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[204]W企画ノベライズエピソード・第2話「Aの捕物帳/愛こそすべて」C - 投稿者:matthew

そして――同時刻。
真っ赤なスーツを来たその男は、携帯を片手に堂々とした表情で声をあげていた。
「ああ、これで仕事は今度こそ終わりさ。お前の言う通り、自分の不始末は自分でつけてやったよ」
「……いちいち自慢げに報告するな。そのくらい当然だろう」
淡々と冷たく突き放す話し相手の態度に、“彼”はムッと眉間にしわを寄せる。仮にも志を同じくする仲間なのだから、もっと優しい言い方をしてもいいのではないかと。
しかし、それは彼の大雑把な性分がそもそもの原因でしかなかった。電話の声はさらに続ける。
「確かに私は誰の望みでも叶えてやるのが信念だ。しかし身内の尻拭いまでしてやるつもりはない」
「身内は例外なのかお前のルールは!?」
「自分の仕事を他人に押し付けるなと言ったはずだ。大体、こんな簡単な仕事が出来ないわけでもないだろう」
彼らの本来請け負う仕事は、決して大掛かりなものではない。今回はたまたまアクシデントがあって事態が混乱しただけのことだった。
二人の見解の相違はつまり、そんなアクシデントを彼らがどう捉えたかの違いに起因している。“彼”は電話の相手のあまりに軽々しい見解に少しだけ腹を立てたが、グッと怒りを飲み込んで言い返した。
「冷たいヤツだな……まあいい。とにかくやってやったからな俺は」
「だから当然だと言っている。いちいち当てつけのような報告をするな」
しかし――抗議も虚しく電話は冷たく途切れる。半ば握り潰すような勢いで携帯を閉じ、“彼”は鼻を鳴らすのだった。
「フン! まあいい……なんにせよこれで全ては元通りだ」
――いくらか邪魔は入ったが、アクシデントは全て排除した。後はもう、自分には関係のない話だ。
「メモリは元の持ち主に戻った。後は野となれ山となれ……ガハハハハハッ!」
彼の高笑いが何を意味するのか――その時は、まだ誰も知らなかった。

( 2010年08月07日 (土) 09時52分 )

- RES -


[203]W企画ノベライズエピソード・第2話「Aの捕物帳/愛こそすべて」B - 投稿者:matthew

「調べて欲しいことぉ?」
みぎりが雨から頼みを聞いたのは、そうして先斗が零太に連れられている最中のことだった。
「君の検索エンジンなら、裏の事情にも的を絞れるはずだ。それを駆使して少々調べてもらいたいことがある」
妙に思いつめた雨の態度が気掛かりで、みぎりは不思議そうに首を傾げる。確かに彼女の持つ検索エンジンはひとつではない。様々な名義のHNを持つみぎりは、それを利用してあらゆる情報を引き出すだけのスキルも有してはいた。だから、雨の言う裏情報でもその例外にはならない。
「うん、まあいいけどぉ……ならあの探偵さんにも相談したほうがいいよね?」
「いや。事実がはっきりするまではレフトには黙っておきたいんだ」
さらにみぎりが腑に落ちなかったのは、そうして雨がパートナーの零太に秘密にしたいということだった。
先斗との間柄に置き換えれば、そんなふうに秘密にしなくてはならないことはなるべく少なくなるようにしている。パートナーとはそういう、不信感や疑いからくる秘密をなくすことが大前提にあって初めて成立すると考えているからだ。
「なんで?」
「レフトが聞いたら動揺するだろうからな……とにかく、頼む」
果たしてそれが本当に気遣いと呼べるものなのか、それはまだ分からない。しかし、みぎりにはそれをキッパリと断る理由もなかった。
「ぅゆ……わかった。それで、何を調べるの?」
渋々でも引き受けてくれる動きを見せたみぎりに雨は静かに頷く。
ずっと胸に引っかかっていたものの正体を、ようやく知ることが出来る――そんな予感に僅かに高ぶる鼓動を抑えながら、彼女はキーワードを口にした。

( 2010年08月07日 (土) 09時49分 )

- RES -


[202]W企画ノベライズエピソード 第2話「Aの捕物帳/愛こそすべて」A - 投稿者:matthew

「じゃ、これで依頼は完了ってことで」
 エーテルを抱えた先斗と零太は、豪邸の玄関先で家主である麻生にそのエーテルをそっと差し出した。優しくそれを受け取った麻生が、心からの笑みで戻ってきたペットを迎える。
「エーテルちゃん……無事でよかった」
「全く、とんでもないお猿さんでしたよ。はしゃぎ過ぎて捕まえるのに一苦労ですもん。なぁ零太さん?」
 エーテルがガイアメモリによって怪物と化していたことは、とりあえず伏せておいた。余計な情報を耳に入れて混乱させないための配慮だ。何重にもオブラートに包んで適当な言葉でごまかした先斗が、口裏を合わせるように零太に目配せをする。
 が、その返答はむしろ予想の斜め上を行くものだった。そんな物言いがどこか皮肉っぽく聞こえたのか、零太はむっとした表情で先斗に釘を刺したのである。
「そういう言い方はないだろ。むしろ元気なのはいいことじゃないか!」
「え? い、いや……何で怒るのそこで」
「もしエーテルが病気だったらどうするんだよ。そっちのほうが大人しくなってよかったっていうのか? だったら聞き捨てならないぞ!」
「誰もそこまで言ってねぇし!?」
 動物への愛情が行き過ぎたのか、零太は随分と先斗の言葉を曲解してしまったらしい。予想外に怒られる格好となった先斗は目を丸くして思わずたじろいで見せた。
「ふふ……本当に動物好きなんですね、探偵さんは」
 そんなやり取りを見て、マルコが小さく笑う。淑女――そんな呼び方が相応しいほど、気品のある仕草で。
 目の前で理不尽に怒鳴られてしまった先斗が真っ赤な顔で俯く横で、零太も照れたように頬を掻いてそんなマルコの言葉に頷いた。同じ動物好きとして、想いを理解されたことが嬉しかったのである。
「いやぁ……はは、まあそりゃもう」
 そしてそんな零太に、さらに喜ばしいお誘いが舞い込む。
「よければもう少しゆっくりしていきませんか? うちの庭にはまだまだたくさん動物がいますから、どうぞご覧になっていってください」
「ホントですか!? そりゃもう是非!」
 猿だけではない。猫や犬、鳥、あるいは爬虫類まで。大小さまざまな動物を飼っている小さな動物園といっても過言ではないこの邸宅を隅々まで見て行ける――先斗にとっては天国のような話だ。断る理由などあるはずもなかった。
 そんな満面の笑みが、キラーパスのように先斗に襲い掛かる。
「もちろん先斗も一緒に見るよな!?」
「え、俺も!?」
 だが――隣の先斗はというと、若干引きつったような表情を浮かべていた。依頼完了の報告を済ませたら長居はせず、さっさと帰るつもりでいたのである。さほど動物に対して興味はないし、零太の動物好きを考えるとこうなる前にさっさと退散したかったのだ。
 現に、こちらを見つめている零太の目は異様なほどにきらきらしている。それこそ少年のように純粋な目だ。寒気がするほど今はそれが恐ろしかった。
「お、俺はついていかなくてもよくね?」
「何言ってるんだよ。せっかくのお誘いだぞ? 断ったら失礼じゃないか!」
「え、ぇえええ……?」
 やんわり流そうとしても、全力で押し切られる。こうなったらもう逃げ場などあるはずもない。
「……ぅ」
 マルコのほうも、乗り気ではない先斗の態度に気を遣っているのか遠慮がちに沈黙している。空気的にどう考えても気まずいことこのうえない。ここではっきりNOと言えるほどの度胸は――残念ながら先斗にはなかった。
「さ、それじゃお言葉に甘えよう! お邪魔します!」
 強引に先斗の腕を引っ張って、零太が招かれるままに広大な緑の庭へと足を踏み入れる。先斗は困ったようにため息をついて、心の中でみぎりのことを思い浮かべるのだった。
(……どうせなら、留守番みぎりと代わっときゃよかったな……)

