[407] Strange Encounter(後編) |
- KAEDE - 2007年05月21日 (月) 19時13分
『タカくん早く!』 俺の先を全力で走るこのみが振り返りながら言った。幼い頃はいつも追いつけなくて泣きながら背中を追いかけてきたこのみだったが、中学を過ぎた頃からその立場が見事に逆転してしまっていた。なんだってこいつはこんなに足が速いんだ? 高校の時も部活動はしていなかったと思ったが・・・。 このみの姿を息を切らせながら追いかけている自分がなんだか情けなくなってきた。それでもこのみは容赦なく俺を急かし、挙句の果てには俺の手を強引に引っ張って走り始めた。 『こ、このみ・・・ちょっとタンマ・・・・・・』 『待てないよ! こうしている間にもるーこさん帰っちゃうかもしれないじゃない!』 『るーこを見たっていうのは本当なのか? 一体どこで・・・』 『え? タカくんの家の前だよ』 『俺の家だって?』 『うん。玄関の前で立ち止まって・・・ずっと扉を眺めてたから多分タカくんはまだ帰ってないんだろうな、ってそこでわかって・・・』 『るーこには会ったのか?』 『ううん。声をかけようとしたんだけれど姿を見失っちゃって・・・』 『見失う? どこへ向かったのかはわからないのか?』 『うん・・・。ずっと玄関の前にいたはずなのに・・・まるで消えるようにいなくなっちゃったの』 一体どういうことだろう。やっぱり見間違いじゃないのか? いや、あのるーこのことだ・・・何をやってもおかしくはない。しかし「消えた」とはもしかしてもう帰ってしまったのか・・・? 『と、とにかくタカくんに会いに来たんだろうな、って思ったからユウくんとタマお姉ちゃんと一緒にタカくんを探してたんだよ! タマお姉ちゃんが「タカ坊ならきっと彼女の居場所もすぐにわかるわよ」って言ったから』 タマ姉・・・俺にはるーことテレパシーを交わすような能力はないぞ。いや、そんなことはどうでもいい。確かに俺が行けばるーこは案外ひょっこり出てきたりするかもしれない。るーこの神出鬼没ぶりは三年前に何度も味わったからな。 しばらく走り続けてようやく前方に我が家が見えてきたその時だった。「るーるる るーるる るーるーるー」というどこかで聞き覚えのある・・・いや、一度聞いたら忘れるはずもない奇妙なリズムの歌が耳に入ってきた。こんなわけのわからないリズムを刻む奴は・・・。間違いない、るーこだ! 『えっ? た、タカ坊!?』 と、思ったのがその正体は何故かタマ姉だった。タマ姉はご丁寧にも両手を天に向けて突き上げ、奇妙なステップを踏みながら俺の家の庭で舞を踊っていた。俺に気づいた途端にすごい勢いで両手を下ろし、その場にへたりと座り込んでしまった。 『も、もう! 心臓に悪いじゃない! いるなら「いる」って言いなさいよ!』 それ以前になんでそんなことをしているんだ、と問いたい。まさか大学の勉強があまりにもハードすぎてついに頭がおかしくなってしまったのだろうか。もしくは雄二に変な電波を送り込まれたのか・・・。いや、後者はまずありえないだろう。 『違うわよ! こ、こうしてれば・・・あの子が出てくるかな、って思っただけで・・・』 俺に見られたのが相当恥ずかしかったのだろう。まるで熟したリンゴのように顔を真っ赤にさせたタマ姉は顔を逸らしたままそう言った。 あの子とはもちろんるーこのことだろう。三年前にるーこと花見をした日、るーこ(と俺)に強要されてこのみとタマ姉があの奇妙な舞を踊らされたことがあった。更には雄二がその一部始終を隠し撮りしていたという結末に至り(直後その映像はタマ姉よって処分されたが)、おそらくタマ姉にとってはゲンジ丸救出の次に大きなトラウマとなっているに違いない。それなのにわざわざるーこを呼び出すためにこんなことをやってくれていたのか。・・・そんなことをしてもるーこは出てこないと思うが。 『う、うるさいわね! 誰のためにやってあげてると思ってるのよ! 