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[402] 第一章 〜朝の日差しと桜並木〜
KAEDE - 2007年03月21日 (水) 22時43分

第一章 〜朝の日差しと桜並木〜


四月。
暖かい春の日差しに包まれて、新たなる出会いの季節に心躍らせる。

なんて感じていたのは随分昔の話。
もう人生で十五回目を迎えることになる春に今更感動も何も感じない。
ただ「ああ、また学校が始まるのか」なんて年度末休業の終わりを嘆いているだけ。
今年はクラス替えもないし、また同じ顔ぶれが教室にそろうだけの話であり、新たな出会いなんてこれっぽっちもありはしない。
そんな春に何の楽しみがあるのだ。
長い連休が終わり、登校するのがだるい。
ただそれだけでもう感動どころかため息しか出てこない。
人間とは本当に現金な生き物である。

始業式なんて、気合の入った教師たちの長々としたどうでもいい話を聞くだけの行事。
授業もないのに登校しなければならないとても面倒な日である。
午前中で終わるのが唯一の救いなのだが、その程度しかやらないなら別にわざわざ開く必要もないと思うのだ。
言いたいことがあるのならば、ちゃんと記録にも残るプリントにでも書いて渡せばいい。
真面目な生徒はそれでもちゃんと読むのだから。
全員を一箇所に集めてべらべら喋ったところで真面目に聞いているのはごくごく一部の生徒だけ。
そういう生徒ならプリントで配られてもちゃんと読むはずだ。
そうじゃない生徒は最初っから話なんか聞いちゃいない見ちゃいない何も考えちゃいない。
ただそこにいるだけ。
むしろ真面目っ子さんたちの巻き添えを食らったような感覚ですらある。
そう頑張ることでもないだろうに教師というものはどうしてこう無駄なところに労力をかけたがるのだろうか。
そんなところに力を入れるくらいならもう少し聞き取りやすい授業を開いてもらいたいものだ。
何の呪文を唱えているのかサッパリわからない授業を開かれても眠くなるだけである。

そういえば今年でもう中学生活も三年目になるのだ。
周りは受験だのなんだのと騒ぎ始める時期である。
だがうちの学校はエスカレーター方式であるため、別に受験なんてものは存在しない。
ただ落第さえしなければ普通に高校に上がれるのである。
もっとも、義務教育である中学で落第なんてありえない話なのだが。

どうも一人で歩いているとどうでもいいことばかり考えてしまう。
何も考えずに歩くというのもとても難しい話だ。
仕方がないから高い高い空を見上げてみる。
派手に咲き誇る桜の木々の合間から覗く青空には雲ひとつかかっていない。
空とはなかなか不思議なもので、ただ眺めているだけなのに人の気分を大きく変えてしまう。
それはその日の天候をそのまま反映しているかのようである。
さんさんと晴れた日の青空は当然、人を爽やかな気分にさせる。
反対にどんよりとした曇り空、あるいは雨の降る曇り空。
それは人の心をも曇らせてしまうようである。
だが、それはむしろ空に自分の感情を操作されているのではないか、と思えて仕方がないのだ。
ただ太陽が出ているか出ていないかの違いじゃないか。
何故それだけで人の心が変わるというのだろう?
それはやはり空に感情を操作されているからなのではないか?
なんて、そう考える日も稀にある。
もちろんそんなことあるはずがない。
わかってはいるのだが、そんなことを考えてしまうのだ。
もともと太陽なんてものは好きじゃない。
同時に、それを包んでいる空も好きじゃない。
おそらく私は一般の人々とは感覚というものがどこかズレてしまっているのだろう。
普通、太陽を嫌う人間なんていないはずだ。
太陽がなければ生きていけない、という生物の本能からきているのかもしれない。
でも私は違う。
太陽が嫌いなんだ。

太陽を見ると嫌なことしか思い出せなくなるから――――


嫌いなのに何故空なんかを見上げてしまったのだろう。
無意識というものもなかなか迷惑なものである。
朝一番から気が沈んでしまった。
今日はこれから教師たちの長話を聞いてやらなければならないというのに。
始業式は体育館で行われるだけに、机に突っ伏して寝るなんていうことができない。
それにマイクまで使うものだからうるさくて眠れたものではない。
まったく、本当に迷惑な行事である。
気分が優れない時は寝るのが一番なのに今日だけはそうもいかない。
そう思えば思うほど余計に嫌になってくる・・・・・・。