( 2010年07月27日 (火) 00時08分 )

- RES -


[201]W企画ノベライズエピソード 第2話「Aの捕物帳/愛こそすべて」@ - 投稿者:matthew

『ハンター、マキシマムドライブ!』
 デュアルがドライバーからハンターメモリを引き抜き、ハンターアローのスロットにそれを装填する。つがえた水の矢が眩く青い光を放ち、周囲の水分を取り込んで巨大な水泡を形成した。マキシマムドライブ――ガイアメモリが内包するエネルギーを何倍にも増幅し、攻撃手段に転ずる仮面ライダーの必殺技である。
「ちょっと失礼――とぉっ!」
「どわぁ!?」
 目の前に立っていたイグニッションの肩を踏み台に、デュアルが跳躍しながら弓矢を引き絞る。次の瞬間水泡は無数の水の矢へと再び姿を変えた。そして――烈昂の気合と共にデュアルが矢を束ね撃つ!
「よ〜しっ、いっけぇええええええ!!」
「ハンター――ファランクスッ!!」
 水の矢が不規則な曲線を描きながらアシッドを包囲するように分裂し、全方位から一斉に襲い掛かる。逃げ場はどこにもなかった。やがて矢は蜂の巣のようにアシッドの肉体を四方八方から撃ち抜き――巻き上がる爆炎の中へとその肉体を誘ったのだった!
「ギャアアアアアアアアアッ!!??」

「っと! よぉし、これでエーテルくんは元通りだな……」
 着地したデュアルの腕の中には、爆発に吹き飛ばされた小さな猿が気を失って眠っている。それこそがアシッド・ドーパントの正体――エーテルだ。見事に彼らはドーパントの命を奪うことなく、その能力のみを無力化することに成功したのである。デュアルは安堵したように大きく息を吐いた。
 それを見ていたサベルも、安心して肩をすくめる。エーテルが無事だということは、動物好きの零太にとっても非常に喜ばしいことだった。目の前で奪われる命は、人であってもなくても彼には等しい価値――いやむしろ動物のほうが大きいくらいなのだから。
「これで事件は解決、ですね姐さん!」
 しかし――そんな零太の言葉に対して、雨の返事は何とも歯切れの悪いものであった。
「いや……それはどうだろうな」
「え、それ……どういう?」
 その言葉の意味に彼が気づいたのは、その直後のことであった。エーテルを抱きかかえていたデュアルが、みぎりの声で異変を察したのである。
「あれ? お兄ぃ、メモリが見当たらないよ?」
「何?」
 ドーパントを無力化する――それは即ち、ドーパントへと肉体を変容させていた原因であるガイアメモリのみを破壊するということだ。それが成功した場合、メモリは体外へと排出されて粉々に砕け散っているはずである。そして、デュアルは見事にそれを成功させたはずだったのだ。
 だが、周囲にはメモリが排出された痕跡がない。砕けた破片も、何一つ見当たらない。みぎりはそれに気づいたのである。
「んなバカな、メモリはどこに――」
 そしてその所在は――彼らが思いも寄らなかった場所にあった。

「ふっ、ふははははははははは!! 探し物とはもしかしてこれのことかなぁ!?」
「!?」
 ふらつきながらも橋の手すりに寄りかかっていたイグニッションが、高笑いと共に右手をかざす。その中に握られていたのは、緑色のガイアメモリ――そう、エーテルの肉体を変容させていたアシッドメモリだったのだ!
「なっ、いつの間に――!!」
「これで俺の仕事は完了だ……あばよ、仮面ライダー!!」
 開いた左手を振り払い、イグニッションが特大の炎を2人の仮面ライダーに向けて放つ。爆ぜた炎は一瞬で彼らを呑み込み――高熱の渦の中へと巻き込んでいった!!
「「うぉわああああああっ!!」」

「――落ち着け! 炎は直撃していない、これは目くらましだ!」
 だが、冷静だったのは雨の意識だった。零太と感覚を共有するサベルの肉体にダメージがないことをすぐに見抜いたのだ。その声に我を取り戻したサベルは、凍てつく冷気を再び刀にまとわせて大きくなぎ払う。
「はぁっ!」
 炎は、一瞬で掻き消えた。しかしその向こうにはすでにイグニッション・ドーパントの姿はない。雨の読みどおり、逃げるための目くらましに炎は放たれたのである。
「くそっ、逃げられた……!」
 悔しげに歯噛みして、サベルが刀を鞘に納める。しかし――その横でエーテルを抱いていたデュアルは、冷ややかに口を開いた。
「ああ。でも、これでひとまずは一件落着なんじゃないか?」
「え?」
「エーテルは取り戻した。俺たちの目的はあくまでもこいつを見つけて連れて行くだけだ。その目的は達成できた、だろ」
 エーテルを怪物に変えていたアシッドメモリは、無事にその体の中から排出された。その行方は確かにつかめなくなってしまったが、もうエーテルが怪物となって凶行に走ることはなくなったのだ。その事実は、暗に彼らの受けた依頼内容が達成されたことを示している。何とも歯切れの悪い結末ではあったが、結果的にその部分だけは果たされたのだ。
「どうしてメモリブレイク出来なかったのかは後でゆっくり考えりゃいいだろ。ま、俺たちは運び屋だ。調べるのは俺たちの仕事じゃあないんで、ここらで失礼させてもらうぜ。あ、報酬は後で取りに行くから」
事務的な台詞を並び立てて、デュアルは踵を返した。
彼らにとって、“仮面ライダー”という称号はさほど大事なことではない。ドライではあるが、運び屋としてのルールを曲げてまでそちらの使命に従事するほどの強い思いはないのだ。
それがいささか零太には納得できないところではあったが、かといって彼らの仕事のスタンスに口出しするのも余計なことではある。バツが悪そうにはぁとため息をつくと、いいたかったいくつもの言葉をぐっと飲み込んでサベルも踵を返した。
「まあ、これにて一件落着……でいいんだよね、多分」
 しかし――どうしてもその結末、いや、今回の一件の一部始終にまとわりつくような不快感に、どうしても雨は不安を拭い去ることが出来ずにいたのだった。
「さて……それはどうだろうな」