大体、こんな時間までどこほっつき歩いてたの!?』 『ぶ、部活をしてくるといつもこの時間になるんだよ』 『あら、タカ坊ってば部活なんてやってたの? ・・・もう大学生なんだからせめてサークル活動とかもっとマシな表現にしなさい』 いや、アレは部活でいいんじゃないだろうか。高校の時と何も変わっていない気がするし。そもそもミステリ研は学校側から認められているのか? 高校の時はそこでやたらてこずったのだが・・・今回はそういう話はまったく耳にしたことがない。それが逆に怪しくて今度花梨を問い詰めておく必要があるな、と俺は心の中で静かにつぶやいた。 そういえば・・・花梨を置き去りにしてしまっていた。やはり彼女はあのまま帰ってしまったのだろうか。普通に考えればそれが妥当だろう・・・。告白の返事もまともに貰えないまま俺がその場から走り去ってしまったのだから。 後悔していないと言えば嘘になる。でも、るーこを探しに行かなかったらそれはそれで別の後悔の念が残っただろう。 密かに心の奥底でもしかすると花梨が追いかけてきたりしていないだろうか、とも思ったがそんな都合のいい展開はこの現実には存在しないのだ。どちらかを選べばどちらかを諦めなければならない。現実とはそういうものだ。 『ところでタマお姉ちゃん、るーこさんは・・・』 『出てくる気配もないわ。見間違いには思えなかったけれど・・・やっぱり帰っちゃったのかしら。本当に宇宙人なのね・・・』 『え、ルーマニアの人じゃなかったの?』 『このみ、あなたまだそれ信じてたの・・・?』 俺のとっさのでまかせを三年以上も信じ続けていたこのみは純粋なのか間抜けなのか・・・。思わず苦笑いが顔に出てしまった。 『ち、違うよ! ホントはちゃんとわかってたもん! うん、私わかってたよ? るーこさんは宇宙人なんだよね!』 やはりこのみは嘘を吐くのがヘタクソだ。この様子にはさすがのタマ姉も呆れたため息を漏らしていた。 そんなやり取りをしていたら不意に「にゃー」という猫の鳴き声が聞こえてきたので足元を見てみると三年ぶりに顔を見る白毛に黒斑のあの猫・・・通称「にゃー」がそこにいた。この「にゃー」という名前はるーこがつけたものであり、るーこは地球のものに何かと単純な名前をつける癖があるらしい。 『あれ、この猫さん何かくわえてるよ?』 『ホントだ・・・。これは・・・マッチか?』 そういえばるーこはマッチのことを「ちー」とか呼んでいたな。 ・・・待てよ。「にゃー」に「ちー」だって? まさか・・・。 『どうしたのタカ坊?』 『るーこ・・・!』
間違いない、これはるーこからのメッセージだ。やはりるーこは俺に逢いに来てくれたのか? しかしどうしてまたこんな突然に・・・。いや、今はそんなことはどうでもいい。メッセージを受け取った俺はその発信主に逢いに行くまでだ。 何故だか「にゃー」が俺の先をずっと走っている。まるで俺に「ついてこい」と言わんばかりに。確かに走り始めたはいいが何処に向かえばいいのかまでは考えていなかった。だからここは「にゃー」に賭けてみようじゃないか。こいつなら・・・こいつならちゃんと導いてくれる。そう信じて俺は走り続けた。 ふと歩道にマッチが散らばっていることに気づいた。まるで目指すべきを示すかのように等間隔にマッチが道の先に配置されている。これはるーこが落としたものなのだろうか。俺に道を教えるために・・・。るーこにとって「ちー」はとても価値のあるものであっただろうに、わざわざ俺のために・・・。 しばらくマッチを頼りに「にゃー」の後ろを追いかけていて気づいたのだが、このマッチはあの公園に向かって伸びている気がする。あの公園で待ってくれているのか、るーこ? そう思うと自然と足が速まった。それでもやはり四足で走る「にゃー」には敵わなかったが。
