っ飛ばされて、ダウンした。
 サクノの見た感じでは、ただ尻尾で弾かれたようにしか見えなかった。

「(その姿はポケモン?でもこれは一体……)」

 人型のサザンドラ。
 今までサクノが見たことのないケースだった。
 サクノ自体、サザンドラも見たことはなかったが、ポケモンだということはわかった。
 だが、何かが違うと彼女の中で違和感を訴えていた。

『まず、その邪魔者から消そうか』

 サザンドラは三つ首の一つから光線を繰り出そうとする。

「……! させない!『竜の波動』!!」

 咄嗟にボールを取り、すぐに攻撃を放った。
 その反応速度はまさに一流のトレーナー。
 ボールに手を掛けるのに1秒。
 出て攻撃を仕掛けるのに2秒ほどだった。

 攻撃を繰り出したのはチルタリス。
 モンスターボールに手を書ける前に技を指示したことにより、チルタリスはボールの中で力を蓄えていたのだ。
 ゆえに、サザンドラが攻撃をチャージしている4秒の間に攻撃を当てる事に成功した。

『やはり、お前から潰した方が良さそうだね』

「(……ファイの攻撃を受けて無傷!?)」

 接近するサザンドラ。

「ファイ、『流星群』!!」

 ドガガガガガッ!!!!

 接近させない様にドラゴンタイプ最大の技で牽制をする。
 『竜の波動』が牽制にならない今、最大の技を撃つしかなかった。

『ふぅ』

「効いてない!?」

 流星群を抜けて、サザンドラが顔を出した。

「(『God Bird』は間に合わない……なら―――)『Dragon Dive』!!」

 接近戦に切り替えて、サザンドラにぶつかっていくチルタリス。

「『Extra boost』!!」

 ぶつかる直前に、チルタリスは加速した。
 瞬時に力と速度を上げるこの技はチルタリスに負担がかかる技なので、止めの時にしかサクノは使用しなかった。

 ガガガッ!!

 しかし、チルタリスの瞬時に出せる最大の力にもかかわらず、サザンドラはその攻撃を押されながらも受け止めつつあった。

「(この攻撃を止めるの!?)」

『『竜の怒り』!!』

 ズドォォォ―――ドゴンッ!!

 鳴き声を上げてチルタリスは吹っ飛ばされる。
 その方向にはサクノがいて、モロにその攻撃を受けてしまった。

「うっ……」

『『三つ首破壊光線』。これでおしまいだ』

 技の名前の通り、3つの口に破壊光線を溜め始めた。

「(チルタリスは……まだ動ける……でも、次のポケモンを…………!)」

 チルタリスと共に吹っ飛ばされて、次に戦うポケモンを思索しているが、隣にいた少年を見て、気を逸らしてしまう。

『吹き飛べ!』

「くっ!(ここでかわしたら、彼にも当たる!!)チルタリス、『Veil』!!」

 チルタリスの為に作った『光る粘土』を改良したアイテムで強化した防御壁。
 いわゆるこれがサクノのポケモンの中で最も高い防御力を誇る技だった。
 その壁に3つの破壊光線が一点に襲い掛かる。

「ファイ……耐えて……!」

『無駄だねっ!!』

 そして……。





「(レースするのはよかったんのだけど、私たちは歩かなくちゃいけないのよね)」

 マキナは走りながら、そう毒づいた。

「やっぱりお姉様は強いわ……まだまだお姉様の領域に達するには修行が必要だな……」

「それそこサクノはんや!バトルも強い、バイクの乗りこなしもカッコイイ!俺が追いかける価値のある女の子やで!」

 と、カナタとビリーも併走している。

「それにしても、他の暴走族の子ったら、私たちも乗せてくれればよかったのに、気が効かないのね」

「ほんとだよな!だけど、私はお姉様の後ろにしか乗るつもりないけどな!」

「俺もサクノはんの後ろにしか乗るつもりはないで!」

「ビリー!サクノはんの後方の席は私の物だ!」

「カナタ、ここは譲れへんわ!サクノはんの背中は俺のものだ!」

 走りながら二人は顔を突き合わせて睨みあう。
 だが、徐々にその顔は離れて行った。
 その理由は、カナタが徐々に顔を赤くして、そっぽを向いたからである。

「ん?どうしたんや、カナタ?」

「なんでもない!」

「ん、ん?どうしたんやー、カナタ?」

「なんでもないって言ってんだろ!」

 カナタはビリーに好感を持っている。
 ビリーはそのことを知っていてワザとからかっていた。

「(まったく、この二人は……)」

 マキナはそんな二人を微笑ましく見ていたのだった。

 しかし、その微笑ましい空間は、シリンダーブリッジに到着すると同時に崩れ去る。

「なんだこれ!?どうしたんだ!?」

「みんな、一体誰にやられたんや?」

 暴走族たちがバイクも粉々に蹴散らされていた。
 そして、その中心にいるのは、一匹の人型のサザンドラだった。

『まだ居たんだね。さっさと片付けようっと』

「ポケモンが喋った!?」

「というよりも、本当にポケモンなの……?本物のサザンドラとは、何かが違うわね……」

 ズドォッ!!

 3人に向かって、突撃してきた。
 地下で走っている電車が透けて見える地面を突き抜ける威力だった。

「(まさか……このサザンドラ……シロヒメが言っていたポケモンと融合して力を行使するというヤツか!?)」

 ビリーは楽園での会話を思い出していた。
 同時にクイタランを繰り出して、火炎放射で反撃に出る。
 同じくマキナもニョロトノでハイドロポンプを撃つ。
 サザンドラはひょいとかわしていく。

『ふんっ』

 サザンドラには通常手がない。
 しかし、そのサザンドラは人間と融合することによって、手が存在した。
 その二つの手から、バチバチと迸った黒いボールを投げつけた。

「え?」

「なっ!?」

 その攻撃を2人は追いきれなかった。
 気がつけば、クイタランとニョロトノに当たっていて、2匹は倒れてしまった。

「(攻撃速度がとてつもないわ)」

「(俺の天使の目でも反応すらできなかった!?なんて潜在能力なんだ!?)」

「お姉様っ!!」

 カナタが叫ぶのを見ると、そこには暴走族が倒れている中にサクノの姿があった。
 隣にいるチルタリスは重傷で、彼女のモンスターボールの開閉スイッチはすべて壊されていた。
 攻撃のショックで壊れたのだろう。

「っ!!よくもサクノはんを!メタグロス!」

「……コロトック!」

 高速移動で相手を撹乱するようにメタグロスは接近する。
 『コメットパンチ』だ。

 一方、コロトックも遠距離から殺傷力のある音波を飛ばして攻撃に出る。

 ドゴッ! ガガガガガッ!

「くっ!!うおっ!!」

 サザンドラがメタグロスの頭上を押さえ込み、地面に叩き付ける。
 その衝撃で地面に亀裂が走り、ビリーは横っ飛びでかわした。
 さらに炎攻撃でメタグロスを焼き尽くして、ノックアウトにした。

「行けえぇっ!!」

 そのとき、一匹のニョロボンがサザンドラの懐に入った。
 マキナもビリーも彼女がポケモンを出した時がわからないほど、その動作は速かった。

『(いつの間に!?)』

 その挙動はサザンドラも分からなかったほどである。
 大きく拳を振りかぶって、サザンドラのボディに一撃をお見舞いした。

 ドゴォッ!!

 サザンドラは大きく後退した。
 ニョロボンはさらに追撃に出る。

「これで決めろ!!懇親の右ストレート!!」

 拳を大きく振りかざして、目にも止まらぬ速さで拳を振りぬいた。
 先ほどと同じ大きな音を立ててサザンドラにダメージを与える。

『確かに痛いね』

「なっ……!? 効いてない!?」

『『ナイトスパークボール』』

 掌から出された帯電した黒いボールを受けて、ニョロボンは呆気なく倒れた。

「コロトック!連続で『メロディストラッシュ』よ!」

『無駄なことだね』

 帯電した黒いボール一気に3つほどコロトックへと投げつけた。
 それを見たマキナは、一つは全力のストラッシュで粉砕を試み、一つは回避を試みた。
 しかし、相殺もできなければかわすこともできなかった。
 あっという間にコロトックに命中し、ダウンに至らしめた。

「きゃあっ!!」

 その攻撃の余波はマキナにも及んで、吹っ飛ばされる。
 地面をズザザッ!と滑るように転がされる。

「(カナタのニョロボンのパンチもマキナのコロトックの鋭利な斬撃もものともしないのか!?)デンチュラ!」

 ビリーは近距離戦闘を諦めて、遠距離からの攻撃にスイッチする。

「ビリー、援護するわよ!『爆音玉』」

 マキナのバクオングの声を固めたボールを投げつける。

『そんな攻撃、当たらな―――』

 ド――――――ンッ!!

『うぉっ!?』

 サザンドラにぶつけると思っていた音の攻撃は、手前で炸裂していた。
 その音の大きさと振動の衝撃で、サザンドラは怯んだ。
 そして、その隙をビリーは逃さなかった。

「ローガン流『シグナルレーザー』!!」

 スピードのある虫系のシグナルビームの強化技がサザンドラを打ち抜いた。
 技の勢いに押されるサザンドラ。
 ダメージもそこそこあるが、怯まずに足を踏ん張って反撃に出ようとした。

「カナタ!」

「わかってるっての!!」

『後ろっ!?』

 反応したが、サザンドラが遅れた。
 カナタのラグラージが『アームハンマー』で地面へとサザンドラの頭を叩いた。
 威力で地面がミシッと音を立てる。

「(決まったか!?)」

 ドゴッ!!

「バクオング!?」

 ラグラージの懇親の一撃を受けながらも、サザンドラは指から黒く鋭い悪の波動を放っていた。
 5度ほど連続でバクオングは撃ちぬかれて、倒れた。
 それを見たビリーは、デンチュラに『高速移動』を指示して10万ボルトで牽制しながら、シグナルレーザーを放った。

『『三つ首破壊光線』!!』

 3つの口から同時に放つ破壊光線。
 その3つの光線が1つに合わさる場所がとてつもない威力を持っていた。
 その力の前にシグナルレーザーは足止め程度にしかならなかった。
 破壊光線の余波に吹っ飛ばされたビリーとデンチュラ。
 サザンドラは飛んで、デンチュラを下へとたたきつけた。
 橋にめり込んでデンチュラはダウンした。

『いい加減諦めて、消えなよ。俺はのんびりとイッシュ地方を周って街を破壊しつくすんだからな』

「(やっぱりこいつがシロヒメの言っていた……だとしたら、全力で止める!!)」

「何故そんなことを……?」

 マキナが吹っ飛ばされた際に傷つけた腕を庇いながら尋ねる。

『なんてことはないよ。ただ俺はこの力を試したいだけ。科学者の当然の本能だよ」

「させるかよっ!」

 猛るカナタはラグラージと共にサザンドラへと向かっていく。

「カナタに同じね。みんなが築き上げた街を壊すことなんてさせないわ!」

“そうね。街は歴史が重なって生み出したもの。一人に壊す価値はない。神のネグリジュも許さないわ!”

 マキナが切り札のメロエッタを繰り出す。

「お前を止めるッ!ピクシー!」

 ビリーはピクシーを繰り出すと、力を解放した。
 ピクシーの背中から優しい色の翼が広がった。

「『エンゼルハート』!!『トライアタック』っ!!!!」

「『いにしえのうた』!」

「『ハイドロカノン』!!」

 ピクシーのトライアタックが30連発。
 メロエッタの独特な声法から繰り出される音の攻撃。
 ラグラージの水系の究極の攻撃。

 どれも今までで最大の技であることは間違いなかった。

『『悪の波動』!』

「ラグラージ!?」

 しかし、それらの攻撃を受けても、サザンドラは倒れなかった。
 ダメージこそ受けているものの、ものともしていないようだった。

「ピクシー!『ムーンインパクト』!!」

「メロエッタ、『インファイト』!!」

 ビリーとマキナのポケモンが特攻で突っ込んだ。
 二人とも玉砕を覚悟して突っ込むしか方法がもう無いと考えたのだろう。
 最高の一撃で挑んだ。

 ドゴッ!!

『むっ!!ぐほっ!!』

「メロエッタ、もう一回!!」

 メロエッタは現在、打撃とスピードを特化したステップフォルム。
 テレポートをしたみたいにさっくりとサザンドラの後ろに回りこみ、全力の打撃を叩き込んだ。

『ぐぅっ!!』

「そこだっ!『フェアリーテール』!!」

『ぐあぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!』』

 妖精の尻尾の一撃は、天へと光を立ち上らせる。
 そのサザンドラも打ち上げられて、地面にドサリとたたきつけられた。

「はぁ……はぁ……やったか……?」

「メロエッタ、大丈夫……?」

“何とか……ね”

「勝った……のか?」

 カナタは倒れたラグラージを戻したところで息をついて地面に座り込んだ。
 それをみて、2人も緊張が抜けたように息を吐いた。

「一体、このサザンドラは何をしたんだ?」

「科学とか言っていたけど……」

「どちらにしても、ろくなことではないわね」


『ロクなことでは……ないよ……。これは偉大なる開発……だ!』


「な!?」

「っ!?」

「そんな!?」

 むくりと起き上がったサザンドラ。
 彼が受けたダメージは大きい。
 だが、それでも彼は戦う体力が残っていた。

『まさか、BURST状態でこれだけのダメージを受けるとは思わなかった……。お前達は危険分子の一員だな』

 そういって、サザンドラは飛び上がる。
 さらに全身にエネルギーを溜め始める。

「一体何をする気だ!?」

『お前達を消してあげるよ。この橋ごとね』

「させない!メロエッタ、『滅びの歌』」

“それしかないわね!”

 メロエッタは滅びの歌を歌い始める。
 それはサザンドラに届いたはずだった。

 ドゴォッ!!

“あうっ!!”

 しかし、メロエッタやマキナをはじめとした全員が吹き飛ばされた。

『音に関する攻撃なんて、『ハイパーボイス』で充分押しつぶすことがきるからね』

「そんな……『滅びの歌』が効かないなんて……!」

「ピクシー!飛べっ!!『ムーンインパクト』で叩き落すんだ!」

『そんな暇はないよ。これでおしまいだ』

 サザンドラのエネルギーが最大にまで達した。

『『ダークスペイザー』!!』

 一瞬だった。
 橋はぱっくりと切られてシリンダーブリッジが2つになってしまった。
 ビリーのピクシーはその光線に巻き込まれた。
 
『オラッ!!』

「うわっ―――!!」

「くっ!!みんな!?きゃぁっ!!」

「ちくしょう!ピクシー!!ぐはっ!!」

 シリンダーブリッジの一部が崩れ行く。
 その影響で次々と暴走族たちのバイクなどが海へと落ちていく。

「ダメェっ!!」

 マキナの叫びが無情にも響く。
 そして……。


 …………。


『はぁはぁ……ダメージを受けすぎたか……』

 サザンドラ=ゼンタは空からシリンダーブリッジの様子を見ていた。
 橋は切断されて、橋を渡ろうとしていた電車が落ちる手前のところで止まっていた。
 暴走族の大半は海へと落ち、ビリーたちは落ちなかったが、それぞれに怪我を負って気絶していた。

『少し休憩が必要だけど……問題ない。2日後に攻め落とすか。ソウリュウシティを……』

 自らの勝利を確認し、サザンドラはヨロヨロと飛んで去っていった。


 数分後。


 海から一匹のラグラージが顔を出していた。
 そのラグラージの背中には落ちた数人の暴走族たちが山積みに乗せられていた。
 その様子を橋の端から眺めるのは一人の女性だった。

「…………」

 彼女はただ黙ってラグラージを戻し、どこかに電話を掛けた。

「ケガ人がいるの。場所はシリンダーブリッジ。急いでね」

 その様子は淡々としていて焦っているようには見えなかった。
 ただ、冷静な目でこの光景を目に焼き尽くしていたのだった。










「つぅ!?……こ、ここは……?」

 青い髪の美少女であるサクノは、ふと目を覚ましてベッドを飛び上がった。
 そこにあるのはいくつかのベッドだった。

「ここは……病院?どうして、私はこんなところにいるの?」

 サクノにはここまでの記憶がなかった。
 ゆえに、どうしてこの状況になっているのか、周りを見て判断するしかなかった。

「ビリー……マキナ……カナタ……!!」

 周りのベッドで寝ているのは、みんな重傷で気絶して寝ている仲間の姿だった。
 それは、自分も同じだが、皆と比べると軽傷で、頭に包帯を巻いているだけだった。

「まさか……みんなあのポケモンに……!?」


「その通りよ」


 病室の入り口から聞こえてくる声。
 そこを見ると、緑色のバンダナを被り、サングラスを掛けた理知的な女性が立っていた。

「あなたは?」

「一応、あなたたちを助けた者よ」

「そうでしたか……。ありがとうございます。(それにしても、綺麗な人ね)」

 刹那、その女性の姿を見て、私もこんな女性になれるかなと思ったが、その思考を一旦置いとくことにした。

「一体、どうしてこんなことになったんですか?」

「元ロケット団の科学者ゼンタ。彼が作ったBURSTハートは、ポケモンと一体化することにより、凄まじい力を発揮するもの」

「BURSTハート?」

「ええ。ポケモンを結晶の中に閉じ込めてしまうものよ。彼はどうやってか、その方法を考え出して実現した」

「一体その力をどうするつもりなの?」

「まぁ、力を持った科学者の考えることなんて一つしかないわ」

 あくまで冷静に……いや、冷酷に彼女は言葉を継ぐ。

「その力の実験。私の予想では、ソウリュウシティを襲っているんじゃないかしらね。あそこにはイッシュ地方最強のジムリーダーアイリーンもいるし、ドラゴンの里として有名だからね」

「…………」

「あのサザンドラとゼンタの合わさった力は本物。恐らく、ソウリュウシティでも1日もしないうちに死の町になっちゃうんじゃないかしらね」

 言葉もなく、サクノは立ちあがった。
 そして、女性の横を通り過ぎて病室を出ようとしていた。

「どこへ行くの?」

「決まっているわ。そのゼンタって人を止めに行く!」

「無理ね。あなたがどれほどの強さを持っているかは知らないけど、私が見たかぎりじゃ、イッシュの四天王が正々堂々と立ち向かっても話にならないレベルよ」

「…………」

「それでも行くって言うのなら、それはただの無謀。犬死ね」

 女性はやはり冷酷だった。
 しかし、それにもかかわらず、病室のドアがガラッと開かれる。
 迷わずサクノは外へと一歩踏み出していた。

「……これだけの忠告も聞き入れないというのね」

「あなたが何を言おうと、私の心は一つよ。私が納得行かないと思うことはすべて止めてみせる、変えてみせる、壊してみせる。無理だって決めたら、そこで終わりなのよ」

 そうして、サクノはビリーたちが眠る病室を去っていった。
 そして、女性はポツリと呟く。

「誇り高き女教皇<アキャナインレディ>サクノ。その異名どおり。まったく……本当に血は争えないわね」

 冷酷そうな表情から温かく彼女は微笑んだ。
 そうして、その場から彼女は去っていったのだった。










 第14話 完


HIRO´´ 2012年05月06日 (日) 21時20分(33)
題名:第15話 P50 冬A

 ☆前回のレジェンドオブパラダイスΙのお話

 シリンダーブリッジからソウリュウシティへと向かっていたサクノたちは、暴走族に勝負を挑まれる。
 ポケモンバトル、バイクのレースに共に勝利したサクノだったが、ゴールに待ち構えていたのはゼンタ(元ロケット団の科学者で魔道のマヤと共同で薬を開発した仲であり、ボルグに嫌悪を抱き、化石復活などの功績を残したが、最後はタマムシシティでマサトに負けた―――WWS第50話〜第52話参照)だった。
 BURSTという力を使いこなし、サザンドラでサクノたちを蹴散らして、彼女らに大きな傷を残して去っていった。
 謎の女性に助けられたサクノは、ゼンタが次の標的をソウリュウシティに定めたと知り、立ち上がったのだった。










―――「ついに完成した。とある小説のネタを見て、まさか本当にバーストハートなるものが造れるなんて思わなかった」―――

 ポケモンを題材にした小説に、『ポケットモンスターBURST』というものがあった。
 それは、ゼクロムのバーストハートを持って、謎のキャラクターを探して冒険する少年の話だった。

―――「この小説のようにオリジナルではないが、開発したバーストハートでも凄まじい力が出せるはずだ。さて、どうやって試そうか……」―――

―――「それなら、いい相手がいるわよ」―――

―――「お前は……」―――

 グラサンに緑色のバンダナを被った女性がゼンタの前に現れた。

―――「今、イッシュ地方に来ていて、もっとも有名なトレーナー、誇り高き女教皇<アキャナインレディ>のサクノ。彼女と戦ってみるがいいわ」―――

―――「アキュナインレディ……サクノ?知らないな」―――

―――「彼女は3つのポケモンリーグでダントツの優勝をしている。そして、彼女はロケット団を滅ぼすに至ったブラックリスト2位のヒロトの娘よ」―――

―――「なん……だと……?」―――

 その情報を聞いて、ゼンタはニヤリと口元を緩めた。

―――「そいつはいい相手だね。それで、そいつは今どこにいるんだ?」―――

―――「ソウリュウシティに向かっているわ。今から行けば、シリンダーブリッジで会えるわ」―――

―――「そうか」―――

 ゼンタは準備をして、研究室の外へと出て行った。
 その後姿を女性はただ見ていたのだった。
 彼女の表情から読み取れるものは何もなかった。










 第15話 P50 冬A










 死の街・ソウリュウシティ。
 そこで巨大な炎の球体と闘気の塊がサザンドラに炸裂した。
 並のポケモンだったら、一撃で倒せるであろう攻撃だった。

 しかし、人型のサザンドラはその2つの攻撃をものともせずに飛んで向かってきた。

『その程度か?効かないよ!』

 右腕を振りかざして、ウインディとルカリオに攻撃を仕掛けるが、2匹は神速を使ってその場から距離をとる。
 攻撃を空振りしたサザンドラは、ターゲットを変えて他のポケモンを狙おうとするが、サクノはすぐに3匹をボールに戻して、バイクで急加速して射程距離から逃れた。

「エンプ、『骨ブーメラン』!」

 ルカリオが波動の力を使って骨を形状化して投げつける。

『そんな攻撃が何になるって言うんだ?』

 左手でサクッと波動のエネルギーを消し去ってしまう。

 ズバッ!

