壊れた安全靴を見ながら思ったこと。
人間の能力についての話。
夜勤で使用しているハイカットの安全靴が壊れた。
現場で安価に支給してくれる安物の安全靴で、つま先の縫合が
破れやすいんだけど、ついに鉄芯が外れて、いよいよ使えなくなり、
先日、2足目に買い換えた。
「こんなにたくさん働きました」と言いたいわけじゃない。
全く同じ靴だけど、2足目はもっと長持ちすると予測している。
作業に慣れてない頃、いかに安全靴に足を守られたか。
慣れて居ない頃は、今と同じ一生懸命さでも、
今の半分くらいの作業しかこなせず、今の2倍ヘトヘトになっていた。
慣れずに右往左往して、ヘルメットで頭ぶつけたり、
安全靴で足を轢かれたり、手の力が足りなくて足を使ってたりした。
この靴は、熱心に働いた結果潰れたのではなく、
未熟な私が熟練する過程で潰れた靴。。。。。。
こんな話は昨年末、昨年一年を振り返る回の日記でも少し触れたが、
こういう肉体を使う仕事をしているとよく分かる。
未熟な者は力が無いから疲れるんじゃない。
「力」以上に「力の使い方」、「筋肉」よりも「頭」や「神経」が
未熟なのだ。
一言で分かりやすく言えば「効率」という一言に尽きるのだが。
重い荷物を休み無しで長時間、数百個も運ぶ仕事、
始めたばかりの頃は腰痛も出た。最初の3日で、体が動かないし、
寝てても腰が痛いという状況になった。
また、この仕事をやると「肘に来る」という人が多いのだが
私もやり始めて暫くしたら肘に来た。
「こんなに肘や腰に来る仕事、続けられないな。」そう思った時期もあった。
そんな時期もあったが、今は腰も肘も痛くなることは無い。
逆に慢性化していた腰痛が治ってしまった。
いかに未熟な者は、腰や肘を使って荷物を持ってしまうことか。
そして、自分でも「どうやったら良い」って人に説明は出来ないんだけど、
関節周りの筋肉が付いてきて、ちゃんと筋肉を使って仕事出来るようになったのだろう、
熟練するにつれ、関節に負担など掛からなくなった。
「経験」だけが教えてくれる「技術」、
それが「己の体の使い方」なんだろう。
ちなみに、マイミクの塾長氏などは“痩せたからじゃね?”と指摘した。
確かに体重も大幅に落ちてるから、自重の負荷の問題も一理あるだろうな。
話を戻して、もっと分かりやすい話、例えばサッカー。ロングキックの話。
“少林寺拳法マスター”都昌(ツーチャン)氏とよくこんな話をする。
ロングキックでは、経験者が思い切り蹴れば遠くまで飛ぶのに対し、
初心者は極端は話、浮き球自体が蹴れずにコロコロ転がすのみ。全然飛ばない。
キック力、足の筋力も、確かに違うだろうが、これは明らかに、
皆さんお分かりの通り、筋力の問題では無い。
蹴り方、具体的には「足への当て方」が違うだけだ。
流石は体術のマスター、拳法のみならず、彼はサッカーの他、
もっと単純な運動である陸上競技などでも
「問題は力では無く、力の使い方」というポイントに意識的であった。
昔、吉田聡が少年サンデーで連載していた漫画「ちょっとヨロシク」ではこんな話もあった。
「ウエイト・リフティング」の話。あのような筋力重視の競技でさえ、
「単純な力の強さ」よりも、フォーム、タイミングといった「技術」が肝要であると。
ミズノ社員、兼、中京大学大学院生である“ハンマー投げ”室伏選手も
「ハンマー投げは筋力よりも技術!まだまだ年を取るにつれて私の記録は伸びる!」
と仰っている。
こんなに長々書かなくても分かりそうな話を長々書いてしまったが、
私は本当に実感している。
急に肉体労働を始めて、始めは非力で力を欲していながら、
短期間でこんなに熟練し、「大切なのは技術」なんだと実感した。
さらにクドクドと、もう一個例を出そうか。
都昌氏が“FC岐阜”の練習を見学に行ったときの事。彼のレポートによると
元・東京の小峰選手が若手選手にこんなことを言っていたらしい。
「サッカーは“考え方次第”のスポーツ。ちょっとした意識改革、
“考え方ひとつ”で全く違う選手に化けたりするもんだ。」と。
私が剣道をやっていた経験でもよく思った。ただ、棒で頭を叩くだけの競技。
ほんのそれだけのこと、そんな誰にでも出来そうな動作なのに、
未熟者は熟練者の頭を絶対に叩けない、熟練者は未熟者の頭を必ず叩ける。
棒を工夫するわけでも、叩き方を工夫するわけでも無い。
中々口では説明出来ない、実際見ても分からない、いくら頭で考えても分からない、
経験だけが教える技術である。工夫の余地の少ない単純な競技だからこそ際立つ不思議。
最後にちょっと違う角度の話をひとつ。
最近、塾業界の採用試験をいくつか受けた。
そのうち、一番最初に受けて落ちたとこの試験の話。
私はかれこれ10年はこの業界で働いているが、前の職場の閉鎖で
一ヶ月程、ろくに授業はせずに居た。
ほんの一ヶ月のブランクを経て受けたペーパー試験。
ビックリした。
「な、なまっとるぅぅぅぅぅう!!」
こういうのは相手次第だから面接で落ちることはあるかもな、
と思いこそすれ、自分はペーパー試験で落ちることはあり得ないと
自負していた。
が、結果を聞く前に試験開始2分で分かった。
「何なんだコレ!?1ヶ月前の俺の10分の1くらいしか頭も手も動かないんですけど!?」
プロになる前の学生時代も含めたら、もう何十年やっていることか。
それがたった一ヶ月でこんなに鈍りますか?
私は読んでいないけど、一昔前に流行したベストセラー
「脳内革命」あたりでよく言われた話、
「人間は大脳の10%も使いこなせていない。」って話。
10という数字の根拠も怪しいし、あの本も哲学的には価値があっても
科学的には怪しいと聞くが、まあ、そういう話だと思う。
人間の能力って、「経験」と「慣れ」だけで出来ている!