『よう、遅かったな』 なんと、意外なことにその先で待っていたのは向坂雄二の姿だった。雄二はニヤニヤした表情でマッチ箱を手にしている。口にこそしなかったが「もう不要か」とばかりにマッチ箱をポケットに突っ込む雄二。そして「ご苦労さん」と「にゃー」に煮干を食べさせていた。お前のポケットには一体何が入っているんだ。 大きく期待を裏切られた俺は露骨に肩を落としてそのままへたり込んでしまった。なんだ・・・こいつがやったことだったのか・・・・・・。 『おいおい、そんなに落ち込むなよ。ちゃんと目的の彼女への道標を作ってやったんだから少しは感謝してほしいもんだぜ』 『え?』 『え? じゃねぇだろ。るーこちゃんだよ。なんとか見つけることができたからずっと見張ってたんだ』 『なら携帯に連絡入れればよかっただろ。そんなストーカーじみたことしなくても・・・』 『そんな暇なかったんだよ。少しでも目を離すとすぐいなくなっちまうからな、あの子。ま、この公園に着いてからはそのまま移動しなくなったみたいだけどな』 『きっとバレてたんだよ、お前』 『はは、だろうな。あのるーこちゃんが気づかないはずがない。ま、彼女に一番最初に声をかけてやるのは俺なんかよりお前の方がいいんじゃないか、って思ったまでさ』 軽く両手を挙げて肩をすくませる雄二。それは一体誰の真似だ。 でも、こんな時ばかりは「いい親友を持ったな」なんてしみじみ思う。いつかはみんなに借りを返さなければいけないな・・・。 『んなこと気にすんなよ。早くるーこちゃんに逢いに行ってやれ』 雄二は、これから大舞台に立とうとしている愛弟子を励ます師匠のように俺の背中を強く二度叩いた。いつもはこんなことされてもなんとも思わないのだが今回ばかりは軽く涙が零れ落ちそうになった。持つべきものはなんとやら。偉い人は間違ったことは言わないものだな、と深く感じた。
『るーこ!』 姿を確認したわけではないがるーこが公園内のどこにいるのかは大体見当がついていた。るーこなら必ずあそこにいる。そう、あの滑り台の上に・・・。 『3時間待った。遅いぞ、うー』 とても懐かしい声が聞こえてきた。それを聞いただけで思わず涙が流れてしまう。俺って案外涙もろいのかもしれないな・・・。 『うーかもに連絡を入れたはずだぞ。聞いてなかったのか?』 るーこは確かにそこにいた。もともと長かった髪が更に長くなっていた。こうして見ると学生であるうちの三年間とはとても長いのだな、と感じさせられる。しばらく逢わない間にるーこは随分と・・・綺麗になっていた。本当ならばすぐにでも駆け寄って抱きつきたい衝動に駆られるのだが、あいにくるーこの居る場所が滑り台の上とかいうとんでもないところなのでそれが出来ず、うずうずしたまま俺は立ちすくんでいる。なんだか無性に悲しくなった。 『なんだ、いきなりそんな悲しそうな顔をするな。せっかく逢いに来てやったんだ、少しは嬉しそうにするがいい』 そう言ってるーこは滑り台の上から飛び降り・・・はせず、素直に滑り降りてきた。るーこも花梨同様、成長しておてんばな部分がなくなってしまったのだろうか。それでもあんな・・・もう大人と言える年齢の女性が素直に滑り台を滑り降りている姿を見るとなんだかそのギャップに笑えてくる。 『何を笑っている? 三年離れている間に頭がおかしくなったのか? 百面相と化しているぞ、うー』 『はは、ごめんごめん。久しぶりだな・・・るーこ』 『ああ、うーも随分と大人になったのだな。るーと同じだ』 ドラマや小説で見る感動の再会とはこういう状況のことを言うのだろうか。そのわりには少し感動に欠ける気もしたが、「るーこにまた逢えた」今の俺にはそれだけで十分だった。 『宇宙人も成長するんだな』 『当たり前だ。住んでいる星以外はうーたちとほとんど変わらないぞ』 「るーの力」とかいう奇跡は何よりのるーこの特徴だと思うのだが。 『それは違う。「るー」を信じれば誰にでもできることだ。うーたちは最初から「るー」を信じる気がないからるーの奇跡を起こせないのだ』 『でもるーこの星ではその力を使える回数に制限があるんだろ? そういうのがあるくらいなんだからやっぱりるーこの星の人にしかできないんじゃないのか?』 