『ぬっ!?』

 背後から鋭利な刃物で傷つけられた感触を感じて、振り向くと一匹のテッカニンがいた。
 反撃で両手を振りかざして殴りつけるが、テッカニンは加速してギリギリでかわす。
 
『小癪な!』

 テッカニンを正面に捉えると、両手を振りかざして、テッカニンが上昇したときを狙い、3つの竜の波動を放った。

「ジョー!」

 テッカニンは威力に押されて吹っ飛ばされる。
 これで倒しただろうと思ったサザンドラだったが、竜の波動から出てきたのは一匹のヌケニンだった。

『なんだと!?』

 今更説明する必要がないが、サクノのテッカニンの秘技のSwichである。
 ヌケニンにシフトする技である。
 当然ドラゴン系の技はヌケニンの不思議な守りの前に無意味である。

『(火炎放射で燃やす……!!)』

「『16連Shot』!!」

 テッカニン&ヌケニンに気を取られている間にやはり背後から、鋭い水の矢を放った。
 同じところに16本も放ったことにより、流石のサザンドラも顔を歪める。
 連射攻撃を放ったのは、フローゼルだ。

『くっ!『ナイトスパークボー 「『聖なる剣』!!」

 手に黒い帯電したボールを出す前に、攻撃を仕掛ける手をルカリオがかち挙げた。
 そこから、3連続でルカリオの剣戟が炸裂した。

「『Cyclone Slash』!」

 間髪いれず、風を纏ったテッカニンの斬撃。
 そして……。

「アンジュ、『Flare Blitz』!!」

 ウインディ自身も炎を纏い、さらにはウインディの分身が前後左右に並ぶ。
 炎でできたウインディの分身体の威力は、鉄の壁をも簡単に貫通する力がある。
 それも4つとオリジナルがいるために、その威力は計り知れない。

『ぐぉぉぉぉッ!!!!』

 4つの炎とウインディが重なって、サザンドラを打っ飛ばした。
 自らが壊した街の瓦礫に入っていった。

「アンジュ……まだ大丈夫そうね」

 最大級の火炎を出し切って、疲弊しているものの、まだ戦える力は残っている。
 その様にサクノは判断し、一度ウインディをボールに戻した。

 同時に黒い波動が瓦礫を全方向に弾くように吹っ飛ばした。
 ダメージは受けているものの、サザンドラはまだ倒れる気配はない。

『やってくれたね!!』

「(アンジュの最大の攻撃でもあれしかダメージを与えられないのね)」

 サクノに焦りはなかった。
 むしろ、このくらいは予想の範囲内というような表情をしていた。

『『三つ首破壊光線』!!』

 ルカリオ、フローゼル、サクノに向かって、それぞれオレンジ色の光線が放たれる。
 前回はその3つが重なった攻撃の前に、チルタリスの最大の防御技である『Veil』が破られた。
 ルカリオとフローゼルは攻撃を相殺しようとはしない。
 先制攻撃を習得するほどのスピードを持った2匹は、回避を選択する。

「ラック!『Drain Seed』!!」

 一方のサクノはバイクに跨ったまま、サングラスのようなアイテムを掛けたエルフーンを繰り出す。
 繰り出した技は、何てことのないただの『宿木の種』のようだった。

『そんなもので防げると思うなっ!!』

 猛るサザンドラ。
 破壊光線が宿木の種を包み込み、燃やし尽くそうとしていたのだが、破壊光線が打ち消されていく。

『なにっ!?(……これは、あの宿木の種にエネルギーを吸収されているのか!?)』

 最終的に宿木の種は燃やし尽くされるが、一筋の破壊光線を完全に防御した。

『(BURSTしたサザンドラの破壊光線さえも防ぐなんて……あのエルフーンは早めに屠った方が……)』

 ザシュッ!!

 横から蒼い炎を纏った爪でSwitchしたヌケニンが攻撃してきた。
 炎はサザンドラに纏わりついて、体力を奪おうとする。

『燃えろっ!!』

「ジョー!」

 火炎放射で燃やしにかかるが、咄嗟に『守る』で防御。

「ジャック!」

 フローゼルが足元を踏みしめて、右手を振りかざし、左手で狙いをつける。
 ヌケニンに気をとられたサザンドラは、氷の弾丸の連続攻撃を正面から受けて技の勢いに圧される。
 悪・ドラゴンタイプのサザンドラに氷タイプの技は有効だが、先ほどのウインディの特攻ほどの効果は得られない。

 相手はすぐにフローゼルを睨みつけて、『ナイトシャドーボール』を投げようとする。
 だが、すぐ隣にルカリオが接近していたことに気付かなかった。
 『バレッドパンチ』で狙いを外されたサザンドラ。
 尻尾でルカリオを払おうとするが、左手で抜いた骨の剣で防御する。

 ミシッ

 ルカリオの剣にヒビが入った。
 それでも何とか攻撃を受け止め、力を溜め始めるルカリオ。

『(一匹目!)』

 殴りつけてルカリオ気絶させようと放った拳だが、風の弾丸がサザンドラの拳を逸らす。
 さらにエルフーンの猛烈な風……『暴風』がサザンドラをルカリオから引き剥がした。

「エンプ、『Seoul Blade』!!」

 フローゼルとエルフーンの援護を受けて、さらにその暴風に乗って、ルカリオが刀身から、闘気のエネルギーを繰り出して、サザンドラに一撃を与える。

『ぐっ……』

 格闘タイプの一撃を受けて悶絶するサザンドラ。
 そして、彼は悟る。

『……厄介なのは、ポケモンではないね……、それをまとめる……司令塔だねっ!!』

「(来るわね……!)」

 6匹のポケモンを操り、多彩に攻撃を仕掛ければ、自分を狙ってくることをサクノは読んでいた。
 ルカリオの最大技と共にエルフーンとテッカニンを戻し、バイクのハンドルのグリップをギュッと握り締める。

『くたばれ!!』

 3つの口、両手からそれぞれ『悪の波動』を放つ。
 発射台計5つからの悪の波動の連続攻撃がサクノに襲い掛かる。

 しかし、サクノに攻撃は当たらない。
 バイクに跨り、加速と減速を繰り返し、巧みなハンドル捌きで相手に動きを読ませない。
 5つの発射台から攻撃すればどこかしら当たると思うのだが、当たることはなかった。

『(当たればこんなヤツ……!!)』

 悪の波動の威力も並ではない。
 地面に直径5メートルほどのクレーター状の穴を開けるほどである。

『ぬっ!? ぐほっ!!』

 サザンドラの真上から、巨大な『気合玉』が落下してきた。
 サクノへの攻撃に気をとられていたサザンドラは頭から攻撃を受け、首を下に向けた瞬間に悪の波動を自分の足元に爆発させた。
 流石に自分の攻撃を受けて、ダメージを受けていた。

「アンジュ!」

 悪の波動の嵐が止まった瞬間に、ウインディを繰り出して、突進させていった。

『簡単に……攻撃できると思うな!』

 再び悪の波動を撃って、ウインディではなくサクノを狙う。
 ウインディは前面に炎を展開して悪の波動の威力を軽減しながらサクノを守るように進む。
 だが、一撃受けるたびにウインディの進むスピードが失われていく。

『今度こそ、一匹目!』

 止めとして悪の波動を5つ同時にウインディに向けて撃とうとする。

「今よ、レディ!」

 ウインディの後ろから一匹のポケモンが飛び掛ってきた。

『(ライチュウ!?ウインディの背中に乗っていたのか!?)』

 ライチュウは尻尾の先端を洗練させて、一気に切り裂く。

「『Sander Slice』!!」

 懐に入り込んだ一撃は、サザンドラの猛攻をストップさせた。

『ぐぅっ!このっ!』

 咄嗟に拳を出して、ライチュウを殴り飛ばす。
 その力に圧倒されて、ライチュウは吹っ飛ばされる。
 しかし、サザンドラが予想したほど、ライチュウのダメージはなかった。

『(咄嗟に後ろを飛んだ上に、俺に電撃を撃って威力を殺したのか……!)』

 ちなみに、ヌケニンの『Phantom Slash』の火傷の追加効果の影響も少なからずともあった。

「アンジュ」

『……!! まだ、ウインディが!?』

 同じくウインディもライチュウ同様に懐に入り込んだ。
 ここまで来ると悪の波動は自分も巻き込まれるから使えない。
 それならと、ライチュウと同じように拳で殴り飛ばすしかないと考え手を挙げようとするが……

『(手が……痺れて!?)』

 ライチュウを攻撃した際に、直接触れたことにより、『静電気』が発動したのだ。

「『Rising Break』!!」

 倒れる寸前だったウインディでも、炎を纏ったアッパーカットの最大の一撃を叩き込むことができた。
 腹部に打ち込まれたサザンドラはそのまま空へと打ち上げられた。

『うぐっ!!』

 だが、翼を広げて強引に空へと留まった。

『ならば、徐々に全員を倒してやる!『デビルレイン』!!』

 空を仰いで力を空へと解き放つ。
 すると、空が闇色に染まり、黒い水滴がひたひたと地面を濡らしていく。
 その様子は、ソウリュウシティを死の街という表現に限りなく近づけさせるものだった。

「(この天候は……)」

 付着する雨に嫌な予感を感じさせるサクノ。

『一度この天候になってしまえば、後は1時間は無駄だよ。天候を変える技も無効にするしね!徐々に倒れていくがいい!!』

「(能力と体力の低下系の天候みたいね。それなら……)ジャック、『Aqa Doom』!」

 待機していたフローゼルが、水の波動を地面へと撃ちつける。
 その水の波動は弾けず、そのまま広がって、サクノやポケモンたち、サザンドラを水の波動の中に閉じ込めた。

『この水の膜で、デビルレインを遮断しているのか!?それなら壊してやる!』

 上空へ向かって水のドームに殴りかかろうとする。
 しかし、そこには既にフローゼルの姿があった。
 水の膜に逆さで張り付いていた。
 サザンドラはかまわず殴りかかろうとするが、フローゼルは翼を狙って、水の弾丸を連発する。

『ぐっ!だが、この程度で……』

「ジョー、『Cyclone Slash』!!」

 ズバッ ズバッ!!

 翼に二連撃でダメージを与えるテッカニン。
 直接攻撃を受けて、よろめくサザンドラ。

『ぐっ!!このテッカニンがっ!』

 殴りかかるが、影分身や『まもる』でかわされてしまう。
 スピードで翻弄されるサザンドラ。

「そこよ!『Magnum Shot』!!」

 左手で狙いを定め、右手で打つ動作は変わらない。
 だが、左手に最大パワーの水のエネルギーを集め、右手で風のエネルギーと氷のエネルギーを合成させる。
 そして、一気に右手を振りぬいた。
 弾丸は氷。
 しかし、今までの弾と違うのは、巨大な氷の弾丸が風の力でジャイロ回転をし、目にも止まらぬ速さでサザンドラの翼を打ち抜いたことだった。

『ぐあっ!?俺の……翼が!?』

 左の翼を打ち抜かれて、徐々に降下していくサザンドラ。

「これでもう飛べないわね」

『よくも……よくもやってくれたな!』

 怒りを解放し、空気がひしひしとサクノたちに伝わる。
 しかし、それでもサクノは冷静にポケモンたちと人型サザンドラに立ち向かおうとする。

『全力で潰す!全力でだっ!!その後で次の街も、次の街も、次の街も、次の街も!! 破壊してやるっ!!』

「新しいルールを築くには、時に破壊も必要。だけど、私欲のための破壊は秩序の混沌と反乱しか生まれないのよ!」

 ウインディとルカリオをボールに戻し、テッカニンとエルフーンを前衛におした。
 綿胞子で相手の視界を奪い、テッカニンでちまちまとダメージを与えていく戦法だ。

『その戦法は、もう見切ったっ!』

 ナイトスパークボールを地面に投げて、その爆発の勢いで綿胞子を吹き飛ばす。
 Cyclone Slashで攻撃にかかっていたテッカニンは、動きを捉えられて、地面へとたたきつけられる。

「ラック、『Hexagram』!」

 エルフーンが六匹出現する。
 身代わりの応用で、体力をそれぞれ6分割して分身を作り出す技である。

『何匹になろうが、同じだ!』

 両手からナイトスパークボール、口から竜の波動を打ち出す。
 計5発の同時攻撃がそれぞれエルフーンに向かって放たれた。

「『宿木の種』!』」

 相手の体力を徐々に吸い取る技だ。

『(何?)』

 カウンター気味に放った宿木の種は、6つともサザンドラに命中した。
 そして、それぞれの種がサザンドラの体力をごっそりと吸い取っていく。
 しかし、カウンターということは、5発の攻撃をそれぞれエルフーンがまともに受けることを意味する。
 エルフーン本体に攻撃が当たる確率は約85%。
 ナイトスパークボールの攻撃がエルフーン本体に命中し、吹っ飛ばされてダウンした。

 ところが、その結果に違和感を感じたのはサザンドラの方だった。

『(今の攻撃を『Drain Seed』で何故防御をしなかった?できなかった……のか? いや、長期戦を受けて立つためにも『宿木の種』を……ということか)』

 実質、ライチュウの静電気で腕が若干痺れ、ヌケニンのPhantom Slashで火傷している。
 宿木の種をも追加すれば、時間はかかれど、サザンドラは倒れるだろう。

『賢いが、これで意味はないよ!』

 自分に向けて軽く炎の弾を放った。
 それが自分に命中し、みるみるうちに宿木の種を焦がしていった。

『持久戦の作戦はここで終わ 「『切り裂く』!!」

 ザシュッ

『ぐっ!?』

 横から倒したと思っていたテッカニンが自分の脇腹を切り裂いていた。
 しかし、それだけにもかかわらず、サザンドラは今までにないダメージを負っていた。

『よくもやってくれたなっ!』

 後ろに退きながら悪の波動で迎撃しようとするサザンドラ。

「ジョー、『影分身』!『高速移動』!」

 スピードと技で撹乱し、攻撃をかわし、さらに特性でスピードを倍増させ―――

「『バトンタッチ』!!」

 テッカニンからスピードを引き継いだそのポケモンは、一筋の電光と化し、サザンドラの脇腹に衝撃を与えた。

『がはっ!!』

 悶絶し、手で振り払おうとするが、雷の速度に匹敵するそのスピードに触れることはできなかった。

「アンジュ、『Fire Ball』!エンプ、『波動弾』!」

 さらに再び繰り出した2匹の攻撃が炸裂し、爆炎が上がった。
 しばらくして、その煙が晴れるまでサクノたちは待っていた。
 下手に攻めて返り討ちにあわないようにするためである。

『くっ……的確に俺の急所を狙ってくるね……』

 ダメージは大きいようで、サザンドラは息が上がっていた。

「ふぅ……そのためのラックの宿木の種よ」

 エルフーンに持たせていたアイテムはクリティカルレンズ。
 相手の急所や技の弱点を見極めることができる。

『つまり、エルフーンが防御に出なかったのは、できなかったのではなく、しなかっただけか……一杯食わされたよ』

「そういうこと。ねぇ、そろそろこんな破壊なんてやめにしない?」

『その問答は無用だということは、言わないとわからないかな?』

「……悟りたく、なかったわね」

 そういいつつ、額から汗が流れ落ちる。

「(参ったわね)」

 正直、サクノの方が追い詰められていた。
 相手の弱点が分かっていて、優勢に進める術を持っているとはいえ、相手の力は絶大で一撃を受けただけでもエルフーンのようにノックアウトしてしまう。
 テッカニンとライチュウがダウンせずにいるのは、『こらえる』等の技や、事前にどんな行動に出るかを読み、対策したに過ぎない。
 さらに、サクノのポケモンたちのそれぞれの最強の技がサザンドラに少しのダメージしか与えられない。
 急所に当たれば別だが―――

「(そう簡単に行けるとは思えない)」

 ルカリオとウインディを再びボールから出す。
 テッカニンは殴り飛ばされた時の一撃でもはや力は残されていない。
 すなわち、戦えるポケモン4匹をすべてこの場に出している状況になった。

『『悪の波動・改』』

「エンプ、『聖なる剣』!!』」

 恐らくサザンドラの中で最速の攻撃だった。
 5発連続の鋭い悪の波動を指から放った。
 それに反応できるのは、波動の力を持ったルカリオだった。
 折れた剣から波動の力を放出し、サザンドラの猛攻を捌く。
 5発とも剣に当てて捌いたのだが、一つだけ上手く弾けず、自分の足に当たって膝をついてしまった。

『くたばれ!『三つ首破壊光線』』

「ジャック、援護して!『Magnum Shot』!!」

 ルカリオに集中して放たれた破壊光線とフローゼルの最強の弾丸。
 その攻撃の攻防はあっさりと決着がついた。

「『Seoul Blade』!!」

 そのことを分かっていたサクノは、Magnum Shotで少しだけ威力の下がった破壊光線を逸らそうとルカリオ最大の技を指示する。
 魂を剣に込めた一撃を、集束された破壊光線にぶつける。

 ズドゴォッ!!

 だが、破壊光線が炸裂した。
 ルカリオは力なく、地面へと仰向けに倒れた。

『……何っ!?』

 すぐにサクノを狙おうとしたサザンドラだったが、その場にいたサクノやポケモンたちがまったくいなかった。

「アンジュ、『Flare Blitz』!!」

 炎を纏いし4匹のウインディ。
 それらが重なり合い、サザンドラに激突する。

『だが、そう来ることは読めていたっ!!』

 ズドゴ――――――――――――――――――ンッ!!

 大きな激突音が響き渡り、サザンドラが崩れかかった建物に激突する。
 建物は崩壊はしなかったが、一部瓦礫が崩れてきて、サザンドラとウインディにダメージを与える。

「(受け止められた!?)」

『急所の方向から狙ってくることが分かれば、何とか受け止められるもんなんだよね』

 抑えられたウインディはその場で打撃攻撃を仕掛けようとするが、三つ首に噛み付かれながら押しつぶされる。
 そのまま地面に向かって思いっきり殴り飛ばされ、地面にめり込んでダウンした。

「レディ、『電撃』!ジャック、『Ice Shot』!」

『むっ!?』

 フローゼルは先ほど展開した水のドームを縦横無尽に移動しながら、攻撃していた。
 エルフーンが示した急所に向けて正確に氷の弾丸を撃っていく。
 だが、そう簡単にサザンドラが当てさせてくれなかった。
 当たる前に拳で壊してしまうのである。

 一方、ライチュウの電撃攻撃は、サザンドラにまったく当たらなかった。

『残りはその2匹だろ。一匹はパワー不足、もう一匹は命中精度が悪いようだね』

 フローゼルとライチュウの攻撃とサザンドラの攻撃。
 どちらも当たらず、こう着状態が進んで行った。
 状況は何も変わらない。

 しかし、そう思わなかったのはサクノだけだった。

「レディ、『電撃』!!」

 20発目の電撃がサザンドラにかわされる。
 そして、瓦礫に炸裂した。

「『ナイトスパークボール』!!」

「『渦潮』!」

 ドゴ―――ンッ!!

 そして、展開が動いた。
 フローゼルに帯電した黒いボールが当たり、地面に落ちた。

『こんな渦潮……足止めにしかならないな。さぁ、残り1匹だ』

 同時にライチュウは手を合わせて拝んでいた。
 終わるとライチュウは右手につけていた小手を外した。

「行くわよ」

『最強の技か?ならば、こちらの最強の技で終わらせてやろう』

 大きく息を吸い込み全身にエネルギーを蓄え始める。

『『ダークスペイザー』。これで終わらせてやる』

 ライチュウが小手を空へと投げる。
 右手をひき、すべての電撃をその右手に集中させる。

「レディ、Smash!!」

 サクノのライチュウの最強の技『Railgun』。
 だが……

『なにっ?』

 ライチュウの懇親の一撃はサザンドラを逸れていった。

『(どういうことだ?しかし、) 外したな!お前の負けだ!』

 ガッ!! ガッ!! ガッ!!

『?』

 ガッ!! ガッ!! ガッ!! ガッ!! ガッ!! ガッ!!

『何だと?』

 ライチュウの放った懇親のRailgun。
 その一撃が進路を変え、瓦礫を抉りながら、進んでいた。

『しかも、威力が上がっているだと!?一体何故……?』

 電撃の進行方向にあるのは、電気を帯びて帯電している鉄の瓦礫。
 それに引き寄せられるように電撃は進んでいるのだ。

『まさか、今までライチュウが攻撃を外していたのはこのための布石!?』

 サザンドラが悟ったそのとき、20個目の瓦礫に電撃が飲み込まれた。
 そのときのRailgunの威力は、膨大な電気の塊を発現させていた。

『小癪なッ!!』

 本来はライチュウとサクノに向けて相手の最強の技をかき消すと共に決めるはずだった技の『ダークスペイザー』。
 しかし、Railgunは進路を変えて、自分の急所である脇腹の正面、すなわちサクノから90度左から襲い掛かってきたのだ。

 ズドォッ――――――――――――――――――――――――――――――ンッ!!!!!!!!

 最大の技同士がぶつかり合った。
 その衝撃は、膨大なエネルギーを撒き散らし、直径50メートルほどのクレーターを作り出した。

 ズザァァッ!!

『ぐはっ……やってくれるっ!!』

 そして、サザンドラは膝をつく。

『もう限界だが、この爆発でアキャナインは自分が戦えるとは思わないだろう。そこを狙って不意打ちをすれば……!!』

「『Lighting』!!」

 ドゴォッ!!

『がっはっ!?なん……だって!?』

 急所に的確にライチュウが狙い済ましたかのように、一撃をお見舞いした。

「レディ、『アイアンテール』!!」

 本来ならSander Sliceで行きたいところだったが、ライチュウももう体力が残り少ない。
 電気を作り出すほどの力も残されていない。
 ライチュウの最後の懇親の力を込めた打撃攻撃で急所を狙う。

『うぉぉぉっ!!』

 ドガッ!!

『ははっ……ハハハハハッ!』

 伸ばした拳がライチュウに命中した。
 アイアンテールは、わずか右に逸れて外してしまった。

『俺の勝ちだっ!!』

 勝ち誇った表情で人型のサザンドラは咆哮した。
 もう、サクノに残されたポケモンはいない。
 さぞ絶望の表情をしているだろうサクノを見る。

「……っ……」

 彼女の表情は険しそうだ。
 先ほどの最大の技の激突で、吹き飛び、どこかを打ち付けたのだろう。
 息も上がっていて、彼女自身も体力が限界のようだった。

『お前の負けだ、アキャナイン!』

 ザクッ!!