( 2010年07月20日 (火) 21時42分 )

- RES -


[199]W企画ノベライズエピソード 第1話「Aの捕物帳/猿を訪ねて三千里」I - 投稿者:matthew

「そうはいくかぁああああああ!!」
 だがその時、デュアルに向かって高熱の炎弾が声と共に襲い掛かる。とっさにデュアルは弓を盾にして防御の体制を取った。
「うぉわっ!?」
 炎弾自体の威力は決して高くはなかったらしく、砕け散った炎を片手で払って何でもなかったようにデュアルは改めてその声のほうに目を向けた。やや距離を置いて隣に並ぶ向こう側の橋に、両肩に噴出す炎を象ったような新手の怪物の影――ドーパントの姿を認め、右目が少女の声で点滅する。
「それ以上そいつに手出しはさせんぞ、仮面ライダー! とぉっ!」
 新手のドーパント――イグニッション・ドーパントは一足で橋から跳躍すると、アシッドをかばうようにデュアルの前に立ちはだかった。無意味に仰々しい立ち振る舞いが、妙に笑いを誘われるようでデュアルは微妙に肩をすくめた。
「随分凝った登場だな、やる気満々か?」
「俺はいつでも全力投球がモットーだ!」
「うっわ暑苦し〜……お兄ぃ、みぎりんこういうの苦手〜」
「ああ。さっさと片付けて、仕事に戻るぞ」
 不敵に弓を構えなおし、デュアルがイグニッションに向き直る。時間をかければアシッドが回復し、また逃げてしまう可能性もあった。無駄に費やせるほどの時間はどのみちないのだ。事実、肩越しに見えたアシッドがゆっくりでも呼吸を整えているのも分かる。
炎を象ったバイザー越しにイグニッションは邪悪に目を輝かせ、応じるように拳を握り締めた。彼の腰には普通のドーパントには装着されていない鈍色のベルト――ガイアドライバーがある。それはすなわち、彼が特異な存在であることを意味している。そしてその自負が彼に揺るぎない意志を再び滾らせていた。
「ふん、やれるものならやってみろ! 俺はそう簡単にはやられ――ぁっぢゃあ!?」
 が――そんな彼の心をいきなり挫いたのは、何とも不運な一撃であった。体勢を立て直したアシッドが何とイグニッションの背中に酸を浴びせたのだ。もろに不意打ちを食らったイグニッションが、背中から煙を上げてもんどりうつ。
「……ぇ?」
「な、何しやがんだこの猿っ! 俺はお前を助けにだなぁ!?」
「ギギギャアッ!」
「だぁあっちちちちぃ!!」
 イグニッションの訴えはまるで届かず、アシッドはさらにデュアルまでも巻き添えにして酸を乱射する。こうなれば敵も味方もあったものではない。2人は襲い掛かる酸の弾幕にたまらず逃げ惑うばかりだ。もっとも――イグニッションは全く逃げ切れていなかったのだが。
「やべっ、これが獣の本能ってやつかよ!?」
「ちょ、やめろこら俺を盾にするなっちゃちゃちゃあ!!」
「近くにいたお前が悪い!」
「だはぁっ、何その悪役の台詞!?」
 とはいっても、これではアシッドに再び近づけなくなってしまっている。デュアルは再び攻め手を失ってしまったのだ。イグニッションを盾に酸の弾幕を回避しながら、先斗はちっと舌打ちをした。このままではまた逃げられてしまう――!
「くそっ、どうすりゃいいんだ……!」

 しかし、そんな彼の背中を凛とした女の声が後押しした。
「……安心しろ運び屋、攻略法はすでに見えている」
『フリーズ!』
「え?」
 デュアルが声に気づくと同時に、ガイアウィスパーと共に発せられた白い冷気の突風が酸の雨を包み込む。包まれた弾幕は一瞬で凍結して空中でその勢いを弱め――ガラス細工のように地面に墜落して砕け散った。
 そこに立っていたのは、ブレードムラサメを水平に振りぬいたまま静止する、白と銀の半身を併せ持つサベル――フリーズブレードであった。
「間一髪、だな。先斗」
「零太さん? 一体どうやって……」
「酸は液体の一種だ。凍らせてしまえば水と同じで何の脅威にもならない、ということさ」
 サベルの右目が雨の声で応じ、先斗の疑問を解決する。一度相対したことで冷静に弱点を見極めた雨の意識が、サベルに変身した零太の肉体を動かしたのだ。
 一つの肉体に二つの精神が宿る――それこそが彼らの持つ最大の武器。片方が及ばないものをもう片方が補うことで、彼らは比類なき強さを真に発揮することが出来るのである。
「さあ今だよ、さっさと猿を捕まえるんだ!」
「オッケィ、恩に切るぜお2人さん!」
『ハンター、マキシマムドライブ!』
 デュアルがドライバーからハンターメモリを引き抜き、ハンターアローのスロットにそれを装填する。つがえた水の矢が眩く青い光を放ち、周囲の水分を取り込んで巨大な水泡を形成した。マキシマムドライブ――ガイアメモリが内包するエネルギーを何倍にも増幅し、攻撃手段に転ずる仮面ライダーの必殺技である。
「ちょっと失礼――とぉっ!」
「どわぁ!?」
 目の前に立っていたイグニッションの肩を踏み台に、デュアルが跳躍しながら弓矢を引き絞る。次の瞬間水泡は無数の水の矢へと再び姿を変えた。そして――烈昂の気合と共にデュアルが矢を束ね撃つ!
「よ〜しっ、いっけぇええええええ!!」
「ハンター――ファランクスッ!!」
 水の矢が不規則な曲線を描きながらアシッドを包囲するように分裂し、全方位から一斉に襲い掛かる。逃げ場はどこにもなかった。やがて矢は蜂の巣のようにアシッドの肉体を四方八方から撃ち抜き――巻き上がる爆炎の中へとその肉体を誘ったのだった!
「ギャアアアアアアアアアッ!!??」

「っと! よぉし、これでエーテルくんは元通りだな……」
 着地したデュアルの腕の中には、爆発に吹き飛ばされた小さな猿が気を失って眠っている。それこそがアシッド・ドーパントの正体――エーテルだ。見事に彼らはドーパントの命を奪うことなく、その能力のみを無力化することに成功したのである。デュアルは安堵したように大きく息を吐いた。
 それを見ていたサベルも、安心して肩をすくめる。エーテルが無事だということは、動物好きの零太にとっても非常に喜ばしいことだった。目の前で奪われる命は、人であってもなくても彼には等しい価値――いやむしろ動物のほうが大きいくらいなのだから。
「これで事件は解決、ですね姐さん!」
 しかし――そんな零太の言葉に対して、雨の返事は何とも歯切れの悪いものであった。
「いや……それはどうだろうな」
「え、それ……どういう?」
 その言葉の意味に彼が気づいたのは、その直後のことであった。エーテルを抱きかかえていたデュアルが、みぎりの声で異変を察したのである。
「あれ? お兄ぃ、メモリが見当たらないよ?」
「何?」
 ドーパントを無力化する――それは即ち、ドーパントへと肉体を変容させていた原因であるガイアメモリのみを破壊するということだ。それが成功した場合、メモリは体外へと排出されて粉々に砕け散っているはずである。そして、デュアルは見事にそれを成功させたはずだったのだ。
 だが、周囲にはメモリが排出された痕跡がない。砕けた破片も、何一つ見当たらない。みぎりはそれに気づいたのである。
「んなバカな、メモリはどこに――」
 そしてその所在は――彼らが思いも寄らなかった場所にあった。