『それは考え方次第だ。るーとうーとでは信じるべき対象が違うからその解釈は微妙に異なる。ここでは「神」と呼ばれる存在が「るー」に相当する』 なるほどね。つまるところ「神頼み」ってことか。神頼み程度で奇跡が起こせるなら地球上の人間は苦労していないだろうな・・・。 『うーたちには信じる気持ちが足りない。心の底から信じれば願いはかなうものだぞ、うー』 説明が遅れたがるーこが言う「るー」やら「うー」やらは自分や相手を指す際に用いる言葉である。簡単に言うならば「るー」が「私」で「うー」が「あなた」といったところだろう。 ところで、さっきるーこがさらっと気になる発言を口にしていた気がする。 「うーかもに連絡を入れたはず」だって? るーこは花梨と連絡が取れたのか? 花梨からそんな話は一言も聞いたことがないぞ。もしそんなことができるのならば真っ先に俺に教えてくれそうな彼女なのだが・・・。 『ふ・・・。うーにはまだ女心が理解できないようだな。そんなものだからうーかもはうーにこのことを伝えなかったのだろう』 さて? 一体このお嬢さんは何を言っていらっしゃるのだろう。女心だって? 宇宙と通信するのに女心が関わってくるものなのか? 『やはりな、まるでうーはわかっていない。るーはうーかもにこう言った。「うーに伝えるかどうかはうーかもに任せる」と』 任せる、か・・・。見事なまでに花梨は何も話してくれなかったな、るーこのことは。 『ならばやはりうーかもはうーのことが好きだったのだな。うー、今さっきうーかもに何か言われたりしなかったか?』 心臓が跳ね上がりそうになった。花梨が俺に告白したこと・・・知ってたのか? さすがは宇宙人。予知能力のようなものも心得ているらしい。 『そんなことはないぞ。少し考えればわかることだ。るーがこの星に居た数日間、いろいろなうーを見てきたが・・・その中でもうーかもは特にわかりやすい方だった。あの様子を見ていればすぐわかる。うーかもはうーのことを好いていた、ただそれだけだ』 確かに花梨は「高校生の頃から好きだった」と言っていた。なんだかだんだん花梨に申し訳なくなってきた。もしかすると気づかないうちに何度も花梨の心を傷つけてしまっていたのかもしれない。今日だって・・・返事もせずに花梨を置き去りにしてきてしまった。いや、告白してくれた花梨を放置してるーこを探しに行った時点で既に返事はしたようなものだろうか・・・。 『うーかものことが気になるか?』 るーこにピンポイントで尋ねられて思わず息を呑む。花梨といる時はるーこのことばかり考え・・・るーこといる時は花梨のことばかり考えてしまう・・・。俺はなんて最低な男なんだろう。どうして素直に本人の目の前で本人のことを考えてあげられないのだろう。 『それはうーもまた、うーかものことを好いているからだ』 口には何も出していないのだが、るーこにはどうしても考えていることを見事に読まれてしまうようだ。宇宙人の能力とかそういうものではなく、俺がものすごくわかりやすい顔をしているからなのかもしれない。タマ姉にも昔よく言われたものだ。「タカ坊はすぐ顔に出るからわかりやすいわ」と。 『大丈夫だ。うーかもはまだ帰ってはいない。探せばすぐに見つかるだろう。行ってやるがいい。うーかもはうーのことをきっと待っているはずだ』 るーこの言うことはもっともだった。だが、俺はそれに従うわけにはいかなかった。俺はるーこに逢いにきたんだ。雄二に背中を押され・・・花梨の励ましも受けた。もう後戻りは出来ない。俺は・・・るーこを選んだんだ。 『るーのことは気にしなくていい。るーがこの星に着いた時、うーが家で待っていてくれなかった時点でうーがどちらを選んだのかはわかっていた。うーかもにはそういう条件で伝えていたからな』 どういうことだ? るーこは俺が家で待っていれば「るーこを選んだ」 そうでなければ「花梨を選んだ」 と言いたかったのか? だが俺はそんな話聞いてなかったんだ。