『は?』

 サザンドラは震えた。
 恐る恐る自分の脇腹を見ると、一匹のポケモンの姿があり、自分の急所を確実に捉えていた。

『(テッカニン……だと!?何故動ける!?先ほど地面にたたきつけてやって体力とスピードを奪ったはずなのに何故!?……はっ!?さっきのライチュウの技はまさか、『願い事』!?)』

「『Drain Slash』……そして、決めて!『いのちがけ』!!」

 元々、体力が少ないテッカニン。
 今の一撃で体力が全快になった。
 そして、全体力を使って、テッカニンは特攻した。

『ぐわぁっ――――――――――――!!!!』 

 人型のサザンドラは吹っ飛ばされる。
 ばさりと仰向けに倒れると、人型のサザンドラは一人の人間に戻った。

「私の……勝ちよ……これに懲りて……破壊を……やめる……ことね……」

 バタリ

 ゼンタに向かって言葉を残し、サクノもその場で倒れこみ、気を失ったのだった。










 ―――1ヵ月後。

 死の街だったソウリュウシティが、ジムリーダーのアイリーンの指導のもと、ようやく復興作業に取り掛かっていた。
 街の人々が避難から戻ってきたり、ケガを治したりして、ようやく人が集まってきたのだ。
 ソウリュウシティが復興するにはまだまだかかるだろう。

 そして、イッシュ地方崩壊の危機を救った英雄サクノたち一行はというと……





「よし、ハイスコアっ!!メダルを300枚獲得だ!」

 男勝りの少女、カナタはピコピコハンマーを持って、両手を挙げた。
 ディグダ叩きで過去の記録を塗り替えたようだ。


「ブラックジャック(21)!俺の総取りやで!」

 エセコガネ弁の男、ビリーはカードをテーブルに投げて、ニヤリと笑う。
 ブラックジャックで他の挑戦者からメダルを横取りしたようだ。


「あら、7が三つ揃ったわ」

 ふんわり系の女の子、マキナはぽかんとした表情でディスプレイを見ていた。
 スロットでスリーセブンを叩き出し、排出口から大量のメダルを落としていた。


「…………」

 ミッドブルーの髪の美少女、サクノはがっくりとした表情で肩を落として落ち込んでいた。
 透明の壁越しに在るのが、エルフーンのミニドールだった。


 彼らはシリンダーブリッジの先にあるR9に来ていたのだ。
 デパートであるそこには当然、ゲームコーナーがある。

 ほ、本編のゲームでないと言われても、普通のデパートなら絶対あるの!(ェ)

 そして、一通り遊び終えた4人は、デパートを後にした。



「ふふんふんふふんふーんっ♪」

 上機嫌な様子でマキナが鼻歌を歌う。
 某アクションゲームの鼻歌はとっても楽しそうだ。

「好調やったでー」

 ビリーが紙袋を抱きしめるように景品を持ち歩く。
 中に入っているのは、お菓子のようである。

「それにしても……お姉様……」

 カナタは一人落ち込んでとぼとぼ歩くサクノに声を掛けていた。

「エルフーンドール……エルフーンドールが……」

 クレーンゲームで失敗したのがよほど堪えたのだろう。

「メダル千枚使って、まったく取れないなんて、サクノちゃん、よっぽどセンスがないのね」

「マキナはん、それは間違ってもサクノはんには言ってはいかへんでぇ?」

 ちなみに、クレーンゲーム一回の金額はメダル20枚。
 メダルの金額は100枚千円。
 すなわち、サクノは1万円の金額をつぎ込んだといえる。
 1万円使って、もう一回1万円をつぎ込もうとしたサクノを必死にカナタが止めたのだ。

「他のスロットでも一つも揃わなかったみたい」

「……言われて見ればそうやな。……もしかして、サクノはん、ゲームの運はないんか?」

「というか、いい加減お姉様の弱点をチクチク言うのやめろ!」

「それにしても、ソウリュウシティはまだ復興作業をしているらしいで?」

「そうでしょう。被害のない箇所なんてないと言われているらしいですし」 

「街を粉々に破壊する伝説のポケモンに匹敵する恐ろしい力……あの力を扱うゼンタが捕まってよかった……」

「そのゼンタを打ち倒したサクノはんはやっぱりすごいでぇ?惚れ惚れしてまうわ」

「……え?うん……」

 話題を変えてみるがそれでもサクノのテンションは低い。

「さ、さて、次はどこへ行くのかしら……?」

 Prrrr

 そのとき、一つのポケギアが鳴る。

「え?お母さん?」

 カナタは左手につけているポケギアを弄って通話を始める。

「なに?どうしたの?」

 カナタの母親はカズミである。
 ショップ・GIAの社長をやっていて、表向きは機械の修理屋、裏では賞金稼ぎをしている。

「え?お姉様に?」

 ポケギアを差し出すとサクノは不思議そうな表情で通話を受けた。



「父が……イッシュ地方にいる……?」










 ……5年後のゼンタ……










『見ていろよ、アキャナインレディサクノ……』

 刑務所から脱獄したのは、BURSTしたサザンドラ……ゼンタだった。
 何をどうしたかは割愛するが、ゼンタは再びサザンドラの力を取り戻したのだ。

「元気そうね」

『……お前は……っ!』

 緑のバンダナの女性を見て怒りをたぎらせるゼンタ。

『元はといえば、お前のせいだ。お前がサクノと戦えばいいとか言わなければ今頃俺は……』

「人のせいにしてほしくないわね。当時、あの子があそこまで強いとは思わなかったけど」

『元ロケット団のルーキーズユウナっ!!先にお前を消してやるっ!』

「ユウナ……、その名前はもう捨てたわ」

 人型のサザンドラが飛んで彼女の首を狙う。
 しかし、

 ズドゴンッ!!

『がはっ!?』

 巨大な氷の塊がサザンドラを打っ飛ばした。

『一体何が……っ!?』

 視線の先にいたのは、白衣を着た少年とグレイシアだった。

「グレイシア、『冷凍ビーム』」

 ドゴッ!!

『バカ……なっ……!』

 その一撃でゼンタサザンドラは地面に落ちたのだ。

「彼の名前はエデン=デ=トキワグローブ。そして、私の名前はアソウ。この世界をすべての悲しみから救う者よ」

「グレイシア、やるんだ」

 BURSTが解除されたゼンタをあっという間に凍り付けにしてしまった。
 そして、バーストハートに閉じ込められたサザンドラを拾い上げて、太陽にすかしてみる。

「これがそのバーストハートだね」

「ええ。恐らく、この力が誰にでもシンクロを使える用になるヒントがある。人間とポケモンの一心同体化。それをすることにより、力は一気に高まるわ」

「どのくらいかかると思う?」

「何年かかってもやるわ。これが私の残された道なのだから」

 アソウとエデン。

 そうして、二人は息の根を止めたゼンタを放っておいて、そのままどこかへ去っていったのだった。

 ―――彼らの計画が実行されるまで、後16年。










 第15話 完


HIRO´´ 2012年05月28日 (月) 21時10分(34)
題名:第16話 P51 立春@

 サクノは息を乱して、正面をじっと見据えていた。
 隣には剣をついて、息を大きく乱しているルカリオの姿がある。

 その目線の先には、先ほど気合玉を繰り出して、打ち倒した相手がいるはずである。
 しかし、気合玉の爆発のせいで、今は煙で状況が読めない。

 ルカリオが波動を感じ、サクノより一歩先に動いた。

「(来た!)」

 ルカリオと反対方向に動いて、水攻撃を回避する。
 同時に姿を現したのはミロカロスと長い髪のポニーテール、グレーのジーンズに黒のランニング、耳に髑髏のピアスをした180センチの不良っぽい男。
 年齢は20代前半だろう。

 水攻撃を撃つミロカロスにルカリオは剣を振るって切り払いながら接近していく。
 そして、剣に闘気を集め、ミロカロスに切りかかった。

 ガキンッ!!

 ミロカロスが尻尾で剣を防ぐ。

「『まもる』だ」

「そう……みたいね!」

 ガガガガガッ!!

「!!」

 攻撃を防いだと確信していた男だったが、一撃はルカリオの『フェイント』だった。
 すぐさま、骨の剣と闘気で作った骨の二刀流で『ボーンラッシュ』を叩き込む。
 最後の一発でミロカロスを蹴り飛ばし、一つに剣を集中させる。

「エンプ、『Seoul Blade』!!」

「一匹ばかりに気をとられているんじゃねえぜ」

 ハッと後ろの気配に気付き、後ろを見ずに即座に横っ飛びした。
 ハクリューの冷凍ビームはサクノには当たらない。
 ただし、その延長線上にいるのは、ルカリオであり、攻撃が背中を掠める。

「ミロカロス、『渦潮』!!」

 ルカリオの足元から、巨大な渦潮を発生させて、動きを鈍らせる。
 最大の技、Seoul Bladeは接近しないと威力を発揮しない。

 その間にハクリューがミロカロスと合流する。

「アンジュ、援護して!」

 出た直後から炎を纏わせているからわかりにくいが、体にはダメージの後が伺える。
 相当激しい戦いの後なのだろう。

「ハクリュー、ミロカロス、行くぜ!」

 2匹はコクリと頷く。
 ミロカロスが水の波動と凍える風を発動し、ハクリューは流星群を打ち出す。

「くっ!『Flare Drive』!!」

 ブォォォォッ!!!!

 炎系最大の技と竜氷水の合成技が激突し、凄まじい烈風が巻き起こった。

「アンジュっ!?きゃぁっ!」

 ウインディとサクノはその風で吹き飛ばされる。
 その一撃でウインディはダウンしてしまう。

「必殺『天の川』。綺麗な星は見れたかよ」

 そう言って、男は人差し指をサクノに向ける。

「レックウザ、ハガネール、アーボック、ライボルト……ここまですべて倒して俺を追い詰めたヤツは、俺が生きていた中でもそうは居なかったぜ。さすが、俺と同じ種類のバイクを乗っているだけのことはあるな」

 そうして、余裕で煙草を口にくわえて、一服する。

「はぁはぁ……油断しすぎよっ!!」

「……なっ!?」

 神速で回り込み、全身全霊を込めたソウルブレード。
 ミロカロスとハクリューを一掃した。
 ハクリューは一撃でダウンしたが、ミロカロスは持ち直して、ハイドロポンプで反撃する。
 聖なる剣で攻撃を抑えるが、それも持ちそうにない。

「そのまま『波動弾』!!」

 剣を持ったまま強引に砲弾を打ち出した。
 ルカリオは吹っ飛ばされるが、その砲弾でミロカロスも吹っ飛ぶ。

「チェンジ!『Lighting』!!」

 ルカリオをボールに戻し、先制攻撃技の電光石火でミロカロスを感電させた。
 そして、ミロカロスは倒れた。

「……っ!……やるじゃねえか」

 すべてのポケモンを倒された男は、フッと煙草の煙を吐きながら、不敵に笑う。
 すると、男が徐々に粒子になって消えていこうとしていた。

「これは同じ種類のバイクではないよ。同じバイクなのよ」

 サクノがふと呟くと、彼は驚いたように目を丸くした。

「これはショップ・GIAの片隅に置いてあったあなたのバイクよ」

「ショップ・GIAだと!?お前、その関係者だったのか!?」

「社長……カズミさんが教えてくれたの。このバイクの持ち主は自分の信念を曲げないカッコイイ男が乗っていたって」

「カズミ……あのラグナフェチか」

 ぼそりとサクノに聞こえぬように呟く。

「そうか。じゃあ、俺のバイクを改めてお前に託す。しっかし、8年……いや5年後くらいだったら、俺がデートに誘ったりしてイロイロ教えてやったのにな。実際モテるだろ?」

「……んー?そうではないと思うけれど」

「そうか?正直に言っても、可愛いと思うぜ?本当にナンパされたことはないのか?」

「ないです」

 さっくりと答えるサクノ。
 これをビリーやカツキ、その他サクノに関わった大勢の男の子たちが聞いたらなんと言うだろうか……。
 それを見てぷっと吹き出す。

「どっちにしても、俺には好きな人が居たからな。どっちにしても、天然で純情そうなお前には関わってはいけないな。もし好きな人ができたら、そいつを大事にしてやれよ」

「え?はい……」

 そうして、彼はサクノの頭を撫でながら、その姿を消失させた。

「『王侯の潰し屋:バン』……手強かった……それにしても……ふぅ……」

 一息ついて、ライチュウをボールに戻し、その場にへたり込む。

「一体どこまで進めばいいの……?」

 バンとの戦いが終えると、怪しげな基地のフロアから、普通の洞窟に背景が戻っていった。
 そして、洞窟はまだまだ奥へと続いている。










 第16話 P51 立春@










 キッカケは2週間前のことだった。

―――「実は、あなたの父親がカゴメタウンで目撃されたって噂があるの」―――

 カナタの母、カズミからもたらされた情報だった。

―――「そこで誰かを探して聞き込みしていたようなの。どうやら人探しをしているみたい」―――

―――「……人探し……」―――

 一体誰を探していたのだろう?

 サクノは疑問に思い、適合する人物を思い浮かべようとするが、まったくできない。

―――「私もそっちに行くわ」―――

―――「え?カズミさんが自ら?」―――

―――「ええ。私もあなたの父親に聞きたいことがあるのよ」―――

 デパートのR9で楽しんでいた4人は一転、急いでソウリュウシティを通り越し、さらに東のカゴメタウンへと向かった。





 カゴメタウンにやってきた4人は、手分けしてサクノの父の情報を探った。
 すると、大体の街の人が彼のことを知っていると言ったのだ。

―――「その人なら、女の人を探しているって話だったよ」―――

―――「女の人……それはどんな人なの?」―――

―――「美人で色白で知的で髪がちょっと長くてメガネを掛けたら似合いそうな知的な人だって」―――

 と、マキナが聞いた情報によるとそんな感じだった。
 似たような情報を他の仲間たちも聞いたようだった。

―――「……お姉様……」―――

 集合した4人。
 しかし、一人怒りを露にしている者がいた。

―――「母さんがどれだけ寂しい思いをして待っていると思っているの……?なのに、女の人を追いかけている?……許されることじゃないわっ!!」―――

―――「まー、おちつきんしゃい。きっとお義父さんにも深い事情があるんやー。察してぐほっ」―――

―――「行くわよ!あのアホ親父が向かったって言うジャイアントホールへ!」―――

 ビリーを珍しく暴力で封殺し(正確には拳で腹を殴った)、北へ向かっていくサクノ。
 ビリーは悶絶しながら、カナタはカズミに情報を伝えながら、マキナはくすくすと笑いながら、サクノを追いかけていった。





 そして、4人は一斉にジャイアントホールのある周辺に来たはずだった。

―――「霧が……物凄く濃い……」―――

―――「周りがよく見えへんなぁ」―――

―――「お姉様ーどこー?」―――

 辺りを手探りで迷うように歩いて行く3人。

―――「……? ガチャリって何の音?」―――

 マキナ一人だけ、その謎の音を聞き取ることができたが、その音が何を示すかはまったくわからなかった。
 しかし、その霧が晴れてきた。

―――「あれ?カナタ?ビリー?マキナ?」―――

 周りを見渡すと、周りにはフェンスが囲われていた。
 広さはポケモンバトルをやる分には十分な広さがあった。

―――「っ!(後ろ!!)」―――

 殺気みたいのを感じて拳を裏手に振りかざす。
 バキッと音を立てて、その人物の頬を殴り飛ばした。

―――「いつつ!……これはこれはまた可愛いクセにハネウマのような女の子がきましたね。それこそ馴らし甲斐があるというものですね」―――

 男はクロバットとモルフォンを繰り出した。
 クロバットは無数に分身をし、モルフォンは広範囲に毒眠り麻痺の粉『レインボーパウダー』を広範囲に撒き散らす。

―――「私は忍術の使い手、名をムラサメ。元ロケット団の四天王です。さぁ、恐れおののき、私の前に這いつくばって降伏しなさい!」―――

 ぶわっ!!

―――「なっ!?バカなっ!?」―――

 だが、勝敗は一瞬のうちに決まってしまった。

 サクノはエルフーンとテッカニンを繰り出していた。
 まずエルフーンの『暴風』でレインボーパウダーを吹き飛ばした。
 そのパウダーが自分たちに返ってきて、2匹のポケモンとムラサメは状態異常に苦しむ。
 その後、テッカニンが風を纏った爪で、多重影分身をしたクロバットとモルフォンを残らず一掃したのだ。

―――「ムラサメ……ってあの忍者ムラサメのこと?」―――

―――「私のことを知っていたというのですか。忍者は偲ぶ者だと言うのに、これでは裏で動くのもままなりませんね」―――

―――「知っているも何も、最後はトージョーの滝の裏側で遺体となって発見されたってニュースになっていたわよ。……なんであなたは生きているの?」―――

―――「…………そうか。やはり私は死んでいたのか」―――

 すると、ムラサメの体が粒子となって消えていく。

―――「まあいいとしましょう。存在の知れた忍びは消えるのみ。女を弄べないのは残念ですがね…………」

 ムラサメが消えると同時に、周りの光景が草原と霧に戻っていく。

―――「今のは幻なの……?」―――

 目の前には洞窟の入り口があった。

―――「カナタたちがいない。もしかしたら、この洞窟の先に行ったのかも……」―――





 そして、現在に至る。

「それにしても不可解なのは、進むたびに風景が変わるのと、過去に名を馳せたトレーナーばかりが出てくること。それだけならばまだいいのだけど、そのすべての人物がもう亡くなっている事。これは一体……?」

 ここまででサクノは4人と戦っている。
 そのトレーナーの誰もが歴戦の強さを持ち、サクノを追い込んでいた。

「カナタたちは無事かな……?」

 サクノは仲間達の一計を案じた。





 バリバリバリッ!!

 どこかのスタジアムのような場所で強力な電撃が四散する。
 四散する理由は、バクオングが音波でその電撃を受け止めたからである。

「……このポケモンは、伝説のポケモンのサンダー……ファイヤーに続いて2匹も所持していたなんて……」

 多彩な音系の技を駆使するマキナだが、相手の連続の伝説のポケモンに目を見張っていた。
 相対する相手は細身の体で黄色い派手なマントを羽織った男である。

「墜ちろ!『プラズマウイング』!!」

「『ハイパーボイス』!!」

 音攻撃でサンダーを押しのけようとするバクオング。
 しかし、なかなか止まらず、零距離になったとき、サンダーの電気エネルギーをもろに受けてしまう。
 それで危機を感じたバクオングが全力でハイパーボイスを放ち、サンダーを吹っ飛ばす。
 さらに音波を圧縮した『爆音玉』をサンダーに投げつけて大ダメージを与えてダウンさせた。

「むっ、まさか小生のサンダーが倒されるとは……」

 サンダーを戻し、ばさりとマントをなびかせる。

「伝説のポケモンに対して怯まずに小生とこれだけ戦えるとは、末恐ろしいな」

「伝説のポケモンとはいえ、ポケモンには変わりないものね。すべては鳥ポケモン。そうでしょ?バドリスさん」

「その通りだ。すべては鳥ポケモン。その鳥ポケモンの力、味合わせてやろう!」

 さらに伝説のポケモンのフリーザーを繰り出し、バクオングに襲い掛かる。

「バクオング、『オーバーヒー 「フリーザー、『アイスゲイザー』!!」

 超過したエネルギーの炎を打ち出そうとしたが、フリーザーが地面から氷の槍を突き出させる。
 打ち上げられたバクオングは無防備になる。
 爆音玉はおろかハイパーボイスも撃つ事ができない。

「『吹雪』!!」

「きゃあっ!!」

 猛烈な冷風にバクオングは倒され、マキナも吹き飛ばされた。





「はぁはぁ……ぐっ……はぁはぁ……ようやく……追い詰めたぜ!!」

 全身ボロボロで、あからさまに肩で息をして、カナタは手を膝についていた。
 カナタは4人の中でも体力がもっともあるほうなのだが、彼女の体力がなくなるほど、戦いは激しいものだった。
 カナタのポケモンも既に3匹倒されている。
 残りはラグラージとニョロボン、カバルドンである。

 今はその中のニョロボンが相手のサイドンを気絶させたところだった。

「…………ふっ」

 しかし、男は鼻でその状況を笑った。
 黒いスーツに右胸にRの文字。
 彼はRというシンボルを掲げる組織のボスだった。

「その程度でサイドンを倒したと思ったか?」

 不意打ちを思わせるかのような素早い一撃だった。
 ニョロボンが身構えた時には、既に角の一撃が入っていた。

「『角ドリル』!!」

「ニョロボン!」

 ところが、その向かってきたサイドンをまったく力を掛けず流すようにニョロボンはひょいと投げ飛ばした。
 サイドンは地面に地響きを立てて仰向けに倒れこむ。
 そこへ止めのハイドロポンプが叩き込まれて、今度こそサイドンは再起不能になった。

「倒したと思ってなかったよ。ボールに戻すまで、何かがあると思っていたからな!」

「驕りはなしか。子供ならばもっと自分の力に過信があってもいいのだが」

「私はずっとお姉様たちを見て戦ってきたんだ。そんなものあるはずがない!」

「いつの時代も成長期の子供というものは、厄介らしいな」

 そういって、ロケット団のボス:サカキが繰り出したのはピンク色の遺伝子ポケモンだった。

「まさか……こいつはミュウツー!?」

「やれ」

 超能力で浮き上がり、高速で迫るミュウツー。
 カナタはカバルドンを援護に繰り出すが、サイコキネシスで一気に吹き飛ばされる。

「ぐあっ!!」

 何とか踏ん張る。
 カバルドンとニョロボンも耐え抜いて、反撃に出る。
 サカキとの戦いはここからが正念場だった。





 どこかの森のような中で、2つのエネルギーが激突している。
 一つは月の力を集めた力でもう一つは破壊的エネルギーを集めた力だった。

「ラグナロク、破壊しろっ!!」

 黒いリザードンのような姿をした合成ポケモン:キメラを使うこの男は、『凶悪使いのバロン』。
 螺旋の破壊光線である『ジャイロビーム』は並の攻撃をぶち抜く最大の技だ。

「ピクシー、押し切れっ!」

 しかし、ビリーはバロンのその攻撃を押し切る力を持っていた。
 『エンゼルハート』で強化したピクシーの『ムーンインパクト』はラグナロクの攻撃を包み込んで、押し切ったのだ。

「ぐぉぉぉぉっ!!」

 ズドゴォッ!!!!

 ラグナロクに命中し、大爆発が起きる。
 その煙の中から、倒れたラグナロクと粒子になって消え行くバロンの姿があった。

「こんな胡散臭いガキに負けるとは……ぐふっ……」

 完全に消滅してから、ビリーはピクシーをボールに戻して、エンゼルハートの力を抑える。

「はぁはぁ……非常に厄介な相手やった……。ランクルスにワルビアル、クイタランがやられてもうたし、エンゼルハートも使用して、体がガタガタや……」

 強力な力を解放するエンゼルハートだが、その強力さゆえに力の解放は極力抑えている。
 下手に何度も使ってしまうと、暴走して力が抑えられなくなるのだ。

「早く、サクノはんたちと合流せな……って」

 顔をしかめるビリー。
 周りが森から洞窟に戻ったと安心したのだが、再び周りが洞窟から森へと変化した。

「次は一体誰や?」

 メタグロスのモンスターボールを取り、次の戦いに備えるビリー。

 ドガッ!!