「ふっ、ふははははははははは!! 探し物とはもしかしてこれのことかなぁ!?」
「!?」
 ふらつきながらも橋の手すりに寄りかかっていたイグニッションが、高笑いと共に右手をかざす。その中に握られていたのは、緑色のガイアメモリ――そう、エーテルの肉体を変容させていたアシッドメモリだったのだ!
「なっ、いつの間に――!!」
「これで俺の仕事は完了だ……あばよ、仮面ライダー!!」
 開いた左手を振り払い、イグニッションが特大の炎を2人の仮面ライダーに向けて放つ。爆ぜた炎は一瞬で彼らを呑み込み――高熱の渦の中へと巻き込んでいった!!
「「うぉわああああああっ!!」」


→To be continued

( 2010年07月11日 (日) 23時53分 )

- RES -

[200]次回予告 - 投稿者:matthew

W企画・ノベライズエピソード!


「本当の適合者は別にいる……」

「俺たち、まんまと嵌められてたってことかよ!?」

「そんなのが、愛情であってたまるか! その罪の連鎖は……ここで断ち切るッ!!」

「「変身!!」」


次回 W企画ノベライズエピソード
第2話「Aの捕物帳/愛こそすべて」

これで決まりだ!

( 2010年07月11日 (日) 23時58分 )


[198]W企画ノベライズエピソード 第1話「Aの捕物帳/猿を訪ねて三千里」H - 投稿者:matthew

 水都のあちこちを駆け巡る水路は、そのまま街の生活や景観の一部となっている。いわば第二の道路のようなものだ。その道は様々に張り巡らされ、複雑なルートを描いている。
 だが、普通の道路と違うのは水路の流れが一方通行であることだ。車のように対向する流れが存在しないため、決まりきった方向にしか進むことが出来ない。そしてそのパターンさえ把握してしまえば、記憶するのは難しくはないことだ。特に、土地勘のある人間にとっては。

「――ギギギギギギギ……」
 レンガ造りの橋の下で水面がわずかに濁り、その奥で目を光らせる“何か”が周囲を用心深く探る。敏感な本能が告げる勘を、静かに待ち構えている。
 何故か、“それ”は胸騒ぎを感じずにはいられなかったのだ。追跡者の姿は見えないのに、どうにも危険が去ったようには感じられない。しつこくまとわりつくような気配は消えずに、今でも“それ”の近くにあるようだった。果たしてその根拠は本来持っていたはずの野生からのものか、それとも手に入れた力がもたらした特殊な力か――
 そして、その危険の正体は。堂々と“それ”の目の前に現れた。
「はい、鬼ごっこはおしまいだぜお猿さん」
「!」
 橋の上に現れたのは、バッグからデュアルドライバーを取り出した先斗。その表情には確かに不敵な笑みが浮かんでいる。人間の表情を動物が汲み取ることが出来るのかどうかはさておきではあったが、少なくとも“それ”は、明確な敵意を先斗からひしひしと感じていた。
「この先には十字路がある。車と同じように縦横の流れを交互に止めたり開放したりして、水の流れをコントロールしてる十字路がな。残念ながら今お前の乗ってきた流れは、“赤信号”の真っ最中だ……説明しても分かってはないんだろうけどな」
「ギャギャウッ!」
 逃げられないことを察知し、“それ”――アシッド・ドーパントが水面から飛び出して橋に降り立つ。周囲に人気はなく、大きな騒ぎになる予感がないのが先斗には幸いだった。これで心置きなく戦うことが出来るのだから。
「ありがとよ、素直に出てきてくれて。みぎり、行くぜ!」
「おっけー、任せてっ!」
 リボルギャリーの中で待機していた“相棒”と呼吸を合わせ、ガイアメモリを取り出す。指先が叩いたスイッチで、メモリが叫ぶ。
『ウェイブ!』『ストライカー!』
「「変身!!」」
「ギャォオオオッ!!」
 自らと似たような力を持つ“敵”の出現に、アシッド・ドーパントは先手を打った。身軽な身体能力で高く飛び上がると、鋭利な爪を敵に向けて振り下ろす。
 だが、それに対して先斗は見事に反応した。デュアルへと変身を遂げながら、その爪を振り抜いた左足で迎え撃つ。
「っはぁあ!!」
「ギィッ!」
 右手を払われたアシッド・ドーパントは、四肢で吸い付くように見事な着地をして態勢を立て直した。どうやら爪の先にも酸は浸透していたらしかったが、蹴りを見舞った左足へのダメージは深刻ではない――まるで埃を払い落とすかのように左足を手で払って、デュアルはアシッドを指差して男女ユニゾンの声を発した。
「「さぁ、飼い主のところへ運んでやるよ!」」
「ギシャアッ!」
 怒りを表すかのように爪で地面を一掻きして、再びアシッドがデュアルへ襲い掛かる。最初の戦いでは不覚をとったが、デュアルはすでに敵の特性を把握し対処法を考えていた。
「お兄ぃ、接近戦はダメダメだからねっ!」
「わーってるよ、チマチマ削ってやらぁ!」
『ハンター!』
 左手に取り出した緑色のメモリが、内蔵された記憶の声を叫ぶ。ストライカーのメモリを引き抜いたデュアルは、代わりにそのメモリを左のスロットへと挿入した。
『ウェイブ!』『ハンター!』
「ギャギャッ!」
「はっ!」
 繰り出された一撃を飛び退いて回避したデュアルが、左半身を白から緑へと変化させる。左手の中に現れた弓・ハンターアローに右手を添えると水の矢が束ねられたかのように数本出現し、右手を引くアクションと同時にアシッドへと放たれた。
「ゲギャアアッ!」
 予想だにしなかった反撃にアシッドが後退し、苦悶の声を上げる。だが飛び道具ならアシッドにもあるのだ。体内を駆け巡る強酸性の体液が口へと逆流し、砲弾となってデュアルに放たれる。
「ギュゥアッ!」
「残念、その手は食わないぜ!」
 だが、デュアルは逆にその体液に向かって水の矢を放った。するとどうだろう――体液は水の矢に貫かれてその形を崩壊させ、呆気なく弾け飛んだではないか。そしてそのまま矢はアシッドの体を捉え、見事に貫いていく。
「!?」
 矢の形へと収束された水は、いわば金属をも貫く高圧水流のカッターと似たような働きを持っていた。放たれた体液よりも水圧が高められていたために容易く打ち勝つことが出来たのだ。
「そらそら、ボンヤリすんなよ!」
 立て続けに水の矢がアシッドの体を穿ち、強化変異した肉体の細胞を削り取る。いかに素早い反応速度を持っていても、こうなってしまえばただの的でしかなかった。あらゆる攻撃手段を封じ込まれたアシッドは、動けないままどんどんと矢を浴び続けるしかなかった。デュアルの左目が点滅し、明るい声で“相棒”を鼓舞する。
「よぉ〜っし、そのままいっちゃえいっちゃえっ!」
「悪いな、大人しくしてくれ……いい子にしてればすぐに元に戻してやるからな!」
 アシッドの体勢が崩れ、徐々に全身の力を失っていく。先斗は決着を確信し、ハンターアローの弦にかけていた片手を軽く振って力を入れ直した。次の一矢で止めにするつもりなのだ。
「さあ、一気にこのままメモリブレイクで――」