選ぶ、選ばない以前に何も知らない俺は後者にしかなりえないではないか。 『本当の事を言うとるーたちはうーのことを少しばかり騙していた』 『騙す・・・だって?』 『実はうーかもの努力のおかげで一年ほど前からるーと連絡する手段を既に持っていたのだ。それからるーたちは定期的に連絡を取り合っていた』 『なんだって? どうして俺には教えてくれなかったんだ!』 『フェアにいこうと思ったのだ』 何がフェアだ。まったくわけがわからない。そんなに前から連絡が取れたのならさっさと教えてくれればよかったじゃないか。なんだか無性にこの二人に腹が立ってきた。何故俺だけが除け者なんだ。 『違う。先ほども言っただろう。うーかもはうーのことを好いている、と』 『まさか・・・花梨は俺とるーこを逢わせたくなくてそのことを隠していたのか?』 『いや、これはるーが提案したことだ。るーは以前地球に来た時、うーと二人きりで数日間を過ごした。その間うーかもはずっと我慢してきたんだ。うーのことが好きだったのに、その気持ちを自分の中に閉じ込めて・・・』 『でもるーこが星に帰った後は花梨と二人きりでいる時間のほうが長かったと思うぞ?』 『それはどうだろうな。うーはるーのことをずっと忘れられずにいたのだろう? うーかもはそれがわかっていたから必死にるーとの連絡手段を探していたのだぞ』 つまり・・・どういうことだ? 花梨は俺のためにるーことの連絡手段を実現させたというのか? ならなおさら俺に教えてくれるはずじゃないか、その事実を。 『うーかもは自分の気持ちに正直な行動をしてこなかった。るーとうーのためにずっと我慢していたのだ。だからるーは提案した。「一年間の時間を与える。その間、うーを好きに扱うがいい」と』 ちょっと待て、俺は物扱いかよ! 『そういうことではない。うーのことが好きならその気持ちを伝えるがいい、と言ったまでだ。あのままではるーばかりが有利な状況にいることになってしまうからな。フェアにいこう、というのはこういうことだ。るーもうーかもも共にうーのことを好いている。いや、愛していると言ってもいい。だから、正々堂々とうーの心を取り合えばいい。そうしてうーの心を自分のものにした方がうーの恋人になれるのだ』 俺の知らないところでそんな争いが起こっていたのか。最近花梨が妙に積極的だったのはこういうことだったのか。妙に納得できてしまった。 『今日であの提案した日から丁度一年経った。だからるーは地球に戻ってきた。うーを手に入れるために、な』 もはや俺のことは勝者にささげられる賞品のような扱いである。まぁ、最終的にどちらを選ぶのかは俺の気持ち次第なのだろうが・・・何故か納得いかない。俺に内緒で二人して何をやっているんだまったく。 うん? ちょっと待てよ。るーこは花梨に「一年間の時間を与える」と伝えた、と話していたよな? ということは・・・ 『まさか・・・るーこ、お前いつでも地球に来れる状態だったんじゃないのか?』 『うーにしてはなかなか鋭いな。確かにその通りだ。本当の事を言ってしまえば別れたあの日の翌日にでも帰ってこれる勢いだった』 『な、なんだって!? じゃあ・・・俺の三年間の苦悩は一体なんだったんだ・・・・・・』 『まぁ、そう言うな。るーだってあの頃は悩んでいたんだ。うーと離れるのは確かにつらかったが・・・やはり住んでる星が違うのだ。いずれは諦めなければならないと考えていたのだ』 こうして本人の口からそれを言われるとその意味の大きさを思い知らされる。そう、俺たちは住んでる星が違う・・・。お互いの常識のほとんどが違う境遇にあるんだ。 『うーかもに与えた一年間という期間も、るーにしてみれば気持ちの整理期間でもあった。うーのために自分の星を捨てられるか、という決断をするための・・・な』 そうだったのか・・・。るーこは俺のせいでそんな大きな決断を迫られていたのか。 