 後ろからの攻撃に反応し、メタグロスがガードする。
 攻撃を仕掛けてきたのはカポエラー。
 トリプルキックを放ってきたが、3つともメタグロスが防ぎきり、サイコキネシスで吹き飛ばす。
 エスパー系の攻撃は弱点のはずだが、回転して着地したためにたいした効果は得られなかったようだ。

「あんたも俺の進む邪魔をする気か?」

 目の前に現れたのは、白髪に長い青のコートを着た目付きの鋭い男だった。

「俺はサクノはんを助けに行くという事情がある。だから、どけ!」

「あんたの事情なんて興味ない」

 ビリーの言葉はあっさりと切り捨てられた。

「なんだと?」

「興味ないと言った。俺の名前はハルキ。俺には知らなければならないことがある。そのために、今消えるわけには行かない」

「やっぱり戦うしかないというわけか……『コメットパンチ』」

「『インファイト』」

 2匹の打撃攻撃が炸裂し、互いに吹っ飛んだのだった。





 サクノたち4人は、ジャイアントホールに突入してから、過去の猛者たちと戦い続けていた。
 しかも、不可解なのは、その誰もがもう生きているはずのない者たちばかりだった。
 誰もが苦戦し、ボロボロになりながら、仲間たちと合流するために進む。

 そして……





「……ここは……」

 サクノが洞窟を抜けて辿り着いたのは、大きく神々しい祭壇。
 まるで何かの生贄を捧げるためにできたその祭壇は、歴史的に見て価値があるように見えた。

「(ここが一番奥……と考えたいけれど、ジャイアントホールの奥にこんな祭壇があるとは聞いてないわ。これも幻ね。それなら、ここにも戦うべき相手がいるはず……)」

 サクノはモンスターボールを確認する。
 ここまででウインディとフローゼルがダウンしている。
 テッカニン、ルカリオは連戦で出ているために、消耗戦に出たら分が悪い。
 一応回復アイテムは持っていたが、万が一の為に残している。
 すなわち、残りのエルフーンとライチュウで次の戦いを凌ごうと考えていた。

「(相手の強さがどんどん上がっているから、恐らくその考えは通用しないと思うけれど……とにかくやるしかないわ)」

 ガサリ

 そして、茂みの中から人影が飛び出してきた。

「次の相手はあなたね」

「ん?ありゃ?」

 サクノに指差されたその人物は、ふと自分の体を見回したかと思うと、さらに懐から手鏡を取り出す。

「あ。すごーい。あたし、若返ってる♪」

 その少女は緑色で長めのマフラーを首に3回くらい巻いている。
 それ以外は黒のミニスカートにクリーム色で長袖のカーディガンをきっちりとは着用していて、まるで女子高生の制服のようだった。

「あれ?レンコ?」

「……?」

 サクノのことをレンコと呼ぶ少女。

「どうしてレンコがここにいるの?」

「……私はレンコではなくて、サクノですけど」

「え?じゃあ、あたしの勘違い?自分の娘だと思ったけど、どうやら勘違いだったわね。それにしても、レンコと瓜二つねー」

 そういって、うーんと勝手に納得する少女。

「戦う気がないなら、そこを避けてくれない?私、先を急ぐの」

「え?戦う気?それならあるわよ。またこんな若い体でバトルできるなんて夢見たいだもの。バトルするわよっ!!」

「……結局するのね……」

「あ、名前がまだだったわね。あたしはアンリ。かつて『大地の守護者』と呼ばれたある土地の巫女よ!」

「アンリ……『大地の守護者』?」

 アンリが繰り出してきたのは、おなかに子供を抱えたポケモンのガルーラ。
 同時にサクノが繰り出したのは、ライチュウだ。

 バシッ!!

「っ!!」

 両手を叩いて、ライチュウを怯ませる。
 ガルーラの奇襲『猫騙し』が決まった。
 『10万ボルト』を撃とうとしていたライチュウは体勢を崩して後ろに転がる。
 そこへガルーラの『連続パンチ』が炸裂する。
 数発をもろに受けるライチュウだが、耐えて拳で応戦する。

「(駄目……体勢が悪い!) レディ!!」

 サクノの指示で、ガルーラの攻撃から逃れて木の下まで逃げてみせる。

「レディ、『雷撃』!」

 太く威力のある電撃を繰り出す。

「遅いわよ」

 力のある電撃だが、あっさりとガルーラは回避する。
 電撃は、木に当たって根元から折った。

「連続攻撃よ!」

 同じく連続で高い電圧の電気攻撃を繰り出すが、ガルーラは巧みなフットワークで回避する。
 電撃はそこらじゅうの木を次々となぎ倒していく。
 計7本の木を折った。
 ガルーラはまったく当たらずにライチュウを射程に捉えた。

「『ピヨピヨパンチ』!」

「『アイアンテール』!」

 ドゴッ!

 接近戦になり、ライチュウが打撃に切り替える。
 そして、互いの尻尾と拳が入って、吹っ飛ばされる。

「今よ、『10万ボルト』!!」
 
「ガルーラ、『破壊光…… しまった!?」

 ビリビリと帯電して動けないガルーラ。
 ライチュウの特性の『静電気』で麻痺したのである。
 チャンスであるはずなのだが、ライチュウはガルーラへの攻撃を外す。

「外した……? それなら、もう一度破壊光線を……」

「これでいいのよ」

「……!?」

 アンリは周りを見る。
 すると、先ほどの強力な電撃によってなぎ倒された木々に10万ボルトが次々と当たって連鎖していく。

「(しかも当たるごとに威力が増している!?)」

「チェック!『Connect Sander』!!」

 七つ目の木々に当たりガルーラに向かって超強大な電撃が襲い掛かった。
 その電圧は、100万ボルト以上の威力はある凄まじいものだった。

「『こらえる』!」

 しかし、ガルーラは攻撃に耐えてみせ、闘気の力を集中させる。

「『きしかいせ 「レディ!」

 一筋の電光となって先制攻撃を繰り出し、ガルーラに止めを刺した。

「……凄い……やるわね!それなら、様子見はこの辺にして、本腰を入れていくわよ!」

「……様子見……(こっちはほぼ全力で飛ばしているのに……本当かしら?)」

 アンリが次に繰り出したのはフライゴンである。
 それを見て、サクノはすぐにポケモンをチェンジする。
 ルカリオだ。
 まず波動弾を3発ほど撃つ。
 対するフライゴンは地面に衝撃波を放ち、砂を巻き起こす。
 その砂が完全に波動弾を遮断した。

「このくらいの攻撃なら、『砂の壁』で防げるわよ!」

「それなら……エンプ、『気合玉』!」

 先ほどの波動弾よりも大きな闘気の塊を打ち出す。

「フライゴン、『砂の壁』!!」

 地面から巻き起こした砂の壁に気合玉がめり込む。
 始めは押し切るかと思われた気合玉だったが、結果は気合球が爆発し、相殺されてしまった。

「(遠距離攻撃が駄目なら) 『聖なる剣』!」

「『ソニックブーム』!」

 神速で回避し、攻撃を叩き込むことを考えていたサクノ。
 しかし、音速に匹敵する速度と連射能力が、回避を不可能にした。
 ルカリオは釘付けになり、音波のスライスを骨の剣で裁くことにしたのだが、的確に弾き返せず、ダメージを受けていく。

「(近付けない……!これじゃ、『Seoul Blade』も当てられない! ……打撃が駄目なら、あの技を試してみるしかない!)」

「(変えてくるかな?……いや、違うわね)」

 サクノを見てアンリは反撃のオーラを感じ取った。
 ルカリオは剣での防御を止め、全身に力を溜め始めた。

「全波動を体に集めて解き放って!!」

「『火炎放射』!」

 ソニックブームから軽い一発の火炎攻撃に切り替えた。
 火炎の弾がルカリオに直撃する。
 弱点だったが、爆発から決死の表情をしたルカリオが姿を現した。

「行くわよ!エンプ、『Seoul Storm』!!」

 両手から放たれる気合玉とは比べ物にならない清々しい威力の攻撃。
 人はこれを別名『波動の嵐』と呼ぶ。
 フライゴンに向けて一直線に向かって、激突した。

「それが、あんたの切り札ね」

「……!」

 攻撃を放った瞬間に、サクノは嫌な予感がした。
 ルカリオのこの技が通用しないのではないかと。
 そして、その予感は的中していた。

 フライゴンはサクノのルカリオの最大の技であるSeoul Stormを真正面から受け止めているのだ。

「(『Seoul Storm』は『Seoul Blade』の遠距離技……それクラスの威力を受け止めている!?)」

「それならこちらも、それ相応の技で対抗するわ!フライゴン!」

 フライゴンの体が銀色に輝く。
 すると、Seoul Stormをエックス状に切り裂きながら、突撃してきた。

「フライゴン、『エクストリームアタック』!!」

「!!」

 アンリのフライゴンの一撃は、居る筈の洞窟を凄まじく揺らすほどであった。










 第16話完










 ☆キャラ復習

 バン♂

 元バイクの走り屋で、後にショップ・GIAのチームトライアングルとしてジュンキ&ミナミと活躍していた男。
 見た目が不良っぽい上に粗暴な言葉遣いのせいで第一印象は恐れを感じるが、頭も良く女性に優しいために結構もてた。
 24歳の時、とある少女を助けるために炎攻撃を受けつづけて、命を絶った。 

 ムラサメ♂

 とある武術の里の末裔の忍者で、ロケット団に四天王として所属し、後にフリーの忍者として様々な暗躍をしていた男。
 丁寧な口調や変装で、相手に不審を抱かせずに始末する。
 46歳の時、トージョーの滝で依頼者に裏切られて殺害された。

 バドリス♂

 飛行ポケモンをマスターを目指し、鳥ポケモンの組織である『風霧』を組織し、後に“鳥ポケモン大好きクラブ”を設立した男。
 鳥ポケモンしか使わないが、自力で伝説の鳥ポケモンを従わせる実力を持っていた。
 38歳の時、自然の雷に撃たれて亡くなった。

 サカキ♂

 元トキワシティのジムリーダーであり、かつてあったロケット団を設立した男。
 地面ポケモンの使い手であり、カントー最強のジムリーダと恐れられた。
 彼がどのような最後を迎えたかは定かではない。

 バロン♂

 かつてあったロケット団の屈指の幹部の男。
 破壊光線と怪獣使いであり、その力は一人で街を滅ぼすほどだったといわれる。
 46歳の時、病に倒れて亡くなった。

 ハルキ♂

 元スナッチ団の凄腕スナッチャーであり、オーレ地方のアゲトビレッジの長候補だった男。
 根暗っぽく、ぶっきらぼうで、興味を持たないものは見て見ぬ振りをする性格だった。
 18歳の時、コールドペンタゴン事件の犠牲になり命を落とす。


HIRO´´ 2012年06月21日 (木) 20時53分(35)
題名:第17話 P51 立春A

 ☆前回のレジェンドオブパラダイスΙのお話

 カズミの情報から、サクノの父であるヒロトがカゴメタウンの北にあるジャイアントホールへ向かったと知ったサクノたち。
 4人はすぐにジャイアントホールへ向かうが、そこで待っていたのは世間的に死んだといわれるトレーナーたちだった。
 その中で、サクノが対峙するのは、実は先祖に当たる大地の守護者のアンリ。
 サクノのルカリオの最強の技『ソウルストーム』が決まったと思いきや、アンリのフライゴンの最強の技『エクストリームアタック』がルカリオの攻撃を押し切り……!!??










「私は限界を超えるんだぁぁぁぁぁっ!!!!」

「……!! 何だと!?」

 水と泥を混ぜ込み、今までで最大の揺れを巻き起こした。

「はぁはぁ……はぁはぁ……くぅ……」

 片膝を突いて、荒く息を吐くカナタ。
 側にいるのは特性の『激流』を発動させて、今にも倒れそうなラグラージの姿があった。

 そして、さらに相対する方向には、どろどろでびしょ濡れに濡れたRのマークをつけた男とダウンしたミュウツーの姿があった。

「全ての力を持ってミュウツーを倒すか……まったく、子供の力は恐ろしいものだ」

「……はぁはぁ……」

「恐怖を恐れぬ子供がいるかぎり、世界征服は妨げられるか。ああ、そうか。私の敵は子供ではなく、勇気そのものというわけか……」

 カナタの勇敢な瞳を見ながら、サカキとミュウツーは消え去ったのだった。

「ぐっ……何とか勝てたけど……ポケモンたちがもう……」

 カナタはラグラージを戻しながら、呟く。

「引き返すべきか……? でも、お姉様たちと合流できてない……。……進むしかないか」

 なけなしの回復アイテムを使い果たし、さらに奥へとカナタは進む。

 そして、5分後。

「……景色が変わった……あれ?ここって……??」

 その景色は知っていた。
 いや、彼女にとってそこは知っていたというレベルではなかった。

「ショップ・GIAの裏庭?でも、こんなにあっさりとしてはいなかったと思ったけど」

 カナタの知るショップ・GIAの裏庭は、もっと花が植えられていて、桜の木や梅ノ木などカラフルなはずだった。
 しかし、そこは何もないただの芝生のカーペットだった。

「一体どういうことだ……?」


「おっ、てめぇが俺の対戦相手ってことだな?」


 荒っぽい男の声が聞こえる。
 カナタが振り向くと、そこには黒いツンツン頭で、ダウンジャケットの中に包帯のようなものをぐるぐる腹に巻いている男が立っていた。
 ゴクリとカナタは喉を鳴らす。

「(まさか……若いけど……この人は……!!)」

「ん?どっかカズミの面影があんな? ……そっか、カナタだな?大きくなりやがって」

 そう言って、カナタの頭を撫でると、カナタはその温もりを思い出す。

「(やっぱり、そうだ……これが私の……)」

「それじゃ、いっちょやるかっ!持ってんだろ、ポケモン!」

 そういって、彼はダーテングを繰り出した。

「っ!?この感動的なタイミングでポケモンバトルかよ!?」

 思わずツッコミを入れてしまうカナタ。

「なんだー?オイ、カナタ。そのツッコミは誰に習ったんだ?まさか、あのヘタレキトキに影響されたんじゃねぇだろうな?よし、俺様が絞ってやるから覚悟しろ!」

「っ!!せっかく感動のあまりに泣こうとしていたって時に、すべて打ち壊しだ!クソオヤジなんてぶっ飛ばしてやるっ!!ブイゼルっ!!」

 即座にソニックブームを打って、牽制するブイゼル。

 ズドーンッ!!

「…………え?」

 気づいた時にはブイゼルが吹っ飛んで、気絶していた。

「バトルは始まってるんだぜ?ちょっとは集中しやがれ。さもなくば―――」

 ダーテングが振りかざしたのは、水をも割ると言われた必殺技の『裂水』。
 ソニックブームを煤風のように消し去り、ブイゼルに一撃を叩き込んだのだ。

「―――殺しちまうぜ? 勘弁してくれよ、俺は娘を殺したくないんだぜ?」

 野獣の目をした男。
 彼の名はそう。
 『一閃の野獣:ラグナ』。
 紛れも無い、カナタの父親だった。










 第17話 P51 立春A










 ―――運命の祭壇。

「……決まったわね」

 フライゴンのエクストリームアタックがルカリオに炸裂した。
 砂煙があけると、ルカリオが完全に気絶して倒れていた。

「……でも、戦意はまったく削がれてないようね!!」

 フライゴンに一粒の種がくっ付いて、その種が急速に成長し、フライゴンの体力を吸い尽くしていく。
 さらに猛烈な暴風がフライゴンを吹き飛ばすが、空を飛んで暴風域を回避した。
 フライゴンに対峙するのは、エルフーンだ。

「『パワースイング』!!」

 翼と尻尾を硬化し、フルスイングで回転しながら、エルフーンへと攻撃を仕掛ける。
 その衝動で取り付いていた宿木の種を吹き飛ばしてしまう。

「『コットンガード』!!」

 フライゴンの強力なフルスイング攻撃をエルフーンがふわふわの綿で受け止めようとするが、結果として草原の地面を割った。
 結果、エルフーンはかなりのダメージを受ける。

「(なんて力なの!?)」

「『パワースイング』連続攻撃!」

「連続で『エナジーボール』!!」

 自然の力のエネルギーの弾を次々と撃っていくが、巧みな動きと『パワースイング』による攻撃でエルフーンの攻撃がまったく通用しない。

「ラック、一転集中で急所を狙って!」

 エルフーンの身につけているアイテムはクリティカルレンズ。
 急所に当てることができるアイテムだ。
 しかし、

「フライゴン、そこよっ!」

「……!(まさかフライゴンの急所が見つからない!?)」

 パワースイングがエナジーボールを弾いてしまう。

 ドゴッ!!

 そして、2回目のパワースイングを受けてエルフーンは吹っ飛ばされてしまう。

「(あの人のフライゴン……父のフライゴンよりも強いわ……。でも、)エルフーンっ!」

 サクノの声と共に綿胞子と宿木の種を大量に散布した。

「飛び上がって、『ソニックブー 「『アンコール』!!」 

 遠距離に攻撃を切り替えようとしたアンリだったが、エルフーンの挑発に乗り、再びパワースイングで接近してくる。

「それなら、連続攻撃で叩くわ」

「『コットンガード』で耐えて!」

 更なる綿でフライゴンの攻撃を耐えようとするエルフーン。
 その間に宿木と綿胞子がフライゴンのステータスを奪っていく。

 ズドォンッ!!

 そして、エルフーンは吹っ飛ばされた。

「決まりよ!」

「それはどうかしら!?」

 勝利を確信したアンリだったが、次にフライゴンを見たときは、ゆったりとその場に安らいでいた。

「……!フライゴン!?どうしたの!?」

「『コットンリーブ』よ!そして、『エナジーボール』!!」

 無防備なフライゴンに向けてエナジーボールを放つ。
 一撃急所に当たって吹っ飛ぶフライゴンだが、まだ、動けるようだ。

「(そのエルフーンは手強いわね!)」

 戦意を喪失しているフライゴンを戻し、巨体の体と破壊力を持ったノーマルタイプのポケモンにチェンジした。

「……っ!! チェンジ!Switch!」

 ズドォ―――ンッ!!

 その一撃は祭壇を削るほどだった。
 瓦礫が煙のように立ち昇る。

「間に合ったわね」

 圧倒的なパワーでねじ伏せようとしていたのは、アンリのケッキング。
 一方、その攻撃を受け止めたのは、アンリのヌケニンだ。

「『シャドークロー』!」

「離れながらSwitch!」

 ゴーストタイプのエネルギーを纏った爪がヌケニンに襲い掛かる。
 サクノの指示で、ヌケニンはテッカニンに変化し、加速して攻撃を回避する。

 アンリのケッキングのシャドークローだが、普通のシャドークローと違い、ゴーストタイプのエネルギーが刃のように飛んだ。
 ゴーストタイプ版のサイコカッターのようだった。

「そこよ!」

 ケッキングの特性の『なまけ』が発動している間に、背中に回りこみ、風を纏った切り裂く攻撃を繰り出す。
 的確なダメージを与えるが、まだケッキングが倒れる様子は見えない。

「それなら、Switch!『Phantom Slash』!!」

 再びケッキングの猛攻を耐え抜いたそのとき、蒼い炎を爪に宿してケッキングを切り裂く。
 炎はケッキングに纏わりつき、ケッキングの体力を蝕んでいく。

「一気に決めるわ!ジョー!!『Cyclone Slash』!!」

「……っ!」

 ガキンッ!!

 テッカニンで特攻し、ケッキングに攻撃を叩き込もうとする。
 だが、アンリは巧みなボール捌きでケッキングを戻し、代わりのポケモンを繰り出す。

「……っ!ジョー、『Swit 「たたきつける!」

 風を纏った特攻を鼻で受け止めるのは、ドンファンだ。
 そのまま鼻を振り回してテッカニンを地面にたたきつけた。

「(凄い力……でも……)まだっ!ジョー、『Phantom Slash』!」

 ヌケニンにスイッチし、火傷状態にする蒼い炎の爪で切り裂く。
 ケッキングを火傷状態にした強力な技なのだが……

「あたしのドンファンの力は『パーフェクトボディ』。毒や火傷の類は通用しないわ」

 蒼い炎は確かにドンファンに纏わり付いた。
 しかし、ドンファンの表面の体に炎がくっ付かない。

「『岩石封じ』から『岩飛ばし』」

 まず、ヌケニンの進路を防いだ。
 そこから、ドンファンは口から岩を連続で吐き出して攻撃を仕掛けてきた。

「くっ!ジョー!守る!」

 回避不能のため守るしかなかったヌケニン。
 しかし、ドンファンの猛攻の前に、ついに防御が解けて、ヌケニンは瓦礫に埋まってダウンした。

「残りはライチュウとエルフーンでしょ?さぁ、かかってきなさい!あたしがドーンと相手してあげるわ!ストーカーみたいにしつこいのは嫌だけどね」

 アンリは余裕綽々の上に戦いを楽しんでいた。
 一方、厳しい表情のサクノ。

「ちょっと無理ね」

「……ちょっと、降参するの?」

 せっかくエンジンがかかってきたのにと、呟くアンリ。

「いいえ。私もすべてのポケモンであなたに挑ませてもらうわ」

 両手に元気のカケラを持っているサクノ。
 それを、倒れて戦えないポケモンに使用した。

「アイテムね。いいわ。使えるだけ使えばいいわよ!」

「使うのはこれだけよ。元気のカケラはこの2つしか持っていないから」

 そうして、サクノがドンファンに対抗するために繰り出したポケモンは、鬣を持った誇り高そうなポケモンだ。

「相性を無視……ってことね」

「『Fire Ball』!!」

「『岩飛ばし』!!」

 ドンファンを包み込みそうなほどの大きな火球と数個のバレーボールくらいの大きさの瓦礫がぶつかる。
 これだけで、2匹の攻撃は相殺される。

「『Rising Flare』!!」

 ウインディの最初の攻撃は牽制に過ぎなかった。
 次に地面に線を引くように炎を吐き出すと、地面から上空へ立ち上る炎の壁が出現する。
 そうして、ウインディが火炎放射でその壁を押し出した。
 炎の壁がドンファンとアンリへと向かっていく。

「突き抜けて!」

 ドンファンはその炎の壁を、高速回転の転がるで強引に突破へ出た。
 ドンファンは頑丈で、それほどダメージを受けずにウインディの攻撃を突破したが、下から立ち上がる炎でわずかに浮き上がった。
 その浮き上がりをウインディは見逃さない。
 神速でドンファンの下へと潜り込んだ。

「『Rising Break』!!」

 炎を纏った最大の一撃。
 下からの攻撃に転がる状態で丸まっていたドンファンは、体勢が解けて地面へドスンとたたきつけられる。

「決めて!『Flare Drive』!!」

 固い皮膚に覆われていない腹へと一撃を叩き込んだ。
 お腹に炎がめり込むが、ドンファンが抵抗して鼻でウインディを叩く。

「やるわね!ドンファンの『パーフェクトボディ』はお腹までは効果がないのよ」

 そういいつつ、岩を飛ばす。
 ウインディはその岩をかわしつつ、炎を溜めていく。

「そのスピードを封じさせてもらうわ!『岩石封じ』!!」

「くっ!」

「『岩飛ばし』!!」

 ヌケニンの時と同じように前後左右を岩で閉じ込められるウインディ。
 そこへ、複数の岩が飛んでいった。

「最大パワーよ!『Flare Blitz』!!」

 炎の力で左右前後にウインディを作り出す。
 その動作で岩石封じを吹き飛ばし、ドンファンの岩飛ばしを防いでみせた。

「ドンファン、『ヘビーインパクト』!!」

 ギガインパクトとのしかかりを併せ持つ攻撃で突撃してきた。
 それに対抗して、ウインディは複数の炎のウインディと一緒に突撃した。
 一瞬で炎は弾け、ウインディとドンファンのぶつかりあいになるが、最終的にはドンファンを打っ飛ばした。
 森を突き抜けるようにドンファンは木々を薙ぎ倒してダウンした。

「次はこの子よ!」

 アンリの攻撃は全然止まらない。
 次に繰り出してきたのはラグラージ。
 マッドショットがウインディを襲う。
 神速でかわし、インファイトを叩き込んで吹っ飛ばすが、踏ん張ってハイドロポンプを打ち出す。
 かわしてFire Ballを撃つが、ラグラージを目前にして軌道が逸れた。

「……今のは……!?」

「あたりのラグラージの必殺技『ルートプロテクター』。相手の攻撃の軌道をずらすことができるのよ」

「……!」

 防御を駆使し、水攻撃連発でウインディに襲い掛かる。
 相手の戦法に防戦一方になりかけたサクノは、ウインディを戻し、再びエルフーンを繰り出した。

「『エナジーボール』!」

「同じことよ、『ルートプロテクター』!」

 ラグラージの弱点が草とはいえ、攻撃を受けなければ意味がない。

「今よ、ケッキング!」

「……っ!!」

 ここでアンリがポケモンを追加してきた。
 腕を大きく振りかぶって、エルフーンに『アームハンマー』を叩き込んだ。

「ラック!!」

 たたきつけられるエルフーンだったが、コットンガードが間に合って凌ぎきった。
 しかし、体力が限界であることには変わりがない。

「ラグラージ、『冷凍ビーム』!」

「『綿胞子』で防御よ!!」

 相手の攻撃の弱所を見抜き、冷凍ビームを最小限の攻撃で防ぐ。
 だが、その間にケッキングが間合いを詰めた。

「『アームハンマー』!」

 相手が2匹繰り出してきたことを見て、サクノもここで2匹目を投入する。
 長い尻尾を硬化して、ケッキングの腕に叩き込み、エルフーンに振りかざした攻撃をわずかに逸らした。

「そのまま『電撃』!!」

 威力はでかいがスピードがほとんどない電撃をケッキングに向けて放つ。
 それをケッキングは両手で受け止めようとするが、威力に押された。

「ラグラージ&ケッキングvsエルフーン&ライチュウね」

「ダブルバトル……受けて立つわ」

 互いの技の応酬が始まり、その戦いはほぼ互角。
 5分くらいは互いの拙攻が続いた。

「ケッキング!」

 先に展開が動いたのはアンリのケッキングだった。
 ライチュウへ猛攻を続けていたケッキングが『なまける』で体力を回復すると同時に、一つある技を放った。

「(……『あくび』!?)」

 攻撃しかしなかったケッキングが絡め技も組み合わせてきた。

「もうこれしかないわね。『Hexagram』!!」

 ここでサクノも勝負に出る。
 エルフーンの限界の体力を切り出して、分身を5体作り出そうとする。
 しかし、限界はとうに来ているため、分身は3体しか出なかった。

「エルフーン、総攻撃!!」

 3匹のエルフーンが飛び上がって、ラグラージに宿木の種を連発で放つ。
 だが、その宿木の種はラグラージのルートプロテクターの前に軌道をそらされて、地面に刺さる。

「まだまだっ!」

「(一体何を狙って…………っ!?地面に宿木の種……まさか!?)」

 次々と宿木の種を逸らすラグラージだが、宿木の種がラグラージの周りを覆うように刺さっていることに気がついた。

「(これじゃ、動けない!?)」

「今よ、『暴風』!!」

 3匹分の烈風がラグラージを襲うが、ルートプロテクターの力で風は軌道を変えてしまう。

「でも、これならどう!?」

 ドゴッ!!