『さーくーらーちゃーーーん』

と、言いたいところだったがそんな気持ちも一瞬にして吹き飛んだ。
私の名を呼ぶ親友の声、大好きな人の声。
その声の主は太陽の光をそのまま吸収しているかのような美しい金髪の髪をなびかせながら私のもとへ駆けてくる。
この輝く金色の髪の毛を眺めている時だけは太陽って素晴らしいな、と思える。
なんだかんだ言って、結局私も現金な人間なんだ。

『はぁ・・・っはぁ・・・っはふぅ・・・。やっと追いついたよぉ』

『朝から元気だね、ありす』

『はぁ・・・っふぅ・・・。
 あはは、それだけが取り得ですから』

いたずらっぽく微笑んで冗談を述べる金髪の少女。
彼女の名前は「澤咲ありす」。
随分付き合いの長い幼馴染である。
ところでこの子・・・やたら呼吸が乱れているのだがいったいどのあたりから走ってきていたのだろう?
私は声をかけられるまで後ろにいることにまったく気づかなかったのだが、おそらくありすは随分早いうちに気づいていたに違いない。
何故そう言い切れるのか、というと理由は二つある。

先ほど説明したとおり、ありすの髪は輝く金髪のロングヘアー。
この近辺では非常に珍しい色をしている。
それに対する私の髪は本当に珍しい色らしく、桜色である。
そして髪型は長い髪の毛を両端で結わえたツインテール。
このような珍しい髪の色をした人もそうそういるものではないので、道を歩いていると嫌でも目立ってしまう。
だから遠く離れていてもこの髪を見ただけで私だとすぐに判断がつく。
これが理由その一である。

そして理由その二。
ありすはあまり走るのが得意ではない。
この一文だけで大体判ると思うがあえて補足させてもらうと、彼女は運動も不得意な方であるため走る速度はお世辞にも速いとは言えないのだ。
つまり、随分遠い位置から私の存在に気がついたのだとすれば、そこからありすが走り始めたとして当然気づいていない私はどんどん前進していく。
なので差はなかなか縮まるものではないのだ。
とはいえどもさすがに駆け足、歩く速度に追いつけないはずがない。
そこである一つの推測が浮かび上がる。
随分離れた位置から私の存在に気づいたありすは歩を進める速度を速めた。
だがなかなか近づけないので走り出す。
しかし今日は荷物の重さもあってか走り続けるのが辛い。
だから休み休み走るようにした。
もちろん、休んだりすると私は更に前へ前へと進んでいってしまうので長い時間休憩しているわけにもいかない。
そんなわけで走っては止まり、走っては止まりを繰り返していた。
そうしているうちにふと私が歩く足を止めたのが見えたのでこれはいいチャンスだ、と判断したありすは私に声をかける。
そして今のような状況に至る・・・と。

あくまで推測でしかないため正しいとは言い切れないが、大体こんな感じなのではないだろうか。

『ところで咲華ちゃんどうかしたの?
 元気のなさそうな顔してるよ?』

『そ、そうかな・・・?』

『うん、私が声をかけた時だってぼ〜っと空を見上げてたし。
 何回も名前呼んだんだよ? なかなか気づいてくれないみたいだったけれど』

『うーん・・・。
 今日からまた学校が始まるのかー、って思うとちょっと・・・ね』

そんなことを言いながら誤魔化すような笑顔を無理矢理作ってみた。
こんなことでありすを誤魔化せるとはまったく思っていないが。

しかし油断していた。
まさかありすにこんなところを見られてしまうとは思いもしなかった。
大切なありすにだけは心配をかけさせまいとしていたのに。

それにしても今日の私は本当に心の底から気が抜けてしまっていたのだろう。
今更ながらどうして一人で登校していたのだろう、という疑問にぶち当たる。
普段なら家もすぐ隣であるありすと一緒に登校するのだが、今日に限って私一人で歩いてきていた。
いつもは門の外で待っていたり、わざわざ家まで迎えに来てくれるありすが今日はいなかった。
情けない話だが、今まで「ありすを待っていた」という経験がなかったせいもあるのだろう。
何を思ったのか考え事をしながら、彼女のことを忘れて黙々と歩いてきてしまったらしい。

その事実に気づいた途端、とてつもない罪悪感に襲われる。
普通なら軽く謝って終わるような出来事なのだが、私の場合は違う。
私にとってありすは特別なのだ。
もちろん、彼女以外の人に対してこれほど申し訳なく思うこともないだろう。
やはり相手がありすだからこそ、大きな罪悪感を感じてしまうのだ。