それで・・・こうして地球に来たということは・・・・・・。 『ああ、覚悟はできた。あとはうーのハートを掴み取るだけだ』 ハートって・・・おいおい。外人のような外見のくせにるーこには何故か英語が似合わない。普段からそういう単語は宇宙語かよくわからないるー語で表現していたせいだろう。英語の使い方まで覚えて・・・地球に移住する気満々ではないかこのお嬢さんは。 『しかし・・・今のうーの様子を見ていると、うーかもは一年間でうーを落とすことはできなかったようだな? そうなるとるーにもまだチャンスはあるということだ』 『チャンス?』 『ふ・・・。これからはるーとうーかもの二人でうーを取り合うぞ、リアルタイムでな』 な、なんだって!? そんな嬉しい展開が待っているのか? 俺としては大歓迎だ。ていうか・・・本当に・・・こいつらは・・・・・・。 『そういう話で間違いはないな? うーかも』 『あ、あはは・・・。う、うん。これからが大変になりそうだよねぇ』 なんとうーかも・・・じゃなかった、笹森花梨が草の茂みからばつが悪そうに飛び出してきたではないか。なんてベタなところに潜んでいたんだこの会長は・・・。しかも今までのやり取りを全部見ていたというのか? 『ほんっとごめんね、タカちゃん。私がいつまでもハッキリしなかったせいでこんなややこしいことになっちゃって・・・』 まったくだ。未だにわけがわからないぞこの展開。誰かもう少し完結に説明してくれ。 『るーにとってはこの方が都合がよかったのだがな。さすがのるーも失敗したと思っていたのだ。「一年間」とは長すぎる期間を与えてしまったものだ、と』 『うん、私もやたら長いなーって思ったんよ。るーこさんがタカちゃんと過ごした期間はほんの一ヶ月程度なのになー、って』 『るーこでいいぞ。るーたちはこれからはお互いライバルなのだからな』 そんな危険な単語をあっさり口にしないでくれ。「ライバル」だの「勝負」だのと聞くと神速で飛んでくるネジのずれた知り合いが一人いるからな・・・。 『うん。じゃあるーこ、これからは容赦しないかんね!』 『わかっている。最初からそのつもりだった。わざわざるーのために告白もせずに待っていてくれたのだろう? いや、今日フライングしていたか?』 『うわ、さすがるーこは鋭いなー。こりゃあ油断できないね、タカちゃん!』 『何故俺に振る!?』 『え、だってさっきの返事まだ聞いてないよ、私』 な・・・。こんなわけのわからない話を聞いた直後にそれを持ち出すのかあなたは。いや、確かに人として返事をしなければならないのだろうが・・・ちょっと待ってくれ。やっぱり状況を整理する時間くらいは欲しいぞ。そうだな・・・例えば一年くらい。 『長すぎるぞ、うー。三分で充分だ』 俺はカップ麺程度の人間ですかるーこさん。 『ふ、どのみち考える時間など与えない。いつの日かうー自身の口から「好きだ」と聞くまでるーは付きまとい続けるからな』 三年前に言ったじゃないか! 接吻まで交わした仲だというのに。 『そんなのはもう時効だ。それで決めてしまったらうーかもはどうしようもなくなる』 『あ、でもねでもね。さっきね、タカちゃん言ったよね? 「俺も・・・俺も花梨のことが大好きだぁぁぁ!」って!』 『なんだと・・・? うーかも、フライングとは貴様・・・』 待て待て待て。俺はそこまで言った覚えはないぞ? 話の途中でこのみが乱入してきて・・・・・・ 『じゃあ今言っちゃおう。さぁ、どうぞ! 「俺も花梨のことが・・・」なんでしょう!?』 なんだか完全に遊ばれている気がする。これからしばらくこの二人に振り回されることになるのだろうか。早いところどちらかを選んでおいた方がよさそうだな・・・。 と、言いたいところだったが今のかなりぶっ飛んだ話を聞いてしまったせいでどちらかをどういう理由で特別に好きだ、とかいうのがかなりどうでもよく思えてしまった。