 一匹のエルフーンが暴風の力を利用してラグラージに捨て身タックルをかました。

「(……!?控えていたもう一匹のエルフーン!?)」

 反動でエルフーンは消えてしまうが、ラグラージはそれで体勢を崩す。
 そして、地雷のスイッチを押してしまう。
 一斉に宿木の種がラグラージを取り囲んだ。
 体力を一気に奪いにかかる。

「『ルートプロテクター』が打撃攻撃には適用されないのは、アンジュの攻撃で分析済みよ!」

「なかなか観察しているわね。でも、まだよ!」

 ラグラージが抵抗して、冷凍ビームで宿木の種を凍らせようとする。
 だが、エルフーンが接近してラグラージを捉えた。

「『種爆弾』!!」

 零距離からの一撃が炸裂し、ラグラージは体力を吸い取られながら、ダウンした。

「零距離ならルートプロテクターも効果が無い。やるわね。それより……」

 アンリはライチュウの動きを注視した。

「(いつまで経っても眠らない!?なんで!?)」

「捨て身タックルをしたラックを見てなかったのね?」

「……そうか、エルフーンがライチュウに何かしたのね!?考えられるのは……眠らないようにする技『悩みの種』かしら」

「正解よ。そして、ラック!」

 さらに、エルフーンはライチュウに向けて一つの種を放った。
 それを受け取ると、ライチュウのスピードがさらに上がった。

「特性『加速』!!」

 エルフーンが繰り出した種は『速足の種』と呼ばれるものだった。

「本当にそのエルフーンはいやらしいわね!」

 ライチュウを無視し、エルフーンへ向かうケッキング。
 しかし、地面から宿木の種が伸びていく。
 ラグラージに放った残りがまだ地面にあったようだ。

「ケッキング、『空元気の型』」

 構えを取って、腕を振り回すだけで、宿木の種が一気に切り裂かれた。
 さらにエルフーンとの間合いを詰め、パンチを撃とうとした。

「(速い!?)」

 パンチをかわそうとしたエルフーンだが、パンチはフェイントで本命の足で踏みつけられてダウンした。

「(『空元気の型』……状態異常のときに使える技と考えて間違いない。そういえば、ジョーの技の効果で火傷していたんだっけ)」

 加速ライチュウと型を使ったケッキングが激突する。

「『Sander Slice』!!」

「『空元気の型:なぎ払い』」

 鋭利な電気の尻尾を腕で払いのけるケッキング。
 腕にダメージを負うが、そのままライチュウの顔にパンチを決める。
 仰け反ったために、ダメージは軽減されたが、勢いよく吹っ飛ばされる。
 ケッキングは容赦せずに、飛び上がってのしかかりをしてくる。

「レディ!!『Lighting』!!」

 電光となり、攻撃をかわし、さらに連続で体当たりを仕掛ける。
 体当たりというとそれほど威力がないと思われるが、電光のスピードで仕掛けている。
 ただの体当たりとはわけが違う。

「そこよ!『電撃』!!」

 後ろを取って高い電圧を放つが、ケッキングが回り込んで回避する。

「レディ!後ろ!」

 ラリアットと蹴りが同時に襲い掛かる。
 ライチュウは尻尾と右手の小手で防ごうとするが、勢いまでは殺せない。
 吹っ飛ばされて、祭壇にたたきつけられた。

「レディ!」

 サクノの掛け声にライチュウは頷き、右腕の小手を外して投げた。

「何かをする気ね。受けて立つわ!」

 ケッキングは相変わらず空元気の構えで、ライチュウの攻撃を受け止めるつもりだ。

「レディ、Smash!!」

 全雷エネルギーを拳に集めて小手へと叩き込む。
 凝縮されたエネルギーが小手から発射される。
 そのスピードは、音速を超えるものだった。

 ドゴォッ!!

 電撃を当てた岩を削り、ケッキングに命中した。

 結果……

 バリバリバリッ!!!!

「耐えたわね……」

「いいえ……!」

 確かにケッキングはライチュウの攻撃を耐えた。
 だが、ケッキングは崩れ落ちる。

「火傷の効果でジワジワと体力を奪われていたのね」

「(岩とケッキングに電撃を当ててRailgunの威力を増大させて一撃で倒すつもりだったけど、あのケッキングは予想以上に体力があったようね)」

 内心ほっとしたサクノだったが、次にアンリが繰り出したポケモンを見て、再び息を呑む。

「こっちは再びフライゴンよ。あんたはライチュウのままでいいのかしら?」

 ライチュウを見る限り体力がもう限界に近い。
 サクノが残っているポケモンはあと3匹。
 アンリが2匹。

「レディ、先攻で一気に決めるわよ!」

 光の速さでフライゴンに激突するライチュウ。
 しかし、『パワースイング』を振りかざし、ライチュウは弾き飛ばされる。

「『ソニックブーム』!!」

 地面に着地したライチュウに追撃が来る。
 チクチクと当たる攻撃はサクノにも襲い掛かる。

「やっぱりチェンジ……!ジャック!18連Shot!!」

 かまいたちとソニックブームの応酬だ。
 しかし、連射数でフライゴンのソニックブームが上回る。

「それなら、36連Shot!!」

 一呼吸を置いて、フローゼルは次の瞬間に連続で36発を放つ。
 それで相手の勢いを止めることができたようだ。

「フライゴン、『ソーラーショット』!」

「ジャック、『Poison Shot』!」

 フライゴンがソーラービームのランクを落とした攻撃を繰り出したのに対し、フローゼルは水、風、氷のほかの新たな毒の弾を打ち出した。
 その二つの攻撃は威力の差はあったが、相性のせいで相殺に終わった。

「『ビルドアップ』!」

「それなら、こっちは『爪研ぎ』から『ストーンエッジ』!!」

 命中精度を上げた岩攻撃がフローゼルを襲う。
 フローゼルは必死に回避する。

「あんたやるわね!あたしと互角の戦いを繰り広げるなんて、あのストーカー以来だわ」

「ストーカー?」

 しみじみと口にしたアンリの言葉に聞き返すサクノ。

「あ。なんでもないわ、こっちの話。……まぁ、旅立ってから死ぬまでいろいろあったわ。

 しつこく戦いを申し込むストーカーに出会い、海底で伝説のポケモンと戦い、月島で光と闇のなんたらと戦って友達が出来て、

 楽園と呼ばれる場所で神官を討伐し、夢に引きずり込まれた世界で少女の夢を叶えたり、あのストーカーの男の国の為に力を貸したこともあったわ。

 その後でクールってヤツに初対面でいきなり…………」

「……??」

 突如話を辞めたかと思うと、アンリは顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。
 その姿を見て、サクノは首を傾げる。

「わーわー!!そんなことはどうでもよくて、こんなあたしでも結婚して子供を産んで生きてきたのよ。

 そんなあたしにはもうこんな心踊るバトルができないと思っていたわ」

 アンリは嬉しそうに言った。

「私もここまで激しいバトルは久しぶりよ。でも、このバトルをいつまでも続けるわけには行かない。奥へと進まなければいけないの」

「それなら、あたしを超えていきなさいっ!!」

「そのつもりよ!ジャック、72連Shot!!」

 ストーンエッジを回避続けていたフローゼルだが、サクノの命令で立ち止まり、深呼吸をし、一気に弾を連射した。
 目にも止まらぬ水の弾がストーンエッジを粉砕し、フライゴンを捉えようとする。

「『ソニックブーム』!!」

 そして、2匹の攻撃は完全な相殺に終わる。

「(この連射数じゃ真正面から攻撃しても駄目ね。それなら……)『Aqa Doom』!!」

 水のシャボンを作り出して、それをドーム状に大きくしていった。
 サクノやアンリはもちろん、フローゼルとフライゴンもその中に覆われた。

「ジャック、頼むわよ」

 フローゼルは自らの足を水のドームに張り付けて、高速で動いた。

「そこよっ!!」

 縦横無尽に動き回り、水のドームのすべての方角から水の弾がフライゴンへ向けて発射された。
 それはまるで、天井から鉄の針が下りてくるかのような逃げ場の無い攻撃だった。

「フライゴン、『パワースイング』!!」

 しかし、その攻撃を羽と尻尾を硬化させたフルスイング攻撃で呆気なく防いでしまった。

「これくらいのパワーなら防げるわ」

「それくらいは、予想済みよっ!『Magnum Shot』!!」

 サクノの本命はこの攻撃だった。
 高速で動いてフローゼルがどこから攻撃を撃つのか相手に読ませない。
 そして、力を溜めて最大のショットで相手を倒すことを考えていたのだ。

「右!」

 だが、アンリとフライゴンのコンビネーションも負けてはいなかった。
 その合図だけでフライゴンは反応した。
 次の瞬間に地面から砂を巻き起こし、フローゼルのもっとも威力の高い攻撃を防いだのだ。

「(……っ!! 『砂の壁』の計算を入れるのを忘れていた……!!)」

「『ソーラービーム』!!」

 草の最大威力の技がフローゼルの足を掠める。
 ガクリと膝をつくフローゼル。

「これで、素早い動きはできないわ」

「そうね。こうなった以上、スピードを使っても意味がないわ。フローゼル、最大射数で行くわよ」

 大きく息を吸い込んで、弓の構えをするフローゼル。
 何が何でもこの一撃で決めるつもりだった。

「MAX108連Shot!!」

 一呼吸で連続108発の水鉄砲を放つフローゼル。
 それをフライゴンは受け止めようとするが、やや押されている。

「普通の水鉄砲よりは威力が高い……いいえ、普通ならこの一撃でも並のポケモンを沈められる。それなら、この攻撃で行くしかないわね」

 アンリが分析から決断し、フライゴンに指示を出すと銀色に輝き始める。

「フライゴン、『エクストリームアタック』!!」

 エックス状に切り裂きながら、フローゼルに向かって突撃する。

「でも、攻撃の弱点は見切っているわ!」

 サクノは自信満々にそういった。

「あなたのフライゴンのその攻撃は、最大の一撃にしか使わない。恐らく、相手の攻撃を利用して自分の攻撃を高めているのよね。

 それを証拠にエンプの『Seoul Storm』は存分にエネルギーを転換して攻撃を切り裂いていたのに対し、ジャックの攻撃は満足にエネルギー転換ができていない。

 一発と連発の違いの差が出たわね!」

「よく気付いたわね。でも、あたしはそれを理解した上でこの技に決めたの。行くわよ、ここから、『パワースイング』!!」

「ジャック!!」

 108発撃ち終えたところで、フローゼルは息を吐く。
 フライゴンの攻撃が当たるまで2秒。
 その間にエネルギーを再びエネルギーを右手に溜め込み放った。

 ズドゴォッ!!!!

 フライゴンには大きな氷の弾、フローゼルには強化された尻尾。
 互いにクロスカウンターという形で命中し、磁石のSとSが反発するように吹っ飛ばされた。
 両者共にダウンだった。

「まさかフライゴンがダウン……これが最後のポケモンね」

 最後にアンリが繰り出したのポケモンは、サクノが予想したとおりのポケモンだった。

「夢で見たとおり、やっぱりドダイトスね」

「夢で見た?」

「ええ、ちょっと、あなたの夢を見たことがあったのよ」

「ふーん。それなら、奇遇ね。あたしもあんたかどうかは分からないけど、夢を見たことがあるわよ。あたしの希望を受け継ぐものが現れるという夢」

「あなたの希望……?」

「そう。豊かな世界が果てし無く続きますように。って」

「豊かな世界……」

「それがあたしの希望。あんたにはそんな夢や希望があるの?」

「……私の希望……」

 刹那、考えて答える代わりにサクノはウインディを繰り出した。
 その表情は自信に満ちていた。

「どうやら、あるようね。その答えを見せてちょうだい!」

 ドタイトスに指示を出したのは究極技『ハードプラント』。
 ウインディの足元から、巨大な根っこが飛び出して襲い掛かる。

「アンジュ、『Flare Blitz』!!」

 その究極技を、ウインディ最強の技で突破。
 防御かつウッドハンマー体勢で構えていたドダイトスに叩き込んだ。
 2匹の激突で衝撃が走ったが、吹っ飛んだのはウインディ。
 ダメージが大きかったのは、やはりドダイトスの方だった。

「『ランドクラッシュ』!!」

 体勢を立て直していたウインディに対し、ドダイトスはそのまま地響きを起こして、ウインディの足元から打撃系の突き刺すような衝撃が巻き起こる。
 上空へ打ち上げられるウインディだが、炎をラインを引くように吐いて、炎の壁を巻き起こす。
 『Rising Flare』でドダイトスを持ち上げた。

「アンジュ、『Flare Blitz』!!」

「ドダイトス、『ウッドハンマー』!!」

 2匹の最大打撃技が激突したのだった。










 第17話完


HIRO´´ 2012年07月24日 (火) 20時43分(36)
題名:第18話 P51 立春B

 ☆前回のレジェンドオブパラダイスΙのお話

 ジャイアントホール内でそれぞれ死闘を繰り広げるサクノと仲間達。
 その中で、サクノとアンリのウインディとドダイトスの戦いの決着がついたのだった。










「おい、てめえの力はそんなもんなのかよ?はっきり言って拍子抜けだぞ!?」

「はぁはぁ……つ、強すぎる……」

 カナタvsラグナの親子対決。
 だが、この戦いは実力差が明白で、完全にラグナが押していた。

「ラグラージっ!!」

「クチート」

 ラグラージ懇親のパンチを偽りの口が受け止める。

「『マウスバッド』!!」

 ブォンッとポニーテールのような口を振り回して、ラグラージを打っ飛ばした。

「……ぐおっ!!」

「ケッ。こんなもんかよ。娘だからといって、過大評価しすぎたな」

「ぐっ……」

 唇を噛み締めるカナタ。
 正直悔しいのだが、彼女の実力では足元も及ばないのは事実だった。


「『ブラストバーン』!!」


「……っ!!」

 クチートに襲い掛かる究極の炎。
 鉄壁で防御しようとするが、鋼系が炎に弱いのは常識である。
 その一撃でダウンした。

「この炎は……」

「あたしよ、ラグナ」

 ザッとカナタの前に立ったのは、一人の成熟した女性の姿。
 煙草をふかして、ラグナの前に立った。

「カズミ。変わらねぇな」

「ふふっ。そういってもらえると嬉しいわ」

 彼女の隣にはバクフーンの姿がある。

「俺が毒お菓子で死んだあのときから、寂しい思いをさせたな」

「ええ、寂しかったわよ。立ち直るまでどれほどかかったものか……。だから、あなたが出てきて嬉しいわ。存分に叩いてあげるんだから!燃やして成仏させてあげるわ!」

「って、立ち直るって言うか恨んでんのかよ、てめぇ!!」

「当然でしょっ!!あたしを一人にした恨み、ここで果たさせてもらうわよっ!!」

「……母さん……」

 何故か始まる夫婦喧嘩風味バトル。
 それをカナタは呆然と見守ることになったのだった。










 第18話 P51 立春B










「はぁはぁ……(みんな無事かしら?)」

 傷だらけながらも、必死に奥へと走り続けるサクノ。

「(この奥に過去の猛者たちを操る謎がある!もしかしたら、それが父に関係あることかもしれない……!早く行かないと!!)」

 そして、最奥と思われる雪原へと足を踏み入れた。

「(霧で見えない……)」

「ヨウコソ」

 どこからともなく、声が聞こえて来た。

「誰?」

「シカシ、、すぐにサヨナラだ」

 霧がスッと晴れた。
 すると、周りは海だった。
 そして、自分がいるわずかな周りだけ、陸地があった。
 その海を浮かぶようにマントを被って、姿を隠した人物と一人の少年の姿があった。

「……あなたは何者なの?」

「ワレノ名ハ、、キョスウカイ」

「(虚数解……存在しない答えってこと……?)」

「サァ、、やれ」

「ちっ、何で僕がお前の指図を受けなければならないんだ。鬱陶しい。だけど、目の前にいる自分はいかにも正義を貫くみたいなツラをする奴はもっと鬱陶しい」

「ソウダロウ。エバンス」

 エバンスという少年が繰り出したのは、エンブオー、ジャローダ、ダイケンキの三匹。
 すべてイッシュ地方の初心者用のポケモンの最終進化形態だった。

「……っ!!レディ!」

 咄嗟にモンスターボールからライチュウを繰り出すサクノ。
 だが……

 ドガッ!!

 バキッ!!

 ズドォンッ!!

「きゃあっ!!」

 ダイケンキのアクアジェットがライチュウを捉え、エンブオーの格闘攻撃で上空に打ち上げ、ジャローダがソーラービームで打ち抜いた。

「レディ!?」

「ツギノぽけもんハ、、いないよな。今ノらいちゅうガ、、最後のポケモンだったもんな」

「くっ!!」

「終わりだよ」

 3匹のポケモンがサクノに襲い掛かる。
 サクノになすすべはなかった。


 ドゴッ!!


「!?」

「!!」

「え?」

 恐れずに目を逸らさずに相手のポケモンを見ていたサクノは、その展開に驚きを隠せなかった。
 エンブオーの攻撃をフーディンが、ダイケンキの攻撃をフシギバナが、ジャローダの攻撃をリザードンが抑えたのだ。

「(このポケモンたちは……)」

 サクノは後ろを振り向いた。
 そこに立っていたのは、彼女の思い描いた人物だった。

「フッ。ようやく現れたな」

 マントの男が不敵な笑みを浮かべたような声でそういった。

「迷った。ここに辿り着くまでどれだけかかったことか。だけど、目的の人物はいないみたいだ……だけど、何でここにサクノがいるんだ?」

 かつて雑草と呼ばれていた緑頭の男。
 サクノは彼を呼んだ。

「……お父さん……」

「なんだかよくわからないけど、娘を傷つけさせるわけには行かないな」

「また鬱陶しい奴が増えたな」

 サクノの父:ヒロトvsエバンスの戦いが始まった。





 爆風が巻き起こる。
 その原因となったのは、一匹の伝説のポケモンによる風の砲弾だった。

「ようやく、翼をもぐことができたか……?」

 『王翼のバドリス』。
 かつて200万ポケドルほどの懸賞金を掛けられた風霧のボスである。
 今隣にいるのは、海の神と呼ばれるルギアだった。

 ボフンッ!!