( 2010年07月11日 (日) 23時52分 )

- RES -


[195]W企画ノベライズエピソード 第1話「Aの捕物帳/猿を訪ねて三千里」G - 投稿者:matthew

「ここの水路の通り道は大体俺の頭ん中に入ってる。エーテルが逃げ込んだポイントからつながってる道筋の候補は全部データにインプット済みだ」
「で、お兄ぃのそんな頼れる土地勘を元にみぎりんが情報を送るからっ」
「なるほど、頼りになる水先案内人……ってわけだね」

 メゾンギャリーで立案された作戦内容は、水都出身ということもあって地理に詳しい先斗と、その相棒であるみぎりのパソコンによるバックアップを受けるというものだ。ガレージのハッチが開き、マウンテンバイクに跨った先斗と零太がヘルメットをかぶって頷きあう。
 そのヘルメットはみぎり特製の『紅院キャリーサービス』オリジナルのもので、インカムを内蔵してリアルタイムでみぎりと通信が出来る機能を備えたものだ。そして、そのみぎりはというと薄暗い部屋の中で小さな椅子に座り、指をわきわきと動かしながら悪戯っぽくひとつのスイッチを叩く。
「さぁ〜て、と。ポチっとな!」
 すると、暗闇の中に無数の四角い光が灯り始めた。その光が浮かび上がらせたのは、積み上げられたように並ぶパソコンの要塞。みぎりの愛用する改造パソコンである。キーボードを叩く指が軽やかに踊るように文字を打ち込み、広大なネットの海へと情報を打ち込んでいく。そのスピードはまるでビデオの早送りのような目にも留まらぬ速さだ。これこそが、先斗がみぎりを“相棒”と呼ぶ所以である。
「おともだちの皆さん、ご協力よろしくっ」
 彼女のパソコンが映し出す無数のモニターは、全て異なるWebページを映し出している。しかしその全てが、他でもないみぎり自身の手で生み出された水都最大のサイトの一部なのである。そしてそこにアクセスする人間の全てが、みぎりにとっての大切な友人でもあり、情報源でもある。
 みぎりが打ち込んだキーワードを元に、その“友人”たちが好き放題の書き込みを送信していく。普通ならば膨大すぎて一人では捌き切れないその情報量を、大きな目をくりくりと動かしながらみぎりは単独で処理していく。真偽入り混じったその情報の中から、必要な情報だけを見つけ出しているのだ。
「おぉ〜、きたきたっ! 目撃情報もあるあるっ! お兄ぃ、探偵さん、聞こえる?」

「ああ、ばっちりだぜみぎり!」
 狭い路地を抜けながら、先斗が自転車に跨り応答する。そして別の路地を抜ける零太もまた――応答しようとして、バランスを崩した。
「うわっ、とと……急に話しかけないでくれよ、自転車は子供のころ以来なんだから!」
 バイクでの移動ならともかく、今使用しているマウンテンバイクは『紅院キャリーサービス』で先斗が使っている、特別なチューンナップを施されたものだ。ただでさえ久しぶりに自転車に乗る先斗にとっては、扱いの難しさにも拍車がかかる。
「それっぽい目撃情報、やっぱり結構あるみたい。変な化け物が水の中から顔を出してるって」
「どっかの街のアザラシみたいに、可愛げがあればまだマシだけどな」
 軽口交じりに、先斗は軽やかにターンを切って十字路を抜ける。みぎりの集めた情報から、逃げ込んだルートを頭の中で絞っているのだ。と、バランスを立て直しながら零太がむきになって声を荒げた。
「……っ、猿だって可愛いんだぞ!」
「いいからアンタは自転車に集中しろって、慣れてないんだから!」
 生来の動物好きの性なのか、黙っていられない零太は自転車の操縦もそこそこに熱弁を振るい始める。
「い〜や、断固として言わせてもらう! 可愛いのは犬や猫だけじゃないんだ、そもそも動物ってのは……!」
「相手はドーパントだろ! あぁもう、いいから早く探せって!」
「あ〜もう自転車なんか乗ってられるかぁ! 探偵は足だ、足こそ第一!」
 とうとう自転車を放り捨て、零太はインカムつきヘルメットだけを片手に走り出す。扱いなれない自転車よりは徒歩のほうが早いと判断したのだ。しかし、その行為が今度は先斗の怒りに火をつけた。
「くぉるぁあっ! チャリ捨てんなこの野郎、俺の商売道具をぉ!!」
「何だよ、そっちだって猿を馬鹿にしただろ!」
「だからって商売道具を傷つけていい道理があるかぁ!」
 インカム越しに飛び交う、愛するものを傷つけられた二人の怒号。そのやりとりに呆気なくせっかくの情報を消し飛ばされたみぎりは、ひたすら頭を抱えて嘆くしかなかった。
「ち、ちょっとやめってばお兄ぃも探偵さんもぉ! ぁううううう!!」

 しかし――そんな賑やかな大捕物のよそで、一人雨は神妙な面持ちで教会へと戻っていたのだった。どうしても、エーテルがガイアメモリを使ってドーパントになったことに納得がいかなかったのだ。
(やはり、偶然とは思えない……あのエーテルの変貌は、普通のドーパントのものとは違っている)
 通常、ドーパントは体にガイアメモリを挿入することで初めて肉体が変質し、怪物の姿となる。しかし自分たちが相対した時、エーテルはガイアメモリを使うどころか手に取った様子もなかった。さながら自動的とも言える変貌を見せたのだ。それは“正規の手段”でエーテルがドーパントになったわけではない証拠のように思えた。
(裏があるのは間違いないとして……怪しいのは、やはり依頼だ)
 では、おかしいところとはどこなのか。零太のところに今回舞い込んだ依頼は単なるペット探し、それ自体は別に特別なことはないが――何故彼のところだけではなく、先斗たちのところにまで同じ依頼が舞い込んだのか。ましてや、零太は自分でペット探偵と名乗るくらいにそちらの分野に精を出しているし、探偵業界がどの程度水都に普及しているかを別としても、零太だけに任せても十分すぎる信頼はあるはずだ。その分野に関しては、間違いなく零太はプロなのだから。
(何故零太だけに任せなかった? まさか、こういう普通ではない事情があることが分かっていたから別の人間の手も借りようと……?)
 と、すれば導かれる答えは――やはり麻生マルコもそのメモリのことを知っている。あるいは彼女自身が本来のメモリの所有者で、何らかのトラブルでエーテルがそれを持っていなくなってしまったというところだろうか。
 しかし、それは同時に新たな疑問の浮上を意味する。麻生マルコは一体、何のためにメモリを手に入れたのか?
「……やれやれ。本当に面倒なことになりそうだな……」
 雨の描く予想は、どんどんと悪い方向へと広がっていくばかりだった。