どうでもいいはずはないのだか・・・なんというのだろう、両方選ぶチャンスが訪れたということでそんなに焦る必要がないな、と心の奥底で考えてしまったのだ。俺の中の好感度パラメータはるーこも花梨も五分五分といったところだ。両方に好かれている、なんて知ってしまえば二人とも恋人にしてしまいたくなるのは俺だけではないだろう。 そんなわけで完全に二股状態なのだが、最終決断はもう少し時間が経過してからでもいいだろう。当分の間はこの二人に振り回されそうだが、それも含めて想いを深めていけばいいのだ。いっそのこと一夫多妻制を認めている国にでも逃げてしまおう。そうだ、そうすればどちらかを選ぶ必要も悩む必要もなくなる。「二人とも好きだ」それでいいじゃないか。 『いいわけないでしょタカちゃん!』 『本当にうーは女心というものが理解できていないのだな』 俺は男ですからねお二人さん。 『小学生じゃないんだからそろそろわかるようにならなくちゃダメだよ』 『それとも小学生からやり直すか? るーの奇跡を持ってすれば案外できてしまうかもしれないぞ』 やめてくれ、それはさすがに勘弁してほしい。あのめんどくさい学生時代を再び繰り返すのはもう御免だ。 この先が思いやられるな。この勢いだと毎日が波乱万丈の日々になりそうだ。両手に華というのもただ気分が良いだけのものではないようだ。 『しかし先ほどから気になっていたのだが、その巨大な荷物は一体何なのだ? うーかも』 『あ、これ? 今日からタカちゃんの家にお世話になろうかと思ってー』 待て。今、何と言った? 今日「から」と言ったのか? 今日「だけ」泊まるんじゃなかったのか、おい! 『えー、だってホントのこと言ったらタカちゃん絶対嫌がるじゃん』 当たり前だ! 女の子と同棲とか唐突過ぎるぞいくらなんでも。 『このみちゃんとはいつも一緒って聞いたのに・・・』 このみは別だ。幼馴染だし妹みたいなものだし、親同士の交流もちゃんとあるからな。家も隣だからほとんど家族のようなものだ。 『なら似たようなもんだよ私たちも。ね、るーこ』 『うむ、そうだな』 私「たち」だって? 『ああ、うーなら言わなくてもわかると思っていたが、当然ながらるーには寝泊りする宿も何もないぞ。よって、三年前と同じようにうーの家の厄介になるからな、頼んだぞ』 厄介だ。本当に厄介だ。おそらく俺はこの二人のノリからはしばらく逃げられないのだろう。昔からそうだ。タマ姉にもいろいろやらされたり・・・。やっぱり俺は女の子に弱い性格なのかもしれないな。雄二だったら喜んで受け入れそうな提案なのだが俺には到底合いそうにない。 『そういうわけでこれからも改めてよろしくね、タカちゃん♪』 『家事くらいなら遠慮なく任せるがいい。無料で世話になるのだ、これくらいはしてやろう』 『あ、一人だけそんなことでポイント稼ごうなんてずるい! わ、私だって・・・私だって何か!』 『うーかもは大学へ行かねばならないのだろう? その間の留守は安心して任せるがいいぞ』 『あ゙ー! なんなんよもう、いきなり不利な花梨ちゃん!? でもいいもん、学校でタカちゃんとあんなことやこんなことやっちゃうから!』 『な、何? それは許さんぞうーかも!』 『悔しかったらうちの大学入ってみなさいよ』 『く・・・。そのくらい造作もないが・・・若奥様のほうがありがたみがあるものだ。やはりるーはこちらの路線でいかせてもらおう』 『ちっ、誘導失敗か・・・』 『ふ、この程度でるーを惑わせると思わないことだ』 もう好きにしてくれ・・・。あまりの壮絶さに声も出ない。誰か俺と変わりたい奴はいないか? 今なら先着一命様に時給50円でこのハーレムを譲ってあげよう。悪い話ではないと思うのだが、どうだろう?
そんなこんなで俺は当分の間――少なくとも大学卒業まではこの二人に振り回され続けそうである。 残り二年の学生ライフ、無事に過ごすことができるのかな、俺―――
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