 その爆風の中から勢いよく少女とポケモンが飛び出した。

「メロエッタ、この一撃で決めて……『ハイパーボイス』っ!』」

 緑色の長髪のボイスフォルムから放つ一撃は、飛んでいるルギアを叩き落した。
 懇親の一撃だったのだが、ルギアの耐久力はダテではない。
 地面をしっかりと踏みしめて、飛び上がったメロエッタへ止めの一撃を撃とうとしていた。

「『エアロブラスト』!」

「『圧縮ハイパーボイス』!!」

 二つの攻撃が衝撃を生む。
 落下重力を利用して、攻撃を放ちながら接近するメロエッタ。
 そして、零距離になって、爆発した。

「きゃあっ!」

「ぐうぅっ!」

 ポケモンだけでなくトレーナー同士も吹っ飛んだ。
 この激突で、互いのポケモンは戦闘不能になった。

「ふっ……小生の戦いもここまでか……だが、飛行ポケモンの力は分かっただろう?この力を誰にもバカにはさせない……」

 そうして、バドリスは消滅した。

「はぁはぁ……うっ……鳥ポケモンの力もあるけれど、ほとんどあなたの実力の賜物じゃないの……かしら……」

 爆発の際にスタジアムの壁に打ち付けられたマキナ。
 バドリスが消滅した際にその壁は消えて、壁にもたれていたマキナは床にバタリと仰向けに倒れる。

「サクノたちを……探しに行かない……と……」

 起き上がろうとしたが、そのままマキナは意識を失ってしまったのだった。





「止めだ!『ウィップストーム』!!」

 つるのムチの嵐がラグラージに叩き込まれた。
 その攻撃の前にラグラージは撃沈した。

「ちっ……せっかく生き返ったと思ったのに……」

 すべてのポケモンが撃沈し、エバンスの体が消え始める。

「あいつに……エナメルに……会いたかったのに……」

 その言葉を残して、エバンスは消滅した。

「手強い相手だった……」

 とは言うものの、倒れたのはフーディンとラプラスの2匹だけだった。
 ヒロトはフシギバナに寄り添い、マントの人物を見た。

「さぁ、お前の正体はいったいなんだ!?」

 ヒロトの言葉と共にエナジーボールを放つフシギバナ。
 普通の人間なら、攻撃をかわすために動いただろう。
 しかし、そいつは攻撃をまともに受けたのだ。

「!!」

「……人間……じゃない!?」

 紫色のボディに背中に背負ったキャノン砲。
 赤い色の瞳の鋭い眼で人型のようなポケモンだった。

「……ポケモン……なの!?」

「ゲノセクト……か」

「ゲノセクト?」

 サクノは父の顔を見て尋ねる。

「過去にプラズマ団という組織がこの地方にあったらしい。そして、ゲノセクトはプラズマ団によって改造されたと言われている」

「ソノトオリ」

 ヒロトとサクノに向けて虚数解ことゲノセクトは言葉を放つ。

「我ハぷらずま団ニヨッテ、、復活され、そして、改造された。復活サセテクレタコトニハ、、感謝するが、改造は痛みを伴うものだった。……ソノ恨ミヲ今カラ晴ラス。人間ヲ根絶ヤシニスルコトデ……!」

「……!人間の絶滅が目的!?」

「ゲノセクト……いや、キョスウカイと言ったか。人間の中でも、ポケモンにそういった痛みを与えるのはごく一部の人間に過ぎない。考え直した方がいい」

「人間ヲ殲滅ナドデキッコナイト思ッテソウイッテイルノカ?甘イナ。コノ我ノ能力ヲ身ニ受ケテモ、、そんなことが言えるのか?」

「能力……まさか、過去に亡くなったトレーナーを復活させたのってあなたの力なの!?」

 キョスウカイが手にカセットのようなものを取り出した。

「『霊界のカセット』。コノあいてむト亡クナッタ者ノ遺伝子ヲいんぷっとスルコトニヨリ、、“最高の状態”で“亡くなった時の記憶まで引き継いだまま”復元させることができる」

「「……っ!!」」

「呼ビ出セルノハ未練ヲ残シテ亡クナッタ者ダケダガ、、それを利用して、トレーナーを操り、殲滅させる。ソシテ、、そのターゲットはまずヒロト、お前だ」

「俺……だと?」

「強サハ申シ分ナイ。後ハ貴様ガ死ネバ、、遺伝子を通して出現させることができる。覚悟シロ!」

 そういって、霊界のカセットを自分に差し込むキョスウカイ。

「貴様ノ弱点ハ分カッテイル。コイツヲ倒スコトガデキルカナ?」

 冷酷な笑みを浮かべて、キョスウカイは一人の人物を召喚する。

「……ここは……!」

 召喚と同時にあたりの景色が変わる。

「場所ガ変ワルノハ、、召喚された人物の記憶が周囲に影響を与えるためだ」

 その景色を見て、ヒロトは誰が召喚されたか悟り、息を呑んだ。

「ここは、お月見山……」

 サクノは辺りを探ってキョロキョロと見回す。
 そうして、サクノはキョスウカイの隣に一人の女の子の姿があるのを見つける。
 年齢は自分よりも何歳か年上で、青髪のツインテールの子だった。

「……この人は?」

 サクノが首を傾げる。

「……ヒカリ……!」

 ヒロトの表情は『やっぱり』という確信と『まさか本当に』という驚きの二つがあった。

「え?……っ!!……もしかして……ヒロト……なの?」

 その女の子はヒロトの顔をよく見て、彼の名前を呼んだ。
 それを見てサクノも父を見る。

「お父さんこの人は……?」

「あ……あぁ……ヒカリは幼馴染で……」

 娘に説明をしようとするヒロトだったが、

「そう……ヒロトに子供が……そうよね。ヒロトを見ていると、大分時が経っているのがわかるもの」

 そう言いながら、ヒカリの目尻には涙を浮かべる。

「ヒカリ!」

「でも……嬉しい……ヒロトに子供がいてよかった……」

「どういう意味だよ……?」

「私に囚われず、他の人を愛して今まで生きてくれたことが嬉しいの。私じゃなかったことは残念だけど、生きてくれていたことが嬉しいの。だって、私の幸せはこの世界でヒロトが生きることなのだから……」

「……ヒカリ……」

 かつて経験した死の淵。
 そこでの会話を思い出したヒロト。

「お願いヒロト。バトルして」

「え?」

「私、ヒロトとバトルがしたい。そして、勝ちたいの!」

「…………」

 そうして、ヒカリが繰り出したのはフシギバナ。
 ヒロトはそのままフシギバナで勝負する。

「もしかして、そのフシギバナは……」

「ああ。ヒカリのフシギバナだ」

 両者共にフシギバナのつるのムチの応酬だ。

「そっか、大事にしてくれているんだね。ありがとう」

 そして、2人の戦いが幕を開けた。





 アゲトビレッジの森の祠。
 を、模した場所で、2匹のポケモンが交錯した。
 互いの打撃攻撃は、ほぼ互角だった。

「ブラッキー」

「ワルビアル!」

 ブラッキーが影分身を発動させようとするが、ワルビアルが指をクイクイッと動かす。
 すると、ブラッキーは怒って、影分身をやめてしまった。

「真っ向勝負しかないな。ブラッキー、『シャインボール』!」

「切り裂け、『サンドクロー』!!」

 輝く光球と砂を纏った爪。
 2つの技がぶつかった時、光が弾けた。
 ワルビアルは倒れそうになったが、いまひとつのところで踏ん張って、ブラッキーに一撃をかました。
 懇親の一撃で、ブラッキーは倒れた。
 同じくして、ワルビアルの体力も尽きたのだった。

「はぁはぁ……くぅ……やったか……」

「…………」

 すべてのポケモンが倒れてしまったハルキ。
 その瞬間、体が消え始める。

「これまでか。……仕方がない。あの世であいつと一緒になれることを祈るしかないか」

 そう呟くと、ハルキは光の粒子となって消え去ったのだった。

「ぐはっ……」

 激しく嘔吐するビリー。
 その様子から、非常に顔が青いのがわかる。

「(さっきのハルキってヤツの戦いの中盤に使った『エンゼルハート』のツケがここに来た……ピクシーだけは戦えるけど、もう『エンゼルハート』は使えない……使えば、我を失うか……最悪、死ぬかもしれない……)」

 自身の危機を感じながらも、ビリーは顔を上げて歩き出す。

「(サクノはんたちを……見つけ出して助けないと……!俺が……守ってみせる……!!)」

 足取りは危ういが、一歩確実に前へと踏み出していた。





―――「貴様ガひかりニ勝テバ、、ヒカリはこの世から消えることになるぞ」―――

 ヒカリとバトルするヒロトに、キョスウカイことゲノセクトはそう告げていた。
 そうすれば、ヒカリに未練があったヒロトは、間違いなくためらって、思うようにバトルができないだろうと踏んでいた。
 しかし……

 ドゴォンッ!!!!

 ヒカリのニドクインの『ポイズンランス』がフシギバナを突き抜けたよう見えた。
 しかし、それは残像だった。
 後ろから物凄いスピードで、ニドクインにタックルし、ノックアウトしてしまった。

「ヒロト……強かったわ」

 結局、フシギバナとライチュウを交互に戦いに出しただけでバトルは蹴りがついた。
 ヒロトの圧勝だった。

「……キョスウカイ」

「ナッ!?」

 ヒロトが出した指示に、フシギバナが反応し、つるのムチでキョスウカイを縛り上げた。

「俺がヒカリに対して、バトルで遠慮をするワケがない。ヒカリの挑戦にはいつも全力でやるって決めていたんだ。手加減されることを嫌うのを俺は知っているからな」

「……ヒロト……」

 お月見山の雰囲気が消えると共に、ヒカリの姿も少しずつ見えなくなっていく。

「俺は死ぬまでお前の約束を守っていく。だから、安心して眠ってくれ」

 優しく微笑むヒロト。

「ありがとう」

 それを見て、満足そうにヒカリは微笑んで消えていった。

「こっちこそありがとう」

 10歳の時に二人は、ポケモンリーグで戦ったことがある。
 2人の先ほどの戦いは、その記憶を呼び覚ますような戦いに違いない。
 その記憶を心に刻み、ヒロトはキョスウカイに向き直る。

「食らえ、キョスウカイ!『ソーラービーム』!!」

 つるのムチで拘束されているキョスウカイは避けることができない。
 そのまま草系屈指の一撃をまともに受け、吹っ飛んだ。

「ヒカリを呼び出したことには感謝する。けど、利用したことを俺は許しはしないっ!!」

 そうして、フシギバナに攻撃の指示を出していた。

「……なるほど。つまり、さっきのヒカリって女の人は、お父さんの旅の仲間ね」

「…………えっ?」

「えっ?って違うの?」

 目を点にするサクノ。
 同じくヒロトも目を点にした。

「……ま、まぁ……そんなところだな。もっと詳しく言えば、父さんの初恋の相手だ」

「……え!?そうだったの?」

「……ああ」

 意外そうな表情をするサクノと若干顔を赤らめるヒロト。
 親子の和やかな雰囲気になりかけたが……


「随分甘ク見ラレタモノダナ」


 フシギバナの攻撃を掻い潜りながら、キョスウカイは背中の砲弾を打ち出した。
 すると、また背景が変わった。

「暗い……ここはいったい……」

「まるで光も届かない地底のような場所ね……」

 その場所というのは、オーレ地方パイラタウンに最下層にあるボトムと呼ばれる場所である。
 しかし、ヒロトもサクノもその場所に行ったことがないために、この場所のことがわからなかった。

「あれ?ボクは死んだと思ってたんですけど……?」

 ふと、明るめの声が聞こえて来た。
 現れたのは緑色の三つ編みに星のアクセサリーをした可愛い少女だった。
 年齢はサクノと同じくらいだろうか。

「キョスウカイのやつ……また召喚をしたのか……? ……っ!!」

 ヒロトはその少女を見て、息を呑んでいた。

「……なんだろう、あの子の雰囲気。どこかで感じたことがあるような……?」

 サクノも相手の雰囲気を見て、何かを感じた。

「もしかして、ボク、蘇りしたんですか?凄いですね!…………それなら、オトさんを探しに行きたいところです」

「え、息子を?」 「え、お兄ちゃんを?」

「ふぁい?」

 少女はようやく相対する二人を見た。

「“息子”に“お兄ちゃん”……? もしかして、オトさんのお父さんと妹さんでした?初めまして!

 ボク、エナメルです。本当なら、オトさんと平和な日々を過ごしていたと思いますが、この通り死んじゃってしまったので、望みが叶いませんでした」

 実直に笑顔で話すエナメル。
 その様子に唖然とするしかないオトの父と妹。

「ところで、オトさんはどこにいるか知っていますか?」

「お兄ちゃんなら……行方不明よ」

「そうだな。連絡が取れなくなって10年。君には悪いが、父である俺にも息子の消息はつかめていない」

「そうですか……やっぱり、わかりませんか……」

 しょんぼりするエナメル。

「我ナラ、、知っている」

「……え?誰?……ポケモン?」

 そこでキョスウカイが囁いた。

「ソコニイルおとノ父、、すなわちヒロトをバトルで打ち負かすことができたら、我がオトの場所を教えてやろう」

「……!本当ですね!?」

 そういって、エナメルが一匹のポケモンを繰り出す。
 そのポケモンを繰り出しただけで、周囲の温度が一気に下がった。

「伝説の氷ポケモン、フリーザー!?」

 次の瞬間、フシギバナは一瞬にして凍らされた。

「っ!? 強い!?お父さん!!」

「エナメルと言ったよな!あいつの言っていることは嘘に決まっているだろ。騙されるな!!」

「嘘……ですか? いいえ、ボクはこのポケモンを信じてみます。だから、ボクはオトさんのお父さんを超えて見せます!」

 エナメルの目に迷いはなかった。
 どんな言葉にでも素直に信じることができることが彼女の長所なのだが、騙されやすいと言う短所でもある。

「くっ!ザーフィ!」

 倒れたフシギバナの代わりに、パートナーであるリザードンを繰り出すヒロト。

「『熱風』!」

「『吹雪』です!」

 プラスとマイナスの力がぶつかり合うが、その力は互角……いや、徐々にマイナスが押し始めた。

「……くっ……ぐわっ!!」

「きゃあっ!!」

 吹き飛ばされるヒロトたち。

「フリーザー、『ゆきなだれ』です」

 ゴゴゴッと押し寄せる雪崩れ。

「サクノ、これをっ!」

「えっ?」

 ヒロトは娘に何かを渡すと、後ろに突き飛ばした。
 そこから、ゆきなだれに対抗するためにヒロトは、リザードンに手を当てた。

「ザーフィ、やるぞ!『エンシェントグロウ』!『フレアウインド』!!」

 リザードンの限界の力を超える原始の力を発動する。
 それによって、一気にゆきなだれを蒸発させ、フリーザーに大ダメージを与える。

「『エンシェント:フレアドライブ』!!」

 一気に最高最強最大の技でフリーザーにぶつかった。
 この一撃ならば、どんな相手でも倒せるはずだった。

「……なに!?」

 フリーザーに攻撃が止められた。
 そして、一つの違和感を感じる。

「力がザーフィに伝わらない……!?」

「『アビリティホールド』です」

「!?」

 エナメルを見ると、彼女の体から異様なオーラが出ているのが分かった。

「ボクのこの力は“トキワの力”と呼ばれる力の応用で、一定範囲のすべての特殊な力をキャンセルします」

「トキワの力!?(バンダナと同じ力か!?)」

 ヒロトは因縁のライバルの顔を思い浮かべ、

「(ミホシやカヅキと同じ力を!?)」

 サクノは数ヶ月前に戦った姉妹の顔を思い浮かべた。

「凍り付いてください」

「させるかっ!『ファイヤーレイズ』から『フレアドライブ』!!」

 みるみるうちに凍り付いていくリザードン。
 しかし、炎の力を蓄えた炎突進で一気にフリーザーを撃破した。

 だが、同時にリザードンも体力を失って倒れた。
 エバンス戦でジャローダやズルズキンとのダメージが残っていたのだ。

「(手強い……くっ……この子は、最盛期の俺に匹敵するかもしれない!!)」

 続いてエナメルはカブトプスを繰り出す。
 一方のヒロトはフライゴンで対抗する。
 鋭い爪と輝く爪が交錯する。

「サクノっ!キョスウカイを倒すんだ!」

「これって……元気の塊!?」

 フリーザーと戦っているときにヒロトから渡されたものを見て確認する。

「残念ながら、俺もこれしかアイテムを持っていない。一番自信のあるポケモンに使って、キョスウカイを打ち倒すんだ!」

 バキッ!!

 フライゴンが『ガーネットクロー』でカブトプスをぶっ飛ばすが、切り替えして『アクアジェット』で反撃をしてくる。
 吹っ飛ばされて転がるが、足で踏ん張ったフライゴン。
 『輝きの風』でカブトプスを吹っ飛ばして撃破した。

「オトさんのお父さんは強いですね。オトさんに聞いたとおりです」

 そういって、エナメルは飛行ポケモンのエアームドを繰り出した。

「サクノ!」

「わかった……キョスウカイを放って置くわけには行かない……!!」

 元気の塊を使用して、キョスウカイの目の前に立つサクノ。

「我ヲ、、倒すというのか」

「この世界には、人間とポケモンが手を取り合って生活している。あなたに私とポケモンの絆を見せてあげる!」

 サクノが繰り出したポケモンは、骨の剣を構えた波動ポケモンのルカリオだった。

「貴様モ、、我の戦力の一つとしてやる!」

 背中のキャノン砲から炎を発射するキョスウカイ。
 一方のルカリオは、波動弾で攻撃を相殺してみせる。

「もう一回『波動弾』!!」

 連続での攻撃を打ち出し、キョスウカイに命中する。

「クッ、、なかなかの威力だな。ダガっ!」

 傷ついたキョスウカイはキャノン砲から連続で攻撃を打ち出す。
 トライアタックの嵐だ。
 その攻撃をルカリオとサクノは巧みに動いてかわす。
 隙を伺って前へ出ようとするが、そこまでキョスウカイの連続攻撃は甘くなかった。

「それなら、エンプ!『気合玉』!!」

 波動弾よりも大きな闘気の弾を打ち出すルカリオ。
 トライアタックを次々と破壊し、キョスウカイにぶつかった。

「ムグッ!!ダガァ、、トライアタックで威力が下がっていてたいしたことないぞ!」

「本命はこっちよ!」

「っ!!」

 気合玉を凌いだ先にキョスウカイが見たものは、貴重な骨の剣を構えたルカリオの姿だった。
 連続で剣を振るい、ゲノセクトを打っ飛ばした。

「ぐふっ!!」

 ボーンラッシュの剣戟は、キョスウカイにダメージを与える。
 コンスタントにダメージを与えて、少しずつキョスウカイを追い詰めた。
 だが、

「(なんだろう。このゲノセクトというポケモン……本当にこの強さなの?まだ、何かを隠しているんじゃ……?)」

「力ヲ隠シテイルト、、思ったか?」

「……っ!?そうよ、さっきから、亡くなった者を召喚して来ないじゃない!それとも、もうできないのかしら?」

「フッ、、できないというのは正しい」

 キョスウカイが召喚できないといったのは、事実である。
 実はこのキョスウカイの能力には使用制限があり、一定範囲内で1人しか召喚することができないのである。
 既に、この場にはエナメルがいるために、他の者を召喚することができないのだ。

「クラエッ!」

 トライアタックよりもランクが高いエネルギー弾を3発打ち出した。
 ラスターカノン、シグナルビーム、冷凍ビームの圧縮弾だ。

「二振りの『聖なる剣』!!」

 一つは貴重は骨の剣、もう一つは闘気で作り出した刀。
 二つを用いて、キョスウカイの攻撃を捌いて接近する。

「エンプ、決めてっ!」

 骨の『聖なる剣』がキョスウカイを切り裂き、闘気の刀は闘気の弾丸に変換し撃ち出して、キョスウカイを吹っ飛ばした。

「まだ倒れないの!?タフね……それなら、エンプ、力を溜めて!一気に倒すわ!」

 エネルギーを集中させるルカリオ。

「ふふふ……貴様の負けだ。『アップデート』&『ダウンロード』完了」

 一方のキョスウカイは、倒れそうにフラフラしながらも、立ち上がってサクノをニヤリと見つめる。

「エンプ、『Seoul Storm』!!」

 通称『波動の嵐』。
 攻撃はキョスウカイを飲み込んだ。

「(決まった……!?)」

 しっかりと、相手が倒れるのを確認しようとするサクノ。
 間違いなく、ルカリオの使える中でも最強の技である。

「フゥ、、効いたぞ」

「っ!?(効いてない!?どういうこと?)」

 波動弾やボーンラッシュなど、基本的な攻撃でダメージを与えることができて、最大の技『Seoul Storm』でダメージを与えられないはずがないとサクノは思った。
 しかし、事実、ルカリオの攻撃は効いていない。

「ルカリオの能力をすべて解析した。これで、ルカリオの攻撃はすべて通用しない!」

「『波動弾』!!」

「無駄なことだ」

 ノシノシっと歩いてルカリオに接近する。
 波動弾をまともに受けるが、まったく意に介していない。

「それなら、『気合玉』!!」

 大きな闘気の塊を投げつける。

「だから、無駄なことだと……」

 右手を翳して攻撃を受け止めようとしたキョスウカイだったが、僅かに下にずれて砂煙を上げる。

「エンプ、全開!!」

 キョスウカイの背後に回りこんだルカリオ。
 貴重な骨の剣に最大級の闘気を纏って、振りぬいた。

「『Seoul Blade』!!」

 ルカリオの一撃の衝撃で気合玉で巻き上げた煙が一気に吹き飛んだ。

「……そんなっ!!」

 少しだけキョスウカイが勢いで前に動いたが、ダメージが見られなかった。

「貴様の負けだ」

 背中のキャノン砲から火炎球を打ち出して、ルカリオに命中させる。
 吹っ飛ぶルカリオをサクノは受け止めようとするが、次々とキョスウカイは強襲を続ける。

「うわぁぁぁぁぁっ!!!!」

 サクノはルカリオに向けたその攻撃に巻き込まれて行った。

「サクノっ!!」

 キョスウカイと娘の戦いを案じて、援護しようとしたヒロトだったが、

「よそ見したら駄目ですよ」

「ぐっ!?フライト!?」

 エアームドの猛襲でフライゴンが叩き落される。
 その一撃でフライゴンはダウンした。

「っ!!シオン!!」

「ライチュウですか?それなら、ボクもライチュウにチェンジです」

 電気ネズミ同士の戦いが白熱する中、キョスウカイの猛攻も続いていったのだった。



 ―――5分後。

「はぁはぁ……」

 暗闇の中でサクノは荒い息を吐く。
 エンジュ色のパーカーがボロボロに引き裂かれたように千切られ、インナーのカットソーもボロボロに穴を開けられ、健康的に引き締まった体を露出させていた。

「ぐっ!あうぅっ!」

 ラスターカノンが襲い掛かり、かわそうとするが足を挫いてしまい、サクノの髪を掠めた。
 掠めた勢いで赤いリボンが焼かれて、サクノのアップサイドテールが解かれて、ファサと髪が広がった。

「止メダ」

 連続でラスターカノンがサクノに襲い掛かる。

「(もうダメなの……?私は……勝てないの……?)」

 弱気になるサクノ。
 彼女がこんなに追い込まれるのも初めてだった。
 今まで立ちはだかる困難も強敵も、自信を持って打ち倒してきた。
 それだけに、今のこの状況が怖かった。

 しかし、ルカリオがフォローに入り、ラスターカノンを押しとどめようとするその行動で、サクノは目が覚めた。

「(弱気になってはダメ。私は一人じゃない。私にはエンプがいる。それに……)」

 サクノはもう一つの戦いを見る。
 そこで繰り広げられているのは、ライチュウとライチュウの激突だった。
 ちょうど、ヒロトのライチュウが尻尾攻撃で追い詰めて、最大の電撃攻撃を放ったところだった。

 ルカリオの肩を借りてサクノは立ち上がった。

「ぼろぼろノ、、その体で何ができる?モハヤ、、貴様に勝機はないのに何故立ち上がる?」

「勝負は決まったと、本気で思っているのかしら?」

「当然ダ。この力の差は明白だろう」

「いいえ。私にはその差が見えない」

「何ヲ、、現に貴様のルカリオの力はすべて見切った。るかりおシカ戦エヌ今、、貴様の勝機はゼロだ」

「そうね。戦えるのがルカリオだけならそのとおりよ。でも、エンプは一人で戦っているんじゃない。私がいる!

 ポケモンとポケモントレーナーは一心同体!それが分からないあなたと私たちに力の差はないのよ! エンプ!!」

 足を踏ん張って、ルカリオは神速を発動する。
 そして、鋼鉄の拳でキョスウカイを殴りつけようとした。

「フッ。そんなもの、先ほど効かないと証明を―――」

 ドゴンッ!!

