[160] ある青年の悩み |
- 774 - 2009年02月22日 (日) 22時29分
青年は窓の外を見ていた。 外に用事がある訳ではない。見飽きるほどの雪がそこにはあった。 遠い異国には、雪の降らない冬があると本で読んだことがある。 しかし、青年はこれ以外の冬景色を見たことなどなかった。 いくつもの別荘を渡り歩いてみたが、一番南にある別荘でも冬になれば寒いし雪は積もるものだ。 青年は裕福な家庭で育ったのだが、本人にはあまり自覚がない。 何故なら青年の周りには似たような境遇の者ばかりであるからだ。 だから、という訳でもないのだろうが、国の外へ出たことはなかった。 物に不自由している訳でもないし、国内で手に入らないような欲しい物がある訳でもない。
青年は、あ、と口を開いて手を打った。 手に入らない物と言えば「雪の降らない冬」くらいのものであろうか。 窓の外を見ると、若い制服組が山ほど荷物を積んだ軍用のソリを引くのが見えた。 青年は頬を指で掻き、軽く首を傾げた。 (あれ?雪が降らなかったら、サンタクロースはどうやってプレゼントを運ぶんだろう。)
北国は雪が積もる間、戦争を行わない。 この国は今日も、平和である。
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