そうだ。
今日ありすより早かったのは「ありすを待たせまい」と考えたからだった。
今までいつもいつも外で待たせてしまっていたのだから、もうこれ以上迷惑はかけたくないと珍しく早起きしたのが始まり。
これからは逆に私がありすを待つようにしよう、と。
そう考えていたはずなのに。
何故、どうして私は一人で歩き出してしまったのだろう?
本当に間抜けな話である。

嗚呼・・・おそらくありすは来るはずもない私のことをずっと待っていたんだろうな・・・・・・。
玄関のチャイムを鳴らして、返ってくるはずのない返事をずっと待って・・・・・・。

考えれば考えるほど申し訳なく思えてくる。
どうお詫びすればいいのだろう・・・・・・。

『ほら、また元気なさそうな顔してる。
 やっぱり何かあったの?』

声をかけられてハッとなる。
ありすの目の前で考え事をするんじゃなかった。
迷惑かけまいとしようすればするほど迷惑をかけてしまっている気が――――って考え事ダメダメ、またありすに顔覗き込まれちゃうよ。

『もしかして私のこと気にしてるの?』

『えっ』

ピンポイントで当てられてしまい少し嫌な汗が流れてきた。
やっぱり私ってば迷惑かけないようにしようとすればするほど――――

『もしそうなら気にしなくてもいいよー。
 私、今日ちょっと遅くなっちゃったし・・・先に行っちゃうのは当然だもんね』

『え? ちょ、ちょっと待ってありす・・・』

『んー?』

私が一人で来てしまったのは無駄に考え事をしすぎていたせいで、むしろありすのことを忘れていたくらいなのに・・・。
この子は自分が遅くなったのだから私が一人で先に行ってしまったのだと思い込んでいる。
ここでありすに話を合わせれば私が謝る必要はなくなるのだけれど――――

いや、ダメよ! ダメダメ!
そんなことしたら逆にありすが謝る側になっちゃうじゃない!
ありすが遅くなったのも事実かもしれないけれど、私はそれに関係なく一人で来てしまったのだから・・・やっぱり謝るのは私のほうなんだ!

『あ、あの・・・ありす――』

『わぁ・・・! ほらほら、見て見て咲華ちゃん!
 桜吹雪がすごく綺麗だよ!』

『あ・・・・・・』

さすがは入学シーズンとでもいうのだろうか。
これでもかというほどに派手に咲き誇る桜並木。
そこに少しだけ強い風が吹いた。
ただそれだけでここまで幻想的な光景を目の当たりすることになるだなんて・・・誰に予想できただろう?
漫画やアニメとは違う。
すべてが桜色に染まる世界。
実際に目の当たりにしてみると・・・本当に美しいものだ。

『すごーい・・・。
 なんだか朝一番からすごくいいもの見れちゃったね、咲華ちゃん』

ふぅ・・・。
この笑顔を見ていると小さなことでうだうだ悩んでいたのが馬鹿みたいに思えてくる。
あんな話をしてこの笑顔を失うくらいなら・・・このままの方がいいのかもしれない。
ありすもそんなにいつまでも引きずるような子じゃないし・・・まぁ、これでいいか。
・・・いいんだ、そういうことにしておこう。
今はただ、この笑顔を見ているだけで私まで幸せになってしまう。

『ど、どうしたの咲華ちゃん?
 私の顔・・・何かついてる?』

『ん? ううん、なんでもないよ』

『ま、まさか・・・朝慌てて整えてきちゃったから少し乱れちゃってる・・・!?
 やっ・・・あ、あんまり見ないで咲華ちゃん!』

『違うよ、ありす。
 ただ――――』

見てると本当にほほえましいなー・・・って。

『え、何それ?
 私そんなにおかしかった?』

『ううん、可愛いと思うよ』

『そ、そんなことないよー!
 咲華ちゃんだって可愛いもん』

本当に・・・この子は純粋で羨ましくなる。
だからこそ大好きなんだ。
もう何十年、何百年と連れ添ってきた私のパートナー。
もちろん覚えているはずないだろうけれど・・・私とありすはずっとずっと一緒だったんだ。

そう、これからもずっと――――

『あ・・・すっかり忘れてた。
 挨拶がまだだったね』

私たちはこれからも共に歩んでいく。
無類の親友として、そしてかけがえのないパートナーとして。

『おはよう、咲華ちゃん』

『うん。おはよう、ありす』

花びら舞い散る桜並木。
親友と笑顔を交わし、歩き始める。
いつもと変わらぬ平和な日常。
暖かい日差しの中で私は祈っていた。
この平和な時間がいつまでも続きますように――――



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