 キョスウカイが大きく吹っ飛んだ。
 一転二転と転がり、冷静に受身を取る。

「(何!バカな!?攻撃の威力が変わっただと!?)」

 驚くキョスウカイの前に大きな闘気の塊が飛んでくる。
 気合玉を無防備に受けたキョスウカイは大きく吹っ飛ぶ。

「(グッ!一体何が起きているって言うんだっ!?)」

 見るからに敵であるサクノとルカリオはボロボロである。
 後一発でも光線攻撃を当てれば、倒せるほどに相手は弱っているように見える。
 しかし、そんなダメージを感じさせない気合で猛攻を仕掛けてくるルカリオ。

「『ボーンラッシュ』!!」

「ぐぉぉぉっ!!(最初の時よりも威力が上がっている!?)」

 連続の殴打を繰り出し、最後の一発で、吹っ飛ばす。

「我ガ……負けるものかぁっ!!」

 背中の砲弾から、力を溜め始める。

「止メダッ!『メタルキャノン』!!」

 鋼系の自身最強の砲弾を打ち出すキョスウカイ。
 この一撃でサクノ諸共ルカリオを鎮めるつもりだった。
 だが、この一撃をルカリオが闘気を纏った貴重な骨の剣で受け止める。

「行っけえェェェェェェェっ!!エンプっ!!」

 全闘気を解放する。
 闘気を解放すればするほど、ルカリオの剣の刃の鋭さは増す。

 一刀両断だった。
 鋼のエネルギー砲を切り裂くだけに止まらず、キョスウカイの背中に搭載されているキャノン砲も、キョスウカイから切り離すかのごとく2つに切ったのだった。

「(テクノバスターが……霊界の……カセットがぁっ……!!)」

「『Seoul Blade』!!」

 止めの一撃がキョスウカイに炸裂した。

「(やられ……たのか……!? 人間を隷属し、世界を支配する我の計画が無に帰すというのか……)」

 薄れ行く意識の中、キョスウカイは考えた。

「(ルカリオの力が強くなったのは……あの女がルカリオに触れてから……あの女の“気持ち”というものがルカリオに伝わったというのか……?

 ありえない……ありえないが、まさか……!)」

 今まで会った人間の中でも、サクノはとびっきりの異質な存在だとキョスウカイは感じた。
 最初は、カズミとヒロト……この2人の力だけが異質で世界をどうにかする力を持っていると感じていた。

「(この女の力は……さらにそれを行く……!! ……サクノことアキャナインレディは…………世界を……。……だとしたら―――)」

 サクノは力が抜けてペタンと地面に足をつけていた。
 よほどの体力を使っていたのだろう。
 それはルカリオも同じで、地面に剣を衝いて、今にも倒れそうだった。

 そして、サクノたちはキョスウカイがゆらりと立ち上がったことに気付いていなかった。


 ―――野放シニハデキナイ!!ここで、確実に仕留める!!命に代えても!!

 ―――ソレガ、我の……―――!!



「シオンッ!!」

 ド太い最大の光線が、シオンを貫いた。
 放ったのは、エナメルのギャラドスだった。

「『ファイナルビーム・改』です。……やはり、オトさんのお父さんは強いです」

「(くっ……俺にはもうポケモンが残されていない……!!)」

 ライチュウが倒れたことにより、ヒロトの負けが確定した。
 しかし、エナメルはそのことにはまだ気付かず、反動で動けないギャラドスを戻して、エアームドを繰り出す。

「次、行きます!!……あれ?」

 消え行く右手を見て、エナメルは目を丸くする。

「ボク……消えていってます?何でですか……?」

 もちろん原因は、キョスウカイのテクノバスターに入っていた霊界のカセットが壊れたことにより、召喚が解除されてしまったためである。
 エアームドが光の粒子になって消え、エナメルも徐々に消えていく。

「(サクノ……やったのか……) エナメルと言ったな。強かったぜ。お前の勝ちだ」

「ボクの勝ちですか?」

「ああ。お前が生きていたら、オトのことを頼んだだろうな」

 そう言われて、エナメルは溢れ出てきた涙を拭って頷いた。

「お義父さんに認められた……それだけで、ボクは嬉しいです」

 満足そうな表情で、エナメルは消え去ったのだった。

「(サクノはどうなった!?)」

 エナメルが消えるのと同時に、周りの背景は、最奥だった洞窟に戻った。
 そこでヒロトが見たのは、力が抜けて座り込んでいるサクノと限界を迎えて荒く息を吐いているルカリオの姿だった。

「(よかった……無事か…… ……!!)」

 しかし、一つの姿を見てヒロトは頭に警笛を鳴らす。

「(キョスウカイ……あの傷でまだ倒れないのか!?……だが、もう意識はない……ということは、本能で動いているということか……一体何を……? サクノ?)」

 サクノはキョスウカイが接近していることに気付かなかった。

「サクノぉっ!!」

「……え?」

 父の声に顔を上げて、ようやくサクノは気がついた。
 キョスウカイが鬼の形相でサクノに接近してきたのである。
 その体にフルパワーのエネルギーを宿して。

「一緒ニ……朽ち果てろ……」

 サクノの反応は完全に遅れた。
 パートナーのルカリオも間に合わなかった。

 そして、サクノとの距離が30センチになったとき、そのエネルギーは完全解放された。

 ―――『大爆発』。

 それがキョスウカイ……ゲノセクトの最後に繰り出した技だった。
 この一撃は、ジャイアントホールの奥のフロアの天井の岩盤を突き抜けて、洞窟を崩すほどの威力だった。





「……ん?どうやら、消える時が来たようだな」

 自分の手を見て、ラグナがそう呟いた。

「くっ……どうやら、まだあたしはダーリンの域に達していないというわけね……」

「バカ言え」

 カズミが繰り出しているのは、最後のポケモンのゴウカザル。
 そして、今ラグナが繰り出していたのは『アンリミテッドブレイク』状態のピクシーだった。

「今までこの状態まで俺がてめぇに本気を出したことはなかっただろうが。充分強くなってるってんだよ」

「ダーリン……」

「死ぬ前に言い残せなかったを言わせて貰うぜ。カナタを……後のことを、頼んだぜ」

 カズミにそういい残して、ラグナは消滅したのだった。

「親父……」

 ポツリとつぶやいて母を見るカナタと、少しの間、俯くカズミ。
 恐らく泣いていたのだろう。

「さぁ、行くわよ、カナタ」

「……お母さん?」

「あたしがここに来た目的は、サクノの父であるヒロトに会うためなんだから!」

「……う、うん」

 ちょうどそのとき、洞窟全体を凄まじい衝撃が響いた。

「なっ!?」

「凄い揺れと衝撃……岩が振ってくる!!急いで脱出するわよっ!!」

 カズミはカナタの手を引いて、ゴウカザルを先頭に一気に出口へと突っ走っていく。





「マキナはんの相手は伝説のポケモンのメロエッタを持ってしても勝つ事ができなかった相手やったわけやな」

「そういう天使の力を持つビリーも、そうして傷だらけなのを見ると、よほど強い相手と戦ったようね」

 ビリーとマキナは合流を果たしていた。
 というと、マキナが倒れているのを見て、ビリーが起こして、彼女に肩を貸して歩いているという状況である。
 この状況で2人が考えることは、一緒だった。

「「(サクノは無事かなぁ)」」

 二人とも、カナタの事を忘れていた。

 そのとき、二人に揺れと衝撃が襲う。

「ぐっ!」

「急がないとアカンな!」

 ビリーとマキナも急いで出口へと向かっていった。





 右手にはべっとりと赤いものがこびりついていた。

「(血……?)」

 だけど、自分がケガをしているようには見えない。

「(え……?)」

 彼女は悟った。
 その血の正体を。

「……お父さん……?」

 自分を庇うように押し倒して、彼が大爆発から彼女を身を挺して守ったのである。

「……お……父さん……?」

「サ……クノ……無……事……か……?」

 消え入りそうな声。
 よほど致命傷だったのか、ヒロトは息をするのも辛そうだ。

「よか……った……ケガは……ない……な」

「ケガって……お父さんは……お父さんが……酷い……ケガをしているじゃない!!」

「いい…って……お前が…無…事なら…俺は…」

「よくないわよっ!!」

 ヒロトの大爆発でのダメージは、致命的だった。
 説明するのも躊躇われるほどに、その姿は痛々しく絶望的だった。

「私が物心をついたときにはもういなくて、それまでずっと、私はお父さんを知らなかった。……一体……一体、今まで何をやっていたのよ!!??」

「…………」

「私も寂しかったけど……お母さん……なんか……もっと寂しい思いをしていたのよ……?」

「(……オトハ……)」

 自分を愛してくれる妻のことを思い出すヒロト。

「これから、帰るの!何が何でも、私はあんたをウチまで……タマムシシティまで連れて帰るわよ!!」

 そういって、ヒロトの腕を持って立ち上がろうとするサクノだったが、瓦礫が降り注ぐ中、満身創痍の二人がここから脱出するのは至難の技だった。

「サクノ……」

「絶対連れて帰るんだから!お母さんに謝りなさいよ!」

「サク…ノ……」

「何、お父さん……きゃっ!?」

 ヒロトはサクノに覆いかぶさるように押し倒した。

「この…ままでは……恐ら…く、瓦礫…から逃げる…ことは…でき…ない……だろ……う……」

「一体何を……っ!!まさかっ!?」

 ハッと気付いたサクノ。
 その表情に笑顔で答えるヒロト。

「母…さん…やサク…ノには……寂しい思…いをさ…せて…しまっ…たな……。

 でき…ること…なら、会って…母さん…に…謝…り…たいところ…だけ…ど……でき…そうにも…ない」

「何縁起でもないことを言っているのよ!しっかりしてよっ!!」

 必死に呼びかけるサクノ。
 しかし、ヒロトは止めないで彼女に伝えようとした。

「帰…った…ら、母…さん…に……こう…伝えて…くれ―――」

 サクノの頭を撫でながら、ヒロトは呟いた。

「―――帰る…という約…束を…守れ…なく…て、済ま…ない……と」

「約束を守れないってなんだよ!?守れよ!一度した約束は絶対に守れよっ!!」

 彼女の目には涙が滲んできていた。
 あやすようにヒロトはこう諭す。


「“自分の命”や“変えたかった運命”よりも、そして、“母さんとの約束”よりも大切なもの……それは娘<サクノ>の命だ」


 そんな中、一気に瓦礫は彼らを下敷きにするように降り注いだのだった。





―――「オトが行方不明?」―――

―――「1ヶ月前にユミちゃんとキトキくんの前で消されたらしいの。詳しい状況はよくわかりませんけど」―――

 P41年。
 タマムシシティのヒロトの家で彼は、妻から情報を聞いていた。
 この情報はショップ・GIAのカズミから伝わってきたのである。

―――「なんでも、絶峰と呼ばれる組織のクィエルという人が、オトを消したのだと言っています」―――

―――「……そうなのか」―――

―――「そして、同時期にユウナさんも行方不明なんです」―――

―――「え?……ユウナ?あいつまで??」―――

―――「そうなんですよ。心配です……」―――

 ユウナと妻であるオトハは、親友同士と言ってもいい関係だった。
 だが、ユウナはそのオトハにも行き先を告げずに行方をくらましたのである。

―――「(行方不明……何があったかはわからないけど、まさか―――)」―――

 ヒロトに一つの単語が思い浮かぶ。

―――「(……マイデュ・コンセルデラルミーラ……)」―――

 20年程前に、彼は50年も先の未来へと飛んだ。
 そこで待っていたのは、崩壊へ向かって荒廃していった世界とマイコンと呼ばれる組織だった。
 彼らは、シンクロパスと呼ばれるアイテムを使い、ポケモンとシンクロすることで壮絶を超えた力を行使し、有名有能なトレーナーを葬っていった。
 その犠牲者として、彼はハレやユミなど、いくつかの知り合いもいた。

―――「(ここで何があったかは知らないけど、きっとこのときに何かがあったんだ。それこそ、彼女の世界を、意識を変えるような何かが……)」―――

 マイコンの大幹部として君臨していたユウナ。
 呼び名をアソウと変えて若かったヒロトの前に姿を現わしたが、ヒロトはすぐに彼女だと見破ることができた。

―――「(もし……もしも俺が、ユウナを探し出し、言葉を掛けることができれば、あの未来を変えられるだろうか……??)」―――

 掌に汗が滲む。
 そのとき、彼の脳裏にとある言葉が浮かんできた。


 「『“過去”から“未来”は一本の道であり、曲げることのできない唯一無二の話である』

  ヒロト様が未来で事実を知っても、過去の世界では何の影響ももたらされないのです」


 例え未来を知っていても、変えることはできない。
 それはココロと言う少女の言葉だった。

―――「(いや、例え無理だったとしても……俺は……)」―――

 彼が決心を決めるのに、時間はかからなかった。

―――「オトハ、悪いけど、ちょっと旅に出てくる」―――

 そんなヒロトの顔をじっとオトハは見つめていた。

―――「……ユウナさんを探すのね?」―――

―――「……ああ」―――

 ここでヒロトは「(息子の)オトを探しに行くんだ」と否定してもよかった。
 だが、彼は嘘をつかずに、正直にそう告げたのだった。

―――「オトのことよりユウナさんのほうが心配ですか?」―――

―――「『比べることはできないだろ』……と言っても、見透かされるだろうな。ああ、ユウナのほうが心配だ。あいつの心には深い闇の傷がある。それが暴走してしまわないか心配なんだ」―――

 そういいつつ、ヒロトは旅の支度を始めていた。

―――「どうしても行くのね」―――

―――「悪い、オトハ」―――

 それほど多くの荷物は持たず、ジャンバーを羽織ったところで、彼の腕を彼女が掴んだ。

―――「一つ、約束をして」―――

 ヒロトを見上げる視線で、彼女は訴えた。

―――「ユウナさんとどうなってもいいです」―――

―――「どうなっても……って……」―――

―――「あの、その……言わせないでください……!」―――

―――「いや、唐突過ぎて……」―――

 少し恥ずかしそうなオトハと彼女の言動についていけなかったヒロト。

―――「だけど、どうなってもって……」―――

―――「ユウナさんが闇の中から戻ってくるなら安いものじゃないですか。……でも、もしそうなった場合は、多分、1週間くらい口ききません」―――

―――「…………」―――

 突っ込む言葉が見つからないヒロトである。
 膨れっ面の彼女の顔をしばらく眺めていると、寂しそうにオトハは呟いた。

―――「……ユウナさんを見つけてきたら、必ず私の元へ帰ってきてください」―――

 彼女の言葉の答えにヒロトは、スッと彼女の唇を奪った。
 そして、彼は微笑んでその場を去ってこう言葉を残した。

―――「もちろんだ」―――





 オトハ……すまない。

 約束を守ることができなかった。

 ……でも、いいだろ?

 約束を守れずとも、娘の命を守るためなんだ。

 赦してくれよ?





 最奥のフロアへの入り口前。
 そこへカズミとカナタが走ってきた。
 次いで、マキナを支えながらビリーもやってきた。
 そして、声を掛け合うと、サクノはもうここに来ていると頷きあった。

 だが、そこに見えるのは瓦礫の山で、もし人が埋まっているとしたら、生きてはいないだろうと思っていた。
 その光景に息を呑む4人だが、ズズズッと瓦礫の山が崩れ始める。
 そうして、波動のエネルギー弾が空へと放たれた。
 瓦礫が小気味よく吹き飛び、その中からルカリオが姿を見せた。
 しかし、息は絶え絶えで、力を使い果たして倒れた。

 そこで4人は2人の姿を目撃する。
 男は下にいる少女を屋根のように瓦礫から守っていた。
 しかし、もう意識もなく、息絶えていた。
 少女は仰向けに倒れこんで、涙を流していたのだった。










 第18話完


HIRO´´ 2012年08月18日 (土) 07時33分(37)
題名:第19話 P53 春

 ドドドドッ

 街中で煙を巻き上げて走るケンタロスたちの姿があった。
 その数は両手だけでは数えられる数ではなく、ゆうに10〜20匹はいた。

 町人たちは、ケンタロスの群れに翻弄され、ただ町の器物が壊されていくのを慌てふためいているだけだった。
 旅のポケモントレーナーがポケモンで押さえつけようとするが、まるで止まらずに吹っ飛ばされていった。

“なんなんだよ……あのケンタロスたち……”

“一体どこから!?”

“ママー……怖いよぉ……”

“くっ……ボクのモジャンボが……まったく歯が立たないなんて……”

 町が壊れていく様を誰も止めることができなかった。

“あ、あれはなんだ!?”

 町の中心から、炎が立ち昇った。
 その圧倒的な威力を見て、町人もケンタロスたちもその方向を見た。
 そこにいたのは、黒いスラックスを穿き、白いブラウスを着用し、セミロングの美しい蒼い髪をなびかせた女の子だった。

“女の子とウインディ?”

“って、あの子にケンタロスの群れが突っ込んで行ったぞ!?”

“あ、あぶなーい!!”

 ある人は目を背け、ある人は目を瞑って、その惨劇を見ないようにした。

 だが―――

 ゴォォォォォォォォ!!

 ウインディの咆哮。
 ただそれだけで、ケンタロスがひるんで足を止めた。
 そして、その場に座り込み、進撃を止めてしまったのだ。

“……凄い……”

“ただ、ウインディが一吼えしただけなのに……”

“『威嚇』をより強化した技……?いや、それだけでなく、ケンタロスたちがあのウインディの潜在能力に恐れをなしたのかもしれない”

“あの女の子……相当の実力者ね……”

 女の子はウインディをボールに戻して、ゆっくりとした足取りで、ケンタロスに近づいていった。
 「危ない」と町人は思っていたのだが、彼女がケンタロスの頭を撫でると、大人しくその手に頭を委ねていた。

「町長のメスター。いるんでしょ?」

「ブフュ!?」

 物陰に隠れていた町長のメスターと呼ばれる男。
 彼女が視線をその男に向けるのと同時に、町人も全員その男に目を向けた。

「あなたがこのケンタロスを仕掛けて、町を壊そうとしたことはわかっているわ」

「ブフュ……何故……わかった……!?」

「この町に関わる不可解な事件をちょっと洗い出ししたら、あなたの素行に目が行ったのよ」

「ブフュ!!」

「ケンタロスがこうなった今、あなたにはすべての抵抗が無駄なはずよ。諦めなさい」

 女の子はメスターの右手と左手をあっという間に右腕だけを使って背中に纏めて、ガチャリと手錠を掛けた。

「ブフュ!?警察だったのか!?」

「メスター、器物破損の容疑で逮捕します」

 その鮮やかな手際に、歓声で沸きあがる町人たち。
 彼女はメスターを連れて、近くに止まっていた車に乗り込んでいった。

「相変わらず素晴らしいお手並みね、サクノ」

「ありがとうございます」

 二十歳過ぎの女性の先輩に褒められて、クールにお礼を言うサクノ。



 彼女は今、カントー地方のタマムシ警察署で働いていた。

 あの悲しい事件から、2年が経過していた―――










 第19話 P53 春










 ここはオレンジ諸島海上。
 太陽の光を受けて輝く海の上を一つの帆船が進む。

「にゃぁ……目がまわるーよー」

「おらっ、目を回してないでしっかり働け!」

「にゃぁんっ!!」

 ビシッ

 とムチを撃つ音が響く。

 ムチと聞くと、馬のしつけ等で使われるため決していいイメージの持たない道具である。
 一昔前では、人間を奴隷として従わせるために使われたこともある道具だ。

 かといって、この船は奴隷船ではない。

「あ……アルクぅ……」

「なんだ?もっとムチの味が欲しいのか?」

「にゃ……にゃぁ……」

 ぐったりと床に伏せて涙を滲ませる少女に向けて、アルクと言う少年は、容赦なくムチを振りかざしていた。

 その2人の姿を見ているのは、白のマイクロミニにピンクのキャミソールを着た青いボブヘアーの女性だった。
 ブラジャーの形が透けて見え、Gカップの胸を容易に想像できる。

「本当にアルクくんは、ミーシャちゃんを痛めつけるのが好きやんね」

「あぁ。だって、ユミさん。こいつ苛めるたびに悦ぶんだ」

 止めることをせず、ユミは微笑ましくアルクを見ていた。

「そんなことないーよー……にゃぁっ!」

「嘘つけっ」

 と、ユミの見る目を気にせず、二人は行為を続けた。

「(それよりも、あの子はだいじょうぶかな)」

 遊んでいる2人を放っておいて、船室でボーっとしているであろう女の子を思いやるユミ。


 ドドドッ!!


「!?」

「にゃぁ!?地震ーよー!?」

「海で地震なワケあるかっ!」

 突然の振動に、各自近くにあった手摺りや取っ手にしがみつく。
 そのとき、海面から水飛沫を上げて、大きなポケモンたちが飛び出してきた。

「こいつはドククラゲ!?」

「にゃ……にゃあぁっ!?」

「規格外やんね」

 ただのドククラゲではなく、ゆうに大きさが5メートルほどある。
 個数も3匹ほどいた。

「くっ!やるかっ!」

「にゃあ……」

 アルクはクヌギダマ、ミーシャはチョロネコを繰り出して、ドククラゲに向かっていく。
 だが、いかんせんレベルが違う。
 触手であっという間に弾かれてしまう。

「イーブイ、『リーフブレード』やん!!」

 アルクとミーシャを助けるためにユミのイーブイが力を振るう。
 2匹のドククラゲの触手を次々と切り裂いていく。

「くっ……触手の数が多いやん」

「にゃっ―――!?」

 ミーシャがユミの後ろから絶叫した。

「(後ろからも!?)」

「クヌギ―――ぐっ!!」

 アルクとクヌギダマが割って入ろうとするが、簡単に弾き飛ばされる。
 ミーシャとユミに触手が伸びていった。


 ドゴォッ!!