( 2010年05月25日 (火) 21時37分 )

- RES -


[194]W企画ノベライズエピソード 第1話「Aの捕物帳/猿を訪ねて三千里」F - 投稿者:matthew

「あ〜ったく! アンタらが余計な邪魔しなきゃ捕まえられたってのにっ!」
 メゾンギャリーに戻った先斗は、エーテルを取り逃がした苛立ちを抑えることが出来ずに声を荒げた。酸のダメージ自体は幸運にも先斗の肉体に降りかかることはなかったが、水中に逃げ込んだエーテル――いや、ドーパントの行方は頑として知れない。この水路に富んだ水都では、次に現れるのがどこであろうといつであろうと、あらゆる可能性が十二分にありえるのだ。それはこの街で生まれ育った先斗だからこそ、なおさらはっきりと熟知している。
「だが、もはやこれはただのペット探しではないな。あの猿がドーパントである以上、何か特別な背景があると見て間違いない」
 もっとも、先斗の苛立ちはそれだけが原因というわけではない。勝手にあがり込んできた彼女たち――雨と零太の存在も、である。しかもこれまた図々しいことに、零太に至ってはみぎりとポテトチップスを分け合っている。
「ん〜、これちょっと塩味濃くない?」
「そぉかなぁ? そこがまたおいしいと思うんだけどなぁ〜」
「……お前らもノンビリ食ってんじゃねえっ!!」
 すっかり順応している零太の肝の据わりようは、ある意味では尊敬ものだ。律儀にツッコミを入れながら、先斗はガリガリと頭を掻きつつ大きなため息をついた。
 雨の言うとおり、もはやこれはただの配達でもペット探しでもない。ドーパントが絡んでいる以上、言ってみれば自分たち“でなければ”どうにもならない事態だ。ただの動物探しだと思って油断していたのが運の尽きだったらしい。と、ポテトチップを頬張りながら零太が呑気に先斗に問いかけた。
「なぁ先斗。これがドーパント絡みの事件だってことは、そっちも知らなかったのか?」
「ああそうだよ。アンタらと同じさ。ガイアメモリのガの字も話には出てこなかった……驚いてるのはこっちもだよ」
「偶然おさるさんがメモリを拾った……とかかな」
 同じく呑気に袋をあさっていたみぎりが、ぼんやりと口を開く。今、彼女の脳内では絵本に出てくるようなユーモラスな猿がガイアメモリを手にきょとんとしているイメージが広がっている。タイトルはズバリ『おさるとメモリ』。子供に対してガイアメモリの危険性を訴えるにはちょうどいいストーリーが繰り広げられているのだろう。
 だが、現実的にそんなことが果たしてありえるわけがない。雨はその可能性をどうしても肯定する気にはなれなかった。
「まさか。むしろ私は、最悪の可能性を考えているよ」
「最悪の可能性? どういうこったよ?」
 あれこれと考えを巡らせた結果、彼女が辿り着いた結論。それは実に単純だが――あまり歓迎は出来ない結論だった。
「麻生マルコは何かを隠している。もしかしたら……メモリのことも彼女は知っているのかもしれない」
「え、嘘でしょ雨姐さん!?」
「オイオイまさかそんな……!」
「だから最悪の可能性なんだ。私も、正直そんな面倒だとは思いたくもない」
 仮に雨の推論が正しかったとしたなら、果たしてただエーテルを捕まえて飼い主のところに連れ戻すだけで事態が収束するとは考えにくい。そのガイアメモリと彼女に何の関係性があるのかをはっきりさせる必要があるし、さらにそこから別の事件に発展する可能性も考えられる。ましてやエーテルの行方もつかめない今では、それをどうこう考える猶予すらまともには与えられていないのだ。
 とにかく、今は一刻も早くエーテルを見つけなければならないことに変わりはない。それは仮面ライダーとしても、依頼を受けた人間としても、絶対にやり遂げなければならない仕事だ。
「……いずれにせよ、もう乗りかかっちまった船だ。今さら降りられないよな、お互い」
「全くだね。でも、いがみ合ってる場合でもない」
 刹那、先斗と零太の視線が交わる。先程は手柄を賭けて戦い合った仲ではあるが、そんなことはもう些細な問題でしかない。共通の目的がはっきりした今は、そこに立ち向かっていくしかないのだ。
 と――先斗はそこで、ひとつ手を打つことにした。
「よし、だったらこういうのはどうだ?」
「ん?」
「アンタらの仕事は猿を探すこと。俺たちの依頼は、その猿を飼い主のところに届けること。だったら、アンタらが探した猿を俺たちが届ければいい」
 いわば、これはロジックの転換だ。確かに互いの目当ては同じエーテルではあるが、それをどう扱うかに違いがある。そう言い換えればお互いの依頼の邪魔になることはないし、むしろ仕事も早く片付いて一石二鳥、と先斗は踏んだのである。つまり、分かりやすく言うならば――
「……協力しよう、ってこと?」
「この街は俺の庭だ、アンタらよりは詳しい自信もある。加えてこっちには優秀な相棒がいるからな。情報提供ならおやすいご用だ」
 先斗の目配せに、みぎりは無邪気にピースサインで応える。これも自信の表れなのだろう――そしてそれがハッタリではないということを、零太と雨はこれまで二人と関わってきた中で重々承知していた。そうでなければ、まだ若い彼らが二人だけで運び屋の仕事をこなせるわけがないと。
「報酬には口を挟むなよ」
「もちろん。お互い別々で話は来てるんだ、報酬も別々でもらっちまえばいいだろ?」
 雨の言葉に、にっと笑って先斗が応える。商談成立、ということだ。雨は零太に向き直ると、こくりと頷いて口を開いた。
「そういうことだ、文句はないな?」
「文句も何も、僕のやることは最初っから決まってるよ」
 もっとも、零太にとっては報酬の額の大きさなどどうでもいいことだ。探偵として、動物好きとして、そして仮面ライダーとして――純粋にこのままエーテルを放置しておくつもりはさらさらなかった。彼の中の正義感は、すでに取るべき行動を決めていたのだから。
「エーテルは、必ず助ける。この僕の手で……必ず」
――こうして、運び屋と探偵の連携による一大捕獲作戦は敢行されることとなった。

( 2010年05月25日 (火) 21時36分 )