 奇襲を仕掛けてきたドククラゲの頭に大きな衝撃が走った。
 ドククラゲの頭はへこみ、勢いそのままに海に沈められたのだった。

「ラグラージの『アームハンマー』……!」

「カナタ姉ちゃん……助かったーよー」

 船室から飛び出していたカナタがユミとミーシャの前に出ていた。

「この巨大なドククラゲたちはどこから来たんだ?」

「分からないやん。ドククラゲといえば、昔カントーのどこかの街で、メノクラゲを連れた巨大なドククラゲに侵略された話を聞いたことがあるやん」

「今の……このことと……何か関係あるーのー……?」

 涙目でやはりユミを見る。

「てゆーか、いつまで泣いているんだよっ!」

「にゃあ!ムチはぁ―――」

「こんなときくらいは自重しろ!」

 カナタは2人を宥めながらユミの答え伺うが、

「全然関係ないやん」

「「関係ないのかよ!」」

 ユミの冷静な答えに思わずツッコミを入れるカナタとアルク。

「一番シンプルな答えとしては、ドククラゲたちの縄張りに入ってしまったんじゃないかと思うやん」

「じゃ、仕方がない。力ずくで突破だ!」



 残った巨大ドククラゲ2匹をユミとカナタが撃退した。
 時間は数分程しかかからなかった。



「カナタ、旅する前と比べて凄く強くなっているな……」

「そうやんね。ウチの付き添いなんていらなかったんじゃないやん?」

「尊敬するーよー」

 穏やかな海に出て、カナタを囲い、褒めあう。
 しかし、カナタは首を振った。

「……駄目だ。駄目なんだ」

 遠い目をして、カナタは小さく呟いた。



 “あの時”。
 私は声を掛けることも近づくことさえもできなかった。
 お姉様は泣きじゃくり、お姉様の父は微動だにもせずお姉様を護っていた。

 父親の死は私も経験しているけれど、あっさりしたものだった。
 好きでも嫌いでもない普通の関係だったゆえに、泣くほどではなかった。
 お姉様がよっぽど父親のことを慕っていたことを思い知らされた。
 そこに私が入る隙は、まったくなかった。

 私の力が足りなかった。
 それゆえに、お姉様を悲しませてしまった。
 もっと強ければ、お姉様の父は死なずに済んだのに。

 最盛期の親父にさえも届いていなかった実力。
 これでは誰も守れはしない。
 だから、私はもっと強くなる。
 世界中の海を超えて、強くなって見せる。
 そして、サクノお姉様の背中を任せられるように……なりたい……。



「私はまだまだ、強くなる」

「これ以上強くなってどうするつもりだよ」

 アルクが呆れるように言う。

「強くなったらきっと見えてくるものもあるはずだ。そのために……」

 カナタは海の向こうにある陸を差す。
 そこには一つの孤島があった。

「トレジャーハンティングだ!」

「にゃあっ!」

 乗りよくミーシャもカナタと手を挙げた。
 アルクは「答えになってない」とため息をつき、ユミはにっこりと3人を見守ったのだった。

 そして、カナタがその孤島に降り立った時、目を回して吐いたのは、別の話である。





 ここはどこかのビーチ。
 一人の少女が白いビキニでビーチチェアに寝ていた。
 柔らかい雰囲気を持った程よい肉付きの少女マキナだ。

 そこへ近づく一人の男性がいる。

「イチゴパフェなんてどうだ、お姫様」

「私は姫様なんてたいそうなものじゃないけど……。でも、いただきます」

 と、マキナはその男の買ってきたパフェを手に取って食べ始める。

「…………。それで、私の食べる姿を見て、構想を練っているの?」

「まぁ、そんなとこだ」

 ビーチチェアに白いビキニというと、とても健康的なイメージがする。
 しかし、手前の男は、彼女のイメージを色眼鏡でも掛けていたかのように見ていた。

「はぁ」

「ため息なんてつくな。幸せが逃げるぜ」

「これが本当に幸せかなんて、分からないわ」

 マキナはもう一度ため息をつく。



 私は自分の終着点を探していた。
 旅の途中で出会ったサクノ。
 彼女についていけば、その答えは見つかると思っていた。

 だけど、彼女の旅は“あの時”終わりを迎えた。
 一度、カゴメタウンに戻ったあと、私たちはこれからどのようにするかの準備や手配などで忙しかった。

 そのときの彼女は、呆然としていた。
 危ういと思って、側で彼女の事を見ていた。
 彼女は一言も喋らず、じっと一点を見つめたままだった。
 半日くらいそうしていて、彼女らはカントー地方へと戻っていった。

 しかし、私だけはこのイッシュ地方に残った。
 私がついて行って何かできるとは思えなかった。
 それなら、そっとしておくのが一番ではないのかと考えた。
 彼女の辿り着く答えが、絶望だったとしても、それは仕方がないことだと、私は答えを出した。

 どう足掻いたって、旅の答えは自分で出すしかない。
 自分の足で歩き、自分の目で見つけ、自分の頭で考えていくしかない。



「しかし、今でも本当の幸せとか、自分の在るべき場所とか、よくわかってないってことよね」

「いきなり何を小説の主人公みたいなセリフを言い出すんだよ」

 男は苦笑いを浮かべる。

「自分の在るべき場所なんて、今ここにいる場所だろ?」

「あなたの考えはシンプルすぎですね」

「シンプルさというのは時に斬新なものだぜ。それともなんだ。自分の隣にでも来るか?」

 男はマキナの座るビーチチェアの下の砂浜に腰掛ける。

「遠慮します」

「そうか」

 男は空を仰いで目を細めて太陽を見る。

「自分の隣はお前の在るべき場所として空けてから、いつでも来いよ」

 その言葉を聞いて、マキナはぷっと笑う。

「それはプロポーズのつもりなの?残念だけど、“今は”お断りです。エッチな小説家さん」





 ノースト地方のオートンシティでの一画。

 大きな火柱が立ち昇った。
 影響として、側にいたワルビアルと一人のトレーナーが吹っ飛ばされた。
 ワルビアルは大火傷を負ってダウン。
 トレーナーは何とか受身を取って、次のポケモンを繰り出した。

 ランクルスが腕の細胞を伸ばしてピヨピヨパンチを繰り出す。
 それを体全身で受け止めるバクフーン。
 そのまま背中から炎を繰り出し、火炎車でランクルスに炎のダメージを与えいていく。
 特性の『マジックガード』で火傷は効かないのだが、通常の炎攻撃にランクルスは悶絶する。
 その隙を狙って、バクフーンの『ブラストバーン』が炸裂したのだった。

「くっ……まだだ!」

 紫のロングヘアの男……ビリーは諦めずにピクシーを繰り出して立ち向かっていく。



 “あの事件”で落ち込んだサクノの力になりたかった。
 だから、彼女の生まれた街であるタマムシシティに付いて行った。
 葬儀が終わった後も、彼女の母親に許可を取って、家まで会いに行った。

 だけど、彼女は葬儀以降ずっと塞ぎ込んだままだった。
 何とか策を練ったけれども、すべてが無駄だった。

 そのまま1週間の時が経った。
 変わらずに俺は彼女の家に行ったのだが、彼女の姿はなかった。
 母親の話によると、憑き物が落ちたかのように元気を取り戻して、外に行ったのだという。

 実際に彼女を見つけ出して話をすると、そこにはあの事件の前とほぼ同じ彼女の姿があった。
 違うところといえば、グンと大人っぽくなった表情をしていた。
 1週間しか会っていなかったというのに。

 彼女が元気になったことはよかったのだが、俺はショックだった。
 自分はまったく力になれなかったことに、虚しさを覚えたんだ。



「はぁはぁ……ぐっ……!!」

 ビリーは地面に大の字に寝転がって、息を切らしていた。

「あんたの『エンゼルハート』の力は凄いけれど、持久性がないわね」

 煙草をふかしているカズミは、傷ついたバクフーンを撫でてやる。
 ぐったりとしているが、意識はしっかり有り、カズミに寄り添っていた。

「もっと、天使の力をコントロールできるようにならないと……!!」

「力を使うのもいいけど、基本的な力を伸ばさないとダメよ。その力はあくまで切り札として使わないとね」

 フゥと煙を吐いて、カズミは聞く。

「ところで、あんたはサクノのことが好きなの?」

「そうだ。好きだ!だから、俺は……強くなる!彼女に頼れるような男に俺はなるっ!」

 起き上がって、ビリーは力いっぱいに手を振りかざす。

「無理ね」

「なんだと!?」

 ばっさりと言い捨てるカズミに食いかかるビリー。
 しかし、キッと目で射られたビリーは一瞬怯む。

「サクノは絶対にあんたに頼ろうとはしないわ。ましてや、恋愛対象として見ようとはしないでしょうね」

「……っ!! どうしてそんなことが―――」

「彼女の気持ちの大半は恋愛感情よりも憧れや尊敬で動いている。すべてのものを敬い、自分の信条に従って動いている。さらに若干相手の気持ちに鈍い。

 彼女にもし男ができるとしたら、下心に自制心があり、ひたむきな男でしょうね。その場合、彼女の方から惚れるというシチュエーションになると思うわ」

 ケータイ型の灰皿に吸殻を捨てて、立ち去ろうとする。
 バクフーンもカズミに従ってついていった。

「……いや、あきらめへんで!」

「…………」

「誰かが言ってたんや。“諦めたらそこでバトル終了だよ”ってな!!」

 体力を失っていたビリーのピクシーがバクフーンに向かっていった。
 バクフーンはピクシーの全力の攻撃を受け止めて、拮抗する。
 その様子を見て、カズミは心の中でフッと笑う。

「(まぁ、私もラグナに10年も片思いを続けて結ばれたんだから、100%無理とは言い切れないかしらね)」

 そうして、カズミはビリーの稽古に付き合っていったのだった。

 その稽古の成果が出るか否かは別の話ではあるが。





「戻りました」

“おー、おつかれー”

“おつかれさまです!”

 彼女が署内に戻り、広い事務所に戻ると、誰もが彼女を注目する。
 20〜30才の面子が多いこの組織の中で、彼女は数少ない10代の署員だった。
 しかも、まだ若いにもかかわらず、あらゆる事件へと積極的に出向き、中心となって解決していた。
 いつしか、誰もが彼女を一目置いていた。

「サークノ!」

「サクノ先輩凄いです!また、事件を一人で解決してきちゃったんです!?」

「わっ!?クラキさん、ミユミ!?」

 そんなサクノに突進してきたのは一つ年下の後輩のミユミ。
 彼女の左腕に絡みつき、キラキラと上目遣いで羨望のまなざしを送っていた。
 もう一人のクラキさんと言うのは、20歳の女性署員で、サクノが入社したときに指導してくれた先輩である。
 サクノの頭を撫でて、誇らしげに頷いていた。

「今月に入って10件も解決……これはもう、完全に抜かれちゃったわね」

「さっすが!もう、サクノ先輩はあたしの嫁に決定ですね!」

 サクノ、クラキ、ミユミ。
 この三人の女性たちは、いつもこうやって喋っていた。

 クラキとミユミも実績ある人間である。
 クラキは新人教育のスペシャリストといわれ、さらにタマムシシティの取り締まりは、彼女の右に出るものはいない。
 ミユミは署内だけの活動だが、尋ねてくる人間やポケモンに親身になって対応し、彼女と話をした者は、笑顔で出て行った。
 そんな彼女ら3人は、いつしかタマムシ署内の看板娘トリオと呼ばれるようになっていた。

 しかし、その中でもサクノの人気は凄かった。

“サクノさん!付き合ってください!”

“僕とクチバシティの夜景でお食事に行かない?”

 数十人の男性から、言い寄られていたのだ。
 だけど、彼女は笑顔で彼らの誘いに乗って、その想いを打ち砕いていた。
 男性はストレートにその気持ちを伝えるのだが、その気持ちはまったくサクノに届かず、「(友達として)大好きだよ」で止まるのである。
 その影響で、サクノの知らない裏側で、男性署員のサクノを巡る戦いが繰り広げられているのである。



「えー、サクノ先輩……なんでアルスさんの誘いまで断っちゃったんですか?」

「うん?」

「だって、アルスさんと言ったら、このタマムシ署内で1番のイケメンかつ2番目に実績を持つ人ですよ?」

 ちなみに、署内で1番の実績を持つのは、サクノだということは言うまでもない。

「仕事のことは完璧なのに、男の扱い<こういうこと>はまだまだね」

 ちゅーと紙パックに入ったレモン牛乳を飲みながら、微笑んで話すクラキ。

「あれは、『一緒に事件を解決するためにペアを組もう』と言われたから、断ったのよ」

「え?普通それって断らないんじゃ?」

「今、bQのアルスさんと行ったら、効率が悪いじゃない。だから、私とアルスさんは別々に活動した方がいいのよ。……あ」

 サクノは腕時計を見て、立ち上がる。

「そろそろ、街のパトロールに行ってくるわね!」

 そういって、署内を後にするサクノ。

「サクノ先輩……勿体無いです」

「天然なんだかー……鈍感なんだかー……」

 残念そうに呟くミユミとくすくすと笑うクラキ。

「でも……」

「そこが彼女のいいところよね」

 二人はそんなサクノが大好きなのだ。





「異常は……なさそうね」

 行き交う人に挨拶を忘れないサクノ。
 その挨拶を皆笑顔で返してくれた。

「(うん。私はこの街が好き!)」

 子供は皆笑顔ではしゃぎ、トレーナーは楽しそうにポケモンバトルをする。
 彼女が一通り見渡したところでは、誰も不満なんてなさそうだった。

―――「その希望……あんたなら叶えるかもね」―――

 ふと、サクノは2年前のあるバトルを思い出していた。

―――「ほんとにスリルのあるバトルだったわ」―――

 キョスウカイによって呼び出された『大地の守護者』アンリ。
 サクノとアンリはバトルをし、結果、ウインディの『フレアドライブ』とドダイトスの『ウッドハンマー』が相打ちになったが、サクノのライチュウが残ったため軍配はサクノに上がった。
 アンリが消えゆくとき、サクノに満足そうに聞いた。

―――「あんたの希望は、あたしと同じなのね」―――

―――「そうね。根本的な部分は同じかも」―――

 二人は微笑みあう。

―――「もしかしたら、あんたはあたしの血を受け継ぐものなのかもしれないわね」―――

―――「その証明は難しいわね」―――

―――「一つだけ助言をしてあげるわ」―――

 そして、アンリが消える時、最後に一言だけサクノに伝えた。

―――「例えどんなに苦しいことがあっても、どんなに悲しいことがあっても、逃げずに受け止めなければならない。

    それらを乗り越えてこそ、あんたの希望が見えてくるのよ」―――

「(カナタやビリー、マキナの存在もあったけど、あのアンリの言葉が私を励ましてくれた。お父さんが死んでも立ち直ることができたのは、みんなのお陰ね)」

“うわーん!たすけてー”

「!?」

 6歳くらいの小さな女の子が泣きながら走っていた。
 サクノは慌てて女の子に駆け寄り、身を屈めて女の子と目線を合わせた。

「どうしたの?」

“おにいちゃんが……しらないおにいちゃんが……わたしとイーブイをたすけるために……!”

「……!分かったわ」

 そう言って、サクノは少女の頭を撫でてやる。

「お姉ちゃんが行って、助けてくるから」

“ほんとう?”

「ええ。任せて」

 屈託のない笑顔を見せるサクノを見て、女の子は泣き止んで、頷いて見せた。
 そして、サクノは走って路地裏に入っていった。

“おい。おーい。お前は何のためにさっきの女の子を助けたんだ?”

“まさか、かわいそうだから助けたーなんて偽善者っぽいことを言うんじゃないだろうな?”

“アハハッ!違うわよ!きっと、さっきの女の子が好きなのよ。小さい子が好きなロリコンよ!”

 3人組の人間が、ニット帽を被った少年を痛めつけていた。
 その少年は何かを庇うように蹲っていた。

「あなたたち、やめなさい!」

“んー?”

“なーに?あの女”

“へへっ”

 ニヤニヤと一人の男がサクノに近づいていく。

“よく見たら、すげー美人じゃん”

“たいしたことないわよ、そんな女”

“どうだ?俺の女にしてやんよ……イタタタタッ!!のわっ!?”

 ドスッ

 サクノの顎をしゃくろうとした男が、肩の間接を決められ、さらに足をなぎ払われて、そのまま気絶した。

“にゃろっ!女のクセに調子に乗りやがって!”

 ナイフを持って、スッとサクノに突き刺そうとする。
 しかし、サクノは脇で男の腕を掴み、ナイフを持つ腕を封じる。
 そして、足を払って男をなぎ倒した。

“あんたたち!?……くっ、それならゴルダックっ!!”

 女はモンスターボールを取り出して、サクノを攻撃しようとするが、行動に移れなかった。

“うっ”

「無駄な抵抗は止めて投降しなさい」

 ゴルダックの胸元に、ライチュウの尻尾が突きつけられているのだ。
 何かをすれば、ライチュウが電撃を放ち、ゴルダックもろとも女をダウンさせるつもりだった。

“ま、参ったわ”





 3人を暴行事件で逮捕し、この場に残ったのは3人である。

“おにいちゃん、おねえちゃん、ありがとう!”

 イーブイを抱えた女の子は、2人に礼を言って去って行った。
 そんな女の子に向かってサクノは、笑顔で手を振って見送った。

「それより、あなた……大丈夫なの?」

「……あ、うん……ぼくは大丈夫だよ」

 特徴は黄色い髪のミディアムカットでちょっと目立った少年だった。
 年齢はサクノと同じくらいだろうか。
 ヨロヨロと歩く少年の手をサクノがすかさず掴んだ。

「無茶しちゃダメよ。どうしてこんなことをしたの?」

「……どうしてって……? ―――ダメなの?」

「え?」

「理由がなくちゃ、困っている人を助けちゃダメなの?」

「…………」

 少年の言葉に、サクノは何かを感じた。
 そして、サクノの手を離れ、ヨロヨロと目的の場所へ向かって歩いていく。

「あの3人組から聞いたろ?『ポケモン窃盗団』はこのタマムシシティを裏から狙っているって。ぼくは捕まったポケモンたちを助けたいんだ」

「ちょっと、待って!危ないわよ!」

「ぼくは……困っている人を見捨てることなんてできないんだ」

 見るかぎり貧弱そうで、足取りも頼りない。
 風でも吹けばあっという間に吹き飛ばされそうな弱々しいイメージしかない。

「(でも)」

 サクノには彼に何かを感じた。

「(彼の言葉に弱さはまったく感じられない)」

 そのとき、サクノの心がふと熱くなった気がした。
 その感情を彼女はまだ理解できない。

 フラッと少年は膝を衝く。
 倒れそうになる少年をサクノが肩を掴んで支えてやった。

「あっ……?」

「立ちなさい。助けに行くんでしょ?それなら、私も行くわ」

「……ぼく一人でだけいいよ」

 そう少年は言うが、その少年の額を指でツンとつついてやるサクノ。
 少年は額に手を当てて、驚いてサクノの顔を見た。

「私はこれでも警察関係者なのよ。一般市民に任せておくのは職務上できないのよ。それに悪を放ってはおけない性質でねー」

 そう言って、サクノは右手を差し出した。

「一緒にやりましょう」

 とびっきりの笑顔で言うと、少年は若干顔を赤くした。

「お願い……します……」

「私はタマムシシティのサクノ。あなたは?」

「ぼくはマサラタウンの……サイオン」










  この広い世界には、たくさんの人間がいて、たくさんの種類のポケモンたちがいる。

  このストーリーは、そんな人間とポケモンたちを軸に、過去と現在と未来を繋ぐ、記録である。










 第19話 完



 アトガキ

 WWSシリーズの最後のお話です。
 すなわち、これが本当の終わりと言うことになります。
 長かったー。

 WWSに始まり、DOC、テールデュ、UD、オメガ、そしてイオタ。
 すべての物語がいろんなキャラを通じて展開して行く話は、書いていて面白かったですが、同時に難しかったです。
 多分、もうこういうストーリーは作らないでしょうね(苦笑)。

 この物語の主人公はやはりヒロトのわけです。
 そんなわけで、ちょっとヒロト視点で物語を解説していきます。


 WWSの第一章で故郷を旅立ったヒロトは、ポケモンリーグに出るためにジムを巡ります。
 リーグの決勝でセンリに勝利し、ノーストリーグを制覇します。
 だけど、幼馴染のヒカリと両想いだったにもかかわらず、すれ違ってしまってしまいます。

 第三章が始まるまでに、ホウエン地方、ジョウト地方とポケモンリーグを制覇したヒロトは実質ポケモンマスターになりますが、ヒカリを探し続けます。
 その途中のトージョーの滝で、ノースト地方のロケット団のリーダー格だったバロンに急襲されます。
 確実に実力をつけていたヒロトでしたが、当時実力を隠していてさらに力を上げたバロンは幹部になっていて、不意打ちとはいえあっさりと敗れてしまいます。

 トージョーの滝に落とされたヒロトは、ミユキという未亡人の女性に助けられます。
 手当てを受けたヒロトは、記憶喪失になっていました。
 彼女と半年間過ごした後、オレンジ諸島を漂流し、アーシア島へと辿り着きます。
 巫女のフローラに救世主の役目を押し付けられたヒロトは、3つの島へと赴きますが、そこでロケット団の幹部のエドと戦う羽目になります。
 戦いの最中、ヒロトは記憶を取り戻し、アーシア島を救います。

 本編では語られていないのですが、ここでナナシマへ修行を行います。
 1の島で基礎的なレベルアップをし、2の島でキワメ婆さんの言葉を授かり、3の島、4の島といくつかの出会いがありました。
 5の島では、ロケット団のルーキーズだったユウナと戦いました。
 7の島でタワーの記録に挑戦し、ハイスコアを出したヒロトは、カントー地方へと戻ります。

 第三章では、ロケット団の幹部のシードに襲われているマサト、ハルカ、ユウキを助けて、そのままカントー地方を旅します。
 セキクチ、シオン、ヤマブキを経由し、再びタマムシに戻ったヒロトたちは、ロケット団からホウエン地方で手に入れたジラーチを奪還します。
 マサラタウンでそのジラーチを巡り、エースと激突をしたり、スナッチャーの少女のカレンと出会ったりします。
 フォッグス島での戦いを経て、戻ってきた次の日に、カントー地方の全面戦争が勃発します。
 ヒロトはタマムシシティへ向かい、我を失ったユウナを懐柔し、宿敵の幹部バロンを倒します。
 ユウナから情報をもらい、エースからヒカリがロケット団に入ったことを知ったヒロトは、心に決めてお月見山へと向かいます。
 そこでダークスターのダイナと激闘を繰り広げましたが、倒すまでは至らず、ヒカリの命を失ってしまいます。

 DOCの中盤まで、ヒロトはヒカリを失った悲しみに打ちひしがれて、ずっと沈んでいました。
 もしもリュウヤがヒロトに目をつけていなければ、自らの命を絶ってヒカリを追いかけていたかもしれません。
 その彼の存在を気に掛けていたのは、彼に救われたユウナと踊り子のオトハでした。
 特にユウナはヒロトのことを叱咤し、ヒロトに好意を寄せているオトハの背中を後押ししました。
 しかし、エグザイルとの最終戦で、爆発と共にヒロトは、オトハたちの前から消滅してしまいました。

 テールデュ2期でヒロトが出てきますが、そこは50年後の世界でした。
 禁忌<タブー>の爆発によって生じた現象により、未来へ飛ばされたのでした。
 そこでココロと言う少女に会って、自分を縛っている鎖を解いてもらった後に未来の運命を聞きます。
 未来は絶望へと向かっていて、その原因を作ってしまったのが、あろうことかアソウと名乗ったマイデュコンセルデラルミーラの大幹部のユウナだったのです。
 戦いの果てに、ユウナはボスに殺されてしまいますが、ヒロトはその事実を受け入れて、過去へと戻ります。

 テールデュ3期では、既に戦いが勃発している決戦の地であるニケルダーク島に到着しますが、方向音痴ゆえに最後のクロノと戦うまで辿り着けませんでした。
 戦いを終えて、ヒロトはオトハにポケモンリーグで戦う約束をします。
 そのポケモンリーグで、実際にヒロトは準々決勝でオトハとバトルすることになります。
 接戦でしたが、最後はヒロトのライチュウがオトハのワタッコに打ち勝ちました。
 準決勝でライバルのエースには敗れますが、オトハとの約束を果たしたヒロトは、結ばれます。

 ヒロトとオトハは幸せな家庭を築き、長男にオト、長女にサクノの2人の子供を授かります。
 実はヒロトの知らない事実として、ミユキとの間にカズミ、ココロとの間にキトキという2人の隠し子がいます。
 この事実を知っているのは、数えるほどしかいません。

 UDの終盤まで平和な家庭は続いていましたが、オトとユウナの失踪を期に、ヒロトはオトハとサクノを残して、旅に出ます。
 一番の目的は、未来を絶望に染めてしまった原因のユウナを見つけ出すことでした。
 しかし、結局は見つけ出すことはできず、ヒロトは大事な娘であるサクノの為に命を落としました。


 延々と書いたけど、ヒロトのことだけでこんなに書けた……。
 なんか、いろいろやっていたんだなぁ、ヒロト(汗)。
 もし、すべてのシリーズを読む機会があったら、一人のキャラをこのように追いかけていくのも面白いかもしれないですね。

 長くなりましたが、WWSシリーズはこれにて終了です。
 8年という長い間お付き合いいただいてありがとうございました。
 そして、最後にイオタ20話というエピソードがどこかにございます。
 探してみてはいかがですか?(ェ)

HIRO´´ 2012年09月01日 (土) 07時44分(38)


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