- RES -


[193]W企画ノベライズエピソード 第1話「Aの捕物帳/猿を訪ねて三千里」E - 投稿者:matthew

「キャーーッ!! ウホウホウホ、キャッキャーーッ!!」
「あ、な、何だぁ一体?」
「戦ってるのを見て、興奮したのかな……」
 二人のライダーが構えを解き、突然騒ぎ出したエーテルに目を向ける。動物の考えなど人間が分かるわけもないが、野生の動物ならそういうのもあるのかもしれないなと何となくではあるが考えが一致したらしい。しかし、相手は野生ではない。れっきとしたブリーダーによってよく調教された動物なのだ。
 それに気づいた雨が、サベルの右目を点滅させて呼びかけた。
「待てレフト、これは違うぞ……!」
「ウゥゥゥゥゥ……ウギャアォォオオ!!」
 雨の危惧に呼応するかのように、エーテルの瞳が怪しく輝く。すると緑色の眩いオーラを爆発的に撒き散らしながら――その肉体はグロテスクに溶けた液体のような外見の怪物へと変貌を遂げた。
「ふぇえっ!? お、おさるさんがドーパントになっちゃったぁ!?」
 みぎりの声でデュアルが困惑し、怪物になった猿を前にうろたえる。ドーパント――その正体は水都に密かに流通するガイアメモリによって人間が変身した怪物、のはずだ。動物が変身する例など極めて稀である。
「おいおいこりゃどういうことだよ……聞いてないぜこんなの!」
「ウギャギャギャッ!」
 猿から変身を遂げた緑のドーパントが、本来の猿を髣髴させる身軽な動きでデュアルへと飛び掛かる。思わぬ事態に気をとられたデュアルはそれを避けることが出来ず、鋭い爪の一撃をまともに胸に受けて倒れこんだ。
「ぐぅああっ!?」
「先斗!? っ、この……!」
 反応が遅れたサベルがそれでも短刀を構え、素早くドーパントに向けて斬りかかる。しかし本能でそれを察知したドーパントのほうが対応は早かった。振り向いたその口が緑色の毒液を吐き出し、サベルを迎撃する。
「うわっ、とと!」
 とっさにその毒液を短刀で受け止めたサベルではあったが――次の瞬間毒液は白煙をあげながら短刀をドロドロに溶解させていった。
「お、おわぁぁあああ……っ!?」
「これは……酸、か?」
 雨が冷静に毒液の成分を分析し、零太がうろたえながら溶け出す短刀をぼんやりと見つめている。二人のライダーが動きを止めていることを認め、ドーパントは満足げに軽く飛び跳ねながら笑い声をあげて――水の中へと飛び込んでいった。
「ギャッギャギャギャギャ!」
「あ、ぁあっ! 待てこら……ッ!」
 デュアルが気づいて追いかけようとするも時すでに遅く、ドーパントの姿は水の中へと隠れて見えなくなる。やはり彼の爪で切られた胸もうっすらと白煙をあげて――表皮をいくらか溶かされたかのように爛れていた。胸の外部装甲がこうなっていたのだ、生身で食らっていたらただごとでは済まないだろう。改めてデュアルはその威力に戦慄した。
「ったく……毎度毎度、骨が折れるな……!」
 ドーパントの消えた水面に目を向け、呆然とする二人のライダー。
 しかしこの時――サベルの意識下で雨は、密かに考えを巡らせていた。
(たかだか猿1匹に、探偵と運び屋に同時に依頼……いくら動物愛好家でも、少々愛情の度を越してはいないか?)
 彼女のそんな危惧を裏付けるかのように、相手はある程度裏稼業にも精通している先斗と来ている。何かしら裏のある話だと思わないほうが、彼女にとっては不自然だったのだろう。そしてもう一つは――その猿がドーパントである可能性が大きいという点だ。
(それに、猿がガイアメモリを手にするとは……偶然にしてもおかし過ぎる)
 たとえばありえそうな偶然は、広大な邸宅を有する麻生マルコの敷地内にガイアメモリを誰かが落としてしまうという事態。しかしそうだとしても、その誰かが果たしてそんな大富豪の持つ敷地内に簡単に入り込めるものなのか。それが可能だとすれば、やはりその人物もまた何か裏の事情を秘めた悪人である可能性が高い。だがそれならその人物もまた今の段階でメモリを取り戻すべく動きを見せているはずなのだが――
(この依頼……何か、裏があるな)
 半ば勘に近いその疑念は、確信となって雨の思考を支配しようとしていた。

( 2010年05月16日 (日) 21時32分 )

- RES -


[192]W企画ノベライズエピソード 第1話「Aの捕物帳/猿を訪ねて三千里」D - 投稿者:matthew

 水都には、実はとある都市伝説が存在する。得体の知れない怪物が呼び起こす奇妙な事件を颯爽と解決するヒーロー――仮面ライダーの存在だ。その正体は彼ら、ドライバーを持つ人間たちである。
 そして、この街に存在する仮面ライダーは一人ではない。先斗はそのうちの一人だったが、目の前にいる零太たちもまた――同じく仮面ライダーなのだ。

「!」
「ま、これは個人的な話だけど……いっぺんはっきりさせといても悪くないとは思ってたんだよな。どの仮面ライダーが1番強いのか、ってやつをさ」
 デュアルドライバーを腰に押し当てると、自動的に現れたベルトが先斗の意思に応えるかのように展開されて絡みつく。そう、彼らは別段敵同士というわけではないがかといって完全な味方同士でもない。目的が違えば、対立することもそう珍しくはないのだ。
「……なるほど。つまり、負けたほうが引き下がるってことか?」
「そういうこと。別に逃げてもいいぜ、そのお猿さんは俺たちがもらっちゃうけどな」
 仮面ライダー同士が争うことに利益はないし、もちろん何か恨みがあるわけでもない。それはお互い十分承知の上だ。しかし勝負を挑まれた側の零太としては――それを拒むわけには行かなかった。
 そう、これはもはや仮面ライダーとしてのプライドを賭けた勝負でもあるのだから。
「そういうことなら……なおさら引き下がれないな!」
 勝負に応じることを決めた零太が、同じく懐からややデザインの違うサベルドライバーを取り出して装着する。すると隣に立つ雨の腰にも同じサベルドライバーが現れた。雨は太ももに括りつけたケースから小さなガイアメモリを取り出し、同じくガイアメモリを取り出した零太と視線を交わす。
 そう、彼ら二人は――“二人で一人の”仮面ライダーなのだ。
「キミたちと私達のどちらが上か、白黒をつけるとしようか」
「よぉし……行こう、雨姐さん!」
『マッハ!』『ブレード!』
 雨が手にしたクリアカラーのメモリが叫び、続けて零太の黒いメモリが叫ぶ。呼吸を合わせた二人は、左右対称にメモリを構えて叫んだ!
「「変身!!」」
 先にマッハのメモリを雨がサベルドライバーの右スロットに装填すると、メモリはまるで手品のように零太の装着したドライバーに転送される。そして雨の意識もまたメモリと共に零太の肉体へと転送され――零太がブレードのメモリを左スロットに装填し、ドライバーを展開する。
『マッハ!』『ブレード!』
 二つのメモリが叫び、刻まれたマークが空間に描かれて同化する。意識を失った雨が倒れこむ隣で、ドライバーが発するエネルギーに包まれながら零太の肉体は黒と銀の左右非対称の肉体を持つ戦士――仮面ライダーサベルへと変身を遂げた!
「そう来なくっちゃな……みぎり、こっちも変身だ!」
『ストライカー!』
 応じて笑みを浮かべた先斗が、白いメモリを起動させて誰もいない虚空に呼びかける。その声は彼の腰に装着されたデュアルドライバーを通じて、離れたところにいる彼の“相棒”の意識へと届けられた。

「おっけー! お兄ぃとみぎりんのコンビが無敵ってこと、見せちゃおうよ!」
 パソコンに囲まれた密室の回転椅子から飛び出した白髪の少女――みぎりが、派手なデザインのコートを翻して青いメモリをかざす。その腰には、やはりデュアルドライバーが顕現していた。
『ウェイブ!』
 二つのドライバーで結ばれた二人の意識に、距離は関係ない。テレパシーのように呼吸を合わせた二人も、また同時に叫ぶ。
「「変身!!」」
 みぎりがウェイブのメモリを右スロットに装填し、意識を失ってぱたんと倒れこむ。彼女の意識を連れて先斗の元へと現れたメモリを押し込み、先斗が左スロットにストライカーのメモリを装填してドライバーを展開する。
『ウェイブ!』『ストライカー!』
 青と、白の左右非対称の戦士――仮面ライダーデュアルの顕現である!

 スラリ、とサベルは腰に挿した刀――ブレードムラサメを正眼に構えた。ブレードメモリはその名の通り、刃を司る記憶を内包したメモリである。その扱いは瞬時にメモリを持つ零太自信の肉体へと反映される。
「一応、峰打ちにはしておくよ。それで恨みっこナシ、でいいだろ?」
「ああ。俺はともかく、みぎりまで傷モノにされちゃたまんないからな」
 相対するデュアルには武器はない。その分リーチではややサベルに分があるように思われたが、その不利を先斗は全く不利とは感じていなかった。武器の有無では勝負は決まらないと、これまでの戦いの経験から知っているのだ。
「えへへ〜、やめてよお兄ぃ。そんな言い方照れちゃうよぉ〜」
――高まる緊張感を無視するように、右目を点滅させたデュアルがみぎりの声で言う。今、彼女の意識は先斗と共にあるのだ。先斗はがくっと肩を落とすと、バツが悪そうに左頬を掻いてみぎりの意識に呼びかけた。
「っ……恥ずかしいのはこっちだ。気が散るから今は喋んな!」
「戦いの最中にのろけるなんて、随分余裕だなッ!」
 その隙を突いて、サベルが先手に刀を振り下ろす。しかしデュアルはそれをマフラーを翻して華麗に回避し、反対に蹴りを繰り出した。
「っそら!」
「おっと!」
 その蹴りを刀身で受け止め、サベルが弾き返す。その勢いを殺すことなくサベルは続けざまに刀を右左へと薙ぎ払った。
 いかに峰打ちといっても、ブレードムラサメの一撃は十分に鋭い。それを知っているからこそデュアルは刃を受け流すのではなく、回避することを選んだ。まるでその動きは、彼がその身に宿すウェイブのメモリが示すように、流れる水の如く変幻自在だ。
「っと、怖い怖い……かわすのがやっとだぜ」
「よく言うよ、一撃も食らってないくせに!」
 突き出した刀を腕ごと掴んだデュアルの軽口に、サベルは悔しげに――しかし楽しげに返した。恨みも何もない一見無駄な争いのように見えるが、だからこそ後腐れがないのがかえって気が楽である。まるでスポーツのような感覚で、清々しい気持ちで戦えるからだ。
「こうまで見切られてると、さすがに自信失くすよこっちとしては……スピードなら負けないつもりだったんだけどな」
「へっ。だったら、もっと自信奪ってやろうか?」
 そう語るデュアルの右手が、オレンジ色のメモリを手にする。そこに刻まれているのは――稲妻を象ったマーク。
『ライトニング!』
「そらよっ!」
「うぉっと!」
『ライトニング!』『ストライカー!』
 サベルを投げ飛ばし、デュアルがウェイブメモリとライトニングメモリを入れ替える。すると青かったデュアルの右半身はオレンジ色に変色し――
「せぇ……のっ!」
――一足で走り出したデュアルの、目にも留まらない連続攻撃が閃光の軌跡を残してサベルを打ち据えた!
「うぉわああああっ!!」
「まさに光の速さ……か。音速のマッハだけでは確かに敵わないな」
 サベルの右目が点滅し、雨の意識が冷静にデュアルの戦力を分析する。武器を持たない代わりに肉体の機能をバランスよく高めたストライカーのメモリと、稲妻の記憶から来る光のスピードを秘めたライトニングのメモリの組み合わせ――それが生み出す力にどうすれば対抗できるか、戦略を練っているのだ。
 そして、その結論には同じく零太も辿り着いていた。ただし、こちらは戦いの経験からだ。
「っ、確かに――マッハだけなら無理でも!」
 導き出した答えは、左手に握った赤茶色のメモリ。ブレードのメモリを抜いたサベルは、入れ替わりにそのメモリ――ダガーメモリをドライバーへと挿入した。
『マッハ!』『ダガー!』
 サベルの左半身が赤く変色し、右手に握ったブレードムラサメが消滅する。しかし今度はサベルの左手に逆手の短刀――ダガージャマダハルが現れた。それを瞬時に虚空に構えると、まるで吸い寄せられるかのようにデュアルの右拳が衝突する。
「何ッ!?」
「これなら……追いつけるッ!」
 返す刀で振り抜いたダガーの一撃は、見事に高速で動き回るデュアルの胴を捉えて火花を巻き上げた!
「ぐあああああっ!」
「さあ、これで勝負は五分五分……かな?」
 短刀がくるりと手の中で半回転し、斬られた胴を押さえて動きを止めたデュアルを指し示す。デュアルはそれでも楽しげに、ふんと鼻で息をついた。
「あんまり時間かけてると、お猿さんに逃げられそうだけどな……」
 あくまで二人の本来の目的は、エーテルをどちらが捕まえるかというところだ。それを見失っていない冷静な先斗の思考と肝の据わりようには改めて頭が下がる――サベルは改めて短刀を構えなおし、デュアルの言葉に頷いた。
「違いないね。なら、速攻でケリをつけようか?」
「ああ。お互い、そういうのには向いてるみたいだしな」
 二人のライダーの今の姿は、双方が発揮できる最高速の形態である。早期決着に向いているのは間違いなかった。両足に力を込め、スタートダッシュに向けてお互いに静かに覚悟を決める。
「行くぜ……レフトさん!」
「おぉっ!」
 張り詰めた空気が、一気に弾け飛ぶその刹那――響いたのは甲高いエーテルの鳴き声だった。

( 2010年05月16日 (日) 21時02分 )

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